特許第6371702号(P6371702)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6371702ポリフェノール安定化剤、該安定化剤を含有する組成物および加工製品
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371702
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】ポリフェノール安定化剤、該安定化剤を含有する組成物および加工製品
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20180730BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20180730BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20180730BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
   A23L33/10
   A23L33/105
   A61K8/49
   A61K47/22
【請求項の数】25
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2014-506259(P2014-506259)
(86)(22)【出願日】2013年3月21日
(86)【国際出願番号】JP2013057953
(87)【国際公開番号】WO2013141267
(87)【国際公開日】20130926
【審査請求日】2016年1月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-63364(P2012-63364)
(32)【優先日】2012年3月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】森藤 雅史
(72)【発明者】
【氏名】土屋 麻美
(72)【発明者】
【氏名】大原 浩樹
【審査官】 白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−532980(JP,A)
【文献】 特開2005−350375(JP,A)
【文献】 特開2004−035550(JP,A)
【文献】 特表2010−539077(JP,A)
【文献】 特開2006−273762(JP,A)
【文献】 特開2005−245351(JP,A)
【文献】 特開2004−222683(JP,A)
【文献】 特開2009−013129(JP,A)
【文献】 Australian Journal of Grape and Wine Research,2008年,vol.14 no.3,p.260-270
【文献】 日本食品工業学会誌,1993年,Vol.40, No.3,p.181-186
【文献】 食品と開発,1995年,Vol.30, No.12,p.36-38
【文献】 日本農芸化学会大会講演要旨集,1992年,Vol.66, No.3,p.428, 3Cp18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00−2/84
A23L 5/00−5/49
A23L 29/00−29/10
A23L 31/00−33/29
A61K 8/00−9/72
A61K 31/33−33/44
A61K 47/00−47/46
A61Q 1/00−90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/WPIX/FSTA(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェノール100重量部に対して、安定化剤として少なくとも、エラグ酸を1.5重量部以上、又はプニカラジンを5重量部以上の割合で共存させる、ポリフェノールの安定化方法であって、前記ポリフェノールが、エピ体カテキン類を含むカカオポリフェノールであり、前記安定化剤が前記エピ体カテキン類のエピマー化を抑制する、安定化方法。
【請求項2】
ポリフェノール100重量部に対して、安定化剤として少なくとも、エラグ酸を1.5重量部以上の割合で共存させる、ポリフェノールの安定化方法であって、前記ポリフェノールが、エピ体カテキン類を含む緑茶由来ポリフェノールであり、前記安定化剤が前記エピ体カテキン類のエピマー化を抑制する、安定化方法
【請求項3】
請求項に記載のポリフェノールの安定化方法に用いる組成物であって、
ポリフェノールと、エラグ酸およびプニカラジンの少なくとも一方を含む安定化剤とを含み、
前記ポリフェノールが、エピ体カテキン類を含むカカオポリフェノールであり
前記ポリフェノール100重量部に対して、少なくとも、前記エラグ酸が1.5重量部以上、又は前記プニカラジンが5重量部以上となる割合で前記安定化剤を含む、組成物。
【請求項4】
前記安定化剤が、エラグ酸およびプニカラジンの少なくとも一方を含む植物抽出物である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
請求項2に記載のポリフェノールの安定化方法に用いる組成物であって、
ポリフェノールと、エラグ酸を含む安定化剤とを含み、
前記ポリフェノールが、エピ体カテキン類を含む緑茶由来ポリフェノールであり、
前記ポリフェノール100重量部に対して、少なくとも、前記エラグ酸が1.5重量部以上となる割合で前記安定化剤を含む、組成物。
【請求項6】
前記安定化剤が、エラグ酸を含む植物抽出物である、請求項5に記載の組成物
【請求項7】
前記植物抽出物が、ザクロ抽出物である、請求項4又は6に記載の組成物。
【請求項8】
エラグ酸およびプニカラジンの少なくとも一方を有効成分とし、カカオポリフェノールに含まれるエピ体カテキン類のエピマー化を抑制する、ポリフェノールの安定化剤。
【請求項9】
カカオポリフェノール100重量部に対して、少なくとも、前記エラグ酸を1.5重量部以上、又は前記プニカラジンを5重量部以上となる割合で使用する、請求項に記載の安定化剤。
【請求項10】
前記安定化剤の全重量を基準として、少なくとも、前記エラグ酸の含有量が15重量%以上であるか、又は前記プニカラジンの含有量が30重量%以上である、請求項8又は9に記載の安定化剤。
【請求項11】
前記安定化剤が、エラグ酸およびプニカラジンの少なくとも一方を含む植物抽出物である、請求項8〜10のいずれか1項に記載の安定化剤。
【請求項12】
エラグ酸を有効成分とし、緑茶由来ポリフェノールに含まれるエピ体カテキン類のエピマー化を抑制する、ポリフェノールの安定化剤。
【請求項13】
緑茶由来ポリフェノール100重量部に対して、少なくとも、前記エラグ酸を1.5重量部以上となる割合で使用する、請求項12に記載の安定化剤。
【請求項14】
前記安定化剤の全重量を基準として、少なくとも、前記エラグ酸の含有量が15重量%以上である、請求項12又は13に記載の安定化剤。
【請求項15】
前記安定化剤が、エラグ酸を含む植物抽出物である、請求項12〜14のいずれか1項に記載の安定化剤。
【請求項16】
前記植物抽出物が、ザクロ抽出物である、請求項11又は15に記載の安定化剤。
【請求項17】
エラグ酸およびプニカラジンの少なくとも一方を有効成分とする、カカオポリフェノールに含まれるエピ体カテキン類のエピマー化抑制剤。
【請求項18】
カカオポリフェノール100重量部に対して、少なくとも、前記エラグ酸を1.5重量部以上、又は前記プニカラジンを5重量部以上となる割合で使用する、請求項17に記載のエピマー化抑制剤。
【請求項19】
前記エピマー化抑制剤の全重量を基準として、少なくとも、前記エラグ酸の含有量が15重量%以上であるか、又は前記プニカラジンの含有量が30重量%以上である、請求項17又は18に記載のエピマー化抑制剤。
【請求項20】
エラグ酸を有効成分とする、緑茶由来ポリフェノールに含まれるエピ体カテキン類のエピマー化抑制剤
【請求項21】
緑茶由来ポリフェノール100重量部に対して、少なくとも、前記エラグ酸を1.5重量部以上となる割合で使用する、請求項20に記載のエピマー化抑制剤
【請求項22】
前記エピマー化抑制剤の全重量を基準として、少なくとも、前記エラグ酸の含有量が15重量%以上である、請求項20又は21に記載のエピマー化抑制剤
【請求項23】
前記エピマー化抑制剤が、ザクロ抽出物である、請求項17〜22のいずれか1項に記載のエピマー化抑制剤。
【請求項24】
請求項8〜11及び16のいずれか1項に記載の安定化剤、又は請求項17〜19及び23のいずれか1項に記載のエピマー化抑制剤を製造するための、エラグ酸およびプニカラジンの少なくとも一方の使用。
【請求項25】
請求項12〜16のいずれか1項に記載の安定化剤、又は請求項20〜23のいずれか1項に記載のエピマー化抑制剤を製造するための、エラグ酸の使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェノールの安定化剤および該安定化剤を含有するポリフェノール組成物に関する。また、本発明は、上記ポリフェノール組成物を用いて製造される、飲食品、医薬品、または化粧品といったポリフェノール含有加工製品に関する。さらに詳しくは、本発明は、エピ体カテキン類のエピマー化抑制剤および/またはプロシアニジン類の低減抑制剤、それら抑制剤を含有するポリフェノール組成物およびポリフェノール含有加工製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェノールは、果物や野菜などの様々な植物中に含まれている。一般に、ポリフェノールを摂取することは、健康維持に有益であることが知られている。
【0003】
例えば、カカオはカカオポリフェノールを含む。カカオポリフェノールは、抗酸化作用、歯石形成抑制作用、抗腫瘍作用、抗ストレス作用、発癌予防作用などの様々な生理効果を有することが知られている。カカオポリフェノールの代表的な成分として、エピカテキン、カテキン、プロシアニジンB2、プロシアニジンB5、プロシアニジンC1、シンナムタンニンA2などが挙げられる。
【0004】
また、緑茶、紅茶、ウーロン茶などの茶類は、茶ポリフェノールを豊富に含む。茶ポリフェノールは、抗酸化活性、抗菌作用、コレステロール上昇抑制などの様々な生理効果を有することが知られている。茶ポリフェノールの代表的な成分は、非エピ体カテキン類と、エピ体カテキン類とに大別される。非エピ体カテキン類は、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート、ガロカテキンガレートなどを含む。また、エピ体カテキン類は、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレートなどを含む。
【0005】
ポリフェノールは、pH値や加熱による温度の変化に伴って、構造が変化することが知られている。例えば、カカオポリフェノールに含まれるエピカテキンは、抽出時には(−)−エピカテキンとして存在するが、熱い水性溶液中では(−)−カテキンへとエピマー化することが知られている。これに対し、上記エピマー化を最小化する方法として、加熱温度を下げること、pHを下げること、および/または加熱時間を短くすることを含む方法が提案されている(特許文献1)。また、茶ポリフェノールに含まれる各成分については、容器詰茶飲料の製造工程、特に、茶葉を温水で抽出する工程や抽出液を容器に充填した後に殺菌する工程において、天然型カテキン類の異性化が起こることが知られている。これに対し、上記天然型カテキン類の異性化を抑制する方法として、茶葉の抽出液または抽出用水に、L−アスコルビン酸を添加して茶抽出液のpHを5以下に調節した後に、加熱殺菌を行う方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008−544762号公報
【特許文献2】特開2006−191851号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Agric.Food Chem.,Vol.55 No.23,9559-9570,2007
【非特許文献2】Biosci.Biotechnol.Biochem.,Vol.64 No.12,2581-2587, 2000
【非特許文献3】J.Agric.Food Chem.,Vol.45 No.12,4624-4628,1997
【非特許文献4】Food Chemistry 68 (2000) Yinrong Lu, L. Yeap Foo 「Antioxidant and radical scavenging activities of polyphenols from apple pomace」
【非特許文献5】J.Agric.Food Chem.,Vol.25 No.6,1268-1273,1977
【発明の概要】
【0008】
ポリフェノール含有加工製品において、ポリフェノールが有する生理機能の効果を目的どおり発揮させるためには、配合したポリフェノールが安定に存在し、加工製品においても、その生理効果を維持することが望ましい。
【0009】
しかしながら、一般的な飲食品などの加工製品の製造時には、保存、加熱、および殺菌などの処理工程において、pHが4以上、かつ37℃以上の温度といった条件が適用される。このような条件下において、通常、ポリフェノールは安定的に存在できない。例えば、エピ体カテキン類は、pH4以上で保存されることによって、非エピ体カテキン類へエピマー化する。また、プロシアニジン類は、pH4以上で加熱および保存されることによって、構造が変化し、検出される加工製品中の総量が経時的に低減する。
【0010】
特許文献1および2に見られるように、これまでに提案されているポリフェノールの安定化技術は、pH、加熱温度、および加熱時間といった条件の調節に関する。このような従来の方法によれば、加工製品のpHやその製造工程における処理条件が制約を受けることになる。そのため、より簡便な方法によってポリフェノールを安定化する手段が求められている。
【0011】
本発明の1つの課題は、ポリフェノールの安定化に有効な安定化剤の提供に関する。特に、本発明では、ポリフェノールの安定化において、エピ体カテキン類のエピマー化を抑制する手段、および/またはプロシアニジン類の低減を抑制する手段として有効な安定化剤の提供を意図している。本発明の別の課題は、上記ポリフェノールの安定化剤を含有し、ポリフェノールが配合後も本来の生理機能を安定的に維持できる、ポリフェノール含有組成物、および該組成物を用いて構成される加工製品の提供に関する。
【0012】
本発明者らは、ポリフェノールの安定化に効果を有する各種成分について鋭意検討した。その結果、ザクロ抽出物などの植物抽出物がポリフェノールの安定化に有用であることを見出した。特に、ザクロ抽出物に豊富に含まれているエラグ酸およびプニカラジンが、ポリフェノールの安定化に著しく効果的であることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものであり、以下に記載の事項をその特徴とするものである。
【0013】
(1)ポリフェノールの安定化剤であって、エラグ酸およびプニカラジンの少なくとも一方を含む安定化剤。
(2)上記安定化剤の全重量を基準として、少なくとも、上記エラグ酸の含有量が15重量%以上であるか、又は上記プニカラジンの含有量が30重量%以上である、上記(1)に記載の安定化剤。
(3)上記ポリフェノール安定化剤が、エピ体カテキン類のエピマー化抑制剤である、上記(1)又は(2)に記載の安定化剤。
(4)上記ポリフェノール安定化剤が、プロシアニジン類の低減抑制剤である、上記(1)又は(2)に記載の安定化剤。
(5)上記安定化剤が、エラグ酸およびプニカラジンの少なくとも一方を含む植物抽出物である、上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の安定化剤。
(6)上記植物抽出物が、ザクロ抽出物である、上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の安定化剤。
【0014】
(7)ポリフェノールと、エラグ酸およびプニカラジンの少なくとも一方を含む安定化剤とを含む組成物。
(8)上記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の安定化剤、およびポリフェノールを含有する組成物であり、上記ポリフェノール100重量部に対して、少なくとも、上記エラグ酸が1.5重量部以上、又は上記プニカラジンが5重量部以上となる割合で上記安定化剤を含む、上記(7)に記載の組成物。
(9)上記ポリフェノールが、プロシアニジン類およびカテキン類からなる群から選択される少なくとも1種である、上記(7)又は(8)に記載の組成物。
(10)上記安定化剤が、エラグ酸およびプニカラジンの少なくとも一方を含む植物抽出物である、上記(7)〜(9)のいずれか1つに記載の組成物。
(11)上記植物抽出物が、ザクロ抽出物である、上記(7)〜(10)のいずれか1つに記載の組成物。
【0015】
(12)上記(7)〜(11)のいずれか1つに記載の組成物を用いて構成される、飲食品、医薬品及び化粧品からなる群から選択されるポリフェノール含有加工製品。
(13)上記ポリフェノール含有加工製品のpHが4.0〜8.0である、上記(12)に記載のポリフェノール含有加工製品。
(14)ポリフェノール含有加工製品の製造方法であって、
(a)上記(7)〜(11)のいずれか1つに記載の組成物を調製する工程と、
(b)上記組成物を用いて、ポリフェノール含有加工製品を調製する工程と、
(c)上記ポリフェノール含有加工製品を37℃以上の温度に加熱する工程と
を含む、製造方法。
(15)上記(14)に記載の製造方法によって製造された飲食品、医薬品、および化粧品からなる群から選択されるポリフェノール含有加工製品。
(16)ポリフェノール100重量部に対して、少なくとも、エラグ酸を1.5重量部以上、又はプニカラジンを5重量部以上の割合で共存させる、ポリフェノールの安定化方法。
【0016】
本発明によれば、ポリフェノールの構造が変化することが常識であったpHや温度範囲において、ポリフェノールの安定化に有効なポリフェノール安定化剤を提供することができる。また、本発明によれば、上記安定化剤を、ポリフェノールと共存させることによって、加工製品に適用した場合にポリフェノール本来の生理機能を安定的に保持できる、ポリフェノール組成物を提供することができる。また上記組成物を使用して、飲食品、医薬品および化粧品などの様々なポリフェノール含有加工製品を提供することができる。本発明によるポリフェノール含有加工製品は、その製造時に熱水を用いた抽出処理およびレトルト殺菌処理が適用されても、また中性pH領域の液状製品形態で長期間保存されるものであってもよい。通常、そのような処理および保存の条件下では、エピ体カテキン類のエピマー化やプロシアニジン類の減少が生じることが知られている。しかし、本発明によれば、上記安定化剤によって、ポリフェノールは配合時の状態を安定的に維持することができる。
【0017】
本発明の開示は、2012年3月21日に出願された特願2012−63334号の主題に関し、これらの明細書の開示は全体的に参照のために本願明細書に組み込むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施例1に関するグラフである。グラフは、各種植物抽出物によるプロシアニジン類低減抑制効果(加熱殺菌前後)を示している。
図2図2は、実施例1に関するグラフである。グラフは、各種植物抽出物によるエピマー化抑制効果(加熱殺菌前後)を示している。
図3図3は、実施例2に関するグラフである。グラフは、各種植物抽出物によるプロシアニジン類低減抑制効果(加温保存中)を示している。
図4図4は、実施例2に関するグラフである。グラフは、各種植物抽出物によるエピマー化抑制効果(加温保存中)を示している。
図5図5は、実施例3に関するグラフである。グラフは、ザクロ抽出物(エラグ酸含量90%)によるプロシアニジン類低減抑制効果(加熱殺菌前後)を示している。
図6図6は、実施例3に関するグラフである。グラフは、ザクロ抽出物(エラグ酸含量90%)によるエピマー化抑制効果(加熱殺菌前後)を示している。
図7図7は、実施例3に関するグラフである。グラフは、ザクロ抽出物(エラグ酸含量90%)によるプロシアニジン類低減抑制効果(加温保存中)を示している。
図8図8は、実施例3に関するグラフである。グラフは、ザクロ抽出物(エラグ酸含量90%)によるエピマー化抑制効果(加温保存中)を示している。
図9図9は、実施例4に関するグラフである。グラフは、各種ザクロ抽出物(エラグ酸含量15〜40%、プニカラジン含量30%)によるプロシアニジン類低減抑制効果(加熱殺菌前後)を示している。
図10図10は、実施例4に関するグラフである。グラフは、各種ザクロ抽出物(エラグ酸含量15〜40%、プニカラジン含量30%)によるエピマー化抑制効果(加熱殺菌前後)を示している。
図11図11は、実施例4に関するグラフである。グラフは、ザクロ抽出物(エラグ酸含量40%)によるプロシアニジン類低減抑制効果(加温保存中)を示している。
図12図12は、実施例4に関するグラフである。グラフは、ザクロ抽出物(エラグ酸含量40%)によるエピマー化抑制効果(加温保存中)を示している。
図13図13は、実施例4に関するグラフである。グラフは、ザクロ抽出物(エラグ酸含量15%)によるプロシアニジン類低減抑制効果(加温保存中)を示している。
図14図14は、実施例4に関するグラフである。グラフは、ザクロ抽出物(エラグ酸含量15%)によるエピマー化抑制効果(加温保存中)を示している。
図15図15は、実施例4に関するグラフである。グラフは、ザクロ抽出物(プニカラジン含量30%)によるプロシアニジン類低減抑制効果(加温保存中)を示している。
図16図16は、実施例4に関するグラフである。グラフは、ザクロ抽出物(プニカラジン含量30%)によるエピマー化抑制効果(加温保存中)を示している。
図17図17は、実施例5に関するグラフである。グラフは、エラグ酸精製品(試薬)およびプニカラジン精製品(試薬)によるプロシアニジン類低減抑制効果(加熱殺菌前後)を示している。
図18図18は、実施例5に関するグラフである。グラフは、エラグ酸精製品(試薬)およびプニカラジン精製品(試薬)によるエピマー化抑制効果(加熱殺菌前後)を示している。
図19図19は、実施例5に関するグラフである。グラフは、エラグ酸精製品(試薬)およびプニカラジン精製品(試薬)によるプロシアニジン類低減抑制効果(加温保存中)を示している。
図20図20は、実施例5に関するグラフである。グラフは、エラグ酸精製品(試薬)およびプニカラジン精製品(試薬)によるエピマー化抑制効果(加温保存中)を示している。
図21図21は、実施例6に関するグラフである。グラフは、エラグ酸精製品(試薬)によるカテキン類のエピマー化抑制効果(加熱殺菌前後)を示している。
図22図22は、実施例7に関するグラフである。グラフは、各種濃度のエラグ酸精製品(試薬)によるカテキン類のエピマー化抑制効果(加熱殺菌前後)を示している。
図23図23は、実施例7に関するグラフである。グラフは、各種濃度のエラグ酸精製品(試薬)によるカテキン類のエピマー化抑制効果(加温保存中)を示している。
図24図24は、実施例8に関するグラフである。グラフは、カカオポリフェノール含有飲料(pH6.5)におけるプロシアニジン類低減抑制効果を示している。)
図25図25は、実施例8に関するグラフである。グラフは、カカオポリフェノール含有飲料(pH6.5)におけるエピマー化抑制効果を示している。
図26図26は、比較例1に関するグラフである。グラフは、没食子酸によるプロシアニジン類低減抑制効果の試験結果を示している。
図27図27は、比較例1に関するグラフである。グラフは、没食子酸によるエピマー化抑制効果の試験結果を示している。
図28図28は、参考例1に関するグラフである。グラフは、各種植物抽出物の抗酸化活性とプロシアニジン類残存率との相関を示している。
図29図29は、参考例1に関するグラフである。グラフは、各種植物抽出物の総ポリフェノール量とプロシアニジン類残存率との相関を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の詳細について説明する。
<安定化剤>
本発明の第1の態様は、ポリフェノールの安定化剤であって、エラグ酸およびプニカラジンの少なくとも一方を含むことを特徴とする。詳細は以下のとおりである。
(エラグ酸)
本発明において「エラグ酸」とは、以下の(化1)の構造式で示される物質をいう。
【0020】
【化1】
【0021】
(プニカラジン)
本発明において「プニカラジン」とは、以下の(化2)の構造式で示される物質をいう。プニカラジンは、ザクロなどの植物に含まれているエラジタンニンの一種である。エラジタンニンは、ヘキサヒドロキシジフェノイル基を有する加水分解型タンニン類である。エラジタンニンは、酸分解されるとエラグ酸を生成する。
【0022】
【化2】
【0023】
(安定化剤)
本発明の安定化剤は、有効成分として、上記エラグ酸および上記プニカラジンの少なくとも一方を含む。特に限定するものではないが、本発明の一実施形態において、上記安定化剤の全重量を基準として、上記エラグ酸の含有量が15重量%以上であることが好ましい。また、上記安定化剤の全重量を基準として、上記プニカラジンの含有量が30重量%以上であることが好ましい。上記安定化剤が、上記含有量の範囲でエラグ酸およびプニカラジンの少なくとも一方を含有する場合、上記安定化剤によって、ポリフェノールを安定化することが容易となる。また、本発明の安定化剤は、エラグ酸とプニカラジンとが混在していてもよく、その比率は特に限定されない。本発明の安定化剤は、上記各成分による効果に実質的な影響を及ぼさない限り、当業者に公知のその他の各種成分を含んでもよい。
【0024】
上記エラグ酸および上記プニカラジンは、果実などの多くの植物中に存在することが知られている。エラグ酸を豊富に含有する植物として、例えば、ザクロ、イチゴ、ラズベリー、クランベリー、ブドウ、クリ、クルミなどが挙げられる。本発明の安定化剤として、エラグ酸およびプニカラジンの少なくとも一方を含有する、植物の抽出物を使用してもよい。例えば、本発明の安定化剤として、ザクロ抽出物、イチゴ抽出物、ラズベリー抽出物、クランベリー抽出物、ブドウ抽出物、クリ抽出物、クルミ抽出物といった植物抽出物を使用してもよい。特に好ましくは、ザクロ抽出物が挙げられる。上記植物抽出物は、果汁または濃縮果汁であってよい。本発明の一実施形態では、安定化剤として、エラグ酸およびプニカラジンの少なくとも一方を含有する市販のザクロ抽出物を使用してもよい。例えば、本発明の安定化剤の一実施形態として、ナチュレックス製のザクロエキス(エラグ酸40%含有)、バイオアクティブズジャパン製のザクロエキス(エラグ酸90%以上含有)、アルジュナ製のザクロエキス(加水分解後のエラグ酸として15〜20%含有)、オムニカ製のPomella(登録商標)(プニカラジン30%以上含有)が挙げられる。
【0025】
本発明では、上記安定化剤として、上記植物抽出物などに加えて、エラグ酸および/またはプニカラジンの精製品を使用してもよい。上記精製品は、公知の方法に従って上記植物抽出物のエラグ酸またはプニカラジンの濃度を90〜100重量%まで高めたものであってよい。また、上記精製品は、試薬として市販されているエラグ酸またはプニカラジンであってもよい。すなわち、本発明では、エラグ酸精製品、プニカラジン精製品、および、好ましくはザクロ抽出物であるエラグ酸およびプニカラジンの少なくとも一方を含む植物抽出物、からなる群から選択される1以上を安定化剤として使用できる。
【0026】
本発明による安定化剤の一実施形態において、該安定化剤の全重量を基準として、エラグ酸の含有量は、15〜100重量%、好ましくは30〜100重量%、さらに好ましくは40〜100重量%、最も好ましくは90〜100重量%の範囲である。本発明による安定化剤の別の実施形態において、プニカラジンの含有量は、30〜100重量%、好ましくは40〜100重量%、さらに好ましくは80〜100重量%である。また、本発明による安定化剤の別の実施形態において、全安定化剤の重量を基準として、エラグ酸の含有量が15〜100重量%の場合は、プニカラジンは85〜0重量%の範囲の任意の割合で存在してよい。また、同様に、プニカラジンの含有量が30〜100重量%の場合は、エラグ酸は70〜0重量%の範囲の任意の割合で存在してよい。
【0027】
本発明の安定化剤の形態は限定されず、液体、粉末、顆粒などのいずれであってもよい。
【0028】
(ポリフェノール)
本発明において「ポリフェノール」とは、ベンゼン環に2つ以上のヒドロキシル基が存在する構造を有する化合物を意味する。しかし、上記ポリフェノールには、本発明で安定化剤として使用するエラグ酸およびプニカラジンは含まれない。ポリフェノールは、シンプルフェノール類、フラボノイド類、加水分解型タンニン類、縮合型タンニン類(プロアントシアニジン類)に分けられる。上記シンプルフェノールの一例として、ジヒドロキシル酸、ヒドロキシルカフェ酸誘導体類が挙げられる。上記フラボノイド類の一例として、フラボン類、フラボノール類、イソフラボン類、フラバン類、フラバノール(カテキン)類、フラバノン類、フラバノノール類、カルコン類、アントシアニジン類が挙げられる。特に、上記カテキン類の一例として、カテキン、エピカテキンが挙げられる。上記加水分解型タンニン類は上記シンプルフェノールの重合物であり、縮合型タンニン類(プロアントシアニジン類)は上記フラボノイド類の重合物である。特に、上記プロアントシアニジン類の一例として、プロシアニジン類が挙げられる。
【0029】
特に限定するものではないが、本発明の一実施形態において、上記ポリフェノールは、好ましくはプロシアニジン類およびカテキン類からなる群から選択される少なくとも1種である。より具体的には、カカオポリフェノール、および茶ポリフェノールが好ましく、カカオポリフェノールが特に好ましい。上記カカオポリフェノールは、カカオ原料から得られるプロシアニジン類である。一方、上記茶ポリフェノールは、茶原料から得られるカテキン類である。
【0030】
(ポリフェノールの安定化)
本発明における「ポリフェノールの安定化」とは、pHや熱によって生じる上記ポリフェノールの構造変化を抑制することを意味する。より具体的には、pH4.0以上で、より詳細にはpH4.0以上かつ37℃以上の条件が適用される、保存、加熱、及び殺菌といった加工条件に対して、本発明による安定化剤がポリフェノールの構造変化を抑制し、ポリフェノールが初期の状態を維持できるようにすることを意味する。上記構造変化は、例えば、エピ体カテキン類についてはエピマー比率の変化、およびプロシアニジン類については検出量の低減によって確認される。本発明の安定化剤の作用メカニズムの詳細は不明であるが、上記安定化剤がエピマー化抑制剤として作用する場合は、上記安定化剤が、上記ポリフェノール化合物が初期の立体配座を維持するように作用していると推定される。
【0031】
(カテキン類)
本発明において記載する上記「カテキン類」とは、エピ体カテキン類と非エピ体カテキン類との総称である。上記「エピ体カテキン類」の具体例として、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、およびエピガロカテキンガレートが挙げられる。また、「非エピ体カテキン類」の具体例として、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート、およびガロカテキンガレートが挙げられる。
【0032】
(エピ体カテキン類のエピマー化抑制)
上記エピ体カテキン類は、pH4.0以上の条件において、エピマー化が起こり、非エピ体カテキン類に変化することが知られている。例えば、pH4.0以上の条件において、カカオポリフェノールなどに含まれる(−)−エピカテキンは、(−)−カテキンにエピマー化する。同様に、茶抽出物に含まれる(−)−エピガロカテキンガレートは、(−)−ガロカテキンガレートにエピマー化する。さらに、エピガロカテキンはガロカテキンに、エピカテキンガレートはカテキンガレートに、それぞれエピマー化する。これに対し、本発明の安定化剤を上記エピ体カテキン類と共存させることによって、上記エピマー化を効果的に抑制することができる。
【0033】
特に限定するものではないが、本発明の一実施形態では、安定化剤の全重量を基準として、エラグ酸を15重量%以上含有する安定化剤を使用することによって、カカオポリフェノールのエピマー化抑制、および茶ポリフェノールのエピマー化抑制のいずれにおいても、良好な結果が得られる。また、安定化剤の重量を基準として、プニカラジンを30重量%以上含有する安定化剤を使用することによって、カカオポリフェノールのエピマー化抑制において、良好な結果が得られる。
【0034】
(プロシアニジン類)
本発明において「プロシアニジン」とは、フラボノイド類の基本骨格が重合した構造を持つ物質をいう。プロシアニジンは、カカオ、ブドウ種子、ブドウ皮、リンゴ、松の樹皮などに含まれる。カカオポリフェノールに含まれている代表的なプロシアニジンとしては、プロシアニジンB2、プロシアニジンB5、プロシアニジンC1、シンナムタンニンA2などが挙げられる。本発明において記載する「プロシアニジン類」は、エピカテキン、カテキン、プロシアニジンB2、プロシアニジンB5、プロシアニジンC1、シンナムタンニンA2から成る計6成分を含む。
【0035】
(プロシアニジン類の低減抑制)
上記プロシアニジン類は、pH4.0以上の条件下、より詳しくはpH4.0以上、かつ37℃以上の温度で加熱や保存されることによって減少する。しかし、本発明の安定化剤を上記プロシアニジン類と共存させることによって、上記プロシアニジン類の低減を効果的に抑制することができる。
【0036】
<安定化剤を含有する組成物>
本発明の第2の態様は、ポリフェノールと、エラグ酸およびプニカラジンの少なくとも一方を含む安定化剤とを含む組成物に関する。すなわち、本発明のポリフェノール組成物は、ポリフェノールを含有する素材とともに、本発明の第1の態様に関する安定化剤を含むことを特徴とする。本発明の一実施形態において、上記安定化剤は、エラグ酸およびプニカラジンの少なくとも一方を含む植物抽出物であってよく、好ましくはザクロ抽出物であってよい。また、別の実施形態において、上記安定化剤は、エラグ酸精製品、およびプニカラジン精製品であってもよい。
【0037】
本発明による組成物において、上記安定化剤の使用量は特に限定されない。しかし、一実施形態として、ポリフェノール100重量部に対して、少なくとも、上記エラグ酸が1.5重量部以上、または上記プニカラジンが5重量部以上となる割合で、上記安定化剤を配合することが好ましい。後述の実施例からも明らかなように、上記割合で安定化剤を使用することによって、組成物中のポリフェノールを安定に維持することが容易となる。上記ポリフェノールは、好ましくは、プロシアニジン類およびカテキン類からなる群から選択される1種である。より具体的には、カカオポリフェノールおよび/または茶ポリフェノールが好ましく、カカオポリフェノールが特に好ましい。また、本発明による組成物は、ポリフェノールの安定化効果に実質的な影響を及ぼさない限り、当業者に公知のその他の各種成分を含んでよい。本発明によるポリフェノール組成物は、食品添加物などの加工製品の原料として、またはそれ自体を食品などの加工製品として使用することができる。
【0038】
本発明の組成物によれば、pHが4.0以上の加工製品や37℃以上の温度で加熱処理を施す加工製品に、それら組成物を配合した場合であっても、ポリフェノール本来の生理機能を加工製品に付与することができる。また、上記組成物によれば、上記加工前のポリフェノールの状態を加工後や保存後においても安定的に維持することができる。
【0039】
<ポリフェノール含有加工製品>
本発明の第3の態様は、ポリフェノールと、エラグ酸およびプニカラジンの少なくとも一方を含む安定化剤とを含む、ポリフェノール含有加工製品に関する。上記加工製品の具体例として、飲食品、医薬品、化粧品が挙げられる。特に限定するものではないが、本発明の一実施形態において、上記加工製品は、好ましくは飲食品である。なかでも、飲料が好ましく、容器詰の飲料が特に好ましい。
【0040】
上記加工製品は、本発明の第2の態様として先に記載したポリフェノール組成物を原料とするか、又は原料の一部として用いて構成することができる。すなわち、本発明による加工製品の実施形態では、所望とする加工製品の形態に応じて、上記組成物が追加の成分を含むことを意図している。このような実施形態において、上記安定化剤の使用量は特に限定されない。しかし、本発明の一実施形態において、ポリフェノール100重量部に対して、少なくとも、上記エラグ酸が1.5重量部以上、または上記プニカラジンが5重量部以上となる割合で、上記安定化剤を配合することが好ましい。このような割合で上記安定化剤を使用することによって、加工製品中のポリフェノールを安定に維持することが容易となる。一方、上記安定化剤の配合量の上限は、特に限定されるものでなく、味、香り、およびコストを考慮して設定すればよい。例えば、加工製品に含まれるポリフェノール100重量部に対して、エラグ酸を1.5〜350重量部、および/またはプニカラジンを5〜350重量部となる割合で加工製品に配合することができる。
【0041】
(飲食品)
以下、本発明による加工製品の一例として、飲食品について具体的に説明する。上記飲食品は、ポリフェノールと、上記安定化剤と、その他、当業者に周知の成分とを含む。飲食品の具体例として、飲料、ココア、コーヒー、ガム、グミ、ゼリー、羊かん、シャーベット、乳製品が挙げられる。上記飲食品の形態は特に限定されるものではないが、特に、水分含量が高い食品や、容器詰めされた後に加熱殺菌工程を有する飲料や食品が好ましい。上記食品の水分含量は10重量%以上であることが好ましい。
【0042】
上記飲食品のpHは限定されない。しかし、pH4.0以上においてエピ体カテキン類のエピマー化やプロシアニジン類の低減といった望ましくない現象が起こることが知られている。また、加熱によって、それらの現象が促進されることが知られている。しかし、本発明によれば、加工製品中の上記安定化剤によって、上記望ましくない現象を効果的に抑制することが可能である。そのため、本発明による加工製品のpHは4.0以上であってよい。このような上記安定化剤による安定化効果の観点から、上記飲食品のpHは、好ましくは4.0〜8.0、より好ましくは4.0〜7.5、さらに好ましくは5.5〜6.5の範囲である。
【0043】
さらに、上記飲食品は、上記範囲のpHを有し、かつ37℃以上の温度で加熱される工程を経て製造されたものであってよい。特に、上記飲食品は、120℃以上の温度で加熱殺菌される工程を経て製造されたものであってよい。なお、上記「37℃以上の温度で加熱される工程」とは、飲食品の製造時だけでなく、飲食品を流通する際に37℃以上で保管および販売する工程も含む。
【0044】
本発明において、上記飲食品中のポリフェノール含有量は、特に限定されない。通常、飲食品中のポリフェノール含有量は、目的とする生理機能の効果が発揮できるように設定される。したがって、本発明では、飲食品中のポリフェノール含有量を設定した後に、上記安定化剤の使用量を決定すればよい。例えば、上記安定化剤は、上記ポリフェノール含有量100重量部に対して、少なくとも、エラグ酸1.5重量部以上、またはプニカラジン5重量部以上となる割合で配合すればよい。
【0045】
上記飲食品は、例えば、以下(i)〜(iii)の方法に従って製造することができる。(i)飲料の調製:28.5mg〜100mgのポリフェノールと、0.5mg〜100mgの安定化剤と、必要に応じて追加される当業者に公知の成分を配合し、100mlの飲料を調製する。ここで、上記ポリフェノールは、例えば、プロシアニジン類、カテキン類であってよい。また上記安定化剤は、例えば、エラグ酸精製品、プニカラジン精製品、又は少なくとも、上記安定化剤の全重量を基準として15重量%以上のエラグ酸および30重量%以上のプニカラジンの少なくとも一方を含有するザクロ抽出物、のいずれかであってよい。また上記公知の成分は、一般に飲食品の原材料や添加物として使用される素材でよい。例えば、上記飲料品は、水、糖類、糖アルコール類、澱粉及び加工澱粉、食物繊維、牛乳、加工乳、豆乳、果汁、野菜汁、果実・野菜及びその加工品、タンパク質、ペプチド、アミノ酸類、動物及び植物生薬エキス、天然由来高分子(コラーゲン、ヒアルロン酸、コンドロイチンなど)、ビタミン類、ミネラル類、増粘剤、乳化剤、保存料、着色料、香料などを含んでもよい。
(ii)飲料のpH調整:上記のように調製した飲料のpHを5.5〜6.5の範囲に調整する。調整時に、必要に応じて、有機酸及びその塩類、酸味料、又はpH調整剤を使用してもよい。より詳細には、例えば、リンゴ酸及びその塩類、クエン酸及びその塩類、酒石酸及びその塩類、乳酸及びその塩類、リン酸及びその塩類、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなどを、上記飲料に加えてもよい。
(iii)飲料の加熱殺菌: pHを調整した上記飲料を密閉容器に封入し、例えば、121℃の温度条件で10分間にわたって加熱殺菌する。
【0046】
(その他の加工製品)
以上、本発明による加工製品の実施形態について、飲食品を例にして説明した。しかし、本発明によれば、ポリフェノールと、エラグ酸およびプニカラジンの少なくとも一方を含む安定化剤とを含む組成物を使用して、医薬品(医薬部外品も含む)または化粧品といったその他の加工製品を構成することも可能である。加工製品として医薬品を構成する場合、上記医薬品は、上記成分に加えて、当業者に周知の成分も含む。例えば、本発明の一実施形態において、上記医薬品は、ポリフェノールと、上記安定化剤と、医薬品薬効成分と、薬事法上の医薬品や医薬部外品に該当しない医薬品製剤に含まれる有効成分以外の物質を含んでよい。上記物質の具体例として、賦形剤、崩壊剤、結合剤、流動化剤、矯味剤、香料、着色剤、甘味剤、溶剤、油脂、増粘剤、界面活性剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、懸濁化剤、粘稠剤などが挙げられる。医薬品の形態は、特に限定されない。上記飲食品と同様の観点から、上記医薬品のpHは4.0以上であってよい。上記安定化剤による安定化効果の観点から、上記医薬品のpHは、好ましくは4.0〜8.0、より好ましくはpH4.0〜7.5、より好ましくはpH5.5〜6.5の範囲である。また、上記医薬品は、37℃以上で加熱される工程を経て製造されたものであってよい。
【0047】
一方、加工製品として化粧品を構成する場合、上記化粧品は、上記成分に加えて、当業者に周知の成分も含む。例えば、本発明の一実施形態において、上記化粧品は、ポリフェノールと、上記安定化剤と、化粧品として使用が許可される成分とを含む。上記成分として、例えば、香料、金属、セラミックス又は賦形剤、崩壊剤、結合剤、流動化剤、滑沢剤、着色剤、溶剤、油脂、界面活性剤、増粘剤、ゲル化剤などが挙げられる。化粧品の形態は、特に限定されない。上記飲食品と同様の観点から、上記化粧品のpHは4.0以上であってよい。上記安定化剤による安定化効果の観点から、上記化粧品のpHは、好ましくは4.0〜8.0、より好ましくは4.0〜7.5、より好ましくは5.5〜6.5の範囲である。また、上記化粧品は、37℃以上で加熱される工程を経て製造されたものであってよい。
【0048】
<ポリフェノール含有加工製品の製造方法>
本発明の第4の態様は、ポリフェノール含有加工製品の製造方法に関する。上記製造方法は、(a)ポリフェノールと、エラグ酸およびプニカラジンの少なくとも一方を含む安定化剤とを含む組成物を調製する工程と、(b)上記組成物を用いて、ポリフェノール含有加工製品を調製する工程と、(c)上記ポリフェノール含有加工製品を37℃以上の温度に加熱する工程とを含む。上記製造方法において、上記加工製品は、本発明の第3の態様と同様であってよい。本発明による製造方法の一実施形態として、上記工程(a)において、ポリフェノール100重量部に対して、少なくとも、エラグ酸が1.5重量部以上またはプニカラジンが5重量部以上となる割合で上記安定化剤を共存させることが好ましい。上記ポリフェノール含有加工製品のpHは、4.0〜8.0の範囲であってよい。また、上記ポリフェノールは、プロシアニジン類およびカテキン類の少なくとも一方であることが好ましい。
【0049】
<ポリフェノール安定化方法>
本発明の第5の態様は、ポリフェノール100重量部に対して、少なくとも、エラグ酸を1.5重量部以上、又はプニカラジンを5重量部以上の割合で共存させることを特徴とする、ポリフェノールの安定化方法に関する。上記ポリフェノール、上記エラグ酸、上記プニカラジンは、先に説明したとおりである。先に説明したように、pH4.0以上においてエピ体カテキン類のエピマー化やプロシアニジン類の低減といった望ましくない現象がみられる。そのため、本発明の安定化方法を効果的に実施する観点から、上記安定化は、pH4.0以上の条件下で実施されることが好ましい。上記安定化におけるpHの条件は、より好ましくは4.0〜8.0、さらにより好ましくは4.0〜7.5、最も好ましくは5.5〜6.5の範囲である。
【0050】
上記pHの条件下において、さらに加熱が適用されることによって、上記ポリフェノールの構造変化は促進される。そのため、本発明の安定化方法をより効果的に実施する観点から、上記安定化は、上記pH条件に加えて、さらに37℃以上で加熱される条件下、より好ましくは120℃以上で加熱される条件下で、上記安定化を実施することが好ましい。
【0051】
本発明の別の態様は、本発明の第3の態様である製造方法によって製造された、飲食品、医薬品、および化粧品からなる群から選択されるポリフェノール含有加工製品に関する。また、さらに、別の態様は、エラグ酸およびプニカラジンの少なくとも一方のポリフェノール安定化剤としての使用に関する。
【0052】
以上、本発明について、代表的な態様に基づき説明した。しかし、本願発明は例示の態様に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。しかし、本発明の実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
実施例および比較例において、各成分の定量分析は、以下のようにして実施した。
(エラグ酸、プニカラジン)
エラグ酸およびプニカラジンの定量分析は、非特許文献1(J.Agric.Food Chem.,Vol.55 No.23,9559-9570,2007)に記載された方法を参照して実施した。
【0055】
(エピ体カテキン類、非エピ体カテキン類)
エピ体カテキン類(エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート)、および非エピ体カテキン類(カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート、ガロカテキンガレート)の定量分析は、非特許文献2(Biosci.Biotechnol.Biochem.,Vol.64 No.12,2581-2587, 2000)に記載された方法を参照して実施した。
【0056】
(プロシアニジン類)
プロシアニジン類(カテキン、エピカテキン、プロシアニジンB2、プロシアニジンB5、プロシアニジンC1、シンナムタンニンA2)の定量分析は、非特許文献3(J.Agric.Food Chem.,Vol.45 No.12,4624-4628,1997)を参照して実施した。
【0057】
実施例および比較例で使用したカカオポリフェノールは、以下のようにして調製した
(カカオポリフェノールの調製方法)
産地で乾燥を終えたカカオ豆を磨砕し、さらに圧搾によって脱脂した後、20倍量の50%エタノール水溶液を加えて、50℃で30分間攪拌した。次いで、不要成分を遠心分離で除去することにより、カカオ粗抽出液を得た。
次に、予め水素イオン置換処理を施した陽イオン交換樹脂(アンバーライト(登録商標)IR−120B)を充填したカラムに、上記カカオ粗抽出液をSV=5の流速で通液した。続いて、カラムに25℃の脱イオン水を通液して、溶出液を分取した。上記溶出液を凍結乾燥することによってカカオポリフェノール(プロシアニジン類含量約16重量%)を得た。
【0058】
(実施例1)
各種植物抽出物によるポリフェノール安定化効果(殺菌前後)
【0059】
(i)飲料の調製
上記方法に従って得られたカカオポリフェノール625mg(プロシアニジン類含量100mg)と、表1に示した植物抽出物(または試薬)350mgに、水を加えて350mlの溶液を調製した。上記溶液を、0.1M塩酸または0.1M水酸化ナトリウムを用いてpH5.5に調整して飲料とした。
【0060】
【表1】
【0061】
(ii)殺菌
上記飲料を密閉容器に封入した後、オートクレーブで121℃、10分間加熱殺菌した。
【0062】
(iii)ポリフェノール分析
上記(i)で得た加熱殺菌前の飲料、および上記(ii)で得た加熱殺菌後の各飲料について、上記定量方法に従ってプロシアニジン類をそれぞれ定量した。
【0063】
(iv)プロシアニジン類低減抑制効果の評価
プロシアニジン類残存率を、上記(iii)で得たプロシアニジン類の各成分量を用いて、以下のように算出した。
【0064】
プロシアニジン類残存率(%)=(加熱殺菌後の飲料中のプロシアニジン類成分量の総和/加熱殺菌前の飲料中のプロシアニジン類成分量の総和)*100
【0065】
上記残存率の数値が高いほど、加熱殺菌後の飲料中のプロシアニジン類が安定に保存されていることを示す。すなわち、プロシアニジン類低減抑制効果が高いことを示す。結果を図1に示す。
【0066】
図1に見られるように、ザクロ抽出物(1)、ザクロ抽出物(2)、アムラ抽出物、およびマンゴスチン抽出物は、加熱殺菌後において80%以上という高いプロシアニジン類残存率を示すことが分かる。特に、2種類のザクロ抽出物(エラグ酸40%〜90%含有)は、著しく高いプロシアニジン類低減抑制効果を有するポリフェノール安定化剤であることが示された。
【0067】
(v)エピマー化抑制効果の評価
エピマー比率を、上記(iii)で定量したプロシアニジン類のうち、エピカテキン、カテキンの数値を用いて、以下のように算出した。
【0068】
エピマー比率(%)=(各飲料中のエピカテキン量/各飲料中のエピカテキン量+カテキン量)*100
【0069】
加熱殺菌後の各飲料のエピマー比率の数値が、加熱殺菌前の飲料のエピマー比率に近い数値、すなわち、高い数値であるほど、加熱殺菌後の飲料中のエピカテキンがエピマー化してカテキンとなることなく、エピカテキンとして安定に保存されていることを示す。結果を図2に示す。
【0070】
図2に見られるように、ザクロ抽出物(1)、ザクロ抽出物(2)は、加熱殺菌後において70%以上の高いエピマー比率を示すことが分かる。すなわち、2種類のザクロ抽出物(エラグ酸40%〜90%含有)は、エピマー化抑制効果が著しく高いポリフェノール安定化剤であることが示された。
【0071】
(実施例2)
各種植物抽出物によるポリフェノール安定化効果(加温保存)
【0072】
実施例1で調製した殺菌後の飲料を37℃で2週間保存した。保存後の各飲料について、実施例1(iii)〜(v)と同様の方法に従ってプロシアニジン類残存率とエピマー比率を算出した。添加なし、ザクロ抽出物(1)、ザクロ抽出物(2)、アムラ抽出物の結果を、図3および図4に示す。
【0073】
図3および図4に見られるように、アムラ抽出物およびザクロ抽出物を添加した飲料は、加熱殺菌を経て37℃で2週間保存した後において、植物抽出物無添加の飲料よりも高いプロシアニジン類残存率およびエピマー比率を有することが分かる。特に、2種類のザクロ抽出物(エラグ酸40%〜90%含有)は、加温保存条件下においてもプロシアニジン類低減抑制効果およびエピマー化抑制効果が高いポリフェノール安定化剤であることが示された。
【0074】
(実施例3)
ザクロ抽出物(エラグ酸含量90%)によるポリフェノール安定化効果
【0075】
(i)飲料の調製
実施例1のザクロ抽出物(1)(バイオアクティブズジャパン製、エラグ酸含量90%)を用いて、実施例1(i)〜(ii)と同様の方法に従って飲料を調製した。ただし、上記抽出物の配合量については、飲料350ml中にそれぞれ、0mg、1.75mg(5ppm)、3.5mg(10ppm)、8.75mg(25ppm)、17.5mg(50ppm)、35mg(100ppm)、87.5mg(250ppm)、175mg(500ppm)、350mg(1000ppm)とした。
【0076】
上記(i)で調製された飲料は、実施例1(ii)と同様にして加熱殺菌した。加熱殺菌前後の飲料について、実施例1(iii)〜(v)と同様の方法に従ってポリフェノールを分析し、プロシアニジン類残存率およびエピマー比率を算出した。結果を図5および図6に示す。
【0077】
図5および図6に見られるように、上記ザクロ抽出物を飲料中に5〜1000ppm添加することにより、濃度依存的にプロシアニジン類残存率およびエピマー比率が増加することが分かる。
【0078】
すなわち、プロシアニジン類100mgを含有する飲料中に、エラグ酸90%含有ザクロ抽出物を5ppm以上(エラグ酸として1.575mg以上)配合することにより、プロシアニジン類の低減抑制、および、エピ体カテキン類のエピマー化抑制が可能であることが示された。
【0079】
さらに、本実施例で調製した殺菌後の飲料を、37℃で2週間保存した。保存後の飲料について、実施例1(iii)〜(v)と同様の方法で各飲料のポリフェノールを分析して、プロシアニジン類残存率およびエピマー比率を算出した。結果を図7および図8に示す。
【0080】
図7および図8に見られるように、エラグ酸を90%含有するザクロ抽出物を添加した飲料は、加熱殺菌を経て37℃で2週間保存した後において、安定化剤無添加の飲料よりも高いプロシアニジン類残存率およびエピマー比率を有することが分かる。
【0081】
(実施例4)
各種ザクロ抽出物(エラグ酸含量15〜40%、プニカラジン含量30%)によるポリフェノール安定化効果
【0082】
(i)飲料の調製
実施例1のザクロ抽出物(2)(ナチュレックス製、エラグ酸含量40%)、ザクロ抽出物(3)(アルジュナ製、加水分解後のエラグ酸として15%含有)、ザクロ抽出物(4)(オムニカ製、プニカラジン含量30%)を用いて、実施例1(i)〜(ii)に記載の方法に従って飲料を調製した。ただし、上記抽出物の配合量については、ザクロ抽出物(2)は飲料中に250〜1000ppm、ザクロ抽出物(3)およびザクロ抽出物(4)は50〜500ppmとした。
【0083】
上記(i)で調製された飲料は、実施例1(ii)と同様にして加熱殺菌した。加熱殺菌前後の飲料について、実施例1(iii)〜(v)と同様の方法に従ってポリフェノールを分析し、プロシアニジン類残存率およびエピマー比率を算出した。結果を図9および図10に示す。
【0084】
さらに、本実施例で調製した殺菌後の飲料を、37℃で2週間保存した。ザクロ抽出物(3)およびザクロ抽出物(4)については、37℃で2ヶ月間保存した。保存後の飲料について、実施例1(iii)〜(v)と同様の方法で各飲料のポリフェノールを分析して、プロシアニジン類残存率およびエピマー比率を算出した。ザクロ抽出物(2)の結果を図11および図12に示す。また、ザクロ抽出物(3)の結果を図13および図14に示す。ザクロ抽出物(4)の結果を図15および図16に示す。
【0085】
図9および図10に見られるように、上記ザクロ抽出物(2)〜(4)を飲料中に50〜1000ppm添加することによって、濃度依存的にプロシアニジン類残存率およびエピマー比率が増加することが分かる。また、図11図16に見られるように、エラグ酸を15〜40%またはプニカラジンを30%含有するザクロ抽出物を添加した飲料は、加熱殺菌を経て37℃で保存した後において、安定化剤無添加の飲料よりも高いプロシアニジン類残存率およびエピマー比率を有することが分かる。
【0086】
すなわち、プロシアニジン類100mgを含有する飲料中に、プニカラジン30%含有ザクロ抽出物を50ppm以上(プニカラジンとして5.25mg以上)配合することにより、プロシアニジン類の低減抑制、および、エピ体カテキン類のエピマー化抑制が可能であることが示された。
【0087】
(実施例5)
エラグ酸精製品、プニカラジン精製品によるポリフェノール安定化効果
【0088】
(i)飲料の調製
エラグ酸(和光純薬工業製、エラグ酸二水和物99.0%以上)およびプニカラジン(シグマ社製)を用いて、実施例1(i)〜(ii)と同様の方法に従って飲料を調製した。ただし、上記抽出物の配合量については、エラグ酸は飲料350ml中に0mg〜350mg(1000ppm)、プニカラジンは35mg(100ppm)とした。
【0089】
上記(i)で調製された飲料は、実施例1(ii)と同様にして加熱殺菌した。加熱殺菌前後の飲料について、実施例1(iii)〜(v)と同様の方法に従ってポリフェノールを分析し、プロシアニジン類残存率およびエピマー比率を算出した。結果を図17および図18に示す。
【0090】
図17および図18に見られるように、エラグ酸を飲料中に5〜1000ppm添加することによって、濃度依存的にプロシアニジン類残存率およびエピマー比率が増加することが分かる。すなわち、プロシアニジン類を100mg含有する飲料中にエラグ酸を5ppm(1.75mg)以上またはプニカラジンを100ppm(35mg)配合することにより、飲料中のプロシアニジン類の低減抑制、および、飲料中のエピ体カテキン類のエピマー化抑制が可能であることが示された。
【0091】
さらに、本実施例で調製した殺菌後の飲料を、37℃で2ヶ月間保存した。保存後の飲料について、実施例1(iii)〜(v)と同様の方法に従って各飲料のポリフェノールを分析して、プロシアニジン類残存率およびエピマー比率を算出した。エラグ酸配合飲料の結果を図19および図20に示す。
【0092】
図19および図20に見られるように、エラグ酸を5〜1000ppm添加した飲料は、加熱殺菌を経て37℃で2ヶ月保存した後において、安定化剤無添加の飲料よりも高いプロシアニジン類残存率およびエピマー比率を有することが分かる。
【0093】
さらに、上記試験飲料を37℃で3ヶ月保存した後、試験飲料(エラグ酸100ppm配合)中のエラグ酸含有量を測定したところ、配合量の理論値に対して、101%の残存率であった。
【0094】
(実施例6)
エラグ酸精製品によるポリフェノール(カテキン類)安定化効果
【0095】
(i)飲料の調製
茶ポリフェノール(和光純薬工業製、製品名:カテキン混合物、緑茶由来)625mgと、エラグ酸(和光純薬工業製、エラグ酸二水和物99.0%以上)を0mg、35mg(100ppm)に対して、水を加えて350mlの溶液を調製した。上記溶液を、0.1M塩酸または0.1M水酸化ナトリウムを用いてpH6.5に調整して飲料とした。
【0096】
(ii)殺菌
上記飲料を密閉容器に封入した後、オートクレーブで121℃、10分間加熱殺菌した。
【0097】
(iii)ポリフェノール分析
上記(i)で得られた加熱殺菌前の飲料、および上記(ii)で得られた加熱殺菌後の各飲料について、上記定量方法に従ってエピ体カテキン類および非エピ体カテキン類計8成分をそれぞれ定量した。なお、8成分の略表記は以下のとおりとする。
エピカテキン:EC
カテキン:C
エピガロカテキン:EGC
ガロカテキン:GC
エピカテキンガレート:ECG
カテキンガレート:CG
エピガロカテキンガレート:EGCG
ガロカテキンガレート:GCG
【0098】
(iv)エピマー化抑制効果の評価
エピマー比率は、上記(iii)で定量した8成分の数値を用いて、以下のように算出した。
【0099】
(a)エピマー比率(%)=(各飲料中のEC含量/各飲料中のEC含量+C含量)*100
【0100】
(b)エピマー比率(%)=(各飲料中のEGC含量/各飲料中のEGC含量+GC含量)*100
【0101】
(c)エピマー比率(%)=(各飲料中のECG含量/各飲料中のECG含量+CG含量)*100
【0102】
(d)エピマー比率(%)=(各飲料中のEGCG含量/各飲料中のEGCG含量+GCG含量)*100
【0103】
(e)エピマー比率(%)=(各飲料中のエピ体カテキン類含量の総和/各飲料中のエピ体カテキン類と非エピ体カテキン類の総和)*100
【0104】
加熱殺菌後の各飲料のエピマー比率の数値が、加熱殺菌前の飲料のエピマー比率に近い数値、すなわち、高い数値であるほど、加熱殺菌後の飲料中のエピ体カテキン類がエピマー化して非エピ体カテキン類となることなく、エピ体カテキン類として安定に保存されていることを示す。結果を図21に示す。
【0105】
図21に見られるように、安定化剤無添加の飲料においては、加熱殺菌によって、茶カテキン類のエピ体カテキン類が非エピ体カテキン類にエピマー化するため、いずれの成分のエピマー比率についても殺菌後に低下した。一方、エラグ酸を飲料中に100ppm添加することにより、殺菌後の茶ポリフェノールのエピマー比率は無添加の飲料よりも高い値を示した。すなわち、エラグ酸は、茶飲料中のエピ体カテキン類のエピマー化を抑制するポリフェノール安定化剤として有用であることが分かる。
【0106】
(実施例7)
各種濃度のエラグ酸によるポリフェノール(カテキン類)安定化効果
【0107】
(i)飲料の調製
エラグ酸(和光純薬工業製、エラグ酸二水和物99.0%以上)を0mg、3.5mg(10ppm)、8.75mg(25ppm)、17.5mg(50ppm)、35mg(100ppm)に対して、それぞれに茶ポリフェノール(和光純薬工業製、製品名:カテキン混合物、緑茶由来)625mgと、水を加えて350mlの溶液を調製した。上記溶液を、0.1M塩酸または0.1M水酸化ナトリウムを用いてpH6.5に調整して飲料とした。
【0108】
(ii)殺菌
上記飲料を密閉容器に封入した後、オートクレーブで121℃、10分間加熱殺菌した。
【0109】
実施例6と同様にして、各試験区のエピ体カテキン類および非エピ体カテキン類を定量して、エピマー比率を算出した。(e)エピマー比率(全エピ体カテキン類)の結果を図22に示す。
【0110】
図22に見られるように、飲料中にエラグ酸を10〜100ppm添加することによって、殺菌後の茶ポリフェノールのエピマー比率は濃度依存的に高い値を示すことが分かる。図22には示していないが、各エピ体カテキン類成分のエピマー比率(a)〜(d)についても、同様にエラグ酸濃度依存的に高い値を示した。
【0111】
さらに、本実施例で調製した殺菌後の飲料を、37℃で2ヶ月間保存した。保存後の飲料について、実施例6(iii)〜(iv)と同様の方法に従って各飲料のポリフェノールを分析して、各試験区のエピ体カテキン類および非エピ体カテキン類を定量して、エピマー比率を算出した。(e)エピマー比率(全エピ体カテキン類)の結果を図23に示す。
【0112】
図23に見られるように、エラグ酸を10〜100ppm添加した飲料は、加熱殺菌を経て37℃で2ヶ月保存した後において、安定化剤無添加の飲料よりも高いエピマー比率を有することが分かる。図23には示していないが、各エピ体カテキン類成分のエピマー比率(a)〜(d)についても、同様にエラグ酸濃度依存的に高い値を示した。
【0113】
(実施例8)
カカオポリフェノール含有飲料(pH6.5)におけるポリフェノール安定化効果
【0114】
(i)飲料の調製
上記方法に従って得られたカカオポリフェノール625mg(プロシアニジン類含量100mg)と、エラグ酸(試薬)またはザクロ抽出物(4)(プニカラジン30%含有)35mg(100ppm)に、水を加えて350mlの溶液を調製した。上記溶液を、0.1M塩酸または0.1M水酸化ナトリウムを用いてpH6.5に調整して飲料とした。
【0115】
上記(i)で調製された飲料は、実施例1(ii)と同様にして加熱殺菌した。加熱殺菌前後、および37℃2週間保存した飲料について、実施例1(iii)〜(v)と同様の方法に従ってポリフェノールを分析し、プロシアニジン類残存率およびエピマー比率を算出した。結果を図24および図25に示す。
【0116】
図24および図25に見られるように、pH6.5のカカオポリフェノール含有飲料に対しても、エラグ酸またはプニカラジンを含有する安定化剤を飲料中に100ppm添加することによって、プロシアニジン類残存率およびエピマー比率が増加することが分かる。
【0117】
(比較例1)
没食子酸のポリフェノール安定化への影響
【0118】
(i)飲料の調製
上記方法に従って得られたカカオポリフェノール625mg(プロシアニジン類含量100mg)と、エラグ酸(試薬)または没食子酸(試薬)それぞれ35mg(100ppmm)に、水を加えて350mlの溶液を調製した。上記溶液を、0.1M塩酸または0.1M水酸化ナトリウムを用いてpH5.5に調整して飲料とした。
【0119】
上記(i)で調製された飲料は、実施例1(ii)と同様にして加熱殺菌した。加熱殺菌前後のそれぞれの飲料について、実施例1(iii)〜(v)と同様の方法に従ってポリフェノールを分析し、プロシアニジン類残存率およびエピマー比率を算出した。結果を図26および図27に示す。
【0120】
図26および図27から分かるように、没食子酸についてはポリフェノール安定化効果が確認できなかった。
【0121】
(参考例1)
各種植物抽出物の抗酸化活性と総ポリフェノール量
【0122】
実施例1で使用した植物抽出物(ショウガ抽出物、アスコルビン酸、ザクロ抽出物(2)を除く)について、抗酸化活性(DPPHラジカル消去能)および総ポリフェノール量を測定した。
【0123】
(DPPHラジカル消去能)
DPPH(1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル;1,1-Dyphenyl-2-picrylhydrazyl)ラジカル消去能は、非特許文献4に記載された方法に従って測定した。測定方法の概略は以下のとおりである。
【0124】
各植物抽出物を80重量%メタノール水溶液で溶解して、濃度1000ppmより段階的に希釈した溶液を調製した。上記溶液100μlに対して0.1mM DPPH溶液2mlを加えて、30分間室温で静置した後、520nmの吸光度を測定した。DPPH溶液をブランクとして、その吸光度の値を阻害率100%として、各試料溶液の阻害率を算出した。上記阻害率が50%になる試料濃度(IC50)を内挿法により求めた。IC50の値が低いほど、DPPHラジカル消去能(抗酸化活性)が高いことを示す。得られた抗酸化活性の結果と、実施例1により得られたプロシアニジン類残存率の相関を図28に示す。
【0125】
図28から分かるように、実施例1で用いた各植物抽出物の抗酸化活性とプロシアニジン類残存率との間には有意な相関がみられなかった。
【0126】
(総ポリフェノール量)
総ポリフェノール量は、非特許文献5に記載された方法を参照し、市販の没食子酸を標準品として、各試料の定量分析を行うことによって得た値である。測定方法の概略は以下のとおりである。
【0127】
各植物抽出物を80重量%メタノール水溶液を用いて抽出し、試験溶液とした。次いで、蒸留水50mlに各試験溶液100μlを添加し、攪拌しながら0.1M硫酸鉄(III)アンモニウム−0.1M塩酸溶液3mlを加え、その20分後に8mM ヘキサシアノ鉄(III)カリウム水溶液3mlを加え、さらに20分後に720nmの吸光度を測定した。さらに、蒸留水50mlに各サンプル液の溶媒(80重量%メタノール)100μlを加えたもの、および没食子酸(シグマ社製)80重量%メタノール溶液を用い、同様の処理を行って検量線を作成し、各試験溶液中の総ポリフェノール量を算出した。得られた総ポリフェノール量の結果と、実施例1により得られたプロシアニジン類残存率の相関を図29に示す。
【0128】
図29から分かるように、実施例1で用いた各植物抽出物の総ポリフェノール量とプロシアニジン類残存率との間には有意な相関がみられなかった。
【0129】
本発明により見出されたエラグ酸およびプニカラジンによるポリフェノール安定化効果は、抗酸化活性および総ポリフェノール量によるものではないと推測された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図16
図17
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