(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371824
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】誘電性コーティングおよび物品
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20180730BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20180730BHJP
C09D 5/24 20060101ALI20180730BHJP
H01B 3/00 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/61
C09D5/24
H01B3/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-248913(P2016-248913)
(22)【出願日】2016年12月22日
(62)【分割の表示】特願2013-541228(P2013-541228)の分割
【原出願日】2011年11月2日
(65)【公開番号】特開2017-82231(P2017-82231A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2017年1月13日
(31)【優先権主張番号】102010052889.7
(32)【優先日】2010年12月1日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】リュガー、 ラインホルト
(72)【発明者】
【氏名】クンツ、 マティアス
【審査官】
菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/077123(WO,A1)
【文献】
国際公開第2005/008685(WO,A1)
【文献】
特開2002−167576(JP,A)
【文献】
特開2005−247939(JP,A)
【文献】
特表平10−504515(JP,A)
【文献】
特開昭61−207472(JP,A)
【文献】
特開平10−147729(JP,A)
【文献】
特開2005−336485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電性コーティングおよび物品が、それぞれの場合において1〜1000ギガオームの表面比抵抗を有し、1種または複数の半導電性顔料、および誘電性バインダーを含み、誘電性コーティング中または物品中の半導電性顔料の顔料体積濃度が、≧10%であり、
半導電性顔料の粉体比抵抗が、≧100キロオーム・cm、かつ1ギガオーム・cm未満であり、
半導電性顔料が、酸化スズ、ドープされた二酸化スズ、酸化スズもしくはドープされた二酸化スズでコーティングされた支持体、ドープされた二酸化チタン、亜酸化チタン、または二酸化チタンもしくは亜酸化チタンでコーティングされた支持体からなり、
半導電性顔料が、雲母薄片およびAl2O3薄片からなる群から選択される基材を含む
ことを特徴とする、誘電性コーティングおよび物品。
【請求項2】
半導電性顔料の粉体比抵抗が、100キロオーム・cmを超え、かつ1ギガオーム・cm未満であることを特徴とする、請求項1に記載の誘電性コーティングおよび物品。
【請求項3】
顔料が、
雲母薄片+(ドープされた)SnO2層
雲母薄片+(ドープされた)SnO2層+TiO2層
雲母薄片+(ドープされた)SnO2層+SiO2層
雲母薄片+(ドープされた)SnO2層+ZnO層
雲母薄片+(ドープされた)SnO2層+Cr2O3層
雲母薄片+(ドープされた)SnO2層+Al2O3層
Al2O3薄片+(ドープされた)SnO2層
Al2O3薄片+(ドープされた)SnO2層+TiO2層
Al2O3薄片+(ドープされた)SnO2層+SiO2層
Al2O3薄片+(ドープされた)SnO2層+ZnO層
Al2O3薄片+(ドープされた)SnO2層+Cr2O3層
Al2O3薄片+(ドープされた)SnO2層+Al2O3層
の群から選択されることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の誘電性コーティングおよび物品。
【請求項4】
センサーにおける、保安用途における、床敷物のための、フィルムのための、セラミック材料のための、ガラスにおける、紙の、レーザーマーキングにおける、熱保護における、光半導体における、および高電圧技術のための機能材料としての、請求項1から3のいずれかに記載の誘電性コーティングおよび物品の使用。
【請求項5】
平面接触センサーにおける、請求項4に記載の誘電性コーティングおよび物品の使用。
【請求項6】
回転電気機械における、端面コロナシールディングシステムの電気特性の特定の設定のための、請求項4に記載の誘電性コーティングおよび物品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いが正確に規定された(defined)表面比抵抗(specific surface resistances)を有する、誘電性コーティングおよび物品(dielectric coatings and articles)に関する。
【背景技術】
【0002】
誘電性コーティングに関する、またはプラスチック部品、フィルムもしくはテープなどの誘電性材料から主に(principally)なる物品に関する多くの用途において、材料の電気特性を改変することが、特に必要である。これは、例えば充填剤または顔料などの、相応する特性を有する適切な添加物の使用によって、一般的に実行される。
【0003】
したがって、例えば、導電性顔料の添加によって、誘電性バインダーを含む層の導電率をかなり増加させることが知られている。
【0004】
導電性顔料は、様々な用途分野において、例えば、帯電防止コーティング、帯電防止床敷物(floorcoverings)、防爆室の帯電防止処理またはプラスチックの塗装のための導電性下塗りのために、今日使用されている。
【0005】
これらの用途において、表面および体積抵抗が低いことは、操作上安全な電気的状態を確実にするために必要である。したがって、使用される顔料に関して、可能な最善の導電率が要求される。カーボンブラックまたはグラファイトは、誘電性材料の導電率を増加させるために、一般的に使用される。これらの物質は、高い導電率に対する要求を満たすが、黒であり、したがって、添加された材料を暗くするという結果を常にもたらす不利益を有する。したがって、このあり得る解決法は、暗色から黒の適用物に制限され、この制限のために、常に実行可能とは限らない。
【0006】
淡色のおよび透明なコーティングの製造のために、透明な薄片(flake)状の基材をベースとする(based on)導電性顔料が知られている。これらの顔料は、例えば、(Sn,Sb)O
2で、またはTiO
2/SiO
2/(Sn,Sb)O
2(例えばMerck KGaAからのMinatec(登録商標)31CMもしくは30CM)を含む層シーケンスでコーティングされた雲母からなる。一例において、基材は、雲母と球形のSiO
2粒子の混合物からなる。Merck KGaAによって製造され、販売されているこの種類の顔料は、例えば、特許DE 38 42 330およびDE 42 37 990(Merck)、EP 0 139 557(Catalysts & Chemicals Ind.)またはEP 0 359 569およびEP 0 743 654(DuPont)ならびにU.S.7,416,688(Merck)において記載されている。かかる顔料は、透明であり、淡色のマストーンを有し、高い導電率を有する。キロオームの範囲の中の表面比抵抗を有する淡色のまたは透明な導電性コーティングは、これらの顔料によって入手可能である。前記値は、直流電圧および低周波の交流電圧に適用される。表面比抵抗σは、単位面積(square)に対する抵抗に適用される用語であり、表面上で測定される。別の通例の用語は、スクエア抵抗(square resistance)である。
【0007】
これらの顔料は、淡色およびより高い透明性を有することによって、今日、主に通例である導電性顔料カーボンブラックに対して区別される。したがって、色および導電率は、非常に良好な様式で組み合わせることができ、一方、カーボンブラックの使用においては、暗色への制限が常にある。カーボンブラックまたはグラファイトと対照的に、顔料は、組成を通じて導電率を調節する可能性、および調製のパラメータの選択をさらに提供する。
【発明の概要】
【0008】
顔料は、約100オーム〜100メガオームの範囲の中の表面比抵抗を有する導電性の、帯電防止の、および帯電防止的に散逸性のコーティングの製造を可能にする。ほとんどの用途において、好ましくは1キロオームと1メガオームの間である、低い抵抗が望まれる。しかし、より高いオームの範囲の中の抵抗が必要とされる場合、これらは、配合を適応させることによって、たいていは、使用される導電性顔料の量を減少させることまたは非導電性充填剤の添加によって、達成される。カーボンブラックまたはグラファイト、また例えばSiCなどのその他の導電性の無機材料の場合、これは、導電性の誘電性調製物の層または塊(volume)の抵抗を調節する唯一の方法である。したがって、100メガオームを超えるより高い抵抗の領域(より低い導電率、部分的に導電性の(partially conductive)層)において、適切な調製物の配合は困難である。なぜなら、誘電性バインダーおよび導電性顔料を含む系は、浸透曲線(percolation curve)の急峻な領域に位置し、使用濃度、湿度、溶媒含有量、光または系の均一性における極端に小さな変化が、導電率の激しい変化を結果としてもたらすからである。したがって、コーティングのまたは塊の規定された抵抗の設定および維持は、極端に困難である。
【0009】
さらに、誘電性バインダー、場合によって添加物および導電性顔料を含む不均質な(heterogeneous)および微視的に不均一な系における電気的相互作用は、極端に複雑であり、直列および並列に接続されたオーム抵抗の簡略化された回路図によって表すことができない。それどころか、微視的範囲におけるバインダー系の誘電率および誘電強度ならびにインピーダンスがまた、とりわけ、導電性顔料についての浸透閾値(percolation threshold)の境界領域の中および下で、本質的な役割を果たす。これらの複雑な電気的相互作用の効果は、導電率の周波数依存性が、導電性顔料のこの濃度範囲において大きく増加し、抵抗が非常に大きく変動し得ることである。バインダーマトリックスの熱膨張に起因して、電気的パラメータの強い温度依存もまた起こる。例えば、継続する架橋に起因する、可塑剤もしくは溶媒の蒸発もしくは浸出または溶媒もしくは水蒸気の取り込みに起因する、他の膨張または収縮過程もまた、電気特性にかなりの変化を、結果としてもたらし得る。
【0010】
しかし、例えば、特性が、電界の単独印加に起因して、または温度の影響に起因して、微細構造を変化させる場合、不可逆的過程もまた起こり得る。
【0011】
誘電性マトリックスにおける顔料体積濃度が、浸透閾値を超える場合、低い抵抗値が、顔料含有材料において達成される。浸透閾値は、連続的な導電路を形成できる誘電体における導電性顔料の最小濃度である。この濃度範囲において、材料の電気抵抗は、顔料体積濃度において変化が小さいときに、10の数乗、変化する。この閾値は、典型的には、調製物において顔料10〜20体積%である。顔料体積濃度がこの閾値未満である場合、電気抵抗は、誘電性マトリックス材料によって、本質的に決定される。塗料または成形物の形態のかかる材料の表面比抵抗は、典型的には、乾燥雰囲気においてテラオームの範囲の中にある。
【0012】
10
8〜10
13オームの範囲の中の表面比抵抗を有するコーティングまたは機能材料(functional materials)は、例えば高電圧技術(high-voltage technology)においてまたはセンサー素子において、大いに興味深い。
【0013】
非線形特性を有する半導電性機能材料は、電気部品の機能の調節のために電気工学において、特に使用される。非線形特性の例は、電圧依存抵抗である。この種類の適用は、例えばAndreas Kuchler、「Hochspannungstechnik」[High-Voltage Technology]、Springer Verlag、第3版、2009において、またはETG Specialist Reports 110および112、第3回ETG Congress、Wurzburg、2008において記載されている。電圧依存抵抗を有する材料は、例えばバリスタとして使用される。
【0014】
電圧依存抵抗を有する半導電性コーティングおよびテープは、高電圧絶縁における電界の調節のために、例えばケーブル付属品における抵抗性電界の調節(resistive field control)のために使用される。従来技術は、塗料またはテープの形態の炭化ケイ素と誘電性バインダーの複合体を含む。
【0015】
ここに、改善された材料特性に対する恒常的な需要がある。DE 19839285は、発電機における端面コロナシールディング(end corona shielding)のためのテープにおいて、アンチモンドープ酸化スズでコーティングされた導電性顔料を使用することを提唱している。この発明の場合、高い導電率を有する顔料が使用され、処方量は、浸透閾値の範囲の中にある。顔料は、アンチモンドープ酸化スズ中にアンチモン12〜15モル%を含む。テープの抵抗は、樹脂マトリックス中の顔料の濃度を通じて調整される。
【0016】
しかし、機能材料の高い抵抗のために、調製物が、浸透閾値の範囲の中の顔料濃度で調合されなければならないので、10
8〜10
13オームの範囲の中の比抵抗は、高い導電率の導電性顔料を使用する困難を伴ってしか設定できない。この濃度範囲において、電気特性の突然の変化が起こる。小さな濃度の変動、架橋の度合い、残留溶媒もしくは水の含有量、または、例えば温度など外部パラメータも、機能材料の抵抗を、10の数乗、変動させることがある。安定した状態は、かなりの努力によってしか達成および維持できない。導電性顔料の低い濃度によって正確に誘電性材料中の高い抵抗値を調節する方法は、実際には不適切である。したがって、容易に調整可能なおよび安定した電気特性を有する半導電性機能材料に到達することを可能とする顔料に対する差し迫った需要がある。
【0017】
しかし、部分的に導電性のコーティングの特定の用途のために、例えば、電気機器における電位の調節(potential control)のために、規定された高い抵抗の層(部分的に導電性の層)が必要であり、電界の効果に起因する、抵抗の変動または不可逆的な変化でさえ許容できない。
【0018】
本発明の目的は、誘電性バインダー、場合によってさらなる誘電性添加物および規定された電気特性を有する半導電性顔料を含む組成物を見出すことである。コーティングは、好ましくは、淡色または透明であるべきである。さらに、コーティングは、可能な限り最低の、抵抗の周波数依存性を有するべきである。
【0019】
驚いたことに、誘電性コーティング中のまたは物品中の半導電性顔料の顔料体積濃度が10%以上である場合、10
8オーム以上の高い規定された表面比抵抗を有する、半導電性顔料、誘電性バインダーおよび場合によってさらに誘電性添加物を含む淡色の誘電性コーティングならびに物品を製造できることが、今や見出された。
【発明を実施するための形態】
【0020】
好ましい実施形態において、
−顔料の粉体比抵抗(specific powder resistance)は、100キロオーム・cmを超え、1ギガオーム・cm未満であり、および/または
−半導電性顔料は、酸化スズ、ドープされた二酸化スズ、酸化スズもしくはドープされた二酸化スズでコーティングされた支持体(supports)、ドープされた二酸化チタン、亜酸化チタン、または二酸化チタンもしくは亜酸化チタンでコーティングされた支持体からなる。
【0021】
本特許出願における半導電性顔料は、以下の特性を有する顔料を意味すると理解される:粉体比抵抗100キロオーム・cm未満、好ましくは1キロオーム・cm未満を有する導電性顔料と対照的に、半導電性顔料の粉体比抵抗は、100キロオーム・cmから100メガオーム・cmの範囲の中にある。半導電性顔料を含むコーティングの抵抗範囲は、メガオーム〜テラオームの範囲の中の比抵抗を有する絶縁材料のより低い抵抗の範囲の中にある。
【0022】
半導電性顔料の粉末の電気特性は、粉体比抵抗によって特徴づけられる。顔料粉末の比抵抗を測定するために、内直径2cmを有するアクリルガラスチューブに、顔料を、充填深さ0.5〜1cmで充填し、10kgの重しを用いて、2個の対向する金属ラム(rams)の間で加圧する。このようにして得られた顔料のプレスされた円盤の電気抵抗Rは、2個の金属ラムへのオーム計の適用によって測定される。顔料の粉体比抵抗ρは、顔料のプレスされた円盤の層厚さLおよび直径dならびに測定された抵抗Rから、式
ρ=[R・π・(d/2)
2]/L [オーム・cm]
にしたがって計算される。
【0023】
顔料体積濃度は、バインダー、半導電性顔料ならびに場合によって充填剤およびさらなる添加物からなる、コーティングまたは物品の総体積で割った半導電性顔料の体積によって示され、その商を100倍し、%で表す。
【0024】
好ましい実施形態において、半導電性顔料は、二酸化スズでコーティングされた雲母薄片からなり、この二酸化スズはまた、ドープされていてもよい。二酸化スズ層は、好ましくはドープされるが、ドープされる必要はない。半導電性二酸化スズの活性化(activation)は、100キロオーム・cmを超える粉体比抵抗のための導電率を達成するのに十分であり得る。この種類の活性化ステップは、例えば、窒素、アルゴン、CO
2もしくは別の不活性ガス下でのか焼(calcination)、弱還元条件下でのか焼、またはUV光への暴露であることができる。このステップにおいて、二酸化スズは励起状態に転換され、それが冷却によって凍結され(frozen)、低い導電率に貢献する。しかし、二酸化スズは、好ましくはドープされる。アンチモンおよびフッ素は、ドーピングに特に適切である。アンチモンでのドーピングは、特に好ましい。導電率およびしたがって粉体比抵抗はまた、支持体上の二酸化スズ層の厚さに依存する。二酸化スズ層の層厚さは、好ましくは、15〜50nmである。
【0025】
しかし、≧100キロオーム・cmから100メガオーム・cmの粉体比抵抗によって表される、低い導電率を有する適切な半導電性顔料はまた、より高い抵抗を有する薄いまたは完全には連続していない層での導電性顔料のポストコーティング(post-coating)によって調製できる。この種類の層は、例えば、SiO
2および/もしくはAl
2O
3、ZnOから、またはTiO
2からなることができる。そのとき、これらのコーティングは、支持体上の部分的に導電性の二酸化スズ層より薄く、平均の厚さ1〜15nm、好ましくは5〜10nmを有することができる。
【0026】
しかし、例えば無機顔料の天候安定化(weather stabilisation)および疎水化にとって通例である有機コーティングもまた、適切である。典型的な例は、有機シランでのコーティングである。
【0027】
より導電性の顔料のポストコーティングを通じた導電率の調節のための方法はまた、無支持体の二酸化スズへ、および、支持体上の導電性顔料と無支持体の導電性顔料の混合物へ(to mixtures of support-free conductive pigments with those on supports)、適用できる。
【0028】
導電率の調節および粉体比抵抗≧100キロオーム・cmの設定のためのさらなる方法は、例えば結晶格子中の電子トラップの形成を通じた、または結晶中の電子移動度を減少させることによる、導電率を減少させるイオンでの共ドーピング(co-doping)である。それによってアンチモンドープ二酸化スズの導電率が減少するかかるイオンの例は、ナトリウムまたはチタンである。
【0029】
規定された低導電率の設定のためのさらなる可能性は、乾燥ならびにか焼のパラメータ、例えば温度、時間および雰囲気の組成および圧力の選択にある。
【0030】
二酸化スズ以外に、その他の半導電性金属酸化物および支持体上のかかる金属酸化物層もまた、本発明による誘電性コーティングの製造にとって適切である。かかる金属酸化物の例は、場合によってドープされた二酸化チタン、場合によってドープされた酸化亜鉛またはスズ酸亜鉛である。
【0031】
適切な半導電性顔料は、明らかにまた、異なる粉体比抵抗を有する顔料の混合物である。したがって、例えば、粉体比抵抗100キロオーム・cm未満を有する半導電性または導電性顔料を、混合物が粉体比抵抗≧100キロオーム・cmを有するように、100キロオーム・cmを超える粉体比抵抗を有する1種または複数の半導電性顔料と混合できる。顔料が、粉体として予混合されるか、または対応する割合でコーティング調製物に別々に添加されるかは、重要ではない。異なる粉体比抵抗の半導電性顔料の混合は、異なる表面抵抗を有する広範囲の誘電性コーティングが、わずかな顔料を使用する洗練された方法で達成されることを可能にする。
【0032】
特に好ましい実施形態において、場合によって薄片状の基材上に、使用される導電性層は、
− アンチモンドープ二酸化スズ、
− フッ素ドープ二酸化スズ、
− 塩素ドープ二酸化スズ、
− タングステンドープ二酸化スズ、
− モリブデンドープ二酸化スズ、
− アンチモンおよびチタンドープ二酸化スズ、
− アンチモンおよび鉄ドープ二酸化スズ、または
− アンチモンおよびリンドープ二酸化スズ
である。
【0033】
特に好ましいのは、アンチモンドープ酸化スズからなる導電性層である。この好ましい実施形態におけるスズ対ドーパント、特にアンチモンのモル比は、99.99:0.01〜97:3、特に99.8:0.2〜99:1である。
【0034】
半導電性顔料は、好ましくは、基材40〜80重量%および半導電性層20〜60重量%で構成され、ここで基材および半導電性層の合計が100重量%である。
【0035】
特に好ましいのは、雲母40〜80%およびドープされた二酸化スズ層20〜60重量%を含む半導電性顔料である。ここにおける二酸化スズの量は、使用される基材の比表面積に依存する。
【0036】
とりわけ好ましい顔料は、粒径<15μmを有し、顔料全体を基準として、一般的に35〜60重量%のドープされた二酸化スズでコーティングされた雲母薄片からなる。対照的に、雲母薄片が粒径<60μm、好ましくは10〜60μmを有する場合、顔料は、好ましくは、顔料全体を基準として、20〜40重量%の二酸化スズを含む。
【0037】
言及された粒径は、例えばMalvern Mastersizer2000を使用して測定される、レーザー回折を用いた体積加重測定(volume-weighted measurement)における、d
90のことである。特に好ましい顔料の平均粒径d
50は、2と8μmの間である。この種類の顔料は、硬化挙動(setting behaviour)、分散性および/またはコーティングの均一性に関して、適用(applications)における利点をしばしば示す。
【0038】
導電性層の層厚さは、好ましくは20〜70nm、特に30〜40nmである。
【0039】
誘電性またはさらなる半導電性の材料の薄い層による半導電性顔料のポストコーティングは、比較的高い抵抗の達成にとってしばしば有利である。
【0040】
特に好ましいのは、半導電性層へのTiO
2、ZnO、Al
2O
3、Cr
2O
3またはSiO
2の薄い層の適用である。その層厚さは、一般的に<0.1μm、好ましくは<0.05μmである。誘電性または半導電性の材料の量は、導電性層を基準として、好ましくは0.5〜5重量%である。
【0041】
特に好ましい半導電性顔料は、基材薄片上に以下の層構造
基材+(ドープされた)SnO
2
基材+(ドープされた)SnO
2+TiO
2
基材+(ドープされた)SnO
2+SiO
2
基材+(ドープされた)SnO
2+ZnO
基材+(ドープされた)SnO
2+Al
2O
3
基材+(ドープされた)SnO
2+Cr
2O
3
基材+SiO
2+(ドープされた)SnO
2
基材+TiO
2+(ドープされた)SnO
2
を有する。
【0042】
とりわけ好ましい半導電性顔料は、以下の構造
雲母薄片+(ドープされた)SnO
2
雲母薄片+(ドープされた)SnO
2+TiO
2
雲母薄片+(ドープされた)SnO
2+SiO
2
雲母薄片+(ドープされた)SnO
2+ZnO
雲母薄片+(ドープされた)SnO
2+Al
2O
3
Al
2O
3薄片+(ドープされた)SnO
2
Al
2O
3薄片+(ドープされた)SnO
2+TiO
2
Al
2O
3薄片+(ドープされた)SnO
2+SiO
2
Al
2O
3薄片+(ドープされた)SnO
2+ZnO
Al
2O
3薄片+(ドープされた)SnO
2+Al
2O
3
を有する。
【0043】
好ましい実施形態において、ドーピングは、酸化アンチモンを好ましくは含む。
【0044】
特に好ましい実施形態において、好ましくは雲母薄片、特に粒径<15μmを有する雲母薄片をベースとする、低抵抗半導電性顔料が使用される。とりわけ好ましいのは、基材を基準として、70重量%の導電性層、好ましくは二酸化スズで覆われている、粒径<15μmを有する雲母薄片であり、ここでこの導電性層は、導電性層を基準として、1重量%のアンチモンでドープされている。このようにして、電界強度200V/mmで、コーティングにおける表面比抵抗10
8オームおよび非線形係数(nonlinearity coefficient)アルファ4.5を有する低抵抗バリスタ顔料が得られる。
【0045】
高抵抗顔料は、粒径<15μmを有する雲母薄片から、好ましくはなる。とりわけ好ましいのは、最初に、基材を基準として70重量%の導電性層、好ましくは二酸化スズで覆われている、粒径<15μmを有する雲母薄片であり、この導電性層は、導電性層を基準として0.25重量%のアンチモンでドープされていて、引き続きTiO
2層を有し、このTiO
2含有量は、基材を基準として1.4重量%である。顔料含有コーティングの表面比抵抗は、10
12オームであり、非線形係数アルファは、4である。
【0046】
本出願において、低抵抗は、誘電性絶縁材料の抵抗に関連し、以下の通り定義される:
バインダーおよび顔料体積濃度(PVC)11〜20%の半導電性顔料からなるコーティングの表面比抵抗が、10
7〜10
9オーム・cmである。
【0047】
本出願において、高抵抗は、以下の通り定義される:
バインダーおよびPVC12〜20%の顔料からなるコーティングの表面比抵抗が、10
11〜10
13オーム・cmである。
【0048】
コーティングの層厚さは、10μmを超え、好ましくは20μmを超える。
【0049】
本発明によるコーティングまたは物品の製造にとって極めて重大であるのは、顔料の組成ではなく、むしろ、使用される顔料のまたは顔料混合物の粉体比抵抗である。コーティングは、例えば、薄いまたは厚い塗料層、印刷層または粉体コーティング層である。物品は、例えば、フィルム、テープ、プレート、巻かれたフィルムおよびテープ、例えば絶縁体ヘッド(insulator heads)などの成形物であるが、また塗装部品(painted parts)でもある。
【0050】
本発明はまた、センサーにおける、例えば平面接触センサー(flat contact sensor)における、例えば、電気特性を通じて認識される、身分証明書における隠れた機械可読型ストリップ(hidden machine-readable strips)などの保安用途(security applications)における、床敷物、フィルムのための、セラミック材料の、ガラスの、紙の、レーザーマーキングにおける、熱保護(thermal protection)における、光半導体における、および高電圧技術のための機能材料としての、本発明によるコーティングの使用に関する。本発明によるコーティングは、端面コロナシールディングシステム、特に回転電気機械におけるそのシステムの電気特性の特定の設定にとって、特に適切である。
【0051】
特に、導電率が電界強度によって増加する材料が、端面コロナシールディングのために使用される。材料の非線形導電率に対する特徴的な量は、電流密度/電界強度の特性線である。電流密度/電界強度の特性線は一般的にS字形を有し、S字形曲線の変曲点の領域の中に端面コロナシールディングの操作点を置くことが、試みられる。電流密度/電界強度の特性線が両対数でプロットされる場合、特性線は、変曲点の領域において本質的に直線であり、その傾きによって特徴付けられる。
【0052】
端面コロナシールディングは、従来、主絶縁材に付けられたテープまたは塗料によって形成され、このテープまたは塗料は、半導電性顔料が埋め込まれているポリマーマトリックスによって形成され、非線形指数(nonlinearity exponent)アルファと呼ばれる両対数でプロットされた電流密度/電界強度の特性線における増加は、約3.3である。ポリマーマトリックス中の顔料の粒径および粒子密度に依存して、導電性遷移(conductive transitions)が、粒子の接触点で起こり、電流路が端面コロナシールディング中に形成されることを可能にする。これらの電流路の種類および数は、重大なことに、端面コロナシールディングの電流密度/電界強度の特性線の位置または電気比抵抗を決定する。
【0053】
このようにして予め指定された望ましい材料の特性線は、半導電性顔料によって達成できる。この場合、顔料が、設計点において両対数でプロットされた電流密度/電界強度の特性線の傾きを決定する。
【0054】
本発明によるコーティングおよび物品の生成にとって極めて重大であるのは、上に述べた通り、半導電性顔料の組成ではなく、むしろ、顔料または顔料混合物の粉体比抵抗である。
【実施例】
【0055】
以下の例は、より詳細にではあるが、制限することなく、本発明を説明することを意図する。
【0056】
例
例1〜4
粒径<15μmを有する、粉砕され、分級された(classified)天然雲母100gを、脱イオン水1900ml中に懸濁する。50重量%SnCl
4水溶液、HClおよび35重量%SbCl
3水溶液を、撹拌しながら75℃で酸性条件下、懸濁液に滴加する。pHは、水酸化ナトリウム溶液の同時制御計量添加(simultaneous regulated metered addition)によって一定に保持する。全ての溶液を添加したら、混合物を、さらに30分間、75℃で撹拌し、その後、撹拌しながら室温まで冷却し、反応混合物を中和する。得られた顔料を、吸引フィルターによって濾過で取り出し、水で洗浄し、140℃で乾燥し、30分間、800℃でか焼して、アンチモン含有量(理論の約99%)に依存して淡い灰色から黄土色(ochre-yellow)の顔料粉体178gを得る。実験1〜4において、顔料の粉体抵抗は、表1に示す通り、酸化スズ中のアンチモン含有量の変動によって変わる。
【0057】
顔料粉体の比抵抗を測定するために、0.5〜3gの量の顔料を、内直径2cmを有するアクリルガラスチューブ中へ導入し、10kgの重しを用いて、2個の対向する金属ラムの間で加圧する。このようにして得られた、顔料のプレスされた円盤の電気抵抗Rを、2個の金属ラムへのオーム計の適用によって測定する。顔料の比抵抗ρを、顔料のプレスされた円盤の層厚さLおよび直径dならびに測定された抵抗Rから、式
ρ=[R・π・(d/2)
2]/L [オーム・cm]
にしたがって計算する。
【0058】
【表1】
【0059】
ニトロセルロースラッカーの調製
コロジウムウール(collodium wool)0.5kgを、酢酸n−ブチル2.1kgと酢酸エチル1.5kgの混合物中に溶解する。その後、酢酸エチル0.65kgおよびトルエン0.6kg中のAcronal700L 0.65kgの溶液を入れて撹拌する。その後、ラッカーの粘度を測定し、必要な場合、酢酸n−ブチル1.4部と酢酸エチル1部の混合物の添加によって、1.9と2.1Pa・sの間の値に調整する。
【0060】
例5:部分的に導電性の塗料フィルムの製造
異なる顔料体積濃度を有する塗料フィルムを、例1〜4の顔料(B1〜B4)によって製造する。この目的のために、顔料を、上に述べたニトロセルロースラッカー中に分散する。ガラスプレートを、チャンバードクターブレード(chambered doctor blade)付きのフィルム延伸機を使用して、結果として得られた塗料でコーティングする。乾燥フィルムの層厚さは、50μmである。異なる顔料体積濃度を有する塗料フィルムを、異なる量で顔料を分散させることによって、製造する。
【0061】
コーティングされたガラスプレートを、暗中、空気中で、大気湿度40%の条件で、乾燥させる。長さ10cmおよび間隔1cmの3対の電極を、BuschからのSilver Conductive Lacquer5900および銅箔を使用して、コーティングに付ける。電極の間の抵抗Roを、8時間、24時間および48時間後に、作動電圧1000Vで、Metriso5000D−PIテラオーム計を使用して測定する。10
7オーム未満の抵抗は、作動電圧100Vで測定する。
【0062】
表面比抵抗σは、式
σ=Ro・電極の長さ/電極の間隔[Ω]
にしたがって、計算する。
【0063】
表面比抵抗σに対する目標値は、1と1000ギガオームの間の範囲の中にある;層の組成における偏差からの抵抗の偏差は、できるだけ小さくあるべきである。
【0064】
結果は、表2に載せる。
【0065】
【表2】
【0066】
顔料体積濃度10%未満での実験は、顔料がいかなる粉体比抵抗を有するかに関わらず、全て所望の抵抗範囲を超える。系は、浸透閾値未満に位置する。
【0067】
より高い顔料体積濃度では、時間がたつにつれて抵抗における減少が観察される。これは、部分的に導電性の塗料フィルムから残留溶媒が蒸発した結果であり、溶媒残留物の蒸発に起因して上昇する顔料体積濃度のわずかな変化を結果としてもたらす。これらは、望まれる抵抗範囲1〜1000ギガオーム(10
9〜10
12オーム)の中での抵抗の変化を結果としてもたらす。粉体比抵抗<<100キロオームを有する顔料B1およびB2は、望まれる表面抵抗の範囲の中で10の約2乗のかなりの変化を示し、一方、顔料B3およびB4は、10の1乗程度の変化しか有さない。これは、本発明による組成物が、層の組成における変動に、顕著に影響を受けにくいことを示す。
【0068】
48時間後の、溶媒残留物の完全な蒸発の後で、比抵抗σの変化を、顔料体積濃度に応じて考察すれば、比較用の顔料B1およびB2を含む塗料フィルムの場合の抵抗は、10の6乗、減少し、一方、顔料B3およびB4を含む本発明による塗料フィルムの場合、抵抗は、10の1〜2乗しか低下しないことが明らかになる。この比較によって、本発明による調製物の場合、抵抗の顔料体積濃度依存性が非常に小さく、したがってはるかにより良好に抵抗を一定に設定および保持し得ることが、明らかになる。