特許第6372190号(P6372190)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6372190リチウムイオン二次電池及び非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6372190
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0587 20100101AFI20180806BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20180806BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20180806BHJP
   H01M 2/12 20060101ALI20180806BHJP
   H01M 2/36 20060101ALI20180806BHJP
   H01M 2/14 20060101ALI20180806BHJP
   H01M 2/06 20060101ALI20180806BHJP
   H01M 2/30 20060101ALI20180806BHJP
   H01M 2/02 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   H01M10/0587
   H01M10/0568
   H01M10/052
   H01M2/12 101
   H01M2/36 101A
   H01M2/14
   H01M2/06 F
   H01M2/30 B
   H01M2/02 F
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-129920(P2014-129920)
(22)【出願日】2014年6月25日
(65)【公開番号】特開2016-9607(P2016-9607A)
(43)【公開日】2016年1月18日
【審査請求日】2017年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130720
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼見 良貴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【弁理士】
【氏名又は名称】出山 匡
(74)【代理人】
【識別番号】100186819
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 俊尚
(72)【発明者】
【氏名】内田 雄輔
【審査官】 式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−068164(JP,A)
【文献】 特表2010−515216(JP,A)
【文献】 特表2002−508575(JP,A)
【文献】 特表2006−521678(JP,A)
【文献】 特開2009−199974(JP,A)
【文献】 特開2002−245998(JP,A)
【文献】 特開平09−092238(JP,A)
【文献】 特開2001−068163(JP,A)
【文献】 特開2000−100412(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/161302(WO,A1)
【文献】 特開2006−100135(JP,A)
【文献】 特開2002−015774(JP,A)
【文献】 特開平11−273649(JP,A)
【文献】 特開2012−204087(JP,A)
【文献】 特開2012−043564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 2/00− 2/08
H01M 2/12− 2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、セパレータ及び負極が捲回されて構成された極板群と、
少なくとも鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)を1種以上含む金属材料により形成され、前記極板群を収納する電池容器と、
前記正極の集電板と電気的に接続されて前記電池容器内に配置された集電体及び該集電体と電気的に接続されて前記電池容器の外に配置される端子部を備えて構成された正極出力端子と、
前記負極の集電板と電気的に接続されて前記電池容器内に配置された集電体と該集電体と電気的に接続されて前記電池容器の外に配置される端子部を備えた負極出力端子と、
前記極板群中に注入された六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を含む電解質とを備え、
前記正極出力端子及び前記負極出力端子が前記電池容器と電気的に絶縁されており且つ前記電池容器がアースに接続されていない状態にあり、
前記電池容器から溶出した金属イオンが前記極板群内で析出することを阻止するように、前記極板群の外周面が非イオン透過性材料からなる筒体によって覆われており、且つ前記極板群の両端部には非イオン透過性材料からなるキャップ部材が前記筒体と密着して重なるように嵌められており、
前記キャップ部材は、前記端子部が貫通する貫通孔と内圧が所定の圧力以上になると開裂する開裂部を備えて、前記集電体を覆う形状を有していることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
正極、セパレータ及び負極が捲回されて構成された極板群と、
前記極板群が収納される電池容器と、
前記正極の集電板と電気的に接続されて前記電池容器内に配置された集電体及び該集電体と電気的に接続されて前記電池容器の外に配置される端子部を備えて構成された正極出力端子と、
前記負極の集電板と電気的に接続されて前記電池容器内に配置された集電体と該集電体と電気的に接続されて前記電池容器の外に配置される端子部を備えた負極出力端子と、
前記極板群中に注入された非水電解質とを備え、
前記電池容器は、前記非水電解質と触れて所定の条件が整うと金属イオンを溶出する金属成分を含む金属材料により形成されており、
前記正極出力端子及び前記負極出力端子が前記電池容器と電気的に絶縁されており且つ前記電池容器がアースに接続されていない状態にあり、
前記電池容器から溶出した金属イオンが前記極板群内で析出することを阻止するように、前記極板群の外周面が非イオン透過性材料からなる筒体によって覆われており、且つ前記極板群の両端部には非イオン透過性材料からなるキャップ部材が前記筒体と密着して重なるように嵌められており、
前記キャップ部材は、前記端子部が貫通する貫通孔と内圧が所定の圧力以上になると開裂する開裂部を備えて、前記集電体を覆う形状を有していることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記非イオン透過性材料が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリイミド等の非イオン透過性樹脂材料である請求項2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記筒体を構成する前記非イオン透過性樹脂材料が熱収縮性を有している請求項3に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記開裂部は、他の部分よりも厚みが薄いことにより開裂機能を発揮するように構成されている請求項2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記電池容器内に位置する前記端子部にはオーリングが嵌合されており、
前記貫通孔の周囲には、前記オーリングの外側に位置してオーリングをバックアップするバックアップリングが一体に形成されている請求項2乃至5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記電池容器には注液部が設けられており、
前記キャップ部材には前記注液部に対応する位置に注液口が形成されている請求項2乃至5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極、セパレータ及び負極が捲回されて構成された極板群が電池容器内に収納されてなるリチウムイオン二次電池及び非水電解質二次電池に関し、特に電池容器がステンレス製で、且つ正極及び負極のいずれとも電気的に絶縁されている大容量タイプのリチウムイオン二次電池及び非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池には正極、セパレータ及び負極が捲回されて筒状の電池容器に収納されてなる円筒形タイプがあり、さらに電池容器には有底筒状のアルミニウム製で容器と負極とが電気的に接続されたものと、両端とも少なくとも一部が開口した筒状のステンレス製で何れの端子とも電気的に絶縁されているものとに大別される。ステンレス製の電池容器は、主として例えば75Ahのような30Ah以上の大容量の電池に適用される。大容量の電池はサイズ及び重量が大きく、安全規格に適合する耐久性を達成するために、電池容器をアルミニウム製にすると必要な強度を得るには肉厚になりすぎて電池の体積、重量及びコストの面で著しく不利になる。そのため主としてステンレス製の電池容器が採用されている。このような電池の構成は、特開2010−205545号公報に開示されている〔特開2010−205545公報の図1(特許文献1)〕。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−205545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池の容量が減少する要因の一つとして、電池内で正極と負極とが短絡する、いわゆる微小短絡があることはよく知られている。微小短絡は、極板から溶出した金属が析出して正極と負極を短絡させることによって生ずる。
【0005】
本発明の目的は、電池の容量の減少の原因となる電池内における金属の析出の一因を解消することのできるリチウムイオン二次電池及び非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、金属の析出により微小短絡を起こした電池について鋭意研究した結果、析出した金属に、本来電池内には理論的に存在しない量の、電池容器を構成する金属(ステンレス:鉄、クロム、ニッケル)が含まれている場合があることを見出した。しかしながらステンレス製の電池容器は、電池容器と極板群や端子と直接接触しておらず、両者間に絶縁シートや絶縁フィルムや絶縁ワッシャのような絶縁体または空間を介在させることにより、電池容器と極板群とは電気的に絶縁されている。そのため、設計上は電池容器から金属イオンが溶出して極板群内に金属イオンが浸入することは通常考えにくい。しかしながら、現実に鉄やクロムやニッケルが極板に析出することによる微小短絡が生じていた。さらに、容量が低下したいずれの電池にも溶出した金属が絶縁フィルム等の絶縁材そのものを透過した形跡はなかった。このことから、電解質の漏出や組み立て作業の不備等が原因で電池容器が電位を持ち、電位によって電池容器が溶出し、電池容器から溶出した金属イオンが、絶縁体に覆われていない極板群の外周部から極板群内に浸入し、極板群内に浸入した金属イオンが一方の極板に析出し、他方の極板に向かって成長して、両極板を短絡させたものと推定される。
【0007】
そこで本発明者らは、上記のような金属の析出を防止するためには、電池容器が電位を持ったとしても極板群の端部周辺から電池容器に非水電解質が到達することをできるだけ阻止することを考えて本発明を完成した。
【0008】
本発明が改良の対象とする非水電解質二次電池は、正極、セパレータ及び負極が捲回されて構成された極板群と、極板群が収納される電池容器と、正極の集電板と電気的に接続されて電池容器内に配置された集電体及び該集電体と電気的に接続されて電池容器の外に配置される端子部を備えて構成された正極出力端子と、負極の集電板と電気的に接続されて電池容器内に配置された集電体と該集電体と電気的に接続されて前記容器の外に配置される端子部を備えた負極出力端子と電池容器に注入され極板郡中に含浸している非水電解質とを備えている。電池容器は、非水電解質と触れ、且つ、電位がある状態において、適当な酸化雰囲気条件下で金属イオンを溶出する金属材料により形成されている。非水電解質二次電池がリチウムイオン二次電池の場合には、電池容器は少なくとも鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)を1種以上含む金属材料により形成したものを用いることができる。また非水電解質としては、極板群中に注入された六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を含む電解質を用いることができる。少なくとも鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)を含む金属材料とは典型的にはステンレスだが、各成分の比率が異なるために、例えば日本工業規格に準拠するステンレスの定義から外れるような金属材料も含まれる。またステンレス等には少なくとも鉄・クロム・ニッケルのうちの1種以上を含むニッケルメッキ等の表面処理が施されていてもよい。
【0009】
正極出力端子及び負極出力端子は電池容器と電気的に絶縁されている。すなわち各端子と電池容器とは電気的に接続されておらず、相互の間には空間または絶縁体が介在している。そして電池容器はアースに接続されていない状態、すなわち電気的に浮いた状態になる。この状態であれば、電池容器が電位を持つことがない。しかしながら電解質の漏出や、組み立て不良等が原因となって電池缶が正極と電気的に接続した状態になると、電池容器から金属イオンが溶出する。
【0010】
本発明では、電池容器から溶出した金属イオンが極板群内で析出することを阻止するために、極板群の外周面が非イオン透過性材料からなる筒体によって覆われており、且つ極板群の両端部には非イオン透過性材料からなるキャップ部材が筒体と密着して重なるように嵌められている。キャップ部材は、端子部が貫通する貫通孔と内圧が所定の圧力以上になると開裂する開裂部を備えて、集電体を覆う形状を有している。
【0011】
筒体を構成する非イオン透過性材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリイミド等が好ましく、望ましくはポリ塩化ビニルのような熱収縮性を有する材料である。筒体は、例えばポリ塩化ビニル製の筒状の絶縁フィルムを極板群の外周面に被せて加熱し、熱収縮させて極板群の外周面を覆うことにより構成される。その他の筒体は、例えば片面に接着剤が塗布された非イオン透過性材料からなる絶縁フィルムを極板群の外周面に巻き付けて構成することができる。
【0012】
キャップ部材を構成する非イオン透過性材料もポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリイミド等が好適に使用可能である。筒体との密着は、超音波溶着等の適宜の接合技術を用いることが可能になる。また接合に接着剤を利用する場合には、筒体とキャップ部材とを同じ材料で作れば、相性の良い接着剤を選択することができ、良好な密着を得られる。なお選択される接着剤も非イオン透過性を有することが好ましい。
【0013】
キャップ部材は、端子部が貫通する貫通孔を有し、集電体を覆う形状をしている。端子部は筒状の電池と軸線を共通にして電池の両端面から突出しているので、キャップ部材は電池の外周から中心近くの貫通孔まで集電体を覆う。本発明によれば、筒体とキャップ部材により、電解質が電池容器に接触することを防止することができる。そのため電池容器が仮に電位を持ったとしても、電池容器から金属が溶出することはない。
【0014】
またキャップ部材は内圧が所定の圧力以上になると開裂する開裂部を備えている。過充放電等が原因で電池内の内圧が異常に高まった場合に、開裂部が開裂してガスを外部に放出するためのものであり、キャップ部材よりも極板群寄りに配置されている。電池蓋に同様の目的で設けられた開裂型安全弁より低い圧力で開裂するように設計されていることが好ましい。開裂部は、他の部分よりも厚みが薄いことにより開裂機能を発揮するように構成されていてもよい。
【0015】
電池容器内に位置する端子部にはオーリングが嵌合されており、貫通孔の周囲には、オーリングの外側に位置してオーリングをバックアップするバックアップリングが一体に形成されていてもよい。オーリングとバックアップリングとを備えることにより、端子部の露出した部分と電池容器内に位置する部分との間の液密性をより高めることができる。バックアップリングをキャップ部材と一体に形成することで部品数を減らし、組立作業も簡略化される。
【0016】
電池容器には注液部が設けられており、キャップ部材には注液部に対応する位置に注液口が形成されていてもよい。電池の組立工程においては最後に電池内に電解液が注液されることが一般的だが、キャップ部材に注液口を形成することにより、支障なく電池の組立を行うことができる。
【0017】
本発明は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を電解質とするリチウムイオン二次電池だけでなく、その他の電解質、例えばLiBF4、LiBOB、LiFePO4、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2等のリチウム塩を電解質とするリチウムイオン二次電池、さらには現在実用され、あるいは将来開発されて実用されるリチウムイオン二次電池以外の非水電解質二次電池等にも適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の本実施の形態のリチウムイオン二次電池の正極出力端子側の半部の断面図を示す図である。
図2】(A)は本実施例で用いる電池本体の構成を示すために軸芯の主要部分と正極集電構造及び負極集電構造の部分を断面にして示した概略図であり、(B)は図2(A)の電池本体14の右側面図であり、(C)は図2(A)の電池本体の左側面図である。
図3】(A)は正極側キャップ部材の平面図であり、(B)は図3(A)のB−B断面図であり、(C)は図3(A)のC−C断面図である。
図4】(A)は負極側キャップ部材の平面図であり、(B)は図4(A)のB−B断面図であり、(C)は図4(A)のC−C断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の非水電解質二次電池の実施の形態の一例について説明する。なお本実施の形態は、本発明を円筒形のリチウムイオン二次電池に適用したものである。図1は、本実施の形態のリチウムイオン二次電池1の正極出力端子側の半部の断面図を示している。図2(A)は、本実施例で用いる電池本体14の構成を示すために軸芯3の主要部分と正極集電構造及び負極集電構造の部分を断面にして示した概略図であり、図2(B)は図2(A)の電池本体14の右側面図であり、図2(C)は図2(A)の電池本体14の左側面図である。このリチウムイオン二次電池1は、後に詳しく説明するが、電池1の中心軸に沿って延びる円筒形の軸芯3と、軸芯3を中心にして帯状の正極、帯状のセパレータ及び帯状の負極を重ねた積層体を捲回して構成された極板群5と、極板群5のうち正極の一つの辺から延びる複数のタブが溶接により接続された集電体7及びこの集電体7の中央部から突出する端子部8を備えた正極出力端子6と、極板群5及び集電体7の外周面を覆う後述する絶縁フィルムから形成された筒体9と、集電体7に被せられて筒体9の端部と密着するキャップ部材11とからなる電池本体14を備えている。なおキャップ部材11は、透明なものとして図示してある。電池本体14が電池容器16に収納される前に、電池本体14の集電体7の中央部から延びる端子部8には絶縁リング15が嵌合される。電池容器16は、筒状の容器本体17と、容器本体17の両端の開口部を塞ぐ蓋部19とから構成されている。蓋部19の上に配置されて端子部8に嵌められる絶縁ワッシャ21と、端子部8に螺合されるナット23とを備えている。なお負極出力端子側の構造も実質的に同じ構造になっているので、図2(A)には、正極出力端子6側の構造に付した符号にダッシュを付した符号を付して基本的な説明を省略する。以下各部材を詳しく説明する。
【0020】
軸芯3は、ポリプロピレン等の絶縁樹脂により成形されている。極板群5は正極、セパレータ及び負極(何れも図示していない)が捲回されて構成されている。正極はマンガン酸リチウム(LiMn2O4)を含む正極用活物質をアルミニウム箔に塗布して構成されている。セパレータは多孔質のポリエチレンフィルム製である。負極は銅箔に黒鉛粉末を含む負極用活物質を塗布して構成されている。
【0021】
正極出力端子6は、集電体7と、端子部8とがアルミニウムによって一体に成形されて構成されている。集電体7は、軸線方向に延びる端子部8と、端子部8の一端に設けられて、極板群5とほぼ同じ半径近くになるまで延ばすことができる鍔部7Aを備えている。鍔部7Aの厚みの薄い環状部分7Bには、軸線方向に貫通する12個の貫通孔7Cが形成されている。12個の貫通孔7Cは、同間隔で(隣り合う孔が軸線を中心に相互に30°ずつずれて)設けられている。そして環状部分7Bの径方向外側には軸線方向にのびる環状の周壁部7Dを備えている。また本実施の形態では、端子部8が軸芯3の内部に嵌合される嵌合部8Aを備えている。鍔部7Aの周壁部7Dには、正極から延びる複数のタブが溶接されることにより、正極と集電体7とが電気的に接続される。12個の貫通孔7Cは、蓋部19を取り付けた後に電解質を極板群5中に注液するために設けられている。そして1つの貫通孔7Cには、回り止めピンが挿入される。
【0022】
図1に示すように、端子部8には蓋部19の外に突出して配置される部分にネジ部が形成されている、そしてワッシャ21とナット23がネジ部に螺合される。
【0023】
極板群5の外周面を囲む筒体9は、非イオン透過性のポリ塩化ビニル製である。筒体9は、両端が開口した袋状のポリ塩化ビニル製フィルムを、極板群5及び集電体7の鍔部7Aの周壁部7Dの外周面を覆うように配置した後、加熱して熱収縮させて極板群5及び集電体7の外周面に密着させることにより形成されている。またポリ塩化ビニル製フィルムを極板群5の周囲に複数回捲回し、フィルムの最後の部分を溶着や接着剤によりその下のフィルムと接合するようにして、筒体9を形成するようにしてもよく、またフィルムの最後の部分をテープで固定するようにしてもよい。
【0024】
正極側キャップ部材11(及び負極側キャップ部材11´)は非イオン透過性のポリ塩化ビニル製の一体成形品であり、筒体9と密着して重なるように嵌められている。なお正極側キャップ部材11(及び負極側キャップ部材11´)は、切削加工品や3D造形等でもよく、その製法は問わない。
【0025】
図3に示すように、正極側キャップ部材11には、端子部8が貫通する貫通孔11Aから外周縁まで延びる円盤状部分11Bに、軸線を中心として120°ずつ相互にずれた位置に、開裂部29、注液口31及びピン差込口33がそれぞれ形成されている。貫通孔11Aの周囲には軸線方向に突出する環状の突出部11Cが一体に設けられている。この環状の突出部11Cが、オーリング41(図1)のバックアップリングを構成している。円板状部分11Bの外周部には突出部11Cが延びる方向とは逆方向に延びる周壁部11Dが一体に形成されている。
【0026】
内圧が所定の圧力以上になると、開裂部29と外側の開裂弁とはほとんど同時に開いて電池内部のガスを逃がす。図3(B)に示すように、開裂機能を発揮するために開裂部29は、他の箇所よりも厚さtが薄く形成されている。例えば円盤状部11Bの他の箇所の厚みが1.5mmであるのに対し、開裂部29の厚さtは0.2mmである。
【0027】
注液口31は、蓋部19の注液口20と軸線方向に重なった位置に配置され、蓋部19の取り付け後に電解質を注液するために使用される。注液が終了すると蓋部19の注液口20にはネジ部材22が螺合され、蓋部19の注液口20と一緒に、その軸線方向に重なっている正極側キャップ部材11の注液口31も塞がれて、電池内部の液密化が図られる。ネジ部材22は金属製である。
【0028】
ピン差込口33には蓋部19が取り付けられた後、蓋部19の外側から非イオン透過性の合成樹脂の筒部材が嵌合された金属製のピン(図示していない)が差し込まれる。ピンは、ピン差込口33を通過して、集電体7の鍔部7Aに設けられた貫通孔7Cの一つにぴったり嵌まり込むことにより、蓋部19が集電体7に対して回動しないように固定される。蓋部19の注液口20、正極側キャップ部材11の注液口31の位置関係と、蓋部19の開裂弁(図示しない)及び正極側キャップ部材11の開裂部29との相互の位置関係が正確に決められる。また周壁部11Dは、集電体7の鍔部7Aの周壁部7Dの外側に嵌合されて、周壁部7Dとの間に筒体9の端部をきつく挟むために、周壁部7Dの外周面の直径寸法よりも、周壁部11Dの内周面の直径寸法は、僅かに小さく設定されている。そのため周壁部11Dが周壁部7Dに嵌合されるときに、キャップ部材11の周壁部11Dは径方向外側に少し広がった状態で、集電体7の周壁部7Dに嵌合される。図4には負極側キャップ部材11´が示されている。負極側キャップ部材11´も正極側キャップ部材11と同様の機能を有するピン差込口33´、開裂部29´、バックアップリングを構成する環状の突出部11´Cを有するが、注液口は備えていない。負極側キャップ部材11´は、注液口のない点を除いて、正極側キャップ部材11と同じ作用を奏するので、説明を省略する。
【0029】
正極側キャップ部材11の貫通孔11Aの中に露出している集電体7の部分上には、端子部8にぴったり嵌められて、蓋部19の中心孔19Aの内周面と端子部8とを絶縁する絶縁リング15が配置されている。絶縁リング15の外周面と正極側キャップ部材11のバックアップリングを構成する突出部11Cの内周面との間のリング状の空隙には、オーリング41が配置される。オーリング41はゴム製であり、端子部8に沿って電解質が蓋部19の外面側へ漏出することを防ぐ。バックアップリングを構成する突出部11Cはオーリング41が押し潰されてその機能が発揮できなくなることを防止する。
【0030】
容器本体17は鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)を含むステンレス製であり、極板群5を収納するように、オーリング41及びバックアップリング(11C)までの組立が終わった電池が、その中に差し込まれる。
【0031】
容器本体17の両端の開口部は、蓋部19により、端子部8の突出した部分を除いて塞がれている。容器本体17と蓋部19とは同じステンレス製であり、容器本体17の端縁に蓋部19の周縁を溶接することにより両者は結合され、一体の電池容器を構成する。蓋部19の裏面には図示しないピンが固定されていて、正極側キャップ部材11のピン差込口33を通過して、集電体7の貫通孔7Cの一つに嵌まって、相互の位置決めがなされる。負極側も同様である。蓋部19の左側面である内面は、絶縁リング15の右側面と当接している。
【0032】
蓋部19を軸線方向に貫通する注液口20からは、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を含む電解質が注液される。注液後、注液口20は、正極側キャップ部材11の注液口31とともに、ボルト22によって閉塞され、外部との気密(液密)が完成する。
【0033】
図1より明らかなように、容器本体17及び蓋部19からなる電池容器と、集電体7との間には、筒体9、正極側キャップ部材11、絶縁リング15及び絶縁ワッシャ21が介在しており、これは負極側も同様である。従って電池容器と集電体7とは電気的に絶縁されている。
【0034】
以上のように構成された本実施の形態では、電池容器16から溶出した金属イオンが極板群5内で析出することを阻止するように、極板群5の外周面が筒状の筒体9によって覆われており、且つ極板群5の両端部にはポリ塩化ビニル製の正極側キャップ部材11及び負極側キャップ部材11´が筒体9と密着して重なるように嵌められている。そのため基本的には、電解質が電池容器16に触れることはない。なお一部の電解質が電池容器16内に漏れ出ても、リチウムイオン二次電池1は通常、軸線が水平方向に延びる横置き姿勢で使用されるため、仮に少量の電解質が集電体7を抜けて正極側キャップ部材11の内側まで達したとしても、重力に引かれてキャップ部材と筒体とが密着しているキャップ部材の周縁近くの最下部に溜まるのみであり、重力に逆らって蓋部19の貫通孔にまで達することは考え難い。
【0035】
よって本実施の形態のリチウムイオン二次電池1においては、電解質が電池容器に接触することを防止できる。
【0036】
なお実施の形態は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を電解質とするリチウムイオン二次電池について説明したが、本発明はその他の電解質、例えばLiBOB、LiFePO4、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2等のリチウム塩を電解質とするリチウムイオン二次電池、さらには現在実用され、あるいは将来開発されて実用されるリチウムイオン二次電池以外の非水電解質二次電池、例えばニッケル水素電池等にも適用され得るのはもちろんのことである。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によると、極板群内で正極と負極とが短絡する、いわゆる微小短絡が、電池容器からの金属イオンの溶出によって引き起こされることを防止し、これにより電池の容量の低下の生ずる可能性を減少させ、よって電池の寿命を延ばすことができる。
【符号の説明】
【0038】
1 リチウムイオン二次電池
3 軸芯
5 極板群
7 集電体
9 絶縁フィルム
11 正極側キャップ部材
11´ 負極側キャップ部材
13 端子
15 絶縁リング
17 筒部
19 蓋部
20 注液口
21 絶縁パッキン
22 ネジ部材
23 ナット
7A 鍔部
29 開裂部
31 注液口
33 ピン差込口
41 オーリング
図1
図2
図3
図4