特許第6372273号(P6372273)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6372273電気化学素子電極用複合粒子、電気化学素子電極、電気化学素子、電気化学素子電極用複合粒子の製造方法及び電気化学素子電極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6372273
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】電気化学素子電極用複合粒子、電気化学素子電極、電気化学素子、電気化学素子電極用複合粒子の製造方法及び電気化学素子電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20180806BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20180806BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20180806BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20180806BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20180806BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20180806BHJP
   H01G 11/24 20130101ALI20180806BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M4/36 A
   H01M4/02 Z
   H01M4/04 Z
   H01G11/38
   H01G11/86
   H01G11/24
【請求項の数】10
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-188434(P2014-188434)
(22)【出願日】2014年9月17日
(65)【公開番号】特開2016-29629(P2016-29629A)
(43)【公開日】2016年3月3日
【審査請求日】2017年4月21日
(31)【優先権主張番号】特願2014-148978(P2014-148978)
(32)【優先日】2014年7月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】石井 琢也
(72)【発明者】
【氏名】片岡 佳代子
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/109641(WO,A1)
【文献】 特開平11−031500(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/024327(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/165422(WO,A1)
【文献】 特表2015−501279(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/013434(WO,A1)
【文献】 特表2015−509269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62、4/02、4/04、4/36
H01G 11/24、11/38、11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質、結着樹脂を含んでなるスラリーを噴霧凝固することによって得られる電気化学素子電極用複合粒子であって、レーザー光回折法を用いた粒子径測定により得られる個数換算の粒子径分布において40μm以下の粒子が全体の50%以下であり、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、バリウム塩、銅塩、アンモニウムミョウバン、鉄塩から選ばれる少なくとも1種の多価金属塩を300〜2000ppm含有する電気化学素子電極用複合粒子。
【請求項2】
レーザー光回折法を用いた粒子径測定により得られる体積換算の粒子径分布において累積95%径(D95径)が300μm以下である請求項1記載の電気化学素子電極用複合粒子。
【請求項3】
請求項1または2記載の電気化学素子電極用複合粒子の短軸径をls、長軸径をll、la=(ls+ll)/2としたとき、(ll−ls)×100/laで表される球形度(%)が15%以下である電気化学素子電極用複合粒子。
【請求項4】
前記結着樹脂は粒子状であり、さらに前記スラリーは水溶性高分子を含む請求項1〜3のいずれかに記載の電気化学素子電極用複合粒子。
【請求項5】
前記水溶性高分子が、アルギン酸、水溶性アルギン酸誘導体、セルロース系高分子、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸誘導体、ポリスルホン酸系ポリマー、ポリアクリルアミド、寒天、ゼラチン、カラギーナン、グルコマンナン、ペクチン、カードラン及びジェランガムのうちの少なくとも1種を含む請求項4記載の電気化学素子電極用複合粒子。
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載の電気化学素子電極用複合粒子を含んでなる電極活物質層を集電体上に積層してなることを特徴とする電気化学素子電極。
【請求項7】
請求項6に記載の電気化学素子電極を備える電気化学素子。
【請求項8】
請求項1〜のいずれかに記載の電気化学素子電極用複合粒子を製造するための電気化学素子電極用複合粒子の製造方法であって、
前記電極活物質、および前記結着樹脂を含んでなるスラリーを得る工程と、
前記スラリーを噴霧し液滴を生成する工程と、
前記液滴を凝固させる工程と
を有する電気化学素子電極用複合粒子の製造方法。
【請求項9】
前記スラリーを噴霧し液滴を生成する工程における、噴霧時のスラリーの粘度が、せん断速度100s-1のときに1000mPa・s以下である、請求項記載の電気化学素子電極用複合粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項記載の電気化学素子電極を製造するための電気化学素子電極の製造方法であって、
前記電極活物質層は、前記電気化学素子電極用複合粒子を含む電極材料を前記集電体上に加圧成形することにより得られる電気化学素子電極の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子電極用複合粒子、この電気化学素子電極用複合粒子を用いた電気化学素子電極及び電気化学素子、並びに上記電気化学素子電極用複合粒子の製造方法及び上記電気化学素子電極の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
小型で軽量であり、エネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能な特性を活かして、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ及びリチウムイオンキャパシタなどの電気化学素子は、その需要を急速に拡大している。リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が比較的大きいことから、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータなどのモバイル分野で利用されている。一方、電気二重層キャパシタは急速な充放電が可能なので、パーソナルコンピュータ等のメモリーバックアップ小型電源として利用されている他、電気二重層キャパシタは電気自動車等の補助電源としての応用が期待されている。さらに、リチウムイオン二次電池と電気二重層キャパシタの長所を生かしたリチウムイオンキャパシタは、電気二重層キャパシタよりエネルギー密度、出力密度ともに高いことから電気二重層キャパシタが適用される用途、および電気二重層キャパシタの性能では仕様を満たせなかった用途への適用が検討されている。これらのうち、特に、リチウムイオン二次電池では近年ハイブリッド電気自動車、電気自動車などの車載用途のみならず、電力貯蔵用途にまでその応用が検討されている。
【0003】
これら電気化学素子への期待が高まる一方で、これら電気化学素子には、用途の拡大や発展に伴い、低抵抗化、高容量化、機械的特性や生産性の向上など、より一層の改善が求められている。このような状況において、電気化学素子用電極に関してもより生産性の高い製造方法が求められている。
【0004】
電気化学素子用電極は、通常、電極活物質と、必要に応じて用いられる導電材とを結着樹脂で結着することにより形成された電極活物質層を集電体上に積層してなるものである。電気化学素子用電極には、電極活物質、結着樹脂、導電材等を含む塗布電極用スラリーを集電体上に塗布し、溶剤を熱などにより除去する方法で製造される塗布電極があるが、結着樹脂などのマイグレーションにより、均一な電気化学素子の製造が困難であった。また、この方法はコスト高で作業環境が悪くなり、また、製造装置が大きくなる傾向があった。
【0005】
それに対して、複合粒子を得て粉体成形することにより均一な電極活物質層を有する電気化学素子を得ることが提案されている。このような電極活物質層を形成する方法として、例えば特許文献1には、電極活物質、結着樹脂及び分散媒を含む複合粒子用スラリーを噴霧、乾燥することにより複合粒子を得て、この複合粒子を用いてプレス成形等の乾式成形を行うことにより電極活物質層を形成する方法が開示されている。
【0006】
ところで、近年高出力用の電気化学素子(電池)においては、電極活物質層を形成する際に複合粒子の目付け量を低目付け量とした低目付電極が求められている。この場合に加圧成形装置に少量の複合粒子を安定的に定量供給することが求められる。しかし、噴霧乾燥により得られる複合粒子は成形ロール等の加圧成形部に対して複合粒子を定量供給するための定量フィーダーのホッパー内、あるいは複合粒子製造過程における複合粒子梱包工程の定量フィーダーのホッパー内において時折ブリッジ、ラットホールといった種々のホッパートラブルを起こす恐れがあるため、低目付で厚み精度の高い電極を作製することが困難であった。
また、上記の噴霧乾燥では噴霧した液滴が乾燥する前に噴霧乾燥器の壁面に付着する場合があり、高い収率で複合粒子を回収することが困難な場合があった。
【0007】
また、特許文献2においては、電気二重層キャパシタのバインダーとしてアルギン酸を使用し、アルギン酸をゲル化させることでバインダーの溶出を抑えている。また、特許文献3においては、アルギン酸を分散剤として用い、凝固させることにより造粒することが記載されている。
【0008】
しかし、特許文献2においては、アルギン酸のみをバインダーとして用いているため、強度が不十分であり、柔軟性が低かった。また、特許文献3において造粒される粒子は、粗粉が多く含まれ、特許文献3の方法により電気化学素子電極用の複合粒子を造粒しても、低目付で厚み精度の高い電極を作製することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許4929792号公報
【特許文献2】特開昭63−181307号公報
【特許文献3】特許5185534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、低目付で厚み精度の高い電極を作製することができる電気化学素子電極用複合粒子、この電気化学素子電極用複合粒子を用いた電気化学素子電極及び電気化学素子を提供すること、並びに上記電気化学素子電極用複合粒子の製造方法及び上記電気化学素子電極の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討の結果、所定の粒子径以下の複合粒子の数を減らすことにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明によれば、
(1) 電極活物質、結着樹脂を含んでなるスラリーを噴霧凝固することによって得られる電気化学素子電極用複合粒子であって、レーザー光回折法を用いた粒子径測定により得られる個数換算の粒子径分布において40μm以下の粒子が全体の50%以下である電気化学素子電極用複合粒子、
(2) レーザー光回折法を用いた粒子径測定により得られる体積換算の粒子径分布において累積95%径(D95径)が300μm以下である(1)記載の電気化学素子電極用複合粒子、
(3) (1)または(2)記載の電気化学素子電極用複合粒子の短軸径をls、長軸径をll、la=(ls+ll)/2としたとき、(ll−ls)×100/laで表される球形度(%)が15%以下である電気化学素子電極用複合粒子、
(4) 前記結着樹脂は粒子状であり、さらに前記スラリーは水溶性高分子を含む(1)〜(3)のいずれかに記載の電気化学素子電極用複合粒子、
(5) 前記水溶性高分子が、アルギン酸、水溶性アルギン酸誘導体、セルロース系高分子、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸誘導体、ポリスルホン酸系ポリマー、ポリアクリルアミド、寒天、ゼラチン、カラギーナン、グルコマンナン、ペクチン、カードラン及びジェランガムのうちの少なくとも1種を含む(4)記載の電気化学素子電極用複合粒子、
(6) カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、バリウム塩、銅塩、アンモニウムミョウバン、鉄塩から選ばれる少なくとも1種の多価金属塩を300〜2000ppm含有する(1)〜(5)のいずれかに記載の電気化学素子電極用複合粒子、
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の電気化学素子電極用複合粒子を含んでなる電極活物質層を集電体上に積層してなることを特徴とする電気化学素子電極、
(8) (7)に記載の電気化学素子電極を備える電気化学素子、
(9) (1)〜(6)のいずれかに記載の電気化学素子電極用複合粒子を製造するための電気化学素子電極用複合粒子の製造方法であって、前記電極活物質、および前記結着樹脂を含んでなるスラリーを得る工程と、前記スラリーを噴霧し液滴を生成する工程と、前記液滴を凝固させる工程とを有する電気化学素子電極用複合粒子の製造方法、
(10) 前記スラリーを噴霧し液滴を生成する工程における、噴霧時のスラリーの粘度が、せん断速度100s-1のときに1000mPa・s以下である、(9)記載の電気化学素子電極用複合粒子の製造方法、
(11) (7)記載の電気化学素子電極を製造するための電気化学素子電極の製造方法であって、前記電極活物質層は、前記電気化学素子電極用複合粒子を含む電極材料を前記集電体上に加圧成形することにより得られる電気化学素子電極の製造方法
が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電気化学素子電極用複合粒子及び電気化学素子電極用複合粒子の製造方法によれば、低目付で厚み精度の高い電極を作製することができる。また、低目付で厚み精度の高い電気化学素子電極及び電気化学素子電極の製造方法を提供することができる。また、この電気化学素子電極を用いた電気化学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に用いるロール加圧成形装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の電気化学素子電極用複合粒子について説明する。本発明の電気化学素子電極用複合粒子(以下、「複合粒子」ということがある。)は、電極活物質、結着樹脂を含んでなるスラリーを噴霧凝固することによって得られる電気化学素子電極用複合粒子であって、レーザー光回折法を用いた粒子径測定により得られる個数換算の粒子径分布において40μm以下の粒子が全体の50%以下である。
【0016】
なお、以下において、「正極活物質」とは正極用の電極活物質を意味し、「負極活物質」とは負極用の電極活物質を意味する。また、「正極活物質層」とは正極に設けられる電極活物質層を意味し、「負極活物質層」とは負極に設けられる電極活物質層を意味する。
【0017】
(電極活物質)
電気化学素子がリチウムイオン二次電池である場合の正極活物質としては、リチウムイオンをドープ及び脱ドープ可能な活物質が用いられ、無機化合物からなるものと有機化合物からなるものとに大別される。
【0018】
無機化合物からなる正極活物質としては、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、リチウムと遷移金属とのリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。上記の遷移金属としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo等が使用される。
【0019】
遷移金属酸化物としては、MnO、MnO2、V25、V613、TiO2、Cu223、非晶質V2O−P25、MoO3、V25、V613等が挙げられ、中でもサイクル安定性と容量からMnO、V25、V613、TiO2が好ましい。遷移金属硫化物としては、TiS2、TiS3、非晶質MoS2、FeS等が挙げられる。リチウム含有複合金属酸化物としては、層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、スピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。
【0020】
層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としてはリチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO2)、Co−Ni−Mnのリチウム複合酸化物、Ni−Mn−Alのリチウム複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム複合酸化物等が挙げられる。スピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としてはマンガン酸リチウム(LiMn24)やMnの一部を他の遷移金属で置換したLi[Mn3/21/2]O4(ここでMは、Cr、Fe、Co、Ni、Cu等)等が挙げられる。オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としてはLiXMPO4(式中、Mは、Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Mg,Zn,V,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Si,B及びMoから選ばれる少なくとも1種、0≦X≦2)であらわされるオリビン型燐酸リチウム化合物が挙げられる。
【0021】
有機化合物としては、例えば、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性高分子を用いることもできる。電気伝導性に乏しい、鉄系酸化物は、還元焼成時に炭素源物質を存在させることで、炭素材料で覆われた正極活物質として用いてもよい。また、これら化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。正極活物質は、上記の無機化合物と有機化合物の混合物であってもよい。
【0022】
電気化学素子がリチウムイオンキャパシタである場合の正極活物質としては、リチウムイオンと、例えばテトラフルオロボレートのようなアニオンとを可逆的に担持できるものであればよい。具体的には、炭素の同素体を好ましく用いることができ、電気二重層キャパシタで用いられる電極活物質が広く使用できる。炭素の同素体の具体例としては、活性炭、ポリアセン(PAS)、カーボンウィスカ、カーボンナノチューブ及びグラファイト等が挙げられる。
【0023】
また、電気化学素子がリチウムイオン二次電池である場合の負極活物質としては電気化学素子の負極において電子の受け渡しをできる物質が挙げられる。電気化学素子がリチウムイオン二次電池である場合の負極活物質としては、通常、リチウムを吸蔵及び放出できる物質を用いることができる。
【0024】
リチウムイオン二次電池に好ましく用いられる負極活物質の例としては、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ピッチ系炭素繊維等の炭素質材料;ポリアセン等の導電性高分子;ケイ素、錫、亜鉛、マンガン、鉄、ニッケル等の金属又はこれらの合金;前記金属又は合金の酸化物又は硫酸塩;金属リチウム;Li−Al、Li−Bi−Cd、Li−Sn−Cd等のリチウム合金;リチウム遷移金属窒化物;シリコン等が挙げられる。また、負極活物質として、当該負極活物質の粒子の表面に、例えば機械的改質法によって導電材を付着させたものを用いてもよい。また、負極活物質は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0025】
また、電気化学素子がリチウムイオンキャパシタである場合に好ましく用いられる負極活物質としては、上記炭素で形成された負極活物質が挙げられる。
【0026】
電極活物質層における電極活物質の含有量は、リチウムイオン二次電池の容量を大きくでき、また、電極の柔軟性、及び、集電体と電極活物質層との結着性を向上させることができる観点から、好ましくは90〜99.9重量%、より好ましくは95〜99重量%である。
【0027】
電極活物質の体積平均粒子径は、複合粒子用スラリーを調製する際の結着樹脂の配合量を少なくすることができ、電池の容量の低下を抑制できる観点、および、複合粒子用スラリーを噴霧するのに適正な粘度に調製することが容易になり、均一な電極を得ることができる観点から、好ましくは1〜50μm、より好ましくは2〜30μmである。
【0028】
(結着樹脂)
本発明に用いる結着樹脂としては、上述の電極活物質を相互に結着させることができる物質であれば特に限定はない。結着樹脂としては、水溶性の結着樹脂、溶媒に分散する性質のある分散型結着樹脂を好ましく用いることができ、分散型結着樹脂を用いることがより好ましい。
【0029】
分散型結着樹脂として、例えば、シリコン系重合体、フッ素含有重合体、共役ジエン系重合体、アクリレート系重合体、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン等の高分子化合物が挙げられ、好ましくはフッ素含有重合体、共役ジエン系重合体およびアクリレート系重合体、より好ましくは共役ジエン系重合体およびアクリレート系重合体が挙げられる。これらの重合体は、それぞれ単独で、または2種以上混合して、分散型結着樹脂として用いることができる。
【0030】
フッ素含有重合体は、フッ素原子を含む単量体単位を含有する重合体である。フッ素含有重合体の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体、パーフルオロエチレン・プロペン共重合体が挙げられる。中でも、PVDFを含むことが好ましい。
【0031】
共役ジエン系重合体は、共役ジエン系単量体の単独重合体もしくは共役ジエン系単量体を含む単量体混合物を重合して得られる共重合体、またはそれらの水素添加物である。共役ジエン系単量体として、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などを用いることが好ましく、電極とした際における柔軟性を向上させることができ、割れに対する耐性を高いものとすることができる点で1,3−ブタジエンを用いることがより好ましい。また、単量体混合物においてはこれらの共役ジエン系単量体を2種以上含んでもよい。
【0032】
共役ジエン系重合体が、上述した共役ジエン系単量体と、これと共重合可能な単量体との共重合体である場合、かかる共重合可能な単量体としては、たとえば、α,β−不飽和ニトリル化合物や酸成分を有するビニル化合物などが挙げられる。
【0033】
共役ジエン系重合体の具体例としては、ポリブタジエンやポリイソプレンなどの共役ジエン系単量体単独重合体;カルボキシ変性されていてもよいスチレン・ブタジエン共重合体(SBR)などの芳香族ビニル系単量体・共役ジエン系単量体共重合体;アクリロニトリル・ブタジエン共重合体(NBR)などのシアン化ビニル系単量体・共役ジエン系単量体共重合体;水素化SBR、水素化NBR等が挙げられる。
【0034】
共役ジエン系重合体中における共役ジエン系単量体単位の割合は、好ましくは20〜60重量%であり、より好ましくは30〜55重量%である。共役ジエン系単量体単位の割合が多すぎると、結着樹脂を含む複合粒子を用いて電極を製造した場合に、耐電解液性が低下する傾向がある。共役ジエン系単量体単位の割合が少なすぎると、複合粒子と集電体との十分な密着性が得られない傾向がある。
【0035】
アクリレート系重合体は、一般式(1):CH2=CR1−COOR2(式中、R1は水素原子またはメチル基を、R2はアルキル基またはシクロアルキル基を表す。R2はさらにエーテル基、水酸基、リン酸基、アミノ基、カルボキシル基、フッ素原子、またはエポキシ基を有していてもよい。)で表される化合物〔(メタ)アクリル酸エステル〕由来の単量体単位を含む重合体、具体的には、一般式(1)で表される化合物の単独重合体、または前記一般式(1)で表される化合物を含む単量体混合物を重合して得られる共重合体である。一般式(1)で表される化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソボニル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、および(メタ)アクリル酸トリデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシジプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等のエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸等のカルボン酸含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸パーフロロオクチルエチル等のフッ素基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸リン酸エチル等のリン酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル;等が挙げられる。
【0036】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は「アクリル」及び「メタクリル」を意味する。また、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」を意味する。
【0037】
これら(メタ)アクリル酸エステルは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、および(メタ)アクリル酸n−ブチルやアルキル基の炭素数が6〜12である(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましい。これらを選択することにより、電解液に対する膨潤性を低くすることが可能となり、サイクル特性を向上させることができる。
【0038】
また、アクリレート系重合体が、上述した一般式(1)で表される化合物と、これと共重合可能な単量体との共重合体である場合、かかる共重合可能な単量体としては、たとえば、2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類、芳香族ビニル系単量体、アミド系単量体、オレフィン類、ジエン系単量体、ビニルケトン類、及び複素環含有ビニル化合物などのほか、α,β−不飽和ニトリル化合物や酸成分を有するビニル化合物が挙げられる。
【0039】
上記共重合可能な単量体の中でも、電極を製造した際に変形しにくく強度が強いものとすることができ、また、電極活物質層と集電体との十分な密着性が得られる点で、芳香族ビニル系単量体を用いることが好ましい。芳香族ビニル系単量体としては、スチレン等が挙げられる。
【0040】
なお、芳香族ビニル系単量体の割合が多すぎると電極活物質層と集電体との十分な密着性が得られない傾向がある。また、芳香族ビニル系単量体の割合が少なすぎると、電極を製造した際に耐電解液性が低下する傾向がある。
【0041】
アクリレート系重合体中における(メタ)アクリル酸エステル単位の割合は、電極とした際における柔軟性を向上させることができ、割れに対する耐性を高いものとする観点から、好ましくは50〜95重量%であり、より好ましくは60〜90重量%である。
【0042】
分散型結着樹脂を構成する重合体に用いられる、前記α,β−不飽和ニトリル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、及びα−ブロモアクリロニトリルなどが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。
【0043】
分散型結着樹脂中におけるα,β−不飽和ニトリル化合物単位の割合は、好ましくは0.1〜40重量%、より好ましくは0.5〜30重量%、さらに好ましくは1〜20重量%である。分散型結着樹脂中にα,β−不飽和ニトリル化合物単位を含有させると、電極を製造した際に変形しにくく強度が強いものとすることができる。また、分散型結着樹脂中にα,β−不飽和ニトリル化合物単位を含有させると、複合粒子を含む電極活物質層と集電体との密着性を十分なものとすることができる。
【0044】
なお、α,β−不飽和ニトリル化合物単位の割合が多すぎると電極活物質層と集電体との十分な密着性が得られない傾向がある。また、α,β−不飽和ニトリル化合物単位の割合が少なすぎると、電極を製造した際に耐電解液性が低下する傾向がある。
【0045】
前記酸成分を有するビニル化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、及びフマル酸などが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、およびイタコン酸が好ましく、接着力が良くなる点でメタクリル酸がより好ましい。
【0046】
分散型結着樹脂中における酸成分を有するビニル化合物単位の割合は、複合粒子用スラリーとした際における安定性が向上する観点から、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは1〜8重量%、さらに好ましくは2〜7重量%である。
【0047】
なお、酸成分を有するビニル化合物単位の割合が多すぎると、複合粒子用スラリーの粘度が高くなり、取扱いが困難になる傾向がある。また、酸成分を有するビニル化合物単位の割合が少なすぎると複合粒子用スラリーの安定性が低下する傾向がある。
【0048】
分散型結着樹脂の形状は、特に限定はないが、粒子状であることが好ましい。粒子状であることにより、結着性が良く、また、製造した電極の容量の低下や充放電の繰り返しによる劣化を抑えることができる。粒子状の結着樹脂としては、例えば、ラテックスのごとき結着樹脂の粒子が水に分散した状態のものや、このような分散液を乾燥して得られる粉末状のものが挙げられる。
【0049】
分散型結着樹脂の平均粒子径は、複合粒子用スラリーとした際における安定性を良好なものとしながら、得られる電極の強度及び柔軟性が良好となる点から、好ましくは0.001〜10μm、より好ましくは10〜5000nm、さらに好ましくは50〜1000nmである。
【0050】
また、本発明に用いる結着樹脂の製造方法は特に限定されず、乳化重合法、懸濁重合法、分散重合法または溶液重合法等の公知の重合法を採用することができる。中でも、乳化重合法で製造することが、結着樹脂の粒子径の制御が容易であるので好ましい。また、本発明に用いる結着樹脂は、2種以上の単量体混合物を段階的に重合することにより得られるコアシェル構造を有する粒子であっても良い。
【0051】
また、水溶性の結着樹脂としては、水溶性アクリレート重合体等を用いることができる。
【0052】
本発明の複合粒子中における結着樹脂の配合量は、得られる電極活物質層と集電体との密着性が十分に確保でき、かつ、電気化学素子の内部抵抗を低くすることができる観点から、電極活物質100重量部に対して、乾燥重量基準で好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは0.5〜10重量部、さらに好ましくは1〜5重量部である。
【0053】
(水溶性高分子)
本発明の複合粒子は、水溶性高分子を含むことが好ましい。水溶性高分子としては、噴霧した複合粒子用スラリーを凝固させやすく、球状の複合粒子が得られる観点、及び凝固後に複合粒子同士が互いに結着しにくい観点から、アニオン性の水溶性高分子が好ましい。ここで、アニオン性の水溶性高分子は少なくともアニオン性基を含んでなり、アニオン性基としてはカルボキシル基、スルホ基、ホスホ基等が挙げられる。
【0054】
このようなアニオン性の水溶性高分子としては、アルギン酸;アルギン酸のアルカリ金属塩(アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等)及びアルギン酸アンモニウム等の水溶性アルギン酸誘導体;ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びカルボキシメチルセルロース等のセルロース系高分子;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸誘導体、ポリスルホン酸系ポリマー、ポリアクリルアミド、寒天、ゼラチン、カラギーナン、グルコマンナン、ペクチン、カードラン、ジェランガム等が好ましく、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、水溶性アルギン酸誘導体、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸誘導体がより好ましく、アルギン酸、水溶性アルギン酸誘導体がより好ましく、アルギン酸またはアルギン酸のアルカリ金属塩(アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等)がさらに好ましい。尚、これらの水溶性高分子は、単独で用いてもよいが、複数の種類の水溶性高分子を組み合わせて用いることにより複合粒子に強度を付与することが可能となる。さらに、上記同一種類(範疇)のアニオン性水溶性高分子の中でも異なる構造の高分子を2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0055】
本発明の複合粒子中における水溶性高分子の配合量は、スラリーを強固に凝固させることができ、得られる複合粒子の形状が良好となる観点から、電極活物質100重量部に対して、0.4〜10重量部、より好ましくは0.7〜5重量部、さらに好ましくは1〜2重量部である。水溶性高分子の配合量が多すぎると得られる電気化学素子の抵抗が高くなる。また、水溶性高分子の配合量が少なすぎると複合粒子用スラリーが凝固し難くなったり、得られる複合粒子がもろくなる場合がある。
【0056】
(非水溶性多糖高分子繊維)
また、必要に応じて、水溶性高分子に非水溶性多糖高分子繊維を更に加えて用いてもよい。非水溶性多糖高分子繊維は、多糖類の中でいわゆる高分子化合物に属するものであり、非水溶性の繊維状のものであればそれ以外の限定はないが、通常は、機械的せん断力によりフィブリル化させた繊維(短繊維)である。なお、本発明に用いる非水溶性多糖高分子繊維とは、25℃において、多糖高分子繊維0.5gを100gの純水に溶解させた場合の未溶解分が90重量%以上となる多糖高分子繊維をいう。
【0057】
非水溶性多糖高分子繊維としては、多糖高分子のナノファイバーを用いることが好ましく、多糖高分子のナノファイバーのなかでも柔軟性を有し、かつ、繊維の引張強度が大きいため複合粒子の補強効果が高く、粒子強度を向上させることができる観点、および、導電材の分散性が良好となる観点から、セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバーなどの生物由来のバイオナノファイバーから選ばれる単独又は任意の混合物を使用するのがより好ましい。これらのなかでも、セルロースナノファイバーを使用するのがさらに好ましく、竹、針葉樹、広葉樹、綿を原料とするセルロースナノファイバーを使用するのが特に好ましい。
【0058】
これらの非水溶性多糖高分子繊維に機械的せん断力を加えてフィブリル化(短繊維化)する方法としては、非水溶性多糖高分子繊維を水に分散させた後に、叩解させる方法、オリフィスを通過させる方法などが挙げられる。また、非水溶性多糖高分子繊維は、各種繊維径の短繊維が市販されており、これらを水中分散させて用いてもよい。
【0059】
本発明で用いる非水溶性多糖高分子繊維の平均繊維径は、複合粒子中により多く非水溶性多糖高分子繊維を存在させ、電極活物質間の密着性を強くすることにより複合粒子および電極の強度を十分なものとする観点、および、得られる電気化学素子の電気化学特性に優れる観点から、好ましくは5〜3000nm、より好ましくは5〜2000nm、さらに好ましくは5〜1000nm、特に好ましくは5〜100nmである。非水溶性多糖高分子繊維の平均繊維径が大きすぎると複合粒子内に非水溶性多糖高分子繊維が十分に存在することができないため、複合粒子の強度を十分なものとすることができない。また、複合粒子の流動性が悪くなり、均一な電極活物質層の形成が困難となる。
【0060】
(導電材)
本発明の複合粒子は、必要に応じて導電材を含んでいてもよい。必要に応じて用いられる導電材としては、ファーネスブラック、アセチレンブラック(以下、「AB」と略記することがある。)、及びケッチェンブラック(アクゾノーベル ケミカルズ ベスローテン フェンノートシャップ社の登録商標)、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェンなどの導電性カーボンが好ましく用いられる。これらの中でも、アセチレンブラックがより好ましい。導電材の平均粒子径は、特に限定されないが、より少ない使用量で十分な導電性を発現させる観点から、電極活物質の平均粒子径よりも小さいものが好ましく、好ましくは0.001〜10μm、より好ましくは0.005〜5μm、さらに好ましくは0.01〜1μmである。
導電材を添加する場合における導電材の配合量は、電極活物質100重量部に対して、好ましくは1〜10重量部、より好ましくは1〜5重量部である。
【0061】
(その他の添加剤)
本発明の複合粒子は、さらに必要に応じてその他の添加剤を含有していてもよい。その他の添加剤としては、例えば、界面活性剤が挙げられる。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、ノニオニックアニオン等の両性の界面活性剤が挙げられるが、中でもアニオン性またはノニオン性界面活性剤が好ましい。界面活性剤の配合量は、特に限定されないが、複合粒子中において、電極活物質100重量部に対して好ましくは0〜50重量部、より好ましくは0.1〜10重量部、さらに好ましくは0.5〜5重量部である。界面活性剤を添加することで、複合粒子用スラリーから得られる液滴の表面張力を調整することができる。
【0062】
(複合粒子の製造方法)
複合粒子は、電極活物質、結着樹脂、必要に応じ添加される水溶性高分子及び導電材等のその他の成分を含む複合粒子用スラリーを噴霧凝固することによって得られる。ここで、噴霧凝固は、造粒法の一つであり、液体またはスラリーを噴霧することにより生じる液滴を、凝固液と接触させ、球状又は粒状の固形粒子(複合粒子)を得る造粒法である。
【0063】
本発明の複合粒子は、電極活物質、結着樹脂を含んでなるが、電極活物質および結着樹脂のそれぞれが個別に独立した粒子として存在するのではなく、構成成分である電極活物質、結着樹脂を含む2成分以上によって一粒子を形成するものである。具体的には、前記2成分以上の個々の粒子が実質的に形状を維持した状態で複数個が結合して二次粒子を形成しており、複数個(好ましくは数個〜数千個)の電極活物質が、結着樹脂によって結着されて粒子を形成しているものが好ましい。
【0064】
複合粒子を製造する際には、まず、電極活物質、結着樹脂、必要に応じて用いられる水溶性高分子及び導電材等を含有する複合粒子用スラリー(以下、「スラリー」ということがある。)を調製する。複合粒子用スラリーは、電極活物質、結着樹脂、必要に応じて用いられる水溶性高分子、導電材等の他の成分を、溶媒に分散又は溶解させることにより調製することができる。なお、この場合において、結着樹脂が溶媒としての水に分散されたものである場合には、水に分散させた状態で添加することができる。
【0065】
複合粒子用スラリーを得るために用いる溶媒としては、水を用いることが好ましいが、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよく、有機溶媒のみを単独または数種組み合わせて用いてもよい。この場合に用いることができる有機溶媒としては、たとえば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のアルキルケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム等のエーテル類;ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン等のアミド類;等が挙げられる。有機溶媒を用いる場合には、アルコール類が好ましい。これにより、複合粒子用スラリーの粘度や流動性を調整することができ、生産効率を向上させることができる。
【0066】
また、複合粒子用スラリーの粘度は、室温において、せん断速度100s-1の時に好ましくは1000mPa・s以下、さらに好ましくは500mPa・s以下、最も好ましくは300mPa・s以下である。複合粒子用スラリーのせん断速度100s-1の時の粘度が前記範囲にあると、スラリーを噴霧して液滴を生成させる工程において、せん断力を利用して液滴を微細化することが可能となる。また、前記粘度範囲であると、スラリーを噴霧部分に至るまで安定的に送液することも可能となる。そしてその結果として、複合粒子の造粒の生産性が向上する。一方、せん断速度100s-1の時に1000mPa・sを超えると、断続的に粗大粒子が生成し、凝固粒子の粒度分布が広くなってしまったり、液滴の生成工程において粗大な液滴が生成してしまうことがあり、それが液滴を凝固させる工程において、凝固液によって十分に凝固しない場合が生じ、その結果、凝固粒子同士が互着してしまったり、スラリーの供給が安定的にできなかったりして、工程が不安定化してしまう場合がある。
スラリーのせん断速度100s-1の時の粘度は、共軸二重円筒形粘度計により測定することができる。
【0067】
スラリーを調製する際に使用する溶媒の量は、スラリー中に結着樹脂を均一に分散させる観点から、スラリーの固形分濃度が、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは5〜50重量%、さらに好ましくは10〜40重量%となる量である。
【0068】
電極活物質、結着樹脂、必要に応じて添加される水溶性高分子及び導電材等を溶媒に分散又は溶解する方法又は順番は、特に限定されず、例えば、溶媒に電極活物質、結着樹脂、水溶性高分子および導電材を添加し混合する方法、溶媒に水溶性高分子を溶解した後、電極活物質及び導電材を添加して混合し、最後に溶媒に分散させた結着樹脂(例えば、ラテックス)を添加して混合する方法、溶媒に分散させた結着樹脂に電極活物質および導電材を添加して混合し、この混合物に溶媒に溶解させた水溶性高分子を添加して混合する方法等が挙げられる。
【0069】
また、混合装置としては、たとえば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等を用いることができる。混合は、好ましくは室温〜80℃で、10分〜数時間行う。
以上により得られるスラリーの粒子径分布は、小粒子径側から体積基準で求めた粒子径分布において、粒子径が100μm以上の粒子の累積頻度が1%未満であることが好ましい。累積頻度が上記範囲内であるとスラリーを連続的に噴霧することが可能であり、安定して一定の粒径を有する複合粒子を得ることができる。一方、累積頻度が1%以上であると、スラリーの液滴が噴霧部位に堆積してしまい、粒子径が徐々に変化したり、噴霧部を閉塞してしまい、噴霧できなくなるなどの不具合を生じてさせてしまう。
【0070】
(噴霧方法)
複合粒子用スラリーを噴霧する噴霧方法としては、特に限定されないが、静電噴霧、回転霧化により噴霧することが好ましい。
【0071】
(静電噴霧)
静電噴霧は、静電微粒化法を用いることにより複合粒子用スラリーから液滴を生成させ、凝固液に向けて液滴を噴霧する方法である。静電微粒化法は、アトマイザーノズルに数kV以上の高電圧を加え、アトマイザーノズル先端部に電荷を集中させることでアトマイザーノズルに供給される複合粒子用スラリーの分裂を促し、複合粒子用スラリーからなる液滴を生成する方法である。
アトマイザーノズルに印加する電圧を変えることによって数100μm〜数μmの均一な液滴を生成、噴霧することができる。
【0072】
また、ノズル先端部の形状を針状に尖らせることによってアトマイザーノズル先端部に電荷を集中させることが可能であり、静電微粒化法における液滴の生成を促すことができる。ノズル先端部の形状の工夫によって所望の範囲の粒子径分布を有する複合粒子群の製造に必要な印加電圧を低く設定することが可能になり、装置コストや、ランニングコスト、操業における安全性の面において有利に働く。
【0073】
液滴の生成に適した印加電圧は、アトマイザーノズルの先端形状、複合粒子用スラリーの表面張力、粘度、固形分濃度、供給速度、電導度、および活物質が蓄積可能な静電容量、そして後述するアトマイザーノズル近傍に設置可能な接地電極の形状や設置位置によって種々異なるために特に制限されないが、通常2kV以上である。当業者らはこれら要素を考慮しつつ、適宜液滴の生成に適した電圧条件を検討することで所望のサイズの液滴を生成することができる。
ここで、アトマイザーノズルに供給されるスラリーの温度は、通常は室温であるが、状況や目的に応じて加温して室温以上にしたものであってもよい。
【0074】
また、ノズル先端部直下には、アトマイザーノズルに対向して接地電極が設けることが好ましい。接地電極の形状としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、例えば、リング状に形成するのが好ましい。アトマイザーノズルの直下に接地電極を設けることで静電微粒化による液滴の生成をより促すことができる。
【0075】
(回転霧化)
回転霧化は、回転霧化用のアトマイザーを噴霧機として用いて、凝固液に向けて液滴を噴霧する方法である。ここで、回転霧化用のアトマイザーとしては、回転円盤方式のアトマイザー、カップ型アトマイザーを好ましく用いることができ、カップ型アトマイザーを用いることがより好ましい。
【0076】
カップ型アトマイザーは、所定の回転数で回転するアトマイザー先端のカップに複合粒子用スラリーを導入し、複合粒子用スラリーに回転力を加えながらカップの端部から吐出させることにより、遠心力で複合粒子用スラリーの霧化を行い霧状の液滴を得るように構成されている。カップの向きは上向き、下向きがあるが、そのいずれか片方に限るものではなく、いずれも良好な霧化が可能である。
【0077】
回転円盤方式は、高速回転する円盤のほぼ中央に複合粒子用スラリーを導入し、円盤の遠心力によってスラリーが円盤の外に放たれ、その際にスラリーを霧状にする方式である。回転円盤方式のアトマイザーとしては、ピン型とベーン型、ケスナー型が挙げられるが、好ましくはピン型アトマイザーである。ピン型アトマイザーは、噴霧盤を用いた遠心式の噴霧装置の一種であり、該噴霧盤が上下取付円板の間にその周縁に沿ったほぼ同心円上に着脱自在に複数の噴霧用コロを取り付けたもので構成されている。複合粒子用スラリーは噴霧盤中央から導入され、遠心力によって噴霧用コロに付着し、コロ表面を外側へと移動し、最後にコロ表面から離れ噴霧される。
【0078】
回転霧化方式におけるカップまたは円盤の回転速度は、特に限定されないが、好ましくは5,000〜40,000rpm、さらに好ましくは15,000〜30,000rpmである。カップまたは円盤の回転速度が低いほど、噴霧液滴が大きくなり、得られる複合粒子の平均粒子径が大きくなる。
【0079】
また、回転霧化により生成される液滴を凝固液に接触させる際の、液滴の噴霧位置と凝固液の液面との距離は、球形度の高い複合粒子が得られる点で、30cm以上であることが好ましく、50cm以上であることがより好ましく、60cm以上であることがさらに好ましい。上記距離が短すぎると、凝固液と液滴とが衝突することにより複合粒子が変形する虞がある。
【0080】
噴霧される複合粒子用スラリーの温度は、好ましくは室温であるが、加温して室温より高い温度としてもよい。
【0081】
(凝固方法)
静電噴霧、回転霧化等の上記噴霧方法により得られた液滴を凝固液に接触させることにより、球状又は粒状の複合粒子を得ることができる。また、凝固液中で生成した複合粒子は、ろ過等を行うことにより凝固液から分離することができる。ろ過の方法としては格別な制限はなく、自然ろ過、加圧ろ過、減圧ろ過を採用することができる。また、ろ過フィルターを用いるろ過、掻き取りろ過、ふるい分けろ過等を採用することもできる。また、ふるい分けろ過を行う場合には、複合粒子を含む凝固中で所定の目開きの篩を用いてろ過を行ってもよい。
【0082】
また、凝固液から分離された複合粒子を乾燥させることが好ましい。乾燥方法としては、特に制限はないが、例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法などが挙げられる。乾燥時間は好ましくは5分〜30分であり、乾燥温度は、用いる材料の耐熱性にもよるが、例えば30〜180℃である。乾燥温度が高すぎると、複合粒子同士が互着し粗大粒子となることがある。
【0083】
また、凝固液から分離された複合粒子に水を加えて再攪拌し、さらにろ過等を行う水洗工程を所定回数行ってもよい。凝固液から分離され、または、水洗工程を経た複合粒子は真空乾燥等により乾燥させることが好ましい。
【0084】
ここで、凝固液としては、スラリー中に含まれる水溶性高分子が凝固する溶媒、低pHの酸性液、もしくは、多価金属塩水溶液を用いること可能であり、特に多価金属塩の水溶液を用いることが好ましい。多価金属塩の水溶液としては、噴霧した複合粒子用スラリーを凝固させやすく、球状の複合粒子が得られる観点、及び凝固後に複合粒子同士が互いに結着しにくい観点から、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、バリウム塩、銅塩、アンモニウムミョウバン、鉄塩等を含む水溶液が好ましく、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、硝酸アルミニウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硫酸アルミニウム、鉄ミョウバン等の無機塩類の水溶液がより好ましく、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、硝酸アルミニウム、塩化バリウム、塩化第二鉄、硫酸第二鉄の水溶液がさらに好ましく、塩化カルシウム、硫酸マグネシウムの水溶液が特に好ましい。また、ある特定の水溶性高分子が凝固しやすい溶媒を凝固液として用いることで凝固粒子の互着を抑制することが可能である。また、熱応答性が高く、熱で凝固し、冷却しても不可逆な水溶性高分子を用いた場合には、80℃以上の熱水を用いても良く、凝固後の水洗を省略することが可能となる。水溶性高分子としてアニオン性水溶性高分子を用いる場合には酸性の凝固液を用いてもよい。その場合、pHの値が5以下であることが好ましく、揮発性の酸性液で凝固させると凝固液成分の除去が容易となる。
【0085】
本発明の複合粒子は、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、バリウム塩、銅塩、アンモニウムミョウバン、鉄塩から選ばれる少なくとも1種の多価金属塩を含有することが好ましい。また、多価金属塩の含有量は、電極活物質層と集電体との密着性が良好となる観点から、好ましくは300〜2000ppm、より好ましくは300〜1500ppm、さらに好ましくは300〜1000ppmである。多価金属塩の含有量が多すぎても少なすぎても、電極活物質層と集電体との密着性が不十分となる。尚、ここに記載した多価金属塩の含有量は電極活物質由来の多価金属塩の量を除いたものを指す。また、アルギン酸などの水溶性高分子を金属塩で凝固させると、金属塩とゲル状の膜を形成しており、その厚みが1〜500nmの厚みで複合粒子表面および粒子内部の電極活物質間に存在している。このゲルの膜存在により、粒子の補強効果が得られる。
【0086】
本発明の複合粒子の形状は、流動性が良好でホッパートラブルを防止できる観点、ホッパーからの複合粒子の供給が良好であり、厚み精度の良い電極を得ることができる観点から実質的に球形であることが好ましい。すなわち、複合粒子の短軸径をls、長軸径をll、la=(ls+ll)/2としたとき、(ll−ls)×100/laで表される球形度(%)が好ましくは15%以下、より好ましくは13%以下、さらに好ましくは12%以下、最も好ましくは10%以下である。ここで、短軸径lsおよび長軸径llは、透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡の写真像から測定することができる。球形度が大きすぎると、複合粒子の流動性が悪化し、ホッパートラブルが起きやすくなる。また、電極の目付精度が悪化し、厚み精度のよい電極が得難くなる。
【0087】
本発明の複合粒子の粒子径は、レーザー光回折法を用いた粒子径測定により得られる個数換算の粒子径分布において40μm以下の粒子が全体の50%以下、好ましくは40%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下である。なお、粒子径分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置(たとえば、SALD−3100;島津製作所製やマイクロトラックMT−3200II;日機装株式会社製)にて測定することにより得られる。
【0088】
個数換算の粒子径分布において40μm以下の粒子が上記範囲であることにより、複合粒子の流動性が良好で、ホッパートラブルが起きにくく、さらに、厚み精度の高い均一な電極を得ることができる。また、個数換算の粒子径分布において40μm以下の粒子の割合が多すぎると、複合粒子の流動性が悪化し、ホッパートラブルが起きやすくなる。また、得られる電極の厚み精度が悪化する。
【0089】
また、本発明の複合粒子の粒子径は、流動性が良好でホッパートラブルを防止できる観点、ホッパーからの複合粒子の供給が良好であり、厚み精度の良い電極を得ることができる観点から、レーザー光回折法を用いた粒子径測定により得られる体積換算の粒子径分布において累積95%径(D95径)が好ましくは300μm以下、より好ましくは40〜250μm、さらに好ましくは50〜225μm、最も好ましくは60〜200μmである。なお、粒子径分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置(たとえば、SALD−3100;島津製作所製やマイクロトラックMT−3200II;日機装株式会社製)にて測定することにより得られる。
【0090】
体積換算の粒子径分布において累積95%径(D95径)が大きすぎると、複合粒子中の粗大粒子が多いため、電極活物質層を成形する際に厚みムラが生じる。また、体積換算の粒子径分布において累積95%径(D95径)が小さすぎると、複合粒子の流動性が悪化し、ホッパートラブルが起きやすくなる。また、電極活物質層を成形する際に厚みムラが生じる。
【0091】
(電気化学素子電極)
本発明の電気化学素子電極は、上述の複合粒子を含む電極活物質層を集電体上に積層してなる電極である。集電体の材料としては、たとえば、金属、炭素、導電性高分子などを用いることができ、好適には金属が用いられる。金属としては、通常、銅、アルミニウム、白金、ニッケル、タンタル、チタン、ステンレス鋼、その他の合金等が使用される。これらの中で導電性、耐電圧性の面から、銅、アルミニウム又はアルミニウム合金を使用するのが好ましい。また、高い耐電圧性が要求される場合には特開2001−176757号公報等で開示される高純度のアルミニウムを好適に用いることができる。集電体は、フィルム又はシート状であり、その厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、好ましくは1〜200μm、より好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは10〜50μmである。
【0092】
電極活物質層を集電体上に積層する際には、複合粒子をシート状に成形し、次いで集電体上に積層してもよいが、集電体上で複合粒子を直接加圧成形する方法が好ましい。加圧成形する方法としては、例えば、一対のロールを備えたロール式加圧成形装置を用い、集電体をロールで送りながら、振動フィーダーやスクリューフィーダー等の供給装置で複合粒子をロール式加圧成形装置に供給することで、集電体上に電極活物質層を成形するロール加圧成形法や、複合粒子を集電体上に散布し、複合粒子をブレード等でならして厚みを調整し、次いで加圧装置で成形する方法、複合粒子を金型に充填し、金型を加圧して成形する方法などが挙げられる。これらのなかでも、ロール加圧成形法が好ましい。特に、本発明の複合粒子は、高い流動性を有しているため、その高い流動性により、ロール加圧成形による成形が可能であり、これにより、生産性の向上が可能となる。
【0093】
ロール加圧成形を行う際のロール温度は、均一な電極を作成するためには、好ましくは10〜100℃、より好ましくは20〜60℃、さらに好ましくは20〜50℃である。また、電極活物質層と集電体との密着性を十分なものとすることができる観点から、好ましくは25〜200℃、より好ましくは50〜150℃、さらに好ましくは80〜120℃である。均一な電極を作成するのに好ましい温度領域と、密着性を高めるために好ましい温度領域とが重なり合わない場合は、多段階でロール加圧することで、それらを両立させることが可能である。また、ロール加圧成形時のロール間のプレス線圧は、電極活物質の破壊を防ぐ観点から、好ましくは10〜1000kN/m、より好ましくは200〜900kN/m、さらに好ましくは300〜600kN/mである。また、ロール加圧成形時の成形速度は、好ましくは0.1〜20m/分、より好ましくは4〜10m/分である。
【0094】
また、成形した電気化学素子電極の厚みのばらつきを無くし、電極活物質層の密度を上げて高容量化を図るために、必要に応じてさらに後加圧を行ってもよい。後加圧の方法は、ロールによるプレス工程が好ましい。ロールプレス工程では、2本の円柱状のロールをせまい間隔で平行に上下にならべ、それぞれを反対方向に回転させて、その間に電極をかみこませることにより加圧する。この際においては、必要に応じて、ロールは加熱又は冷却等、温度調節してもよい。
【0095】
また、電極活物質層の接着強度や導電性を高めるために、集電体表面に中間層を形成してもよく、中でも、導電性接着剤層を形成するのが好ましい。
【0096】
電極活物質層の密度は、特に制限されないが、通常は0.30〜10g/cm3、好ましくは0.35〜8.0g/cm3、より好ましくは0.40〜6.0g/cm3である。また、電極活物質層の厚みは、特に制限されないが、通常は5〜1000μm、好ましくは20〜500μm、より好ましくは30〜300μmである。
【0097】
(電気化学素子)
本発明の電気化学素子は、上述のようにして得られる正極、負極、セパレーターおよび電解液を備え、正極または負極のうちの少なくとも一方に本発明の電気化学素子電極を用いる。電気化学素子としては、例えば、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ等が挙げられる。
【0098】
(セパレーター)
セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂や、芳香族ポリアミド樹脂を含んでなる微孔膜または不織布;無機セラミック粉末を含む多孔質の樹脂コート;などを用いることができる。具体例を挙げると、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)、及びこれらの混合物あるいは共重合体等の樹脂からなる微多孔膜;ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルフォン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂からなる微多孔膜;ポリオレフィン系の繊維を織ったもの又はその不織布;絶縁性物質粒子の集合体等が挙げられる。これらの中でも、セパレーター全体の膜厚を薄くすることができ、リチウムイオン二次電池内の活物質比率を上げて体積あたりの容量を上げることができるため、ポリオレフィン系の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
【0099】
セパレーターの厚さは、リチウムイオン二次電池においてセパレーターによる内部抵抗を小さくすることができる観点、および、リチウムイオン二次電池を製造する際の作業性に優れる観点から、好ましくは0.5〜40μm、より好ましくは1〜30μm、さらに好ましくは1〜25μmである。
【0100】
(電解液)
リチウムイオン二次電池用の電解液としては、例えば、非水溶媒に支持電解質を溶解した非水電解液が用いられる。支持電解質としては、リチウム塩が好ましく用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C49SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO22NLi、(C25SO2)NLiなどが挙げられる。中でも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF6、LiClO4、CF3SO3Liが好ましい。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。解離度の高い支持電解質を用いるほど、リチウムイオン伝導度が高くなるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0101】
電解液における支持電解質の濃度は、支持電解質の種類に応じて、0.5〜2.5モル/Lの濃度で用いることが好ましい。支持電解質の濃度が低すぎても高すぎても、イオン伝導度が低下する可能性がある。
【0102】
非水溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されない。非水溶媒の例を挙げると、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(MEC)などのカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチルなどのエステル類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物類;支持電解質としても使用されるイオン液体などが挙げられる。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いので、カーボネート類が好ましい。非水溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。一般に、非水溶媒の粘度が低いほどリチウムイオン伝導度が高くなり、誘電率が高いほど支持電解質の溶解度が上がるが、両者はトレードオフの関係にあるので、溶媒の種類や混合比によりリチウムイオン伝導度を調節して使用するのがよい。また、非水溶媒は全部あるいは一部の水素をフッ素に置き換えたものを併用あるいは全量用いてもよい。
【0103】
また、電解液には添加剤を含有させてもよい。添加剤としては、例えば、ビニレンカーボネート(VC)などのカーボネート系;エチレンサルファイト(ES)などの含硫黄化合物;フルオロエチレンカーボネート(FEC)などのフッ素含有化合物が挙げられる。添加剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
なお、リチウムイオンキャパシタ用の電解液としては、上述のリチウムイオン二次電池に用いることができる電解液と同様のものを用いることができる。
【0104】
(電気化学素子の製造方法)
リチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタ等の電気化学素子の具体的な製造方法としては、例えば、正極と負極とをセパレーターを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。さらに、必要に応じてエキスパンドメタル;ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子;リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電を防止してもよい。リチウムイオン二次電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。電池容器の材質は、電池内部への水分の侵入を阻害するものであればよく、金属製、アルミニウムなどのラミネート製など特に限定されない。
【0105】
本発明によれば、低目付で厚み精度の高い電極を作製することができる電気化学素子電極用複合粒子、この電気化学素子電極用複合粒子を用いた電気化学素子電極及び電気化学素子、並びに上記電気化学素子電極用複合粒子の製造方法及び上記電気化学素子電極の製造方法を提供することができる。
【0106】
また、噴霧した複合粒子用スラリーを凝固液で凝固させることにより高い収率で複合粒子を回収することができる。
【実施例】
【0107】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨及び均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、以下の説明において量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、重量基準である。
【0108】
実施例及び比較例において、粒子径分布の測定、球形度の測定、複合粒子の含有金属量測定、及びせん断速度100s-1の粘度、並びに電極厚み精度、目付ムラ、収率及びピール強度の評価はそれぞれ以下のように行った。
【0109】
<粒子径分布の測定>
複合粒子の粒子径分布の測定は、乾式レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製:マイクロトラックMT−3200II)を用いて行った。
【0110】
<球形度の測定>
実施例及び比較例で得られた複合粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、画像中に見える粒子30個をランダムに選択して、各々の粒子について短軸径ls、長軸径llを測定した。これらの測定値から各々の粒子について、(ll−ls)×100/laで表される球形度(%)を求め(ここで、la=(ls+ll)/2)、これらの平均値を球形度(%)とした。
【0111】
<複合粒子の含有金属量測定>
実施例及び比較例で得られた複合粒子 約0.01gを白金るつぼに秤量し、このるつぼと空のるつぼをヒーターで加熱し、煙が出なくなったら、るつぼに蓋をして800℃の電気炉に2時間入れて灰化した。続いて、硝酸0.2mLと超純水約7mLを添加後、ヒーターで加熱し、灰分を溶解させた。10mLに定容後、ICP−AES(SIIナノテクノロジー社製:SPS−5100)を用いて、複合粒子の2価及び3価の金属量の総和を測定した。なお、電極活物質に由来する金属量は除いた。
【0112】
<せん断速度100s-1の粘度>
実施例及び比較例において作製した複合粒子用スラリーについて、ブルックフィールドデジタル粘度計DV−II+Proを用い、25℃において、せん断速度が100s-1における粘度を測定した。測定した粘度は表1に示した。
【0113】
<電極厚み精度>
実施例及び比較例において作製した電極(リチウムイオン二次電池負極またはリチウムイオン二次電池正極)を、幅方向(TD方向)の中央から両端にかけて均等に5cm間隔で3点、長さ方向(MD方向)に均等に10cm間隔で膜厚測定を行い、膜厚の平均値A及び平均値から最も離れた値Bを求めた。そして、平均値A及び最も離れた値Bから、下記式(1)にしたがって、厚みムラを算出し、下記基準にて成形性を評価した。結果を表1に示した。厚みムラが小さいほど、厚みの均一性に優れ、電極の厚み精度が良好であると判断できる。
厚みムラ(%)=(|A−B|)×100/A …(1)
A:厚みムラが2.5%未満
B:厚みムラが2.5%以上、5.0%未満
C:厚みムラが5.0%以上、7.5%未満
D:厚みムラが7.5%以上、10%未満
E:厚みムラが10%以上
【0114】
<目付ムラ>
実施例及び比較例において作製した電極(リチウムイオン二次電池負極またはリチウムイオン二次電池正極)を、幅方向(TD方向)10cm、長さ方向(MD方向)1mにカットし、カットした電極について、TD方向に均等に3点、及びMD方向に均等に5点の合計15点(=3点×5点)を円状に2cm2打ち抜き重量測定を行い、打ち抜いた電極から集電箔の重さを差し引いたものを目付とし、その平均値A及び平均値から最も離れた値Bを求めた。そして、平均値A及び最も離れた値Bから、下記式(2)にしたがって、目付ムラを算出し、下記基準にて成形性を評価した。結果を表1に示した。目付ムラが小さいほど電極の均一性に優れていると判断できる。
目付ムラ(%)=(|A−B|)×100/A …(2)
A:目付ムラが5%未満
B:目付ムラが5%以上、10%未満
C:目付ムラが10%以上、15%未満
D:目付ムラが15%以上
E:電極層に穴が開いている
【0115】
<収率>
実施例および比較例において、噴霧した複合粒子用スラリーの固形分(重量)をA、乾燥工程後回収された複合粒子から残留水分を差し引いた重量をBとしたとき、収率RをR=B/A×100(%)とし、下記の基準にて収率の評価を行った。結果を表1に示した。
A:収率が95%以上
B:収率が85%以上、95%未満
C:収率が75%以上、85%未満
D:収率が75%未満
【0116】
<ピール強度>
実施例及び比較例において作製した電極(リチウムイオン二次電池負極またはリチウムイオン二次電池正極)を、幅1cm×長さ10cmの矩形状にカットした。カットしたリチウムイオン二次電池用電極を、電極活物質層面を上にして固定し、電極活物質層の表面にセロハンテープを貼り付けた後、試験片の一端からセロハンテープを50mm/分の速度で180°方向に引き剥がしたときの応力を測定した。この応力の測定を10回行い、平均値をピール強度とした。ピール強度を下記基準にて評価し、結果を表1に示した。なお、ピール強度が大きいほど、電極活物質層内における密着性、及び電極活物質層と集電体との間の密着性が良好であることを示す。
A:ピール強度が15N/m以上
B:ピール強度が7N/m以上、15N/m未満
C:ピール強度が3N/m以上、7N/m未満
D:ピール強度が3N/m未満
E:評価不能
【0117】
(実施例1)
(結着樹脂の製造)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、スチレン62部、1,3−ブタジエン34部、メタクリル酸3部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4部、イオン交換水150部、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン0.4部および重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状の結着樹脂S(スチレン・ブタジエン共重合体;以下、「SBR」と略記することがある。)を得た。
【0118】
(複合粒子用スラリーの作製)
負極活物質として人造黒鉛(平均粒子径:24.5μm、黒鉛層間距離(X線回折法による(002)面の面間隔(d値)):0.354nm)を97.5部、上記粒子状の結着樹脂Sを固形分換算量で1.5部、水溶性高分子としてアルギン酸ナトリウムの1.0%水溶液(アルギテックスLL;株式会社 キミカ社製)を固形分換算量で1.0部混合し、さらにイオン交換水を固形分濃度が32%となるように加え、混合分散して複合粒子用スラリーを得た。
【0119】
(複合粒子の製造)
静電微粒化装置(浜松ナノテクノロジー株式会社製)において、直径5 mmの円状の空孔を有する平板グランド電極を設置し、その空孔の中心部に金属製ノズル(外径200μm、内径120μm)を設置し、複合粒子用スラリーを250μl/minにて供給し、印加電圧8.5kVにて静電微粒化した。微粒化したスラリーの液滴を、凝固液としての10%塩化カルシウム水溶液の液面に対して30cmの高さから噴霧し、凝固液にて捕集、凝固し、複合粒子を得た。続いて、複合粒子を含有した凝固液を400メッシュのSUS製金網でろ過し、複合粒子を分離した。
【0120】
その後、分取した複合粒子にイオン交換水を加えて再スラリー化し、10分間攪拌を行った後、再度ろ過をする水洗工程を行った。この水洗工程を2回繰り返し行ってから複合粒子をろ過分離して、湿潤した複合粒子を得た。湿潤した複合粒子を温度40℃で真空乾燥し、目開き500μmのふるいで軟凝集をほぐして複合粒子を得た。この複合粒子の個数換算の粒子径分布において40μm以下の粒子は全体の0%、体積換算の粒子径分布において累積95%径(D95径)は142μmであった。また、球形度は5%であり、多価金属塩の含有量は630ppmであった。
【0121】
(リチウムイオン二次電池負極の作製)
リチウムイオン二次電池負極の製造は、図1に示すロール加圧成形装置を用いて行った。ここで、図1に示すようにロール加圧成形装置2は、ホッパー4と、ホッパー4に定量フィーダー16を介して供給された複合粒子6を導電性接着剤層付集電箔8に圧縮する一対のロール(10A,10B)からなるプレ成形ロール10、プレ成形ロール10により形成されたプレ成形体をさらにプレスする一対のロール(12A,12B)からなる成形ロール12、および一対のロール(14A,14B)からなる成形ロール14を備えている。
【0122】
まず、ロール加圧成形装置2において50℃に加熱されたロール径50mmφの一対のプレ成形ロール10(ロール10A,10B)上に導電性接着剤層付集電箔8を設置した。ここで、導電性接着剤層付集電箔8は、導電性接着剤を銅集電体上にダイコーターで塗布、乾燥することで得た導電性接着剤層付銅集電箔である。次に、定量フィーダー16を介して、前記プレ成形ロール10の上部に設けられたホッパー4に複合粒子6として上記にて得られた複合粒子を供給した。プレ成形ロール10の上部に設けられたホッパー4内の前記複合粒子6の堆積量がある一定高さになったところで、10m/分の速度でロール加圧成形装置2を稼働させ、前記プレ成形ロール10で複合粒子6を加圧成形し、前記導電性接着剤層付銅集電箔上に負極活物質層のプレ成形体を形成した。その後、前記ロール加圧成形装置2のプレ成形ロール10の下流に設けられ、100℃に加熱された二対の300mmφ成形ロール12、14で前記負極活物質層がプレ成形された電極をプレスし、前記電極の表面を均すとともに電極密度を高めた。このままロール加圧成形装置2を連続して10分間稼働し、リチウムイオン二次電池負極を約100m作製した。
【0123】
(実施例2)
(複合粒子の製造)
直径100cm、高さ50cmの円筒のほぼ中心にロータリーアトマイザーとしてランズバーグインダストリー株式会社製霧化装置MRB−21NV(カップ径50mm)を設置し、円筒の内壁に凝固液の厚みが3mmとなるように凝固液(10%塩化カルシウム水溶液)を供給した。ロータリーアトマイザーの回転数を20,000rpmで回転させ、ここへ原料液として、実施例1で用いた複合粒子用スラリーの固形分濃度を35%に変更して、60mL/分で供給し噴霧を行った。複合粒子用スラリーの液滴は凝固液に対して噴霧され、凝固液に接触し、凝固液に添加された。凝固液に接触した複合粒子用スラリーの液滴は凝固し、球状の凝固粒子(複合粒子)となった。
【0124】
続いて、複合粒子を含有した凝固液を400メッシュのSUS製金網でろ過し、複合粒子を分離した。その後、水洗工程としてメッシュ上に分取した複合粒子にイオン交換水を加えて再スラリー化し、10分間攪拌を行った後、400メッシュのSUS製金網で再度ろ過を行った。この水洗工程を2回繰り返し行ってから複合粒子をろ過分離して、湿潤した複合粒子を得た。その後、湿潤した複合粒子を温度30℃、0.6kPaの条件で乾燥し、目開き500μmのふるいで軟凝集をほぐして複合粒子を得た。
【0125】
この複合粒子の個数換算の粒子径分布において40μm以下の粒子は全体の1%、体積換算の粒子径分布において累積95%径(D95径)は108μmであった。また、球形度は3%であり、多価金属塩の含有量は610ppmであった。また、収率は99%であった。上記で得られた複合粒子を用いた以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池負極の作製を行った。
【0126】
(実施例3)
複合粒子の製造において、直径60cm、高さ30cmの円筒を用いて、この円筒のほぼ中心にロータリーアトマイザーとしてランズバーグインダストリー株式会社製霧化装置MRB−21NV(カップ径50mm)を設置した以外は、実施例2と同様に複合粒子の製造を行った。
【0127】
実施例3において得られた複合粒子の個数換算の粒子径分布において40μm以下の粒子は全体の3%、体積換算の粒子径分布において累積95%径(D95径)は110μmであった。また、球形度は6%であり、多価金属塩の含有量は610ppmであった。また、収率は99%であった。上記で得られた複合粒子を用いた以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池負極の作製を行った。
【0128】
(実施例4)
(結着樹脂の製造)
メカニカルスターラー及びコンデンサを装着した反応器に、窒素雰囲気下、脱イオン水210部及び濃度30%のアルキルジフェニルオキシドジスルホネート(ダウファックス(登録商標)2A1、ダウ・ケミカル社製)を固形分換算量で1.67部仕込み、撹拌しながら70℃に加熱し、1.96%過硫酸カリウム水溶液25.5部を反応器に添加した。次いで、メカニカルスターラーを装着した上記とは別の容器に、窒素雰囲気下、アクリル酸ブチル35部、メタクリル酸エチル62.5部、メタクリル酸2.4部、濃度30%のアルキルジフェニルオキシドジスルホネート(ダウファックス(登録商標)2A1、ダウ・ケミカル社製)を固形分換算量で1.67部、及び脱イオン水22.7部を添加し、これを攪拌し、乳化させて単量体混合液を調製した。そして、この単量体混合液を攪拌し、乳化させた状態にて、2.5時間かけて一定の速度で、脱イオン水210部及び過硫酸カリウム水溶液を仕込んだ反応器に添加し、重合転化率が95%になるまで反応させて、粒子状の結着樹脂A(アクリレート系重合体)の水分散液を得た。
【0129】
(複合粒子用スラリーの作製)
正極活物質としてのLiCoO2(以下、「LCO」ということがある。)91.5部、導電材としてのアセチレンブラック(HS−100、電気化学工業社製)(以下、「AB」ということがある。)6部、結着樹脂としての粒子状の結着樹脂A(アクリレート系重合体)の水分散液を固形分換算で1.5部、及び水溶性高分子としてアルギン酸ナトリウムの1.0%水溶液(アルギテックスLL;株式会社キミカ社製)を固形分換算量で1.0部混合し、さらにイオン交換水を適量加え、プラネタリーミキサーにて混合分散して固形分濃度50%の正極用の複合粒子用スラリーを調製した。
【0130】
(複合粒子の製造)
上記で得られた正極用の複合粒子用スラリーを用いた以外は、実施例3と同様に複合粒子の製造を行った。この複合粒子の個数換算の粒子径分布において40μm以下の粒子は全体の11%、体積換算の粒子径分布において累積95%径(D95径)は133μmであった。また、球形度は6%であり、多価金属塩の含有量は650ppmであった。
【0131】
(リチウムイオン二次電池正極の作製)
まず、図1に示すロール加圧成形装置2において50℃に加熱されたロール径50mmφの一対のプレ成形ロール10(ロール10A,10B)上に導電性接着剤層付集電箔8を設置した。ここで、導電性接着剤層付集電箔8は、導電性接着剤をアルミニウム集電体上にダイコーターで塗布、乾燥することで得た導電性接着剤層付アルミニウム集電箔である。次に、定量フィーダー16を介して、前記プレ成形ロール10の上部に設けられたホッパー4に複合粒子6として上記にて得られた複合粒子を供給した。プレ成形ロール10の上部に設けられたホッパー4内の前記複合粒子6の堆積量がある一定高さになったところで、10m/分の速度でロール加圧成形装置2を稼働させ、前記プレ成形ロール10で複合粒子6を加圧成形し、前記導電性接着剤層付アルミニウム集電箔上に正極活物質層のプレ成形体を形成した。その後、前記ロール加圧成形装置2のプレ成形ロール10の下流に設けられ、100℃に加熱された二対の300mmφ成形ロール12、14で前記正極活物質層がプレ成形された電極をプレスし、前記電極の表面を均すとともに電極密度を高めた。このままロール加圧成形装置2を連続して10分間稼働し、リチウムイオン二次電池正極を約100m作製した。
【0132】
(実施例5)
複合粒子用スラリーの作製において、添加するアルギン酸ナトリウム(以下、「アルギン酸Na」ということがある。)の量を0.6部に変更し、さらに非水溶性多糖高分子繊維としてセルロースナノファイバー(以下、「CNF」ということがある。)1.2%水分散液(原料:竹、解繊度合:高、重合度:350;中越パルプ社製)を固形分換算量で0.4部添加した以外は、実施例3と同様に複合粒子用スラリーの作製を行った。
【0133】
また、この複合粒子用スラリーを用いた以外は、実施例3と同様に複合粒子の製造を行った。この複合粒子の個数換算の粒子径分布において40μm以下の粒子は全体の15%、体積換算の粒子径分布において累積95%径(D95径)は180μmであった。また、球形度は7%であり、多価金属塩の含有量は690ppmであった。上記で得られた複合粒子を用いた以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池負極の作製を行った。
【0134】
(実施例6)
直径40cm、高さ20cmの円筒を用いて、この円筒のほぼ中心にーとしてランズバーグインダストリー株式会社製霧化装置MRB−21NV(カップ径50mm)を設置した以外は、実施例2と同様に複合粒子の製造を行った。
【0135】
実施例6において得られた複合粒子の個数換算の粒子径分布において40μm以下の粒子は全体の25%、体積換算の粒子径分布において累積95%径(D95径)は189μmであった。また、球形度は11%であり、多価金属塩の含有量は980ppmであった。上記で得られた複合粒子を用いた以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池負極の作製を行った。
【0136】
(実施例7)
直径30cm、高さ15cmの円筒を用いて、この円筒のほぼ中心にロータリーアトマイザーとしてランズバーグインダストリー株式会社製霧化装置MRB−21NV(カップ径50mm)を設置し、さらに凝固液として10%硫酸アルミニウム水溶液を用いた以外は、実施例2と同様に複合粒子の製造を行った。
【0137】
実施例7において得られた複合粒子の個数換算の粒子径分布において40μm以下の粒子は全体の41%、体積換算の粒子径分布において累積95%径(D95径)は194μmであった。また、球形度は14%であり、多価金属塩の含有量は470ppmであった。上記で得られた複合粒子を用いた以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池負極の作製を行った。
【0138】
(実施例8)
静電微粒化装置に設置する金属製ノズルの径を外径700μm、内径480μmとした以外は、実施例1と同様に複合粒子の製造を行った。実施例8において得られた複合粒子の個数換算の粒子径分布において40μm以下の粒子は全体の0%、体積換算の粒子径分布において累積95%径(D95径)は280μmであった。また、球形度は4%であり、多価金属塩の含有量は490ppmであった。上記で得られた複合粒子を用いた以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池負極の作製を行った。
【0139】
(実施例9)
複合粒子用スラリーの作製の際に用いる結着樹脂の種類を下記の水溶性アクリレート重合体に変更した以外は実施例3と同様に複合粒子用スラリーの作製を行った。
【0140】
(水溶性アクリレート重合体の製造方法)
攪拌機、還流冷却管および温度計を備えた容量1LのSUS製セパラブルフラスコに、脱塩水を予め仕込み十分攪拌した後、70℃とし、過硫酸カリウム水溶液0.2部を添加した。また別の攪拌機付き5MPa耐圧容器(1)にイオン交換水50部、炭酸水素ナトリウム0.4部、濃度30%のドデシルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム0.115部、エチルアクリレート35部、ブチルアクリレート32.5部、メタクリル酸30部および2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)2.5部からなる単量体混合物を仕込み、十分攪拌し調製して得たエマルジョン水溶液を、容器(2)に4時間に亘って連続的に滴下した。重合転化率が90%に達したところで反応温度を80℃とし更に2時間反応を実施した後、冷却して反応を停止し、結着樹脂としての水溶性アクリレート重合体を含む水系分散液を得た。なお、重合転化率は99%であった。
【0141】
続いて、得られた水溶性アクリレート重合体を固形分濃度で10%となるように撹拌を行いながら水で希釈した。さらに、1%水酸化ナトリウム水溶液を加え、pHを9とすることで得られた水溶性アクリレート重合体を水に溶解した。また、この水溶性アクリレート重合体を含む複合粒子用スラリーを用いた以外は、実施例3と同様に複合粒子の製造を行った。
【0142】
この複合粒子の個数換算の粒子径分布において40μm以下の粒子は全体の4%、体積換算の粒子径分布において累積95%径(D95径)は152μmであった。また、球形度は5%であり、多価金属塩の含有量は650ppmであった。上記で得られた複合粒子を用いた以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池負極の作製を行った。
【0143】
(実施例10)
人造黒鉛の量を97.8部とし、アルギン酸ナトリウムの添加量を固形分換算量で0.7部とした以外は、実施例1と同様に複合粒子用スラリーの作製を行った。また、この複合粒子用スラリーを用い、さらに水洗工程の回数を10回とした以外は、実施例3と同様に複合粒子の製造を行った。
【0144】
この複合粒子の個数換算の粒子径分布において40μm以下の粒子は全体の2%、体積換算の粒子径分布において累積95%径(D95径)は164μmであった。また、球形度は6%であり、多価金属塩の含有量は294ppmであった。上記で得られた複合粒子を用いた以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池負極の作製を行った。
【0145】
(実施例11)
実施例1で用いた複合粒子用スラリーの固形分濃度を35%に変更し、この複合粒子用スラリーを回転円盤方式のピン型アトマイザー(直径50mm大川原化工機社製)に35mL/分で供給し、回転数25,000rpmの条件で噴霧を行った。噴霧された複合粒子用スラリーの液滴は、凝固液と接触した。凝固液との接触後、複合粒子用スラリーの液滴は凝固し、球状の凝固粒子(複合粒子)となった。なお、ピン型アトマイザーと凝固液の液面との距離は30cmであった。
【0146】
次に、複合粒子を含有する凝固液について、分級を行った。即ち、凝固液中で目開き150μmの篩を用いて粗粉を除去し、さらに目開き45μmの篩を用いて45μm以下の微粉をカットすることにより、湿潤した複合粒子を得た。その際の分級収率は88%であった。その後、湿潤した複合粒子を温度30℃、0.6kPaの条件で乾燥し、目開き500μmのふるいで軟凝集をほぐして複合粒子を得た。
【0147】
また、得られた複合粒子の個数換算の粒子径分布において40μm以下の粒子は全体の5%、体積換算の粒子径分布において累積95%径(D95径)は99μmであった。また、球形度は3%であり、多価金属塩の含有量は580ppmであった。上記で得られた複合粒子を用いた以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池負極の作製を行った。
【0148】
(実施例12)
スラリーの固形分濃度を45%に調整したこと以外は、実施例2と同様に複合粒子用スラリーの作製を行った。また、この複合粒子用スラリーを用いたこと以外は実施例3と同様に複合粒子の製造を行った。
この複合粒子の個数換算の粒子径分布において40μm以下の粒子は全体の4%、体積換算の粒子径分布において累積95%径(D95径)は221μmであった。また、球形度は8%であり、多価金属塩の含有量は630ppmであった。上記で得られた複合粒子を用いた以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池負極の作製を行った。
【0149】
(比較例1)
ピン型アトマイザーと凝固液の液面との距離を20cmとし、さらに複合粒子を含有する凝固液について分級を行わなかった以外は、実施例11と同様に複合粒子の製造を行った。この複合粒子の個数換算の粒子径分布において40μm以下の粒子は全体の60%、体積換算の粒子径分布において累積95%径(D95径)は185μmであった。また、球形度は5%であり、多価金属塩の含有量は650ppmであった。上記で得られた複合粒子を用いた以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池負極の作製を行った。
【0150】
(比較例2)
人造黒鉛の量を98.2部とし、アルギン酸ナトリウムの添加量を固形分換算量で0.3部とした以外は、実施例2と同様に複合粒子用スラリーの作製を行った。また、この複合粒子用スラリーを用いた以外は、実施例6と同様に複合粒子の製造を行った。この複合粒子の個数換算の粒子径分布において40μm以下の粒子は全体の55%、体積換算の粒子径分布において累積95%径(D95径)は384μmであった。また、球形度は21%であり、多価金属塩の含有量は304ppmであった。上記で得られた複合粒子を用いた以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池負極の作製を行った。
【0151】
(比較例3)
実施例1で用いた複合粒子用スラリーの固形分濃度を35%に変更した。スプレー乾燥機(大川原化工機社製)において回転円盤方式のアトマイザー(直径84mm)を用い、熱風温度150℃、粒子回収出口の温度を90℃として、この複合粒子用スラリーを255mL/分で供給し、回転数17,000rpmの条件で噴霧乾燥造粒を行い、複合粒子を得た。
【0152】
得られた複合粒子の個数換算の粒子径分布において40μm以下の粒子は全体の74%、体積換算の粒子径分布において累積95%径(D95径)は176μmであった。また、球形度は4%であり、多価金属塩の含有量は19ppmであった。上記で得られた複合粒子を用いた以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池負極の作製を行った。
【0153】
(比較例4)
アルギン酸ナトリウムに代えて、カルボキシメチルセルロース(WS−C、第一工業製薬社製)(以下、「CMC」ということがある。)の1%水溶液を固形分換算量で1部用い、複合粒子用スラリーの固形分濃度を35%とした以外は、実施例1と同様に複合粒子用スラリーの作製を行った。
【0154】
(比較例5)
スラリーの固形分濃度を55%に調整したこと以外は、実施例2と同様に複合粒子用スラリーの作製を行った。また、この複合粒子用スラリーを用いたこと以外は実施例6と同様に複合粒子の製造を行った。
この複合粒子の個数換算の粒子径分布において40μm以下の粒子は全体の53%、体積換算の粒子径分布において累積95%径(D95径)は583μmであった。また、球形度は21%であり、多価金属塩の含有量は880ppmであった。上記で得られた複合粒子を用いた以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池負極の作製を行った。
【0155】
また、この複合粒子用スラリーを用いた以外は、比較例3と同様に複合粒子の製造を行った。この複合粒子の個数換算の粒子径分布において40μm以下の粒子は全体の70%、体積換算の粒子径分布において累積95%径(D95径)は168μmであった。また、球形度は5%であり、多価金属塩の含有量は20ppmであった。上記で得られた複合粒子を用いた以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池負極の作製を行った。
【表1】
【0156】
表1に示すように、電極活物質、結着樹脂を含んでなるスラリーを噴霧凝固することによって得られる電気化学素子電極用複合粒子であって、レーザー光回折法を用いた粒子径測定により得られる個数換算の粒子径分布において40μm以下の粒子が全体の50%以下である電気化学素子電極用複合粒子の収率は良好であり、この複合粒子を用いた電極の厚み精度、目付ムラ及びピール強度は良好であった。
【符号の説明】
【0157】
2…ロール加圧成形装置、6…複合粒子、8…導電性接着剤層付集電箔、10…プレ成形ロール、12,14…成形ロール、16…定量フィーダー
図1