(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
ここで、本発明に係るカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置は、基材の表面に触媒を担持してなる触媒基材上に、化学気相成長法(CVD法)を用いてCNT配向集合体を成長させる際に用いることができる。具体的には、本発明に係るカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置では、基材に担持された触媒の周囲環境を還元ガス環境とすると共に触媒および/または還元ガスを加熱するフォーメーション工程を任意に実施した後に、触媒の周囲環境を原料ガス環境とすると共に触媒および原料ガスの少なくとも一方を加熱してCNTを成長させる成長工程を実施して、CNTを合成する。
【0019】
そして、本発明に係るカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置は、触媒基材が搬入される炉と、炉内に設けられ、触媒基材を載置する載置部、または、搬入口から搬出口に向かって触媒基材を搬送する搬送部と、炉内に原料ガスや還元ガスなどの気体を噴射する噴射部と、載置部または搬送部と、噴射部との少なくとも一方の配置位置を炉内で変更して載置部または搬送部上の触媒基材と、噴射部との間の距離を変更可能な変位機構とを備えることを特徴とする。
【0020】
(第一実施形態)
ここで、
図1に、本発明の第一実施形態に係る製造装置の横断面の概略構成を示す。
図1に示す製造装置は、一つの炉10でフォーメーション工程および成長工程を行う、バッチ式の製造装置である。そして、
図1に示す製造装置は、図示しない搬出入口から触媒基材20が搬入される炉10と、炉10の周囲に配置された、抵抗加熱ヒーター、赤外線加熱ヒーター、電磁誘導式ヒーターなどからなる加熱器90a〜90dとを備えている。
なお、
図1では、上下方向が鉛直方向であり、左右方向が水平方向である。
【0021】
また、炉10は、内部に、触媒基材20が載置される支持台32および支持台32を支持する支柱31よりなる載置部30と、支持台32上に載置された触媒基材20に対して上方から原料ガスや還元ガスなどの気体を噴射する噴射部40とを有している。なお、噴射部40は、複数の噴射孔41が形成された円筒状の孔空き管よりなり、噴射部40の噴射孔41は、
図1では下側(鉛直方向下側)に向かって開口している。
【0022】
更に、炉10には、炉10の内外を水平方向(
図1では左右方向)に連通する支持管50と、支持管50に挿通されて炉10内まで水平方向に延在し、且つ、炉10内側の端部が噴射部40に接続された気体供給管60とが設けられている。
なお、
図2に
図1のII−II線に沿う断面の要部を示すように、噴射部40、支持管50および気体供給管60は、
図1の紙面に直交する方向に延在する触媒基材20の表面に対して噴射部40から噴射した気体を均一に接触させることができるように、炉10に複数本設けられている。具体的には、噴射部40、支持管50および気体供給管60は、
図1の紙面に直交する方向に等間隔で千鳥状に複数本形成されている。
【0023】
ここで、支持管50は、一端が炉10の側壁面に接続されており、他端が炉10の外側に位置している。また、支持管50の他端側の端部からは、ポンプ等の気体排出手段に接続されて炉10内の気体の排出に使用される分岐管52が分岐している。更に、支持管50の他端(外側端)には、第1フランジ51が設けられている。そして、第1フランジ51は、
図3(a)に示すように、中央部に支持管50が接続された略正方形状の板状体よりなり、第1フランジ51の四隅には、第1フランジ51と後述する第2フランジ61とをパッキンを介して締結する際にボルト70が挿通される円形状のボルト孔51bが設けられている。
なお、分岐管52の用途は、炉10内の気体の排出に限定されるものではなく、分岐管52は、炉10内に任意の気体を供給する際に使用してもよい。
【0024】
また、気体供給管60は、支持管50の内径よりも小さい外径を有しており、一端(炉10内側の端部)が噴射部40に接続されると共に、他端が炉10および支持管50の外側に位置している。そして、気体供給管60の他端は、原料ガスや還元ガス等の炉10内に供給する気体の供給源(図示せず)と接続されており、当該供給源から供給された気体は、気体供給管60および噴射部40を介して炉10内に噴射される。更に、気体供給管60の他端側(外側端側)には、第2フランジ61が設けられている。そして、第2フランジ61は、
図3(b)に示すように、中央部に気体供給管60が接続された略正方形状の板状体よりなり、第2フランジ61の四隅には、第1フランジ51と第2フランジ61とをパッキンを介して締結する際にボルト70が挿通される角丸四角形状のボルト孔61bが設けられている。なお、ボルト孔61bは、
図3(b)に示すように、鉛直方向に細長い角丸四角形状を有している。また、ボルト孔61bは、第1フランジ51のボルト孔51bに対応する位置(即ち、支持管50に気体供給管60を挿通した状態で第1フランジ51と第2フランジ52とを当接させた際にボルト孔61bとボルト孔51bとが重なり合う位置)に形成されている。
因みに、
図2に示すように炉10には複数の気体供給管60および噴射部40が設けられているが、各気体供給管60および噴射部40から炉10内に供給される気体の種類は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。即ち、各気体供給管60の他端は、同一の気体供給源に接続されていてもよいし、異なる気体供給源に接続されていてもよい。
【0025】
そして、炉10を備える製造装置では、ボルト70を用いて第1フランジ51および第2フランジ61を締結することにより、支持管50に対し、気体供給管60を、支持管50内における気体供給管60の位置を変更可能に保持することができる。具体的には、例えば
図4(a)に示すように、第2フランジ61のボルト孔61bの長手方向中央に第1フランジ51のボルト孔51bが位置するように第1フランジ51と第2フランジ61とを当接させて締結することにより、支持管50の中心軸位置と気体供給管60の中心軸位置とを一致させた状態で支持管50に対して気体供給管60を保持することができる。また、例えば
図4(b)に示すように、第2フランジ61のボルト孔61bの長手方向一方側(図示例では鉛直方向下側)に第1フランジ51のボルト孔51bが位置するように第1フランジ51と第2フランジ61とを当接させて締結することにより、支持管50内の気体供給管60の位置を鉛直方向上側に変位させた状態で支持管50に対して気体供給管60を保持することができる。その結果、
図4(b)では、気体供給管60に接続された噴射部40の炉10内での配置位置を、
図4(a)に示す場合と比較して鉛直方向上側(触媒基材20から離隔する側)に変位させ、載置部30上の触媒基材20と噴射部40との間の距離を大きくすることができる。なお、図示は省略するが、第2フランジ61のボルト孔61bに対する第1フランジ51のボルト孔51bの位置を
図4(b)とは反対側に変更すれば、気体供給管60に接続された噴射部40の炉10内での配置位置を、
図4(a)に示す場合と比較して鉛直方向下側(触媒基材20に近接する側)に変位させ、載置部30上の触媒基材20と噴射部40との間の距離を小さくすることができる。また、気体供給管60の位置を変位させる量、即ち、触媒基材20と噴射部40との間の距離を変化させる量は、ボルト孔61bの長さの範囲内で連続的かつ自由に調節することができる。
【0026】
即ち、炉10を備える製造装置では、支持管50と、気体供給管60と、第1フランジ51および第2フランジ61とが、気体供給管60の位置を変更することで炉10内における噴射部40の配置位置を変更して触媒基材20と噴射部40との間の距離を変更する変位機構として機能し得る。そして、当該変位機構を用いることにより、触媒基材20と噴射部40との間の距離、特に、触媒基材20の表面と噴射部40の各噴射孔41との間の最短距離を容易に且つ連続的に変更することができる。
【0027】
なお、炉10を備える製造装置では、
図1に示すように、噴射部40の、気体供給管60と接続される側とは反対側の端部を、炉10の内壁に接続された受け台80および受け台80上に載置された載置部材81で支持してもよい。具体的には、
図5に示すように、噴射部40の、気体供給管60と接続される側とは反対側の端部42にボルト孔42aを形成し、噴射部40の端部42の位置に対応した位置にボルト孔81aを形成した載置部材81と、噴射部40の端部42とをボルト70で締結することにより、噴射部40の、気体供給管60と接続される側とは反対側の端部を支持してもよい。因みに、噴射部40および気体供給管60の配置位置の変更に際しては、様々な位置にボルト孔81aを形成した複数の載置部材81を予め準備しておき、それらの中から配置位置を変更した後の噴射部40の端部42の位置に対応した位置にボルト孔81aが形成されている載置部材81を選択して使用すればよい。
【0028】
即ち、炉10を備える製造装置では、支持管50の外側端部の近傍に配設されている第1フランジ51および第2フランジ61を第一の保持治具として機能させると共に、受け台80および載置部材81を、噴射部40を支持する第二の保持治具として機能させることにより、噴射部40および噴射部40に接続された気体供給管60を両側から支持することができる。その結果、噴射部40および噴射部40に接続された気体供給管60が自重により鉛直方向下側に撓むのを抑制し、当該撓みにより触媒基材20と噴射部40との間の距離が変化するのを防止することができる。
【0029】
そして、炉10を備える製造装置では、触媒基材20を炉10内に設置した状態で、気体供給管60および噴射部40を介して還元ガスを炉10内に供給すると共に触媒および/または還元ガスを加熱器90a〜90dで加熱することで、フォーメーション工程を実施することができる。また、任意工程であるフォーメーション工程を実施した後、気体供給管60および噴射部40を介して原料ガスを炉10内に供給すると共に触媒および原料ガスの少なくとも一方を加熱器90a〜90dで加熱することで、触媒基材20上でCNTを成長させて触媒基材20上にCNTの配向集合体を形成する成長工程を実施することができる。更に、フォーメーション工程および/または成長工程の実施に際し、使用する原料ガスの組成などに応じて触媒基材20と噴射部40との間の距離を適切な距離に変更することができる。因みに、使用する原料ガスの組成などに応じた適切な距離は、実験等により予め求めておくことができる。
【0030】
なお、上述したCNTの製造に際し、触媒基材20の形成に用いる基材としては、特に限定されることなく、CNT成長反応用の触媒を担持することのできる任意の基材を用いることができる。具体的には、基材としては、鉄、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、チタン、アルミニウム、マンガン、コバルト、銅、銀、金、白金、ニオブ、タンタル、鉛、亜鉛、ガリウム、インジウム、ゲルマニウムおよびアンチモンなどの金属、並びにこれらの金属を含む合金および酸化物;シリコン、石英、ガラス、マイカ、グラファイトおよびダイヤモンドなどの非金属;並びにセラミックなどからなる基材を例示できる。中でも、金属からなる基材は、非金属からなる基材およびセラミックからなる基材と比較して低コストであるから好ましく、特に、Fe−Cr(鉄−クロム)合金、Fe−Ni(鉄−ニッケル)合金、Fe−Cr−Ni(鉄−クロム−ニッケル)合金等からなる基材が好ましい。
因みに、基材には、浸炭防止層が形成されていてもよい。この浸炭防止層は、成長工程において、基板が浸炭されて変形することを防止するための保護層である。また、基材としては、使用済みの触媒基材を使用(再利用)してもよい。
【0031】
また、触媒基材20の基材(基板上に浸炭防止層が形成されている場合には浸炭防止層上)に担持する触媒としては、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、モリブデン、並びに、これらの塩化物および合金、またこれらが、さらにアルミニウム、アルミナ、チタニア、窒化チタン、酸化シリコンなどと複合化し、または層状になったものが挙げられる。例えば、触媒としては、鉄−モリブデン薄膜、アルミナ−鉄薄膜、アルミナ−コバルト薄膜、アルミナ−鉄−モリブデン薄膜、アルミニウム−鉄薄膜、アルミニウム−鉄−モリブデン薄膜などを例示することができる。触媒の存在量としては、CNTの製造が可能な範囲であればよい。
【0032】
そして、基材表面への触媒の形成には、ウェットプロセスまたはドライプロセスのいずれを適用してもよい。具体的には、スパッタリング蒸着法や、金属微粒子を適宜な溶媒に分散させてなる液体の塗布・焼成による方法などの既知の方法を適用することができる。また周知のフォトリソグラフィーやナノインプリンティング等を適用したパターニングを併用して、基材表面の触媒担持領域を任意の形状とすることもできる。中でも、基材表面への触媒の形成には、ウェットプロセスを用いることが好ましい。
【0033】
また、フォーメーション工程の実施に際し、還元ガスとしては、例えば、水素ガス、アンモニア、水蒸気、および、それらの混合ガスを適用することができる。また、これらをヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスと混合した混合ガスを用いてもよい。
【0034】
更に、成長工程の実施に際し、原料ガスとしては、CNTの成長温度において原料炭素源を有するガスを用いることができる。なかでも、メタン、エタン、エチレン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、プロピレン、およびアセチレンなどの炭化水素のガスが好適である。この他にも、原料ガスは、メタノール、エタノールなどの低級アルコールのガスでもよい。これらの混合物も使用可能である。また原料ガスは、CNTが成長する温度で不活性であり、触媒の活性を低下させず、且つ、成長するCNTと反応しない不活性ガス(例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素、ネオンおよびクリプトンなど、並びにこれらの混合ガス)で希釈されていてもよい。
【0035】
なお、成長工程においては、原料ガスと共に触媒賦活物質を炉10内に供給してCNTを成長させてもよい。触媒賦活物質は、CNTの成長過程において副次的に発生したアモルファスカーボンやグラファイトなどを一酸化炭素および二酸化炭素などへと酸化してガス化することで、触媒を清浄化し、触媒の活性を高め且つ活性寿命を延長させる作用(触媒賦活作用)を発現すると考えられている。そして、触媒賦活物質としては、酸素を含む物質がより好ましく、CNTの成長温度でCNTに多大なダメージを与えない物質であることがさらに好ましい。例えば、水、酸素、オゾン、酸性ガス、酸化窒素;一酸化炭素および二酸化炭素などの低炭素数の含酸素化合物;エタノール、メタノールなどのアルコール類;テトラヒドロフランなどのエーテル類;アセトンなどのケトン類;アルデヒド類;エステル類;並びにこれらの混合物が有効である。この中でも、触媒賦活物質としては、水、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、エーテル類が好ましく、特に水および二酸化炭素が好適である。
因みに、例えばアルコール類や一酸化炭素などのような炭素と酸素とを含有する化合物は、原料ガスとしても触媒賦活物質としても作用し得る。例えば、これらの化合物をエチレンなどの、分解して炭素源となりやすい原料ガスと併用する場合は、これらの炭素と酸素とを含有する化合物は、触媒賦活物質として作用する。また、炭素と酸素とを含有する化合物を、水などの活性が高い触媒賦活物質と併用する場合は、炭素と酸素とを含有する化合物は原料ガスとして作用するものと推測される。さらに、一酸化炭素などは、分解して生じる炭素原子が、CNTの成長反応の炭素源となる一方で、酸素原子がアモルファスカーボンおよびグラファイトなどを酸化してガス化する触媒賦活物質としても作用するものと推測される。
【0036】
(第二実施形態)
次に、
図6に、本発明の第二実施形態に係る製造装置の概略構成を示す。
図6に示す製造装置100は、搬送される触媒基材20に対してフォーメーション工程および成長工程を順次実施する連続式の製造装置である。
【0037】
ここで、
図6に示す製造装置100は、入口パージ部1、フォーメーションユニット2、ガス混入防止手段101〜103、成長ユニット3、冷却ユニット4、出口パージ部5、搬送ユニット6、および、接続部7〜9を備えている。そして、フォーメーションユニット2はフォーメーション炉2aを備えており、成長ユニット3は成長炉3aを備えており、冷却ユニット4は冷却炉4aを備えている。なお、フォーメーション炉2a、成長炉3a、および、冷却炉4aの各炉内空間は、接続部7〜9によって空間的に連結された状態になっている。また、フォーメーション工程を実施するフォーメーション炉2aおよび成長工程を実施する成長炉3aは、触媒基材20を載置する場所として載置部30に変えて搬送部としての搬送ユニット6を用いており、且つ、排気フードが炉内に設けられている以外は前述した第一実施形態に係る製造装置の炉10と同様の構成を有している。即ち、フォーメーション炉2aでは、還元ガスを炉内に噴射する噴射部2bの配置位置が変更可能であり、成長炉3aでは、原料ガス等を炉内に噴射する噴射部3bの配置位置が変更可能である。
【0038】
<入口パージ部>
製造装置100の入口には入口パージ部1が設けられている。入口パージ部1とは、触媒基材20の入口から装置内へ外部空気が混入することを防止するための装置一式のことである。入口パージ部1は、装置内に搬送された触媒基材20の周囲環境をパージガスで置換する機能を有する。なお、触媒基材20は、上述した第一実施形態の触媒基材20と同様の構成を有している。
【0039】
入口パージ部1は、パージガスを上下からシャワー状に噴射するガスカーテン構造となっている。これにより、入口から製造装置100内に外部の空気が混入することを防止している。入口パージ部1は、例えば、パージガスを保持するための炉またはチャンバ、および、パージガスを噴射するための噴射部等により構成されてもよい。
なお、パージガスとしては不活性ガスが好ましく、特に安全性、コスト、および、パージ性等の点から、パージガスは窒素であることが好ましい。
【0040】
ここで、本実施形態のように搬送ユニット6がベルトコンベア方式である場合など、触媒基材20の入口が常時開口しているような場合には、入口パージ部1は、上述したガスカーテン構造であることが好ましい。この構成により、触媒基材20の入口から製造装置100の内部に、外部の空気が混入することを防止することができる。
【0041】
<フォーメーションユニット>
フォーメーションユニット2とは、フォーメーション工程を実現するための装置一式のことである。フォーメーションユニット2は、触媒基材20の表面に形成された触媒の周囲環境を還元ガス環境にすると共に、触媒および還元ガスのうち少なくとも一方を加熱する機能を有する。
【0042】
フォーメーションユニット2は、還元ガスを保持するためのフォーメーション炉2aと、触媒および還元ガスの少なくとも一方を加熱するためのヒーター2cとを備えている。また、フォーメーション炉2a内には、還元ガスをフォーメーション炉2a内に噴射するための複数の噴射部2bと、フォーメーション炉2a内のガスを排気するための排気フード2dとが設けられている。
【0043】
そして、フォーメーション炉2aは、触媒基材20を載置する場所として載置部30に変えて搬送部としての搬送ユニット6を用いており、且つ、排気フード2dが炉内に設けられている以外は前述した第一実施形態に係る製造装置の炉10と同様の構成を有している。即ち、フォーメーション炉2aは、図示しない支持管、噴射部2bに接続された気体供給管、第1フランジ、第2フランジ、受け台および載置部材を有しており、還元ガスを炉内に噴射する噴射部2bの位置を変更して、噴射部2bと、噴射部2bの直下に位置する搬送ユニット6上の触媒基材20との間の最短距離(図示例では上下方向に沿う距離)を調整可能に構成されている。なお、この実施形態では排気フード2dを使用しているので、支持管には分岐管が設けられていなくてもよい。
【0044】
<成長ユニット>
成長ユニット3は、成長工程を実現するための装置一式のことである。成長ユニット3は、触媒基材20の周囲の環境を原料ガス環境に保持する炉である成長炉3aと、触媒と原料ガスの少なくとも一方を加熱するためのヒーター3cとを備えている。また、成長炉3a内には、原料ガスを成長炉3a内に噴射するための複数の噴射部3bと、成長炉3a内のガスを排気するための排気フード3dとが設けられている。なお、噴射部3bは、原料ガス以外に触媒賦活物質を噴射してもよい。
【0045】
そして、成長炉3aは、触媒基材20を載置する場所として載置部30に変えて搬送部としての搬送ユニット6を用いており、且つ、排気フード3dが炉内に設けられている以外は前述した第一実施形態に係る製造装置の炉10と同様の構成を有している。即ち、成長炉3aは、図示しない支持管、噴射部3bに接続された気体供給管、第1フランジ、第2フランジ、受け台および載置部材を有しており、原料ガスおよび/または触媒賦活物質を炉内に噴射する噴射部3bの位置を変更して、噴射部3bと、噴射部3bの直下に位置する搬送ユニット6上の触媒基材20との間の最短距離(図示例では上下方向に沿う距離)を調整可能に構成されている。なお、この実施形態では排気フード3dを使用しているので、支持管には分岐管が設けられていなくてもよい。
【0046】
<搬送ユニット>
搬送ユニット6とは、複数の触媒基材20を製造装置100内に連続的に搬入するために必要な装置一式のことである。搬送ユニット6は、メッシュベルト6aとベルト駆動部6bとを備えている。触媒基材20は、搬送ユニット6によって各炉内空間を、フォーメーションユニット2、成長ユニット3、および、冷却ユニット4の順に搬送されるようになっている。
【0047】
搬送ユニット6は、ベルトコンベア式のものであり、フォーメーション炉2a内空間から成長炉3a内空間を経て冷却炉4a内空間へと、触媒基材20を搬送する。搬送ユニット6は、例えば減速機付き電動モータなどを用いたベルト駆動部6bで駆動されるメッシュベルト6aによって触媒基材20を搬送する。そして、製造装置100では、フォーメーション炉2a内空間と成長炉3a内空間との間、および、成長炉3a内空間と冷却炉4a内空間との間は、接続部8および9によって空間的に接続されている。これにより、触媒基材20を載置したメッシュベルト6aは、各炉間を通過することができる。
【0048】
なお、製造装置100が、連続式でCNTを製造するものである場合であって、搬送ユニットを備える場合、その搬送ユニットの具体的な構成は、上述した構成に限らず、例えば、搬送ユニットは、マルチチャンバ方式におけるロボットアーム、ロボットアーム駆動装置等などであってもよい。
【0049】
<接続部>
接続部7〜9とは、各ユニットの炉内空間を空間的に接続し、触媒基材20がユニットからユニットへ搬送されるときに、触媒基材20が外気に曝されることを防ぐための装置一式のことである。接続部7〜9としては、例えば、触媒基材20の周囲環境と外気とを遮断し、触媒基材20をユニットからユニットへ通過させることができる炉またはチャンバなどが挙げられる。
【0050】
そして、入口パージ部1の搬出口とフォーメーションユニット2の搬入口とは、接続部7によって接続されている。接続部7には、ガス混入防止手段101が配置されており、入口パージ部1において噴射されたパージガスと噴射部2bから噴射された還元ガスとの混合ガスが排気される。これによって、フォーメーション炉2a内空間へのパージガスの混入、および、入口パージ部1側への還元ガスの混入が防止される。
【0051】
フォーメーションユニット2の搬出口と成長ユニット3の搬入口とは、接続部8によって接続されている。接続部8には、ガス混入防止手段102が配置されており、フォーメーション炉2a内空間の還元ガスと成長炉3a内空間の原料ガスおよび触媒賦活物質を排気している。これにより、フォーメーション炉2a内空間への原料ガスまたは触媒賦活物質の混入、および、成長炉3a内空間への還元ガスの混入が防止される。
【0052】
成長ユニット3の搬出口と冷却ユニット4の搬入口とは、接続部9によって接続されている。接続部9には、ガス混入防止手段103が配置されており、成長炉3a内空間の原料ガスおよび触媒賦活物質と冷却炉4a内空間の不活性ガスとの混合ガスを排気している。これにより、冷却炉4a内空間への原料ガスまたは触媒賦活物質の混入、および、成長炉3a内空間への不活性ガスの混入が防止される。
【0053】
なお、製造装置100は、成長ユニット3と冷却ユニット4との間の接続部9を加熱する加熱手段をさらに備えていてもよい。成長炉3aの出口付近の温度が低下すると、原料ガスの分解物がアモルファスカーボンとなってCNTの先端部に堆積する可能性がある。これによって、触媒基材20から垂直方向に成長するCNTにおける先端部(top)のG/D比が、根元部(bottom)のG/D比よりも小さくなる可能性がある。
しかし、成長ユニット3と冷却ユニット4との間の接続部9を加熱することにより、先端部のG/D比と根元部のG/D比との差を小さくすることができる。そのため、品質の安定したCNTを得ることが可能になる。
【0054】
接続部9を加熱する加熱手段の具体的な形態としては、例えば、成長ユニット3と冷却ユニット4との間のガス混入防止手段103において噴射されるシールガスを加熱するものであってもよい。シールガスを加熱することによって成長炉3aの搬出口およびその付近を加熱することができる。
【0055】
<ガス混入防止手段>
ガス混入防止手段101〜103は、各ユニットの炉内空間に存在するガスが、相互に混入することを防ぐ機能を実現するための装置一式のことである。ガス混入防止手段101〜103は、各ユニットの炉内空間を互いに空間的に接続する接続部7〜9に設置される。ガス混入防止手段101〜103は、各炉における触媒基材20の搬入口および搬出口の開口面に沿ってシールガスを噴射するシールガス噴射部101b〜103bと、主に噴射されたシールガス(およびその他近傍のガス)を各炉内に入らないように吸引して装置外に排気する排気部101a〜103aとを、それぞれ少なくとも1つ以上備えている。
【0056】
シールガスが炉の開口面に沿って噴射されることで、シールガスが炉の出入り口を塞ぎ、炉外のガスが炉内に混入することを防ぐことができる。また、シールガスを装置外に排気することにより、シールガスが炉内に混入することを防ぐことができる。
【0057】
なお、シールガスは不活性ガスであることが好ましく、特に安全性、コストなどの点から窒素であることが好ましい。1つのシールガス噴射部101b〜103bおよび1つの排気部101a〜103aの配置としては、1つのシールガス噴射部に隣接して1つの排気部を配置してもよいし、メッシュベルト6aを挟んでシールガス噴射部に対面するように排気部を配置してもよい。なお、ガス混入防止手段101〜103の全体の構成が、炉長方向に対称な構造となるようにシールガス噴射部101b〜103bおよび排気部101a〜103aを配置することが好ましい。
【0058】
具体的には、例えば、1つの排気部の両端にシールガス噴射部を2つ配置し、排気部を中心にして炉長方向に対称な構造とするとよい。また、シールガス噴射部101b〜103bから噴射される全ガス流量と排気部101a〜103aから排気される全ガス流量とはほぼ同量であることが好ましい。これによって、ガス混入防止手段101〜103を挟んだ両側の空間からのガスが相互に混入することを防止するとともに、シールガスが両側の空間に流出することも防止することが可能になる。このようなガス混入防止手段101〜103をフォーメーション炉2aおよび成長炉3aの両端に設置することで、シールガスの流れと、フォーメーション炉2aおよび成長炉3a内のガスの流れとが相互に干渉することを防止できる。また、シールガスのフォーメーション炉2aおよび成長炉3a内への流入によるガス流れの乱れも防止することができる。よって、CNTの連続製造に好適な装置を実現できる。
【0059】
なお、ガス混入防止手段101〜103としては、本実施形態における構成に限らず、例えば、触媒基材20がユニットからユニットに移動する時間以外の時間に、各ユニットの空間的な接続を機械的に遮断するゲートバルブ装置であってもよい。また、各ユニットの空間的な接続を不活性ガス噴射によって遮断するガスカーテン装置であってもよい。
【0060】
ガス混入防止を確実に行うためには、ゲートバルブ装置および/またはガスカーテン装置と排気装置とを併用することが好ましい。また、触媒基材のユニット−ユニット間搬送を途切れなく行なうことによって連続的なCNT成長を効率的に行うという観点、および、製造装置の簡素化の観点からは、排気装置を単独で用いることがより好ましい。
【0061】
<冷却ユニット>
冷却ユニット4とは、成長工程後に冷却工程を実現するため、すなわちCNTが成長した触媒基材20を冷却するための装置一式のことである。冷却ユニット4は、成長工程後のCNT、および、触媒基材20を冷却し、高温状態にある成長工程後のCNT、触媒および基材が酸化するのを防止する機能を有する。
【0062】
冷却ユニット4は、水冷方式と空冷方式とを組み合わせた構成であり、不活性ガスを保持するための冷却炉4a、冷却炉4a内空間に不活性ガスを噴射する冷却ガス噴射部4b、および、冷却炉4a内空間を囲むように配置した水冷冷却管4cにより構成される。なお、冷却ユニット4は、水冷方式のみの構成または空冷方式のみの構成であってもよい。
【0063】
<出口パージ部>
製造装置100の出口には、入口パージ部1とほぼ同様の構造をした出口パージ部5が設けられている。出口パージ部5とは、触媒基材20の出口から製造装置100の内部に外部の空気が混入することを防止するための装置一式のことである。出口パージ部5は、触媒基材20の周囲環境をパージガス環境にする機能を有する。
【0064】
出口パージ部5は、パージガスを上下からシャワー状に噴射することで、出口から冷却炉4a内に外部の空気が混入することを防止している。なお、出口パージ部5は、パージガス環境を保持するための炉またはチャンバ、および、パージガスを噴射するための噴射部等により構成されてもよい。
なお、パージガスとしては、不活性ガスが好ましく、特に安全性、コスト、および、パージ性等の点からパージガスは窒素であることが好ましい。
【0065】
搬送ユニット6がベルトコンベア方式である場合など、触媒基材20の出口が常時開口しているような場合は、出口パージ部5は、上述したようなガスカーテン構造であることが好ましい。この構成により、触媒基材20の出口から製造装置100の内部に外部の空気が混入することを防止することができる。
【0066】
そして、上述した構成を有する製造装置100によれば、フォーメーション炉2aおよび成長炉3aにおいて、噴射部2b,3bの配置位置を変更することができるので、触媒基材20と噴射部2b,3bとの間の距離を変更して、好適な条件下でCNTを製造することができる。特に、製造装置100では、触媒基材20の搬送方向(
図6では右方向)に複数の噴射部2b,3bが設けられており、且つ、各噴射部2b,3bの位置を個別に変更することができるので、搬送方向上流側から下流側に向かって、各噴射部2b,3bの位置を触媒の状態やCNTの成長状態に合わせた適切な位置にすることができる。
【0067】
以上、本発明の好ましい実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨の範囲内で様々な変形や変更が可能である。
【0068】
具体的には、第一実施形態および第二実施形態の製造装置では、噴射部の配置位置を変更することにより触媒基材と噴射部との間の距離を変更したが、本発明の製造装置では、既知の駆動装置を用いて載置部または搬送部の位置を
図1,6では上下方向に移動させることにより触媒基材と噴射部との間の距離を変更してもよい。但し、簡素な構成を用いて触媒基材と噴射部との間の距離を容易に調整する観点からは、噴射部の配置位置を変更することにより触媒基材と噴射部との間の距離を変更することが好ましい。
【0069】
また、第一実施形態および第二実施形態の製造装置では、水平方向に延在する支持管を設け、気体供給管を支持管内で鉛直方向に変位させることで噴射部を鉛直方向に変位させたが、本発明の製造装置では、支持管を鉛直方向に延在させ、例えば第1フランジと第2フランジとの間に設置するパッキンの厚さを変更することにより噴射部を鉛直方向に変位させてもよい。
【0070】
更に、第一実施形態および第二実施形態の製造装置では、第1フランジおよび第2フランジ、並びに、受け台80および載置部材81を保持治具として用いたが、保持治具は当該構成に限定されるものではない。具体的には、保持治具としては、支持管に挿抜可能であり、且つ、気体供給管が挿通される位置に貫通孔を有する充填部材であってもよい。このような充填部材を、貫通孔の位置を異ならせて複数準備しておくことで、気体供給管の位置を所望の位置に変更しつつ、支持管に対して気体供給管を保持することができる。
【0071】
また、第二実施形態の製造装置100においては、フォーメーション炉2aおよび成長炉3aの双方において、噴射部2b,3bの配置位置を変更することを可能としたが、本発明の製造装置では、フォーメーション炉2aおよび成長炉3aの何れか一方のみにおいて噴射部の配置位置を変更可能にしてもよい。更に、第二実施形態の製造装置100においては、フォーメーションユニット2、成長ユニット3、および、冷却ユニット4の順に各ユニットを設けて、接続部7〜9にて各炉内空間を空間的に接続している。しかし、フォーメーション工程、成長工程、および、冷却工程以外の他の工程を実現するユニットをどこかに複数追加して、接続部7〜9にて各ユニットの炉内空間を空間的に接続してもよい。また、第二実施形態においては、フォーメーションユニット2、成長ユニット3、および、冷却ユニット4の各ユニットの配置が直線状配置である場合について説明したが、各ユニットの配置はこれに制限されるものではなく、例えば環状配置であってもよい。