(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6372325
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】同軸ケーブル及びそれを用いた医療用ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 11/18 20060101AFI20180806BHJP
H01B 11/20 20060101ALI20180806BHJP
A61B 8/00 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
H01B11/18 D
H01B11/20
A61B8/00
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-240065(P2014-240065)
(22)【出願日】2014年11月27日
(65)【公開番号】特開2016-103343(P2016-103343A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2017年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】黄 得天
(72)【発明者】
【氏名】渡部 考信
(72)【発明者】
【氏名】工藤 紀美香
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 晴之
【審査官】
和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−007145(JP,A)
【文献】
実開昭54−164480(JP,U)
【文献】
実開平05−036716(JP,U)
【文献】
特開平06−187863(JP,A)
【文献】
実公昭47−042307(JP,Y1)
【文献】
米国特許第04552989(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/00
A61B 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心導体と、
前記中心導体の周囲に囲繞形成されている絶縁体と、
を備えており、
前記絶縁体は、複数本の糸が編み込まれてなる網目層と前記網目層に熱融着されている補強層とを有していると共に前記網目層を外周面として前記中心導体の周囲に重ね巻きされている絶縁テープからなることを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項2】
前記糸は、ポリテトラフルオロエチレン又はポリエチレンで形成されており、前記補強層は、ポリエチレンテレフタレートで形成されている請求項1に記載の同軸ケーブル。
【請求項3】
前記絶縁体の周囲に囲繞形成されている保護体を更に備えている請求項1又は2に記載の同軸ケーブル。
【請求項4】
前記保護体は、前記絶縁体の周囲に巻き付けられている保護テープ又は前記絶縁体の周囲に非充実押出成型されている保護層からなる請求項3に記載の同軸ケーブル。
【請求項5】
前記絶縁テープは、厚さが30μm以下である請求項1から4の何れか一項に記載の同軸ケーブル。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載の複数本の同軸ケーブルを撚り合わせてなる複数本の心線ユニットが集合されてなることを特徴とする医療用ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断等の医療用途に好適な同軸ケーブル及びそれを用いた医療用ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波診断等の医療用途に使用されている医療用ケーブルの信号線においては、高周波信号を効率的に伝送するため、内部信号の漏洩や外部雑音の影響を低減することができる同軸構造が採用されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
同軸構造では、静電容量を下げるため、絶縁体として、数多の気泡を含有していると共に気泡を含有していない非発泡絶縁体よりも全体の誘電率が低い発泡絶縁体が使用されている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−367444号公報
【特許文献2】特開2011−228064号公報
【特許文献3】特開2012−104371号公報
【特許文献4】特開平5−54729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、発泡絶縁体を形成する際は物理発泡法や化学発泡法等の加圧充実方式で絶縁樹脂中に気泡を発生させるが(例えば、特許文献3を参照)、医療用ケーブルの細径化を目指して外径が小さい中心導体を使用している場合、中心導体が気泡発生時の発泡圧力に耐えきれず損傷を受けたり破断したりする虞がある。
【0006】
また、物理発泡法や化学発泡法等の加圧充実方式では、医療用ケーブルの細径化に伴い厚さが薄い発泡絶縁体を形成しようとしても、気泡が絶縁樹脂中に均一に分散している発泡絶縁体を形成することは困難であり、所望の電気特性を実現することができない。
【0007】
なお、中心導体の周囲に発泡絶縁体を囲繞形成する方法としては、発泡絶縁テープを中心導体の周囲に巻き付けて発泡絶縁体とする方法も知られているが(例えば、特許文献4を参照)、発泡絶縁テープは、数多の気泡を含有しているため、中心導体の周囲に巻き付ける際の巻付張力で気泡を起点に破断し易い。
【0008】
特に、AWG(American Wire Gauge)48以下である中心導体の周囲に発泡絶縁テープを巻き付ける場合、厚さが非常に薄く幅が非常に狭い発泡絶縁テープを使用する必要があるが、前述の通り、発泡絶縁テープが巻付張力で破断するため、発泡絶縁テープを中心導体の周囲に巻き付けて発泡絶縁体とすることは不可能に近い。
【0009】
そこで、本発明の目的は、外径が小さい中心導体を使用している場合であっても、中心導体の損傷や破断を回避し、所望の電気特性を実現することが可能な同軸ケーブル及びそれを用いた医療用ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために創案された本発明は、中心導体と、前記中心導体の周囲に囲繞形成されている絶縁体と、を備えており、前記絶縁体は、複数本の糸が編み込まれてなる網目層と前記網目層に熱融着されている補強層とを有していると共に前記網目層を外周面として前記中心導体の周囲に重ね巻きされている絶縁テープからなる同軸ケーブルである。
【0011】
前記糸は、ポリテトラフルオロエチレン又はポリエチレンで形成されており、前記補強層は、ポリエチレンテレフタレートで形成されていることが好ましい。
【0012】
前記絶縁体の周囲に囲繞形成されている保護体を更に備えていることが好ましい。
【0013】
前記保護体は、前記絶縁体の周囲に巻き付けられている保護テープ又は前記絶縁体の周囲に非充実押出成型されている保護層からなることが好ましい。
【0014】
前記絶縁テープは、厚さが30μm以下であることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、複数本の前記同軸ケーブルを撚り合わせてなる複数本の心線ユニットが集合されてなる医療用ケーブルである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、外径が小さい中心導体を使用している場合であっても、中心導体の損傷や破断を回避し、所望の電気特性を実現することが可能な同軸ケーブル及びそれを用いた医療用ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る同軸ケーブルを示す断面模式図である。
【
図3】本発明に係る医療用ケーブルを示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に順って説明する。
【0019】
図1に示すように、本発明の好適な実施の形態に係る同軸ケーブル100は、中心導体101と、中心導体101の周囲に囲繞形成されている絶縁体102と、絶縁体102の周囲に囲繞形成されている保護体103と、保護体103の周囲に囲繞形成されている遮蔽体104と、遮蔽体104の周囲に囲繞形成されているジャケット105と、を備えている。
【0020】
中心導体101は、同軸構造の内部導体を構成しており、例えば、銅や銅合金等の導電率が高い材料で形成されていると共にその表面に銀鍍金又は錫鍍金等が施されている単線又は撚線からなる。
【0021】
絶縁体102と保護体103は、同軸構造の絶縁体を構成しており、このうち、絶縁体102は、複数本の糸106が編み込まれてなる厚さが25μm以下程度である網目層107と網目層107に熱融着されている厚さが5μm以下程度である補強層108とを有していると共に網目層107を外周面として中心導体101の周囲に螺旋状に重ね巻きされている全体の厚さが30μm以下程度である絶縁テープ109からなる。
【0022】
保護体103は、同軸ケーブル100を曲げた際に遮蔽体104が空間110に入り込んだり、或いは、空間110に異物が侵入したり網目層107が損傷を受けたりして絶縁体102の空隙率が低下することを抑制しており、絶縁体102の周囲に巻き付けられている保護テープ又は絶縁体102の周囲に非充実押出成型(チューブ押出成型)されている保護層からなる。保護体103の厚さは、2.5μm以上6μm以下であることが好ましい。
【0023】
なお、保護体103は、絶縁体102に耐電圧を持たせるためにも設けることが望ましい。
【0024】
遮蔽体104は、同軸構造の外部導体を構成しており、例えば、銅や銅合金等の導電率が高い材料で形成されている編組シールドや横巻シールドからなる。
【0025】
ジャケット105は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の機械的特性に優れた樹脂からなる厚さが2μm以上6μm以下の樹脂テープを重ね巻きして形成されたり、フッ素樹脂等の機械的特性や耐薬品性が高い樹脂で厚さが30μm以下となるように形成されており、遮蔽体104の損傷による電気特性の劣化等を抑制している。
【0026】
糸106は、ポリテトラフルオロエチレン又はポリエチレン等の誘電率が低い材料で形成されており、補強層108は、引張強度が100MPa以上のポリエチレンテレフタレート、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の機械的強度が高い材料で形成されている。
【0027】
このうち、補強層108は、特に、引張強度が400MPa程度である強延伸ポリエチレンテレフタレートで形成されていることがより好ましい。
【0028】
これにより、補強層108の厚さが5μm以下程度であっても、中心導体101の周囲に絶縁テープ109を巻き付ける際の巻付張力による網目層107の延伸や破断を十分に抑制することができるため、同軸ケーブル100の細径化に貢献することが可能となる。
【0029】
網目層107は、例えば、
図2に示すように、並列配置されている複数本の緯糸111の一端から他端に架けてその並列方向に沿って経糸112がジグザグに往復して編み込まれてなるか(拡大部(a)を参照)、又は並列配置されている複数本の緯糸111と並列配置されている複数本の経糸112とが交互に編み込まれてなり(拡大部(b)を参照)、これらの糸106で支持されて網目層107の内部に空間110が均一に存在している。
【0030】
これにより、絶縁体102の空隙率を同軸ケーブル100の長手方向に亘って均一にすることができ、その結果として、絶縁体102の誘電率が同軸ケーブル100の長手方向に亘って均一となり、同軸ケーブル100において、所望の電気特性を実現することが可能となる。
【0031】
また、網目層107の網目の粗さ、即ち、絶縁体102の空隙率は、要求される誘電率に応じて適宜変更することができる。
【0032】
なお、複数本の糸106が編み込まれてなる網目層107の他にも、複数本の糸106が絡み合わされてなる不織布層を採用することもできる。
【0033】
絶縁テープ109は、ポリテトラフルオロエチレン又はポリエチレン等の誘電率が低い材料で形成されている複数本の糸106が編み込まれてなる網目シートとポリエチレンテレフタレート等の機械的強度が高い材料で形成されている補強シートとを熱融着させて貼り付けて一体化して絶縁シートとし、その後、絶縁シートを所望の幅と長さに切断して作製する。
【0034】
これにより、伸縮し易い形状である網目層107が補強層108で補強されるため、中心導体101の周囲に絶縁テープ109を巻き付ける際の巻付張力で網目層107が延伸されて空間110が潰れることを抑制すると共に網目層107が破断することを抑制することが可能となる。
【0035】
従って、本実施の形態に係る同軸ケーブル100によれば、同軸ケーブル100の細径化を目指して外径が小さい中心導体101を使用している場合であっても、絶縁体102として発泡絶縁体を使用していないため、中心導体101が損傷を受けたり破断したりすることを回避することができる。
【0036】
また、本実施の形態に係る同軸ケーブル100によれば、同軸ケーブル100の細径化に伴い厚さが薄い絶縁体102を形成することを目的として厚さが薄い絶縁テープ109を使用している場合であっても、網目層107の内部に空間110が均一に存在しているため、所望の電気特性を実現することができる。
【0037】
更に、本実施の形態に係る同軸ケーブル100では、同軸ケーブル100の細径化に伴い厚さが薄い絶縁体102を形成することを目的として厚さが薄い絶縁テープ109を使用している場合であっても、網目層107が補強層108で補強されているため、絶縁テープ109が中心導体101の周囲に巻き付ける際の巻付張力で破断し難い。
【0038】
そのため、本実施の形態に係る同軸ケーブル100によれば、AWG(American Wire Gauge)48以下である中心導体101の周囲に絶縁テープ109を巻き付ける場合であっても、絶縁テープ109が破断せず、絶縁テープ109を中心導体101の周囲に巻き付けて絶縁体102とすることが可能となる。
【0039】
なお、
図3に示すように、複数本の同軸ケーブル100を撚り合わせてなる複数本の心線ユニット200を、例えば、バインドテープ301、編組シールド302、シース303等で束ねてプローブケーブル等の医療用ケーブル300として使用することもできる。これにより、医療用ケーブル300の細径化にも貢献することが可能となる。
【0040】
以上の通り、本発明によれば、外径が小さい中心導体101を使用している場合であっても、中心導体101の損傷や破断を回避し、所望の電気特性を実現することが可能な同軸ケーブル100を提供することができる。
【符号の説明】
【0041】
100 同軸ケーブル
101 中心導体
102 絶縁体
103 保護体
104 遮蔽体
105 ジャケット
106 糸
107 網目層
108 補強層
109 絶縁テープ
110 空間
111 緯糸
112 経糸