(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
樹脂(B)が、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、非晶性ポリエステル系樹脂、非晶性ポリアミド系樹脂、及びポリカーボネート系樹脂から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフィルムカッター。
JIS K7125に従って測定した、ポリ塩化ビニル樹脂製ラップフィルムに対する静摩擦係数が0.4以上0.7以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のフィルムカッター。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態の一例について説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0020】
[用語の説明]
一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、その厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいい、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいう(日本工業規格JISK6900)。例えば厚さに関して言えば、狭義では100μm以上のものをシートと称し、100μm未満のものをフィルムと称すことがある。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0021】
本発明において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現した場合、特に断らない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含するものとする。
また、本発明において、「X以上」(Xは任意の数字)と表現した場合、特に断らない限り、「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、特に断らない限り、「好ましくはYより小さい」の意を包含するものとする。
【0022】
また、本発明におけるアクリル系樹脂及び無機微粒子の平均粒径とは、主に、レーザー回折法により測定されるD
50の値を示す。
【0023】
[フィルムカッター]
本発明のフィルムカッターは、ポリ乳酸系樹脂(A)と樹脂(B)とからなる樹脂成分を主成分とする層(以下、この層を「(A)/(B)層」と称す場合がある。)を一層以上有するフィルムカッターであって、樹脂(B)の80℃における貯蔵弾性率(E’)が700MPa以上5000MPa以下であり、樹脂成分に占める樹脂(B)の割合が、0.5質量%以上50質量%以下であることを特徴とする。
なお、ここで、「主成分」とは、(A)/(B)層中の成分として、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは95〜100質量%含まれるものをいう。
【0024】
本発明のフィルムカッターは、(A)/(B)層のみからなる単層フィルムよりなるものであってもよく、二層以上の(A)/(B)層、或いは、(A)/(B)層と(A)/(B)層以外の層との積層フィルムであってもよい。ただし、(A)/(B)層は、その表面の滑り性により巻戻り現象を抑制するための層であることから、積層フィルムの場合、(A)/(B)層はフィルムカッターの表面層として設けられる。
以下において、本発明のフィルムカッターを構成する(A)/(B)層よりなるフィルム、或いは(A)/(B)層を含む積層フィルムを、「本発明のフィルム」と称す場合がある。
【0025】
1.ポリ乳酸系樹脂(A)
ポリ乳酸系樹脂(A)としては、構造単位がL乳酸であるポリ(L乳酸)、構造単位がD乳酸であるポリ(D乳酸)、構造単位がL乳酸及びD乳酸であるポリ(DL乳酸)、或いはこれらの混合樹脂を用いることができる。また、これらと、α−ヒドロキシカルボン酸やジオール及び/又はジカルボン酸との共重合体を用いることもできる。
【0026】
ポリ乳酸系樹脂(A)におけるL−乳酸(L体)とD−乳酸(D体)の比率(モル比)を最適化することにより、(A)/(B)層に最適な結晶融解熱量(ΔHm)に調整することが好ましい。すなわち、L−乳酸(L体)とD−乳酸(D体)の比率(モル比)を最適化することにより、ポリ乳酸系樹脂(A)の結晶融解熱量(ΔHm)が30J/g以上となるように調整することが好ましい。
【0027】
ポリ乳酸系樹脂(A)の結晶融解熱量(ΔHm)が30J/g以上であれば、フィルムカッターとしての強度を十分に維持することができ、カット性も十分に高めることができる。
かかる観点から、ポリ乳酸系樹脂(A)の結晶融解熱量(ΔHm)は35J/g以上に調整するのがより好ましく、中でも40J/g以上に調整するのがさらに好ましい。
なお、ポリ乳酸系樹脂(A)の結晶融解熱量(ΔHm)の上限は特に設ける必要はなく、結晶融解熱量(ΔHm)は高いほど強度も高くなり、フィルムカッター、つまりプラスチック製の刃としての性能を十分に発揮させることが可能である。
【0028】
例えば、モル比で、L体/D体=100/0〜97/3、若しくは、L体/D体=0/100〜3/97のポリ乳酸系樹脂(A―1)と、L体/D体=97/3〜85/15、若しくは、3/97〜15/85のポリ乳酸系樹脂(A−2)とを、100/0〜50/50の質量割合で混合して、ポリ乳酸系樹脂(A)の結晶融解熱量(ΔHm)が30J/g以上となるように調整することが好ましい。特に100/0〜90/10の割合で混合することがより好ましく、中でも100/0〜95/5の割合で混合することがさらに好ましい。
なお、ポリ乳酸系樹脂(A)の結晶融解熱量(ΔHm)は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。後掲の実施例において、結晶融解熱量(ΔHm)は、単に「ΔHm」と記載する。
【0029】
ポリ乳酸系樹脂(A)は、前述のようにα−ヒドロキシカルボン酸や脂肪族ジオール等のジオール及び/又は脂肪族ジカルボン酸等のジカルボン酸との共重合体であってもよい。
この際、ポリ乳酸系樹脂に共重合されるα−ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸の光学異性体(L−乳酸に対してはD−乳酸、D−乳酸に対してはL−乳酸)、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシn−酪酸、2−ヒドロキシ3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸や、カプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。
ポリ乳酸系樹脂に共重合される脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられ、脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。
【0030】
ポリ乳酸系樹脂の重合法としては、縮重合法、開環重合法、その他の公知の重合法を採用することができる。例えば、縮重合法では、L−乳酸またはD−乳酸、或いはこれらの混合物を直接脱水縮重合して任意の組成を持ったポリ乳酸系樹脂を得ることができる。
また、開環重合法では、乳酸の環状二量体であるラクチドを、必要に応じて重合調整剤等を用いながら、選ばれた触媒を使用してポリ乳酸系重合体を得ることができる。この際、ラクチドにはL−乳酸の2量体であるL−ラクチド、D−乳酸の2量体であるD−ラクチド、或いはL−乳酸とD−乳酸とからなるDL−ラクチドを用いることができ、これらを必要に応じて混合して重合することにより任意所望の組成、結晶性をもつポリ乳酸系樹脂を得ることができる。
【0031】
耐熱性を更に向上させるなどの必要に応じ、ポリ乳酸系樹脂の本質的な性質を損なわない範囲で、すなわちポリ乳酸系樹脂成分を90質量%以上含有する範囲で、少量共重合成分として、テレフタル酸のような非脂肪族ジカルボン酸、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のような非脂肪族ジオールを加えてもよい。
さらにまた、分子量増大を目的として少量の鎖延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物などを加えてもよい。
【0032】
ポリ乳酸系樹脂(A)の重量平均分子量は、5万以上40万以下であるのが好ましく、特に10万以上25万以下であるのがより好ましい。ポリ乳酸系樹脂(A)の重量平均分子量がこの範囲の下限値以上であれば、好ましい実用物性を得ることができ、上限値以下であれば、溶融粘度が高過ぎることがないことから、良好な成形加工性を得ることができる。
【0033】
本発明で好ましく使用されるポリ乳酸系樹脂(A)の代表的なものとしては、Nature Works社製の「Nature Works」等が商業的に入手できるものとして挙げられる。
【0034】
2.樹脂(B)
本発明に用いる樹脂(B)は、80℃における貯蔵弾性率(E’)が700MPa以上5000MPa以下であり、ポリ乳酸系樹脂(A)と相溶せず分散する樹脂である。樹脂(B)がポリ乳酸系樹脂(A)中で分散することにより、本発明のフィルム表面の滑り性を高め、本発明による逆戻り現象抑制効果を得ることができる。
【0035】
樹脂(B)の80℃における貯蔵弾性率(E’)は、巻戻り現象抑制効果を得るために、700MPa以上5000MPa以下であり、好ましくは1000MPa以上4000MPa以下、特に好ましくは1500MPa以上3000MPa以下である。
樹脂(B)の貯蔵弾性率(E’)が700MPa以上であれば、延伸した際に樹脂(B)がポリ乳酸系樹脂(A)中に分散した状態で、滑り性を高めることができる。一方、5000MPa以下であれば、フィルムの延伸性を阻害することなく、破断せずに延伸することができる。
【0036】
樹脂(B)の貯蔵弾性率(E’)は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。なお、後掲の実施例において、80℃における貯蔵弾性率(E’)を単に「E’」と記載する。
【0037】
樹脂(B)として採用できるものとしては、例えば、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、非晶結性ポリエステル系樹脂、非晶性ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などが挙げられる。
特に、樹脂(B)としてポリスチレン系樹脂を用いることで、より優れた滑り性の改善効果が得られると共に、外観やハンドリングにも問題を生じることのないフィルムカッターを提供することができ、好ましい。
【0038】
<ポリスチレン系樹脂>
本発明の樹脂(B)として使用されるポリスチレン系樹脂としては、GPPS(汎用ポリスチレン)、HIPS(耐衝撃性ポリスチレン)、SBS(スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体)、SIS(スチレン−イソプレン−スチレン共重合体)、SEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合)、SEPS(スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体)、スチレン−カルボン酸共重合体、又は、これらの共重合体等の有機微粒子で、架橋度を上げたものなどが挙げられるが、剛性の点からGPPSを用いることが好ましい。
【0039】
上記ポリスチレン系樹脂の代表的なものとしては、GPPSとしてはPSジャパン社製の「G9305」、SBSとしては旭化成ケミカルズ社製の「アサフレックス」シリーズ、SEBSとしては旭化成ケミカルズ社製の「タフテック」シリーズやクラレ社製の「セプトン」シリーズが商業的に入手できるものとして挙げられる。
【0040】
<アクリル系樹脂>
本発明の樹脂(B)として使用されるアクリル系樹脂としては、ビーズ状架橋性アクリル樹脂(架橋アクリルビーズ)が好ましい。ビーズ状架橋性アクリル樹脂は、アクリル系モノマーを主体とする非架橋モノマーに、少量の架橋性モノマー(例えばアリルメタクリレート、トリアリルシアヌレートなど)を配合して懸濁重合したものである。
【0041】
上記非架橋モノマーとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレートなどを単独または2種以上併用することができるが、メチルメタクリレートを主体とするものが特に好ましい。また架橋性モノマーは、非架橋モノマー100質量部に対して例えば1〜5質量部の範囲で配合することができる。
ビーズ状架橋性アクリル樹脂としては、特に、架橋ポリメチルメタクリレート(PMMA)粒子が好ましい。
【0042】
本発明で用いられるビーズ状架橋性アクリル樹脂の平均粒径は、1μm以上20μm以下、特に1μm以上3μm以下であることが好ましい。平均粒径が1μm以上であれば、(A)/(B)層表面に突出し、滑り性を高めることができる。また、平均粒径が1μm以上であると、その混練工程において均一に分散させ易い。一方、平均粒径が20μmを超えると(A)/(B)層の機械的強度が低減し、脱落の恐れも生じる。平均粒径が3μm以下であれば、延伸工程において樹脂が(A)/(B)層表面に突出した後も、本発明のフィルムの外観を良好に保つことができる。
【0043】
上記アクリル系樹脂の代表的なものとしては、綜研化学社製の「ケミスノー」シリーズ」やアイカ工業社製の「ガンツパール」シリーズが商業的に入手できるものとして挙げられる。
【0044】
<非晶性ポリエステル系樹脂>
本発明の樹脂(B)として使用される非晶性ポリエステル系樹脂は、JIS K7121に準じて、示差熱走査型熱量計(DSC)により−50℃から300℃まで加熱速度10℃/分で昇温し、300℃で1分間保持した後、−50℃まで冷却速度10℃/分で降温を行い、−50℃で1分間保持した後、再度300℃まで加熱速度10℃/分で昇温した際、2度目の昇温時に明確な融解ピークが現れないポリエステル系樹脂であり、好ましくは2種類以上のジオール成分を共重合原料として用いて得られるものである。また、ポリエステル系樹脂原料のジオール成分のうち少なくとも1種は、環状構造を分子内に有する比較的嵩高いジオールであることが好ましい。前記環状構造は、二重結合を含まない環状構造であることが好ましく、また分子内にはエーテル結合に由来する酸素原子を含有していても良い。
【0045】
このような嵩高いジオール成分の例として、3,9−ビス(1,1―ジメチル−2−ジヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ−(5,5)−ウンデカン(以下、スピログリコールと称する)や、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール(以下、TMCDと称する)、(3S,3aα,6aα)−ヘキサヒドロフロ[3,2−b]フラン−3α,6β−ジオール(以下、イソソルビドと称する)、トリシクロデカンジメタノールなどを挙げることができる。
【0046】
前記以外のジオール成分の例としては、ジエチレングリコール、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、p−キシレンジオール、ビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2−ヒドロキシエチルエーテル)などが挙げられる。中でも、工業的に安価であり、結晶性とガラス転移温度を制御しやすいという理由から、エチレングリコールが好ましい。
【0047】
非晶性共重合ポリエステル系樹脂における、前記の嵩高いジオール成分の含有比率は、非晶性共重合ポリエステル系樹脂に含まれる全ジオール成分に対して、20モル%以上であることが好ましく、30モル%以上であることがさらに好ましく、40モル%以上であることが特に好ましい。また、嵩高いジオール成分の含有比率の上限は特に限定されないが、含有比率が過度に高いと、ジオール成分の種類によっては溶融時の流動性が損なわれるなど問題が生じるおそれがあることから、70モル%以下であることが好ましい。
【0048】
非晶性共重合ポリエステル系樹脂に用いられるジカルボン酸成分の例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2,5−ジクロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、4,4−スチルベンジカルボン酸、4,4−ビフェニルジカルボン酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビス安息香酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4−ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−Naスルホイソフタル酸、エチレン−ビス−p−安息香酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。本発明においては、工業的に安価であり、また合成した非晶性共重合ポリエステル系樹脂が化学的に安定であることから、ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸が特に好ましい。
【0049】
JIS K7367に準じてウベローデ型粘度計により測定される非晶性共重合ポリエステル系樹脂の極限粘度(IV)は特に限定されるものではないが、通常0.5dl/g以上0.9dl/g以下であり、0.6dl/g以上0.8dl/g以下であることが好ましい。極限粘度(IV)が上記の範囲にあれば、(A)/(B)層の機械強度と溶融時の流動性を両立させることができるため好ましい。
【0050】
非晶性共重合ポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)はJIS K7121に準じてDSCにより−50℃から300℃まで加熱速度10℃/分で昇温して測定され、80℃以上であることが必要であり、より好ましくは85℃以上、さらに好ましくは90℃以上、特に好ましくは95℃以上である。また、ガラス転移温度(Tg)の上限は特に限定されるものではないが、通常130℃以下である。非晶性共重合ポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)が80℃未満であると、本発明のフィルムの延伸温度条件下における耐熱性が不足するため好ましくない。非晶性共重合ポリエステル系樹脂の共重合成分を前記範囲で調整することにより、ガラス転移温度(Tg)を好ましい範囲とすることができる。
【0051】
上記非晶性ポリエステル系樹脂の代表的なものとしては、三菱ガス化学社製の「ALTESTER」(スピログリコールを使用)や、EASTMAN Chemical社製の「TRITAN」(TMCDを使用)、及びSK Chemical社製の「ECOZEN」(イソソルビドを使用)が商業的に入手できるものとして挙げられる。
【0052】
<非晶性ポリアミド系樹脂>
本発明の樹脂(B)として使用される非晶性ポリアミド系樹脂とは、結晶融解熱量(ΔHm)が5J/g未満のポリアミド系樹脂をいう。
【0053】
前記非晶性ポリアミド系樹脂を構成するジカルボン成分は特に限定されず、芳香族ジカルボン酸、脂肪族カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸から誘導されるジカルボン酸のいずれでもよい。
また、前記非晶性ポリアミド系樹脂を構成するジアミン成分は特に限定されず、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミンのいずれでもよい。
結晶融解熱量(ΔHm)が5J/g未満の非晶性ポリアミド系樹脂を構成するために、ジカルボン酸成分とジアミン成分のいずれかが嵩高いことが好ましい。
【0054】
かかる非晶性ポリアミド系樹脂の具体例としては、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンテレフタルアミド(ポリアミドPACMT)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンイソフタルアミド(ポリアミドPACMI)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンテトラデカミド(ポリアミドPACM14)、またはこれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
前記非晶性ポリアミド系樹脂のガラス転移温度(Tg)は100℃以上200℃以下であることが好ましく、110℃以上190℃以下であることがより好ましく、120℃以上180℃以下であることがさらに好ましい。
ガラス転移温度(Tg)が100℃以上であれば、本発明のフィルムが耐熱性、寸法安定性に優れる。一方、ガラス転移温度(Tg)が200℃以下であれば、成形性、靱性に優れる。
なお、非晶性ポリアミド系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7244−10に準じて、粘弾性スペクトロメーターDVA−200(アイティー計測制御株式会社製)を用い、歪み0.1%、周波数10Hz、昇温速度3℃/分にて動的粘弾性の温度分散測定を行った際に、損失正接(tanδ)の主分散のピークを示す温度である。
【0056】
上記非晶性ポリアミド系樹脂の代表的なものとしては、三井・デュポンケミカル社製の「SELAR」やユニチカ社製の「ユニチカナイロン6」が商業的に入手できるものとして挙げられる。
【0057】
<ポリカーボネート系樹脂>
本発明の樹脂(B)として使用されるポリカーボネート系樹脂としては、二価フェノールと、ホスゲン、炭酸エステル化合物等のカーボネート前駆体とを反応させることによって製造したものが挙げられる。ポリカーボネート系樹脂は、例えば、塩化メチレン等の溶媒中において、二価フェノールとホスゲン等のカーボネート前駆体との反応により製造される。あるいは溶媒の存在下または不存在下に、二価フェノールと炭酸エステル化合物等のカーボネート前駆体とのエステル交換反応などによって得ることができる。
【0058】
二価フェノールとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン等のビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン系化合物、ビス(4−ヒドロキシフェニル)サルファイド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられ、好ましくはビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン系化合物、特にビスフェノールAである。これらの二価フェノールは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0059】
カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カルボニルエステル、またはハロホルメート等が挙げられ、例えば、ホスゲン、ジフェニルカーボネート、二価のフェノールのジハロホルメートおよびそれらの混合物が挙げられる。
【0060】
本発明に用いるポリカーボネート系樹脂は、前記二価フェノールの1種を用いたホモポリマーであってもよく、また2種以上を用いたコポリマーであってもよい。さらに、多官能性芳香族化合物を前記二価フェノールと併用して得られる熱可塑性ランダム分岐ポリカーボネート樹脂であってもよい。さらには、各種のポリカーボネート樹脂の2種以上の混合物であってもよい。
【0061】
上記ポリカーボネート系樹脂の代表的なものとしては、三菱エンジニアリングプラスチックス社製の「ユーピロン」や住友ダウ社製の「カリバー」が商業的に入手できるものとして挙げられる。
【0062】
3.無機微粒子(C)
(A)/(B)層には、フィルムカッター使用時の視認性を高めて安全性を確保するなどの目的で、必要に応じて無機微粒子(C)を配合することもできる。
【0063】
無機微粒子(C)としては、タルク、カオリン、炭酸カルシウム、ベントナイト、マイカ、セリサイト、ガラスフレーク、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、硫酸バリウム、酸化チタン、チタン酸鉛、チタン酸カリウム、酸化ジルコン、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化亜鉛、ホウ酸亜鉛、含水ホウ酸カルシウム、アルミナ、マグネシア、ウォラストナイト、ゾノトライト、セピオライト、ウィスカー、ガラス繊維、ガラスフレーク、金属粉末、ビーズ、シリカバルーン、シラスバルーンなどを挙げることができる。これらのうちの何れかを単独で用いることも、また、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0064】
これらの中でも、特に屈折率が1.6以上、特に2.0以上のものを用いることにより、より低添加量で効率的に隠蔽性を付与し、優れた視認性を得ることができる。
屈折率が1.6以上、特に2.0以上の無機微粒子の具体例としては、硫酸バリウム、マグネシア、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化ジルコン、チタン酸カリウム、チタン酸鉛、酸化チタンなどを挙げることができるが、屈折率の最も高い酸化チタンを配合することが特に好ましい。
【0065】
上記無機微粒子(C)の平均粒径は0.1μm〜5μmが好ましく、0.15μm〜3μmがより好ましい。平均粒径が5μm以下であれば、無機微粒子(C)が破壊の開始点となり難いためフィルムカッターの強度や伸びを維持することができる。一方、平均粒径が0.1μm以上であれば、無機微粒子(C)が凝集し難いため、分散不良を生じ難く好適である。
【0066】
4.各成分の含有割合
(A)/(B)層におけるポリ乳酸系樹脂(A)の含有割合は、ポリ乳酸系樹脂(A)と樹脂(B)の合計である樹脂成分100質量%に対して、50質量%以上99.5質量%以下であり、好ましくは60質量%以上98質量%以下、特に好ましくは70質量%以上97.5質量%以下である。
一方、樹脂(B)の含有割合は、ポリ乳酸系樹脂(A)と樹脂(B)の合計である樹脂成分100質量%に対して、0.5質量%以上50質量%以下であり、好ましくは2質量%以上40質量%以下、特に好ましくは2.5質量%以上30質量%以下である。
ポリ乳酸系樹脂(A)の含有割合が50質量%以上、特に70質量%以上であれば、ポリ乳酸系樹脂(A)の有する剛性、耐熱性を維持することができ、フィルムカッターとしての性能を十分に発揮することができる。
一方、樹脂(B)の含有割合が0.5質量%以上であれば、巻戻り現象を有効に防止することができ、また、50質量%以下であれば、延伸工程においてフィルムが破断することなく、延伸することができる。
【0067】
無機微粒子(C)は任意成分であり、(A)/(B)層は無機微粒子(C)を含んでいなくてもよい。(A)/(B)層における無機微粒子(C)の含有割合は、ポリ乳酸系樹脂(A)と樹脂(B)と無機微粒子(C)の合計100質量%に対して、0質量%以上30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以上20質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上15質量%以下であり、特に好ましくは1質量%以上10質量%以下である。
(A)/(B)層が無機微粒子(C)を含む場合、その含有量が0.1質量%以上であれば、フィルムカッターの隠蔽性が十分であり、且つ使用時における視認性が十分であって取り扱い時の安全性を高めることができる。他方、無機微粒子(C)の含有量が30質量%以下であれば、フィルムカッター製造時の延伸工程において、樹脂成分と無機微粒子(C)との界面にボイドが発生することを抑えることができ、フィルムカッターの剛性が低下したり、各種フィルムの切断性が損なわれたりするのを防止することができる。
【0068】
また、本発明に係る(A)/(B)層には、本発明の効果を損なわない範囲で、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、核剤、滑剤、顔料、染料等の添加剤や、ポリ乳酸系樹脂(A)及び樹脂(B)以外の樹脂を配合することができる。
【0069】
5.その他の層
本発明のフィルムは、一層の(A)/(B)層よりなるものであってもよく、二層の(A)/(B)層の積層フィルムであってもよい。また、(A)/(B)層と(A)/(B)層以外の層との積層フィルムであってもよい。例えば、(A)/(B)層を表裏層とし、これらの間に(A)/(B)層以外の層(以下、「その他の層」と称す場合がある。)が中間層として設けられた三層積層フィルムであってもよい。また、(A)/(B)層とその他の層との二層積層フィルムであってもよい。この二層積層フィルムの場合、フィルムカッター付収納箱において、(A)/(B)層がラップフィルム等との当接面となるように設けられる。
(A)/(B)層にその他の層を積層した積層フィルムとすることにより、剛性、機械特性、カット性、耐熱性等を向上させることができる。
【0070】
その他の層としては、特に制限はないが、ポリ乳酸系樹脂(A)、又はポリ乳酸系樹脂(A)と前述の無機微粒子(C)とを主成分とするものが好ましく、前述の(A)/(B)層における無機微粒子(C)の含有量と同様の理由から、ポリ乳酸系樹脂(A)と無機微粒子(C)の合計100質量%に対して、無機微粒子(C)を0質量%以上30質量%以下、特に0.1質量%以上20質量%以下、中でも0.5質量%以上15質量%以下、とりわけ1質量%以上10質量%以下含むものが好ましい。
【0071】
このその他の層についても、本発明の効果を損なわない範囲で、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、核剤、滑剤、顔料、染料等の添加剤やポリ乳酸系樹脂(A)以外の樹脂を配合することができる。
【0072】
6.本発明のフィルムの製造方法
本発明のフィルムは、公知の方法により製造することができる。例えば、一層の(A)/(B)層のみからなる本発明のフィルムは、ポリ乳酸系樹脂(A)、樹脂(B)、及び必要に応じて用いられる無機微粒子(C)、その他の樹脂や添加剤を、前記した混合比になるよう混合、混錬して、単軸又は2軸押出機により押出すことにより製造することができる。
また、二層、或いは三層以上の積層フィルムよりなる本発明のフィルムの場合、その他の層は、ポリ乳酸系樹脂(A)、及び必要に応じて用いられる無機微粒子(C)、その他の樹脂や添加剤を、前記した混合比になるよう混合、混錬して、単軸又は2軸押出機により押出すことにより製造することができる。
【0073】
(A)/(B)層とその他の層とは、共押出、押出ラミネート、熱ラミネート、ドライラミネート等により積層することができる。
【0074】
共押出の場合、(A)/(B)層とその他の層を、複数台の押出機を用いてフィードブロックやマルチマニホールドダイを通じ樹脂組成物を合流させて積層フィルムを製造することができる。
【0075】
本発明のフィルムは、少なくとも一方向に延伸されていることが好ましい。少なくとも一方向に延伸することにより、剛性、機械特性、フィルム切断性、耐熱性に優れたフィルムカッターを形成することができる。
【0076】
延伸条件は、本発明のフィルムの密度が後述の好適範囲となるように調整することが好ましい。具体的には、延伸温度範囲としては65℃以上95℃以下が好ましく、67℃以上90℃以下がより好ましく、70℃以上87℃以下がさらに好ましい。延伸温度がかかる範囲の下限値以上であれば、延伸時におけるボイドの発生を抑制でき、密度の低下を防ぎ、結果としてフィルムカッターの剛性並びにフィルム切断性の低下を防ぐことができる。一方、延伸温度がかかる範囲の上限値以下であれば、延伸時にポリ乳酸系樹脂(A)が結晶化しないため、十分な延伸を行うことができ、フィルムの破断を生じることがない。
【0077】
また、延伸倍率としては、面積倍率で2倍以上16倍以下が好ましく、3倍以上12倍以下がより好ましく、4倍以上9倍以下がさらに好ましい。面積延伸倍率がかかる範囲の下限値以上であれば、延伸時の厚み分布にムラが生じることがなく、フィルム切断性の低下を防止できる。一方、面積延伸倍率がかかる範囲の上限値以下であれば、延伸時にフィルム内のボイドを抑制し、密度の低下を防ぐことができ、結果としてフィルムカッターの剛性及びフィルム切断性の低下を防ぐことができる。
【0078】
上記の延伸処理後は、熱収縮を抑制するために、延伸後のフィルムを把持した状態で熱処理(ヒートセット)を行うことが好ましい。通常、ロール法では延伸後加熱ロールに接触させて熱処理を行い、テンター法ではクリップでフィルムを把持した状態で熱処理を行う。熱処理温度は使用する樹脂の混合比率、種類によるが、100℃以上150℃以下の範囲とすることが好ましい。このような熱処理を施すことにより、より優れた耐熱性、機械特性を付与することができる。
【0079】
7.本発明のフィルムの物性等
(A)/(B)層の厚みは、本発明のフィルムの層構成によっても異なるが、(A)/(B)層一層当たりの厚みは、180μm以上400μm以下であるのが好ましく、200μm以上380以下であるのがより好ましく、220μm以上350μm以下であるのが更に好ましい。(A)/(B)層の厚みが上記範囲の下限値以上であることにより、(A)/(B)層はフィルムカッターとしてラップフィルム等を切断する際に十分な剛性を有する。一方、上記範囲の上限値以下であることにより、フィルム切断性等を保つことができる。
【0080】
本発明のフィルムが、前述のその他の層との積層フィルムである場合、その他の層の厚みとしては、3μm以上100μm以下であるのが好ましく、5μm以上80以下であるのがより好ましく、10μm以上50μm以下であるのが更に好ましい。その他の層の厚みが上記範囲の下限値以上であることにより、その他の層を設けることによる前述の効果を有効に得ることができる。一方、上記範囲の上限値以下であることにより、フィルムカッターとしての、剛性や機械特性を保つことができる。
【0081】
特に本発明のフィルムは、(A)/(B)層とその他の層との積層フィルムとすることにより、総厚みが、183μm以上500μm以下、特に205μm以上460μm以下、とりわけ230μm以上400μm以下のフィルムとすることが好ましい。かかる範囲内の厚みを有するフィルムを用いることにより、優れた剛性、機械特性、フィルム切断性、耐熱性を有するフィルムカッターを提供することができる。
【0082】
本発明のフィルムの密度は、1.19g/cm
3以上1.51g/cm
3以下であるのが好ましく、特に1.20g/cm
3以上1.48g/cm
3以下、とりわけ1.24g/cm
3以上1.41g/cm
3以下であるのが好ましい。本発明のフィルムの密度が上記範囲内であれば、剛性、フィルム切断性に優れたフィルムカッターとすることができる。
【0083】
8.フィルムカッターの作製
本発明のフィルムを、トムソン刃などを用いて、例えば後掲の
図1のように鋸刃状に切断することにより、本発明のフィルムカッターを作製することができる。
但し、本発明のフィルムカッターの形状は、
図1に示されるような形状に限定されるものではない。
【0084】
9.フィルムカッターの物性
本発明のフィルムカッターは、(A)/(B)層に対して、JIS K7125に従って測定した、ポリ塩化ビニル樹脂製ラップフィルムに対する静摩擦係数が0.4以上0.7以下、特に0.5以上0.6以下であることが好ましい。
この静摩擦係数の値が0.4未満であると、フィルム同士の滑り性が過剰となり、生産工程や加工工程において本発明のフィルムを巻き取ることが困難になる。一方、0.7を上回る場合、ラップフィルムとの滑り性が悪く、巻戻り現象が生じ易くなる。
【0085】
本発明のフィルムカッターは、(A)/(B)層に対して、後掲の実施例の項に記載される方法で測定した表面粗さが25nm以上1000nm以下であることが好ましい。
表面粗さが上記範囲内であれば、静摩擦係数を前記範囲に調整することが容易となり、生産性や加工性を損なうことなく、巻戻り現象抑制効果に優れたものとすることができる。より好ましい表面粗さは50nm以上500nm以下である。
【0086】
[フィルムカッター付収納箱]
本発明のフィルムカッターは、紙製収納箱(カートン)の前板、底板、或いは、蓋板などの板面に、(A)/(B)層側が収納箱に収納されている薄膜フィルムに当接する側となるように配置し、超音波溶着により固着することにより、収納箱に取り付けることができ、フィルムカッター付収納箱とすることができる。そして、このようなフィルムカッター付収納箱は、例えばラップフィルムやアルミホイル、クッキングシート等の薄膜フィルムを紙筒等に巻いた状態で収納することができる。
【実施例】
【0087】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら制限を受けるものではない。
【0088】
[測定・評価方法]
実施例及び比較例における物性等の測定・評価方法は以下の通りである。
【0089】
(1)静摩擦係数の測定
各実施例及び比較例で得られたフィルムの滑り性を評価するために、JIS K7125にてラップフィルム(三菱樹脂(株)製:商品名「ダイアラップ」、ポリ塩化ビニル樹脂製、厚さ:13μm、幅:30cm)との静摩擦係数を測定した。静摩擦係数は、各実施例及び比較例で得られたフィルムの幅方向に対し2回測定し、その平均値により評価した。
【0090】
(2)表面粗さ(算術平均粗さ)の測定
各実施例及び比較例で得られたフィルムについて、次の装置、条件により、表面の算術平均粗さを測定し、フィルムの表面平滑性を評価した。
装置:直接位相干渉型顕微鏡VertScan2.0((株)菱化システム製)
条件:観察モード Waveモード
観察視野 939.87×713.17μm
【0091】
(3)巻戻り現象の評価
各実施例及び比較例で得られたフィルムを、トムソン刃を用いてプレス機で鋸刃状に打ち抜いて、
図1に示す形状のフィルムカッター(刃の高さ1mm、刃のピッチ1mm)を作製した。
そして、このフィルムカッターを、超音波溶着機を用いて、発振周波数19kHz、圧力0.3MPa、溶着時間0.3秒、溶着面が幅3mm幅、長さ310mmのホーンを使用してコートボール紙(厚さ520μm)に固着し、これを製箱し、その中に食品包装用ラップフィルム(三菱樹脂(株)製:商品名「ダイアラップ」、ポリ塩化ビニル樹脂製、厚さ:13μm、幅:30cm)を収納した。
当該ラップフィルムがフィルムカッターに対し、45°の角度になるようにセットし、300回カットした際にラップフィルムが巻戻るか否かを評価した。300回中、巻戻り回数が5回以下のものを「○」、6回以上のものを「×」とした。
【0092】
(4)結晶融解熱量(ΔHm)の測定
樹脂の結晶融解熱量(ΔHm)は、JIS K7121に基づき、10mg程度に削り出したサンプルについて、パーキンエルマー社製DSC−7を用いて10℃/分の速度にて30℃から200℃まで昇温し、得られたサーモグラムより、結晶融解熱量(ΔHm)を読み取ることで測定した。
【0093】
(5)貯蔵弾性率(E’)の測定
各樹脂を設定温度180℃〜230℃の範囲で加熱した熱プレスにて、荷重20MPaで1分間圧縮した後、冷却させてシート状に成形し、得られたフィルムを横4mm×縦80mmの大きさに正確に切り出し、サンプルとした。粘弾性スペクトロメーターDVA−200(アイティー計測社製)を用い、振動周波数10Hz、歪み0.1%、昇温速度3℃/分、チャック間1cmの条件の下、測定温度−100℃から200℃の範囲で、動的粘弾性を測定した。
【0094】
[原料]
実施例及び比較例で用いたフィルム原料は以下の通りである。
【0095】
<ポリ乳酸系樹脂(A)>
(a)−1:Nature Works社製NW4032D
(ポリ乳酸、ポリD乳酸の割合=1.5モル%、
ポリL乳酸の割合=98.5モル%、重量平均分子量=20万、
ΔHm=42J/g)
【0096】
<E’が700MPa以上5000MPa以下の樹脂(B)>
(b)−1:PSジャパン社製G9305 (ポリスチレン、E’=2400MPa)
(b)−2:PSジャパン社製G9001 (スチレン・メタクリル酸共重合体、スチレン/メタクリル酸=92/8(質量比)、E’=2600MPa)
(b)−3:綜研化学社製KSR−3A (架橋スチレン系多分散性樹脂、平均粒径=3μm、E’=2500MPa)
(b)−4:綜研化学社製MR−2G (架橋PMMA粒子、平均粒径=1μm、E’=2300MPa)
(b)−5:三菱エンジニアリングプラスチックス社製ユーピロンH4000
(ポリカーボネート樹脂、E’=1800MPa)
<樹脂(B)以外の樹脂(X)>
(x)−1:日本ポリプロ株式会社製ノバテックFY4
(ポリプロピレン、E’=600MPa)
【0097】
<無機微粒子(C)>
(c)−1:堺化学社製酸化チタンA−1(アナターゼ型酸化チタン、平均粒径=0.15μm、屈折率=2.52)
【0098】
[実施例1]
(a)−1及び(b)−1を質量比97.5:2.5の割合で混合し、φ25mm同方向二軸押出機にて210℃で押出し、押出シートを得た。次いで、この押出シートを約50℃のキャスティングロールにて急冷し、未延伸シートを得た。未延伸シートの厚みは、おおよそ平均で400μmとなるように押出機からの溶融樹脂の吐出量とライン速度を調整した。
未延伸シートは、ストレッチャーを用いて、80℃の温度条件下で、長手方向に2.5倍、幅方向に2.5倍に逐次延伸し(面積倍率6.25倍)、さらに熱処理オーブンにて140℃の温度で熱処理して、厚さ約70μmのフィルムを作製した。
得られたフィルムについて、静摩擦係数、表面粗さ、巻戻り現象の評価を行った結果を表1に示す。なお、巻戻り現象等の評価のため、各実施例では便宜上薄いフィルムを作製した。
【0099】
[実施例2〜7、比較例1〜3]
ポリ乳酸系樹脂(A)、樹脂(B)又は樹脂(X)として、表1に示すものを表1に示す質量比で用いたこと(ただし、実施例7では、延伸後の熱処理の温度条件を85℃とした。また、比較例1では、ポリ乳酸系樹脂(A)のみを用い、比較例3では、延伸後の熱処理を行わなかった。)以外は、実施例1と同様の方法でフィルムの作製と評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
[実施例8]
(a)−1、(b)−1及び(c)−1を質量比88.5:2.5:9の割合で混合したものを層(I)用成形材料とし、(a)−1と(c)−1を質量比91:9の割合で混合したものを層(II)用成形材料として、同方向二軸押出機とマルチマニホールド口金を用いて、共押出シートを得た。この時、層(I)と層(II)の厚み比が9:1になるよう溶融樹脂の吐出量を調整した。
次いで、この共押出シートをキャスティングロールにて急冷した後、ストレッチャーを用いて、80℃の温度条件下に、長手方向に2.5倍、幅方向に3.0倍に逐次延伸し(面積倍率7.5倍)、さらに熱処理オーブンにて140℃の温度で熱処理して積層フィルムを作製した。
延伸、熱処理後の積層フィルムの厚みは、おおよそ平均で280μm(層(I)が250μm、層(II)が30μm)となるように押出機からの溶融樹脂の吐出量とライン速度を調整した。
得られた積層フィルムに関して、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
表1より明らかなように、ポリ乳酸系樹脂(A)のみを用いた比較例1のフィルムカッターでは、静摩擦係数が大きく、表面粗さが小さく、巻戻り現象の問題がある。また、樹脂(B)を用いても、その配合量が少ない比較例2でも、同様に静摩擦係数が大きく、表面粗さが小さく、巻戻り現象の問題がある。また、樹脂(B)の代りに、貯蔵弾性率(E’)が本発明の範囲外の樹脂(X)を用いた比較例3でも、同様に巻戻り現象を防止し得ない。
これに対して、特定の貯蔵弾性率(E’)の樹脂(B)をポリ乳酸系樹脂(A)に対して所定の割合で配合した実施例1〜8のフィルムカッターであれば、静摩擦係数を好適な範囲に制御して、表面粗さを高め、巻戻り現象を防止することができる。