(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(メタ)アクロレインを分子状酸素により気相接触酸化して(メタ)アクリル酸を製造する際に用いられる、少なくともモリブデンおよびリンを触媒成分として含む(メタ)アクリル酸製造用触媒の製造方法であって、
(1)前記触媒成分を含む触媒前駆体と液体とバインダーとの接触物を混合して混合物を製造する工程と、
(2)前記混合物を成形して成形体を製造する工程と、
(3)前記成形体を熱処理する工程と、を含み、
前記工程(1)において前記接触物を製造してから、前記工程(2)において前記成形体を成形する前までの間に、前記接触物および前記混合物の少なくとも一つを10℃以上で合計2時間以上保ち、
前記工程(1)における仕込み量から算出される前記混合物の含液率をα%、前記工程(2)における成形を行う直前の前記混合物の含液率をβ%としたとき、下記式(I)により算出される含液率の変化率が、−10%以上10%以下である(メタ)アクリル酸製造用触媒の製造方法。
含液率の変化率(%)=(α−β)/α×100 (I)
なお、αは、工程(1)で投入した液体の質量a、および触媒前駆体とバインダーとの合計の質量bから、下記式(II)より算出される湿量基準の含液率である。
α=a/(a+b)×100 (II)
また、βは、工程(2)の成形を行う直前の混合物10gを常圧、100℃で30分間乾燥させた後の質量c(g)から、下記式(III)より算出される含液率である。
β=(10−c)/10×100 (III)
前記搬送工程において、スクリュー式搬送機、ベルトコンベア式搬送機、チェーンコンベア式搬送機、ローラコンベア式搬送機、振動式搬送機、押出式搬送機または落下式搬送機により搬送を行う請求項7に記載の(メタ)アクリル酸製造用触媒の製造方法。
前記メタクリル酸製造用触媒が、下記式(IV)で表される組成を有する複合酸化物である請求項1から9のいずれか1項に記載の(メタ)アクリル酸製造用触媒の製造方法。
PaMobVcCudXeYfZgOh (IV)
(式(IV)中、P、Mo、V、CuおよびOは、それぞれリン、モリブデン、バナジウム、銅および酸素を表す。Xは、砒素、アンチモンおよびテルルからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表す。Yは、ビスマス、ゲルマニウム、ジルコニウム、銀、セレン、ケイ素、タングステン、ホウ素、鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、タンタル、コバルト、マンガン、バリウム、ガリウム、セリウムおよびランタンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表す。Zは、カリウム、ルビジウムおよびセシウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表す。a、b、c、d、e、f、gおよびhは各元素の原子比率を表し、b=12のとき、a=0.1〜3、c=0.01〜3、d=0.01〜2、eは0〜3、f=0〜3、g=0.01〜3であり、hは前記各元素の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)
請求項1から11のいずれか1項に記載の(メタ)アクリル酸製造用触媒の製造方法により(メタ)アクリル酸製造用触媒を製造し、該(メタ)アクリル酸製造用触媒の存在下で(メタ)アクロレインを分子状酸素により気相接触酸化する(メタ)アクリル酸の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[(メタ)アクリル酸製造用触媒の製造方法]
本発明に係る(メタ)アクリル酸製造用触媒の製造方法は、(メタ)アクロレインを分子状酸素により気相接触酸化して(メタ)アクリル酸を製造する際に用いられる、少なくともモリブデンおよびリンを触媒成分として含む(メタ)アクリル酸製造用触媒の製造方法であって、以下の工程(1)から工程(3)を含む。
(1)前記触媒成分を含む触媒前駆体と液体とバインダーとの接触物を混合して混合物を製造する工程。
(2)前記混合物を成形して成形体を製造する工程。
(3)前記成形体を熱処理する工程。
【0013】
本発明に係る方法では、前記工程(1)において前記接触物を製造してから、前記工程(3)において前記成形体を熱処理する前までの間に、前記接触物、前記混合物および前記成形体の少なくとも一つを10℃以上で合計2時間以上保つ。また、前記式(I)により算出される含液率の変化率(以下、含液率の変化率とも示す)は、−10%以上10%以下である。なお、含液率の変化率は、後述する式(I)から式(III)より算出される値である。これらにより、本発明に係る方法では、(メタ)アクリル酸製造用触媒の触媒成形体の品質斑を低減することができる。以下、各工程の詳細について説明する。
【0014】
(工程(1))
工程(1)では、触媒成分を含む触媒前駆体と液体とバインダーとの接触物を混合して混合物を製造する。
【0015】
触媒成分を含む触媒前駆体は、例えば少なくともモリブデンおよびリンを含む触媒成分の原料化合物を、適宜選択した溶媒に溶解又は懸濁させ、少なくともモリブデンおよびリンを含む混合溶液又はスラリーを調製し、得られた混合溶液又はスラリーを乾燥して得ることができる。
【0016】
前記混合溶液又は前記スラリーの調製方法は特に限定はなく、例えば、沈殿法、酸化物混合法等により調製することができる。
【0017】
前記混合溶液又は前記スラリーの調製に用いられる触媒成分の原料化合物は、特に限定されず、触媒の各構成元素の硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、酸化物、ハロゲン化物、オキソ酸、オキソ酸塩等を単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。モリブデンの原料化合物としては、例えば、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、パラモリブデン酸アンモニウム、ジモリブデン酸アンモニウム等のモリブデン酸アンモニウム等が挙げられる。リンの原料化合物としては、例えば、リン酸、五酸化リン、リン酸アンモニウム等が挙げられる。バナジウムの原料化合物としては、例えば、メタバナジン酸アンモニウム、五酸化バナジウム、蓚酸バナジル等が挙げられる。銅の原料化合物としては、例えば、硝酸銅、酸化銅、炭酸銅、酢酸銅等が挙げられる。触媒成分の原料化合物は、触媒成分を構成する各元素に対して1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。触媒の各構成元素の原料化合物の配合比は、後述する式(IV)で表される組成を満たす配合比であることが好ましい。
【0018】
前記混合溶液又はスラリーの調製に用いられる溶媒としては、例えば、水、エチルアルコール、アセトン等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、水を用いることが好ましい。
【0019】
前記混合溶液又は前記スラリーを乾燥する方法は特に限定されず、例えば、スプレー乾燥機を用いて乾燥する方法、スラリードライヤーを用いて乾燥する方法、ドラムドライヤーを用いて乾燥する方法、蒸発乾固する方法等が適用できる。これらの中でも、乾燥と同時に粒子が得られること、得られる粒子の形状が整った球形であることから、スプレー乾燥機を用いて乾燥する方法が好ましい。
【0020】
乾燥条件は乾燥方法により異なるが、スプレー乾燥機を用いる場合、乾燥機入口温度は200〜400℃が好ましく、220〜370℃がより好ましい。
【0021】
スプレー乾燥機を用いる場合、得られる触媒前駆体の平均粒子径は1〜250μmであることが好ましい。該平均粒子径が1μm以上であることにより、(メタ)アクロレインの酸化反応に必要な細孔径を確保することができ、高い収率で(メタ)アクリル酸が得られる。また、該平均粒子径が250μm以下であることにより、単位体積当たりの触媒前駆体粒子間の接触点の数が減らず、十分な触媒の機械的強度が得られる。触媒前駆体の平均粒子径は5〜150μmであることがより好ましい。なお、該平均粒子径は体積平均粒子径を意味し、レーザー式粒度分布測定装置により測定される値である。
【0022】
また、噴霧された液滴と熱風との接触方式は、並流、向流、並向流(混合流)のいずれでもよく、いずれの場合でも好適に乾燥することができる。
【0023】
このようにして得られた触媒前駆体は、必要に応じて200〜500℃で熱処理(焼成)して焼成物としてもよい。焼成条件は特に限定されないが、焼成は通常、酸素、空気又は窒素流通下で行われる。また、焼成時間は目的とする触媒によって適宜設定される。以下、焼成を行っていない触媒前駆体と前記焼成物とをまとめて触媒前駆体と示す。
【0024】
本工程において、前記触媒成分を含む触媒前駆体と混合する液体としては、前記触媒前駆体を濡らす機能を有するものであれば特に限定されず、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等の炭素数が1〜4のアルコール等が挙げられる。これらの中でも前記触媒前駆体の粒子が崩壊せず、酸化反応に有効な細孔を形成しやすい観点から、エチルアルコール、プロピルアルコールが好ましい。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。なお、前記液体としてアルコールを用いる場合、該アルコールは高純度であることが好ましいが、少量の水を含んでいてもよい。なお、本発明において液体とは常温(5〜40℃)、常圧(大気圧(0.1MPa))の条件で液状の化合物を示す。
【0025】
前記液体の使用量は、前記触媒前駆体の種類や大きさ、前記液体の種類等により適宜選択されるが、前記触媒前駆体100質量部に対して10〜80質量部であることが好ましい。前記液体の使用量が10質量部以上であることにより、よりスムーズに押出成形することができるため、前記触媒前駆体の粒子が潰れにくくなり、得られる触媒成形体に大きな空隙、すなわち大きな細孔が形成され、(メタ)アクリル酸の選択率が向上する傾向がある。一方、前記液体の使用量が80質量部以下であることにより、成形時の付着性が低減して取り扱い性が向上する。また、触媒成形体がより密になるため触媒成形体の強度が向上する傾向がある。前記液体の使用量は、前記触媒前駆体100質量部に対して10〜60質量部であることがより好ましく、15〜50質量部であることがさらに好ましい。
【0026】
前記バインダーは、前記触媒前駆体を接着する機能を有するものであれば特に限定されず、例えば有機系バインダー、無機系バインダーを用いることができる。該有機系バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール等の高分子化合物、αグルカン誘導体、βグルカン誘導体等を挙げることができる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0027】
本発明においてαグルカン誘導体とは、グルコースから構成される多糖類のうちグルコースがα型の構造で結合したものを示し、α1−4グルカン、α1−6グルカン、α1−4/1−6グルカン等の誘導体が例示できる。このようなαグルカン誘導体としては、具体的には、アミロース、グリコーゲン、アミロペクチン、プルラン、デキストリン、シクロデキストリン等を挙げることができる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0028】
本発明においてβグルカン誘導体とは、グルコースから構成される多糖類のうちグルコースがβ型の構造で結合したものを示し、β1−4グルカン、β1−3グルカン、β1−6グルカン、β1−3/1−6グルカン等の誘導体が例示できる。このようなβグルカン誘導体としては、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体、カードラン、ラミナラン、パラミロン、カロース、パキマン、スクレログルカン等のβ1−3グルカン等を挙げることができる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0029】
前記有機系バインダーは未精製のまま用いてもよく、精製して用いてもよいが、不純物としての金属や強熱残分に起因して触媒性能が低下することを抑制するために、金属不純物や強熱残分の含有量はより少ない方が好ましい。
【0030】
前記無機系バインダーとしては、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリコンカーバイド、チタニア、マグネシア、グラファイト、ケイソウ土等の無機化合物、セラミックボール、ステンレス鋼、ガラス繊維、セラミックファイバー、炭素繊維等の無機ファイバー等の不活性担体を挙げることができる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。また、前記有機系バインダーと前記無機系バインダーとを混合して使用することもできる。
【0031】
前記バインダーの使用量は、前記触媒前駆体の種類や大きさ、前記液体の種類等により適宜選択されるが、前記触媒前駆体100質量部に対して0.05〜15質量部であることが好ましく、0.1〜10質量部であることがより好ましく、1〜8質量部であることがさらに好ましい。
【0032】
前記触媒前駆体、前記液体および前記バインダーの接触および混合方法は特に限定されない。具体的には、前記触媒前駆体と前記バインダーとを乾式混合したものと、前記液体とを接触させて混合する方法、前記液体に前記バインダーを溶解又は分散させたものと、前記触媒前駆体とを接触させて混合する方法等が例示できる。これらの中でも、前記触媒前駆体と前記バインダーとを乾式混合したものと、前記液体とを接触させて混合する方法が好ましい。前記液体に溶解または分散させた状態で入手できるバインダーを用いる場合には、該液体の量に応じて、前記触媒と混合するために新たに添加する液体の量を調節すればよい。
【0033】
本工程において接触物とは、触媒前駆体と液体とバインダーとを接触させることで得られるものであって、混合前のものを示す。また、本工程における混合とは、配合した材料を混ぜ合わせる操作であり、混練を含む。混練とは配合した材料を練り込むことで混ぜ合わせ、均一化する操作である。本工程では前記触媒前駆体と液体とバインダーとを混練機に投入して接触させ、接触物を混練することにより混合物を得ることが好ましい。
【0034】
混練機は特に限定されず、例えば、双腕型の攪拌羽根を備えるバッチ式の混練機、軸回転往復式やセルフクリーニング型等の連続式の混練機等が使用できる。しかしながら、混練物の状態を確認しながら混練を行うことができる点で、バッチ式の混練機が好ましい。なお、混練の終点は押出成形可能な状態になるまで混合された時点とする。
【0035】
(工程(2))
工程(2)では、前記混合物を成形して成形体を製造する。前記混合物の成形方法は特に限定されず、例えば押出成形、打錠成型、転動造粒等の方法が挙げられる。これらの中でも、前記触媒前駆体粒子の崩壊が少なく、反応に有効な細孔が得やすい観点から、押出成形が好ましい。前記押出成形には、押出成形機を用いることができ、例えばオーガー式押出成形機、プランジャー式押出成形機等を用いることができる。これらの中でも、前記混合物に好適な練りを容易に加えることができ、得られる触媒の性能が安定することから、プランジャー式押出成形機を使用することが好ましい。成形体の形状としては特に限定はなく、例えばリング状、円柱状、星型状等の形状とすることができる。
【0036】
(工程(3))
工程(3)では、前記成形体を熱処理する。例えば、前記成形体を乾燥して触媒成形体を得た後、該触媒成形体を焼成して(メタ)アクリル酸製造用触媒を得ることができる。乾燥方法は特に限定されず、例えば熱風乾燥、遠赤外線乾燥、マイクロ波乾燥等の方法を用いることができる。乾燥条件は、目的とする含水率とすることができれば適宜選択することができ、例えば100℃以下で乾燥することができる。焼成条件は特に限定されないが、焼成温度としては、200〜600℃が好ましく、200〜500℃がより好ましい。例えば、300〜450℃で1〜24時間焼成することができる。また、乾燥と焼成を連続して行ってもよい。
【0037】
(養生)
本発明に係る方法では、前記工程(1)において前記接触物を製造してから、前記工程(3)において前記成形体を熱処理する前までの間に、前記接触物、前記混合物および前記成形体の少なくとも一つを10℃以上で合計2時間以上保つ。なお、本明細書においては、所定の時間、所定の温度に保つことを養生と言うことがあり、その対象物を養生物と言うことがある。養生中、養生物は移動したり、形状が変化したり、静置した状態であっても良いが、移動または静置した状態であることが好ましい。本発明では、前記工程(1)において前記接触物を製造してから、前記工程(3)において前記成形体を熱処理する前までの間に、養生物を10℃以上で合計2時間以上養生することにより、触媒成形体の品質斑を低減できることを見出した。
【0038】
前記養生は、前記工程(1)において前記接触物を製造してから、前記工程(3)において前記成形体を熱処理する前までの間に行われる。前記工程(1)において前記接触物を製造してから、とは、前記触媒成分を含む触媒前駆体と前記液体と前記バインダーとが接触した時点からを示す。また、前記工程(3)において前記成形体を熱処理する前まで、とは、前記成形体を熱処理する直前の時点までを示す。この範囲内であれば、前記養生はいつ行われてもよい。
【0039】
養生中の養生物の温度は、10℃以上であり、15℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、25℃以上がさらに好ましい。前記温度が10℃以上であることにより、触媒成形体の品質斑が少なくなる。また、前記温度の上限に特に制限はないが、40℃以下が好ましく、35℃以下がより好ましい。前記温度が40℃以下であることにより、触媒の強度が向上する傾向にある。養生中の養生物の温度が10℃以上であることにより触媒成形体の品質斑が少なくなる理由は解明されていないが、触媒前駆体およびバインダーの液体への分散が適度に進行し、ある程度落ち着いた状態になるため、混合物内の分散斑が少なくなり、成形時の密度斑が低減すると推測される。一方、養生中の養生物の温度が40℃以下であることにより、触媒の強度が向上する傾向がある理由も定かではないが、前記温度が40℃を超えると触媒前駆体の液体への分散が進み過ぎ、触媒前駆体の粒子が大きく崩れるため、バインダーによる接着効果が小さくなる場合があるためと推測される。なお、養生中に前記温度が10℃以上の範囲内で変化する場合には、前記温度は、前記工程(1)において前記接触物を製造してから、前記工程(3)において前記成形体を熱処理する前までの間の、養生物の平均温度を示す。この場合、前記変化する温度の最高温度は40℃であることが好ましい。
【0040】
養生中の養生物の温度を制御する方法は特に限定されないが、例えば養生を行う部屋の空調温度を調整する、養生を行う容器のジャケット温度を調整する、養生を行う容器内に温度制御した気体を流通させる、等の方法で、養生物周りの環境の温度を前記養生温度の範囲内に制御する方法が適用できる。
【0041】
本発明において養生時間は合計2時間以上である。養生時間が合計2時間以上であることにより触媒成形体の品質斑を低減できる。なお、例えば前記接触物を1.5時間、前記混合物を1.5時間養生した場合、その合計は3時間となるため、養生時間が合計2時間以上の要件を満たす。養生時間の合計は2.5時間以上であることが好ましく、3時間以上であることがより好ましい。養生時間の合計の上限は特に制限はないが、48時間以下が好ましく、36時間以下がより好ましく、30時間以下がさらに好ましい。養生時間の合計が48時間以下であることにより触媒の強度が向上する傾向がある。養生時間の合計が2時間以上であることにより触媒成形体の品質斑が少なくなる理由は解明されていないが、混合物が養生される場合、触媒前駆体およびバインダーの液体への分散が進行し、ある程度落ち着いた状態になるため、混合物内の分散斑が少なくなり、成形時の密度斑が低減すると推測される。一方、養生時間の合計が48時間以下であることにより、触媒の強度が向上する傾向がある理由も定かではないが、養生時間の合計が48時間を超えると触媒前駆体の液体への分散が進み過ぎ、触媒前駆体の粒子が大きく崩れるため、バインダーによる接着効果が小さくなる場合があるためと推測される。なお、養生は連続して2時間以上行ってもよく、断続的に行い、その合計時間を2時間以上としてもよい。
【0042】
(含液率の変化率)
本発明に係る方法では、前記式(I)により算出される含液率の変化率は−10%以上10%以下であり、0%以上10%以下が好ましく、0%以上9%以下がより好ましく、0%以上8%以下が更に好ましく、1%以上5%以下が特に好ましい。含液率の変化率が−10%以上10%以下であることにより、混合物内の粘性斑が小さくなるため、触媒成形体の品質斑が少なくなる。なお、含液率の変化率は、後述する式(I)から式(III)より算出される値である。
【0043】
(搬送工程)
本発明に係る方法では、前記工程(1)から前記工程(3)の各工程の間に、搬送工程を少なくとも1つ含むことができる。本発明において搬送とは、各工程で製造された製造物を次の工程へ移動することである。例えば本発明に係る方法は、前記工程(1)と前記工程(2)との間に前記搬送工程を含むことができ、この場合、例えば前記工程(1)で得られる混合物を成形機へ搬送し、前記工程(2)を実施することができる。搬送中は一時的に搬送を中断し、製造物を静置する操作を含んでも良い。また、製造物の形を変えるような操作を含んでも良い。例えば、前述したように前記工程(1)で得られた前記混合物を搬送する際、前記工程(2)における前記成形機への投入を容易にするために、解砕や予備成形のような操作を含んでも良い。
【0044】
搬送方法は特に限定されず、例えば手作業による搬送や搬送機による搬送が挙げられるが、作業負荷を低減でき生産性が高い観点から、搬送機による搬送が好ましい。
【0045】
搬送機としては、例えば、スクリュー式搬送機、ベルトコンベア式搬送機、チェーンコンベア式搬送機、ローラコンベア式搬送機、振動式搬送機、押出式搬送機、落下式搬送機等が挙げられる。また、前記含液率の変化率を−10%以上10%以下の範囲内に制御する観点から、該搬送機は液体の蒸発を抑制する構造を有することが好ましい。
【0046】
搬送工程において前記養生を行う場合には、搬送を行う部屋の空調温度を調整する、搬送機のジャケット温度を調整する、搬送機内に温度制御した気体を流通させる、等の方法で、養生物周りの環境の温度を前記養生温度の範囲内に制御する方法が適用できる。
【0047】
本発明に係る方法により製造される(メタ)アクリル酸製造用触媒は、(メタ)アクロレインを分子状酸素により気相接触酸化して(メタ)アクリル酸を製造する際に用いられる。該(メタ)アクリル酸製造用触媒は、少なくともモリブデンおよびリンを触媒成分として含有すれば特に限定されない。
【0048】
メタクロレインの気相接触酸化によりメタクリル酸を製造するためのメタクリル酸製造用触媒は、活性、選択性の観点から、下記式(IV)で表される組成を有する複合酸化物であることが好ましい。
【0049】
P
aMo
bV
cCu
dX
eY
fZ
gO
h (IV)
式(IV)中、P、Mo、V、CuおよびOは、それぞれリン、モリブデン、バナジウム、銅および酸素を表す。Xは、砒素、アンチモンおよびテルルからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表す。Yは、ビスマス、ゲルマニウム、ジルコニウム、銀、セレン、ケイ素、タングステン、ホウ素、鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、タンタル、コバルト、マンガン、バリウム、ガリウム、セリウムおよびランタンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表す。Zは、カリウム、ルビジウムおよびセシウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表す。a、b、c、d、e、f、gおよびhは各元素の原子比率を表し、b=12のとき、a=0.1〜3、c=0.01〜3、d=0.01〜2、eは0〜3、f=0〜3、g=0.01〜3であり、hは前記各元素の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。
【0050】
また、アクロレインの気相接触酸化によりアクリル酸を製造するためのアクリル酸製造用触媒は、活性、選択性の観点から、下記式(V)で表される組成を有する複合酸化物であることが好ましい。
【0051】
P
iMo
jV
kA
lX
2mY
2nO
о (V)
式(V)中、P、Mo、VおよびOは、それぞれリン、モリブデン、バナジウムおよび酸素を表す。Aは、鉄、コバルト、クロム、アルミニウムおよびストロンチウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表す。X
2は、ゲルマニウム、ホウ素、ヒ素、セレン、銀、ケイ素、ナトリウム、テルル、リチウム、アンチモン、カリウムおよびバリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。Y
2は、マグネシウム、チタン、マンガン、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、タングステン、タンタル、カルシウム、スズおよびビスマスからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。i、j、k、l、m、nおよびoは各元素の原子比率を表し、j=12のとき、i=0.01〜10、k=0.01〜6、l=0〜5、m=0〜10、n=0〜5であり、nは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。
【0052】
[(メタ)アクリル酸の製造方法]
本発明に係る(メタ)アクリル酸の製造方法は、前記方法により(メタ)アクリル酸製造用触媒を製造し、該(メタ)アクリル酸製造用触媒の存在下で(メタ)アクロレインを分子状酸素により気相接触酸化する。
【0053】
前記気相接触酸化は、固定床で行うことができる。触媒層の構成は特に限定されず、触媒のみの無希釈層でも、不活性担体を含む希釈層でもよく、単一層でも複数の層からなる混合層であってもよい。
【0054】
原料には、(メタ)アクロレインと分子状酸素とを含む原料ガスを用いることが好ましい。該原料ガス中の(メタ)アクロレイン濃度は、1容量%以上が好ましく、3容量%以上がより好ましい。また、該(メタ)アクロレイン濃度は20容量%以下が好ましく、10容量%以下がより好ましい。該原料ガス中の分子状酸素濃度は、(メタ)アクロレイン1モルに対して0.4モル以上が好ましく、0.5モル以上がより好ましい。また、該分子状酸素濃度は、(メタ)アクロレイン1モルに対して4モル以下が好ましく、3モル以下がより好ましい。前記分子状酸素源としては空気を用いることが経済的であるが、必要であれば純酸素で富化した空気等も用いることができる。
【0055】
前記原料ガスは、(メタ)アクロレインと分子状酸素以外に、水(水蒸気)を含むことが好ましい。水の存在下で反応を行うことで、より高い収率で(メタ)アクリル酸が得られる。前記原料ガス中の水蒸気の濃度は、0.1容量%以上が好ましく、1容量%以上がより好ましい。また、該濃度は、50容量%以下が好ましく、40容量%以下がより好ましい。前記原料ガスは、低級飽和アルデヒド等の不純物を少量含んでいてもよいが、その量はできるだけ少ないことが好ましい。また、前記原料ガスは、窒素、炭酸ガス等の不活性ガスを含んでもよい。
【0056】
反応圧力は、常圧(大気圧)から5気圧が好ましい。反応温度は、230℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。また、反応温度は450℃以下が好ましく、400℃以下がより好ましい。
【0057】
前記原料ガスの流量は特に限定されず、適切な接触時間になるように適宜設定することができる。該接触時間は1.5秒以上が好ましく、2秒以上がより好ましい。また、該接触時間は15秒以下が好ましく、10秒以下がより好ましい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例および比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、「部」は「質量部」を示す。
【0059】
(充填密度の標準偏差)
触媒成形体の品質斑は、同一条件で触媒成形体を10回製造し、各触媒成形体の充填密度を測定し、該充填密度の標準偏差より判断した。充填密度は内径27mmのメスシリンダーに成形体を100mLの目盛りまで充填し、その質量Bより下記式にて算出した。
【0060】
充填密度(g/L)=B×10。
【0061】
(落下粉化率)
機械的強度の指標である落下粉化率は以下の方法により測定した。長手方向が鉛直になるように設置され、下側開口部がステンレス製の板で閉止された内径27.5mm、長さ6mのステンレス製円筒の上側開口部から、触媒成形体100gを落下させて円筒内に充填した。下側開口部を開いて回収した触媒成形体のうち、目開き1mmのふるいを通過しないものの質量をCgとして、落下粉化率を下記式にて算出した。落下粉化率は小さいほど機械的強度が高く、大きいほど機械的強度が低い。なお、表1における落下粉化率は、同一条件で触媒成形体を10回製造し、各触媒成形体に対して測定された落下粉化率の平均値である。
【0062】
落下粉化率(%)={(100−C)/100}×100。
【0063】
(含液率の変化率)
含液率の変化率は、下記式(I)により算出した。
【0064】
含液率の変化率(%)=(α−β)/α×100 (I)
前記式(I)において、αは、工程(1)で投入した液体の質量a、および触媒前駆体とバインダーとの合計の質量bから、下記式(II)より算出される湿量基準の含液率である。
【0065】
α=a/(a+b)×100 (II)
また、βは、工程(2)の成形を行う直前の混合物10gを常圧、100℃で30分間乾燥させた後の質量c(g)から、下記式(III)より算出される含液率である。
【0066】
β=(10−c)/10×100 (III)。
【0067】
[実施例1]
純水4000部に三酸化モリブデン1000部、メタバナジン酸アンモニウム34部、85質量%リン酸水溶液80部および硝酸銅7部を溶解し、これを攪拌しながら95℃に昇温し、液温を95℃に保ちつつ3時間攪拌した。90℃まで冷却後、回転翼攪拌機を用いて攪拌しながら、重炭酸セシウム124部を純水200部に溶解した溶液を添加して15分間攪拌した。次いで、炭酸アンモニウム92部を純水200部に溶解した溶液を添加し、更に20分間攪拌した。以上のようにして得られた触媒成分の原料化合物を含有する混合スラリーを、並流式スプレー乾燥機を用いて、乾燥機入口温度300℃、スラリー噴霧用回転円盤18,000rpmの条件で乾燥して、触媒前駆体を得た。該触媒前駆体の平均粒子径は25μmであった。
【0068】
前記触媒前駆体100部に対して、仕込み量から算出される混合物の含液率が16.0%となるように、ヒドロキシプロピルセルロース5部とエチルアルコール20部とを、双腕型のシグマブレードを備えたバッチ式の混練機に投入して接触させ、接触物を粘土状になるまで混練し、混合物を得た。
【0069】
前記混合物を、下部にスクリュー搬送機を備えたタンクに投入し、投入口に蓋をして密閉した。次いで、前記混合物を前記スクリュー搬送機で排出することで、プランジャー式押出成形機へ搬送した。該プランジャー式押出成形機は同心円状に5.5mmφの開口を14個有するダイスを備え、該プランジャー式押出成形機の内径は120mmφである。前記スクリュー搬送機で搬送される前記混合物の量は、前記プランジャー式押出成形機で一回押出成形する量であり、残りの混合物はタンク内で保持した。
【0070】
ここで、前記混合物を前記スクリュー搬送機で搬送する間に、前記混合物を25℃で3時間養生した。このとき、前記スクリュー搬送機を備えた前記タンクのジャケットの温度を25℃に調整することで、養生物の温度を25℃に制御した。
【0071】
養生後の前記混合物を、前記プランジャー式押出成形機により、プランジャー移動速度100mm/minで押出成形した。前記ダイスから排出された押出物を、ダイス面でピアノ線を375rpmで回転させることで切断し、成形体を得た。
【0072】
前記成形体を熱風乾燥機で、90℃で12時間熱処理することにより、触媒成形体を得た。また、タンク内に残存している混合物についても同様にして触媒成形体を製造し、これらについて充填密度の標準偏差および落下粉化率を測定した。仕込み量から算出される混合物の含液率、成形を行う直前の混合物の含液率、含液率の変化率、充填密度の標準偏差、および落下粉化率を表1に示す。なお、該触媒成形体を焼成した場合に得られる、酸素を除く触媒の組成は、P
1.2Mo
12V
0.5Cu
0.05Cs
1.1である。
【0073】
[実施例2]
養生時間を25時間に変更した以外は、実施例1と同様にして触媒成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0074】
[実施例3]
養生時間を47時間に変更した以外は、実施例1と同様にして触媒成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0075】
[実施例4]
養生時間を61時間に変更した以外は、実施例1と同様にして触媒成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0076】
[実施例5]
養生時間を25時間に、養生温度を50℃に変更した以外は、実施例1と同様にして触媒成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0077】
[実施例6]
養生温度を30℃に変更し、搬送機をベルトコンベア搬送機に変更した以外は、実施例1と同様にして触媒成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0078】
[比較例1]
養生時間を1時間に変更した以外は、実施例1と同様にして触媒成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0079】
[比較例2]
養生温度を7℃に変更した以外は、実施例1と同様にして触媒成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0080】
[比較例3]
混合物を、下部にスクリュー搬送機を備えたタンクに投入した後、投入口に蓋をせず、密閉しなかったこと以外は、実施例1と同様にして触媒成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0081】
[実施例7]
養生温度を30℃に変更し、搬送機を用いずに、混合物をポリ袋に排出して人力でプランジャー式押出成形機へ搬送し、充填した以外は、実施例1と同様にして触媒成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。なお、実施例7の方法では、触媒成形体の品質斑は低減されていたが、人力で抜き取り、搬送を行ったため作業負荷が大きく、搬送機を用いた場合と比較して3倍の作業員が必要であった。
【0082】
[実施例8]
混合時に使用するエチルアルコールの量を24部に変更した以外は、実施例1と同様にして触媒成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0083】
[比較例4]
養生時間を1時間に変更した以外は、実施例8と同様にして触媒成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0084】
[実施例9]
純水4000部に三酸化モリブデン1000部、85質量%リン酸水溶液80部、五酸化バナジウム42部、酸化銅9部および酸化鉄2部を溶解し、これを攪拌しながら95℃に昇温し、液温を95℃に保ちつつ3時間攪拌した。この液を50℃まで冷却した後、29質量%アンモニア水374部を滴下し、15分間攪拌した。次に硝酸セシウム102部を純水30部に溶解した溶液を滴下し、15分間攪拌した。以上のようにして得られた触媒成分の原料化合物を含有する混合スラリーを、並流式スプレー乾燥機を用いて、乾燥機入口温度300℃、スラリー噴霧用回転円盤18,000rpmの条件で乾燥して、触媒前駆体を得た。該触媒前駆体の平均粒子径は30μmであった。
【0085】
前記触媒前駆体100部に対して、仕込み量から算出される混合物の含液率が22.2%となるように、ヒドロキシプロピルセルロース5部とイソプロピルアルコール30部とを、双腕型のシグマブレードを備えたバッチ式の混練機に投入して接触させ、接触物を粘土状になるまで混練し、混合物を得た。
【0086】
前記混合物を、下部にスクリュー搬送機を備えたタンクに投入し、投入口に蓋をして密閉した。次いで、前記混合物を前記スクリュー搬送機で排出することで、プランジャー式押出成形機へ搬送した。該プランジャー式押出成形機は同心円状に5.5mmφの開口を14個有するダイスを備え、該プランジャー式押出成形機の内径は120mmφである。前記スクリュー搬送機で搬送される前記混合物の量は、前記プランジャー式押出成形機で一回押出成形する量であり、残りの混合物はタンク内で保持した。
【0087】
ここで、前記混合物を前記スクリュー搬送機で搬送する間に、前記混合物を25℃で3時間養生した。このとき、前記スクリュー搬送機を備えた前記タンクのジャケットの温度を25℃に調整することで、養生物の温度を25℃に制御した。
【0088】
養生後の前記混合物を、前記プランジャー式押出成形機により、プランジャー移動速度100mm/minで押出成形した。前記ダイスから排出された押出物を、ダイス面でピアノ線を375rpmで回転させることで切断し、成形体を得た。
【0089】
前記成形体を熱風乾燥機で、90℃で12時間熱処理することにより、触媒成形体を得た。また、タンク内に残存している混合物についても同様にして触媒成形体を製造し、これらについて充填密度の標準偏差および落下粉化率を測定した。仕込み量から算出される混合物の含液率、成形を行う直前の混合物の含液率、含液率の変化率、充填密度の標準偏差、および落下粉化率を表1に示す。なお、該触媒成形体を焼成した場合に得られる、酸素を除く触媒の組成は、P
1.2Mo
12V
0.8Cu
0.2Fe
0.05Cs
0.9である。
【0090】
[比較例5]
養生時間を1時間とした以外は、実施例9と同様にして触媒成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0091】
[実施例10]
実施例1と同様の手順で得られた触媒前駆体100部に対して、仕込み量から算出される混合物の含液率が16.0%となるように、ヒドロキシプロピルセルロース5部とエチルアルコール20部とを双腕型のシグマブレードを備えたバッチ式の混練機に投入して接触させた後、接触物を25℃で1.5時間養生した。このとき、前記混練機のジャケットの温度を25℃に調整することで、養生物の温度を25℃に制御した。養生後の前記接触物を、前記混練機で粘土状になるまで混練し、混合物を得た。
【0092】
前記混合物を、下部にスクリュー搬送機を備えたタンクに投入し、投入口に蓋をして密閉した。次いで、前記混合物を前記スクリュー搬送機で排出することで、プランジャー式押出成形機へ搬送した。該プランジャー式押出成形機は同心円状に5.5mmφの開口を14個有するダイスを備え、該プランジャー式押出成形機の内径は120mmφである。前記スクリュー搬送機で搬送される前記混合物の量は、前記プランジャー式押出成形機で一回押出成形する量であり、残りの混合物はタンク内で保持した。
【0093】
ここで、前記混合物を前記スクリュー搬送機で搬送する間に、前記混合物を25℃で1.5時間養生した。このとき、前記スクリュー搬送機を備えた前記タンクのジャケットの温度を25℃に調整することで、養生物の温度を25℃に制御した。
【0094】
養生後の前記混合物を用い、実施例1と同様の手順で押出し成形及び熱処理を行うことで触媒成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0095】
[実施例11]
実施例1と同様の手順で得られた触媒前駆体100部に対して、仕込み量から算出される混合物の含液率が16.0%となるように、ヒドロキシプロピルセルロース5部とエチルアルコール20部とを双腕型のシグマブレードを備えたバッチ式の混練機に投入して接触させた後、接触物を25℃で3時間養生した。このとき、前記混練機のジャケットの温度を25℃に調整することで、養生物の温度を25℃に制御した。養生後の前記接触物を、前記混練機で粘土状になるまで混練し、混合物を得た。
【0096】
前記混合物を、下部にスクリュー搬送機を備えたタンクに投入し、投入口に蓋をして密閉した。次いで、前記混合物を前記スクリュー搬送機で排出することで、プランジャー式押出成形機へ搬送した。該プランジャー式押出成形機は同心円状に5.5mmφの開口を14個有するダイスを備え、該プランジャー式押出成形機の内径は120mmφである。前記スクリュー搬送機で搬送される前記混合物の量は、前記プランジャー式押出成形機で一回押出成形する量であり、残りの混合物はタンク内で保持した。
【0097】
前記混合物を用い、実施例1と同様の手順で押出し成形及び熱処理を行うことで触媒成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0098】
[参考例1]
純水1000部にパラモリブデン酸アンモニウム500部、パラタングステン酸アンモニウム12.4部、硝酸カリウム2.3部、三酸化アンチモン27.5部および三酸化ビスマス66.0部を加え加熱攪拌した(A液)。別に純水1000部に硝酸第二鉄114.4部、硝酸コバルト274.7部および硝酸亜鉛35.1部を順次加え溶解した(B液)。続いて、A液にB液を加えて水性スラリーとした。以上のようにして得られた触媒成分の原料化合物を含有する混合スラリーを、並流式スプレー乾燥機を用いて、乾燥機入口温度250℃、スラリー噴霧用回転円盤13,000rpmの条件で乾燥して、触媒前駆体を得た。該触媒前駆体の平均粒子径は46μmであった。
【0099】
前記触媒前駆体100部に対して、仕込み量から算出される混合物の含液率が22.2%となるように、ヒドロキシプロピルセルロース5部と純水30部とを、双腕型のシグマブレードを備えたバッチ式の混練機に投入して接触させ、接触物を粘土状になるまで混練し、混合物を得た。
【0100】
前記混合物を、下部にスクリュー搬送機を備えたタンクに投入し、投入口に蓋をして密閉した。次いで、前記混合物を前記スクリュー搬送機で排出することで、プランジャー式押出成形機へ搬送した。該プランジャー式押出成形機は同心円状に5.5mmφの開口を14個有するダイスを備え、該プランジャー式押出成形機の内径は120mmφである。前記スクリュー搬送機で搬送される前記混合物の量は、前記プランジャー式押出成形機で一回押出成形する量であり、残りの混合物はタンク内で保持した。
【0101】
ここで、前記混合物を前記スクリュー搬送機で搬送する間に、前記混合物を25℃で7時間養生した。このとき、前記スクリュー搬送機を備えた前記タンクのジャケットの温度を25℃に調整することで、養生物の温度を25℃に制御した。
【0102】
養生後の前記混合物を、前記プランジャー式押出成形機により、プランジャー移動速度100mm/minで押出成形した。前記ダイスから排出された押出物を、ダイス面でピアノ線を375rpmで回転させることで切断し、成形体を得た。
【0103】
前記成形体を熱風乾燥機で、90℃で12時間熱処理することにより、触媒成形体を得た。また、タンク内に残存している混合物についても同様にして触媒成形体を製造し、これらについて充填密度の標準偏差および落下粉化率を測定した。仕込み量から算出される混合物の含液率、成形を行う直前の混合物の含液率、含液率の変化率、充填密度の標準偏差、および落下粉化率を表1に示す。なお、該触媒成形体を焼成した場合に得られる、酸素を除く触媒の組成は、Mo
12W
0.2Bi
1.2Fe
1.2Sb
0.8Co
4.0Zn
0.5K
0.1である。
【0104】
[参考例2]
養生時間を1時間に変更した以外は、参考例1と同様にして触媒成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
養生時間、養生温度、及び含液率の変化率が本発明の範囲内である実施例1〜11では、比較例1〜5と比較して充填密度の標準偏差が低く、触媒成形体の品質斑が低減されていることが確認された。また養生時間が48時間を超える実施例4、及び養生温度が40℃を超える実施例5は、実施例1〜3よりも充填密度の標準偏差がやや高くなっているだけでなく、落下粉化率が高く、機械的強度の低い触媒が製造されていることが確認され、養生時間と養生温度にはそれぞれ最適な範囲があることがわかった。また養生時間の合計及び養生温度が同じでも、搬送工程において混合物に対して養生を行っている実施例1と比較して、養生の一部又は全部を工程(1)の接触物に対して行っている実施例10及び11では、充填密度の標準偏差がやや高く、搬送工程において養生を行うことで触媒成形体の品質斑をより低減できることがわかった。一方、参考例1及び2から、リンを触媒成分として含まない場合は、養生時間、養生温度、及び含液率の変化率が本発明の範囲内であっても、触媒成形体の品質斑低減の効果が得られないことが分かった。
【0107】
この出願は、2015年12月1日に出願された日本出願特願2015−234745を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【0108】
以上、実施形態及び実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。