(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
導電性金属粒子(A)と、50℃において固体のポリエステル樹脂(B)と、50℃において液体のポリエステルジオール(C)と、ブロック化ポリイソシアネート化合物(D)と前記(A)〜(D)と反応性を有さない常圧における沸点170〜300℃の有機溶剤(E)とを含有し、かつ、前記ポリエステル樹脂(B)とポリエステルジオール(C)の少なくとも一方に、メチレン結合の繰り返し単位6〜8の脂肪族ジカルボン酸に由来する縮合構造を含有するポリエステル樹脂、又は同ポリエステルジオールを用いることを特徴とする、導電性パターン印刷用導電性ペースト。
ポリエステル樹脂(B)とポリエステルジオール(C)の少なくとも一方が、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とジオールとを縮合して得られたポリエステル樹脂又はポリエステルジオールであり、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸との合計を100モル%とした際、脂肪族ジカルボン酸を33モル%以上を用いて得られたポリエステル樹脂、又は同ポリエステルジオールを用いる請求項1記載の導電性ペースト。
ペーストが充填されるパターンを含む凹部が設けられたグラビア版と、ペーストをグラビア版の凹部に充填するドクターと、このグラビア版の凹部からペーストが受け渡されるブランケットと、このブランケットに対向させる様に被印刷物を供給して、両者を圧接させてブランケット上の微細配線パターンに対応するパターンを被印刷物に印刷し、次いで焼成を行う、グラビアオフセット印刷法による導電性パターンの形成方法において、前記ペーストとして、上記請求項1〜6のいずれか一項に記載の導電性ペーストを用いることを特徴とする導電性パターンの形成方法。
ペーストが充填されるベゼルパターンを含む凹部が設けられたグラビア版と、ペーストをグラビア版の凹部に充填するドクターと、このグラビア版の凹部からペーストが受け渡されるブランケットと、このブランケットに対向させる様に被印刷物を供給して、両者を圧接させてブランケット上の微細配線パターンに対応するパターンを被印刷物に印刷し、次いで焼成を行う、グラビアオフセット印刷法による導電性パターンの形成方法において、前記ペーストとして、上記請求項1〜5のいずれか一項記載の導電性ペーストを用いることを特徴とする導電性パターンの形成方法。
ペーストが充填される、メッシュパターンを含む凹部が設けられたグラビア版と、ペーストをグラビア版の凹部に充填するドクターと、このグラビア版の凹部からペーストが受け渡されるブランケットと、このブランケットに対向させる様に被印刷物を供給して、両者を圧接させてブランケット上の微細配線パターンに対応するパターンを被印刷物に印刷し、次いで焼成を行う、グラビアオフセット印刷法による導電性パターンの形成方法において、前記ペーストとして、上記請求項6記載の導電性ペーストを用いることを特徴とする導電性パターンの形成方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の導電性ペーストは、導電性金属粒子(A)と、50℃において固体のポリエステル樹脂(B)と、50℃において液体のポリエステルジオール(C)と、ブロック化ポリイソシアネート化合物(D)と前記(A)〜(D)と反応性を有さない常圧における沸点170〜300℃の有機溶剤(E)とを含有する、導電性パターン印刷用導電性ペーストである。
【0018】
(導電性金属粒子)
本発明で使用する導電性金属粒子(A)としては、公知の物がいずれも使用できる。例えば、ニッケル、銅、金、銀、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、スズ、鉛、クロム、プラチナ、パラジウム、タングステン、モリブデン等、およびこれら2種以上の合金、混合体、あるいはこれら金属の化合物で良好な導電性を有するもの等が挙げられる。特に、銀粉は、安定した導電性を実現し易く、また熱伝導特性も良好なため好ましい。本発明における導電性金属粒子(A)としては、平均粒子径としてメジアン粒径(D50)が、0.1〜10μm、中でもより細線を形成するためには、0.1〜0.7μmである導電性金属粒子を用いることが好ましい。
【0019】
(銀粉)
本発明における導電性金属粒子(A)として銀粉を用いる場合、平均粒子径としてメジアン粒径(D50)が0.1〜0.7μmである球状銀粉を必須成分として用いることが好ましい。この範囲は、グラビアオフセット印刷法において、印刷機上での連続的に印刷した場合においても、トラブルが起こり難く安定的に良好な導電性パターンを得やすくなる。必要であれば、メジアン粒径(D50)が0.1〜0.7μmである球状銀粉と、それ以上のメジアン粒径の銀粉とを併用しても良い。
【0020】
銀粉としては、例えば、AG2−1C(DOWAエレクトロニクス(株)製、平均粒径D50:0.8μm)、SPQ03S(三井金属工業(株)製、平均粒径D50:0.5μm)、EHD(三井金属工業(株)製、平均粒径D50:0.5μm)、シルベストC−34((株)徳力化学研究所製、平均粒径D50:0.35μm)、AG2−1(DOWAエレクトロニクス(株)製、平均粒径D50:1.3μm)、シルベストAgS−050((株)徳力化学研究所製、平均粒径D50:1.4μm)などが挙げられる。
【0021】
この導電性金属粒子(A)は、表面被覆が全くされていない、金属面が露出したものであっても、予め、各種脂肪酸又はその塩、各極性または無極性の界面活性剤等にて表面被覆されたものであっても、或いは金属面の一部に金属酸化物が存在するものであっても良い。
【0022】
本発明の導電性ペーストは、不揮発分の有機化合物成分として、50℃において固体のポリエステル樹脂(B)成分及び50℃において液体のポリエステルジオール(C)成分を含有する。これら各ポリエステル成分は、印刷後は、一体となって乾燥皮膜を形成し、後記する被印刷物上に、導電性金属粒子(A)を固着する。
【0023】
(50℃において固体のポリエステル樹脂)
本発明の導電性ペーストに用いる、50℃において固体のポリエステル樹脂(B)は、それ単独で良好な皮膜を形成でき、後記する様なブランケット上で良好な皮膜を形成すること、および当該ペ−スト皮膜がブランケットから被印刷物への完全転写することを可能にするものである。それ自体が50℃において固体であると共に、常圧における沸点が300℃を超え、後記する有機溶剤(E)に可溶で、焼成温度以下で溶融し流動しやすいものが好ましい。
【0024】
この様なポリエステル樹脂(B)としては、例えば、二価アルコールと、二価カルボン酸、二価カルボン酸アルキルエステル又は二価カルボン酸ハロゲン化物からなる群から選ばれる二価カルボン酸誘導体を必須成分として、必要に応じて、三価以上の多価アルコールや、三価以上の多価カルボン酸又は三価以上の多価カルボン酸誘導体を併用して得られるポリエステル樹脂が挙げられる。本発明で用いるポリエステル樹脂(B)の製造方法は、特に制限されるものではなく、公知慣用の条件において、例えば、脱水縮合反応、エスエテル交換反応、脱ハロゲン化水素反応のいずれをも採用することが出来る。
【0025】
本発明に用いられるポリエステル樹脂(B)を得るために用いる二価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、炭素原子数12〜28の2塩基酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、3−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、1,2−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、3,4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、2−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ジカルボキシ水素添加ビスフェノールA、ジカルボキシ水素添加ビスフェノールS、ダイマー酸、水素添加ダイマー酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸、水素添加ナフタレンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸が挙げられる。又、これらの酸無水物や低級アルコール等とのエステル化物を利用することもできる。二価カルボン酸アルキルエステルや二価カルボン酸ハロゲン化物としては、上記した二価カルボン酸とアルコール等とでエステル化された二価カルボン酸アルキルエステルや、二価カルボン酸ハロゲン化物としては、二価カルボン酸とハロゲン化水素とでハロゲン化された二価カルボン酸ハロゲン化物が挙げられる。
【0026】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、二価カルボン酸又は二価カルボン酸誘導体以外に、例えば、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの三価以上のカルボン酸、フマール酸などの不飽和二価カルボン酸、さらに、5−スルホイソフタル酸ナトリウム塩などのスルホン酸金属塩基含有ジカルボン酸等を併用してもよい。
【0027】
本発明に用いられるポリエステル樹脂(B)としては、例えば、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸の様な、メチレン結合の繰り返し単位6〜8の脂肪族ジカルボン酸に由来する縮合構造を含有するポリエステル樹脂であることが、金属粒子の分散性と流動性の点で好ましい。
【0028】
具体的には、ポリエステル樹脂を構成する、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸との合計を100モル%とした際に、メチレン結合の繰り返し単位6〜8の脂肪族ジカルボン酸を33%以上、中でも33〜50モル%であることが、硬度、密着性などの塗膜物性および耐湿性の点より好ましい。
【0029】
本発明に用いられるポリエステル樹脂(B)を得るために用いられる二価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、ダイマージオール、水素添加ビスフェノールAなどが挙げられる。
【0030】
また、発明の内容を損なわない範囲で、二価アルコール以外に、例えばトリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ポリグリセリンなどの三価以上の多価アルコールを併用してもよい。
【0031】
二価アルコールや三価以上の多価アルコールとして、上記に挙げた多価アルコールのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン、ε−カプロラクトンなどの不可物を用いることもできる。
【0032】
これらのうち、導電性ペースト自体、またはそれからの印刷パターンや焼成後の導電性パターンの諸物性の面より、全アルコール成分量100モル%としたとき、炭素原子数2〜6の炭素原子数6以下の脂肪族ジオールが80〜100モル%であることが好ましい。炭素原子数2〜6の炭素原子数6以下の脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグルコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等が挙げられる。
【0033】
上記した様なジカルボン酸やその誘導体、ジオールは、それら原料を一括で反応容器に仕込んで反応を行っても良いし、段階的に反応容器に仕込む等して、ランダム構造、ブロック構造、これらの両方を含んだ構造の各種ポリエステル樹脂を調製することが出来る。
【0034】
本発明で用いるポリエステル樹脂(B)は、それ自体、50℃において固体である。この様な50℃において固体のポリエステル樹脂としては、例えば、ガスクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)10,000〜40,000であるポリエステル樹脂が挙げられる。
【0035】
尚、この様なポリエステル樹脂(B)は、それ自体では流動性に乏しいため、後記するブロック化ポリイソシアネート化合物(D)のブロック剤が解離してポリイソシアネート化合物と生じて、これと反応すると、更に高分子量化して流動性が低下する。このため、ポリエステル樹脂(B)は、ポリイソシアネート化合物との反応性がより小さくなる様に、より低酸価や低水酸基価、中でも酸価5mgKOH/g以下かつ水酸基価10mgKOH/g以下のポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0036】
ポリエステル樹脂(B)は、公知慣用の装置、公知慣用の反応条件(反応温度、反応時間、触媒)を用いて、脱水縮合、エステル交換反応、脱ハロゲン化水素反応等により製造することが出来る。また、加熱温度を下げたり、前記した反応に不活性な有機溶媒で希釈したり、モノアルコール等を加えたりする等により、反応を終了させることが出来る。
【0037】
(50℃において液体のポリエステルジオール)
本発明の導電性ペーストに用いる、50℃において液体のポリエステルジオール(C)は、50℃において固体のポリエステル樹脂(B)とは逆に、後記するブロック化ポリイソシアネート化合物(D)からブロック剤が解離して生じたポリイソシアネート化合物と反応してポリウレタン樹脂を生じて、このポリウレタン樹脂は前記ポリエステル樹脂(B)と共に良好な皮膜を形成するものである。後記する有機溶剤(E)に可溶で、より流動しやすいものが好ましい。
【0038】
この様なポリエステルジオール(C)としては、例えば、二価アルコールと、二価カルボン酸、二価カルボン酸アルキルエステル又は二価カルボン酸ハロゲン化物からなる群から選ばれる二価カルボン酸誘導体から得られるポリエステルジオールが挙げられる。ポリエステルジオール(C)の製造には、上記したポリエステル樹脂(B)を得るのに用いた原料や反応条件等をいずれも採用することが出来る。上記したポリエステル樹脂(B)と異なり、ポリエステルの両末端官能基が水酸基となる様に反応が行われる。ポリエステルジオール(C)は、例えば、二価カルボン酸や二価カルボン酸誘導体に比べて、二価アルコールの方が、使用モル数が大きくなる様に原料を仕込んで反応させることで、容易に得られる。
【0039】
本発明で用いる50℃において液体のポリエステルジオール(C)は、それ自体、50℃において液体であり、流動性に優れるものである。この様な50℃において液体のポリエステルジオールとしては、例えば、ガスクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)3,000以下であるポリエステルジオールが挙げられる。
【0040】
この様なポリエステルジオ−ル(C)は、後記するブロック化ポリイソシアネート化合物(D)のブロック剤が解離してポリイソシアネート化合物と積極的に反応させる目的で用いる。このため、ポリエステルジオール(C)は、上記ポリイソシアネート化合物との反応性がより大きくなる様に、ブロック化ポリイソシアネート化合物から生じるポリイソシアネート化合物のイソシアネート当量に対して当量以上の適切な水酸基価範囲、中でも水酸基価40〜300mgKOH/gのポリエステルジオールであることが好ましい。
【0041】
上記では、ポリエステル樹脂(B)として、メチレン結合の繰り返し単位6〜8の脂肪族ジカルボン酸に由来する縮合構造を含有するポリエステル樹脂が好ましいと説明したが、逆に、ポリエステルジオ−ル(C)として、メチレン結合の繰り返し単位6〜8の脂肪族ジカルボン酸に由来する縮合構造を含有するポリエステルジオールを用いる様にしても良い。
【0042】
ポリエステル樹脂(B)もポリエステルジオール(C)も共通してポリエステル構造を有することから、両者の相溶性は優れており、ポリエステルジオール(C)が液状であることから、固形のポリエステル樹脂(B)と均一に混和しやすい。このため、後記する、ブロック化ポリイソシアネート化合物(D)及び常圧における沸点170〜300℃の有機溶剤(E)と混合して調製された導電性ペーストは、後記する様なブランケット上で良好な皮膜を形成すること、および当該ペ−スト皮膜がブランケットから被印刷物への完全転写することを容易にすることが出来る。
【0043】
ポリエステルジオール(C)とポリイソシアネート化合物とが反応することで生じるポリウレタン樹脂が更に含有された形で、被印刷物上にパターンとして形成されることで、被印刷物への導電性パターンの固着性や耐熱性が、より良好になる。また、ポリエステルジオール(C)はポリエステル樹脂(B)の溶剤としても一部機能することから、導電性ペーストの不揮発分を高めること、具体的には、常圧における沸点170〜300℃の有機溶剤(E)の使用量をより削減できることも可能となる。
【0044】
50℃において固体のポリエステル樹脂(B)と、50℃において液体のポリエステルジオール(C)との質量比率は、特に制限されるものではないが、例えば、オフ工程における、導電性ペーストからの印刷パターンの破断性や適正な転写性とセット工程における完全転写性を兼備できる点で、不揮発分換算での両者の比、50℃において固体のポリエステル樹脂(B)/50℃において液体のポリエステルジオール(C)=2/8〜8/2、なかでも3/7〜7/3であることが好ましい。
【0045】
上記ポリエステル樹脂(B)の不揮発分中に占める比率は、各成分合計に対し、質量換算で0.1〜10%とすることが、印刷適性の点で好ましい。一般的に、固体樹脂成分の不揮発分の含有率は、2〜20%が好ましいとされているが、これは、直線からなる凹部のみが設けられたグラビア版を用いて印刷する場合の好適範囲を意味しているに過ぎず、略L字状や略逆L字状の様な二つの直線が交わった形状や、それらが一対に組み合わさった形状に代表されるベゼルパターンの印刷では、上記範囲外の不揮発分含有率では、本発明における様な優れた印刷適性を得るのは難しい。1質量%以上の場合、ブランケット上で良好なベゼルパターンの導電性ペースト膜を形成することが容易になり、導電性ペースト膜がブランケットから被印刷物への完全転写することが容易になる。また、3質量%以下の場合、ペースト粘度がより適正になり、ベゼル形状の導電性パターンを有するグラビア版に導電性ペーストを供給する工程が容易になる。
【0046】
本発明の導電性ペーストを用いて印刷する後記する被印刷物が、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)である場合、上記ポリエステル樹脂(B)及びポリエステルジオール(C)との構造類似性と相まって、PETへの密着性が良好となる。
【0047】
(ブロック化ポリイソシアネート化合物)
ポリイソシアネート化合物は、イソシアナト基が露出した状態(遊離イソシアナト基のまま)であると吸湿したり、水酸基を含有する有機化合物と共存させるとウレタン化反応が経時的に進行するため、導電性ペーストを調製したら直ちに使用する必要がある。従って、使用の際に二成分を混合する作業が発生する。
【0048】
そこで、本発明では、一液の導電性ペーストでありながら実用的な保存安定性を有し、かつ必要な時期に反応を行うため、ブロック剤において、その遊離イソシアナト基を封止した、いわゆるブロック化ポリイソシアネート化合物を用いる。熱硬化系を選択する場合には、上記ポリエステルジオール(C)とブロック化ポリイソシアネート(D)とを用いることで、導電性ペーストの保存安定性を向上させることが出来、調製後の必要な時期に加熱により、そのブロック剤を解離させ、両者の間で反応をさせることが可能となる。
【0049】
ブロック化ポリイソシアネート化合物(D)は、50℃において液体であり、300℃以下での加熱によりブロック剤が解離した後に生成するポリイソシアネート化合物も、常圧における沸点が300℃を超えるものである。
【0050】
ブロック化ポリイソシアネート化合物(D)は、ポリイソシアネート化合物とブロック剤とを公知慣用の方法で反応させることで、容易に調製することが出来る。具体的には、遊離イソシアナト基を有するポリイソシアネート化合物に対して、赤外線吸収スペクトルを監視しながら、イソシアナト基に基づく固有吸収スペクトルが消失するまで、ブロック剤を反応させていくことで、容易に得ることができる。
【0051】
ブロック化ポリイソシアネート化合物(D)を得るためのポリイソシアネート化合物としては、芳香族、脂肪族、脂環族ジイソシアネート、ジイソシアネートの変性による2または3量体、末端イソシアネート基含有化合物などがある。これらは単独で使用しても併用しても良い。芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどが挙げられる。脂環族ジイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられ、さらにこれらジイソシアネートの変性による2または3量体が挙げられる。変性の方法としてはビウレット化、イソシアヌレート化等が挙げられる。あるいは前述のジまたはポリイソシアネート化合物と例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリアミド等の活性水素化合物を反応させて得られる末端イソシアネート基含有化合物などが挙げられる。
【0052】
ブロック化ポリイソシアネート化合物(D)を得るためのブロック剤としては、例えば、フェノール、メチルエチルケトオキシム、重亜硫酸ソーダ等の公知慣用のブロック剤が挙げられる。本発明の導電性ペーストからの導電性パターンを、ガラス、金属、シリカ或いはセラミックス等の耐熱性基材上に設ける場合には、これらブロック剤としては如何なるものも使用することが出来るが、それをPETフィルムや透明ITO電極フィルム等の非耐熱性基材上に設ける場合には、ブロック剤がより低温で解離してイソシアナト基が遊離するブロック化ポリイソシアネート化合物を用いることが好ましい。特に、プラスチックフィルムとして、PETフィルムを基材に用いる場合には、イソシアナト基が生成する際の温度が70〜125℃となる様なブロック剤を用いたブロック化ポリイソシアネート化合物を導電性ペーストに含有させるようにすれば、PETフィルムに反り等を発生させることなく、その上に導電性パターンを形成させることができる。
【0053】
この様な、より低温で解離可能なブロック剤としては、活性メチレン化合物又はピラゾール化合物を挙げることが出来る。活性メチレン化合物としては、メルドラム酸、マロン酸ジアルキル、アセト酢酸アルキル、2−アセトアセトキシエチルメタクリレート、アセチルアセトン、シアノ酢酸エチル等が挙げられ、ピラゾール化合物としては、ピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、3−メチルピラゾール、4−ベンジル−3,5−ジメチルピラゾール、4−ニトロ−3,5−ジメチルピラゾール、4−ブロモ−3,5−ジメチルピラゾール、3−メチル−5−フェニルピラゾール等が挙げられる。中でもマロン酸ジエチル、3,5−ジメチルピラゾール等が好ましい。
【0054】
好適なブロック化ポリイソシアネート化合物の市販品としては、ブロック剤が活性メチレン化合物のものではデュラネート(登録商標)MF−K60B(旭化成ケミカルズ社製)、デスモジュール(登録商標)BL−3475(住化バイエルウレタン社製)が、一方、ブロック剤がピラゾール化合物であるものではTRIXENE BI−7982(バクセンデン社製)、活性メチレン化合物とピラゾール化合物の混合タイプではTRIXENE BI−7992(バクセンデン社製)が挙げられる。
【0055】
焼成することで導電性を発現する本発明の導電性ペーストは、前記ポリエステルジオール(C)と前記ブロック化ポリイソシアネート化合物(D)とから、ウレタン結合を生成させるための硬化系としては、熱硬化系を選択することが好ましい。導電性金属粒子(A)自体は、活性エネルギー線に対する光透過性がほとんど無い。従って、導電性金属粒子(A)と各成分(B)〜(D)とを含有するペーストは、皮膜化しても、活性エネルギー線が膜厚方向の深部までは到達せず、表面を硬化させるにとどまり、皮膜深部まで充分に硬化を行うことが困難となる。一方、熱で硬化させる場合には、硬化に必要なエネルギーが膜厚方向の深部まで到達する。
【0056】
本発明の熱硬化性導電性ペーストは、それだけでは硬化しない主剤であるポリエステルジオール(C)と、硬化剤であるポリイソシアネート化合物を生じるブロック化ポリイソシアネート化合物(D)との組み合わせからなり、それに更に、実質的には前記成分(C)との反応を期待しない、前記ポリエステル樹脂(B)が含有されている。主剤と、硬化剤とは、両方が混合されていても、常温では反応せずに、加熱することで初めて硬化する様に、それぞれが選択されている。
【0057】
本発明で用いる前記ポリエステル樹脂(B)は、芳香族二価カルボン酸又はその誘導体を用いて得たポリエステル樹脂である場合には、導電性金属粒子(A)の分散性に優れ、より多くのそれをペースト中に含有させることが出来、その結果導電性をより高めることが可能であり、しかも硬化に関与しなくとも被印刷物、特にPETフィルムへの密着性に優れるので好ましい。この密着性は、導電性パターンを形成する対象である被印刷物が、フレキシブルな非耐熱性の素材、特にPETフィルムである場合に、導電性回路が設けられた電気電子部品の屈曲性を高められる点、高集積化が可能な点で極めて有利である。
【0058】
ポリエステルジオール(C)と、ブロック化ポリイソシアネート化合物(D)の様なイソシアネート硬化剤との組み合わせを必須成分とする熱硬化性導電性ペーストにおいては、質量換算で、ブロック剤を除いたポリイソシアネート化合物の不揮発分100部当たり、ポリエステルジオール(C)の不揮発分が20〜200部であることが、印刷適性に優れる点でより好ましい。
【0059】
本発明で使用するブロック化ポリイソシアネート化合物(D)には、必要なら硬化触媒を併用することが出来る。この硬化触媒としては、特に限定されるものではないが、有機アンモニウム塩又は有機アミジン塩であることが好ましい。具体的には、有機アンモニウム塩ではテトラアルキルアンモニウムハロゲン化物、テトラアルキルアンモニウム水酸化物、テトラアルキルアンモニウム有機酸塩等、有機アミジン塩では1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(以下DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5(以下DBN)のフェノール塩、オクチル酸塩、オレイン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、ギ酸塩などを使用することができる。中でも、DBU−フェノール塩、DBU−オクチル酸塩、DBN−オクチル酸塩等を使用することが好ましい。市販品としては、有機アンモニウム塩ではTOYOCAT−TR20(東ソー社製)、有機アミジン塩ではU−CAT SA1、U−CAT SA102、U−CAT SA106、U−CAT SA506、U−CAT SA603、U−CAT SA1102(サンアプロ社製)が挙げられる。有機アンモニウム塩又は有機アミジン塩は、ブロック化ポリイソシアネート化合物(D)のブロック剤解離触媒として作用するのみならず、多官能エポキシ化合物を更に併用した場合における、そのエポキシ基の開環触媒としても作用する。
【0060】
ブロック化ポリイソシアネート化合物(D)の反応触媒は、質量換算で、ブロック化ポリイソシアネート化合物(D)100部当たり3〜30部であることが、最終的に得られる導電性、耐溶剤性などの導電性パターンの性能を高められる点から好ましい。
【0061】
本発明の導電性ペーストにおいて、導電性金属粒子(A)と、ポリエステル樹脂(B)とポリエステルジオール(C)とブロック化ポリイソシアネート化合物(D)中のポリイソシアネート化合物との割合は特に制限されるものではないが、不揮発分の質量換算で、前記物(B)から(D)の合計使用量をR、前記導電性金属粒子(A)の使用量をPとした際の両者の質量比R/Pを、0.07〜0.15となる様に調製することが、得られる導電性パターンの導電性の観点から好ましい。
【0062】
勿論、本発明の導電性ペーストの硬化系では、用いた原料中に含まれる活性水素原子とブロック化ポリイソシアネート化合物(D)のイソシアナト基が全て消費されることのみを考慮して、それぞれの当量が化学量論的に等しくなるように、それぞれの原料の不揮発分使用量を選択してもよいが、当該導電性ペーストから得られる硬化後のパターンの諸物性を考慮して、原料中に含まれる活性水素原子よりもブロック化ポリイソシアネート化合物(D)が解離した後のイソシアナト基が過剰となる様に使用されることも多い。
【0063】
本発明の導電性ペーストには、上記した、50℃において固体のポリエステル樹脂(B)、50℃において液体のポリエステルジオール(C)及びブロック化ポリイソシアネート化合物(D)以外の各種原料(第三成分という)を、必要であれば、更に含有させることも出来る。この様な第三成分としては、中でも、ケトン−ホルムアルデヒド縮合体の水素添加物、水酸基含有塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、水酸基含有スチレン系樹脂、水酸基含有アクリル系樹脂、水酸基含有ポリビニルアセタールからなる群から選ばれる少なくとも一種の水酸基を含有する熱可塑性樹脂を用いることが出来る。ポリ塩化ビニルや塩化ビニルと他の不飽和二重結合含有モノマーとの共重合体、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体や(メタ)アクリル酸エステルとその他の不飽和二重結合含有モノマーとの共重合体、ポリスチレンやスチレンモノマーとその他の不飽和二重結合含有モノマーとの共重合体、ケトン−ホルムアルデヒド縮合体やその水素添加物、多官能エポキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリウレタンなどが挙げられる、これらは、単独又はこれらから選ばれる1種以上を併用することが出来る。
【0064】
被印刷物が、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)である場合、この第三成分としては、それ自体のPETへの密着性が良好である、ケトン−ホルムアルデヒド縮合体やその水素添加物、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアセタールからなる群から選ばれる少なくとも一種の50℃において固体である熱可塑性樹脂が好適に使用される。この様なケトン−ホルムアルデヒド縮合体やその水素添加物としては、エボニックデグサジャパン(株)TEGO(登録商標)VariPlusシリーズ(SK,APなど)、ポリエステルとしては、東洋紡株式会社製のバイロン(登録商標)シリーズ(バイロン200など)が、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体としては、日信化学工御油株式会社製のソルバイン(登録商標)シリーズ(ソルバインALなど)が、ポリビニルアセタールとしては、積水化学工業株式会社製のエスレック(登録商標)シリーズ(エスレックKS−10など)が挙げられる。
【0065】
この様な多官能エポキシ化合物としては、例えば、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリス(ヒドロキシフェニル)メタントリグリシジルエーテル等が、高分子ポリオール化合物としては、例えば、分子量800以上の公知慣用のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール等が、オキセタン化合物としては、例えば、3−エチル−3{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタン等が挙げられる。
【0066】
多官能エポキシ化合物の硬化剤(硬化触媒)としては、必要に応じて、公知慣用の酸無水物、アミン類、イミダゾール類、フェノール樹脂等を用いることが出来る。
【0067】
勿論、第三成分として、水酸基を含有するものを用いる場合には、上記ポリエステルジオール(C)の水酸基価だけを考慮するのではなく、この第三成分に由来する水酸基価をも考慮に入れて、これらの合計の水酸基価と、ブロック化ポリイソシアネート化合物(D)から生じるポリイソシアネート化合物のイソシアネート当量とを一致させる様にすることが、被印刷物への導電性パターンの固着性や耐熱性の観点から好ましい。
【0068】
(前記(A)〜(D)と反応性を有さない常圧における沸点170〜300℃の有機溶剤)
本発明で使用されるポリエステル樹脂(B)、ポリエステルジオール(C)及びブロック化ポリイソシアネート化合物(D)は、例えば、各種印刷法に適する様に、通常は、溶媒に溶解し、かつ導電性金属粒子(A)はこれらの混合物に分散しペースト化した上で、被印刷物上に導電性ペーストの細線パターンを塗布したり印刷したりすることが必要となる。そのため、熱硬化性導電性ペースト構成する主剤及び硬化剤の選択に当たっては、溶媒への溶解性を考慮することが好ましい。
【0069】
このような観点から、上記溶媒として、前記(A)〜(D)と反応性を有さない常圧における沸点170〜300℃の有機溶剤(E)を使用する。有機溶剤(E)は、上記を満たす公知慣用の有機溶剤をいずれも使用し得る。この様な有機溶剤としては、例えば、トリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールジアセテート、1,4−ブタンジオールジビニルエーテル、3−メトキシ−3−メチルブタノール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、テルピネオール等が挙げられる。これら有機溶剤(E)は、一種を単独で用いても、二種以上を併用しても良い。
【0070】
本発明の導電性ペースト中における有機溶剤(E)の含有率は、グラビアオフセット印刷法において、上記した効果が得られる範囲であれば特に制限は無いが、5〜30質量%であるが好ましく、中でも7〜20質量%であればさらに好ましい。この範囲であると、ペースト粘度がより適正になり、特に、グラビアオフセット印刷において、画線のコーナー部分やマトリックスの交差点にピンホール欠陥を起こすことなく、より高精細な印刷パターンを形成することができる。
【0071】
本発明の導電性ペーストを、ベゼルパターンを形成するために用いる場合、そのベゼルパターンは、例えばスマートフォンやタブレットコンピュータの筐体に隠れてしまうため気にならないが、メッシュパターンを形成するために用いる場合には、パターンが筐体には隠れずにディスプレイ画面を通して露出した形で使用に供されるため、パターンに含まれる導電性金属粒子(A)に起因する光の反射やギラつきを抑制するために、黒色顔料を併用することが好ましい。この様な黒色顔料としては、カーボンブラック、チタンブラックの様な無機黒色顔料や、ペリレンブラック、YMCの三色の各種有機顔料の混色により得た黒色顔料を用いることが出来る。
【0072】
本発明の導電性ペーストには、上述の成分以外にも、必要に応じて、分散剤、消泡剤、剥離剤、レベリング剤、可塑剤などの各種添加剤を適宜適量配合することができる。
【0073】
本発明の導電性ペーストは、スクリーン印刷法など、各種の印刷方法に適用することが出来るが、細線の線幅がより小さい微細なパターンでの印刷に適用可能な公知慣用の印刷方法に適用することで、従来に比べて優れた微細配線パターン(導電性パターン)を形成することが出来る。
【0074】
本発明で好適に適用するグラビアオフセット印刷法では、所望の印刷パターンに対応する凹部が形成されたグラビア版と、ペーストをグラビア版の凹部に充填するドクターと、表面が、例えばシリコーンゴムからなるブランケットとが用いられる。このグラビア版には、導電性ペーストが充填されるパターンに対応した凹部を有する溝が設けられる。このグラビア版の溝である凹部から導電性ペーストがブランケットに受け渡される。このブランケットに対向させる様に被印刷物を供給して、両者を圧接させて、ブランケット上の微細配線パターンに対応するパターンを被印刷物に印刷することで、印刷パターンが形成される。この印刷パターンは、焼成することで導電性を有する微細配線パターン(導電性パターン)となる。
【0075】
すなわち、グラビアオフセット印刷の工程は、大きく分けて、グラビア版の溝である凹部に導電性ペーストを充填するドクタリング工程と、凹部に充填された導電性ペーストをブランケットの表面に転移するオフ工程と、ブランケットに移った導電性ペーストを被印刷物に転写するセット工程とを備える。この印刷法によれば、凹部の形状によって印刷パターンの形状を自在に設定でき、また、ブランケットから被印刷物への導電性ペーストの転写率も高いため、微細配線パターンに対応する印刷パターンを精度良く形成することが可能である。
【0076】
グラビアオフセット印刷法では、公知慣用の凹版、ガラス板上の感光性樹脂を露光、現像、洗浄により形成した凹版、ガラス板、金属板、金属ロールをケミカルエッチングおよびレーザーエッチングにより形成した凹版が使用できる。
【0077】
またグラビア版としては、公知慣用の線幅、深さの、各種パターンに対応する溝に相当する凹部を含む版を用いることが出来るが、より高密度の配線パターンにおいて、より多数の印刷においても優れた直線性が確保でき、かつ断線等の不具合も見られない点で、各種パターンに対応する線幅10〜50μm、深さ5〜20μmの凹部を有するグラビア版を用いることが好ましい。
【0078】
グラビアオフセット印刷法においては、枚葉の被印刷物を、グラビア版として平面状の版を、ブランケットとして円筒状のブランケットを、それぞれ用いて、ブランケットを被印刷物に圧接して、ブランケット上の各種パターンを被印刷物に転写印刷する様にしても良いし、ロール状に巻いた長尺の被印刷物を、グラビア版として円筒状の版を、ブランケットとして円筒状のブランケットを、円筒状の圧胴をそれぞれ用いて、ブランケットを被印刷物に圧接して、連続的にブランケット上の各種パターンを被印刷物に転写印刷する様にしても良い。
【0079】
また、凹部に充填された導電性ペーストをブランケットの表面に転移するオフ工程においては、導電性ペースト中に含まれる有機溶剤(E)がブランケットに吸収され、より不揮発分が高まり、それが、セット工程で被印刷物に転写される。従って、印刷サイクルを繰り返すことにより、導電性ペースト中の有機溶剤(E)が、印刷毎にブランケットに蓄積することになる。ブランケットが吸収できる有機溶剤(E)の体積はおのずと限界があるため、この限界を超えると、セット工程において被印刷物に適正な転写が行われなくなり、印刷パターンが乱れる等の不具合が生じることがある。よって、一つのブランケットを使って、多数の印刷を行う場合には、被印刷物への印刷後に、有機溶剤(E)を吸収したブランケットを乾燥させる工程を含ませることが好ましい。この乾燥工程は、1回の印刷サイクル毎に行ってもよいし、間隔を開けて、5〜20回の印刷サイクル毎に行っても良い。
【0080】
グラビアオフセット印刷法では、ブランケットが用いられる。ブランケットとしては、例えば、シリコーンゴム層、PET層、スポンジ層の様な層構造を有するシートが挙げられる。通常、ブランケット胴と称される剛性のある円筒に巻きつけた状態で使用される。
【0081】
導電性ペーストからの導電性パターン形成において、上記グラビアオフセット印刷方法を採用した場合、ブランケットには、凹版からの転写性、及び、被印刷物への転写性が求められる。被印刷物への十分な転写性を得るためには、ブランケット表面で、導電性ペースト中の液体成分を一定割合で吸収することが必要である。吸収が不十分であると被印刷物への転写時に導電性ペースト層が層間剥離を起こし易く、逆に、一定割合を超えて吸収するとブランケット表面で導電性ペーストが乾燥し、被印刷物への転写不良を起こし易い。
【0082】
本発明の導電性ペーストは、任意の方法で、例えば、プラスチックフィルム、セラミックフィルム、シリコンウエハ、ガラス又は金属プレートの何れかの被印刷物上に、塗布または印刷することで印刷パターンを形成することができる。しかしながら、本発明の導電性ペーストの真価が如何なく発揮できるのは、導電性パターンを得る際に、被印刷物として、高温に曝すことが出来ないPETフィルム或いはそれを支持体とした、ITOフィルムの様な透明導電性フィルムである。
【0083】
本発明の導電性ペーストを調製するに当たっては、印刷すべき被印刷物がプラスチックフィルムの様に耐熱性に劣る場合には、ポリエステル樹脂とポリウレタン樹脂を含有するペースト皮膜の分解温度以上、導電性金属粒子(A)の融点未満で溶融して、前記導電性金属粒子(A)を被印刷物へ結着させる機能を有する、例えばガラスフリットの様な無機結着剤を含有させないことが好ましい。本発明の導電性ペーストにおいては、専ら、ポリエステル樹脂(B)と、ポリエステルジオール(C)及びブロック化ポリイソシアネート化合物(D)から発生するポリイソシアネート化合物から生じるポリウレタン樹脂とに基づいて、導電性金属粒子(A)を被印刷物に固着させることを意図しており、この無機結着剤を含有させることにより、導電性金属粒子(A)自体の含有率を低下させざるを得なくなり、それに基づく優れた導電性が達成し難くなると共に、被印刷物への固着性が低下することは好ましくない。
【0084】
上記したグラビアオフセット印刷において被印刷物上に形成された、各種の形状のパターンを含む微細配線パターンに対応する印刷パターンを焼成することで、導電性を有する微細配線パターンを得ることが出来る。この焼成に当たっては、当該ペーストに含有されている有機溶剤(E)の除去と、ポリエステルジオール(C)とブロック化ポリイソシアネート化合物(C)から生じるポリイシソシアネート化合物との硬化反応の生起とをこの順に行っても良いし、これらを同時に行っても良い。
【0085】
本発明の導電性ペーストにおいて、硬化反応を生起させるに当たっては、熱源による加熱、キセノンフラッシュランプの照射、極超短波の照射、近赤外線の照射、遠赤外線の照射等、極超短波の照射公知慣用の手段を採用し得る。しかしながら、上記した通り、被印刷物として、高温に曝すことが出来ないPETフィルム或いはそれを支持体とした、ITOフィルムの様な透明導電性フィルムを用いる様な場合には、上記した硬化反応が150℃以下で生起する様に、ペースト原料を選定し、150℃以下、中でも100〜140℃にて焼成を行うことが好ましい。
【0086】
本発明の導電性ペーストには、有機溶剤(E)が含まれているが、ドクタリング工程でペーストが薄膜化され、その表面からは沸点未満であっても揮発が進行する上、次のオフ工程では、グラビア版から転写された印刷パターン自体からブランケットが更に当該有機溶剤(D)を吸収することから、セット工程で、ブランケットから被印刷物上に転写された印刷パターン中の有機溶剤(E)は、ドクタリング工程前のペースト中に比べて、その含有率が大幅に低減されている。従って、実際に用いた導電性ペーストに含有された有機溶剤(E)の沸点以上まで加熱を行わなくても、当該有機溶剤(E)を除去することは可能である。
【0087】
こうして、本発明において好適な熱硬化性導電性ペーストを用いて被印刷物上に設けられた印刷パターンは、例えば、100〜140℃で30〜5分加熱することで硬化皮膜となり、導電性パターンとなり導電性を発現する。
【0088】
こうして本発明の導電性ペーストによれば、例えば、線幅が50μm以下といった細線ばかりでなく、より線幅が狭く高度な印刷技術が要求され、難易度が高い35μm以下、具体的には3〜35μmといった極細線幅の導電性パターンの形成にも対応し得る。
【0089】
上記した通り、本発明の好適な導電性ペーストからの導電性パターンは、従来より低温かつ短時間で形成できることから、本発明の好適な導電性ペーストの特徴は、セラミックフィルム、ガラス又は金属プレートの様な耐熱性の高い被印刷物よりも、耐熱性がより低く熱変形しやすい、非耐熱性の被印刷物上に導電性パターンを形成する際に、特に顕著に発揮される。こうして、本発明の好適な導電性ペーストの硬化皮膜が非耐熱性の被印刷物上に形成された導電性パターンは、非耐熱性の被印刷物上に形成された導電性回路として好適に用いることができる。
【0090】
こうして本発明の導電性ペーストで、グラビアオフセット印刷法にて形成された、各種形状のパターンを含む導電性を有する微細配線パターンが設けられた各種被印刷物は、導電性回路として、必要に応じて更に配線等を行うことで、各種の電気部品、電子部品とすることができる。本発明の導電性ペーストに基づいて得られた導電性を有する微細配線パターンは、透明ITO電極の様な透明導電フィルムへの密着性にも優れている。
【0091】
本発明の導電性ペーストで、被印刷物上に形成する微細配線パターンとしては、平面視における形状として、例えば電極部と配線部とを有し、タッチパネルの表示領域の縁部に沿って形成される、いわゆるベゼルパターン1が挙げられる。
【0092】
ベゼルパターン1は、例えば透明電極と接続される細線の集合体であり、例えば
図1に示すように、所定の方向に延びる第1の細線パターン2と、第1の細線パターン2と略直交する方向に第1の細線パターン2の一端部から延びる第2の細線パターン3とからなる一対の略L字状の配線パターン4,4を有している。第2の細線パターン3の先端部には、第1の細線パターン2と反対側に延びる複数の細線によって電極パターン5が形成されており、一対の略L字状の配線パターン4,4は、電極パターン5,5同士が所定の間隔をもって対向し、かつ第1の細線パターン2,2同士が略平行となるように配置されている。第1の細線パターン2及び第2の細線パターン3の線幅は、例えば10μm〜100μmとすることが出来る。また、電極パターン5は、例えば幅200μm×長さ2000μm程度の略長方形状の領域に形成することが出来る。
図1においては、垂直方向に印刷が行われる場合は、第1の細線パターン2,2はMachine Direction(MD)方向の細線となり、一方、それに直交する方向の第2の細線パターン3,3は、Transverse Direction(TD)方向の細線となる。
【0093】
本発明の導電性ペーストは、略L字状、略逆L字状、これらの組み合わせ或いは略ロ字状といった様な、二つ以上の直線状凹部が繋がって形成されたベゼルパターンだけでなく、従来の直線パターンを得るのにも適用できる。
【0094】
上記したベゼルパターン以外の平面視における形状パターンとしては、例えば、メッシュパターンを挙げることが出来る。メッシュパターンとしては、平面において、例えば、円形格子、三角格子、正方格子、菱形格子、六角(ハニカム)格子等を挙げることが出来る。開口率は、必要に応じて、その大小を調整すれば良い。
【0095】
周期的メッシュパターンは、画像表示パネルの画素の周期的配列と干渉してモアレ(縞模様)が生じることがある。具体的には、メッシュパターンのメッシュ配列のランダム性をより高めると、モアレ解消効果は向上するが、その代わりに、画像表示パネルの面内輝度分布に濃淡ムラが目立つようになる傾向がある。逆に、メッシュパターンのメッシュ配列の周期性をより高めると、濃淡ムラは低減するが、モアレが目立つようになる傾向があることが知られている。
【0096】
モアレと濃淡ムラの両方が発生しない様にするに当たって、メッシュパターンとしては、例えば、特開2013−207038公報にある様に、該メッシュの延在方向に直交する面に平行な断面である主切断面において、該メッシュの前記高さH/4での幅Wtが、該メッシュを設けた被印刷物の表面である水準面での麓幅W4に対して、Wt<W4であり、前記メッシュを構成する導電性凸条部は、前記導電性凸条部が形成された前記被印刷物の面に立てた法線方向から観察したときの平面視形状であるメッシュパターンが、二つの分岐点の間を延びて前記開口領域を画成する多数の境界線分Lから構成され、
(a)一つの分岐点から延びる境界線分の数の平均値Nが、3.0≦N<4.0である。
(b)前記開口領域の形状が、五角形、六角形及び七角形から選ばれた2種以上の多角形を含んでなり、前記メッシュパターン中に含まれる開口領域の数は六角形の開口領域が最多である。
(c)前記メッシュパターンを構成する多角形は同一辺数の多角形の形状は一定でない。
の3条件を満たし、かつ、
(d)前記開口領域の配置に周期性を有する方向が存在しない領域を含んでなる
メッシュパターン(仮に、ランダム格子と呼ぶ)を用いることが好ましい。
【0097】
本発明の導電性ペーストにより、単純な直線パターンの形成と、それらの交差部分の様な複雑パターンの形成とで、性質の異なる最適な導電性ペースト二つ以上を準備し、それらペーストを印刷すべきパターンの複雑さに応じて使い分けるという手間が不要となり、本発明の導電性ペースト一つで、一回の印刷で、複雑なベゼルパターンと、それ以外の単純な直線パターンを一度に形成することも可能となった。
【0098】
最終製品としては、例えばタッチパネルの取り出し電極やディスプレイの取り出し電極、電子ペーパー、太陽電池、その他の配線品等が挙げられる。
【実施例】
【0099】
以下、本発明を実施例を用いて説明する。実施例中、単に部とあるものは質量部を示す。また、各測定項目は以下の方法に従った。
【0100】
分子量
GPCによりポリスチレン換算の数平均分子量を測定した。
【0101】
酸価(mgKOH/g)
試料の水酸基価に応じて約1g又は5gを精秤し20mlのテトラハイドロフランに溶解した。ついで、0.1Nの水酸化カリウム(エタノール溶液)で滴定して求めた。指示薬には、フェノールフタレイン溶液を用いた。
【0102】
水酸基価(mgKOH/g)
試料の水酸基価に応じて約2g〜12gを精秤し、正確に25mlのアセチル化剤(無水酢酸/ピリジン=1/19(体積比)で混合したもの)を添加し、130℃一時間還流させた後、イオン交換水約10mLを加え室温まで冷却した。指示薬としてフェノールフタレインを添加し、0.1N水酸化カリウムエタノール溶液で滴定した。空試験を同時に行った。得られた値を上記で求めた酸価及びブランクの値を用いて補正し、水酸基価を求めた。
【0103】
合成例1(ポリエステル樹脂a)
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、精留管、水分分離器を具備した四口フラスコに、テレフタル酸ジメチル123.3部、イソフタル酸ジメチル29.0部、セバシン酸114.1部、3−メチル−1,5−ペンタンジオール(3MPD)55.0部、ネオペンチルグリコール(NPG)49.9部、エチレングリコール(EG)28.8部、テトラブチルチタネート0.079部を仕込み、精留管上部温度が55℃を越えないように180℃まで2時間を要して上昇させた後、1時間保持しエステル交換を行なった。次に、水分分離器をキシレンで満たし反応容器に(キシレン15部/モノマー計1000部)を加えて240℃まで3時間を要して昇温させ、3時間エステル化反応を行った後、1mmHg以下まで徐々に減圧し、酸価が2mgKOH/g以下になるまで240℃で重縮合を行った。
得られたポリエステル樹脂の組成は、テレフタル酸/イソフタル酸/セバシン酸//3MPD/NPG/EG=49/11/40//34/33/33(モル比)、数平均分子量28,000、酸価2mgKOH/g、水酸基価2mgKOH/gであった。
このポリエステル樹脂aは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸との合計(全ジカルボン酸)を100モル%とした際、それに占める脂肪族ジカルボン酸40モル%であり、後記するブロック化ポリイソシアネート化合物から発するポリイソシアネート化合物のイソシアナト基と反応し得る活性水素原子を、実質的にほとんど有していなかった。また、このポリエステル樹脂aは、数平均分子量約3.5万で、温度50℃において固体であった。
【0104】
合成例2(ポリエステル樹脂b)
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、精留管、水分分離器を具備した四口フラスコに、テレフタル酸ジメチル136.5.3部、イソフタル酸ジメチル29.1部、セバシン酸100.2部、3−メチル−1,5−ペンタンジオール(3MPD)55.2部、ネオペンチルグリコール(NPG)50.1部、エチレングリコール(EG)28.9部、テトラブチルチタネート0.079部を仕込み、精留管上部温度が55℃を越えないように180℃まで2時間を要して上昇させた後、1時間保持しエステル交換を行なった。次に、水分分離器をキシレンで満たし反応容器に(キシレン15部/モノマー計1000部)を加えて240℃まで3時間を要して昇温させ、3時間エステル化反応を行った後、1mmHg以下まで徐々に減圧し、酸価が2mgKOH/g以下になるまで240℃で重縮合を行った。
得られたポリエステル樹脂の組成は、テレフタル酸/イソフタル酸/セバシン酸//3MPD/NPG/EG=54/11/35//34/33/33(モル比)、数平均分子量28,000、酸価2mgKOH/g、水酸基価2mgKOH/gであった。
このポリエステル樹脂bは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸との合計(全ジカルボン酸)を100モル%とした際、それに占める脂肪族ジカルボン酸35モル%であり、後記するブロック化ポリイソシアネート化合物から発するポリイソシアネート化合物のイソシアナト基と反応し得る活性水素原子を、実質的にほとんど有していなかった。また、このポリエステル樹脂bは、数平均分子量約3.5万で、温度50℃において固体であった。
【0105】
合成例3(ポリエステル樹脂c)
仕込んだジカルボン酸とジオールを、テレフタル酸ジメチル110.1部、イソフタル酸ジメチル28.9部、セバシン酸127.8部、3−メチル−1,5−ペンタンジオール(3MPD)54.8部、ネオペンチルグリコール(NPG)49.7部、エチレングリコール(EG)28.7部に変更する以外は、上記合成例1と同様にして、ポリエステル樹脂bを得た。
得られたポリエステル樹脂の組成は、テレフタル酸/イソフタル酸/セバシン酸//3MPD/NPG/EG=11/44/45//34/33/33(モル比)、数平均分子量28,000、酸価2mgKOH/g、水酸基価2mgKOH/gであった。
このポリエステル樹脂bは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸との合計(全ジカルボン酸)を100モル%とした際、それに占める脂肪族ジカルボン酸45モル%であり、後記するブロック化ポリイソシアネート化合物から発するポリイソシアネート化合物のイソシアナト基と反応し得る活性水素原子を、実質的にほとんど有していなかった。また、このポリエステル樹脂は、数平均分子量約3.5万で、温度50℃において固体であった。
【0106】
比較合成例1(ポリエステル樹脂d)
仕込んだジカルボン酸とジオールを、テレフタル酸ジメチル137.0部、イソフタル酸ジメチル42.0部、セバシン酸86.2部、3−メチル−1,5−ペンタンジオール(3MPD)55.4部、ネオペンチルグリコール(NPG)50.3部、エチレングリコール(EG)29.0部に変更する以外は、上記合成例1と同様にして、ポリエステル樹脂cを得た。
得られたポリエステル樹脂の組成は、テレフタル酸/イソフタル酸/セバシン酸//3MPD/NPG/EG=16/54/30//34/33/33(モル比)、数平均分子量28,000であった。
このポリエステル樹脂dは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸との合計(全ジカルボン酸)を100モル%とした際、それに占める脂肪族ジカルボン酸30モル%であり、後記するブロック化ポリイソシアネート化合物から発するポリイソシアネート化合物のイソシアナト基と反応し得る活性水素原子を、充分に有しているものであった。また、このポリエステル樹脂は、数平均分子量2〜4万の範囲にあり、温度50℃において固体であった。
【0107】
合成例4(ポリエステルジオール)
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、精留管、水分分離器を具備した四口フラスコに、アジピン酸(AdA)185.8部、無水グルタル酸24.4部、3−メチル−1,5−ペンタンジオール(3MPD)173.9部、1,4−ブタンジオール(BG)15.8部を仕込み、精留管上部温度が100℃を越えないように160℃まで3時間を要して上昇させた後、酸価が2になるまで脱水縮合反応を行なった。
得られたポリエステルジオールの組成は、アジピン酸/グルタル酸/3MPD/BG=86/14//89/11(モル比)、数平均分子量2,000、水酸基価54mgKOH/gであった。
このポリエステルジオールは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸との合計(全ジカルボン酸)を100モル%とした際、それに占める脂肪族ジカルボン酸100モル%であり、後記するブロック化ポリイソシアネート化合物から発するポリイソシアネート化合物のイソシアナト基と反応し得る活性水素原子を、充分に有しているものであった。また、このポリエステルジオールは、数平均分子量1万以下であり、温度50℃において液体であった。
【0108】
実施例1(ベゼルパターン印刷用導電性ペースト)
メジアン粒径(D50)0.2〜0.5μmの球状銀粉74質量部と、質量比で上記ポリエステル樹脂a(不揮発分)/上記ポリエステルポリオール(不揮発分)6/4となる質量と、前記ポリエステルポリオールの水酸基価と、バクセンデン社TRIXENE BI 7982(ブロック剤が3,5−ジメチルピラゾールであるブロック化ポリイソシアネート化合物)のイソシアナト当量とが一致する質量とを用いて、上記ポリエステル樹脂a(不揮発分)/上記ポリエステルポリオール(不揮発分)/TRIXENE BI 7982(不揮発分)の合計が10質量部となる様にし、テルピネオール溶剤、ブチルカルビトールアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテルの混合溶剤(6/4.5/3/2.5)16部を用いて、これらを充分に混練して、グラビアオフセット印刷用導電性ペーストAを調製した。
【0109】
実施例2(同上)
質量比で上記ポリエステル樹脂a(不揮発分)/上記ポリエステルポリオール(不揮発分)4/6となる質量と、前記ポリエステルポリオールの水酸基価と、TRIXENE BI 7982のイソシアナト当量とが一致する質量とを用いて、上記ポリエステル樹脂a(不揮発分)/上記ポリエステルポリオール(不揮発分)/TRIXENE BI 7982(不揮発分)の合計が10質量部となる様にする以外は、実施例1と同様にしてグラビアオフセット印刷用導電性ペーストBを調製した。
【0110】
実施例3(同上)
質量比で上記ポリエステル樹脂b(不揮発分)/上記ポリエステルポリオール(不揮発分)4/6となる質量と、前記ポリエステルポリオールの水酸基価と、TRIXENE BI 7982のイソシアナト当量とが一致する質量とを用いて、上記ポリエステル樹脂b(不揮発分)/上記ポリエステルポリオール(不揮発分)/TRIXENE BI 7982(不揮発分)の合計が10質量部となる様にする以外は、実施例1と同様にしてグラビアオフセット印刷用導電性ペーストCを調製した。
【0111】
実施例4(同上)
質量比で上記ポリエステル樹脂c(不揮発分)/上記ポリエステルポリオール(不揮発分)4/6となる質量と、前記ポリエステルポリオールの水酸基価と、TRIXENE BI 7982のイソシアナト当量とが一致する質量とを用いて、上記ポリエステル樹脂c(不揮発分)/上記ポリエステルポリオール(不揮発分)/TRIXENE BI 7982(不揮発分)の合計が10質量部となる様にする以外は、実施例1と同様にしてグラビアオフセット印刷用導電性ペーストDを調製した。
【0112】
比較例1(同上)
メジアン粒径(D50)0.2〜0.5μmの球状銀粉74質量部と、質量比で上記ポリエステル樹脂d(不揮発分)の水酸基価と、TRIXENE BI 7982のイソシアナト当量とが一致する質量とを用いて、上記ポリエステル樹脂d(不揮発分)/TRIXENE BI 7982(不揮発分)の合計が10質量部となる様にし、テルピネオール溶剤、ブチルカルビトールアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテルの混合溶剤(10/0.5/3/2.5)16部を用いて、これらを充分に混練して、グラビアオフセット印刷用導電性ペーストEを調製した。
【0113】
(印刷適性)
実施例1〜3及び比較例1の各導電性ペーストを用いて、下記の方法によりグラビアオフセット印刷を行い、ベゼルパターンを含む導電性パターンを、それぞれ作成した。これらの評価結果を、下記表1に合わせて示した。
【0114】
溝の線幅30μmかつ溝の深さ10μmの、
図1のベゼルパターンに対応する溝が設けられた、ガラス製の平板状の凹版に各導電性ペーストをドクターブレードによりインキングした後に、シリコーンブランケットを巻きつけたシリンダーに押圧、接触させ、所望のパターンをブランケット上に転移させた。その後、該ブランケット上の塗膜を、平板状の被印刷物である、枚葉の透明導電性フィルム(厚さ250μm)のITO膜面に押圧、転写して印刷し、線幅約30μmの印刷パターンを作成した。印刷された線幅約30μmのベゼルパターンのTD方向に相当する線(
図1における第2の細線パターン3,3)を顕微鏡観察し、細線再現性を以下の基準に従って、初回印刷後として評価した。印刷を繰り返し、印刷100回(100枚)後における印刷物についても、連続印刷後として上記と同様に評価した。印刷5回毎(5枚毎)に、シリコーンブランケットにドライヤーで熱風を送風し、ブランケットに浸透した有機溶剤が揮散したことを確認の上で、次の印刷を行うようにした。
【0115】
◎: 線の直線性に特に優れ、断線箇所なし
○: 線の直線性に優れ、断線箇所なし
△: 線の直線性に劣り、断線箇所なし
×: 線の直線性に劣り、断線箇所あり
【0116】
(体積抵抗率)
アプリケーターを用いて透明導電性フィルム上(ITO膜面)に導電性ペーストを焼成後の膜厚が4μmになるように塗布し125℃で30分焼成させた。この焼成塗膜を用いて、ロレスタGP MCP−T610(三菱化学(株)製)で四端子法にて測定した。体積抵抗率は、導電性の高低の尺度である。
【0117】
○: 5×10
−4Ω・cm以下
△: 5〜10×10
−4Ω・cm
×: 10×10
−4Ω・cm以上
【0118】
【表1】
【0119】
実施例1と比較例1との評価結果の対比からわかる通り、ポリエステルジオールと、セバシン酸に基づく化学構造を充分に多く含有するポリエステル樹脂とを組み合わせた実施例1の導電性ペーストは、ポリエステルジオールを含まず、かつセバシン酸に基づく化学構造が少量しか含有されていないポリエステル樹脂を用いた比較例1のそれに比べて、連続印刷時における印刷適性に優れており、しかも導電性パターンの導電性にも優れていることは明らかである。
【0120】
また、実施例1と実施例2との評価結果の対比からわかる通り、ポリエステル樹脂とポリエステルジオールを固定し、両者の含有率を変えた場合、ポリエステルジオールをより多く含有する実施例2の導電性ペーストは、ポリエステル樹脂をより多く含有する実施例1のそれに比べ、流動性に優れ、初回印刷時の印刷適性がより優れていることが明らかである。
【0121】
更に、実施例2と実施例3との対比では、セバシン酸に基づく化学構造をより多く含有するポリエステル樹脂を用いた実施例2の導電性ペーストの方が、セバシン酸に基づく化学構造をより少なく含有するポリエステル樹脂を用いた実施例3の導電性ペーストより、より流動性に優れ、取扱いが容易であった。
【0122】
実施例4(メッシュパターン印刷用導電性ペースト)
平均粒子径(D50)0.2〜0.5μmの球状銀粉74質量部に代えて、同球状銀粉72質量部とカーボンブラック(黒色顔料)2部とを用いる以外は、実施例1と同様にして、グラビアオフセット印刷用導電性ペーストFを調製した。
【0123】
上記実施例4のメッシュパターン印刷用導電性ペーストを用い、「溝の線幅30μmかつ溝の深さ10μmのベゼルパターンに対応する溝が設けられた、ガラス製の平板状の凹版」に代えて『溝の線幅5μmかつ溝の深さ5μmの、
図2の正方格子メッシュパターンに対応する溝が設けられた、ガラス製の平板状の凹版』を用いると共に、「枚葉の透明導電性フィルム」に代えて『平均厚さ250μmのPETフィルム』を用いる以外は、実施例1と同様にして、印刷パターンを作成し、125℃で30分焼成させた。
【0124】
顕微鏡観察によれば、正方格子メッシュパターンを構成する銀細線は、どの部分も直線性に特に優れ、断線箇所も発見されなかった。また、細線の体積抵抗率は5×10
−4Ω・cm以下であり、優れた導電性を有していた。
【0125】
実施例5
上記実施例4と同様にして、PETフィルム上に、銀細線からなるメッシュパターンを形成させ、次いで、その正方格子メッシュパターンが設けられた面に、実施例1の導電性ペーストにてベゼルパターンを形成させ、両方のパターンを、125℃で30分で同時に焼成させた。
【0126】
カーボンブラックと銀を含有するメッシュパターン細線は、カーボンブラックを含まない銀細線からなるベゼルパターンに比べて、光の反射やギラつきが抑制されていた。インジウム錫オキサイドという高価な原料を用いると共に、多工程を経て必要なパターンが形成された透明導電性膜であるITO膜の代替を、より安価な銀とカーボンブラックで代替することが出来、そのパターンはフレキシビリティにも優れていた。
【0127】
上記では、ベゼルパターンとメッシュパターンとを、グラビアオフセット印刷法にて逐次設ける様にしたが、ベゼルパターンとメッシュパターンとの印刷は、どちらのパターンの印刷を先に行うことも出来る。また、凹版さえ準備できれば、ベゼルパターンとメッシュパターンとを同時にグラビアオフセット印刷法で、PETフィルムの様な被印刷物(支持体)に設けることも出来る。