(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
構造物に埋設された複数の金属材料のうち、構造物の表面側の領域に埋設された表面側金属材料と表面側金属材料よりも構造物の内側の領域に埋設された内側金属材料とのそれぞれに対して電気防食を行う電気防食工法であって、
前記構造物に埋設されて内側金属材料に対して防食電流を供給する内側陽極部と、前記構造物に埋設されて表面側金属材料に対して防食電流を供給する表面側陽極部であって内側陽極部よりも前記構造物の表面側の位置に内側陽極部から間隔を空けて配置される表面側陽極部とを備え、
表面側陽極部側へ電流を供給する表面側電流供給手段を介して表面側金属材料と表面側陽極部とが電気的に連結された回路であって表面側金属材料へ防食電流を供給する回路と、内側陽極部側へ電流を供給する内側電流供給手段を介して内側金属材料と内側陽極部とが電気的に連結された回路であって内側金属材料へ防食電流を供給する回路とを備えることを特徴とする電気防食工法。
【背景技術】
【0002】
コンクリート等を用いて形成された構造物に埋設されている鉄筋などの鋼材は、表面に不動態被膜が形成されているため、本来、腐食から保護されている。ところが、斯かる構造物が経時的に劣化したりすることで、構造物の表面に亀裂が生じたり、構造物の内部に間隙が生じたりする場合がある。斯かる場合、亀裂や隙間を通じて、水分や塩素成分が構造物の内部にまで侵入し、鋼材を部分的に腐食する(金属イオンが溶出する)虞がある。
【0003】
鋼材が部分的に腐食すると、腐食した部分と腐食していない部分とが鋼材に形成され、斯かる部分同士の間に電位差が生じることになる。このような電位差が生じることによって、腐食した部分から腐食していない部分へ向かって鋼材中に腐食電流が流れることになる。そして、このような腐食電流が鋼材中に流れることで、腐食した部分からの金属イオンの溶出が促進され、鋼材の腐食が更に進行する。
【0004】
上記のようにして生じる鋼材の腐食を防止する方法としては、構造物内の鋼材に対して電流(防食電流)を供給して鋼材に生じる電位差を解消し、鋼材に腐食電流が発生するのを防止する電気防食工法が提案されている。鋼材に対して防食電流を供給する方法としては、チタンなどの素材を用いて形成された陽極材を構造物に設置し、陽極材と鋼材との間に防食電流を継続的に流す方法が知られている。
【0005】
構造物に陽極材を設置する方法としては、例えば、構造物の表面の所定領域に面状に陽極材(チタンメッシュ等)を設置する方法や、構造物に陽極材を収容する収容孔を穿孔し、該収容孔に陽極材を挿入した後、収容孔をモルタル等で埋め込むことで、構造物内に陽極材を設置(埋設)する方法が提案されている(特許文献1参照)。特に、構造物の表面側に埋設された鋼材と、該鋼材よりも構造物の内側に埋設された鋼材とが存在している場合には、各鋼材に達するように収容孔を形成し、該収容孔内に陽極材を収容することで、各鋼材の近傍に陽極材を設置し、各鋼材に対して防食電流を供給する方法が採用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、構造物が設置されている環境によっては、構造物の表面側の領域と、該領域よりも内側の領域とで、各領域における防食電流の流れ易さが異なる場合がある。例えば、構造物の表面側の領域は、外部から塩の浸透があるため、構造物の内側の領域よりも塩濃度が高くなって防食電流が流れ易くなる。斯かる場合、防食電流の流れ難い領域(具体的には、内側の領域)に埋設された鋼材へ供給されるべき防食電流が、防食電流の流れ易い領域(具体的には、表面側の領域)に埋設された鋼材側へ流れてしまい、防食電流の流れ難い領域(具体的には、内側の領域)に埋設された鋼材に対して防食電流を効果的に供給することが困難となる。
【0008】
そこで、本発明は、構造物の表面側に埋設された金属材料と、該金属材料よりも構造物の内側に埋設された金属材料とのそれぞれに対して効果的に防食電流を供給することができる電気防食工法および陽極部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電気防食工法は、構造物に埋設された複数の金属材料のうち、構造物の表面側の領域に埋設された表面側金属材料と表面側金属材料よりも構造物の内側の領域に埋設された内側金属材料とのそれぞれに対して電気防食を行う電気防食工法であって、前記構造
物に埋設されて
内側金属材料に対して防食電流を供給する
内側陽極部と、
前記構造物
に埋設されて
表面側金属材料に対して防食電流を供給する
表面側陽極部
であって内側陽極部よりも前記構造物の表面側の位置に内側陽極部から間隔を空けて配置される表面側陽極部とを備え、
表面側陽極部側へ電流を供給する表面側電流供給手段を介して
表面側金属材料と表面側陽極部とが電気的に連結され
た回路であって表面側金属材料へ防食電流を供給する回路と、内側陽極部側へ電流を供給する内側電流供給手段を介して
内側金属材料と内側陽極部とが電気的に連結され
た回路であって内側金属材料へ防食電流を供給する回路とを備えることを特徴とする。
【0010】
斯かる構成によれば、表面側陽極部と表面側金属材料とは、表面側電流供給手段を介して電気的に連結され、内側陽極材部と内側金属材料とは、内側電流供給手段を介して電気的に連結されることで、表面側金属材料へ防食電流を供給可能な回路と、内側金属材料へ防食電流を供給可能な回路とが別個に形成される。これにより、表面側金属材料に対しては、表面側電流供給手段を調節することで、表面側陽極部から最適な防食電流を供給することができると共に、内側金属材料に対しては、内側電流供給手段を調節することによって内側陽極部から最適な防食電流を供給することができる。
【0011】
このため、構造物内における表面側金属材料の周囲の環境(構造物の表面側の領域の環境)と、構造物内における内側金属材料の周囲の環境(構造物の内側の領域の環境)とが防食電流の流れ易さの点で異なる環境であっても、各電流供給手段を調節することで、各環境に適した防食電流を供給することができる。これにより、表面側金属材料と内側金属材料とのそれぞれに対して効果的に防食電流を供給することができる。
【0012】
前記構造物の表面か
ら内側金属材料が埋設され
た位置に亘って連続的に形成される一つの孔内に、前記表面側陽極部および内側陽極部が収容された後、該孔が埋め込まれることで、前記表面側陽極部および内側陽極部が構造物に埋設されることが好ましい。
【0013】
斯かる構成によれば、構造物に形成される一つの孔内に表面側陽極部および内側陽極部を収容することで、表面側陽極部および内側陽極部を構造物に埋設することが可能である。このため、複数の孔を形成して表面側陽極部および内側陽極部のそれぞれを収容する場合よりも表面側陽極部および内側陽極部の埋設を効率的に行うことができる。これにより、既存の構造物に表面側陽極部および内側陽極部を埋設する作業を迅速に行うことができる。
【0014】
上記に記載の電気防食工法で使用される陽極部材
としては、上記に記載の電気防食工法における表面側陽極部および内側陽極部を備え、表面側電流供給手段を介して表面側金属材料と電気的に連結されており、内側電流供給手段を介して内側金属材料と電気的に連結されている陽極部材であって、前記表面側陽極部は、表面側電流供給手段を介して表面側金属材料と電気的に連結されており、前記内側陽極部は、内側電流供給手段を介して内側金属材料と電気的に連結される
ことが好ましい。
【0015】
斯かる構成によれば、表面側陽極部と表面側金属材料とが表面側電流供給手段を介して電気的に連結
されており、内側陽極材部と内側金属材料とが内側電流供給手段を介して電気的に連結
されているため、表面側金属材料へ防食電流を供給
する回路と、内側金属材料へ防食電流を供給
する回路とが別個に形成される。これにより、表面側金属材料に対しては、表面側電流供給手段を調節することで、表面側陽極部から最適な防食電流を供給することができると共に、内側金属材料に対しては、内側電流供給手段を調節することによって内側陽極部から最適な防食電流を供給することができる。
【0016】
このため、構造物内における表面側金属材料の周囲の環境(構造物の表面側の領域の環境)と、構造物内における内側金属材料の周囲の環境(構造物の内側の領域の環境)とが防食電流の流れ易さの点で異なる環境であっても、各電流供給手段を調節することで、各環境に適した防食電流を供給することができる。これにより、表面側金属材料と内側金属材料とのそれぞれに対して効果的に防食電流を供給することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、構造物の表面側に埋設された金属材料と、該金属材料よりも構造物の内側に埋設された金属材料とのそれぞれに対して効果的に防食電流を供給することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第一実施形態>
本発明の第一実施形態について、
図1を用いて説明する。
【0020】
本実施形態に係る電気防食工法は、
図1に示すように、構造物X(具体的には、コンクリート構造物)に埋設された複数の金属材料(具体的には、鋼材)Yのうち、構造物Xの表面側の領域に埋設された表面側金属材料Y1と、表面側金属材料Y1よりも構造物Xの内側の領域に埋設された内側金属材料Y2とのそれぞれに対して電気防食を行うものである。
【0021】
構造物X内における表面側金属材料Y1が埋設される領域(以下、表面側領域とも記す)は、内側金属材料Y2が埋設される領域(以下、内側領域とも記す)よりも防食電流が流れ易くなる場合がある。例えば、構造物Xがコンクリート構造物である場合、塩と接触し易い環境(海岸周辺など)に設置されると、表面側領域には、塩が浸透し易いため、内側領域よりも表面側領域の方が塩濃度が高くなる。具体的には、コンクリート構造物における表面側領域の塩濃度としては、特に限定されるものではないが、1.2kg/m
3 以上となることが考えられる。一方、コンクリート構造物における内側領域の塩濃度としては、特に限定されるものではないが、1.2kg/m
3 未満となることが考えられる。
【0022】
また、表面側金属材料Y1は、構造物Xの表面から3cm以上10cm以下の領域に埋設されることが好ましく、7cm以上10cm以下の領域に埋設されることがより好ましい。また、内側金属材料Y2は、構造物Xの表面から13cm以上20cm以下の領域に埋設されることが好ましく、17cm以上25cm以下の領域に埋設されることがより好ましい。
【0023】
なお、本実施形態では、構造物X内には、表面側金属材料Y1と内側金属材料Y2とを電気的に連結する(具体的には、複数箇所で連結する)金属材料連結手段Zが埋設される。具体的には、金属材料連結手段Zは、表面側金属材料Y1および内側金属材料Y2と接触した状態で構造物Xに埋設される金属材料(以下、連結金属材料とも記す)で構成される。これにより、表面側金属材料Y1と内側金属材料Y2とが連結金属材料Zによって電気的に連結される。
【0024】
また、構造物X内には、表面側金属材料Y1に対して防食電流を供給する表面側陽極部1a(具体的には、複数の表面側陽極部1a)と、内側金属材料Y2に対して防食電流を供給する内側陽極部1b(具体的には、複数の内側陽極部1b)とが電気的に分離された状態で埋設される。本実施形態では、表面側陽極部1aおよび内側陽極部1bは、チタンメッシュやチタン板等の陽極材から構成される。
【0025】
そして、表面側陽極部(以下、表面側陽極材とも記す)1aは、表面側金属材料Y1が埋設される表面側領域に埋設され、内側陽極部(以下、内側陽極材とも記す)1bは、内側金属材料Y2が埋設される内側領域に埋設される。換言すれば、表面側陽極材1aと内側陽極材1bとは、構造物Xの深さ方向(具体的には、構造物Xの表面から構造物X内の中心部に向かう方向)の異なる位置に埋設される。具体的には、表面側陽極材1aと内側陽極材1bとは、構造物Xの深さ方向に間隔を空けて(具体的には、表面側陽極材1aと内側陽極材1bとが短絡しない程度の間隔を空けて)配置される。つまり、表面側陽極材1aと内側陽極材1bとは、電気的に分離された状態で配置される。表面側陽極材1aと内側陽極材1bとの間隔としては、例えば、構造物Xの深さ方向に0.1cm以上であることが好ましく、1cm以上であることがより好ましい。
【0026】
表面側陽極材1aおよび内側陽極材1bを構造物X内に埋設する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、構造物Xを形成する際に、各金属材料Y1,Y2と共に構造物X内に各陽極材1a,1bが埋設されてもよい。又は、構造物Xの表面から表面側金属材料Y1および内側金属材料Y2が埋設される各領域に亘って連続的に形成される一つの孔(図示せず)内に、表面側陽極部1aおよび内側陽極部1bが収容された後、該孔が埋め込まれることで、表面側陽極部1aおよび内側陽極部1bが構造物Xに埋設されてもよい。このように、構造物Xに形成される一つの孔内に表面側陽極部1aおよび内側陽極部1bを収容することで、表面側陽極部1aおよび内側陽極部1bを構造物Xに埋設することが可能である。このため、複数の孔を形成して表面側陽極部1aおよび内側陽極部1bのそれぞれを収容する場合よりも表面側陽極部1aおよび内側陽極部1bの埋設を効率的に行うことができる。これにより、既存の構造物Xに表面側陽極部1aおよび内側陽極部1bを埋設する作業を迅速に行うことができる。
【0027】
そして、表面側陽極材1aと表面側金属材料Y1とは、表面側陽極材1a側に電流を供給する表面側電流供給手段2aを介して電気的に連結され、内側陽極材1bと内側金属材料Y2とは、内側陽極材1b側に電流を供給する内側電流供給手段2bを介して電気的に連結される。
【0028】
表面側陽極材1aと表面側電流供給手段2aとの電気的な連結、および、内側陽極材1bと内側電流供給手段2bとの電気的な連結には、導線Lが用いられる。該導線Lは、表面が絶縁性を有する素材を用いて形成され、内部を電流が流れるように構成される。また、本実施形態では、複数の表面側陽極材1aが一の表面側電流供給手段2aと電気的に連結され、複数の内側陽極材1bが一の内側電流供給手段2bと電気的に連結(具体的には、導線Lを介して連結)される。
【0029】
また、本実施形態では、表面側電流供給手段2aおよび内側電流供給手段2bは、導線Lを介して表面側金属材料Y1(具体的には、導線連結部3a,3b)に電気的に連結される。これにより、内側陽極材1bと内側金属材料Y2とは、表面側金属材料Y1および連結金属材料Zを介して電気的に連結された状態となる。
【0030】
上記のようにして構成される電気防食工法では、表面側陽極材1aと表面側金属材料Y1と表面側電流供給手段2aとが電気的に連結された一の回路が形成されると共に、内側陽極材1bと内側金属材料Y2と内側電流供給手段2bとが表面側金属材料Y1および連結金属材料Zを介して電気的に連結された他の回路が形成される。つまり、表面側金属材料Y1へ防食電流を供給する回路と、内側金属材料Y2へ防食電流を供給する回路とが別個に形成される。
【0031】
そして、表面側電流供給手段2aから表面側陽極材1a側へ電流を供給することで、表面側陽極材1aから表面側金属材料Y1へ防食電流を供給することが可能となる。これにより、表面側金属材料Y1に部分的な電位差が生じるのが防止され(又は、部分的に生じた電位差が解消され)、表面側金属材料Y1の腐食の進行が防止される。一方、内側電流供給手段2bから内側陽極材1b側へ電流を供給することで、内側陽極材1bから内側金属材料Y2へ防食電流を供給することが可能となる。これにより、内側金属材料Y2に部分的な電位差が生じるのが防止される(又は、部分的に生じた電位差が解消される)ため、内側金属材料Y2の腐食の進行が防止される。
【0032】
<第二実施形態>
次に、本発明の第二実施形態について、
図2を用いて説明する。第二実施形態に係る電気防食工法は、第一実施形態に係る電気防食工法と比較すると、主に、表面側金属材料Y1および内側金属材料Y2へ防食電流を供給する陽極の構成が異なるものである。従って、以下では、第一実施形態と異なる点を中心に説明し、同一の構成に対しては同一の符号を付すこととして説明を省略する。
【0033】
本実施形態の電気防食工法では、表面側金属材料Y1および内側金属材料Y2の両方に対して個別に防食電流を供給可能に構成された陽極部材4を備える。該陽極部材4は、表面側金属材料Y1に対して防食電流を供給する表面側陽極部4aと、内側金属材料Y2に対して防食電流を供給する内側陽極部4bとを備える。具体的には、陽極部材4は、構造物Xに埋設される埋設部4cと、構造物Xに埋設されない非埋設部4dとを備える。そして、埋設部4cには、チタンメッシュやチタン板等の陽極材から構成される表面側陽極部4aおよび内側陽極部4bが形成され、表面側陽極部4aおよび内側陽極部4bと非埋設部4dとの間に絶縁性の素材で形成された絶縁部4eが形成される。本実施形態では、陽極材の一部が絶縁性の素材で被覆されることで、絶縁部4eが形成され、陽極材における絶縁性の素材で被覆されていない部位によって表面側陽極部4aおよび内側陽極部4bが形成される。
【0034】
また、表面側陽極部4a(又は、内側陽極部4b)は、内側陽極部4b(又は、表面側陽極部4a)から離間した位置に形成される。本実施形態では、表面側陽極部4aと内側陽極部4bとが一方向(構造物Xの深さ方向)に沿って離間した位置に形成される。これにより、表面側陽極部4aと内側陽極部4bとの間には、絶縁部4eが位置することになる。つまり、表面側陽極部4aと内側陽極部4bとが電気的に分離した状態になる。
【0035】
そして、上記のような陽極部材4の埋設部4c(本実施形態では、複数の陽極部材4の各埋設部4c)が構造物Xに埋設されることで、構造物X内に表面側陽極部4aおよび内側陽極部4bが埋設される。具体的には、表面側陽極部4aは、表面側金属材料Y1が埋設される表面側領域に埋設され、内側陽極部4bは、内側金属材料Y2が埋設される内側領域に埋設される。換言すれば、表面側陽極部4aと内側陽極部4bとは、構造物Xの深さ方向の異なる位置に埋設される。この際、表面側陽極部4aと内側陽極部4bとは、構造物Xの深さ方向に間隔を空けて(具体的には、表面側陽極部4aと内側陽極部4bとが短絡しない程度の間隔を空けて)配置される。例えば、表面側陽極部4aと内側陽極部4bとは、構造物Xの深さ方向に0.1cm以上の間隔を空けて配置されることが好ましく、1cm以上の間隔を空けて配置されることがより好ましい。
【0036】
埋設部4c(具体的には、表面側陽極部4aおよび内側陽極部4b)を構造物X内に埋設する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、構造物Xを形成する際に、各金属材料Y1,Y2と共に構造物X内に埋設部4cが埋設されてもよい。又は、構造物Xの表面から表面側金属材料Y1および内側金属材料Y2が埋設される各領域に亘って連続的に形成される一つの孔内に、埋設部4c(具体的には、表面側陽極部1aおよび内側陽極部1b)が収容された後、該孔が埋め込まれることで、埋設部4c(具体的には、表面側陽極部1aおよび内側陽極部1b)が構造物Xに埋設されてもよい。
【0037】
そして、表面側陽極部4aは、表面側金属材料Y1と電気的に連結可能に構成され、内側陽極部4bは、内側金属材料Y2と電気的に連結可能に構成される。具体的には、表面側陽極部4aを構成する陽極材と表面側金属材料Y1とは、表面側陽極部4a側に電流を供給する表面側電流供給手段2aを介して電気的に連結可能に構成され、内側陽極部4bを構成する陽極材と内側金属材料Y2とは、内側陽極部4b側に電流を供給する内側電流供給手段2bを介して電気的に連結可能に構成される。
【0038】
表面側陽極部4aを構成する陽極材と表面側電流供給手段2aとの電気的な連結、および、内側陽極部4bを構成する陽極材と内側電流供給手段2bとの電気的な連結には、導線Lが用いられる。また、本実施形態では、複数の表面側陽極部4aを構成する陽極材が一の表面側電流供給手段2aと電気的に連結され、複数の内側陽極部4bを構成する陽極材が一の内側電流供給手段2bと電気的に連結される。
【0039】
また、本実施形態では、表面側電流供給手段2aおよび内側電流供給手段2bは、導線Lを介して表面側金属材料Y1(具体的には、導線連結部3a,3b)に電気的に連結される。これにより、内側金属材料Y2と内側陽極部4bを構成する陽極材とは、表面側金属材料Y1および連結金属材料Zを介して電気的に連結された状態となる。
【0040】
上記のようにして構成される電気防食工法では、表面側陽極部4aと表面側金属材料Y1と表面側電流供給手段2aとが電気的に連結された一の回路が形成されると共に、内側陽極部4bと内側金属材料Y2と内側電流供給手段2bとが表面側金属材料Y1および連結金属材料Zを介して電気的に連結された他の回路が形成される。つまり、表面側金属材料Y1へ防食電流を供給する回路と、内側金属材料Y2へ防食電流を供給する回路とが別個に形成される。
【0041】
そして、表面側電流供給手段2aから表面側陽極部4a側へ電流を供給することで、表面側陽極部4aから表面側金属材料Y1へ防食電流を供給することが可能となる。これにより、表面側金属材料Y1に部分的な電位差が生じるのが防止され(又は、部分的に生じた電位差が解消され)、表面側金属材料Y1の腐食の進行が防止される。一方、内側電流供給手段2bから内側陽極部4b側へ電流を供給することで、内側陽極部4bから内側金属材料Y2へ防食電流を供給することが可能となる。これにより、内側金属材料Y2に部分的な電位差が生じるのが防止される(又は、部分的に生じた電位差が解消される)ため、内側金属材料Y2の腐食の進行が防止される。
【0042】
以上のように、本発明に係る電気防食工法では、構造物の表面側に埋設された金属材料と、該金属材料よりも構造物の内側に埋設された金属材料とのそれぞれに対して効果的に防食電流を供給することができる。
【0043】
即ち、表面側金属材料Y1と表面側陽極材1a(表面側陽極部4a)とは、表面側電流供給手段2aを介して電気的に連結され、内側金属材料Y2と内側陽極材1b(内側陽極部4b)とは、内側電流供給手段2bを介して電気的に連結されることで、表面側金属材料Y1へ防食電流を供給可能な回路と、内側金属材料Y2へ防食電流を供給可能な回路とが別個に形成される。これにより、表面側金属材料Y1に対しては、表面側電流供給手段2aを調節することで、表面側陽極材1a(表面側陽極部4a)から最適な防食電流を供給することができると共に、内側金属材料Y2に対しては、内側電流供給手段2bを調節することによって内側陽極材1b(内側陽極部4b)から最適な防食電流を供給することができる。
【0044】
このため、構造物X内における表面側金属材料Y1の周囲の環境(構造物Xの表面側の領域の環境)と、構造物X内における内側金属材料Y2の周囲の環境(構造物Xの内側の領域の環境)とが防食電流の流れ易さの点で異なる環境であっても、各電流供給手段2a,2bを調節することで、各環境に適した防食電流を供給することができる。これにより、表面側金属材料Y1と内側金属材料Y2とのそれぞれに対して効果的に防食電流を供給することができる。
【0045】
また、表面側金属材料Y1と内側金属材料Y2とが金属材料連結手段Zで電気的に連結されるため、内側電流供給手段2bが表面側金属材料Y1に導線Lを介して電気的に連結されても、表面側金属材料Y1および金属材料連結手段を介して、内側金属材料Y2と内側電流供給手段2bとが電気的に連結されることになる。これにより、構造物Xに対する内側電流供給手段2bの取り付けを容易に行うことができる。
【0046】
具体的には、内側金属材料Y2は、構造物Xの表面側の領域よりも内側に埋設されているため、構造物Xの外側から内側電流供給手段2bを連結し難くなっている。しかしながら、上述のように、内側電流供給手段2bを表面側金属材料Y1に連結しても、内側電流供給手段2bと内側金属材料Y2とが電気的に連結されるため、構造物Xに対する内側電流供給手段2bの取り付けを容易に行うことができる。
【0047】
なお、本発明に係る電気防食工法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、上記した複数の実施形態の構成や方法等を任意に採用して組み合わせてもよく(1つの実施形態に係る構成や方法等を他の実施形態に係る構成や方法等に適用してもよく)、さらに、下記する各種の変更例に係る構成や方法等を任意に選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよいことは勿論である。
【0048】
例えば、上記実施形態では、表面側電流供給手段2aおよび内側電流供給手段2bが表面側金属材料Y1に電気的に連結されているが、これに限定されるものではなく、例えば、内側電流供給手段2bが内側金属材料Y2に電気的に連結されてもよい。斯かる場合には、表面側金属材料Y1と内側金属材料Y2とが連結金属材料Zによって連結されることなく表面側金属材料Y1へ防食電流を供給する回路と、内側金属材料Y2へ防食電流を供給する回路とが別個に形成される。
【0049】
また、表面側陽極部1a,4aおよび内側陽極部1b,4bを構造物Xに埋設する際には、構造物Xを穿孔して収容孔を形成し、一の収容孔に表面側陽極部1a,4aおよび内側陽極部1b,4bを収容して収容孔を埋め込んでもよい。又は、収容孔を複数形成し、一の収容孔に表面側陽極部1a,4aのみを収容し、他の収容孔に内側陽極部1b,4bのみを収容するように構成してもよい。