特許第6372884号(P6372884)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6372884
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/71 20060101AFI20180806BHJP
【FI】
   G01N21/71
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-196244(P2014-196244)
(22)【出願日】2014年9月26日
(65)【公開番号】特開2016-65846(P2016-65846A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年1月16日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 電力中央研究所報告(平成26年4月)「レーザーを用いたキャニスタ付着塩分計測技術の開発−使用済燃料貯蔵中での適用に向けた狭隘部における遠隔計測−」(研究報告:H13004)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 電力中央研究所 研究年報2013年度版
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】藤井 隆
(72)【発明者】
【氏名】江藤 修三
【審査官】 吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−032388(JP,A)
【文献】 特開昭61−020843(JP,A)
【文献】 特開平06−324000(JP,A)
【文献】 特開平06−160584(JP,A)
【文献】 米国特許第04791293(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0326659(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0147072(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と、当該本体に固定されて取り付けられる計測部と、前記本体の測定対象物側に備えられて前記測定対象物と前記本体との間の距離を一定に保ちながら前記測定対象物に対して前記本体を移動させ得る対象物側移動機構と、前記本体の前記測定対象物とは反対側に備えられて前記本体を前記測定対象物側に押し付ける向きに付勢しながら前記測定対象物とは反対側の構造物に対して前記本体を移動させ得る付勢側移動機構とを有し、前記対象物側移動機構が長さが一定で伸縮しない複数の固定長軸及び当該固定長軸に支持される車輪によって構成されると共に前記付勢側移動機構が弾性伸縮する複数の伸縮軸及び当該伸縮軸に支持される車輪によって構成されることを特徴とする計測装置。
【請求項2】
前記計測部に、レーザー誘起ブレイクダウン分光法による測定を行うための、レーザーから出射されたレーザー光が前記測定対象物に照射されるように前記レーザー光を伝送する光学系、及び、前記レーザー光の照射によるアブレーションによってプラズマ化された物質からの発光を伝送する光学系が内蔵されることを特徴とする請求項1記載の計測装置。
【請求項3】
前記計測部に、光ファイバにより、または、一つ若しくは複数の光学素子によって光路を変化させながら空間を伝送させる仕組みにより、測定に用いられるレーザー光が伝送されて供給されることを特徴とする請求項1記載の計測装置。
【請求項4】
前記測定対象物がコンクリート容器に格納されている金属製密封容器であるキャニスタであると共に、前記測定対象物とは反対側の構造物がコンクリート容器の周壁であることを特徴とする請求項1記載の計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、幅狭の空間に進入して測定対象物に対して行う種々の検査や計測・測定に用いて好適な計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
使用済核燃料を円筒型の金属製密封容器(キャニスタ)に収容して密封した上で当該キャニスタをコンクリート容器に格納して安全に使用済核燃料を貯蔵する方式はコンクリートキャスクと呼ばれる。
【0003】
この貯蔵方式に用いられるコンクリート容器には除熱のための通気穴が複数設けられているので外部電源を持たずに自然冷却を行う機能を有するものの、外気に含まれる海塩粒子などがキャニスタ表面に付着する場合がある。このため、数十年に亙る長期間貯蔵が継続された場合に、キャニスタ表面の孔食やそれに伴う応力腐食割れが生じることが懸念される。応力腐食割れが生じることにより、キャニスタの表面からき裂が成長する。万が一、き裂がキャニスタを貫通した場合、キャニスタ内部に充填されているヘリウムガスや放射性ガスが漏洩する。このような可能性を可能な限り除去するためには、キャニスタの健全性を定期的に検査することが重要である。
【0004】
キャニスタを検査する従来の方法としては、例えば、金属表面に付着している物質(付着微量成分)の濃度を測定する方法であり、検査対象であるキャニスタの表面(金属表面)にパルス状のレーザー光を照射して付着物質をアブレーションし、その後アブレーションによってプラズマ化された物質からの発光を計測して分光することにより、金属表面に付着している物質(付着微量成分)を特定すると共にその濃度を求める金属表面付着成分の濃度計測方法がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−190411号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の計測方法では固定点(言い換えると、或る一箇所)における計測手法は明らかにされているものの、実機においては多数の箇所における計測が必要であり、このため、特許文献1に開示されている内容のみによって十分な計測が行われて確証ある検査を行い得るとは言い難い。
【0007】
また、測定感度を向上させるためには多数の受光信号を積算してS/N比を向上させる必要があるが、金属表面に付着している物質は一回のレーザー照射によって消失してしまうので、多数の受光信号を積算するためには金属表面に関して移動しながら(言い換えると、測定点を変えながら)計測を行う必要がある。
【0008】
そこで、本発明は、幅狭の空間に進行して移動しつつ空間的に連続的な計測・測定を行うことができる計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、本発明の計測装置は、本体と、当該本体に固定されて取り付けられる計測部と、本体の測定対象物側に備えられて測定対象物と本体との間の距離を一定に保ちながら測定対象物に対して本体を移動させ得る対象物側移動機構と、本体の測定対象物とは反対側に備えられて本体を測定対象物側に押し付ける向きに付勢しながら測定対象物とは反対側の構造物に対して本体を移動させ得る付勢側移動機構とを有し、対象物側移動機構が長さが一定で伸縮しない複数の固定長軸及び当該固定長軸に支持される車輪によって構成されると共に付勢側移動機構が弾性伸縮する複数の伸縮軸及び当該伸縮軸に支持される車輪によって構成されるようにしている。
【0010】
したがって、この計測装置によると、測定対象物とは反対側の構造物に付勢側移動機構が当接し、当該付勢側移動機構による付勢力が本体を介して対象物側移動機構に働き、結果的に、対象物側移動機構が測定対象物の表面に押し付けられる。
【0011】
また、本発明の計測装置は、計測部に、光ファイバにより、または、一つ若しくは複数の光学素子によって光路を変化させながら空間を伝送させる仕組みにより、測定に用いられるレーザー光が伝送されて供給されるようにしても良い。
【0012】
また、本発明の計測装置は、計測部に、レーザー誘起ブレイクダウン分光法による測定を行うための、レーザーから出射されたレーザー光が測定対象物に照射されるようにレーザー光を伝送する光学系、及び、レーザー光の照射によるアブレーションによってプラズマ化された物質からの発光を伝送する光学系が内蔵されるようにしても良い。
【0014】
また、本発明の計測装置は、測定対象物がコンクリート容器に格納されている金属製密封容器であるキャニスタであると共に、測定対象物とは反対側の構造物がコンクリート容器の周壁であるようにしても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明の計測装置によれば、対象物側移動機構が測定対象物の表面に押し付けられるので、計測装置が順次移動して検査や計測・測定を行う場所毎に測定対象物とは反対側の構造物と測定対象物との間隔が変化しても、測定対象物と本体との間の距離は一定に保たれ、したがって、本体に固定される計測部(当該計測部に固定されたり収容されたりする例えば探触子や種々の計測・測定器具を含む)と測定対象物との離隔距離・相対距離を一定に保つことができ、計測・測定条件を一定にして計測・測定精度を向上させることが可能になると共に、測定対象物に必要以上に強く押し付けられることによる例えば探触子や種々の計測・測定器具の破損を防ぐことが可能になる。
【0016】
また、本発明の計測装置は、レーザー誘起ブレイクダウン分光法による測定を行うための光学系が計測部に内蔵されるようにした場合には、計測装置が順次移動して測定を行う場所毎に光学系と測定対象物との離隔距離・相対距離が一定に保たれた状態でレーザー誘起ブレイクダウン分光法による測定を行うことができるので、レーザー光の焦点と測定対象物との位置関係が変化することなくレーザー光の照射が適切に行われてレーザー誘起ブレイクダウン分光法による測定を良好に行うこと、すなわち、良好な精度が確保された測定を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の計測装置の実施形態の一例を示す概略構成図である(コンクリート容器は縦断面として表す)。
図2】実施形態の計測装置の概略構造を示す側面図である(キャニスタの周壁,コンクリート容器の本体の周壁,及び計測部の収容ケースは縦断面として表す)。
図3】実施形態の計測装置の概略構造を示す平面図(言い換えると、キャニスタ側の面)である。
図4】実施形態の計測装置の概略構造を示す裏面図(言い換えると、コンクリート容器側の面)である。
図5】実施形態におけるキャニスタとコンクリート容器との概略構造を示す図である。(A)は斜視図である。(B)は立面図であり、コンクリート容器を縦断面として表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図1から図5に、本発明の計測装置の実施形態の一例を示す。
【0020】
なお、図1乃至図5は、本発明の構成を説明するためのあくまでも概略構造図であり、各部の構造は簡略化してあって詳細な構造を厳密に示すものではなく、また、各部の寸法の相対的な関係も厳密なものではない。具体的には例えば、キャニスタ30の細部の構造やコンクリート容器31に設けられる除熱のための通気穴等の細部の構造の図示は省略している。
【0021】
(1)測定対象物
本実施形態では、使用済核燃料が入れられて通常はコンクリート容器31内に格納されて貯蔵されている円筒型の金属製密封容器であるキャニスタ30(図5)の検査として当該キャニスタ30の表面に対して測定を行う場合を例に挙げて説明する。
【0022】
本実施形態のコンクリート容器31は、円筒状の周壁及び当該周壁の下端を閉塞する底部を有する本体31aと、当該本体31aの上端開口部に着脱可能に取り付けられる上蓋31bとを有する。
【0023】
なお、本発明が適用され得る測定対象物は、コンクリート容器に格納されて貯蔵されているキャニスタに限定されるものではなく、他の貯蔵容器に格納されているキャニスタであっても構わないし、他の容器に格納されている他の物であっても構わない。一般化して言うと、本発明の計測装置は、測定対象としての表面を有すると共に当該表面と対向する構造物が存在して前記表面と前記構造物との間に幅狭の空間(言い換えると、隙間)が存在している場合に適用され得る。
【0024】
(2)計測装置の全体構成
本発明の計測装置は、少なくとも一方が測定対象物の表面によって区画される幅狭の空間に進入して前記測定対象物に対して種々の検査や計測・測定を行うものである。
【0025】
本実施形態の計測装置1は、コンクリート容器31の本体31aの周壁の内周面31cとキャニスタ30の側周面30a(言い換えると、外周面)との間の空間に進入してキャニスタ30の側周面30aを対象として測定を行う。
【0026】
本実施形態の計測装置1は、本体2と、当該本体2に固定されて取り付けられる計測部10と、本体2のキャニスタ30側に備えられてキャニスタ30と本体2との間の距離を一定に保ちながらキャニスタ30に対して本体2を移動させ得る対象物側移動機構としての、固定長軸3及び当該固定長軸3に支持される対象物側車輪4と、本体2のキャニスタ30とは反対側(本実施形態では、コンクリート容器31の本体31aの周壁側である)に備えられて本体2をキャニスタ30側に押し付ける向きに付勢しながらキャニスタ30とは反対側の構造物(本実施形態では、コンクリート容器31の本体31aの周壁)に対して本体2を移動させ得る付勢側移動機構としての、伸長付勢されて弾性伸縮する伸縮軸5及び当該伸縮軸5に支持される付勢側車輪6とを有する。
【0027】
本体2は、測定対象物側の移動機構(即ち、対象物側移動機構)及びこれと反対側の移動機構(即ち、付勢側移動機構)が備え付けられると共に、計測部10を保持するものである。
【0028】
本実施形態では、本体2は直方体状に形成されると共に、本体2の、キャニスタ30とコンクリート容器31との間に配置された姿勢における上端に計測部10が固定されて取り付けられる。
【0029】
本体2の、測定対象物であるキャニスタ30側に、四本の固定長軸3が取り付けられる。これら固定長軸3は、長さが一定であって伸縮しない。なお、固定長軸3の本数は、本体2の姿勢を安定させることができるのであれば、四本に限定されるものではなく、三本以下であっても良いし、五本以上であっても良い。
【0030】
固定長軸3それぞれの先端には、全方向回転可能であるように対象物側車輪4が取り付けられる。対象物側車輪4としては、具体的には例えば、全方向に対して進行可能であるように回転するキャスタが用いられ得る。なお、一本の固定長軸に、例えば軸心方向直交放射状に延びる複数本の枝足が用いられるなどして、複数の対象物側車輪4が取り付けられるようにしても良い。
【0031】
なお、対象物側移動機構は、キャニスタ30と本体2との間の距離を一定に保ちながらキャニスタ30に対して本体2を移動させ得るものであれば、固定長軸3と車輪4とからなる構成に限定されるものではない。具体的には例えば、対象物側移動機構は、両端に車輪を備える車軸が本体2によって直接支持されて固定長軸3を有しないように構成されるようにしても良いし、摺動可能且つ変形しない素材によって形成されて本体2に取り付けられた半球体によって構成されるようにしても良い。
【0032】
また、本体2の、測定対象物であるキャニスタ30とは反対側、即ちコンクリート容器31の本体31aの周壁側に、四本の伸縮軸5が取り付けられる。なお、伸縮軸5の本数は、本体2の姿勢を安定させることができるのであれば、四本に限定されるものではなく、三本以下であっても良いし、五本以上であっても良い。
【0033】
伸縮軸5は、軸心方向に伸縮可能に、且つ、計測装置1がキャニスタ30とコンクリート容器31の本体31aの周壁との間に配置された状態において軸全体長さとして常時伸長しようとするように(言い換えると、伸長付勢されるように)構成される。すなわち、伸縮軸5は伸長付勢されて弾性伸縮するように構成され、これにより、本体2はキャニスタ30に押し付けられる向きに常時付勢される。
【0034】
なお、固定長軸3の長さと伸縮軸5の長さとは、本体2がキャニスタ30に押し付けられる向きに常時付勢され得るように、コンクリート容器31の本体31aの周壁の内周面31cとその中に収容されているキャニスタ30の側周面30aとの間隔に合わせて適宜調整される。
【0035】
伸縮軸5が弾性伸縮可能であるようにする仕組みは、特定のものには限定されない。具体的には例えば、外側ロッドと、当該外側ロッドに挿し込まれる内側ロッドと、これら外側ロッドと内側ロッドとの間に介在するように外側ロッドの内側に配設される圧縮コイルばねとによって構成される仕組みが考えられる。あるいは、伸縮軸5としてガススプリングが用いられるようにしても良い。
【0036】
伸縮軸5それぞれの先端には、全方向回転可能であるように付勢側車輪6が取り付けられる。付勢側車輪6としては、具体的には例えば、全方向に対して進行可能であるように回転するキャスタが用いられ得る。なお、一本の伸縮軸に、例えば軸心方向直交放射状に延びる複数本の枝足が用いられるなどして、複数の付勢側車輪6が取り付けられるようにしても良い。
【0037】
なお、付勢側移動機構は、本体2をキャニスタ30に押し付ける向きに付勢しながらキャニスタ30とは反対側の構造物(本実施形態では、コンクリート容器31の本体31aの周壁)に対して本体2を移動させ得るものであれば、伸縮軸5と車輪6とからなる構成に限定されるものではない。具体的には例えば、付勢側移動機構は、摺動可能且つ弾性変形する素材によって形成されて本体2に取り付けられた半球体によって構成されるようにしも良い。
【0038】
そして、計測装置1の上述の構成により、コンクリート容器31の本体31aの周壁の内周面31cに付勢側車輪6が当接して伸縮軸5による付勢力が本体2を介して固定長軸3に働き、結果的に、対象物側車輪4がキャニスタ30の側周面30aに押し付けられる。
【0039】
これにより、計測装置1が順次移動して検査や計測・測定を行う場所毎にキャニスタ30の側周面30aとコンクリート容器31の本体31aの周壁の内周面31cとの間隔が変化しても、コンクリート容器31の内周面31cと計測装置1の本体2との間の距離を変化させることによってキャニスタ30の側周面30aと計測装置1の本体2との間の距離は一定に維持され、したがって、本体2に固定される計測部10とキャニスタ30の側周面30aとの離隔距離・相対距離が一定に維持される。
【0040】
したがって、例えば探触子や種々の計測・測定器具が用いられて非接触型の検査や計測・測定が行われる場合には非接触型の探触子・器具によって行われる検査等の始終において検査等の条件を一定にするために測定対象物の表面と非接触型の探触子・器具との離隔距離を一定に保つという要求に応えることが可能になり、また、例えば探触子や種々の計測・測定器具が用いられて接触型の検査や計測・測定が行われる場合には測定対象物の表面に接触型の探触子・器具が当接する強度を一定にして接触型の探触子・器具が破損しないようにするために測定対象物の表面に対する接触型の探触子・器具の相対距離を一定に保つという要求に応えることが可能になる。
【0041】
(3)昇降装置
昇降装置8は、計測装置1を、少なくとも一方が測定対象物の表面によって区画される幅狭の空間(隙間)において昇降させるものである。
【0042】
昇降装置8は、計測装置1を昇降させ得る仕組みであれば、特定の仕組みに限定されるものではなく、計測装置1が進入する幅狭の空間(隙間)を区画する測定対象物等(本実施形態であれば、キャニスタ30やコンクリート容器31)の構造なども考慮されて適当なものが適宜選択される。
【0043】
昇降装置8としては、具体的には例えば、ワイヤロープを用いた巻き取り式クレーンやガイドレールを用いた駆動装置などが用いられ得る。
【0044】
本実施形態では、昇降装置8として、ワイヤロープ7を用いた巻き取り式クレーンがコンクリート容器31の上蓋31bの上面に設置される。なお、ワイヤロープ7の先端(下端)は、計測部10の上端において計測装置1に接続される。
【0045】
本実施形態では、また、ワイヤロープ7を貫通させるため、コンクリート容器31の上蓋31bの、当該上蓋31bの上面に設置された昇降装置8の近傍位置に貫通口32が設けられる。
【0046】
なお、計測装置1は、コンクリート容器31の上蓋31bを取り外して本体31a内に入れられるようにしても良いし、上蓋31bの貫通口32から本体31a内に入れられるようにしても良い。計測装置1が貫通口32から入れられる場合には、貫通口32は計測装置1が通過可能な大きさに形成される。
【0047】
コンクリート容器31の上蓋31bの上面に設置された昇降装置8としての巻き取り式クレーンにより、計測装置1は、キャニスタ30の側周面30aに沿って昇降する(即ち、鉛直方向に移動する)。
【0048】
計測装置1は、また、コンクリート容器31の本体31aから取り外し可能であって当該本体31aに対して回転可能である上蓋31bを回転させることにより、昇降装置8と共にキャニスタ30の側周面30aの周りを回転移動する(即ち、水平方向に移動する)。
【0049】
このような、計測装置1の、昇降装置8による昇降(鉛直方向移動)とコンクリート容器31の上蓋31bの回転による水平方向移動とにより、即ち、計測装置1を吊り下げるワイヤロープ7を鉛直方向及び水平方向に動かすことにより、計測装置1は、キャニスタ30の側周面30aの全面に亙って対象物側移動機構及び付勢側移動機構を介して移動可能になると共に所望の位置に静止可能になる。
【0050】
ただし、計測装置1を移動させる方法・仕組みは、例えば上述のように巻き取り式クレーンのような昇降装置8を利用するためのワイヤロープ7による鉛直方向及び水平方向への牽引に限られるものではない。例えば、対象物側車輪4や付勢側車輪6を回転駆動させるモータとこれら対象物側車輪4や付勢側車輪6の向きを変えるモータとが本体2に設けられ、無線通信若しくは有線通信による遠隔操作によって対象物側車輪4や付勢側車輪6の回転駆動と向きとが制御されて計測装置1が所望の位置まで移動させられると共に当該位置に静止させられるようにしても良い。
【0051】
(4)計測装置の計測部及び関連する構成
計測装置1の計測部10は、測定対象物に対して種々の検査や計測・測定を行うために当該測定対象物に接近させる必要がある機器などを収容したり固定したりするものである。
【0052】
本実施形態では、計測部10を備える計測装置1がコンクリート容器31の本体31aの周壁の内周面31cと前記本体31a内に収容されているキャニスタ30の側周面30aとの間の空間に進入し、計測部10を介してキャニスタ30の検査等として当該キャニスタ30の側周面30aに付着している物質(付着微量成分;例えば塩分など)の濃度をレーザー誘起ブレイクダウン分光法によって測定する。
【0053】
このため、本実施形態では、計測部10に、レーザー誘起ブレイクダウン分光法によって測定を行うための仕組みのうちの一部であって測定対象物のキャニスタ30に接近させる必要がある機器が収容される。
【0054】
本実施形態の計測部10は、測定対象物に接近させる必要がある機器などを囲って収容する筐体としての収容ケース11を備える。なお、本発明の計測装置1の計測部10としては筐体を備えることは必須の要件ではなく、測定対象物に接近させる機器などを囲う必要がない場合には筐体の代わりに前記機器などを固定するためのステージ・板体や枠体を備えるようにしても良い。
【0055】
本実施形態では、収容ケース11は、高放射線・高温による光学機器の損傷をできる限り低減するために密閉構造とされ、また、鉄などの高原子番号の素材とアクリルなどの低原子番号の素材とを組み合わせた構造にされることが考えられる。
【0056】
収容ケース11には、レーザー光の照射及び発光の計測のため、測定対象物と対向する位置に貫通口が設けられ、当該貫通口に石英窓板11aが取り付けられる。
【0057】
キャニスタ30の側周面30aに付着している物質(付着微量成分)の濃度を測定するため、本実施形態では、キャニスタ30の側周面30aにパルス状のレーザー光を照射して付着物質をアブレーションし、その後アブレーションによってプラズマ化された物質からの発光を受光して分光することにより、キャニスタ30の側周面30aに付着している物質(付着微量成分)を特定すると共にその濃度を求める。
【0058】
このため、本実施形態の微量成分を測定する仕組みは、キャニスタ30の側周面30aにパルス状のレーザー光を照射して付着物質をアブレーションすると共にプラズマ化するに十分なピークパワーのレーザー12と、プラズマ化された物質からの発光を取り込んで波長毎に分解する分光器21と、当該分光器21を経て分光されたプラズマ化された物質からの発光を受光して発光スペクトルを得るゲート機能を有する受光素子22と、レーザー12によるレーザー光の照射と受光素子22のゲート開放開始との間の時間差を制御するタイミングコントローラ23と、受光素子22からの電気信号(受光信号)を取り込んで保存すると共に当該電気信号(受光信号)に含まれる所定の値を解析するなどしてスペクトル強度分布を分析する各種解析プログラムなどが実装された解析装置24と、レーザー光伝送用の光学系と発光伝送用の光学系とを含む計測部10とで構成される。
【0059】
なお、レーザー誘起ブレイクダウン分光法自体は周知の技術であるので、当該方法を用いるための構成のうち本発明として特有でない構成(言い換えると、当該方法に係る周知の仕組みが適用され得る構成)に関してはここでは詳細については省略する。
【0060】
そして、コンクリート容器31に収容されているキャニスタ30の側周面30aに付着している物質(付着微量成分)の濃度の測定が行われる場合には、本発明が適用されることにより、レーザー12,分光器21及び受光素子22,タイミングコントローラ23,並びに解析装置24がコンクリート容器31の外部に配置され、コンクリート容器31の外部のレーザー12から出射されたレーザー光が供給用光ファイバ19及びコンクリート容器31内に進入した計測装置1の計測部10を介してキャニスタ30の側周面30aに照射されて付着物質がアブレーションすると共にプラズマ化し、そのときの発光が計測部10及び受光用光ファイバ20を介してコンクリート容器31の外部の分光器21に導かれて分光されると共に受光素子22によって発光スペクトルが得られ、当該発光スペクトルに基づいて解析装置24によってキャニスタ30の側周面30aに付着している物質(付着微量成分)が特定されると共にその濃度が求められる。
【0061】
レーザー12としては、測定対象物の表面、即ち本実施形態では金属製のキャニスタ30の側周面30aにレーザー光13を照射して付着物質をアブレーションすると共にプラズマ化するに十分なピークパワーのレーザー、例えばNd:YAGレーザー,ファイバーレーザー,チタンサファイアレーザー,ガラスレーザー,COレーザー,エキシマレーザーなどのパルスレーザーの類が用いられる。なお、パルスレーザーであれば、ナノ秒レーザーでも良いし、超短パルスレーザー(具体的には、パルス幅が1 psec 以下)でも良い。
【0062】
なお、本発明におけるレーザー12の仕様(また、当該レーザー12から照射されるレーザー光13の条件)は、測定対象物などに合わせて適切なものが適宜選択され得る。
【0063】
分光器21は取り込んだ光をスペクトルに分解するものであり、受光素子22は分光器21によって分解された光を取り込んでスペクトル強度分布(すなわち、波長依存性を有する発光強度の分布)を測定するものである。
【0064】
分光器21としては、例えば、回折格子によって波長情報を空間情報に変換する分光器や、或いは、バンドパスフィルターが用いられ得る。
【0065】
分光器21としてバンドパスフィルターが用いられる場合には、測定対象の付着物質(付着微量成分)が一つ又は少数に限られている場合、その発光線の波長と近傍のバックグラウンドの波長とのそれぞれの波長に合わせたバンドパスフィルターが用意され、それぞれのバンドパスフィルターを通過した後の光強度が測定されることによってバックグラウンドに対する発光の強度、即ち測定対象物質の発光線強度が測定される。この場合、バックグラウンド測定用バンドパスフィルターとして二つ以上の波長のバンドパスフィルターが用いられることにより、測定の信頼性の向上が図られる。そして、バンドパスフィルターが用いられて分光が行われるようにすることにより、装置構成が大幅に簡素化されると共に製作コストが大幅に低減する。
【0066】
ゲート機能を有する受光素子22としては、例えば、ICCD(Intensified Charge Coupled Device の略)カメラや光電子増倍管が用いられ得る。
【0067】
ICCDカメラは、回折格子を有する分光器によって空間情報に変換された波長毎の強度分布(スペクトル)を一度に取得することが可能であり、したがって多数の物質の発光スペクトルを同時に取得することが可能であり、多数の物質の計測を一度に行うことができる点などにおいて本発明における受光素子22として好ましい。
【0068】
しかしながら受光素子22はICCDカメラに限定されるものではなく、例えばCCD(Charge Coupled Device の略)カメラや線形フォトダイオードなどの線形受光素子が受光素子22として用いられるようにしても良い。この場合も、回折格子を有する分光器と同時に用いられることにより、多数の物質を一度に計測することが可能である。
【0069】
また、受光素子22として、光電子増倍管やフォトダイオードなどの単一受光素子が用いられるようにしても良い。この場合には波長毎の強度分布(スペクトル)を一度に取得することはできないので多数の物質の計測を同時に行うことはできないものの、単一又は少数の物質のみを測定すれば良い場合や多数の物質の計測であっても各物質を同時に測定しなくても良い場合などには用いられ得る。
【0070】
例えば、単一又は少数の物質のみを測定すれば良い場合、単一受光素子がバンドパスフィルターと共に用いられ、測定対象物質の発光波長とその近傍のバックグラウンド波長とが一点若しくは複数点同時に測定される。これによって装置構成が大幅に簡素化されると共に製作コストが低減する。
【0071】
また、多数の物質の計測であっても各物質を同時に測定しなくても良い場合には、単一受光素子が例えば回折格子を有する分光器と共に用いられ、回折格子を回転させながら波長毎の強度分布(スペクトル)が測定される。この仕組みは、時間に対して変動の少ない現象を測定する場合に有効である。
【0072】
受光素子22には、当該受光素子22から出力される受光信号に基づいてスペクトル強度分布を分析する処理を行う各種解析プログラムなどが実装された解析装置24が接続される。
【0073】
そして、受光素子22によって取得された周波数毎の発光強度の情報が当該解析装置24に入力され、この発光強度に関するデータが保存されると共に解析されて発光スペクトルとしてディスプレイに表示されたり、周波数毎の発光強度の情報から測定対象物の表面の付着物質の有無が判断されたり、さらには当該付着物質に関する微量成分の濃度等が測定されたりする。
【0074】
解析装置24は、記憶部24aを備え、測定対象物の表面(測定対象物と同一の素材によって形成された物の表面)に既知の濃度の微量成分(測定対象とされた物質を少なくとも含む)を付着させてレーザー光を照射したときに発生するプラズマの発光のスペクトル強度分布などが予め記憶されたり、予め準備(言い換えると、設定)された検量線が記憶されて当該検量線と参照データの発光強度との比較或いは検量線の参照によって目的物質・原子の濃度変化などが検出されたりすることが好ましい。
【0075】
なお、発光スペクトルが保存されたり解析されたりする必要がない場合には、解析装置24は必要とされず、例えば受光素子22としてのICCDカメラに付属しているモニターディスプレイに発光スペクトルが表示されるようにしても良い。
【0076】
タイミングコントローラ23は、レーザー12によるレーザー光の照射と受光素子22のゲート開放開始との間の時間差を制御するものである。
【0077】
レーザー12によるレーザー光の照射から受光素子22のゲート開放開始までの時間差は、特定の値に限定されるものではなく、レーザー12によって照射されるレーザー光のピークパワーなども考慮されて適当な時間に適宜設定される。
【0078】
例えば、本発明におけるレーザー12によって照射されるレーザー光のピークパワーはそれほど大きいものではないので、白色光ノイズは弱いものの、受光素子22のゲート開放開始が早いと白色光ノイズが輝線強度に比べて強いので計測することができず、一方で、受光素子22のゲート開放開始が遅いと輝線強度が減衰するので感度が十分に出ないという問題が想定される。そこで、レーザー12によるレーザー光の照射と受光素子22のゲート開放開始との時間差は、具体的には例えば0.5〜10 μs 程度の範囲に調整されることが好ましい。
【0079】
計測部10の収容ケース11には、レーザー光伝送用の光学系と発光伝送用の光学系とが内蔵される。
【0080】
レーザー光伝送用の光学系は、本実施形態では、集光用レンズ14と、レーザー光13の波長のみを反射してレーザー光13をキャニスタ30の側周面30aに照射する波長選択型ミラー15とが含まれるものとして構成される。
【0081】
発光伝送用の光学系は、本実施形態では、波長選択型ミラー15の背後に配置されて当該波長選択型ミラー15を透過した、キャニスタ30の側周面30aに付着している物質のアブレーションによって生じたプラズマの発光16を反射させる、波長に依存しない全反射ミラー17と、プラズマ発光を受光用光ファイバ20の端面(フェルール20aの端面)に集光するための発光集光用レンズ18とが含まれるものとして構成される。
【0082】
これらレーザー光伝送用の光学系と発光伝送用の光学系とが収容ケース11の内部に備えられることにより、計測部10(収容ケース11)を介してレーザー光13とプラズマの発光16とが伝搬される。
【0083】
ここで、計測部10に対しては、コンクリート容器31の外部に配置されたレーザー12から供給用光ファイバ19によってレーザー光13が伝送されて供給される。なお、供給用光ファイバ19の収容ケース11内に挿し込まれる側の端部(出射端)は、収容ケース11内において、当該収容ケース11に固定されて取り付けられたフェルール19aを介して集光用レンズ14に向けられて所定の位置に固定される。
【0084】
また、プラズマ化された物質からの発光16は、計測部10から、コンクリート容器31の外部に配置された分光器21に受光用光ファイバ20によって伝送される。なお、受光用光ファイバ20の収容ケース11内に挿し込まれる側の端部(受光端)は、収容ケース11内において、当該収容ケース11に固定されて取り付けられたフェルール20aを介して発光集光用レンズ18に向けられて所定の位置に固定される。
【0085】
なお、供給用光ファイバ19と受光用光ファイバ20とは、バンドルファイバが用いられて一体のものとして構成されるようにしても良い。また、レーザー光13とプラズマの発光16とが同軸に設定される、言い換えると、レーザー光13とプラズマの発光16との光路が同じになるようにしても良い。これらの場合、レーザー光13を伝送する一本の供給用光ファイバ19の周囲にプラズマの発光16を受光する複数本の受光用光ファイバ20が配置されたバンドルファイバが用いられるようにしても良い。また、一本の光ファイバを用いて、レーザー光13とプラズマの発光16を伝送させても良い。
【0086】
(5)計測装置の動作
上述した計測装置1による、本実施形態における測定対象物であるキャニスタ30の側周面30aに付着している物質(付着微量成分)の濃度の測定に係る動作を以下に説明する。
【0087】
昇降装置8による昇降(鉛直方向移動)とコンクリート容器31の上蓋31bの回転による水平方向移動とにより、計測装置1が、キャニスタ30の側周面30aの所定の位置に移動させられて静止させられる。
【0088】
続いて、レーザー12からレーザー光13が出射され、当該レーザー光13が供給用光ファイバ19を介して計測部10(収容ケース11)に導光されてフェルール19aから出射される。
【0089】
そして、フェルール19aから出射されたレーザー光13が、キャニスタ30の側周面30a上に集光するように集光用レンズ14によって集光された上で波長選択型ミラー15によって反射されてキャニスタ30の側周面30aに対して垂直に照射される。
【0090】
この照射により、側周面30aに付着している物質がアブレーションすると共にアブレーションによってプラズマ化して発光する。
【0091】
そして、付着物質がプラズマ化することによる発光16が、波長選択型ミラー15を通過した後に全反射ミラー17によって反射されてから発光集光用レンズ18によって受光用光ファイバ20の端面(フェルール20aの端面)に集光された上でフェルール20aにより保持される受光用光ファイバ20に入射し、当該受光用光ファイバ20によって伝送されて分光器21によって分光された上で受光素子22によって受光される。
【0092】
続いて、受光素子22によって取得された周波数毎の発光強度の情報が解析装置24に入力され、周波数毎の発光強度の情報から測定対象物の表面の付着物質の有無が判断され、また、当該付着物質に関する微量成分の濃度が測定される。
【0093】
ここで、例えば、837.59 nm の塩素の発光線,517.26 nm のマグネシウムの発光線,518.36 nm のマグネシウムの発光線,及び833.31 nm の塩素の発光線は塩分の存在を示唆するものであり、いずれかの発光線が用いられることによって塩分の存在の有無が判断されると共に、これら発光線の発光強度と塩分濃度とは比例関係にあることから塩分の濃度が求められる。
【0094】
そして、他の物質(成分)についても、各物質に対応する周波数の発光線に着目し、発光線の発光強度と物質の濃度との関係から物質の濃度が求められる。
【0095】
続いて、必要に応じ、昇降装置8による昇降(鉛直方向移動)とコンクリート容器31の上蓋31bの回転による水平方向移動とによって計測装置1がキャニスタ30の側周面30aの別の位置に移動させられて静止させられ、上述と同様のレーザー光13の照射及びプラズマ化による発光16の受光並びに付着物質の有無の判断及び濃度の測定が行われる。
【0096】
さらに必要に応じてキャニスタ30の側周面30aの所定の範囲に亙って同様の動作が繰り返される。
【0097】
このとき、対象物側移動機構及び付勢側移動機構の働きにより、計測装置1が順次移動して検査や計測・測定を行う場所毎にキャニスタ30の側周面30aとコンクリート容器31の本体31aの周壁の内周面31cとの間隔が変化しても、コンクリート容器31の内周面31cと計測装置1の本体2との間の距離を変化させることによってキャニスタ30の側周面30aと計測装置1の本体2との間の距離は一定に維持され、したがって、本体2に固定される計測部10とキャニスタ30の側周面30aとの離隔距離・相対距離が一定に維持されるので、レーザー光13の焦点とキャニスタ30の側周面30aとの位置関係が変化することなくレーザー光13の照射が適切に行われてレーザー誘起ブレイクダウン分光法による測定が良好に行われる。
【0098】
以上のように構成された計測装置1によれば、測定対象物であるキャニスタ30とは反対側の構造物であるコンクリート容器31の本体31aの内周面31cに付勢側移動機構としての付勢側車輪6が当接し、当該付勢側車輪6による付勢力が本体2を介して対象物側移動機構としての対象物側車輪4に働き、結果的に、対象物側車輪4が測定対象物であるキャニスタ30の側周面30aに押し付けられるので、計測装置1が順次移動して検査や計測・測定を行う場所毎にコンクリート容器31の本体31aの内周面31cとキャニスタ30の側周面30aとの間隔が変化しても、キャニスタ30の側周面30aと本体2との間の距離は一定に保たれ、したがって、本体2に固定される計測部10とキャニスタ30の側周面30aとの離隔距離・相対距離を一定に保つことができ、計測・測定条件を一定にして計測・測定精度を向上させることが可能になる。
【0099】
また、以上のように構成された計測装置1によって上述の実施形態のようにレーザー誘起ブレイクダウン分光法による測定を行う場合には特に、計測装置1が順次移動して測定を行う場所毎に本体2に固定される計測部10とキャニスタ30の側周面30aとの離隔距離・相対距離が一定に保たれた状態でレーザー誘起ブレイクダウン分光法による測定を行うことができるので、レーザー光13の焦点とキャニスタ30の側周面30aとの位置関係が変化することなくレーザー光13の照射が適切に行われてレーザー誘起ブレイクダウン分光法による測定を良好に行うこと、すなわち、良好な精度が確保された測定を行うことが可能になる。さらに、測定条件を一定に保ちながら移動しつつ空間的に連続的な測定を行うことが可能になると共に、順次移動した場所毎の受光信号を積算することによって測定感度を向上させることが可能になる。
【0100】
なお、上述の形態は本発明を実施する際の好適な形態の一例ではあるものの本発明の実施の形態が上述のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において本発明は種々変形実施可能である。
【0101】
例えば、上述の実施形態ではレーザー誘起ブレイクダウン分光法を行うに際してシングルパルス方式であることを前提として説明したが、これに限られず、ダブルパルス方式とすることも可能である。例えば、同軸に配置された二つのレーザー光の間で焦点位置をずらしたり、或いは、第二のレーザー光を測定対象物の表面に対して斜交させることによって照射面の大きさを変えたりすることで、ピークパワー上限値以下となるようにレーザー光のエネルギーと照射面の面積とを調整することによっても同様の効果を得ることができる。さらに、2回目のレーザー光の照射のレーザーエネルギーを下げることによっても同様の効果が得られる。具体的には、2回目も追加熱用として付着物質をアブレーションさせる場合は、1回目も2回目も同じ強さ、或いは1回目に対して2回目が弱いというピークパワーの配分によっても、測定対象物の表面の損傷を招くことなくプラズマが生成されて測定感度を向上させることができる。
【0102】
また、上述の実施形態ではレーザー誘起ブレイクダウン分光法によって測定を行うために計測部10に内蔵されるレーザー光伝送用の光学系が集光用レンズ14及び波長選択型ミラー15を有すると共に発光伝送用の光学系が全反射ミラー17及び発光集光用レンズ18を有するようにしているが、レーザー光伝送用の光学系や発光伝送用の光学系の構成はこれらに限られるものではなく、例えば供給用光ファイバ19の出射端や受光用光ファイバ20の受光端が測定対象物の表面に向けられる(言い換えると、光ファイバ19,20の端面が測定対象物の表面に対向する)場合などには波長選択型ミラー15や全反射ミラー17を有しないようにしても良い。なおこの場合には、一本の供給用光ファイバ19の周囲に複数本の受光用光ファイバ20が配置されたバンドルファイバが用いられるようにしても良い。
【0103】
また、上述の実施形態ではレーザー12から出射されたレーザー光が供給用光ファイバ19によって計測部10に供給されるようにしているが、レーザー12から計測部10にレーザー光を供給するためのレーザー光の伝送の仕組みはこれに限られるものではなく、レーザー光は、供給用光ファイバ19を通さずに、一つ若しくは複数のミラー,レンズ,プリズム,またはフィルタなどの光学素子によって光路を変化させながら空間を伝送させることによって計測部10に供給されるようにしても良い。また、その場合、キャニスタ30とコンクリート容器31の本体31aとの間の幅狭の空間内をレーザー光が通過する時には、伸縮可能なダクト等の内部にレーザー光を通過させ、温度によるレーザー光軸のゆらぎ等の影響を抑えるようにしても良い。
【0104】
また、上述の実施形態では計測部10にはレーザー誘起ブレイクダウン分光法によって測定を行うための仕組みのうちの一部としての機器が収容されるようにしているが、本発明の計測装置1によって行われる検査や計測・測定は、上述の実施形態におけるレーザー誘起ブレイクダウン分光法の具体的な態様に限られるものではなく、さらに言えばレーザー誘起ブレイクダウン分光法による測定に限られるものではなく、したがって計測部10に収容される機器なども上述の実施形態におけるものに限られるものではない。すなわち、計測部10には、種々の非接触型の検査や計測・測定が行われる場合には非接触型の探触子や計測・測定器具が収容されるようにしても良く、或いは、種々の接触型の検査や計測・測定が行われる場合には接触型の探触子や計測・測定器具が収容されるようにしても良い。
【符号の説明】
【0105】
1 計測装置
2 本体
3 固定長軸
4 対象物側車輪
5 伸縮軸
6 付勢側車輪
30 キャニスタ
31 コンクリート容器
図1
図2
図3
図4
図5