(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6372945
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】測定試料調製装置およびこれを用いた測定試料の調製方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/12 20060101AFI20180806BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20180806BHJP
G01N 33/18 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
G01N1/12 A
G01N1/10 C
G01N1/10 B
G01N33/18 106A
G01N33/18 106D
G01N33/18 106B
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-206207(P2017-206207)
(22)【出願日】2017年10月25日
(62)【分割の表示】特願2013-108667(P2013-108667)の分割
【原出願日】2013年5月23日
(65)【公開番号】特開2018-31786(P2018-31786A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2017年10月25日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、農林水産省、科学技術戦略推進費「重要政策課題への機動的対応の推進及び総合科学技術会議における政策立案のための調査」委託研究、産業技術力強化法第19条に係る特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】591130319
【氏名又は名称】東京パワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】南 公隆
(72)【発明者】
【氏名】川本 徹
(72)【発明者】
【氏名】田中 寿
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 顕
(72)【発明者】
【氏名】船橋 孝之
(72)【発明者】
【氏名】上村 竜一
【審査官】
三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−302392(JP,A)
【文献】
特開2006−322777(JP,A)
【文献】
特開2002−365176(JP,A)
【文献】
特表2012−528710(JP,A)
【文献】
特開2013−40852(JP,A)
【文献】
特開2013−50313(JP,A)
【文献】
特開2006−317163(JP,A)
【文献】
特開平9−89861(JP,A)
【文献】
特開2007−237087(JP,A)
【文献】
特開2010−42368(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0087612(US,A1)
【文献】
実開昭59−41775(JP,U)
【文献】
特開2011−200856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/12
G01N 1/10
G01N 33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロスフローフィルターを循環流路中に有するクロスフローろ過機構と、循環流路中で試料液を流通させるポンプと、被検物質を吸着する吸着剤を収納する回収器とを有する被検物質の測定試料調製装置であって、
前記クロスフローろ過機構により被検物質を含有する試料液中の浮遊固形物をろ過してろ液とし、当該ろ液を前記回収器に送り流通させ、前記回収器内の吸着剤に被検物質を吸着させて回収し、一方で、前記クロスフローろ過機構により当該浮遊固形物が濃縮された濃縮液を調製し、当該濃縮液と前記回収器で回収した被検物質とを測定の用に供する被検物質の測定試料調製装置。
【請求項2】
さらに、前記循環流路中にバッファタンクを有する請求項1に記載の測定試料調製装置。
【請求項3】
前記クロスフローフィルターとして精密ろ過膜を用いる請求項1または2に記載の測定試料調製装置。
【請求項4】
さらに電池を具備し、ポータブルタイプとした請求項1〜3のいずれか1項に記載の測定試料調製装置。
【請求項5】
前記回収器が、上部と底部に開口部を有する測定容器とこれを収容する筐体とを有し、前記測定容器は被検物質を吸着する吸着剤を収納することができ、前記筐体は測定容器の実質的に内部のみに試料液を流通させるよう測定容器の上部縁部と底部縁部とを密閉状態で収容する請求項1〜4のいずれか1項に記載の測定試料調製装置。
【請求項6】
前記測定容器の上部および底部にはシール材が配置されて、前記筐体の内面と前記測定容器の縁部外面とが前記シール材を介して密閉される請求項5に記載の測定試料調製装置。
【請求項7】
前記筐体は筐体上部と筐体下部とで構成され、前記筐体上部と筐体下部とは螺合して一体化する構造とされ、前記測定容器とその上部および下部に位置するシール材を内包し、その内包状態で前記筐体上部と筐体下部とを螺合することで、前記シール材を筐体の上部内面および底部内面に押圧しながら一体化し、当該縁部と前記シール材との密着状態を得る請求項6に記載の測定試料調製装置。
【請求項8】
前記吸着剤がプルシアンブルー型金属錯体微粒子である請求項1〜7のいずれか1項に記載の測定試料調製装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の装置により測定試料を調製する方法であって、
前記クロスフローろ過機構により被検物質を含有する試料液中の浮遊固形物をろ過してろ液とし、当該ろ液を前記回収器に送り流通させ、前記回収器内の吸着剤に被検物質を吸着させて回収し、一方で、前記クロスフローろ過機構により当該浮遊固形物を濃縮して濃縮液を調製し、当該濃縮液と前記回収器で回収した被検物質とを測定の用に供する被検物質の測定試料の調製方法。
【請求項10】
前記測定試料調製装置をポータブルタイプとし、試料液となる環境水を採取し、その場で測定試料を調製する請求項9に記載の測定試料の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定試料調製装置およびこれを用いた測定試料の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の事故の際には、放射性物質が環境に飛散することがある。中でも、放射性であるセシウム134とセシウム137は遠距離まで飛散することが知られており、その対策が課題となる。実際、先の原子力発電所の事故において、ある程度距離が離れた地域で時間が経った後に問題となったのは、この二つの物質である。
【0003】
このような環境汚染の際に、作物の生育に関与する環境水の汚染の状況を把握することは重要である。現在、広範に精度良く把握するためのさまざまな努力がなされている。その例として、プルシアンブルー型金属錯体微粒子を吸着剤として用いた技術が検討されている(非特許文献1)。そこでは、セシウムに対して高い吸着能を有するプルシアンブルー型金属錯体微粒子を利用し、これを不織布に担持させた吸着シートが提案されている。その回収方法は以下のとおりである。灌漑用水をポンプで汲み上げ、これを前記の吸着シートを配したカラムに通す。これにより、吸着シート中のプルシアンブルー型金属錯体微粒子に環境水中のセシウムを吸着させる。回収を終えた不織布からなる吸着シートは、水で洗浄して、浮遊固形物(SS)を除去する。その後、ゲルマニウム半導体検出装置により放射性セシウムの濃度を測定することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】保高徹生、川本徹、川辺能成、佐藤利夫、佐藤陸人、中村公人「プルシアンブルー不織布を用いた灌漑用水中の低濃度放射性セシウムモニタリング技術の開発」文部科学省による放射性物質の分布状況等に関する調査研究(河川水・井戸水における放射性物質の移行調査)の結果について(確認日:2012/04/05)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
わが国においては、言うまでもなく稲作が盛んであり、水田の環境評価はとりわけ重要な課題となる。一方で、水田の水位は浅く、底部の水田土壌は緩く縣濁しやすいため、試料水の採取には工夫を要する。また、水田の水を採取したとしても、その採取量が十分でなかったり、採取から被検物質(放射性セシウム)の回収までに手間がかかったりしたのでは、大規模な調査には適さず、今日の要求に応えることができない。
【0006】
そこで、第1の目的は、水田などの浅く底部に巻き上げやすい泥があるような環境でも的確に試料液中の被検物質を回収することができる被検物質回収装置ないしこれを用いた被検物質の回収方法を提供することにある。
第2の目的は、連続的かつ多量の試料液の採取を可能とし精度の高い分析に資する被検物質の回収装置およびこれを用いた回収方法を提供することにある。
本発明の目的である第3の目的は、被検物質を含有する試料液を、その分析や測定に適した形態に処理することができる測定試料調製装置およびこれを用いた測定試料の調製方法を提供することにある。
第4の目的は、上記の装置および方法に適合する被検物質回収器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は以下の手段により達成された。
このうち、〔16〕〜〔25〕が本発明の手段である。
〔1〕貯留された試料液に浮遊しながら当該試料液中の被検物質を回収する装置であって、
前記試料液を汲み上げる汲み上げ機構と、汲み上げた試料液を流通させ被検物質を吸着する吸着剤を収納する回収器と、当該回収器から排出された試料液を貯留試料液に戻す返戻機構とを有する被検物質回収装置。
〔2〕さらに、浮力を得るための浮子体を有する〔1〕に記載の被検物質回収装置。
〔3〕前記汲み上げ機構および前記回収器が浮子体もしくは浮力のある基材に載置されている〔1〕または〔2〕に記載の被検物質回収装置。
〔4〕さらに、カートリッジフィルタを有し、汲み上げた試料液のろ過を行った後、前記回収器に送る〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の被検物質回収装置。
〔5〕さらに、電池を有する〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の被検物質回収装置。
〔6〕前記貯留された試料液に装置の一部が入水し、試料液が汲み上げられるその入水した箇所に、メッシュフィルターが設けられ、試料液を汲み上げる際の異物の混入を防止する〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の被検物質回収装置。
〔7〕前記回収器が、上部と底部に開口部を有する測定容器とこれを収容する筐体とを有し、前記測定容器は被検物質を吸着する吸着剤を収納することができ、前記筐体は測定容器の実質的に内部のみに試料液を流通させるよう測定容器の上部縁部と底部縁部とを密閉状態で収容する〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の被検物質回収装置。
〔8〕前記測定容器の上部および底部にはシール材が配置されて、前記筐体の内面と前記測定容器の縁部外面とが前記シール材を介して密閉される〔7〕に記載の被検物質回収装置。
〔9〕前記筐体は筐体上部と筐体下部とで構成され、前記筐体上部と筐体下部とは螺合して一体化する構造とされ、前記測定容器とその上部および下部に位置するシール材を内包し、その内包状態で前記筐体上部と筐体下部とを螺合することで、前記シール材を筐体の上部内面および底部内面に押圧しながら一体化し、当該縁部と前記シール材との密着状態を得る〔8〕に記載の被検物質回収装置。
〔10〕前記試料液が環境水である〔1〕〜〔9〕のいずれか1項に記載の被検物質回収装置。
〔11〕前記環境水が水田の水である〔10〕に記載の被検物質回収装置。
〔12〕前記被検物質が放射性セシウムである〔1〕〜〔11〕のいずれか1項に記載の被検物質回収装置。
〔13〕前記吸着剤がプルシアンブルー型金属錯体微粒子である〔1〕〜〔12〕のいずれか1項に記載の被検物質回収装置。
〔14〕〔1〕〜〔13〕のいずれか1項に記載の装置により被検物質を回収する方法であって、
貯留試料液から浮遊状態で試料液を汲み上げ、当該汲み上げた試料液を吸着剤を収納した回収器へと送り、当該回収器を流通させることで前記試料液中の被検物質を前記吸着剤に吸着させて回収し、当該回収器から排出された試料液を貯留試料液に返戻する被検物質の回収方法。
〔15〕貯留試料液の液面から50mm以内の表層に浮遊して被検物質を回収する〔14〕に記載の被検物質の回収方法。
〔16〕クロスフローフィルターを循環流路中に有するクロスフローろ過機構と、循環流路中で試料液を流通させるポンプと、被検物質を吸着する吸着剤を収納する回収器とを有する被検物質の測定試料調製装置であって、
前記クロスフローろ過機構により被検物質を含有する試料液中の浮遊固形物をろ過してろ液とし、当該ろ液を前記回収器に送り流通させ、前記回収器内の吸着剤に被検物質を吸着させて回収し、一方で、前記クロスフローろ過機構により当該浮遊固形物が濃縮された濃縮液を調製し、当該濃縮液と前記回収器で回収した被検物質とを測定の用に供する被検物質の測定試料調製装置。
〔17〕さらに、前記循環流路中にバッファタンクを有する〔16〕に記載の測定試料調製装置。
〔18〕前記クロスフローフィルターとして精密ろ過膜を用いたことを特徴とした〔16〕または〔17〕に記載の測定試料調製装置。
〔19〕さらに電池を具備し、ポータブルタイプとした〔16〕〜〔18〕のいずれか1項に記載の測定試料調製装置。
〔20〕前記回収器が、上部と底部に開口部を有する測定容器とこれを収容する筐体とを有し、前記測定容器は被検物質を吸着する吸着剤を収納することができ、前記筐体は測定容器の実質的に内部のみに試料液を流通させるよう測定容器の上部縁部と底部縁部とを密閉状態で収容する〔16〕〜〔19〕のいずれか1項に記載の測定試料調製装置。
〔21〕前記測定容器の上部および底部にはシール材が配置されて、前記筐体の内面と前記測定容器の縁部外面とが前記シール材を介して密閉される〔20〕に記載の測定試料調製装置。
〔22〕前記筐体は筐体上部と筐体下部とで構成され、前記筐体上部と筐体下部とは螺合して一体化する構造とされ、前記測定容器とその上部および下部に位置するシール材を内包し、その内包状態で前記筐体上部と筐体下部とを螺合することで、前記シール材を筐体の上部内面および底部内面に押圧しながら一体化し、当該縁部と前記シール材との密着状態を得る〔21〕に記載の測定試料調製装置。
〔23〕前記吸着剤がプルシアンブルー型金属錯体微粒子である〔16〕〜〔22〕のいずれか1項に記載の測定試料調製装置。
〔24〕〔16〕〜〔23〕のいずれか1項に記載の装置により測定試料を調製する方法であって、
前記クロスフローろ過機構により被検物質を含有する試料液中の浮遊固形物をろ過してろ液とし、当該ろ液を前記回収器に送り流通させ、前記回収器内の吸着剤に被検物質を吸着させて回収し、一方で、前記クロスフローろ過機構により当該浮遊固形物を濃縮して濃縮液を調製し、当該濃縮液と前記回収器で回収した被検物質とを測定の用に供する被検物質の測定試料の調製方法。
〔25〕前記測定試料調製装置をポータブルタイプとし、試料液となる環境水を採取し、その場で測定試料を調製する〔24〕に記載の測定試料の調製方法。
〔26〕上部と底部に開口部を有する測定容器とこれを収容する筐体とを有する被検物質の回収器であって、前記測定容器は被検物質を吸着する吸着剤を収納しうる状態とされ、前記筐体は測定容器の実質的に内部のみに試料液を流通させるよう測定容器の上部縁部と底部縁部とを密閉状態で収容する被検物質回収器。
〔27〕前記測定容器の上部および底部にはシール材が配置されて、前記筐体の内面と前記測定容器の縁部外面とが前記シール材を介して密閉される〔26〕に被検物質回収器。
〔28〕前記筐体は筐体上部と筐体下部とで構成され、前記筐体上部と筐体下部とは螺合して一体化する構造とされ、前記測定容器とその上部および下部のシール材を内包し、その内包状態で前記筐体上部と筐体下部とを螺合することで、前記シール材を筐体の上部内面および底部内面に押圧しながら一体化し、当該縁部と前記シール材との密着状態を得る〔27〕に記載の被検物質回収器。
〔29〕前記吸着剤がプルシアンブルー型金属錯体微粒子である〔26〕〜〔28〕のいずれか1項に記載の被検物質回収器。
【0008】
本発明において、吸着剤ないし収着剤とは、特定の微粒子のみからなるものであっても、別の微粒子や添加剤などと共存したものであっても、媒体中に分散ないし溶解、混合したものであっても、あるいは特定の担体に担持させたものであってもよい。
【発明の効果】
【0009】
被検物質回収装置およびこれを用いた被検物質の回収方法によれば、水田などの浅く底部に巻き上げやすい泥があるような環境でも的確に試料液中の被検物質を回収することができる。
被検物質回収装置およびこれを用いた被検物質の回収方法によれば、連続的かつ多量の試料液の採取を可能とし精度の高い分析に資する。
本発明の測定試料調製装置およびこれを用いた測定試料の調製方法によれば、被検物質を含有する試料液を、その分析や測定に適した形態に処理することができる。
本発明で使用する被検物質回収器は、上記の装置および方法に適合する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】好ましい実施形態に係る被検物質回収装置を模式的に示した側面図である。
【
図2】好ましい実施形態に係る被検物質回収装置を示した図面代用写真である(斜視(a)、平面視(b))。
【
図3】好ましい実施形態に係る被検物質回収器を模式的に示した分解斜視図である。
【
図4】
図3に示した被検物質回収器の断面図である。
【
図5】O型パッキン付きの拡散板を模式的に示した断面図である。
【
図6】被検物質回収器の別の例を模式的に示した側面図(a)と斜視図(b)である。
【
図7】被検物質回収器のさらに別の例を模式的に示した断面図である。
【
図8】本発明の好ましい実施形態に係る測定試料調製装置を模式的に示した装置構成図である。
【
図9】本発明の好ましい実施形態に係る測定試料調製装置を示した図面代用写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明する。
<被検物質回収装置>
図1は、好ましい実施形態に係る被検物質回収装置を模式的に示した側面図である。
図2は、その装置を示した図面代用写真である。本実施形態の被検物質回収装置10は、水面sに浮遊するよう、浮力を得るための発泡スチロール性の浮子体4を具備する。この浮子体の浮力は後述するように、試料水を採取可能な範囲で装置が沈みつつ、一方で、底部の泥を巻き込まないよう水面に浮揚する設定とされている。
【0012】
当該浮子体4の上側には、貯留された水(試料水)wから水を汲み上げ系内に流通させるポンプ2、試料水中の浮遊固形物等の混入物を除去するカートリッジフィルタ3、放射性セシウム(被検物質)を回収する回収器1、フローメーター6、電池5が載置されている。前記のポンプ2、カートリッジフィルタ3、回収器1、フローメーター6は、その順でチューブ(a1、a2、a3、a4、a5)により接続されている。これにより、水が貯留水wから汲み上げ機構(チューブa1、ポンプ2)により汲み上げられて系内を流通し、返戻機構(チューブa5)を介して貯留水wに返戻されるようにされている。電池5はポンプ2に電気的に接続され、電源スイッチ(図示せず)により手動で作動するようにされている。あるいは、遠隔操作によりポンプが作動するようにしてもよい。本実施形態に係る被検物質回収装置10は、独立して水面sに浮遊することにより、水田底部Bの泥を巻き上げずにチューブa1より水を汲み上げることができる。
【0013】
前記浮子体4の側部の周囲はカバー8で覆われている。このカバーは、外観の良化とともに、衝撃吸収壁としての機能も兼ねているが、省略してもよい。その前方には、給水ゲート81が設けられ、その前面81aがメッシュ状の板材で構成されている。一方、給水ゲート81の底部81bおよび側壁は開口部のない構造とされている。このようにすることで、チューブa1を介して試料水を汲み上げる際に、メッシュ状の板材で構成された前面81aを水が通過するようにされている。本採水機構は、水面などに浮かぶ大き目のごみや木くずや草木などの混入を排除するとともに、採水の際の振動や水の流動による底部の泥などの巻き上げを防止することを目的とする。
【0014】
浮子体4の後方には、排水ゲート82が設けられている。この排水ゲート82の底部82bおよび側壁は、給水ゲート81と同様に密閉構造となっている。一方で後面82aはメッシュ状の板材で構成され、そこから返戻された試料水が排出されるようにされている。これにより、排水時の水の流動などによる泥の巻き上げを防ぐことができる。
【0015】
本実施形態の被検物質回収装置は、その上部全体が透明カバー9で覆われている。その形状は半球状とされており、安定性があり、雨水の侵入をさけ、かつ外観的にも環境と調和する。被検物質回収装置は、水面に浮揚するように軽量であることが好ましく、部品や機器は少ない方が好ましいが、上記に加え、さらに別の部品や機器等を搭載していてもよい。本装置に搭載するその他の部品や機器の例としては、温度・湿度計およびその記録計、流量および流速の記録計、圧力計およびその記録計、装置回路内の電圧・電流計およびその記録計、装置正常作動などの監視用撮影機器が挙げられる。照明なども重さおよび電源の許容量を考慮し、搭載可能である。
なお、本明細書においては、被検物質を回収する対象となる水を、広い概念で試料水と呼び、水田などでその水が貯留されている状態を区別して貯留水という。また、水に限らず被検物質を含有する液体全般を広くさすときには「液」と呼び、例えば、試料液や貯留試料液などと称する。
【0016】
被検物質回収装置の水に沈む程度は特に限定されないが、一般的な水田の土壌(底)までの距離d
2が、通常、60〜100mmであることを考慮すると、沈み深さd
1が30〜50mm程度であることが好ましい。下表は一般的な発泡スチロールを浮子体として用いる条件で、沈み深さを50mmとしたときに載置できる機器の重さを求めた計算結果である。本実施形態においては、浮子体に用いられる材料の浮力と、水に対する沈み深さの関係で、載置する機器や部品の重さを設定することが好ましい。特に、観測者から離れた箇所で独立して作動し、かつ、長時間吸水を行う観点から載置する部品や機器の重さは重くなりがちである。これに対し、十分に浮揚する範囲で機器等を選定することが好ましい。
【0017】
浮子体の大きさ(平面視の直径)は特に限定されないが、水田に適用するときには、稲稲間の距離が30cm程度であり、この30cm以下とすることが好ましい。このような設定では、下表のとおり、3.5kgを下回る搭載機器とすることが求められ、軽量化が重要な設計要素となる。
【0018】
【表A】
*発泡スチロール製(密度:0.015g/cm
3)
沈み深さは50mmとした
【0019】
浮子体の形状は、上記で例示した板状に限らず、装置の重量および装置への水の流入を防げれば桶状などの船型でもよい。より小さくするためには、発泡スチロールは装置類を支えるため穴をあけて装置を埋め込むために用い、その周りをプラスチックで覆う円筒のプラスチック桶(船)に発泡スチロールが埋め込まれているような形状でもよい。あるいは、発泡スチロール(浮子体)を用いずに、船(桶)形の基材により浮力を得て、そこに各機器を載置するようにしてもよい。
【0020】
本実施形態の被検物質回収装置によれば、適度な流量で長時間の運転が可能であり、分析に好適な多量の試料水から被検物質を回収することができる。汲み上げ速度(フローメータ6で計測される通水速度)は、0.03L/min以上であることが好ましく、0.1L/min以上であることがより好ましく、0.3L/min以上であることが特に好ましい。上限は吸着剤の吸着量等を考慮して設定することができ、3L/min以下であることが好ましく、1L/min以下であることがより好ましく、0.5L/min以下であることが特に好ましい。汲み上げ速度を前記の範囲とすることで、多量の通水を可能とするとともに、水田の水に過度に流れを与え底部Bの泥の巻上げてしまうことを効果的に抑制することができる。
【0021】
被検物質回収装置の運転時間は特に限定されないが、できるだけ長時間の運転を可能とする観点から、2時間以上の運転とすることが好ましく、20時間以上の運転とすることがより好ましい。上限は特にないが、電池等の重量を過度に大きくしない観点から、240時間以下の運転とする設定が好ましく、24時間以下の運転とする設定がより好ましい。
【0022】
<被検物質回収器>
次に、本発明で使用する被検物質の回収器について説明する。
図3は、本発明の好ましい実施形態に係る被検物質回収器を模式的に示した分解斜視図である。
図4はその断面図であり、
図5はその部品であるシール材(O型パッキン)付きの拡散板を模式的に示した断面図である。本実施形態の回収器1は、筐体上部11および筐体下部12からなる筐体と、O型パッキン(シール材)21およびガラス拡散板22と、底部に穴23bを設けた測定容器(U−8容器)23と、O型パッキン(シール材)24とで構成されている。筐体上部11は、その螺合穴11aで、試料水が供給されるチューブa3と結合される。この結合により、試料水が筐体の内部に供給可能となる。拡散板90は水を通す多孔性のガラス拡散板22を有し、ここを介して、測定容器の内部に水を供給するようにされている。ここで、ガラス拡散板22の周囲にかぶせられたO型パッキン21は、測定容器の縁23dと当接する構造とされており、ここで両部材が密閉される。一方、O型パッキン21は、筐体上部の内面11b(
図4)と当接しここで密閉状態が得られる。このように、筐体上部11と測定容器23とが中央において拡散板22を介して通水可能であり、その周囲においては密閉され水が漏洩しない構造となっている。なお、拡散板は、焼結体、ガラスフィルター、プラスチックなど、通常この種の整流フィルターとして用いられるものを、適宜選定して用いることができる。
【0023】
測定容器23の上部には開口部23aがあり、一方で底部には通水穴23bが設けられており、ここから試料水が流入・流出する構造とされている。図示していないが、測定容器の内部には吸着剤を収納することができ、例えば、測定容器の底部側に吸着剤を担持した構造体を設置することができる。これにより、試料水を測定容器の内部に流通させたときに、吸着剤に被検物質(放射性セシウム)を吸着させ回収することができる。
【0024】
測定容器の後方にはO型パッキン(シール材)24が配置され、筐体上部11のときと同様に、筐体下部12の内面12b(
図4)とO型パッキン24とが当接し、一方で測定容器の縁23cとO型パッキン24とが当接し、密閉構造が実現されるようにされている。これにより、試料水が、測定容器の内部のみを流通し、その外側に漏洩しない構造とされている。
【0025】
筐体上部11と筐体下部12とはそれぞれの螺合部11c、12cで螺合され、一体化する構造とされている。これにより、内部に収容する測定容器等を的確に設置しながら螺合し、その内部でずれを生じさせることなく一体化された被検物質回収器1とすることができる。この螺合一体化構造が本実施形態の被検物質回収器1の利点である。
【0026】
図6は、被検物質回収器の別の例を模式的に示した側面図(a)および斜視図(b)である。本実施形態の回収器1Aは、その筐体が筐体上部11xおよび筐体下部12xからなる。この筐体上部11xおよび筐体下部12xは直接螺合して一体化するのではなく、ネジ25、26により、固定板25a、26a、27を締め付けることにより、一体化するようにされている。この一体化により、筐体の内部に測定容器23を収容するようにされる。このとき、上記の実施形態と同様に、拡散板90のO型パッキン24と他方のO型パッキンとが、筐体の内面と当接し、測定容器の中央において試料水を通水し、外方には漏洩しない密閉構造が実現されている。筐体上部11x、筐体下部12xには、それぞれ上部ジョイントJ
1、下部ジョイントJ
2が形成され、チューブa3、チューブa4と接続される構造となっている。本実施形態においては、測定容器のサイズ(長さ)の変更等にも、ネジの長さを変更することで対応でき、対応の自由度があるのが利点である。
【0027】
図7は、被検物質回収器のさらに別の例を模式的に示した断面図である。本実施形態の回収器1Bは、上記回収器1Aの変形例であり、その筐体下部12yの側壁が延長され筐体上部11yと嵌合するようにされている。これにより、より確実な密閉性が得られる。筐体上部11yと筐体下部12yとの一体化は、上記回収器1Aと同様に、ネジおよび固定板を用いることにより行うことができる。あるいは、嵌合部31で筐体上部と筐体下部とが螺合一体化する構成としてもよい。
【0028】
測定容器にはこの種の測定に用いる容器を広く適用することができる。典型的には、図示したもののように、円筒形の容器であり、その上側と下側とに開口部があり、円筒の母線方向に沿って試料水が流通する構造となったものが挙げられる。例えば、本実施形態で採用したU−8容器以外にも、V−3容器、V−9容器、マリネリ容器などを利用することができる。それぞれの容器の大きさや形態に合わせて筐体を設計することで、前記各実施形態の内部において測定容器との密閉構造を実現した回収容器とすることができる。
【0029】
<測定試料調製装置>
図8は、本発明の好ましい実施形態に係る測定試料調製装置を模式的に示した装置構成図である。
図9は、本発明の好ましい実施形態に係る測定試料調製装置を示した図面代用写真である。本実施形態の測定試料調整装置50は、タンク51を有する。このタンク51には、ポンプ54aおよび流路(チューブ)b1を介して、貯留水(水田)wの水(試料水)が採取され蓄積される。タンク51の水量および流路b3に送られる水量は弁56eにより調整され、流路b2を介して必要により排水される。所定の流量でフローメーター52aを有する流路(チューブ)b3に試料水が送られ、流路b4、b5、b7、b8を有する循環流路bcに試料水が送られる。流路b4にはバッファタンク53が設けられ、循環する試料水の量が調整されるようになっている。流路b5にはポンプ54bが設けられ、試料水が循環流路bcを流れるようにされている。流路b7には、クロスフローフィルター55が配置され、その両側の圧力計(P
1、P
2)でその圧力が管理されている。流路b7の先方および流路b7と流路b8との間には弁56aと56dとが配置され、循環流路bc内の試料水の循環量を調整することが可能となっている。流路b5には、濃縮液回収流路b9が接続され、弁56bを介して容器57に、クロスフローにより浮遊固形物が濃縮された濃縮液が回収されるようにされている。
【0030】
このように、本実施形態においては、循環流路bc、バッファタンク53、クロスフローフィルター55、ポンプ54b、弁56d、圧力計により、クロスフロー機構が形成されている。このクロスフロー機構内で、試料水を循環させることで、試料水中の浮遊固形物(SS)を濃縮させ、一方で、ろ化した浮遊固形物の少ないろ液試料水を、流路bl1に導くようにされている。ここで、クロスフローフィルターには、別の流路b6が接続されており、弁56cにより、必要によりクロスフィルター内の水抜きを行うことができる。流路b11にフローメーター52bを介して導かれたろ化された試料水はポンプ54cによりさらに被検物質回収器1に送られ、ここでその内部に収納された吸着剤により放射性セシウム等の被検物質が回収される。被検物質回収器1の構成は、上記の実施形態で説明したものと同様である。
【0031】
本実施形態のクロスフローフィルターには、精密ろ過膜を適用することが好ましい。精密ろ過膜の孔径(直径)[顕微鏡写真から円相当直径で特定できる]は、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましく、500nm以上であることが特に好ましい。上限としては、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることが特に好ましい。材質としては、酢酸セルロース、芳香族ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、セラミック、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレンなどを挙げることができる。膜内部の構造は限定されないが、樹脂製のろ過膜であるとき、中空子膜構造であることが挙げられる。
【0032】
本実施形態によれば、上述のように、浮遊固形物の少ないろ液試料水の方では回収器1により被検物質が回収される。一方で、浮遊固形物が濃縮された濃縮試料は容器57に回収される。このように、試料水(環境水)を浮遊固形物の濃縮液と、ろ液の回収物とに分けて採取することで、引き続く分析の工数を大幅に削減することができ、また、従来ではなしえなかった精度や条件での分析が可能となる。例えば、上記測定試料調製装置を用いずに濃縮液試料を調製しようとすると、従来では、加熱蒸発により濃縮していた。そのエネルギーおよび時間がこの種の分析に大きな負担となっていたが、本実施形態によればこのような問題が解決できる。また、フィルターによる吸引ろ過が考えられるが、これではろ過量が制限され、目詰まりも問題となる。ろ液試料水側にあるのは液中に溶解した被検物質にあたり、濃縮液側は浮遊固形物側に存在する被検物質にあたるとみることができ、この分析は貴重な環境情報を与える。本発明の測定試料調製装置によれば、上記のようなろ過に関連する問題も解決し、好適にろ液試料を調製することができる。すなわち、被検物質(放射性セシウム)を煩雑な操作を経ずにろ液とSS濃縮液の両者で分離して測定試料とし解析することができ、安価で効率的かつ安定した解析評価の可能性をもたらすものである。
なお、本発明において浮遊固形物(suspended solids[SS])とは、水中に浮遊する不溶解性物質等の総称であり、典型的には粒径2mm以下の不溶解成分を言う。
【0033】
<プルシアンブルー型金属錯体微粒子>
本発明において「プルシアンブルー型金属錯体」とは下記金属原子M
Aと金属原子M
Bの間をシアノ基(CN)が架橋してなる金属錯体と定義し、これをプルシアンブルー錯体類似体(PBA)ということがある。なお、プルシアンブルーと異なる結晶構造をとっていても、下記式(A)で表されるようにプルシアンブルーと同様の組成式で表され類似の結晶構造をもつ錯体は上記プルシアンブルー型金属錯体に含むものとする。
A
xM
A[M
B(CN)
6]
y・zH
2O・・・(A)
【0034】
Aは陽イオンである。陽イオンとしては、一価の陽イオンが好ましく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン等が挙げられる。
【0035】
xは0〜3の数であり、0〜2の数であることが好ましい。
【0036】
yは0.1〜1.5の数であり、0.3〜1.1の数であることが好ましく、0.3〜1の数であることがより好ましい。
【0037】
zは0〜30の数であり、0〜20の数であることがより好ましい。
【0038】
M
A,M
Bは金属原子である。
金属原子M
Aは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属である。金属原子M
Aとしては鉄、コバルト、ニッケル、バナジウム、銅、マンガン、クロム、もしくは亜鉛が好ましく、鉄、コバルト、銅、亜鉛、もしくはニッケルがより好ましい。
金属原子M
Aとして二種類以上を含む場合には、鉄と銅の組み合わせ、鉄とニッケルとの組み合わせ、鉄とコバルトとの組み合わせ、ニッケルとコバルトとの組み合わせが好ましく、鉄と銅との組み合わせ、鉄とニッケルとの組み合わせがより好ましい。また、M
Aが二種以上の金属原子の場合、それらは構造中で均一に混合していてもよく、また、プルシアンブルー型金属錯体が粒子状である場合、その中心にはある特定の金属が存在し、表面近傍に別の金属が存在するなどの偏りがあってもよい。
【0039】
金属原子M
Bは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。中でも金属原子M
Bとしては鉄、クロム、もしくはコバルトが好ましく、鉄が特に好ましい。
金属原子M
Bとして二種類以上を含む場合には、鉄とクロムとの組み合わせ、鉄とコバルトとの組み合わせ、クロムとコバルトとの組み合わせが好ましく、鉄とクロムとの組み合わせがより好ましい。
プルシアンブルー型金属錯体は微細な粒子状であってもよい。プルシアンブルー型金属錯体が粒子状であり、また、M
Bが二種以上の金属原子の場合、それらは粒子中で均一に混合していてもよく、また粒子の中心にはある特定の金属が存在し、表面近傍に別の金属が存在するなどの偏りがあってもよい。複数の異なる金属を含有する粒子、あるいは組成の異なる粒子を混合して用いてもよい。
上記プルシアンブルー型金属錯体の調製および特性等については、特開2012−006834、特開2011−200856、特開2006−256954、国際公開第2008/081923、国際公開第2009/157554、国際公開第2009/15755、国際公開第2008/081923号の各公報を広く参照することができる。
【0040】
前記式(A)の組成式で示される構造は、利用する金属シアノ錯体の主要な要素があればよい。複合体中において、30質量%以上がこの式の組成で構成されることが好ましく、50質量%以上がこの式の組成で構成されていることがより好ましい。また、プルシアンブルー型金属錯体の微粒子は、表面処理や改質、別の材料との複合化などがされていてもよい。あるいは、コア/シェル型の構造とされていてもよい。
【0041】
本発明において、プルシアンブルー微粒子の粒径は特に限定されないが、一次粒子が100nm以下であることが好ましく、70nm以下がより好ましく、30nm以下であることが特に好ましい。下限値は特にないが、3nm以上であることが実際的である。二次粒子の粒径も特に限定されないが、二次粒子の粒径としては100nm以下であることが望ましい。あるいは、大きな粒子が望まれる場合には、10μm〜1mmの間のものが好適に利用され、20μm〜200μmのものがより好ましい。
本発明においてプルシアンブルー微粒子の粒径は、その粒径の範囲や、測定試料の状態に応じてその測定方法が選定されればよい。一次粒子の粒径は、例えば、X線回折装置で測定することができる。二次粒子の粒径(体積径)は例えばLA−920(商品名 株式会社堀場製作所製)を用いて測定することができる。あるいは、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡などによって測定してもよい。
【0042】
プルシアンブルー型金属錯体微粒子を吸着剤(収着剤とも称する)として用いるとき、その形態は特に限定されない。微粒子のまま、前記測定容器内に収納してもよい。このときには、微粒子が流出しないように、測定容器の底部に流出防止材(メッシュフィルターや綿状のフィルターなど)を設けることが好ましい。あるいは、ゼオライトなどの担体に担持させて用いたり、不織布などに担持させたりしてもよい。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。
<参考例1>
フェロシアン化ナトリウム・10水和物を水に溶解した水溶液[反応液1]を準備した(濃度:0.24g/mL)。これとは別に、硝酸鉄・9水和物を水に溶解した水溶液[反応液2]を準備した(濃度0.54g/mL)。これらを攪拌下で混合し、プルシアンブルー(A
xFe[Fe(CN)
6]
y・zH
2O)のスラリーを得た。これを、乾燥し、粉末化したセシウム吸着剤の試料とした。
【0044】
前記プルシアンブルー微粒子を担持した吸着剤担持物を有する測定容器を、
図3に示す形態の筐体に各部材とともに収容し、試験用の回収器とした。当該回収器を装着し、
図1に示す構成の被検物質回収装置とした。この装置の諸元は下記のとおりであった。
装置の直径:55cm
装置の高さ:30cm
装置の重量:6000g
浮子体の材料:発泡スチロール
浮子体の直径:50cm
浮子体の厚さ:6cm
浮子体の密度:0.015g/cm
3
【0045】
前記被検物質回収装置を水田に浮遊させ、放射性セシウムの回収を行った。回収時間は5時間から10時間であった。5回(5日)に分けて回収を行い、回収された試料からゲルマニウム検出機で測定した放射線量を下表にまとめて示す。
【0046】
【表1】
ゲルマニウム検出器:セイコー・イージーアンド・ジー(株)社製
測定時間:9000秒
【0047】
上記の結果から分かるとおり、被検物質回収装置によれば、水田のような水深が浅く、底部に泥があるような環境でも、好適な被検物質の回収が可能である。また、連続して長時間の試料採取が可能なため、1度に試料水を汲み取る態様に比べ、よりその場所の環境状況に即した分析ができることがわかる。なお、同じ場所で採取した40Lの水を濃縮して同様の放射線量測定を行ったが、ろ紙サイズの小さいものでろ過した試料では検出限界を下回っていた。このことから、従来測定が困難であった領域の被検物質(放射性セシウム)の検出も可能になることが分かる。
【0048】
<参考例2>
参考例1と同じ被検物質回収装置を用いて、水田、池、水路の3箇所において被検物質の回収試験を行った。結果を下表2に示す。
【0049】
【表2】
ゲルマニウム検出器:セイコー・イージーアンド・ジー(株)社製
測定時間:1800秒
SS:SSカートリッジを用いて分析を行った結果。詳しくは、実施例1で用いた測定試料調整装置を用いて調整した濃縮液を用いて放射線量を測定した。
PB:参考例1の被検物質回収装置で回収したサンプルで測定した結果。
N.D.:検出不可
【0050】
この結果から様々な測定環境で本発明の測定装置は有用であることが分かる。なお、SSカートリッジを用いた結果と総合して、浮遊固形物(SS)とともに存在する被検物質(放射性セシウム)と、環境水に溶解している被検物質(放射性セシウム)の回収および測定が可能であり、多面的な環境評価が可能であることが分かる。
【0051】
<実施例1>
参考例1と同じ水田で、
図8に示した装置を用いて被検物質の回収と濃縮液の調製とを行った。クロスフローフィルターを構成するろ過膜としては、日本ガイシ社製 WC7C−103019−250AH[孔径1μm](商品名)を用いた。このとき、クロスフロー機構により濃縮液を取得し(濃縮液)、その後試料水の循環を中止し、系内に純水を供給して流路内部に残留した浮遊固形物(SS)を洗浄回収した(1次洗浄)。さらに、同様の純水による洗浄回収を行った(2次洗浄)。表3にそのときの浮遊固形物の量を示した。
【0052】
【表3】
【0053】
この結果から、クロスフロー機構による濃縮と、2度の系内の洗浄(リンス)により、浮遊固形物をほぼ取りこぼしなく回収できることが分かる。
【0054】
<実施例2>
さらに、実施例1で使用した測定試料調製装置を用い、参考例2で調査を行った池の水の濃縮回収をおこなった。回収した濃縮液をすべて2Lのマリネリ容器に移し、洗浄液や純水を用いて2Lまでメスアップして液体状の試料として、ゲルマニウム検出器により放射線量を測定した(SS)。一方、測定試料調製装置により濃縮処理と同時に回収される、ろ液側の被検物質の回収試料(回収器1)を用いて同様に放射線量を測定した(PB)。
【0055】
【表4】
ゲルマニウム検出器:セイコー・イージーアンド・ジー(株)社製
測定時間:濃縮液側試料…43200秒
回収器側試料…1800秒
【0056】
上記の結果より、本発明の測定試料調製装置によれば、加熱蒸発処理などと比し、簡便かつ効率的に放射線量の測定に適した試料を得ることができることが分かる。また、濃縮液(浮遊固形物側)とろ液(溶解分側)とに分けて被検物質を回収することができ、多面的な環境評価が可能となることが分かる。
【符号の説明】
【0057】
1、1A、1B 回収器
2 ポンプ
3 カートリッジフィルタ
4 浮子体
5 電池
6 フローメーター
8 側面カバー
9 上部透明カバー
10 被検物質回収装置
11、11x、11y 筐体上部
12、12x、12y 筐体下部
21、24 O型パッキン(シール材)
22 ガラス拡散板
23 測定容器(U−8容器)
25、26 ネジ
25a、26a、27 固定板
50 測定試料調製装置
51 タンク
52a、52b フローメーター
53 バッファタンク
54a、54b、54c ポンプ
55 クロスフローフィルター
56a、56b、56c、56d 弁
57 容器
81 給水ゲート
82 排水ゲート
90 拡散板