特許第6373285号(P6373285)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6373285
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】超電導コイル
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/06 20060101AFI20180806BHJP
   H01B 12/06 20060101ALN20180806BHJP
【FI】
   H01F6/06 120
   !H01B12/06ZAA
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-560945(P2015-560945)
(86)(22)【出願日】2015年1月28日
(86)【国際出願番号】JP2015052332
(87)【国際公開番号】WO2015119013
(87)【国際公開日】20150813
【審査請求日】2017年11月14日
(31)【優先権主張番号】特願2014-19989(P2014-19989)
(32)【優先日】2014年2月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】古川 真
【審査官】 五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−219106(JP,A)
【文献】 特開2014−22693(JP,A)
【文献】 特開2015−12199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/06
H01B 12/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸回りに巻きつけられた超電導線材を備える超電導コイルにおいて、
径方向に隣接する超電導線材間であって、前記超電導コイルの軸方向における両端に離形材層を有し、
径方向に隣接する超電導線材間であって、前記離形材層が形成される領域以外の領域に樹脂層を有することを特徴とする超電導コイル。
【請求項2】
前記離形材層の前記軸方向の長さは、前記超電導線材の前記軸方向の長さに対して10%〜50%であることを特徴とする請求項1に記載の超電導コイル。
【請求項3】
前記離形材層の前記軸方向の長さは、コイルの径方向において内側から外側に向かうにつれて短くなることを特徴とする請求項1又は2に記載の超電導コイル。
【請求項4】
前記離形材層は、シアノアクリレート系接着剤、パラフィン、フッ素系樹脂、グリース、シリコーンオイルのうち少なくとも1つであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の超電導コイル。
【請求項5】
前記離形材層は、粘着層を有する樹脂テープであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の超電導コイル。
【請求項6】
前記樹脂層は、熱硬化性合成樹脂であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の超電導コイル。
【請求項7】
前記熱硬化性合成樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂のうち少なくとも1つであることを特徴とする請求項6に記載の超電導コイル。
【請求項8】
前記樹脂層は、前記熱硬化性合成樹脂の含浸によって形成されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の超電導コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
超電導コイル全体を固定して強度を高めると共に、超電導コイルの熱効率の低下を防止するため、超電導コイルを樹脂等で含浸することが知られている。
含浸は、例えば、エポキシ樹脂のような含浸材料と架橋剤との混合液に超電導コイルを浸し、その後、真空吸引することにより、超電導コイルを形成する線材間にこれらの混合液を行き渡らせ、混合液を硬化させることにより行われる。ところが、エポキシ樹脂を含浸させた超電導コイルにおいては、冷却した際に、線材の層間で剥離が生じ、臨界電流の低下を招いてしまう。また、エポキシ樹脂に代えて、パラフィンを含浸材料として用いることも考えられるが、線材とパラフィンの間やパラフィン層内で剥離が生じ、コイルの熱効率が低下してしまう。
【0003】
そこで、含浸材料として、瞬間接着剤を用いることにより、熱応力による線材の剥離をなくして性能の低下を防止できる超電導コイルが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、他の例として、テープ状のコイル線材と絶縁材を巻回して構成し、テープ状の絶縁材の面内における幅方向両端部を除く部分に離形処理を施した超電導コイルが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
また、他の例として、隣接する超電導線材間に存在する絶縁材層の側面全域に離形材層を形成した超電導コイルが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−55265号公報
【特許文献2】特開2010−267822号公報
【特許文献3】特開2011−198469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、超電導コイルにおいては、含浸後の冷却時に含浸材料と超電導線材との熱収縮率の差に起因して超電導線材の内部に剥離力(超電導線材の厚さ方向に作用する応力)が発生する。この剥離力は、超電導コイルの軸方向両端部に位置する超電導線材に特に大きく作用するため、この両端部とそれ以外の領域とで剥離力に大きな差がある。
従って、コイルの軸方向端部においては、超電導線材よりも含浸材料の方が剥離しやすくなるようにすると共に、それ以外の領域ではコイル全体を強固にするため、含浸材料が容易に剥離しないようにすることが必要である。
しかし、特許文献1においては、単に、1種類の瞬間接着剤を用いているにすぎないため、上記の問題を解決することができない。
また、特許文献2においては、離形処理を絶縁テープの幅方向端部を除く領域に施しているため、上記の問題を解決することができない。
また、特許文献3においては、絶縁材層の側面全域に離形材層を形成しているため、上記の問題を解決することができない。
従って、上記のような従来技術では、コイルの軸方向両端部における超電導線材の剥離を防止すると共に、超電導コイル全体の強固な固定及び熱効率の低下の防止を実現することは困難である。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、コイルの軸方向両端部における超電導線材の剥離を防止すると共に、超電導コイル全体の強固な固定及び熱効率の低下の防止を実現することができる超電導コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は、軸回りに巻きつけられた超電導線材を備える超電導コイルにおいて、径方向に隣接する超電導線材間であって、前記超電導コイルの軸方向における両端に離形材層を有し、径方向に隣接する超電導線材間であって、前記離形材層が形成される領域以外の領域に樹脂層を有することを特徴とする。
【0008】
この発明の一態様として、前記離形材層の前記軸方向の長さは、前記超電導線材の前記軸方向の長さに対して10%〜50%であることが好ましい。
【0009】
この発明の一態様として、前記離形材層の前記軸方向の長さは、コイルの径方向において内側から外側に向かうにつれて短くなることが好ましい。
【0010】
この発明の一態様として、前記離形材層は、シアノアクリレート系接着剤、パラフィン、フッ素系樹脂、グリース、シリコーンオイルのうち少なくとも1つであることが好ましい。
【0011】
この発明の一態様として、前記離形材層は、粘着層を有する樹脂テープであることが好ましい。
【0012】
この発明の一態様として、前記樹脂層は、熱硬化性合成樹脂であることが好ましい。
【0013】
この発明の一態様として、前記熱硬化性合成樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂のうち少なくとも1つであることが好ましい。
【0014】
この発明の一態様として、前記樹脂層は、前記熱硬化性合成樹脂の含浸によって形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コイルの軸方向両端部における超電導線材の剥離を防止すると共に、超電導コイル全体の強固な固定及び熱効率の低下の防止を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】超電導コイルの一部の断面図である。
図2】(a)は超電導コイルの径方向における超電導線材の剥離強度よりも大きな力がかかる領域を示す概略図であり、(b)は超電導コイルの径方向における断面の変化を説明する概略図である。
図3】超電導線材の剥離強度とコイル軸方向の長さに対する一端部の離形材層の長さの割合を示したグラフである。
図4】一層のコイルで構成された超電導コイル(シングルパンケーキ構造)の一部の断面図である。
図5】実施例1における超電導コイルの一部の断面図である。
図6】実施例2における超電導コイルの一部の断面図である。
図7】実施例3における超電導コイルの一部の断面図である。
図8】実施例4における超電導コイルの一部の断面図である。
図9】比較例1における超電導コイルの一部の断面図である。
図10】比較例2における超電導コイルの一部の断面図である。
図11】比較例3における超電導コイルの一部の断面図である。
図12】比較例4における超電導コイルの一部の断面図である。
図13】比較例5における超電導コイルの一部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の好ましい実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す実施形態は一つの例示であり、本発明の範囲において、種々の実施形態をとり得る。
【0018】
<超電導コイル>
図1図2に示すように、超電導コイル100は、いわゆるダブルパンケーキコイルと呼ばれるコイルであり、仕切り板50によって仕切られた二層のコイル10,20が各コイル10,20の軸方向に積み重ねられるように構成された超電導コイルである。
超電導コイル100は、複数層からなるテープ状の超電導線材1が円筒状の芯材2に軸回りに巻回されており、隣接する超電導線材1の間に離形材層3及び樹脂層4が形成されている。超電導コイル100は、超電導線材1をFRP等から形成された芯材2に巻きつけ、超電導線材1の芯材2への巻きつけ工程の際又は巻きつけ工程の後に、隣接する超電導線材1間に離形材層3と、樹脂層4とを形成することによって作られる。
超電導線材1は、テープ状の超電導線材であり、例えば、金属基板に中間層を介してイットリウム系の超電導層を積層し、この超電導層に銀等の保護層を積層したものである。
【0019】
(離形材層)
離形材層3は、芯材2に巻きつけられた隣接する超電導線材1間に形成される。離形材層3は、巻きつけられた超電導線材1の軸方向の各端部からそれぞれの端部に対して逆の端部に向けて所定の長さだけ形成される。具体的には、離形材層3の一端部のコイル軸方向の長さは、超電導線材1の軸方向の長さに対して5〜25%、すなわち、両端部の合計で10〜50%の範囲内であることが好ましい。
図3は、縦軸にコイル軸方向の長さに対する片側の離形材層3の長さの割合をとり、横軸に超電導線材1の剥離強度をとって描いたグラフである。より具体的には、超電導線材1が全てエポキシ樹脂で含浸されている状態で、コイル径方向(剥離方向)の応力を解析したものであり、縦軸については、横軸の剥離強度以上の応力が生じる長さと線材の長さ(6mm)との割合を算出したものである。横軸の剥離強度以上の応力が発生する領域には離形材を用いるということで、上記の値が離形材の割合である。超電導線材1のコイル軸方向の長さに対する離形材層3の軸方向の長さの割合は、図3に示すように、超電導線材1の剥離強度によって変えるべきものである。
ここで、剥離強度とは、熱収縮によって超電導線材1自身に作用する応力(剥離力)によって超電導線材1が壊れ始める(超電導線材1を形成する層の剥離等の損傷が生じ始める)境界となる応力値をいう。すなわち、剥離強度が10MPaの超電導線材1とは、超電導線材1自身に10MPa以上の応力が作用した際に壊れるような超電導線材1をいう。
なお、図3の超電導線材1のコイル軸方向の長さに対する離形材層3の軸方向の長さの割合は、超電導線材1の剥離強度が4〜20MPaである場合に有効である。
【0020】
図3に示すように、超電導線材1の剥離強度が3MPa以下の超電導線材1を用いてコイルを作製する場合、線材全体に3MPa以上の応力(剥離力)がかかるため、全てを離形材層3で含浸する必要がある。仮に、一部にでも離形材層3に代えてエポキシ樹脂の樹脂層4を形成すると、超電導線材1が剥離し、超電導線材1に流せる電流の限界値である臨界電流値Icが低下する。
また、超電導線材1の剥離強度が10MPa程度の超電導線材1を用いてコイルを作製する場合、コイルの軸方向の長さに対する超電導線材1の軸方向の長さが両端部合わせて20%程度(片側10%程度)は離形材層3を形成することが望ましい。
また、超電導線材1の剥離強度が20MPa程度の超電導線材1を用いてコイルを作製する場合、コイルの軸方向の長さに対する超電導線材1の軸方向の長さが両端部合わせて10%程度(片側5%程度)は離形材層3を形成することが望ましい。
また、超電導線材1の剥離強度が30MPa程度の超電導線材1を用いてコイルを作製する場合、超電導線材1の剥離強度がかなり大きいため、コイルの軸方向の長さのほぼ全域をエポキシ樹脂の樹脂層4で形成しても超電導線材1の剥離は生じないと考えられる。
従って、隣接する超電導線材1間において、離形材層3が形成される領域は、超電導線材1の積層方向に作用する応力が超電導線材1の剥離強度を超えている領域に該当する。
離形材層3は、超電導線材1の剥離強度より小さい剥離強度を有する材料から形成される。離形材層3は、例えば、シアノアクリレート系接着剤、パラフィンのうち少なくとも1つであることが好ましい。
また、図2(a)に示すように、超電導コイル100の芯材2に近い内側の端部の方が外側の端部に比べて超電導線材1にかかる剥離力が大きいため、図2(b)に示すように、離形材層3は、超電導コイル100の径方向に沿って内側から外側に向かうにつれて、離形材層3のコイルの軸方向長さが徐々に短くなっている(図2(b)におけるコイル内側のA断面からコイル外側のC断面までを参照)。
【0021】
(樹脂層)
樹脂層4は、隣接する超電導線材1間において、離形材層3が形成される領域以外の領域に形成されている。樹脂層4は、冷却時に樹脂と超電導線材1との熱収縮率の差に起因する応力がかかったとしても、剥離しない樹脂材料から形成される。
樹脂層4は、例えば、熱硬化性合成樹脂であり、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂のうち少なくとも1つであることが好ましい。樹脂層4は、芯材2の外周と超電導線材1の側面に、液体の熱硬化性樹脂を塗布して硬化させることで形成し、その後、離形材層3は離形材(例えばパラフィン)を樹脂層4が形成されていない部分を含浸するように形成する。この含浸によって、離形材層3は、超電導線材1の間だけでなく、超電導線材1の表面全体にわたって形成される。
【0022】
以上のように、上記の構成を有する超電導コイル100によれば、超電導コイル100の径方向に隣接する超電導線材1間であって、超電導コイル100の軸方向における両端部に離形材層3を形成し、離形材層3が形成される領域以外の領域に樹脂層4を形成したので、コイル全体の強度を樹脂層4によって維持しつつ、大きな熱応力が作用する箇所だけ離形材層3を形成することで、コイルの冷却効率を向上させることができる。そして、コイルの冷却効率の向上により、クエンチによってコイルが焼損する可能性も低くなり、コイルの動作を安定させることができる。
また、コイルの径方向内側から外側に向かうにつれて超電導線材1の両端部に作用する剥離力も小さくなるので、コイルの径方向内側から外側に向かうにつれて離形材層3の割合を減らしていくと、コイルをより多くの樹脂層4で含浸することができるので、コイルの強度向上に好適である。
なお、上記の実施形態においては、ダブルパンケーキコイルの構造を有する超電導コイルを例に挙げて説明したが、いわゆるシングルパンケーキと呼ばれる構造を有する超電導コイルにおいては、図4に示すように、超電導線材1の両端部にそれぞれ離形材層3を形成すればよい。
【実施例】
【0023】
以下、実施例について説明する。
(実施例1)
図5に示すように、超電導線材11(スーパーパワー社:幅6mm、厚さ0.1mm、臨界電流値Ic170A)が巻かれたリールを巻き線機の回転部に設置し、超電導線材11の端を巻き取る内筒(菱電化成:G10(FRP製)、内側半径58mm、外側半径60mm)に固定する。
次に、超電導線材11に1kgfのテンションをかけ、超電導線材11をコイル状(コイル内側半径58mm、コイル外側半径130mm、シングルパンケーキ型)に巻き取った。
超電導線材11をコイル状に巻き取るときに、リールから巻き取る内筒の間に張られた超電導線材11に、超電導線材11におけるコイルの軸方向両端部からコイルの軸方向の長さに対してそれぞれ15%ずつ残して液状のエポキシ樹脂を塗りながら巻くことで、コイルの軸方向両端部を除いたコイルの軸方向の長さの70%をエポキシ樹脂で含浸し、樹脂層41を形成した。エポキシ樹脂はECCOSEAL W−19M2を使用した。
超電導線材11の中心部をエポキシ樹脂で含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることでエポキシ樹脂を硬化させた。
このコイルを真空装置に入れ、前工程で含浸しなかった超電導線材11の端部を離形材で真空含浸させ離形材層31を形成した。離形材は日本精鑞株式会社のParaffin Wax−135を用いた。
真空含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることで離形材を硬化させた。
このコイルをクライオスタットに入れ、30Kで50Wの吸熱能力を有する伝導冷却機を使用した伝導冷却によって冷却し、通電した。
【0024】
評価は、表1に示すように、以下の3点の評価項目に基づいて行った。
(1)臨界電流値Ic
コイルへ通電した際のコイルの臨界電流値Icを測定した。表1に示すように、コイルの臨界電流値Icが170A以上を非常に良い(A)、130A以上170A未満を良い(B)、100A以上130A未満を悪い(C)、100A未満を非常に悪い(D)として評価した。
(2)超電導線材の損傷
コイルを30Kまで冷却した後、再度、常温に戻した後、コイルを形成している超電導線材を観察した。表1に示すように、超電導線材の剥離がない場合を非常に良い(A)、超電導線材のコイル軸方向の端部の剥離が1mm以下の場合を良い(B)、超電導線材のコイル軸方向の端部の剥離が1mmよりも大きく2mm以下の場合を悪い(C)、超電導線材のコイル軸方向の端部の剥離が2mmよりも大きい場合を非常に悪い(D)として評価した。
(3)コイルの温度
コイルの外周に設けられた電極における温度を計測し、コイル温度とした。表1に示すように、コイルの温度が30K以下の場合を非常に良い(A)、30Kよりも高く35K以下の場合を良い(B)、35Kよりも高く40K以下の場合を悪い(C)、40Kよりも高い場合を非常に悪い(D)として評価した。
これらの評価項目に基づく結果を表2に示す。
その結果、臨界電流値Icは170Aとなり、臨界電流値Icの低下は見られず、評価はAとなった。また、コイルをクライオスタットから取り出し常温で確認したところ、離形材層31は砕けていたがエポキシ樹脂(樹脂層41)と超電導線材11の損傷は見られず、評価はAとなった。また、コイルは30Kまで冷却され、評価はAとなった。
【0025】
(実施例2)
実施例2においては、実施例1と比べて樹脂層の割合を増やした。それ以外の超電導線材、超電導線材の巻き取り条件は実施例1と同じである。
具体的には、図6に示すように、超電導線材12をコイル状に巻き取るときに、リールから巻き取る内筒の間に張られた超電導線材12に、超電導線材12におけるコイルの軸方向両端部からコイルの軸方向の長さに対してそれぞれ5%ずつ残して液状のエポキシ樹脂を塗りながら巻くことで、コイルの軸方向両端部を除いたコイルの軸方向の長さの90%をエポキシ樹脂で含浸し、樹脂層42を形成した。エポキシ樹脂はECCOSEAL W−19M2を使用した。
超電導線材12の中心部をエポキシ樹脂で含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることでエポキシ樹脂を硬化させた。
このコイルを真空装置に入れ、前工程で含浸しなかった超電導線材12の端部を離形材で真空含浸させ離形材層32を形成した。離形材は日本精鑞株式会社のParaffin Wax−135を用いた。
真空含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることで離形材を硬化させた。
このコイルをクライオスタットに入れ、30Kで50Wの吸熱能力を有する伝導冷却機を使用した伝導冷却によって冷却し、通電した。
評価は、実施例1と同様に行った。評価項目に基づく結果を表2に示す。
その結果、臨界電流値Icは165Aとなり、臨界電流値Icの低下が見られ、評価はBとなった。また、コイルをクライオスタットから取り出し常温で確認したところ、超電導線材12の上部でエポキシ樹脂(樹脂層42)と超電導線材12が幅0.3mmにわたって剥離しており、破損が見られ、評価はBとなった。また、コイルは29Kまで冷却され、評価はAとなった。
【0026】
(実施例3)
実施例3においては、実施例1と比べて樹脂層の割合を減らした。それ以外の超電導線材、超電導線材の巻き取り条件は実施例1と同じである。
具体的には、図7に示すように、超電導線材13をコイル状に巻き取るときに、リールから巻き取る内筒の間に張られた超電導線材13に、超電導線材13におけるコイルの軸方向両端部からコイルの軸方向の長さに対してそれぞれ25%ずつ残して液状のエポキシ樹脂を塗りながら巻くことで、コイルの軸方向両端部を除いたコイルの軸方向の長さの50%をエポキシ樹脂で含浸し、樹脂層43を形成した。エポキシ樹脂はECCOSEAL W−19M2を使用した。
超電導線材13の中心部をエポキシ含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることでエポキシ樹脂を硬化させた。
このコイルを真空装置に入れ、前工程で含浸しなかった超電導線材13の端部を離形材で真空含浸させ、離形材層33を形成した。離形材は日本精鑞株式会社のParaffin Wax−135を用いた。
真空含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることで離形材を硬化させた。
このコイルをクライオスタットに入れ、30Kで50Wの吸熱能力を有する伝導冷却機を使用した伝導冷却によって冷却し、通電した。
評価は、実施例1と同様に行った。評価項目に基づく結果を表2に示す。
その結果、臨界電流値Icは160Aとなり、臨界電流値Icの低下が見られ、評価はBとなった。また、コイルをクライオスタットから取り出し常温で確認したところ、超電導線材13の上部でエポキシ樹脂(樹脂層43)と超電導線材13が幅0.3mmにわたって剥離しており、破損が見られ、評価はBとなった。また、コイルは33Kまで冷却され、評価はBとなった。
【0027】
(実施例4)
実施例1〜3においては、離形材が液体状であり、コイルを液体状の離形材に含浸していたが、実施例4では粘着層を有するフッ素樹脂テープを用いてコイルを製作した。離形材以外は実施例1と同じものを用いている。
具体的には、図8に示すように、超電導線材14が巻かれたリールを巻き線機の回転部に設置し、超電導線材14の端を巻き取る内筒に固定する。次に、超電導線材14に1kgfのテンションをかけ、超電導線材14とフッ素樹脂テープ34をコイル状に共巻きを行った。フッ素樹脂テープ34の共巻きは、超電導線材14におけるコイルの軸方向両端部からコイルの軸方向の長さに対して15%となる領域のみに行った。
このコイルを真空装置に入れ、エポキシ樹脂で真空含浸を行い、残りの部分に樹脂層44を形成した。含浸容器から取り出したコイルを常温化で16時間以上経過させることでエポキシ樹脂を硬化させた。
このコイルをクライオスタットに入れ、30Kで50Wの吸熱能力を有する伝導冷却機を使用した伝導冷却によって冷却し、通電した。
評価は、実施例1と同様に行った。評価項目に基づく結果を表2に示す。
その結果、臨界電流値Icは170Aとなり、臨界電流値Icの低下は見られず、評価はAとなった。また、コイルをクライオスタットから取り出し常温で確認したところ、超電導線材14の上部で、フッ素樹脂テープ34は砕けていたが、エポキシ樹脂(樹脂層44)と超電導線材14の損傷は見られず、評価はAとなった。また、コイルは30Kまで冷却され、評価はAとなった。
【0028】
(比較例1)
比較例1として、エポキシ樹脂のみで含浸を行った。すなわち、超電導線材間に樹脂層のみを形成し、離形材層を形成しなかった。それ以外の超電導線材、超電導線材の巻き取り条件は実施例1と同じである。
具体的には、図9に示すように、超電導線材15をコイル状に巻き取るときに、リールから巻き取る内筒の間に張られた超電導線材15に液状のエポキシ樹脂を十分な量浸しながら巻くことで、コイル全体をエポキシで含浸し、樹脂層45を形成した。エポキシ樹脂はECCOSEAL W−19M2を使用した。
エポキシ樹脂で含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることでエポキシ樹脂を硬化させた。このコイルをクライオスタットに入れ、30Kで50Wの吸熱能力を有する伝導冷却機を使用した伝導冷却によって冷却し、通電した。
評価は、実施例1と同様に行った。評価項目に基づく結果を表3に示す。
その結果、臨界電流値Icは95Aとなり、臨界電流値Icが大幅に低下し、評価はDとなった。また、コイルをクライオスタットから取り出し常温で確認したところ、超電導線材15の上部でエポキシ樹脂(樹脂層45)と超電導線材15が幅2mmにわたって剥離しており、破損が見られ、評価はCとなった。また、コイルは28Kまで冷却され、評価はAとなった。
【0029】
(比較例2)
比較例2においては、実施例1、2と比べて、さらに樹脂層の割合を増やした。それ以外の超電導線材、超電導線材の巻き取り条件は実施例1と同じである。
具体的には、図10に示すように、超電導線材16をコイル状に巻き取るときに、リールから巻き取る内筒の間に張られた超電導線材16に、超電導線材16におけるコイルの軸方向両端部からコイルの軸方向の長さに対してそれぞれ2.5%ずつ残して液状のエポキシ樹脂を塗りながら巻くことで、コイルの軸方向両端部を除いたコイルの軸方向の長さの95%をエポキシ樹脂で含浸し、樹脂層46を形成した。エポキシ樹脂はECCOSEAL W−19M2を使用した。
超電導線材16の中心部をエポキシ含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることでエポキシ樹脂を硬化させた。
このコイルを真空装置に入れ、前工程で含浸しなかった超電導線材16の端部を離形材で真空含浸させ、離形材層36を形成した。離形材は日本精鑞株式会社のParaffin Wax−135を用いた。
真空含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることで離形材を硬化させた。
このコイルをクライオスタットに入れ、30Kで50Wの吸熱能力を有する伝導冷却機を使用した伝導冷却によって冷却し、通電した。
評価は、実施例1と同様に行った。評価項目に基づく結果を表3に示す。
その結果、臨界電流値Icは110Aとなり、臨界電流値Icの低下が見られ、評価はCとなった。また、コイルをクライオスタットから取り出し常温で確認したところ、超電導線材16の上部でエポキシ樹脂(樹脂層46)と超電導線材16が幅1.5mmにわたって剥離しており、破損が見られ、評価はCとなった。また、コイルは28Kまで冷却され、評価はAとなった。
【0030】
(比較例3)
比較例3においては、実施例1、3と比べて樹脂層の割合を減らした。それ以外の超電導線材、超電導線材の巻き取り条件は実施例1と同じである。
具体的には、図11に示すように、超電導線材17をコイル状に巻き取るときに、リールから巻き取る内筒の間に張られた超電導線材17に、超電導線材17におけるコイルの軸方向両端部からコイルの軸方向の長さに対してそれぞれ35%ずつ残して液状のエポキシ樹脂を塗りながら巻くことで、コイルの軸方向両端部を除いたコイルの軸方向の長さの30%をエポキシ樹脂で含浸し、樹脂層47を形成した。エポキシ樹脂はECCOSEAL W−19M2を使用した。
超電導線材17の中心部をエポキシ含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることでエポキシ樹脂を硬化させた。
このコイルを真空装置に入れ、前工程で含浸しなかった超電導線材17の端部を離形材で真空含浸させ、離形材層37を形成した。離形材は日本精鑞株式会社のParaffin Wax−135を用いた。
真空含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることで離形材を硬化させた。
このコイルをクライオスタットに入れ、30Kで50Wの吸熱能力を有する伝導冷却機を使用した伝導冷却によって冷却し、通電した。
評価は、実施例1と同様に行った。評価項目に基づく結果を表3に示す。
その結果、臨界電流値Icは155Aとなり、臨界電流値Icの低下が見られ、評価はBとなった。また、コイルをクライオスタットから取り出し常温で確認したところ、超電導線材17の上部でエポキシ樹脂(樹脂層47)と超電導線材17が幅0.3mmにわたって剥離しており、破損が見られ、評価はBとなった。また、コイルは36Kまでしか冷却されず、評価はCとなった。
【0031】
(比較例4)
比較例4においては、実施例1、3と比べて樹脂層の割合を減らした。それ以外の超電導線材、超電導線材の巻き取り条件は実施例1と同じである。
具体的には、図12に示すように、超電導線材18をコイル状に巻き取るときに、リールから巻き取る内筒の間に張られた超電導線材18に、超電導線材18におけるコイルの軸方向両端部からコイルの軸方向の長さに対してそれぞれ45%ずつ残して液状のエポキシ樹脂を塗りながら巻くことで、コイルの軸方向両端部を除いたコイルの軸方向の長さの10%をエポキシ樹脂で含浸し、樹脂層48を形成した。エポキシ樹脂はECCOSEAL W−19M2を使用した。
超電導線材18の中心部をエポキシ含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることでエポキシ樹脂を硬化させた。
このコイルを真空装置に入れ、前工程で含浸しなかった超電導線材18の端部を離形材で真空含浸させ、離形材層38を形成した。離形材は日本精鑞株式会社のParaffin Wax−135を用いた。
真空含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることで離形材を硬化させた。
このコイルをクライオスタットに入れ、30Kで50Wの吸熱能力を有する伝導冷却機を使用した伝導冷却によって冷却し、通電した。
評価は、実施例1と同様に行った。評価項目に基づく結果を表2に示す。
その結果、臨界電流値Icは152Aとなり、臨界電流値Icの低下が見られ、評価はBとなった。また、コイルをクライオスタットから取り出し常温で確認したところ、離形材層38は砕けていたがエポキシ樹脂(樹脂層48)と超電導線材18の損傷は見られず、評価はAとなった。また、コイルは50Kまでしか冷却されず、評価はDとなった。
【0032】
(比較例5)
比較例5として、パラフィンのみで含浸を行った。すなわち、超電導線材間に離形材層39のみを形成し、樹脂層を形成しなかった。それ以外の超電導線材、超電導線材の巻き取り条件は実施例1と同じである。
具体的には、図13に示すように、巻き取ったコイルを巻き線機から取り外し、真空含浸装置に入れる。120℃まで温めて液状にした離形材を用いコイル全体を真空含浸した。離形材は日本精鑞株式会社のParaffin Wax−135を使用した。
離形材で含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることで離形材を硬化させた。
このコイルをクライオスタットに入れ、30Kで50Wの吸熱能力を有する伝導冷却機を使用した伝導冷却によって冷却し、通電した。
評価は、実施例1と同様に行った。評価項目に基づく結果を表3に示す。
その結果、臨界電流値Icは150Aとなり、大幅に臨界電流値Icが低下し、評価はBとなった。また、コイルをクライオスタットから取り出し常温で確認したところ、離形材層39は砕けていたが超電導線材19の損傷は見られず、評価はAとなった。また、コイルは41Kまでしか冷却されず、評価はDとなった。これは、クラックの発生により、コイルの冷却効率が低下したためだと考えられる。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
(評価結果)
表1〜表3に示すように、超電導線材の間に樹脂層と離形材層とを形成することにより、樹脂層又は離形材層だけを形成する場合に比べて、より優れた超電導コイルを作製することができる。また、超電導線材の剥離強度に応じて離形材層と樹脂層との割合を調節することで臨界電流値Icを低下させることもなく、超電導線材を剥離させることもなく、冷却効率に優れた超電導コイルを作製することができることが明らかとなった。また、離形材層の割合が多いほど、臨界電流の評価と超電導線材の損傷の評価は良くなるが、コイルの温度の評価は悪くなることがわかった。しかし、離形材層の割合が多すぎると、コイルの温度の評価が悪くなり、超電導線材の損傷がなくても臨界電流の評価は少し悪くなってしまうことがわかった。
【符号の説明】
【0037】
1 超電導線材
2 芯材
3 離形材層
4 樹脂層
100 超電導コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図13