【実施例】
【0023】
以下、実施例について説明する。
(実施例1)
図5に示すように、超電導線材11(スーパーパワー社:幅6mm、厚さ0.1mm、臨界電流値Ic170A)が巻かれたリールを巻き線機の回転部に設置し、超電導線材11の端を巻き取る内筒(菱電化成:G10(FRP製)、内側半径58mm、外側半径60mm)に固定する。
次に、超電導線材11に1kgfのテンションをかけ、超電導線材11をコイル状(コイル内側半径58mm、コイル外側半径130mm、シングルパンケーキ型)に巻き取った。
超電導線材11をコイル状に巻き取るときに、リールから巻き取る内筒の間に張られた超電導線材11に、超電導線材11におけるコイルの軸方向両端部からコイルの軸方向の長さに対してそれぞれ15%ずつ残して液状のエポキシ樹脂を塗りながら巻くことで、コイルの軸方向両端部を除いたコイルの軸方向の長さの70%をエポキシ樹脂で含浸し、樹脂層41を形成した。エポキシ樹脂はECCOSEAL W−19M2を使用した。
超電導線材11の中心部をエポキシ樹脂で含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることでエポキシ樹脂を硬化させた。
このコイルを真空装置に入れ、前工程で含浸しなかった超電導線材11の端部を離形材で真空含浸させ離形材層31を形成した。離形材は日本精鑞株式会社のParaffin Wax−135を用いた。
真空含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることで離形材を硬化させた。
このコイルをクライオスタットに入れ、30Kで50Wの吸熱能力を有する伝導冷却機を使用した伝導冷却によって冷却し、通電した。
【0024】
評価は、表1に示すように、以下の3点の評価項目に基づいて行った。
(1)臨界電流値Ic
コイルへ通電した際のコイルの臨界電流値Icを測定した。表1に示すように、コイルの臨界電流値Icが170A以上を非常に良い(A)、130A以上170A未満を良い(B)、100A以上130A未満を悪い(C)、100A未満を非常に悪い(D)として評価した。
(2)超電導線材の損傷
コイルを30Kまで冷却した後、再度、常温に戻した後、コイルを形成している超電導線材を観察した。表1に示すように、超電導線材の剥離がない場合を非常に良い(A)、超電導線材のコイル軸方向の端部の剥離が1mm以下の場合を良い(B)、超電導線材のコイル軸方向の端部の剥離が1mmよりも大きく2mm以下の場合を悪い(C)、超電導線材のコイル軸方向の端部の剥離が2mmよりも大きい場合を非常に悪い(D)として評価した。
(3)コイルの温度
コイルの外周に設けられた電極における温度を計測し、コイル温度とした。表1に示すように、コイルの温度が30K以下の場合を非常に良い(A)、30Kよりも高く35K以下の場合を良い(B)、35Kよりも高く40K以下の場合を悪い(C)、40Kよりも高い場合を非常に悪い(D)として評価した。
これらの評価項目に基づく結果を表2に示す。
その結果、臨界電流値Icは170Aとなり、臨界電流値Icの低下は見られず、評価はAとなった。また、コイルをクライオスタットから取り出し常温で確認したところ、離形材層31は砕けていたがエポキシ樹脂(樹脂層41)と超電導線材11の損傷は見られず、評価はAとなった。また、コイルは30Kまで冷却され、評価はAとなった。
【0025】
(実施例2)
実施例2においては、実施例1と比べて樹脂層の割合を増やした。それ以外の超電導線材、超電導線材の巻き取り条件は実施例1と同じである。
具体的には、
図6に示すように、超電導線材12をコイル状に巻き取るときに、リールから巻き取る内筒の間に張られた超電導線材12に、超電導線材12におけるコイルの軸方向両端部からコイルの軸方向の長さに対してそれぞれ5%ずつ残して液状のエポキシ樹脂を塗りながら巻くことで、コイルの軸方向両端部を除いたコイルの軸方向の長さの90%をエポキシ樹脂で含浸し、樹脂層42を形成した。エポキシ樹脂はECCOSEAL W−19M2を使用した。
超電導線材12の中心部をエポキシ樹脂で含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることでエポキシ樹脂を硬化させた。
このコイルを真空装置に入れ、前工程で含浸しなかった超電導線材12の端部を離形材で真空含浸させ離形材層32を形成した。離形材は日本精鑞株式会社のParaffin Wax−135を用いた。
真空含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることで離形材を硬化させた。
このコイルをクライオスタットに入れ、30Kで50Wの吸熱能力を有する伝導冷却機を使用した伝導冷却によって冷却し、通電した。
評価は、実施例1と同様に行った。評価項目に基づく結果を表2に示す。
その結果、臨界電流値Icは165Aとなり、臨界電流値Icの低下が見られ、評価はBとなった。また、コイルをクライオスタットから取り出し常温で確認したところ、超電導線材12の上部でエポキシ樹脂(樹脂層42)と超電導線材12が幅0.3mmにわたって剥離しており、破損が見られ、評価はBとなった。また、コイルは29Kまで冷却され、評価はAとなった。
【0026】
(実施例3)
実施例3においては、実施例1と比べて樹脂層の割合を減らした。それ以外の超電導線材、超電導線材の巻き取り条件は実施例1と同じである。
具体的には、
図7に示すように、超電導線材13をコイル状に巻き取るときに、リールから巻き取る内筒の間に張られた超電導線材13に、超電導線材13におけるコイルの軸方向両端部からコイルの軸方向の長さに対してそれぞれ25%ずつ残して液状のエポキシ樹脂を塗りながら巻くことで、コイルの軸方向両端部を除いたコイルの軸方向の長さの50%をエポキシ樹脂で含浸し、樹脂層43を形成した。エポキシ樹脂はECCOSEAL W−19M2を使用した。
超電導線材13の中心部をエポキシ含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることでエポキシ樹脂を硬化させた。
このコイルを真空装置に入れ、前工程で含浸しなかった超電導線材13の端部を離形材で真空含浸させ、離形材層33を形成した。離形材は日本精鑞株式会社のParaffin Wax−135を用いた。
真空含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることで離形材を硬化させた。
このコイルをクライオスタットに入れ、30Kで50Wの吸熱能力を有する伝導冷却機を使用した伝導冷却によって冷却し、通電した。
評価は、実施例1と同様に行った。評価項目に基づく結果を表2に示す。
その結果、臨界電流値Icは160Aとなり、臨界電流値Icの低下が見られ、評価はBとなった。また、コイルをクライオスタットから取り出し常温で確認したところ、超電導線材13の上部でエポキシ樹脂(樹脂層43)と超電導線材13が幅0.3mmにわたって剥離しており、破損が見られ、評価はBとなった。また、コイルは33Kまで冷却され、評価はBとなった。
【0027】
(実施例4)
実施例1〜3においては、離形材が液体状であり、コイルを液体状の離形材に含浸していたが、実施例4では粘着層を有するフッ素樹脂テープを用いてコイルを製作した。離形材以外は実施例1と同じものを用いている。
具体的には、
図8に示すように、超電導線材14が巻かれたリールを巻き線機の回転部に設置し、超電導線材14の端を巻き取る内筒に固定する。次に、超電導線材14に1kgfのテンションをかけ、超電導線材14とフッ素樹脂テープ34をコイル状に共巻きを行った。フッ素樹脂テープ34の共巻きは、超電導線材14におけるコイルの軸方向両端部からコイルの軸方向の長さに対して15%となる領域のみに行った。
このコイルを真空装置に入れ、エポキシ樹脂で真空含浸を行い、残りの部分に樹脂層44を形成した。含浸容器から取り出したコイルを常温化で16時間以上経過させることでエポキシ樹脂を硬化させた。
このコイルをクライオスタットに入れ、30Kで50Wの吸熱能力を有する伝導冷却機を使用した伝導冷却によって冷却し、通電した。
評価は、実施例1と同様に行った。評価項目に基づく結果を表2に示す。
その結果、臨界電流値Icは170Aとなり、臨界電流値Icの低下は見られず、評価はAとなった。また、コイルをクライオスタットから取り出し常温で確認したところ、超電導線材14の上部で、フッ素樹脂テープ34は砕けていたが、エポキシ樹脂(樹脂層44)と超電導線材14の損傷は見られず、評価はAとなった。また、コイルは30Kまで冷却され、評価はAとなった。
【0028】
(比較例1)
比較例1として、エポキシ樹脂のみで含浸を行った。すなわち、超電導線材間に樹脂層のみを形成し、離形材層を形成しなかった。それ以外の超電導線材、超電導線材の巻き取り条件は実施例1と同じである。
具体的には、
図9に示すように、超電導線材15をコイル状に巻き取るときに、リールから巻き取る内筒の間に張られた超電導線材15に液状のエポキシ樹脂を十分な量浸しながら巻くことで、コイル全体をエポキシで含浸し、樹脂層45を形成した。エポキシ樹脂はECCOSEAL W−19M2を使用した。
エポキシ樹脂で含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることでエポキシ樹脂を硬化させた。このコイルをクライオスタットに入れ、30Kで50Wの吸熱能力を有する伝導冷却機を使用した伝導冷却によって冷却し、通電した。
評価は、実施例1と同様に行った。評価項目に基づく結果を表3に示す。
その結果、臨界電流値Icは95Aとなり、臨界電流値Icが大幅に低下し、評価はDとなった。また、コイルをクライオスタットから取り出し常温で確認したところ、超電導線材15の上部でエポキシ樹脂(樹脂層45)と超電導線材15が幅2mmにわたって剥離しており、破損が見られ、評価はCとなった。また、コイルは28Kまで冷却され、評価はAとなった。
【0029】
(比較例2)
比較例2においては、実施例1、2と比べて、さらに樹脂層の割合を増やした。それ以外の超電導線材、超電導線材の巻き取り条件は実施例1と同じである。
具体的には、
図10に示すように、超電導線材16をコイル状に巻き取るときに、リールから巻き取る内筒の間に張られた超電導線材16に、超電導線材16におけるコイルの軸方向両端部からコイルの軸方向の長さに対してそれぞれ2.5%ずつ残して液状のエポキシ樹脂を塗りながら巻くことで、コイルの軸方向両端部を除いたコイルの軸方向の長さの95%をエポキシ樹脂で含浸し、樹脂層46を形成した。エポキシ樹脂はECCOSEAL W−19M2を使用した。
超電導線材16の中心部をエポキシ含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることでエポキシ樹脂を硬化させた。
このコイルを真空装置に入れ、前工程で含浸しなかった超電導線材16の端部を離形材で真空含浸させ、離形材層36を形成した。離形材は日本精鑞株式会社のParaffin Wax−135を用いた。
真空含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることで離形材を硬化させた。
このコイルをクライオスタットに入れ、30Kで50Wの吸熱能力を有する伝導冷却機を使用した伝導冷却によって冷却し、通電した。
評価は、実施例1と同様に行った。評価項目に基づく結果を表3に示す。
その結果、臨界電流値Icは110Aとなり、臨界電流値Icの低下が見られ、評価はCとなった。また、コイルをクライオスタットから取り出し常温で確認したところ、超電導線材16の上部でエポキシ樹脂(樹脂層46)と超電導線材16が幅1.5mmにわたって剥離しており、破損が見られ、評価はCとなった。また、コイルは28Kまで冷却され、評価はAとなった。
【0030】
(比較例3)
比較例3においては、実施例1、3と比べて樹脂層の割合を減らした。それ以外の超電導線材、超電導線材の巻き取り条件は実施例1と同じである。
具体的には、
図11に示すように、超電導線材17をコイル状に巻き取るときに、リールから巻き取る内筒の間に張られた超電導線材17に、超電導線材17におけるコイルの軸方向両端部からコイルの軸方向の長さに対してそれぞれ35%ずつ残して液状のエポキシ樹脂を塗りながら巻くことで、コイルの軸方向両端部を除いたコイルの軸方向の長さの30%をエポキシ樹脂で含浸し、樹脂層47を形成した。エポキシ樹脂はECCOSEAL W−19M2を使用した。
超電導線材17の中心部をエポキシ含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることでエポキシ樹脂を硬化させた。
このコイルを真空装置に入れ、前工程で含浸しなかった超電導線材17の端部を離形材で真空含浸させ、離形材層37を形成した。離形材は日本精鑞株式会社のParaffin Wax−135を用いた。
真空含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることで離形材を硬化させた。
このコイルをクライオスタットに入れ、30Kで50Wの吸熱能力を有する伝導冷却機を使用した伝導冷却によって冷却し、通電した。
評価は、実施例1と同様に行った。評価項目に基づく結果を表3に示す。
その結果、臨界電流値Icは155Aとなり、臨界電流値Icの低下が見られ、評価はBとなった。また、コイルをクライオスタットから取り出し常温で確認したところ、超電導線材17の上部でエポキシ樹脂(樹脂層47)と超電導線材17が幅0.3mmにわたって剥離しており、破損が見られ、評価はBとなった。また、コイルは36Kまでしか冷却されず、評価はCとなった。
【0031】
(比較例4)
比較例4においては、実施例1、3と比べて樹脂層の割合を減らした。それ以外の超電導線材、超電導線材の巻き取り条件は実施例1と同じである。
具体的には、
図12に示すように、超電導線材18をコイル状に巻き取るときに、リールから巻き取る内筒の間に張られた超電導線材18に、超電導線材18におけるコイルの軸方向両端部からコイルの軸方向の長さに対してそれぞれ45%ずつ残して液状のエポキシ樹脂を塗りながら巻くことで、コイルの軸方向両端部を除いたコイルの軸方向の長さの10%をエポキシ樹脂で含浸し、樹脂層48を形成した。エポキシ樹脂はECCOSEAL W−19M2を使用した。
超電導線材18の中心部をエポキシ含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることでエポキシ樹脂を硬化させた。
このコイルを真空装置に入れ、前工程で含浸しなかった超電導線材18の端部を離形材で真空含浸させ、離形材層38を形成した。離形材は日本精鑞株式会社のParaffin Wax−135を用いた。
真空含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることで離形材を硬化させた。
このコイルをクライオスタットに入れ、30Kで50Wの吸熱能力を有する伝導冷却機を使用した伝導冷却によって冷却し、通電した。
評価は、実施例1と同様に行った。評価項目に基づく結果を表2に示す。
その結果、臨界電流値Icは152Aとなり、臨界電流値Icの低下が見られ、評価はBとなった。また、コイルをクライオスタットから取り出し常温で確認したところ、離形材層38は砕けていたがエポキシ樹脂(樹脂層48)と超電導線材18の損傷は見られず、評価はAとなった。また、コイルは50Kまでしか冷却されず、評価はDとなった。
【0032】
(比較例5)
比較例5として、パラフィンのみで含浸を行った。すなわち、超電導線材間に離形材層39のみを形成し、樹脂層を形成しなかった。それ以外の超電導線材、超電導線材の巻き取り条件は実施例1と同じである。
具体的には、
図13に示すように、巻き取ったコイルを巻き線機から取り外し、真空含浸装置に入れる。120℃まで温めて液状にした離形材を用いコイル全体を真空含浸した。離形材は日本精鑞株式会社のParaffin Wax−135を使用した。
離形材で含浸したコイルを常温下で16時間以上経過させることで離形材を硬化させた。
このコイルをクライオスタットに入れ、30Kで50Wの吸熱能力を有する伝導冷却機を使用した伝導冷却によって冷却し、通電した。
評価は、実施例1と同様に行った。評価項目に基づく結果を表3に示す。
その結果、臨界電流値Icは150Aとなり、大幅に臨界電流値Icが低下し、評価はBとなった。また、コイルをクライオスタットから取り出し常温で確認したところ、離形材層39は砕けていたが超電導線材19の損傷は見られず、評価はAとなった。また、コイルは41Kまでしか冷却されず、評価はDとなった。これは、クラックの発生により、コイルの冷却効率が低下したためだと考えられる。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
(評価結果)
表1〜表3に示すように、超電導線材の間に樹脂層と離形材層とを形成することにより、樹脂層又は離形材層だけを形成する場合に比べて、より優れた超電導コイルを作製することができる。また、超電導線材の剥離強度に応じて離形材層と樹脂層との割合を調節することで臨界電流値Icを低下させることもなく、超電導線材を剥離させることもなく、冷却効率に優れた超電導コイルを作製することができることが明らかとなった。また、離形材層の割合が多いほど、臨界電流の評価と超電導線材の損傷の評価は良くなるが、コイルの温度の評価は悪くなることがわかった。しかし、離形材層の割合が多すぎると、コイルの温度の評価が悪くなり、超電導線材の損傷がなくても臨界電流の評価は少し悪くなってしまうことがわかった。