【文献】
Molecular and Cellular Biology,2012年,Vol.32, No.21,p.4350-4362
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来、延寿命制御メカニズムの解明は、延寿命の表現形質からアプローチするタンパク質レベルで行われているのみであり、これでは延寿命をその根本的な原因に応じて促進する延寿命剤を見つけることはできないという問題があった。そこで、延寿命制御メカニズムの解明にはタンパク質レベルを超えた、例えば遺伝子レベルでのメカニズムの解明が望まれていた。しかしながら、遺伝子レベルでのアプローチから延寿命制御現象の解明を図る研究は十分にされてこなかったという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、遺伝子レベルでのアプローチから延寿命制御現象を解明し、さらに延寿命制御活性を有する物質をスクリーニングする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、Mex-3Bタンパク質のノックアウトマウスを作製した結果、意外にも、当該Mex-3Bタンパク質ノックアウトマウスが、脂肪の蓄積が阻害されること;体重が低下しておりインスリン感受性が亢進していること;及び寿命が延長していることを見出した。それにより、Mex-3Bタンパク質の発現に関連する因子を用いて、延寿命制御活性を有する物質をスクリーニングする方法を見出した。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1) Mex-3Bタンパク質関連因子を用いて、候補物質の中から延寿命制御活性を有する物質をスクリーニングする方法であって、少なくとも次の工程:
(i)候補物質又は対照に、前記Mex-3Bタンパク質関連因子を接触させる工程;
(ii)指標となる値を測定する工程;
(iii)候補物質の作用を、上記(i)及び(ii)に基づく結果と、対照の結果とを比較して検出する工程;並びに
(iv)前記指標となる値が変化した候補物質を選択する工程;
を含む、方法。
(2) Mex-3Bタンパク質関連因子が、Mex-3Bタンパク質をコードする塩基配列を含む核酸、Mex-3Bタンパク質及びMex-3Bタンパク質関連因子がMex-3Bタンパク質をコードする塩基配列の一部若しくは全てを破壊又は変異させた非ヒトノックアウト動物からなる群から選択される少なくとも1つである、(1)記載の方法。
(3) (1)又は(2)記載のMex-3Bタンパク質関連因子を含む、延寿命物質スクリーニング試薬。
(4) (3)記載の試薬を含む、延寿命物質スクリーニングキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明のMex-3Bタンパク質関連因子を用いることにより、延寿命に関連する物質を簡便な方法で効率よくスクリーニングすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、延寿命制御活性を有する物質をスクリーニングする方法、当該スクリーニングに用いる試薬及び当該試薬を含むスクリーニングキットに関する。以下に本発明を説明する。
【0013】
(1)本発明の概要
本発明はMex-3Bタンパク質関連因子を用いて、候補物質の中から延寿命活性を有する物質をスクリーニングする方法に関する。以下、本発明の概要について説明する。
【0014】
Mex-3Bタンパク質は翻訳促進やアポトーシス誘導の機能を有することが知られている。具体的には、アポトーシス促進因子Bimの発現を転写後制御により高めることにより、アポトーシスを誘導することが知られている。Mex-3Bタンパク質の構造としては、N末端側にRNA結合ドメインであるKHドメインが2つあり、C末端側にはユビキチン化に関わるRINGフィンガードメインがあることが知られている。
【0015】
本発明者らは、当該Mex-3B遺伝子を欠損させた(
図1)ノックアウトマウスを作製し、当該ノックアウトマウスの特性を解析し、以下の知見:
a)Mex-3Bノックアウトマウスオスでは野生型に比して有意に寿命が延長している(
図6);
b)Mex-3Bノックアウトマウスでは脂肪組織が小さい(
図7);及び
c)Mex-3Bノックアウトマウスは体重が野生型に比して有意に低下し(
図5)、さらに、オスではインシュリン感受性が亢進している(
図8及び9);
を得た。
【0016】
これらの知見から、Mex-3Bノックアウトマウスは、寿命が長く、さらに、加齢に伴う肥満を抑制し、脂肪組織量の増加も抑制されることが示された。これより、Mex-3Bタンパク質は代謝制御に関するRNAタンパク質であり、寿命制御メカニズムに関与していることが新たに示された。
【0017】
以上の観点より、本発明者は、Mex-3Bの発現を抑制する物質は延寿命メカニズムに関与する有力な物質であり、Mex-3Bの発現系をMex-3Bの発現を抑制する物質を探索する系として用いることを考えた。この方法を利用すれば、Mex-3Bの機能を妨げ、延寿命作用を有する化合物のスクリーニングが可能となる。また、スクリーニングされた物質は、全く新たな作用機序を有する延寿命活性薬剤等に適用できるために有用である。
【0018】
(2)本発明のスクリーニング方法
本発明のスクリーニング方法は、上記Mex-3Bタンパク質の関連因子を用いて、候補物質の中から延寿命制御活性を有する物質を探索することを目的とする。具体的には、(i)候補物質又は対照に、前記Mex-3Bタンパク質関連因子を接触させる工程;(ii)指標となる値を測定する工程;(iii)候補物質の作用を、上記(i)および(ii)に基づく結果と、対照の結果とを比較して検出する工程;並びに(iv)指標となる値が変化した候補物質を選択する工程;を含む、方法である。
【0019】
<Mex-3Bタンパク質関連因子>
Mex-3Bタンパク質関連因子とは、候補物質に接触させて延寿命制御活性を有する物質を探索することができる物質であればいかなる物質をも含む。例えば、Mex-3Bタンパク質をコードする塩基配列を含む核酸、Mex-3Bタンパク質及びその抗体、Mex-3Bタンパク質に関連するノックアウト動物などがあげられる。Mex-3Bタンパク質のシークエンスデータは、例えばGenBank(NIH genetic sequence database)や、DDBJ(DNA Data Bank of Japan)等のデータベースに登録されているデータを使用することができる。ここで、ヒト由来Mex-3Bタンパク質のcDNAは3534塩基でありGenBankにNM_032246(配列番号1)と、アミノ酸配列は569アミノ酸残基のNP_115622(配列番号2)と登録されている。Mex-3Bタンパク質の抗体とは、例えば、Mex-3Bタンパク質に特異的な抗体である抗Mex-3Bタンパク質抗体を用いて、Mex-3Bタンパク質の発現をウェスタンブロッティングやELISA法で測定する方法などがあげられる。当該抗体は公知の方法を用いて作製できる。Mex-3Bタンパク質に関連するノックアウト動物としては、例えば、Mex-3Bタンパク質関連因子がMex-3Bタンパク質をコードする塩基配列の一部若しくは全てを破壊又は変異させた延寿命非ヒトノックアウト動物があげられる。
【0020】
<延寿命制御活性を有する物質>
上記のように、Mex-3Bタンパク質の機能を抑制する物質は延寿命メカニズムに関与する有力な物質であるといえる。従って、Mex-3Bタンパク質の発現を抑制する物質は、延寿命メカニズムを促進するため、延寿命活性薬剤等の候補として好ましい。本発明における形質的な延寿命の指標としては、当該物質を投与された個体において、脂肪の蓄積が阻害される;体重が低下する;及びインスリン感受性が亢進することなどがあげられる。これらの形質を促進する物質は寿命を延長させる物質として好ましい。このような物質としては、上記の性質を有する物質であれば、いかなる物質も含まれるが、例えば、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿などがあげられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。これらの物質は塩を形成していてもよく、生理学的に許容される酸(例、無機酸など)や塩基(例、有機酸など)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸など)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸など)との塩などが用いられる。
【0021】
<スクリーニング方法>
本発明のスクリーニング方法としては、Mex-3Bタンパク質を作動可能に結合させた発現ベクターを作製し、これを細胞内に導入してタンパク質等を発現させる方法等があげられる。例えば、標識物質にMex-3Bタンパク質を作動可能に結合させた発現ベクターを作製し、これを細胞内に導入して発現させる方法を例示して、以下説明する。
【0022】
発現ベクターの構築、ベクターの細胞への導入法は周知であり、当分野における通常の技術を用いて行うことができる(例えば、Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed. (Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)参照)。標識物質及びMex-3Bタンパク質をコードする各遺伝子を連結するベクターは、市販のものを用いることができる。
【0023】
標識物質とは、本発明のスクリーニング方法の測定の指標を検出するための検出手段として使用されるものであり、蛍光標識物質、放射標識物質、これらの標識物質で標識された抗体のいずれを使用することもできる。検出操作が容易である点で、オワンクラゲ(Aequorea victorea)由来の緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein: GFP)が好ましい。蛍光標識物質としては、GFPのほか、GFPを改変した変異体(GFPバリアント)であるEGFP(Enhanced-humanized GFP)又はrsGFP(red-shift GFP)などが挙げられる。また、黄色蛍光タンパク質(yellow fluorescent protein: YFP)、藍色蛍光タンパク質(cyan fluorescent protein: CFP)、青色蛍光タンパク質(blue fluorescent protein: BFP)、ウミシイタケ(Renilla reniformis)由来のGFPを使用することも可能であり、これらをコードする遺伝子を本発明に使用することができる。これらをコードする遺伝子の塩基配列は公知であり、市販品を用いることができ、あるいは、GenBank等の公共データベースを通じて配列情報を容易に入手することができる。
【0024】
発現ベクターを導入した細胞を、候補物質を接触させるための試験用細胞と、未処理の対照細胞に分け、試験用細胞に候補物質を添加等により接触させて標識シグナルを検出する。ここで「接触」とは、候補物質が発現ベクターを導入した細胞と相互作用するように処理することを意味し、細胞培養系に候補物質を添加すること、候補物質の存在下で細胞を培養することのいずれをも意味する。
【0025】
本発明のスクリーニング方法における「指標となる値」としては、Mex-3Bタンパク質の発現を抑制する物質の探索の指標となる遺伝子、mRNA又はタンパク質の発現量等をいう。例えば、Mex-3Bタンパク質のmRNA発現量又はタンパク質発現量などがあげられる。本発明のスクリーニング方法における「測定」について、具体的には、適当な条件で培養した上記細胞又は動物における、上記指標となる値を定量することをいい、例えば、Mex-3Bタンパク質のmRNA又はタンパク質を定量すること、ノックアウト動物を用いる場合は、脂肪組織の重量やインシュリン感受性を測定することをいう。mRNA又はタンパク質の定量は、公知の手法を用いて行うことができる。mRNAの定量は、例えば、ノーザンハイブリダイゼーションや定量的RT−PCRによって、タンパク質の定量は、例えば、抗Mex-3Bタンパク質抗体等を用いたウェスタンブロッティングによって行うことができる(Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1994-2003)。
【0026】
標識物質のシグナルの強さ(シグナル強度)は、蛍光強度、電気泳動におけるバンドの濃さ等の各々の標識タンパク質に適した方法により定量するか、あるいは目視することにより調べることができる。そして、対照よりもシグナル強度を低下させたときの候補物質を、Mex-3Bタンパク質の機能を抑制する物質として選択する。
【0027】
ここで、対照細胞では、Mex-3Bタンパク質の発現が抑制されず、発現した標識タンパク質とMex-3Bタンパク質が結合した組換えタンパク質は、蛍光を発する。これに対し、上記延寿命制御活性を有する物質となりうる候補物質が添加された場合は、Mex-3Bタンパク質の発現が阻害されるため、候補物質を接触させた後の細胞から発せられる標識シグナルは、対照細胞から発せられる標識シグナルの強さよりも弱くなる。また、対照細胞と候補物質を接触させた後の細胞の特定の遺伝子発現量を指標の値として測定、比較検出することにより、当該発現量が変化した候補物質を選択することもできる。当該方法では、抗GFP抗体等の抗標識タンパク質抗体を用いたイムノブロット等により標識物質を検出することが可能であるので、多検体を短時間で処理することができ、ハイスループットスクリーニングを行うことができる。
【0028】
さらに、本発明のスクリーニング方法には、候補物質を動物又はその一部に投与し、『延寿命制御活性を有する物質』で記載した本発明における具体的な延寿命の指標となる値を直接測定し、対照であるMex-3Bタンパク質ノックアウト動物の測定結果と比較して、当該ノックアウト動物と同程度かそれよりも高い値を呈する候補物質を選択することにより、延寿命制御活性を有する物質をスクリーニング方法も含まれる。本方法はin vivo系として、個体レベルでの物質の効果を評価できるため、好ましい。この場合、「指標とする値」の測定具体的な指標としては、候補物質を投与された動物について、当該物質により、脂肪の蓄積が阻害される;体重が低下する;及びインスリン感受性が亢進することなどがあげられる。これらの指標を示す候補物質は寿命を延長させうる物質として好ましい。
【0029】
脂肪蓄積阻害とは、体内の脂肪組織の生育が抑制又は遅延することにより、体内脂肪の蓄積が阻害されることをいう。脂肪組織とは、脂肪細胞で構成され、かつ、エネルギーを脂肪として蓄える機能を有する結合組織をいう。本発明に関する脂肪組織には、体内において皮膚下にあるもの及び内臓周囲にあるもの等のいずれの脂肪組織をも含まれる。例えば、精巣上体脂肪組織や腹部脂肪があげられる。脂肪蓄積は公知のいかなる方法をも用いて測定できる。
【0030】
体重の変化は体重の経時的変化をいい、公知の方法で測定できる。
【0031】
インシュリン感受性亢進とは、インシュリンを投与した場合の血糖値の低下について、インシュリン感受性が亢進するとは、インシュリンの投与により血糖値がよりはやく低下することをいう。インシュリン感受性亢進の評価は、公知のいかなる血糖値の測定方法をも用いることができる。
【0032】
スクリーニングに用いる動物としては、ヒトを除くマウス、ラット、ウサギ、モルモット、ブタ、ヒツジ及びヤギなどが挙げられる。本発明では取り扱いが容易で繁殖しやすいマウスが好ましい。対照として用いるMex-3Bタンパク質ノックアウト動物は公知の方法を用いて作製できる。例えば、
図1で示したMex-3Bタンパク質の一部を欠損させたノックアウトマウスは、本発明の上記スクリーニング方法に好ましい。「動物又はその一部」とは、動物の生体の全身、及び限定された組織又は器官の両者を含む。限定された組織又は器官の場合は、動物から摘出されたものも含む。
【0033】
候補物質を試験動物に投与する方法としては、例えば、経口投与、静脈注射、塗布、皮下投与、皮内投与、腹腔投与などが用いられ、試験動物の症状、候補物質の性質などにあわせて適宜選択することができる。また、候補物質の投与量は、投与方法、候補物質の性質などにあわせて適宜選択することができる。
【0034】
本発明のスクリーニングの対象となる候補物質としては、例えば、ペプチド、タンパク質、非ペプチド性化合物、合成化合物(高分子又は低分子化合物)、発酵生産物、細胞抽出液、細胞培養上清、植物抽出液、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)の組織抽出液、血漿などが挙げられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。これら候補物質は塩を形成していてもよく、候補物質の塩としては、上記のように、生理学的に許容される酸(例えば、無機酸や有機酸など)や塩基(例えば、金属酸など)等との塩が用いられる。
(3)延寿命物質スクリーニング試薬
本発明のMex-3Bタンパク質関連因子を用いたスクリーニングを行う場合は、上記のMex-3Bタンパク質関連因子を他の溶媒や溶質と組み合わせて組成物とすることができる。たとえば、蒸留水、pH緩衝試薬、塩、タンパク質、界面活性剤などを組み合わせることができる。
【0035】
反応試薬は適当な化学的または物理的検出手段により検出可能な標識を有する。そのような標識物質を用いる測定法に使用される標識剤として、たとえば蛍光物質、酵素、放射性同位元素、発光物質などが用いられる。標識に酵素を用いたELISA法は広く利用されている。
【0036】
蛍光物質として、フルオレスカミン、フルオレッセインイソチオシアネートなど、酵素として、パーオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、リンゴ酸脱水酵素、α-グルコシダーゼ、α-ガラクトシダーゼなど、放射性同位元素として、
125I、
131I、
3H、
14Cなど、発光物質として、ルシフェリン、ルシゲニン、ルミノール、ルミノール誘導体などが例示される。
【0037】
さらに、反応媒体として、反応の至適条件を与えるか、反応生成物質の安定化などに有用な緩衝液、反応物質の安定化剤などが含まれる。
(4) 延寿命物質スクリーニングキット
本発明のMex-3Bタンパク質関連因子を用いたスクリーニングを行う場合、特別の条件、操作などは必要とされない。それぞれの方法における通常の条件、操作に準じて行なわれ、必要であれば若干の修飾を加えて好適な測定系を構築できる。
【0038】
そのためのもっとも簡便かつ効率的な測定を行なうことを可能とするのは、上記試薬をキット化することである。キット化により、通常の検査室または実験室で、特殊な分析機器、熟練した操作、高度の知識は必要とせずに、効率的に定量を行なうことができる。アッセイキットの構成および形態は、とくに限定されるものでなく所定の目的を達成できるものであればその内容は限定されない。一般には候補物質試料について、スクリーニングを実行し得られた結果を解釈するための使用説明書、反応試薬、反応が行なわれる場となる反応媒体、アッセイの場を提供する基材などから構成される。さらに所望により、比較基準とするためのあるいは検量線を作成するための照合サンプル、検出器なども含んでもよい。本発明のスクリーニング方法の検出手段としては、分光器、放射線検出器、光散乱検出器といった上記標識を検出可能なものがあげられる。
【0039】
次に、本発明を実施例によって説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。
【実施例】
【0040】
(実施例1)
本実施例はMex-3Bノックアウトマウスを作製することを目的とする。
【0041】
ターゲティングベクターの設計は
図1のように行った。BAC clone(GenBank Accession No. AC122736)中の約2.5kbのゲノミックMex-3B断片(配列番号1)をネオマイシン耐性カセット(pgkbg2Neo)(配列番号3)と置換し欠損させた。このターゲッティングベクターを直鎖化し、それをconfluentとなった10cm dish 3枚分の半量の胚性幹細胞に電気穿孔法により導入した。G418耐性コロニーを選択し、Mex-3Bとネオマイシン耐性カセットに特異的なプライマーを用いて相同組み換えを起こしたことを確認した。用いたプライマーは以下の通りである。
mD8フォワードプライマー 5’-GTCACTCAGGCCATCCGCATTTTTTCCTGA-3’
(配列番号4)
mD8リバースプライマー 5’-GTGTTCTAGAACGAGCGCTGTAGGAACCCA-3’
(配列番号5)
Neoプライマー 5’-GTTGGTTTTTGTGTGCGGCGCGCCGTTTAA-3’(配列番号6)
相同組換えクローンは、BACクローンおよびターゲティングベクターをtemplate DNAとしてランダムなプライマーで作製したプローブを用いたFISH法により確認した(
図2)。得られたクローンをC57BL6マウスの胚盤胞にインジェクトしてキメラマウスを作製した。
【0042】
作製したキメラマウスの雄をbalb/cマウスの雌と交配してヘテロ接合体を作製した。ヘテロ接合体同士を交配したのち、産仔の遺伝子型をGenotyping PCRにより同定した(
図3)。Mex-3B
+/+またはMex-3B
-/-の胸腺および脾臓からタンパク質を回収し、ウェスタンブロッティングでMex-3Bの発現の有無を確認した。その結果、Mex-3B
-/-の胸腺および脾臓では、Mex-3Bの発現が見られないことが示された(
図4)。Mex-3B
+/-マウスをbalb/cマウスに10回以上戻し交配した。実験のコントロールには同腹仔を用いた。Mex-3B
-/-マウスはメンデルの法則通りの個体数が生まれ、10ヶ月以上健常であった。
【0043】
さらに、Mex-3
+/+、Mex-3
+/-及びMex-3B
-/-マウスの体重の経時変化を測定した。結果を
図5に示す。これより、Mex-3Bタンパク質ノックアウトマウスは正常に生育することが示された。
【0044】
(実施例2)
本実施例は、Mex-3Bノックアウトマウスの寿命を測定し、野生型マウスと比較することを目的とする。
【0045】
実施例1で作製したMex-3Bノックアウト(KO)マウスと野生型(WT)マウスについて、以下の方法で測定し統計処理をした。まず、各マウスに関して出生日と死亡日を記録し、その日数をそのマウスの寿命と定めた。得られた寿命のデータを使用し、Kaplan-Meier法により生存率曲線を描いた。生存率曲線の比較はLog rank検定を用いた。
【0046】
その結果を
図6に示す。これより、本発明のMex-3Bタンパク質ノックアウトマウスの寿命の平均は680日であり、寿命の平均が542日の野生型マウスの寿命よりも有意に長いことが示された。
【0047】
(実施例3)
本実施例は、Mex-3Bノックアウトマウスの脂肪組織の重量を測定し、野生型マウスと比較することを目的とする。
【0048】
実施例1で作製したMex-3Bノックアウト(KO)マウスと野生型(WT)マウスについて、脾臓、精巣上体脂肪組織及び腎臓について、以下の方法で測定し統計処理をした。まず、上記マウスを安楽死させた後に体重を測定した。その後、マウスを解剖し各臓器を摘出した。各臓器の重量を測定し、体重で割り込むことにより、体重あたりの臓器の重さを算出した。グラフの縦軸はWTの体重あたりの臓器の重さを1とした場合の相対値を表している。
【0049】
その結果を
図7に示す。これより、本発明のMex-3Bノックアウトマウスは脂肪組織が野生型マウスの脂肪組織よりも少ないことが示された。これより、本発明のMex-3Bノックアウトマウスでは、脂肪の蓄積が阻害されることが示された。
【0050】
(実施例4)
本実施例は、Mex-3Bノックアウトマウスのインシュリン感受性試験を行い、野生型マウスと比較することを目的とする。
【0051】
実施例1で作製したMex-3Bノックアウト(KO)マウスと野生型(WT)マウスについて、以下の方法で絶食させて、インシュリン感受性試験を行い、体重を測定し、統計処理をした。つまり、それぞれ単独飼育した60日齢及び600日齢の雄の野生型及びMex-3Bノックアウトマウスを17時間絶食させた後、それぞれのマウスに2mg/kgとなるようにグルコースを腹腔内投与した。その後、継時的にマウス尾静脈から採血し、血糖値を測定してインシュリン感受性を検討した。
【0052】
その結果を
図8及び
図9に示す。これより、本発明のMex-3Bノックアウトマウスは、野生型に比較して、インシュリン感受性が亢進していることが示された。
【0053】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。