特許第6374239号(P6374239)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6374239
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】汚染土壌浄化用栄養剤
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/10 20060101AFI20180806BHJP
   C09K 17/14 20060101ALI20180806BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20180806BHJP
   C09K 101/00 20060101ALN20180806BHJP
【FI】
   B09C1/10ZAB
   C09K17/14 H
   C09K3/00 S
   C09K101:00
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-137626(P2014-137626)
(22)【出願日】2014年7月3日
(65)【公開番号】特開2016-13527(P2016-13527A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2017年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】緒方 浩基
(72)【発明者】
【氏名】四本 瑞世
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐司
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 隆洋
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 真樹
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 正典
(72)【発明者】
【氏名】村上 元威
【審査官】 齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−224497(JP,A)
【文献】 特開2010−158653(JP,A)
【文献】 特開2004−041840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B1/00−5/00
B09C1/10
C09K3/00
C09K17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性油脂および/または該油脂の加工油脂を原料油脂とする平均粒子径が0.5〜1.0μmの水中油型乳化組成物を含有する汚染土壌浄化用栄養剤であって、原料油脂の20℃におけるSFCが1〜60であり、かつ、有機酸モノグリセリドを0.5〜2.0重量部含む汚染土壌浄化用栄養剤。
【請求項2】
原料油脂の20℃におけるSFCが1〜30である、請求項1に記載の汚染土壌浄化用栄養剤。
【請求項3】
前記有機酸モノグリセリドがジアセチル酒石酸モノグリセリドである、請求項1または2に記載の汚染土壌浄化用栄養剤。
【請求項4】
請求項1〜のいずれかに記載の汚染土壌浄化用栄養剤を土壌に注入する工程を含む、汚染土壌の浄化方法。
【請求項5】
植物性油脂および/または該油脂の加工油脂を原料油脂として含有する油相と水相を混合し、均質化する工程を含む、請求項1〜のいずれかに記載の汚染土壌浄化用栄養剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機塩素化合物が含まれた汚染土壌を現場(原位置)で浄化するための土壌浄化用栄養剤に関する。さらに詳しくは、汚染土壌に含まれる有機塩素化合物を分解する微生物を活性化するための土壌浄化用栄養剤に関する。
【背景技術】
【0002】
有機塩素化合物であるテトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、ジクロロエチレン等は、金属類の脱脂・洗浄、ドライクリーニングの洗浄、冷媒等、幅広く利用されており、産業上の利用価値が高い。しかし、有機塩素化合物は、人体に肝障害や腎障害等を引き起こす有害物質でもあるため、これらの物質による土壌汚染は深刻な社会問題となっている。
そこで、これら有機塩素化合物に汚染された土壌の浄化方法のひとつとして、土壌中に常在する微生物に栄養剤を添加して、有機塩素化合物分解菌を活性化する方法が開発されており、この栄養剤として液体油脂を原料とする水中油型乳化物を使用する方法が数多く提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、液体油脂、ノニオン系界面活性剤、多価アルコールと水とを水中油型に乳化した乳化物よりなる土壌、地下水用浄化剤が開示されており、融点15℃以下の液体油脂を20〜70部配合することを特徴のひとつとしている。
特許文献2には、液体油脂、界面活性剤と水とを水中油型に乳化した乳化物よりなる土壌、地下水用浄化剤が開示されており、液体油脂を20〜80部配合することを特徴のひとつとしている。
特許文献3には、植物性油脂のエマルションと安定化成分としてカゼインナトリウムを含有する汚染土壌浄化用栄養剤が開示されており、窒素源及びリン源をさらに含有することを特徴のひとつとしている。
これらの土壌、地下水用浄化剤や、汚染土壌浄化用栄養剤は、いずれも土壌の浄化において有効に作用するものといえるが、主要な成分が液体油脂の乳化物であるため分解活性が高く、土壌に注入しても早期に分解されてしまうという問題があった。
【0004】
また、常温で固体の脂肪酸を主要な成分とするものとして、例えば、特許文献4には、炭素数が10以上の脂肪酸を土壌中に埋設し、土壌中における硝酸態窒素および揮発性有機化合物を低減する方法が開示されており、特許文献5には、炭素数が14以上の脂肪酸やアルコールと、界面活性剤とを有する土壌と地下水の浄化組成物が開示されている。
これらの常温で固体の脂肪酸を含むものも土壌の浄化において有効に作用するものといえるが、固体の脂肪酸そのままでは浸透性が悪く、油分だけ凝集してしまい、十分に効果を発揮できないという問題があった。
そこで、これらの問題を解決し得る、土壌への浸透性が高く、かつ、常温で長期間安定性が高い、より有用な汚染土壌浄化用栄養剤の提供が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−83169号公報
【特許文献2】特開2010−158653号公報
【特許文献3】特開2011−224497号公報
【特許文献4】特開2002−370085号公報
【特許文献5】特開2005−66425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の液体油脂の乳化物や、常温で固体の脂肪酸を主要な成分とする汚染土壌浄化用栄養剤等に対して、土壌への浸透性が高く、かつ、常温で長期間安定性が高い、より有用な汚染土壌浄化用栄養剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、20℃におけるSFC(固体脂含量)が1〜60である植物性油脂および/または該油脂の加工油脂を原料油脂として得た水中油型乳化組成物であれば、土壌への浸透性が高く、かつ、常温で長期間安定性が高い、有用な汚染土壌浄化用栄養剤となることを見出し、本発明に至った。
本発明の汚染土壌浄化用栄養剤は、有機塩素化合物で汚染された土壌に混合して浸透させることで、有機塩素化合物を分解する微生物を活性化し、有機塩素化合物の分解を長期間安定して促進させることが可能である。
【0008】
すなわち、本発明は次の(1)〜(7)に示される汚染土壌浄化用栄養剤等に関するものである。
(1)植物性油脂および/または該油脂の加工油脂を原料油脂とする水中油型乳化組成物を含有する汚染土壌浄化用栄養剤であって、原料油脂の20℃におけるSFCが1〜60である汚染土壌浄化用栄養剤。
(2)原料油脂の20℃におけるSFCが1〜30である、上記(1)に記載の汚染土壌浄化用栄養剤。
(3)平均粒子径が0.5〜1.0μmである水中油型乳化組成物を含有する、上記(1)または(2)に記載の汚染土壌浄化用栄養剤。
(4)有機酸モノグリセリドを含む、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の汚染土壌浄化用栄養剤。
(5)前記有機酸モノグリセリドがジアセチル酒石酸モノグリセリドである、上記(4)に記載の汚染土壌浄化用栄養剤。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の汚染土壌浄化用栄養剤を土壌に注入する工程を含む、汚染土壌の浄化方法。
(7)植物性油脂および/または該油脂の加工油脂を原料油脂として含有する油相と水相を混合し、均質化する工程を含む、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の汚染土壌浄化用栄養剤の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の汚染土壌浄化用栄養剤は、常温で長期に安定な植物性油脂の水中油型乳化物であるため、該栄養剤の提供により、汚染土壌の浄化を長期間安定して行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例品4におけるVOC分解試験の結果を示した図である(試験例4)。
図2】実施例品5におけるVOC分解試験の結果を示した図である(試験例4)。
図3】比較例品1におけるVOC分解試験の結果を示した図である(試験例4)。
図4】比較例品3におけるVOC分解試験の結果を示した図である(試験例4)。
図5】各乳化油脂組成物を添加したときのpHの変化を示した図である(試験例4)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の「汚染土壌浄化用栄養剤」とは、有機塩素化合物で汚染された土壌に混合させることで、有機塩素化合物を分解する微生物を活性化し、土壌中の有機塩素化合物の分解を促進させることができる栄養剤のことをいう。
ここで、本実施形態において分解対象となる「有機塩素化合物」とは、揮発性の有機塩素化合物であって微生物によって分解可能なもののことをいう。このような有機塩素化合物としては、例えば、テトラクロロエチレン(PCE)、トリクロロエチレン(TCE)、シス−1,2ジクロロエチレン(cis−1、2−DCE)等が挙げられる。
【0012】
これらの有機塩素化合物の分解能を有する微生物は、汚染土壌に含まれる有機塩素化合物を分解できる微生物であればいずれの微生物であっても良い。このような微生物として、例えば、メタノバクテリウム属、メタノサルシナ属、メタノロブス属等の嫌気性古細菌、アセトバクテリウム属、デスルフォバクテリウム属、デハロバクター属、デハロバクテリウム属、デハロコッコイデス属、クロストリジウム属等の嫌気性微生物が挙げられる。
これらの嫌気性微生物による還元的塩素化反応により、テトラクロロエチレンやトリクロロエチレンは、シス−1,2ジクロロエチレン、及び、塩化ビニルを順に経て、エチレンまでに分解することができる。すなわち、これらの嫌気性微生物は、水素をエレクトロンドナーとし、テトラクロロエチレン等をエレクトロンアクセプターとする還元塩素化素反応により、エネルギーを獲得して増殖することができる。
【0013】
このような本発明の「汚染土壌浄化用栄養剤」は、植物性油脂および/または該油脂の加工油脂を原料油脂とする水中油型乳化組成物を含有する汚染土壌浄化用栄養剤であって、原料油脂の20℃におけるSFCが1〜60である汚染土壌浄化用栄養剤であれば良い。
本発明の「汚染土壌浄化用栄養剤」が植物性油脂および/または該油脂の加工油脂を原料油脂とする水中油型乳化組成物の状態で供給され、上記のような有機塩素化合物の分解能を有する微生物である、嫌気性微生物が有機塩素化合物を還元脱塩素化するための水素供与体となる。すなわち、植物性油脂のエマルションは徐々に分解されて有機酸を生成し、有機酸はさらに分解されて水素を生成する。この水素は、土壌が嫌気状態とされた後において、嫌気性微生物が有機塩素化合物を還元脱塩素化する際に用いられる。
【0014】
本発明の「汚染土壌浄化用栄養剤」は、上記のように原料油脂の20℃におけるSFCが1〜60である汚染土壌浄化用栄養剤であれば良く、同温度におけるSFCが1〜30であることがさらに好ましい。
【0015】
本発明の「原料油脂」は植物性油脂および/または植物性油脂の加工油脂であれば良い。なお、この「原料油脂」は、微生物によって分解されるものであるから、食用であることが好ましい。
このような植物性油脂として、例えば、パーム油、ヤシ油が挙げられる。このような「原料油脂」の油脂の融点は硬化、エステル交換、分別など化学的な処理によって調整することができ、目的の融点を得るためにこれらの化学的処理いずれを用いても構わない。
「原料油脂」は、汚染土壌浄化用栄養剤となる「水中油型乳化物」において、10〜60重量部の配合量で含まれることが好ましい。植物性油脂の配合量が10重量部未満であると、乳化物の安定性が低下し、常温で安定な水中油型乳化物を得ることが困難になる。
また、「原料油脂」の配合量が多いほど、本発明の「汚染土壌浄化用栄養剤」の汚染土壌への注入量が少なく済むことから、適用場所への運搬量の低減、適用場所での貯蔵量の低減、注入のための施工作業時間の短縮など、運用面でのメリットは大きい。このため、「原料油脂」の配合量を20重量部以上とすることがさらに好ましい。
一方、「原料油脂」の配合量が多いほど、粘度が高くなり、汚染土壌への注入の際に目詰まりが起こりやすくなるため、「原料油脂」の配合量を50重量部未満にすることがさらに好ましい。すなわち、「水中油型乳化物」における「原料油脂」の配合量は、20〜50重量部の範囲とすることがより好ましい。
【0016】
本発明の汚染土壌浄化用栄養剤となる「水中油型乳化物」は、油相と水相を混合し、乳化することで調製することができる。これにより汚染土壌中への分散性を高め、常温で長期に安定な「水中油型乳化物」の提供が可能となる。
この油相には、原料油脂としてラウリン系油脂や界面活性剤を添加することが好ましく、ラウリン系油脂と界面活性剤をいずれも添加することが特に好ましい。
このようなラウリン系油脂として、例えば、ヤシ油、またはパーム核油等の植物性油脂が挙げられ、これらを一種、または二種以上組み合わせて添加しても良い。
また、油相に添加する界面活性剤としては、特にジアセチル酒石酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド等の有機酸モノグリセリドが好ましく、これらを一種または二種以上組み合わせて添加しても良い。有機酸モノグリセリドを添加することにより、本発明の「水中油型乳化物」に耐酸性や耐熱性を付与できる。なお、この界面活性剤も微生物によって分解されるものであるから、食用であることが好ましい。
この油相には、さらに、必要に応じてグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、大豆油リン脂質等の界面活性剤を添加することができる。
また、水相には必要に応じてグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、大豆油リン脂質等の界面活性剤、さらにはクエン酸塩やリン酸塩などのpH調整剤、さらにはホエーやカゼイン、脱脂粉乳などのタンパク質を添加することができる。
【0017】
このように調製される「水中油型乳化物」は、固体脂を含む植物性油脂および/または該油脂の加工油脂を原料油脂とし、乳化物の平均粒子径を0.5〜1.0μmの範囲に調整したものであることが好ましい。
さらに有機酸モノグリセリドであるジアセチル酒石酸モノグリセリドを0.5〜2.0重量部添加することにより水中油型乳化物の常温での長期安定性を付与したものであることが好ましい。
【0018】
本発明の「汚染土壌の浄化方法」とは、本発明の「汚染土壌浄化用栄養剤」を土壌に注入する工程を含む浄化方法のことをいい、汚染土壌が浄化できる方法であれば、従来知られているその他の工程を含むものであっても良い。
「汚染土壌浄化用栄養剤」の土壌への注入には、本発明の「汚染土壌浄化用栄養剤」を、例えば20〜30倍程度の必要な濃度に希釈した上で汚染土壌に散布する、注入用の井戸を汚染土壌中に堀り、連続的に注入する等の方法が挙げられる。
本発明の「汚染土壌浄化用栄養剤」は希釈以外に、pH調整剤を添加して微生物の至適pHに調整した上で「汚染土壌の浄化方法」に使用してもよい。
【0019】
また、本発明の「汚染土壌浄化用栄養剤の製造方法」とは、植物性油脂および/または該油脂の加工油脂を原料油脂として含有する油相と水相を混合し、均質化する工程を含む汚染土壌浄化用栄養剤の製造方法のことをいう。
ここで、「均質化」とは、均質機等により、「汚染土壌浄化用栄養剤」の平均粒子径を0.5〜1.0μmの範囲に調整することをいう。
この製造方法は、本発明の「汚染土壌浄化用栄養剤」が製造できる方法であれば、従来知られているその他の工程を含むものであっても良い。
【0020】
以下、実施例、比較例等を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
次の実施例1〜10により、本発明の(実施例品1〜10)を得た。また、比較として比較例品1〜7を得た。これらの乳化安定性および浸透性を次の評価基準に従って調べ、評価した。
また、これらの平均粒子径を、レーザ回折式粒子径分布測定機器(SALD−3100、島津製作所)にて測定するとともに、この粒子径を調整するための均質機における均質圧(前均質圧、後均質圧)を記録した。
なお、本発明において「%」及び「部」は特に断らない限り、「重量%」及び「重量部」を表す。
【0022】
〔乳化安定性評価基準〕
本発明の土壌改良剤(水中油型乳化物)または比較例品にアジ化ナトリウム500ppmを加えて防腐処理した後、スタンディングパウチに約200ml分注した。これを各種温度帯(5℃、25℃、35℃、5℃⇔40℃)の保管条件にて2週間放置した場合の液状安定性を目視にて評価した。
評価において、いずれかの温度条件においても凝固が観察されたものを×、凝固が観察されなかったものを○とした。
【0023】
〔浸透性評価基準〕
本発明の土壌改良剤(水中油型乳化物)または比較例品を水に溶解し、0.3%溶液を得た。ガラス瓶に湿土(山砂+粘土(関東化成株式会社製:トチクレー))50gと上記の0.3%溶液100mlを添加し、初期のTOC(総有機炭素濃度)値を測定した。その後、30分間振とうした後に、1〜6時間静置し、上澄みをサンプリングし、上澄み中のTOC値を測定し、初期のTOC値の比較から土壌吸着量(乾燥土中の吸着量)[mg/kg]を次の式1によって算出した。なお、乾燥土重量は前記湿土50gを別途乾燥し、測定した。なお、関東化成株式会社製の粘土であるトチクレーは、二酸化ケイ素(SiO)が約70%、酸化アルミニウム(Al)が約14%、及び酸化第二鉄が(Fe)が約6%含まれている。
【0024】
[式1]
【0025】
次に上澄み中のTOC値と土壌吸着量から次の式2および式3によって遅延係数Rを算出した。遅延係数とは各溶質が土粒子へ吸着することによる移動の遅れを、水の移動を1とした場合の比で表したものである。この遅延係数Rを浸透性評価基準とし、数値が100以上のものを×、100未満のものを○とした。評価では、この数値が低いほど浸透性が良いことになる。
【0026】
[式2]
【0027】
[式3]
【0028】
〔実施例1〕
75℃に加温したパーム油とヤシ油を原料とする加工油脂(20℃でのSFC:5)30.5部に、ジアセチル酒石酸モノグリセリド1.4部、大豆レシチン0.32部、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.24部を添加して油相を調製した。
70℃に加温した水64.66部にポリグリセリン脂肪酸エステル0.4部、カゼインナトリウム1.68部、クエン酸ナトリウム0.8部を添加して水相を調製した。
これら油相と水相の混合物をTKホモミクサーにて1400rpmで予備乳化を行った後、均質機にて平均粒子径が0.7μmとなるように均質し、144℃で8秒間加熱した後、10℃まで冷却することで水中油型乳化物(実施例品1)を得た。
【0029】
〔実施例2〕
75℃に加温したパーム油とヤシ油を原料とする加工油脂(20℃でのSFC:30)30.5部に、ジアセチル酒石酸モノグリセリド1.4部、大豆レシチン0.32部、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.24部を添加して油相を調製した。
70℃に加温した水64.66部にポリグリセリン脂肪酸エステル0.4部、カゼインナトリウム1.68部、クエン酸ナトリウム0.8部を添加して水相を調製した。
これら油相と水相の混合物をTKホモミクサーにて1400rpmで予備乳化を行った後、均質機にて平均粒子径が0.7μmとなるように均質し、144℃で8秒間加熱した後、10℃まで冷却することで水中油型乳化物(実施例品2)を得た。
【0030】
〔実施例3〕
75℃に加温したパーム核油を原料とする加工油脂(20℃でのSFC:60)30.5部に、ジアセチル酒石酸モノグリセリド1.4部、大豆レシチン0.32部、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.24部を添加して油相を調製した。
70℃に加温した水64.66部にポリグリセリン脂肪酸エステル0.4部、カゼインナトリウム1.68部、クエン酸ナトリウム0.8部を添加して水相を調製した。
これら油相と水相の混合物をTKホモミクサーにて1400rpmで予備乳化を行った後、均質機にて平均粒子径が0.7μmとなるように均質し、144℃で8秒間加熱した後、10℃まで冷却することで水中油型乳化物(実施例品3)を得た。
【0031】
〔実施例4〕
75℃に加温したパーム油とヤシ油を原料とする加工油脂(20℃でのSFC:8)30.5部に、ジアセチル酒石酸モノグリセリド1.4部、大豆レシチン0.32部、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.24部を添加して油相を調製した。
70℃に加温した水64.66部にポリグリセリン脂肪酸エステル0.4部、カゼインナトリウム1.68部、クエン酸ナトリウム0.8部を添加して水相を調製した。
これら油相と水相の混合物をTKホモミクサーにて1400rpmで予備乳化を行った後、均質機にて平均粒子径が0.7μmとなるように均質し、144℃で8秒間加熱した後、10℃まで冷却することで水中油型乳化物(実施例品4)を得た。
【0032】
〔実施例5〕
75℃に加温したパーム油とヤシ油を原料とする加工油脂(20℃でのSFC:24)30.5部に、ジアセチル酒石酸モノグリセリド1.4部、大豆レシチン0.32部、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.24部を添加して油相を調製した。
70℃に加温した水64.66部にポリグリセリン脂肪酸エステル0.4部、カゼインナトリウム1.68部、クエン酸ナトリウム0.8部を添加して水相を調製した。
これら油相と水相の混合物をTKホモミクサーにて1400rpmで予備乳化を行った後、均質機にて平均粒子径が0.7μmとなるように均質し、144℃で8秒間加熱した後、10℃まで冷却することで水中油型乳化物(実施例品5)を得た。
【0033】
〔比較例品1〕
75℃に加温したナタネ油(20℃でのSFC:0)30.5部に、ジアセチル酒石酸モノグリセリド1.4部、大豆レシチン0.32部、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.24部を添加して油相を調製した。
70℃に加温した水64.66部にポリグリセリン脂肪酸エステル0.4部、カゼインナトリウム1.68部、クエン酸ナトリウム0.8部を添加して水相を調製した。
これら油相と水相の混合物をTKホモミクサーにて1400rpmで予備乳化を行った後、均質機にて平均粒子径が0.7μmとなるように均質し、144℃で8秒間加熱した後、10℃まで冷却することで水中油型乳化物(比較例品1)を得た。
【0034】
〔比較例品2〕
75℃に加温したパーム核油を原料とする加工油脂(20℃でのSFC:65)30.5部に、ジアセチル酒石酸モノグリセリド1.4部、大豆レシチン0.32部、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.24部を添加して油相を調製した。
70℃に加温した水64.66部にポリグリセリン脂肪酸エステル0.4部、カゼインナトリウム1.68部、クエン酸ナトリウム0.8部を添加して水相を調製した。
これら油相と水相の混合物をTKホモミクサーにて1400rpmで予備乳化を行った後、均質機にて平均粒子径が0.7μmとなるように均質し、144℃で8秒間加熱した後、10℃まで冷却することで水中油型乳化物(比較例品2)を得た。
【0035】
〔比較例品3〕
75℃に加温したパーム核油を原料とする加工油脂(20℃でのSFC:82)30.5部に、ジアセチル酒石酸モノグリセリド1.4部、大豆レシチン0.32部、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.24部を添加して油相を調製した。
70℃に加温した水64.66部にポリグリセリン脂肪酸エステル0.4部、カゼインナトリウム1.68部、クエン酸ナトリウム0.8部を添加して水相を調製した。
これら油相と水相の混合物をTKホモミクサーにて1400rpmで予備乳化を行った後、均質機にて平均粒子径が0.7μmとなるように均質し、144℃で8秒間加熱した後、10℃まで冷却することで水中油型乳化物(比較例品3)を得た。
【0036】
〔試験例1〕
これらの実施例品1〜5、比較例品1〜3について、評価基準に従い乳化安定性および浸透性を調べ、得られた結果を表1に示した。
なお、総合評価は乳化安定性、浸透性の少なくともどちらかの評価結果が×の場合は×とした。以下、実施例、比較例において同様に総合評価を示した。
【0037】
【表1】
【0038】
〔実施例6〕
75℃に加温したパーム油とヤシ油を原料とする加工油脂(20℃でのSFC:10)30.5部に、ジアセチル酒石酸モノグリセリド1.4部、大豆レシチン0.32部、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.24部を添加して油相を調製した。
70℃に加温した水64.66部にポリグリセリン脂肪酸エステル0.4部、カゼインナトリウム1.68部、クエン酸ナトリウム0.8部を添加して水相を調製した。
これら油相と水相の混合物をTKホモミクサーにて1400rpmで予備乳化を行った後、均質機にて平均粒子径が0.5μmとなるように均質し、144℃で8秒間加熱した後、10℃まで冷却することで水中油型乳化物(実施例品6)を得た。
【0039】
〔実施例7〕
75℃に加温したパーム油とヤシ油を原料とする加工油脂(20℃でのSFC:10)30.5部に、ジアセチル酒石酸モノグリセリド1.4部、大豆レシチン0.32部、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.24部を添加して油相を調製した。
70℃に加温した水64.66部にポリグリセリン脂肪酸エステル0.4部、カゼインナトリウム1.68部、クエン酸ナトリウム0.8部を添加して水相を調製した。
これら油相と水相の混合物をTKホモミクサーにて1400rpmで予備乳化を行った後、均質機にて平均粒子径が0.7μmとなるように均質し、144℃で8秒間加熱した後、10℃まで冷却することで水中油型乳化物(実施例品7)を得た。
【0040】
〔実施例8〕
75℃に加温したパーム油とヤシ油を原料とする加工油脂(20℃でのSFC:10)30.5部に、ジアセチル酒石酸モノグリセリド1.4部、大豆レシチン0.32部、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.24部を添加して油相を調製した。
70℃に加温した水64.66部にポリグリセリン脂肪酸エステル0.4部、カゼインナトリウム1.68部、クエン酸ナトリウム0.8部を添加して水相を調製した。
これら油相と水相の混合物をTKホモミクサーにて1400rpmで予備乳化を行った後、均質機にて平均粒子径が1.0μmとなるように均質し、144℃で8秒間加熱した後、10℃まで冷却することで水中油型乳化物(実施例品8)を得た。
【0041】
〔比較例品4〕
75℃に加温したパーム油とヤシ油を原料とする加工油脂(20℃でのSFC:10)30.5部に、ジアセチル酒石酸モノグリセリド1.4部、大豆レシチン0.32部、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.24部を添加して油相を調製した。
70℃に加温した水64.66部にポリグリセリン脂肪酸エステル0.4部、カゼインナトリウム1.68部、クエン酸ナトリウム0.8部を添加して水相を調製した。
これら油相と水相の混合物をTKホモミクサーにて1400rpmで予備乳化を行った後、均質機にて平均粒子径が0.3μmとなるように均質し、144℃で8秒間加熱した後、10℃まで冷却することで水中油型乳化物(比較例品4)を得た。
【0042】
〔比較例品5〕
75℃に加温したパーム油とヤシ油を原料とする加工油脂(20℃でのSFC:10)30.5部に、ジアセチル酒石酸モノグリセリド1.4部、大豆レシチン0.32部、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.24部を添加して油相を調製した。
70℃に加温した水64.66部にポリグリセリン脂肪酸エステル0.4部、カゼインナトリウム1.68部、クエン酸ナトリウム0.8部を添加して水相を調製した。
これら油相と水相の混合物をTKホモミクサーにて1400rpmで予備乳化を行った後、均質機にて平均粒子径が1.5μmとなるように均質し、144℃で8秒間加熱した後、10℃まで冷却することで水中油型乳化物(比較例品5)を得た。
【0043】
〔試験例2〕
実施例品6〜8、比較例品4、5について、評価基準に従い乳化安定性および浸透性を調べ、得られた結果を表2に示した。
【0044】
【表2】
【0045】
〔実施例9〕
75℃に加温したパーム油とヤシ油を原料とする加工油脂(20℃でのSFC:10)30.5部に、ジアセチル酒石酸モノグリセリド1.0部、大豆レシチン0.32部、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.24部を添加して油相を調製した。
70℃に加温した水65.06部にポリグリセリン脂肪酸エステル0.4部、カゼインナトリウム1.68部、クエン酸ナトリウム0.8部を添加して水相を調製した。
これら油相と水相の混合物をTKホモミクサーにて1400rpmで予備乳化を行った後、均質機にて平均粒子径が0.7μmとなるように均質し、144℃で8秒間加熱した後、10℃まで冷却することで水中油型乳化物(実施例品9)を得た。
【0046】
〔実施例10〕
75℃に加温したパーム油とヤシ油を原料とする加工油脂(20℃でのSFC:10)30.5部に、ジアセチル酒石酸モノグリセリド2.0部、大豆レシチン0.32部、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.24部を添加して油相を調製した。
70℃に加温した水64.06部にポリグリセリン脂肪酸エステル0.4部、カゼインナトリウム1.68部、クエン酸ナトリウム0.8部を添加して水相を調製した。
これら油相と水相の混合物をTKホモミクサーにて1400rpmで予備乳化を行った後、均質機にて平均粒子径が0.7μmとなるように均質し、144℃で8秒間加熱した後、10℃まで冷却することで水中油型乳化物(実施例品10)を得た。
【0047】
〔比較例品6〕
75℃に加温したパーム油とヤシ油を原料とする加工油脂(20℃でのSFC:10)30.5部に、ジアセチル酒石酸モノグリセリド0.4部、大豆レシチン0.32部、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.24部を添加して油相を調製した。
70℃に加温した水65.66部にポリグリセリン脂肪酸エステル0.4部、カゼインナトリウム1.68部、クエン酸ナトリウム0.8部を添加して水相を調製した。
これら油相と水相の混合物をTKホモミクサーにて1400rpmで予備乳化を行った後、均質機にて平均粒子径が0.7μmとなるように均質し、144℃で8秒間加熱した後、10℃まで冷却することで水中油型乳化物(比較例品6)を得た。
【0048】
〔比較例品7〕
75℃に加温したパーム油とヤシ油を原料とする加工油脂(20℃でのSFC:10)30.5部に、ジアセチル酒石酸モノグリセリド2.8部、大豆レシチン0.32部、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.24部を添加して油相を調製した。
70℃に加温した水63.26部にポリグリセリン脂肪酸エステル0.4部、カゼインナトリウム1.68部、クエン酸ナトリウム0.8部を添加して水相を調製した。
これら油相と水相の混合物をTKホモミクサーにて1400rpmで予備乳化を行った後、均質機にて平均粒子径が0.7μmとなるように均質し、144℃で8秒間加熱した後、10℃まで冷却することで水中油型乳化物(比較例品7)を得た。
【0049】
〔試験例3〕
実施例品6、9、10、比較例品6、7について、評価基準に従い乳化安定性および浸透性を調べ、得られた結果を表3に示した。
【0050】
【表3】
【0051】
〔試験例4〕
実施例品4、実施例品5、比較例品1、比較例品3を用いて、揮発性有機化合物(VOC)の分解能の評価を実施した。
評価は、140mL容のメジューム瓶に、土(山砂:粘土(関東化成株式会社製/トチクレー)=10:1)を140g(湿土)添加し、水道水を75mL、易分解性の栄養剤として、10%グルコン酸ソーダ溶液を2.3mL、5%重曹溶液を1.4mL、VOC分解菌培養液5mL、トリクロロエチレン(TCE)溶液(TCE濃度:約900mg/L)を5mL添加し、約2ヶ月23〜25℃で培養し、VOC分解微生物を増殖させ、TCE及びTCEの分解生成物である1,2−ジクロロエチレンが分解されたことを確認した。
次に、実施例品4、実施例品5、比較例品1、比較例品3の乳化油脂組成物溶液(約30%溶液)を7.7mL添加し、同時に、TCE溶液(TCE濃度:約900mg/L)2mL添加した時の、VOC濃度を測定した。なお、分解能の持続性を確認するため、VOCが分解されたことを確認した時点で、TCE溶液(TCE濃度:約900mg/L)2mLを追加で添加し、同様にVOC濃度を測定した。結果を図1図4に示す。
また、合せて各試験区におけるpHの変化について、図5に示す。対照区としては、乳化油脂組成物溶液を添加しない区の数値を図示した。
【0052】
図1から図4の結果から、比較例品1は液体油脂であるが、TCEを追加で添加した日以降について分解能が持続しないことが明らかとなった。一方、実施例品4、実施例品5については、良好なVOC分解能が持続し、添加後、60日経過時点においても良好なVOC分解能を示した。また比較例品3については、分解速度が実施例品4、実施例品5と比較して遅く、分解効率が悪いことが明らかとなった。
また、図5の結果から、比較例品1では、他の乳化油脂組成物よりもpHが顕著に低下していることが明らかとなった。すなわち、比較例品1において、VOC分解が進まない要因の1つとして、比較例品1が微生物分解されやすく有機酸が過剰に生成されたために、pHが低下したと考えられる。
【0053】
試験例1から試験例4の結果から、汚染土壌浄化用栄養剤として、乳化安定性と浸透性を両立させ、かつ効率的なVOC分解能を長期的に持続的させることを期待するためには、20℃におけるSFCの値を1〜60の範囲内とすることが適当であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の汚染土壌浄化用栄養剤は、常温で長期に安定な植物性油脂の水中油型乳化物であるため、該栄養剤の提供により、汚染土壌の浄化を長期間安定して行うことが可能となる。さらに、水中油型乳化物に含まれる、油脂の物理的性状を調整することにより、温度環境に応じて最適な浄化速度、有効期間を有する汚染土壌浄化用栄養剤の提供も可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5