(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(実施の形態例1)
以下、この発明の実施の形態例1のインターネットのためのデータセンタ用換気システムを図に基づいて説明する。この換気システムを実施するIDCの建物Aとしては、
図1及び2に示すように、コンテナ型のIDCであって、高床式の直方体形状の建物である。このIDCを形成する建物Aの内部にICT機器を収納するものとし、床を高床1としている。
【0021】
また、前記IDCに、収納されるICT機器としては、各種のものがあるが、ここでは、代表的な機器としてサーバ2を用いる。
【0022】
また、
図2に示す様に、このサーバ室3の床面の略中央であって、このサーバ室3の長手方向に沿って、前記サーバ2を多段に収納したラック4を6個並べ、これらをラック4(31〜36)とした。そして、これらのラック4にサーバ2を収納した際、当該サーバ2の空気取入方向となる前側(
図1における左側、
図2における下側。以降、この明細書において、前記と同様に、
図2の下側を前側とし、同上側を後側とする。)の床面には、当該複数のラック4に沿って外気流入口5を設けている。また、この外気流入口5には、ダンパを設けて開口面積を変えて風量を調節できるようになっている(図示省略)。
【0023】
さらに、この建物Aの上面上であって、前記複数のラック4のおよそ真上であって、当該ラック4に沿って、外部に突設した角筒形状の換気筒6を立設している。この換気筒6の上部の側面に開口(外気流出口7)を設けている。
【0024】
この場合、前記サーバ2の作動によって高温となった建物A内の空気は、当該空気と建物A外の空気との温度差によって、前記外気流出口7から建物A外へ排気され、これと共に、外部の前記外気流入口5付近に位置する空気が当該外気流入口5からこの建物A内に流入し、これによって当該建物A内の換気が行われる。
【0025】
次に、前記実施例1のIDCの建物Aと従来のコンテナ型のIDCの建物Bとを比較し、自然換気の導入効果を検証する。ここでは、風向及び風速などの外部条件の影響に関して、CFD(Computational Fluid Dynamics/数値流体力学。以下、同じ)解析により比較検証を行った。
【0026】
前記従来のコンテナ型のIDCの建物Bとして、
図3及び
図4に示す様に、実験室実験のモデルを用意した。この従来のIDCの建物Bは、長手方向の相対向する一方の側面の下部であって、当該側面の下端縁に沿って外気流入口11を設け、他方の側面の上部であって、当該側面の上端縁に沿って外気流出口12を設けている。また、この従来のIDCの建物Bは高床式では無く、換気筒は設けていない。また、この建物B内にはサーバ2を多段に収納したラック4を6個並べ、これらをラック4(31〜36)とした。
【0027】
表1に、前記従来のIDCの建物Bの解析条件を示す。また、サーバ2の発熱条件は、実験室実験で使用した模擬負荷サーバを想定し、サーバ吸込み面の境界条件に流入する温度にサーバ発熱量2kw分を昇温させた値をサーバ排気面の境界条件である排気温度とすることで、サーバ2の発熱条件を再現した。また、解析モデルは、対称性を考慮し、実際の大きさの1/2のモデルとした。
【0028】
【表1】
【0029】
前記IDCの建物Bの実験結果とCFD解析結果を
図5に示し、
図4のC−C’断面図における鉛直温度分布を
図6に夫々示す。これらの実験結果とCFD解析結果を比較した場合、前記
図5では、CFD解析結果である右上がりの黒線と、実験結果であるラック4(31〜36)を示すマークがほぼ同じ位置で重なっており、また、前記
図6では、各サーバの吸込み温度が40℃と概ね一致しており、CFD解析は当該実験結果を概ね再現しており、信頼性があることが分かった。
【0030】
さらに、
図7に前記IDCの建物内の熱収支式に基づく評価モデル、評価指標を示す。この評価モデルは、前記サーバ2の上下方向に二層のブロックモデル(Upper Zone、Lower Zone)を想定し、成層効率E(0<E<1)によりICT機器の冷却効果を評価した。成層効率Eが大きい数値ほどサーバ2には低温空気が給気されているので、前記サーバ2にとって良好な環境が形成されていることとなる。
【0031】
また、実際のIDCの建物において、前記サーバ2が正常に作動する室内環境を満足する必要があることから、前記サーバ吸込み温度の管理が重要であるため、複数あるサーバ2の中のサーバ最高吸込み温度θs,maxに基づく成層効率Emaxに着目して検証を行った。
【0032】
さらに、この実施例1のIDCの建物Aの外気流入口5、換気筒6の形状、外気流出口7の開口の流量係数を、従来のIDCの建物Bの圧力損失である、ΔP=600Pa程度と同等となるように算出して各開口に必要な面積を設定した。但し、外気流入口5の開口面積、流量係数については従来のIDCの建物Bと同条件とした。
【0033】
まず、最初に、実施例1のIDCの建物Aと従来のIDCの建物Bにおいて、各風向による自然換気量及び成層効率を調べた。
図8(a)に示す様に、従来のIDCの建物B(13)では、北向きの風向では自然換気量が少なく、南向きの風向では多いと言う様に、風向により自然換気量が変化するのに比べて、実施例1のIDCの建物A(
図8(a)では高床式換気筒モデルと表示、14)では風向による大きな変化は無く、自然換気量も大きく増加していることが分かる。また、
図8(b)に示す様に、成層効率においても、実施例1のIDCの建物A(
図8(b)では高床式換気筒モデルと表示、16)の方が従来の建物B(15)より圧倒的に大きい値を示した。
【0034】
このことにより、この実施例1のIDCの建物Aの方が従来のIDCの建物Bと比べて、風向による自然換気量の変化もかなり少なく、また、成層効率も断然高いことが分かり、この実施例1のIDCの建物Aが、どの風向でも有効な自然換気量が安定して得られることが分かった。これにより、実施例1のIDCの建物Aが従来のIDCの建物Bより有効なことが明らかになった。
【0035】
続いて、この実施例1のIDCの建物Aにおいて、実運用時を想定した表2に示すように、外部風向、床面高さ、換気筒6の外気流出口7の開口面数や位置、床面の外気流入口5の位置、並びに実施例1のIDCの建物Aにおける外気流出口7の面積を外気流入口5の面積で基準化した面積比をパラメータとして、Case−H−1からCaseA
CA
Fまでの16のケースを上げて、CFD解析により、自然換気の導入効果・可能性について検証を行った。
【0036】
【表2】
【0037】
最初に、サーバ室3の、基準面である地面から床面までの高さについて検証した。
図9に示す様に、CaseH−1が3m、CaseH−2が2m、CaseH−3が0.8m及びCaseH−4が0.4mと言う様に床面高さを変化させた場合、CaseH−1、CaseH−2、CaseH−3の相互間においては、圧力損失はほとんど差が無いが、CaseH−4では、急激に圧力損失が高くなっており、床面高さの下限値は、CaseH−3の800mmが適当であり、床面の高さとしては、地上から80cm以上であれば良いことが分かった。
【0038】
また、換気筒6の上部の開口面の数、すなわち、角筒の一方の相対向する側面二面だけに開口を設けたものと、角筒の側面四面に開口面を設けたものとを比べた。
図10に示す様に、開口面数を二面としたCase0−1、Case0−2と、開口面を四面としたCase0−3とを比較した。その結果の自然換気量と鉛直温度分布を
図11に示す。ここでは、開口面数を四面としたCase0−3(18)の方が、開口面数を二面としたCase0−1、Case0−2(17)よりも、自然換気量(
図11(a))が増加しており、また、Case0−2とCase0−3の鉛直温度分布(
図11(b))のサーバ吸込み面においても、Case0−3の方がサーバ吸込み温度の低温化が実現していることが分かった。それ故、換気筒6の開口面は側面四面とした方が良いことが分かった。
【0039】
次に、換気筒6の位置を検証した。建物Aの上面に設ける換気筒6の位置として、
図12に示す様なパターンを用意し検証した。
図12(a)「換気筒A」は、上面の右端の位置としてCasePc−1とした。また、同(b)「換気筒B」は、上面の中央の位置としてCasePc−2した。これらの二つの位置の自然換気量と鉛直温度分布を
図13に示す。同(c)「換気筒C」は、建物A内で6個のラック4に収納されたサーバ2の夫々の真上に直方体形状の換気筒を設けたもので後述するCaseAc−2、CaseAcAfに採用されている。
【0040】
前記
図12(a)「換気筒A」と同(b)「換気筒B」の自然換気量と
図1のB−B’断面の鉛直温度分布を
図13(b)に示す。この
図13(b)を見ると、換気筒の位置を右端にした(a)「換気筒A」(CasePc−1)と、換気筒6を中央にした(b)「換気筒B」(CasePc−2)とを比較した場合、自然換気量、サーバ吸込み温度に大きな変化は見られなかった。これにより、換気筒6の位置が自然換気量に及ぼす影響は小さいことが分かった。また、一般的には、前記換気筒6の開口は大きい方が室内空気を排出する際の抵抗は小さくなるので有効である。
【0041】
また、床面の外気流入口5の位置の検証を行った。サーバ室3の床面の外気流入口5の位置を、
図14に示す様に、(a)「位置A」と(b)「位置B」の2パターンを用意した。「位置A」は、ラック4から離れた箇所の側面に沿ったCaseP
F−1とし、「位置B」は、ラック4の直前(すぐ脇)に設けたCaseP
F−2とした。これら2つの位置の鉛直温度分布を
図15に示す。
【0042】
図14の(c)「位置C」については、外気流入口5の横幅を前記(a)「位置A」及び(b)「位置B」と同様とし、奥行を前記(a)「位置A」又は(b)「位置B」の約2倍としたもので後述するCaseAf−2、CaseAcAfに採用されている。
【0043】
前記
図15を見ると、CaseP
F−1(
図15(a))では、サーバ室3内上部に70℃以上の高温な空気(赤色の箇所)が見られるのに対し、CaseP
F−2(
図15(b))のサーバ室3内上部にその様な高温な空気は見られなかった。CaseP
F−1に対して、CaseP
F−2の自然換気量、サーバ吸込み温度θ
S,maxが大幅に変化し、自然換気量が増加した結果、サーバ吸込み温度を低くすることが可能となることが分かった。このことから、外気流入口5は、CaseP
F−2のラックの直前が良いことが分かった。
【0044】
また、床面の外気流入口5の開口面積を検証した。前記表2に示す外気流出口7の全面積を外気流入口5の面積で割って導き出した値(面積比)を特定し、「0.37」、「0.73」、「1.24」及び「2.47」の4つのケースを用意した。換気筒6は「換気筒B(
図12)」、外気流入口5が「位置B(
図14)」、面積比が「0.73」のCaseA
C−1、換気筒6は「換気筒C(
図12)」、外気流入口5が「位置B(
図14)」、面積比が「2.47」のCaseA
C−2の各断面における鉛直温度分布を
図16に示す。
【0045】
この
図16を見ると、CaseA
C−1(
図16(a))では、サーバ室3内の上部に60℃以上の空気(黄色い箇所)が見られるのに対し、CaseA
C−2(
図16(b))ではその様な空気は見られず、もっと低温な空気となっていることが分かる。このことから、外気流出口7の全面積に対する外気流入口5の面積の面積比は大きい方が有効であることが分かった。
【0046】
また、前述した床面の開口位置による検証に引き続き、さらに、検証を行った。ここでは、床面の開口部の幅は一定とした上で開口面積による変化を「位置B(
図14)」、「位置C(
図14)」について検証する。ここで、床面の開口面積が小さいCaseA
F−1、開口面積を大きくしたCaseA
F−2の各断面における鉛直温度分布を
図17に示す。
【0047】
この
図17を見ると、CaseA
F−1(
図17(a))では、室内の上部に60℃以上の空気(黄色い箇所)が見られるのに対し、CaseA
F−2(
図17(b))ではその様な空気は見られず、もっと低温な空気となっていることが分かる。このことから、床面の外気流入口5の面積が大きい方が有効であることが分かった。
【0048】
換気筒・床面開口部の最適化の検証を行った結果を
図18に示す。これらの各検討ケースの検証結果をまとめると以下のようになる。この実施例1のIDCの最適モデルとしては、
図19及び
図20に示すように、建物Aは、まず、地面からの床面高さは0.8mとする。換気筒6の位置、形状及び大きさは、建物Aの上面の後端縁に沿った直方体形状で、前記6個のラック4の平面を覆う位置及び大きさとし、換気筒6の開口面数は側面全面の四面とする。床面の外気流入口5の位置及び大きさは、6個のラック4の直前であって大きくとっている。また、換気筒6の外気流出口7と床面の外気流入口5の面積比は、換気筒C(
図12、面積:大)/外気流入口の位置C(
図14、面積:大)=1.24とした。
【0049】
また、換気筒6、サーバ2を収納したラック4及び外気流入口5の夫々の位置関係をまとめると、
図19及び
図20に示すように、換気筒6は、サーバ2を収納したラック4の真上の位置に設けられている。これにより、サーバ2から排出された高温な空気が換気筒6を通って外気流出口7から円滑に排出され、建物A内の空気の交換がより早く、確実に行われる。
【0050】
また、換気筒6は、外気流入口5の真上の位置ではなく、真上からずれた位置には設けられている。これにより、外気から流入した低温な空気がそのまま換気筒6を通って排出されると言う事が起こり難く、空気を有効に使用することが出来る。
【0051】
これらのことから、IDCの建物Aに自然換気を導入した場合における最適モデルとして、CaseA
CA
Fを導いた。この最適モデルのCaseA
CA
Fは、
図21(a)に示すように、自然換気量はおよそ5,800m
3/h、サーバ吸込み温度は49.3℃、また、成層効率はおよそ0.4であった。これに対して、従来モデルの建物Bでは、自然換気量はおよそ3,900m
3/h、サーバ吸込み温度は72.4℃、また、成層効率はおよそ0.05であった。また、この最適モデルの鉛直温度分布を同様に示す(
図21(b))。
【0052】
換気筒6の開口面積や床面の外気流入口5の面積を拡大した場合、従来のモデルに対してサーバ吸込み温度約23℃の低温化が可能となることによって、自然換気量も約1.5倍と増加し、成層効率も向上する。
【0053】
この実施例1により以下の効果が得られることが分かった。1)実験結果とCFD結果については概ね再現性が確認できた。2)高床式の換気筒モデルを導入した場合、風向を考慮していない従来のIDCより、自然換気量や成層効率は全方位において飛躍的に向上した。3)換気筒の開口面積や高さを大きくすることで、更なる自然換気量や成層効率の向上に寄与出来る。4)床面の外気流入口の位置はラックに近い程、開口面積を大きくすることで、更なる自然換気量や成層効率の向上に寄与出来る。5)自然換気量や成層効率を更に向上させるためには、サーバ吸込み温度の低温化対策や換気・空調による適切な空気流動の計画が必要である。
【0054】
また、
図22に示す様に、建物Aの外気流入口5からより低温な空気を安定して流入させるために、建物A周囲の地中にアースチューブ23を埋設し、年間を通して安定した地中温度を利用して、このアースチューブ23内を流入して来る空気を使用することも出来る。この場合、アースチューブ23の一方の開口部は外気流入口5に対向した位置に設ける(
図22の矢印は空気の流れを示す。)。
【0055】
また、前記実施の形態例1では、建物Aの床面を上げて高床式としたが、
図23に示すように、床面を地面から上げる代わりに、建物Aの周囲の地面に、一定深さの穴21を掘り、この穴21の中に実施の形態例1の高床式の建物Aを設置することもできる。この場合、前記建物Aの内部において、前記穴21の底面から地上までの高さ部分を空間として、結果的に、高床式とすることとなる。また、前記建物Aは、四辺の各隅の支柱22に支えられ、建物Aの構成は全て実施の形態例1と同じである(
図23の矢印は空気の流れを示す。)。
【0056】
さらに、この場合、
図24に示す様に、穴の中に水を入れて張ることにより夏期の高温な外気を低温化して利用することが出来る。また、この場合の水としては、水道施設から搬送しても良いし、又は雨水を利用しても良い。さらには、河川から引き込んだり、地下水から引き込んでも良い(
図24の矢印は空気の流れを示す。)。
【0057】
また、前記実施の形態例1では、コンテナ型のIDCにおいて説明を行ったが、本願発明が実施出来るものであれば、他のDCでももちろん良い。また、一層(一階)の建物Aを使用して説明したが、本願発明を実施出来るものであれば、
図25に示す様に、建物Aを複数層(複数階)に積み重ねて成る建物Cでももちろん良い。この場合、各階の床面を高床式にし、夫々上階との間部分(例えば、天井裏などの一部)に換気筒24を設け、各階の換気筒24を接続した屋上の換気筒25を設けることになる。この時、各階を貫通する換気筒24は各階を上下一直線状に貫通しており、各階の部屋の排気はこれらを通って屋上の換気筒25から外部へ排出される(
図25の矢印は空気の流れを示す。)。
【0058】
また、ICT機器として、サーバを使用して説明しているが、もちろんサーバに限定するものではなく、本願の発明の実施例1が実施出来るものであれば何でも良い。また、IDCにおいて説明しているが、この実施例1が実施出来るものであればもちろんIDCに限定するものではなく、他のDCにおいても実施できるものである。