(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6374285
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】タングステン化合物の回収方法
(51)【国際特許分類】
C01G 41/00 20060101AFI20180806BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20180806BHJP
C22B 3/00 20060101ALI20180806BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20180806BHJP
C22B 34/36 20060101ALI20180806BHJP
C22B 34/34 20060101ALI20180806BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20180806BHJP
B09B 3/00 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
C01G41/00 CZAB
C22B1/02
C22B3/00
C22B7/00 G
C22B34/36
C22B34/34
C22B1/00 601
B09B3/00 304J
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-202084(P2014-202084)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-69244(P2016-69244A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】河村 寿文
【審査官】
西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−159788(JP,A)
【文献】
特開昭59−150028(JP,A)
【文献】
特開平01−179728(JP,A)
【文献】
特表2010−503521(JP,A)
【文献】
特開昭54−163767(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0243673(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G41/00
C01G39/00
C22B 1/02
C22B 3/00
C22B 7/00
C22B34/34−34/36
B01J21/00−38/74
B09B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデンを0.01〜5質量%含むモリブデン含有タングステン化合物粉を、酸化雰囲気下で酸化温度300〜420℃で1〜20時間加熱することにより酸化処理し、得られた酸化物をアルカリ浸出することにより、酸化物中のモリブデンを浸出後液中に溶解させ、タングステンを含有する浸出残渣を得る工程を含むタングステン化合物の回収方法。
【請求項2】
前記浸出残渣を500〜900℃で更に酸化処理することにより、アルカリ可溶な酸化タングステンを生成させる工程を更に含む請求項1に記載のタングステン化合物の回収方法。
【請求項3】
前記酸化タングステンをアルカリ浸出して、得られたアルカリ浸出残渣を酸処理することにより、タングステン酸を形成させる工程を更に含む請求項2に記載のタングステン化合物の回収方法。
【請求項4】
前記モリブデン含有タングステン化合物粉が、超硬工具の加工製造時に発生する粉末屑又は切削屑を含むソフトスクラップ又は半導体ターゲット材の研削屑を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のタングステン化合物の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステン化合物の回収方法に関し、特に、モリブデンを含むタングステンスクラップ粉からモリブデンを除去したタングステン化合物を回収可能なタングステン化合物の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属加工用切削工具の材料として使用される超硬工具には、タングステン、コバルトなどが使用されている。その廃超硬工具(以下「Wスクラップ」という)のリサイクル方法としては、亜鉛処理法、酸化−湿式法などが知られている。
【0003】
亜鉛処理法では、Wスクラップと亜鉛を不活性ガス雰囲気下で加熱し、亜鉛を溶融させることにより亜鉛合金を形成させ、亜鉛合金から亜鉛を減圧蒸発させることによって亜鉛を分離除去し、亜鉛を分離除去後のWスクラップを粉砕させる方法である。この方法は、工程自体は簡単であるが、合金組成の調整や不純物除去ができないため、タングステンの高純度化を図ることが困難である。
【0004】
酸化−湿式法は、Wスクラップを焙焼処理し、これをアルカリ浸出した後に、酸によりアルカリ浸出残渣を溶解してタングステン酸を形成させ、タングステン酸をアンモニア水で溶解してパラタングステン酸アンモニウム(APT)を作製する方法である。この方法は、スクラップ中の不純物を湿式処理により構成成分毎に分離除去できることから、高純度のタングステン酸結晶を得る方法として有用である。
【0005】
しかしながら、Wスクラップ中に不純物として含まれるモリブデンは、タングステンと性質が似通っているため、タングステンとモリブデンとを含むWスクラップからモリブデンを選択的に除去することが非常に難しい。そのため、従来から種々の検討がなされてきた。
【0006】
例えば、特開2010−229017号公報(特許文献1)には、タングステン酸アンモニウム溶液に硫化物及び銅化合物を添加して液中のモリブデンを沈殿させ、沈殿を固液分離してモリブデンを除去し、ろ液に酸化剤を添加してろ液中の銅イオンを沈殿させ、沈殿を固液分離したろ液からパラタングステン酸アンモニウムを晶析させる高純度パラタングステン酸アンモニウムの製造方法が提案されている。
【0007】
また、特開平8−2920号公報には、メタタングステン酸アンモニウムを水に溶解して含タングステン水溶液を生成し、この溶液にアンモニアを添加してパラタングステン酸アンモニウムを析出させ、固液分離操作後無機酸を添加して含タングステン水溶液として再度溶解し、この溶液に無機酸を添加してタングステン酸結晶を析出させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−229017号公報
【特許文献2】特開平8−2920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1及び2に提案されるような方法では、モリブデンを含むWスクラップからモリブデンを除去するために、硫化や再精製などの追加工程が必要であるために処理が複雑となり、コストや生産効率面を考慮すると、必ずしも有利な方法とは言えない。
【0010】
上記課題を鑑み、本発明は、モリブデンを含むタングステンスクラップから、より簡単な方法でモリブデンを除去でき、高純度なタングステン化合物を高収率で得ることが可能なタングステン化合物の回収方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、モリブデン含有タングステン化合物粉(タングステンスクラップ粉)に所定の熱処理を加えた後に、湿式処理をすることによって、モリブデンを選択的且つ簡便に分離除去でき、その結果、高純度なタングステン化合物が高収率で得られることを見いだした。
【0012】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、モリブデン含有タングステン化合物粉を、モリブデンの酸化開始温度以上且つタングステンの酸化開始温度未満で酸化処理し、得られた酸化物をアルカリ浸出することにより、酸化物中のモリブデンを浸出後液中に溶解させ、タングステンを含有する浸出残渣を得る工程を含むタングステン化合物の回収方法である。
【0013】
本発明に係るタングステン化合物の回収方法は一実施態様において、上記酸化処理の酸化温度が300〜420℃である。
【0014】
本発明に係るタングステン化合物の回収方法は別の一実施態様において、浸出残渣をタングステンの酸化開始温度以上で更に酸化処理することにより、アルカリ可溶な酸化タングステンを生成させる工程を更に含む。
【0015】
本発明に係るタングステン化合物の回収方法は更に別の一実施態様において、酸化タングステンを生成させる工程が、浸出残渣を500〜900℃で加熱することを含む。
【0016】
本発明に係るタングステン化合物の回収方法は更に別の一実施態様において、酸化タングステンをアルカリ浸出して、得られたアルカリ浸出残渣を酸処理することにより、タングステン酸を形成させる工程を更に含む。
【0017】
本発明に係るタングステン化合物の回収方法は更に別の一実施態様において、モリブデン含有タングステン化合物粉が、超硬工具の加工製造時に発生する粉末屑及び切削屑を含むソフトスクラップ又は半導体ターゲット材の研削屑を含む。
【0018】
本発明に係るタングステン化合物の回収方法は更に別の一実施態様において、モリブデン含有タングステン化合物粉が、モリブデンを0.01〜5質量%含有することを含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、モリブデンを含むタングステンスクラップから、より簡単な方法でモリブデンを除去でき、高純度なタングステン化合物を高収率で得ることが可能なタングステン化合物の回収方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態に係るモリブデン含有タングステン化合物の回収方法を表すフロー図である。
【
図2】モリブデンとタングステンの酸化の違いを表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態に係るタングステン化合物の回収方法の代表的なフロー図を
図1に示す。本実施形態に係るタングステン化合物の回収方法は、モリブデン含有タングステン化合物粉を、モリブデンの酸化開始温度以上且つタングステンの酸化開始温度未満で酸化処理し、得られた酸化物をアルカリ浸出することにより、酸化物中のモリブデンを浸出後液中に溶解させ、タングステンを含有する浸出残渣を得る工程を含む。
【0022】
処理対象とする「モリブデン含有タングステン化合物粉」としては、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)を含有する材料であれば特に限定されない。典型的には、モリブデンを0.01〜5質量%含有するタングステン化合物粉を意味する。具体的には、超硬工具の加工製造時に発生する粉末屑又は切削屑からなるソフトスクラップ粉を処理対象とすることができる。或いは、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)を含有する半導体ターゲット材の研削屑からなる化合物粉等を処理対象としてもよい。モリブデン含有タングステン化合物粉としては、以下に限定されないが、典型的には、粒径10mm以下、より好ましくは粒径1mm以下、更に好ましくは粒径0.1mm以下の一次粒子からなる材料が好適に利用可能である。切削屑がコイル状であっても最大直径が数mm以下の細径材料であれば、本実施形態の処理対象とするモリブデン含有タングステン化合物粉として含まれることとする。
【0023】
図1に示すように、まず、モリブデン含有タングステン化合物粉を大気中で酸化処理して、酸化物を得る(第1酸化)。第1酸化処理の酸化温度はモリブデンの酸化開始温度以上且つタングステンの酸化開始温度未満とする。MoとWは酸アルカリ耐性が強く、そのもの自体は溶解しないが、それらの酸化物はアルカリに溶解する。鋭意検討の結果、酸化開始温度がMoの方が低いことを利用し、Wが酸化しない温度で処理することで、Wを酸化させずにMoのみを選択的に酸化させて酸化モリブデンを生成させることで、その後のアルカリ浸出において、MoをMo酸アルカリとして溶解除去できるというものである。
【0024】
具体的には、第1酸化処理の酸化処理温度を300〜420℃とすることが好ましく、より好ましくは330〜400℃、更に好ましくは350〜370℃である。第1酸化処理の酸化処理温度が低すぎるとMoが酸化せず、MoとWの分離が困難となる。一方、第1酸化処理の酸化処理温度が高すぎるとWも酸化してしまうため、MoとWの分離が困難となる。
【0025】
酸化処理時間は、処理対象とするモリブデン含有タングステン化合物粉によって異なるが、酸化雰囲気で、概ね1時間から20時間、好ましくは5時間から10時間である。処理時間が短いとMo酸化が十分ではないためアルカリに溶解できない場合がある。処理時間が長すぎるのは、処理上は特に問題ないが、高い生産効率が得られない場合がある。
【0026】
次に、第1酸化処理で得られた酸化物をアルカリ浸出し、浸出後液と浸出残渣とに固液分離する(アルカリ浸出)。アルカリ浸出に用いられる溶液としては、例えば水酸化ナトリウム溶液が利用可能である。このアルカリ浸出によって浸出後液中にはモリブデンが溶解し、タングステンは溶解せずに浸出残渣に残る。
【0027】
次に、アルカリ浸出工程で得られたタングステンを含む浸出残渣を大気中で酸化処理することにより酸化タングステンを得る(第2酸化)。第2酸化処理の酸化温度は、タングステンの酸化開始温度以上で酸化処理する。ここで、酸化処理温度が低すぎると酸化タングステンの生成が不十分で、タングステンがアルカリ可溶な形態にならない場合がある。酸化処理温度が高すぎると、生成した酸化タングステンの結晶化が進みすぎて、アルカリに溶解しにくくなる場合がある。第2酸化処理の酸化温度は、浸出残渣を500〜900℃で加熱することが好ましく、より好ましくは600〜800℃である。酸化処理時間は、処理対象とする酸化タングステンによって異なるが、概ね1時間から20時間、好ましくは5時間から10時間である。
【0028】
次に、第2酸化処理で得られた酸化物をアルカリ浸出して、酸化物中のタングステンを溶解させ、W酸アルカリ液を得る(アルカリ浸出)。例えば、アルカリとして水酸化ナトリウム溶液を使用し、酸化物からタングステンナトリウム(Na
2WO
4)溶液を生成させる。このNa
2WO
4溶液に塩化カルシウムを加えてCa
2WO
4とし、更に塩酸を加えた酸処理によって、タングステン酸を形成させる(酸処理)。このタングステン酸をアンモニア水で溶解して(アルカリ溶解)、W酸アンモニウムを形成させ、これを中和することによって、パラタングステン酸アンモニウム(APT)結晶を生成させる。
【0029】
本発明の実施の形態に係るタングステンの回収方法によれば、モリブデン含有タングステン化合物粉を酸化−湿式法で処理する際に、モリブデン含有タングステン化合物粉の酸化焙焼工程において、まず、モリブデンの酸化開始温度以上且つタングステンの酸化開始温度未満で第1酸化処理を実施する。これにより、互いに性質が類似するタングステンとモリブデンのうち、モリブデンのみを選択的にアルカリ可溶な形態とすることができるため、モリブデン含有タングステン化合物粉からより簡単な方法でモリブデンを除去することができる。また、本方法によって回収されるタングステン酸中のモリブデン濃度は典型的には200ppm以下、より典型的には50ppm以下、更に好適な例では20ppm以下にまで低減することができるため、不純物の少ない高純度なタングステン化合物が高収率で得られる。
【実施例】
【0030】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0031】
<実施例1>
Moを1000ppm、Wを98質量%含有し、不純物としてCuを2000ppm、Niを1000ppm、Feを3000ppm含有するモリブデン含有タングステン化合物粉を用意した。この化合物粉は一次粒子がおよそ1mm以下の粉状物であった。このモリブデン含有タングステン化合物粉10kgを酸化雰囲気の下、370℃で10時間、第1酸化処理をし、処理物(酸化物)を10.1kgほど得た。この酸化物を苛性ソーダに溶解し、ろ過洗浄残渣を9.9kgほど得た。続いて、ろ過残渣を酸化雰囲気中で700℃で10時間酸化処理し、酸化タングステンを12kgほど得た。更に苛性ソーダ溶解、塩酸処理を実施し、タングステン酸を9kgほど得た。そのタングステン酸品位は、タングステン品位が99.99質量%で、Moが20ppmと低いものだった。
【0032】
<実施例2>
Moを2000ppm、Wを98質量%含有し、不純物としてCuを2000ppm、Niを1000ppm、Feを3000ppm含有するモリブデン含有タングステン化合物粉を用意した。この化合物粉は一次粒子がおよそ1mm以下の粉状物であった。このモリブデン含有タングステン化合物粉10kgを酸化雰囲気の下、400℃で5時間、第1酸化処理をし、処理物(酸化物)を10.5kgほど得た。酸化物を苛性ソーダに溶解し、ろ過洗浄残渣を9.5kgほど得た。続いて、ろ過残渣を酸化雰囲気中で700℃で10時間酸化処理し、酸化タングステンを11.5kgほど得た。苛性ソーダ溶解、塩酸処理を実施しタングステン酸を8.5kgほど得た。そのタングステン酸品位は、タングステン品位が99.98質量%で、Moが18ppmと低いものだった。
【0033】
<実施例3>
第1酸化処理を320℃で酸化処理した以外、実施例1と同様な処理を行った。処理物は10.02kgとなった。苛性ソーダに溶解したところ、ろ過洗浄残渣は、10kg程得た。ここから得られたタングステン酸は、収量は9kg程で、タングステン品位が99.97質量%で、Mo品位が200ppmであった。
【0034】
<比較例1>
第1酸化処理を470℃で酸化処理した以外、実施例1と同様な処理を行った。処理物は11kgとなった。苛性ソーダに溶解したところ、ろ過洗浄残渣は、7kgと低いものだった。ここから得られたタングステン酸は、Mo品位が15ppmと低くタングステン品位が99.99質量%と高かったが、収量が5.5kgと非常に低いものだった。
【0035】
<比較例2>
第1酸化処理を250℃で酸化処理した以外、実施例1と同様な処理を行った。処理物は10kgとほとんど酸化されなかった。苛性ソーダに溶解したところ、ろ過洗浄残渣は、10kgほどだった。ここから得られたタングステン酸は、収量は9kgほどだったが、Mo品位が900ppmと原料粉と同様高いままだった。
【0036】
<比較例3>
第2酸化処理を1000℃で酸化処理した以外、実施例1と同様な処理を行った。酸化タングステンは、12kgほど得た。苛性ソーダ溶解をしたが、半分程度しか溶解しなかった。塩酸処理を実施し、タングステン酸は4kgほどしか得られなかった。
【0037】
<WとMoの酸化温度試験結果>
タングステンとモリブデンの酸化状況の違いを評価した。
図2に結果を示す。
図2では、モリブデン試薬粉(粒径0.1mm以下)とタングステン試薬粉(粒径0.1mm以下)を空気雰囲気中で20℃/分の昇温温度で室温から360℃まで昇温後、そのまま360℃の一定温度で600分保持(酸化した)場合のサンプル重量変化を熱重量測定(TGA)により測定した結果を示している。
【0038】
図2に示すように、タングステンは360℃で600分酸化しても、0.5wt%ほどしか酸化増量せず、酸化が殆どみられなかった。一方、モリブデンは酸化により8wt%増量し、その傾きからまだ、600分経過後もまだ酸化が進行するものと予想できる。