(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を超純水で分散させた溶出液に溶出するリチウムイオンが前記リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体に対する質量比で500ppm以上、5000ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体。
前記リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を超純水で分散させた溶出液に溶出する前記リチウムイオンと前記フッ素イオンとの質量比(フッ素イオンの質量/リチウムイオンの質量)が、0.1以上、10以下であることを特徴とする請求項2に記載のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体。
X線回折測定により、2θの値が20°以上、40°以下の範囲にリン酸リチウムに相当するピークが見られることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体。
平均粒子径が、0.5μm以上、50.0μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体。
前記リン酸バナジウムリチウム前駆体が、電気化学的にリチウムが引き抜かれていることを特徴とする請求項7に記載のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体の製造方法。
前記リン酸バナジウムリチウム前駆体が、厚みが1.0mm以上で成型されてから、電気化学的にリチウムが引き抜かれていることを特徴とする請求項7に記載のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の方法で製造されるリン酸バナジウムリチウム(Li
3V
2(PO
4)
3)炭素複合体は、導電性炭素材料との複合物であり、製造工程が複雑化して、加工費が高くなるという問題があった。加工費を安価にするためには、5価のバナジウムからなる原料(V
2O
5)を用いて、リン酸バナジウムリチウムを合成するのが好ましい。しかしながら、5価のバナジウムの原料を用いると、原料自体が高価であり、また、バナジウムを5価から還元せねばならず、採算が得られないという問題があった(特許文献3参照)。
【0009】
特許文献4では、導電性カーボンで被覆されたリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を提案しており、このリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を5価のバナジウムからなるV
2O
5原料から合成することが記載されているが、このようにして製造したリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を電気化学デバイスの正極活物質として用いても、充放電容量の点でまだ十分とは言えないという問題があった。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、電気化学デバイスの正極の活物質として用いたときに、高い充放電容量が得られるリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、電気化学デバイスの正極の活物質に用いられる、リン酸バナジウムリチウムの表面が炭素被覆されたリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体であって、前記リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を超純水で分散させた溶出液に溶出するフッ素イオンが前記リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体に対する質量比で500ppm以上、15000ppm以下であり、前記リン酸バナジウムリチウムの組成が下記一般式(1):
Li
3−xV
2−zM
z(PO
4−aF
a)
3(−0.1≦x<3、0≦z<2、0≦a≦4)・・・(1)
(式中、MはMn、Ni、Co、Fe、Cr、Al、Nb、Ti、Cu、Znの群から選ばれる1種以上の金属元素を示す。)で表わされるものであることを特徴とするリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を提供する。
【0012】
このようなリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体であれば、電気化学デバイスの正極の活物質として用いたときに、リチウムイオンの脱挿入が円滑になり、それによりリチウムイオンを安定して適宜供給することができるので、充放電容量を高くすることができる。
【0013】
このとき、前記リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を超純水で分散させた溶出液に溶出するリチウムイオンが前記リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体に対する質量比で500ppm以上、5000ppm以下であることが好ましい。
【0014】
超純水で分散させたときに溶出液に溶出するリチウムイオンがリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体に対する質量比で上記の範囲であれば、電気化学デバイスの正極の活物質として用いたときに、充放電容量をより効果的に高くすることができる。
【0015】
このとき、前記リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を超純水で分散させた溶出液に溶出する前記リチウムイオンと前記フッ素イオンとの質量比(フッ素イオンの質量/リチウムイオンの質量)が、0.1以上、10以下であることが好ましい。
【0016】
このような溶出するリチウムイオンとフッ素イオンとの質量比(フッ素イオンの質量/リチウムイオンの質量)が上記の範囲であれば、電気化学デバイスの正極の活物質として用いたときに、充放電容量をより確実に高くすることができる。
【0017】
このとき、リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体は、X線回折測定により、2θの値が20°以上、40°以下の範囲にリン酸リチウムに相当するピークが見られることが好ましい。
【0018】
このようなX線回折パターンを有するリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体であれば、電気化学デバイスの正極の活物質として用いたときに、充放電容量をより確実に高くすることができ、電気化学デバイスの正極活物質に好適に用いることができる。
【0019】
このとき、リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体は、平均粒子径が、0.5μm以上、50.0μm以下であることが好ましい。
【0020】
このようなリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体の平均粒子径が上記の範囲であれば、電気化学デバイスの正極の活物質として用いたときに、充放電容量をより効果的に高くすることができる。
【0021】
このとき、リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体は、BET比表面積が1.0m
2/g以上、50.0m
2/g以下であることが好ましい。
【0022】
リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体のBET比表面積が上記の範囲であれば、電気化学デバイスの正極の活物質として用いたときに、充放電容量をより効果的に高くすることができる。
【0023】
また、本発明は、組成が下記一般式(1):
Li
3−xV
2−zMz(PO
4−aF
a)
3(−0.1≦x<3、0≦z<2、0≦a≦4)・・・(1)
(式中、MはMn、Ni、Co、Fe、Cr、Al、Nb、Ti、Cu、Znの群から選ばれる1種以上の金属元素を示す。)で表わされるリン酸バナジウムリチウムの表面が炭素被覆されたリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を製造する方法であって、組成が下記一般式(2):
Li
3−yV
2−zM
z(PO
4−bF
b)(x<y<3、0≦z<2、0≦b≦4)・・・(2)
(式中、MはMn、Ni、Co、Fe、Cr、Al、Nb、Ti、Cu、Znの群から選ばれる1種以上の金属元素を示す。)で表わされるリチウムが引き抜かれたリン酸バナジウムリチウム前駆体をリチウム化合物と混合して、反応させる工程を有し、前記リン酸バナジウムリチウム前駆体として炭素被覆されたものを用いるか、又は、前記リン酸バナジウムリチウム前駆体若しくは前記リン酸バナジウムリチウムに対して炭素被覆する工程を有し、前記リン酸バナジウムリチウム前駆体、又は、前記リチウム化合物として、フッ素を含むものを用いることで、製造された前記リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体が、超純水で分散させた際に溶出液に溶出するフッ素イオンを前記リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体に対する質量比で500ppm以上、15000ppm以下とすることを特徴とするリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体の製造方法を提供する。
【0024】
このような製造方法であれば、リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を超純水で分散させた溶出液に溶出するフッ素イオンがリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体に対する質量比で所定の範囲になるリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を確実に製造することができる。
【0025】
このとき、前記リン酸バナジウムリチウム前駆体が、電気化学的にリチウムが引き抜かれていることが好ましい。
【0026】
リチウムを引き抜く方法として、このような方法を好適に用いることができる。
【0027】
このとき、前記リン酸バナジウムリチウム前駆体が、厚みが1.0mm以上で成型されてから、電気化学的にリチウムが引き抜かれていることが好ましい。
【0028】
リン酸バナジウムリチウム前駆体が上記の厚みで成型されていれば、ハンドリングを容易に行うことができる。
【0029】
このとき、前記リチウム化合物は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を含んでいることが好ましい。
【0030】
リン酸バナジウムリチウム前駆体と反応させるリチウム化合物として、六フッ化リン酸リチウムを含むものを用いることで、リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体にフッ素を含ませることができる。
【0031】
このとき、前記リチウム化合物は、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)を含んでいることが好ましい。
【0032】
リン酸バナジウムリチウム前駆体と反応させるリチウム化合物として、四フッ化ホウ酸リチウムを含むものを用いることで、リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体にフッ素を含ませることができる。
【0033】
このとき、前記反応させる工程が、焼成する段階を含み、前記焼成する段階において、焼成温度が700℃以上、1050℃以下であることが好ましい。
【0034】
リン酸バナジウムリチウム前駆体とリチウム化合物とを反応させる方法として、上記の温度範囲で焼成を行う方法を好適に用いることができる。
【0035】
このとき、前記反応させる工程が、焼成する段階を含み、前記焼成する段階において、窒素雰囲気又はアルゴン雰囲気で焼成することが好ましい。
【0036】
窒素雰囲気又はアルゴン雰囲気で焼成を行うことで、リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体の酸化を防止することができる。
【0037】
このとき、前記反応させる工程が、焼成する段階を含み、前記焼成する段階において、水素と窒素の混合ガス雰囲気で焼成することが好ましい。
【0038】
水素と窒素の混合雰囲気で焼成を行うことで、リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体の酸化を更に防止することができる。
【0039】
また、本発明は、電気化学デバイスの負極活物質として用いたときに放電効率が90%以下である負極活物質粒子を含有する負極活物質層を含む負極と、
上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を含有する正極活物質層を含む正極と
を有することを特徴とする電気化学デバイスを提供する。
【0040】
このようなこのような電気化学デバイスであれば、高い充放電容量を有するものとすることができる。
【0041】
また、本発明は、組成式がSiO
x(0.5≦x<1.6)で表される酸化珪素を含有する負極活物質粒子を含有する負極活物質層を含む負極と、上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を含有する正極活物質層を含む正極とを有することを特徴とする電気化学デバイスを提供する。
【0042】
このような電気化学デバイスであれば、高い充放電容量を有するものとすることができる。
【0043】
また、本発明は、リチウムイオン二次電池の負極活物質として用いたときに放電効率が90%以下である負極活物質粒子を含有する負極活物質層を含む負極と、上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を含有する正極活物質層を含む正極とを有することを特徴とするリチウムイオン二次電池を提供する。
【0044】
このようなリチウムイオン二次電池であれば、高い充放電容量を有するものとすることができる。
【0045】
また、本発明は、組成式がSiOx(0.5≦x<1.6)で表される酸化珪素を含有する負極活物質粒子を含有する負極活物質層を含む負極と、上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を含有する正極活物質層を含む正極とを有することを特徴とするリチウムイオン二次電池を提供する。
【0046】
このようなリチウムイオン二次電池であれば、高い充放電容量を有するものとすることができる。
【発明の効果】
【0047】
以上のように、本発明のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体であれば、電気化学デバイスの正極の活物質として用いたときに、リチウムイオンの脱挿入が円滑になり、それによりリチウムイオンを安定して適宜供給することができるので、充放電容量を高くすることができる。また、本発明のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体の製造方法によれば、リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を超純水で分散させた溶出液に溶出するフッ素イオンがリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体に対する質量比で所定の範囲になるリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を確実に製造することができる。さらに、本発明の電気化学デバイスであれば、高い充放電容量を有するものとすることができる。また、本発明のリチウムイオン二次電池であれば、高い充放電容量を有するものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0050】
上述したように、導電性カーボンで被覆されたリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を5価のバナジウムからなるV
2O
5原料から合成することが特許文献4に記載されているが、このようにして製造したリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を電気化学デバイスの正極活物質として用いても、充放電容量の点でまだ十分とは言えないという問題があった。
【0051】
そこで、本発明者らは、電気化学デバイスの正極活物質として用いたときに高い充放電容量が得られるリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体について鋭意検討を重ねた。その結果、リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を超純水で分散させた溶出液に溶出するフッ素イオンが前記リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体に対する質量比で500ppm以上、15000ppm以下であるようなリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体であれば、電気化学デバイスの正極活物質として用いたときに高い充放電容量が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0052】
まず、本発明のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体について説明する。
【0053】
本発明のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体は、電気化学デバイスの正極の活物質に用いられる、リン酸バナジウムリチウムの表面が炭素被覆されたリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体であって、超純水で分散させたときに濾過した溶出液に溶出するフッ素イオンがリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体に対する質量比で500ppm以上、15000ppm以下、より好ましくは1000ppm以上、15000ppm以下、さらに好ましくは、1500ppm以上、15000ppm以下であり、リン酸バナジウムリチウムの組成が下記一般式(1):
Li
3−xV
2−zM
z(PO
4−aF
a)
3(−0.1≦x<3、0≦z<2、0≦a≦4)・・・(1)
(式中、MはMn、Ni、Co、Fe、Cr、Al、Nb、Ti、Cu、Znの群から選ばれる1種以上の金属元素を示す。)
で表わされるものである。ここで、xは0≦x<0.5であることがより好ましく、0≦x<0.3であることがさらに好ましい。また、zは0≦z<0.7であることがより好ましく、0≦z<0.4であることがさらに好ましい。
【0054】
このようなリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体であれば、電気化学デバイスの正極の活物質として用いたときに、リチウムイオンの脱挿入が円滑になり、それによりリチウムイオンを安定して適宜供給することができるので、充放電容量を高くすることができる。溶出するフッ素イオンは、複合体表面にLiFの形で含まれていると考えられる。ただし、本発明において重要なのは、フッ素イオンを上記のように溶出させた際の量が上記規定の範囲内にあることである。フッ素は母材に固溶している場合もある。
【0055】
上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体は、超純水で分散させたときに濾過した溶出液に溶出するリチウムイオンがリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体に対する質量比で500ppm以上、5000ppm以下であるものであることが好ましく、600ppm以上、5000ppm以下であることがより好ましく、1000ppm以上、5000ppm以下であることがさらに好ましい。
【0056】
超純水で分散させたときに濾過した溶出液に溶出するリチウムイオンがリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体に対する質量比で上記の範囲であれば、電気化学デバイスの正極の活物質として用いたときに、充放電容量をより効果的に高くすることができる。
【0057】
上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を超純水で分散させた溶出液に溶出する前記リチウムイオンと前記フッ素イオンとの質量比(フッ素イオンの質量/リチウムイオンの質量)が、0.1以上、10以下であることが好ましく、0.5以上、8以下であることがより好ましい。
【0058】
溶出するリチウムイオンとフッ素イオンとの質量比(フッ素イオンの質量/リチウムイオンの質量)が上記の範囲であれば、電気化学デバイスの正極の活物質として用いたときに、充放電容量をより確実に高くすることができる。ここで、フッ素イオンの溶出量は、例えば、リン酸バナジウムリチウム前駆体とリチウム化合物を反応させる際にフッ素を含有した電解液量を制御することで、制御できる。すなわち、フッ素が不足する場合には、電解液を足して再生し、フッ素が過剰な場合には、遠心分離等で電解液を放出させれば、フッ素イオンの溶出量を制御することができる。リチウムイオンの溶出量は、例えば、フッ素イオンの溶出量が決まれば、電解液以外のリチウム源の量、焼成温度、等で制御することができる。
【0059】
上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体は、X線回折測定により、2θの値が20°以上、40°以下の範囲にリン酸リチウムに相当するピークが見られるものであることが好ましく、また、得られるリン酸リチウムに相当するピーク強度が小さいことがより好ましい。
【0060】
このようなX線回折パターンを有するリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体であれば、電気化学デバイスの正極の活物質として用いたときに、充放電容量をより確実に高くすることができ、電気化学デバイスの正極活物質に好適に用いることができ、得られるリン酸リチウムに相当するピーク強度が検出限界程度に小さければ、充放電容量の減少を防止することができる。
【0061】
上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体の平均粒子径(メジアン径)が、0.5μm以上、50μm以下であることが好ましく、1μm以上、20μm以下であることがより好ましい。ここで、平均粒子径の基準は体積基準である。
【0062】
上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体の平均粒子径が上記の範囲であれば、電気化学デバイスの正極の活物質として用いたときに、充放電容量をより効果的に高くすることができる。
【0063】
上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体のBET比表面積が1.0m
2/g以上、50.0m
2/g以下であることが好ましく、5.0m
2/g以上、50.0m
2/g以下であることがより好ましく、10.0m
2/g以上、50.0m
2/g以下であることがさらに好ましい。ここで、BET比表面積とは、BET法(窒素等の気体粒子を固体粒子に吸着させ、吸着した量から表面積を測定する方法)で求めた単位質量当たりの表面積を意味する。
【0064】
上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体のBET比表面積が上記の範囲であれば、電気化学デバイスの正極の活物質として用いたときに、充放電容量をより効果的に高くすることができる。
【0065】
上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体は、導電性炭素材料の含有量が0質量%より大きく、20質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上、20質量%以下であることがより好ましく、2質量%以上、20.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0066】
導電性炭素材料の含有量が上記の範囲であれば、電気化学デバイスの正極の活物質として用いたときに、充放電容量をより確実に高くすることができる。
【0067】
上記で説明したリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体であれば、電気化学デバイスの正極の活物質として用いたときに、リチウムイオンの脱挿入が円滑になり、それによりリチウムイオンを安定して適宜供給することができるので、充放電容量を高くすることができる。
【0068】
次に、本発明のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体の製造方法について説明する。
【0069】
本発明のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体の製造方法は、組成が下記一般式(1):
Li
3−xV
2−zMz(PO
4−aF
a)
3(−0.1≦x<3、0≦z<2、0≦a≦4)・・・(1)
(式中、MはMn、Ni、Co、Fe、Cr、Al、Nb、Ti、Cu、Znの群から選ばれる1種以上の金属元素を示す。)で表わされるリン酸バナジウムリチウムの表面が炭素被覆されたリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を製造する方法であって、組成が下記一般式(2):
Li
3−yV
2−zM
z(PO
4−bF
b)(x<y<3、0≦z<2、0≦b≦4)・・・(2)
(式中、MはMn、Ni、Co、Fe、Cr、Al、Nb、Ti、Cu、Znの群から選ばれる1種以上の金属元素を示す。)で表わされるリチウムが引き抜かれたリン酸バナジウムリチウム前駆体をリチウム化合物と混合して、反応させる工程を有し、前記リン酸バナジウムリチウム前駆体として炭素被覆されたものを用いるか、又は、前記リン酸バナジウムリチウム前駆体若しくは前記リン酸バナジウムリチウムに対して炭素被覆する工程を有し、前記リン酸バナジウムリチウム前駆体、又は、前記リチウム化合物として、フッ素を含むものを用いることで、製造された前記リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体が、超純水で分散させた際に溶出液に溶出するフッ素イオンを前記リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体に対する質量比で500ppm以上、15000ppm以下とするものである。ここで、xは0≦x<0.5であることがより好ましく、0≦x<0.3であることがさらに好ましい。また、yは0<y<2.4がより好ましく、0<y<1.8がさらに好ましい。さらに、zは0≦z<0.7であることがより好ましく、0≦z<0.4であることがさらに好ましい。
【0070】
このような製造方法であれば、リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を超純水で分散させた溶出液に溶出するフッ素イオンがリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体に対する質量比で前述の所定の範囲になるリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を確実に製造することができる。また、リチウムが引き抜かれたリン酸バナジウムリチウム炭素複合前駆体は価数が5価のVを含んでおり、再生が難しいが、原料として用いれば、電気化学的に使用されたリン酸バナジウムリチウムを再生でき、コスト競争力のあるリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体が製造することができる。さらに、このような製造方法であれば、使用されるリチウム化合物の量を少なくすることができるので、安価にリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を製造することができる。
【0071】
上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体の製造方法において、リチウムが引き抜かれたリン酸バナジウムリチウム前駆体とは、例えば、使用された充放電後の電極から有機溶媒を用いて溶かして取り出したもの、化学的にリチウムを抽出されたもの、高温での焼成によってリチウムイオンが飛散してしまった状態、充放電によって粉体またはペレットからリチウムを引き抜いた後の状態のもの、等である。リン酸バナジウムリチウム前駆体は炭素被覆されたものであってもよい。リチウムが一部抜けたリン酸バナジウムリチウム前駆体を用いれば、リチウムが一部残っているので、共沈体の原料を用いた場合より、リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体の生成が容易であり、さらに、使用されるリチウム化合物の量が少なくできて、安価にリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を製造できる。リン酸バナジウムリチウム前駆体Li
3−yV
2−zM
z(PO
4−bF
b)
3は、充放電により元の状態に戻った状態Li
3−yV
2−zMz(PO
4−bF
b)
3(y=0)の状態から再生しても良い。
【0072】
上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体の製造方法において、リン酸バナジウムリチウム前駆体が、電気化学的に(具体的には、充放電により)リチウムが引き抜かれていることが好ましい。
【0073】
リチウムを引き抜く方法として、このような方法を好適に用いることができる。これはリチウムの引き抜きが容易であるからである。
【0074】
上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体の製造方法において、リン酸バナジウムリチウム前駆体が、厚みが1.0mm以上、より好ましくは5.0mm以上で成型されてから、電気化学的にリチウムが引き抜かれていることが好ましい。
【0075】
リン酸バナジウムリチウム前駆体が上記の厚みで成型されていれば、ハンドリングを容易に行うことができる。
【0076】
上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体の製造方法において、リチウム化合物は、例えば、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム、シュウ酸リチウム、リン酸リチウム、六フッ化リン酸リチウム、4フッ化ホウ酸リチウム、等が挙げられるが、好ましくは水酸化リチウム、より好ましくは水酸化リチウムと六フッ化リン酸リチウム、又は、水酸化リチウムと4フッ化ホウ酸リチウムの混合体であり、さらに好ましくは水酸化リチウムと六フッ化リン酸リチウムの混合体である。
【0077】
水酸化リチウムは、工業的に容易に入手できて、反応性に富み、安価であるので特に好ましい。また、六フッ化リン酸リチウム、4フッ化ホウ酸リチウム電解液に電解質として含まれている良好なリチウム伝導体であり、優れた充放電容量を得るための理想的なリチウム化合物である。
【0078】
上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体の製造方法において、反応させる工程が、焼成する段階を含み、焼成する段階において、焼成温度が700℃以上、1050℃以下であることが好ましく、750℃以上、1000℃以下であることがより好ましく、800℃以上、1000℃以下であることがさらに好ましい。
【0079】
リン酸バナジウムリチウム前駆体とリチウム化合物とを反応させる方法として、上記の温度範囲で焼成を行う方法を好適に用いることができる。また、焼成時間は1時間以上、50時間以下が好ましく、2時間以上、15時間以下がより好ましく、2時間以上、8時間以下がさらに好ましい。さらに、焼成の前に仮焼工程を入れるのが好ましく、仮焼温度は150℃以上、450℃以下であることが好ましく、200℃以上、300℃以下であることがより好ましく、仮焼時間は30分以上、5時間以下であることが好ましく、2時間以上、5時間以下であることがより好ましい。
【0080】
上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体の製造方法において、焼成をアルゴン又は窒素ガス雰囲気で行うことが好ましい。ここで、アルゴン又は窒素ガス雰囲気とは、アルゴン又は窒素ガスを50%以上含んでいる雰囲気を意味する。また、水素を1〜10%含んでいる混合ガス(例えば、水素と窒素の混合ガス)がさらに好ましい。これはリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体の酸化を防ぐためである。
【0081】
上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体の製造方法において、他のリチウム含有化合物と併用して、焼成することもできる。このリチウム含有化合物は、例えば、リチウムと遷移金属元素からなる複合酸化物、またはリチウムと遷移金属元素を有するリン酸化合物があげられる。これらのリチウム含有化合物の中でも、ニッケル、鉄、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上を有する化合物が好ましい。これらの化学式として、例えば、Li
cM1O
2、又は、Li
dM2PO
4で表される。式中、M1、M2は少なくとも1種以上の遷移金属元素を示しており、c、dの値は電池充放電状態によって異なる値を示すが、一般的に0.05≦c≦1.1、0.05≦d≦1.1で示される。リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Li
cCoO
2)、リチウムニッケル複合酸化物(Li
cNiO
2)、等が挙げられ、リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(Li
dFePO
4)、又は、リチウム鉄マンガンリン酸化合物(Li
dFe
1−eMn
ePO
4(0<e<1))、等が挙げられる。これは高い電池容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。
【0082】
上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体の製造方法において、リン酸バナジウムリチウム前駆体をリチウム化合物と混合して、反応させる際に、焼成以外の方法を用いてもよいし、焼成と他の方法と併用してもよい。例えば、反応させる際に、水熱処理を施す、焼成回数を増やす、ペレット成型を行い焼成する、等を行ってもよい。
【0083】
上記で説明したリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体の製造方法によれば、リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を超純水で分散させた溶出液に溶出するフッ素イオンがリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体に対する質量比で前述の所定の範囲になるリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を確実に製造することができる。
【0084】
上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体は、各種の電気化学デバイス(例えば、電池、センサ、電解槽等)の正極活物質として利用することができる。ここで、「電気化学デバイス」とは、電流を流す極板材料を含むデバイス、すなわち、電気エネルギーを取り出し可能なデバイス一般を指す用語であって、電解槽、一次電池、及び、二次電池を含む概念である。また、「二次電池」とは、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等のいわゆる蓄電池ならびに電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を包含する概念である。上記のリチウム複合酸化物は、特に、リチウムイオン二次電池、電解槽の電極材として好適である。電解槽の形状はどのような形状でもよく、電流を流す極板材料を含んでいればよい。リチウムイオン二次電池の形状は、コイン、ボタン、シート、シリンダー、角型のいずれにも適用できる。なお、本発明のリチウム複合酸化物が適用されるリチウムイオン二次電池の用途は、特に制限されないが、例えばノートパソコン、ラップトップパソコン、ポケットワープロ、携帯電話、コードレス電話機、ポータブルCD、ラジオなどの電子機器、自動車、電動車両、ゲーム機器などの民生用電子機器などが挙げられる。
【0085】
以下、上記のリチウム複合酸化物が適用される電気化学デバイス、リチウムイオン二次電池の構成要素について説明する。
【0086】
[正極活物質層]
正極活物質層は、本発明のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を50〜100質量%含むものとすることができる。また、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極活物質のいずれか1種又は2種以上を含んでおり、設計に応じて結着剤、導電助剤、分散剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0087】
[正極]
正極は、例えば、集電体の両面または片面に正極活物質層を有している。集電体は、例えば、アルミニウムなどの導電性材により形成されているものでもよい。
【0088】
[負極活物質層]
負極活物質は、一般式SiO
x(0.5≦x<1.6)で表される酸化珪素のいずれか、又はこれらのうち2以上の混合物とすることが好ましい。負極活物質層は、上記の負極活物質を含んでおり、設計に応じて結着剤、導電助剤、分散剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0089】
[負極]
負極は、上記した正極と同様の構成を有し、例えば、集電体の片面もしくは両面に負極活物質層を有している。この負極は、リチウム複合酸化物活物質剤から得られる電気容量(電池としての充電容量)に対して、負極充電容量が大きくなる事が好ましい。負極上でのリチウム金属の析出を抑制するためである。
【0090】
[結着材]
結着剤として、例えば高分子材料、合成ゴムなどのいずれか1種類以上を用いることができる。高分子材料は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリアミドイミド、アラミド、ポリアクリル酸、あるいはポリアクリル酸リチウム、カルボキシメチルセルロース等である。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴム、エチレンプロピレンジエン等である。
【0091】
[導電助剤]
リチウム複合酸化物導電助剤、負極導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ケチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のいずれか1種以上を用いることができる。
【0092】
[電解液]
活物質層の少なくとも一部、またはセパレータには液状の電解質(電解液)が含浸されている。この電解液は、溶媒中に電解質塩が溶解されており、添加剤など他の材料を含んでいても良い。溶媒は、例えば非水溶媒が挙げられる。非水溶媒として、例えば次の材料が挙げられる。炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、1,2−ジメトキシエタンあるいはテトラヒドロフランである。その中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種以上が望ましい。より良い特性が得られるからである。またこの場合、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの高粘度溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒を組み合わせるとより優位な特性を得ることができる。電解質塩の解離性やイオン移動度が向上するためである。
【0093】
特に溶媒としてハロゲン化鎖状炭酸エステルまたはハロゲン化環状炭酸エステルのうち少なくとも1種を含んでいることが望ましい。充放電時、特に充電時において負極活物質表面に安定な被膜が形成されるからである。ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、ハロゲンを構成元素として有する(少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)鎖状炭酸エステルである。ハロゲン化環状炭酸エステルは、ハロゲンを構成元素として有する(少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)環状炭酸エステルである。
【0094】
ハロゲンの種類は特に限定されないが、フッ素がより好ましい。他のハロゲンよりも良質な被膜を形成するからである。またハロゲン数は、多いほど望ましく、これは得られる被膜がより安定的であり、電解液の分解反応が低減されるからである。ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。ハロゲン化環状炭酸エステルとしては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。
【0095】
溶媒添加物として、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時に負極表面に安定な被膜が形成され、電解液の分解反応が抑制できるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとして、例えば炭酸ビニレンまたは炭酸ビニルエチレンなどが挙げられる。また、溶媒添加物として、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることも好ましい。電池の化学的安定性が向上するからである。スルトンとしては、例えば、プロパンスルトン、プロペンスルトンが挙げられる。
【0096】
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物としては、例えば、プロパンジスルホン酸無水物が挙げられる。
【0097】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類以上含むことができる。リチウム塩として、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)等が挙げられる。電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.5mol/kg以上、2.5mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0098】
[集電体]
電極の集電体は、構成されたリチウムイオン二次電池、電気化学デバイスにおいて化学変化を起こさない電子伝導体であれば特に制限されるものではないが、例えばステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、チタン、焼成炭素、アルミニウムやステンレス鋼の表面をカーボン、ニッケル、銅、チタンまたは銀で表面処理したものが用いられ、負極にはステンレス鋼、ニッケル、銅、チタン、アルミニウム、焼成炭素などの他に、銅やステンレス鋼の表面をカーボン、ニッケル、チタンまたは銀などで処理したもの、Al−Cd合金などが用いられる。
【0099】
[セパレータ]
セパレータは、正極と負極を隔離し、両極接触に伴う電流短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータは、例えば、合成樹脂、あるいはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種以上の多孔質膜が積層された積層構造を有しても良い。合成樹脂として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0100】
次に、本発明の電気化学デバイスについて説明する。
【0101】
本発明の電気化学デバイスは、電気化学デバイスの負極活物質として用いたときに充放電効率が90%以下である負極活物質粒子を含有する負極活物質層を含む負極と、上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を含有する正極活物質層を含む正極とを有する電気化学デバイスである。また、本発明の電気化学デバイスは、組成式がSiO
x(0.5≦x<1.6)で表される酸化珪素を含有する負極活物質粒子を含有する負極活物質層を含む負極と、上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を含有する正極活物質層を含む正極とを有する電気化学デバイスであってもよい。なお、上記の負極及び正極は、集電体を含む構成としてもよい。
【0102】
このような電気化学デバイスであれば、高い充放電容量を有するものとすることができる。
【0103】
なお、再生したリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体は、粉体抵抗が増加する傾向にあり、粉体抵抗が増加すると充放電効率が減少するので、充放電効率が90%以下である負極活物質粒子を用いた場合に、正極と負極の充放電効率のバランスの点で良く、安定した充放電電流が得られ、好ましい。
【0104】
次に、本発明のリチウム二次電池について説明する。
【0105】
本発明のリチウム二次電池は、リチウムイオン二次電池の負極活物質として用いたときに充放電効率が90%以下である負極活物質粒子を含有する負極活物質層を含む負極と、上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を含有する正極活物質層を含む正極とを有するリチウムイオン二次電池である。また、本発明のリチウム二次電池は、組成式がSiO
x(0.5≦x<1.6)で表される酸化珪素を含有する負極活物質粒子を含有する負極活物質層を含む負極と、上記のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を含有する正極活物質層を含む正極とを有するリチウムイオン二次電池であってもよい。なお、上記の負極及び正極は、集電体を含む構成としてもよい。
【0106】
このようなリチウム二次電池であれば、高い充放電容量を有するものとすることができる。
【実施例】
【0107】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0108】
(実施例1−4)
ペレット成型したLi
3V
2(PO
4)
3(炭素被覆あり)から、一定電流で50%までリチウムを引き抜いたLi
1.5V
2(PO
4)
3をフッ素を含む電解液を含んだまま、乾燥し、軽く粉砕した粉末に水酸化リチウム(LiOH・H
2O)をLi/Vの当量比が1.55/1.00になるようにして混合した。この混合物を窒素−水素混合ガス(水素濃度3%)中で焼成した後、冷却し、細かく粉砕した。次いで、目開き75μmの篩で分級し、Li
3V
2(PO
4−aF
a)
3の組成をもつリン酸バナジウムリチウムの表面が炭素で被覆されたリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を製造した。ただし、焼成条件は、実施例1−2では900℃、5時間、実施例3では950℃、8時間、実施例4では920℃、8時間とした。実施例1で得られた粉体についてX線回折測定を行った。得られたX線回折パターンを
図1に示す。
図1から実施例1で得られたリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体において、2θの値が20°以上、40°以下の範囲にリン酸リチウムに相当するピーク(
図1中の印を付けたピーク)が見られることが確認された。実施例2−4についても実施例1と同様にしてX線回折測定を行い、リン酸リチウムに相当するピークが見られることが確認された。
【0109】
(実施例5−8)
ペレット成型したLi
3V
2(PO
4)
3から、一定電流で50%までリチウムを引き抜いたLi
1.5V
2(PO
4)
3をDMC(ジメチルカーボネート)で洗浄して、濾過乾燥し、軽く粉砕した粉末に水酸化リチウム(LiOH・H
2O)と六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6、添加した総リチウムの5%)をLi/Vの当量比が1.55/1.00になるようにして混合し、さらにスクロース(ショ糖:C
12H
22O
11)を混合した。この混合物を窒素ガス中で焼成した後、冷却し、細かく粉砕した。次いで、目開き75μmの篩で分級し、Li
3V
2(PO
4−aF
a)
3の組成をもつリン酸バナジウムリチウムの表面が炭素で被覆されたリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を製造した。ただし、焼成条件は、実施例5では850℃、3時間、実施例6では850℃、2時間、実施例7では880℃、5時間、実施例8では870℃、6時間とした。実施例5−8についても実施例1と同様にしてX線回折測定を行い、リン酸リチウムに相当するピークを有することが見られることが確認された。
【0110】
(実施例9−11)
ペレット成型したLi
3V
2(PO
4)
3から、一定電流で50%までリチウムを引き抜いたLi
1.5V
2(PO
4)3をフッ素を含む電解液を含んだまま、乾燥し、軽く粉砕した粉末に水酸化リチウム(LiOH・H
2O)と四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4、添加した総リチウムの5%)をLi/Vの当量比が1.55/1.00になるようにして混合し、さらにスクロース(ショ糖:C
12H
22O
11)を混合した。この混合物をアルゴンガス中で焼成した後、冷却し、細かく粉砕した。次いで、目開き75μmの篩で分級し、Li
3V
2(PO
4−aF
a)
3の組成をもつリン酸バナジウムリチウムの表面が炭素で被覆されたリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を製造した。ただし、焼成条件は、実施例9では1050℃、4時間、実施例10では850℃、3時間、実施例11では850℃、2時間とした。実施例9−11についても実施例1と同様にしてX線回折測定を行い、リン酸リチウムに相当するピークが見られることが確認された。
【0111】
(比較例1−5)
ペレット成型したLi
3V
2(PO
4)
3から、一定電流で50%までリチウムを引き抜いたLi
1.5V
2(PO
4)
3をフッ素を含む電解液を含んだまま、乾燥し、軽く粉砕した粉末に水酸化リチウム(LiOH・H
2O)をLi/Vの当量比が1.55/1.00になるようにして混合した。この混合物をアルゴンガス中で焼成した後、冷却し、細かく粉砕した。次いで、目開き75μmの篩で分級し、Li
3V
2(PO
4−aF
a)
3の組成をもつリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を製造した。ただし、焼成条件は、比較例1では820℃、10時間、比較例2では1050℃、10時間、比較例3−5では900℃、5時間とした。比較例1−5についても実施例1と同様にしてX線回折測定を行い、リン酸リチウムに相当するピークを有することが見られることが確認された。
【0112】
(平均粒子径(メジアン径)の測定)
実施例1−11、比較例1−5のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体の粒度分布の測定は、イオン交換水を分散媒とし、マイクロトラックMK−II(SRA)(LEED&NORTHRUP、レーザー散乱光検出型)を用いて行った。
なお、粒度分布の測定における分散剤、環流量、超音波出力を以下に示す。
分散剤 :10%ヘキサメタリン酸ソーダ水溶液2ml
環流量 :40ml/sec
超音波出力 :40W 60秒
平均粒子径の測定結果を表1に示す。
【0113】
(BET比表面積の測定)
実施例1−11、比較例1−5のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体のBET比表面積の測定は、フローソーブ2300型(島津製作所製)を用いて行った。
BET比表面積の測定結果を表1に示す。
【0114】
(溶出フッ素イオンの質量の測定)
実施例1−11、比較例1−5のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を超純水で分散させた溶出液に溶出するフッ素イオンの質量をICP法(高周波誘導結合プラズマ法)により測定し、リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体に対する質量比を算出した。得られた質量比を表1に示す。
【0115】
(溶出リチウムイオンの質量の測定)
実施例1−11、比較例1−5のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を超純水で分散させた溶出液に溶出するリチウムイオンの質量を測定し、リチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体に対する質量比をICP法(高周波誘導結合プラズマ法)とイオンクロマト法により算出した。得られた質量比を表1に示す。また、このときの溶出フッ素イオンと溶出リチウムイオンの質量比(フッ素イオンの質量/リチウムイオンの質量)も表1に示す。
【0116】
(含有炭素量の測定)
実施例1−11、比較例1−5のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体について、含有炭素量を炭素分析装置(HORIBA EMIA−110)にて測定した。
測定結果を表1に示す。
【0117】
< 電池性能試験>
(正極の作製)
上記のように製造した実施例1−11、比較例1−5のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を用いて、正極を作製した。製造したリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体88質量%、黒鉛粉末4.0質量%、及び、ポリフッ化ビニリデン8.0質量%を混合して正極材とし、これをN−メチル−2−ピロリジノン(以下、NMPと称する)に分散させて混練ペーストを調製した。該混練ペーストをアルミ箔(集電体)に塗布したのち乾燥し、プレスして直径15mmの円盤に打ち抜いて正極板を得た。
【0118】
(負極の作製)
次にSiO負極を作成した。SiO負極は金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料を反応炉へ設置し、10Paの真空度中で堆積し、十分に冷却した後、堆積物を取出しボールミルで粉砕した。粒径を調整した後、必要に応じて熱分解CVDを行うことで炭素層を得た。作成した粉末はプロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートの1:1混合溶媒(電解質塩1.3mol/kg)中で電気化学法を用いバルク改質を行った。得られた材料は必要に応じて炭酸雰囲気下で乾燥処理を行っている。続いて、負極活物質粒子と、負極結着剤の前駆体と、導電助剤1(ケッチェンブラック)と、導電助剤2(アセチレンブラック)とを80:8:10:2の乾燥重量比で混合して負極剤とし、NMPで希釈してペースト状の負極合剤スラリーとした。この場合には、ポリアミック酸の溶媒としてNMPを用いた。続いて、コーティング装置で負極集電体に負極合剤スラリーを塗布してから乾燥させた。この負極集電体としては、電解銅箔(厚さ=15μm)を用いた。最後に、真空雰囲気中で400℃、1時間焼成した。この焼成により、負極結着剤(ポリイミド)が形成された。プレスして直径16mmの円盤に打ち抜いて負極板を得た。
【0119】
(コイン型非水電解質二次電池の作製)
作製した正極板及び負極版、セパレータ、取り付け金具、外部端子、及び、電解液等の各部材を使用して非水電解質二次コイン電池を製作した。このうち、電解液には、エチレンカーボネートとジジエチルカーボネートとフルオロエチレンカーボネイトの2:7:1 混練液1リットルにLiPF
61モルを溶解したものを使用した。
【0120】
(正極放電容量の測定)
上記のようにして作製したコイン型リチウムイオン二次電池を0.5Cに相当する電流で定電流定電圧で4.80Vまで5時間充電し、次いで0.1Cに相当する電流で2.0Vまで放電する充放電試験を行い、正極初回放電容量(mAh/g)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0121】
【表1】
【0122】
表1からわかるように、超純水で分散させた溶出液に溶出するフッ素イオンがリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体に対する質量比で500ppm以上、15000ppm以下である実施例1−11のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を用いて作製された非水電解質二次コイン電池では、超純水で分散させた溶出液に溶出するフッ素イオンがリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体に対する質量比で500ppm未満、又は、15000ppmより大きい比較例1−5のリチウムリン系バナジウム複合酸化物炭素複合体を用いて作製された非水電解質二次コイン電池と比較して高い充放電容量が得られている。
【0123】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。