【0018】
また、上記の「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、相同性が高いDNA、すなわち配列番号1で表わされる塩基配列と60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNAの相補鎖がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNAの相補鎖がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、0.25M Na
2HPO
4, pH7.2, 7%SDS, 1mM EDTA, 1×デンハルト溶液からなる緩衝液中で温度が60〜68℃、好ましく65℃、さらに好ましくは68℃の条件下で16〜24時間ハイブリダイズさせ、さらに20mM Na
2HPO
4, pH7.2, 1%SDS, 1mM EDTAからなる緩衝液中で温度が60〜68℃、好ましくは65℃、さらに好ましくは68℃の条件下で15分間の洗浄を2回を行う条件をいう。当業者であれば、Molecular Cloning(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning :a Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 10 Skyline Drive Plainview, NY (1989))等を参照することにより、こうしたホモログ遺伝子を容易に取得することができ、また、配列番号1に示す塩基配列との相同性は、BLAST検索やFASTA検索により決定することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。なお、本実施例では、有意差をStudent's t-test で確認した。
【0037】
(実施例1)嫌気および好気培養条件におけるEnterococcus gilvusの生育とカロテノイドの生産
(1)乳酸菌の生育
牛乳から分離したE. gilvus CR1 (AB742448)を用いて実験を行った。前培養物を調製するために、E. gilvus をGM17培地(0.5%グルコースを添加したM17培地(Difco Laboratories製))にて30℃、24時間嫌気培養した。この前培養物を200mLのGM17培地(0.5% v/v)を含む500mL容三角フラスコに接種した。好気培養条件では、この三角フラスコを30℃にて振とう培養(回転数110 rpm)した。嫌気培養条件では、この三角フラスコをAneroPackシステム(AnaeroPack, 三菱ガス化学製)内で30℃にて静置培養した。培養液中の溶存酸素濃度は、Fibox 3 trace fiber optic device (PreSens製)を備えたPSt3 oxygen meterで測定した。菌の生育度は、OD600nmの濁度をUVmini-1240 UV-VIS 吸光度計(島津製作所製)にて測定し、培養液のpHはSevenEasy pH metre (メトラートレド製)で30℃にて測定した。また、培養液中の乳酸量およびグルコース量は、それぞれF kit for DL-lactic acid (ロシュダイアグノスティク製)とGlucose CII test kit (和光純薬工業製)を用いて測定した。
【0038】
10時間培養後のE. gilvusの菌濁度(OD600)は、嫌気条件では3.2、好気条件では2.7と、嫌気条件のほうがE. gilvus生育が良かった(P<0.05)(
図1A)。これは、好気によって、通性嫌気性細菌であるE. gilvusがダメージを受けたと考えられる。また、10時間培養後の培養液のpHは、嫌気条件では5.6、好気条件では5.8であった(
図1A)。
【0039】
グルコース消費量は、好気条件よりも嫌気条件の方が高かった(
図1B)。また、乳酸生成量(L-乳酸)も、好気条件よりも嫌気条件の方が高かった。また、培養液中の酸素濃度は、好気条件では5.2-7.3 mg mL
-1、嫌気条件では 0.01-0.07 mg mL
-1であった(データ示さず)。
【0040】
(2)E. gilvusからのカロテノイドの抽出
嫌気または好気条件で培養したE. gilvus CR1を2時間おきに集菌し、遠心分離後、菌体沈殿物を生理食塩水で2回洗浄した。これらの洗浄した菌体をメタノールで抽出した。黄色色素を含むメタノール抽出物に、等量のヘキサンと半量の水を加えた。遠心分離(1500g,5分)後、カロテノイドを含む有機層を回収した。この有機層を窒素ガス下で乾燥した後、カロテノイドを1mLの石油エーテル(cat. no. 26619-75, ナカライテスク製)に再懸濁した。抽出物中の黄色色素量を吸光度計を用いて470nmの最大吸光度から決定した。黄色色素をTLCシルカゲル60プレート(メルク製)上で石油エーテル:アセトン(9:1, v/v)で展開した後、黄色色素のスポットを回収し、石油エーテルに溶解して、UV-VIS spectrophotometerを用いて吸光度を測定した。
【0041】
図2Aは、嫌気または好気条件で生育させたときのE. gilvusの黄色色素(カロテノイド)量を示す。E. gilvusの黄色色素は、好気条件下で顕著に増加した。
図2Bは、嫌気または好気条件下におけるカロテノイド生産量の経時変化を示す。好気条件下では、カロテノイド生産量が培養2時間後に顕著に増加した。同時点において、嫌気条件下でのカロテノイド生産量はかなり低く、その後、わずかだけ増加した。4時間後にカロテノイド生産量が最も高くなり、好気条件下でのカロテノイド生産量は、嫌気条件下でのカロテノイド生産量の22倍であった。好気条件下で10時間培養したE. gilvusから抽出した精製色素の最大吸光度は412、434.5、及び464 nmであり、これらは既報(Hagi T, Kobayashi M, Kawamoto S, Shima J & Nomura M (2013) Expression of novel carotenoid biosynthesis genes from Enterococcus gilvus improves the multistress tolerance of Lactococcus lactis. J Appl Microbiol 114: 1763-1771)の4,4′-ジアポニューロスポレンのそれらと一致した。
【0042】
(実施例2)crtNM発現のリアルタイム定量PCR(qRT-PCR)による評価
嫌気または好気培養したE. gilvus CR1の菌体からRNeasy Protect Bacteria Mini Kit (QIAGEN Valencia製)を用いて製造業者の指示に従い全RNAを抽出した。全RNAは、各条件(嫌気条件および好気条件)において3つの独立した細胞培養物から抽出した。DNAを完全に除去するために、RNase-Free DNase Set (QIAGEN製)を用いてDNase処理した。逆転写PCRはPrimeScript II 1st strand cDNA Synthesis Kit (タカラ製)を用いて実施した。変性は、C1000 thermal cycler (BIO-RAD製)を用いて、10μL溶液(1μLランダム6 mer、1μL dNTP 混合物、200 ng 全RNA含有、蒸留水で10μLまでメスアップ)中で65℃で5分行った。次に、10μLのRT-PCR 混合物(4μL 5× Primescript buffer、0.5μL RNase インヒビター、1μL Primescript IItase、蒸留水4.5μL含有)を変性試料に添加した。これらの混合物20μLの全量に対して逆転写PCRをC1000 thermal cyclerを用い、次の条件:30℃、10分の前処理の後、42℃で60分、72℃で15分で行った。得られたcDNA溶液を60μLの蒸留水で希釈し、リアルタイムPCRのための鋳型に用いた。
【0043】
リアルタイム定量PCRは、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix(東洋紡製)とC1000 Thermal Cycler CFX96 Real Time System(BioRad製)を用いて行った。
【0044】
crtN遺伝子とcrtM遺伝子を定量PCRで増幅するために、以下のプライマーを用いた。
(crtN遺伝子増幅用プライマー:増幅サイズ135 bp)
crtNqF1:5'-GTAGAGGCGTTGCATTCGATTC-3'(配列番号4)
crtNqR1:5'-TCTGGTACAGGCACTAACGCAT-3'(配列番号5)
(crtM遺伝子増幅用プライマー:増幅サイズ227 bp)
crtMqF1:5'-GTAATGCGTGACCAATTGGA-3'(配列番号6)
crtMqR1:5'-GCCAATTTGCAGAGAGAATG-3'(配列番号7)
【0045】
補正のために、E. gilvusのcrtN遺伝子とcrtM遺伝子の全長を有するpRC発現プラスミドの段階希釈物(1反応につき10
5 〜10
9 コピー)を構築し、標準鋳型として用いた。mRNA量を16S rRNA 遺伝子転写物量に対して標準化した。16S rRNA 遺伝子の増幅には、以下のプライマーを用いた。
(16S rRNA 遺伝子の増幅用プライマー:増幅サイズ161 bp)
341F:5'-CCTACGGGAGGCAGCAG-3'(配列番号8)
518R:5'-ATTACCGCGGCTGCTGG-3'(配列番号9)
【0046】
補正のために、E. gilvus (AB742448; pGCR1と称する) の16S rRNA遺伝子の部分配列を有するpGEM-T Easy vector (Promega製)の段階希釈物(1反応につき10
5 〜10
9 コピー)を調製し、これを標準鋳型として用いた。
【0047】
試料のコピー数を補正値内に維持するために、10倍希釈したcDNA 溶液を16S rRNA 遺伝子を増幅するのに用いた。検量線の各値(スロープ、効率= 10
-1/slope −1, y-切片, 相関係数= r
2) およびE. gilvusにおける遺伝子発現量はCFX Manager Software version 2.1を用いて分析し、各試料につき3回定量PCRを実施した。RNA抽出後、DNAが除去されたことを確認するために、逆転写酵素で処理していない全RNA試料を各プライマーセットを用いたリアルタイムPCRの鋳型として用いた。
【0048】
定量PCRの反応液量は、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mixの説明書に準じた。両条件の測定において、1μLのcDNA希釈液を19μLのPCR混合物(1μL cDNA、10μL THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix、1.2μL 各プライマー(10 pmol)、6.6μL 滅菌水含有)に添加した。反応時間は次の条件:95℃10秒の後、95℃5秒、60℃30秒を40サイクル、メルティングプログラムは95℃10秒、65℃5秒、95℃50秒とした。
【0049】
まず、crtN遺伝子、crtM遺伝子、および16S rRNA遺伝子の発現量を評価するために、定量PCRに用いる上記各プライマーセットの正確性を確認した。各プライマーセットを用いた定量PCR増幅産物は、融解曲線において単一のピークと一反応あたり1000コピーのの標的DNAの検出限界を有していた。また、RNA抽出とDNase 処理後のDNAの混入に関しては、RNAを鋳型として各プライマーセットを用いた定量PCRを行ったところ、増幅産物は得られず、RNA試料には不要なDNAは存在しないとが確認できた。
【0050】
16S rRNAの遺伝子発現量でカロテノイド生合成遺伝子(crtN遺伝子およびcrtM遺伝子)の遺伝子発現量を割って標準化(補正)した結果、嫌気培養では、crtNとcrtMの補正遺伝子発現量は、それぞれ1.26±0.21×10
-4〜4.98±1.47×10
-4、5.49±2.28×10
-5〜2.22 ±1.07×10
-4で、好気培養では、それぞれ7.36±0.16×10
-4〜1.32±0.84×10
-3、3.14±0.73×10
-4〜5.72±3.82×10
-4であった。
【0051】
好気培養の補正遺伝子発現量を、嫌気培養の補正遺伝子発現量で除し、嫌気培養に対して好気培養での遺伝子発現量がどれくらい増加したか計算した結果、嫌気培養に比べて好気培養した方がcrtN遺伝子の発現量は2.65〜5.86倍、crtM遺伝子も2.55〜5.71倍と、好気培養することでカロテノイド生合成遺伝子の発現量が増加することが確認された(P < 0.05:表1)。
【0052】
【表1】
【0053】
(実施例3)過酸化水素(H
2O
2)耐性評価
前記実施例において、好気培養でE. gilvusのカロテノイド量が増加したことから、カロテノイドの増加によって過酸化水素に対する耐性が向上していることが予想された。そこで、好気および嫌気培養したE. gilvusの過酸化水素に対する生残率を調べた。
【0054】
濁度がOD600=1.0となるまで嫌気または好気培養したE. gilvus(各1mL)を遠心(9,100g×5分)して回収し、菌体を生理食塩水で洗浄した。洗浄した菌体をOD600=2.0となるように、過酸化水素水(16mmol L
-1及び32mmol L
-1)を含む生理食塩水500μLに再懸濁した。その菌体懸濁液を37℃で90分間処理(ストレス処理)した後、遠心し、生理食塩水で2回洗浄した。これらの洗浄した菌体を500μLの生理食塩水に再懸濁し、菌体懸濁液の段階希釈液を調製し、GM17寒天培地に塗布して過酸化水素水暴露後の生菌数を測定した。また、コントロールとして生理食塩水中で37℃で90分間処理(過酸化水素水未処理)した後の生菌数を測定した。生残率は、未処理の生菌数に対するストレス処理後の生菌数の比を求めることで、算出した。各試験(16mmol L
-1 H
2O
2処理、32mmol L
-1 H
2O
2処理、未処理)は3回行った。
【0055】
図3に示すように、16mmol L
-1及び32mmol L
-1濃度の過酸化水素水でE. gilvusを処理した場合、好気培養の生残率はそれぞれ 16.6% と 0.0029%であり、嫌気培養では0.27%と0.00004%であった。すなわち、好気培養したE. gilvus の生残率は嫌気培養したものと比べて、61.5 (16 mmol L
-1) および 72.5倍 (32 mmol L
-1)高くなり、好気培養することによって過酸化水素に対する耐性(酸化ストレス耐性)が向上することが明らかになった。これらの生残率の違いは統計学的有意差であった (P < 0.05)。