(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記合金における、Cr、Ti及びAlの合計含有率(at.%)に対する、Alの含有率(at.%)の比(Al/(Cr+Ti+Al))が、0.01以上0.50以下である請求項1から4のいずれかに記載の負極材料。
上記合金が、Cu、V、Mn、Fe、Ni、Nb、Zn及びZrからなる群から選択される1又は2以上の元素を含んでおり、これらの元素の合計含有率が0.05at.%以上15at.%以下である請求項1から6のいずれかに記載の負極材料。
上記合金が、Mg、B、P、Ga及びCからなる群から選択される1又は2以上の元素を含んでおり、これらの元素の合計含有率が0.05at.%以上10at.%以下である請求項1から7のいずれかに記載の負極材料。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機、携帯音楽プレーヤー、携帯端末等が急速に普及している。これらの携帯機器は、リチウムイオン二次電池を備えている。さらに、電気自動車及びハイブリッド自動車も、リチウムイオン二次電池を備えている。リチウムイオン二次電池では、充電時に負極がリチウムイオンを吸蔵する。リチウムイオン二次電池の使用時には、負極からリチウムイオンが放出される。負極は、集電体と、この集電体の表面に固着された活物質とを有している。
【0003】
負極における活物質として、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス等の炭素系材料が用いられている。しかし、炭素系材料の、リチウムイオンに対する理論上の容量は、372mAh/gにすぎない。容量の大きな活物質が望まれている。
【0004】
負極における活物質として、Siが注目されている。Siは、リチウムイオンと反応する。この反応により、化合物が形成される。典型的な化合物は、Li
22Si
5である。この反応により、大量のリチウムイオンが負極に吸蔵される。Siは、負極の蓄電容量を高めうる。
【0005】
Siを含む活物質層がリチウムイオンを吸蔵すると、前述の化合物の生成により、この活物質層が膨張する。活物質の膨張率は、約400%である。活物質層からリチウムイオンが放出されると、この活物質層が収縮する。膨張と収縮との繰り返しにより、活物質が集電体から脱落する。この脱落は、蓄電容量を低下させる。負極がSiを含む従来のリチウムイオン二次電池の寿命は、長くない。
【0006】
Siからなる活物質では、充電時にその表面のみがリチウムイオンと反応する。この活物質では、内部はリチウムイオンと反応しない。換言すれば、リチウムイオンの吸蔵により、活物質の表面のみが膨張する。この表面では、クラックが発生する。次の充電時には、クラックを通じて内部にまでリチウムイオンが進入し、さらにクラックを発生させる。このクラックの発生が繰り返されることにより、活物質が微粉化する。微粉化により、活物質とこれに隣接する活物質との導電が阻害される。微粉化は、蓄電容量を低下させる。負極がSiを含む従来のリチウムイオン二次電池の寿命は、長くない。
【0007】
Siは、炭素系材料及び金属材料に比べ、イオン伝導性に劣る。Siが用いられた負極において、Siと共に炭素系材料が用いられることがある。炭素系材料により、効率的なリチウムイオンの移動が達成される。しかし、この負極においても、導電性のさらなる改善が望まれている。
【0008】
Siの相が金属間化合物でカバーされた活物質が、特開2001−297757号公報に開示されている。この金属間化合物は、典型的には、Siと遷移金属との反応によって生成される。この金属間化合物は、Siの欠点を補いうる。同様の活物質が、特開平10−312804号公報にも開示されている。
【0009】
Siを含む活物質層の表面に導電層が積層された電極が、特開2004−228059号公報に開示されている。典型的には、導電層は、Cuを含む。この導電層は、Siの欠点を補いうる。同様の電極が、特開2005−44672号公報にも開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
Siの相が金属間化合物でカバーされた活物質を含む従来の電極では、活物質の脱落及び微粉化は、十分には抑制されない。
【0012】
活物質層と導電層とが積層された従来の電極では、導電層の形成にメッキ等の手段が用いられる。この導電層の形成には、手間がかかる。さらに、導電層の厚みの制御には、困難が伴う。
【0013】
同様の問題は、リチウムイオン二次電池以外の蓄電デバイスにおいても生じている。
【0014】
本発明の目的は、容量が大きく、イオン伝導性及び耐久性に優れた負極が得られうる材料の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る蓄電デバイスの負極材料は、Si系合金からなる。この合金は、
(1)Siが主成分であり、その結晶子サイズが30nm以下であるSi相、
並びに
(2)Si及びAlを含み、さらにCr又はTiを含んでおり、その結晶子サイズが40nm以下である化合物相
を有する。
【0016】
好ましくは、化合物相はSi、Al、Cr及びTiを含む。
【0017】
好ましくは、Si相は、Siに固溶するAlを含む。好ましくは、合金は、Al単相をさらに有する。
【0018】
好ましくは、合金における、CrとTiとの合計含有率(原子組成百分率)は、0.05at.%以上30at.%以下である。好ましくは、Alの含有率は、0.05at.%以上15at.%以下である。
【0019】
好ましくは、合金における、Cr、Ti及びAlの合計含有率(at.%)に対する、Siの含有率(at.%)の比(Si/(Cr+Ti+Al))は、1.00以上7.00以下である。
【0020】
好ましくは、合金における、TiとAlとの合計含有率は、1.00at.%以上25.00at.%以下である。
【0021】
好ましくは、合金における、Cr、Ti及びAlの合計含有率(at.%)に対する、Alの含有率(at.%)の比(Al/(Cr+Ti+Al))は、0.01以上0.50以下である。好ましくは、比(Al/(Cr+Ti+Al))は、0.04以上0.40以下である。
【0022】
好ましくは、合金は、Cu、V、Mn、Fe、Ni、Nb、Zn及びZrからなる群から選択される1又は2以上の元素を含む。これらの元素の合計含有率は、0.05at.%以上15at.%以下である。
【0023】
好ましくは、合金は、Mg、B、P、Ga及びCからなる群から選択される1又は2以上の元素を含む。これらの元素の合計含有率は、0.05at.%以上10at.%以下である。
【0024】
好ましくは、合金は、Nを含む。このNの含有率は、0.001mass%以上1mass%以下である。
【0025】
本発明に係る蓄電デバイスの負極は、集電体と、この集電体の表面に固着された多数の粒子とを備える。この粒子は、Si系合金からなる。この合金は、
(1)Siが主成分であり、その結晶子サイズが30nm以下であるSi相、
並びに
(2)Si及びAlを含み、さらにCr又はTiを含んでおり、その結晶子サイズが40nm以下である化合物相
を有する。
【0026】
本発明に係る蓄電デバイスは、正極と負極とを備える。この負極は、集電体と、この集電体の表面に固着された多数の粒子とを備える。この粒子は、Si系合金からなる。この合金は、
(1)Siが主成分であり、その結晶子サイズが30nm以下であるSi相、
並びに
(2)Si及びAlを含み、さらにCr又はTiを含んでおり、その結晶子サイズが40nm以下である化合物相
を有する。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る材料を含む負極は、容量が大きく、イオン伝導性及び耐久性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0030】
図1に概念的に示されたリチウムイオン二次電池2は、槽4、電解液6、セパレータ8、正極10及び負極12を備えている。電解液6は、槽4に蓄えられている。この電解液6は、リチウムイオンを含んでいる。セパレータ8は、槽4を、正極室14及び負極室16に区画している。セパレータ8により、正極10と負極12との当接が防止される。このセパレータ8は、多数の孔(図示されず)を備えている。リチウムイオンは、この孔を通過しうる。正極10は、正極室14において、電解液6に浸漬されている。負極12は、負極室16において、電解液6に浸漬されている。
【0031】
図2には、負極12の一部が示されている。この負極12は、集電体18と、活物質層20とを備えている。活物質層20は、多数の粒子22を含んでいる。粒子22は、この粒子22に当接する他の粒子22と固着されている。集電体18に当接する粒子22は、この集電体18に固着されている。活物質層20は、多孔質である。
【0032】
粒子22の材質(負極材料)は、Si系合金である。この合金は、Si相と化合物相とを有している。Si相の主成分は、Siである。Si相の結晶子サイズは、30nm以下である。化合物相は、Si及びAlを含んでいる。化合物相はさらに、Cr又はTiを含んでいる。化合物相の結晶子サイズは、40nm以下である。
【0033】
前述の通り、Siはリチウムイオンと反応する。Si相はSiを主成分としているので、このSi相を含む負極12は、大量のリチウムイオンを吸蔵しうる。Si相は、負極12の蓄電容量を高めうる。蓄電容量の観点から、Si相におけるSiの含有率は50at.%以上が好ましく、60at.%以上がより好ましく、70at.%以上が特に好ましい。
【0034】
Si相がSi以外の元素を含んでもよい。典型的な元素は、Alである。Siは、本来的には電気伝導性に劣る。一方Alは、電気伝導性に優れる。Si相がAlを含む合金では、大きな蓄電容量が達成され、かつ優れた電気伝導性が達成される。
【0035】
好ましくは、Si相において、AlがSiに固溶する。この固溶により、Si相の電気伝導性が高められる。Alは軟質である。充電時の膨張及び放電時の収縮によって生じる応力を、Alは緩和する。この負極12は、耐久性に優れる。
【0036】
合金が多量のAlを含有する場合、一部のAlはSiに固溶し、残余のAlは単相を形成する。Alの単相は、化合物相に含まれ、この化合物相に分散する。このAlの単相によっても、合金の電気伝導性高められる。
【0037】
化合物相は、Siと共に、Crを含みうる。この化合物相は、Si−Cr化合物を含む。化合物の具体例は、Si
2Crである。Si
2Crは、Si相と共晶反応を起こしうる。換言すれば、粒子22は、Si−Si
2Cr共晶合金から形成されうる。
【0038】
図3は、Si−Si
2Cr共晶合金が示されたSEM画像である。
図3において、黒く示されているのがSi相であり、白く示されているのがSi
2Cr相である。
図3から明かな通り、Si相は極めて微細であり、Si
2Cr相も極めて微細である。この化合物相は、充電時の膨張及び放電時の収縮によって生じる応力を緩和する。
【0039】
化合物相が、Crに代えてTiを含有してもよい。この化合物相では、Si−Ti化合物が、応力を緩和する。
【0040】
化合物相が、Cr及びTiの両方を含むことが好ましい。この化合物相では、Si−Si
2Cr共晶合金のCrの一部が、Tiで置換される。換言すれば、化合物相が、Si−Cr−Ti化合物を含む。
【0041】
図4から6は、Si−Si
2(Cr,Ti)系の共晶合金のX線回折の結果が示されたチャートである。
図4は、Tiを含まない共晶合金のチャートである。
図5は、比(Cr/Ti)が50/50である共晶合金のチャートである。
図6は、比(Cr/Ti)が25/75である共晶合金のチャートである。
図4−6の対比より、添加されたTiが、結晶構造を変化させることなく格子定数を増加させると、推測される。
【0042】
格子定数の大きな化合物相を有する粒子22では、珪化物中を、リチウムイオンが円滑に通過すると推測される。Siと珪化物との共晶合金が用いられたリチウムイオン二次電池において、珪化物の構造にまで踏み込んだ研究は、本発明者の知るかぎり、これまでにはなされていない。
【0043】
Si
2Cr、Si
2(Cr,Ti)等の化合物は、粒子22の電気伝導性を向上させると推測される。
【0044】
Si相の結晶子サイズは、30nm以下が好ましい。結晶子サイズが30nm以下であるSi相では、リチウムイオンとの反応に起因する微粉化が抑制される。このSi相を有する電池では、放電容量が維持されやすい。この観点から、結晶子サイズは25nm以下がより好ましく、10nm以下が特に好ましい。
【0045】
Si相の結晶子サイズの制御については、前述の成分の制御に代えて、又はこの成分の制御と共に、原料粉末を溶解した後の凝固時の冷却速度の制御によってもなされうる。具体的な方法として、水アトマイズ法、単ロール急冷法、双ロール急冷法、ガスアトマイズ法、ディスクアトマイズ法及び遠心アトマイズ法が例示される。これらの方法において冷却効果が不十分な場合、メカニカルミリング等が施されてもよい。ミリング方法として、ボールミル法、ビーズミル法、遊星ボールミル法、アトライタ法及び振動ボールミル法が例示される。
【0046】
化合物相の結晶子サイズは、40nm以下が好ましい。結晶子サイズが40nm以下である化合物相は、降伏応力が高い。この化合物相は延性及び靱性に優れるので、亀裂が生じにくい。この化合物相は、電気伝導性に優れる。この化合物相は、大きな比表面積にてSi相と接触する。大きな比表面積にてSi相と接触する化合物相は、充電時の膨張及び放電時の収縮によって生じる応力を緩和する。大きな比表面積にてSi相と接触する化合物相は、Si相との間での電気伝導性に優れる。この化合物相は、Si相の電気的孤立を防ぐ。これらの観点から、化合物相の結晶子サイズは20nm以下がより好ましく、10nm以下が特に好ましい。
【0047】
化合物相の結晶子サイズの制御は、原料粉末を溶解した後の凝固時の冷却速度の制御によってなされうる。具体的な方法として、水アトマイズ法、単ロール急冷法、双ロール急冷法、ガスアトマイズ法、ディスクアトマイズ法及び遠心アトマイズ法が例示される。これらの方法において冷却効果が不十分な場合、メカニカルミリング等が施されてもよい。ミリング方法として、ボールミル法、ビーズミル法、遊星ボールミル法、アトライタ法及び振動ボールミル法が例示される。
【0048】
結晶子サイズは、透過型電子顕微鏡(TEM)により直接に測定されうる。また、粉末X線回折により、結晶子サイズが確認されうる。X線回折では、X線源として波長が1.54059オングストロームのCuKα線が用いられる。測定は、2θが20度以上80度以下の範囲でなされる。得られる回折スペクトルにおいは、結晶子サイズが小さいほど、ブロードな回折ピークが観測される。粉末X線回折分析で得られるピークの半値幅から、下記のScherrerの式が用いられて、結晶子サイズが求められ得る。
D=(K×λ)/(β×cosθ)
この数式において、Dは結晶子の大きさ(オングストローム)を表し、KはScherrerの定数を表し、λはX線管球の波長を表し、βは結晶子の大きさによる回折線の拡がりを表し、θは回折角を表す。
【0049】
図7は、CrとTiの合計量が23at.%である合金の、透過型電子顕微鏡写真による断面組織図である。エネルギー分散型X線分析によれば、
分析箇所1:Si−12.28at.%Cr−11.84at.%Ti
分析箇所2:Si−10.37at.%Cr−10.04at.%Ti
分析箇所3:Si−11.69at.%Cr−11.35at.%Ti
であった。この組織図から明らかなように、結晶子サイズは20nm程度である。この組織図から明らかなように、合金において、Si相と化合物相とが混ざり合った微細構造が、得られている。
【0050】
合金におけるCrとTiとの合計含有率は、0.05at.%以上30at.%以下が好ましい。合計含有率が0.05at.%以上である合金では、結晶子サイズが小さなSi相が得られうる。この観点から、合計含有率は12at.%以上が特に好ましい。合計含有率が30at.%以下である合金では、結晶子サイズが小さな化合物相が得られうる。この観点から、合計含有率は25at.%以下が特に好ましい。
【0051】
前述の通り、Alは、合金の電気伝導性に寄与する。電気伝導性の観点から、共晶温度において、Siに対して0.2at.%以上0.5at.%以下のAlが固溶することが好ましい。
【0052】
合金におけるAlの含有率は、0.05at.%以上15at.%以下が好ましい。この含有率が0.05at.%以上である合金は、電気伝導性に優れる。この観点から、この含有率は0.2at.%以上が特に好ましい。この含有率が15at.%以下である合金では、Siとリチウムイオンとの反応が阻害されにくい。この観点から、この含有率は10at.%以下が特に好ましい。
【0053】
合金における、Cr、Ti及びAlの合計含有率(at.%)に対する、Siの含有率(at.%)の比(Si/(Cr+Ti+Al))は、1.00以上7.00以下が好ましい。比(Si/(Cr+Ti+Al))が1.00以上である合金は、放電容量が大きい。この観点から、比(Si/(Cr+Ti+Al))は2.00以上が特に好ましい。比(Si/(Cr+Ti+Al))が7.00以下である合金は、充電時の膨張及び放電時の収縮によって生じる応力が緩和される。さらに、比(Si/(Cr+Ti+Al))が7.00以下である合金では、充電反応及び放電反応が円滑になされうる。これらの観点から、比(Si/(Cr+Ti+Al))は6.00以下が特に好ましい。
【0054】
合金における、TiとAlとの合計含有率は、1.00at.%以上25.00at.%以下が好ましい。合計含有率が1.00at.%以上である合金は、電気伝導性に優れる。この観点から、合計含有率は3.00at.%以上が特に好ましい。合計含有率が25.00at.%以下である合金は、電池2の高容量と、優れたサイクル特性とに寄与しうる。この観点から、合計含有率は20.00at.%以下が特に好ましい。
【0055】
合金における、Cr、Ti及びAlの合計含有率(at.%)に対する、Alの含有率(at.%)の比(Al/(Cr+Ti+Al))は、0.01以上0.50以下が好ましい。比(Al/(Cr+Ti+Al))が0.01以上である合金では、Si相が電気伝導性に優れる。さらに、この合金は、Si相と化合物相との間の電気伝導性にも優れる。これらの観点から、比(Al/(Cr+Ti+Al))は0.04以上が特に好ましい。比(Al/(Cr+Ti+Al))が0.50以下である合金では、Si相がAlで被われにくい。この合金では、AlがSiとリチウムイオンとの反応を阻害しない。この合金の放電容量は大きい。この合金の放電容量維持率は、大きい。これらの観点から、比(Al/(Cr+Ti+Al))は0.40以下が特に好ましい。
【0056】
好ましくは、合金は、Cu、V、Mn、Fe、Ni、Nb、Zn及びZrからなる群から選択される1又は2以上の元素を含む。これらの元素は、Siと共晶合金を形成しうるので、微細なSi相が生成されうる。これらの元素は、柔軟で電気伝導性に優れた化合物を形成しうる。この化合物は、Si相を取り囲む。この化合物は、充電時の膨張及び放電時の収縮によって生じる応力を緩和する。この化合物は、Si相の電気的孤立を防ぐ。これらの観点から、これらの元素の合計含有率は0.05at.%以上が好ましく、0.1at.%以上が特に好ましい。合金の放電容量が大きいとの観点から、これらの元素の合計含有率は15at.%以下が好ましく、9at.%以下が特に好ましい。
【0057】
好ましくは、合金は、Mg、B、P、Ga及びCからなる群から選択される1又は2以上の元素を含む。これらの元素は、柔軟で電気伝導性に優れた化合物を形成しうる。この化合物は、Si相を取り囲む。この化合物は、充電時の膨張及び放電時の収縮によって生じる応力を緩和する。この化合物は、Si相の電気的孤立を防ぐ。これらの観点から、これらの元素の合計含有率は0.05at.%以上が好ましく、0.1at.%以上が特に好ましい。合金の放電容量が大きいとの観点から、これらの元素の合計含有率は10at.%以下が好ましく、7at.%以下が特に好ましい。
【0058】
Bを含む合金では、Si相がP型半導体構造を有しうる。このSi相は、電気伝導性に優れる。
【0059】
Pを含む合金では、Si相がN型半導体構造を有しうる。このSi相は、電気伝導性に優れる。
【0060】
合金が、Co、Pd、Bi、In、Sb、Sn又はMoを含んでもよい。これらの元素も、放電容量維持率の向上に寄与しうる。これらの元素の合計含有率は、0.05at.%以上10at.%以下が好ましい。
【0061】
好ましくは、合金は、Nを含む。Nを含む合金は、脆い。この合金では、小さな粒子径が容易に達成されうる。この観点から、Nの含有率(質量百分率)は0.001mass%以上が好ましく、0.01mass%以上が特に好ましい。負電極における粒子22の離脱の防止の観点、及び粒子22の電気的孤立の防止の観点から、Nの含有率は1mass%以下が好ましく、0.1mass%以下が特に好ましい。
【0062】
粒子(粉末)は、単ロール冷却法、ガスアトマイズ法、ディスクアトマイズ法等によって製作されうる。サイズの小さな粒子22が得られるには、溶融した原料の急冷が必要である。冷却速度は、100℃/s以上が好ましい。
【0063】
単ロール冷却法では、底部に細孔を有する石英管の中に、原料が投入される。この原料が、アルゴンガス雰囲気中で、高周波誘導炉によって加熱され、溶融する。細孔から流出する原料が、銅ロールの表面に落とされて冷却され、リボンが得られる。このリボンが、ボールと共にポットに投入される。ボールの材質として、ジルコニア、SUS304及びSUJ2が例示される。ポットの材質として、ジルコニア、SUS304及びSUJ2が例示される。ポットの中にアルゴンガスが充満され、このポットが密閉される。このリボンがミリングにより粉砕され、粒子22が得られる。ミリングとして、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、アトライタ及び振動ボールミルが例示される。
【0064】
ガスアトマイズ法では、底部に細孔を有する石英坩堝の中に、原料が投入される。この原料が、アルゴンガス雰囲気中で、高周波誘導炉によって加熱され、溶融する。アルゴンガス雰囲気において、細孔から流出する原料に、アルゴンガスが噴射される。原料は急冷されて凝固し、粒子22が得られる。
【0065】
ディスクアトマイズ法では、底部に細孔を有する石英坩堝の中に、原料が投入される。この原料が、アルゴンガス雰囲気中で、高周波誘導炉によって加熱され、溶融する。アルゴンガス雰囲気において、細孔から流出する原料が、高速で回転するディスクの上に落とされる。回転速度は、40000rpmから60000rpmである。ディスクによって原料は急冷され、凝固して、粉末が得られる。この粉末が、ボールと共にポットに投入される。ボールの材質として、ジルコニア、SUS304及びSUJ2が例示される。ポットの材質として、ジルコニア、SUS304及びSUJ2が例示される。ポットの中にアルゴンガスが充満され、このポットが密閉される。このリボンがミリングにより粉砕され、粒子22が得られる。ミリングとして、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、アトライタ及び振動ボールミルが例示される。
【実施例】
【0066】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0067】
本発明に係る負極材料の効果を、二極式コイン型セルを用いて確認した。まず、表1−5に示された組成の原料を準備した。各原料から、前述の単ロール冷却法、ガスアトマイズ法又はディスクアトマイズ法により、粒子を製作した。多数の粒子、導電材(アセチレンブラック)、結着材(ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン等)及び分散液(N−メチルピロリドン)を混合し、スラリーを得た。このスラリーを、集電体である銅箔の上に塗布した。このスラリーを、真空乾燥機で減圧乾燥した。乾燥温度は、ポリイミドが結着材である場合は200℃以上であり、ポリフッ化ビニリデンが結着材である場合は160℃以上であった。この乾燥によって溶媒を蒸発さ、活物質層を得た。この活物質層及び銅箔を、ロールにて押圧した。この活物質層及び銅箔をコイン型セルに適した形状に打ち抜き、負極を得た。
【0068】
電解液として、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒を準備した。両者の質量比は、3:7であった。さらに、支持電解質として、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を準備した。この支持電解質の量は、電解液に対して1モルである。この支持電解質を、電解液に溶解させた。
【0069】
コイン型セルに適した形状のセパレータ及び正極を、準備した。この正極は、リチウムからなる。減圧下で電解液にセパレータを浸漬し、5時間放置して、セパレータに電解液を充分に浸透させた。
【0070】
槽に、負極、セパレータ及び正極を組み込んだ。槽に電解液を充填し、コイン型セルを得た。なお、電解液は、露点管理された不活性雰囲気中で取り扱われる必要がある。従って、セルの組み立ては、不活性雰囲気のグローブボックスの中で行った。
【0071】
下記の表1−5において、No.1−66は本発明の実施例に係る負極材料の組成であり、No.67−74は比較例に係る負極材料の組成である。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
【表5】
【0077】
上記コイン型セルにて、温度が25℃であり、電流密度が0.50mA/cm
2である条件で、正極と負極との電位差が0Vとなるまで充電を行った。その後、電位差が1.5Vとなるまで放電を行った。この充電及び放電を、50サイクル繰り返した。初期の放電容量X及び50サイクルの充電及び放電を繰り返した後の放電容量Yを測定した。さらに、放電容量Xに対する放電容量Yの比率(維持率)を算出した。この結果が、下記の表6−8に示されている。
【0078】
【表6】
【0079】
【表7】
【0080】
【表8】
【0081】
実施例1−11の負極材料は、Si相及びAl−Si−Cr化合物相を含む。Si相の結晶子サイズは30nm以下であり、化合物相の結晶子サイズは40nm以下である。
【0082】
例えば、実施例4の負極材料は、前述の通り、Si相と化合物相とを含む。この負極材料では、Si相の結晶子サイズが3nmなので、この結晶子サイズは「30nm以下」の範囲に含まれる。この負極材料では、化合物相の結晶子サイズが4nmなので、この結晶子サイズは「40nm以下」の範囲に含まれる。この負極材料が用いられたセルでは、初期放電容量が1423mAh/gと大きく、50サイクル後の放電容量維持率が82%と大きい。
【0083】
実施例12−22の負極材料は、Si相及びAl−Si−Ti化合物相を含む。Si相の結晶子サイズは30nm以下であり、化合物相の結晶子サイズは40nm以下である。
【0084】
例えば、実施例14の負極材料は、前述の通り、Si相と化合物相とを含む。この負極材料では、Si相の結晶子サイズが7nmなので、この結晶子サイズは「30nm以下」の範囲に含まれる。この負極材料では、化合物相の結晶子サイズが9nmなので、この結晶子サイズは「40nm以下」の範囲に含まれる。この負極材料が用いられたセルでは、初期放電容量が1578mAh/gと大きく、50サイクル後の放電容量維持率が88%と大きい。
【0085】
実施例23−36の負極材料は、Si相及びAl−Si−Cr−Ti化合物相を含む。Si相の結晶子サイズは30nm以下であり、化合物相の結晶子サイズは40nm以下である。
【0086】
例えば、実施例25の負極材料は、前述の通り、Si相と化合物相とを含む。この負極材料では、Si相の結晶子サイズが1nmなので、この結晶子サイズは「30nm以下」の範囲に含まれる。この負極材料では、化合物相の結晶子サイズが3nmなので、この結晶子サイズは「40nm以下」の範囲に含まれる。この負極材料が用いられたセルでは、初期放電容量が1291mAh/gと大きく、50サイクル後の放電容量維持率が94%と大きい。
【0087】
実施例37−49の負極材料は、Si相及び化合物相を含む。それぞれの化合物相は、Al、Si、Cr及びTiを含む。この化合物相はさらに、他の添加元素(Cu、V、Mn、Fe、Ni、Nb、Pd、Zn、Zr、Mg、B、P、Ga、C又はN)を含む。Si相の結晶子サイズは30nm以下であり、化合物相の結晶子サイズは40nm以下である。
【0088】
例えば、実施例49の負極材料は、前述の通り、Si相と化合物相とを含む。この負極材料では、Si相の結晶子サイズが2nmなので、この結晶子サイズは「30nm以下」の範囲に含まれる。この負極材料では、化合物相の結晶子サイズが4nmなので、この結晶子サイズは「40nm以下」の範囲に含まれる。この負極材料が用いられたセルでは、初期放電容量が1590mAh/gと大きく、50サイクル後の放電容量維持率が86%と大きい。
【0089】
実施例50−66の負極材料は、Si相及び化合物相を含む。それぞれの化合物相は、Al、Si、Cr及びTiを含む。この化合物相はさらに、他の添加元素(Cu、V、Mn、Fe、Ni、Nb、Pd、Zn、Zr、Mg、B、P、Ga、C、N、Co、Pd、Bi、In、Sb、Sn又はMo)を含む。Si相の結晶子サイズは30nm以下であり、化合物相の結晶子サイズは40nm以下である。
【0090】
例えば、実施例63の負極材料は、前述の通り、Si相と化合物相とを含む。この負極材料では、Si相の結晶子サイズが3nmなので、この結晶子サイズは「30nm以下」の範囲に含まれる。この負極材料では、化合物相の結晶子サイズが6nmなので、この結晶子サイズは「40nm以下」の範囲に含まれる。この負極材料が用いられたセルでは、初期放電容量が1654mAh/gと大きく、50サイクル後の放電容量維持率が82%と大きい。
【0091】
比較例67の負極材料は、Si相の結晶子サイズは30nm以下であり、化合物相の結晶子サイズは40nm以下であるが、Alを含まない。比較例68の負極材料は、Alを含まず、かつSi相の結晶子サイズが30nmを越えている。比較例69の負極材料は、Alを含まず、かつ化合物相の結晶子サイズが40nmを越えている。比較例70の負極材料は、Alを含まず、Si相の結晶子サイズが30nmを越えており、かつ化合物相の結晶子サイズが40nmを越えている。
【0092】
比較例71の負極材料は、Si相の結晶子サイズは30nm以下であり、化合物相の結晶子サイズは40nm以下であるが、Cr及びTiを含まない。比較例72の負極材料は、Cr及びTiを含まず、かつSi相の結晶子サイズが30nmを越えている。比較例73の負極材料は、Si相の結晶子サイズは30nm以下であるが、Cr及びTiを含まず、かつ化合物相の結晶子サイズが40nmを越えている。比較例74の負極材料は、Cr及びTiを含まず、Si相の結晶子サイズが30nmを越えており、化合物相の結晶子サイズが40nmを越えている。
【0093】
表6−8に示された評価結果から、本発明の優位性は明らかである。