特許第6375061号(P6375061)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6375061
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/00 20060101AFI20180806BHJP
   C08J 7/04 20060101ALI20180806BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   C08J5/00CEW
   C08J7/04 BCEY
   B32B27/30 A
   B32B27/30 D
【請求項の数】13
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-523680(P2017-523680)
(86)(22)【出願日】2016年6月8日
(86)【国際出願番号】JP2016067144
(87)【国際公開番号】WO2016199828
(87)【国際公開日】20161215
【審査請求日】2018年1月19日
(31)【優先権主張番号】特願2015-118970(P2015-118970)
(32)【優先日】2015年6月12日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】大松 一喜
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 克彦
(72)【発明者】
【氏名】中島 秀明
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 徹
(72)【発明者】
【氏名】片倉 史郎
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/142453(WO,A1)
【文献】 特開昭62−199431(JP,A)
【文献】 特開2008−044332(JP,A)
【文献】 特開2015−046072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00
B32B 27/30
C08J 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン樹脂と(メタ)アクリル樹脂とを含む樹脂組成物から形成される成形体であって、前記樹脂組成物が下記の[I]を満たし、前記成形体が下記の[II]及び[III]を満たす成形体。
[I]前記樹脂組成物は、前記(メタ)アクリル樹脂および前記フッ化ビニリデン樹脂の合計量100重量部当たり、(メタ)アクリル樹脂30〜60重量部とフッ化ビニリデン樹脂40〜70重量部を含み、
前記(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量が、70,000〜300,000であり、前記フッ化ビニリデン樹脂の重量平均分子量が、100,000〜500,000である
[II]前記成形体の、波数Q=0.012nm−1における小角X線散乱強度をIとし、
該成形体を60℃で相対湿度90%の環境下に120時間暴露した後の成形体の、波数Q=0.012nm−1における小角X線散乱強度をIとしたとき、IとIとが下式(A)を満たす。
/I<2.5 (A)
[III]JIS K7136に従って測定された前記成形体のヘーズが5%以下である。
【請求項2】
(メタ)アクリル樹脂が、次の(a1)または(a2)の樹脂である請求項1記載の成形体。
(a1)メタクリル酸メチルの単独重合体
(a2)メタクリル酸メチルに由来する構造単位50〜99.9重量%と、式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステルに由来する少なくとも1つの構造単位0.1〜50重量%とを含む共重合体
【化1】

(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Rが水素原子のときRは炭素数1〜8のアルキル基を表し、Rがメチル基のときRは炭素数2〜8のアルキル基を表す。)
【請求項3】
フッ化ビニリデン樹脂が、ポリフッ化ビニリデンである請求項1又は2記載の成形体。
【請求項4】
フッ化ビニリデン樹脂が、フッ化ビニリデンに由来する構造単位を50重量%以上含むフッ化ビニリデン共重合体である請求項1又は2記載の成形体。
【請求項5】
シート状又はフィルム状である請求項1〜4のいずれか一項記載の成形体。
【請求項6】
厚さが100μm〜2000μmである請求項5記載の成形体。
【請求項7】
請求項5又は6記載の成形体と、コーティング層とを備える第1の積層体であって、
前記コーティング層が、膜の少なくとも一方の面に配置され、少なくとも一種の機能を付与する層である第1の積層体。
【請求項8】
請求項5又は6記載の成形体と熱可塑性樹脂層とを備える第2の積層体。
【請求項9】
請求項8に記載の第2の積層体と、コーティング層とを備える第3の積層体であって、
前記コーティング層が、膜の少なくとも一方の面に配置され、少なくとも一種の機能を付与する層である第3の積層体。
【請求項10】
請求項5又は6記載の成形体を含むタッチセンサーパネル。
【請求項11】
請求項7に記載の第1の積層体、請求項8に記載の第2の積層体、または請求項9に記載の第3の積層体を含むタッチセンサーパネル。
【請求項12】
請求項5又は6記載の成形体を含む表示装置。
【請求項13】
請求項7に記載の第1の積層体、請求項8に記載の第2の積層体、または請求項9に記載の第3の積層体を含む表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化ビニリデン樹脂と(メタ)アクリル樹脂とを含む樹脂組成物から形成される成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化ビニリデン樹脂と(メタ)アクリル樹脂からなる組成物を溶融押出し成形又は溶融射出成形して得られるフィルムやシートは、その高い透明性、成形加工性または比誘電率から、表示部材のタッチセンサーパネルのウインドウシートなどに用いられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−244604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたのと同等のフィルムやシートを60℃で相対湿度90%の環境下に120時間暴露すると透明性が著しく損なわれる場合があり、その結果、これらのフィルム又はシートを用いた表示部材は、高い温度および高い湿度の厳しい使用環境下で使用された場合に白濁することがあった。
【0005】
本発明の目的は成形加工性や比誘電率を満足しながら、60℃で相対湿度90%の環境下に120時間暴露しても白濁しない成形体および該成形体を含むタッチセンサーパネルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は次の〔1〕〜〔9〕に記載された発明を含む。
〔1〕 フッ化ビニリデン樹脂と(メタ)アクリル樹脂とを含む樹脂組成物から形成される成形体であって、前記樹脂組成物が下記の[I]を満たし、前記成形体が下記の[II]及び[III]を満たす成形体;
[I]前記樹脂組成物は、前記(メタ)アクリル樹脂および前記フッ化ビニリデン樹脂の合計量100重量部当たり、(メタ)アクリル樹脂15〜60重量部とフッ化ビニリデン樹脂40〜85重量部を含む。
[II]前記成形体の、波数Q=0.012nm−1における小角X線散乱強度をIとし、
該成形体を60℃で相対湿度90%の環境下に120時間暴露(expose)した後の成形体の、波数Q=0.012nm−1における小角X線散乱強度をIとしたとき、
とIとが下式(A)を満たす。
/I<2.5 (A)
[III]JIS K7136に従って測定された前記成形体のヘーズが5%以下である。
〔2〕(メタ)アクリル樹脂が、次の(a1)または(a2)の樹脂である〔1〕記載の成形体;
(a1)メタクリル酸メチルの単独重合体、
(a2)メタクリル酸メチルに由来する構造単位50〜99.9重量%と、式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステルに由来する少なくとも1つの構造単位0.1〜50重量%とを含む共重合体
【化1】
(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Rが水素原子のときRは炭素数1〜8のアルキル基を表し、Rがメチル基のときRは炭素数2〜8のアルキル基を表す。);
〔3〕フッ化ビニリデン樹脂が、ポリフッ化ビニリデンである〔1〕又は〔2〕記載の成形体;
〔4〕フッ化ビニリデン樹脂が、フッ化ビニリデンに由来する構造単位を50重量%以上含むフッ化ビニリデン共重合体である〔1〕又は〔2〕記載の成形体;
〔5〕シート状又はフィルム状である〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の成形体;
〔6〕厚さが100μm〜2000μmである〔5〕記載の成形体;
〔7〕〔5〕又は〔6〕記載の成形体と、コーティング層とを備える第1の積層体であって、前記コーティング層が、膜の少なくとも一方の面に配置され、少なくとも一種の機能を付与する層である第1の積層体;
〔8〕〔5〕又は〔6〕記載の成形体と熱可塑性樹脂層とを備える第2の積層体;
〔9〕〔8〕に記載の第2の積層体と、コーティング層とを備える第3の積層体であって、前記コーティング層が、膜の少なくとも一方の面に配置され、少なくとも一種の機能を付与する層である第3の積層体;
〔10〕〔5〕又は〔6〕記載の成形体を含むタッチセンサーパネル;
〔11〕〔7〕に記載の第1の積層体、〔8〕に記載の第2の積層体、または〔9〕に記載の第3の積層体を含むタッチセンサーパネル。
〔12〕〔5〕又は〔6〕記載の成形体を含む表示装置。
〔13〕〔7〕に記載の第1の積層体、〔8〕に記載の第2の積層体、または〔9〕に記載の第3の積層体を含む表示装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明の成形体から形成されるフィルム又はシートは、高い成形加工性と比誘電率を満足しつつ、厳しい環境下で使用しても白濁しないので、タッチセンサーパネルのウインドウシートとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例に用いた本発明のシート状の成形体の製造装置の概略図である。
図2】本発明の成形体又は積層体を適用した静電容量式タッチセンサーパネルの一例の断面の模式図である。
図3】本発明の成形体又は積層体を適用した液晶表示装置の一例の断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
<(メタ)アクリル樹脂>
本発明に用いられる(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル等の(メタ)アクリル系モノマーの単独重合体または2種以上の共重合体;(メタ)アクリル系モノマーとその他のモノマーとの共重合体等が挙げられる。なお、本明細書において、用語「(メタ)アクリル」は、「アクリル」または「メタクリル」を意味する。
【0011】
優れた硬度、耐候性、透明性などを有する点から、(メタ)アクリル樹脂としてメタクリル樹脂を用いることが好ましい。メタクリル樹脂は、メタクリル酸エステル(メタクリル酸アルキル)を主体とする単量体を重合して得られる重合体であり、例えば、メタクリル酸エステルの単独重合体(ポリアルキルメタクリレート)、メタクリル酸エステルの共重合体、50重量%以上のメタクリル酸エステルと50重量%以下のメタクリル酸エステル以外の単量体との共重合体等が挙げられる。メタクリル酸エステルとメタクリル酸エステル以外の単量体との共重合体の場合、単量体総量100重量%に対して、好ましくはメタクリル酸エステルが70重量%以上、メタクリル酸エステル以外の単量体が30重量%以下であり、より好ましくはメタクリル酸エステルが90重量%以上、メタクリル酸エステル以外の単量体が10重量%以下である。
【0012】
メタクリル酸エステル以外の単量体としては、アクリル酸エステル、分子内に重合性の炭素−炭素二重結合を1個有する単官能単量体が挙げられる。
【0013】
単官能単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化アルケニル;アクリル酸;メタクリル酸;無水マレイン酸;フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、メチルマレイミド等のN−置換マレイミド;等が挙げられる。耐熱性の観点より、(メタ)アクリル樹脂の分子鎖中((メタ)アクリル樹脂中の主骨格中または主鎖中ともいう)にラクトン環構造、グルタル酸無水物構造、若しくはグルタルイミド構造等が導入されていてもよい。
【0014】
(メタ)アクリル樹脂として、より具体的には、次の(a1)または(a2)の樹脂であることが好ましい。なお、次の(a2)において、メタクリル酸メチルに由来する構造単位と、式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステルに由来する少なくとも1つの構造単位との合計量を100重量%とすることが好ましい。
(a1)メタクリル酸メチルの単独重合体
(a2)メタクリル酸メチルに由来する構造単位50〜99.9重量%と、式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステルに由来する少なくとも1つの構造単位0.1〜50重量%とを含む共重合体
【化2】
(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Rが水素原子のときRは炭素数1〜8のアルキル基を表し、Rがメチル基のときRは炭素数2〜8のアルキル基を表す。)。
【0015】
ここで、Rが水素原子のときにRで表される炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられ、Rがメチル基のときにRで表される炭素数2〜8のアルキル基としては、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられる。
【0016】
式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステルとして、好ましくは、アクリル酸メチルまたはアクリル酸エチルであり、より好ましくは、アクリル酸メチルである。
【0017】
(メタ)アクリル樹脂は、JIS K7210に従って、3.8kg荷重で測定した230℃におけるメルトマスフローレート(以下、MFRと記すことがある。)が、通常0.1〜20g/10分であり、好ましくは0.2〜5g/10分であり、より好ましくは0.5〜3g/10分である。
(メタ)アクリル樹脂のMFRが大きすぎると、得られる成形体の強度が低下する傾向にあり、(メタ)アクリル樹脂のMFRが小さすぎると、成形体の成膜性が低下する傾向にある。
【0018】
(メタ)アクリル樹脂は、GPC測定によって得られる重量平均分子量(以下、Mwと記すことがある。)が、好ましくは70,000〜300,000である。重量平均分子量の上限値は、より好ましくは250,000であり、さらに好ましくは200,000である。重量平均分子量の下限値は、より好ましくは80,000であり、さらに好ましくは90,000であり、殊更好ましくは120,000であり、殊更さらに好ましくは150,000である。重量平均分子量は、例えば、150,000〜200,000であることがさらに好ましい。(メタ)アクリル樹脂のMwが大きいほど、得られた成形体の60℃で相対湿度90%の環境下に暴露したあとの透明性が高い傾向にあるが、Mwが大きすぎると成形体の成膜性が低下する傾向にある。
【0019】
(メタ)アクリル樹脂は、耐熱性の観点から、JIS K7206に従って測定したビカット軟化温度(以下、VSTと記すことがある。)が90℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、102℃以上であることがさらに好ましい。(メタ)アクリル樹脂のVSTは、単量体の種類やその割合または(メタ)アクリル樹脂の分子量を調整することにより、適宜設定することができる。
【0020】
(メタ)アクリル樹脂は、上記単量体成分を、懸濁重合、バルク重合等の方法により重合させることにより、調製することができる。その際、適当な連鎖移動剤を添加することにより、(メタ)アクリル樹脂のMFRやMwやVST等を好ましい範囲に調整することができる。連鎖移動剤の添加量は、単量体の種類やその割合、求める特性等に応じて、適宜決定すればよい。
【0021】
<フッ化ビニリデン樹脂>
本発明に用いられるフッ化ビニリデン樹脂としては、得られる成形体の透明性の観点から、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル及びエチレンからなるコモノマー群から選択される少なくとも1種の単量体(コモノマー)とフッ化ビニリデンとを共重合させたフッ化ビニリデン共重合体、フッ化ビニリデンを単独で重合した重合体(ポリフッ化ビニリデン)が挙げられ、好ましくは、ポリフッ化ビニリデン又はフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体であり、さらに好ましくはポリフッ化ビニリデンである。
フッ化ビニリデン共重合体に含まれるフッ化ビニリデンに由来する構造単位は50重量%以上であることが好ましい。コモノマーに由来する構造単位の含有量は、得られる成形体の透明性の観点から、好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは25重量%以下である。
【0022】
フッ化ビニリデン樹脂は、JISK7210に従って、3.8kg荷重で測定した230℃におけるメルトマスフローレート(MFR)が、通常、0.1〜40g/10分である。上記MFRの上限は、好ましくは35g/10分であり、より好ましくは30g/10分であり、さらに好ましくは25g/10分であり、殊更好ましくは20g/10分である。上記MFRの限は、好ましくは0.2g/10分であり、より好ましくは0.5g/10分である。フッ化ビニリデン樹脂のMFRが大きすぎると、得られる成形体を長期間使用したときに透明性が低下する傾向にあり、フッ化ビニリデン樹脂のMFRが小さすぎると、成形体の成膜性が低下する傾向にある。
【0023】
フッ化ビニリデン樹脂は、GPCにより求められる重量平均分子量(Mw)が100,000〜500,000であることが好ましく、150,000〜450,000であることがより好ましく、200,000〜450,000であることがさらに好ましい。
フッ化ビニリデン樹脂のMwが大きいほど、得られた成形体の60℃で相対湿度90%の環境下に暴露したあとの透明性が高い傾向にあるが、Mwが大きすぎると成形体の成膜性が低下する傾向にある。
【0024】
ポリフッ化ビニリデンは、工業的には、懸重合法または乳化重合法により製造される。懸濁重合法では、水を媒体とし、単量体を分散剤で媒体中に液滴として分散させ、単量体中に溶解した有機過酸化物を重合開始剤として重合させることにより、100〜300μmの粒状の重合体が得られる。懸濁重合物は乳化重合物と比較して、製造工程が簡単で、粉体の取扱性に優れ、また乳化重合物のようにアルカリ金属を含む乳化剤や塩析剤を含まないため、好ましい。
【0025】
<樹脂組成物>
本発明の成形体を構成する樹脂組成物は、(メタ)アクリル樹脂とフッ化ビニリデン樹脂の合計量100重量部当たり、(メタ)アクリル樹脂15〜60重量部とフッ化ビニリデン樹脂40〜85重量部とを含むものである。樹脂組成物は、好ましくは(メタ)アクリル樹脂とフッ化ビニリデン樹脂の合計量100重量部当たり、(メタ)アクリル樹脂17〜60重量部と、フッ化ビニリデン樹脂40〜83重量部とを含み、より好ましくは(メタ)アクリル樹脂20〜55重量部と、フッ化ビニリデン樹脂45〜80重量部とを含む。樹脂組成物100重量%中の(メタ)アクリル樹脂とフッ化ビニリデン樹脂の合計含有量は、90重量%以上が好ましく、95重量%以上がより好ましい。
【0026】
本発明の成形体を構成する樹脂組成物は、アルカリ金属の合計含有量が50ppm以下であることが好ましい。
【0027】
さらに、かかる樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、一般的に用いられる各種の添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤、発泡剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、難燃剤、重合抑制剤、難燃助剤、補強剤、核剤、ブルーイング剤等の着色剤などが挙げられる。
【0028】
着色剤としては、アントラキノン骨格を有する化合物、フタロシアニン骨格を有する化合物などを挙げることができる。これらの中でも、アントラキノン骨格を有する化合物が、耐熱性の観点から好ましい。
【0029】
着色剤としてブルーイング剤を用いる場合、その含有量は、0.01〜5ppmであり、好ましくは0.05〜4ppm、より好ましくは0.1〜3ppmである。ブルーイング剤は、公知のものを適宜使用することができる。例えば、それぞれの商品名で、マクロレックス(登録商標)ブルーRR(バイエル社製)、マクロレックス(登録商標)ブルー3R(バイエル社製)、Sumiplast(登録商標) Violet B(住化ケムテックス社製)及びポリシンスレン(登録商標)ブルーRLS(クラリアント社製)が挙げられる。
【0030】
これらの添加剤は、樹脂組成物中に存在すればよく、(メタ)アクリル樹脂またはフッ化ビニリデン樹脂のいずれの成分に含まれていてもよく、後述する(メタ)アクリル樹脂とフッ化ビニリデン樹脂との溶融混練の際に添加してもよく、(メタ)アクリル樹脂とフッ化ビニリデン樹脂との溶融混練後に添加してもよく、樹脂組成物を用いて成形体を作製する際に添加してもよい。
【0031】
本発明の成形体を構成する樹脂組成物は、(メタ)アクリル樹脂とフッ化ビニリデン樹脂とを、通常、混練することにより得られる。かかる混練は、例えば、150〜350℃の温度にて、10〜1000/秒の剪断速度で溶融混練する工程を含む方法により実施できる。
【0032】
溶融混練を行う際の温度が150℃未満の場合、樹脂が溶融しないおそれがある。一方、溶融混練を行う際の温度が350℃を超える場合、樹脂が熱分解するおそれがある。さらに、溶融混練を行う際の剪断速度が10/秒未満の場合、十分に混練されないおそれがある。一方、溶融混練を行う際の剪断速度が1000/秒を超える場合、樹脂が分解するおそれがある。
【0033】
各成分がより均一に混合された樹脂組成物を得るために、溶融混練は、好ましくは180〜300℃、より好ましくは200〜300℃の温度で行われ、好ましくは20〜700/秒、より好ましくは30〜500/秒の剪断速度で行われる。
【0034】
溶融混練に用いる機器としては、通常の混合機や混練機を用いることができる。具体的には、一軸混練機、二軸混練機、多軸押出機、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールミル等が挙げられる。また、剪断速度を上記範囲内で大きくする場合には、高剪断加工装置等を使用してもよい。
【0035】
<成形体>
本発明の成形体は、上記樹脂組成物から形成される。
該成形体の、波数Q=0.012nm-1における小角X線散乱強度をIとし、
該成形体を60℃で相対湿度90%の環境下に120時間暴露した後の成形体の、波数Q=0.012nm-1における小角X線散乱強度をIとしたとき、
とIとが下式(A)を満たす。
/I<2.5 (A)
好ましくは、I/Iは0.1〜2.3であり、より好ましくは0.1〜2.1である。成形体のI/Iを上記範囲とするためには、樹脂組成物中のフッ化ビニリデン含有率又は成形加工中の冷却速度を調整することにより、調整できる。
JIS K7136に従って測定された該成形体のヘーズは5%以下である。なお、上記ヘーズの値は、成形体を高温および高湿環境下に暴露する前に行う測定で得られる値である。
かかる成形体は、シート状又はフィルム状であることが好ましく、その厚さが100〜2000μmであることが好ましく、200〜1500μmであることがより好ましい。
【0036】
<積層体>
本発明の積層体の1つの実施形態は、上述のシート状又はフィルム状の成形体と熱可塑性樹脂層とを備える(第2の積層体)。かかる積層体は、耐熱性および表面硬度に優れる。熱可塑性樹脂層は、本発明のシート状又はフィルム状の成形体の少なくとも一方の面に積層されていればよく、成形体と必ずしも接触している必要はなく、他の層を介して積層されてもよい。熱可塑性樹脂層は、成形体と接して熱可塑性樹脂層が積層されるのが好ましい。成形体の形状維持の観点から、積層体は、成形体の両面に熱可塑性樹脂層を含むことが好ましい。積層体は、後述するコーティング層をさらに備えていてもよい(第3の積層体)。
【0037】
熱可塑性樹脂層の厚さは、10〜200μmであることが好ましく、50〜150μmであることがより好ましい。積層体がシート状又はフィルム状の成形体の両面に熱可塑性樹脂層を含む場合、各熱可塑性樹脂層の厚さや組成は、互いに同一であっても異なっていてもよいが、成形体の形状維持の観点から、互いに実質的に同一であることが好ましい。
【0038】
熱可塑性樹脂層のJIS K5600-5-4に従って測定した鉛筆硬度は、HB以上であることが好ましく、F以上であることがより好ましく、H以上であることがさらに好ましい。JIS K7206に従って測定した熱可塑性樹脂層のビカット軟化温度は、100〜150℃であることが好ましい。
【0039】
熱可塑性樹脂層には、一種類以上の(メタ)アクリル樹脂または一種類以上の(メタ)アクリル樹脂以外の熱可塑性樹脂から選択することができる。これらの樹脂から、一種類または複数種類の熱可塑性樹脂を、単独で、または混合して使用することができる。また、熱可塑性樹脂層は、単層構成または複数の層が積層された構成とすることができる。
【0040】
熱可塑性樹脂層の(メタ)アクリル樹脂として、上記本発明の成形体に含まれる(メタ)アクリル樹脂と同じ一次構造の樹脂を用いることができる。例えば、メタクリル酸メチルの単独重合体、メタクリル酸メチルに由来する構造単位50〜99.9重量%とアクリル酸メチルに由来する構造単位0.1〜50重量%からなる共重合体、ラクトン環構造が導入されたメタクリル酸メチル樹脂、メタクリル酸メチルに由来する構造単位およびメタクリル酸に由来する構造単位からなる共重合体、またはスチレンに由来する構造単位、無水マレイン酸に由来する構造単位およびメタクリル酸メチルに由来する構造単位からなる三元共重合体などを用いることができる。(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、50,000〜300,000であることが好ましく、70,000〜250,000であることがより好ましい。熱可塑性樹脂層を含む成形体において、熱可塑性樹脂層に含まれる(メタ)アクリル樹脂は、成形体を形成する樹脂組成物に含まれる(メタ)アクリル樹脂と同じであっても異なっていてもよい。
【0041】
(メタ)アクリル樹脂以外の熱可塑性樹脂として、カーボネート系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、エチレンテレフタレート系樹脂、スチレン系樹脂、メタクリル酸メチル−スチレン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン系樹脂、ABS樹脂などを用いることができる。(メタ)アクリル樹脂以外の熱可塑性樹脂は、耐熱性の観点から、JIS K7206に従って測定したビカット軟化温度が115℃以上であることが好ましく、117℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましい。
【0042】
カーボネート系樹脂の例としては、ポリカーボネート樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂層がポリカーボネート樹脂層である場合、ポリカーボネート樹脂層は、1種類以上のポリカーボネート樹脂又は1種類以上のポリカーボネート樹脂と1種類以上のポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂との複合樹脂から形成することができる。これらのポリカーボネート樹脂は、温度300℃及び荷重1.2kgの条件で測定されるメルトボリュームレート(以下、MVRとも言う。 )が3〜120cm3/10分であるのが好ましい。MVRは、より好ましくは、3〜80cm3/10分であり、さらに好ましくは4〜40cm3/10分、ことさら好ましくは10〜40cm3/10分である。MVRが3cm3/10分未満の場合は、流動性が低下するため、溶融共押出成形などの成形加工しにくくなる傾向や、外観不良が生じることがある。また、MVRが120cm3/10分を超えると、ポリカーボネート樹脂層の強度等の機械特性 が低下する傾向にある。MVRは、JIS K 7210に準拠し、1.2kgの荷重下、300℃の条件にて測定することができる。
【0043】
ポリカーボネート樹脂は、例えば、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0044】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類が挙げられる。
【0045】
これらは単独または2種類以上混合して使用されるが、これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0046】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタンおよび2,2−ビス−〔4,4−(4,4′−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル〕−プロパンなどが挙げられる。
【0047】
ポリカーボネート樹脂層が、1種類以上のポリカーボネート樹脂と1種類以上のポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂との複合樹脂から形成される場合、ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂は、透明性を損なわない範囲で配合することができる。この熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂と相溶する(メタ)アクリル樹脂が好ましく、芳香環またはシクロオレフィンを構造中に有するメタクリル樹脂がより好ましい。ポリカーボネート樹脂がこのようなタクリル樹脂を含むと、得られるポリカーボネート樹脂層の表面硬度を、ポリカーボネート樹脂単独から形成されるときよりも高くすることができる。
【0048】
上記ポリカーボネート樹脂以外のポリカーボネート樹脂として、イソソルバイトと芳香族ジオールから合成されるポリカーボネートが挙げられる。例えば、三菱化学製「DURABIO(商標登録)」が挙げられる。
【0049】
ポリカーボネート樹脂には、離型剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、重合抑制剤、酸化防止剤、難燃化剤、補強剤等の添加剤、前記ポリカーボネート樹脂以外の重合体などを、本発明の効果を損なわない範囲で含有させてもよい。
【0050】
ポリカーボネート樹脂は、市販品を使用してもよく、例えば、住化スタイロンポリカーボネート(株)製“カリバー(登録商標)”の301-4、301-10、301-15、301-22、301-30、301-40、SD2221W、SD2201W、TR2201などが挙げられる。
【0051】
熱可塑性樹脂層に、(メタ)アクリル樹脂を二種類以上混合して使用する場合、または(メタ)アクリル樹脂を他の熱可塑性樹脂と混合して使用する場合は、熱可塑性樹脂層100重量部当たり(メタ)アクリル樹脂を50重量部以上含むことが好ましい。(メタ)アクリル樹脂以外の熱可塑性樹脂としては(メタ)アクリル樹脂と相溶する熱可塑性樹脂が好ましい。メタクリル酸メチルの単独重合体、またはメタクリル酸メチルに由来する構造単位50〜99.9重量%とアクリル酸メチルに由来する構造単位0.1〜50重量%からなる共重合体と相溶する熱可塑性樹脂として、電気化学工業製のレジスファイ(登録商標)R-100、R-200、アルケマ社製のAltuglas(登録商標)HT-121などが挙げられる。
熱可塑性樹脂層は実質的にフッ化ビニリデン樹脂を含まないことが好ましい。
【0052】
本発明の成形体は、目視で観察した場合に透明であり、JIS K7361-1に従って測定される全光線透過率(Tt)が、好ましくは88%以上、より好ましくは90%以上であり、60℃で相対湿度90%の環境下に120時間暴露した後にも、この範囲を維持する。
【0053】
本発明の成形体は、60℃で相対湿度90%の環境下に120時間暴露した後にJIS K7136に従って測定されたヘーズが、通常6%以下、好ましくは4%以下、より好ましくは3.5%以下である。
【0054】
さらに、本発明の成形体は、自動平衡ブリッジ法で測定した3V、100kHzにおける比誘電率が通常3.5以上、好ましくは4.0以上である。
【0055】
本発明の成形体は、上記樹脂組成物を、例えば、溶融押出成形法、熱プレス法、射出成形法などにより溶融成形することにより製造できる。
【0056】
上記の成形により上記樹脂組成物を成形した成形体と、別途成形した熱可塑性樹脂層とを、例えば粘着剤や接着剤を介して貼合することにより積層体を製造してもよいが、上記樹脂組成物と(メタ)アクリル樹脂とを溶融共押出成形により積層一体化させることにより積層体を製造することが好ましい。このように溶融共押出成形により製造された積層体は、貼合により製造された積層体と比較して、通常、二次成形しやすい傾向にある。
【0057】
溶融共押出成形は、例えば、上記樹脂組成物と(メタ)アクリル樹脂とを、2基または3基の一軸または二軸の押出機に、別々に投入して各々溶融混練した後、フィードブロックダイやマルチマニホールドダイ等を介して、本発明の成形体と熱可塑性樹脂層とを積層一体化し、押出す成形法である。得られた積層体は、例えば、ロールユニット等により冷却、固化されるのが好ましい。
【0058】
本発明の積層体の別の実施形態は、上述のシート状又はフィルム状の成形体と、成形体の少なくとも一方の表面に配置される、傷つき防止、反射防止、防眩及び指紋防止からなる群から選択される少なくとも一種の機能を付与するコーティング層とを備える(第1の積層体)。コーティング層は、シート状又はフィルム状の成形体の少なくとも一方の面に積層されていればよく、成形体と必ずしも接触している必要はなく、他の層を介して積層されてもよい。コーティング層としては、例えば、特開2013-86273号公報に記載されている硬化被膜を用いることができる。
【0059】
コーティング層の厚さは、1〜100μmが好ましく、3〜80μmがより好ましく、5〜70μmがさらに好ましい。1μmよりも薄いと、機能の発現が困難であり、100μmよりも厚いと、コーティング層の割れが懸念される。
【0060】
必要に応じて、コーティング層の表面に、コート法、スパッタ法、真空蒸着法等により反射防止処理が施されてもよい。また、反射防止効果を付与の目的として、コーティング層の片面または両面に、別途作製した反射防止性のシートが貼合されてもよい。反射防止性のシートは、コーティング層の少なくとも一方の面に積層されていればよく、コーティング層と必ずしも接触している必要はなく、他の層を介して積層されてもよい。
【0061】
成形体をA層、熱可塑性樹脂層をB層、コーティング層をC層と略記したとき、本発明の成形体及び積層体の層構成例としては、下記(1)〜(12)が挙げられる。
(1) A層
(2) A層/B層
(3) B層/A層/B層
(4) B層/A層/B層/A層/B層
(5) A層/C層
(6) C層/A層/C層
(7) A層/B層/C層
(8) C層/A層/B層/C層
(9) B層/A層/B層/C層
(10)C層/B層/A層/B層/C層
(11)B層/A層/B層/A層/B層/C層
(12)C層/B層/A層/B層/A層/B層/C層
【0062】
<透明導電シート>
上記本発明の成形体又は積層体の少なくとも片面に透明導電膜を形成して、透明導電シートを得ることができる
【0063】
本発明の成形体又は積層体の表面に透明導電膜を形成させる方法としては、本発明の成形体又は積層体の表面に直接透明導電膜を形成させる方法でもよく、または、予め透明導電膜が形成されたプラスチックフィルムを本発明の成形体又は積層体の表面に積層することにより透明導電膜を形成させる方法でもよい。
【0064】
予め透明導電膜が形成されたプラスチックフィルムのフィルム基材としては、透明なフィルムであって透明導電膜を形成することができる基材であればよく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリアミド、これらの混合物または積層物等を挙げることができる。また、透明導電膜を形成させる前に、表面硬さの改良、ニュートンリングの防止、帯電防止性の付与などを目的として、上記フィルムにコーティングを施しておくことは有効である。
【0065】
予め透明導電膜が形成されたフィルムを本発明の成形体又は積層体の表面に積層する方法は、気泡等がなく、均一で、透明なシートが得られる方法であればいかなる方法でもよい。常温、加熱、紫外線または可視光線により硬化する接着剤を使用して積層する方法を用いてもよいし、透明な粘着テープにより貼り合わせてもよい。
【0066】
透明導電膜の成膜方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、イオンプレーティング法、スプレー法等が知られており、必要とする膜厚に応じて、これらの方法を適宜用いることができる。
【0067】
スパッタリング法の場合、例えば、酸化物ターゲットを用いた通常のスパッタリング法、金属ターゲットを用いた反応性スパッタリング法等が用いられる。この時、反応性ガスとして、酸素、窒素等を導入したり、オゾン添加、プラズマ照射、イオンアシスト等の手段を併用したりしてもよい。また、必要により、基板に直流、交流、高周波等のバイアスを印加してもよい。透明導電膜に使用する透明導電性の金属酸化物としては、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、インジウム−スズ複合酸化物、スズ−アンチモン複合酸化物、亜鉛−アルミニウム複合酸化物、インジウム−亜鉛複合酸化物等が挙げられる。これらのうち、環境安定性や回路加工性の観点から、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)が好適である。
【0068】
また、透明導電膜を形成する方法として、透明導電膜を形成することができる各種の導電性高分子を含むコーティング剤を塗布し、熱または紫外線等の電離放射線を照射して硬化させることにより形成する方法等も適用できる。導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール等が知られており、これらの導電性高分子を用いることができる。
【0069】
透明導電膜の厚さとしては、特に限定されるものではないが、透明導電性の金属酸化物を使用する場合、通常50〜2000Å、好ましくは70〜1000Åである。この範囲であれば導電性および透明性の両方に優れる。
【0070】
透明導電シートの厚さは特に限定されるものではなく、ディスプレイの製品仕様の求めに応じた最適の厚さを選択することができる。
【0071】
<タッチセンサーパネル>
本発明の成形体又は積層体及び該成形体又は積層体を含む透明導電シートは、ディスプレイパネル面板、タッチスクリーン等の透明電極として好適に用いることができる。具体的に、本発明の成形体又は積層体は、タッチスクリーン用ウインドウシートとして使用することができる。また、本発明の成形体又は積層体を含む透明導電シートは、抵抗膜方式や静電容量方式のタッチスクリーンの電極基板として、使用することができる。タッチスクリーン用ウインドウシート又はタッチスクリーンを、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの前面に配置することでタッチスクリーン機能を有するタッチセンサーパネルが得られる。
【0072】
本発明の成形体又は積層体をタッチスクリーン用ウインドウシートとして使用する場合、タッチスクリーン用ウインドウシートは、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイの最表面に配置されるガラスシートの代替品として使用することができる。なお、タッチスクリーン用ウインドウシートは、プラズマディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、SED方式平面型ディスプレイ、電子ペーパーなどにも使用することができる。
【0073】
図2に、本発明の成形体又は積層体および該成形体又は積層体を含む一般的な静電容量式タッチセンサーパネルの断面の模式図を示す。図中、11は本発明の成形体又は積層体によるウインドウシートを、14は本発明の成形体又は積層体を含む透明導電シートを、12は光学粘着層を、13は液晶表示装置をそれぞれ示す。駆動時にはユーザーがウインドウシート上の任意の位置に指を接触させると、透明導電シートを介して、端子位置から接触位置までの距離が検出され、接触位置が検知される仕組みとなる。これにより、パネル上の接触部分の座標を認識し、適切なインターフェース機能が図られるようになっている。
【0074】
図3に、本発明の成形体又は積層体を適用した液晶表示装置の一例を断面模式図で示す。本発明の成形体又は積層体20は、光学粘接着剤を介して、偏光板21に積層することができ、この積層体は、液晶セル23の視認側に配置することができる。液晶セルの背面側には、通常、偏光板が配置される。液晶表示装置25は、このような部材から構成される。なお、図3は、液晶表示装置の一例であり、この構成に限られるものではない。
【実施例】
【0075】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0076】
実施例中、MFR、ビカット軟化温度、メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量は、以下の方法でそれぞれ測定した。
メルトマスフローレート(MFR)は、JIS K 7210:1999「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」に規定される方法に準拠して測定した。ポリ(メタクリル酸メチル)系の材料については、温度230℃、荷重3.80kg(37.3N)で測定することが、このJISに規定されている。
ビカット軟化点(VST)は、JIS K 7206:1999「プラスチック−熱可塑性プラスチック−ビカット軟化温度(VST)試験方法」に規定のB50法に準拠し、ヒートディストーションテスター〔(株)安田精機製作所製の“148−6連型”〕を使用して測定した。その際の試験片は、各原料を3mm厚にプレス成形して測定を行った。
(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した。GPCの検量線の作成には、分子量分布が狭く分子量が既知の昭和電工(株)製のメタクリル樹脂を標準試薬として使用し、溶出時間と分子量から検量線を作成し、各樹脂組成物の重量平均分子量を測定した。具体的には、樹脂40mgをテトラヒドロフラン(THF)溶媒20mlに溶解させ、測定試料を作製した。測定装置には、東ソー(株)製のカラムである「TSKgel SuperHM-H」2本と、「SuperH2500」1本とを直列に並べて設置し、検出器にRI検出器を採用したものを用いた。測定された分子量分布曲線は、横軸の分子量の対数をとることにより、正規分布関数を用いてフィッティングを行い、下式の正規分布関数を用いてフィッティングを行った。
【数1】
【0077】
(製造例1)
メタクリル酸メチル97.5重量%およびアクリル酸メチル2.5重量%のモノマー組成から、バルク重合法によりペレット状のメタクリル樹脂(i)を得た。メタクリル樹脂(i)は、メルトマスフローレート(MFR)が0.8g/cm3であり、重量平均分子量(Mw)が180,000であり、ビカット軟化温度(VST)が108℃であった。
【0078】
実施例に用いたフッ化ビニリデン樹脂を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
実施例1〜8、比較例1〜5
メタクリル樹脂(i)とフッ化ビニリデン樹脂とを、表2に記載された割合で均一に混合した後、単軸押出機(ラボプラストミル、東洋精機製)を用いて260℃で混練し、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を260℃でプレス成形した後、氷水に浸漬することで冷却し、厚さ500μmのシート状の成形体を得た。
【0081】
【表2】
【0082】
実施例9〜11、比較例6〜7
メタクリル樹脂(i)とフッ化ビニリデン樹脂とを、表3に記載された割合で均一に混合した後、単軸押出機(ラボプラストミル、東洋精機製)を用いて260℃で混練し、ブレンドペレットを得た。このペレットを260℃でプレス成形した後、10℃の冷プレスに30秒間保持し、厚さ500μmのシート状の成形体を得た。
【0083】
【表3】
【0084】
<高温および高湿暴露試験>
実施例1〜11、比較例1〜7で得られた成形体を60℃で相対湿度90%の恒温恒湿オーブンに120時間放置して高温および高湿暴露試験を行った。
【0085】
<ヘーズ>
実施例1〜11および比較例1〜7でそれぞれ得られた成形体、ならびに、それらの高温および高湿暴露試験後の成形体について、JIS K7136:2000に従ってヘーズを測定した。結果を表4に示す。
【0086】
<小角X線散乱測定>
大型放射光施設Spring-8(兵庫県)に設置されているBL19B2(産業利用ビームラインI)を用いて超小角領域の小角X線散乱(USAXS)を測定した。X線のエネルギーは18keV、試料から検出器までの距離は42m、検出器は2次元検出器PILATUS2Mを使用した。試料サイズは50mm×50mm、測定温度は室温(25℃)とした。
実施例1〜11および比較例1〜7でそれぞれ得られた成形体の波数Q=0.012nm-1における小角X線散乱強度Iと、同成形体の高温および高湿暴露試験後の波数Q=0.012nm-1における小角X線散乱強度Iの比、I/Iを算出した。結果を表4に示す。
【0087】
<比誘電率測定>
実施例1〜11および比較例1〜7でそれぞれ得られた成形体について、JIS K6911に従って、自動平衡ブリッジ法で3V、100kHzにおける比誘電率を測定した。結果を表4に示す。
【0088】
【表4】
【0089】
実施例12、14、16〜19
本発明の成形体をA層、熱可塑性樹脂層をB層としたとき、積層順がB層/A層/B層である構成の積層体を次のようにして製造できる。図1を参照して説明する。
まず、A層の形成材料として、メタクリル樹脂(i)とフッ化ビニリデン樹脂とを表5に示す組合せと割合で混合し、樹脂組成物を得ることができる。次いで、前記樹脂組成物を65mmφ一軸押出機2(日立造船(株)製)で、B層の形成材料としてメタクリル樹脂(i)100重量部を45mmφ一軸押出機1および3で、それぞれ溶融させる。次いで、これらを設定温度250〜270℃のフィードブロック4(日立造船(株)製)を介して上記のB層/A層/B層で表される構成となるように積層し、マルチマニホールド型ダイス5(日立造船(株)製、2種3層分配)から押し出して、フィルム状の溶融樹脂6を得ることができる。得られるフィルム状の溶融樹脂6を、対向配置した第1冷却ロール7と第2冷却ロール8との間に挟み込み、次いで第2冷却ロール8に密着させながら第2冷却ロール8と第3冷却ロール9との間に挟み込んだ後、第3冷却ロール9に密着させて、成形・冷却することで、3層構成の積層体10を得ることができる。
【0090】
【表5】
【0091】
実施例13及び15
本発明の成形体をA層、熱可塑性樹脂層をB層としたとき、積層順がB層/A層/B層である構成の積層体を次のようにして製造した。図1を参照して説明する。
A層の形成材料として、メタクリル樹脂(i)とフッ化ビニリデン樹脂とを表5に示す組合せと割合で混合し、樹脂組成物を得た。次いで、前記樹脂組成物を65mmφ一軸押出機2(日立造船(株)製)で、B層の形成材料としてメタクリル樹脂(i)100重量部を45mmφ一軸押出機1および3で、それぞれ溶融させた。次いで、これらを設定温度250〜270℃のフィードブロック4(日立造船(株)製)を介して上記のB層/A層/B層で表される構成となるように積層し、マルチマニホールド型ダイス5(日立造船(株)製、2種3層分配)から押し出して、フィルム状の溶融樹脂6を得た。得られるフィルム状の溶融樹脂6を、対向配置した第1冷却ロール7と第2冷却ロール8との間に挟み込み、次いで第2冷却ロール8に密着させながら第2冷却ロール8と第3冷却ロール9との間に挟み込んだ後、第3冷却ロール9に密着させて、成形冷却することで、3層構成の積層体を得た。
【0092】
実施例13及び15では、いずれも本発明の成形体層(A層)が300μmで、熱可塑性樹脂層(B層)がそれぞれ100μmであり、これらの層がB層/A層/B層の順に積層された積層体を得た。得られた積層体を60℃で相対湿度90%の恒温高湿オーブンに120時間放置し、高温高湿暴露試験後の積層体について、実施例1と同様にヘーズを測定した。結果を表6に示す。
【表6】
【0093】
実施例20及び21
熱可塑性樹脂層を、ポリカーボネート樹脂(カリバー(登録商標)301−30)から形成した以外は実施例13と同様にして積層体を作製した。得られた積層体に対し、実施例1と同様にして高温高湿暴露試験前後のヘーズを測定した。その結果を表に示す。
【表7】
【0094】
実施例22
実施例1〜11で得られた成形体、又は実施例13、15、20及び21で得られた積層体をディスプレイ用ウインドウシートとして、実施例1〜11で得られた成形体を透明導電シートの基材として、それぞれ使用することにより、タッチセンサーパネルを作製することができる。
【0095】
実施例23
実施例1〜11で得られた成形体、又は実施例13、15、20及び21で得られた積層体を、ディスプレイ用ウインドウシートとして使用することにより、表示装置を作製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の成形体および積層体は、成形加工性や比誘電率を満足しながら、60℃で相対湿度90%の環境下に120時間暴露しても白濁せずに透明性を維持できることから、スマートフォン、携帯ゲーム機、オーディオプレーヤー、タブレット端末などに用いられるタッチセンサーパネル又は表示装置のウインドウシートとして有用である。
【符号の説明】
【0097】
1 一軸押出機((メタ)アクリル樹脂の溶融物を押し出す)
2 一軸押出機(本発明の樹脂組成物の溶融物を押し出す)
3 一軸押出機((メタ)アクリル樹脂の溶融物を押し出す)
4 フィードブロック
5 マルチマニホールド型ダイス
6 フィルム状の溶融樹脂
7 第1冷却ロール
8 第2冷却ロール
9 第3冷却ロール
10 溶融成形体
11 透明導電シート
12 光学粘着層
13 液晶表示装置
20 成形体又は積層体
21 偏光板
22 光学粘着層
23 液晶セル
25 液晶表示装置
図1
図2
図3