特許第6375154号(P6375154)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6375154
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】燃料油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/08 20060101AFI20180806BHJP
【FI】
   C10L1/08
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-128541(P2014-128541)
(22)【出願日】2014年6月23日
(65)【公開番号】特開2016-8239(P2016-8239A)
(43)【公開日】2016年1月18日
【審査請求日】2017年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100153866
【弁理士】
【氏名又は名称】滝沢 喜夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 大介
(72)【発明者】
【氏名】内山 勉
(72)【発明者】
【氏名】舘崎 圭
(72)【発明者】
【氏名】後藤 和也
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−124290(JP,A)
【文献】 特開2013−107964(JP,A)
【文献】 特開2010−235740(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/041478(WO,A1)
【文献】 特許第6279986(JP,B2)
【文献】 特開2011−105958(JP,A)
【文献】 特開2004−323625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/00− 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
15℃における密度が0.80g/cm以上0.88g/cm以下であり、沸点範囲165℃以上400℃以下、90%留出温度370℃以下の蒸留性状を有し、かつ、硫黄分が1質量%以下、30℃における動粘度が1.7mm/s以上5.1mm/s以下、セタン指数が40以上、引火点が45℃以上、流動点が−7.5℃以下、目詰まり点が−5℃以下である燃料油組成物であって、
炭素数9のn−パラフィン分、炭素数10のn−パラフィン分及び炭素数11のn−パラフィン分の各留分を、合計で0.7質量%以上4.2質量%以下含有し、
炭素数11のn−パラフィン分の含有量が0.5質量%以上1.4質量%以下である、燃料油組成物。
【請求項2】
炭素数9のn−パラフィン分、炭素数10のn−パラフィン分及び炭素数11のn−パラフィン分の各留分を、合計で0.9質量%以上19.2質量%以下含有する基材を含む、請求項1に記載の燃料油組成物。
【請求項3】
エチレンビニル共重合体からなる流動性向上剤を100ppm以上配合してなる、請求項1または2に記載の燃料油組成物。
【請求項4】
分留装置で、炭素数9のn−パラフィン分、炭素数10のn−パラフィン分及び炭素数11のn−パラフィンの各留分を、合計で0.9質量%以上19.2質量%以下に分留して得られる灯油基材と、軽油基材とを混合してなる、請求項1〜3のいずれかに記載の燃料油組成物。
【請求項5】
前記灯油基材を燃料油組成物基準で1容量%以上30容量%以下、及び前記軽油基材を燃料油組成物基準で70容量%以上99容量%以下配合してなる、請求項4に記載の燃料油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温性能に優れかつ高い発熱量を有する燃料油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軽油の基材としては、原油の常圧蒸留装置から得られる直留軽油留分に水素化精製処理や水素化脱硫処理を施した脱硫あるいは脱ロウ軽油留分、接触分解装置から得られる分解軽油留分、原油の常圧蒸留装置から得られる直留灯油留分、これに水素化精製処理や水素化脱硫処理を施した脱硫灯油留分等が知られており、従来の軽油組成物は上記軽油基材及び灯油基材を1種または2種以上配合することにより製造されている。
一般に、軽油留分は、高い発熱量を有するが、低温流動性等の低温性能が十分でないという課題を有している一方で、灯油留分は低温性能に優れるという特性を有していることから、低温性能に優れた軽油として、軽油留分に灯油留分を混合したものが用いられていた。近年、エネルギーの効率化が要求されており、高燃費の軽油燃料が求められているが、灯油留分自体は密度が低いことから、これを軽油留分に多量に配合すると得られる燃料油組成物の密度が低下し、この結果、得られる燃料油組成物の発熱量が低下するという問題があった。従来、基材の面から、低温性能に優れた軽油組成物あるいはA重油を得る方法として、他に、脱ロウ軽油留分を用いる方法があるが、脱ロウ軽油留分はその製造に専用の設備や触媒を必要とする等のコスト上の問題があった。また、軽油留分を軽質カットして低温性能を上げることが考えられるが、この場合も得られる燃料油組成物の密度が低下して発熱量が低下する。さらに、低温流動性を改善する方法として、特許文献1には、A重油に特定の引火点を有する灯油を配合する方法が開示されているが、得られる組成物の発熱量については何ら開示されておらず、また未だ十分でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−247972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のとおり、優れた低温性能を有し、かつ高い発熱量が得られる軽油組成物は未だ得られていなかった。すなわち、本発明の課題は、優れた低温性能を有し、かつ高い発熱量が得られる燃料油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、軽質留分をカットした特定の蒸留性状を有する燃料油組成物を用いることにより、低温性能に優れ、かつ高い発熱量を有する燃料油組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
[1]15℃における密度が0.80g/cm3以上0.88g/cm3以下であり、沸点範囲165℃以上400℃以下、90%留出温度370℃以下の蒸留性状を有し、かつ、硫黄分が1質量%以下、30℃における動粘度が1.7mm2/s以上5.1mm2/s以下、セタン指数が40以上、引火点が45℃以上、流動点が−7.5℃以下、目詰まり点が−5℃以下である燃料油組成物、
[2]炭素数9のn−パラフィン分、炭素数10のn−パラフィン分及び炭素数11のn−パラフィン分の各留分を、合計で0.7質量%以上4.2質量%以下含有する、上記[1]記載の燃料油組成物、
[3]炭素数9のn−パラフィン分、炭素数10のn−パラフィン分及び炭素数11のn−パラフィン分の各留分を合計で0.9質量%以上19.2質量%以下含有する基材を含む、上記[1]または[2]に記載の燃料油組成物、
[4]エチレンビニル共重合体からなる流動性向上剤を100ppm以上配合してなる、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の燃料油組成物、
[5]分留装置で、炭素数9のn−パラフィン分、炭素数10のn−パラフィン分及び炭素数11のn−パラフィン分の各留分を、合計で0.9質量%以上19.2質量%以下に分留して得られる灯油基材と、軽油基材とを混合してなる、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の燃料油組成物、及び
[6]前記灯油基材を燃料油組成物基準で1容量%以上30容量%以下、及び前記軽油基材を燃料油組成物基準で70容量%以上99容量%以下配合してなる、上記[5]記載の燃料油組成物、
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れた低温性能を有し、かつ高い発熱量が得られる燃料油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の燃料油組成物は、15℃における密度が0.80g/cm3以上0.88g/cm3以下であり、沸点範囲165℃以上400℃以下、90%留出温度370℃以下の蒸留性状を有し、かつ、硫黄分が1質量%以下、30℃における動粘度が1.7mm2/s以上5.1mm2/s以下、セタン指数が40以上、引火点が45℃以上、流動点が−7.5℃以下、目詰まり点が−5℃以下である。すなわち、本発明は、上記性状、特に、初留点の高い蒸留性状を有する燃料油組成物、とりわけ、特定軽質留分が特定量にカットされた燃料油組成物が、優れた低温性能を有するとともに、高い発熱量を有することを見出したものである。
【0009】
本発明の燃料油組成物の15℃における密度は、0.80g/cm3以上0.88g/cm3以下であり、好ましくは0.81g/cm3以上0.86g/cm3以下であり、さらに好ましくは0.82g/cm3以上0.84g/cm3以下である。15℃における密度が上記範囲内にあると、燃料油組成物の発熱量を高くすることができ、燃焼性を良好にできるため、燃費を良好に保つことができる。
本発明の燃料油組成物は、蒸留性状として、沸点範囲が165℃以上400℃以下であり、90%留出温度が370℃以下であることが必要である。沸点範囲が165℃以上であれば、特定の低沸点留分がカットされ、組成物が高い密度を有し、高い発熱量が得られる。この点から、上記沸点範囲は、好ましくは167℃以上、より好ましくは175℃以上である。90%留出温度は、燃焼性の観点から370℃以下であり、好ましくは350℃以下である。
【0010】
本発明の燃料油組成物における硫黄分含有量は、排気ガス中のSOx濃度を減少する等環境性能の観点、さらには排気ガス浄化触媒の寿命を延長させることができる観点から、1質量%以下であり、好ましくは10質量ppm以下である。また、30℃における動粘度は、潤滑性を維持するとともに、適正噴霧を確保できる観点から、1.7mm2/s以上5.1mm2/s以下であり、好ましくは2.5mm2/s以上4.8mm2/s以下であり、より好ましくは3.0mm2/s以上4.5mm2/s以下である。
【0011】
また、燃料油組成物のセタン指数は、40以上、好ましくは50以上である。セタン指数が上記範囲内であれば、着火性に優れ、ディーゼル燃料に使用した場合等、異常燃焼によるディーゼルノックを生ずる恐れがなく、環境性能にも優れる。また、引火点は、軽油やA重油の規格を満たすべく45℃以上、好ましくは55℃以上、より好ましくは65℃以上である。
流動点は、−7.5℃以下、好ましくは−10.0℃以下、より好ましくは−12.5℃以下であり、目詰まり点は−5℃以下、好ましくは−6℃以下、より好ましくは−7℃以下である。流動点及び目詰まり点が上記範囲内であれば、低温性能に優れた燃料油組成物となる。
【0012】
本発明の燃料油組成物の発熱量は、上記性状を有することから、通常、38000J/L以上であり、好ましくは38030J/L以上の発熱量を有し、より好ましくは38050J/L以上、さらに好ましくは38080J/L以上の発熱量を有する。
本発明の燃料油組成物は、上述の性状を満たすことにより、JIS K2204規格による2号軽油あるいはJIS K2205規格によるA重油の性状を維持することができるとともに、さらに高い発熱量及び優れた低温性能を有することができる。
【0013】
なお、本発明においては、15℃における密度は、JIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される密度である。
沸点範囲、90%留出温度は、JIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法(常圧法)」により測定される値である。
硫黄分は、JIS K 2541−6「原油及び石油製品−硫黄分試験方法 第6部:紫外蛍光法」により測定される値である。
30℃における動粘度は、JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」により測定される値である。
【0014】
引火点は、JIS K 2265−3「引火点の求め方−第3部:ペンスキーマルテン密閉法」により測定される値である。
流動点及び曇り点は、JIS K 2269「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」により測定される値である。
目詰まり点は、JIS K 2288「石油製品−軽油−目詰まり点試験方法」により測定される値である。
セタン価及びセタン指数は、JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」により測定及び算出される値である。
発熱量は、JIS K 2279「原油及び石油製品−発熱量試験方法及び計算による推定方法」の推定式(箇条番号6.3e)1)によって測定及び算出される値である。
【0015】
本発明の燃料油組成物は、炭素数9のn−パラフィン分(以下、「N−C9」という場合がある)、炭素数10のn−パラフィン分(以下、「N−C10」という場合がある)及び炭素数11のn−パラフィン分(以下、「N−C11」という場合がある)の各留分を、合計で0.7質量%以上4.2質量%以下含有することが好ましい。
すなわち、一般に、軽油組成物は、温度が下がると軽油中に含まれるn−パラフィン分が析出し、低温流動性や燃料フィルター閉塞などの低温性能に問題が生じる場合がある。このことから、本発明の燃料油組成物においては、C9留分、C10留分及びC11留分の各々の軽質留分のうち、特にそのパラフィン分を除くことが上記観点から好ましい。したがって、本発明においては、上述のように、燃料油組成物中のN−C9、N−C10、N−C11の各留分の合計の含有量を規定した。
【0016】
本発明においては、N−C9、N−C10及びN−C11の各留分の合計の含有量を上記範囲内にすること、すなわち、沸点範囲における初留点等を高くすることで組成物が重質化し、密度が高くなる。この結果、得られる燃料油組成物は、優れた低温性能を維持するとともに、高い発熱量を得ることができる。このような観点から、N−C9、N−C10及びN−C11の各留分の合計の含有量は、より好ましくは1.0質量%以上4.0質量%以下であり、さらに好ましくは1.2質量%以上3.9質量%以下である。
【0017】
また、本発明においては、上記各留分を必要以上にカットすることは、n−パラフィン分以外の低温流動性の優れた留分を過度に除去することや、得られる組成物の過度の重質化を引き起こし、低温性能等の悪化を招くことがあるため、N−C9、N−C10及びN−C11の各留分の含有量の下限値は、好ましくは0.1質量%である。特に、N−C11以上の留分を過度にカットしないことが好ましく、N−C11留分の含有量は、0.5質量%以上、特に0.7質量%以上とすることが好ましい。
なお、上記各留分含有量は、通常のガスクロマトグラフィー法により測定することができる。
【0018】
上述の性状を有する本発明の燃料油組成物は、当業者が種々の公知の手段を組み合わせることにより製造することができる。例えば、脱硫軽油(軽油基材)に灯油留分を混合して2号軽油あるいはA重油を調製する際に、灯油留分として前記特定の軽質留分を選択的に特定量カットした灯油留分(以下、「カット灯油基材」という)を使用することにより本発明の燃料油組成物を製造することができる。また、本発明においては、必要に応じ、上記脱硫軽油に代えて、直留軽油留分、分解軽油留分等の公知の軽油留分(軽油基材)を用いることも任意である。
【0019】
本発明の燃料油組成物の製造に用いることができる脱硫軽油としては、例えば、直留軽油を水素化脱硫装置を用いて、Co−Mo/アルミナ触媒、Ni−Mo/アルミナ触媒等の触媒の存在下で、2.94MPa・G以上9.81MPa・G以下、好ましくは4.90MPa・G以上6.86MPa・G以下の圧力下、300℃以上400℃以下、好ましくは330℃以上360℃以下の温度で、液空間速度(LHSV)0.5hr-1以上5hr-1以下、好ましくは1hr-1以上2hr-1以下の条件で脱硫反応を行い、その後ストリッパーで硫化水素とナフサを除去して得られるものを用いることができる。
【0020】
その性状として、沸点が140℃以上400℃以下の範囲内にあり、90%留出温度が250℃以上380℃以下であり、15℃における密度が0.80g/cm3以上0.90g/cm3以下の範囲のものを適宜使用することができる。また、硫黄分は1質量%以下、好ましくは20質量ppm以下のものが一般に使用できるが、特に10質量ppm以下のものが好適に使用できる。また、上記脱硫軽油としては、動粘度が1.5mm2/s以上、引火点が45℃以上、流動点が5.0℃以下、目詰まり点が−5℃以下、セタン指数が40以上であるものが使用できる。
なお、脱硫軽油の蒸留性状、15℃における密度、硫黄分、動粘度、引火点、流動点、目詰まり点、セタン指数は前述の燃料油組成物の場合と同様の方法により測定することができる。
【0021】
以上の実施態様においては、本発明の燃料油組成物は、上記脱硫軽油にカット灯油基材を配合して得られる。ここでカット灯油基材を得るための灯油留分としては、当業界で通常用いられる灯油留分であれば、その製法、性状は特に限定されず、種々の方法で製造されたものをいずれも用いることができ、一般には原油を常圧蒸留装置で分留して得られる沸点1 4 0℃以上290℃以下程度の直留灯油留分、この留分を脱硫して得られる脱硫灯油留分等が用いられる。また、その他にも例えば重質油を水素化分解した際に得られる水素化分解灯油やフルレンジナフサを蒸留して得られる重質留分も使用することができる。
その性状に特に制限はないが、通常、沸点範囲が1 4 0℃以上290℃以下程度であり、95%留出温度が270℃以下、硫黄分が0.5質量%以下、好ましくは20質量ppm以下であり、15℃における密度が0.76g/cm3以上0.85g/cm3以下、引火点が40℃以上である。これらの性状は、いずれも前述と同様の方法により測定することができる。
【0022】
上記燃料油組成物の製造において、脱硫軽油等と混合するカット灯油基材としては、上記灯油留分を分留装置で、N−C9、N−C10及びN−C11の各留分の含有量を、合計で0.9質量%以上19.2質量%以下としたものが好ましく用いられる。上記各留分含有量を上記のように規定することで、得られる燃料油組成物は、低温流動性等の低温性能に優れ、かつ軽油としての高い発熱量が得られるものとなる。この観点から、カット灯油基材中におけるN−C9、N−C10及びN−C11の各留分の含有量は、合計でより好ましくは1.0質量%以上18.0質量%以下、より好ましくは、2.0質量%以上17.0質量%以下、さらに好ましくは3.0質量%以上16.5質量%以下である。
【0023】
上記カット灯油基材についても、前記燃料油組成物の場合と同様、上記各留分を必要以上にカットすることは、n−パラフィン分以外の低温流動性の優れた留分を過度に除去することや、得られる燃料油組成物の重質化を引き起こし、低温性能等の悪化を招くことがあるため、N−C11留分の含有量は、0.5質量%以上、特に2.0質量%以上、とりわけ3.0質量%以上とすることが好ましい。
なお、灯油基材の分留は、通常、常圧蒸留で行うが、実際の分留操作では、目的留分をカットする際に、目的留分の近傍の留分も同時にカットされる。このことから、目的留分をカットする場合は、その目的留分を若干量残す、すなわち、目的留分の含有量が所定の下限値を有するようにカットしたほうが、結果的に、n−パラフィン分の総割合を低減させることができ、好ましい。
なお、上記各留分含有量は、前述と同様、通常のガスクロマトグラフィー法により測定することができる。
【0024】
上記カット灯油基材を調製する方法としては、前記灯油留分から、通常の分留装置を用いて、温度等所定の条件下、N−C9留分、N−C10留分及びN−C11留分の各々を順次あるいはその二種以上を同時にカットして行うことができる。具体的には、例えば、分留装置でN−C9留分とN−C10以上の留分を分離して得られたN−C9残分とN−C10以上の留分からなるカット灯油基材、分留装置でN−C9及びN−C10留分とN−C11以上の留分を分離して得られたN−C10残分とN−C11以上の留分からなるカット灯油基材、さらに、分留装置でN−C9〜N−C11留分とN−C12以上の留分を分離して得られたN−C11残分とN−C12以上の留分からなるカット灯油基材等が使用できる。上記各留分の分留は当業者が行う通常の方法を採用して行うことができる。
【0025】
なお、カット灯油基材の他の性状については特に制限はなく、軽質成分をカットしたことによる初留点をはじめ蒸留性状の変動、密度、動粘度、引火点等の変動等を除き、カット前の灯油留分と同様である。
また、本発明の燃料油組成物は、上述のカット灯油基材を使用して調製する方法以外に、それに準じた他の種々の方法で製造することも可能である。例えば、N−C9、N−C10、N−C11等の留分の含有量を本発明の範囲内としうるものであれば、灯油留分以外の留分からなる基材、例えば、フルレンジナフサを蒸留して得られる重質留分を用いて燃料油組成物を調製することも可能である。
【0026】
上述のカット灯油基材を用いた本発明の燃料油組成物の製造においては、カット灯油基材と脱硫軽油とを混合するが、その場合、カット灯油基材は、燃料油組成物基準で1容量%以上30容量%以下配合される。カット灯油基材の配合量が、上記範囲内であれば、十分な発熱量が得られ、低温性能も良好である。この観点から、カット灯油基材の配合量は、好ましくは、2容量%以上25容量%以下であり、より好ましくは、5容量%以上20容量%以下である。
また、脱硫軽油等は、燃料油組成物基準で70容量%以上99容量%以下配合される。脱硫軽油の配合量が上記範囲内であれば、十分な発熱量が得られ、低温性能も良好である。この観点から、脱硫軽油等の配合量は、好ましくは、75容量%以上98容量%以下であり、より好ましくは、80容量%以上95容量%以下である。
【0027】
本発明の燃料油組成物には、上記性状を得るための公知の他の燃料油基材及び各種の添加剤を適宜配合することができる。このような添加剤としては、流動性向上剤、潤滑性向上剤、セタン価向上剤、界面活性剤、防腐剤、防錆剤、消泡剤、清浄剤、酸化防止剤、色相改善剤など種々の公知の燃料添加剤が挙げられる。これらは一種または二種以上組み合わせて添加することができる。
流動性向上剤は、前記燃料油組成物基準で100質量ppm以上含まれることが好ましい。流動性向上剤が100質量ppm以上含まれると、目詰まり点と流動点が向上する。この観点から、流動性向上剤の含有量は、より好ましくは、150質量ppm以上であり、さらに好ましくは、200質量ppm以上である。目詰まり点と流動点の向上効果が頭打ちになることから、流動性向上剤の含有量の上限値は、通常、500質量ppmである。
流動性向上剤としては、アルケニルコハク酸アミド化合物、ポリアクキルメタクリレート、ポリアルキシレン脂肪酸エステル、エチレンビニル共重合体等からなるものが挙げられる。なかでも、目詰まり点と流動点の良好な向上効果が得られる観点から、エチレンビニル共重合体からなる流動性向上剤が好ましい。
【実施例】
【0028】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[評価方法]
各燃料油基材及び燃料油組成物の性状は、次の方法により評価した。
<N−C9、N−C10、N−C11の各留分の同定及び定量>
6890N System(Agilent Technologies)を用い、下記条件にて定量(GC−FID)を行った。
・カラム:DB−1(Agilent Technologies)
・注入口温度:340℃
・オーブン温度:300℃(50℃から5℃/minで昇温)
・キャリアガス:He
・注入量:0.1μl
【0029】
<15℃における密度>
15℃における密度は、JIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定された密度である。
<蒸留性状>
蒸留性状は、JIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法(常圧法)」により測定した値である。
<30℃における動粘度>
30℃における動粘度は、JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」により測定した値である。
<引火点>
引火点は、JIS K 2265―3「引火点の求め方−第3部:ペンスキ−マルテン密閉法」により測定した値である。
【0030】
<流動点及び曇り点>
流動点及び曇り点は、JIS K 2269「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」により測定した値である。
<目詰まり点>
目詰まり点は、JIS K 2288「石油製品−軽油−目詰まり点試験方法」により測定した値である。
<硫黄分>
硫黄分は、JIS K 2541−6「原油及び石油製品−硫黄分試験方法 第6部:紫外蛍光法」により測定される値である。
<セタン価及びセタン指数>
セタン価及びセタン指数は、JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」により測定及び算出された値である。
<発熱量>
発熱量は、JIS K 2279「原油及び石油製品―発熱量試験方法及び計算による推定方法」の推定式(箇条番号6.3e)1)によって測定及び算出された値である。発熱量が38000J/L以上のものを合格とした。
【0031】
[カット灯油基材の製造]
<製造例1:カット灯油1の製造>
カット灯油1を得るために分留する際は、脱硫灯油をN−C9を3.0質量%以上3.4質量%以下の範囲となる条件で行えばよいが、具体的な分留条件は、好ましくは温度80〜87℃、圧力0.05〜0.08MPaの条件で行うことができる。
得られたカット灯油基材1の性状を表1に示す。
<製造例2:カット灯油2の製造>
カット灯油2を得るために分留する際は、脱硫灯油をN−C10を2.9質量%以上3.3質量%以下の範囲となる条件で行えばよいが、具体的な分留条件は、好ましくは温度93〜100℃、圧力0.05〜0.08MPaの条件で行うことができる。
得られたカット灯油基材2の性状を表1に示す。
<製造例3:カット灯油3の製造>
カット灯油3を得るために分留する際は、脱硫灯油をN−C11を2.9質量%以上3.3質量%以下の範囲となる条件で行えばよいが、具体的な分留条件は、好ましくは温度105〜112℃、圧力0.05〜0.08MPaの条件で行うことができる。
得られたカット灯油基材3の性状を表1に示す。
<製造例4:カット灯油4の製造>
カット灯油4を得るために分留する際は、脱硫灯油をN−C11を0.3質量%以下の範囲となる条件で行えばよいが、具体的な分留条件は、好ましくは温度117〜124℃、圧力0.05〜0.08MPaの条件で行うことができる。
得られたカット灯油基材4の性状を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
[燃料油組成物の調製]
表1に示す性状の脱硫軽油と、製造例1〜4の各々により製造されたカット灯油基材あるいは脱硫灯油とを混合し、実施例1〜3及び比較例1〜3の燃料油組成物を製造し、上述の評価方法により評価した。結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
実施例1〜3によれば、カット灯油基材1〜3の各々を混合し、本発明の性状を満たす燃料油組成物は、特に、軽質成分をカットしない脱硫灯油を用いた比較例1に対して、低温流動性が維持され、かつ発熱量が高められることが判った。また、過度にカットしたカット灯油基材4を混合した比較例2に対して、発熱量は維持され、低温流動性は向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の燃料油組成物は、発熱量が改善され、かつ低温性能に優れたものであることから、特に、JIS K2204規格による2号軽油あるいはJIS K2205規格によるA重油として、好適に使用することができる。