【文献】
ZHANG, Z. et al.,The seeds effect on zeolite NU-87: synthesis parameters and structural properties,J Porous Mater,2013年,Vol. 20,p. 515-521
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
種結晶を含まない反応混合物を100〜200℃の温度で密閉加熱した後、種結晶を反応混合物に添加し、更に該反応混合物を100〜200℃の温度で密閉加熱する請求項1に記載の製造方法。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許出願公開第377291号明細書
【特許文献2】米国特許第4537754号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nature, 353 (1991) p.417-420
【非特許文献2】Catalysis Today, 63, (2000) p.267-273
【非特許文献3】Journal of Catalysis, 227, (2004) p.227-241
【非特許文献4】Angedwante Chemie International Edition, 41 (2002) p.4109-4112
【非特許文献5】Microporous and Mesoporous Materials, 64 (2003) p.185-201
【非特許文献6】Microporous and Mesoporous Materials, 143 (2011) p.6-13
【非特許文献7】Microporous Materials, 4 (1995) p.123-130
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて説明する。本発明に従い合成されたNES型ゼオライトは、熱処理をしない状態で本質的に有機物を含まない。ここでいう有機物とは、OSDAとしてゼオライトの合成に用いられる第四級アンモニウム化合物等を主として包含する。アルミノシリケート骨格の四配位アルミニウムの負電荷と電荷補償して骨格外に存在するイオンは、ナトリウムイオンやカリウムイオン等のアルカリ金属イオンであり、細孔内に存在するそれ以外のものは水又は少量の吸着ガスのみである。すなわち、本発明に従い合成されたNES型ゼオライトは、以下に記載する、OSDAを用いない製造方法によって得られるので、本質的にOSDAを初めとする有機物を含んでいない。本発明に従い合成されたNES型ゼオライトにおけるアルミノシリケート骨格のSiO
2/Al
2O
3比は、好ましくは10〜40の範囲である。また、本発明に従い合成されたNES型ゼオライトのX線回折図は、これまで報告されている合成NES型ゼオライトのX線回折図と本質的に同等である。このことから、本発明に従い合成されたNES型ゼオライトの構造的特徴は、OSDAを用いて合成される従来のNES型ゼオライトと同じであると判断される。
【0011】
本発明の製造方法の特徴の一つは、有機化合物からなるOSDAを全く添加することなく、反応混合物を調製することである。反応混合物としては、ナトリウムイオンを含む水性アルミノシリケートゲルを用いる。水性アルミノシリケートゲルの反応混合物にナトリウムイオン以外のアルカリ金属イオン、例えばカリウムイオンやリチウムイオンが存在することは、本発明の製造方法においては必須ではない。ただし本発明の製造方法において、カリウムイオンやリチウムイオンを用いることは妨げられない。
【0012】
本発明の製造方法の別の特徴は、種結晶を使用することである。種結晶としては、従来法、すなわちOSDAを用いた方法で製造されたEUO型ゼオライトを焼成し、有機物を除去したものを使用することができる。従来法に従うNES型ゼオライトの合成方法は、例えば上述した特許文献1及び非特許文献1に記載されている。従来法に従うNES型ゼオライトの合成方法において、使用するOSDAの種類は限定されない。一般に、OSDAとしてデカメトニウムを用いると、NES型ゼオライトを首尾良く製造することができる。
【0013】
種結晶の合成においては、アルミナ源及びシリカ源にOSDAを添加するのと同時にアルカリ金属イオンを添加することが好ましい。OSDAとしては、例えば先に述べた臭化ヘキサメトニウムを用いることができる。アルカリ金属イオンとしては、ナトリウムイオンを用いることが好ましい。このようにしてEUO型ゼオライトが合成されたら、これを種結晶として使用する前に、例えば空気中で500℃以上の温度で焼成し、結晶中に取り込まれているOSDAを除去する。OSDAを除去しない種結晶を使用して本発明の方法を実施すると、反応終了後の廃液中に有機物が混入することとなる。また生成するNES型ゼオライトにOSDAが含まれる可能性もあり、本発明の趣旨に反する。
【0014】
種結晶として用いられるEUO型ゼオライトにおいては、SiO
2/Al
2O
3比は10〜50の範囲、好ましくは15〜40の範囲である。種結晶のSiO
2/Al
2O
3比を10以上とすることで、NES型ゼオライトの結晶化速度を十分に速くすることができる。一方、SiO
2/Al
2O
3比を50以下にすることで、NES型ゼオライトを容易に合成することができる。
【0015】
種結晶の添加量は、前記の反応混合物中のシリカ成分に対して0.1〜30重量%の範囲、好ましくは5〜20重量%の範囲、一層好ましくは8〜20重量%の範囲である。添加量がこの範囲内であることを条件として種結晶の添加量は少ない方が好ましく、反応速度や不純物の抑制効果などを考慮して添加量が決定される。
【0016】
種結晶の平均粒子径は0.1μm以上とし、好ましくは0.1〜5μm、更に好ましくは0.2〜2.0μmとする。合成によって得られるゼオライトの結晶の大きさは、一般的に均一ではなく、ある程度の粒子径分布を持っている、その中で最大頻度を有する結晶粒子径を求めることは困難ではない。平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡による観察における最大頻度の結晶の粒子直径を指す。0.1μm未満の粒子を合成するためには特別な工夫が必要な場合が多く、高価なものとなってしまう。したがって、本発明では平均粒子径が0.1μm以上のEUO型ゼオライトを種結晶として用いる。種結晶の平均粒子径の大きさによって、結晶化速度や生成結晶の大きさに影響が生じる場合があるものの、種結晶の平均粒子径の違いが、EUO型ゼオライトの合成に本質的な支障を来すことはない。
【0017】
種結晶を添加する反応混合物は、以下に示すモル比で表される組成となるように、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源、及び水を混合して得られる。反応混合物の組成がこの範囲外であると、後述する比較例の結果から明らかなように、目的とするNES型ゼオライトを得ることができず、代わりに他のゼオライト、例えばモルデナイトなどが生成してしまう。
・SiO
2/Al
2O
3=20〜100
・Na
2O/SiO
2=0.11〜0.2
・H
2O/SiO
2=5〜50
【0018】
更に好ましい反応混合物の組成の範囲は以下のとおりである。
・SiO
2/Al
2O
3=30〜90
・Na
2O/SiO
2=0.12〜0.19
・H
2O/SiO
2=7〜40
【0019】
一層好ましい反応混合物の組成の範囲は以下のとおりである。
・SiO
2/Al
2O
3=35〜85
・Na
2O/SiO
2=0.12〜0.18
・H
2O/SiO
2=7〜30
【0020】
前記のモル比を有する反応混合物を得るために用いられるシリカ源としては、シリカそのもの及び水中でケイ酸イオンの生成が可能なケイ素含有化合物が挙げられる。具体的には、湿式法シリカ、乾式法シリカ、コロイダルシリカ、ケイ酸ナトリウム、アルミノシリケートゲルなどが挙げられる。これらのシリカ源は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのシリカ源のうち、シリカ(二酸化ケイ素)を用いることが、不要な副生物を伴わずに目的とするゼオライトを得ることができる点で好ましい。
【0021】
アルミナ源としては、例えば水溶性アルミニウム含有化合物や粉末状アルミニウムを用いることができる。水溶性アルミニウム含有化合物としては、アルミン酸ナトリウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなどが挙げられる。また、水酸化アルミニウムも好適なアルミナ源の一つである。これらのアルミナ源は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのアルミナ源のうち、粉末状アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウムを用いることが、不要な副生物(例えば硫酸塩や硝酸塩等)を伴わずに目的とするゼオライトを得ることができる点で好ましい。
【0022】
アルカリ源としては、例えば水酸化ナトリウムを用いることができる。なお、シリカ源としてケイ酸ナトリウムを用いた場合やアルミナ源としてアルミン酸ナトリウムを用いた場合、そこに含まれるアルカリ金属成分であるナトリウムは同時にNaOHとみなされ、アルカリ成分でもある。したがって、前記のNa
2Oは反応混合物中のすべてのアルカリ成分の和として計算される。なお、先に述べたとおり、アルカリ源として用いられるアルカリ金属としては、ナトリウムを用いることが必須であり、それら以外のアルカリ金属イオン、例えばカリウムイオンやリチウムイオンは、本発明の製造方法においては必須ではない。
【0023】
反応混合物を調製するときの各原料の添加順序は、均一な反応混合物が得られ易い方法を採用すれば良い。例えば、室温下、アルミナ源とアルカリ源とを水に添加して溶解させ、次いでシリカ源を添加して撹拌混合することにより、均一な反応混合物を得ることができる。種結晶は、シリカ源を添加する前に加えるか、又はシリカ源と混合した後に加える。その後、種結晶が均一に分散するように撹拌混合する。反応混合物を調製するときの温度にも特に制限はない。
【0024】
特に、種結晶を含まない前記反応混合物を密閉容器中に入れて自生圧力下に予備加熱した後に種結晶を添加すると、目的とするNES型ゼオライトが首尾良く得られるので好ましい。とりわけ、反応混合物を予備加熱した後に急冷し、該反応混合物が室温まで冷却された後に種結晶を添加すると、目的とするNES型ゼオライトが一層首尾良く得られるので好ましい。これらいずれの場合であっても、反応混合物の調製は、アルミナ源とアルカリ源を含む液に、シリカ源を添加するという手順で行うことが好ましい。また、反応混合物の予備加熱の温度及び時間は特に限定されない。具体的には、予備加熱の温度は100〜200℃とすることが好ましく、120〜200℃とすることが更に好ましい。予備加熱の時間は、予備加熱の温度がこの範囲内であることを条件として、0.5〜24時間、特に1〜20時間とすることが好ましい。予備加熱の温度と種結晶を添加した後の結晶化温度は同じでも、また異なる温度でも良く、特に限定されない。加熱時間との組み合わせにおいて効率よく結晶化が進行する条件を設定すれば良い。
【0025】
予備加熱を行ったか又は予備加熱を行わない反応混合物に種結晶を添加し、EUO型ゼオライトからなる種結晶を含む該反応混合物を、密閉容器中に入れて加熱して反応させ、自生圧力下にNES型ゼオライトを生成させ結晶化する。この反応混合物にOSDAは含まれていない。種結晶は、上述した特許文献1又は非特許文献1に記載の方法で得られたものを焼成等の操作に付して、OSDA等の有機物を含まない状態で用いることができる。
【0026】
種結晶を含む反応混合物を用いてNES型ゼオライトを結晶化するときには、熟成をした後に加熱すると、結晶化が進行し易いので好ましい。熟成とは、反応温度よりも低い温度で一定時間その温度に保持する操作をいう。熟成においては、一般的には、撹拌することなしに静置する。熟成を行うことで、不純物の副生を防止すること、不純物の副生なしに撹拌下での加熱を可能にすること、反応速度を上げることなどの効果が奏されることが知られているが、作用機構は必ずしも明らかではない。熟成の温度と時間は、前記の効果が最大限に発揮されるように設定される。本製造方法では、好ましくは20〜80℃、更に好ましくは20〜60℃で、好ましくは2〜24時間の範囲で熟成が行われる。
【0027】
種結晶を含む反応混合物を加熱して結晶化をさせている間、該反応混合物の温度の均一化を図るために、該反応混合物を撹拌しても良い。撹拌は、撹拌羽根による混合や、容器の回転によって行うことができる。撹拌強度や回転数は、温度の均一性や不純物の副生具合に応じて調整すれば良い。常時撹拌ではなく、間歇撹拌でも良い。
【0028】
静置状態下に結晶化を行う場合及び撹拌状態下に結晶化を行う場合のいずれでも、加熱は密閉下に行う。加熱温度は100〜200℃の範囲であり、好ましくは120〜200℃、更に好ましくは140〜200℃の範囲である。この加熱は自生圧力下でのものである。100℃未満の温度では結晶化速度が極端に遅くなるのでNES型ゼオライトの生成効率が悪くなる。一方、200℃超の温度では、高耐圧強度のオートクレーブが必要となるため経済性に欠けるばかりでなく、不純物の発生速度が速くなる。加熱時間は本製造方法において臨界的ではなく、結晶性の十分に高いNES型ゼオライトが生成するまで加熱すれば良い。一般に2〜200時間程度の加熱によって、満足すべき結晶性のNES型ゼオライトが得られる。
【0029】
前記の加熱によってNES型ゼオライトの結晶が得られる。加熱終了後は、生成した結晶粉末をろ過によって母液と分離した後、水又は温水で洗浄して乾燥する。乾燥したままの状態で実質的に有機物を含んでいないので焼成の必要はなく、脱水を行えば吸着剤などとして使用可能である。また、固体酸触媒として使用する際は、例えば結晶内のナトリウムイオンをアンモニウムイオンに交換した後、焼成することによってプロトン型として使用することができる。
【0030】
このようにして得られたNES型ゼオライトは、その細孔径の大きさや、固体酸活性を利用して、各種の物質の吸着剤や、化学反応の触媒として好適に用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。なお、以下の実施例、比較例及び参考例で用いた分析機器は以下のとおりである。
粉末X線回折装置:マック サイエンス社製、粉末X線回折装置 MO3XHF
22、Cukα線使用、電圧40kV、電流30mA、スキャンステップ0.02°、スキャン速度2°/min
組成分析装置:(株)バリアン製、ICP−AES LIBERTY SeriesII
窒素吸着特性測定装置:カンタクローム インスツルメンツ社製、Autosorb-iQ2-MP 、真空下400℃で4時間前処理後、液体窒素温度(−196℃)で吸着等温線を測定。
【0032】
〔参考例〕
種結晶の合成
臭化ヘキサメトニウムを有機構造規定剤として用い、アルミン酸ナトリウムをアルミナ源、調製し、粉末状シリカ(Cab−O−Sil、M5)をシリカ源、水酸化ナトリウムをアルカリ源とする従来公知の方法(非特許文献1)により反応混合物を調製した。この反応混合物を23ccのステンレス製密閉容器に入れて180℃で7日間、20rpmでの撹拌加熱を行ってゼオライトEU−1(EUO型ゼオライト)の結晶を合成した。このゼオライトEU−1を電気炉中で空気を流通しながら550℃で10時間焼成して、有機物を含まない種結晶を製造した。組成分析の結果、SiO
2/Al
2O
3比は29.2であった。ゼオライトEU−1を焼成した後のX線回折図を
図1に示す。また、この種結晶の窒素吸着等温線から求めた比表面積とミクロ孔容積は、それぞれ370m
2/g及び0.15cm
3/gであった。この有機物を含まないゼオライトEU−1の結晶を、以下に述べる実施例及び比較例において、種結晶として使用した。
【0033】
〔実施例1〕
NES型ゼオライトの合成
純水3.970gに、アルミン酸ナトリウム0.117gと50w/v%水酸化ナトリウム0.783gを溶解して水溶液を得た。この水溶液に粉末状シリカ(Cab−O−Sil、M5) 1.501gと前記の種結晶とを混合したものを添加して均一に混合し、以下の表1に記載した組成のゲルを得た。この反応混合物を23ccのステンレス製密閉容器に入れて、撹拌することなしに160℃で4日間加熱した。密閉容器を冷却後、生成物をろ過、温水洗浄して白色粉末を得た。この生成物のX線回折測定の結果、この生成物は
図2に示すように不純物を含まないNES型ゼオライトであるゼオライトNU−87であることが確認された。得られたゼオライトNU−87の窒素吸着等温線を
図3に示す。この窒素吸着等温線から求めた比表面積とミクロ孔容積は、それぞれ410m
2/g及び0.17cm
3/gであった。
【0034】
〔実施例2ないし8〕
NES型ゼオライトの合成
実施例1において、反応混合物の組成及び/又は反応条件を、以下の表1に示すとおりとした以外は実施例1と同様にして白色粉末を得た。この生成物のX線回折測定の結果、この生成物はNES型ゼオライトであるゼオライトNU−87であることが確認された。また、窒素吸着等温線から求めた比表面積とミクロ孔容積は、それぞれ430m
2/g及び0.18cm
3/gであった。
【0035】
【表1】
【0036】
〔比較例1〕
NU−87が全く結晶化しない例
純水4.042gに、アルミン酸ナトリウム0.070gと50w/v%水酸化ナトリウム0.682gを溶解して水溶液を得た。この水溶液に粉末状シリカ(Cab−O−Sil、M5)1.501gと前記の種結晶とを混合したものを添加して均一に混合し、表2に記載した組成のゲルを得た。この反応混合物を23ccのステンレス製密閉容器に入れて、撹拌することなしに160℃で5日間加熱した。密閉容器を冷却後、生成物をろ過、温水洗浄して白色粉末を得た。この生成物のX線回折測定の結果、この生成物は層状珪酸塩であった。
【0037】
〔比較例2ないし6〕
NU−87が全く結晶化しない例
比較例1において、反応混合物の組成を、以下の表2に示すとおりとするか(比較例2ないし4)、又は種結晶を添加しない(比較例5及び6)以外は比較例1と同様の反応を行った。反応によって生じた生成物のX線回折測定の結果、この生成物はNES型ゼオライトでないことが確認された。
【0038】
【表2】
【0039】
表1と表2との対比から明らかなとおり、特定のEUO型ゼオライトを種結晶として用い、これを特定の組成を有する反応混合物に添加して結晶化を行うことで、NES型ゼオライトが得られることが判る。反応混合物の組成が、本願発明の範囲外である比較例1ないし4、及び種結晶を用いない比較例5及び6では、目的とするNES型ゼオライトが得られないことが判る。