特許第6376085号(P6376085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376085
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】研磨方法及び研磨装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/015 20120101AFI20180813BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   B24B37/015
   H01L21/304 622R
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-173929(P2015-173929)
(22)【出願日】2015年9月3日
(65)【公開番号】特開2017-47513(P2017-47513A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2017年8月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】上野 淳一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 三千登
(72)【発明者】
【氏名】石井 薫
【審査官】 須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−205796(JP,A)
【文献】 特開2007−075973(JP,A)
【文献】 特開平09−155732(JP,A)
【文献】 特開2000−202765(JP,A)
【文献】 特開平06−099350(JP,A)
【文献】 特開2000−301440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B3/00−3/60
B24B21/00−39/06
H01L21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モーターにより回転駆動する定盤に設けられた冷媒流路に冷媒を供給して前記定盤を冷却しながら、保持手段により保持したウェーハを、前記定盤に貼り付けられた研磨布に摺接させることで研磨加工を行う研磨方法であって、
前記ウェーハの研磨加工終了後であって、次のウェーハの研磨加工を実施する前である待機時に、
前記冷媒の流量を、前記ウェーハの研磨加工を実施している研磨時の前記冷媒の流量未満に制御し、かつ、前記モーターにより前記定盤を回転させ、かつ、室温以上に調温された保水液を前記研磨布に供給することを特徴とする研磨方法。
【請求項2】
前記待機時の前記冷媒の流量を、前記研磨時の前記冷媒の流量の1/4以下とすることを特徴とする請求項1に記載の研磨方法。
【請求項3】
前記研磨加工を、複数の定盤を有し、各定盤で前記研磨加工を行う研磨装置を用いて行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の研磨方法。
【請求項4】
モーターにより回転駆動し、冷媒流路が設けられた定盤と、前記定盤に貼り付けられた研磨布と、ウェーハを保持する保持手段とを具備し、前記冷媒流路に冷媒を供給して前記定盤を冷却しながら、該保持手段により保持した前記ウェーハを、前記定盤に貼り付けられた前記研磨布に摺接させることで研磨加工を実施する研磨装置であって、
前記定盤の前記冷媒流路に供給する冷媒の流量を制御する流量調整弁と、
前記定盤の回転を制御する定盤制御部と、
前記ウェーハの研磨加工終了後であって、次のウェーハの研磨加工を実施する前である待機時に、前記研磨布を保水するための保水液を前記研磨布に供給する保水液供給機構とを有し、
前記流量調整弁が、前記待機時の前記冷媒の流量を、前記ウェーハの研磨加工を実施している研磨時の前記冷媒の流量未満に制御するものであり、
前記定盤制御部が、前記待機時も前記モーターにより前記定盤を回転させるものであり、
前記保水液供給機構が、室温以上に調温された前記保水液を前記待機時に前記研磨布に供給するものであることを特徴とする研磨装置。
【請求項5】
前記流量調整弁が、前記待機時の前記冷媒の流量を、前記研磨時の前記冷媒の流量の1/4以下に制御するものであることを特徴とする請求項4に記載の研磨装置。
【請求項6】
前記定盤を複数有し、各定盤上で前記研磨加工を行うものであることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハの研磨方法及び研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハ等のウェーハの研磨装置では、ウェーハの研磨加工を実施していない待機状態において、回転系の定盤や加工ヘッドは停止させておくことが一般的である。また、定盤冷却機能は待機状態においても研磨加工時と同じ状態のままとし、さらに、定盤上に貼られた研磨布の乾燥を防止するために、間欠で研磨布に保水液を供給することが一般的である。
【0003】
半導体ウェーハの研磨装置は、主に、研磨加工を行う定盤を有する研磨ステージと、ウェーハを搬送する搬送ステージで構成されている。ウェーハ搬送ステージでは、カセットからのウェーハ取り出し、カセットへのウェーハの収納、及び研磨ヘッド等の保持手段へのウェーハ脱着を行っている。なお、この一連の動作は研磨加工時間内に全て完了するように設定されている。
【0004】
研磨ステージでは、定盤に貼り付けた研磨布上に研磨剤を供給しながら、研磨ヘッドで保持したウェーハを研磨布に接触させて、研磨ヘッドと定盤を回転させて研磨加工を行っている。研磨加工時には、研磨布、研磨剤、及びウェーハの摩擦による発熱や、定盤回転によるモーターからの発熱が発生している。
【0005】
上記研磨加工時の摩擦による発熱に対しては、定盤の温度を一定に保つ目的で定盤ユニットに低温の冷却水などの冷媒を流し除熱を行っている(特許文献1参照)。また、モーターからの発熱に対しても、低温の冷却水でモーター周辺部を冷却したり、モーター設置箇所を強制排気したりすることで、定盤温度が必要以上に上がらないようにしている。
【0006】
これらの発熱に対する除熱操作は、研磨加工時の発熱が大きい状態でも効果が出るように、冷却水等の水温、水量、及び排気量が調整されている。また、除熱操作は加工状態であるか待機状態であるかに関係無く、常時定盤ユニットには冷却水が供給され、モーターユニットにも同様に常時冷却水の供給や強制排気が行われている。
【0007】
よって、研磨加工を行っていない待機状態の定盤では、研磨加工時に対し、定盤温度が2.17%程度下がる。定盤温度が下がった状態で次のウェーハの研磨加工を行うと、特に、加工再開時の初期において、前の研磨加工とは取り代やウェーハ形状に差が発生してしまう。また、定盤温度が下がった状態では、研磨取り代が減少したり、平坦度のばらつきが大きくなったりする。そのため、待機状態で定盤温度が低下した時は、次のウェーハの研磨加工を行う前にダミーウェーハの研磨加工による暖機運転を行い、その後次のウェーハの研磨加工を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−99350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように、従来、待機時に研磨ステージの定盤の温度が冷却水により下がり過ぎるため、研磨加工再開時の初期に研磨取代低下や平坦度のバラツキが大きくなる。そこで、待機状態から研磨加工を再開する前に、ダミー研磨による定盤の暖機を行っているが、このダミー研磨工程により生産性が低下してしまう。
【0010】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、待機時の定盤の温度の低下を抑制し、研磨加工の再開前のダミー研磨による暖機を不要とする研磨方法及び研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、モーターにより回転駆動する定盤に設けられた冷媒流路に冷媒を供給して前記定盤を冷却しながら、保持手段により保持したウェーハを、前記定盤に貼り付けられた研磨布に摺接させることで研磨加工を行う研磨方法であって、前記ウェーハの研磨加工終了後であって、次のウェーハの研磨加工を実施する前である待機時に、前記冷媒の流量を、前記ウェーハの研磨加工を実施している研磨時の前記冷媒の流量未満に制御し、かつ、前記モーターにより前記定盤を回転させ、かつ、室温以上に調温された保水液を前記研磨布に供給することを特徴とする研磨方法を提供する。
【0012】
このように、待機時に、冷媒の流量を減らし、かつ、定盤を回転駆動させることでモーターを発熱させ、さらに、研磨布に供給する保水液を室温以上の温度とすることで、過剰に定盤が冷却されないため、定盤の温度の極端な低下を防止することができる。
【0013】
このとき、前記待機時の前記冷媒の流量を、前記研磨時の前記冷媒の流量の1/4以下とすることが好ましい。
【0014】
このように、待機時の冷媒の流量を研磨時の1/4以下とすれば、より確実に定盤の過剰な冷却を防止できる。
【0015】
またこのとき、前記研磨加工を、複数の定盤を有し、各定盤で前記研磨加工を行う研磨装置を用いて行うことが好ましい。
【0016】
複数の定盤を有する研磨装置では、待機状態となる定盤が一定数発生することが多い。従って、複数の定盤を有する研磨装置において、本発明の研磨方法を使用することが好適である。
【0017】
また、上記目的を達成するために、本発明は、モーターにより回転駆動し、冷媒流路が設けられた定盤と、前記定盤に貼り付けられた研磨布と、ウェーハを保持する保持手段とを具備し、前記冷媒流路に冷媒を供給して前記定盤を冷却しながら、該保持手段により保持した前記ウェーハを、前記定盤に貼り付けられた前記研磨布に摺接させることで研磨加工を実施する研磨装置であって、前記定盤の前記冷媒流路に供給する冷媒の流量を制御する流量調整弁と、前記定盤の回転を制御する定盤制御部と、前記ウェーハの研磨加工終了後であって、次のウェーハの研磨加工を実施する前である待機時に、前記研磨布を保水するための保水液を前記研磨布に供給する保水液供給機構とを有し、前記流量調整弁が、前記待機時の前記冷媒の流量を、前記ウェーハの研磨加工を実施している研磨時の前記冷媒の流量未満に制御するものであり、前記定盤制御部が、前記待機時も前記モーターにより前記定盤を回転させるものであり、前記保水液供給機構が、室温以上に調温された前記保水液を前記待機時に前記研磨布に供給するものであることを特徴とする研磨装置を提供する。
【0018】
このような研磨装置であれば、待機時に、冷媒の流量を減らし、かつ、定盤を回転駆動させることでモーターを発熱させ、さらに、研磨布に供給する保水液を室温以上の温度とすることで、過剰に定盤が冷却されないため、定盤の温度の極端な低下を防止することができる。
【0019】
このとき、前記流量調整弁が、前記待機時の前記冷媒の流量を、前記研磨時の前記冷媒の流量の1/4以下に制御するものであることが好ましい。
【0020】
このように、待機時の冷媒の流量を研磨時の1/4以下とする流量調整弁を有するものであれば、より確実に定盤の過剰な冷却を防止できる。
【0021】
またこのとき、前記定盤を複数有し、各定盤上で前記研磨加工を行うものであることが好ましい。
【0022】
複数の定盤を有する研磨装置では、待機状態となる定盤が一定数発生することが多い。従って、待機状態の定盤の温度低下を抑制できる本発明の研磨装置が、特に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の研磨装置及び研磨方法であれば、待機時の定盤の過剰な冷却を防止して、待機時の定盤の温度の低下を抑制できる。その結果、研磨加工の再開前のダミー研磨等による暖機作業を省略し、生産性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の研磨装置の一例を示した概略図である。
図2】実施例1、比較例1のウェーハの取り代のばらつきを示すグラフである。
図3】実施例1、比較例1のウェーハのGBIRのばらつきを示すグラフである。
図4】実施例2と比較例2の定盤の温度変化率を示すグラフである。
図5】実施例3と比較例3の定盤の温度変化率を示すグラフである。
図6】実施例4と比較例4の定盤の温度変化率を示すグラフである。
図7】実施例5の定盤の温度変化を示すグラフである。
図8】比較例5の定盤の温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0026】
上記のように、研磨加工をしていない待機時に研磨ステージの定盤の温度が冷却水などにより下がり過ぎると、研磨加工再開時の初期に研磨取り代が減少したり、平坦度のバラツキが大きくなったりする。そこで、待機状態から研磨加工を再開する前に、ダミー研磨による定盤の暖機を行っているが、このダミー研磨工程により生産性が低下してしまうという問題があった。
【0027】
そこで、本発明者等はこのような問題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、待機時に、冷媒の流量を減らし、定盤の回転によるモーターの発熱を利用し、かつ、研磨布の保水液を室温以上とすることで、待機時の定盤の温度の極端な低下を抑制できることに想到し、本発明を完成させた。
【0028】
まず、本発明の研磨装置の一例を説明する。図1に示すように、本発明の研磨装置1は、主に、回転駆動可能な定盤2、定盤2に貼り付けられた研磨布3、研磨するウェーハWを保持するための保持手段4を具備している。
【0029】
また、定盤2には冷媒流路5が設けられており、この冷媒流路5に冷媒を供給することで定盤2を冷却することができる。
【0030】
この研磨装置1は、冷媒流路5に冷媒を供給して定盤2を冷却しながら、保持手段4により保持したウェーハWを、定盤2に貼り付けられた研磨布3に摺接させることで研磨加工を実施する。本発明の研磨装置1は、この研磨加工の際に研磨布3に研磨剤を供給する研磨剤供給機構10を具備していても良い。
【0031】
また、定盤2は、モーター6により回転駆動することが可能であり、また、定盤2の回転は定盤制御部7によって制御される。定盤制御部7は、例えば、モーター6の出力を制御することで定盤2の回転を制御できる。
【0032】
本発明の研磨装置1において、定盤制御部7は、ウェーハWの研磨加工中のみでなく、ウェーハWの研磨加工終了後であって、次のウェーハWの研磨加工を実施する前である待機時にも、モーター6により定盤2を回転させる。
【0033】
また、冷媒流路に供給する冷媒の流量は、流量調整弁8により制御される。本発明の研磨装置1において、流量調整弁8は、待機時の冷媒の流量を、ウェーハWの研磨加工を実施している研磨時の冷媒の流量未満に制御する。
【0034】
より具体的には、流量調整弁8が、待機時の冷媒の流量を研磨時の冷媒の流量の1/4以下に制御するものであることが好ましい。このように、流量調整弁8が、待機時の冷媒の流量を研磨時の1/4以下に制御すれば、より確実に定盤2の過剰な冷却を防止できる。
【0035】
また、本発明の研磨装置1は、待機時に、研磨布3を保水するための保水液を研磨布3に供給する保水液供給機構9を具備している。本発明の研磨装置1において、保水液供給機構9は、室温以上に調温された保水液を待機時に研磨布3に供給する。
【0036】
このような本発明の研磨装置1は、待機時に定盤2を回転させることでモーター6からの発熱を定盤2の温度の維持に利用するとともに、保水液を室温以上とし、かつ、冷媒の流量を減らすことで、定盤2の過剰な冷却を防止することができる。従って、待機状態の定盤2は、取り代やウェーハ形状に大きな差が発生しない程度に暖機された状態となるため、生産性の悪化の要因となるダミー研磨を行うことなく、次の研磨加工におけるウェーハの平坦度などの品質の悪化を抑制することができる。
【0037】
続いて、上記のような本発明の研磨装置1を用いる場合の本発明の研磨方法の一例を説明する。
【0038】
本発明の研磨方法では、ウェーハWの研磨加工終了後であって、次のウェーハWの研磨加工を実施する前である待機時に、定盤2を冷却する冷媒の流量を、ウェーハWの研磨加工を実施している研磨時の冷媒の流量未満に制御し、かつ、モーター6により定盤2を回転させ、かつ、室温以上に調温された保水液を研磨布3に供給する。
【0039】
待機時の冷媒の流量は、研磨時の前記冷媒の流量の1/4以下とすることが好ましい。定盤2を冷却する冷媒の流量は、一般に、研磨加工時には4.5L/min程度であるため、待機時は流量調整弁8により1.0L/min以下の流量に切り替えることができる。待機時の冷媒の流量は、特に、0.2L/min以上1.0L/min以下であることが好ましい。この範囲であれば、過剰に定盤2を冷却することをより確実に防止できる。
【0040】
また、本発明において、待機時の定盤2の回転数は3rpm以上5rpm以下であることが好ましい。定盤2の回転数が3rpmであればモーターの発熱が十分に得られ、定盤2の回転数が5rpm以下であれば、研磨布上に保水液が十分に保持される。
【0041】
また、本発明において、待機時に研磨布3に供給する保水液の温度は室温以上に温調するが、より具体的には、保水液の温度は23℃以上30℃以下であることが好適である。保水液をこの温度範囲に温調して研磨布3に供給すれば、定盤の極端な温度低下を防止できる。
【0042】
また、本発明は、特に、複数の定盤を有し、各定盤で研磨加工を行う研磨装置を用いる場合に好適である。これは、複数の定盤を有する研磨装置では、待機状態となる定盤が一定数発生することが多いためである。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
本発明の研磨装置を使用して、本発明の研磨方法に従い直径450mmのシリコンウェーハの研磨を行った。すなわち、先の研磨終了後、次の研磨を開始するまでの待機時に、冷媒の流量を、研磨時の冷媒の流量未満に制御し、かつ、モーターにより定盤を回転させ、かつ、室温以上に調温された保水液を研磨布に供給した。また、次の研磨を開始する前に、ダミー研磨は行わなかった。
【0045】
研磨装置としては、2つの定盤を有する片面研磨機(不二越機械社製SRED研磨機)を用いた。また、各研磨加工ステージにおける研磨条件(定盤回転数、研磨ヘッド(保持手段)回転数、荷重、研磨時間、研磨布の種類、研磨剤の種類)は下記の表1の通りとした。また、研磨時に定盤の冷媒流路に供給する冷媒の流量は、4.5L/minとした。
【0046】
【表1】
【0047】
また、各定盤において、待機時の冷媒の流量を1.0L/min、定盤の回転数を5rpm、保水液の温度を25℃とした。なお、この際の室温は23℃であったため、保水液の温度は室温以上に温調されていた。また、保水液は間欠で供給した。また、各定盤で、研磨終了後、次の研磨を開始するまでの待機時間は4時間とした。
【0048】
次に、待機後の研磨加工において研磨した25枚のウェーハの取り代及び平坦度をKLA社製WaferSightにて測定し、各ウェーハ間の取り代及び平坦度のばらつきを評価した。その結果を表2、図2、及び図3に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2、図2からわかるように、実施例1では、後述する比較例1と比べ、取り代の最大値と最小値の差が小さくなった。また、取り代の最大値と最小値の差も比較例1が170nmであるのに対し、実施例1では62nmと、約1/3に抑えることができた。
【0051】
また、表2、図3からわかるように、実施例1では、後述する比較例1と比べ、ウェーハの平坦度の指標であるGBIR(Global Backsurface−referenced Ideal plane/Range)の最大値と最小値の差が小さくなった。また、GBIRの最大値と最小値の差も比較例1が176nmであるのに対し、実施例1では43nmと、約1/4に抑えることができた。
【0052】
以上のように、本発明であれば待機時の定盤温度の低下を抑制でき、その結果、ダミー研磨を省略しても、ウェーハ品質のばらつきを抑制することができることが分かった。
【0053】
(比較例1)
待機時に、冷媒の流量を研磨時の冷媒の流量と同じとし、定盤を回転させず、かつ、室温未満に調温された保水液を研磨布に供給したこと以外、実施例1と同様な条件でシリコンウェーハの研磨を実施した。その後、実施例1と同様な方法で、待機後の研磨加工において研磨したウェーハの取り代及び平坦度を測定し、各ウェーハ間の取り代及び平坦度のばらつきを評価した。
【0054】
待機時の各定盤において、冷媒の流量を研磨時と同じ4.5L/min、定盤回転数を0rpm(停止状態)、保水液の温度を20℃(すなわち、室温である23℃より低温)とした。
【0055】
その結果、表2、図2、3からわかるように、実施例1に比べて、ウェーハ間の取り代及び平坦度のばらつきは大きくなった。従って、比較例1の研磨方法の場合、定盤を暖機するダミー研磨が必須となり、実施例1に比べて生産性が低下することが確認できた。
【0056】
(実施例2)
実施例1とは別に、実施例1と同じ条件でシリコンウェーハの研磨を行った。その際に、待機時における定盤の温度変化を測定し、後述の比較例2の待機時における定盤の温度変化と比較した。
【0057】
(比較例2)
待機時に定盤回転を行わなかったこと以外、実施例2と同じ条件でシリコンウェーハの研磨を行った。その際に、待機時における定盤の温度変化を測定し、実施例2の待機時における定盤の温度変化と比較した。
【0058】
その結果を図4に示す。図4には、待機時の定盤温度の変化率を示した。なお、図4に示す「温度変化率」とは、研磨直後の待機時間が0分の定盤温度に対する、各待機時間の定盤温度の相対値であり、(温度変化率)=(各待機時間の定盤温度(℃))/(研磨直後の待機時間が0分の定盤温度(℃))で表される。「温度変化率」の定義は、後述の図5、6においてもこれと同様である。図4に示すように、待機時の定盤回転が無い比較例2では、定盤の温度が低下しやすいことが分かった。
【0059】
(実施例3)
実施例1、2とは別に、実施例1と同じ条件でシリコンウェーハの研磨を行った。その際に、待機時における定盤の温度変化を測定し、後述の比較例3の待機時における定盤の温度変化と比較した。
【0060】
(比較例3)
待機時の冷媒の流量を研磨時と同じ4.5L/minとしたこと以外、実施例3と同じ条件でシリコンウェーハの研磨を行った。その際に、待機時における定盤の温度変化を測定し、実施例3の待機時における定盤の温度変化と比較した。
【0061】
その結果を図5に示す。図5には、待機時の定盤温度の変化率を示した。図5から、待機時の冷媒の流量を研磨時と同じとした比較例3では、実施例3に比べ温度低下が大きいことが分かった。
【0062】
(実施例4)
実施例1〜3とは別に、実施例1と同じ条件でシリコンウェーハの研磨を行った。その際に、待機時における定盤の温度変化を測定し、後述の比較例4の待機時における定盤の温度変化と比較した。
【0063】
(比較例4)
待機時の保水液の温度を室温未満の20℃としたこと以外、実施例4と同じ条件でシリコンウェーハの研磨を行った。その際に、待機時における定盤の温度変化を測定し、実施例4の待機時における定盤の温度変化と比較した。
【0064】
その結果を図6に示す。図6には、待機時の定盤温度の変化率を示した。図6から、待機時の保水液の温度を室温未満の20℃とした比較例4では、実施例4に比べ温度低下が大きいことが分かった。
【0065】
(実施例5)
本発明の研磨装置において、シリコンウェーハの研磨終了後、定盤を待機させ、待機時の定盤の温度変化を測定した。待機時の冷媒の流量を1.0L/min、定盤の回転数を5rpm、保水液の温度を25℃とした。なお、研磨時の冷媒の流量は4.5L/min、室温は23℃であった。
【0066】
(比較例5)
待機時の各定盤において、冷媒の流量を研磨時と同じ4.5L/min、定盤回転数を0rpm(停止状態)、保水液の温度を20℃(すなわち、室温である23℃より低温)としたこと以外、実施例2と同様に、シリコンウェーハの研磨終了後、定盤を待機させ、待機時の定盤の温度変化を測定した。
【0067】
実施例5及び比較例5の定盤の温度変化をそれぞれ図7及び図8に示す。なお、図7、8における「温度上昇割合」とは、研磨も待機もしていない装置停止時の定盤設定温度に対する、定盤温度の上昇割合で定義され、(温度上昇割合)=[(測定時定盤温度(℃))/(定盤設定温度(℃))]×100で表される。研磨も待機もしていない装置停止時も、定盤冷却水は供給され設定温度にコントロールをしている。図7に示すように、実施例5では、待機時の定盤の温度変化は約0.73%に抑制することができた。一方で、比較例5では、待機時の定盤の温度変化は約2.17%となり、実施例5の約3倍となってしまった。
【0068】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0069】
1…本発明の研磨装置、 2…定盤、 3…研磨布、
4…保持手段、 5…冷媒流路、 6…モーター、 7…定盤制御部、
8…流量調整弁、 9…保水液供給機構、 10…研磨剤供給機構、
W…ウェーハ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8