特許第6376225号(P6376225)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376225
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】波長変換部材及び発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20180813BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20180813BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20180813BHJP
   C09K 11/80 20060101ALI20180813BHJP
   C09K 11/61 20060101ALI20180813BHJP
   C09K 11/02 20060101ALI20180813BHJP
   F21V 9/00 20180101ALI20180813BHJP
   F21V 9/08 20180101ALI20180813BHJP
   F21S 2/00 20160101ALI20180813BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20180813BHJP
【FI】
   C09K11/08 Z
   G02B5/20
   H01L33/50
   C09K11/80CPM
   C09K11/61CPF
   C09K11/02 Z
   F21V9/16 100
   F21V9/08 200
   F21S2/00 340
   F21Y115:10
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-563611(P2016-563611)
(86)(22)【出願日】2015年11月27日
(86)【国際出願番号】JP2015083313
(87)【国際公開番号】WO2016093076
(87)【国際公開日】20160616
【審査請求日】2017年6月6日
(31)【優先権主張番号】特願2014-248972(P2014-248972)
(32)【優先日】2014年12月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津森 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】中野 瑞
(72)【発明者】
【氏名】塚谷 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】綿谷 和浩
(72)【発明者】
【氏名】美濃輪 武久
【審査官】 倉本 勝利
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/121355(WO,A1)
【文献】 特開2013−171844(JP,A)
【文献】 特開2013−102078(JP,A)
【文献】 特開2014−215562(JP,A)
【文献】 特開2013−247067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B5/20
H01L33/00−33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂に蛍光体を分散させてなる波長変換部材であって、上記蛍光体が、
(A)下記組成式(1)
(Y1-α-βLuαCeβ3Al512 (1)
(式中、αは0.3以上0.8以下の正数、βは0.01以上0.05以下の正数である。)
で表され、青色光で励起することにより黄緑光を発光し、かつCuのKα1線によるX線回折における回折角2θが52.9度以上53.2度以下の範囲内に回折ピークを有するセリウム賦活ルテチウムイットリウムアルミニウムガーネット蛍光体と、
(B)下記組成式(2)
2(Si1-xMnx)F6 (2)
(式中、xは0.001以上0.3以下の正数である。)で表され、青色光で励起することにより赤色光を発光するマンガン賦活ケイ複フッ化物蛍光体とを含有し、
(B)成分の蛍光体を(A)成分の蛍光体に対して1倍以上5倍以下の質量比で含有することを特徴とする波長変換部材。
【請求項2】
上記(A)成分の蛍光体の外観色が、CIE L***表色系における色度座標のa*値が−23.0以上−21.0以下、b*値が87.0以上97以下であることを特徴とする請求項1記載の波長変換部材。
【請求項3】
上記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン、ポリスチレン、スチレン共重合体、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、塩化ビニル樹脂及びポリエーテル樹脂の群から選ばれる1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の波長変換部材。
【請求項4】
ピーク波長440〜470nmの青色光成分を含む光を出射する青色LED光源と、該青色LED光源の光軸上に配置された請求項1乃至3のいずれか1項記載の波長変換部材とを備えることを特徴とする発光装置。
【請求項5】
発光色が、xy色度図(CIE 1931)の色度座標において、xが0.3100以上0.3850以下、yが0.3190以上0.3790以下であることを特徴とする請求項4記載の発光装置。
【請求項6】
リモートフォスファー型であることを特徴とする請求項4又は5記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般照明、バックライト光源、ヘッドライト光源などに用いられる、青色発光ダイオード(LED)を用いた発光装置の演色性を、従来に比べて大幅に改善することができる波長変換部材、及びこれを用いた発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオードは、現在利用可能な光源の中で最も効率的な照明光源の一つである。このうち、白色発光ダイオード(白色LED)は、その効率の高さから白熱電球、蛍光灯、CCFL(Cold Cathode Fluorescent Lamp)バックライト、ハロゲンランプなどに代わる次世代光源として急激に市場を拡大している。照明用の発光装置に用いられる白色LED(Light Emitting Diode)を実現する方法としては、青色発光ダイオード(青色LED)に、青色光励起によって、より長波長、例えば黄色や緑色に発光する蛍光体を組み合わせることが、広く実用化されている。
【0003】
このような白色LEDとしては、蛍光体を混合した樹脂やガラスなどを青色LED素子の上面に塗布することでLED素子を封止すると共に、LED素子からの青色発光の一部又は全部を蛍光体で波長変換して疑似白色光を得る方式を採用したもの、即ち、LED素子と蛍光体とを一体としたものが主流である。また、他の方式の白色LEDとしては、蛍光体を混合した樹脂やガラスの波長変換部材を、青色LED素子の封止材とは別体とし、LED素子の発光方向前方に配置することで、青色発光の一部又は全部を蛍光体で波長変換する方式が採られているものもある。更に、後者の方式を発展させ、蛍光体を含む波長変換部材をLED素子から数mm〜数cm離して配置することで、LED素子の出力が高く、発光部が発する熱によって蛍光体の特性が低下しやすいような場合であっても、発光効率の向上や色調の変動を抑えることができる方式もある。このような、LED素子と波長変換部材とを離間させる方式は「リモートフォスファー方式」と呼ばれ、近年急速に検討がなされている。リモートフォスファー方式は、上記利点に加え、全体の色むらが改善される、量産時のばらつきが極めて小さいといった、実用的な照明器具としての利点を有する。
【0004】
リモートフォスファー方式の発光装置は、黄色発光蛍光体粒子や緑色発光蛍光体粒子、更には、赤色発光蛍光体粒子を、樹脂又はガラスに分散させた、又はこれらの蛍光体を透明基材表面に塗布した波長変換部材を、光源LEDの前方に配置した構造となっている。このようなリモートフォスファー方式の波長変換部材に用いられる代表的な蛍光体としては、Y3Al512:Ce3+又はY3Al512:Ce3+で表されるセリウム賦活イットリウムアルミニウムガーネット蛍光体(YAG蛍光体)、Lu3Al512:Ce3+又はLu3Al512:Ce3+で表されるセリウム賦活ルテチウムアルミニウムガーネット蛍光体(LuAG蛍光体)が挙げられる。また、その他の蛍光体としては、(Y,Gd)Al512:Ce3+、TbAl512:Ce3+、(Sr,Ca,Ba)2SiO4:Eu2+、β−SiON:Eu2+などが挙げられ、演色性向上のために、上記の蛍光体に、CaSiN3:Eu2+、Sr−CaSiN3:Eu2+などの蛍光体を併用することもある。
【0005】
近年、白色LEDを用いた発光装置、特に、白色LEDを用いた照明装置においては、その発光の演色性が重要視されている。照明の分野では、太陽光を基準の理想光とし、これに近い色を表現できる光が色表現、即ち、演色性に優れた光とされている。この演色性を数値的に評価する方法としては、1931年に国際照明委員会(CIE)で定められた方式が広く用いられている。これは、R1からR8と呼称される8種の色票の見え方を−100から100で点数化し、これを平均した平均演色評価数Raを用いる方式である。また、JIS Z 8726:1990には、このCIEの演色性評価法を拡張し、8枚の色票に、更に、R9からR15と呼称される7種の色票を加えた、15種の色票を用いる演色性評価法が定められている。
【0006】
このような演色性評価法により、白色LEDの発光を評価した、従来のほとんどの発光装置の平均演色評価数Raは、従来の白熱電球、蛍光灯等の既存照明に比べて良好とは言えず、なかでも、赤色の色票のR9を用いた特殊演色評価数R9は、低い値となってしまう傾向がある。
【0007】
また、照明光の演色性指標としては、光の色偏差の評価も重要である。発光色の基準となる自然光(太陽光)は、太陽の高度により、青白い光から赤みがかった光へと色調が変化するが、これは、物体が赤熱した際の温度と発光色との関係と全く同じであり、その色度は、図10に示されるように、xy色度図(CIE 1931)上に、黒体放射軌道として描くことができる。
【0008】
LEDの発光は、その発光原理が自然光のような熱輻射によるものとは異なるため、その発色は、黒体放射軌道の範囲に限局されない。しかしながら、LEDの発光の色度座標が、黒体放射軌道から離れた光は、たとえ被照明物に照射したときの色再現が良好であっても、光の質が緑色又は赤紫色に感じられ不自然な印象を与える。そのため、白色LEDでは、通常、発光の色度座標が、黒体放射軌道上となるように発光色の調整を行っている。即ち、照明用途のLED発光装置では、先に述べた色再現性(演色性)の指標である演色評価数、特に、演色評価数R1〜R8から求められる平均演色評価数Ra、及び特殊演色評価数R9が高く、かつ発光の色度座標が、黒体放射軌道上にあるものが演色性に優れると言える。
【0009】
LED発光装置の発光色と黒体放射軌道とのずれは、色偏差と呼ばれ、uv色度図(CIE 1960)における黒体放射軌道と照明光との偏差duv(Δuv)として数値化することができる。色偏差を求める際にuv色度図を用いるのは、uv色度図が、任意の各点の距離が知覚される色差に等しくなるよう設定されたものであり、色偏差の数値化に好都合であるからである。LED発光装置では、duvの絶対値はできるだけ小さいものが良く、duvの絶対値が0.001以下のものが好ましいとされる。
【0010】
更に、照明光の色温度(CCT)については、発光の色温度が高い、例えば6000Kの光は、コントラストが強く冷たい印象を与える。一方で、色温度が低い、例えば3000Kの光は、温かみのある、安らいだ感覚をもたらすことが知られており、照明器具の使用にあたっては、環境に沿った色温度の照明が選択される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2012−224536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、先に、蛍光体として、K2SiF6:Mn4+で表されるマンガン賦活複フッ化物蛍光体(KSF蛍光体)と、YAG蛍光体との混合蛍光体を用いることで、特殊演色評価数Raの値が高いリモートフォスファー方式のLED発光装置を開発した。この混合蛍光体を波長変換部材に用いたLED発光装置では、Raの値が90を超え、従来の白色LEDと比べて、赤色の再現性に優れた良好な発光色を得ることができるものの、Raの値が最も大きくなる色温度域が4000K以下とやや低めであり、4000K以上の色温度域でRaの値が90を超える発光を得ようとすると、色偏差duvが、やや負の方向に偏り、光が僅かに赤紫色を帯びる。KSF蛍光体とYAG蛍光体との組み合わせでは、色温度が低い場合においては、良好な色再現性が得られるものの、広い色温度領域における色再現性と、一般的な白色〜昼光色の色温度域(例えば、4000〜6500K)における色偏差duvとを勘案すると、発光色の演色性は十分ではなかった。
【0013】
また、本発明者らが開発した、蛍光体として、KSF蛍光体とLuAG蛍光体との混合蛍光体を波長変換部材に用いたLED発光装置では、色温度が6500Kを超える領域でもRaの値が90を超え、従来の白色LEDと比べて、赤色の再現性に優れた良好な発光を得ることができるものの、この場合は、低色温度域での色再現性に劣ってしまう。KSF蛍光体とLuAG蛍光体との組み合わせでは、色温度が高い場合においては、良好な色再現性が得られるものの、KSF蛍光体とYAG蛍光体との混合蛍光体を用いた場合と同様に、発光色の演色性はやはり十分ではなかった。
【0014】
白色〜昼光色の色温度域において、Ra値及びduv値を共に改善する方法としては、KSF蛍光体に、YAG蛍光体と共に、LuAG蛍光体を混合して、色温度範囲を広げることが考えられる。しかしながら、蛍光特性が似たYAG蛍光体とLuAG蛍光体とを混合して使用すると、蛍光体同士の発光の相互吸収が生じてしまうため、良好な演色性のLED照明を得ることは難しい。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、一般的な白色〜昼光色の色温度域である4000〜6500Kの色温度域、特に5000K前後の色温度域をターゲットとし、青色LEDと共に用いたときに、この色温度域において、良好な演色性を与えると共に、色偏差duvの小さい発光を与えることができる波長変換部材、及びこれを用いた発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、青色LEDを用いた白色光を発光するLED発光装置において、5000K前後の色温度域の色温度で演色性が良好で、色偏差が小さい発光を得るため、マンガン賦活複フッ化物蛍光体(KSF蛍光体)と組み合わせる黄色系の蛍光体について検討を行ない、KSF蛍光体と、セリウム賦活ルテチウムイットリウムアルミニウムガーネット蛍光体(LuYAG蛍光体)とを組み合わせることで、良好な発光が得られることを見出した。
【0017】
LuYAG蛍光体は、一般に(Y,Lu)3Al512:Ce3+で表される複合酸化物蛍光体であり、広く知られているイットリウムアルミニウムガーネット酸化物の結晶におけるイットリウムサイトをルテチウムにより置換し、更に、これをセリウムで賦活して蛍光体としたものである。この蛍光体は、置換するルテチウムの量と、賦活するセリウムの量とを調節することにより、蛍光の発光色を調節することができ、また、この蛍光体の発光色は、波長420〜490nmの青色光を励起光とした場合、KSF蛍光体との組み合わせに適する、主波長が563〜570nmのブロードな発光スペクトルをもつ黄緑色の蛍光を発光する。
【0018】
そして、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、KSF蛍光体と共に、特定のLuYAG蛍光体を用い、これを熱可塑性樹脂に分散させて波長変換部材とし、これを、青色光成分を含む光を出射するLED光源の光軸上、特に、リモートフォスファー方式としてLED光源から離間した位置に配置することで、5000K前後の色温度域において、良好な演色性を示し、かつ色偏差duvの小さい光を発光する発光装置、特に、白色光を発光する照明装置において重要な4000〜6500Kの色温度域において良好な発光色を与える発光装置が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0019】
従って、本発明は、下記の波長変換部材及び発光装置を提供する。
[1] 熱可塑性樹脂に蛍光体を分散させてなる波長変換部材であって、上記蛍光体が、
(A)下記組成式(1)
(Y1-α-βLuαCeβ3Al512 (1)
(式中、αは0.3以上0.8以下の正数、βは0.01以上0.05以下の正数である。)
で表され、青色光で励起することにより黄緑光を発光し、かつCuのKα1線によるX線回折における回折角2θが52.9度以上53.2度以下の範囲内に回折ピークを有するセリウム賦活ルテチウムイットリウムアルミニウムガーネット蛍光体と、
(B)下記組成式(2)
2(Si1-xMnx)F6 (2)
(式中、xは0.001以上0.3以下の正数である。)で表され、青色光で励起することにより赤色光を発光するマンガン賦活ケイ複フッ化物蛍光体とを含有し、
(B)成分の蛍光体を(A)成分の蛍光体に対して1倍以上5倍以下の質量比で含有することを特徴とする波長変換部材。
[2] 上記(A)成分の蛍光体の外観色が、CIE L***表色系における色度座標のa*値が−23.0以上−21.0以下、b*値が87.0以上97以下であることを特徴とする[1]記載の波長変換部材。
[3] 上記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン、ポリスチレン、スチレン共重合体、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、塩化ビニル樹脂及びポリエーテル樹脂の群から選ばれる1種又は2種以上を含むことを特徴とする[1]又は[2]記載の波長変換部材。
[4] ピーク波長440〜470nmの青色光成分を含む光を出射する青色LED光源と、該青色LED光源の光軸上に配置された[1]乃至[3]のいずれかに記載の波長変換部材とを備えることを特徴とする発光装置。
[5] 発光色が、xy色度図(CIE 1931)の色度座標において、xが0.3100以上0.3850以下、yが0.3190以上0.3790以下であることを特徴とする[4]記載の発光装置。
[6] リモートフォスファー型であることを特徴とする[4]又は[5]記載の発光装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、白色〜昼光色の色温度域である4000〜6500Kの色温度域において、良好な演色性を示し、かつ色偏差duvの小さい、照明装置として好適な白色光を発光する発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】LuYAG蛍光体、YAG蛍光体、LuAG蛍光体、及びYAG蛍光体とLuAG蛍光体との混合蛍光体のX線回折プロファイルを示す図である。
図2】LuYAG蛍光体、YAG蛍光体及びLuAG蛍光体の、波長420〜490nmの励起光による波長550nmの発光(蛍光)の強度を示す図である。
図3】LuYAG蛍光体、YAG蛍光体及びLuAG蛍光体の、青色LEDの一般的な主波長である波長450nmの青色光を励起光とした場合の発光(蛍光)スペクトルを示す。
図4】本発明の発光装置の一例を示す分解斜視図である。
図5】LED発光装置の発光態様を説明する模式図であり、(A)はリモートフォスファー型の発光装置の発光態様、(B)は従来型の多灯白色LED型の発光装置の発光態様を示す図である。
図6】実施例3、比較例3及び比較例7の発光装置の発光スペクトルを示す図である。
図7】実施例1〜6の発光装置の発光のxy色度図上の座標を示す図である。
図8】実施例1〜6及び比較例1〜7の発光装置の、発光の色温度と平均演色評価数Raとの関係を示す図である。
図9】実施例1〜6及び比較例1〜7の発光装置の、発光の色温度と特殊演色評価数R9との関係を示す図である。
図10】xy色度図(CIE 1931)上の黒体放射軌道を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明の波長変換部材について説明する。
本発明の波長変換部材には、熱可塑性樹脂と蛍光体とが含まれ、波長変換部材は、熱可塑性樹脂に蛍光体を分散させた樹脂成形体である。蛍光体は、粒子状又は粉状のものが好適に用いられる。
【0023】
本発明において蛍光体を練り込む母材である樹脂には、成形時の固化時間が短い熱可塑性樹脂を使用する。シリコーン樹脂等の反応硬化を伴う熱硬化性樹脂は、流動性のある状態から硬化するまでに数十分から数時間を要し、硬化までの間に蛍光体が沈降又は凝集してしまうため、多種の蛍光体を樹脂中に同時、かつ均一に分散させることが難しい。また、熱硬化性樹脂は、一旦硬化させてしまうと、蛍光体の含有率の再調整ができないため、最初に設定した蛍光体含有率で固定され、これを変更することができない。更に、熱可塑性樹脂では、複数種の蛍光体を順に混合したり、別々に樹脂に混合した後に両者を一体にしたりすることも可能であるが、熱硬化性樹脂では、このような混合方法を採用することができない。そのため、後述するように、発光色の異なる2種以上の蛍光体を用いる本発明においては、熱可塑性樹脂がより適している。
【0024】
熱可塑性樹脂としては、蛍光体を混合したときの光学特性、アルカリへの化学的耐性が高く、防湿性に優れたものが好ましい。これらの観点から、本発明の波長変換部材に用いる熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、汎用ポリスチレン(GPPS)等のポリスチレン、スチレン・マレイン酸共重合体、スチレン・メタクリル酸メチル共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)等のスチレン共重合体、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ナイロン(ポリアミド樹脂)、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、塩化ビニル樹脂、ポリエーテル樹脂などが好適である。本発明においては、蛍光体を練り込む樹脂として、熱可塑性樹脂の中から1種又は2種以上が選ばれる。なかでも、ポリオレフィン、ポリスチレン、スチレン共重合体及びアクリル樹脂が好ましく、特に、ポリプロピレン、アクリル樹脂を用いた場合、蛍光体を広い含有率範囲で混合することが可能であり、また、樹脂及び蛍光体の分解、劣化が少ないため特に好ましい。
【0025】
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、光学用途であることから、非晶質の透明樹脂が好ましいが、透過光の総量の減衰が十分小さければ、直線透過率については、高い必要はない。樹脂の加工特性としては、JIS K 7210で規定されるメルトフローレート(MFR)が5〜30g/10min程度の射出成型可能なものが好ましい。
【0026】
本発明の波長変換部材に含まれる蛍光体には、(A)成分として、セリウム賦活ルテチウムイットリウムアルミニウムガーネット蛍光体(LuYAG蛍光体)、及び(B)成分として、マンガン賦活ケイ複フッ化物蛍光体(KSF蛍光体)の2種の蛍光体が必須成分として含まれる。
【0027】
(A)成分のセリウム賦活ルテチウムイットリウムアルミニウムガーネット蛍光体(LuYAG蛍光体)は、下記組成式(1)
(Y1-α-βLuαCeβ3Al512 (1)
(式中、αは0.3以上0.8以下の正数、βは0.01以上0.05以下の正数である。)
で表され、青色光で励起することにより黄緑光を発光する蛍光体であり、構成元素のLu、Y又はそれら双方のサイトの一部が3価のセリウム(Ce3+)に置換された構造を有している。そのため、LuYAG蛍光体は、(Y,Lu)3Al512:Ce又は(Y,Lu)3Al512:Ce3+と表記される場合もある。LuYAG蛍光体は、波長420〜490nm、好ましくは波長440〜470nmの青色光により励起されて、主波長が563〜570nmのブロードな発光スペクトルを有する黄緑光を発光する。
【0028】
本発明において、主波長とは、ドミナント波長であり、発光において最も強く感じられる波長で、xy色度図(CIE 1931)では、発光の色度座標と、白色点(x=0.3333、y=0.3333)とを直線で結び、その延長線が色度図の色表現領域の外縁と交差した位置の波長として表されるもので、JIS Z 8701の附属書に規定されたものである。
【0029】
上記組成式(1)におけるαの値、即ち、LuとYの比率を変えると、蛍光ピークの波長が変化するため、本発明においては、αを0.3以上0.8以下の範囲とする。また、賦活元素であるCeの割合であるβの値については、0.01以上0.05以下とする。これは、βが0.01未満の場合は、LuYAG蛍光体の発光効率が低下してしまうためであり、一方、βが0.05を超えると、LuYAG蛍光体製造時の加熱により、蛍光体粒子同士の融着が生じ、熱可塑性樹脂への練り込みが難しくなるためである。これらα及びβの値は、例えば、βを0.02とした場合、αは概ね0.4〜0.6の範囲が好適である。
【0030】
本発明の(A)成分のLuYAG蛍光体は、CuのKα1線(波長約1.54060Åの特性X線)によるX線回折における回折角2θが52.9度以上53.2度以下の範囲内に回折ピークを有するものが好ましい。この角度範囲内に回折ピークを有するLuYAG蛍光体は、YAG蛍光体、LuAG蛍光体と同様に、ガーネット結晶構造を有しており、特に、(444)面の面間隔が、1.720Å以上1.728Å以下であることに特徴がある。
【0031】
また、本発明の(A)成分のLuYAG蛍光体は、外観色がCIE L***表色系における色度座標のa*値が−23.0以上−21.0以下、b*値が87.0以上97以下であるものが好ましい。この場合、特に限定されるものではないが、L***表色系における明度L*の値は0.104以上0.107以下であることが好ましい。
【0032】
このような回折ピーク又は外観色を有するLuYAG蛍光体と、後述する(B)成分のKSF蛍光体とを併用して波長変換部材とし、この波長変換部材を、所定の波長の青色光を出射する青色LEDと共に用いることで、白色〜昼光色の色温度域である4000〜6500Kの色温度域、特に5000K前後(例えば、4500〜5500K)の色温度域において、良好な演色性を示し、かつ色偏差duvの小さい光を発光する発光装置を得ることができる。
【0033】
図1は、LuYAG蛍光体のCuのKα1線によるX線回折プロファイルを示す図である。併記したYAG蛍光体、LuAG蛍光体、及びYAG蛍光体とLuAG蛍光体との混合蛍光体のX線回折プロファイルと対比すると、これらとは異なり、本発明のLuYAG蛍光体は、52.9度以上53.2度以下の範囲内に特異的な回折ピークを有している。
【0034】
また、図2は、LuYAG蛍光体、YAG蛍光体及びLuAG蛍光体の、波長420〜490nmの励起光による波長550nmの発光(蛍光)の強度を示す図である。図2に示されるように、LuYAG蛍光体の励起光の波長毎の利用率は、YAG蛍光体及びLuAG蛍光体のいずれとも異なっている。
【0035】
更に、図3は、LuYAG蛍光体、YAG蛍光体及びLuAG蛍光体の、青色LEDの一般的な主波長である波長450nmの青色光を励起光とした場合の発光(蛍光)スペクトルを示す。図3に示されるように、本発明のLuYAG蛍光体の青色LEDの主波長での励起による発光スペクトルパターンも、YAG蛍光体及びLuAG蛍光体のいずれとも異なっている。
【0036】
このように、本発明のLuYAG蛍光体の励起特性及び蛍光発光特性は、YAG蛍光体及びLuAG蛍光体と異なっており、上述したX線回折ピーク(結晶構造)、更には外観色を備える本発明のLuYAG蛍光体の上述した特徴的な励起特性及び蛍光発光特性が、本発明のLuYAG蛍光体と、後述する(B)成分のKSF蛍光体との組み合わせにおいて、良好な演色性及び色偏差duvをもたらしている。
【0037】
本発明に用いられるLuYAG蛍光体は、プラズマ溶融法を用いて製造することができる。プラズマ溶融法は、予め造粒した原料粉を高温のプラズマ火炎により瞬間的に溶融し、固化させることで、元素の固溶限にとらわれることなく、構成元素が均一に混合した非晶質粒子を得ることができる方法である。
【0038】
本発明に適したLuYAG蛍光体は、例えば、以下の方法により製造することができる。まず、アルミナ(Al23)の微粉と、他の原料元素、即ち、イットリウム、ルテチウム及びセリウムの酸化物、例えば、イットリウム−ルテチウム−セリウム共沈酸化物の微粉とのスラリーを原料とし、平均粒子径5〜65μmに造粒した粒子を、水素ガス、例えば1〜10mol%の水素ガスを含有するアルゴンプラズマにより、溶融、部分還元、固化させる。更に、得られた非晶質粒子を、水素ガス、例えば0.5〜3mol%の水素ガスを含有する不活性ガス(例えば、アルゴンガス)気流中で、1,200〜1,600℃で、3〜6時間の熱処理を加えた後、1,000℃までの平均冷却速度が5℃/min以上となるように冷却することにより、結晶化した蛍光体粒子を得ることができる。
【0039】
上述した方法によって本発明に適したLuYAG蛍光体が得られる理由は、特に限定されるものではないが、プラズマ溶融後の溶融粒(液滴)の固化速度、並びに後段の熱処理での保持温度、保持時間及び冷却速度をコントロールすることによって、得られる蛍光体粒子中のYとLuの良好な分散を維持したまま、蛍光体としての結晶化がなされるためと推定される。これに対し、従来のフラックスを添加した原料酸化物の混合焼成法では、結晶成長させる際に、発光中心となる賦活剤のセリウムが、蛍光体結晶格子外に排斥されやすく、また、Lu及びYの分布にもばらつきが生じやすいため、このような混合焼成法は、LuYAG蛍光体の製造には不向きである。
【0040】
LuYAG蛍光体の好ましい粒径は、粒度分布における体積累計粒径D50が1μm以上、特に5μm以上で、100μm以下、特に50μm以下である。D50値が1μm未満の場合は、蛍光体としての発光性能が急激に低下してしまう場合がある。一方、粒径が大きくなると、熱可塑性樹脂に練り込んだ際、同じ含有率で練り込んだ粒径の小さいものと比べて、熱可塑性樹脂内における蛍光体同士の間隙が大きくなり、これにより、励起光である青色光の吸収利用率が低下するおそれがある。
【0041】
なお、本発明における粒径は、例えば、空気中に対象粉末を噴霧又は分散浮遊させた状態でレーザー光を照射して、その回折パターンから粒径を求める乾式レーザー回折散乱法により得られる値が適用できる。乾式レーザー回折散乱法は、測定時に、湿度の影響を受けず、また、同時に、粒度分布の評価までできるため好ましい。
【0042】
(B)成分のマンガン賦活ケイ複フッ化物蛍光体(KSF蛍光体)は、下記組成式(2)
2(Si1-xMnx)F6 (2)
(式中、xは0.001以上で、0.3以下、好ましくは0.1以下の正数である。)で表され、青色光で励起することにより赤色光を発光する蛍光体であり、構成元素のうちSiのサイトの一部が4価のマンガン(Mn4+)に置換された構造を有している。そのため、KSF蛍光体は、K2SiF6:Mn又はK2SiF6:Mn4+と表記される場合もある。KSF蛍光体は、波長420〜490nm、好ましくは波長440〜470nmの青色光により励起されて、波長630〜640nmの範囲内に最大の発光ピークを有する赤色光を発光する。
【0043】
KSF蛍光体は、従来公知の方法で製造したものでよく、例えば、フッ化ケイ素及びフッ化マンガン等の金属フッ化物原料をフッ化水素酸に溶解又は分散させ、加熱して蒸発乾固させて得たものを用いることができる。
【0044】
KSF蛍光体の好ましい粒径は、粒度分布における体積累計粒径D50が2μm以上、特に10μm以上で、200μm以下、特に60μm以下である。D50値が2μm未満の場合は、蛍光体としての発光効率が低下してしまう場合がある。一方、蛍光体粒子が大きい場合は、発光に本質的に問題はないが、熱可塑性樹脂との混合時に、蛍光体の分布が不均一になりやすいなどの欠点が生じやすくなるため、D50で200μm以下であるものが好ましい。
【0045】
波長変換部材に用いる蛍光体中の(A)成分のLuYAG蛍光体と、(B)成分のKSF蛍光体との割合は、要求される発光の色温度、光源の青色LEDの波長に応じて、()成分のLuYAG蛍光体を()成分のKSF蛍光体に対して1倍以上5倍以下(質量比)の範囲内で設定する。特に、光源として、ピーク波長が450nm前後(例えば、440〜470nm)の青色LEDを用いた場合は、()成分のLuYAG蛍光体を()成分のKSF蛍光体に対して2倍以上4倍以下(質量比)の範囲内で設定することにより、uv色度図(CIE 1960)における黒体放射軌道との偏差duvが小さい、黒体放射軌道に沿った自然な色の光を得ることができる。
【0046】
本発明においては、蛍光体として、必要に応じて、(A)成分のLuYAG蛍光体及び(B)成分のKSF蛍光体以外の補助蛍光体を、蛍光体の総量の20質量%以下の含有率で用いてもよい。補助蛍光体の含有率を20質量%以下とする理由は、20質量%を超えると、LuYAG蛍光体及びKSF蛍光体による発光のスペクトルが、過剰に変化するおそれがあるためである。
【0047】
本発明の波長変換部材における蛍光体の量は、波長変換部材の厚み、要求される色再現性の状態などによって異なるが、(A)成分のLuYAG蛍光体、(B)成分のKSF蛍光体、及びその他の補助蛍光体の総量として、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上、特に好ましくは7質量%以上で、30質量%以下、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下の範囲である。
【0048】
波長変換部材の厚みは、一般的には、1〜5mmである。波長変換部材中の蛍光体の含有率は、多くの要素を考慮して定める必要があるが、例えば、波長変換部材の厚みを2mmとする場合、12質量%以下、特に10質量%以下が好ましい。波長変換部材の厚みが2mmの場合、蛍光体の含有率が5質量%未満では、蛍光体からの発光量が少なく、実用的な色温度の発光を得ることが難しくなるおそれがあることから、蛍光体の含有率は5質量%以上が好ましい。
【0049】
一方、蛍光体を高い含有率で含有させれば、発光量をより多くすることが可能な場合もあるが、蛍光体の熱可塑性樹脂への均一な練り込みがし難くなるという製造上の理由から、蛍光体の含有率は、30質量%以下とすることが好ましい。蛍光体の含有率が30質量%を超えると、練り込みの際の、蛍光体粉末と成形機の練り込みスクリューとの摩擦及び装置摩耗が増大し、摩耗により発生した成形機に起因するコンタミネーションが発生することにより、波長変換部材に変色が生じてしまうおそれがある。また、過度に高い含有率では波長変換部材中で、蛍光体が部分的に凝集して、波長変換部材における発光分布が不均一なものとなる、波長変換部材の機械的強度が低くなるなどの不具合が生じる可能性が高くなる。
【0050】
蛍光体の含有率を高くすると、波長変換部材の発光の色温度は下がり、逆に、蛍光体の含有率を低くすると、色温度は上がる。蛍光体の含有率は、要求される発光色に加え、蛍光体の発光性能及び粒度分布、成形後の波長変換部材の厚み、発光装置の光源の構造などを考慮して決める必要がある。また、波長変換部材の厚み及び形状は、蛍光体の含有率と、要求される発光波長とを勘案して適宜決められる。
【0051】
本発明の波長変換部材には、熱可塑性樹脂を用いた従来の波長変換部材と同様に、添加剤として、光安定化剤、紫外線吸収剤等の安定化剤、成形滑剤などを助剤として、0.1〜0.3質量%の範囲で含有させることができる。特に、アクリル樹脂やポリカ―ボネートなどのような、溶融時の粘度が高い樹脂を用いる場合、添加剤として、滑剤を添加することで、練り込む蛍光体の分散性が向上するため好ましい。また、ポリプロピレン等の金属イオンの影響が大きい樹脂においては、長期間の使用による強度の低下を防ぐため、最大0.3質量%を目安に、添加剤として、重金属不活性化剤を添加してもよい。更に、その他の添加剤として、熱可塑性樹脂の耐久性を向上させるために酸化防止剤、ラジカル反応禁止剤などを添加してもよい。
【0052】
これらの他に、蛍光体の含有率(練り込み濃度)が低い場合、又はヘイズを増加させ、波長変換部材を透過する光の拡散性を向上させる目的で、光拡散材を混合することもできる。光拡散材としては、熱可塑性樹脂と屈折率の異なる樹脂の微小粒子、タルク、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、ケイ酸アルミニウム、酸化イットリウム等の無機セラミックスの粉末が挙げられ、なかでも、透明度が高く、透過光の損失が小さい酸化アルミニウムの粉末、酸化ケイ素の粉末が好ましい。光拡散材の粒径D50値は0.1μm以上20μm以下が好ましい。D50値が0.1μm未満の場合又は20μmを超える場合は、光拡散材としての効力が低くなることがある。また、波長変換部材中の光拡散材の含有率は、0.05質量%以上、特に0.1質量%以上で、5質量%以下、特に1.5質量%以下、とりわけ0.5質量%以下であることが好ましい。光拡散材の含有率が0.05質量%未満では、光拡散効果が十分でない場合があり、5質量%を超えると、波長変換部材の光透過性が低下するおそれがある。
【0053】
波長変換部材の製造は、熱可塑性樹脂及び蛍光体、並びに必要に応じて添加剤、光拡散材などを混合して、所定の厚みと形状に成形すればよい。具体的には、(A)成分のLuYAG蛍光体及び(B)成分のKSF蛍光体と、必要に応じて添加される補助蛍光体、添加剤、光拡散材などとを混合機にて熱可塑性樹脂に練り込んだ後、用途に応じた任意の形状に成形することにより波長変換部材を得ることができる。成形は、例えば、混合機から取り出した溶融状態の混合物を直接用いて、所定の厚みと形状に成形してもよいし、上記混合物を、一旦ペレット状にしておき、このペレットを用いて所定の厚みと形状の波長変換部材に成形してもよい。
【0054】
成形方法は、特に限定されず、熱可塑性樹脂の成形に用いられる従来公知の成形方法が適用できるが、射出成形は、短時間での溶融、成形、固化が可能なため、本発明の熱可塑性樹脂の成形方法として特に好ましい。
【0055】
成形して得られた波長変換部材は、蛍光体、添加剤、光拡散材などが、熱可塑性樹脂に均一に分散した樹脂成型体となる。特に、本発明の波長変換部材では、波長変換部材の内部で、それぞれの蛍光体粒子が、熱可塑性樹脂に取り囲まれた構造とすることができる。この構造を有する波長変換部材は、蛍光体の耐湿性、化学的安定性において有利である。そして、本発明の波長変換部材を用いることで、LED光源からの青色光の透過、蛍光体粉からの黄緑、黄色、赤色の各発光を正確にコントロールして、良好な発色を得ることが可能となる。
【0056】
次に、本発明の発光装置について説明する。
本発明の発光装置は、ピーク波長440〜470nmの青色光成分を含む光を出射する青色LED光源と、青色LED光源の光軸上に配置された波長変換部材とを備える。この青色LED光源としては、青色LEDを用いても、青色LEDを用いた疑似白色LED、即ち、青色成分を含む光を発光する疑似白色LEDを用いてもよい。
【0057】
図4は、本発明の発光装置の一例を示す分解斜視図である。この発光装置10は、青色光を出射するLED光源(LED素子)1、LED光源1の発光方向前方に配置された半球ドーム形の波長変換部材2を備える。なお、図4中、3はリフレクター、4は放熱フィンである。
【0058】
LED光源は、波長変換部材中の蛍光体を励起することが可能な発光光を含む必要があり、青色光、例えば、ピーク波長が440〜470nmの青色光、又は該青色光成分を含む光を出射するものが好ましい。また、LED光源1としては、複数のLEDチップを用いた方が、発光効率、光束の分布の観点で照明用のLEDとして好ましい。
【0059】
波長変換部材は、LED光源からの光が入射し、発光装置として効率的に光を出射する形状を有している必要がある。この部材は、LED光源からは独立し自立した部材であることが好ましい。その形状は、図4に示される半球ドーム形状に限定されず、白熱電球のような曲面形状、アーチ形状、単純な円盤形状でもよい。
【0060】
波長変換部材の積分球光透過率は波長440〜490nm、特に440〜470nmの青色光において、20%以上90%以下が好ましく、30%以上70%以下がより好ましい。励起光の透過率が20%未満では発光装置から出射する青色光が不足し、その色合いのバランスが悪くなるおそれがあり、90%を超えると黄色光、赤色光が不足し、演色性向上の効果が不十分となるおそれがある。
【0061】
また、LED光源と波長変換部材との間隔は、5mm以上とすることが好ましい。LED光源と波長変換部材との間隔が極端に近い、又は互いが接触した構造の発光装置は、LED光源からの熱により、波長変換部材が容易に変形したり、劣化したりするおそれがある。LED光源と波長変換部材との間隔は、LED光源からの発熱に応じて、適当な距離を設定すればよい。LED光源と波長変換部材との間隔の上限は、特に限定されるものではないが、通常5cm以下である。
【0062】
LED発光装置からの出射光の色度は、出射光の波長、波長変換部材の形状及び厚み、蛍光体含有量、波長変換部材のLED光源の光軸に対する配置などによって調整することができる。波長変換部材における蛍光体の含有率は、入射する青色光の光量、黄色波長領域の光の発光量、青色光の透過率などを考慮して決定され、例えば、厚み2mmの波長変換部材により、5000K前後(例えば、4500〜5500K)の色温度の発光を得ようとする場合の、蛍光体の含有率は、LuYAG蛍光体が好ましくは2質量%、特に3質量%以上で、4質量%以下、KSF蛍光体が好ましくは5質量%以上、特に6質量%以上で、8質量%以下、特に7質量%以下である。
【0063】
本発明の発光装置は、LED素子と波長変換部材とを、真空層又は空気層等の気層を介して離間させて配置したリモートフォスファー型であることが好ましい。図5は、LED発光装置の発光態様を説明する模式図であり、(A)はリモートフォスファー型の発光装置の発光態様、(B)は従来型の多灯白色LED型の発光装置の発光態様を示す図である。リモートフォスファー型の発光装置10は、図5(A)に示されるように、LED光源1から波長変換部材2に入射した青色光Lbの一部が蛍光体に吸収され、残部の青色光Lbと、蛍光体の含有率に応じた量で発光した蛍光体の発光由来の黄緑光Eg及び赤色光Erとの混合光を発する。一方、図5(B)に示される、多灯の白色LEDを用いた従来型の発光装置10aでは、個々の白色LED1aにおいて、青色光Lbと蛍光体の発光由来の黄色光Eyとが混合されて発光する。そのため、多灯の白色LEDを用いた従来型の発光装置では、個々の白色LED(疑似白色LED)の発光スペクトルや出力特性を揃えるのが難しく、装置によるバラつきが生じやすい。リモートフォスファー型であれば、光の調色が波長変換部材により行われるので、LED光源を多灯とした場合であっても、色度が安定し、かつ均一な発光が得られる。なお、図5中、3はリフレクター、4は放熱フィンである。
【0064】
また、リモートフォスファー型の発光装置を採用すれば、発光装置の組み立て最終段階で、発光色を最適化した波長変換部材を組み込むことで、容易に所望の発光色を得ることができ、発光特性の安定性が高い。また、発光装置において発熱源となるLED光源(LEDチップ)と、波長変換部材とを空間的に独立させたことで、波長変換部材の加熱が緩和される結果、高い発光効率となり、また、発光装置が長寿命となる。
【0065】
本発明の波長変換部材を、青色LED等のLED光源の発光方向前方に配することで、演色性影響を与える波長600〜660nmの赤色発光、波長440〜470nmの青色発光、及びLuYAGに由来する主波長が563〜570nmの黄緑発光の組み合わせにより、色再現性の良好な白色光、特に、xy色度図(CIE 1931)の色度座標において、xが0.3100以上、特に0.3106以上で、0.3850以下、特に0.3820以下、yが0.3190以上、特に0.3199以上で、0.3790以下、特に0.3786以下である発光色を有する白色光が得られ、これにより色温度5000Kの領域においても、良好な演色性の光を得ることが可能となる。
【実施例】
【0066】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0067】
[実施例1〜6]
透明アクリル樹脂ペレット デルペット(旭化成(株)製)に、添加剤としてリコワックスE(クラリアント社製)を0.15質量%加えて撹拌した後、90℃で11時間熱処理し、乾燥と同時にペレット表面にワックス層を形成した。この添加剤混合アクリル樹脂ペレット8kgに、二軸押出機(東芝機械(株)製)を用い、粒径D50が約15μmのK2(Si0.98Mn0.02)F6で表わされるKSF蛍光体と共に、粒径D50が約12μm、外観色が、CIE L***表色系における明度L*の値が106.30、色度座標のa*値が−22.28、b*値が93.25である(Y0.294Lu0.686Ce0.023Al512で表わされるLuYAG蛍光体を、表1に示される含有率で、230℃で混練して、蛍光体を練り込んだアクリル樹脂ペレットを得た。
【0068】
なお、ここで用いたLuYAG蛍光体のX線回折プロファイル(X線回折装置 D8 advance(Bruker AXS社製)にて測定)は、図1に示される。また、ここで用いたLuYAG蛍光体の、波長420〜490nmの励起光による波長550nmの発光(蛍光)の強度、及び波長450nmの青色光を励起光とした発光(蛍光)スペクトル(いずれも、分光光度計FP−6500(日本分光(株)製)にて測定)は、各々、図2図3に示される。
【0069】
次に、得られた蛍光体を練り込んだアクリル樹脂ペレットを用い、射出成形機EC130SX(東芝機械(株)製)を用いて、250℃で、厚み2mm、150mm角の板状に成形した。次に、得られた樹脂板を、φ60mmの円盤状に切断加工して波長変換部材とした。次に、LEDモジュールLMH2(Cree社製)の光源LEDを、ピーク波長453nmの青色LED12個に、また、フラットレンズを上記波長変換部材に換装して、定格11.5Wのリモートフォスファー型発光装置を作製した。
【0070】
この発光装置の発光の色度を、分光放射照度計CL−500A(コニカミノルタ(株)製)により測定し、色温度、演色性及び色偏差を評価した。発光装置の発光特性を表1に示す。また、実施例3の発光装置の発光スペクトルを図6に、実施例1〜6のxy色度図上の座標を図7に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
[比較例1〜7]
蛍光体として、KSF蛍光体と共に、LuYAG蛍光体の代わりに、Lu3Al512:Ce3+(Ce賦活率2mol%)で表されるセリウム賦活ルテチウムアルミニウムガーネット蛍光体(LuAG蛍光体)、又はY3Al512:Ce3+(Ce賦活率2mol%)で表されるセリウム賦活イットリウムアルミニウムガーネット蛍光体(YAG蛍光体)を、表2に示される含有率で用いた以外は、実施例と同様にして、波長変換部材を得、得られた波長変換部材を用いてリモートフォスファー型発光装置を作製した。
【0073】
なお、ここで用いたLuAG蛍光体及びYAG蛍光体のX線回折プロファイル(X線回折装置 D8 advance(Bruker AXS社製)にて測定)は、図1に示される。また、ここで用いたLuAG蛍光体及びYAG蛍光体の、波長420〜490nmの励起光による波長550nmの発光(蛍光)の強度、及び波長450nmの青色光を励起光とした発光(蛍光)スペクトル(いずれも、分光光度計FP−6500(日本分光(株)製)にて測定)は、各々、図2図3に示される。
【0074】
この発光装置の発光の色度を、分光放射照度計CL−500A(コニカミノルタ(株)製)により測定し、色温度、演色性及び色偏差を評価した。発光装置の発光特性を表に示す。また、比較例3及び比較例7の発光装置の発光スペクトルを図6に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
実施例1〜6及び比較例1〜7の発光装置の、色温度と平均演色評価数Ra又は特殊演色評価数R9との関係を、各々、図8図9に示す。実施例1〜6の波長変換部材及びリモートフォスファー型発光装置により、4000〜6700Kの色温度域で、LuAG−KSF混合蛍光体又はYAG−KSF混合蛍光体を用いた波長変換部材及びリモートフォスファー型発光装置よりも、同程度のduvにおいて、演色性に優れた光が得られることがわかる。
【0077】
このように、本発明の波長変換部材及びこれを用いた発光装置を用いることで、4000〜6700Kの色温度域において、duvを小さく抑えて、従来のLED発光装置に比べて、Ra、R9が大きい光を得ることができる。即ち、本発明によれば、コントラスト、色再現性が大きいのみならず、赤色の再現性に優れた、生き生きとした感覚を与える演色性の高い発光を得ることができる。
【符号の説明】
【0078】
1 LED光源(LED素子)
1a 白色LED
2 波長変換部材
3 リフレクター
4 放熱フィン
10,10a 発光装置
Lb 青色光
Eg 黄緑光
Er 赤色光
Ey 黄色光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10