特許第6376238号(P6376238)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376238
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】コロイダルシリカ研磨材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20180813BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20180813BHJP
   C03C 19/00 20060101ALI20180813BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   C09K3/14 550D
   B24B37/00 H
   C03C19/00 Z
   C09G1/02
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-77292(P2017-77292)
(22)【出願日】2017年4月10日
(62)【分割の表示】特願2014-45807(P2014-45807)の分割
【原出願日】2014年3月10日
(65)【公開番号】特開2017-155242(P2017-155242A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2017年4月11日
(31)【優先権主張番号】特願2013-76955(P2013-76955)
(32)【優先日】2013年4月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 晴信
(72)【発明者】
【氏名】原田 大実
(72)【発明者】
【氏名】竹内 正樹
【審査官】 柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−137972(JP,A)
【文献】 特開2010−080499(JP,A)
【文献】 特開2009−231486(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/105342(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
B24B 37/00
C03C 19/00
C09G 1/02
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真球型コロイダルシリカ砥粒と会合型コロイダルシリカ砥粒を含むコロイド溶液を含有し、合成石英ガラス基板のセミファイナル又はファイナル研磨工程に用いるコロイダルシリカ研磨材であって、真球型コロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径(D1A)が20〜120nm、会合型コロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径(D1B)が70〜200nmであり、真球型コロイダルシリカ砥粒の会合度(n1)が1.0〜1.5、会合型コロイダルシリカ砥粒の会合度(n2)が2.0〜3.5であり、前記会合型コロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径(D1B)が、真球型コロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径(D1A)より大きいことを特徴とする合成石英ガラス基板製造用コロイダルシリカ研磨材。
【請求項2】
防食剤及び酸化剤を含有しないものである請求項1記載のコロイダルシリカ研磨材。
【請求項3】
前記コロイダルシリカ研磨材中における真球型コロイダルシリカ砥粒の含有量が、会合型コロイダルシリカ砥粒に対して、2〜5倍量(質量比)の割合であることを特徴とする請求項1又は2記載のコロイダルシリカ研磨材。
【請求項4】
前記コロイダルシリカ研磨材中の真球型コロイダルシリカ砥粒と会合型コロイダルシリカ砥粒の含有量が、真球型コロイダルシリカ砥粒50〜80質量部、会合型コロイダルシリカ砥粒20〜50質量部の割合であり、これらの合計量が100質量部であって、これら混合物が研磨材中に25〜50質量%含有される請求項1〜のいずれか1項記載のコロイダルシリカ研磨材。
【請求項5】
真球型コロイダルシリカ砥粒と会合型コロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径の差が30〜50nmであり、会合度の差が1.3〜1.5である請求項1〜のいずれか1項記載のコロイダルシリカ研磨材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロイダルシリカ研磨材に関し、更に詳述すると、フォトマスク、ナノインプリント、液晶カラーフィルター用等、最先端技術に用いられる合成石英ガラス基板を研磨するために使用されるコロイダルシリカ研磨材及びこれを用いた合成石英ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトマスク、液晶基板等に使用される合成石英ガラス基板を研磨する際、研磨材として酸化セリウム、コロイダルシリカといった研磨材がしばしば用いられている。
【0003】
フォトマスクや液晶用に使用される合成石英ガラス基板は、高平坦度、高平滑性及び低欠陥性が要求されるため、その表面調整に、ラッピング工程、ポリッシング工程等、数段階の工程を経て製品が製造される。
【0004】
ラッピング工程では、インゴットからスライスしたときの加工歪みを除去し、ポリッシング工程では、基板を鏡面化して表面の平坦度を高め、形状の作り込みを行い、最終的にファイナルポリッシュ工程において、粒子径の小さいコロイダルシリカ研磨材を用いて基板表面を平滑にし、微小欠陥を除去した基板を製造する。
【0005】
基板を鏡面化する工程において、酸化セリウム研磨材の使用が一般的かつ効果的であることが知られている。
しかし、昨今のレア・アース価格の高騰という状況を受けて、酸化セリウム研磨材の使用量を減らすために、代替研磨材もしくは回収技術の開発を目指し、研究が多く進められている。
【0006】
例えば、特開2009−007543号公報(特許文献1)では、酸化セリウムに酸化ジルコニウムを混合した複合酸化物粒子を研磨材として使用し、ガラス基板を研磨する方法が提案されている。
【0007】
また、特開2008−270584号公報(特許文献2)では、非球状の異形のコロイダルシリカ粒子を用いることで、通常のコロイダルシリカを用いた場合よりも優れた研磨レートで半導体ウェーハを研磨する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−007543号公報
【特許文献2】特開2008−270584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1は酸化セリウムを完全に使用しない方法ではないため、特許文献1の研磨材は完全な酸化セリウム代替研磨材とは言い難い。また、酸化ジルコニウムを混合することによって、酸化セリウム砥粒と酸化ジルコニウム砥粒表面のゼータ電位の変化を招き、研磨材の分散性の悪化、更には研磨後の基板表面上への残渣が多くなることが懸念される。
【0010】
また、特許文献2では、ガラス基板由来のSiO2がコロイダルシリカ粒子と結合するため、コロイダルシリカの形状は球形に近づき、研磨レートの低下を招く。更に、コロイダルシリカの形状が異形であることから、基板表面へのスクラッチは抑制できたとしても、フォトマスク基板のキラー欠陥となり得る微小欠陥が入りやすい。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、合成石英ガラス基板の研磨工程において優れた研磨レートを示し、かつ基板表面におけるスクラッチ、微小欠陥を抑制することができるコロイダルシリカ研磨材及びこれを用いた合成石英ガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために、合成石英ガラス基板を研磨する際に用いられるコロイダルシリカ砥粒に着目して鋭意検討した。その結果、特に、真球型と会合型の互いに異なる平均一次粒子径及び会合度を持つコロイダルシリカ砥粒を混合し、とりわけ、会合型コロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径が真球型コロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径よりも大きいものを用いて研磨を行うことにより、研磨の際に遠心力で基板から除去される真球型コロイダルシリカ砥粒が、会合型コロイダルシリカ砥粒よりも少なくなり、基板表面の微小欠陥を抑制し、高い平滑性が得られることを見出した。また、本発明の研磨材を使用することにより、あらゆる大きさ又は種類の基板に対しても、研磨レートの向上が可能であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0013】
ここで、本発明において、真球型コロイダルシリカとは、シリカ粒子の形状が平均真球度1.0〜1.1の真球状であって、好ましくは平均一次粒子径(D1A)が20〜120nm、会合度(n1)が1.5以下のコロイド状に分散したコロイダルシリカをいう。ここで、平均真球度とは、無作為に100個のシリカ粒子を抽出したときの、各粒子における最大径/最小径の比の平均値をいう。また、会合型コロイダルシリカとは、真球型コロイダルシリカ粒子が集まった凝集体であって、好ましくは平均一次粒子径(D1B)が70〜200nm、会合度(n2)が2.0以上のコロイド状に分散したコロイダルシリカをいう。
【0014】
従って、本発明は、下記コロイダルシリカ研磨材を提供する。
[1]
真球型コロイダルシリカ砥粒と会合型コロイダルシリカ砥粒を含むコロイド溶液を含有し、合成石英ガラス基板のセミファイナル又はファイナル研磨工程に用いるコロイダルシリカ研磨材であって、真球型コロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径(D1A)が20〜120nm、会合型コロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径(D1B)が70〜200nmであり、真球型コロイダルシリカ砥粒の会合度(n1)が1.0〜1.5、会合型コロイダルシリカ砥粒の会合度(n2)が2.0〜3.5であり、前記会合型コロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径(D1B)が、真球型コロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径(D1A)より大きいことを特徴とする合成石英ガラス基板製造用コロイダルシリカ研磨材。
[2]
防食剤及び酸化剤を含有しないものである[1]記載のコロイダルシリカ研磨材。

前記コロイダルシリカ研磨材中における真球型コロイダルシリカ砥粒の含有量が、会合型コロイダルシリカ砥粒に対して、2〜5倍量(質量比)の割合であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のコロイダルシリカ研磨材。

前記コロイダルシリカ研磨材中の真球型コロイダルシリカ砥粒と会合型コロイダルシリカ砥粒の含有量が、真球型コロイダルシリカ砥粒50〜80質量部、会合型コロイダルシリカ砥粒20〜50質量部の割合であり、これらの合計量が100質量部であって、これら混合物が研磨材中に25〜50質量%含有される[1]〜[]のいずれかに記載のコロイダルシリカ研磨材。

真球型コロイダルシリカ砥粒と会合型コロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径の差が30〜50nmであり、会合度の差が1.3〜1.5である[1]〜[]のいずれかに記載のコロイダルシリカ研磨材。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来のコロイダルシリカを用いた研磨よりも早い研磨レートが得られ、かつ基板表面の微小欠陥を抑制し、高い平滑性を得ることができる。また、ラップ面から研磨する際の酸化セリウム代替研磨材としても利用でき、昨今のレア・アース問題の解決の一端になり得る。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について、詳細に説明する。
本発明における基板研磨用のコロイダルシリカ研磨砥粒は、水ガラスもしくはアルコキシシラン等の有機シリケート化合物等を加水分解することによって生成されたもので、特に、平均一次粒子径及び会合度が異なる、真球型と会合型の異なる形のコロイダルシリカ砥粒が用いられる。
【0017】
ここで、異なる形状のコロイダルシリカ粒子を用いた理由は、以下の通りである。
一般的に合成石英ガラス等の基板を研磨する際、コロイダルシリカ砥粒は、ファイナル研磨工程において使用される。これは、酸化セリウム等の研磨用粒子に比べ、小さい粒子径かつ粒子の表面が滑らかであるコロイダルシリカを用いることによって、低欠陥かつ高平滑な表面を持つ基板を作製できるためである。しかし、小さな粒子径であるがために、研磨レートは遅く、研磨工程としては基板表面を微小量研磨しているだけに過ぎず、研削力のある研磨砥粒とは言い難い。
【0018】
しかし、異なる粒子径のコロイダルシリカ砥粒を混合した研磨材を用いると、単位体積あたりのコロイダルシリカ砥粒による空間占有率が大きくなり、その結果、ガラス基板に砥粒が衝突する確率が上がり、研削力を向上させることができる。
即ち、同じ平均一次粒子径を有する会合型のコロイダルシリカ砥粒によって構築される単位体積あたりの最密充填構造における空間内に、前記コロイダルシリカ砥粒よりも平均一次粒子径の小さい真球型コロイダルシリカ砥粒が入り込むことによって、単位体積あたりの充填率を高めることができ、研削力のある砥粒を得ることができる。
【0019】
更に、真球型と会合型の異なる形のコロイダルシリカ粒子を混合し、それぞれが持つ立体的特徴を引き出すことで、更なる研磨レートの向上に加え、基板表面の欠陥数減少及び平滑性の向上も同時に達成する。
【0020】
以下にそのメカニズムの詳細を述べる。
会合型コロイダルシリカ粒子は、粒子の形が真球型コロイダルシリカ砥粒に比べて歪んでいるために、砥粒の基板に対する接触面積が小さくなり、点接触に近い。ゆえに、研磨定盤から砥粒を介して基板に伝わる力を大きくでき、研削力を向上させることが可能となる。
【0021】
会合型コロイダルシリカ粒子のみによって構成された単位立方積中の充填構造中には粒子が存在しない空隙部があるが、真球型コロイダルシリカ砥粒を混合することによってこの空隙を埋め、更なる研削力の向上が見られ、結果として研磨レートの向上を達成することができる。
【0022】
また、上記2種類のコロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径(D1)は、会合型コロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径(D1B)が、真球型コロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径(D1A)よりも大きいことが好ましい。
会合型コロイダルシリカ砥粒によって研削力を向上させることはできるが、研磨粒子の表面形状が歪んでいるため、基板表面の面粗さが粗くなる可能性がある。一方、この基板表面に対して、真球型コロイダルシリカ砥粒で研磨を行うと、低欠陥かつ高平滑な基板表面が得られる。このとき、研磨に関与しているコロイダルシリカ粒子が回転系の中に存在していることを考慮すると、会合型コロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径が真球型コロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径よりも大きい場合、遠心力により会合型コロイダルシリカ砥粒が先に基板表面から除去されるため、上述の会合型コロイダルシリカ砥粒から真球型コロイダルシリカ砥粒の順で研磨するモデルが達成でき、より好ましい。
【0023】
ここで、真球型コロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径(D1A)は、好ましくは20〜120nm、更に好ましくは40〜100nm、特に好ましくは50〜100nmである。真球型コロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径が20nmよりも小さいと、研磨後の洗浄工程において砥粒を除去しづらく、残渣として微小な凸欠陥を残す場合がある。一方、真球型コロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径が120nmよりも大きいと、会合型コロイダルシリカ砥粒によって形成される空隙中に収まりづらく、砥粒としての研削力を十分に向上させることができない不具合が生じる場合がある。
【0024】
また、真球型コロイダルシリカ砥粒の会合度(n1)は、1.5以下が好ましく、より好ましくは1.0〜1.5である。真球型コロイダルシリカ砥粒の会合度が1.5よりも大きいと、会合型コロイダルシリカ砥粒が形成する充填構造の中に形成される空隙内に十分に入り込めず、単位立方積あたりの充填率を十分に上げることができないために、研削力が上がらず研磨レートの向上につながる効果が得られにくい場合がある。なお、会合度は、会合度(n)=平均二次粒子径/平均一次粒子径で求められ、平均一次粒子径は、BET法による比表面積測定値から換算され、平均二次粒子径は、赤色レーザーによる動的光散乱の散乱強度測定によって算出される。
【0025】
一方、会合型コロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径(D1B)は、好ましくは70〜200nm、更に好ましくは70〜170nm、特に好ましくは80〜150nmである。会合型コロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径が70nmよりも小さいと、粒子が球形に近づき、十分な研削力が得られずに研磨レートが向上しにくい場合がある。一方、会合型コロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径が200nmよりも大きいと、コロイダルシリカ粒子自身の比重が大きくなってしまい、分散性が悪くなる不具合が生じる場合がある。
【0026】
また、会合型コロイダルシリカ砥粒の会合度(n2)は、好ましくは2.0以上であり、より好ましくは2.0〜3.5である。会合型コロイダルシリカ砥粒の会合度が2.0よりも小さいと、研削力に必要な粒子の歪が十分に出せない不具合が起こる場合がある。
【0027】
コロイダルシリカ研磨材中における真球型コロイダルシリカ砥粒は、会合型コロイダルシリカ砥粒の好ましくは2〜5倍量(質量比)、更に好ましくは2〜4倍量の割合で混合されることが望ましい。真球型コロイダルシリカ砥粒の含有割合が会合型コロイダルシリカ砥粒の2倍量に満たないと、基板表面の面粗さが悪化する不具合が生じる場合がある。一方、真球型コロイダルシリカ砥粒が5倍量より多いと、研磨において真球型コロイダルシリカ砥粒の影響が支配的になるため、研削力が小さくなり、効果的に研磨レートを上げることが難しくなる場合がある。
【0028】
また、真球型コロイダルシリカ砥粒と会合型コロイダルシリカ砥粒との割合は、真球型コロイダルシリカ砥粒が50〜80質量部含まれることが好ましく、より好ましくは50〜75質量部、更に好ましくは60〜75質量部である。一方、会合型コロイダルシリカ砥粒は、20〜50質量部含まれることが好ましく、より好ましくは25〜50質量部、更に好ましくは25〜40質量部である。真球型コロイダルシリカ砥粒と会合型コロイダルシリカ砥粒の合計量は100質量部であり、これら砥粒混合物が研磨材中に25〜50質量%、特に35〜50質量%であることが好ましい。
【0029】
本発明で使用されるコロイダルシリカ砥粒は多様な製法で作り出され、例えば、水ガラスからの造粒、アルコキシシラン等の有機シリケート化合物等を加水分解して得る方法等が挙げられる。このコロイダルシリカ砥粒を含む分散液の液性は、コロイダルシリカの保存安定性の観点から弱アルカリ性が好ましいが、中性や酸性側の液性でも使用可能である。コロイダルシリカは、通常は水に分散して使用されるが、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物や、これら有機溶媒や水の混合溶媒等を分散媒として用いることもできる。
【0030】
本発明のコロイダルシリカ研磨材は、上述した真球型コロイダルシリカ砥粒と会合型コロイダルシリカ砥粒を分散媒に分散させたコロイド溶液(コロイダルシリカ分散液)として得ることができる。なお、本発明のコロイダルシリカ研磨材は、市販のコロイダルシリカ分散液を組み合わせることによっても作製できる。例えば、真球型コロイダルシリカの分散液としては、日産化学工業(株)製スノーテックスシリーズ、(株)フジミインコーポレーテッド製COMPOL−50、COMPOL−80、COMPOL−120、COMPOL−EX III、Dupon製SYTON、Mazin等が、会合型コロイダルシリカの分散液としては、日産化学工業(株)製ST−UP、ST−OUP、多摩化学工業(株)製TCSOLシリーズ、扶桑化学工業(株)製PLシリーズ等が挙げられる。
【0031】
本発明の研磨材を用いて合成石英ガラス基板等の基板を研磨するに際して、必要に応じて適宜研磨促進剤を選択して適量入れることができる。研磨促進剤を研磨材中に添加することによって、コロイダルシリカ砥粒の周りにある電気二重層を安定化できるため、分散性が上がり、速い研磨レートを持続できることが期待される。研磨促進剤としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸塩、ホルマリン縮合物、縮合リン酸塩等が挙げられる。研磨促進剤を配合する場合、その配合量は、コロイダルシリカ(コロイド溶液の固形分)に対して10〜20質量%が好ましい。
【0032】
本発明の研磨材を用いた研磨対象の基板としては、合成石英ガラス基板、タンタル酸リチウム基板、シリコン基板、HDD用ガラス基板、ソーダライムガラス基板等が挙げられるが、本発明の研磨材は、特に、フォトマスク、ナノインプリント、液晶カラーフィルター用等として用いられる合成石英ガラス基板を製造する際の研磨工程に用いるのが有用である。基板のサイズは、例えば、四角形状の基板の場合、5インチ角(127.0×127.0mm)、6インチ角(152.4×152.4mm)が、丸形状の基板の場合、6インチφ(直径152.4mm)、8インチφ(直径203.2mm)が、大型基板の場合、G8(1,220×1,400mm角)、G10(1,620×1,780mm角)の大きさのものを好適に用いることができる。
【0033】
本発明のコロイダルシリカ研磨材は、基板を粗研磨した後に実施される、セミファイナル研磨工程又はファイナル研磨工程にて、例えばスェード研磨布等を用いて好適に使用することができる。ファイナル研磨工程で用いる場合、研磨圧60〜200gf/cm2で行うことができる。
【0034】
なお、粗研磨は、インゴットを成型、アニール、スライス加工、面取り、ラッピング、基板表面を鏡面化するための研磨工程を経て実施される。
【0035】
基板表面を更に高平滑、低欠陥にする場合には、本発明のコロイダルシリカ研磨材をセミファイナル工程で使用し、ファイナル研磨工程では更に小さい粒子径のコロイダルシリカ砥粒を用いて研磨することができる。
【0036】
なお、本発明に係わる研磨材を用いた研磨方法としては、バッチ式の両面研磨が一般的であるが、片面研磨、枚葉式研磨及びこれらの組み合わせで実施されるものであってもよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0038】
[実施例1]
スライスされた6インチ角の合成石英ガラス基板(厚さ6.35mm)をラッピング、粗研磨を行った後、ファイナル研磨に投入した。軟質のスェード製研磨布を用い、平均一次粒子径が50nm、会合度が1.2である真球型コロイダルシリカ砥粒(日産化学工業(株)製、商品名:スノーテックスXL)を、平均一次粒子径が100nm、会合度が2.5である会合型コロイダルシリカ砥粒(多摩化学工業(株)製、商品名:TCSOL704)の3倍量(質量比)としたSiO2濃度40質量%のコロイダルシリカ水分散液を研磨材として用いた。両面研磨機を用い、研磨圧100gf/cm2、研磨レートは0.2μm/分であった。
【0039】
研磨終了後、洗浄・乾燥してレーザーコンフォーカル光学系高感度欠陥装置(レーザーテック(株)製)を用いて欠陥検査をしたところ、50nm級以上の欠陥は1.5個であった。また、面粗さ(Ra)を原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定したところ、Ra=0.14nmであった。また、スクラッチやピットといった研磨起因のキズは検出されなかった。
【0040】
[比較例1]
実施例1と同じ材料を使用し、軟質のスェード製研磨布を用い、平均一次粒子径が80nm、会合度が1.1である真球型コロイダルシリカ砥粒(フジミインコーポレイテッド製、商品名:COMPOL−80)を含むSiO2濃度40質量%のコロイダルシリカ水分散液を研磨材として用いた。両面研磨機を用い、研磨圧100gf/cm2、研磨レートは0.07μm/分であった。
【0041】
研磨終了後、洗浄・乾燥して、実施例1と同様に欠陥検査をしたところ、50nm級以上の欠陥は1.8個であった。また、実施例1と同様に面粗さ(Ra)を測定したところ、Ra=0.14nmであった。また、スクラッチやピットといった研磨起因のキズは検出されなかった。
【0042】
[比較例2]
実施例1と同じ材料を使用し、軟質のスェード製研磨布を用い、平均一次粒子径が110nm、会合度が1.2である真球型コロイダルシリカ砥粒(日産化学工業(株)製、商品名:スノーテックスZL)を含むSiO2濃度20質量%のコロイダルシリカ水分散液を研磨材として用いた。両面研磨機を用い、研磨圧100gf/cm2、研磨レートは0.06μm/分であった。
【0043】
研磨終了後、洗浄・乾燥して、実施例1と同様に欠陥検査をしたところ、50nm級以上の欠陥は2.1個であった。また、実施例1と同様に面粗さ(Ra)を測定したところ、Ra=0.25nmであった。スクラッチやピットといった研磨起因のキズは検出されなかった。
【0044】
[実施例2]
スライスされた8インチφの合成石英ガラス基板(厚さ0.775mm)をラッピング、粗研磨を行った後、実施例1と同じ研磨布を用い、平均一次粒子径が60nm、会合度が1.3である真球型コロイダルシリカ砥粒(フジミインコーポレイテッド製、商品名:COMPOL−120)を、平均一次粒子径が90nm、会合度が2.8である会合型コロイダルシリカ砥粒(扶桑化学工業(株)製、商品名:PL−7H)の4倍量(質量比)としたSiO2濃度35質量%のコロイダルシリカ水分散液を研磨材として用いた。両面研磨機を用い、研磨圧100gf/cm2、研磨レートは0.07μm/分であった。
【0045】
研磨終了後、洗浄・乾燥して、実施例1と同様に欠陥検査したところ、50nm級以上の欠陥は2.0個であった。また、実施例1と同様に面粗さ(Ra)を測定したところ、Ra=0.17nmであった。また、スクラッチやピットといった研磨起因のキズは検出されなかった。
【0046】
[比較例3]
実施例2と同じ材料を使用し、軟質のスェード製研磨布を用い、平均一次粒子径が80nm、会合度が1.1である真球型コロイダルシリカ砥粒(フジミインコーポレイテッド製、商品名:COMPOL−80)を含むSiO2濃度40質量%のコロイダルシリカ水分散液を研磨材として用いた。両面研磨機を用い、研磨圧100gf/cm2、研磨レートは0.01μm/分であった。
【0047】
研磨終了後、洗浄・乾燥して、実施例1と同様に欠陥検査をしたところ、50nm級以上の欠陥は2.8個であった。また、実施例1と同様に面粗さ(Ra)を測定したところ、Ra=0.15nmであった。また、スクラッチやピットといった研磨起因のキズは検出されなかった。