(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法では、サイズが大きなシリコン原料であっても、ポリエチレンシートとシリコン原料とが擦れることで、ポリエチレンシートから発生した有機系の粉がシリコン原料に付着するおそれがある。有機系の粉が付着したシリコン原料を用いてシリコン単結晶インゴットを育成すると、シリコン単結晶インゴットの炭素濃度が上昇してしまうという問題点がある。
【0005】
本発明の目的は、シリコン単結晶インゴットにおける炭素濃度の上昇が抑制されるようなシリコン原料を選別可能な選別装置
、選別装置の製造方法、および、この選別装置で選別されたシリコン原料を用いたシリコン単結晶インゴットの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の選別装置は、シリコン単結晶インゴットのシリコン原料の選別に用いる選別装置であって、選別時に前記シリコン原料が載置される
平面状の作業面を有する作業用部材を備え、前記作業用部材は、
単結晶のシリコンにより形成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、シリコンで構成された作業用部材上でシリコン原料の選別を行うため、作業用部材とシリコン原料とが擦れても、作業用部材からは、不純物ではないシリコンの粉が発生するだけである。したがって、このような粉が仮にシリコン原料に付着したとしても、シリコン単結晶インゴットの炭素濃度が上昇することを抑制できる。
また、多結晶のシリコンを用いる場合と比べて加工性を向上できる。さらに、シリコン原料との接触による作業用部材のチッピング発生を抑制でき、作業用部材の長寿命化を図ることができる。
【0010】
本発明の選別装置において、前記作業用部材は、シリコン単結晶インゴットからの切り出しによって製造されたことが好ましい。
【0011】
本発明によれば、製品規格から外れたシリコン単結晶インゴットを作業用部材の製造に用いることができ、規格外品の有効活用を図ることができる。また、作業用部材から発生した粉が選別中にシリコン原料に付着しても、この粉はシリコン単結晶インゴットから発生したものなので、当該シリコン原料を用いて育成されたシリコン単結晶インゴットの品質に及ぼす影響を最小限に抑制できる。
【0012】
本発明の選別装置において、前記作業用部材の抵抗率は、1300Ω・cm以上であることが好ましい。
【0013】
作業用部材の抵抗率が1300Ω・cm以上の場合、この作業用部材には抵抗率調整用のドーパントがほとんど入っていないといえる。
本発明によれば、仮に作業用部材の欠片がシリコン原料に混入して、シリコン単結晶インゴットの育成に用いられたとしても、当該シリコン単結晶インゴットにおける抵抗率の設計値からのずれを抑制できる。
【0014】
本発明の選別装置において、前記作業用部材を下方から支持する支持部材を備え、前記作業用部材は、前記支持部材上に並んで配置される複数の作業用分割部材から構成されていることが好ましい。
【0015】
本発明によれば、作業用分割部材を支持部材上に並べるだけの簡単な方法で、大面積の作業用部材を形成できる。また、作業用部材の一部が破損した場合、この破損箇所を含む作業用分割部材のみを交換することができる。
【0016】
本発明の選別装置において、前記支持部材における前記作業用分割部材を支持する支持面には、前記作業用分割部材の並び方向の位置決めをする位置決め部が設けられていることが好ましい。
【0017】
本発明によれば、位置決め部で作業用分割部材を位置決めするだけの簡単な方法で、作業用部材を形成できる。
【0018】
本発明の選別装置において、前記位置決め部は、互いに隣り合う作業用分割部材の間に隙間が形成されるように設けられ、前記支持部材における前記隙間に対応する位置には、前記支持面に対して交差する方向に貫通する貫通孔または前記支持面に対して凹む溝部が設けられていることが好ましい。
【0019】
本発明によれば、作業用部材から発生した粉を、作業用分割部材間の隙間を介して支持部材の貫通孔または溝部に導くことができ、当該粉がシリコン原料に付着することを抑制できる。
【0020】
本発明のシリコン単結晶インゴットの製造方法は、チョクラルスキー法を用いたシリコン単結晶インゴットの製造方法であって、上述の選別装置を用いてシリコン原料を選別し、この選別したシリコン原料を用いてシリコン単結晶インゴットを育成することを特徴とす
る。
本発明の選別装置の製造方法は、シリコン原料が載置される平面状の作業面を有する作業用部材を備え、前記シリコン原料の選別に用いる選別装置の製造方法であって、前記作業用部材をシリコン単結晶インゴットからの切り出しによって製造する工程を備えていることを特徴とする。
本発明の選別装置の製造方法において、前記作業用部材を製造する工程は、前記シリコン単結晶インゴットから複数の作業用分割部材を切り出す工程と、前記複数の作業用分割部材の上面が同一面上に位置するように、前記複数の作業用分割部材を支持部材で下から支持することで前記作業用部材を構成する工程とを備えていることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[実施形態]
以下、本発明の一実施形態について説明する。
〔選別装置の構成〕
図1および
図2に示すように、選別装置1は、上方が開口した四角箱状の筐体11と、この筐体11内で支持された支持部材としての支持板12と、この支持板12に支持された作業用部材としての作業板13と、この作業板13の外周を囲むように支持板12で支持された側壁板14とを備えている。選別装置1は、移動可能なように台車上に載置されていてもよい。筐体11および支持板12の材料は特に限定されず、塩化ビニールなどの樹脂で形成されていてもよいし、金属で形成されていてもよい。
なお、選別装置1の説明に関し、
図1に示す+X方向、−X方向、+Y方向、−Y方向をそれぞれの左方向、右方向、前方向、後方向という。
【0023】
筐体11の側面部111の内側面には、支持板12を下から支持する支持凸部112が設けられている。前方向の側面部111における左隅部および後方向の側面部111における右隅部には、吸引孔113が設けられている。吸引孔113には、配管91を介して図示しない吸引手段が接続されており、当該吸引手段の駆動によって筐体11内部を吸引できるようになっている。
【0024】
支持板12は、四角板状に形成され、その支持面121によって作業板13を下方から支持する。支持板12には、
図1〜
図3に示すように、当該支持板12の前後方向に延びる3本の貫通孔122が設けられている。貫通孔122は、左右方向に等間隔で設けられている。
【0025】
支持面121における前方向、後方向、右方向および左方向側の端縁には、
図2〜
図4に示すように、当該支持面121に対して凹む立設用凹部123が設けられている。
支持面121には、
図1および
図4に示すように、当該支持面121から突出する複数の位置決め部としての位置決め凸部124が設けられている。位置決め凸部124は、貫通孔122の外縁から左右方向に線状に延びるように設けられている。位置決め凸部124の幅(上下方向の寸法)は、隣り合う分割作業板131の間の隙間132の大きさを規定する。
支持板12は、分割線12Cで分割された第1の分割支持板12Aと第2の分割支持板12Bとで構成されている。
【0026】
作業板13は、長方形板状の複数の作業用分割部材としての分割作業板131から構成されている。分割作業板131は、単結晶のシリコンにより形成されている。分割作業板131は、シリコン単結晶インゴットからの切り出しにより製造されている。分割作業板131の抵抗率は、1300Ω・cm以上、7000Ω・cm以下である。上限値の7000Ω・cmは、チョクラルスキー法によりドーパントを添加せず育成可能なシリコン単結晶インゴットの実績値から決定した値である。
分割作業板131は、支持面121における立設用凹部123の内側に敷き詰められている。分割作業板131は、一部が貫通孔122の上に位置するように配置されている。
【0027】
分割作業板131の前後方向の位置決めは、位置決め凸部124または側壁板14との当接によって行われている。位置決め凸部124を挟んだ一対の分割作業板131の間には、隙間132が形成されている。この隙間132の下側には貫通孔122が位置しており、これら隙間132および貫通孔122によって、作業板13の上方と支持板12の下方とを連通する連通孔15が構成されている。分割作業板131の左右方向の位置決めは、隣接する分割作業板131または側壁板14との当接によって行われている。
【0028】
側壁板14は、複数の分割側壁板141によって構成されている。分割側壁板141は、分割作業板131と同じシリコン単結晶インゴットからの切り出しにより製造されていることが好ましい。分割側壁板141がシリコンから形成されている場合、その抵抗率は、1300Ω・cm以上であることが好ましい。
分割側壁板141は、その下端部分が立設用凹部123に嵌め込まれ、かつ、隣り合う分割側壁板141同士が接触するように配置される。
このような分割側壁板141の配置によって、作業板13を囲む側壁板14が形成される。
【0029】
〔シリコン原料の選別方法〕
次に、上記選別装置1を用いたシリコン原料の選別方法について説明する。
まず、作業者は、作業面13A上に塊状のシリコン原料を載せるとともに、吸引手段の駆動を開始する。そして、作業者は、サイズが所定サイズ以下であったり、形状が所定形状ではないなどの理由により規格外となったシリコン原料を作業面13A上から取り除く。このとき、作業板13とシリコン原料との擦れによって作業板13やシリコン原料から発生する粉や、シリコン原料同士の接触によって発生する粉は、連通孔15を介して、支持板12の下方に導かれ吸引孔113を介して筐体11外部に排出される。
以上により、作業板13やシリコン原料から発生した粉の付着量が最小限に抑制されたシリコン原料が選別される。
【0030】
〔シリコン単結晶インゴットの製造方法〕
次に、シリコン単結晶インゴットの製造方法について説明する。
まず、
図5に示すようなチョクラルスキー法に用いられる単結晶引き上げ装置10の坩堝22に、選別装置1を用いて選別されたシリコン原料を充填した後、ヒータ23で坩堝22を加熱することでシリコン融液Mを生成する。また、必要に応じて、シリコン融液Mに抵抗率調整用のドーパントを添加する。
その後、チャンバ21にアルゴンガスを導入して減圧下の不活性雰囲気に維持し、坩堝22を回転させつつ、シリコン融液Mに種結晶SCを接触させた後に、引き上げケーブル
引き上げケーブル24によって引き上げることで、シリコン単結晶インゴットSMを育成する。
引き続き、チャンバ21を開放せずに、チャンク管を用いてシリコン原料のリチャージを行う場合には、選別装置1を用いて選別されたシリコン原料をチャンク管を介して坩堝22に充填する。
【0031】
〔実施形態の作用効果〕
上記実施形態によれば、作業板13をシリコンで形成しているため、作業用部材とシリコン原料とが擦れたとしても、シリコン以外の粉が発生することを防止できる。したがって、選別時に発生した粉が仮にシリコン原料に付着しても、シリコン単結晶インゴットSMの炭素濃度の上昇を抑制できる。また、仮に作業板13の欠片がシリコン原料に混入しても、シリコン単結晶インゴットSMの炭素濃度の上昇を抑制できる。
【0032】
特に、作業板13をシリコン単結晶インゴットSMからの切り出しにより製造しているため、規格外品のシリコン単結晶インゴットSMの有効活用を図れる上、当該作業板13から発生したシリコンの粉がシリコン原料に付着しても、シリコン単結晶インゴットSMの品質に及ぼす影響を最小限に抑制できる。さらに、作業板13を容易に製造できる。
作業板13として抵抗率が1300Ω・cm以上のものを用いているため、シリコン単結晶インゴットSMにおける抵抗率の設計値からのずれを抑制できる。
【0033】
位置決め凸部124によって分割作業板131の間に隙間132が形成されるようにするとともに、この隙間132を貫通孔122の上方に位置させることで連通孔15を構成しているため、作業面13A上に発生した粉を当該連通孔15を介して支持板12下方に導くことで、当該粉がシリコン原料に付着することを抑制できる。
特に、支持板12下方の領域を吸引手段で吸引しているため、シリコン原料への粉の付着防止効果を向上できる。
【0034】
[変形例]
なお、本発明は上記実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の改良ならびに設計の変更などが可能である。
【0035】
例えば、作業板13や側壁板14は、多結晶のシリコンにより形成されていてもよいし、シリコン単結晶インゴットSMからの切り出しにより製造されていなくてもよいし、抵抗率が1300Ω・cm未満あるいは7000Ω・cmを超えていてもよい。
作業板13は、複数の分割作業板131で構成されずに、1枚の板状部材で構成されていてもよく、この場合、貫通孔122は不要になる。
本発明の作業用部材、作業用分割部材や支持部材としては、板状ではなくブロック状のものを適用してもよい。
位置決め凸部124は、分割作業板131が隙間なく配置されるように構成されていてもよく、例えば分割作業板131の下面に設けられた凹部に嵌め込まれる凸部であってもよい。また、本発明の位置決め部としては、例えば分割作業板131の下面に設けられた凸部に嵌め込み可能に構成され、支持面121に対して凹む凹部であってもよい。
【0036】
貫通孔122は、支持面121に対して斜めの方向に貫通してもよい。
貫通孔122の代わりに、支持板12を貫通しない溝部を設けてもよい。このような溝部を設ける場合でも、作業面13A上に発生した粉を少なくとも作業板13下方に導くことで、当該粉がシリコン原料に付着することを抑制できる。
貫通孔122を設けなくてもよく、この場合、分割作業板131を隙間なく敷き詰めてもよいし、隙間を空けて敷き詰めてこの隙間に粉を落とすようにしてもよい。
また、吸引孔113および吸引手段を設けずに、貫通孔122を介して、粉を単に支持板12の下方に落下させるだけでもよい。
【実施例】
【0037】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0038】
[実験1:選別装置の効果の確認]
〔実施例1〕
上記実施形態の選別装置1と同様の選別装置を準備した。選別装置において、前後方向に隣り合う分割作業板131の隙間132を2mmまたは3mmとし、この隙間132から作業面13A上に発生した粉を支持板12下方に導くように構成した。
そして、シリコン原料を作業面13A上に載置して、吸引手段の駆動により支持板12の下方領域を8m
3/分の流量で吸引しながら選別作業を行った。
【0039】
次に、選別されたシリコン原料を単結晶引き上げ装置10の坩堝22に充填し、ドーパントとしてボロンを添加したシリコン融液を生成した。そして、直胴部の直径が約200mmのシリコン単結晶インゴットSMを育成した。この育成の際、1本のシリコン単結晶インゴットSMを育成するごとに、坩堝22を構成する石英坩堝を交換した。
次に、シリコン単結晶インゴットSMの直胴部の最ボトム部における炭素濃度を測定し、当該インゴットの引き上げ方向上端を固化率0%、下端を固化率100%とした場合における70%の位置(以下、「70%位置」という)の炭素濃度を偏析を考慮した換算値で算出した。
【0040】
〔比較例1〕
実施例1の選別装置において、分割作業板131の代わりに塩化ビニール製の分割作業板を配置したこと以外は、実施例1と同様の条件でシリコン原料を選別した。
そして、実施例1と同様の条件で95本のシリコン単結晶インゴットSMを育成し、各シリコン単結晶インゴットSMにおける70%位置の炭素濃度を偏析を考慮した換算値で算出した。
【0041】
実施例の炭素濃度は、比較例と比べて0.05×10
16atoms/cm
3低く、18%の低減効果があった。
これは、比較例1では、分割作業板とシリコン原料との擦れにより、分割部材から発生した有機系の粉がシリコン原料に付着し、この有機系の粉の影響で炭素濃度が高くなったと考えられる。一方、実施例1では、分割作業板131とシリコン原料との擦れにより、分割作業板131からはシリコンの粉しか発生しないため、仮に、この粉がシリコン原料に付着しても、比較例1ほど炭素濃度が高くならなかったと考えられる。
以上のことから、シリコンで形成された作業板13上でシリコン原料の選別を行うことで、このシリコン原料を用いて育成されたシリコン単結晶インゴットSMにおける炭素濃度の上昇を抑制できることが確認できた。
【0042】
[実験2:作業用部材の抵抗率とシリコン単結晶インゴットの抵抗率との関係調査]
〔比較例2〕
坩堝22内のシリコン融液Mに、分割作業板131を構成する単結晶のシリコンの欠片が混入した状態で、直胴部の直径が約300mmかつ抵抗率が所定の設計値のシリコン単結晶インゴットSMを育成したときにおける、シリコン単結晶インゴットSMの抵抗率の推定値をシミュレーションにより求めた。そして、設計値と推定値との差分をずれ量として求めた。
欠片の重量をシリコン融液Mの全重量の0.004%とし、ボロンを添加したシリコン単結晶インゴットから得られた欠片の抵抗率を0.02Ω・cmとした。また、育成対象のシリコン単結晶インゴットSMにおける抵抗率の設計値が、10Ω・cm、30Ω・cm、50Ω・cm、100Ω・cm、1000Ω・cm、3000Ω・cm、5000Ω・cmの場合のシミュレーションを行った。
【0043】
〔実施例2〕
欠片の抵抗率を1300Ω・cmにしたこと以外は、比較例2と同じ条件でシミュレーションを行った。
【0044】
〔評価〕
比較例2、実施例2の評価結果を以下の表1に示す。
表1に示すように、比較例2よりも実施例2の方が抵抗率のずれ量が小さく、シリコン単結晶インゴットSMの抵抗率の設計値によらず、ずれ量が2%以下という極めて小さい値になった。
これは、比較例2では、実施例2と比べて欠片の抵抗率が低く、つまり欠片に含まれる抵抗率調整用のドーパントが多いため、このドーパントの影響によって抵抗率の設計値からのずれが大きくなったと考えられる。このような理由から、抵抗率が1300Ω・cm以上であれば、比較例2よりも抵抗率の設計値からのずれが小さくなると考えられる。
以上のことから、抵抗率が1300Ω・cm以上の分割作業板131を用いることで、シリコン単結晶インゴットSMにおける抵抗率の設計値からのずれを抑制できることが確認できた。
【0045】
【表1】
【解決手段】シリコン単結晶インゴットのシリコン原料の選別時にシリコン原料が載置されるシリコン製の作業板13を備え、シリコン原料との擦れによって作業板13やシリコン原料から発生するシリコン粉は、連通孔15を介して、支持板12の下方に導かれ吸引孔113を介して筐体11外部に排出されシリコン粉の付着量が最小限に抑制されるシリコン原料の選別装置。