(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記易黒鉛化炭素は、レーザー回折粒度分布計により測定される体積基準のメジアン粒子径(d50)が、5μm〜30μmであり、窒素吸着測定法より求められる比表面積が、1.0m2/g〜5.0m2/gで、かつ、相対圧0.03までの二酸化炭素吸着量(273K)が、0.01cm3/g〜4.0cm3/gである、請求項1に記載のリチウムイオン電池。
負極活物質として易黒鉛化炭素を含み、前記負極活物質は、熱重量分析における乾燥空気気流中の550℃加熱重量が同25℃重量に対して75%以上であり、同650℃加熱重量が同25℃重量に対して20%以下であるリチウムイオン電池用負極。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面等を参照して説明する。以下の説明は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明がこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更及び修正が可能である。本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲には、「〜」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
1.<正極>
本実施の形態においては、高容量で高入出力のリチウムイオン電池に適用可能な以下に示す正極を有する。本実施の形態の正極(正極板)は、集電体及びその上部に形成された正極合材よりなる。正極合材は、集電体の上部に設けられた少なくとも正極活物質を含む層である。
【0015】
前記正極活物質としては、層状結晶構造のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(以下、NMCという場合もある)を含む。NMCは、高容量であり、且つ安全性にも優れる。
【0016】
NMCの含有量は、電池の高容量化の観点から、正極合材全量に対して65質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。実用的な観点からは98%以下であることが好ましい。
【0017】
前記NMCとしては、以下の組成式(化1)で表されるものを用いることが好ましい。
【0018】
Li
(1+δ)Mn
xNi
yCo
(1−x−y−z)M
zO
2…(化1)
上記組成式(化1)において、(1+δ)は、Li(リチウム)の組成比、xはMn(マンガン)の組成比、yはNi(ニッケル)の組成比、(1−x−y−z)はCo(コバルト)の組成比を示す。zは、元素Mの組成比を示す。O(酸素)の組成比は2である。−0.15<δ<0.15、0.1<x≦0.5、0.6<x+y+z≦1.0、0≦z≦0.1である。元素Mは、これを含む場合、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Al(アルミニウム)、Si(シリコン)、Ga(ガリウム)、Ge(ゲルマニウム)及びSn(錫)よりなる群から選択される少なくとも1種の元素を選択することができる。以下の実施例においては、z=0であるLiMn
1/3Ni
1/3Co
1/3O
2を用いる。
【0019】
次に、正極合材及び集電体について詳細に説明する。正極合材は、正極活物質、結着材等を含有し、集電体上に形成される。その形成方法に制限はないが、例えば、次のように形成される。正極活物質、結着材、及び必要に応じて用いられる導電材、増粘材等の他の材料を乾式で混合してシート状にし、これを集電体に圧着する(乾式法)。また、正極活物質、結着材、及び必要に応じて用いられる導電材、増粘材等の他の材料を分散溶媒に溶解または分散させてスラリーとし、これを集電体に塗布し、乾燥する(湿式法)。
【0020】
正極活物質としては、前述したように、層状結晶構造のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(NMC)が用いられる。これらは粉状(粒状)で用いられ、混合される。
【0021】
NMCの正極活物質の粒子形としては、塊状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、柱状等の形状のものを用いることができる。
【0022】
NMCの正極活物質の粒子のメジアン粒子径(d50)(一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には二次粒子のメジアン粒子径(d50)は、次の範囲で調整可能である。タッブ密度(充填性)、電極の形成時における他の材料との混合性の観点から、1〜30μmが好ましく、3〜25μmがより好ましく、5〜15μmが更に好ましい。なお、メジアン粒子径(d50)は、レーザー回折・散乱法により求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。例えば、レーザー光散乱法を利用した粒子径分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所製、SALD−3000)を用い、d50(メジアン径)として測定される値である。
【0023】
上記下限以上では、タップ密度(充填性)が低下せず、所望のタップ密度が得られやすく、上記上限以下であると、粒子内のリチウムイオンの拡散に時間がかからないため、優れた電池性能が得られる。また、上記上限以下であると、電極の形成時において、結着剤や導電剤などの他の材料との混合性が良好である。
【0024】
よって、この混合物をスラリー化し塗布する際に、均一に塗布できるため、スジを引くなどの問題を生ずることがない。
【0025】
一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合における一次粒子の平均粒径について、その範囲は次のとおりである。範囲の下限は、0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、更に0.08μm以上であることが更に好ましい。特に好ましくは0.1μm以上である。上限は、3μm以下であることが好ましく、2μm以下がより好ましく、更に1μm以下が更に好ましい。特に好ましくは0.6μm以下である。
【0026】
上記上限以下であると、球状の二次粒子が形成しやすくなり、高いタップ密度(充填性)や、高い比表面積により、優れた出力性能等の電池性能が得られる。
【0027】
また、上記下限以上であれば、結晶性が高く、可逆性の高い充放電特性が得られる。
【0028】
NMCの正極活物質の粒子のBET比表面積の範囲は、0.2m
2/g〜4.0m
2/gが好ましく、0.3m
2/g〜2.5m
2/gがより好ましく、0.4m
2/g〜1.5m
2/gが更に好ましい。
【0029】
0.2m
2/g以上であれば、優れた電池性能が得られる。また、4.0m
2/g以下であると、タップ密度が上がりやすく、結着剤及び導電剤などのほかの材料との混合性が良好である。BET比表面積は、BET法により求められた比表面積(単位gあたりの面積)である。
正極用の導電材としては、金属材料、黒鉛(グラファイト)、無定形炭素等の炭素質材料などが挙げられる。なお、これらのうち、1種を単独で用いてもよく、2種以上のものを組み合わせて用いてもよい。
【0030】
正極合材の質量に対する導電材の含有量の範囲は次のとおりである。正極合剤の質量に対する導電剤の含有量の範囲は、0.01〜50質量%が好ましく、0.1〜30質量%がより好ましく、1〜15質量%が更に好ましい。0.1質量%以上であると充分な導電性を得ることができ、50質量%以下であれば電池容量の低下を抑制することができる。
【0031】
正極活物質の結着材としては、特に限定されず、塗布法により正極合材を形成する場合には、分散溶媒に対する溶解性又は分散性が良好な材料が選択される。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド等の樹脂系高分子;SBR(スチレン−ブタジエンゴム)等のゴム状高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物などが挙げられる。なお、これらのうち、1種を単独で用いてもよく、2種以上のものを組み合わせて用いてもよい。
【0032】
正極の安定性の観点から、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)又はポリテトラフルオロエチレン・フッ化ビニリデン共重合体等のフッ素系高分子を用いることが好ましい。
【0033】
正極合材の質量に対する結着材の含有量の範囲は次のとおりである。
【0034】
正極合剤の質量に対する結着剤の含有量の範囲は、0.1〜60質量%が好ましく、1〜40質量%がより好ましく、3〜10質量%が更に好ましい。
結着剤の含有量が0.1質量%以上であると、正極活物質を充分に結着でき、充分な正極活物質の機械的強度が得られ、優れたサイクル特性等の電池性能が得られる。60質量%以下であると、充分な電池容量及び導電性が得られる。
【0035】
上記湿式法又は乾式法を用いて集電体上に形成された層は、正極活物質の充填密度を向上させるため、ハンドプレス又はローラープレス等により圧密化することが好ましい。
【0036】
前記のように圧密化した正極合剤の密度は、入出力特性及び安全性の更なる向上の観点から、2.5〜2.8g/cm
3の範囲が好ましく、2.55〜2.75g/cm
3がより好ましく、2.6〜2.7g/cm
3が更に好ましい。
また、正極合剤の正極集電体への片面塗布量は、エネルギー密度及び入出力特性の観点から、110〜170g/m
2であることが好ましく、120〜160g/m
2であることがより好ましく、130〜150g/m
2であることが更に好ましい。
【0037】
上記したような正極合材の正極集電体への片面の塗布量及び正極合材の密度を考慮すると、正極合材の正極集電体への片面塗布膜厚み([正極の厚み−正極集電体の厚み]/2)は、39〜68μmであることが好ましく、43〜64μmがより好ましく、46〜60μmが更に好ましい。
【0038】
正極用の集電体の材質としては特に制限はないが、中でも金属材料、特にアルミニウムが好ましい。
【0039】
集電体の形状としては特に制限はなく、種々の形状に加工された材料を用いることができる。金属材料については、金属箔、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル等が挙げられるが、中でも、金属薄膜を用いることが好ましい。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。
【0040】
薄膜の厚さは任意であるが、集電体として必要な強度及び良好な可とう性が得られる観点から、1μm〜1mmが好ましく、3〜100μmがより好ましく、5〜100μmが更に好ましい。
【0041】
2.<負極>
本実施の形態においては、高安全で高入出力・長寿命のリチウムイオン電池に適用可能な以下に示す負極を有する。本実施の形態の負極(負極板)は、集電体及びその両面に形成された負極合材よりなる。負極合材の形成方法は特に制限されないが、正極合材と同様に、乾式法や湿式法を用いて形成される。また、上記負極合材は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質を含有する。
【0042】
上記負極活物質としては、易黒鉛化炭素を用いる。易黒鉛化炭素は、800℃以上の熱処理によって黒鉛化する易黒鉛化性を有する。これに対し、難黒鉛化炭素は、2800℃以上の熱処理によっても黒鉛化が進みにくい難黒鉛化性を有する。これは、易黒鉛化炭素が、層状構造を形成しやすい原子配列構成であり、難黒鉛化炭素と比較して、比較的低温の熱処理によって容易に黒鉛構造に変化する性質を有するためである。
【0043】
易黒鉛化炭素は、熱重量測定(TG)により求められる空気気流中550℃の重量が25℃の重量に対して75%以上を有し、650℃の重量が25℃の重量に対して20%以下である。
【0044】
電池性能上の観点から、空気気流中550℃の重量が25℃の重量に対して85%以上を有し、650℃の重量が25℃の重量に対して10%以下であることがより好ましい。更には、空気気流中550℃の重量が25℃の重量に対して95%以上を有し、650℃の重量が25℃の重量に対して5%未満であることが好ましい。
【0045】
空気気流中550℃の重量が25℃の重量に対して75%未満の場合、入出力特性が低下し、650℃の重量が25℃の重量に対して20%を超える場合、寿命特性が低下する。ここでの熱重量測定装置は、TG分析装置(例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、TG/DTA6200)で測定することができる。測定条件は、10mgの試料を採取し、乾燥空気300ml/分の流通下でアルミナをリファレンスとして、昇温速度を1℃/分により測定を行うことができる。
【0046】
具体的には、易黒鉛化性を示す材料は、例えば、800℃以上の不活性雰囲気中で焼成し、ついで、これをジェットミル、振動ミル、ピンミル、ハンマーミル等の既知の方法により粉砕し、5〜30μmにメジアン粒子径を調整することで上記易黒鉛化炭素を得ることができる。
【0047】
上記易黒鉛化性を示す材料としては、特に制限はないが、例えば、熱可塑性樹脂、ナフタレン、アントラセン、フェナントロレン、コールタール、タールピッチ等が挙げられ、好ましくは、石炭系コールタールや石油系タールである。
【0048】
ここで、前記難黒鉛化炭素は、X線広角回折法により得られるC軸方向の面間隔d002値が、0.36nm以上、0.40nm以下であると定義する。
【0049】
前記易黒鉛化炭素は、X線広角回折法により得られるC軸方向の面間隔d002値が、0.34nm以上、0.36nm未満であることが好ましく、0.341nm以上、0.355nm以下であることがより好ましく、0.342nm以上、0.35nm以下であることが更に好ましい。
【0050】
上記易黒鉛化炭素はリチウムイオン電池用の負極活物質としてそのまま使用可能であるが、粉砕条件によっては比表面積が大きいことが予想され、所望の特性が発現しない場合がある。そのため、上記易黒鉛化炭素の表面上に炭素層等を形成させることにより、以下の(1)〜(5)に示す物性に調整することが好ましい。
【0051】
(1)メジアン粒子径(d50)について、その範囲は以下の通りである。5μm〜30μmであることが好ましく、10μm〜25μmであることがより好ましく、更に12μm〜23μmであることが更に好ましい。
【0052】
上記上限以下であると、電極面に凹凸が発生しにくく、電池の短絡を抑制できるとともに、粒子表面から内部へのLiの拡散距離が比較的短くなるためリチウムイオン電池の入出力特性が向上する傾向がある。
また、上記下限以上であれば、比表面積を適正な範囲とすることがdけい、リチウムイオン電池の初回充放電効率が優れるとともに、粒子同士の接触が良く入出力特性に優れる傾向がある。
【0053】
なお、粒度分布は界面活性剤を含んだ精製水に試料を分散させ、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製SALD-3000J)で測定することができ、平均粒径は50%Dとして算出する。
【0054】
(2)窒素吸着測定より求められるBET比表面積(測定温度:77K)について、その範囲は以下の通りである。1.0m
2/g〜5.0m
2/gであることが好ましく、1.3m
2/g〜4.0m
2/gであることがより好ましく、更に1.5m
2/g〜3.0m
2/gであることが更に好ましい。上記下限以上であれば入出力特性に優れ、上記上限以下であると、初期の電池容量の損失が少なく、寿命特性に優れる。
【0055】
なお、窒素吸着での比表面積は、77Kでの窒素吸着測定により得た吸着等温線からBET法を用いて求めることができる。
(3)相対圧0.03までの二酸化炭素吸着量(測定温度:273K)について、その範囲は以下の通りである。0.01cm
3/g〜4.0cm
3/gであることが好ましく、0.05cm
3/g〜1.5cm
3/gであることがより好ましく、更に0.1cm
3/g〜1.2cm
3/gであることが更に好ましい。
【0056】
なお、二酸化炭素吸着での比表面積は、273Kでの二酸化炭素吸着測定により得た吸着等温線からBET法を用いて求めることができる。
上記下限以上であれば入力特性に優れ、上記上限以下であると、初回付加逆容量の損失が少なく、寿命特性に優れる。
したがって、本発明における易黒鉛化炭素は、熱重量測定(TG)より求められる空気気流中550℃の重量が25℃の重量に対して75%以上を有し、650℃の重量が25℃の重量に対して20%以下である核となる易黒鉛化炭素の表面上に炭素層を形成したものであってもよい。
【0057】
上記炭素層は、例えば、熱処理により炭素質を残す有機化合物(炭素前駆体)を上記易黒鉛化炭素の表面に付着させた後、焼成することで形成することができる。易黒鉛化炭素の表面に有機化合物を付着させる方法としては、特に制限されないが、例えば、有機化合物を溶媒に溶解、又は分散させた混合溶液に核となる易黒鉛化炭素を分散・混合した後、溶媒を除去する湿式方式、易黒鉛化炭素と有機化合物を固体同士で混合し、その混合物に力学エネルギーを加え付着させる乾式方式、CVD法等の気相法などが挙げられる。中でも、均一かつ反応系の制御が容易で、易黒鉛化炭素の形状が維持できるという観点から、湿式方式が好ましい。
【0058】
上記有機化合物としては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂等の高分子化合物などを用いることができ、特に制限されないが、熱可塑性の高分子化合物は、液相経由で炭素化し、比表面積の小さな炭素を生成するため、これが易黒鉛化炭素表面を被覆すると負極活物質自身の比表面積が小さくなり、結果としてリチウムイオン電池の初回不可逆容量を小さくすることができるため好ましい。上記熱可塑性の高分子化合物としては、特に制限はされないが、例えば、エチレンヘビーエンドピッチ、原油ピッチ、コールタールピッチ、アスファルト分解ピッチ、ポリ塩化ビニル等を熱分解して生成するピッチ、ナフタレン等を超酸性存在下で重合させて作製される合成ピッチが使用できる。また、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール等の熱可塑性合成樹脂又はデンプン、セルロース等の天然物を用いることもできる。これら有機化合物は、1種単独で又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0059】
また、上記有機化合物を溶解・分散する溶媒としては、特に制限されないが、例えば、有機化合物がピッチ類の場合には、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、ベンゼン、キノリン等を使用することができる。他、有機化合物の種類に応じて、適した溶媒を用いればよい。
【0060】
また、上記溶媒の除去は、常圧、あるいは減圧雰囲気で加熱することによって行うことができる。溶媒除去の際の温度は、雰囲気が大気の場合、200℃以下であることが好ましい。除去温度が200℃を超えると、雰囲気中の酸素と有機化合物及び溶媒(特にクレオソート油を用いた場合)が反応し、焼成によって生成する炭素量が変動、また多孔質化が進み、負極活物質としての本発明の物性範囲を逸脱し、所望の特性を発現できなくなる場合がある。
【0061】
炭素被覆させるための焼成条件は、当該有機化合物の炭素化率を考慮して適宜決定すればよく、特に制限はされないが、非酸化性雰囲気下、700〜1400℃が好ましく、800〜1300℃の範囲であることがより好ましい。焼成温度が700℃未満では、負極活物質として用いた場合、リチウムイオン電池の初回不可逆容量が大きくなる傾向があり、一方、1400℃を超えて加熱しても性能にはほとんど変化がなく、コストの増加を引き起こすのみである。また、非酸化性雰囲気下としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下、真空雰囲気下等が挙げられる。
【0062】
なお、焼成時間は、用いる有機化合物の種類やその付着量によって適宜選択され、特に制限されない。用いる焼成装置についても、加熱機構を有する反応装置であれば特に制限されず、連続法、回分法等での処理が可能な焼成装置などが挙げられる。
【0063】
ここで、焼成処理により得られた易黒鉛化炭素は、個々の粒子が凝集している場合があるため、解砕処理することが好ましく、所望のメジアン粒子径への調整が必要な場合は更に粉砕処理を行ってもよい。
【0064】
また、上記方法によって炭素層を形成した易黒鉛化炭素(被覆されたもの)の熱重量測定結果(TG)が、形成された炭素層(結晶性、被覆量等)の影響により、核となる易黒鉛化炭素(被覆前)の熱重量測定結果と異なる場合がある。所望の特性を得るためには、炭素層が形成された易黒鉛化炭素(被覆されたもの)の熱重量測定結果においても、空気気流中550℃の重量が25℃の重量に対して75%以上を有し、650℃の重量が25℃の重量に対して20%以下であることが好ましい。
【0065】
加えて、表面炭素層の結晶性については、核となる易黒鉛化炭素よりも低いことが好ましい。表面炭素層の結晶性を核となる易黒鉛化炭素よりも低くすることで、リチウムイオン電池用負極活物質と電解液との馴染みが向上し、その結果、寿命特性が向上する傾向にある。このような易黒鉛化炭素を負極活物質として使用した場合、安全性、入出力特性及び寿命特性に優れる。
【0066】
したがって、本発明における易黒鉛化炭素は、核となる易黒鉛化炭素と、該易黒鉛化炭素の表面上に形成された炭素層とを備えてもよい。ここでの炭素層を形成させる方法としては、特に制限はされないが、種々の焼成条件(有機化合物の種類、被覆量、焼成温度等)を適宜選択することで所望する物性の制御が可能であり、その結果として、所望の特性を発現することができる。
【0067】
更に、負極活物質として、黒鉛質、活性炭等の導電性の高い炭素質材料を混合して用いてもよい。
【0068】
混合する場合には、上記黒鉛質材料の混合割合(質量比)は、易黒鉛化炭素/黒鉛質=100/0〜10/90が好ましく、100/0〜50/50がより好ましく、100/0〜80/20が更に好ましい。このような条件の黒鉛質を負極活物質として用いることにより、高エネルギー密度化、高出力化などの電池性能を向上させることができる。また、易黒鉛化炭素と難黒鉛化炭素を併用して用いてもよい。上記難黒鉛化炭素の混合割合(質量比)は、易黒鉛化炭素/難黒鉛化炭素=100/0〜10/90が好ましく、100/0〜50/50がより好ましく、100/0〜70/30が更に好ましい。
【0069】
また、易黒鉛化炭素とは異なる性質の炭素質材料を導電材として添加してもよい。上記性質とは、X線回折パラメータ、メジアン粒子径、アスペクト比、BET比表面積、配向比、ラマンR値、タップ密度、真密度、細孔分布、円形度、灰分量の一つ以上の特性を示す。
【0070】
導電材としては、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、アセチレンブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素などを用いることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上のものを組み合わせて用いてもよい。このように、導電材を添加することにより、電極の抵抗を低減するなどの効果を奏する。
【0071】
負極合剤の重量に対する導電剤の含有量の範囲は、導電性の向上、初期不可逆容量低減の観点から、1〜45重量%の範囲であることが好ましく、2〜42重量%であることがより好ましく、3〜40重量%であることが更に好ましい。
負極用の集電体の材質・形状としては特に制限はないが、加工のし易さとコストの観点から銅箔が好ましい。銅箔には、圧延法により形成された圧延銅箔と、電解法により形成された電解銅箔とがあり、どちらも集電体として用いて好適である。
【0072】
集電体の厚さに制限はないが、厚さが25μm未満の場合、純銅よりも強銅合金を用いることでその強度を向上させることができる。
【0073】
負極合材の集電体への片面塗布量は、エネルギー密度及び入出力特性の観点から、50〜120g/m
2であることが好ましく、60g/m
2〜100g/m
2であることがより好ましい。
【0074】
負極活物質を用いて形成した負極合材の構成に特に制限はないが、負極合剤密度の範囲は0.7〜2g/cm
3あることが好ましく、0.8〜1.9g/cm
3であることがより好ましく、0.9〜1.8g/cm
3であることが更に好ましい。
0.7g/cm
3以上であると、負極活物質間の導電性が向上し電池抵抗の増加を抑制することができ、単位容積あたりの容量を向上できる。2g/cm
3以下であると、初期の付加逆容量の増加、集電体と負極活物質との界面付近への電解液への浸透性の低下による放電特性の劣化を招く恐れが少なくなる。
【0075】
負極活物質の結着材としては、非水系電解液や電極の形成時に用いる分散溶媒に対して安定な材料であれば、特に制限はなく、正極活物質の結着材として用いたものと同様な結着材を用いることができる。結着剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
スラリーを形成するための分散溶媒としては、負極活物質、結着材、及び必要に応じて用いられる導電材や増粘材などを溶解または分散することが可能な溶媒であれば、その種類に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いてもよい。水系溶媒の例としては、水、アルコールと水との混合溶媒等が挙げられ、有機系溶媒の例としては、N−メチルピロリドン(NMP)、シクロヘキサノン、酢酸メチル等が挙げられる。特に水系溶媒を用いる場合、増粘材を用いることが好ましい。この増粘材に併せて分散材等を加え、SBR等のラテックスを用いてスラリー化する。なお、上記分散溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
負極合剤の質量に対する結着剤の含有量の範囲は、0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜15質量%がより好ましく、0.6〜10質量%が更に好ましい。
結着剤の含有量が0.1質量%以上であると、負極活物質を充分に結着でき、充分な負極活物質の機械的強度が得られる。20質量%以下であると、充分な電池容量及び導電性が得られる。
特に、結着材として、SBRに代表されるゴム状高分子を主要成分として用いる場合の負極合材の重量に対する結着材の含有量の範囲は次のとおりである。0.1〜5質量%だることが好ましく、0.5〜3質量%以下であることがより好ましく、0.6質量%〜2質量%であることが更に好ましい。
【0078】
また、結着材として、ポリフッ化ビニリデンに代表されるフッ素系高分子を主要成分として用いる場合の負極合材の重量に対する結着材の含有量の範囲は、1〜15質量%であることが好ましく、2〜10質量%であることがより好ましく、3〜8質量%であることが更に好ましい。
【0079】
増粘材は、スラリーの粘度を調製するために使用される。増粘材としては、特に制限はないが、具体的には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
増粘材を用いる場合、負極合材の重量に対する増粘材の含有量の範囲は、0.1〜5質量%であることが好ましく、0.5〜3質量%以下であることがより好ましく、0.6質量%〜2質量%であることが更に好ましい。
【0081】
3.<電解液>
本実施の形態の電解液は、リチウム塩(電解質)と、これを溶解する非水系溶媒から構成される。必要に応じて、添加材を加えてもよい。
【0082】
リチウム塩としては、リチウムイオン電池用の電解液の電解質として使用可能なリチウム塩であれば特に制限はないが、以下に示す無機リチウム塩、含フッ素有機リチウム塩やオキサラトボレート塩等が挙げられる。
【0083】
無機リチウム塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiSbF
6等の無機フッ化物塩や、LiClO
4、LiBrO
4、LiIO
4等の過ハロゲン酸塩や、LiAlCl
4等の無機塩化物塩等が挙げられる。含フッ素有機リチウム塩やフルオロアルキルフッ化リン酸塩等を用いてもよい。オキサラトボレート塩としては、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート等が挙げられる。
【0084】
これらのリチウム塩は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、溶媒に対する溶解性、電池とした場合の充放電特性、出力特性、サイクル特性等を総合的に判断すると、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)が好ましい。
【0085】
電解液中の電解質の濃度に特に制限はないが、電解質の濃度範囲は0.5mol/L〜2mol/Lであることが好ましく、0.6mol/L〜1.8mol/Lであることがより好ましく、0.7mol/L〜1.8mol/Lであることが更に好ましい。
【0086】
濃度が0.5mol/L以上であると、充分な電解液の電気伝導率が得られる。また、濃度が2mol/L以下であると、粘度が高くなりすぎないため、電気伝導度の低下を抑制できる。
非水系溶媒としては、リチウムイオン電池用の電解質の溶媒として使用可能な非水系溶媒であれば特に制限はないが、次の環状カーボネート、鎖状カーボネート、鎖状エステル、環状エーテル及び鎖状エーテル等が挙げられる。
【0087】
例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジアルキルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−n−プロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル−n−プロピルカーボネート、エチル−n−プロピルカーボネート、酢酸メチル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジメトキシメタン等が挙げられる。
【0088】
これらは単独で用いても、2種類以上を併用してもよいが、2種以上の化合物を併用した混合溶媒を用いることが好ましく、環状カーボネート類の高誘電率溶媒と、鎖状カーボネート類や鎖状エステル類等の低粘度溶媒とを併用するのが好ましい。好ましい組み合わせの一つは、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類とを主体とする組み合わせである。中でも、非水系溶媒に占める環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との合計が、80容量%以上であることが好ましく、85容量%以上であることがより好ましく、90容量%以上であることが更に好ましい。かつ環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との合計に対する環状カーボネート類の容量が次の範囲であるものが好ましい。
【0089】
環状カーボネート類は、5〜50容量%であることが好ましく、10〜35容量%であることがより好ましく、15〜30容量%であることが更に好ましい。このような非水系溶媒の組み合わせを用いることで、電池のサイクル特性や高温保存特性(特に、高温保存後の残存容量及び高負荷放電容量)が向上する。
【0090】
添加材としては、リチウムイオン電池の電解液用の添加材であれば特に制限はないが、例えば、硫黄又は窒素及びを含有する複素環化合物、環状カルボン酸エステル、フッ素含有環状カーボネート、その他の分子内に不飽和結合を有する化合物が挙げられる。電池の長寿命化の観点からは、フッ素含有環状カーボネート、その他の分子内に不飽和結合を有する化合物が好ましい。
【0091】
上記添加材以外に、求められる機能に応じて過充電防止材、負極皮膜形成材、正極保護材、高入出力材等の他の添加材を用いてもよい。
【0092】
上記他の添加材により、過充電による異常時の急激な電極反応の抑制、高温保存後の容量維持特性、サイクル特性の向上、入出力特性の向上等を図ることができる。
【0093】
4.<セパレータ>
セパレータは、正極及び負極間を電子的には絶縁しつつもイオン透過性を有し、かつ、正極側における酸化性及び負極側における還元性に対する耐性を備えるものであれば特に制限はない。このような特性を満たすセパレータの材料(材質)としては、樹脂、無機物、ガラス繊維等が用いられる。
【0094】
樹脂としては、オレフィン系ポリマー、フッ素系ポリマー、セルロース系ポリマー、ポリイミド、ナイロン等が用いられる。電解液に対して安定で、保液性の優れた材料の中から選ぶのが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを原料とする多孔性シートまたは不織布等を用いることが好ましい。
【0095】
無機物としては、アルミナや二酸化珪素等の酸化物類、窒化アルミニウム、窒化珪素等の窒化物類、硫酸バリウム等の硫酸塩類などが用いられる。例えば、繊維形状又は粒子形状の上記無機物を、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜形状の基材に付着させたものをセパレータとして用いることができる。薄膜形状の基材としては、孔径が0.01〜1μm、厚さが5〜50μmのものが好適に用いられる。
【0096】
5.<その他の構成部材>
リチウムイオン電池のその他の構成部材として、開裂弁を設けてもよい。開裂弁が開放することで、電池内部の圧力上昇を抑制でき、安全性を向上させることができる。
【0097】
また、温度上昇に伴い不活性ガス(例えば、二酸化炭素等)を放出する構成部を設けてもよい。このような構成部を設けることで、電池内部の温度が上昇した場合に、不活性ガスの発生により速やかに開裂弁を開けることができ、安全性を向上させることができる。上記構成部に用いられる材料としては、炭酸リチウム、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネートが好ましい。
【0098】
(リチウムイオン電池の放電容量)
本発明のリチウムイオン電池の放電容量は、30Ah以上、99Ah未満であるが、安全性を担保しつつ、高入出力で、高エネルギー密度という観点から、30Ah、以上99Ah未満であることが好ましく、55Ah以上、95Ah未満であることがより好ましい。
【0099】
(リチウムイオン電池の負極と正極の容量比)
本発明において、負極と正極の容量比(負極容量/正極容量)は、安全性とエネルギー密度の観点から1以上、1.3未満であることが好ましく、1.05〜1.25がより好ましく、1.1〜1.2が更に好ましい。1.3以上だと充電時に正極電位が4.2Vよりも高くなることがあるため、安全性が低下する可能性がある。(このときの正極電位は対Li電位をいう)
ここで、負極容量とは、[負極の放電容量]を示し、正極容量とは、[正極の初回充電容量−負極又は正極のどちらか大きい方の不可逆容量]を示す。ここで、[負極の放電容量]とは、負極活物質に挿入されているリチウムイオンが脱離されるときに充放電装置で算出されるものと定義する。また、[正極の初回充電容量]とは、正極活物質からリチウムイオンが脱離されるときに充放電装置で算出されるものと定義する。
【0100】
負極と正極の容量比は、例えば、「リチウムイオン電池の放電容量/負極の放電容量」からも算出することができる。リチウムイオン電池の放電容量は、例えば、4.2V、0.1〜0.5C、終止時間を2〜5時間とする定電流定電圧(CCCV)充電を行った後、0.1〜0.5Cで2.7Vまで定電流(CC)放電したときの条件で測定できる。負極の放電容量は、前記リチウムイオン電池の放電容量を測定した負極を所定の面積に切断し、対極としてリチウム金属を用い、電解液を含浸させたセパレータを介して単極セルを作製し、0V、0.1C、終止電流0.01Cで定電流定電圧(CCCV)充電を行った後、0.1Cで1.5Vまで定電流(CC)放電したときの条件で所定面積当たりの放電容量を測定し、これを前記リチウムイオン電池の負極として用いた総面積に換算することで算出できる。この単極セルにおいて、負極活物質にリチウムイオンが挿入される方向を充電、負極活物質に挿入されているリチウムイオンが脱離する方向を放電、と定義する。尚、Cとは“電流値(A)/電池の放電容量(Ah)”を意味する。
【0101】
(実施例)
[正極板の作製]
正極板の作製を以下のように行った。正極活物質として、層状結晶構造のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(NMC)(BET比表面積が0.4m
2/g、メジアン粒子径(d50)が6.5μm)を用いた。上記正極活物質に、導電材として鱗片状の黒鉛(平均粒径:20μm)及びアセチレンブラック(商品名:HS−100、平均粒径48nm(電気化学工業株式会社カタログ値)、電気化学工業株式会社)と、結着材としてポリフッ化ビニリデンとを順次添加し、混合することにより正極合材を得た。質量比は、活物質:導電材:結着材=90:5:5とした。更に上記混合物に対し、分散溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を添加し、混練することによりスラリーを形成した。このスラリーを正極用の集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に実質的に均等かつ均質に塗布した。その後、乾燥処理を施し、所定密度までプレスにより圧密化した。正極合材密度は2.8g/cm
3とし、正極合材の片面塗布量140g/m
2とした。
【0102】
なお、実施例中では、正極活物質として、組成式LiMn
1/3Ni
1/3Co
1/3O
2で表されるものを用いた。
【0103】
[負極板の作製]
負極板の作製を以下のように行った。負極活物質としては、易黒鉛化炭素は、表1に示す物性を有する材料を用いた(実施例1〜12、比較例1〜3)。
【0104】
具体的には、実施例1〜3は炭素前駆体にポリビニルアルコールを用い、易黒鉛化炭素の表面に2〜6%の炭素が被覆された負極活物質を用いた。実施例4〜12は炭素前駆体にピッチを用い、易黒鉛化炭素の表面に1〜8%の炭素が被覆された負極活物質を用いた。
【0105】
比較例1〜3では、炭素前駆体にポリビニルアルコールを用い、易黒鉛化炭素の表面に10〜12%の炭素が被覆された負極活物質を用いた。
【0106】
比較例4に用いた難黒鉛化炭素は、メジアン粒子径(d50))が10μm、比表面積が5.1m
2/g、二酸化炭素吸着量が4.1cm
3/g、R値(IG/ID)が0.96の物性を有する。
【0107】
比較例5に用いた黒鉛は、メジアン粒子径(d50))が22μm、比表面積が2.3m
2/g、二酸化炭素吸着量が0.36cm
3/g、R値(IG/ID)が1.85の物性を有する人造黒鉛を用いた。
【0108】
これら負極活物質に結着材としてポリフッ化ビニリデンを添加した。重量比は、活物質:結着材=92:8とした。これに分散溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を添加し、混練することによりスラリーを形成した。このスラリーを負極用の集電体である厚さ10μmの圧延銅箔の両面に実質的に均等かつ均質に所定量塗布した。負極合材密度は、実施例1〜12及び比較例1〜3について1.15g/cm
3とした。比較例4、5の負極合材密度は、それぞれ1.15g/cm
3、1.40g/cm
3とした。
[電池の作製]
上記正極板と上記負極板とを、これらが直接接触しないように厚さ30μmのポリエチレン製のセパレータを挟んで捲回する。このとき、正極板のリード片と負極板のリード片とが、それぞれ捲回群の互いに反対側の両端面に位置するようにする。また、正極板、負極板、セパレータの長さを調整し、捲回群径は65±0.1mmとした。
【0109】
次いで、
図1に示すように、正極板から導出されているリード片9を変形させ、その全てを正極側の鍔部7の底部付近に集合し、接触させる。正極側の鍔部7は、捲回群6の軸芯のほぼ延長線上にある極柱(正極外部端子1)の周囲から張り出すよう一体成形されており、底部と側部とを有する。その後、超音波溶接によりリード片9を鍔部7の底部に接続し固定する。負極板から導出されているリード片9と負極側の鍔部7の底部も同様に接続し固定する。この負極側の鍔部7は、捲回群6の軸芯のほぼ延長線上にある極柱(負極外部端子1’)周囲から張り出すよう一体成形されており、底部と側部とを有する。
【0110】
その後、粘着テープを用い、正極外部端子1側の鍔部7の側部及び負極外部端子1’の鍔部7の側部を覆い、絶縁被覆8を形成した。同様に、捲回群6の外周にも絶縁被覆8を形成した。例えば、この粘着テープを、正極外部端子1側の鍔部7の側部から捲回群6の外周面に亘って、更に、捲回群6の外周面から負極外部端子1’側の鍔部7の側部に亘って、何重にも巻くことにより絶縁被覆8を形成する。
【0111】
絶縁被覆(粘着テープ)8としては、基材がポリイミドで、その片面にメタアクリレート系粘着材を塗布した粘着テープを用いた。捲回群6の最大径部がステンレス製の電池容器5内径よりも僅かに小さくなるように絶縁被覆8の厚さ(粘着テープの巻き数)を調整し、捲回群6を電池容器5内に挿入した。なお、電池容器5の外径は67mm、内径は66mmのものを用いた。
【0112】
次いで、
図1に示すように、セラミックワッシャ3’を、先端が正極外部端子1を構成する極柱及び先端が負極外部端子1’を構成する極柱にそれぞれ嵌め込む。セラミックワッシャ3’は、アルミナ製であり、電池蓋4の裏面と当接する部分の厚さが2mm、内径16mm、外径25mmである。次いで、セラミックワッシャ3を電池蓋4に載置した状態で、正極外部端子1をセラミックワッシャ3に通し、また、他のセラミックワッシャ3を他の電池蓋4に載置した状態で、負極外部端子1’を他のセラミックワッシャ3に通す。セラミックワッシャ3は、アルミナ製であり、厚さ2mm、内径16mm、外径28mmの平板状である。
【0113】
その後、電池蓋4の周端面を電池容器5の開口部に嵌合し、双方の接触部の全域をレーザー溶接する。このとき、正極外部端子1及び負極外部端子1’は、それぞれ電池蓋4の中心にある穴(孔)を貫通して電池蓋4の外部に突出している。電池蓋4には、電池の内圧上昇に応じて開裂する開裂弁10が設けられている。なお、開裂弁10の開裂圧は、13〜18kgf/cm
2(1.27〜1.77MPa)とした。
【0114】
次いで、
図1に示すように、金属ワッシャ11を、正極外部端子1及び負極外部端子1’にそれぞれ嵌め込む。これによりセラミックワッシャ3上に金属ワッシャ11が配置される。金属ワッシャ11は、ナット2の底面より平滑な材料よりなる。
【0115】
次いで、金属製のナット2を正極外部端子1及び負極外部端子1’にそれぞれ螺着し、セラミックワッシャ3、金属ワッシャ11、セラミックワッシャ3’を介して電池蓋4を鍔部7とナット2と間で締め付けることにより固定する。このときの締め付けトルク値は70kgf・cm(6.86N・m)とした。なお、締め付け作業が終了するまで金属ワッシャ11は回転しなかった。この状態では、電池蓋4の裏面と鍔部7との間に介在させたゴム(EPDM)製のOリング12の圧縮により電池容器5の内部の発電要素は外気から遮断されている。
【0116】
その後、電池蓋4に設けられた注液口13から電解液を所定量電池容器5内に注入し、その後、注液口13を封止することにより円筒形リチウムイオン電池20を完成させた。
【0117】
電解液としては、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートを、それぞれの体積比2:3:2で混合した混合溶液中へ、6フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を1.2mol/L溶解し、添加剤としてビニレンカーボネート(VC)を0.8質量%添加したものを用いた。
[電池特性(放電容量、入出力特性及びサイクル寿命特性)の評価]
(放電容量)
25℃の環境下において、定電流定電圧(CCCV)充電方式を用いて測定を行った(以下、CCCV充電という)。CCCV充電とは、一定の電流値(定電流)で充電を行い、規定の電圧値に達した時点で定電圧充電に切替えて所定時間充電を継続する方法である。
【0118】
具体的には、0.5CAの電流値で充電を開始し、4.2Vに達した時点で、4.2Vを維持するように3時間充電を継続した後に終了した。充電後に30分間の休止を入れた後、0.5Cの定電流放電を行い、2.7Vに達した時点で終了とした。
【0119】
これを3サイクル実施し、3サイクル目の充電容量を「電流値0.5CAにおける充電容量」、3サイクル目の放電容量を「電流値0.5CAにおける放電容量」とした。
(出力特性)
出力特性も同様にCCCV充電方式を用いた。上記3サイクル目の放電容量を測定後、0.5CAの電流値で充電を開始し、4.2Vに達した時点で、その電圧を維持するように3時間充電を継続した後に終了した。次いで、3CAの電流値で放電し、2.7Vに達した時点で放電を終了した。この時の放電容量を「電流値3Cにおける放電容量」とし、以下の式により出力特性を算出した。この後、0.5CAの電流値で終止電圧2.7Vの定電流放電を行った。
【0120】
出力特性(%)=(電流値3CAにおける放電容量/電流値0.5CAにおける放電容量)×100
(入力特性)
入力特性は、上記出力特性を測定後、CCCV充電方式を用いて、3CAの電流値で充電を行い、4.2Vに達したのち、4.2Vを維持するように3時間充電を継続した後に終了した。この時の充電容量を「電流値3Cにおける充電容量」とし、以下の式により入力特性を算出した。この後、0.5CAの電流値で終止電圧2.7Vの定電流放電を行った。
【0121】
入力特性(%)=(電流値3CAにおける充電容量/電流値0.5CAにおける充電容量)×100
(サイクル寿命特性)
電池サイクル試験として、上記3サイクル目の放電容量を測定後、以下に示す試験を行った。25℃の恒温槽中において、充電条件としては、CCCV充電方式、電流値1CAで充電を行い、電圧4.2Vに達したのち、4.2Vを維持するように3時間充電を継続した後に終了した。放電条件としては、CC放電方式、電流値1CA、電圧2.7Vで放電を行った。
【0122】
このような充電−放電サイクルを1サイクルとし、300サイクル繰り返したときの1サイクル目からの放電容量維持率を算出した。なお、充電と放電の間には、15分間の休止時間を設けた。
(安全性)
安全性は釘刺し試験により確認した。まず、25℃の環境下において4.2〜2.7Vの電圧範囲で、0.5Cの電流値による充放電サイクルを2回繰り返した。更に、4.2Vまで電池を充電後、直径5mmの釘を、速度1.6mm/秒で電池(セル)の中央部に刺し込み、電池容器の内部において正極と負極とを短絡させた。この際の電池の外観の変化を確認した。具体的には、電池容器の破損の有無を確認した。電池容器の破損には、亀裂、膨張や発火を含むものとする。
【0123】
電池容器の破損がないもの(釘打ち部を除く)については“A”とし、電池容器の破損が生じたものについては“B”として評価した。
【0124】
上記の実施例及び比較例の結果を以下の表1、表2に示した。
【0127】
本発明の実施例1〜12に示したように、正極活物質に層状結晶構造のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物、負極活物質に易黒鉛化炭素を含み、かつ易黒鉛化炭素が、熱重量測定で、空気気流中550℃の重量が25℃の重量に対して75%以上を有し、650℃の重量が25℃の重量に対して20%以下である場合、入力特性は90%以上、出力特性は80%以上を超えることが分かる。更に、サイクル寿命特性、安全性においても優れた結果を得ることができる。
【0128】
これに対し、易黒鉛化炭素の中でも、熱重量測定で、空気気流中550℃の重量が25℃の重量に対して75%未満、若しくは650℃の重量が25℃の重量に対して20%を超える場合(比較例1〜3)、安全性は良好なものの、入力特性とサイクル寿命特性が低下することがわかった。
【0129】
実施例1〜12と比較例1〜3を比べると、実施例の比表面積は大きく、CO
2吸着量の数値は低くなることが分かる。これは、比表面積が大きいほど電解液との接触面積が増えるため、反応速度を促し、また、CO
2吸着量が小さければ活物質表面への皮膜形成及び電解液の分解が抑制されるため、入出力特性及び寿命向上に寄与したと推測される。
【0130】
また、負極活物質に難黒鉛化炭素を用いた比較例4の電池では、出力特性及びサイクル寿命特性が低下することがわかった。難黒鉛化炭素は不可逆容量が大きくなりやすいため、出力特性及びサイクル寿命が低下したと考えられる。
【0131】
更に、負極活物質に黒鉛を用いた比較例5の電池では、電池容器の破裂が生じ、安全性が劣ることがわかった。黒鉛は非晶質炭素よりもリチウムイオンの出入りに伴う体積変動が大きいため、炭素構造が崩壊しやすくなり安全性の低下、サイクル寿命特性の低下が生じたと見られる。