特許第6376433号(P6376433)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376433
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】養生方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 40/02 20060101AFI20180813BHJP
【FI】
   C04B40/02
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-56961(P2014-56961)
(22)【出願日】2014年3月19日
(65)【公開番号】特開2015-178435(P2015-178435A)
(43)【公開日】2015年10月8日
【審査請求日】2016年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】高山 和久
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 徹
(72)【発明者】
【氏名】林口 幸子
(72)【発明者】
【氏名】小林 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕明
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−091580(JP,A)
【文献】 特開平11−090918(JP,A)
【文献】 内川 浩,加熱養生における超速硬セメントの水和,セメント技術年報,日本,社団法人セメント協会,1975年,XXIX,第61-66
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超速硬セメントと骨材と水とが混練されて形成される混練物の養生方法であって、
形成された直後の混練物を加熱することなく養生する前置き工程と、該前置き工程の後であって前記混練物を形成した直後から180分を経過するまでの間に、混練物を加熱する加熱工程とを備えており、
前記前置き工程における養生時間は、30分以上60分以下であり、前記加熱工程における加熱温度は、100℃以上120℃以下であることを特徴とする養生方法。
【請求項2】
水/セメント比が30%以上45%以下であることを特徴とする請求項1に記載の養生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超速硬セメントと骨材と水とが混練されてなる混練物の養生方法に関し、特に、経時的な強度の上昇を抑制するものである。
【背景技術】
【0002】
セメントと骨材と水とが混練されてなる混練物を硬化させて硬化体を形成する際に、該硬化体において、早期に所定の強度を発現させることが要求される場合がある。例えば、コンクリート橋や鋼橋(具体的には、自動車等の車輪の荷重が繰返し直接作用すると共に、静定荷重でなく動的荷重が作用することになるジョイント部分等)の補修や、舗装道路の補修において車両の通行止めを伴う場合等には、渋滞の発生による社会活動の停滞を招く虞があるため、早期に硬化して所定の設計基準強度を満たすように設計されたコンクリートが使用されている。
【0003】
斯かるコンクリートとしては、超速硬セメントと骨材と水とが混練されてなる混練物が硬化することで形成されるもの(以下、超速硬コンクリートとも記す)が知られている。該超速硬コンクリートは、極若材齢において急速に所定の設計基準強度を発現するものであると共に、その後においても経時的に強度が上昇するものである。このように、高強度になった超速硬コンクリートは、耐荷性能や耐久性において、何ら問題を生じるものではないが、施工後、超速硬コンクリートを解体・除去する必要が生じた場合(例えば、補修したジョイント部分を再度補修、交換したりする場合)、強度が高くなり過ぎて、騒音・振動が大きくなり,周辺環境や住民に及ぼす悪影響が大きい。
【0004】
斯かる問題を解消するべく、以下のような提案がなされている。例えば、上記のような超速硬コンクリートに代えて、ポリマーコンクリートやレジンコンクリートを使用することが提案されているが、斯かるコンクリートは、比較的費用が高く、しかも、上記のような騒音や振動を大きく減じることは困難である。また、他の提案としては、超速硬コンクリートに使用される骨材として、軽量骨材を用いることで、超速硬コンクリートの引張り強度を低減し、上記のような騒音や振動を低減する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−155093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように軽量骨材を用いる場合、軽量骨材中の水分量によって混練物の流動性(フレッシュ性状)に変化が生じるため、コンクリートの性状を安定させるために軽量骨材の水分管理、例えば、軽量骨材から水分が蒸発したり滴り落ちたりしないように軽量骨材をコンテナバック等に入れて厳重に保管する等を行う必要がある。
【0007】
そこで、本発明は、超速硬セメントと骨材と水とが混練されてなる混練物が硬化することで形成される硬化体において、経時的な強度の上昇を抑制することができる養生方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る養生方法は、超速硬セメントと骨材と水とが混練されて形成される混練物の養生方法であって、形成された直後の混練物を加熱することなく養生する前置き工程と、該前置き工程の後であって前記混練物を形成した直後から180分を経過するまでの間に、混練物を加熱する加熱工程とを備えており、前記前置き工程における養生時間は、30分以上60分以下であり、前記加熱工程における加熱温度は、100℃以上120℃以下であることを特徴とする。
【0009】
斯かる構成によれば、超速硬セメントを用いることで、混練物が早期に硬化すると共に、所定の強度を発現するため、所定強度の硬化体を迅速に得ることができる。また、混練物を形成した直後から120分以内に混練物の加熱を開始して、混練物を形成した直後から180分を経過するまで加熱状態を保持することで、混練物が硬化する過程で内部にクラックが形成されたりするため、加熱を行わない場合に比べて、硬化体の長期強度(例えば、材齢7日以降の圧縮強度)を低減することができる。
【0011】
斯かる構成によれば、加熱工程における加熱温度を上記の範囲とすることで、硬化体の長期強度が低下し過ぎてしまうのを防止することができる。つまり、上記の範囲に加熱温度を調節することで、長期強度を調節することができる。
【0012】
形成された直後の混練物を加熱することなく養生する前置き工程を備えており、該前置き工程の後に前記加熱工程が行われる。
【0013】
斯かる構成によれば、前置き工程を行うことで、混練物が硬化するまでに加熱工程を行う時間が減少するため、硬化体の長期強度が低下し過ぎてしまうのを防止することができる。つまり、前置き工程を行うことで、硬化体の長期強度を調節することができる。
【0014】
水/セメント比が30%以上45%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、超速硬セメントと骨材と水とが混練されてなる混練物が硬化することで形成される硬化体において、経時的な強度の上昇を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について説明する。
【0017】
本願発明に係る養生方法は、超速硬セメントと骨材と水とが混練されて形成される混練物を硬化させる際に用いられる。具体的には、混練物を所定時間内に加熱する加熱工程を備えるものである。
【0018】
超速硬セメントとしては、カルシウムアルミネートを含有するものが挙げられる。好ましくは、カルシウムアルミネートを20質量%以上60質量%以下、ポルトランドセメントを20質量%以上70質量%以下、II型無水石膏を0.5質量%以上30質量%以下、消石灰を2質量%以上10質量%以下、炭酸リチウムを0.1質量%以上3.0質量%以下含有するものが挙げられる。また、SO3 /AL23 のモル比が1.4以上0.8以下であり、前記炭酸リチウムの平均粒径が10μm以下でかつ結晶度指数が半値幅で0.20以上であるものが挙げられる。更に、超速硬セメントとしては、材齢3時間の圧縮強度(JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に基づくもの、又は、JSCE−G505「円柱供試体を用いたモルタルまたはセメントペーストの圧縮試験方法(案)」に基づくもの)が20N/mm2 以上となるものを用いることが好ましい。
【0019】
骨材としては、細骨材および/又は粗骨材を用いることができる。細骨材としては、特に限定されるものではないが、例えば、砂を用いることが好ましい。一方、粗骨材としては、川砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材を用いることが好ましい。また、上記細骨材および粗骨材は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
また、骨材として細骨材のみを用いる場合、細骨材は、超速硬セメント100質量部に対して、75質量部以上300質量部以下であることが好ましく、100質量部以上300質量部以下であることがより好ましい。また、骨材として細骨材および粗骨材を用いる場合、超速硬セメント100質量部に対して、細骨材が130質量部以上250質量部以下であることが好ましく、155質量部以上230質量部以下であることがより好ましく、粗骨材が130質量部以上300質量部以下であることが好ましく、150質量部以上260質量部以下であることがより好ましい。
【0021】
上記のような超速硬セメントおよび骨材を水と混練して混練物を形成する際の水/セメント比としては、特に限定されるものではないが、所望する流動性(フレッシュ性状)および形成される硬化体の圧縮強度に応じて適宜設定されることが好ましく、具体的には、30%以上45%以下であることが好ましく、32%以上40%以下であることがより好ましい。なお、混練物中には、各種の混和剤や混和材が含有されてもよい。該混和剤としては、高性能減水剤、AE剤、AE減水剤、高性能AE減水剤等が挙げられる。前記高性能減水剤としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等が挙げられる。該混和材としては、膨張材や高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム等の粉末混和材に加え、補強繊維等が挙げられる。前記補強繊維としては、鋼繊維、ポリプロピレン繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等が挙げられる。
【0022】
本願発明に係る養生方法では、上記のような超速硬セメントと骨材と水とが混練されて形成される混練物を養生する際に、混練物を加熱する加熱工程が行われる。具体的には、該加熱工程では、混練物が形成された直後から180分経過するまでの間に、混練物が所定の温度に加熱される。加熱工程の温度としては、40℃以上120℃以下であることが好ましく、60℃以上100℃以下であることがより好ましい。加熱工程の時間としては、特に限定されるものではなく、例えば、混練物を形成した直後を0分として、180分間であってもよく、混練物を形成した直後から後述する前置き工程を所定時間行い、その後、180分が経過するまでの時間であってもよい。
【0023】
混練物を加熱する手段としては、特に限定されるものではなく、混練物の施工状態に応じて適宜選択することができる。例えば、ロードヒーターやジェットヒーター、加温シート等を用いることができる。ロードヒーターやジェットヒーターのような加熱手段を用いて混練物を加熱する際には、不燃性の保温シートで混練物を覆った状態で加熱してもよく、混練物を加熱した後に混練物を保温シートで覆うようにしてもよい。
【0024】
また、本発明の養生方法では、加熱工程が行われる前に、形成された直後の混練物を加熱することなく(具体的には、常温で)養生する前置き工程を更に備えてもよい。該前置き工程の時間としては、加熱工程の時間との合計が180分となるように調節されることが好ましい。具体的には、前置き工程の時間としては、混練物を形成した直後を0分として、30分以上120分以下であることが好ましく、30分以上60分以下であることがより好ましい。
【0025】
また、本発明の養生方法では、加熱工程の温度や前置き工程の時間(即ち、加熱工程の時間)の少なくとも一方を調節することで、混練物が硬化して形成される硬化体の長期強度(例えば、材齢7日以降の圧縮強度)が所望する強度に調節するようにしてもよい。
【0026】
以上のように、本発明に係る養生方法によれば、超速硬セメントと骨材と水とが混練されてなる混練物が硬化することで形成される硬化体において、経時的な強度の上昇を抑制することができる。
【0027】
即ち、超速硬セメントを用いることで、混練物が早期に硬化すると共に、所定の強度を発現するため、所定強度の硬化体を迅速に得ることができる。また、混練物を形成した直後から120分以内に混練物の加熱を開始して、混練物を形成した直後から180分を経過するまで加熱状態を保持することで、混練物が硬化する過程で内部にクラックが形成されたりするため、加熱を行わない場合に比べて、硬化体の長期強度(例えば、材齢7日以降の圧縮強度)を低減することができる。
【0028】
また、加熱工程における加熱温度を上記の範囲とすることで、硬化体の長期強度が低下し過ぎてしまうのを防止することができる。つまり、上記の範囲に加熱温度を調節することで、長期強度を調節することができる。
【0029】
また、前置き工程を行うことで、混練物が硬化するまでに加熱工程を行う時間が減少するため、硬化体の長期強度が低下し過ぎてしまうのを防止することができる。つまり、前置き工程を行うことで、硬化体の長期強度を調節することができる。
【0030】
なお、本発明に係る養生方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、上記した複数の実施形態の構成や方法等を任意に採用して組み合わせてもよく(1つの実施形態に係る構成や方法等を他の実施形態に係る構成や方法等に適用してもよく)、さらに、下記する各種の変更例に係る構成や方法等を任意に選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよいことは勿論である。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0032】
1.使用材料
(1)超速硬セメント:マイルドジェットスーパーセメント(住友大阪セメント社製 密度2.98g/cm3
(2)細骨材:川砂(岐阜県揖斐川産 密度2.60g/cm3 F.M.=2.15)
(3)高性能減水剤:マイティー150(花王社製)
【0033】
2.配合と養生条件
上記の使用材料を用いて、下記表1に示す配合で混練物を作製し、下記表2に示す養生条件(実施例1〜、比較例2〜21)で、混練物の養生を行い、硬化体を得た。なお、混練物の養生は、φ5×10cmの鋼製型枠に混練物を入れた状態で行った。養生の際には、コンクリート打ち込み面の乾燥を防ぐため、サランラップ等の耐熱性のシートでコンクリート打ち込み面を覆った。混練物の加熱は、あらかじめ槽内が設定温度に保たれた熱風循環式乾燥器(谷藤機械工業社製TG−112)を用いた。
前置き工程は、20℃の恒温槽内に混練物を配置し、所定時間、養生することで行われた。前置き工程の時間は、混練物を作製した直後(0分とする)から起算した時間である。加熱工程を終了した時間(加熱を止めた時間)は、各養生条件とも共通で、混練物を作製した直後から180分を経過した時である。つまり、加熱工程は、前置き工程が0分のとき(つまり、前置き工程を行わない場合)には、混練物を作製した直後から180分間行われ、前置き工程が行われた場合には、前置き工程の時間が経過した直後から180分迄行われた。
なお、加熱工程を行わない場合を比較例1とした。具体的には、作製された直後の混練物を20℃の恒温槽内に180分間養生する養生条件を比較例1とした。


【0034】
各実施例および比較例の養生条件で得られた硬化体に対して、20℃の環境下で、JSCE−G505「円柱供試体を用いたモルタルまたはセメントペーストの圧縮試験方法(案)」に規定する方法で圧縮強度を測定した。測定結果は、下記表2に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
<まとめ>
表2を見ると、比較例よりも他の比較例及び各実施例の方が長期強度(材齢7日及び/又は材齢28日の圧縮強度)が低いことが認められる。つまり、混練物を養生する際に、加熱工程を行うことで、長期強度が必要以上に高くなるのを防止することができる。特に、加熱工程の温度が100℃以下であることで、材齢3時間の強度を早期に高く(例えば、圧縮強度を20N/mm以上に)することができる。更に、前置き工程を行わない場合、又は、前置き工程を30分行う場合には、加熱工程の温度が80℃以上100℃以下であることで、長期強度比較例1の長期強度よりも更に低くすることができる。また、前置き工程を60分行う場合には、加熱工程の温度が100℃程度であることで、長期強度比較例1の長期強度よりも更に低くすることができる。