特許第6376473号(P6376473)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6376473磁性シート、それを用いた電子機器、および、その製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376473
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】磁性シート、それを用いた電子機器、および、その製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/153 20060101AFI20180813BHJP
   H01F 1/16 20060101ALI20180813BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20180813BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   H01F1/153 108
   H01F1/16
   H05K9/00 W
   H05K9/00 Q
   H01F41/02 Z
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-508700(P2015-508700)
(86)(22)【出願日】2014年3月27日
(86)【国際出願番号】JP2014058879
(87)【国際公開番号】WO2014157526
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2017年2月22日
(31)【優先権主張番号】特願2013-68373(P2013-68373)
(32)【優先日】2013年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 光弘
(72)【発明者】
【氏名】三木 裕彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 真貴
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−112830(JP,A)
【文献】 特開平04−275409(JP,A)
【文献】 特開2012−252660(JP,A)
【文献】 特開2007−123575(JP,A)
【文献】 特開2011−049406(JP,A)
【文献】 特開2011−211337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/153
H01F 1/16
H01F 41/02
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器に用いられ、地磁気センサを用いた電子コンパスが近接して配置される磁性シートであって、
前記磁性シートは、樹脂フィルム上に粘着層を介してFe基金属磁性材料からなる薄板状磁性体を保持し、
前記Fe基金属磁性材料の合金組成が、一般式:Fe100−a−b−cSiで表され、a,b及びcは原子%で、7≦a≦20、8≦b≦19、0≦c≦4、75≦100−a−b−c≦85を満足し、
前記薄板状磁性体の単層の厚みが15μm〜35μmであり、
前記薄板状磁性体は、周波数500kHzでの交流比透磁率μrが220以上770以下であることを特徴とする磁性シート。
【請求項2】
請求項1に記載の磁性シートであって、
複数の薄板状磁性体を並べて樹脂フィルムに貼り合わせたことを特徴とする磁性シート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の磁性シートであって、
前記薄板状磁性体は前記樹脂フィルムに貼着された状態を維持しつつ、複数に分割されていることを特徴とする磁性シート。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の磁性シートであって、
前記薄板状磁性体がノンクラック状態にあることを特徴とする磁性シート。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の磁性シートであって、
前記Fe基金属磁性材料が、少なくとも一部にFeSiのケイ化物が析出していることを特徴とする磁性シート。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれかに記載の磁性シートを用いた電子機器であって、
前記磁性シートに近接して地磁気センサを用いた電子コンパスが配置されたことを特徴とする電子機器。
【請求項7】
合金組成が一般式:Fe100−a−b−cSiで表され、a,b及びcは原子%で、7≦a≦20、8≦b≦19、0≦c≦4、75≦100−a−b−c≦85を満足するアモルファス合金のFe基金属磁性材料からなり単層の厚みが15μm〜35μmである薄板状磁性体に熱処理を施して、その組織の少なくとも一部を結晶化させることで、前記薄板状磁性体の周波数500kHzでの交流比透磁率μrを220以上770以下とする熱処理工程と、
熱処理した前記薄板状磁性体を樹脂フィルム上に粘着層を介して保持して磁性シートを構成するラミネート工程と、
前記磁性シートを所定の形状にカットするカッティング工程と
カット後の磁性シートに近接するように地磁気センサを用いた電子コンパスを配置する工程と、を備えることを特徴とする電子機器の製造方法。
【請求項8】
請求項に記載の電子機器の製造方法であって、
前記熱処理工程では、前記薄板状磁性体を円環状にした状態で熱処理を施すことを特徴とする電子機器の製造方法。
【請求項9】
請求項又はに記載の電子機器の製造方法であって、
前記ラミネート工程の後、前記磁性シートの面上の複数箇所に外力を加える工程と、
前記磁性シートをロールで巻き取ることにより、前記外力を加えた箇所を起点としたクラックを生じさせて前記薄板状磁性体を複数の固片に分割する工程とを備えることを特徴とする電子機器の製造方法。
【請求項10】
請求項に記載の電子機器の製造方法であって、
前記磁性シートの面上の複数箇所に外力を加える工程を、前記カッティング工程と同時に行うことを特徴とする電子機器の製造方法。
【請求項11】
請求項7乃至10のいずれかに記載の電子機器の製造方法であって、
前記熱処理工程により、前記Fe基金属磁性材料の少なくとも一部にFeSiのケイ化物を析出させることを特徴とする電子機器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地磁気センサを含む電子コンパスが配置された電子機器、たとえば携帯電話等に用いられる磁性シートと、それを用いた電子機器と、その磁性シートの製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年急速にスマートフォン、タブレット型情報端末、あるいは携帯電話等の電子機器が普及している。図11はスマートフォンを例とした電子機器の外観斜視図である。電子機器200には、通話の他にも多種多様な機能が盛り込まれている。かかる機能の一つに、例えばGPSを用いた地図表示機能がある。ハードディスクやICメモリに格納された地図情報とGPS信号を用いた地図表示機能によって、使用者は電子機器に設けられたディスプレイ300にて正確な位置情報を得ることができる。このとき地図表示機能において、使用者がどちらの方角を向いているかの情報を反映する場合に、地磁気センサを用いた電子コンパス260が用いられている。電子コンパス260は、ホール素子、磁気抵抗効果素子等の地磁気センサを用いて、地磁気による直流磁界を基に方位情報を得るものである。
【0003】
スマートフォンやタブレットのような電子機器200には、その操作情報や文字情報をユーザが容易に入力可能とする入力装置として、位置検出装置が採用されているものもある。
この位置検出装置は、たとえば位置を指示するためのペン型の装置210と、位置を検出するためのセンサ基板と呼ばれる装置を組み合わせた構成になっている。図12に位置検出装置の具体的な一例を示すと、ペン型の装置210に設けられたコイルから、周波数500kHzのパルス信号が、センサ基板350側に設けられたX−Y各方向のセンサコイルからなるコイル群340に与えられ、電磁誘導の原理にてコイル群340に生じる起電力によって位置情報を得る。電子機器200においては、センサ基板350をディスプレイパネル305の下部に設けて、様々なソフトウエアとディスプレイ上での位置情報とを連動させることで、電子機器200への情報入力を容易としている。センサ基板350と回路基板370との間には、磁気ヨークや磁気シールドとしての磁性体部材360が、ディスプレイパネル305の下部全体を覆うように配置されている。
【0004】
他の構成では、光透過性の基板に目視では確認できないコイル群340が形成されたセンサ基板350を、ディスプレイパネル305の上部側に設けて、磁性体部材360をディスプレイパネル305と回路基板370との間に配置する場合もある。
【0005】
センサ基板の有無にかかわらず電子機器内には磁気シールドとして磁性体部材を配置する場合もある。
【0006】
電子コンパスは微弱な地磁気を利用するので、スピーカなど、磁石を有する部品が発生する磁気ノイズの影響を受け易いことが知られているが、前記磁性体部材もまた電子コンパスの方位情報に大きな影響を与えることが認識されている。具体的には、磁性体部材の近傍では、地磁気による直流磁界が偏倚する。この為、磁性体部材と近接して電子コンパスを配置すると、その方位情報の誤差が大きくなってしまい、正しい方向が得られない場合が確認されている。
【0007】
この問題に対して特許文献1では、アモルファス金属等の磁性材料を粉末状態とし、それを樹脂で固めたり塗料にしたりして、磁性体部材自体を低透磁率なものとして構成することを提案している。磁性体部材が低透磁率であれば、その近傍での磁束の乱れも相対的に少なくなるので、電子コンパスが磁性体部材と近接しても、得られる方位情報の誤差を小さくすることが出来る。
【0008】
また特許文献2には、センサ基板に用いられる磁性体部材について、特許文献1と同様に磁性材料を粉末としてゴムや樹脂に分散させて用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012−252660号公報
【特許文献2】特開平6−149450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
磁性体部材による直流磁界の偏倚の影響を抑えるなら、磁性体部材と電子コンパスとを離して配置すれば良い。しかしながら、携帯機器の多機能化・小型化の要請から、携帯端末装置等の電子機器においては、限られた空間内で様々な部品が密に集積されるようになり、レイアウトの自由度は制限されるため、互いに近接して配置せざるを得ないのが実際である。
【0011】
特許文献1や2に記載されたように磁性粉末を樹脂に分散して構成すれば、磁性体部材を低透磁率として電子コンパスの方位情報誤差が減じられる。また、磁性体部材に可撓性を与えることが出来るので、平坦面でない部位にも配置が容易となるので好ましい。しかしながら、アモルファス合金等の磁性材料を粉末化したり、更にそれを樹脂等に分散させ所定の形状に成形したり、塗布したりする工程が必要となるため、磁性体部材は相対的に高価なものとなってしまう。
加えて、上述した磁性粉末から得られる磁性体部材の比透磁率は、たかだか150程度であって、この様な磁性体部材を位置検出装置の磁気ヨーク等に用いても、センサ基板の検出感度が劣り、正しい位置情報が得られない場合があった。なお、粉末から得られる磁性体部材の厚みを増すことで検出感度をいくらか改善することは可能であるものの、体積が増し、また、可撓性も得られにくくなるばかりで、限定的な空間では好ましい方法とは言えない。
【0012】
そこで本発明は、磁性体部材を含み、電子機器において電子コンパスとともに用いられる磁性シートとして、可撓性を備え、電子コンパスの方位誤差を抑制可能であるとともに、位置検出装置にてセンサ基板とともに用いるのに好適な磁性シートと、それを用いた電子機器と、その磁性シートの製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の発明は、樹脂フィルムと磁性体部材としての薄板状磁性体を含み、前記樹脂フィルム上に粘着層を介してFe基金属磁性材料からなる薄板状磁性体を保持した磁性シートであって、前記薄板状磁性体の単層の厚みが15μm〜35μmであり、周波数500kHzでの交流比透磁率μrが220以上770以下である磁性シートである。
【0014】
薄板状磁性体を金属薄帯とし、磁性シートを1枚の金属薄帯で構成しても良いし、複数の金属薄帯を用いて、それを樹脂フィルムの面上に貼り合わせて並べて配置したり、あるいは積み重ねて配置したりしても良い。
【0015】
また、前記薄板状磁性体は前記樹脂フィルムに貼着された状態を維持しつつ、複数に分割されているのが好ましい。前記薄板状磁性体は、製造工程を簡略化するうえでクラック処理されていないノンクラック状態にあることが好ましいが、クラック処理によって複数の固片に分割されたものでも構わない。クラック処理とは磁性シートに外力を加えて固片化する処理を言い、薄板状磁性体を複数の金属薄帯として並べて用いたり、あらかじめ固片化された薄板状磁性体を敷設して用いたりするノンクラック状態にある場合とは区別される。
【0016】
第2の発明は、第1の発明の磁性シートと、それに近接して配置された地磁気センサを用いた電子コンパスを備えることを特徴とする電子機器である。
【0017】
第3の発明は、Fe基金属磁性材料からなり単層の厚みが15μm〜35μmである薄板状磁性体に熱処理を施して、前記薄板状磁性体の周波数500kHzでの交流比透磁率μrを220以上770以下とする熱処理工程と、熱処理した前記薄板状磁性体を樹脂フィルム上に粘着層を介して保持して磁性シートを構成するラミネート工程と、前記磁性シートを所定の形状にカットするカッティング工程とを備えることを特徴とする磁性シートの製造方法である。
【0018】
前記熱処理工程では、前記薄板状磁性体を円環状にした状態で熱処理を施すことが好ましい。
【0019】
更に、前記ラミネート工程の後、前記磁性シートの面上の複数箇所に外力を加える工程と、前記磁性シートをロールで巻き取ることにより、前記外力を加えた箇所を起点としたクラックを生じさせて前記薄板状磁性体を複数の固片に分割する工程とを備えるものでもよい。その場合、前記磁性シートの面上の複数箇所に外力を加える工程を、前記カッティング工程と同時に行うことが好ましい
【発明の効果】
【0020】
本発明の磁性シートは、位置検出装置にてセンサ基板とともに用いるのに好適であり、電子機器内において磁性シートと近接して配置される電子コンパスに対して、磁性シートを構成する磁性体部材に起因する方位誤差を抑えることができる。そして、本発明の磁性シートを用いた電子機器は、方位情報もいっそう正確なものとなる。本発明の磁性シートの製造方法は、本発明の磁性シートを製造するうえで有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】(a)本発明の一実施態様に係る磁性シートを示す分解斜視図であり、(b)本発明の一実施態様に係る磁性シートを示す断面図である。
図2】本発明の他の実施態様に係る磁性シートを示す薄板状磁性体側から見た平面図である。
図3】本発明の他の実施態様に係る磁性シートを示す薄板状磁性体側から見た平面図である。
図4】本発明の他の実施態様に係る磁性シートでの、小片とした磁性体部材の配置状態を説明する為の平面図である。
図5】(a)熱処理工程の一例を示す概略図であり、(b)ラミネート工程の一例を示す概略図であり、(c)カッティング工程の一例を示す概略図であり、(d)カッティング工程の別例を示す概略図である。
図6】クラック起点処理を説明する為の平面図であり、それぞれ突起の先端が(a)点状、(b)十字状、(c)線状の突起群を押し当てた例である。
図7】(a)磁性シートと電子コンパスの位置関係を説明する為の平面図であり、(b)はその側面図である。
図8】角度検出誤差測定における電子コンパスの姿勢回転を説明するための平面図である。
図9】電子コンパスの姿勢回転角度と角度検出誤差との関係を示す図である。
図10】交流比透磁率と最大角度検出誤差の関係を示す図である。
図11】電子コンパスや位置検出装置が用いられる電子機器の斜視図である。
図12】電子機器に用いられる位置検出装置の構成例を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る磁性シートについて図を用いて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
(磁性シートの構成)
図1は磁性シートの構成を示す図であり、図1(a)は磁性シートの分解斜視図を示し、図1(b)は磁性シートの断面図を示す。本発明の磁性シート1は、Fe基金属磁性材料からなる薄板状磁性体10を含む、積層された複数の層を有する構造であって、少なくとも、樹脂シートからなる基材20上に粘着層15を介して薄板状磁性体10を貼り付けて構成される。
携帯機器等の筐体の外形は大半が略矩形をなしており、それに装着されたディスプレイもまた同様である。ディスプレイの下部に配置する磁性シート1も、ディスプレイを覆うように矩形とする。ここでいう矩形とは、正方形も含み、一部に貫通孔や切り欠きが設けられている場合も含まれ、限定されない。
【0024】
前記基材20は変形容易であって、曲げ性に富む材質、厚みが選択される。例えば、厚みが10μm〜100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの樹脂フィルムが好適である。他に、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド等のポリイミド類、ポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル類等からなる樹脂フィルムでも良い。耐熱性及び誘電損失の観点から、ポリアミド類及びポリイミド類が特に好ましい。
【0025】
基材20の厚みが増すと変形し難くなり、曲面や屈曲面に倣って磁性シート1を配置するのを阻害することがある。また、厚さが10μm未満であると、基材20自体の変形が一層容易となるので扱いが難しくなり、薄板状磁性体10を支持する機能も十分に得られない場合がある。
基材20と薄板状磁性体10とを貼り付けるための粘着層15には、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等の液状、シート状、テープ状で供される接着剤を適用することができる。液状の接着材を基材20の一面側に薄く塗布して粘着層としたり、予め両面テープが貼付された樹脂シートを用いたりしても良い。基材20の薄板状磁性体10が貼付される側の一面とは反対の面、もしくは薄板状磁性体10と基材20の間に、電磁波シールドの機能を付与する目的で5μm〜30μm程度の厚みのCu箔やAl箔などの導電体を設けても良い。
【0026】
磁性シート1に用いる薄板状磁性体10は単一でも良いし、複数であっても良い。薄板状磁性体を所定幅、長さに切断し、図2の平面図に示す態様のごとく、複数の帯状体10a〜10dとして、それを基材の面上に並べて配置しても良い。
【0027】
一つの磁性シート1に複数の薄板状磁性体10を用いる場合には、前記帯状体の他に、図3に示す形態の様に、所定形状に切断したり、打ち抜くなどしたりして方形状等の小形の固片30を作製し、基材面上に間隔を持って敷設しても良い。
【0028】
図4は敷設された薄板状磁性体を示す部分拡大図である。薄板状磁性体の固片30a〜30dは0mm以上の(好ましくは0mmを超える)間隔Dを持って隣り合って配置される。ここで間隔Dが0mmとは、隣り合う固片の側辺の少なくとも一部が接触する状態を言う、間隔Dによって磁気ギャップが構成されるので、薄板状磁性体10に生じる渦電流が問題となる場合には、前記磁気ギャップに応じて、その影響を低減することが出来る。一方で、間隔Dが広がるほどにヨークあるいはシールドとしての機能が得られ難くなり、位置検出装置に用いられる場合にセンサ基板の検出感度も劣化する。この為、複数の薄板状磁性体を並べる場合、その間隔Dは0.1mm以下とするのが好ましい。
【0029】
固片は形成の容易さから方形状とするのが好ましいが、他の多角形状、円形状であっても良いし、いろいろな形状の組み合わせであっても良い。固片の形成寸法によって、磁性シートに形成される磁気ギャップ数が変わるので、固片の形状を方形とすれば、その寸法は10mm×10mm以下とするのが好ましい。
また磁路断面積を増すように薄板状磁性体を積層して用いる場合、厚みが増してその程度によってはそれ自体が変形し難くなり、磁性シートとしたときに可撓性が得られない場合がある。それを考慮すれば、固片の寸法は3mm×3mm以下とするのが一層好ましい。
【0030】
また、後述する熱処理後の薄板状磁性体は、脆化し加圧によって比較的容易にクラックを生じさせることが出来るので、薄板状磁性体10を基材20に保持した状態でローラー等の部材で加圧するなどして外力を加えるクラック処理を施すことにより、定形、あるいは不定形に複数の固片に分割しても構わない。この場合、薄板状磁性体(固片30)が基材から脱落しない様に、薄板状磁性体10を予め他の基材や粘着層等の被覆層で覆って、挟み込むのが好ましい。
【0031】
図1〜4に示した磁性シート1の薄板状磁性体は、いずれもクラック処理を施していないノンクラック状態にあり、クラック処理によって複数の固片に分割されたものではない。ノンクラック状態は、クラック処理による意図的なクラックが形成されていない状態を指し、通常の取り扱い(例えば単なる搬送)によって多少のクラックが生じたに過ぎない状態はこれに含まれる。かかる磁性シートではクラック処理を省略できることから、製造工程を簡略化できる。
【0032】
磁性シート1の薄型化の為には、薄板状磁性体10は単層であるのが好ましいが、磁性シート1の近傍に磁界を発生させる永久磁石等の部品が配置される場合には、複数の薄板状磁性体をポリイミド樹脂等の絶縁性樹脂層を介して積層して構成しても良い。積層数は磁性シートの薄型化、可撓性を考慮するとともに、磁性体部材による直流磁界の偏倚の影響を抑えるなら、磁性シート1として、基材20等も含めた全体で0.2mmかそれ以下の厚さとするように選択するのが好ましい。
【0033】
(Fe基金属磁性材料)
薄板状磁性体10を構成するFe基金属磁性材料は、FeBSi系の磁性材料であるのが好ましい。更に好ましくは、一般式:Fe100−a−b−c Ba Sib Ccで表され、a、b及びcは原子%で、7≦a≦20、1≦b≦19、0≦c≦4、75≦100−a−b−c≦85を満足するFe基金属磁性材料である。他の金属元素としてMn、S、P等の不可避不純物を含んでいても良い。
【0034】
薄板状磁性体10は、前記Fe基金属磁性材料をアモルファス合金とし、その組織の少なくとも一部を後述する熱処理によって結晶化させたものであるのが好ましい。ここで結晶化とは、アモルファス母相中に100nm以下のナノスケールの結晶粒を晶出させた、所謂、ナノ結晶化では無く、少なくとも数百nm〜1μmの結晶粒を含む結晶を晶出させる処理である。結晶相としてSiを固溶したα−Feとともに、FeSi等のケイ化物を析出させることにより透磁率を低下させ、周波数500kHzでの交流比透磁率μrを220以上770以下とする。
【0035】
Feは金属磁性材料の飽和磁束密度を決める元素である。磁性シートに用いるのに実用的な磁束密度として、飽和磁束密度を1.3T以上とするには、Feを75原子%以上とするのが望ましい。飽和磁束密度が1.3T以上であれば、ヨーク機能、あるいはシールド機能を得ながら薄板状磁性体10の板厚を薄くすることが出来る。また、Feを85原子%超とすると、アモルファスの形成が困難な場合があり、熱処理後に所望の交流比透磁率μrが得られない場合がある。
【0036】
Si、Bは共に非晶質形成元素である。Siが1原子%以上であると、急冷により非晶質が安定的に形成できる。Siの少なくとも一部は、熱処理によりα−Feに固溶するとともに、FeSi等のケイ化物を形成する。Siが19原子%超であると飽和磁束密度Bsが低下する。
また、bcc構造のα−Fe結晶粒中のSiは、Fe基金属磁性材料の誘導磁気異方性に影響することが知られており、Siを8原子%以上とすると、熱処理を磁場中で行うことでB−Hカーブを傾斜させて直線性を改善し、透磁率を調整する効果が得られるので好ましい。
【0037】
非晶質形成元素であるBの含有量が7原子%以上であると、急冷により非晶質が安定的に形成でき、20原子%超であると飽和磁束密度Bsが低下する。そのため、Bの含有量は7原子%〜20原子%とするのが好ましい。
【0038】
Fe基金属磁性材料は、所定の組成になるように秤量した素原料を、高周波誘導溶解等の手段で溶解した後、ノズルを介して高速で回転する冷却ロールの表面に吐出して急冷凝固させる単ロール、あるいは双ロールといった急冷法により、板厚が15μm〜35μm程度のアモルファス合金の薄帯とするのが好ましい。Cは、含まなくても構わないが、溶湯と冷却ロール表面との濡れ性を向上させる効果を得るうえで0.5原子%以上含むのが好ましく、作製する薄帯の厚みに応じて4原子%以下含むのが好ましい。
【0039】
(熱処理)
アモルファス合金としたFe基金属磁性材料の組織の少なくとも一部を結晶化させるには、熱処理を施すのが好ましい。通常、アモルファス合金の熱処理として、構造緩和を目的として300〜400℃で焼鈍することが行われるが、この場合、透磁率は上昇する。
一方、本発明の磁性シートに用いる薄板状磁性体を得るための熱処理は、たとえば430℃を超える温度で行う。結晶化温度Tkを超える温度での熱処理では、FeBの化合物相が析出して保磁力Hcが著しく増加するため、熱処理は結晶化温度Tk未満でFeBの化合物相が晶出されにくく、晶出されたとしても少量である条件が好ましい。具体的には結晶化温度Tkよりも十分に低い、Tk−60℃以下の温度で行うのがより好ましい。
【0040】
熱処理においては温度とともに保持時間も重要である。結晶化の際にα−FeにSiを十分に固溶させるには、保持時間は20分以上とするのが好ましい。保持時間を180分より長くするとFeBが晶出する場合があり保持時間は20分〜180分とするのが好ましい。熱処理雰囲気は大気中でもよいが、アルゴン、窒素ガスなどの不活性ガス中であるのがFe基金属磁性材料の酸化を防ぐ点で好ましい。
【0041】
(磁気特性)
本発明において交流比透磁率μrは、漏れ磁束が無視できる閉磁路磁心でのコイルの実効自己インダクタンスによって次式にて求められる透磁率である。実効自己インダクタンスLはインピーダンス/ゲイン・フェイズアナライザ(Agilent Technologies,Inc.製4194A)にて、動作磁界を0.05A/mとし、温度25℃で500kHzの周波数で評価する。
μr=(L×C1)/(μ×N
L:実効自己インダクタンス(H)
N:全巻回数
μ:真空透磁率(4×π×10−7H/m)
C1:磁心定数(m−1
また保磁力Hcは、直流磁化特性試験装置(メトロン技研(株)製SK−110型)にて、一次側、二次側にそれぞれ巻線をして温度25℃で最大磁化Hmを800A/mとして評価する。
【0042】
(電子コンパス)
電子機器において、本発明の磁性シートとともに用いる電子コンパスの地磁気センサは、その種類を特に限定するものではなく、ホール素子、磁気抵抗効果素子、フラックスゲート、磁気インピーダンス素子等、種々の検出原理のものを用いることが出来て、限定されない。かかる地磁気センサを用いた電子コンパスは、磁性シートに近接して配置され、例えば磁性シートの一端から1cm以下の距離を設けて配置される。
【0043】
(磁性シートの製造方法)
磁性シート1の製造方法は、Fe基金属磁性材料からなり単層の厚みが15μm〜35μmである薄板状磁性体10に熱処理を施して、その薄板状磁性体10の周波数500kHzでの交流比透磁率μrを220以上770以下とする熱処理工程と、熱処理した薄板状磁性体10を樹脂フィルム(基材20)上に粘着層15を介して保持して磁性シート1を構成するラミネート工程と、その磁性シート1を所定の形状にカットするカッティング工程とを備える。
【0044】
図5(a)は、熱処理工程の一例であり、ロール状に巻かれた薄板状磁性体10を焼鈍炉40内で保持している様子を示している。このように長尺の薄板状磁性体10を円環状にした状態で熱処理することで、省スペース化に資するとともに、熱処理を終えたロール状の薄板状磁性体10を次のラミネート工程にそのまま用いることができる。熱処理における温度や保持時間などは、既述の通りである。
【0045】
図5(b)は、ラミネート工程の一例であり、薄板状磁性体10、粘着層15及び基材20の各々をロールから引き出し、所定の間隔を設けて配置された一対の加圧ローラー42で挟んで積層する様子を示している。薄板状磁性体10は熱処理により脆化するが、引き出し方向に対して相応の強度を有しているため、引き出し後に形状が大きく崩れることはない。
【0046】
図5(c)は、カッティング工程の一例であり、回転刃式のスリッター45と剪断刃式のカッター46を用いて、磁性シート1を所定の形状にカットしている。本実施形態では磁性シート1を矩形にカットしているが、これに限られるものではなく、そのサイズも適宜に変更が可能である。また、カッティングする工具の構造も特に限定されない。このカットされた磁性シート1の梱包では、シート状の磁性シート1を積み重ねる枚葉梱包が好ましく採用される。
【0047】
図5(d)は、カッティング工程の別例であり、プレスダイ44を用いて磁性シート1を矩形状にカットしている。カット後、薄板状磁性体10の不要な部分(本例では矩形を取り囲む外側部分)を基材20から剥離することで、長尺の基材20上に矩形の薄板状磁性体10が並んだ磁性シート1が得られる。かかる長尺の磁性シート1の基材20を、矩形の薄板状磁性体10を含む長さでカットしてシート状とすれば枚葉梱包が可能となる。或いは、長尺の磁性シート1をロールに巻き取って、ロール梱包としてもよい。
【0048】
上述のように、磁性シート1の薄板状磁性体をノンクラック状態とすることで製造工程を簡略化できるものの、その一方で、クラック処理を施して磁性シート1を複数の固片に分割すれば、渦電流損失の低減効果を得ることができる。但し、そのようにして分割された固片が過度に不定形であると、磁性シート1内の領域に応じて特性が変わるなどの不具合を生じる恐れがあるため、なるべく定形の固片に分割することが望ましく、かかる固片の形状は、好ましくは1辺が1mm〜10mmの矩形である。
【0049】
(クラック起点処理)
クラック処理を施す場合において、固片を定形に近付けるためには、ラミネート工程の後、磁性シート1の面上の複数箇所に外力を加える工程(クラック起点処理)と、その磁性シート1をロールで巻き取ることにより、外力を加えた箇所を起点としたクラックを生じさせて薄板状磁性体10を複数の固片に分割する工程(クラック処理)とを備えることが考えられる。ラミネート工程を経た磁性シート1にクラック起点処理を施すことで、ロールで巻き取って曲げ応力を作用させたときにクラックが適度な間隔で形成され、固片の定形化に資する。
【0050】
磁性シート1の面上の複数箇所に外力を加えるには、例えば、磁性シート1の幅方向と長さ方向の各々に等間隔で配列された複数の突起からなる突起群を有するプレス部材(不図示)が用いられる。かかるプレス部材の突起群を磁性シート1に押し当てることで、面内における多数の箇所が局所的に押圧され、場合によっては各突起の先端が当たる箇所に小さなクラックが形成される。その箇所の各々が、その後のロール巻き取り時に生じるクラックの起点となり、薄板状磁性体10を略定形の複数の固片に分割できる。
【0051】
図6は、外力を加えられた箇所を概念的に示した磁性シート1の平面図であり、突起群を構成する突起の先端形状に相当する。(a)〜(c)は、それぞれ突起の先端が点状、十字状(X字状)、線状(縦横の組み合わせ)である例を示す。なお、これらに限られず、他の形状の採用が可能である。外力の付与は、基材20側から薄板状磁性体10に対して、或いはその反対側から薄板状磁性体10に対して行われる。必要に応じて、クラック起点処理後の磁性シート1に対し、外力を付与した側の面に両面テープなどを貼付してもよい。
【0052】
このような磁性シート1の面上の複数箇所に外力を加える工程は、製造工程の効率化の観点から、カッティング工程と同時に行うことが好ましい。例えば、図5(d)で示したプレスダイ44に上記の如き突起群を設けることで(即ち、プレスダイ44を上記プレス部材とすることで)、カッティング工程と同時に、その突起群により外力を付与できる。また、その後にロール梱包を採用すれば、それと同時にクラック処理が行われるため、別途の工程が不要となって都合が良い。
【0053】
磁性シート1の面上の複数箇所に外力を加える工程は、カッティング工程の後に行っても構わない。例えば、図5(d)で示したカッティング工程の後、薄板状磁性体10の不要な部分を基材20から剥離し、上記プレス部材の突起群を磁性シート1に押し当てたうえで、ロール梱包を行うようにしてもよい。この場合もクラック処理のための別途の工程が不要となるため、効率化の観点から都合が良い。
【0054】
また、磁性シート1の面上の複数箇所に外力を加える工程は、カッティング工程の前に行っても構わない。例えば、ラミネート工程を経て得られた磁性シート1に対して上記プレス部材の突起群を押し当て、その後にロールで巻き取って薄板状磁性体10を複数の固片に分割し、そのロールから引き出した磁性シート1をカッティング工程に供してもよい。カッティング工程は図5(c)と(d)のどちらでもよく、その後の梱包は枚葉梱包とロール梱包のどちらを採用しても構わない。
【実施例】
【0055】
長尺で厚み25μmのPETフィルムを基材とし、その一方側の面に厚み3μmの両面テーフ゜を介して厚み30μmのアルミ箔を貼り付け、その反対面に厚み20μmの粘着層を介して薄板状磁性体を貼り付けた。更に基板等の貼付被対象物へ貼付可能とするため、薄板状磁性体のPETフィルムに覆われない側に、粘着層と剥離ライナーが一体化された両面テープを貼り付けた。長尺の積層体を矩形サイズ140mm×230mm×0.13mmにカットして磁性シートを作製した。なお、磁性シートにはクラック処理を施さず、薄板状磁性体をノンクラック状態とした。
【0056】
上述の磁性シート用の薄板状磁性体として、厚さが25μmで、Fe8011Siのアモルファス合金製の薄帯(米国Metglas社製2605SA−1材:飽和磁束密度Bs=1.56T:抵抗率137μΩ・cm:幅200mm)を準備した。基材等との積層の前に、長尺の薄板状磁性体を円環状にし、これをN雰囲気に制御された炉内に配置して、室温から435℃〜450℃の所定の保持温度まで昇温して、保持温度で120分保持した後、炉冷して熱処理を施している。なお、このアモルファス合金の結晶化温度Txは示差走査熱量測定で507℃である。
【0057】
熱処理が高くなるに従い薄板状磁性体が脆くなるため、磁気特性の評価では鋳放し状態の薄帯を打ち抜いて円環状の試料とし、これをN雰囲気にて熱処理を施したものを用いて、同一熱処理の磁性シートの磁気特性を推定した。
具体的には、鋳放し状態の薄帯から内径φ15mm、外径φ19mmの円環状の試料を熱処理し、熱処理後の円環状の試料20枚を樹脂ケース内に積み重ねて、厚みが0.5mmの円環状の積層磁心を作製した。樹脂ケースに入れられた積層磁心に、15ターンの巻線をして、温度25℃、周波数500kHzでの交流比透磁率μrをインピーダンス/ゲイン・フェイズアナライザ4194Aにより求めた。また、10ターンの一次側巻線と50ターンの二次側巻線を施して保磁力Hcを評価した。
【0058】
熱処理後の各試料についてX線回折を行ったところ結晶固有の回折ピークが認められ、その同定からいずれもα−Feが晶出していた。
【0059】
得られた磁性シートを用いて、電子コンパスの方位検出誤差に与える影響を評価した。図7は、磁性シートと電子コンパスとの位置関係を説明するための図であり、(a)は磁性シートの主面の法線方向(z方向:x方向とy方向に垂直な方向)から見た平面図、(b)は図7(a)の側面図である。磁性シート1および電子コンパス50は、基板、フレーム等に貼付、搭載されるが、便宜上、磁性シート1と電子コンパス50以外の構成の図示は省略している。電子コンパス50は、磁性シート1の主面の法線方向から見て、磁性シート1と重ならない位置であって、磁性シート1のx方向の中間に配置されている。磁性シート1の長手方向(y方向)の一端側と電子コンパス50(外形寸法1.6mm×1.6mm×0.5mm)の中心との距離Tは5mmである。電子コンパス50は旭化成エレクトロニクス株式会社製の3軸電子コンパスAK8963Cを用いた。
【0060】
磁性シート1のy方向を地磁気による直流磁界に合わせ、電子コンパスから見て磁性シート側を北(N)方向とする。電子コンパス50と磁性シート1との間隔Tを固定したまま、電子コンパス50の中心を軸としてxy平面で姿勢回転させて、各磁性シートによる地磁気検出方位の角度検出誤差を評価した。図8は電子コンパスの姿勢回転を説明するための図である。例えば、電子コンパス50を地磁気に対して東(E)に45度傾けた場合(姿勢回転角θ1=45度)、検出角度θ2が+45度であれば、角度検出誤差θ3(θ2−θ1)は0度となり、+50度であれば角度検出誤差θ3は+5度、+40度であれば角度検出誤差は−5度となる。なお、角度検出誤差は360度の姿勢回転において周期性を示し、0〜90度の姿勢回転での最大角度検出誤差の絶対値を360度の姿勢回転での最大角度検出誤差として採用することが出来る。よって評価は0〜90度の姿勢回転で行っている。
【0061】
また、得られた磁性シートを用いて位置検出装置を構成した。この位置検出装置の基本構成は図12で示した従来のものとほぼ同じであるが、磁性体部材であるところを磁性シートとしている。磁性シートの四隅と中央に対応するセンサ基板のセンサコイルとディスプレイパネル上のペン型の装置との間で電磁波による通信が行われて、正しい位置情報が得られるかどうか評価した。
【0062】
表1に薄板状磁性体に施した熱処理条件、熱処理後の薄板状磁性体の磁気特性とともに、磁性シートによる電子コンパスの最大角度検出誤差評価結果と、位置検出装置の位置情報評価結果とをあわせて示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表中、センサ基板評価として示す位置検出装置の位置情報評価においては、磁性シートの四隅と中央の5点の全てで正しい位置情報が得られる場合を良、センサコイルとペン型の装置との間で通信が行われず、一点でも正しい位置情報が得られない場合を否として示している。
【0065】
図9は電子コンパスの姿勢回転角度と角度検出誤差との関係を示す図である。本図から明らかなように、磁性シートに用いる薄板状磁性体の交流比透磁率μrが大きくなるに従い、各姿勢回転角度で角度検出誤差が大きくなる。一方で、表1に示した様に交流比透磁率μrが小さいと、シールド特性や位置検出装置において通信性能が損なわれる。したがって、検出角度誤差を抑えつつも、通信性能を損なわない為には、薄板状磁性体の周波数500kHzでの交流比透磁率μrに好ましい範囲があることが分かる。図10に示した交流比透磁率μrと最大角度検出誤差の関係によれば、電子コンパスの最大角度検出誤差の許容される閾値を20度とすると、交流比透磁率μrの上限は770とするのが好ましいことが分かる。
【0066】
実施例においては、電子コンパスを磁性シートの一辺の垂直二等分線に重なるように配置しているが、これに限定されるものではなく、磁性シートの一辺に沿う何れの位置であっても本発明の効果を得ることが出来る。
【符号の説明】
【0067】
1 磁性シート
10,10a,10b,10c,10d 薄板状磁性体
15 粘着層
20 基材
30 小片(薄板状磁性体)
50、260 電子コンパス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12