特許第6376536号(P6376536)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376536
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】砒素吸着装置及び砒素吸着方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/28 20060101AFI20180813BHJP
   B01J 20/02 20060101ALI20180813BHJP
   B01J 20/04 20060101ALI20180813BHJP
   C02F 1/62 20060101ALI20180813BHJP
   C02F 1/58 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   C02F1/28 B
   B01J20/02 A
   B01J20/04 A
   C02F1/62 Z
   C02F1/58 S
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-61062(P2015-61062)
(22)【出願日】2015年3月24日
(65)【公開番号】特開2015-193001(P2015-193001A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2018年2月2日
(31)【優先権主張番号】特願2014-61960(P2014-61960)
(32)【優先日】2014年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】所 千晴
(72)【発明者】
【氏名】二見 文也
(72)【発明者】
【氏名】久保田 裕久
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭52−133890(JP,A)
【文献】 特開平09−225298(JP,A)
【文献】 特開平07−016563(JP,A)
【文献】 特開2011−156470(JP,A)
【文献】 特開2004−250630(JP,A)
【文献】 特開2009−263309(JP,A)
【文献】 特開昭54−075860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/28
B01J 20/02
B01J 20/04
C02F 1/58
C02F 1/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理液と接触して該被処理液中の砒素を吸着する砒素吸着剤を備える砒素吸着装置であって、該砒素吸着剤としてのFeイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂と、Caイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂とを有し、
前記被処理液が前記Feイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂と接触する前に、前記Caイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂と接触する構造であることを特徴とする砒素吸着装置。
【請求項2】
前記Feイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂がゲル型であることを特徴とする請求項1に記載の砒素吸着装置。
【請求項3】
前記Feイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂の平均粒径が800μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の砒素吸着装置。
【請求項4】
前記Feイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂の粒径の均一係数が1.2以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の砒素吸着装置。
【請求項5】
被処理液を砒素吸着剤に接触させて、該被処理液中の砒素を該砒素吸着剤に吸着させる砒素吸着方法であって、該砒素吸着剤としてのFeイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂と、Caイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂とを使用し、
前記被処理液を、前記Feイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂と接触させる前に、前記Caイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂に接触させることを特徴とする砒素吸着方法。
【請求項6】
前記Feイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂がゲル型であることを特徴とする請求項5に記載の砒素吸着方法。
【請求項7】
前記Feイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂の平均粒径が800μm以下であることを特徴とする請求項5または6に記載の砒素吸着方法。
【請求項8】
前記Feイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂の粒径の均一係数が1.2以下であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の砒素吸着方法。
【請求項9】
前記被処理液のpHが2〜4であることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の砒素吸着方法。
【請求項10】
前記Feイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂の充填層に前記被処理液を通液する方法であって、該被処理液の通液SVを1〜200hr−1とすることを特徴とする請求項5〜9のいずれか1項に記載の砒素吸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理液中の砒素を効率的に吸着除去する砒素吸着装置及び砒素吸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
砒素や砒素化合物は、黄鉄石、リン鉱石等に含まれ、これらを原料として使用するリンやリン化合物の製造工場、硫酸製造工場等の廃水中には砒素が多量に含まれる可能性がある。また、砒素は半導体原料として利用されるため、半導体の製造・加工工場の廃水にも多量の砒素が含まれる可能性がある。更に、鉱山廃水や温泉水等にも砒素が含有される可能性がある。
【0003】
砒素は強い毒性を有する環境汚染物質である。例えば、地下水に砒素が含まれている場合、農作物に砒素が濃縮されたり、魚類などの水産物に砒素が濃縮され、それを食した人体に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、廃水中の砒素に対する厳しい規制が設けられている。
【0004】
廃水等に含まれる砒素の回収方法として、砒素を鉄、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム等の金属の水酸化物と共に沈殿させる共沈捕集法、或いは、稀土類元素の含水酸化物又はこれを有機高分子多孔質担体に担持させた砒素吸着剤(特許文献1)、又はフェノール樹脂と金属水酸化物からなる砒素吸着剤(特許文献2)を添加して砒素を吸着回収する方法、アニオン交換樹脂を用いて吸着する方法等が知られている。
【0005】
しかしながら、共沈捕集法や、特許文献1又は特許文献2に記載の砒素吸着剤を用いる方法では、砒素を廃水基準値である0.1mg/L以下まで減少させるためには、大量の金属水酸化物や吸着剤を添加しなければならず、更に生成する大量のスラッジの後処理が容易ではないという問題があった。
また、稀土類元素の含水酸化物を吸着剤として用いる方法は、吸着剤の原料となる稀土類元素が高価である上に、吸着剤の粒径が小さいため、吸着剤をカラムに充填して用いると圧力損失が大きくなり、実用性に乏しいという問題がある。更に、アニオン交換樹脂を用いて吸着するイオン交換法では、共存塩が存在すると砒素の吸着効果が著しく低下するという問題があった。
【0006】
特許文献3には、このような問題を解決するものとして、カチオン交換樹脂及び/又はキレート樹脂に、鉄とヒドロキシルイオンとを担持してなる砒素吸着用樹脂が提案されており、この砒素吸着用樹脂が、砒素含有溶液からの砒素の回収能に優れているとともに、このような樹脂は安価かつ容易に製造することができ、砒素を効果的に吸着して回収できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−187931号公報
【特許文献2】特開昭59−69151号公報
【特許文献3】特開平9−225298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3には、砒素吸着用樹脂の母体樹脂としてカチオン交換樹脂を用いる旨の記載はあるが、特許文献3の実施例ではいずれもキレート樹脂を用いている。即ち、特許文献3には、キレート樹脂に鉄を担持した後水酸化ナトリウム等でアルカリ処理して鉄を水酸化鉄として担持した実施例が示されているが、実際にカチオン交換樹脂を用いた実施例はなく、鉄とヒドロキシルイオンとを担持したカチオン交換樹脂の砒素吸着能については明らかにされていない。また、実際に被処理液中の砒素を効果的に吸着除去するための砒素吸着装置及び砒素吸着方法の検討もなされていない。
【0009】
本発明は上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、キレート樹脂よりも更に安価で汎用性の高いカチオン交換樹脂を用いて、被処理液中の砒素を効率的にかつ高度に吸着除去することができる砒素吸着装置及び砒素吸着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、Feイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂が、被処理液中の砒素を効率的に吸着除去できることを見出した。
【0011】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0012】
[1] 被処理液と接触して該被処理液中の砒素を吸着する砒素吸着剤を備える砒素吸着装置であって、該砒素吸着剤としてのFeイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂と、Caイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂とを有し、前記被処理液が前記Feイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂と接触する前に、前記Caイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂と接触する構造であることを特徴とする砒素吸着装置。
【0013】
[2] 前記Feイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂がゲル型であることを特徴とする[1]に記載の砒素吸着装置。
【0014】
[3] 前記Feイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂の平均粒径が800μm以下であることを特徴とする[1]または[2]に記載の砒素吸着装置。
【0015】
[4] 前記Feイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂の粒径の均一係数が1.2以下であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の砒素吸着装置。
【0016】
[5] 被処理液を砒素吸着剤に接触させて、該被処理液中の砒素を該砒素吸着剤に吸着させる砒素吸着方法であって、該砒素吸着剤としてのFeイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂と、Caイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂とを使用し、前記被処理液を、前記Feイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂と接触させる前に、前記Caイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂に接触させることを特徴とする砒素吸着方法。
【0017】
[6] 前記Feイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂がゲル型であることを特徴とする[5]に記載の砒素吸着方法。
【0018】
[7] 前記Feイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂の平均粒径が800μm以下であることを特徴とする[5]または[6]に記載の砒素吸着方法。
【0019】
[8] 前記Feイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂の粒径の均一係数が1.2以下であることを特徴とする[5]〜[7]のいずれかに記載の砒素吸着方法。
【0020】
[9] 前記被処理液のpHが2〜4であることを特徴とする[5]〜[8]のいずれかに記載の砒素吸着方法。
【0021】
[10] 前記Feイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂の充填層に前記被処理液を通液する方法であって、該被処理液の通液SVを1〜200hr−1とすることを特徴とする[5]〜[9]のいずれかに記載の砒素吸着方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、Feイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂を用いて、被処理液中の砒素を効率的に吸着除去することができ、砒素を高度に除去した高水質の処理水を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】参考例9で求めたAs(V)の破過曲線を示すグラフである。
図2】比較例4の処理水の金属濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
本発明の砒素吸着装置及び砒素吸着方法は、被処理液中の砒素を吸着する砒素吸着剤としてのFeイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂(以下「Fe担持カチオン交換樹脂」と称す場合がある。)と、Caイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂(以下、「Ca担持カチオン交換樹脂」と称す場合がある。)とを用い、被処理液を、Ca担持カチオン交換樹脂に接触させた後、Fe担持カチオン交換樹脂に接触させることを特徴とする。
Fe担持カチオン交換樹脂は砒素の吸着性能に優れ、被処理液中の砒素を効率的に吸着除去することができる。
【0026】
本発明においては、以下の理由から、砒素吸着剤としてのFe担持カチオン交換樹脂と共に、Ca担持カチオン交換樹脂、更には、Naイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂(以下、「Na担持カチオン交換樹脂」と称す場合がある。)を併用することが好ましい。
【0027】
即ち、Fe担持カチオン交換樹脂は砒素イオンを効率的に吸着して捕捉することができるが、砒素の吸着量が多くなると、Fe担持カチオン交換樹脂からFeイオンが漏洩する傾向がある。このため、Fe担持カチオン交換樹脂から漏出したFeイオンを捕捉するために、Feイオンよりも選択性が低いNaイオンを対イオンとしたカチオン交換樹脂(通常のカチオン交換樹脂。即ち、カチオン交換樹脂は、通常Naイオンを担持したNa形として市販されている。)を、Fe担持カチオン交換樹脂と混在させて、或いはFe担持カチオン交換樹脂の下流側に設け、Fe担持カチオン交換樹脂から漏出したFeイオンをNa担持カチオン交換樹脂で吸着して捕捉することが好ましい。
特に被処理液の電解質濃度(イオン強度)が高い場合には、Fe担持カチオン交換樹脂からFeイオンが漏出し易いため、Na担持カチオン交換樹脂を併用し、また、併用するNa担持カチオン交換樹脂量を多くすることが好ましい。
【0028】
また、砒素吸着剤としてのFe担持カチオン交換樹脂は、リン酸イオンの共存下では、リン酸イオンが妨害イオンとして作用し、砒素イオンの吸着、捕捉能が低下する。このため、被処理液中にリン酸イオンが共存する場合には、Ca担持カチオン交換樹脂を併用し、Fe担持カチオン交換樹脂の上流側にCa担持カチオン交換樹脂を設け、被処理液中のリン酸イオンをCa担持カチオン交換樹脂で捕捉、除去した後Fe担持カチオン交換樹脂で砒素イオンの吸着処理を行うことが好ましい。
【0029】
[カチオン交換樹脂]
本発明において用いるFe担持カチオン交換樹脂、及びCa担持カチオン交換樹脂の樹脂母体となるカチオン交換樹脂(以下、「本発明のカチオン交換樹脂」と称す場合がある。)として好適なカチオン交換樹脂の特性ないし物性は以下の通りである。なお、後述の如く、本発明のカチオン交換樹脂は、Na形カチオン交換樹脂であり、Na担持カチオン交換樹脂に該当する。
【0030】
<化学構造・形態>
本発明のカチオン交換樹脂は、耐久性や製造方法の合理性の観点から、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーの共重合で得られる架橋構造骨格を有しているものが好ましい。ここで、モノビニル芳香族モノマーとしては、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン等のアルキル置換スチレン類、ブロモスチレン等のハロゲン置換スチレン類が挙げられる。このうち、スチレンまたはスチレンを主体とするモノマーが好ましい。
【0031】
また、架橋性芳香族モノマーとしては、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、ジビニルキシレン等が挙げられる。このうち、ジビニルベンゼンが好ましい。
工業的に製造されるジビニルベンゼンは、通常副生物であるエチルビニルベンゼン(エチルスチレン)を多量に含有しているが、本発明においてはこのようなジビニルベンゼンは、予め精製してこうした不純物含有量を減らした上で使用するのが好ましい。
【0032】
本発明のカチオン交換樹脂としては、具体的には、例えばスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体等を挙げることができる。
【0033】
本発明のカチオン交換樹脂の主な形態としては、ゲル型と多孔質型が挙げられるが、交換容量やコストの観点から、ゲル型が好ましい。なお、物質拡散性や、樹脂の耐久性、強度の確保の観点で、多孔質型(ポーラス型、ハイポーラス型、またはマクロポーラス型)も好ましい。
【0034】
また、本発明のカチオン交換樹脂は、通常は粒子形状(粒状)である。具体的な形状としては球状、略球状、多面体状、凝集体状など様々な形状が挙げられるが、特に制限されるものではない。
【0035】
<平均粒径>
本発明のカチオン交換樹脂は、平均粒径(重量平均粒径)が800μm以下であることが好ましく、特に、カチオン交換樹脂の平均粒径はより好ましくは500μm以下で、3μm以上、特に5μm以上であることが好ましい。
【0036】
カチオン交換樹脂の平均粒径が大きすぎると、反応活性、反応速度が低く、砒素イオン等の吸着性能も低い傾向にあり、小さすぎると、カチオン交換樹脂を充填した反応器への被処理液の通液の際、圧力損失が大きくなる傾向があり、懸濁状態で反応させる場合は、濾過性が悪化する等、操作性が低下することがある。平均粒径が上記範囲のカチオン交換樹脂を用いることにより、高い吸着性能と処理効率の向上を図ることができる。
【0037】
なお、カチオン交換樹脂の平均粒径は、通常、顕微鏡写真、粒度分布測定装置により測定されるが、市販品についてはカタログ値を採用することができる。
【0038】
<均一係数>
本発明のカチオン交換樹脂は、粒度分布がシャープであることが好ましく、均一係数が通常1.2以下、特に1.1以下、とりわけ1.05以下であることが好ましい。均一係数が1.2以下であると、反応活性、反応速度が向上し、また、カチオン交換樹脂を充填した反応器への被処理液の通液時の圧力損失が緩和される点で好ましい。均一係数は小さい程望ましいが、大きすぎると反応活性、反応速度が低下する傾向がある。なお、均一係数の下限は1.0である。均一係数が上記範囲のカチオン交換樹脂を用いることにより、高い吸着性能と処理効率の向上を図ることができる。
【0039】
なお、カチオン交換樹脂の均一係数は、通常、粒度分布測定装置により測定、算出されるが、市販品についてはカタログ値を採用することができる。
【0040】
<架橋度>
本発明のカチオン交換樹脂の架橋度は、25%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下が更に好ましく、また、1%以上が好ましく、2%以上が更に好ましい。ここで言う架橋度とは、重合に供する重合性モノマー中の架橋性モノマーの濃度をいい、当該分野において使われている定義と同様である。
【0041】
この架橋度が大きすぎると、カチオン交換樹脂内の拡散抵抗のため、吸着性能が低下する傾向にあり、小さすぎると、カチオン交換樹脂の強度を保つことが困難となり、更には処理用が小さくなるため、吸着処理時等の取り扱い時の膨潤、収縮により、カチオン交換樹脂の破砕等が生じるため好ましくない。
【0042】
<スルホン酸基量>
本発明のカチオン交換樹脂は、樹脂1グラムあたり3.0ミリ当量以上のスルホン酸基を含有することが好ましい。
特に、本発明のカチオン交換樹脂は、スルホン酸型強酸性カチオン交換樹脂であることが好ましく、この場合において、Na形を基準として乾燥樹脂1gあたりのスルホン酸基の中性塩分解容量に相当する交換容量が、通常、3meq/g−樹脂以上、好ましくは4.0meq/g−樹脂以上、より好ましくは4.5meq/g−樹脂以上で、通常6.0meq/g−樹脂以下であることが好ましい。
【0043】
[Fe担持カチオン交換樹脂]
本発明で用いるFe担持カチオン交換樹脂は、上述のような本発明のカチオン交換樹脂にFeイオンを担持させてなるものである。Feイオンの担持に用いるカチオン交換樹脂としては、上述の好適な特性ないし物性を有する市販品を用いることができる。
【0044】
カチオン交換樹脂へのFeイオンの担持方法としては特に制限はなく、常法に従って行うことができる。
【0045】
Fe担持に用いる鉄化合物としては、例えば酸化第一鉄、水酸化第一鉄、硫化第一鉄、フッ化第一鉄、塩化第一鉄、臭化第一鉄、ヨウ化第一鉄、硝酸第一鉄、硫酸第一鉄、炭酸第一鉄、酸化第二鉄、フッ化第二鉄、塩化第二鉄、臭化第二鉄、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄等の1種又は2種以上を用いることができる。これらのうち、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、硝酸第一鉄が好ましい。
【0046】
通常、上記の鉄化合物を含む水溶液で処理することにより、即ち、例えば、鉄化合物水溶液中にカチオン交換樹脂を添加して撹拌混合することにより、或いは、カチオン交換樹脂を充填したカラムに鉄化合物水溶液を通液することにより、カチオン交換樹脂にFeイオンを担持させることができる。
カチオン交換樹脂をこのような鉄化合物の水溶液で処理することにより、市販のNa形カチオン交換樹脂のNaイオンに比べて選択性の大きいFeイオンが容易にNaイオンと置換されるため、Fe担持カチオン交換樹脂を得ることができる。
【0047】
このFe担持処理に当たり、Feの担持後、硝酸、塩酸、硫酸等の鉱酸を添加して強酸性に保持し、また、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリを添加して処理液のpHを2以下に調整することによりFeイオンを沈澱させることなく多量に担持することができる。
【0048】
このようにして得られるFe担持カチオン交換樹脂のFe担持量は、0.5〜2.5meq/g−樹脂、特に1.0〜2.5eq/g−樹脂程度であることが好ましい。Fe担持量が少な過ぎると、十分な砒素吸着能を得ることができない。
なお、上記Fe担持処理後にカチオン交換樹脂の平均粒径や均一係数を調整するために粉砕、分級等の処理を行ってもよい。
【0049】
[Na担持カチオン交換樹脂]
前述の通り、市販のカチオン交換樹脂は、通常Na形カチオン交換樹脂であるため、Na担持カチオン交換樹脂としては市販のカチオン交換樹脂をそのまま、或いは必要に応じて、平均粒径や均一係数を調整するために、粉砕、分級等の処理を行って用いることができる。
【0050】
[Ca担持カチオン交換樹脂]
本発明で用いるCa担持カチオン交換樹脂は、前述のような本発明のカチオン交換樹脂にCaイオンを担持させてなるものである。Caイオンの担持に用いるカチオン交換樹脂としては、上述の好適な特性ないし物性を有する市販品を用いることができる。
カチオン交換樹脂へのCaイオンの担持方法としては特に制限はなく、常法に従って行うことができる。
【0051】
Ca担持に用いるカルシウム化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム等の1種又は2種以上を用いることができる。
これらのうち、塩化カルシウムが好ましい。
【0052】
通常、上記のカルシウム化合物を含む水溶液で処理することにより、即ち、例えば、カルシウム化合物水溶液中にカチオン交換樹脂を添加して撹拌混合することにより、或いは、カチオン交換樹脂を充填したカラムにカルシウム化合物水溶液を通液することにより、カチオン交換樹脂にCaイオンを担持させることができる。
カチオン交換樹脂をこのようなカルシウム化合物の水溶液で処理することにより、市販のNa形カチオン交換樹脂のNaイオンに比べて選択性の大きいCaイオンが容易にNaイオンと置換されるため、Ca担持カチオン交換樹脂を得ることができる。
【0053】
このCa担持処理に当たり、Caの担持後、硝酸、塩酸、硫酸等の鉱酸を添加して弱アルカリ性以下に保持し、また、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリを添加して、処理液のpHを2〜4に調整することにより、Caイオンを沈澱させることなく多量に担持することができる。
【0054】
このようにして得られるCa担持カチオン交換樹脂のCa担持量は、0.5〜2.5meq/g−樹脂、特に1.0〜2.5meq/g−樹脂程度であることが好ましい。Ca担持量が少な過ぎると、十分なリン酸イオン吸着能を得ることができない。
なお、上記Ca担持処理後にカチオン交換樹脂の平均粒径や均一係数を調整するために粉砕、分級等の処理を行ってもよい。
【0055】
[被処理液]
本発明で砒素吸着処理する被処理液は、砒素イオンを含む水であり、例えば、前述の黄鉄石やリン鉱石等を原料として使用するリンやリン化合物の製造工場、硫酸製造工場等の廃水、半導体の製造・加工工場の廃水、鉱山廃水や温泉水等などが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
このような砒素含有水の砒素濃度には特に制限はないが、通常、1μg/L〜100mg/L程度であり、このような被処理液を本発明により処理することにより、砒素濃度を廃水基準値の0.1mg/L以下、好ましくは0.01mg/L以下に処理する必要がある。
【0056】
また、本発明においては、Fe担持カチオン交換樹脂と共にCa担持カチオン交換樹脂を併用することにより、砒素とリン酸イオンを含む被処理液をも好適に処理することができる。砒素とリン酸イオンを含む被処理液としては半導体廃水、地下水、河川・湖沼水等が挙げられ、通常、そのリン酸イオン濃度はPO−P換算濃度で0.5〜500mg/L程度である。
【0057】
[Fe担持カチオン交換樹脂による砒素吸着処理]
Fe担持カチオン交換樹脂により被処理液を処理して被処理液中の砒素を吸着除去する方法は、被処理液中にFe担持カチオン交換樹脂を添加して撹拌混合するバッチ処理方式であってもよく、Fe担持カチオン交換樹脂を充填したカラムに被処理液を通液する連続処理方法であってもよい。
【0058】
いずれの場合も、砒素吸着処理時の水温は高い方が吸着速度が大きいことから、処理時の水温は、0〜99℃、特に20〜50℃とすることが好ましい。水温が上記下限以上であると高い吸着効率で処理を行うことができる。水温が過度に高くなると被処理液が液相を維持し得なくなるので、処理水温は、通常上記上限以下とする。
【0059】
また、砒素吸着処理時の被処理液のpHが高いとFeイオンの沈澱が生成し、低過ぎるとFeイオンが漏出し、吸着量が低下することから、砒素吸着処理時の被処理液はpH2〜4、特に2.5〜3.5の範囲であることが好ましい。従って、被処理液のpHがこの範囲から外れる場合は、酸又はアルカリでpH調整を行うことが好ましい。被処理液のpH調整に用いるアルカリとしては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アンモニウム等が用いられるが、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。また酸としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、シュウ酸等が挙げられるが、特に塩酸、硫酸が好ましい。
【0060】
被処理液中にFe担持カチオン交換樹脂を添加して撹拌混合するバッチ処理方式で砒素の吸着処理を行う場合、用いるFe担持カチオン交換樹脂量は、被処理液中の砒素濃度によっても異なるが、通常、前述のFe担持処理で得られるFe担持カチオン交換樹脂の砒素吸着能(砒素吸着量)は0.1〜1.5mmol/g−乾燥樹脂程度であるため、Fe担持カチオン交換樹脂の砒素吸着能を勘案してFe担持カチオン交換樹脂の使用量を決定することが好ましい。なお、撹拌混合時間としては、通常0.1〜3時間程度とすることが好ましい。
【0061】
一方、Fe担持カチオン交換樹脂を充填したカラムに被処理液を通液する場合、通液SVは、1〜200hr−1、特に2〜50hr−1とすることが好ましい。SVが低過ぎると処理効率が悪く、所定量の被処理液の処理に長時間を要することになるが、SVが過度に高いと被処理液中の砒素を十分に吸着し得ないおそれがある。
【0062】
なお、被処理液は上向流通液であっても下向流通液であってもよい。
【0063】
被処理液の砒素吸着処理に使用したFe担持カチオン交換樹脂は、pH10以上、より好ましくはpH13以上のアルカリで処理することにより、樹脂に吸着された砒素を回収すると共にFe担持カチオン交換樹脂を再生することができる。
このようなアルカリによる処理でカチオン交換樹脂に担持されたFeイオンが溶出することはなく、従って、再生後のFe担持カチオン交換樹脂は、純水で洗浄するなどして、砒素吸着処理に再利用することができる。
【0064】
[Na担持カチオン交換樹脂によるFeイオン捕捉処理]
前述の通り、Fe担持カチオン交換樹脂の砒素吸着量が多くなると、Feイオンが漏出する場合がある。特に、被処理液の電解質濃度が高く、イオン強度Iとして0.5mol/L以上であると、Feイオンの漏出傾向が高くなる。従って、この場合には、Na担持カチオン交換樹脂を併用して漏出したFeイオンを捕捉することが好ましい。
【0065】
Na担持カチオン交換樹脂を併用する場合、Na担持カチオン交換樹脂はFe担持カチオン交換樹脂と混合して用いてもよく、被処理液がFe担持カチオン交換樹脂と接触した後Na担持カチオン交換樹脂と接触するように用いてもよい。即ち、前述のバッチ処理方式の場合、被処理液中にFe担持カチオン交換樹脂と共にNa担持カチオン交換樹脂を添加して撹拌混合してもよく、被処理液中にFe担持カチオン交換樹脂を添加して撹拌混合した後Fe担持カチオン交換樹脂を固液分離し、その後分離液にNa担持カチオン交換樹脂を添加して撹拌混合してもよい。
【0066】
また、連続処理方式の場合、カラムにFe担持カチオン交換樹脂とNa担持カチオン交換樹脂の混合物を充填し、カラム内にFe担持カチオン交換樹脂とNa担持カチオン交換樹脂の混床を形成して被処理液を通液してもよいし、一つのカラムの被処理液の入口側にFe担持カチオン交換樹脂床を形成し、出口側にNa担持カチオン交換樹脂床を形成する二層式としてもよい。或いは、Fe担持カチオン交換樹脂を充填したカラムとNa担持カチオン交換樹脂を充填したカラムを用い、被処理液をFe担持カチオン交換樹脂充填カラムに通液した後Na担持カチオン交換樹脂充填カラムに通液してもよい。
【0067】
Fe担持カチオン交換樹脂と併用するNa担持カチオン交換樹脂量は、Fe担持カチオン交換樹脂からのFeイオンの漏出の程度により適宜決定される。
【0068】
Feイオンを捕捉、吸着したNa担持カチオン交換樹脂は、塩酸、硫酸、又は硝酸溶液を通液し、AsやFeイオンを溶離することにより再生することができる。
【0069】
なお、市販のNa形カチオン交換樹脂に前述の方法でFe担持処理を行った場合、一部のカチオン交換樹脂はNaイオンとFeイオンとの置換がなされず、Na担持カチオン交換樹脂としてFe担持カチオン交換樹脂中に混在している。しかしながら、このようにFe担持カチオン交換樹脂中に混在しているNa担持カチオン交換樹脂のみでは、前述の通り、被処理液の電解質濃度が高い場合には、被処理液中の他のカチオンの吸着処理に混在したNa担持カチオン交換樹脂が使用されてしまい、Fe担持カチオン交換樹脂から漏出したFeイオンを捕捉し得ないため、別途Na担持カチオン交換樹脂を用いることが好ましい。
【0070】
[Ca担持カチオン交換樹脂によるリン酸イオン捕捉処理]
前述の通り、被処理液中にリン酸イオンが存在すると、リン酸イオンがFe担持カチオン交換樹脂の砒素吸着作用を阻害するため、この場合には、Ca担持カチオン交換樹脂を用いて、予め被処理液中のリン酸イオンを吸着除去することが好ましい。
【0071】
Ca担持カチオン交換樹脂を併用する場合、Ca担持カチオン交換樹脂は被処理液がCa担持カチオン交換樹脂と接触した後Fe担持カチオン交換樹脂と接触するように用いる。従って、バッチ処理方式の場合は、例えば、被処理液中にCa担持カチオン交換樹脂を添加して撹拌混合した後Ca担持カチオン交換樹脂を固液分離し、その後分離液にFe担持カチオン交換樹脂を添加して撹拌混合する。
【0072】
また、連続処理方式の場合、一つのカラムの被処理液の入口側にCa担持カチオン交換樹脂床を形成し、出口側にFe担持カチオン交換樹脂床を形成する二層式として被処理液を通液する。或いは、Ca担持カチオン交換樹脂を充填したカラムとFe担持カチオン交換樹脂を充填したカラムを用い、被処理水をCa担持カチオン交換樹脂充填カラムに通液した後Fe担持カチオン交換樹脂充填カラムに通液する。
【0073】
Fe担持カチオン交換樹脂と併用するCa担持カチオン交換樹脂量は、被処理液中のリン酸イオン量により適宜決定される。
【0074】
リン酸イオンを捕捉、吸着したCa担持カチオン交換樹脂は、塩酸、硫酸、又は硝酸溶液を通液し、Asやリン酸イオンを溶離することにより再生することができる。
【0075】
Fe担持カチオン交換樹脂と共にCa担持カチオン交換樹脂及びNa担持カチオン交換樹脂を併用する本発明の砒素吸着装置は、工業的実用化の面では、例えば、Ca担持カチオン交換樹脂充填カラム、Fe担持カチオン交換樹脂充填カラム、及びNa担持カチオン交換樹脂充填カラムを直列に接続した形態とすることができる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
〔カチオン交換樹脂〕
以下の実施例、比較例、参考例で用いたカチオン交換樹脂(いずれもNa形カチオン交換樹脂)の詳細は下記表1に示す通りである。
【0078】
【表1】
【0079】
〔参考例1〜7、比較例1〕
[被処理液]
参考例1〜7及び比較例1において、砒素の吸着実験に被処理液として用いた砒素水溶液は、1N硝酸水溶液及び1N水酸化カリウム水溶液と、砒酸水素二ナトリウム・7結晶水(NaHAsO・7HO)を加えて、砒素濃度=10mg/L、イオン強度I=0.05mol/L、pH=3.0となるように調整したものである。
【0080】
[カチオン交換樹脂のFe担持量の分析]
カチオン交換樹脂に担持されたFe量の分析は高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)により行った。
【0081】
[砒素濃度の分析]
処理水中の砒素濃度は高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)により求めた。ICPによる砒素濃度の検出限界は0.01mg/Lである。
【0082】
[参考例1]
カチオン交換樹脂(ダイヤイオンSK104)10mLを0.2重量%の硝酸第二鉄・9結晶水(Fe(NO・9HO)の水溶液1Lに加えて室温で1時間攪拌した。ここへ硝酸水溶液と水酸化カリウム水溶液を添加して溶液のpHを2.0に調整した。
このようにしてFeの担持処理を行ったカチオン交換樹脂のFe担持量は、1.73meq/g−樹脂であった。
このFe担持カチオン交換樹脂を内径9mm×長さ15cmのカラムに、乾燥樹脂量として1.0g(約2.4mL)充填した後、脱塩水を室温でSV10hr−1で1時間通液して樹脂を水洗した。
ここへ砒素水溶液を30℃にてSV20.7hr−1で下向流にて通液した。
【0083】
通液開始から72時間は、処理水(カラム流出液)中に砒素のリークは認められなかった(検出限界以下)が、72時間後から処理水中に砒素が検出されるようになり、通液開始から120時間後には処理水の砒素濃度は9mg/Lとなった。
このときのカチオン交換樹脂の砒素吸着量は0.799mmol/g−樹脂、59.9mg−As/g−樹脂であった。
【0084】
[参考例2]
カチオン交換樹脂(ダイヤイオンSK104)5gに、0.2重量%の硝酸第二鉄水溶液を100mL加え、室温で1時間攪拌した。ここへ硝酸水溶液と水酸化カリウム水溶液を添加して、溶液のpHを2.0に調整してFe担持カチオン交換樹脂を得た。得られたFe担持カチオン交換樹脂のFe担持量は1.659meq/g−樹脂であった。
砒素水溶液200mLにこのFe担持カチオン交換樹脂を乾燥樹脂量として0.5g入れて振盪器で1時間振盪し、振盪後の上澄み液の砒素濃度の分析結果から、Fe担持カチオン交換樹脂の砒素吸着量を求めたところ、0.037mmol/g−樹脂、2.77mg−As/g−樹脂であった。なお、上澄み液の砒素濃度は3.1mg/Lであった。
【0085】
[参考例3]
参考例2において、振盪時間を96時間としたことと樹脂添加量を0.02gとしたこと以外は同様にして吸着実験を行ったところ、上澄み液の砒素濃度は4.5mg/Lで、Fe担持カチオン交換樹脂の砒素吸着量は0.73mmol/g−樹脂、54.7mg−As/g−樹脂であった。
【0086】
[参考例4]
参考例2において、Feの担持処理で得られたFe担持カチオン交換樹脂を乳鉢を用いて粉砕し、粉砕後の樹脂を開き目75μmから150μmの篩を用い分級した(平均粒径150μm、均一係数1.6)。粉砕、分級後のFe担持カチオン交換樹脂のFe担持量を分析した結果、1.659meq/g−樹脂であった。
この粉砕、分級後のFe担持カチオン交換樹脂を用いて参考例2と同様に吸着実験を行ったところ、樹脂添加量を0.03gとした場合には、上澄み液の砒素濃度は3.0mg/Lで、Fe担持カチオン交換樹脂の砒素吸着量は0.63mmol/g−樹脂、46.9mg−As/g−樹脂であった。
【0087】
[参考例5]
カチオン交換樹脂として、ダイヤイオンMCI−GEL CK04Sを用いたこと以外は、参考例2と同様にしてFe担持処理を行ったところ、得られたFe担持カチオン交換樹脂のFe担持量は2.285meq/g−樹脂であった。
このFe担持カチオン交換樹脂を用いて参考例2と同様に吸着実験を行ったところ、樹脂添加量0.02gの場合には、上澄み液の砒素濃度は4.6mg/Lで、Fe担持カチオン交換樹脂の砒素吸着量は0.72mmol/g−樹脂、53.9mg−As/g−樹脂であった。
【0088】
[参考例6]
カチオン交換樹脂として、ダイヤイオンPK208を用いたこと以外は、参考例2と同様にしてFe担持処理を行ったところ、得られたFe担持カチオン交換樹脂のFe担持量は1.50meq/g−樹脂であった。
このFe担持カチオン交換樹脂を用いて参考例2と同様に吸着実験を行ったところ、上澄み液の砒素濃度は1.6mg/Lで、Fe担持カチオン交換樹脂の砒素吸着量は0.045mmol/g−樹脂、3.4mg−As/g−樹脂であった。
【0089】
[参考例7]
カチオン交換樹脂として、ダイヤイオンRCR160Mを用いたこと以外は、参考例2と同様にしてFe担持処理を行ったところ、得られたFe担持カチオン交換樹脂のFe担持量は1.309meq/g−樹脂であった。
このFe担持カチオン交換樹脂を用いて参考例2と同様に吸着実験を行ったところ、樹脂添加量0.2gの場合には、上澄み液の砒素濃度は2.6mg/Lで、Fe担持カチオン交換樹脂の砒素吸着量は0.10mmol/g−樹脂、7.5mg−As/g−樹脂であった。
【0090】
[比較例1]
参考例1において、乾燥樹脂量として0.5g(約1.2mL)とし、砒素水溶液の通液速度をSV78.6hr−1としたこと以外は同様にして吸着実験を行ったところ、通液開始初期から処理水中に0.5mg/L程度の砒素がリークした。
【0091】
〔参考例8〕
<被処理液>
吸着実験に用いた被処理液は以下のとおりである。
【0092】
(リンの吸着実験)
リンの吸着実験に被処理液として用いたリン水溶液は、1N硝酸水溶液及び1N水酸化ナトリウム水溶液と、リン酸水素二ナトリウム(NaHPO・7HO)を加えて、リン濃度=10mg/L、イオン強度I=0.05mol/L、pH=9.0となるように調整した。
【0093】
(砒素の吸着実験)
砒素の吸着実験に被処理液として用いた砒素水溶液は、1N硝酸水溶液及び1N水酸化ナトリウム水溶液と、砒酸水素二ナトリウム・7結晶水(NaHAsO・7HO)を加えて、砒素濃度=10mg/L、イオン強度I=0.05mol/L、pH=11.0となるように調整した。
【0094】
<カチオン交換樹脂のCa担持量の分析>
カチオン交換樹脂に担持されたCa量の分析は高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)により行った。
【0095】
<リン濃度の分析>
処理水中のリン濃度はモリブデンブルー法を用いて発色させ、分析は吸光度測定法により行った。
【0096】
<Ca担持カチオン交換樹脂の製造>
カチオン交換樹脂(ダイヤイオンSK104)乾燥重量5.0gに、0.1重量%の塩化カルシウム水溶液を1000mL加え、室温で1時間攪拌した。ここへ硝酸水溶液と水酸化カリウム水溶液を添加して、溶液のpHを3.0に調整してCaイオン担持カチオン交換樹脂を得た。得られたCa担持カチオン交換樹脂のCa担持量は2.045meq/g−樹脂であった。
【0097】
<リンの吸着実験>
リン水溶液200mLにこのCa担持カチオン交換樹脂を乾燥樹脂量として1.0g入れて振盪器で1時間振盪し、振盪後の上澄み液のリン濃度の分析結果から、Caイオン担持カチオン交換樹脂のリン吸着量を求めたところ、0.592mmol/g−樹脂、18.33mg−P/g−樹脂であった。なお、上澄み液のリン濃度は5.32mg/Lであった。
【0098】
<砒素の吸着実験>
砒素水溶液200mLに、Caイオン担持カチオン交換樹脂を乾燥樹脂量として1.0g入れて振盪器で1時間振盪し、振盪後の上澄み液の砒素濃度の分析結果から、Caイオン担持カチオン交換樹脂の砒素吸着量を求めたところ、0.0007mmol/g−樹脂、0.04997mg−As/g−樹脂であった。なお、上澄み液の砒素濃度は9.79mg/Lであった。
【0099】
上記の実験から砒素とリン酸が混在する溶液から、砒素イオンの吸着の際に妨害イオンとなるリン酸をCaイオン担持交換樹脂で先に前処理し、リン酸濃度を下げた溶液をFeイオン担持カチオン交換樹脂で砒素イオンを捕捉できることが分かる。
【0100】
〔参考例9〕
<Fe担持用Fe(III)溶液の調製>
2Lメスフラスコに、硝酸第二鉄・9結晶水でFe(III)濃度が1,000mg/LとなるようにFe(III)溶液を調製した。3,000mLビーカーにこのFe(III)溶液を移した後、インペラで撹拌を行ないながらpH2に調整してFe担持用Fe(III)溶液を調製した。pH調整は、1M HNOと1M NaOHを適当に薄めた溶液を調製し、マイクロピペットで1滴ずつ加えて行った。その際、できる限りNaOHを添加せずに目標pHとなるようにした。
目標pHに達したら、撹拌しながらシリンジを用いて溶液を採取し、孔径0.45μmのメンブランフィルターで濾過した。得られた濾液を濾液Iとした。
【0101】
<カチオン交換樹脂へのFe(III)担持>
Fe担持用Fe(III)溶液に、真空乾燥したカチオン交換樹脂(ダイヤイオンSK104)を投入した。1時間撹拌後、濾液Iと同様にシリンジで溶液を採取し、濾過した。得られた濾液を濾液IIとする。
濾液Iと濾液IIについてICP発光分光分析装置でFe(III)濃度を測定した。
濾液IIの採取後、カチオン交換樹脂を回収するため、孔径0.45μmの濾紙を使用してアスピレーターを用いて吸引濾過を行なった。その際、カチオン交換樹脂表面でのFe(III)の付着や沈殿生成を避けるため、硝酸を添加してpH2程度に調整した溶液で洗浄を行なった。濾過、洗浄を行なって得られたカチオン交換樹脂を約24時間加熱乾燥してFe(III)担持カチオン交換樹脂を得た。
濾液Iと濾液IIのFe(III)濃度とカチオン交換樹脂量から求めた乾燥樹脂重量当たりのFe(III)担持量は1.75meq/g−樹脂であった。
【0102】
<カラム試験>
内径9mm、長さ150mmのアクリル製のカラムに、不織布、Fe(III)担持樹カチオン交換樹脂、不織布の順で充填したカラムを準備した。Fe(III)担持カチオン交換樹脂の充填量は、乾燥重量で2.0g−樹脂又は1.0g−樹脂とした。
EYELA製MP−2000型ペリスタルティックチューブポンプ及びSMP−21型カセットチューブポンプを用い、各々のカラムに砒素水溶液を、50mL/hr(カラムの樹脂充填量が2.0gの場合)、又は25mL/hr(カラムの樹脂充填量が1.0gの場合)の一定流量で上向流で通液した。この通液量は1時間1BVに相当する。
砒素水溶液の供給に際しては、予め純水を約1時間通液して洗浄した後に、同一流量で砒素水溶液を通液した。
カラム流出液は一定時間毎に採取し、採取した液のAs(V)濃度を卓上型ICP発光分光分析装置で測定した。
As(V)濃度の測定結果から求めたAs(V)の破過曲線を図1に示した。
図1からわかるように、通液開始から192時間後まで、即ち、処理量192BVまでAs(V)イオンは漏洩せず、Fe(III)担持カチオン交換樹脂によって砒素を吸着除去することができた。
【0103】
[実施例1]
以下のとおり、被処理液に1段目バッチ試験を実施した後に、2段目バッチ試験を実施した。
【0104】
〈被処理液〉
pH:11、As(V)濃度:10.731ppm、P濃度:4.25ppmとなるように被処理液を調製した。被処理液の調製には、1N硝酸水溶液及び1N水酸化ナトリウム水溶液と、リン酸水素二ナトリウム(NaHPO・7HO)と、砒酸水素二ナトリウム・7結晶水(NaHAsO・7HO)を用いた。以下の比較例2,3においても同様である。
【0105】
〈1段目バッチ試験〉
上記の被処理液に、参考例8と同様に製造したCa担持カチオン交換樹脂を乾燥樹脂量として1g/Lを添加し、1時間撹拌したところ、溶液中の残存As(V)濃度は9.889ppm、残存P濃度は1.065ppmであった。
【0106】
1段目バッチ試験の結果から、Ca担持カチオン交換樹脂にて、Pのみが選択的に除去されたことが分かる。
【0107】
〈2段目バッチ試験〉
1段目バッチ試験後の溶液を濾過してCa担持カチオン交換樹脂を除去した濾液に対して、1N硝酸水溶液を加えてpH3に調整した。その後、この濾液に対し、参考例9と同様にして製造したFe担持カチオン交換樹脂を乾燥樹脂量として1g/Lを添加し、1時間撹拌したところ、溶液中の残存As(V)濃度は4.372ppmとなった。
【0108】
2段目バッチ試験の結果から、Ca担持カチオン交換樹脂およびFe担持カチオン交換樹脂を用いた砒素吸着装置は、As(V)単独溶液の除去能力とほぼ同じであった。つまり、Ca担持カチオン交換樹脂により、妨害イオンであるPイオン(リン酸イオン)を除去しているため、As(V)イオンおよびPイオンが共存している溶液においても充分なAs(V)イオン除去を行うことが可能であった。
【0109】
[比較例2]
以下のとおり、被処理液にバッチ試験を実施した。
【0110】
〈被処理液〉
pH:3、As(V)濃度:11.165ppm、P濃度:4.375ppmとなるように被処理液を調製した。
【0111】
〈バッチ試験〉
上記の被処理液に、参考例9と同様に製造したFe担持カチオン交換樹脂を乾燥樹脂量として1g/L添加し、1時間撹拌したが、As(V)およびPイオンともにほとんどFe担持カチオン交換樹脂には捕捉されずに溶液中にそのまま残存した。
【0112】
[比較例3]
以下のとおり、被処理液にバッチ試験を実施した。
【0113】
〈被処理液〉
pH:3、As(V)濃度:10.78ppm、P濃度:4.17ppmとなるように被処理液を調製した。
【0114】
〈バッチ試験〉
上記の被処理液に、参考例8と同様にして調製したCa担持カチオン交換樹脂と参考例9と同様にして調製したFe担持カチオン交換樹脂との混合物(樹脂の比率=1:1)を乾燥樹脂量として1g/L添加し、1時間撹拌した。
その結果、溶液中の残存As(V)濃度は9.134ppm、残存P濃度は3.672ppmとなり、As(V)およびPイオンの両者ともほとんど除去されなかった。
【0115】
[比較例4]
〈溶液の調製〉
被処理液として用いた砒素・リン酸混合水溶液は1M HNOおよび1M NaOHと、砒酸水素二ナトリウム・7結晶水(NaHAsO・7HO)およびリン酸水素二ナトリウム(NaHPO)を加えて、砒素濃度=10mg/L,AsO/PO3− モル比=1.0、イオン強度=0.05、pH=13となるように調整した。
【0116】
〈樹脂の調製〉
1M HNOおよび1M NaOHと、硝酸カルシウム・4水和物(Ca(NO・4HO)でCa(II)濃度=1000mg/L、pH=3となるように調整した。ここへカチオン交換樹脂(ダイヤイオンSK104)7.5g/Lを加えて室温で1時間撹拌した。樹脂を回収するため、濾紙0.45μmを使用してアスピレーターを用いて吸引濾過を行なった。濾過洗浄を行なった後、約24時間熱乾燥させ、これをCa(II)担持樹脂とした。このようにしてCa(II)の担持処理を行なったカチオン交換樹脂のCa(II)担持量は2.05mmol−Ca/g−樹脂となった。
【0117】
〈通液法〉
このCa(II)担持カチオン交換樹脂を内径9mm×長さ150mmのアクリル製カラムに乾燥重量として1.9g充填した後、純水を室温で流量50ml/hr(SV=21.8hr−1)で1時間通液した。ここへ上記の砒素・リン酸混合水溶液を室温にて流量50ml/hr(SV=21.8hr−1)で上向流で通液した。
この結果、通液初期には処理水中にリンのリークは認められなかったが、21時間後には2.1mg/L、44時間後には12.5mg/Lのリンがリークした。このときの樹脂へのリン吸着量は0.36mmol/Lであった。またこのとき、砒素は樹脂へは吸着せず、全量処理水へリークした。処理水の金属濃度の分析結果を図2に示した。
図1
図2