(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
スタンドオフ/外寸対角長の値が0.0001〜0.003であり、ペリクル膜がペリクルフレームの一面に接着層を介して接着されたペリクルと、該ペリクルを支持する前記請求項1乃至3の何れかに記載のペリクル支持手段とを備え、該ペリクル支持手段が前記微粘着性物質を介して前記ペリクルフレームのペリクル膜接着層側に脱着可能に設けられていることを特徴とするペリクル支持装置。
【背景技術】
【0002】
LSI、超LSIなどの半導体或は液晶ディスプレイ等の製造においては、紫外線等の波長の短い光をフォトマスクに照射して、半導体ウエハあるいは液晶用ガラス上にパターンを作成する露光機が使用されている。この時に用いるフォトマスクにゴミが付着していると、このゴミが紫外光を遮ったり、反射するために、転写したパターンの変形、短絡などが発生し、品質が損なわれるという問題があった。
【0003】
そのため、これらの作業は通常クリーンルームで行われているが、それでもフォトマスクを常に清浄に保つことが難しいので、フォトマスク表面にゴミよけとしてペリクルを貼り付けした後に露光を行っている。この場合、異物は、フォトマスクの表面には直接付着せず、ペリクル上に付着するため、リソグラフィー時に焦点をフォトマスクのパターン上に合わせておけば、ペリクル上の異物は転写に無関係となる。
【0004】
また、一部の特殊用途として、フォトマスク以外の露光機内の光学部品に装着されるペリクルも存在する。露光機内にはミラー、レンズ、ウィンドウ等、紫外光が反射、透過する光学部品が多数搭載されており、これら光学部品は、光源からの紫外光をフォトマスクやワーク(半導体ウエハあるいは液晶基板)へ導いている。これらの光学部品に異物や汚れの付着があると、露光品の品質に影響が出かねないため、フォトマスクほどの清浄度ではないにしろ、これら光学部品に関しても可能な限り清浄に保つ必要がある。
【0005】
さらに、これら光学部品は、精密な位置調整をされて取り付けられているため、製造現場においてこれらを個別に取り外してクリーニングすることは極めて困難である。そのため、ひとたび汚染が生じてしまうと、そのクリーニングや再調整に多大な時間を要することとなり、大きな稼働率低下を招くことになる。そこで、これを防止するために一部の露光装置においては、フォトマスクだけでなく、これら光学部品にもペリクルを取り付けて、汚染が生じた際にこれを交換することが行われている。
【0006】
このようなペリクルは、一般に、光を良く透過させるニトロセルロース、酢酸セルロースあるいはフッ素樹脂などからなる透明なペリクル膜を、アルミニウム、ステンレス鋼、エンジニアリングプラスチックなどからなるペリクルフレームの枠状を成す一面に接着して構成されている。また、ペリクルフレームのもう一面には、フォトマスクに装着するためのポリブデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等からなる粘着層及び粘着層の保護を目的とした離型層(セパレータ)が設けられている。
【0007】
ペリクルには、フォトマスクに装着するペリクルと、それ以外の光学部品に装着するペリクルが存在するが、これらペリクルの間に構造上の大きな違いはない。もっとも、光学部品に装着するペリクルは、頻繁に交換されるフォトマスク用と比較して、必然的に長期間使用されることになるため、より高い耐光性が要求される傾向がある。また、フォトマスク用のペリクルでは粘着剤による取り付けが一般的であるが、光学部品用のペリクルでは粘着性のないガスケット層を設け、ねじなど機械的な固定手段で取り付けることもある。
【0008】
例えば、特許文献1には、ペリクルフレームのフォトマスク側の端面にガスケットの機能を有す弾性体層を設け、これをねじなどの締結手段で加圧して高い密封性を保持することができるペリクルが記載されている。このペリクルによれば、マスク粘着層が不要であり、しかもフォトマスクに与える歪を極めて小さく抑えることができるとされている。そして、このようなペリクルでは、本来、被保護面(フォトマスクのパターン面など)からペリクル膜面までの距離(以下、「スタンドオフ」と記す)は、大きいほど異物のデフォーカス性能が高くなることから、大きい方が好ましいとされている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
本発明のペリクル
支持装置では、
図4に示すように、ペリクル10のペリクル膜接着層12側にペリクル支持手段20が配置され、両者は、締結手段17を介して締結されている。
図5は、矩形のペリクル10とペリクル支持手段20とを分離した状態を示す。
【0021】
本発明
が適用されるペリクル10は、スタンドオフ(マスク粘着層込みの高さ)と外寸対角長の比(スタンドオフ/外寸対角長)が0.0001〜0.003であり、その枠状を成す一面上には、ペリクル膜接着層12が設けられ、ペリクル膜14が張設されている。また、その対面には、マスク粘着層13が設けられ、その表面には必要に応じてマスク粘着層13を保護するセパレータ15が取り付けられる。
ここで、外寸対角長とは、
図10に示すように、矩形のペリクルの長辺外形と短辺外形を延長して交差した点間の長さである。一般的な矩形のペリクルフレームでは、角部の外側に幾ばくかのR面取りが成されているが、このR部を無視した対角の長さである。
【0022】
スタンドオフ/外寸対角長の値が0.0001未満のペリクルでは、ペリクル10としての形状維持が困難であり、その採用が難しいからである。また、0.003を超えるものではそれなりに実用的な剛性が確保されるために、ハンドリング時の問題が少なく本発明を適用するメリットが少ないからである。
したがって、本発明が適用される「剛性が低いペリクル」は、材質にも左右されることではあるが、材質が一般的なアルミニウム合金の場合、スタンドオフ/外寸対角長が0.003を下回るようなサイズのペリクルが好ましい。
【0023】
一方、ペリクル10のスタンドオフは、使用する露光装置側の要求事項から決定されるが、例えば、長辺が150mm位の辺長の短い半導体用のペリクルでは、スタンドオフが0.5mm以下の場合にハンドリング時の問題が生じ易い。また、長辺が900〜1700mmの液晶に使用する大型のペリクルでは、スタンドオフが7mmの場合でもハンドリングに際して十分な剛性があるとは言い難く、6mmを下回ってくるとハンドリングし難いという問題が生じる。もう少し小型の長辺が400〜800mm程度の液晶用のペリクルでは、スタンドオフが2.5mm以下になると、ハンドリング時に問題が生じ易くなる。
したがって、本発明が適用される「スタンドオフの小さいペリクル」は、ペリクル10の辺長にもよるが、スタンドオフの具体的な数値が0.2〜6mm位までのペリクルが好ましい。
【0024】
ペリクルフレーム11の形状は、
図1〜
図4の実施形態では矩形であるが、角部に斜辺を有する八角形や円形など他の形状でもよく、特に限定されるものではない。円形のペリクル10の場合は、前記の外寸対角長は外寸直径に相当すると考えてよい。
【0025】
ペリクルフレーム11の材質は、アルミニウム合金、マグネシウム合金などの軽合金、ステンレス鋼、炭素鋼をはじめとする鉄系合金に加えて、GFRP、CFRPなどの繊維強化プラスチックを用いることができる。特に、ステンレス鋼などの剛性が高く耐食性も良い金属を用いことが好ましく、レーザー切断、切削加工等の加工方法により製作することが良い。繊維強化プラスチックの場合は、膜張力方向の剛性確保という点では好ましいが、本発明のようにスタンドオフが小さいペリクルでは、剛性に異方性があることから特に捩れが生じやすくなるため、その取扱いがやや難しい。
【0026】
ペリクルフレーム11のいずれの材質においても、その表面は防錆、発塵防止のために耐光性のある材質で塗装、メッキ、陽極酸化処理などの表面処理が適切に施されていることが好ましい。また、使用時における露光光の反射防止と、付着異物の視認を容易にするために黒色とされていることが特に好ましい。
【0027】
ペリクル膜接着層12は、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂などの公知の接着剤を用いて、エア加圧式ディスペンサなどの塗布手段によってペリクルフレーム11上に平滑に塗布して形成される。
【0028】
ペリクル膜14は、使用する露光機の光源波長に応じてフッ素系樹脂、セルロース系樹脂などからなる膜材料を選択し、スピンコート法、ダイコート法などを用いて平滑基板上に成膜し、これを乾燥させた後に基板上から剥離して得ることができる。また、必要に応じて反射防止層を設けることも良い。露光機内の光学部品用途に対して使用するペリクルの場合は、交換頻度を延長させるために耐光性に優れたフッ素系樹脂を用いることが特に好ましい。
【0029】
ペリクル膜14の膜厚は、透過率、膜強度を考慮して総合的に判断して設定すれば良いが、厚さ0.2〜10μmの範囲が好適に用いられる。そして、ペリクル膜14は、シワや弛みが生じず、なおかつペリクルフレーム11に過度の撓みが生じないように、適切な張力を掛けてペリクルフレーム11上のペリクル膜接着層12に接着することが好ましい。
【0030】
マスク粘着層13は、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤、ホットメルト粘着剤などの公知の材料を用いることができる。また、必要に応じて、その表面を平坦化する処理を施しても良い。さらに、その表面には必要に応じてマスク粘着層13を保護するセパレータ15を取り付けることができるが、このセパレータ15は、厚さ0.05〜0.3mm程度のPETなどからなるフィルムの一面に離型剤を塗布し、マスク粘着層13の外形に合わせて切断したものを利用することができる。
【0031】
フォトマスク用のペリクル10の場合は、一般に、このようなマスク粘着層13によりペリクル10をフォトマスク91へ粘着させて取り付けるが、近年では、マスク粘着層13に代えて粘着性のない弾性体からなるガスケット層を設け、クリップやボルトなどの機械的手段により取り付ける方法も提案されているので、それらを適用することもできる。
【0032】
また、露光機内の光学部品用のペリクル10の場合は、装置側にクランプ機構、ねじ、バックル、クリップ、静電力、磁力などの様々な種類の固定手段を設けることができる。そのため、必ずしも粘着力を有するマスク粘着層13を用いることはない。装置側にガスケット層を設けた場合には、ペリクルフレーム11の表面にマスク粘着層やガスケット層に類するものを何も設けないという選択も可能である。本発明は、そのような場合においても適用が可能である。
【0033】
さて、以上のような部材で構成されるペリクル10は、ペリクル膜接着層12側に配置された平板状または枠状を成すペリクル支持手段20と締結手段17を介して締結されて一体で取り扱われることが良い。そして、このペリクル10は、取り付け時までペリクル支持手段20と一体で運用・運搬され、ペリクル10を被保護面へ取り付けた後は、締結手段17の締結が解除され、ペリクル支持手段20は取り外される。
【0034】
このようなペリクル支持手段20は、
図5に示すように、枠状をなす支持体16とペリクル10と締結する締結手段17、ハンドリングに使用する把持部18から構成されている。支持体16は、この実施形態では枠状となっているが、ペリクル膜14に接触しないように配慮されていれば良く、平板状のものや、間に補強が入った枠形状のものとすることもできる。また、ペリクル支持手段の外形は、ペリクル10の外形に略一致させて設計することが良く、例えば、
図6は、円形のペリクル10に適用したペリクル支持手段60を示すものであり、円形の支持体61に締結手段62と把持部63が設けられている。
【0035】
支持体16の材質としては、アルミニウム合金などの軽量で、高剛性な金属を用いることが好ましく、パイプ材などを用いた中空構造とすることも好ましい。ただし、パイプ材を用いた場合は、発塵防止のために開口部を塞ぐ処理が必要である。
ここで、支持体16のペリクル締結側の平面度は、その大きさにもよるが、締結したペリクルにうねりなどが生じて取り付けに不具合が発生することを防止するために、少なくとも0.5mm、好ましくは0.2mm以下とすることが好ましい。
【0036】
把持部18は、ペリクルのハンドリングに用いるためのものであり、適切な強度の金属やエンジニアリングプラスチックで製作することが好ましく、手で直接、または治具などでこれを把持してハンドリングをすることができる。
【0037】
ペリクル10とペリクル支持手段20とを締結する締結手段17は、微粘着性物質から構成され、
図5及び
図6に示すように、ペリクル支持手段20上に複数個所に分割して配置することが良い。この配置や個数については、ペリクル10にフレームの変形や膜のシワなどが生じずに、安定して固定できる位置で決定すれば良いが、矩形のペリクル10の場合は、少なくとも四つの角部は含まれている必要がある。
【0038】
また、複数個所に配置された締結手段17の個々の粘着力は、垂直方向に0.5mm/sの速度で引き剥がした場合に0.01〜0.5Nの範囲であることが好ましい。0.01N未満では固定力が小さすぎて安定した保持ができず、0.5Nを超えると粘着力が強すぎてペリクル10からペリクル支持手段20を取り外すことが困難となるからである。
【0039】
締結手段17のこのような微粘着性物質としては、シリコーンまたはウレタンから選択されるゲル状物質が良く、板状に成形したものから切り出し加工するか、所望の形状からなる型に注型成形すれば良い。使用するゲル状物質は、表面の粘着力を考慮して選択すれば良いが、その他に、硬度も考慮する必要がある。最適な硬度は、使用する厚さとも関連するが、選択する素材自体の目安として、アスカーC硬度計で50以下であるものが良い。50を超えるとペリクル10の取り付け後にペリクル支持手段20を傾斜させ難くなるため、締結手段17の剥離が困難となるためである。ただし、柔らかすぎる場合も形状が安定せず作業しにくくなるため、針入度で90を超えないものが良い。
【0040】
この締結手段17は、支持体16の一面に取り付けられ、微粘着性物質だけで構成されていても良いが、選択した硬度、寸法によっては柔らかすぎて形状が一定に保てない恐れがある。そのため、締結手段17の構成としては、樹脂や金属などのスペーサーを用いてその上部だけを微粘着性物質とする構成が特に好ましい。この場合、微粘着性物質の厚さは、先端で1〜5mmとすることが好ましい。
【0041】
また、締結手段17は、
図1〜6の実施形態では円柱状で円形断面となっているが、楕円や矩形といった他の断面形状とすることもできる。締結手段17のペリクル10との接触形状は、平面とすれば良いが、わずかな凸を持つ曲面形状とすると、支持手段20の取り外しが容易となるため好ましい。締結手段17の大きさや形状、ペリクルとの接触面積は、ペリクル10を締結する粘着力を考慮して決定すれば良いが、ペリクル膜14への接触防止の観点から、その接触幅は、ペリクル膜接着層幅の70%以下とすることが良い。
【0042】
さらに、締結手段17は、ペリクルフレーム11に炭素鋼やフェライト系ステンレス鋼などの磁性材料を用いた場合、磁石で構成することも考えられる。ペリクルフレーム11は、全体を磁性材料で製作する以外に、磁性体を埋め込んだり、表面に接着やコーティングすることで同等の機能を持たせることもできるが、この場合、締結手段の磁力は、ペリクルの支持、固定に支障がない範囲で選択すれば良い。もっとも、磁力の場合は、如何に調整しても締結時にゆっくり固定することが難しく、また逆に取り外す瞬間には大きな力が必要となり、スムーズな操作が難しいため、永久磁石でなく電磁力を使用したり、機械的な操作で磁力を減衰する手段の追加が必要となる。
【0043】
本発明のようなスタンドオフの小さいペリクル10は、極めて剛性が低く安定性に欠けるため、ペリクル支持手段20を必要に応じて頻繁に脱着することにはかなりの困難さがある。そのため、ペリクル10を製作する段階において、ペリクル10とペリクル支持手段20を締結し、顧客先でペリクル10が使用される直前まで一体で運用・運搬されることが好ましい。したがって、この観点から、ペリクル10とペリクル支持手段20は、締結手段17を介して締結された状態でペリクル収納容器70に収納され、保管ならびに運搬されることが好ましい。
【0044】
図7及び
図8は、本発明によるペリクル10を収納するペリクル収納容器70を示すものである。
図7は、全体の斜視図であり、
図8は、
図7中のD−Dでの断面図である。ペリクル収納容器70は、ペリクル収納容器本体71と蓋体72から構成され、ペリクル収納容器本体71上にペリクル支持手段20と締結したペリクル10を載置し、周縁部で嵌合密閉するようになっている。この周縁部は、粘着テープ(図示しない)などで密閉するか、クリップやバックル(図示しない)などを用いて固定し、ペリクル収納容器本体71から蓋体72が外れないように構成されていることが好ましい。
【0045】
ペリクル収納容器本体71や蓋体72の材質は、厚さ2〜8mmのPMMA、PAN、ABS、PC、PVCなどの樹脂を用いて、射出成型または真空成形などの加工方法により製作することが良い。ペリクルの辺長が1500mmを超えるような特に大型のペリクルでは、剛性を確保するためにペリクル収納容器本体71にアルミニウム合金、マグネシウム合金、ステンレス鋼などの金属を用いても良い。また、他の剛性を向上させる手段として、板状あるいは棒状の補強手段を外面に取り付けることもできる。
【0046】
また、ペリクル収納容器70は、付着異物の視認性を向上させる観点から、黒色とすることが好ましく、蓋体72は、その内部を確認する目的から透明とすることが好ましい。そして、素材の選択または表面のコーティングによって導電性や難燃性を確保することも好ましい。
【0047】
ペリクル支持手段20の把持部18は、ペリクル収納容器本体71上に設置された固定部73に搭載されることが良い。また、この固定部73に把持部18と嵌合する溝や凹みなどを設けて、ペリクル支持手段20が水平方向に移動しないように規制することが好ましく、さらに把持部18の上端が蓋体72の内側で規制されるようにすることが良い。ペリクル10及びペリクル支持手段20を支持する高さは、ペリクル10に過大な荷重がかからないように、下面がペリクル収納容器本体71の表面に接触する程度に設定することが好ましい。
【0048】
また、固定部73は、擦れによる発塵を防止するために、PA、POM、PE、PEEKなどのエンジアリング樹脂や、ウレタン系、シリコーン系、フッ素系、オレフィン系などのエラストマーを用いて構成することが好ましく、帯電防止性が付与されていればなお好適である。そして、この固定部73は、切削加工や射出成型、注型成形などの公知の方法で製作すれば良く、ボルトなど(図示しない)によってペリクル収納容器本体71に固定される。
【0049】
ペリクル10は、このような構成によってペリクル支持手段20を介して間接的にペリクル収納容器70内で固定され、ペリクル収納容器70の輸送中にも動くことがないため、変形をはじめとする破損や異物の付着が防止される。
【0050】
次に、
図9(a)、(b)、(c)、(d)は、本発明のペリクル10を被装着面のフォトマスク91に装着する方法(手順)を示す断面模式図である。
【0051】
最初に、ペリクル収納容器70の蓋体72を開けた後に、把持部18を把持してペリクル支持手段20と締結手段17を介して締結されたペリクル10を取り出す(図示しない)と共に、検査などの所定の工程を経た後に、ペリクル10のセパレータ15を剥離して用意しておく。そして、
図9(a)では、用意したペリクル10とペリクル支持手段20を搬送して、フォトマスク91に対して位置調整を行って所定の取り付け位置に合わせる。
【0052】
次に、
図9(b)では、そのままペリクル10とフォトマスク91を近接させてマスク粘着層13を接触させる。この操作は、簡単な治具を用いて手作業で行うこともできるが、ペリクル支持手段20を把持し移動させる搬送手段(図示しない)を用いるのが好ましい。なお、この段階ではマスク粘着層13は軽く接触した状態であり、接着はしているものの完全な接着力は得られていない。
【0053】
また、
図9(c)では、ペリクル支持手段20をペリクル10から取り外す(剥離する)操作を行う。ペリクル支持手段20をペリクル10から斜めに引き離す操作に従って、支持体16上に複数配置されている微粘着性の締結手段17の表面から、順次ペリクル10の剥離が進行して、全ての箇所で剥離が終了したときに、ペリクル支持手段20をペリクル10から取り外すことができる。
【0054】
そして、最後に、
図9(d)では、速やかにペリクル支持手段20を取り外すと共に、別途設ける加圧手段(図示しない)によって、ペリクル支持手段20を取り外したペリクル10に対して所定の荷重を掛けて、マスク粘着層13を介してペリクル10をフォトマスク91に完全に装着させることができる。
【0055】
なお、この操作は、クリップなどマスク粘着層とは異なる固定手段を採用したペリクルの場合や、ペリクルを取り付ける対象がフォトマスクでなく露光機の光学部品であっても同様に実施することができる。所定のペリクル固定手段を動作させてペリクルを固定し、ペリクル支持手段20を斜めに引き離して取り外すという点では何ら変わるところがない。また、
図9の実施形態では作業性と異物付着低減の観点からフォトマスク91を傾斜配置し、この傾斜状態で各作業を実施しているが、水平や垂直などの別の配置状態で実施しても良い。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。この実施例では、最初に、
図1〜
図5に示すようなペリクル10及びペリクル支持手段20を製作したので、その製作手順について説明するが、全ての作業はクラス10のクリーンルーム内で行った。
【0057】
ペリクルフレーム11は、SUS304ステンレス鋼をレーザー切断と機械切削により加工したもので、外寸756x913mm、内寸740x901mm、角部内側R2mm、角部外側R6mm、高さ1.8mmとした。また、ペリクルフレーム11の各長辺には、直径0.4mmの通気孔(図示しない)をそれぞれ8個設けた。そして、稜部はC0.2mm程度の面取り(図示しない)を施して、全面をRa0.5程度にサンドブラストした後に黒色ニッケルメッキを施した。
【0058】
次に、このペリクルフレーム11を界面活性剤と純水で良く洗浄し乾燥した後に、枠状を成す一面上にマスク粘着層13として、シリコーン粘着剤(商品名;KR3700、信越化学工業(株)製)を3軸直交ロボット上に搭載したエア加圧式ディスペンサで塗布した。このときのマスク粘着層の厚さは1.2mmであり、オーブン中で130℃に加熱して完全に硬化させた。また、マスク粘着層13の表面には、厚さ125μmのPETフィルムの片面に離型剤を塗布し、ペリクルフレーム11の外形と略一致した形状に切断して製作したセパレータ15を貼り付けた。
なお、このペリクルフレーム11は、その垂直方向の剛性が極めて低く、ハンドリングすることができなかったため、これらの作業は、ペリクルフレーム11をアルミニウム製の平板(図示しない)上に載置したまま行った。
【0059】
マスク粘着層13が形成された後に、このペリクルフレーム11を上下反転し、前記と同様にして、マスク粘着層13の対面上にペリクル膜接着層12として、シリコーン粘着剤(商品名;KR3700、信越化学工業(株)製)を厚さ50μmとなるように塗布し、オーブンにて130℃に加熱して完全に硬化させた。また、長辺の通気孔を覆うように、PTFE多孔質膜からなるフィルタをアクリル粘着シートで接着した(図示しない)。
【0060】
ペリクル膜14は、その材料としてフッ素系樹脂(商品名;サイトップ、旭硝子(株)製)を用いた。そして、先ず、850x1200x厚さ10mmの合成石英からなる成膜基板上にダイコート法にて成膜し、溶媒を乾燥させた後に基板外形と同寸の仮枠を接着して成膜基板から剥離し、厚さ4.5μmの剥離膜を得た。その後、この剥離膜をペリクルフレーム11上のペリクル膜接着層12に接着してペリクル膜14とし、ペリクルフレーム11外側の余剰膜をカッターで切断除去してペリクル10を完成させた。
【0061】
以上の製作手順を経て完成したペリクル10は、そのマスク粘着層13の厚さが1.2mmであるから、ペリクルフレーム11の高さ1.8mmと合わせた高さ、すなわちスタンドオフは、3.0mmである。そして、このペリクルフレーム11の外寸対角長は、1185.37mmであるから、スタンドオフと外寸対角長との比(スタンドオフ/外寸対角長)は、0.0025である。
【0062】
次に、ペリクル支持手段20の製作手順について説明すると、先ず、ペリクル支持手段20を構成する支持体16は、A6063アルミニウム合金の20x20mmの角パイプを溶接にて組み上げた外寸780x940mmの枠状のものであり、その一面を機械切削により平面度0.2mmに仕上げた。その面に18個の締結手段17を取り付けて、四か所の角部付近には帯電防止POMで製作した把持部18をボルト(図示しない)により取り付けた。
【0063】
また、締結手段17は、その材料として2液を混合したシリコーンゲル(商品名;KE1051、信越化学工業(株)製)を用いて注型成形して製作したものであり、円筒形のSUS304製の下地(図示しない)の上に注型成形して硬化させた。このときの締結手段17のペリクル10との接触面の直径は、約4mmとした。次に、この締結手段17をSUS304製の下地部分に設けた雌ねじを介して、ボルト(図示しない)により支持体16上に取り付けた。
【0064】
そして、以上の手順で製作したペリクル支持手段20を平板上に載置したペリクル10に対して位置調整し、ペリクル10のペリクル膜接着層12及び接着したペリクル膜14に押し付けて、締結手段17の粘着力によってペリクル支持手段20をペリクル10に接着させた。このときの締結手段17の粘着力は、事前に速度0.5mm/sで引き剥がした時に確認した値では0.15N/箇所であった。
【0065】
最後に、ペリクル10と一体化したペリクル支持手段20を様々な姿勢で運搬し、外観、異物、膜の透過率などの検査を行ったところ、ペリクルフレーム11の変形やペリクル膜14のシワなどの欠陥の発生はなく、また、締結手段17から脱落する部分も見られず、安定してペリクル10をハンドリングできることが確認された。
【0066】
次に、本発明のペリクル10を収納するために、
図7及び
図8に示すようなペリクル収納容器70を用意した。これは、厚さ5mmの帯電防止ABS樹脂板を用いて、真空成形により製作したものである。このペリクル収納容器本体71上には、ペリクル支持手段20の把持部18が嵌合する帯電防止PE製の固定部73がボルト(図示しない)により取り付けられており、このペリクル収納容器70を界面活性剤と純水で良く洗浄し、完全に乾燥させた。
【0067】
このペリクル収納容器70には、ペリクル10とペリクル支持手段20を収納した。ペリクル支持手段20の把持部18を固定部73の溝に収納した後、ハンドリング時に接触していた箇所について純水を浸潤させたPVA製ワイパーでクリーニングを行った。そして、蓋体72を被せて周縁部をPVC製粘着テープにてシールし、最後に、蓋体72の内面が収納した把持部18の上面に接触して押圧することで、ペリクル支持手段20及びペリクル10が固定されていることを確認した。
【0068】
そして、この梱包形態を評価するために、ペリクル10、ペリクル収納容器支持手段20を収納したペリクル収納容器70をクッション材と段ボール箱にて梱包し、約1000kmのトラック輸送を行って、再びクリーンルーム内に搬入して内部を確認したところ、ペリクル収納容器70内においてペリクル10は、ペリクル支持手段20としっかり締結されたままであり、ペリクルフレーム11の変形やペリクル膜14のシワ等の欠陥は見られなかった。また、固定部73と支持手段18の擦れによる発塵も特に見られなかった。
【0069】
次に、
図9(a)〜(d)に示す手順に従って、本発明のペリクル10の貼り付け状態(装着状態)について評価を行った。先ず、
図9(a)に示すように、800x950x厚さ10mmの石英ガラスからなる清浄なフォトマスク91を用意し、これをスタンド(図示しない)上に垂直から10°傾斜させて載置した。そして、ペリクル支持手段20が締結されたペリクル10をフォトマスク91に近づけると共に、所定の貼り付け位置になるように位置調整を行いつつそのまま近づけて、
図9(b)に示すように、ペリクル10のマスク粘着層13をフォトマスク91に接触させた。なお、マスク粘着層13を保護しているセパレータ15は事前に剥離しておいた。
【0070】
次に、
図9(c)に示すように、ペリクル支持手段20をゆっくり斜めに移動させることで締結手段17をペリクル10から順次剥離させて、ペリクル支持手段20を取り外した。
図9(d)は、ペリクル支持手段20を取り外した後のペリクル10の状態を示すものである。
【0071】
そして、最後に、フォトマスク91に仮接着したペリクル10を加圧手段(図示しない)にて加圧力120kgfで加圧して、マスク粘着層13をフォトマスク91に完全に接着させた状態でペリクル10を良く観察したところ、ペリクルフレーム11は、変形なく貼り付けられていると共に、ペリクル膜14にもシワや弛みは見られず、正常に取り付けられていることが確認された。
【0072】
比較例では、スタンドオフが小さく、ペリクルフレームの剛性が低い実施例と同じペリクルを同じ工程にて製作したので、比較例のペリクルは、実施例のペリクル10と比べて、ペリクルフレームにペリクル支持手段が設けられていない点で相違するだけである。
【0073】
また、比較例では、このペリクルフレームも、その垂直方向の剛性が低く、ハンドリングすることができないため、ペリクルフレームをアルミニウム製の平板上に載置したままペリクルを製作した。そして、この作製したペリクルについて、その状態で膜面に集光ランプを照射し、外観や異物の検査を行ったところ、特段の異常は見られなかった。
【0074】
次に、このペリクルを実施例と同じペリクル収納容器70に収納するために、作業者2名で何とかペリクルを持ち上げることができたが、すぐにペリクルフレームが捩れてペリクル膜にシワが入ってしまった。そのため、直接フォトマスクへの貼り付け評価を実施しようとしたが、このペリクルをハンドリングする段階でペリクルフレームが捩れてペリクル膜にシワが入ってしまったために、貼り付け作業を行うことができなかった。