(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の流体吹込装置の一例として、流れを伴った液体に対して流体の一例としての気体を吹き込む気体吹込装置について説明するが、本発明はこの点において限定されるものではなく、流れを伴った液体に液体を吹き込む液体吹込装置であってもよい。なお、液体吹込装置の場合には、吹き込まれる液体と吹き込む液体とが異なる液体の場合に適用可能である。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る気体吹込装置の概略図である。具体的には、
図1(a)及び(b)は、各々、本発明の一実施形態に係る気体吹込装置の概略側面図及び概略斜視図である。
【0012】
以下、上流側から下流側に向かって同一の方向に直線的に流れている液体(
図1の矢印Lf参照)中に、垂直方向の上方側から気体吹込管11を挿入することで、液体に対して気体を吐出する場合を例として説明する。なお、
図1(a)において、紙面に対して垂直方向がX方向、上下方向がY方向、左右方向がZ方向である。
【0013】
図1(a)及び(b)に示すように、本発明の一実施形態に係る気体吹込装置は、気体吹込管11と、偏流部材12とを有する。
【0014】
気体吹込管11は、Y方向を長手方向とし、Y方向からの平面視における形状が円形である管状部材である。気体吹込管11の一端(
図1の−Y方向の先端)には、気体を吐出する吐出口11aが設けられている。気体吹込管11の他端には、気体吹込管11に気体を供給する気体供給源が接続されている。そして、気体供給源から供給される気体は、気体吹込管11の一端に設けられた吐出口11aから吐出される。係る気体吹込管11の吐出口11aを液体中に挿入した後、吐出口11aから気体を吐出させることで、液体中に気体が吐出される。
【0015】
偏流部材12は、吐出口11aよりも上流側に設けられ、吐出口11aから吐出される気体が液体中において到達する領域(以下「気泡領域」ともいう。)の液体の流れが気泡領域よりも上流側の液体の流れよりも高速となるように液体の流れを変化させる部材である。気泡領域は、液体の流速、吐出口11aの直径及び吐出口11aから吐出される気体の流速に基づいて算出される。
【0016】
気泡領域は、ナビエ-ストークス方程式を解いて求められる。具体的に説明すると、気体を上向きに吹き込む際は吐出口よりも上の領域であり、気体を下向きに吹き込む際は、吐出口の近くでは吐出口よりも下の領域、遠くでは上の領域が含まれる。
【0017】
偏流部材12は、平面視においてV字形状を有する板状部材であり、板状部材の表面が液体の流れに対して所定の角度θの傾きをもって設けられている。所定の角度θとしては、偏流部材に衝突後の流れと非衝突の流れの速度差が大きくなるという観点から、30°以上90°以下であることが好ましい。
【0018】
また、偏流部材12は、液体の流れの下流側に位置する部分が液体の流れの上流側に位置する部分よりも吐出口11aの近くに設けられ、液体の流れの下流側に位置する部分が気体吹込管11に取り付けられている。
【0019】
係る構成を有する気体吹込装置において、吐出口11aから吐出される気体は、気泡領域を流れる液体と接触する。このとき、気体吹込装置には、気泡領域の液体の流れが気泡領域よりも上流側の液体の流れよりも高速となるように偏流部材12が設けられている。このため、液体の流れと気体の流れとの間の速度差が大きくなり、液体による気体に対するせん断作用が大きくなる。結果として、吐出口11aから吐出される気体は、高速流となった液体によるせん断作用によって細かく分断され、微細な気泡となる。すなわち、微細な気泡を液体中に供給することができる。
【0020】
また、係る気体吹込装置では、偏流部材12が気体吹込管11の外部である吐出口11aの上流側に設けられている。さらに、吐出口11aの吐出方向とは逆側に設けられている。このため、液体と気体とが反応して固体が生成される場合や、固体粒子が懸垂している液体に気体を供給する場合であっても、液体中の固体粒子によって吐出口11aが閉塞することを抑制することができる。結果として、気体を安定的に液体中に供給することができる。
【0021】
次に、液体の流れについて、
図1及び
図2を参照しながら説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る気体吹込装置を用いたときの液体の流速のシミュレーション結果を示す図である。なお、
図2中の矢印は液体の流れの方向を示している。また、
図2において、領域Z1の流速が最も速く、領域Z2、領域Z3、領域Z4、領域Z5、領域Z6、領域Z7、領域Z8、領域Z9、領域Z10、領域Z11、領域Z12の順に流速が速いことを示している。
【0022】
図1及び2に示すように、上流側から下流側に向かって流れる液体のうち偏流部材12と接触する流れは、偏流部材12により吐出口11aの近傍の方向にその向きが変えられる(
図1(a)の矢印A参照)。一方、上流側から下流側に向かって流れる液体のうち偏流部材12と接触しない流れは、偏流部材12によりその向きが変えられない、又はほとんど変えられない(
図1(a)の矢印B参照)。そして、これらの液体の流れが、吐出口11aの近傍において合流することで、吐出口11aの近傍の気泡領域の液体の流れ(
図1(a)の矢印C参照)が気泡領域よりも上流側の液体の流れ(
図1(a)の矢印Lf参照)よりも高速となる。
【0023】
以上に説明したように、本発明の一実施形態に係る気体吹込装置は、流れを伴った液体に流体を吐出する吐出口11aを有する気体吹込管11と、吐出口11aよりも液体の流れの上流側に設けられた偏流部材12とを有し、偏流部材12は、気泡領域の液体の流れが気泡領域よりも上流側の液体の流れよりも高速となるように、液体の流れを変化させる。このため、微細な気泡を安定的に液体中へ供給することができる。
【0024】
以上、図面を参照しながら本発明の一実施形態に係る流体吹込装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能である。
【0025】
前述の気体吹込装置では、偏流部材12が平面視においてV字形状を有する構成について説明したが、本発明はこの点において限定されるものではない。偏流部材12は、例えば
図3に示すように平面視において三角形状を有していてもよく、例えば
図4に示すように漏斗形状を有していてもよい。
【0026】
このように、偏流部材12としては、種々の形状を有する構成が挙げられるが、以下の観点から平面視においてV字形状を有することが好ましい。すなわち、偏流部材12が平面視においてV字形状を有する場合、
図1(b)に示すように、偏流部材12に衝突した液体の一部は、偏流部材12に衝突しない液体と合流して、V字形状の外側を通る流れ(
図1(b)の矢印D参照)と、V字形状の内側を通る流れ(
図1(b)の矢印E参照)とが生じる。このうち、V字形状の内側を通る流れは狭い空間に集められて偏流部材12を通過するものであるため、V字形状の外側を通る流れよりも速い高速流となる。そして、吐出口11aから供給される気体は、偏流部材12と気体吹込管11との間の空間が低圧となっているため、この空間に引き込まれ、高速流のせん断作用によって分断される。このため、特に微細な気泡を液体中へ供給することができる。
【0027】
また、前述の気体吹込装置では、偏流部材12が気体吹込管11に取り付けられている構成について説明したが、本発明はこの点において限定されるものではない。偏流部材12は、例えば
図4に示すように、気体吹込管11に取り付けられることなく、別途設けられた支持機構13により液体中に保持されていてもよい。
【0028】
また、前述の気体吹込装置では、気体吹込管11が挿入される方向として、垂直方向の上方から下方に向かって挿入される構成について説明したが、本発明はこの点において限定されるものではない。例えば気体吹込管11は、垂直方向の下方から上方に向かって挿入される構成であってもよく、水平方向から挿入される構成であってもよい。
【0029】
このように、気体吹込管11が挿入される方向としては種々の構成が挙げられるが、吐出される気体の運動量が浮力で減殺され、気体の移動方向が液体の流れにより容易に制御できるという観点から、垂直方向の上方から下方に挿入される構成が好ましい。
【0030】
また、本発明の一実施形態に係る気体吹込装置は、吐出口11aから吐出される気体として、液体に含まれる物質と化学反応する物質を用いることで液体と気体との界面において液体と気体とを化学反応させる化学反応装置の一部として用いられる。化学反応装置は、例えば液体が収容される容器と、液体に気体を供給する気体吹込装置とを備え、必要に応じて気体の流速を上げる流送装置や、気体の流量を減らす流量調整弁を備える。
【0031】
以上に説明したように、本発明の一実施形態に係る気体吹込装置によれば、微細な気泡を安定的に液体中へ供給することができる。このため、液体と気体とが接触する界面の面積を大きくすることができる。結果として、液体と気体とを化学反応させる化学反応装置において、気体と液体中に含まれる物質との間の反応効率を向上させることができる。
【0032】
なお、気体の種類としては、例えば酸素、塩素、水素、硫化水素等を用いることができ、液体の種類としては、例えば水溶液、有機溶媒、液体塩素、熔融金属等を用いることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
実施例1では、流速1.6m/秒で水平方向に流れる水中に、水の流れに対して垂直方向の上方から
図1に示した気体吹込管11と偏流部材12とを有する気体吹込装置を挿入し、吐出口11aから水中に空気を3L/分の流量で吐出させた。なお、気体吹込管11の直径を7mm、偏流部材12の水の流れの方向に対する角度θを60°とした。
【0035】
また、気体吹込装置から水中に空気を吐出させたときの気泡の生成挙動の可視化を行った。
図5は、気泡の生成挙動を可視化した画像を示す図である。なお、
図5において、左側が水の流れの上流側であり、右側が水の流れの下流側である。
【0036】
図5に示すように、吐出口11aから水中に吐出された空気のうちの一部が偏流部材12と気体吹込管11との間の領域に引き込まれた後に下流側へ流されていることが確認できた。また、残りの空気は、吐出口11aから偏流部材12が設けられた側に向かうことなく、浮上しながら下流側へ流されていることが確認できた。そして、いずれの流れ方をした空気も、気泡領域の高速流によって分断され、微細な気泡となった後に速やかに下流側へ流されていることが確認できた。
【0037】
続いて、
図5の画像を用いて解析を行うことにより、気泡の直径(以下「気泡径」ともいう。)を算出した。なお、偏流部材12が設けられた位置よりも下流側に存在する気泡を球と仮定したときの球の体積から気泡径を算出した。
【0038】
算出した結果を
図6及び
図10に示す。
図6は、実施例1で生成された気泡の直径と発生頻度を示すグラフである。
図10は、実施例1及び比較例1で生成された気泡の直径の累積頻度分布を示すグラフである。なお、
図6における横軸は気泡径(mm)を表し、縦軸は頻度(%)を表す。また、
図10における横軸は気泡径(mm)を表し、縦軸は累積頻度(%)を表す。なお、本願でいう頻度および累積頻度は体積基準のものである。
【0039】
図6及び
図10に示すように、吐出口11aから吐出された空気のうちの62%が直径1.4mm以下の気泡になっていることが確認できた。また、吐出口11aから吐出された空気のうちの94%が直径2.8mm以下の気泡になっていることが確認できた。
【0040】
(実施例2)
実施例2では、実施例1で用いた気体吹込装置に代えて、
図3に示した気体吹込装置を用いて、実施例1と同様の方法により、気体吹込装置から水中に空気を吐出させたときの気泡の生成挙動の可視化を行った。
図7は、実施例2で生成された気泡を説明するための図である。なお、
図7において、左側が水の流れの上流側であり、右側が水の流れの下流側である。
【0041】
図7に示すように、実施例1の場合と同様に、吐出口11aから水中に吐出された空気のうちの一部が偏流部材12と気体吹込管11との間の領域に引き込まれた後に下流側へ流されていることが確認できた。また、残りの空気は、吐出口11aから偏流部材12が設けられた側に向かうことなく、浮上しながら下流側へ流されていることが確認できた。そして、いずれの流れ方をした空気も、気泡領域の高速流によって分断され、微細な気泡となった後に速やかに下流側へ流されていることが確認できた。
【0042】
(比較例1)
比較例1では、流速1.6m/秒で水平方向に流れる水中に、水の流れに対して垂直方向の上方から偏流部材12を有していない気体吹込装置を挿入し、吐出口11aから水中に空気を3L/分の流量で吐出させた。なお、偏流部材12を有していない点以外は、実施例1の気体吹込装置と同様の構成を用いた。
【0043】
また、実施例1と同様の方法により、気体吹込装置から水中に空気を吐出させたときの気泡の生成挙動の可視化を行った。
図8は、気泡の生成挙動を可視化した画像を示す図である。なお、
図8において、左側が水の流れの上流側であり、右側が水の流れの下流側である。
【0044】
図8に示すように、吐出口11aから水中に吐出された空気は、水の流れに乗ってゆっくりと下流側へと流されていることが確認できた。また、水中に吐出された空気の一部は水の流れによって小さい気泡となって下流側へと流されているが、水中に吐出された空気のほとんどは小さい気泡となることなく下流側へと流されていることが確認できた。
【0045】
続いて、
図8の画像を用いて解析を行うことにより、気泡径を算出した。なお、実施例1と同様の算出方法を用いた。
【0046】
算出した結果を
図9及び
図10に示す。
図9は、比較例1で生成された気泡の直径と発生頻度を示すグラフである。なお、
図9における横軸が気泡径(mm)を表し、縦軸が頻度(%)を表す。
【0047】
図9及び
図10に示すように、吐出口11aから吐出された空気のうちの47%が直径1.4mm以下の気泡になっていることが確認できた。また、吐出口11aから吐出された空気のうちの82%が直径2.8mm以下の気泡になっていることが確認できた。
【0048】
以上により、実施例1及び実施例2では、比較例1の場合と比較して、微細な気泡を安定的に液体中へ供給することができることが確認できた。