【実施例1】
【0025】
図1〜
図4を用いて第1実施例を説明する。まず、
図1を用いて荷電粒子線装置1の全体構成を説明する。
【0026】
荷電粒子線装置1は、例えば、装置本体10と、クライアント用パーソナルコンピュータ50とから構成されており、装置本体1とクライアント用パーソナルコンピュータ50は、例えばイーサネット(登録商標)のような通信ネットワーク回線30により接続されている。
【0027】
クライアント用パーソナルコンピュータ50は、装置本体10を操作する端末であり、「操作端末」の一例である。クライアント用パーソナルコンピュータ50は、装置本体10の隣に設置してもよいし、あるいは装置本体10から離れた場所に設置してもよい。以下、パーソナルコンピュータを「PC」と略記する。先にクライアントPC50の構成を説明する。
【0028】
クライアントPC50は、例えば、通信インターフェース51、PC本体52、情報入力部53、情報出力部54、外部記憶装置55を備えている。
【0029】
通信インターフェース51は、通信ネットワーク回線30を介して通信するための回路である。PC本体52は、例えば、マイクロプロセッサ、キャッシュメモリ、主記憶、入出力インターフェースなどを含むコンピュータ装置である。
【0030】
情報入力部53は、装置本体10へ指示等を与えるための装置である。情報入力部53は、例えば、キーボード、タッチパネル、マウス、トラックボール、音声入力装置などから構成することができる。情報出力部54は、装置本体10から受領した画像データを出力するための装置である。情報出力部54は、例えば、ディスプレイ、プリンタなどから構成することができる。
【0031】
外部記憶装置55は、装置本体10で撮影した画像データを保存するための装置であり、例えばハードディスクドライブやフラッシュメモリデバイスから構成される。
【0032】
装置本体10の構成を説明する。装置本体10は、例えば、電子銃11、鏡体12、ステージ13、ステージ駆動部14、制御部15、検出器16、ステージ速度測定器17、第1画像転送部20、第2画像転送部21、通信インターフェース22、画像転送方式切換部23、スキャンモード切換部24を含んで構成されている。
【0033】
図1に示す構成には、ハードウェアとして実現される装置と、ソフトウェアとして実現される機能とが含まれている。例えば、電子銃11、鏡体12、ステージ13、ステージ駆動部14、検出器16、ステージ速度測定器17はハードウェアである。これに対し、例えば、第1画像転送部20、第2画像転送部21、画像転送方式切換部23、スキャンモード切換部24は、主にソフトウェアで実現される機能である。制御部15や通信インターフェース22は、ハードウェアとソフトウェアの協働で実現される。ただし以上の説明は例示であり、ハードウェアとして実現される装置をソフトウェアとして実現したり、逆に、ソフトウェアで実現する機能をハードウェア回路で実現してもよい。
【0034】
電子銃11は、「電子線源」の一例であり、ステージ13に載った試料SAMPへ向けて、「荷電粒子線」の一例としての電子ビームを照射する。鏡体12は、電子ビームの照射方向や焦点などを制御する。
【0035】
ステージ13は、各種の試料を載せるための可動式の台である。例えば、ステージ13は、X方向、Y方向に所定量ずつ移動することができ、さらに、XY平面に対して傾動することもできる。ステージ駆動部14は、ステージ13の移動(姿勢変化を含む)を制御する装置である。
【0036】
制御部15は、装置本体10の全体動作を制御するための装置である。制御部15は、クライアントPC50からの指示(コマンド)に従って、スキャンモードを変更したり、ステージ13の移動を制御したりする。制御部15は、例えば、マイクロプロセッサ、メモリ、入出力回路、補助記憶装置(いずれも不図示)を備えて構成される。
【0037】
検出器16は、電子ビームが照射されることで試料から放出される2次電子や反射電子を検出するための装置である。ステージ速度測定器17は、ステージ13の移動速度を測定する装置である。なお、図中では「速度測定器17」と略記している。
【0038】
第1画像転送部20は、「第1画像転送プロトコル」の一例であるTCPを用いて、画像データを転送する。第1画像転送部20は、検出器16の検出信号から得られる画像データを、通信インターフェース22および通信ネットワーク回線30等を介して、クライアントPC50へ転送する。TCPは、コネクション型プロトコルである。
【0039】
第2画像転送部21は、「第2画像転送プロトコル」の一例であるUDPを用いて、画像データを転送する。第2画像転送部21は、検出器16の検出信号から得られる画像データを、通信インターフェース22および通信ネットワーク回線30等を介して、クライアントPC50へ転送する。UDPは、コネクションレス型プロトコルである。
【0040】
ここで、コネクション型プロトコルは、通信開始前に通信相手との間に通信経路を確立し、通信相手にデータを送信するたびに通信相手から確認応答を受領する。従って、コネクション型プロトコルであるTCPは、コネクションレス型プロトコルであるUDPよりも信頼性は高い。
【0041】
これに対し、コネクションレス型プロトコルは、通信開始前に通信相手との間に通信経路を確立せず、通信相手に向けて一方的にデータを送信する。コネクションレス型プロトコルでは、通信相手からの確認応答を受領しない。従って、コネクションレス型プロトコルであるUDPは、コネクション型プロトコルであるTCPに比べて、オーバーヘッドが少なく、結果的に通信速度を速くすることができる。
【0042】
倍率の高い画像データや、スキャン速度の遅い画像データのように、通信一回あたりのデータ量が大きい画像データは、TCPを使って送信するのが好ましい。TCPは、一部のパケットが何らかの障害で失われた場合でも、その消失したパケット(欠落したパケット)だけを再送信できるためである。これに対しもしも、一回あたりのデータ量の大きい通信をUDPを用いて行う場合、通信障害などで一部のパケットが消失すると、データ全体を再送信する必要がある。UDPでは、消失したパケットだけを再送信することはできないためである。従って、UDPは、一回あたりのデータ量が比較的小さい画像データを短時間で送信するのに適している。
【0043】
通信インターフェース22は、通信ネットワーク回線30を介して通信するための回路である。「切換部」の一例である画像転送方式切換部23は、ステージ13の状態に基づいて、第1画像転送部20または第2画像転送部21のいずれか一つを選択する。以下の説明では、画像転送方式切換部23を切換部23と呼ぶ場合がある。なお、第1画像転送部20と第2画像転送部21を切り換えることを、画像転送部を選択すると表現する場合がある。
【0044】
選択基準は後述するが、例えば切換部23は、信頼性の高い通信が必要な場合は第1画像転送部20を選択し、高速な通信が必要な場合は第2画像転送部21を選択する。
【0045】
スキャンモード切換部24は、制御部15から出力されるスキャンモードと、ステージ速度測定器17で測定されるステージ速度とから、実際に使用するスキャンモードを選択する。スキャンモードの選択方法の例は後述する。
【0046】
図2は、ステージ状態を判定する処理を示すフローチャートである。本処理は、例えば切換部23が周期的にまたは所定の契機で、実行する。
【0047】
切換部23は、ステージ速度測定器17からステージ速度を取得する(S10)。ステージ速度とは、ステージ駆動部14によって位置や姿勢が変化するステージ13の速度である。
【0048】
切換部23は、ステージ速度が0であるか判定する(S11)。切換部23は、ステージ速度が0であると判定すると(S11:YES)、ステージ13の状態は”ステージ停止中”であると判定する(S12)。これに対し、切換部23は、ステージ速度が0ではないと判定すると(S11:NO)、ステージ13の状態は”ステージ移動中”であると判定する(S13)。
【0049】
後述のように、ステージ状態の判定結果に応じて、画像転送部の選択やスキャンモードの切り換えが行われる。頻繁な選択や切り換えが発生するのを抑制するために、例えば所定の場合には、判定結果を変更しないようにしてもよい。例えば、”ステージ移動中”から”ステージ停止中”への切換後は、たとえステージ速度が0ではない場合であっても、クライアントPC50からステージ駆動指令が入力されるまで”ステージ移動中”に戻さない。
【0050】
なお、ステージ速度測定器17の検出するステージ速度が0である場合に”ステージ停止中”と判定する場合に限らず、ステージ速度が停止用閾値に低下した場合に、”ステージ停止中”と判定してもよい。画像転送部20,21やスキャンモードの切り換えに必要な時間を見越して、早めに”ステージ停止中”と判定するためである。これにより、実際にステージ13が停止するよりも前に、あるいは停止とほぼ同時に、画像転送部等の切り換えを終了することができる。従って、比較的滑らかに試料の撮影を続けることができ、荷電粒子線装置1の使い勝手が向上する。
【0051】
ここで、停止用閾値とは、ステージ13が停止したと判定するために用意された基準値である。例えば、ステージ駆動部14によるステージ13の最高移動速度の10%程度の値を、停止用閾値として設定してもよい。10%は例であり、これに限定しない。
”ステージ停止中”と判断してから実際にステージ13が停止するまでの時間が、”ステージ停止中”と判断してから画像転送部20,21やスキャンモードの切り換えを終了するまでの時間とほぼ同じであれば、ステージ状態の判定から画像転送部等の切り換えを終えるまでの待ち時間を解消できる。待ち時間を完全に解消できなくても、待ち時間が短縮されるだけでユーザの使い勝手は向上する。
【0052】
図3は、画像転送部20,21を切り換える処理を示すフローチャートである。本処理は切換部23が周期的にまたは所定の契機で、実行する。
【0053】
切換部23は、
図2で述べたステージ状態判定処理の判定結果を取得し(S20)、ステージ13の状態が”ステージ停止中”であるか判定する(S21)。切換部23は、ステージ状態の判定結果が”ステージ停止中”である場合(S21:YES)、第1画像転送部20を選択する(S22)。これに対し、切換部23は、ステージ状態の判定結果が”ステージ停止中”ではない場合(S21:NO)、つまり”ステージ移動中”の場合、第2画像転送部21を選択する(S23)。
【0054】
図4は、スキャンモードを選択する処理を示すフローチャートである。本処理は、スキャンモード切換部24が周期的にまたは所定の契機で、実行する。スキャンモード切換部24は、
図1に示すように、制御部15およびステージ速度測定器17からの入力をそれぞれ受け付けてスキャンモードを決定し、決定したスキャンモードを電子銃11に送信する。電子銃11は、受領したスキャンモードに従って電子ビームを試料に照射する。
【0055】
スキャンモード切換部24は、上述したステージ状態判定処理の判定結果を取得し(S30)、ステージ13の状態が”ステージ停止中”であるか判定する(S31)。
【0056】
スキャンモード切換部24は、ステージ状態の判定結果が”ステージ停止中”の場合(S31:YES)、制御部15から出力されたスキャンモードを選択する(S32)。これに対し、スキャンモード切換部24は、ステージ状態の判定結果が”ステージ停止中”ではない場合(S31:NO)、すなわちステージ13が移動中の場合、予め用意されているステージ移動用スキャンモードを選択する(S33)。
【0057】
ステージ移動用スキャンモードとは、ユーザがクライアントPC50を介してステージ13を移動させながら試料の観察対象箇所を探すのに適したスキャンモードである。ステージ移動用スキャンモードは、ディスプレイに表示される画像が観察者(ユーザ)の目にとって動画として見える程度の所定値で更新されるモードであることが好ましい。つまり、ステージ移動用スキャンモードとは、ユーザが観察対象箇所を短時間で見つけることができるように、比較的滑らかに画像を更新できるモードである。
【0058】
スキャン速度を遅くして精密な画像を作ると、画像1枚あたりの生成所要時間が長くなるため、ユーザが試料中の観察対象箇所を発見するまでに長い時間を要する。そこで、本実施例では、ステージ13が移動中の場合は、制御部15からの出力にかかわらず、ステージ移動用スキャンモードを選択し、ユーザが観察対象箇所を発見し易くする。
【0059】
もしもステージ13が移動中の場合にスキャン速度を遅くすると、画像の生成が完了する前にステージ13が移動してしまうため、その画像を完成できない。ユーザは、不完全な画像を見て、観察対象箇所を見つけなければならず、使い勝手が低下する。そこで、本実施例では、ステージ移動用スキャンモードを用意し、ステージ13が移動中の場合は、制御部15からの出力を無視して、ステージ移動用スキャンモードを選択する。
【0060】
このように構成される本実施例では、ステージ13の状態(停止中/移動中)に適した画像転送部20,21を選択するため、信頼性とステージ移動の追従性との両方を向上することができる。
【0061】
さらに本実施例では、ステージ13の状態に応じて、画像転送部20,21を選択するだけでなく、スキャンモードも切り換えるようになっている。本実施例では、ステージ移動中の場合に、ステージ13の移動に追従して画像を更新すべく、ステージ移動用スキャンモードを選択すると共に(S33)、第2画像転送部21を選択する。ステージ移動用スキャンモードはスキャン速度が速いため、ステージ移動用スキャンモード下で得た画像をクライアントPC50へ転送するには高い転送速度が求められる。装置本体10からクライアントPC50へ画像データを短時間で送信する必要があるためである。
【0062】
その一方、ステージ移動用スキャンモード下で得た画像の転送に際しては、信頼性はあまり要求されない。つまり、ステージ移動用スキャンモード下で得た画像データの転送時に、一部のパケットが欠落した場合であっても、その欠落パケットを再送信する必要性はほとんどない。なぜなら、一部のパケットが欠落したために画像が完成しなかったとしても、すぐに次の画像データがクライアントPC50へ送られてくるためである。
【0063】
クライアントPC50のディスプレイ上では、最新の画像で次々に上書きされていくため、欠落パケットを再送信する必要性に乏しい。従って、本実施例では、ステージ移動中の場合に、通信の信頼性(画像品質)よりも、通信速度(ステージ移動に対する追従性)を優先する。
【0064】
一方、ステージ13が停止中の場合、ユーザが、観察対象箇所について時間をかけて観察している可能性が高い。逆に言えば、ユーザは観察対象箇所を発見すると、ステージ13を停止させて、精密な画像をクライアントPC50のディスプレイに表示させる。ユーザは、スキャン速度を遅くすることで(フレーム更新レートを低くすることで)、観察対象箇所についての精緻な画像を得ようとする。
【0065】
この場合、大きなデータ量の画像データが通信ネットワーク回線30を経由して装置本体10からクライアントPC50へ送られる。大容量画像データの一部のパケットがもしも欠落すると、欠落パケットに対応する領域の画像が欠けてしまうため、ユーザは観察対象箇所を十分に観察できないおそれがある。欠落したパケットを再送信する機能を持たない通信プロトコルの場合は、大容量画像データをもう一度すべて装置本体10からクライアントPC50へ送信する必要があり、使い勝手が低下する。
【0066】
そこで、本実施例では、ステージ13が停止中の場合は、通信の信頼性に優れた画像転送部20を選択する。これにより、精密な観察中に、一部のパケットが欠落した場合でも、その欠落したパケットのみを装置本体10からクライアントPC50へ再送信するだけでよいため、ユーザの使い勝手が向上する。
【実施例3】
【0073】
図6を用いて第3実施例を説明する。本実施例では、ステージ状態の判別結果と、スキャン速度と、クライアントPC50からの操作コマンドとに基づいて、画像転送部を切り換える。切換部23は、
図6に示す処理を周期的にまたは所定の契機で、実行する。
【0074】
切換部23は、ステージ状態判定処理の判定結果を取得し(S50)、ステージ13の状態が”ステージ停止中”であるか判定する(S51)。切換部23は、ステージ状態の判定結果が”ステージ停止中”である場合(S51:YES)、制御部15の出力するスキャンモードが要求するスキャン速度が所定値以上であるか判定する(S52)。制御部15が要求するスキャン速度が所定値未満の場合(S52:NO)、切換部23は、第1画像転送部20を選択する(S53)。
【0075】
これに対し、切換部23は、ステージ13が停止中であっても(S51:YES)、制御部15の要求するスキャン速度が所定値以上である場合(S52:YES)、第2画像転送部21を選択する(S54)。切換部23は、ステージ状態の判定結果が”ステージ停止中”ではない場合(S51:NO)、つまり”ステージ移動中”である場合も、第1実施例で述べたと同様に、第2画像転送部21を選択する(S54)。
【0076】
切換部23は、第2画像転送部21を選択している場合において、クライアントPC50からスキャン停止が指示されたか判定する(S55)。スキャン停止が指示されていない場合(S55:NO)、本処理を終了する。所定時間の経過後、または所定の契機が到来すると、切換部23は本処理を再び実行する。
【0077】
切換部23は、第2画像転送部21を選択している場合において、クライアントPC50からスキャン停止が指示されたことを検出すると(S55:YES)、ステップS53に移り、第2画像転送部21から第1画像転送部20へ切り換える。
【0078】
ここで、ステップS52で分岐する理由を説明する。制御部15の指示するスキャン速度が所定値以上の場合、すなわちフレーム更新レートが所定値以上の場合、第1画像転送部20を用いたのでは必要な転送速度を得ることができない。換言すれば、ステップS52での所定値とは、第1画像転送部20を用いたのでは必要な通信速度を得られないと判定できる値である。この場合(S52:YES)、スキャン速度に見合った通信速度を確保するために、第2画像転送部21が選択される(S54)。
【0079】
スキャン停止時には、第2画像転送部21から第1画像転送部20へ切り換える理由を説明する。クライアントPC50からの操作コマンドがスキャン停止コマンドである場合(S55:YES)、停止前の最後の画像転送を成功させるために、パケット再送信機能を持つ第1画像転送部20を選択する。スキャン停止前の最後の画像データの転送時に、一部のパケットが欠落した場合は、完全な画像をクライアントPC50のディスプレイに表示することができず、ユーザは試料を十分に観察できないおそれがある。そこで、切換部23は、欠落パケットだけを再送信することができ、装置本体10からクライアントPC50へ高い信頼性で画像を転送できる第1画像転送部20を選択する。
【0080】
このように構成される本実施例も第1実施例と同様の作用効果を奏する。さらに本実施例では、ステージ13が停止中であってもスキャン速度が所定値以上の場合は、第2画像転送部21を選択するため、画像の更新頻度に追従してディスプレイに表示することができる。
【0081】
さらに本実施例では、第2画像転送部21を使用している場合であっても、スキャン停止時の最後の画像は、信頼性の高い第1画像転送部20を用いてクライアントPCへ送信する。従って、本実施例では、画像転送の信頼性を維持しつつ、高いフレーム更新レートに対応することができ、使い勝手が向上する。