特許第6377992号(P6377992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6377992
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20180813BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20180813BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20180813BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20180813BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20180813BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20180813BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20180813BHJP
【FI】
   H01M10/058
   H01M10/0525
   H01M4/36 E
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M10/0568
   H01M10/0567
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-158230(P2014-158230)
(22)【出願日】2014年8月1日
(65)【公開番号】特開2016-35837(P2016-35837A)
(43)【公開日】2016年3月17日
【審査請求日】2017年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】593063161
【氏名又は名称】株式会社NTTファシリティーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100186819
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 俊尚
(74)【代理人】
【識別番号】100130720
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼見 良貴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【弁理士】
【氏名又は名称】出山 匡
(72)【発明者】
【氏名】荒川 正泰
(72)【発明者】
【氏名】辻川 知伸
(72)【発明者】
【氏名】梶本 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】北川 雅規
(72)【発明者】
【氏名】宮本 佳樹
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/047342(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/101177(WO,A1)
【文献】 特開2005−116306(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/033036(WO,A1)
【文献】 特開2002−063904(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/142280(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0525
H01M 4/36
H01M 4/505
H01M 10/0567
H01M 10/0568
H01M 10/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造リチウムマンガン複酸化物とスピネル構造リチウムマンガン複酸化物とを正極活物質の主体として有する正極板と、炭素材を負極活物質として有する負極板とを備えた電極群と、
有機溶媒に電解質として4フッ化ホウ酸リチウムが添加された非水電解液と、
前記非水電解液に添加されたホスファゼン系難燃化剤とを備えてなるリチウムイオン電池の製造方法であって、
放電容量をXとし、前記非水電解液に対するホスファゼン系難燃化剤の体積百分率をUとし、前記層状構造リチウムマンガン複酸化物の重量を前記スピネル構造リチウムマンガン複酸化物の重量で除した重量比をYとしたときに、
Y≦−0.0031SX+0.854T (30Ah≦X≦300Ah
但し、S=−0.0657U+1.646 (10≦U≦20)
T=−0.0037U+1.038 (10≦U≦20)
の条件を満足するように、前記X、前記Yおよび前記Uを定めることを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項2】
前記スピネル構造リチウムマンガン複酸化物は、マンガンサイトの一部が、アルミニウム、マグネシウム、リチウム、コバルト、ニッケルのうち少なくとも1種類以上で置換されたものであることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項3】
前記スピネル構造リチウムマンガン複酸化物は、マンガンサイトの置換割合zが0≦z≦0.1であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項4】
前記非水電解液は、前記4フッ化ホウ酸リチウムが0.8モル/リットル以上添加されたことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項5】
前記ホスファゼン系難燃化剤は、一般式(NPR23または(NPR24で表されるホスファゼン化合物を含有し、
前記一般式中のRは、フッ素や塩素のハロゲン元素または一価の置換基を示し、
前記一価の置換基は、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキル基、アリール基、置換型アミノ基を含むアミノ基、アルキルチオ基、および、アリールチオ基から選択される請求項1に記載のリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項6】
前記炭素材は、非晶質炭素または黒鉛であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項7】
層状構造リチウムマンガン複酸化物とスピネル構造リチウムマンガン複酸化物とを正極活物質の主体として有する正極板と、炭素材を負極活物質として有する負極板とを備えた電極群と、
有機溶媒に電解質として4フッ化ホウ酸リチウムが添加された非水電解液と、
前記非水電解液に添加されたホスファゼン系難燃化剤とを備えてなるリチウムイオン電池であって、
放電容量(X)、前記層状構造リチウムマンガン複酸化物の重量を前記スピネル構造リチウムマンガン複酸化物の重量で除した重量比(Y)及び前記非水電解液に対する前記ホスファゼン系難燃化剤の体積百分率(U)が、
Y≦−0.0031SX+0.854T (30Ah≦X≦300Ah
但し、S=−0.0657U+1.646 (10≦U≦20)
T=−0.0037U+1.038 (10≦U≦20)
の条件を満足することを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2003−36846号公報)には、正極活物質に、層状構造マンガン酸リチウムとスピネル構造マンガン酸リチウムを重量比55:45で配合したマンガン酸リチウム粉末を用いて得た正極板と、負極活物質として非晶質炭素又は黒鉛の粉末を用いて負極板とを用いたリチウムイオン電池が開示されている。この電池では、正極板の可逆容量が負極板の可逆容量以下となるように正極板と負極板を組み合わせている。
【0003】
特許文献2(WO2010/101177号公報)には、正極活物質にスピネル系リチウムマンガン複酸化物を用いた正極板と負極活物質に炭素材を用いた負極板とがセパレータを介して捲回された電極群を用い、有機溶媒に電解質としてLiBF4が添加された電解液を用い、更に電解液に対してホスファゼン系難燃化剤が10重量%添加されているリチウム二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−36846号公報
【特許文献2】WO2010/101177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、層状構造リチウムマンガン酸化物(NMC)とスピネル構造リチウムマンガン複酸化物(sp−Mn)とを正極活物質の主体として有する正極板と、炭素材を負極活物質として有する負極板とを備えた電極群と、有機溶媒に電解質として4フッ化ホウ酸リチウムが添加された非水電解液と、非水電解液に対し10vol%以上の割合で添加されたホスファゼン系難燃化剤とを備えたリチウムイオン電池で、電池容量が30Ah以上になる大容量のリチウムイオン電池を製造する場合に、簡単に設計できる基準がなかった。そのため、電池の大容量化に時間と費用がかかっていた。
【0006】
本発明の目的は、安全な大容量リチウムイオン電池を簡単に製造できるリチウムイオン電池の製造方法及び該方法により製造されたリチウムイオン電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明が改良の対象とするリチウムイオン電池の製造方法は、層状構造リチウムマンガン複酸化物(NMC)とスピネル構造リチウムマンガン複酸化物(sp−Mn)とを正極活物質の主体として有する正極板と、炭素材を負極活物質として有する負極板とを備えた電極群と、有機溶媒に電解質として4フッ化ホウ酸リチウムが添加された非水電解液と、非水電解液に添加されたホスファゼン系難燃化剤とを備えてなるリチウムイオン電池を製造する方法である。
【0008】
本発明のリチウムイオン電池の製造方法では、放電容量をX、ホスファゼン系難燃化剤の非水電解液に対する割合をU、層状構造リチウムマンガン複酸化物(NMC)とスピネル構造リチウムマンガン複酸化物(sp−Mn)との重量比(NMC/sp−Mn)をYとして、下記式(1)〜(3)の条件を満たす正極活物質を用いて製造した正極板を用いる。
【0009】
Y≦−0.0031SX+0.854T (30Ah≦X≦300Ah) …(1)
但し、S=−0.0657U+1.646 (10≦U≦20) …(2)
T=−0.0037U+1.038 (10≦U≦20) …(3)
このような条件を満足する正極板を用いてリチウムイオン電池を製造すると、高い難燃性を維持しながら、放電容量を増加させることができる。また、上記式(1)〜(3)の条件下では、放電容量(X)と難燃化剤の添加量(U)が定まれば、層状構造リチウムマンガン複酸化物とスピネル構造リチウムマンガン複酸化物との重量比(Y)が自動的に定まるため、大容量のリチウムイオン電池の設計が容易になる。したがって、本発明のリチウムイオン電池の製造方法を用いれば、安全かつ電池性能が高い大容量リチウムイオン電池を簡単に製造することができ、大容量リチウムイオン電池の製造コストを大幅に削減することが可能になる。
【0010】
スピネル構造リチウムマンガン複酸化物としては、マンガンサイトの一部が、アルミニウム、マグネシウム、リチウム、コバルト、ニッケルのうち少なくとも1種類以上で置換されたものを用いることができる。この場合、マンガンサイトの置換割合zが0<z≦0.1に調整されたスピネル構造リチウムマンガン複酸化物を用いれば良い。このようなスピネル構造リチウムマンガン複酸化物であれば、ホスファゼン系化合物の難燃性を阻害し難いため、難燃性と放電特性を両立することができる。
【0011】
非水電解液には、電解質として4フッ化ホウ酸リチウムを0.8モル/リットル以上添加するのが好ましい。このような添加量の4フッ化ホウ酸リチウムを用いれば、充放電反応に十分なリチウムイオンが非水電解液中に存在するため、大容量リチウムイオン電池の非水電解液に難燃化剤を添加した場合でも、大容量リチウムイオン電池の放電容量を維持できる。
【0012】
ホスファゼン系難燃化剤は、(NPR23または(NPR24の一般式で表されるホスファゼン化合物を含有する難燃化剤である。なお、一般式中のRは、フッ素や塩素等のハロゲン元素または一価の置換基を示している。一価の置換基としては、メトキシ基やエトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基やメチルフェノキシ基等のアリールオキシ基、メチル基やエチル基等のアルキル基、フェニル基やトリル基等のアリール基、メチルアミノ基等の置換型アミノ基を含むアミノ基、メチルチオ基やエチルチオ基等のアルキルチオ基、および、フェニルチオ基等のアリールチオ基を挙げることができる。このようなホスファゼン系化合物を非水電解液に添加することにより、上記式(1)〜(3)の条件下で、リチウムイオン電池の難燃性を確実に発揮することができる。
【0013】
また、負極活物質として用いる炭素材には、非晶質炭素または黒鉛を用いることができる。これらの炭素材は、負極活物質として用いても、電池の難燃性および放電特性を阻害しないため好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態の一例として角型リチウムイオン電池の構造を示す一部破断正面図である。
図2図1の角型リチウムイオン電池の電池缶を取り除いた状態を示す斜視図である。
図3図1の角型リチウムイオン電池の電池缶を取り除いた状態を示す右側面図である。
図4】ホスファゼン系難燃化剤の添加量を10vol%とした場合の放電容量と活物質の重量比との関係を、釘刺し試験の評価結果の観点から示すグラフである。
図5】ホスファゼン系難燃化剤の添加量を15vol%とした場合の放電容量と活物質の重量比との関係を、釘刺し試験の評価結果の観点から示すグラフである。
図6】ホスファゼン系難燃化剤の添加量を20vol%とした場合の放電容量と活物質の重量比との関係を、釘刺し試験の評価結果の観点から示すグラフである。
図7図4乃至図6のグラフから求めた、難燃化剤の各添加量と該添加量における直線式の傾きとの関係を示すグラフである。
図8図4乃至図6のグラフから求めた、難燃化剤の各添加量と該添加量における直線式の切片との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の製造方法により製造したリチウムイオン電池の実施の形態について説明する。
【0016】
[電池構造]
図1に示すように、本実施の形態のリチウムイオン電池(角型リチウムイオン二次電池)1は、層状構造リチウムマンガン複酸化物(NMC)とスピネル構造リチウムマンガン複酸化物(sp−Mn)とを正極活物質の主体として有する正極板と、炭素材を負極活物質として有する負極板とを備えた極板群(電極群)3と、極板群3を内部に収容するステンレス製で角型の電池容器5とを備えている。電池容器5は、一方の端部が開口する電池缶7と、電池蓋9とを備えており、極板群3を電池缶7に挿入した後、電池缶7の開口周縁部と、電池蓋9の周縁部とを溶接することで密閉されている。
【0017】
電池蓋9には、アルミニウム製の正極端子11及び銅製の負極端子13が固定されている。正極端子11及び負極端子13は、電池蓋9の蓋板を貫通して電池容器5の外部に突出する螺子付きの端子部11a及び13aと、電池容器5内に配置される集電部11b及び13bとをそれぞれ有している(図2及び図3参照)。螺子付きの端子部11a及び13aには、正極端子用ナット21及び負極端子用ナット23が螺合されている。正極端子11及び負極端子13と電池蓋9の間には、円環状の内側パッキン15がそれぞれ設けられている。電池蓋9の外側には、電池蓋9を介して内側パッキン15と対向する位置に、円環状の外側パッキン17と、端子ワッシャ19とが重ねられた状態で設けられている。正極端子11及び負極端子13は、内側パッキン15、外側パッキン17、端子ワッシャ19を介して、ネジ部の先端に設けられた正極端子用ナット21及び負極端子用ナット23により、電池蓋9にそれぞれ固定されている。電池蓋9の正極端子11及び負極端子13が設けられた部分は、内側パッキン15及び外側パッキン17により、電池容器5内の密閉・封止状態を確保している。
【0018】
電池蓋9には、ステンレス箔を溶接したガス排出弁9a及び注液口9bが配設されている(図2参照)。ガス排出弁9aは、電池内圧上昇時にステンレス箔が開裂して内部のガスを放出する機能を有している。注液口9bからは、エチレンカーボネートのような環状カーボネートとジメチルカーボネートのような鎖状カーボネートとの混合溶媒に6フッ化リン酸リチウム(LiPF6)または4フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)等のリチウム塩を溶解した図示しない非水電解液が注入される。
【0019】
正極端子11の集電部11bには、正極側押さえ板25と正極集電タブ層27とが撹拌接合部29により取り付けられている。また、負極端子13の集電部13bには、負極側押さえ板31と負極集電タブ層33とが撹拌接合部29により取り付けられている。本実施の形態の正極端子11の集電部11bには、極板群3の積層方向に対向する2つの面に、正極側押さえ板25と正極集電タブ層27がそれぞれ取り付けられている。また、負極端子13の集電部13bには、極板群3の積層方向に対向する2つの面に、負極側押さえ板31と負極集電タブ層33がそれぞれ取り付けられている。
【0020】
図2は、電池缶7を取り除いた状態の角型リチウムイオン電池1の斜視図であり、図3は、電池缶7を取り除いた状態の角型リチウムイオン電池1の右側面図である。なお図2及び図3においては、理解を容易にするために各構成部材を模式的に示している。そのため、図2及び図3に示した各構成部材は、実際の極板群の構成部材とは、形状及び寸法等が異なる。極板群3は、複数枚の正極板35と、複数枚の負極板37とがセパレータ39を介して交互に積層されて構成されている。
【0021】
なお、本実施の形態では、角型リチウムイオン電池1を示したが、電池の形状について特に制限はなく、本発明は円筒型リチウムイオン電池を含む、非水電解液を使用するリチウムイオン電池一般に適用することができる。
【0022】
[正極板の作製]
正極板35の作製を以下のように行った。正極活物質である層状型リチウム・ニッケルマンガン・コバルト複合酸化物(NMC)とスピネル型リチウムマンガン酸化物(sp−Mn)とを、所定の重量比(NMC/sp−Mn)で混合した。本例で用いたスピネル型リチウムマンガン酸化物は、置換割合zが0<z≦0.1の範囲でマグネシウムによりマンガンサイトの一部が置換されている。この活物質の重量比は、後述の計算式によって簡単に定めることができる。なおこの計算式の導き出し方については、後に詳しく説明する。この正極活物質の混合物に、導電材として鱗片状の黒鉛(平均粒径:20μm)と、結着材としてポリフッ化ビニリデンとを順次添加し、これらを混合することにより正極材料の混合物を得た。この混合物の重量比は、活物質:導電材:結着材=86:7:7とした。さらに上記混合物に対し、分散溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を添加し、混練することによりスラリーを形成した。このスラリーを正極用の集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に実質的に均等かつ均質に所定量塗布した。その後、乾燥処理を施し、所定密度までプレスにより圧密化し、裁断することで正極板35を得た。
【0023】
[負極板の作製]
負極板37の作製を以下のように行った。負極活物質として黒鉛を用いた。黒鉛に結着材としてポリフッ化ビニリデンを添加した。これらの重量比は、活物質:結着材=91:9とした。これに分散溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を添加し、混練することによりスラリーを形成した。このスラリーを負極用の集電体である厚さ10μmの圧延銅箔の両面に実質的に均等かつ均質に所定量塗布した。その後、乾燥処理を施し、所定密度までプレスにより圧密化し、裁断することで負極板37を得た。
【0024】
[電解液]
本実施形態では、非水電解液に、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)を体積比が2:3で混合した後、電解質として4フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)を0.8モル/リットル溶解したものを用いた。また、非水電解液には所定の割合の難燃化剤が添加されており、難燃化剤には、一般式(NPR23で表され、置換基RがF又はフェニル基であるホスファゼンを用いた。ホスファゼンの添加量は、図4図6に示すように、10vol%、15vol%及び20vol%に設定した。
【0025】
なお、電解質として0.8モル/リットルの4フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)を添加したが、難燃性および放電容量をいずれも大きく低下させない電解質であれば、電解質の成分および添加量はこれらに限定されるものではない。
【0026】
また、難燃化剤として用いるホスファゼン系化合物は、これらのホスファゼンに限定されるものではなく、放電容量を大きく低下させることなく難燃性を発揮し得るものであれば他のホスファゼン系化合物を用いても良いのは勿論である。
【0027】
[計算式の導き方]
正極活物質の重量比(正極活物質中の層状構造リチウムマンガン複酸化物とスピネル構造リチウムマンガン複酸化物との重量比)は、以下の順番で導き出すことができる。
【0028】
(1)放電容量を確定するために試験用の極板群の最大厚みを決める。その厚みの範囲で密度や塗布量を変更し、極板枚数を調整することで放電容量を決める。例えば極板群最大厚みを18.4mm以下と定め、密度や塗布量を変更し、極板群枚数を調整することで、33Ah〜41Ahの放電容量となる。
【0029】
(2)上記(1)の各極板群に於いて、NMC比率を変えたものを作製し、放電容量X(30Ah≦X≦300Ah)を求める。
【0030】
(3)上記(2)で放電容量を求めた各極板群を組み込んだ電池について安全性試験を実施する。安全性試験は、くぎ差し試験や、過充電試験による破裂又は発火の有無で、安全か否かを試験する。
【0031】
(4)難燃化剤の添加量(U)10vol%を基準として、15vol%及び20vol%の際の試験結果を、放電容量を横軸、NMC/sp−Mn比率を縦軸にして、グラフ化する。安全領域と非安全領域とを仕切るように直線を引く(図4図6参照)。
【0032】
(5)上記(4)で求めた各難燃化剤添加量における直線式の傾きを縦軸に、難燃化剤添加量を横軸にし、変数Sの直線式を求める(図7参照)。
【0033】
(6)上記(4)で求めた各難燃化剤添加量における直線式の切片を縦軸に、難燃化剤添加量を横軸にし、変数Tの直線式を求める(図8参照)。
【0034】
(7)上記(5)、(6)で求めた変数T、S及び難燃化剤添加量Uを用い、電池容量をXとしたときの安全な電池を作製できるNMC/sp−Mn比率Yは下記の計算式で表すことができる。
【0035】
Y≦−0.0031SX+0.854T (30Ah≦X≦300Ah
但し、S=−0.0657U+1.646 (10≦U≦20)
T=−0.0037U+1.038 (10≦U≦20)
(8)上記(7)に示す式から、放電容量(X)と難燃化剤の添加量(U)が定まれば、正極活物質の重量比は必然的に定まることになる。
【0036】
[評価方法]
安全性は、釘刺し試験および過充電試験により確認した。
【0037】
釘刺し試験では、まず、25℃の環境下において4.2〜3Vの電圧範囲で、0.5Cの電流値による充放電サイクルを2回繰り返した。さらに、4.1Vまで電池を充電後、直径5mmの釘を、速度1.6mm/秒で電池(セル)の中央部に刺し込み、電池容器5の内部において正極板と負極板とを短絡させた。この際の電池の外観の変化及び発火の有無を確認した。具体的には、ガス排出弁9aが開いた状態で、発火が観測されず、電池容器5が破裂しなかった場合は○(良好)と評価し、発火が観測されるか若しくは電池容器5が破裂した場合は×(不良)と評価した。
【0038】
過充電試験では、まず、25℃の環境下において4.2〜3Vの電圧範囲で、0.5Cの電流値による充放電サイクルを2回繰り返した。さらに、4.1Vまで電池を充電後、0.5Cの電流値により上限電圧10Vで充電した。この際の電池の破裂及び発火の有無を上記の釘刺し試験と同じ評価方法で確認した。
【実施例】
【0039】
実施例1〜実施例32および比較例1〜比較例29は、表1及び表2に示す条件で作製した。また、釘刺し試験および過充電試験の結果は、表1、表2に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
表1より、実施例1〜32は、いずれも上記(7)の条件式を満たし、釘刺し試験および過充電試験の結果は○(良好)であった。これに対して、表2より、比較例1〜比較例29は、いずれも上記(7)の条件式を満たしておらず、釘刺し試験または過充電試験の結果は×(不良)であった。これらの実施例1〜32および比較例1〜29の結果から、下記式(1)〜(3)を満たす条件下では、放電容量(X)と難燃化剤の添加量(U)が定まれば、層状構造リチウムマンガン複酸化物とスピネル構造リチウムマンガン複酸化物との重量比(Y)も定まることになる。
【0042】
Y≦−0.0031SX+0.854T (30Ah≦X≦300Ah) …(1)
但し、S=−0.0657U+1.646 (10≦U≦20) …(2)
T=−0.0037U+1.038 (10≦U≦20) …(3)
そのため、難燃性を維持しながら放電特性を向上させることができる範囲で、大容量のリチウムイオン電池の設計が容易になることが判った。
【0043】
以上、本発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、本発明はこれらの実施の形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく変更が可能であるのは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のように、放電容量(X)とホスファゼン系難燃化剤の非水電解液に対する割合(U)と、層状構造リチウムマンガン複酸化物とスピネル構造リチウムマンガン複酸化物との重量比(Y)(=NMC/sp−Mn)とが、所定の条件式を満たすようにリチウムイオン電池を製造することにより、放電容量(X)と難燃化剤の添加量(U)が定まると、層状構造リチウムマンガン複酸化物とスピネル構造リチウムマンガン複酸化物との重量比(Y)も定まるため、難燃性を維持しながら放電特性を向上させることができる範囲で、大容量のリチウムイオン電池の設計が容易になる。したがって、本発明のリチウムイオン電池の製造方法およびその製造方法は、安全かつ電池性能が高い大容量リチウムイオン電池を簡単に製造することを可能にする点で利用価値が高い。
【符号の説明】
【0045】
1 角型リチウムイオン二次電池(リチウムイオン電池)
3 極板群(電極群)
35 正極板
37 負極板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8