特許第6378360号(P6378360)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378360
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】イオンビーム装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 27/02 20060101AFI20180813BHJP
   H01J 37/08 20060101ALI20180813BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20180813BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20180813BHJP
   H01J 37/24 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   H01J27/02
   H01J37/08
   H01J37/28 Z
   H01J37/317 D
   H01J37/24
【請求項の数】21
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2016-561140(P2016-561140)
(86)(22)【出願日】2014年11月26日
(86)【国際出願番号】JP2014081244
(87)【国際公開番号】WO2016084162
(87)【国際公開日】20160602
【審査請求日】2017年3月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100102576
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敏章
(72)【発明者】
【氏名】武藤 博幸
(72)【発明者】
【氏名】川浪 義実
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/147894(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/082466(WO,A1)
【文献】 特開2013−118188(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0266465(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0319003(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J27/00−27/26
37/04
37/06−37/08
37/248
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンを生成するエミッタティップが設けられ、イオン化ガス若しくはガス分子が供給されるイオン源室を画成するイオン源筐体と、
前記イオン源室に前記エミッタティップと熱的に接続されて設けられ、冷凍機の冷却ステージが物理的に直接接触することなしに収容される冷却ポットと、
前記冷却ステージの周面と前記冷却ポットの内周面との間隔を一定以上に保つスペーサと
を有することを特徴とするイオンビーム装置 。
【請求項2】
請求項1に記載のイオンビーム装置において、
前記スペーサは、前記冷却ポットの収容方向に沿って眺めた外周縁形状が、常温状態に対しての冷却状態で収縮変形する構成になっていることを特徴とするイオンビーム装置。
【請求項3】
請求項1に記載のイオンビーム装置において、
前記スペーサは、常温状態に対しての冷却状態で体積が縮む材料を用いて構成されていることを特徴とするイオンビーム装置。
【請求項4】
請求項3に記載のイオンビーム装置において
前記材料は、多孔質材料であることを特徴とするイオンビーム装置。
【請求項5】
請求項1に記載のイオンビーム装置において、
前記スペーサは、前記冷却ステージの周面に配置されることを特徴とするイオンビーム装置。
【請求項6】
請求項1に記載のイオンビーム装置において、
前記冷却ステージには、フィンが前記冷却ポットと物理的に直接接触することなしに設けられ、
前記冷却ポットは、前記フィンの周りに存在する熱伝導媒体を介して冷却されることを特徴とするイオンビーム装置。
【請求項7】
請求項6に記載のイオンビーム装置において、
前記冷却ポットは、伝熱部と断熱部とを有し、前記断熱部に対して前記伝熱部を前記イオン源室奥部に位置させるように、前記冷却ステージの収容方向に沿って両者を接合して構成され、
前記伝熱部が、前記イオン源室から露出することなく、前記エミッタティップに臨ませて前記イオン源室に配置されていることを特徴とするイオンビーム装置。
【請求項8】
請求項7に記載のイオンビーム装置において、
前記フィンと対向する前記冷却ポットの部分が、前記伝熱部からなることを特徴とするイオンビーム装置。
【請求項9】
請求項6に記載のイオンビーム装置において、
前記フィンと前記冷却ポットにおける前記冷却ステージの振動方向に垂直な内周面との間隔は、前記フィンと前記冷却ポットにおける前記冷却ステージの振動方向に平行な内周面との間隔よりも大きいことを特徴とするイオンビーム装置。
【請求項10】
請求項7に記載のイオンビーム装置において、
前記冷却ステージと前記フィンとの接合部に、熱伝導性が高い材料によって形成された軟性の膜又はシート部材を介在させ、前記冷却ステージ又は前記フィンの中の少なくとも一方の接合面の平滑化をはかったことを特徴とするイオンビーム装置。
【請求項11】
請求項10に記載のイオンビーム装置において、
前記軟性の膜は金メッキ膜であり、前記軟性のシート部材は熱伝導シートであることを特徴とするイオンビーム装置。
【請求項12】
請求項1に記載のイオンビーム装置において、
前記イオン源筐体の傾斜角度に合わせて、前記冷凍機の接地面に対する角度、又は前記イオン源筐体の前記冷却ポットが収容される前記イオン源室部分と前記エミッタティップが収容される前記イオン源室部分との間の角度を調整する調整機構を有することを特徴とするイオンビーム装置。
【請求項13】
請求項1に記載のイオンビーム装置において、
前記冷却ポットには、前記冷却ポット内に熱伝導媒体を供給する熱伝導媒体供給機構と、前記冷却ポット内から前記熱伝導媒体を排出する熱伝導体排出機構とが設けられていることを特徴とするイオンビーム装置。
【請求項14】
請求項1に記載のイオンビーム装置において、
前記冷却ステージ及び前記スペーサを複数有することを特徴とするイオンビーム装置。
【請求項15】
イオン源筐体により画成され、イオン化ガス若しくはガス分子が供給されるイオン源室に、イオンを生成するエミッタティップが備えられたイオンビーム装置に用いられ、前記エミッタティップを冷却する冷凍機であって、
前記イオン源室に前記エミッタティップと熱的に接続されて設けられる冷却ポットに、物理的に直接接触することなしに収容され、前記冷却ポットを熱伝導媒体を介して冷却する冷却ステージと、
前記冷却ステージの周面と前記冷却ポットの内周面との間隔を一定以上に保つスペーサと
を有することを特徴とする冷凍機。
【請求項16】
請求項15に記載の冷凍機において、
前記スペーサは、常温状態に対しての冷却状態で体積が縮む材料を用いて構成されていることを特徴とする冷凍機。
【請求項17】
請求項16に記載の冷凍機において、
前記材料は、多孔質材料であることを特徴とする冷凍機。
【請求項18】
請求項15に記載の冷凍機において、
前記スペーサは、前記冷却ステージの周面に配置されることを特徴とする冷凍機。
【請求項19】
請求項15に記載の冷凍機において、
前記冷却ステージには、フィンが前記冷却ポットと物理的に直接接触することなしに設けられ、
前記冷却ポットは、前記フィンの周りに存在する熱伝導媒体を介して冷却されることを特徴とする冷凍機。
【請求項20】
請求項15に記載の冷凍機において、
前記冷却ステージ及び前記スペーサを複数有することを特徴とする冷凍機。
【請求項21】
イオン源筐体により画成され、イオン化ガス若しくはガス分子が供給されるイオン源室に、イオンを生成するエミッタティップを備えたイオンビーム装置に用いられ、前記エミッタティップを冷却する冷却機構の取り付け方法であって、
常温状態に対しての冷却状態で体積が縮む材料によって構成されたスペーサを冷凍機の冷却ステージの周面に取り付け、前記スペーサが取り付けられた前記冷却ステージを、前記スペーサを常温状態に保ちつつ、前記イオン源室に前記エミッタティップと熱的に接続されて設けられている冷却ポット内に収容し、
前記冷却ポットに収容された状態で前記スペーサを冷却状態とすることで、前記スペーサの周面と前記冷却ポットの内周面とを離間させることを特徴とする冷却機構の取り付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン顕微鏡,イオンビーム加工観察装置等を含むイオンビーム装置、イオンビーム装置におけるイオン源のエミッタティップの冷却に用いられる冷凍機、及びイオンビーム装置における冷却機構の取り付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビームを走査しながら試料に照射して、その際に試料から放出される二次荷電粒子を検出することによって、試料表面の構造を観察することが可能である。このような電子ビーム装置の一例に、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、以下、SEMとも称する)がある。
【0003】
一方、電子ビームに代えてイオンビームを走査しながら試料に照射して、その際に試料から放出される二次荷電粒子を検出することによっても、試料表面の構造を観察することが可能である。このようなイオンビーム装置の一例に、走査イオン顕微鏡(Scanning Ion
Microscope、以下、SIMとも略称する)がある。特に、走査イオン顕微鏡のようなイオンビーム装置では、水素,ヘリウム等の質量の軽いイオン種をイオンビームとして試料に照射すれば、相対的にスパッタ作用は小さくなり、試料を観察するのに好適となる。
【0004】
このようなイオンビーム装置のイオン源としては、ガス電界電離イオン源が好適である。ガス電界電離イオン源は、エミッタティップが作る電界によってガスをイオン化してイオンビームを生成するイオン源である。ガス電界電離イオン源は、高電圧が印加できる針状のエミッタティップを収容したガスイオン化室を有し、ガスイオン化室には、ガス源からガス供給配管を介してイオン化ガス(イオン材料ガス)が供給される構成になっている。
【0005】
ガス電界電離イオン源では、高電圧が印加され強電界のかかった針状のエミッタティップ先端に、ガス供給配管から供給されたイオン化ガス(或いはガス分子)が近づくと、ガス(ガス分子)内の電子が強電界によって低減したポテンシャル障壁を量子トンネル効果によりトンネリングすることによって、ガス(ガス分子)が正イオンとなって放出される。イオンビーム装置では、これをイオンビームとして利用する。
【0006】
ガス電界電離イオン源は、エネルギー幅が狭いイオンビームを生成することができる。また、イオン発生源のサイズが小さいため、微細なイオンビームを生成することができる。
【0007】
ところで、走査イオン顕微鏡を含むイオンビーム装置において、高い信号/ノイズ比(S/N比)で試料を観察するためには、試料上で大きな電流密度のイオンビームを得る必要がある。そのためには、ガス電界電離イオン源のイオン放射角電流密度を大きくする必要がある。イオン放射角電流密度を大きくするためには、エミッタティップ近傍のイオン化ガスの分子密度を大きくすればよい。
【0008】
この場合、単位圧力当たりのガス分子密度は、ガスの温度に逆比例する。そのためには、エミッタティップを極低温に冷却し、エミッタティップ周辺のイオン化ガスの温度を低温化することが望まれる。したがって、エミッタティップを極低温に冷却することによって、エミッタティップ近傍のイオン化ガスの分子密度を大きくすることができる。
【0009】
その一方で、走査イオン顕微鏡を含むイオンビーム装置において、高分解能で試料を観察するためには、エミッタティップを極低温に冷却するイオンビーム装置冷却機構の冷凍機の振動がエミッタティップに伝達しないようにする必要がある。そこで、特許文献1には、冷凍機によって生じる振動がガス電界電離イオン源のエミッタティップに伝達するのを防止する機能を備えたイオンビーム装置冷却機構として、機械式の冷凍機とヘリウムガスポットとを組み合わせたイオンビーム装置冷却機構が開示されている。ヘリウムガスポットには、ガス電界電離イオン源を冷却するための冷媒ガスとしてのヘリウムガス(不活性気体)が貯留されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】公開国際特許公報WO2009/147894号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本願の発明者は、エミッタティップを極低温に冷却するとともに、冷凍機によって生じる振動がエミッタティップに伝達しないにようにするため、イオンビーム装置冷却機構を備えたイオンビーム装置について鋭意検討した結果、次に述べるような知見を得るに到った。
【0012】
特許文献1に記載されたイオンビーム装置冷却機構では、装置本体の真空容器と冷凍機との組付時、エミッタティップに寒冷を伝達するガスポットと冷凍機の冷却ステージとが物理的に直接接触してしまう可能性があった。そのため、ガスポットと冷凍機の冷却ステージとが物理的に直接接触してしまうことになると、冷凍機本体の振動もガスポットに伝達されてしまう。通常、ガスポットは、イオンビーム装置のガスイオン化室を画成する真空容器とリジッドに、すなわちその位置関係がずれないように機械的にしっかりと固定されているため、ガスポットが振動すると、呼応してイオンビーム装置の真空容器も振動することになる。加えて、真空容器とガス電界電離イオン源のエミッタティップもリジッドに固定されているため、真空容器が振動すれば、エミッタティップも振動することになってしまう。その結果、エミッタティップが振動してしまうことによって、放出されるイオンビームが十分に収束できなくなってしまい、高分解能な観察ができなくなる。
【0013】
この問題を防ぐためには、ガスポットと冷凍機の冷却ステージとのギャップ(間隙)を広くして、ポットと冷却ステージとが物理的に直接接触しないようにしなければならない。しかし、ガスポットと冷却ステージとのギャップを広くすると、ガスポットが冷却ステージによって十分冷却されなくなる。
【0014】
一方、ガスポットとエミッタティップとの間は熱的に接続されているため、ガスポットが十分冷却されないと、エミッタティップは十分冷却されなくなってしまう。エミッタティップが十分冷却されないと、エミッタティップ周辺のイオン化ガスの温度を極低温化できなくなる。そして、エミッタティップ周辺のイオン化ガスの温度の極低温化ができないと、エミッタティップ近傍のイオン化ガスの分子密度は小さくなってしまう。その結果、イオン放射角電流密度を大きくすることができず、試料上では、大きな電流密度のイオンビームが得られなくなる。そのため、走査イオン顕微鏡のようなイオンビーム装置では、高い信号/ノイズ比で試料が観察できなくなる。
【0015】
本発明は、イオンビーム装置冷却機構について取得した上述した知見を基に、従来のイオンビーム装置における諸問題を解決したものであって、イオンビーム装置冷却機構の冷凍機によって生じる振動がイオン源に伝達されてしまうことを極力防ぐとともに、イオンビーム装置冷却機構の冷却性能の大幅向上をはかったイオンビーム装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係るイオンビーム装置は、イオンを生成するエミッタティップが設けられ、イオン化ガス若しくはガス分子が供給されるイオン源室を画成するイオン源筐体と、イオン源室にエミッタティップと熱的に接続されて設けられ、冷凍機の冷却ステージが物理的に直接接触することなしに収容される冷却ポットと、冷却ステージの周面と前記冷却ポットの内周面との間隔を一定以上に保つスペーサとを有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係るイオンビーム装置に用いられる冷凍機は、イオン源室にエミッタティップと熱的に接続されて設けられる冷却ポットに、物理的に直接接触することなしに収容され、冷却ポットを熱伝導媒体を介して冷却する冷却ステージと、冷却ステージの周面と前記冷却ポットの内周面との間隔を一定以上に保つスペーサとを有することを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係るイオンビーム装置の冷却機構の取り付け方法は、常温状態に対しての冷却状態で体積が縮む材料によって構成されたスペーサを備え、冷却ポットを冷却する冷却ステージを、スペーサを常温状態に保ちつつ、イオン源室にエミッタティップと熱的に接続されて設けられている冷却ポット内に収容し、冷却ポットに収容された状態でスペーサを冷却状態とすることで、スペーサの周面と冷却ポットの内周面とを離間させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、冷却ポットとしてのガスポットと冷凍機の冷却ステージとを物理的に直接接触させることなく、ガスポットと冷却ステージとのギャップを狭くして、冷却ステージに対してガスポットを位置決め保持しておくことができるので、冷却ステージからガスポットを介してエミッタティップへの振動伝達を極力低減させることができる一方、冷却ステージによるガスポットの冷却も良好に行うことができ、エミッタティップ及びエミッタティップ周辺の冷却性能を向上させることができる。
【0020】
これにより、イオンビーム装置として、以下の効果を奏することが可能となる。
【0021】
(1)イオンビーム装置を用いて、試料のより高感度な検査を行うことが可能となる。
【0022】
(2)検査結果において、欠陥の検出再現性を向上させることが可能となる。
【0023】
なお、上記した以外の課題、構成、及び効果は、以下の実施の形態の説明より明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1の実施の形態に係るイオンビーム装置としての走査イオン顕微鏡の概略構成図である。
図2図1に示した走査イオン顕微鏡のイオンビーム装置冷却機構を構成する冷却ステージユニット及びガスポット部分の部分拡大図である。
図3図2に示した冷却ステージユニット及びガスポット部分を組み付ける前の、冷却ステージユニット部分とガスポット部分とを分離して表した図である。
図4図3に示した冷却ステージユニット部分とガスポット部分とを組み付けた図である。
図5】フィンとガスポットとの位置調整に係る比較例としての、スペーサが設けられていない冷却ステージユニットの説明図である。
図6図2に示した冷却ステージユニット及びガスポット部分についての常温時と冷却時の状態比較図である。
図7】冷却ステージにフィンを接続固定してなる組立体の変形例の構成図である。
図8】熱伝導媒体調整機構を備えた冷却機構の構成図である。
図9】比較例としての熱伝導媒体調整機構を備えていない冷却機構の動作状態説明図である。
図10】本発明の第2の実施の形態に係るイオンビーム装置としての走査イオン顕微鏡の概略構成図である。
図11図10に示したイオンビーム装置のイオンビーム装置冷却機構を構成する冷却ステージユニット及びガスポット部分の部分拡大図である。
図12図11に示した冷却ステージユニット及びガスポット部分を組み付ける前の、冷却ステージユニット部分とガスポット部分とを分離して表した図である。
図13図11に示した冷却ステージユニット及びガスポット部分についての常温時と冷却時の状態比較図である。
図14】冷却ステージにフィンを接続固定してなる組立体の変形例の構成図である。
図15】走査イオン顕微鏡と質量分析器とを複合したイオンビーム装置の一実施例の構成図である。
図16図16は、図15に示した走査イオン顕微鏡と質量分析器とを複合したイオンビーム装置に係る別の実施例の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施の形態について説明するに当たり、まず、イオンビーム装置の特徴について説明しておく。
【0026】
イオンビーム装置は、SEM等の電子ビームを用いた電子ビーム装置に比べて、試料表面の情報に敏感である。これは、二次荷電粒子の励起領域が、イオンビームの照射では、電子ビームの照射に比べて試料表面により局在するからである。また、イオンビーム装置では、イオンビームの回折効果を無視することができる。電子ビームは、電子の波としての性質が無視できないため、回折効果により収差が発生する。これに対し、イオンビームでは、イオンは電子に比べて質量が重いため、波としての性質が無視できる。
【0027】
このような特徴を生かしたイオンビーム装置の一例として、走査イオン顕微鏡がある。走査イオン顕微鏡は、イオンビームを走査しながら試料に照射して、試料から放出される二次荷電粒子を検出し、試料表面の構造を観察する装置である。特に、水素,ヘリウム等の質量の軽いイオン種を試料に照射すれば、相対的にスパッタ作用は小さくなり、試料を観察するのに好適となる。
【0028】
また、イオンビーム装置の別例として、透過イオン顕微鏡がある。透過イオン顕微鏡は、イオンビームを試料に照射して試料を透過したイオンを検出し、試料内部の構造を反映した情報を得ることができる装置である。透過イオン顕微鏡も、水素,ヘリウム等の質量が軽いイオン種を試料に照射すれば、試料を透過する割合が大きくなり、試料を観察するのに好適となる。
【0029】
また、イオンビーム装置のさらなる別例として、集束イオンビーム装置(Focused Ion Beam、以下では、FIBとも略称する)がある。集束イオンビーム装置は、逆に、スパッタ作用により試料を加工するのに好適な、アルゴン、キセノン、ガリウム等の質量が重いイオン種を試料に照射して、スパッタ作用により試料を加工する装置である。特に、イオンビームを生成するイオン源に液体金属イオン源(Liquid Metal Ion Source、以下では、LMISとも略称する)を用いた集束イオンビーム装置(FIB)が、集束イオンビーム加工観察装置として知られている。
【0030】
加えて、近年では、走査電子顕微鏡(SEM)と集束イオンビーム装置(FIB)との複合装置である、FIB-SEM装置も使用されている。FIB-SEM装置は、集束イオンビーム(FIB)を照射して試料の所望箇所に角穴を形成することができ、かつその試料断面をSEM観察することができる。FIB-SEM装置では、イオン源は液体金属イオン源に限らず、イオン源としてプラズマイオン源やガス電界電離イオン源を用い、アルゴンやキセノン等のガスイオンを生成して試料に照射するようにしても、試料の加工は可能である。
【0031】
本発明は、このようなイオン顕微鏡,イオンビーム加工観察装置のようなイオンビーム装置、イオンビーム加工観察装置とイオン顕微鏡との複合装置のようなイオンビーム装置同志を複合したイオンビーム装置に適用可能である。また、本発明は、イオン顕微鏡と電子顕微鏡とを適用した解析・検査装置,イオン顕微鏡と質量分析器との複合装置、イオン顕微鏡と電子顕微鏡と質量分析器の複合装置のような、イオンビーム装置とイオンビーム装置以外の装置とを複合したイオンビーム装置にも適用可能である。
【0032】
以下では、このようなイオンビーム装置同志を複合したイオンビーム装置、イオンビーム装置とイオンビーム装置以外の装置とを複合したイオンビーム装置についても、イオンビーム装置で総称する。したがって、本発明に係るイオンビーム装置は、イオン源を用いた装置、特にガス電界電離イオン源を用いた装置であれば、上述した装置に限定されない。
【0033】
以下では、本発明に係るイオンビーム装置、イオンビーム装置で用いられる冷凍機、及びイオンビーム装置における冷却機構の取り付け方法の実施の形態について、イオンビーム装置の一種である走査イオン顕微鏡を例に、図面を参照しながら説明する。なお、図面は、専ら本発明の理解のために用いられているものであり、本発明に係るイオンビーム装置やその装置冷却機構等の具体的な構成やイオンビーム装置の種別等を限定するものではなく、その権利範囲を無用に限縮するものではない。
【0034】
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るイオンビーム装置としての走査イオン顕微鏡の概略構成図である。
【0035】
図2は、図1に示した走査イオン顕微鏡のイオンビーム装置冷却機構を構成する冷却ステージユニット及びガスポット部分の部分拡大図である。
【0036】
図3は、図2に示した冷却ステージユニット及びガスポット部分を組み付ける前の、冷却ステージユニット部分とガスポット部分とを分離して表した図である。
【0037】
図4は、図3に示した冷却ステージユニット部分とガスポット部分とを組み付けた図である。
【0038】
図に示すように、イオンビーム装置である走査イオン顕微鏡10は、イオンビーム21を生成するイオン源20と、ビーム照射系31が備えられたカラム(鏡筒)30と、観察対象の試料41が収容・配置される試料室40と、イオン源20を冷却するイオンビーム装置冷却機構50(以下では、冷却機構50とも略称する)と、顕微鏡各部の制御を行う制御装置90とを有する。
【0039】
図示の例では、試料室40及びカラム30は、真空容器32によって一体的に構成されている。その上で、試料室筐体部及びカラムを兼ねた真空容器32は、イオン源20のイオン源筐体22とともに、イオンビーム装置10の装置本体11を構成する。真空容器32、すなわちイオンビーム装置10の装置本体11は、床12に配置された基台13に防振機構14を介して支持されたベース板15上に、搭載固定されている。
【0040】
防振機構14は、例えば、防振ゴム,バネ,ダンパ,又はこれらの組み合わせによって構成されている。防振機構14は、床12から基台13を介してベース板15に伝わる振動を減衰する。これにより、床12から装置本体11に伝わる振動は、走査イオン顕微鏡10の実用上で問題にならないレベルまで低減される。
【0041】
真空容器32は、試料室40及びカラム30を含むその容器内部が真空に保持される。そのために、真空容器32には、容器内雰囲気を真空排気する真空排気系33が接続されている。真空排気系33は、図示の例では、ベース板15に形成された真空容器32の排気口に、真空ポンプ等の真空排気機器34が真空排気管35を介して接続された構成になっている。この場合、真空排気系33も、図示省略するが、例えば、真空排気管35の途中部、又は真空排気機器34若しくはベース板15との接続部に、例えば、ベローズ,パッキン,シール等の緩衝部材による防振機構が設けられている。これにより、真空排気管35を介してベース板15及び装置本体11に伝達される真空排気機器34の駆動振動も、走査イオン顕微鏡10の実用上で問題にならないレベルまで低減される。
【0042】
図示の実施例では、真空容器32の内部に、ベース板15の板厚方向に沿って、試料室40とビーム照射系31を収納するカラム30とが上下に一体的に配置された構成になっている。
【0043】
試料室40には、試料41を載置し、試料室40内で移動させる試料ステージ42と、イオンビーム21の照射によって試料41から発生する二次粒子を検出する二次粒子検出器43とが設けられている。加えて、真空容器32の試料室部分の周壁には、図示省略するが、試料搬入・搬出口が形成されている。試料搬入・搬出口は、閉塞/開放可能な蓋体で常時は気密に密閉されている。観察対象の試料41は、この試料搬入・搬出口を介して、試料室40に対し搬入/搬出される。
【0044】
試料ステージ42は、搬入された試料41が搭載される載置面と、この載置面を移動(回動、傾動も含む)させる駆動機構を備えている。試料ステージ42は、搭載された試料41上におけるイオンビーム照射位置、照射方向を、この載置面の移動に応動させて変位・変化させる。二次粒子検出器43は、イオンビーム21の照射によって試料41から発生した二次粒子を検出し、その検出信号を制御装置90内の画像生成部に出力する。
【0045】
ビーム照射系31は、イオン源20から放出されるイオンビーム21を集束,走査するレンズ,偏向器等を含んで構成されている。図示の例では、ビーム照射系31は、その光軸がベース板15の板面に垂直な、ベース板15の板厚方向に沿って延びるようにして、試料室40上方の真空容器32内、すなわちカラム30に固定配置されている。ビーム照射系31は、イオン源20で生成されたイオンビーム21が試料ステージ42に搭載された試料面上の所望位置に照射されるように、制御装置90内の照射制御部から供給される制御信号に基づいて、レンズ,偏向器等の各部を駆動制御する。
【0046】
一方、イオンビーム21を生成するイオン源20は、本実施の形態では、ガス電界電離イオン源(以下では、ガスイオン源とも略称する)が用いられている。ガスイオン源20は、生成するイオンビーム21の光軸がビーム照射系31の光軸と同軸になるようにして、そのイオン源筐体22が真空容器32に一体的に固定された構成になっている。図示の例では、イオン源筐体22は、真空容器32の上部に連設されたイオン源収容筐体部23と、このイオン源収容筐体部23の側面から、ベース板15の板面と平行に、水平方向外方に突出したポット収容筐体部(冷却機構筐体部)24とを有する。これにより、イオン源収容筐体部23内にはガスイオン化室25が形成され、ポット収容筐体部24内にはポット収容室26が形成される。両室25,26は、イオン源収容筐体部23とポット収容筐体部24との連結部おける連通口28を介して常時連通し、両室25,26を合わせて一体的なイオン源室27を構成する。また、ポット収容筐体部24の突出端は、冷却機構装着口29として水平方向に向けて開口している。イオン源室27と真空容器32のカラム30内とは、両室間を画成する隔壁部36に形成された通過孔37を介してのみ繋がっている。通過孔37は、ビーム照射系31の光軸位置に合わせて、隔壁部36上に貫通形成されている。
【0047】
なお、本実施の形態では、ポット収容筐体部24におけるポット収容室26の延設方向及び冷却機構装着口29の開口方向については、水平方向になっている構成として説明したが、その延設方向及び開口方向は、必ずしも水平方向に限るものではなく、例えば、垂直方向になっている構成であってもよい。
【0048】
ガスイオン源20は、イオン源筐体22のガスイオン化室25にエミッタティップ45及び引き出し電極46を備え、ガス源47からイオン化ガスを供給するガス供給配管48,イオン源室27内の雰囲気を真空排気する真空排気系49の真空排気管39がそれぞれガスイオン化室25に連通接続されて構成されている。
【0049】
エミッタティップ45は、高電圧が印加できる針状の電極で構成されている。エミッタティップ45は、制御装置90内のガスイオン源制御部と接続され、ガスイオン源制御部による制御で高電圧を印加され、針状の電極から強電界を発生可能になっている。エミッタティップ45は、イオン化ガスのガス分子が近づくと、ガス分子内の電子がエミッタティップ45の針状の電極からの強電界により低減したポテンシャル障壁を量子トンネル効果によりトンネリングすることによって、正イオンを生成する。引き出し電極46は、制御装置90内のガスイオン源制御部と接続され、ガスイオン源制御部による制御で引き出し電圧を印加され、エミッタティップ45によって生成された正イオンを引き出して、イオンビームとして放出させる。エミッタティップ45及び引き出し電極46は、放出するイオンビーム21の光軸が隔壁部36の通過孔37及びビーム照射系31の光軸と同軸になるようにして、イオン源収容筐体部23に固定配置されている。なお、ガス供給配管48経由でイオン源室27に供給されるイオン化ガスは、ガス分子であってもよい。
【0050】
ガス供給配管48の途中や接続部等にも、ベローズ,パッキン,シール等の緩衝部材による防振機構が設けられている。これにより、ガス供給配管48を介してイオン源筐体22に伝達されるイオン化ガスのガス源47の駆動振動も、走査イオン顕微鏡10の実用上で問題にならないレベルまで低減される。同様に、真空排気管39の途中や接続部等にも、ベローズ,パッキン,シール等の緩衝部材による防振機構が設けられている。これにより、真空排気管39を介してイオン源筐体22に伝達される真空排気機器38の駆動振動も、走査イオン顕微鏡10の実用上で問題にならないレベルまで低減される。なお、このイオン源室27内の真空排気を行う真空排気機器39は、真空容器32の排気を行う真空排気機器34で共用することも可能である。
【0051】
ガスイオン源20のエミッタティップ45により生成され、引き出し電極46から放出されたイオンビーム21は、通過孔37を介して真空容器32内に進入し、ビーム照射系31によって適宜、集束,偏向,又は走査されて、試料室40内の試料ステージ42に搭載された試料40上の観察箇所に照射される。その際、このイオンビーム21の照射によって試料40上の観察箇所から放出される二次荷電粒子は、二次粒子検出器43によって検出され、制御装置90内の画像生成部では、この二次粒子検出器43からの検出信号に基づいて、イオンビームの照射箇所の観察画像が生成される。制御装置90では、この生成された観察画像を入出力装置91の表示部に表示し、視認可能になっている。
【0052】
一方、イオン源室27のポット収容室26には、冷却機構(イオンビーム装置冷却機構)50のガスポット51が収容配置される。そこで、このポット収容室26におけるガスポット51の収容配置について説明するに当たって、まず、本実施の形態の走査イオン顕微鏡10に備えられた冷却機構50の全体構成について説明する。
【0053】
冷却機構50は、エミッタティップ45周辺のガスイオン化室25部分におけるイオン化ガスの分子密度を大きくするため、エミッタティップ45を極低温に冷却し、エミッタティップ45周辺のイオン化ガスの温度を低温化する。冷却機構50は、機械式の冷凍機52とガスポット51とを組み合わせた冷却機構で構成されている。
【0054】
本実施の形態では、冷却機構50の機械式の冷凍機52には、GM型冷凍機(Gifford-McMahon cooler)が用いられている。なお、機械式の冷凍機52としては、GM型冷凍機に限らず、パルス管冷凍機、又はスターリング型冷凍機等を用いることも可能である。
【0055】
冷凍機52は、冷凍機本体53と、コンプレッサ54とを有し、冷凍機本体53とコンプレッサ54とは、高圧配管55及び低圧配管56を介して接続されている。冷凍機52は、高圧力の作業ガスを冷凍機本体53内部で周期的に膨張させることによって寒冷を発生させる構造になっている。
【0056】
コンプレッサ54は、例えばヘリウムガスからなる作業ガスを圧縮して高圧状態にし、高圧配管55を介して冷凍機本体53に供給する。冷凍機本体53において寒冷の発生に用いられ、圧力が低下した作業ガスは、低圧配管56を介してコンプレッサ54に回収される。回収された作業ガスは、コンプレッサ54で再び圧縮される。
【0057】
冷凍機本体53には、例えば、蓄冷器が内部に組み込まれ一体化されたディスプレーサーが往復移動可能に設けられたシリンダ(図示せず)と、シリンダ内でディスプレーサーを往復動させるディスプレーサー駆動手段(図示せず)と、シリンダ内におけるディスプレーサーの移動に合わせてシリンダ内を高圧配管55又は低圧配管56に連通させることにより作業ガスを流入/流出させるバルブ機構(図示せず)とが備えられている。そして、ディスプレーサーにより画成されるシリンダ内の膨張室側を含む部分が、熱負荷を冷却する冷却ステージ57として、その筐体表面からロッド状に突出された構成になっている。
【0058】
図示の例では、冷却ステージ57は、冷凍機本体53の筐体表面に突出形成された基部57aから、軸線方向に沿って眺めた外形形状が基部57aの外形形状よりも小さくなっているステージ57bが、同軸にさらに突出形成されている段付ロッド形状になっている。冷却ステージ57は、ステージ先端側が最冷却面になっているため、ステージ先端57cには、フィン58の基部58aが冷却ステージ57と同軸に密着固定されている。フィン58は、熱伝導性(放熱性)が高い材料、例えば無酸素銅を用いて形成され、冷却ステージ57の最冷却面の面積拡大をはかっている。これに伴って、冷却ステージ57の軸線方向に沿って眺めた、軸線方向に垂直なフィン58の外形形状は、冷却ステージ57のステージ57bの外形形状よりも大きく、大径になっている。
【0059】
また、冷却ステージ57のステージ57bの周面には、ステージ57bの周面を囲繞するようにして、スペーサ59が取り付けられている。スペーサ59は、ステージ57bに装着されている状態において、冷却ステージ57の軸線を中心とする径方向に関し、フィン58の外周縁部よりも径方向外方に突出する外周縁部を有するように形成されている。
【0060】
なお、このような観点に基づくスペーサ59の具体的形態については、例えば、冷却ステージ57のステージ57bの周面全体を囲繞する管状スペーサ、複数のスペーサ片をステージ57bの周回り方向に沿って所定間隔に並べて配置し、ステージ57bの周面を部分的に囲繞するスペーサ片集合体等、種々の具体的形態を用いることが可能である。
【0061】
また、冷却ステージ57のステージ57bに装着されている状態のスペーサ59をその軸線方向に沿って眺めた外周縁部の形状についても、例えばスペーサ59が管状スペーサである場合でも、その周回りに沿った全域で外周縁部が少なくともフィン58の外周縁部に対して突出している円形形状、その周回りに沿った複数個所でのみ部分的に外周縁部の隅部が少なくともフィン58の外周縁部に対して突出している多角形形状等、種々の外周縁部の形状を用いることが可能である。
【0062】
本実施の形態では、スペーサ59には、冷却ステージ57のステージ57bに装着された状態で、ステージ57bの周面全体を囲繞するとともに、その周回りに沿った全域に亘って、基部57a及びフィン58それぞれの外周縁部よりもその外周縁部が径方向外方に突出している管状スペーサが用いられているものとする。以下では、フィン58及びスペーサ59が組み付けられた状態の冷却ステージ57のことを、冷却ステージユニット60と称する。
【0063】
さらに、本実施の形態では、スペーサ59は、断熱性を有するとともに、その大きさについては、常温(例えば、走査イオン顕微鏡10が設けられた部屋の室温が該当)に対して冷却されると収縮して常温時よりも体積が減少し、常温に戻されるとほぼ同型に戻る温度可逆性を有するようになっている。そのため、スペーサ59は、その軸線方向に沿って眺めた外周縁部の大きさについても、冷却すると常温時よりも収縮し、常温に戻すと元の大きさに戻るといった温度可逆性を有する。このようなスペーサ59は、例えば発泡樹脂のような多孔質材料によって構成されている。
【0064】
冷却ステージユニット60のスペーサ装着部分60aの周面は、常温で、冷却ステージユニット60のフィン部分60bの周面よりも、冷却ステージユニット60の軸線を中心とする径方向に関して、その周回りに沿った全域で、径方向外方に突出しているようになっている。
【0065】
一方、ガスポット51は、一端が閉塞され他端が開放された有底筒状のポット本体61を有し、ポット本体61内に、冷却ステージユニット60のフィン58、及びスペーサ59が設けられた冷却ステージ57のステージ57bを収容可能なステージ収容室62を有する構造になっている。本実施の形態では、このステージ収容室62の軸方向に沿った長さは、冷却ステージユニット60における、スペーサ装着部分60aの軸方向長さ(スペーサ59が装着された冷却ステージ57のステージ57bの軸方向長さ)とフィン部分60bの軸方向長さ(冷却ステージ57のステージ57bに密着固設されたフィン58の軸方向長さ)とを加えた長さよりも適宜長くなっている。これにより、ステージ収容室62に冷却ステージユニット60が収容された状態で、フィン58の軸方向先端部分とポット本体61の収容室底面61cとの間の端面ギャップg1(図2を参照)を形成できるようになっている。
【0066】
なお、図示の例では、ポット本体61のステージ収容室62には、冷凍機本体53の筐体表面に突出形成された基部57aの一部も収容されるようになっている。そのため、冷却ステージユニット60の軸方向に沿って眺めたスペーサ装着部分60aの軸線方向に垂直な外形形状は、基部57aの軸線方向に垂直な外形形状よりも大きくなっており、スペーサ装着部分60aの外周縁部は、その周回りに沿った全域で、基部57aの外周縁部よりも径方向外方に突出している。しかし、ポット本体61のステージ収容室62に、冷凍機本体53の筐体表面に突出形成された基部57aが全く収容されない場合は、この基部57aがステージ収容室62の壁面となるポット本体61の内周面に接触することはほとんど無いから、スペーサ装着部分60aの外周縁部が基部57aの外周縁部よりも径方向外方に突出していることは、必須の構成ではない。
【0067】
また、ステージ収容室62は、軸線に垂直な断面形状が、軸方向に沿った全域で一様な、段差が無い断面形状になっており、冷却ステージユニット60のスペーサ装着部分60aの外周面形状に合わせた断面形状になっている。この断面形状の大きさ(ステージ収容室62の径方向長さ)は、常温状態の冷却ステージユニット60のスペーサ装着部分60a、すなわち冷却ステージユニット60における非収縮状態のスペーサ59の外周縁部が接触可能な大きさになっている。これにより、図示の例では、常温状態で、冷却ステージユニット60が、スペーサ59をステージ収容室62の壁面となるポット本体61の内周面に接触させ、ステージ収容室62に収容されている状態では、冷却ステージユニット60はポット本体61と同軸になっており、冷却ステージユニット60のフィン部分60bの外周縁部とポット本体61の内周面との間には、ギャップg2(図2を参照)がフィン部分60bの周回りに形成される構成になっている。なお、このギャップg2のギャップ長については、フィン部分60bの周回りの全域で必ずしも同じギャップ長になっている必要はない。
【0068】
したがって、冷却ステージユニット60のフィン部分60bとポット本体61の底面側本体部61aとの間には、ギャップg1,g2を有する非接触空間部67が形成される。加えて、冷凍機本体53の筐体表面に突出形成された基部57aの周面とポット本体61の内周面とが重合する場合には、基部57aの周面とポット本体61の内周面との間にも、ギャップg3(図2を参照)が形成されるようになっている。
【0069】
このポット本体61は、冷却ステージユニット60のフィン部分60bを収容する部分からなる底面側本体部61aと、冷却ステージユニット60のスペーサ装着部分60aを収容する部分からなる開口側本体部61bとを、同軸に一体的に接合固定した構成になっている。底面側本体部61aは、伝熱材によって構成されているのに対し、開口側本体部61bは断熱材(底面側本体部61aに比して熱伝導性が極端に低い部材)によって構成されている。これにより、冷却ステージ57のステージ57b、及び冷却ステージ57の最冷却面であるステージ先端57cに密着固設されたフィン58により冷却されるガスポット51の部分を、底面側本体部61aに限定できる構成になっている。同時に、この冷却される底面側本体部61aへの外部からの熱進入も、断熱材からなる開口側本体部61bを介して行われるので、開口側本体部61bで熱遮断されて低減することができる。これにより、冷却ステージ57によるガスポット51の底面側本体部61aの冷却速度が向上し、冷却効率の向上がはかれるようになっている。
【0070】
冷却機構50は、ガスポット51のポット本体61の他端側開口から挿入された冷却ステージユニット60のフィン部分60b及びスペーサ装着部分60aを、冷却ステージユニット60とガスポット51とが同軸になるようにしてステージ収容室62に収容配置し、ガスポット51を冷凍機本体53に一体的に連結して構成される。そして、このステージ収容室62への冷却ステージユニット60の収容配置の際は、ガスポット51の内周面と接触し得るのは、冷却ステージユニット60のスペーサ装着部分60aの外周縁部だけであり、冷却ステージユニット60のフィン部分60bを含む他の周面部分は、ガスポット51の内周面には接触しないようになっている。
【0071】
一方、伝熱材によって構成されているポット本体61の底面側本体部61aは、イオン源筐体22のイオン源収容筐体部23に設けられたエミッタティップ45に、冷却伝導機構70を介して熱的に接続されている。
【0072】
冷却伝導機構70は、例えば金メッキ施した銅網線部を有して構成され、冷却伝導機構70自体は、その銅網線部の変形によって撓み或いは屈曲等の変形が可能になっている。これにより、ポット本体61の底面側本体部61aとエミッタティップ45との相対配置が僅かにずれていたとしても、冷却伝導機構70は、銅網線部が変形することによって破損せず、そのずれを吸収して両者を連結保持できるようになっている。
【0073】
ガスポット51と冷凍機本体53との連結は、伸縮可能な管状ベローズ63を介して行われる。管状ベローズ63は、冷却ステージユニット60が同軸に内挿された状態で、その基部57aの周面が当接することがなく、基部57aの周面と所定距離だけ離間して対向可能な内周面を有する構成になっている。管状ベローズ63は、一端側に、ガスポット51のポット本体61の他端に一体的に形成された取付フランジ64と接合可能なポット連結枠65を備えている。管状ベローズ63の他端側は、冷凍機本体53に密着固定されている。
【0074】
本実施の形態では、管状ベローズ63を介してガスポット51と冷凍機本体53とを連結するのに際して、ガスポット51は、予め、イオン源筐体22の冷却機構装着口29からポット収容筐体部24内に収容配置されており、例えば、ポット本体61の取付フランジ64が、ポット収容筐体部24の突出端に形成された取付フランジ66に図示せぬパッキン等のシール部材を介して気密に取り付けられた状態になっている。これに対し、冷凍機本体53には、管状ベローズ63の他端側が密着固定され、冷却ステージユニット60が同軸に内挿された状態になっている。そのため、ガスポット51と冷凍機本体53との連結は、冷凍機本体53に予め固定されている管状ベローズ63のポット連結枠65を、ポット本体61の取付フランジ64若しくはポット収容筐体部24の取付フランジ66に、図示せぬパッキン等のシール部材を介して気密に接合連結することによって行われる。その際には、ガスポット51のステージ収容室62に、ポット本体61の他端側開口からガスポット51と同軸になるようにして、冷却ステージユニット60のフィン部分60b及びスペーサ装着部分60aが配置される。
【0075】
管状ベローズ63のポット連結枠65をポット本体61の取付フランジ64若しくはポット収容筐体部24の取付フランジ66に気密に接合連結した状態で、管状ベローズ63の内周面と冷凍機本体53の筐体表面に突出形成された基部57aの周面との間には、外部雰囲気(走査イオン顕微鏡10が設けられた部屋の雰囲気)に対して気密に画成された振動抑制空間部68が形成され、ステージ収容室62内には、非接触空間部67が形成される。
【0076】
その後、非接触空間部67には熱伝導媒体が、振動抑制空間部68には振動緩衝媒体が貯留される。本実施の形態では、冷却ステージユニット60によるポット本体61の底面側本体部61aの冷却時、体積が縮小したスペーサ59によって非接触空間部67と振動抑制空間部68との間はガスポット51内で連通されるので、熱伝導媒体及び振動緩衝媒体には同じ種類の媒体、例えばヘリウムガスが利用される。したがって、非接触空間部67及び振動抑制空間部68には、同じヘリウムガスが送り込まれ、両空間部67,68それぞれに、ガスイオン化室25に供給されたイオン化ガスのヘリウムガスとは隔絶されて貯留される。以下では、共通のヘリウムガスからなる熱伝導媒体及び振動緩衝媒体を、熱伝導媒体69で総称する。
【0077】
この両空間部67,68それぞれに対する熱伝導媒体69の送り込みについても、本実施の形態では、両空間部67,68のいずれか一方側へヘリウムガスを送り込めば、他方側へもヘリウムガスを送り込めるようになっている。すなわち、本実施の形態では、冷却ステージ57のステージ57bに取り付けられたスペーサ59が発泡樹脂を用いて構成され、その周面は微視的には大きな凹凸面となっており、細かな微視的な隙間が多数生じているので、スペーサ59の周面が常温状態でポット本体61の開口側本体部61bの内周面の周回り方向に沿って全域で接触している場合であっても、この細かな微視的な隙間を介して、両空間部67,68のいずれか一方側に送り込むだけで、他方側にも送り込むことが可能になっている。そのため、図示の例では、ガス供給配管48と同様に同じヘリウムガスのガス源47に接続された、図示せぬ別個のガス供給配管がガスポット51内の振動抑制空間部68に連通し、熱伝導媒体69を非接触空間部67及び振動抑制空間部68に貯留することができるようになっている。
【0078】
一方、冷凍機本体53は、走査イオン顕微鏡10の装置本体11が搭載固定されたベース板15とは別個の支持台83上に、ロッド状に突出した冷却ステージユニット60の軸線方向を、イオン源筐体22のポット収容筐体部24に設けられた冷却機構装着口29と高さ位置に合わせて、搭載固定されている。本実施の形態では、装置本体11の姿勢が水平状態になっている場合、イオン源筐体22における冷却機構装着口29の開口向きが水平方向を向いているから、冷凍機本体53も、冷却ステージユニット60の軸線方向が水平方向になるように冷凍機本体53を向けて、支持台83上に搭載固定されている。なお、支持台83上での冷凍機本体53の搭載姿勢は、イオン源筐体22のポット収容筐体部24におけるガスポット51の収容向き(冷却機構装着口29の向き)が変われば、それに応じて変更される。
【0079】
支持台83は、基台部84と、支柱部85と、位置調整・固定機構部87と有した構造になっている。支柱部85は基台部84に立設され、走査イオン顕微鏡10のポット収容筐体部24の高さ位置に合わせた長さを有する。位置調整・固定機構部87は、冷凍機本体53が搭載固定される搭載部88を含み、支柱部85の取付部86に取り付け固定されている。位置調整・固定機構部87は、搭載部88を所定量範囲内で、昇降、回動、又は傾動できる構造になっており、搭載部88に搭載固定された冷凍機本体53の姿勢状態を、この所定量範囲に基づく許容範囲で微調整可能になっている。
【0080】
次に、本実施の形態に係る走査イオン顕微鏡10に備えられた冷却機構50に係り、冷却機構50の組み立て、その際におけるスペーサ59によるフィン58とガスポット51との位置調整について、図1図6に基づいて説明する。
【0081】
図3は、冷却ステージ57にフィン58が接合固定された冷凍機60と、イオン源筐体22のイオン源収容筐体部23に取り付けられたガスポット51とが、未だ組み付けられていない状態に該当する。
【0082】
図3において、図示した矢印は、冷却ステージユニット60とガスポット51とが同軸になるようにして、冷却ステージユニット60のフィン部分60b及びスペーサ装着部分60aをガスポット51のポット本体61の他端側開口から挿入し、ステージ収容室62に収容配置する収容方向を示す。このガスポット51のステージ収容室62への冷却ステージユニット60の収容作業は、常温下で行われる。
【0083】
図4は、冷却ステージ57にフィン58が接合固定された冷却ステージユニット60と、イオン源筐体22のイオン源収容筐体部23に取り付けられたガスポット51とが、組み付けられた後の状態に該当する。なお、図示の状態では、この組み付けにより形成された非接触空間部67及び振動抑制空間部68には、未だ熱伝導媒体69は封入されていない。そのため、スペーサ59は冷却されることなく、常温状態のままである。なお、図3及び図4では、組み付けに当たり、ガスポット51が予めリジッドに取り付けられているイオン源筐体22については、図示省略されている。
【0084】
図3に示すように、ガスポット51のステージ収容室62に冷却ステージユニット60を収容する際は、冷却ステージユニット60のスペーサ装着部分60aのみが、本実施の形態の場合では、非収縮状態の管状スペーサ59の外周縁部のみが、ステージ収容室62の壁面となるポット本体61の内周面の周回り全域に亘って接触支持されながら、ポット本体61内に収容される。そのため、冷却ステージユニット60を、ステージ収容室62を形成するポット本体61と同軸に配置することができる。すなわち、冷却ステージユニット60の軸がポット本体61の軸に対してずれたり、傾いたりすることなく、ステージ収容室62に配置することができる。
【0085】
そして、ポット連結枠65を、ポット本体61の取付フランジ64若しくはポット収容筐体部24の取付フランジ66に、図示せぬパッキン等のシール部材を介して気密に接合連結する際も、非収縮状態のスペーサ59の外周縁部がステージ収容室62の壁面となるポット本体61の内周面の周回り全域に亘って接触し、支持されている状態で行われるので、その接合連結によっても、冷却ステージユニット60とポット本体61との同軸性が損なわれることもない。
【0086】
また、仮に、冷却ステージユニット60の軸線方向に沿って眺めたスペーサ装着部分60aの外周縁部の形状の大きさが、ポット本体61の軸線方向に沿って眺めたステージ収容室62の内周形状の大きさよりも小さな場合でも、ガスポット51の内周面と接触し得るのは、冷却ステージユニット60のスペーサ装着部分60aの外周縁部だけであり、冷却ステージユニット60のフィン部分60bを含む他の周面部分は、ガスポット51の内周面には接触しない。このように、スペーサ59の周回りに沿った一部だけでしか、ステージ収容室62の壁面となるポット本体61の内周面に接触していない場合でも、そのスペーサ59の接触している部分が冷却ステージユニット60のそれ以外の部分とポット本体61の内周面との接触を規制する。この場合は、冷却ステージユニット60は、スペーサ装着部分60aの接触部分だけがポット本体61の内周面で支持されるだけであるが、冷却ステージユニット60の軸に対するポット本体61の軸の傾きで表される傾斜角θは、このスペーサ装着部分60aの接触部分に該当するスペーサ59の一部がステージ収容室62の内周面に接触したときの値以下に確実に抑えられる。
【0087】
なお、この冷却ステージユニット60の軸線方向に沿って眺めたスペーサ装着部分60aの外周縁部の形状の大きさが、ポット本体61の軸線方向に沿って眺めたステージ収容室62の内周形状の大きさよりも小さい場合とは、冷却ステージユニット60の軸線方向に沿って眺めたスペーサ装着部分60aの外周縁部の形状が、ポット本体61の軸線方向に沿って眺めたステージ収容室62の内周形状と相似になっている場合や、両者の形状が異なる場合等が該当する。
【0088】
図5は、フィンとガスポットとの位置調整に係る比較例としての、スペーサが設けられていない冷却ステージユニットの説明図である。
【0089】
図5(a)は、冷却ステージ57にフィン58が接合固定された冷凍機60と、イオン源筐体22のイオン源収容筐体部23に取り付けられたガスポット51とが、未だ組み付けられていない状態に該当する。図5(a)において、図示した矢印は、ガスポット51のステージ収容室62に冷却ステージユニット60を収容する収容方向を示す。図5(b),(c)は、冷却ステージ57にフィン58が接合固定された冷凍機60と、イオン源筐体22のイオン源収容筐体部23に取り付けられたガスポット51とが、組み付けられた後の状態に該当する。なお、各部の構成については、スペーサ59が設けられていない以外は、図1図3に示した本実施の形態の冷却機構50と同一なので、同一符号を付し、個別の詳細な説明は省略する。
【0090】
比較例の、冷却ステージ57にフィン58を接続固定してなる組立体からなり、スペーサ59が設けられていない冷却ステージユニット60では、冷却ステージユニット60の外周面とガスポット51の内周面との間に、スペーサ非装着部分60a’,フィン部分60bそれぞれの軸線方向に沿った長さの合計分からなる長さを有する隙間が形成される。そのため、ステージ収容室62での冷却ステージユニット60の偏芯や、傾斜角θで表されるステージ収容室62における冷却ステージユニット60の傾きに対し、その許容度は必要以上に大きくなってしまっている。
【0091】
これにより、冷凍機60とガスポット51との組み付けに当たって、冷却ステージユニット60をガスポット51と同軸にして、冷却ステージユニット60の外周面とガスポット51の内周面との間に隙間が形成されるように、冷却ステージユニット60をステージ収容室62に対して位置決めしたとしても、冷却ステージユニット60の偏芯や傾きに対しての許容度は、必要以上に大きい状態になってしまっている。その結果、実際に、ポット連結枠65をポット本体61若しくはポット収容筐体部24の取付フランジ64,66に接合連結するとき、ステージ収容室62内で冷却ステージユニット60が偏芯したり、図5(b),(c)に示すように冷却ステージユニット60が傾いて、フィン部分60bがステージ収容室62の内周面に接触してしまうことも起こり得る。
【0092】
一方、走査イオン顕微鏡10では、冷却機構50の組み立てに係り、冷却ステージ57にフィン58が接合固定された冷凍機60と、イオン源筐体22のイオン源収容筐体部23に取り付けられたガスポット51との組み付けが完了すると、冷却ステージ57が組み込まれたガスポット51の空間部に、熱伝導媒体69が所定量だけ送りこまれ、封入される。その際、本実施の形態のように、スペーサ59がポット本体61の内周面とその周回り方向に沿って全域で接触する管状のスペーサ59になっている場合でも、スペーサ59は断熱性を有する多孔質材料で形成されているため、両空間部67,68のいずれか一方側に熱伝導媒体69を送り込むだけで、他方側にも熱伝導媒体69を送り込むことができる。例えば、振動抑制空間部68に熱伝導媒体69を送り込めば、ポット本体61の内周面とその周回りに沿った全域で接触している管状のスペーサ59であったとしても、スペーサ59の微視的な隙間を介して、ガスポット51の奥部にある非接触空間部67まで、熱伝導媒体69を送り込むことができる。図2は、この非接触空間部67及び振動抑制空間部68に熱伝導媒体69が送り込まれ、貯留している状態の冷却ステージユニット60及びガスポット51部分に該当する。
【0093】
このようにして組み立てられた本実施の形態に係る走査イオン顕微鏡10の冷却機構50では、スペーサ59が冷却されると、収縮して常温時よりも体積が減少し、ポット本体61の内周面とその周面が接触していたスペーサ59は、その接触していた外周縁部がポット本体61の内周面から離間し、冷却ステージユニット60は、その周回りに沿った全域において、ポット本体61の内周面と物理的に直接接触しなくなる。これにより、ポット本体61の内周面との間には、隙間S(図6参照)が形成される。
【0094】
また、この冷却は、イオンビーム21の生成のためにエミッタティップ45を冷却するための、冷凍機52の冷却ステージユニット60による寒冷で行われる。そのため、冷却時は、イオンビーム装置の動作温度で冷却されることになる。このイオンビーム装置の動作温度は、例えば、イオン電流のピークに対応して設定されるエミッタティップの冷却温度(例えば、イオン化ガスがヘリウムガスである場合は、数K〜数10K)に該当する。
【0095】
図6は、図2に示した冷却ステージユニット及びガスポット部分についての常温時と冷却時の状態比較図である。図6(a)は、常温時における冷却ステージユニット及びガスポット部分を示し、図6(b)は、冷却時における冷却ステージユニット及びガスポット部分を示す。
【0096】
したがって、冷凍機60とガスポット51との組み付けに当たって、組み付けの完了時に冷却ステージユニット60の外周面とガスポット51の内周面とが接触している場合には、本実施の形態では、ガスポット51の内周面はスペーサ59とだけしか冷却ステージユニット60の外周面と接触していない。そのため、走査イオン顕微鏡10が使用され、冷凍機52も駆動されている状況では、組み付けの完了時に互いの配置位置が固定された冷却ステージユニット60とガスポット51との間で、スペーサ59の収縮によって、冷却ステージユニット60の外周面とポット本体61の内周面との間には、その周回り方向に沿った全域において、隙間Sが確実に確保されることになる。また、これに伴い、冷凍機60とイオン源筐体22との組み付け固定においても、図5に示したような冷却ステージユニット60のフィン部分60bとポット本体61の内周面との接触について、冷却ステージユニット60をステージ収容室62に対して位置決めする段階で配慮する必要がなくなり、冷凍機60とイオン源筐体22との組み付け組立作業が容易かつ効率的になる。
【0097】
具体的には、フィン58の外周縁部とポット本体61の内周面との位置関係は、スペーサ59により指定した隙間Sの大きさに対応して略決めることができる。また、冷却ステージユニット60をガスポット51のステージ収容室62に収容配置するにしても、冷却ステージユニット60とガスポット51との間で許容範囲を超える傾斜角θが生じることを防止できる。その結果として、冷却ステージユニット60の外周面とポット本体61の内周面との間には、その周回りに沿った全域において、隙間Sが確実に確保され、フィン58とポット本体61の内周面との物理的な直接接触を防止できる。フィン58の外周縁部とポット本体61の内周面との間のギャップg2についても、冷凍機60とイオン源筐体22との組み付け後の状態は視認できずとも、スペーサ59のその軸線方向に沿って眺めた外周縁部の形状の大きさを常温時と冷却時とで管理することで、従来にも増して厳密に設計することが可能になる。
【0098】
加えて、冷却機構50のスペーサ59は、常温に戻すと元の大きさに戻るといった温度可逆性を有している。これにより、例えば、冷凍機52のメンテナンスのために冷凍機60をイオン源筐体22が一体の装置本体11から分離した場合、又は、エミッタティップ45の交換のためにイオン源筐体22を冷凍機52及び真空容器32に対して分離した場合に、作業完了後、再び冷凍機60或いはイオン源筐体22を組み付ける際には、スペーサ59をその組み付けに再び利用することができる。
【0099】
そして、この冷却機構50におけるフィン58とポット本体61の内周面との物理的な直接接触を防止する構成は、エミッタティップ45の振動防止のため、冷却機構50からエミッタティップ45に伝達される振動を、エミッタティップ45及び冷却機構50のガスポット51がリジッドに接続されているイオン源筐体22に対して、伝達させない。
【0100】
この場合、冷却機構50がイオン源筐体22を介してエミッタティップ45に伝達してしまう恐れがある振動としては、冷凍機52の冷凍機本体53で発生する振動、高圧配管55と低圧配管56を介して冷凍機本体53に伝達されるコンプレッサ54の振動、支持台83及び位置調整・固定機構部87を介して冷凍機本体53に伝達される床12からの振動が、主な振動である。冷凍機本体53からの振動は、自身が発生する機械的振動で、シリンダ内をディスプレーサーが高速で往復動を繰り返しているのが主因である。また、床12からの振動には、コンプレッサ54の振動も含まれる。そして、これら振動は、いずれも冷凍機本体53から伝達される振動である。ところで、走査イオン顕微鏡10が使用されている場合は、冷凍機52も駆動され、スペーサ59は冷却ステージユニット60による寒冷で収縮され、冷却ステージユニット60は、その先端部やその周回りに沿った全域においてポット本体61の内周面と物理的に直接接触しなくなっており、ポット本体61の収容室底面61cとの間には端面ギャップg1が形成され、ポット本体61の内周面との間には隙間Sが形成されている。そのため、冷凍機本体53から伝達される振動が冷却ステージユニット60、特にそのフィン58を介して、ガスポット51すなわちイオン源筐体22に伝達されてしまうことはない。その結果、冷凍機本体53とイオン源筐体22との間は、ベローズ63を介して間接的にのみでしか物理的に接触していないので、冷凍機本体53から伝達される振動は、ベローズ63の弾性並びに伸縮性とベローズ63内の振動抑制空間部68に貯留されている振動緩衝媒体としての熱伝導媒体69によって、実用上問題にならないレベルまで低減される。
【0101】
なお、冷凍機本体53から伝達される振動の原因の例を列挙したが、振動源はこれらだけに限定されるものではない。また、冷凍機本体53から伝達される振動の低減メカニズムについては、ステージ収容室62に対する冷凍機52の冷却ステージユニット60の収容方向が水平方向であるポット収容筐体部24を例に説明したが、水平方向以外の冷却ステージユニット60の収容方向を有するポット収容筐体部24を備えたイオンビーム装置にも適用可能である。
【0102】
したがって、本実施の形態の走査イオン顕微鏡10によれば、その使用時に、イオン源筐体22に対してリジッドに取り付けられているガスポット51に、冷凍機本体53から振動が伝達されることはないので、エミッタティップ45が振動してしまい、イオンビーム21が集束できなくなるとの問題はない。また、この問題を回避するために、ガスポット51と冷却ステージユニット60との間、特にフィン58とガスポット51の内周面との間のギャップを、両者の接触防止を考慮して十二分に広くしなければならない、との必要も生じない。そのため、ガスポット51の内周面とフィン52の外周縁部とのギャップg2を、冷凍機本体53からの振動をガスポット51介してイオン源筐体22ひいてはエミッタティップ45に伝達されないようにするために広くする必要もないので、イオン化ガスの冷却性能が低下して、エミッタティップ45の冷却温度が冷凍機52の本来の冷却温度に対し上昇せざるを得ないことも防げる。
【0103】
次に、本実施の形態に係る走査イオン顕微鏡10の冷却性能について、図2に基づき説明する。
【0104】
冷凍機52において寒冷な低温部となるのは、冷却ステージ57のステージ57bの先端側部分である。そのため、熱伝導媒体64を用いてガスポット51を冷却する場合は、この低温部の面積が大きくなるほどガスポット51に対する冷却効率が良好になる。そのため、冷却ステージ57の先端部57には、フィン58を接合固定して冷却ステージ57の低温部の表面積が拡大されている。また、ガスポット51については、底面側本体部61aを伝熱材で、開口側本体部61bを断熱材で形成し、主な冷却部分を伝熱材で形成された底面側本体部61aに限定するとともに、断熱材で形成された開口側本体部61bによってフィン58により冷却された開口側本体部61bへの熱進入を低減することができるようになっている。
【0105】
また、冷凍機本体53から伝達される振動、特に、シリンダ内をディスプレーサーが高速で往復動を繰り返していることで発生する振動がガスポット51に伝達されてしまうのを防止する観点からは、その振動方向に沿った、フィン58とポット本体61の収容室底面61cとの間の端面ギャップg1は大きい方が好ましい。しかし、端面ギャップg1を大きくすると、フィン58によるポット本体61の収容室底面61cに対する冷却性能が低下する。そこで、フィン58とポット本体61の内周面との間の側面ギャップg2については、このフィン58によるポット本体61の収容室底面61cに対しての冷却性能が低下を補完すべく、できるだけ狭くして冷却効率の向上をはかるが好ましい。この点に関し、本実施の形態では、フィン58の外周縁部とポット本体61の内周面との位置関係は、スペーサ59により指定した隙間Sの大きさに対応して略決定することができるので、容易かつ正確に側面ギャップg2を狭くすることができる。
【0106】
これらにより、ガスポット51は、側面ギャップg2を狭くして、冷却対象を底面側本体部61aに絞り、外部からの熱進入に対しても開口側本体部61bにより保護されて、フィン58の寒冷をその冷却に効率的に利用できるようになっている。
【0107】
また、ガスポット51に対しての冷却ステージユニット60による冷却性能については、図7に示すような、冷却ステージ57にフィン58を接続固定してなる組立体を構成することによって、さらなる冷却性能の向上をはかることができる。
【0108】
図7は、冷却ステージにフィンを接続固定してなる組立体の変形例の構成図である。なお、組立体の構成の説明に当たっては、図3に示した組立体と同一の構成部分については、同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0109】
冷却ステージユニット60における、冷却ステージ57にフィン58を接合固定してなる組立体については、互いに接触する面積が大きいほど、すなわち双方の接合固定面の熱伝導の効率がよいほど、ガスポット51に対しての冷却ステージユニット60による冷却性能は向上する。この観点から、両者それぞれの接合固定面を微視的に見ると、両者とも完全な平面ではなく、凹凸面である。そのため、単純に冷却ステージ57とフィン58とを接合固定すると、互いの凹凸面の凹面同志が非接触になり、接触面積が小さくなってしまう。
【0110】
そこで、図7(a)に示す冷却ステージユニット60においては、例えばインジウムのような軟らかくて熱伝導のよい軟性材料からなる熱伝導シート95を、冷却ステージ57とフィン58との接合固定に際して、両者間に予め介在させて挟持される構成とした。これにより、冷却ステージ57にフィン58を接合固定した際、熱伝導シート95を変形させて、両者それぞれの接合固定面に生じている凹凸面が埋まることになり、双方の接合固定面同志の熱伝導の効率を向上させた。
【0111】
これに対し、図7(b)に示す冷却ステージユニット60においては、冷却ステージ57と接合固定するフィン58の面に、例えば金メッキのように、軟らかくて熱伝導のよい軟性材料からなる熱伝導膜96を形成した。これにより、冷却ステージ57にフィン58を接合固定した際、熱伝導膜96が変形して、両者それぞれの接合固定面に生じている凹凸面が埋まることになり、双方の接合固定面同志の熱伝導の効率を向上させた。
【0112】
また、ガスポット51に対しての冷却ステージユニット60による冷却性能については、冷却機構50に、図8に示すような、振動抑制空間部68及び非接触空間部67それぞれの熱伝導媒体69の貯留量を調整する熱伝導媒体調整機構100を設けることによって、さらなる冷却性能の向上をはかることができる。
【0113】
図8は、熱伝導媒体調整機構を備えた冷却機構の構成図である。
【0114】
図9は、比較例としての熱伝導媒体調整機構を備えていない冷却機構の動作状態説明図である。
【0115】
なお、本実施例に係る熱伝導媒体調整機構を備えた冷却機構の構成の説明に当たっては、図2に示した冷却機構の構成と同一又は同様な構成部分については、同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0116】
図8に示すように、熱伝導媒体調整機構100は、冷却機構50の振動抑制空間部68及び非接触空間部67それぞれに、熱伝導媒体69を供給して貯留する熱伝導媒体供給機構101と、冷却機構50の振動抑制空間部68及び非接触空間部67それぞれから、貯留されている熱伝導媒体69を排出する熱伝導媒体排出機構102とを有して構成されている。
【0117】
熱伝導媒体供給機構101は、熱伝導媒体源103とレギュレータ104とを有し、図示せぬ防振機構を介して、ポット連結枠65に形成された熱伝導媒体口105に接続されている。これに対し、熱伝導媒体排出機構102は、逆止弁106と圧力計107とを有し、図示せぬ防振機構を介して、ポット連結枠65に形成された熱伝導媒体排出口108に接続されている。
【0118】
ところで、例えば、図1に示した走査イオン顕微鏡10の場合、エミッタティップ45を先鋭化するために加熱した場合、エミッタティップ45の熱が冷却伝導機構70からガスポット51の伝熱材からなるポット本体61の底面側本体部61aに伝わり、冷却機構50の非接触空間部67、この非接触空間部67に連通している振動抑制空間部68に貯留されている熱伝導媒体69が加熱される。これにより、非接触空間部67及び熱伝導媒体64それぞれの熱伝導媒体69は、膨張して体積が増すことになる。これに伴い、冷却機構50では、そのベローズ63が図9(a)に示された当初状態から、図9(b)に示すように伸張変形して、冷却ステージユニット60が、ステージ収容室62内を外側に押出される。その結果、フィン58と、ガスポット51の、伝熱材により形成されたポット本体61の収容室底面61cとの位置関係が離間変化してしまい、効率的に冷却できなくなってしまう。
【0119】
また、例えば、室温から冷却機構50による冷却を開始した場合は、非接触空間部67及び振動抑制空間部68に貯留されている熱伝導媒体69は、ガスポット51の温度が冷えるに従い、収縮して体積が減ることになる。これに伴い、冷却機構50では、そのベローズ63が図9(a)に示された当初状態から、図9(c)に示すように収縮変形して、冷却ステージユニット60が、ステージ収容室62の奥部側に引き込まれる。その結果、ポット本体61の収容室底面61cとの位置関係が接近変化してしまい、フィン58とガスポット51の収容室底面61cとのギャップg1が小さくなってしまう。さらには、ギャップg1が無くなって、フィン58とガスポット51の収容室底面61cとが接触しまうと、冷凍機60からの振動がガスポット51に伝わり、イオン源筐体22におけるエミッタティップ45を振動させてしまうことになる。
【0120】
熱伝導媒体調整機構100は、このような熱伝導媒体69の圧力変化に基づく冷却ステージユニット60の変動を、熱伝導媒体69の圧力が一定になるように非接触空間部67及び振動抑制空間部68における熱伝導媒体69の量を調整する。
【0121】
具体的には、ベローズ63が図9(b)に示すように伸張変形して、冷却ステージユニット60がステージ収容室62内を外側に押出される兆候が生じた場合は、熱伝導媒体調整機構100は、熱伝導媒体排出機構102から増加した体積分の熱伝導媒体69を排出する。一方、ベローズ63が図9(c)に示すように収縮変形して、冷却ステージユニット60がステージ収容室62の奥部側に引き込まれる兆候が生じた場合は、熱伝導媒体調整機構100は、熱伝導媒体供給機構101から減少した体積分の熱伝導媒体69を供給する。
【0122】
このように、熱伝導媒体調整機構100を備えた冷却機構50では、熱伝導媒体69の温度変動にかかわらず、ポット本体61の収容室底面61cとの位置関係を、図8に示すような一定状態に保持し、冷却機構50のさらなる冷却性能の向上をはかっている。
【0123】
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態に係るイオンビーム装置としての走査イオン顕微鏡10’について、図10図13に基づいて説明する。なお、その説明に当たって、第1の実施の形態に係る走査イオン顕微鏡10と構成が同一若しくは同様な各部については図中で同一符号を付し、その説明は省略する。
【0124】
図10は、本発明の第2の実施の形態に係るイオンビーム装置としての走査イオン顕微鏡の概略構成図である。
【0125】
図11は、図10に示したイオンビーム装置のイオンビーム装置冷却機構を構成する冷却ステージユニット及びガスポット部分の部分拡大図である。
【0126】
図12は、図11に示した冷却ステージユニット及びガスポット部分を組み付ける前の、冷却ステージユニット部分とガスポット部分とを分離して表した図である。
【0127】
図13は、図11に示した冷却ステージユニット及びガスポット部分についての常温時と冷却時の状態比較図である。
【0128】
図10に示すように、本実施の形態に係る走査イオン顕微鏡10’は、イオン源収容筐体部23のイオン源室27を、輻射シールド111によって、エミッタティップ45が収容される内側空間部27iと、その周りの外側空間部27oとに画成し、ガスイオン化室25がこの画成された空間部27iで形成されている点が、まず、図1に示した第1の実施の形態に係る走査イオン顕微鏡10と異なっている。これにより、本実施の形態に係る走査イオン顕微鏡10’では、図1に示した、イオン源室27内がガスイオン化室25である走査イオン顕微鏡10に比べて、冷却機構50による冷却対象であるガスイオン化室25の小型化がはかられている。
【0129】
また、本実施の形態に係る走査イオン顕微鏡10'は、このイオン源室27内でさらにガスイオン化室25が輻射シールド111によって画成された構成を採用したのに伴い、冷却機構50の冷凍機52に、例えば、蓄冷器が内部に組み込まれ一体化されたディスプレーサーが往復移動可能に設けられた大小2つのシリンダを用いた二段冷却式の冷凍機52を使用し、冷却ステージユニット60が、輻射シールド111を極低温に冷却する高温側冷却ステージユニット部60Hと、エミッタティップ45を輻射シールド111よりも温度が低い極低温に冷却する低温側冷却ステージユニット部60Lとを有する構成になっている点が、図1に示した第1の実施の形態に係る走査イオン顕微鏡10と異なっている。
【0130】
本実施の形態では、図10に示したように、輻射シールド111は、イオン源収容筐体部23内でイオンビーム21の放出方向を開放してエミッタティップ45を包囲するように、イオン源筐体22に取り付け固定されている。輻射シールド111は、例えば金メッキを施した銅網線等を用いて構成され、ガスイオン化室25に対する外部からの熱進入を防止する。イオン化ガスを供給するガス供給配管48の開口端は、空間部27oを通り越して空間部27iで開口し、イオン化ガス又はガス分子をガスイオン化室25としての空間部27iに供給するようになっている。また、輻射シールド111には、冷却機構50の冷却ステージユニット60で生成した寒冷をエミッタティップ45に伝達する冷却伝導機構70を非接触で通過させるための通過孔112も形成されている。
【0131】
一方、本実施の形態では、冷却機構50は、二段冷却式の冷凍機52を使用していることに係り、冷却ステージユニット60は、冷却ステージユニット60が高温側,低温側の2つの冷却ステージユニット部60H,60Lを同軸に2段接続してなる構造になっているとともに、ガスポット51のポット本体61も、高温側,低温側の2つのポット本体部61H,61Lを同軸に連設してなる構造になっている。
【0132】
図11図13で示すように、冷却ステージユニット部60H,60Lは、低温側の小型のシリンダ内の膨張室側を含むステージ57bLを有した先端側の低温側冷却ステージユニット部60Lの大きさが、高温側の大型のシリンダ内の膨張室側を含むステージ57bHを有した基端側の高温側冷却ステージユニット部60Hの大きさよりも小型になっている。そして、各冷却ステージユニット部60H,60Lとも、軸方向に沿って眺めた外形形状は、ステージ57b(57bH,57bL)よりもフィン58(58H,58L)が大きくなっている。
【0133】
その上で、高温側冷却ステージユニット部60Hの、ステージ57bHの周回りに沿った全域でステージ57bHの周面を囲繞する管状スペーサ59Hが設けられたスペーサ装着部分60aHは、その軸方向に沿って眺めた軸線方向に垂直な外形形状がフィン部分60bHよりも大きくなっており、スペーサ装着部分60aHの外周縁は、その周回りに沿った全域で、フィン部分60bHの外周縁部よりも径方向外方に突出している。同様に、低温側冷却ステージユニット部60Lの、ステージ57bLの周回りに沿った全域でステージ57bLの周面を囲繞する管状スペーサ59Lが設けられたスペーサ装着部分60aLは、その軸方向に沿って眺めた軸線方向に垂直な外形形状がフィン部分60bLよりも大きくなっており、スペーサ装着部分60aLの外周縁部は、その周回りに沿った全域で、フィン部分60bLの外周縁部よりも径方向外方に突出している。そして、高温側冷却ステージユニット部60Hのフィン部分60bHは、その軸方向に沿って眺めた軸線方向に垂直な外形形状が低温側冷却ステージユニット部60Lのフィン部分60bLよりも大きくなっており、フィン部分60bHの外周縁部は、その周回りに沿った全域で、フィン部分60bLの外周縁部よりも径方向外方に突出している。このようなスペーサ59H,59Lは、例えば発泡樹脂のような多孔質材料によって構成されている。
【0134】
一方、高温側,低温側の2つのポット本体部61H,61Lを同軸に連設してなるガスポット51のポット本体61は、一端が閉塞され他端が開放された有底段付筒状になっており、一端側の、高温側冷却ステージユニット部60Hを収容するポット本体部61Hと、他端側の低温側冷却ステージユニット部60Lを収容するポット本体部61Lとが、段部116を介して、一体化された構成になっている。そして、ポット本体部61Hには、高温側ステージ収容室62Hが形成されている。
【0135】
高温側ステージ収容室62Hは、軸線に垂直な断面形状が、軸方向に沿った全域で一様な、段差が無い断面形状になっており、高温側冷却ステージユニット部60Hのスペーサ装着部分60aHの外周面形状に合わせた断面形状になっている。この断面形状の大きさ(高温側ステージ収容室62Hの径方向長さ)は、常温状態の高温側冷却ステージユニット部60Hのスペーサ装着部分60aH、すなわち冷却ステージユニット60における非収縮状態のスペーサ59Hの外周縁部が接触可能な大きさになっている。また、高温側ステージ収容室62Hの軸方向に沿った長さは、高温側冷却ステージユニット部60Hにおける、スペーサ装着部分60aHの軸方向長さとフィン部分60bHの軸方向長さとを加えた長さよりも適宜長くなっている。
【0136】
低温側ステージ収容室62Lは、高温側ステージ収容室62Hと同軸に形成され、高温側ステージ収容室62Hと連通している。低温側ステージ収容室62Lは、軸線に垂直な断面形状が、軸方向に沿った全域で一様な、段差が無い断面形状になっており、低温側冷却ステージユニット部60Lのスペーサ装着部分60aLの外周面形状に合わせた断面形状になっている。この断面形状の大きさ(低温側ステージ収容室62Lの径方向長さ)は、常温状態の低温側冷却ステージユニット部60Lのスペーサ装着部分60aL、すなわち非収縮状態の低温側スペーサ59Lの外周縁部が接触可能な大きさになっている。また、低温側ステージ収容室62Lの軸方向に沿った長さは、低温側冷却ステージユニット部60Lのフィン部分60bLの軸方向長さよりも適宜長くなっている。
【0137】
その上で、ポット本体部61に形成された、高温側ステージ収容室62Hと低温側ステージ収容室62Lとからなるステージ収容室62の軸方向に沿った長さは、高温側冷却ステージユニット部60Hの軸方向長さと低温側冷却ステージユニット部60Lの軸方向長さとを加えた長さよりも適宜長くなっている。
【0138】
そして、各ポット本体部61H,61Lとも、軸方向に沿って、断熱材によって構成された開口側本体部61b(61bH,61bH)と、伝熱材によって構成された底面側本体部61a(61aH,61aH)とを、同軸に一体的に接合固定した構成になっている。
【0139】
これにより、高温側冷却ステージユニット部60Hのフィン部分60bHとポット本体部61Hの底面(断面)側本体部61aHとの間には、高温側非接触空間部67Hが形成される。また、低温側冷却ステージユニット部60Lのフィン部分60bLとポット本体部61Lの底面側本体部61aLとの間には、低温側非接触空間部67Lが形成される。そして、高温側非接触空間部67H及び低温側非接触空間部67L内には、熱伝導媒体69が貯留される。そして、ガスポット51は、ポット本体61の高温側ポット本体部61Hにおける底面側本体部61aHが、高温側冷却ステージユニット部60Hのフィン部分60bHの寒冷によって、極低温に冷却され、ポット本体61の低温側ポット本体部61Lにおける底面側本体部61aLが、低温側冷却ステージユニット部60Lのフィン部分60bLの寒冷によって、さらに低い極低温に冷却される。
【0140】
そして、伝熱材によって構成されているポット本体61の高温側ポット本体部61Hにおける底面側本体部61aHは、イオン源筐体22のイオン源収容筐体部23に設けられた輻射シールド111に、例えば金メッキ施した銅網線部を有して構成された高温側冷却伝導機構70Hを介して熱的に接続されている。また、伝熱材によって構成されているポット本体61の低温側ポット本体部61Lにおける底面側本体部61aLは、イオン源筐体22のイオン源収容筐体部23に設けられたエミッタティップ45に、低温側冷却伝導機構70Lを介して熱的に接続されている。
【0141】
本実施の形態に係る走査イオン顕微鏡10’の場合も、その冷却機構50に係り、冷却機構50の組み立て、その際におけるスペーサ59によるフィン58とガスポット51との位置調整について、また走査イオン顕微鏡10’の冷却性能について、第1の実施の形態に係る走査イオン顕微鏡10と同様な作用・効果を奏する。
【0142】
例えば、冷凍機本体53から伝達される振動、特に、シリンダ内をディスプレーサーが高速で往復動を繰り返していることで発生する振動がガスポット51に伝達されてしまうのを防止する観点からは、その振動方向に沿ったフィン58Hとポット本体61の段部116との間の端面ギャップg1Hや、フィン58Lとポット本体61の収容室底面61cとの間の端面ギャップg1Lは、大きい方が好ましい。しかし、端面ギャップg1H,g1Lを大きくすると、フィン58H,58Lによるポット本体61の段部116,収容室底面61cに対する冷却性能が低下する。そこで、フィン58H,58Lとポット本体61の内周面との間の側面ギャップg2H,g2Lについては、このフィン58H,58Lによるポット本体61の段部116,収容室底面61cに対しての冷却性能が低下を補完すべく、できるだけ狭くして冷却効率の向上を図るが好ましい。この点に関し、本実施の形態では、フィン58H,58Lの外周縁部とポット本体61の内周面との位置関係は、スペーサ59H,59Lにより指定した隙間Sの大きさに対応して略決定することができるので、容易かつ正確に側面ギャップg2H,g2Lを狭くすることができる。
【0143】
なお、図示の例では、2つのスペーサ59H,59Lとも同じ材質のものを使用するものとして説明したが、高温側スペーサ59Hと低温側スペーサ59Lとで、スペーサ59の材質を変えてもよい。また、高温側スペーサ59Hと低温側スペーサ59Lとで、例えば、管状スペーサ、スペーサ片集合体等のスペーサ59の具体的形態や、円形形状、多角形形状等の軸線方向に沿って眺めた外周縁部の形状を変えてもよい。
【0144】
図14は、冷却ステージにフィンを接続固定してなる組立体の変形例の構成図である。なお、組立体の構成の説明に当たっては、図7及び図12に示した組立体と同一の構成部分については、同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0145】
図14(a)に示す冷却ステージユニット60においては、例えばインジウムのような軟らかくて熱伝導のよい軟性材料からなる熱伝導シート95(95H,95L)を、ステージ57b(57bH,57bL)とフィン58(58H,58L)との接合固定に際して、両者間に予め介在させて挟持される構成とした。これにより、ステージ57bにフィン58を接合固定した際、熱伝導シート95を変形させて、両者それぞれの接合固定面に生じている凹凸面が埋まることになり、双方の接合固定面同志の熱伝導の効率を向上させた。
【0146】
これに対し、図14(b)に示す冷却ステージユニット60においては、ステージ57b(57bH,57bL)と接合固定するフィン58(58H,58L)の面に、例えば金メッキのように、軟らかくて熱伝導のよい軟性材料からなる熱伝導膜96(96H,96L)を形成した。これにより、冷却ステージ57にフィン58を接合固定した際、熱伝導膜96が変形して、両者それぞれの接合固定面に生じている凹凸面が埋まることになり、双方の接合固定面同志の熱伝導の効率を向上させた。
【0147】
<第3の実施の形態>
本実施の形態に係るイオンビーム装置は、イオンビーム装置とイオンビーム装置以外の装置とを複合したイオンビーム装置について、例えば、オプション品としての質量分析器121を、図1図4に示した第1の実施の形態に係る走査イオン顕微鏡10の真空容器32に取り付けたイオンビーム装置を例に、図面に基づき説明する。なお、その説明に当たっては、図1図4に示した走査イオン顕微鏡10についての重複説明は省略する。
【0148】
図15は、走査イオン顕微鏡と質量分析器とを複合したイオンビーム装置の一実施例の構成図である。
【0149】
図15に示すように、例えば、オプション品としての質量分析器121を、図1に示した走査イオン顕微鏡10の真空容器32に取り付けたイオンビーム装置では、走査イオン顕微鏡10の装置本体11の重心位置が、質量分析器121が設けられていない標準構成時の重心位置から変化することによって、基台13に搭載固定した走査イオン顕微鏡10の装置本体11が、傾斜角θだけ傾くことになる。
【0150】
このような場合でも、イオンビーム装置を構成する走査イオン顕微鏡10には、搭載部88に搭載固定された冷凍機本体53の姿勢状態を許容範囲内で微調整可能な位置調整・固定機構部87が設けられているので、支持台83上での冷凍機本体53の搭載姿勢を、装置本体11の傾斜によるイオン源筐体22のポット収容筐体部24におけるガスポット51の収容向き(冷却機構装着口29の向き)の変化に応じて搭載部88の取り付け角度を調整することによって、ガスポット51の収容向きに対して、冷凍機52の冷却ステージユニット60の向きが同軸上になるように調整することができる。
【0151】
したがって、例えイオンビーム装置の装置本体が傾斜しても、冷却機構50の組み立て、その際におけるスペーサ59によるフィン58とガスポット51との位置調整について、また走査イオン顕微鏡10の冷却性能については、図1に示した走査イオン顕微鏡10と同様な作用・効果を奏する。
【0152】
図16は、図15に示した走査イオン顕微鏡と質量分析器とを複合したイオンビーム装置に係る別の実施例の構成図である。
【0153】
本実施例では、走査イオン顕微鏡10のイオン源筐体22におけるイオン源収容筐体部23とポット収容筐体部24との接続部に、イオン源筐体22のポット収容筐体部24におけるガスポット51の収容向き(冷却機構装着口29の向き)を、イオン源収容筐体部23に対して許容範囲内で微調整可能な収容向き調整・固定機構部89が設けられている。
【0154】
本実施例においても、例えイオンビーム装置の装置本体が傾斜しても、冷却機構50の組み立て、その際におけるスペーサ59によるフィン58とガスポット51との位置調整について、また走査イオン顕微鏡10の冷却性能については、図1に示した走査イオン顕微鏡10と同様な作用・効果を奏する。
【0155】
また、本実施例においては、冷却伝導機構70は、金メッキを施した銅網線を用いて構成され、その銅網線部の変形によって撓み或いは屈曲等の変形が可能になっているので、ガスポット51の収容向きがイオン源収容筐体部23に対して変化しても、その変化に応じて冷却伝導機構70が撓み或いは屈曲等の変形ができる。これにより、冷却伝導機構70は、その切断等によって寒冷の伝達が遮断されることもない。
【0156】
なお、本発明の実施の形態は、上記説明した実施の形態の具体的構成だけに限定されるものではない。例えば、複数のスペーサ片をステージ57bの周回り方向に沿って所定間隔に並べて配置し、ステージ57bの周面を部分的に囲繞するスペーサ片集合体の場合、スペーサ片は、ガスポット51の内周面に設けるようにすることも可能である。
【0157】
また、説明した実施例は各々単独で実施する必要はなく、複数の例を同時に適用でき、権利範囲を制限するものではない。
【符号の説明】
【0158】
10 走査イオン顕微鏡、 11 装置本体、 12 床、 13 基台、
14 防振機構、 15 ベース板、 20 イオン源(ガスイオン源)、
21 イオンビーム、 22 イオン源筐体、 23 イオン源収容筐体部、
24 ポット収容筐体部(冷却機構筐体部)、 25 ガスイオン化室、
26 ポット収容室、 27 イオン源室、 28 連通口、
29 冷却機構装着口、 30 カラム(鏡筒)、 31 ビーム照射系、
32 真空容器、 33 真空排気系、 34 真空排気機器、
35 真空排気管、 36 隔壁部、 37 通過孔、
38 真空排気機器、 39 真空排気管、 40 試料室、
41 試料、 42 試料ステージ、 43 二次粒子検出器、
45 エミッタティップ、 46 引き出し電極、 47 ガス源、
48 ガス供給配管、 49 真空排気系、
50 イオンビーム装置冷却機構(冷却機構)、 51 ガスポット、
52 冷凍機、 53 冷凍機本体、 54 コンプレッサ、
55 高圧配管、 56 低圧配管、 57 冷却ステージ、
57a 基部、 57b ステージ、 57c ステージ先端、
58 フィン、 58a 基部、 59 スペーサ、
60 冷却ステージユニット、 60a スペーサ装着部分、
60b フィン部分、 61 ポット本体、 61a 底面側本体部、
61b 開口側本体部、 61c 収容室底面、 62 ステージ収容室、
63 ベローズ、 64 取付フランジ、 65 ポット連結枠、
66 取付フランジ、 67 非接触空間部、 68 振動抑制空間部、
69 熱伝導媒体、 70 冷却伝導機構、 83 支持台、
84 基台部、 85 支柱部、 86 取付板、
87 位置調整・固定機構部、 88 搭載部、
89 収容向き調整・固定機構部、 90 制御装置、 91 入出力装置、
95 熱伝導シート、 96 熱伝導膜、 100 熱伝導媒体調整機構、
101 熱伝導媒体供給機構、 102 熱伝導媒体排出機構、
103 熱伝導媒体源、 104 レギュレータ、
105 熱伝導媒体口、 106 逆止弁、 107 圧力計、
108 熱伝導排出口、 111 輻射シールド、 112 通過孔、
116 段部、 121 質量分析器、
【0159】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16