特許第6378422号(P6378422)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6378422改善された電池性能を有するオリビン組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378422
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】改善された電池性能を有するオリビン組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20180813BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   H01M4/58
   C01B25/45 Z
【請求項の数】25
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-507846(P2017-507846)
(86)(22)【出願日】2014年8月13日
(65)【公表番号】特表2017-525118(P2017-525118A)
(43)【公表日】2017年8月31日
(86)【国際出願番号】IB2014063890
(87)【国際公開番号】WO2016024146
(87)【国際公開日】20160218
【審査請求日】2017年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(73)【特許権者】
【識別番号】517107151
【氏名又は名称】ユミコア・コリア・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】デヒュン・キム
(72)【発明者】
【氏名】イェンス・ポールセン
(72)【発明者】
【氏名】ジン・ジャン
【審査官】 式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/098937(WO,A1)
【文献】 特開2004−063422(JP,A)
【文献】 特開2009−218205(JP,A)
【文献】 特表2011−510457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
C01B 25/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式LiFe1−x−y−zMn(y+z)(POを有するオリビンカソード材料[式中、a、c、x、y及びzは、モル量を表し、D=Mg及び/又はCrであり、yは、Mgの量を表し、zは、Crの量を表し、1.04<a<1.15、0.97<(2c/(a+1))<1.07、0.6<x<1−y−z、0<y+z<0.1である]。
【請求項2】
0.04<y+z<0.08である、請求項1に記載のオリビンカソード材料。
【請求項3】
y+z≧0.05である、請求項2に記載のオリビンカソード材料。
【請求項4】
z/y>1である、請求項1から3のいずれか一項に記載のオリビンカソード材料。
【請求項5】
y=0である、請求項4に記載のオリビンカソード材料。
【請求項6】
0.7<x<0.9である、請求項1から3のいずれか一項に記載のオリビンカソード材料。
【請求項7】
z/y>1である、請求項6に記載のオリビンカソード材料。
【請求項8】
y=0である、請求項7に記載のオリビンカソード材料。
【請求項9】
0.75<x<0.895である、請求項6に記載のオリビンカソード材料。
【請求項10】
z/y>1である、請求項9に記載のオリビンカソード材料。
【請求項11】
y=0である、請求項10に記載のオリビンカソード材料。
【請求項12】
1.07<a<1.13である、請求項1から3のいずれか一項に記載のオリビンカソード材料。
【請求項13】
0.98<(2/(a+1))<1である、請求項1から3のいずれか一項に記載のオリビンカソード材料。
【請求項14】
1.07<a<1.13かつ0.7<x<0.9である、請求項1から3のいずれか一項に記載のオリビンカソード材料。
【請求項15】
z/y>1である、請求項14に記載のオリビンカソード材料。
【請求項16】
y=0である、請求項15に記載のオリビンカソード材料。
【請求項17】
0.98<(2/(a+1))<1である、請求項14に記載のオリビンカソード材料。
【請求項18】
0.75<x<0.895である、請求項17に記載のオリビンカソード材料。
【請求項19】
0.98<(2/(a+1))<1である、請求項6に記載のオリビンカソード材料。
【請求項20】
0.98<(2/(a+1))<1である、請求項12に記載のオリビンカソード材料。
【請求項21】
前記材料の少なくとも90重量%は、単相オリビンである、請求項1から3のいずれか一項に記載のオリビンカソード材料。
【請求項22】
前記材料の少なくとも98重量%は、単相オリビンである、請求項21に記載のオリビンカソード材料。
【請求項23】
オリビンの1化学式単位に対してÅ表記の単位格子体積は、72.633−3.8715y−5.562z+3.172x−0.05と72.633−3.8715y−5.562z+3.172x+0.05との間にある、請求項1から3のいずれか一項に記載のオリビンカソード材料。
【請求項24】
オリビンの1化学式単位に対してÅ表記の単格子体積は、72.633−3.8715y−5.562z+3.172x−0.01と72.633−3.8715y−5.562z+3.172x+0.01との間にある、請求項1から3のいずれか一項に記載のオリビンカソード材料。
【請求項25】
>10m/gのBET表面積値を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のオリビンカソード材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリビン構造を有する再充電可能バッテリ用のリン酸塩系カソード材料、より具体的には、非化学量論的にドープされたLiMPO系カソード材料(M=Fe1−xMn)に関する。
【背景技術】
【0002】
市販の再充電可能リチウムバッテリのほとんどは、カソード材料としてLCOを使用している。本明細書では、LCOは、LiCoO系カソード材料の略である。しかし、LCOは、充電されたバッテリが危険になる恐れがあり、最終的には激しい爆発をもたらし得る熱暴走まで進行するという限定的な安全性、及び高い費用がかかるコバルト系材料などの主要な欠点を有する。LCOをより安価なNMCで置き換えることが行われているが、しかし、NMCもまた、重大な安全性の問題を示す。NMCは、LiMO系カソード材料(M=Ni1−x−yMnCo)の略称である。
【0003】
LCO及びNMCは、層状結晶構造を有するカソード材料に属する。Liバッテリカソードの別の結晶構造は、スピネル構造である。スピネル構造を有するカソード材料は、例えば、LMO又はLNMOである。LMOは、LiMn系カソード材料の略であり、その一方で、LNMOは、LiNi0.5Mn1.5系カソード材料の略称である。これらのスピネルは、改善された安全性を期待させるが、他の欠点を示す。LMOは、実際には容量が低すぎ、LNMOは、非常に高い充電電圧を有し、この電圧は、幅広い電圧ウィンドウ内で良好に動作できる十分に安定な電解質を見出すことを非常に困難にしている。
【0004】
層状結晶構造のカソード(LCO及びNMC)並びにスピネル構造カソード(LMO及びLNMO)の他に、オリビン構造を有するリン酸塩系カソード材料はまた、特にその本質的によりはるかに高い安定性のために興味を引いている。オリビン構造リン酸塩カソード材料は、Goodenoughによって1996年に初めて提案された。
【0005】
Goodenoughの特許、米国特許第5,910,382号は、LFP及びLFMPの例を開示している。LFPは、LiFePOの略であり、LFMPは、LiMPO系カソード材料(式中、M=Fe1−xMn)の略である。オリビン結晶構造リン酸塩カソード材料の商用化に向けての課題は、本質的に低い電子伝導性である。カソードの良好な電子接点は、Liカチオンの引き抜き(又は再挿入)が電子の同時引き抜き(又は付加)を必要とするため、必須である:LiMPO→MPO+Li+e
【0006】
米国特許第7,285,260号では、M.Armand及び共同発明者らは、オリビンのカーボンコーティングによって伝導性を改善する方法を提案している。この特許の開示後、オリビン構造のリン酸塩への関心が高まっている。商業的には取り組みのほとんどがLFPに集中した。しかし、低価格の可能性、高い安全性及び高い安定性にもかかわらず、LFPは、未だに商業的には少数派のカソード材料である。LFPは、低いエネルギ密度を有することが、主な理由である。重量エネルギ密度は、平均電圧とカソード材料の質量当たりの容量との積である。体積エネルギ密度は、平均電圧とカソード材料の体積当たりの容量との積である。約155〜160mAh/gの比較的高い容量にもかかわらず、エネルギ密度(特に体積エネルギ密度[Wh/カソードL])は、多くの用途にとって不十分である。これは、比較的低い結晶密度(約3.6g/cm)及び3.3Vしかない比較的低い平均動作電圧が理由である。比較すると、LiCoOは、同様の容量を有するが、平均電圧は、(3.3Vではなく)4.0Vであり、密度は、(LFPの3.6g/cmと比較して)5.05g/cmである。
【0007】
既に、Goodenoughの特許は、LFPにおいて、遷移金属の鉄は、マンガンなどの他の遷移金属で置換することができることを教示している。ある程度のMnがFeを置換した場合、そのときLFMPが得られ、その一方で、すべてのFeがMnによって置換された場合、LMPが生成する。LMPは、LiMnPOの略である。LMPは、より高い理論エネルギ密度を有するため、基本的に興味を引いている。
【0008】
LFPと比較すると、LMPは、略同じ理論容量を有するが、エネルギ密度の顕著な増加(24%)を期待させるより高い平均電圧(3.3Vに対して4.1V)を有する。しかし、この効果は、LMPのより低い結晶密度(LFPの3.6g/cmに対して3.4g/cm)によってある程度相殺される(−6%)。今まで、真に優位性のあるLiMnPOを調製する試みは、失敗した。この不十分な性能の理由は、おそらく、カーボンコーティング後であっても、十分な性能の達成を阻害するLiMnPOの非常に低い固有の伝導性である。
【0009】
LFP、LFMP及びLMPの基本的性質及び問題点は、例えば、Yamadaらによる「Olivine−type cathodes:Achievements and problems」,Journal of Power Sources 119−121(2003)232〜238に詳しく説明されている。
【0010】
米国特許出願公開第2009/0186277(A1)号は、Li:M:PO=1:1:1の化学量論比から逸脱することによって改善されたLiFeO系カソードを開示している。この特許は、1〜1.3のLi:M(リチウム対遷移金属比)、1.0〜1.14の範囲のPO:M(リン酸塩対遷移金属比)、及び遷移金属は、Cr、Mn、Fe、Co、又はNiから選択されることを開示している。一実施形態では、Mは、Feとして選択され、追加的に最大5%までのV、Nb、Ti、Al、Mn、Co、Ni、Mg及びZrによってドープされる。この例は、マンガン又は他の元素によるドーピングを除けば、M=Feを例外なく指す。この例は、非化学量論的であるLi:M及びPO:Feの比の利点を明示する。化学量論的な比は、理想オリビン式LiFePOに相当する、Li:M:PO=1.00:1.00:1.00を指す。この例は、1.0を超えるLi:M及びPO:Feの比を選ぶときにより良好なLFMP性能を達成できることを明示する。
【0011】
「Reaction Mechanism of the Olivine−Type LiMn0.6Fe0.4PO,(0<x<1)」,Journal of The Electrochemical Society,148(7)A747〜A754(2001)で、Yamadaらは、LFMPの電気化学的特性を説明している。Liが引き抜かれるとき、最初に部分的脱リチウム化相が形成され、格子定数は、すべてのFeが原子価状態を2価から3価に変化させるまで単一相の様式で変化する。すべてのFeが3価状態に到達した後、更なる脱リチウム化は、新しい相、完全脱リチウム化LFMPを形成し、この新しい相は、すべてのMnが2価から3価に変化するまで、部分的脱リチウム化相と共存する。この論文は、LFP、LFMP及びLMPの格子定数を示している(表1を参照のこと)。表1では、体積は、全単位格子の体積であり、LiMPOの4化学式単位を含む。本発明では、体積は、1化学式単位の体積を指す。表1のデータを用いると、LFMPに対するベガード則(格子定数の線形変化)を用いるLFMPの近似格子定数の計算が可能となる。
【0012】
【表1】
【0013】
米国特許出願公開第2011/0052988(A1)号は、改善されたLFMPカソード材料を開示している。この特許出願は、最大10%までのCo、Ni、V、又はNbでのM(M=Fe1−xMn)の追加的ドーピングによる改善された性能を開示している。Mでは、マンガン含有量は、35〜60mol%である。
【0014】
この特許出願によるLFMPの組成は、正確な理想化学量論的組成(Li:M:PO=1.00:1.00:1.00)ではないが、化学量論的組成に非常に近い。この特許は、化学量論値に非常に近い、Li:M=1.00〜1.05の狭い範囲及び狭いPO:M=1.00〜1.020を開示している。
【0015】
米国特許第7,858,233号は、化学量論的なLi:M:PO=1.00:1.00:1.00の比から逸脱することによってもまた、LFPの改善された性能を開示している。最適な性能は、鉄が豊富なカソードについて得られ、Li:M<1.0及びPO:M<1.0である。
【0016】
(バルク)電気化学的性能、エネルギ密度、ナノ形態学、表面積及び電極密度に関連する課題に対する解決策を提供すること、特に、特性のより良好な組み合わせを有する材料を得ることが本発明の目的である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
第1の態様の観点から、本発明は、式LiFe1−x−y−zMn(y+z)(POを有するオリビンカソード材料を提供する[式中、a、c、x、y及びzは、モル量を表し、D=Mg及び/又はCrであり、yは、Mgの量を表し、zは、Crの量を表し、1.04<a<1.15、0.97<(2c/(a+1))<1.07、0.6<x<1−y−z、0<y+z<0.1である]。
【0018】
好ましくは、本発明によるオリビンカソード材料は、以下の特徴を、単独で又は組み合わせでのいずれか一方で有する:
・0.04<y+z<0.08、好ましくは0.05<y+z<0.08、
・モル比z/y>1、好ましくは>2、より好ましくはy=0、
・0.7<x<0.9、好ましくは0.75<x<0.895、
・1.07<a<1.13、
・0.98<(2c/(a+1))<1である。
・この材料の少なくとも90重量%、好ましくは98重量%は、単一相オリビンである。
・BET表面積>10m/gである。
【0019】
本発明では、組成の的確な選択が重要である。Li−M−PO相図内では、狭い範囲の組成のみが良好な性能を与える。
【0020】
組成の他に、ドーパントの選択もまた非常に重要である。いくつかの実施形態では、Crドーピングは、性能を顕著に改善する。
【0021】
特に、従来の組成では、Mn/Fe比の増加がカソード材料のエネルギ密度の増加をもたらすが、ある点までであり、その点以降は、電圧の増加よりも速く容量が減少するという事実のため、エネルギ密度は、再び減少する。
【0022】
本発明による組成では、Cr及び/又はMgの存在のため、エネルギ密度の低下なしに、はるかにより高いMnのレベルに到達できるであろう、換言すれば、MnによるFeの置換の恩恵は、以前可能であったよりも高いMnのレベルにまで広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
(付番は、実施例の付番に対応する)
図1図1.1は、異なるMn/(Mn+Fe)比を有する非化学量論的LFMPの電圧プロファイルを示す図である。
図2.1】本発明による非化学量論的LFMPのいくつかの組成を示す相図である。
図5.1】最適Li:M比及びリン組成(組成A)を有し、かつ7.5mo%Crでドープした非化学量論的LFMPのXRD回折パターン及びリートベルト解析を示す図である。
図5.2】最適ではないLi:M比及びリン組成(組成B)を有し、かつ7.5mo%Crでドープした非化学量論的LFMPのXRD回折パターン及びリートベルト解析を示す図である。
図5.3】本発明による非化学量論的LFMPのいくつかの組成を示す相図及び相図中の不純物分布を示す図である。
図6.1】最適化されたP(0.982)及びLM(1.106)の化学量論値を有するサンプルにおけるCrドーピングの関数としての体積変化直線を示す図である。
図7.1】マンガン化学量論値MF(Mn/(Mn+Fe))に関する体積の変化が直線関係を示す例を示す図である。
図9.1】最適な組成、0.9のMn/(Mn+Fe)比を有し、かつ5mol%Crでドープした非化学量論的LFMPの高分解能XRD回折パターン及びリートベルト解析を示す図である。
図9.2】最適な組成、0.9のMn/(Mn+Fe)比を有し、かつ7.5mol%Crでドープした非化学量論的LFMPの高分解能XRD回折パターン及びリートベルト解析を示す図である。
図13.1】最適化されたP(0.982)及びLM(1.106)の化学量論値を有するサンプルにおけるMgドーピングの関数としての体積変化直線を示す図である。
図15.1】異なる組成を有する多数の一連のサンプルに関するリートベルト解析から得られた測定体積に対してプロットされた(式2によって計算された)体積を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
実験詳細:リン酸鉄リチウム(LFMP)の調製
本発明のLFMPは、以下の主要な工程によって調製される:
(a)リチウム、鉄、マンガン、リン酸塩、ドーパント及びカーボンの前駆体を配合すること、
(b)還元雰囲気中で合成すること、及び、
(c)ミリングすること。
【0025】
各工程の詳細な説明は、以下のとおりである:
工程(a):所望の量のリチウム、鉄、マンガン、リン酸塩、ドーパント及びカーボンの前駆体を、例えば、ボールミルプロセスを用いて配合する。前駆体を、ジルコニアボール及びアセトンと共にバイアルに入れる。一実施形態では、炭酸リチウム、シュウ酸鉄二水和物、シュウ酸マンガン及びリン酸アンモニウムを、リチウム、鉄、マンガン及びリン酸塩の前駆体として使用する。別の実施形態では、水酸化マグネシウム及び酢酸クロム水酸化物を、マグネシウム及びクロムの前駆体として使用する。ポリエチレン−block−ポリエチレングリコール(PE−PEG)は、電気伝導度を改善するためのカーボン前駆体として使用してもよい。前駆体を、ミリングし、ボールミルプロセスによってバイアル中で配合する。この湿式配合物を、漏斗を用いてアセトンから分離し、オーブン中、120℃で乾燥してアセトンを除去する。最後に、乾燥した配合物を、摩砕機によってミリングする。
【0026】
工程(b):還元雰囲気中で焼結する。工程(a)由来の配合物を使用してチューブ炉内で、還元雰囲気中でLFMPサンプルを合成する。一実施形態では、焼結温度は、650℃であり、滞留時間は、2時間である。窒素ガス(N、99%)と水素ガス(H、1%)との混合物を、還元ガスとして使用する。
【0027】
工程(c):ミリングする。焼結後、最終的に、サンプルを摩砕機によってミリングする。
【0028】
リチウムイオン二次電池の作製
本発明における電池は、以下の主要な工程によって作製される:
(a)正極の作製、及び、
(b)電池の組み立て。
【0029】
各工程の詳細な説明は、以下のとおりである:
工程(a):正極の作製。電気化学的活物質LFMP、伝導体、結合剤及び溶媒を含むスラリーを、ボールミリングプロセスによって調製する。電気化学的活物質、伝導体及び結合剤を含む配合は、例えば、83.3:8.3:8.3である。一実施形態では、伝導性カーボンブラック(Super P、Timcal製)及びPVDFポリマー(KF#9305、Kureha製)、1−メチル−2−ピロリドン(NMP、Sigma−Aldrich製)を、それぞれ伝導体、結合剤の溶液及び溶媒として使用する。これらの材料を、バイアル中で90分間、ボールミル処理する。ミリングしたスラリーを、ドクターブレードコータを用いてアルミニウム箔の片面に塗り広げる。これをオーブン中、120℃で乾燥し、カレンダリングツールを用いて圧搾し、真空中で再度乾燥して溶媒を除去する。
【0030】
工程(b):電池の組み立て。本発明では、半電池(コイン形電池)を、電気化学的特性を試験するために使用する。半電池は、不活性ガス(アルゴン)で満たしたグローブボックス内で組み立てる。セパレータ(SK Innovation製)を、正極と、負極としてのリチウム金属片との間に置く。EC/DMC(1:2)中の1M LiPFを電解質として使用し、セパレータと電極との間に落とし入れる。
【0031】
電池試験手順
本発明でのすべての電池試験は、表2に示した同じ手順に従う。Cレートは、140mAh/gを充電又は放電する時間の逆数として定義できる。例えば、5Cは、電池が1/5時間で充電又は放電されることとなることを意味する。「E−電流」及び「V」は、それぞれ末端電流及びカットオフ電圧を表す。1回目のサイクルで、DQ1(1回目のサイクルの放電容量)及びIRRQ(不可逆容量)を測定する。レート性能は、2回目〜6回目のサイクルから計算する。7回目のサイクルは、50回繰り返し、サイクル安定性に関する情報を得る。
【0032】
【表2】
【0033】
カソード材料は、非化学量論的であり、したがって、リチウム/金属比及び/又はリン化学量論値PO/(リチウム+金属)のいずれか一方は、値が1から逸脱する。ここでは、及び下記では、「金属」、又はMは、Fe、Mn、Cr及びMg全体を表記するために使用される。
【0034】
式LiFe1−x−yMny+z(POを有するいくつかのオリビンカソード材料が調製され、D=Mg及び/又はCrである。
【0035】
驚くべきことに、LFMPの性能は、リン化学量論値に非常に敏感に依存し、最適な性能は、化学量論値1:1では達成されない。良好な性能は、高い可逆性容量、高いレート性能及び良好なサイクル安定性によって定義される。最適なリン化学量論値のわずかな逸脱は、電気化学的性質の顕著な逸脱をもたらす。以前の手法では、リチウム対金属比及びリン対金属比が重要であると通常考えていた。現在の用途では、リチウム及び金属の合計の半分と比較したPOの量であるリン化学量論値を用いることは、より適切な変数であることを、本発明者らは見出した。なぜなら、電気化学的性能における変化は、更に「P」と呼ぶ以下の比を用いることによってより正確に予測できるからである。
【0036】
いくつかの実施形態では、カソードは、約0.980の最適なリチウム対金属比、リン対(リチウム+金属)/2比を有し、驚くべきことに、最適なリチウム対金属比LM及び最適なリン化学量論値Pは、ドーパントの選択及びMF比に依存しない。
【0037】
MF>0.75である高いMn対Fe比の場合では、Crドーピングは、レート性能を顕著に改善し、したがって、高い放電容量及びエネルギ密度を得ることを可能にする。本発明者らは、この改善がバルク中でのより良好な固体状態拡散によって引き起こされると考えている。この改善は、実施例8で実証したように、より大きな表面には由来しない。
【0038】
実施例1:変化するMF比(Mn:(Mn+Fe))を伴う電圧プロファイル。
図1.1は、4種類の非化学量論的LFMPサンプルの電圧プロファイルを示し、唯一の変数は、マンガン対鉄比(MF比)である。この図では、「V」は、平均電圧を表し、「Q」は、放電容量を表す。それぞれの曲線について、曲線は、0から0.75まで変化する異なるMF比を有するLFMPサンプルを指す。MF>0のとき、電圧プロファイルは、2つのプラトーを示し、より高いプラトーは、Mn3+/Mn2+に相当し、より低いプラトーは、Fe3+/Fe2+に相当する。MFが増加すると、より高いプラトーは、拡大し、より低いプラトーは、小さくなる。結果として、平均電圧は、MFの増加と共に増加する。より高い電圧は、バッテリが使用されることとなる用途の点で一般的に興味深い。
【0039】
むしろ、放電容量は、MFが増加したときにより小さくなる。したがって、MFの増加に関するエネルギ密度の変化は、電圧の上昇と放電容量の低下との間の適応性(competence)に依存する。MF比の関数として、エネルギ密度の極大点が存在するであろう。この極大点を見出し、より高いエネルギ密度を得るために、極大点を高いMFの向きに進めることは、非常に興味深いであろう。
【0040】
また、より高いMnのレベルは、観測された2つのプラトー電圧を減少させることとなるであろう。これは、それ自体は有益であるが、2つのプラトー電圧は、更なる実用的用途に対して有害である。
【0041】
しかし、未ドープカソード製品を用いると、Mnの増加は、より低いエネルギ密度を犠牲にしてのみ得ることができる。
【0042】
実施例2:非化学量論的LFMP
図2.1は、A〜Eで示された非化学量論的LFMPの特定の組成を示す相図であり、1:1:1の化学量論比は、星印
【0043】
【数1】
によって示されている。この実施例での組成に関して、Mnの量は、Feの量と等しく、MF=0.5:0.5である。本発明でのサンプルID(識別番号)は、2つの要素、組成及びドーピング状態から構成される。図1.1に示したラテンアルファベットは、それぞれの非化学量論的LFMPの目標組成を表す。ICP(誘導結合プラズマ)分析の結果は、目標組成と良好な一致を示す。非化学量論的LFMP及びコイン形電池は、上記の手順によって調製し、分析する。
【0044】
5種類の非化学量論的LFMPは、ドーピングせずに調製する。それぞれのサンプルの電気化学的特性を、表1に示した。サンプルID中の「−50MF」及び「−ND」は、それぞれ、50であるMn/(Mn+Fe)比及びMg及び/又はCrによるドーピングを行わないサンプルを表す。DQ1、IRRQ、5C及びフェーディングは、それぞれ、1回目のサイクルの放電容量、不可逆容量の比、5Cでの放電容量及び100サイクル後の劣化した放電容量の比を意味する。物理的及び電気化学的特性のほとんどは、PO含有量対(Li+M)含有量の比の関数として、敏感に推移する。PO:[(Li+M)/2]値が0.982に近い3種類のサンプルは、より高い放電容量、より低い不可逆容量、より良好なレート性能及び許容されるサイクル安定性を有する。それらの中で、A−50MF−NDは、他の2種類のサンプルよりも良好な電気化学的性能を有する。Star−50MF−NDは、非ドープ化学量論的サンプルを示す。その放電容量は、0.982であるPO:[(Li+M)/2]の値を有する3種類のサンプルよりも明らかに少ない。したがって、放電容量の比較に基づくと、非化学量論的サンプルAは、更なる検討にとって最適の組成であることを明示し、サンプルAは、サンプルBよりも若干良好であり、化学量論的サンプルよりもはるかに改善されている。
【0045】
【表3】
【0046】
実施例3:Crドープした非化学量論的LFMP
5種類のCrドープした非化学量論的LFMPサンプルを、上記の手順によって調製し、分析する。MnとFeとの間のモル量の比は、75対25である。それぞれのサンプルの電気化学的特性を、表2に示した。サンプルID中のラテンアルファベット及び「−75MF−2Cr」は、それぞれ、図2.1に示したようにそれぞれのLFMPサンプルの目標組成、それぞれのサンプルが2mol%Crを含み、75のMn:(Mn+Fe)比であることを表す。物理的及び電気化学的特性のほとんどは、PO含有量対(Li+M)含有量の比の関数として、敏感に推移する。PO:[(Li+M)/2]値が0.98に近い3種類のサンプルは、より高い放電容量、より低い不可逆容量、より良好なレート性能及び許容されるサイクル安定性を有する。それらの中で、A−75MF−2Crは、最も良好な性能を有する。これは、非ドープLFMPサンプルの場合と一致する。したがって、2mol%Crでのドーピングであっても、非化学量論的LFMPに対する最適な組成は、サンプルBよりも若干良好なAにそのまま位置する。
【0047】
【表4】
【0048】
実施例4:固定したPO及びLi/M化学量論値並びに変化するMn/(Mn+Fe)比
サンプル「A−」のP及びL/M化学量論値を有するが、変化するMn:(Mn+Fe)比を有する5種類の未ドープ非化学量論的LFMPサンプルは、上記の手順によって調製し、分析する。サンプルの物理的及び電気化学的特性を、表3に示した。サンプルID中の「A−」は、PO/[(Li+M)/2]が0.982であり、Li/Mが1.106である特定の組成を表し、「0MF、25MF、50MF、75MF、100MF」は、mol%表示のMn:(Mn+Fe)比を表す。DQ1、IRRQ、5C、Vavg及びエネルギ密度は、それぞれ、1回目のサイクルの放電容量、不可逆容量の比(1−放電容量/充電容量)、5Cでの放電容量、1回目のサイクル中の平均電圧及び1回目のサイクルの放電容量と平均電圧から計算されたエネルギ密度を意味する。「体積」の列は、オリビン化学式単位LiMPO当たりの単位格子体積を示す。
【0049】
エネルギ密度の観点から、MF=0.25での優れた結果は、P=0.982及びLM=1.106を有する非化学量論的組成に対して達成されている。A−25MF−NDは、これらのサンプル中で最高のエネルギ密度を有し、A−0MF−ND(LFP)よりも高い平均電圧を有する。MF比が0.25から0.75に増加するにつれて、放電容量は、直線的に減少するが、その一方で、平均電圧は、直線的に増加し、放電容量の減少率が平均電圧の増加率よりも大きいため、エネルギ密度は、減少する。MF=1.00では、比較的劣った性能が得られる。未ドープのLFMPの性能は、MF=0.75付近で低下し始めると述べることができる。
【0050】
したがって、Mnを豊富に含む未ドープのLFMPサンプルに関して良好な電気化学的性能を達成することは、不可能である。性能を改善するために、イオンドーピングなどの、Mn豊富なLFMPの改良が必要であることを、更に推論することができる。
【0051】
【表5】
【0052】
実施例5:Mnを豊富に有する中程度にCrドープした非化学量論的LFMPサンプル
5種類のCrドープした非化学量論的LFMPサンプルを、上記の手順によって調製し、分析する。MnとFeとの間のモル量の比は、80対20である。それぞれのサンプルの電気化学的特性を、表4に示した。サンプルID中のラテンアルファベット及び「−80MF−7.5Cr」は、それぞれ、図2.1に示したようにそれぞれのLFMPサンプルの目標組成、それぞれのサンプルが7.5mol%Crを含み、Mn/(Mn+Fe)比が0.8であることを表す。物理的及び電気化学的特性のほとんどは、PO含有量対(Li+M)含有量の比の関数として、敏感に推移する。PO/[(Li+M)/2]値が0.98に近い3種類のサンプルは、より高い放電容量及びより良好なレート性能を有する。それらの中で、A−80MF−7.5Crは、最も良好な性能を有する。これは、実施例2及び実施例3の場合と一致する。したがって、これは、高いCrドーピング条件であっても、サンプル「A−」が非化学量論的LFMPに対して最適な組成であることを、更に裏付けている。
【0053】
【表6】
【0054】
図5.1及び図5.2は、それぞれ、選択されたサンプル「A−80MF−7.5Cr」及び「B−80MF−7.5Cr」のXRD粉末回折及びリートベルト解析を提供する。測定パターン、計算パターン及び両方のパターン間の差をこれらの図に示した。決定することができる主な不純物はない。サンプル「A−」及び「B−」とは対照的に、他の3種類のサンプル「C−」、「D−」及び「E−」は、不純物を少量含む。図5.3は、表4のサンプル一覧の不純物痕跡を示す。それぞれの色付きの囲みは、凡例部分に示したように、不純物相の1種類を表す。例えば、サンプル「C−80MF−7.5Cr」は、青線で囲まれており、このサンプルがLiCr(P(POの不純物相を含むことを意味する。したがって、5種類の非化学量論的組成のうち、「A−」及び「B−」のみが単一相を有する。それと同時に、「A−」及び「B−」は、他の組成よりも良好な電気化学的性能を示す。
【0055】
実施例6:CrドーピングレベルとXRDによる単位格子体積との間の関係
この実施例は、最適な非化学量論的組成「A−」及び0.75に固定したMF(Mn/(Mn+Fe))を有する4種類のCrドープしたサンプルを示す。それぞれのサンプルは、異なるCrドーピングレベルを有する。表5に、サンプル及びリートベルト解析から得られた格子パラメータa、b及びcに関するサンプルのXRD結果を列挙する。「体積」の列は、オリビン化学式単位LiMPO当たりの単位格子体積を示す。Crの量が増加するにつれて体積が減少することが明らかにわかる。したがって、これは、ドーピングレベルが7.5mol%にまで達するとき、Crは、LFMP構造内に実際にドープしていることを裏付ける。本発明者らは、ドーピング(Cr)に関する体積の変化が、直線関係を示して、ベガード則に良い近似で従うことを観察した。図6.1は、この直線関係の例を示し、「V」は、LFMP化学式当たりの単位格子体積を表し、星印は、測定値を表し、点線は、線形フィットを指す。フィッティング結果は、以下の式として表現される:体積=−5.0747Cr+74.9948。
【0056】
【表7】
【0057】
実施例7:MF比とXRDによる単位格子体積との間の関係
この実施例は、固定した最適な非化学量論的組成「A−」での異なるMF比及びCrドーピングレベルを有するサンプルを提供する。サンプルは、上記の手順によって調製し、分析する。これらのサンプルの単位格子体積は、XRD粉末回折パターンのリートベルト解析により得られる。本発明者らは、マンガン化学量論値MF(Mn/(Mn+Fe))に関する体積の変化が、直線関係を示して、ベガード則に良い近似で従うことを観察した。図7.1は、これらの直線関係に関する例を示し、「V」は、LFMP化学式当たりの単位格子体積を表す。四角形、円、三角形及び十字の印は、それぞれ、非ドープ、2mol%Crドープ、5mol%Crドープ及び7.5mo%CrドープしたLFMPサンプルを表す。これらのフィッティング直線の傾きは、非常に類似しており、3.2に近い。これらの直線関係は、Crドープした非化学量論的LFMPサンプル中の固溶挙動を示唆する。
【0058】
実施例8:Mnを豊富に有する中程度にCrドープした非化学量論的LFMPサンプルの優れた電気化学的性能
表6に、最適な組成「A−」でMnを豊富に有する一連のCrドープした非化学量論的LFMPを示す。サンプルID中の「75MF」、「80MF」及び「90MF」は、0.75、0.8及び0.9のMF比を表し、「2Cr」、「5Cr」及び「7.5Cr」は、0.02、0.05及び0.075のCrドーピングレベルを表す。「BET」の列は、BET表面積を指す。表面積と、Crドーピング及びMF比との明確な傾向はない。サンプル値のほとんどは、30m/gに近い。
【0059】
ほとんどの場合、性能は、BET表面積に依存する。この場合では、BETは、変化していないため、性能の改善は、組成によって引き起こされている。
【0060】
電気化学的特性に関して、放電容量は、非ドープのLFMPと比較してCrドーピングの適切な量によりはるかに向上している。実施例4では、MF比が0.75から1に上昇したとき、放電容量は、136mAh/gから111mAh/gまで急激に低下することを述べた。この実施例では、サンプル「A−75MF−2Cr」及び「A−75MF−5Cr」の両方は、2mol%及び5mol%のCrでドープすることによって、より高い放電容量を有する。MF比を0.8まで、又は更に0.9まで上げたとき、放電容量は、Crドーピングの助力を得たときと同じ値をほとんど維持している。更に、電圧は、予測されたようにより高いMF比と共に明白に増加し、したがって、エネルギ密度は、高いMFで適切なCrドーピングを伴って明確に改善されている。試験されたサンプル中で、最良のサンプルは、「A−90MF−5Cr」であり、エネルギ密度は、572.5mWh/gに達する。
【0061】
したがって、この実施例では、高いMF比を有する非化学量論的LFMPがCrドーピングの方法によって優れた電気化学的特性を有する場合があると証明される。
【0062】
【表8】
【0063】
実施例9:Mnを豊富に有する中程度にCrドープした非化学量論的LFMPサンプルに関するXRDデータ
サンプル「A−90MF−5Cr」及び「A−90MF−7.5Cr」に対するシンクロトロンXRD(高分解能)の更なる検討を、それぞれ図9.1及び図9.2に示した。図は、測定パターン、計算パターン及び両方のパターン間の差を含む。両方の場合で、決定することができる明確な不純物相はない。したがって、高度にCrドープされたMn豊富な非化学量論的LFMPは、高分解能XRD分析であっても、単一相であることを、裏付けることができる。
【0064】
LFMPのリートベルト解析では、Mn及びFeは、PNMA空間群の4cサイトに位置する。このサイトは、「M’サイト」と表される。Crが構造中にドープされるとき、Crが3価状態で「M’サイト」を占め、Liイオンは、電荷補償のために「M’サイト」にCrに付随して入る。
【0065】
しかし、リートベルト解析では、Crドーピングレベルが増加したとき、Liは、「M’サイト」で増加しないことが見出される。これは、初期の仮定に反する。したがって、Crが2価状態で「M’サイト」内に挿入している可能性があり、Liは、電荷補償のために必要ではないことを意味する。Crドーピングは、ヘテロ原子価ドーピングよりも、ホモ原子価ドーピングとして起こる。
【0066】
実施例10:Mnを豊富に有する高度にCrドープした非化学量論的LFMPサンプル
【0067】
【表9】
【0068】
2種類の10mol%Crドープした非化学量論的LFMPサンプルを、上記の手順によって調製し、分析する。これらのサンプルのMF比は、0.8及び0.9である。表7に、それらの物理的及び電気化学的特性を列挙した。これらの2種類のサンプルのBET表面積は、30に近く、実施例8のデータに類似している。豊富なMnのため、「A−80MF−10Cr」及び「A−90MF−10Cr」の平均電圧は、予測されたように高い。しかし、放電容量は、実施例8の「A−90MF−5Cr」などのより少なくCrドープしたサンプルと比べて、比較的低い。したがって、放電容量及び電圧データに基づくと、「A−80MF−10Cr」及び「A−90MF−10Cr」のエネルギ密度は、より低い。過剰のCrがオリビン構造内にドープした結果、「活性サイト」が減少することが、あり得る理由であろう。これらの2種類のサンプルのXRD粉末回折は、Crを含む不純物が少量存在することを示し、これらの2種類のサンプルでのCrの過剰ローディングの示唆を裏付ける。
【0069】
実施例11:非化学量論的組成BでのMnを豊富に有する中程度にCrドープしたLFMPサンプル
5種類のサンプルを、実施例8でのサンプルと同じMF比及びCrドーピングレベルで、かつ、非化学量論的組成を「A−」から「B−」に変更して調製した。表8に、それらの物理的及び電気化学的特性を列挙した。この実施例のサンプルのすべてのBET表面積は、実施例8の対応するサンプルのBET表面積よりも若干大きい。実施例8及び実施例11の両方のサンプルは、同じMF比及びCrドーピングレベルを有し、BETは、若干大きいため、「A」サンプルの特性の改善は、図2.1に示したように非化学量論的組成によるものである。実施例8のサンプル「A−」と比較すると、この実施例のサンプル「B−」は、若干低い放電容量及び電圧を有し、その結果、エネルギ密度もまたより低い。これは、ドーピング条件(Cr=0〜7.5mol%)とは無関係に、最適な非化学量論的組成は、引き続き「A−」であることを、また再び裏付ける。IRRQ及びレート性能は、組成の変動に対して、明確な変化の傾向を持たない。
【0070】
【表10】
【0071】
実施例12:ドーピング条件(Crドーピングレベル及びMF比)とXRDによる単位格子体積との間の関係
この実施例は、実施例8のサンプル「A−」に関するXRD粉末回折及びリートベルト解析の結果を示す。表9に、それらの格子定数及び単位格子体積を示す。表9の最後の列に、以下の式1によって計算された単位格子体積Volを示す。これは、計算された体積が測定体積に非常に近いことを示す。したがって、式1は、豊富なMnを有するCrドープした非化学量論的LFMPの単位格子体積を予測するために使用できるであろう。
【0072】
式中、Crは、ドーピングレベルzであり、MFは、マンガン化学量論値xであり、M=(Fe1−xMn1−y−zMgCrによって定義される。この式の利用可能性は、単一相に限定され、非化学量論的組成「A−」が好ましい。Cr及びMnの変数の係数は、単位格子体積とCrドーピング状態又はMn量との間の相関関係を表す、実施例6及び実施例7でのフィッティング直線の傾きに非常に近い。したがって、これは、Crドープした非化学量論的LFMPサンプルでのこの式の利用可能性を立証する。
【0073】
【表11】
【0074】
式1
Vol=72.633−5.562Cr+3.172Mn
【0075】
実施例13:Mgドープした非化学量論的LFMP
0mol%、1.5mol%及び3mol%のMgでドープした3種類の非化学量論的LFMPサンプルを、上記の手順によって調製し、分析する。Mnの量は、Feの量に等しく、組成は、「A−」として選択される。表10に、サンプル及びそれらの物理的及び電気化学的特性を示す。Mgドーピングレベルが上昇するにつれて単位格子体積が低下することが明らかにわかる。図13.1は、この依存関係が線形であることを明示する。
【0076】
【表12】
【0077】
実施例14:ドーピング条件(Cr、Mgドーピングレベル及びMF比)とXRDによる単位格子体積との間の関係
実施例12及び実施例13に基づいて、式1は、Mgドーピングの場合を含むように拡張できるであろう。拡張された式は、以下に式2として示した。式中、Mg及びCrは、ドーピングレベルy又はzであり、MFは、マンガン化学量論値xであり、M=(Fe1−xMn1−y−zMgCrによって定義される。表11に、実施例13にサンプルの格子定数を示した。最後の列に、以下の式2によって計算された単位格子体積Volを示す。計算された体積は、測定データに非常に近く、したがって、式2は、Mgドープした非化学量論的LFMPの場合に単位格子体積を予測するために適用できるであろう。この式がMg及び/又はCrドープした非化学量論的LFMPサンプルの単位格子体積を予測するために利用可能であることが、更に推論することができる。
式2
Vol=72.633−3.8715Mg−5.562Cr+3.172Mn
【0078】
【表13】
【0079】
実施例15:ドーピング条件(Crドーピングレベル及びMF比)及び組成の関数としてのCrドープしたMn豊富な非化学量論的LFMPの比較
実施例8〜実施例11は、分析されたサンプルの群に関して、P=0.982及びLM=1.106の特定の組成を有する非化学量論的LFMPが最良の電気化学的特性を有し、これらの電気化学的特性がドーピングによって改善することができることを示す。一実施形態では、Crは、ドーピング元素として使用され、電気化学的特性を改善する。表12に、ドーピング条件(Crドーピングレベル及びMF比)及び組成の関数としての非化学量論的LFMPサンプルの単位格子体積及びエネルギ密度を示す。カラム体積(計算)は、ドーピング情報に基づいて式2によって計算された単位格子体積を示す。
【0080】
図15.1は、表12のサンプルのプロットを示す。「V」は、リートベルト解析から得られた、LFMP化学式当たりの測定単位格子体積(Å表記)を表す。「V’」は、式2を適用したときに得られた単位格子体積を表す。これは、組成「A−」を有する5種類のサンプルが等値線(図中の黒い実線)と非常によくフィットすることを明らかに示す。等値線±0.01(Å)の範囲内の体積領域は、領域Iとして画定される。この領域内のすべての5種類のサンプルは、優れた電気化学的性能を有するため、最適化されたドーピング条件及び組成を有するサンプルがこの区域に位置することを、推論することができる。領域Iの体積範囲を等値線±0.05(Å)に拡張することによって、領域IIは、電気化学的特性に関してあまり好ましくない区域として確定されるが、この領域内に位置するサンプルが領域I内のサンプルよりも若干低いエネルギ密度を有するからである。領域I及び領域IIを拡張することによって、残りの区域は、領域IIIとして画定され、サンプルの電気化学的性能は、表12の分析されたサンプルの中で最も悪い。したがって、式2及び図15.1をCrドープしたMn豊富な非化学量論的LFMPサンプルに適用することによって、その電気化学的性能を評価することができる。
【0081】
【表14】
図1
図2.1】
図5.1】
図5.2】
図5.3】
図6.1】
図7.1】
図9.1】
図9.2】
図13.1】
図15.1】