特許第6378596号(P6378596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378596
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】多層麺及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20180813BHJP
【FI】
   A23L7/109 B
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-192198(P2014-192198)
(22)【出願日】2014年9月22日
(65)【公開番号】特開2016-59357(P2016-59357A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2017年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(74)【代理人】
【識別番号】100112818
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 昭久
(72)【発明者】
【氏名】宮田 敦行
【審査官】 田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭38−023054(JP,B1)
【文献】 特開昭54−092647(JP,A)
【文献】 特開平09−056350(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/055860(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
麺線の表面を形成する外層が、該外層に隣接する内層よりも油脂を多く含む多層麺であって、
前記油脂は、原料粉を含む麺生地に混合されており、
外層用麺生地における原料粉に対する油脂の割合が3〜10質量%であり、内層用麺生地における原料粉に対する油脂の割合が0〜2質量%であり、
前記内層用麺生地における原料粉に対する油脂の割合と、前記外層用麺生地における原料粉に対する油脂の割合との比(前者/後者)が1/2以下であり、
炒め調理又は焼き調理用の麺である、多層麺
【請求項2】
2枚のシート状の外層用麺生地の間に1枚の内層用麺生地を介在配置させた積層物を圧延して、1層の内層の両面に2層の外層が密着した3層構造の麺帯を製造した後、該麺帯から得た麺線を蒸すことによって、多層麺としてα化処理された3層麺を得る、多層麺の製造方法であり、
前記外層用麺生地及び前記内層用生地のうちの少なくとも前記外層用麺生地の製造工程において原料粉に水及び油脂を添加し混捏することによって、前記外層用麺生地における前記原料粉に対する前記油脂の割合を3〜10質量%、前記内層用麺生地における前記原料粉に対する前記油脂の割合を0〜2質量%、前記内層用麺生地における原料粉に対する油脂の割合と、前記外層用麺生地における原料粉に対する油脂の割合との比(前者/後者)を1/2以下とし、
前記多層麺として、表面を形成する前記外層が、該外層に隣接する前記内層よりも前記油脂を多く含む、炒め調理又は焼き調理用の多層麺を製造する、多層麺の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の層が複合一体化された多層構造の麺線を有する多層麺に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、麺線が外層と内層とからなる多層構造を有する多層麺が知られている。例えば特許文献1には、内層用及び外層用原料粉を別々に圧延して内層用及び外層用麺帯をそれぞれ製造し、1枚の内層用麺帯を2枚の外層用麺帯で挟んで圧延して3層麺帯を製造する工程を経て得られる、3層麺が記載されている。特許文献1には、凍結後に解凍を行っても優れた食感及び風味を有するようにするために、内層用原料粉及び外層用原料粉の少なくとも一方に60〜100℃に加熱された水を添加し混捏することは記載されているが、これらの原料粉に油脂を配合することは記載されていない。
【0003】
また特許文献2には、冷蔵保存後に電子レンジ等で再加熱しても、製造直後の焼いたような食感や麺の香ばしい風味を有し、特に焼きそば用及び焼きうどん用の麺として好適な多層麺として、該多層麺の最外層を、穀粉100質量部に対して加水25〜34質量部とした麺生地から形成したものが記載されている。特許文献2によれば、麺生地を調製する際の加水量は通常、穀粉100質量部に対して35質量部以上であるから、特許文献2記載の多層麺における最外層を構成する麺生地は、低加水量のものであるとされている。特許文献2の〔0010〕には、この低加水量の麺生地に油脂を含有させても良い旨記載されているが、油脂の含有量を具体的にどのように調整するかについては記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−252035号公報
【特許文献2】特開2013−106591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、粘弾性に優れ適度な硬さを有していて食感に優れ、また、炒め調理や焼き調理した場合には、麺線表面に良好な焼き色が付くと共に香ばしさが付与され、外観、食感及び風味に優れた麺料理が得られる多層麺に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、麺線の表面を形成する外層が、該外層に隣接する内層よりも油脂を多く含む多層麺である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、粘弾性に優れ適度な硬さを有し、食感に優れる多層麺が提供される。また、本発明の多層麺を炒め調理や焼き調理した場合には、麺線表面に食欲をそそるような好ましい焦げ目あるいは焼き色が付くと共に、香ばしさが付与されるため、外観、食感及び風味に優れた麺料理が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の多層麺は、その麺線が多層構造であり、該麺線の表面を形成する外層と、該外層よりも内側に存する内層とを含んで構成される。通常、外層と内層とは互いに組成が異なる。
【0009】
多層構造の麺線の一例として、内層の両面側それぞれに外層が積層された積層構造が挙げられる。斯かる積層構造の麺線における内層は、単一の層であっても良く、組成が互いに同一又は異なる複数の層の積層構造であっても良い。積層構造の麺線の典型例は、2層の外層の間に1層の内層が介在配置された積層三層構造であるが、本発明の多層麺(多層構造の麺線)はこれに限定されず、四層以上が積層された積層多層構造であっても良い。
【0010】
また、多層構造の麺線の他の一例として、外層が内層を同心状に覆う同心状構造が挙げられる。斯かる同心状構造の麺線における内層は、単一の層であっても良く、相対的に外側に位置する層が相対的に内側に位置する層を覆う同心状構造であっても良い。同心状構造の麺線の典型例は、外層及び内層がそれぞれ単一の層である同心状二層構造であるが、本発明の多層麺(多層構造の麺線)はこれに限定されず、三層以上が同心状に積層された同心状多層構造であっても良い。
【0011】
本発明の多層麺を構成する外層及び内層は、それぞれ穀粉を含有する。穀粉としては、うどん、冷麦、素麺、きしめん、中華麺、つけめん、焼そば、パスタ、そば、麺皮等の麺類の製造に用いられるものを特に制限なく用いることができ、例えば、強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム小麦粉等の小麦粉の他、コーンフラワー、大麦粉、ライ麦粉、オーツ麦粉、そば粉、米粉、豆粉等が挙げられ、多層麺の用途等に応じて、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0012】
本発明の多層麺を構成する外層及び内層は、穀粉以外の他の成分を含有していても良い。この他の成分としては、例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉等の澱粉、及びこれらにα化、アセチル化、エーテル化、エステル化、酸化処理、架橋処理等の処理を施した加工澱粉;小麦グルテン、大豆蛋白質、卵黄粉、卵白粉、全卵粉、脱脂粉乳等の蛋白質素材;動植物油脂、粉末油脂等の油脂類;食物繊維、膨張剤、増粘剤、乳化剤、かんすい、食塩、糖類、甘味料、香辛料、調味料、ビタミン類、ミネラル類、色素、香料、デキストリン、アルコール、酵素剤等が挙げられ、多層麺の用途等に応じて、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
本発明の多層麺が前記積層三層構造(外層/内層/外層)を有している場合、三層全体の厚みは1〜3mmであることが好ましく、また、各層の厚みの比は、粘弾性のバランスを良好にし且つ食感を向上させる観点から、好ましくは外層/内層/外層=2/1/2〜1/6/1、更に好ましくは外層/内層/外層=2/1/2〜1/4/1である。前記積層三層構造において、2層の外層の厚みは、互いに異なっていても良いが、同程度の厚みであることが好ましい。
【0014】
多層構造の麺線は、公知の多層麺の製造方法に従って製造することができる。例えば、前述した積層構造(積層三層構造)の麺線の製造方法の一例として、外層用麺原料に水を添加し混捏して外層用麺生地を得ると共に、内層用麺原料に水を添加し混捏して内層用麺生地を得、両麺生地を重ね合わせ、圧延して多層構造の麺帯を作製し、該麺帯を麺線に加工する工程を有する製造方法が挙げられる。
【0015】
本発明の多層麺の主たる特徴の1つとして、麺線の表面を形成する外層が、該外層に隣接する内層よりも油脂を多く含んでいる点が挙げられる。例えば、本発明の多層麺が前記積層三層構造の場合は、2層の外層の両方が、両外層間に介在配置されている1層の内層よりも油脂を多く含んでいる。本発明において、麺線の表面を形成する外層(最外層)と油脂含有量が比較されるのは、該外層に対して麺線厚み方向に隣接する内層(外層に最も近い層)のみであり、例えば、両外層に挟まれた内層が3層存在する場合(即ち麺線全体が5層の多層構造の場合)、その3層の内層のうちで油脂含有量に関して外層の比較対象となるのは、両外層に隣接する2層の内層であり、該2層の内層に挟まれた中央の内層は、油脂含有量に関して外層の比較対象とはならない。
【0016】
一般に、単層構造の麺線に油脂を練り込むと、粘弾性ある硬さが失われて食感が低下するおそれがある(後述する比較例3参照)。しかし本発明のように、麺線を多層構造とし且つ麺線の表面を形成する外層に、該外層に隣接する内層よりも油脂を多く含有させることにより、粘弾性ある硬さが得られるようになって食感が向上する。また、斯かる多層構造の麺線を炒め調理や焼き調理した場合には、麺線表面に良好な焼き色が付くと共に香ばしさが付与されるようになり、焼成感に優れた麺料理が得られようになる。つまり、本発明の多層麺は、炒め調理及び焼き調理用の麺として特に有用である。ここで、炒め調理は、揚げ調理よりも少量の食用油を用いて食材(多層麺)を焼く調理方法である。また焼き調理は、火若しくは熱源で直接食材を加熱するか、石、鉄板等の固体の媒体を介して食材を加熱するか、又はオーブンや釜等の密閉空間内で食材を加熱する調理方法である。炒め調理、焼き調理は、フライパン等の、加熱手段を備えていない調理器具を用いて行っても良く、また、調理条件は、多層麺の用途、使用する調理器具等に応じて調理者が適宜設定すれば良い。
【0017】
外層における油脂含有量と内層における油脂含有量との比(前者:後者)は、前者が後者よりも多いことを前提として、好ましくは10:0〜2:1、さらに好ましくは5:0〜3:1である。外層と内層とで油脂含有量の差が小さすぎると、前述した作用効果(食感及び焼成感の向上効果)が十分に奏されないおそれがあり、外層と内層とで油脂含有量の差が大きすぎると、食感を害するおそれがある。
【0018】
外層又は内層における「油脂含有量」は、外層用麺生地又は内層用麺生地における「原料粉に対する油脂の割合」として表すことができる。本発明において「原料粉」は、麺生地の調製に用いられる原料のうち、常温常圧下で粉状の穀粉類であり、具体的には、小麦粉等の穀粉及び澱粉を含む穀粉類(主原料)であり、食塩等の副原料は含まれない。
外層用麺生地における原料粉に対する油脂の割合は、好ましくは2〜10質量%、さらに好ましくは3〜7質量%である。
内層用麺生地における原料粉に対する油脂の割合は、好ましくは0〜2質量%、さらに好ましくは0〜1質量%である。内層は油脂を含有していなくても良い。
【0019】
本発明で用いる油脂としては、一般に食品に使用される油脂を特に制限なく用いることができ、例えば、バター、牛脂、豚脂等の動物性油脂;サラダ油、コーン油、菜種油、大豆油、紅花油、なたね油、パーム油、綿実油、ひまわり油、米ぬか油、ゴマ油、オリーブ油等の植物性油脂;これらの硬化油脂;これらの混合油脂等が挙げられ、本発明ではこれらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
本発明で用いる油脂は、香味油であっても良い。多層麺の麺線に香味油が配合されていると風味が増し、特に炒め調理や焼き調理した場合により焼成感ある香りを高め得る。香味油は香気を有する油脂であり、具体的には例えば、オリーブ油、焙煎ゴマ油、焙煎大豆油、焙煎菜種油、アーモンド油、クルミ油、ピーナッツ油、ヘーゼルナッツ油、マカダミアナッツ油、ネギ油、ガーリック油、ラー油、バターフレーバー油等の植物性油脂が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
麺線に油脂を含有させる方法には、麺生地の製造工程において、I)穀粉等の原料粉に油脂を、その使用予定量の全量を一度に添加して混捏する方法、及びII)穀粉等の原料粉に油脂を、その使用予定量の一部を複数回にわたって添加して混捏する方法がある。前記I)及びII)は何れも、麺線の製造時に穀粉等の原料粉に油脂を配合するいわゆる内添法である。加水のタイミング特に制限されないが、前記I)の場合は、油脂と同時(混捏開始前)でも良く、前記II)の場合は、油脂と同じタイミングで複数回に分けて行っても良い。前記II)の方が、食感を害するおそれがより少なく食感を維持しやすいため、より好ましい。麺線の外部から油脂を付与するいわゆる外添法は、効果が安定しにくいため好ましくない。
【0022】
本発明の多層麺は、麺の種類が制限されるものではないが、パスタ、中華麺、うどん、そばであることが好ましく、中華麺であることがより好ましい。
【実施例】
【0023】
本発明を具体的に説明するために実施例及び比較例を挙げるが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。なお、実施例1,2及び5は参考例である。
【0024】
〔実施例1〜6及び比較例1〕
下記表1に示す配合の麺原料100質量部に、かんすい(オリエンタル酵母工業社製「かんすいCS」)1質量部、食塩1質量部を溶解させた水を加え、製麺用ミキサーを用いて高速2分間混捏した後、さらに高速で8分間混捏して、外層用シート状麺生地及び内層用のシート状麺生地をそれぞれ作製した。油脂は前記II)の内添法によって麺線に含有させた。油脂としては、サラダ油又は香味油(焙煎菜種油)を使用した。
2枚の前記外層用麺生地の間に1枚の前記内層用麺生地を介在配置させ、その積層物を圧延して外層/内層/外層の三層麺帯とした後、切り刃(♯20真丸)を通して1.5mm厚の麺線とし、麺線が三層構造の生中華麺(多層麺)を得た。
【0025】
〔比較例2及び3〕
下記表1に示す配合の麺原料を用い常法に従って、麺線が単層構造の生中華麺(単層麺)を得た。
【0026】
〔評価試験〕
評価対象の生中華麺を蒸すことによってα化処理し、中華麺とした。フライパンにサラダ油を15g投入して1分間加熱した後、α化処理済みの中華麺を500g投入し3分間炒め調理した。その炒め調理後の中華麺の硬さ(食感)及び焼成感をそれぞれ下記評価基準に基づいて10名のパネラーに評価してもらった。その評価結果(パネラー10名の平均点)を下記表1に示す。
【0027】
(硬さの評価基準)
5点:粘弾性ある硬さで、極めて良好。
4点:やや粘弾性ある硬さで、良好。
3点:標準的な硬さ。
2点:やや軟らかめでやや不良。
1点:軟らかくて不良。
【0028】
(焼成感の評価基準)
5点:麺線表面が焼け、乾燥しており極めて香ばしい
4点:やや麺線表面が焼け、乾燥しており香ばしい
3点:標準的な焼成感
2点:やや麺線表面がしなやかでやや香ばしさに欠ける
1点:麺線表面がしなやかで香ばしさに欠ける
【0029】
【表1】
【0030】
表1から明らかなように、外層が内層よりも油脂を多く含む多層麺である実施例1〜6の中華麺は、何れも焼成感が標準レベルの3.0点を超える高評価であった。特に実施例2〜4及び6の中華麺は、外層における油脂(サラダ油又は香味油)の対原料粉の含有量が2〜10質量%の範囲にあることに起因して、硬さ及び焼成感の何れも高評価であった。油脂として香味油を使用した実施例6は、焼成感が最も優れていた。
比較例1は、実施例1とは外層及び内層の油脂含有量の大小関係が逆になっているところ、実施例1に比して低評価であった。
比較例2と比較例3との対比から、単層麺に油脂を配合すると、焼成感は向上するものの、麺線が硬くなって食感が低下する結果となった。このことから、麺線への油脂の配合は、多層麺に対して有効であることがわかる。