(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、四塩化炭素濃度が4質量ppm未満のポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体であり、このようなポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体は以下の製造方法により製造することができる。
つまり、下記一般式(1)で表される二価フェノール系化合物、カーボネート前駆体及び下記一般式(2)で表されるポリオルガノシロキサンを、アルカリ性化合物水溶液及び非水溶性有機溶媒の存在下に重合して得られた重合反応液を、連続的又は断続的に反応器から抜き取る工程(A)、
前記工程(A)で抜き取った重合反応液を水相と非水溶性有機溶媒相とに分離する工程(B)、
前記工程(B)で分離した非水溶性有機溶媒相を洗浄した後、水相と非水溶性有機溶媒相とに分離する工程(C)、
前記工程(C)で分離した非水溶性有機溶媒相を濃縮する工程(D)、及び
前記工程(D)で留去された非水溶性有機溶媒の一部又は全部を回収して蒸留塔にて蒸留精製する工程(E)
を有し、
前記工程(E)で得られた非水溶性有機溶媒を、工程(A)の非水溶性有機溶媒の少なくとも一部として再利用するか、もしくは工程(B)で分離された水相用の抽出溶媒として再利用するか、又は両者として再利用する、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の連続的な製造方法であって、
前記工程(E)において、蒸留塔の塔底液中のポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体濃度を6質量%以下に制御しながら蒸留精製することを特徴とする、四塩化炭素濃度が4質量ppm未満のポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の連続的な製造方法である。
【0011】
【化2】
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のアルコキシ基を示す。Xは単結合、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、−S−、−SO−、−SO
2−、−O−又は−CO−を示す。a及びbは、それぞれ独立に0〜4の整数を示す。]
【0012】
【化3】
[式中、R
3〜R
6は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基又は炭素数6〜12のアリール基を示す。Yは、単結合、脂肪族又は芳香族を含む有機残基を示す。nは平均繰り返し数である。Zは、ハロゲン原子、−R
7OH、−R
7−Z'−R
8−OH、−R
7COOH、−R
7NH
2、−COOH又は−SHを示し、前記R
7は、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のシクロアルキレン基、又は置換もしくは無置換のアリーレン基を示す。前記R
8は、環形成炭素数6〜12のアリーレン基を示し、前記Z'は、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜10のシクロアルキレン基、炭素数5〜10のシクロアルキリデン基を示す。mは、0又は1を示す。]
【0013】
一般式(1)中、R
1及びR
2がそれぞれ独立して示すハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
R
1及びR
2がそれぞれ独立して示すアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基(「各種」とは、直鎖状及びあらゆる分岐鎖状のものを含むことを示し、以下、同様である。)、各種ペンチル基、各種ヘキシル基が挙げられる。R
1及びR
2がそれぞれ独立して示すアルコキシ基としては、アルキル基部位が前記アルキル基である場合が挙げられる。
Xが表すアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基などが挙げられ、炭素数1〜5のアルキレン基が好ましい。Xが表すアルキリデン基としては、エチリデン基、イソプロピリデン基などが挙げられる。Xが表すシクロアルキレン基としては、シクロペンタンジイル基やシクロヘキサンジイル基、シクロオクタンジイル基などが挙げられ、炭素数5〜10のシクロアルキレン基が好ましい。Xが表すシクロアルキリデン基としては、例えば、シクロヘキシリデン基、3,5,5−トリメチルシクロヘキシリデン基、2−アダマンチリデン基などが挙げられ、炭素数5〜10のシクロアルキリデン基が好ましく、炭素数5〜8のシクロアルキリデン基がより好ましい。
a及びbは、それぞれ独立に0〜4の整数を示し、好ましくは0〜2、より好ましくは0又は1である。
【0014】
一般式(2)中、R
3〜R
6がそれぞれ独立して示すハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。R
3〜R
6がそれぞれ独立して示すアルキル基、アルコキシ基としては、R
1及びR
2の場合と同じものが挙げられる。R
3〜R
6がそれぞれ独立して示すアリール基としては、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
Yが示す脂肪族を含む有機残基としては、例えば、炭素数1〜10(好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜3)のアルキレン基などが挙げられる。また、Yが示す芳香族を含む有機残基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニルジイル基などの環形成炭素数6〜12のアリーレン基などが挙げられる。
【0015】
一般式(2)中、Zが示すハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。これらの中でも塩素原子が好ましい。
Zが示す−R
7OH、−R
7−Z'−R
8−OH、−R
7COOH、−R
7NH
2中のR
7が示すアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ペンタメチレン基などの炭素数1〜10(好ましくは1〜5)のアルキレン基が挙げられる。また、R
7が示すシクロアルキレン基としては、例えば、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基などの環形成炭素数3〜10(好ましくは4〜8)のシクロアルキレン基が挙げられる。R
7が示すアリーレン基としては、例えばフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニルジイル基などの環形成炭素数6〜12のアリーレン基が挙げられる。
R
7は、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、環形成炭素数6〜12のアリール基などによって置換されていてもよい。該アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、各種ブチル基などが挙げられる。該アルコキシ基としては、アルキル基部位が前記アルキル基であるものが挙げられる。該アリール基としては、フェニル基などが挙げられる。
Z'が示すアルキレン基、アルキリデン基、シクロアルキレン基、シクロアルキリデン基としては、Xの場合と同じものが挙げられる。Z'としては、炭素数2〜8のアルキリデン基が好ましく、イソプロピリデン基がより好ましい。
また、平均繰り返し数nは、好ましくは25〜120、より好ましくは30〜100である。さらに、該nは、短鎖のものとしては30〜60が好ましく、長鎖のものとしては70〜100が好ましい。
【0016】
ここで、一般式(1)で表される二価フェノール系化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔通称:ビスフェノールA〕、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−テトラメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−クロロフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノルボルナン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;4,4’−ジヒドロキシフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルフェニルエーテル等のジヒドロキシアリールエーテル類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;4,4’−ジヒロキシジフェニルなどのジヒドロキシジフェニル類;9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどのジヒドロキシジアリールフルオレン類;ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタンなどのジヒドロキシジアリールアダマンタン類;4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノール、10,10−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−9−アントロン、1,5−ビス(4−ヒドロキシフェニルチオ)−2,3−ジオキサペンタエンなどが挙げられる。これらの中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔通称:ビスフェノールA〕が好ましい。
これらの二価フェノール系化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
カーボネート前駆体としては、例えばカルボニルハライド、炭酸ジエステル、ハロホルメート等が挙げられ、具体的には、ホスゲン、ジフェニルカーボネート、二価フェノール系化合物のジハロホルメート等が挙げられる。これらの中でも、ホスゲンが好ましい。
【0017】
また、一般式(2)で表されるポリオルガノシロキサンは、オレフィン性の不飽和炭素−炭素結合を有するフェノール類(好ましくはビニルフェノール、アリルフェノール、オイゲノール、イソプロペニルフェノールなど)を、所定の重合度nを有するポリオルガノシロキサン鎖の末端にハイドロシラネーション反応させることにより容易に製造することができる。上記フェノール類は、アリルフェノール又はオイゲノールであることがより好ましい。この場合、一般式(2)におけるYがアリルフェノール又はオイゲノール由来の有機残基となる。
一般式(2)で表されるポリオルガノシロキサンとしては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0019】
前記一般式(3)〜(11)中、R
3〜R
6は一般式(1)中のR
3〜R
6と同様である。nは、一般式(2)中のnと同じである。また、cは正の整数を示し、好ましくは1〜6の整数、より好ましくは1〜3の整数、さらに好ましくは3である。
これらの中でも、一般式(3)に示すフェノール変性ポリオルガノシロキサンが、重合容易性の観点から好ましい。さらには一般式(4)に示す化合物中の一種であるα,ω−ビス[3−(o−ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルシロキサン、又は一般式(5)に示す化合物中の一種であるα,ω−ビス[3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)プロピル]ポリジメチルシロキサンが、入手容易性の観点から好ましい。
【0020】
上記フェノール変性ポリオルガノシロキサンは、公知の方法により製造することができる。公知の製造法としては、例えば次のようなものがある。
シクロトリシロキサンとジシロキサンとを酸性触媒存在下で反応させ、α,ω−ジハイドロジェンオルガノポリシロキサンを合成する。このとき、シクロトリシロキサンとジシロキサンとの仕込み比を変えることで所望の平均繰り返し単位を持つα,ω−ジハイドロジェンオルガノポリシロキサンを合成することができる。次いで、ヒドロシリル化反応用触媒の存在下に、このα,ω−ジハイドロジェンオルガノポリシロキサンにアリルフェノールやオイゲノール等の不飽和脂肪族炭化水素基を有するフェノール化合物を付加反応させることで、所望の平均繰り返し単位を有するフェノール変性ポリオルガノシロキサンを製造することができる。
また、この段階では、低分子量の環状ポリオルガノシロキサンや過剰量の上記フェノール化合物が不純物として残存するために、減圧下で加熱し、これらの低分子化合物を留去する。
【0021】
(ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体:PC−POS)
本発明の製造方法によって得られるPC−POSは、下記一般式(I)で表される繰り返し単位及び下記一般式(II)で表される構成単位を有する。
【化5】
[式中、R
1〜R
6、X、Y、a、b及びnは、前記定義の通りである。]
【0022】
PC−POSは、上記一般式(II)で表される構成単位の含有量に特に制限は無いが、好ましくは1〜25質量%であり、より好ましくは2〜10質量%である。1質量%以上であれば耐衝撃性に優れ、また25質量%以下であれば耐熱性が良好となる。
また、PC−POSにおいて、上記一般式(II)で表される構成単位における平均繰り返し数nは、好ましくは25〜120、より好ましくは30〜100である。さらに、該nは、短鎖のものとしては30〜60が好ましく、長鎖のものとしては70〜100が好ましい。PC−POSにおいては、nが25以上であれば耐衝撃性に優れ、120以下であれば、透明性が良好である。
PC−POSの粘度平均分子量(Mv)に特に制限は無いが、好ましくは10,000〜30,000、より好ましくは13,000〜25,000、より好ましくは15,000〜23,000、より好ましくは15,000〜21,000、さらに好ましくは16,000〜20,000、特に好ましくは16,000〜18,000である。PC−POSの粘度平均分子量がこの範囲であれば、成形品の強度が十分となり、共重合体の粘度が大きくなり過ぎずに製造時の生産性が安定する。
なお、本明細書において、粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ型粘度管にて、20℃における塩化メチレン溶液の極限粘度〔η〕を測定し、次の関係式(Schnellの式)により計算したものである。
〔η〕=1.23×10
−5×Mv
0.83
【0023】
[ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の製造方法]
本発明のポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体(PC−POS)の製造方法は、前記のとおり、工程(A)〜工程(E)を有する。
(工程(A))
工程(A)は、下記一般式(1)で表される二価フェノール系化合物、カーボネート前駆体及び下記一般式(2)で表されるポリオルガノシロキサンを、アルカリ性化合物水溶液及び非水溶性有機溶媒の存在下に重合して得られた重合反応液を、連続的又は断続的に反応器から抜き取る工程である。工程(A)では、必要に応じて重合触媒や分子量調節剤の存在下に重合することもできる。アルカリ性化合物水溶液、非水溶性有機溶媒、重合触媒及び分子量調節剤については後述する。
特に制限されるものではないが、該工程(A)は、PC−POSの透明性を高める観点から、下記工程(a−1)及び工程(a−2)からなることが好ましい。
工程(a−1):一般式(1)で表される二価フェノール系化合物とカーボネート前駆体とを、アルカリ性化合物水溶液及び非水溶性有機溶媒の存在下に反応させることによって一般式(I)で表される繰り返し単位を有するポリカーボネートオリゴマーを製造する工程。
工程(a−2):前記二価フェノール系化合物と、工程(a−1)で得たポリカーボネートオリゴマーと、一般式(2)で表されるポリオルガノシロキサンとを、アルカリ性化合物水溶液及び非水溶性有機溶媒の存在下に重合して得られた重合反応液を、連続的又は断続的に反応器から抜き取る工程。
【0024】
(工程(a−1))
工程(a−1)において、二価フェノール系化合物とカーボネート前駆体との反応は、特に制限されるものではなく、公知の方法を採用でき、アルカリ性化合物水溶液及び非水溶性有機溶媒の存在下、界面重合法によって実施することが好ましい。必要に応じて、重合触媒の存在下に反応させることもでき、また、そうすることが好ましい。
アルカリ性化合物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物などが挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。なお、二価フェノール系化合物は、該アルカリ性化合物水溶液と混合して用いることが好ましい。
非水溶性有機溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロベンゼン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素が好ましく、塩化メチレンがより好ましい。
重合触媒としては、第三級アミンや第四級アンモニウム塩が挙げられる。第三級アミンとしては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン等が挙げられる。第四級アンモニウム塩としては、例えばトリメチルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。重合触媒としては、第三級アミンが好ましく、トリエチルアミンがより好ましい。
【0025】
工程(a−1)では、必要に応じて分子量調節剤を添加してもよい。分子量調節剤としては、1価フェノールであれば特に制限は無く、例えば、フェノール、o−n−ブチルフェノール、m−n−ブチルフェノール、p−n−ブチルフェノール、o−イソブチルフェノール、m−イソブチルフェノール、p−イソブチルフェノール、o−t−ブチルフェノール、m−t−ブチルフェノール、p−t−ブチルフェノール、o−n−ペンチルフェノール、m−n−ペンチルフェノール、p−n−ペンチルフェノール、o−n−ヘキシルフェノール、m−n−ヘキシルフェノール、p−n−ヘキシルフェノール、p−t−オクチルフェノール、o−シクロヘキシルフェノール、m−シクロヘキシルフェノール、p−シクロヘキシルフェノール、o−フェニルフェノール、m−フェニルフェノール、p−フェニルフェノール、o−n−ノニルフェノール、m−ノニルフェノール、p−n−ノニルフェノール、o−クミルフェノール、m−クミルフェノール、p−クミルフェノール、o−ナフチルフェノール、m−ナフチルフェノール、p−ナフチルフェノール、2,5−ジ−t−ブチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、3,5−ジ−t−ブチルフェノール、2,5−ジクミルフェノール、3,5−ジクミルフェノール、p−クレゾール、ブロモフェノール、トリブロモフェノール、平均炭素数12〜35の直鎖状又は分岐状のアルキル基をオルト位、メタ位又はパラ位に有するモノアルキルフェノール、9−(4−ヒドロキシフェニル)−9−(4−メトキシフェニル)フルオレン、9−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−9−(4−メトキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、4−(1−アダマンチル)フェノールなどが挙げられる。これらの中でも、p−t−ブチルフェノール、p−クミルフェノール、p−フェニルフェノールが好ましく、p−t−ブチルフェノールがより好ましい。
なお、分子量調節剤は、非水溶性有機溶媒に溶解し、濃度を好ましくは2〜20質量%、より好ましくは4〜15質量%、さらに好ましくは4〜12質量%にして用いることが好ましい。該非水溶性有機溶媒としては、前述同様のものが挙げられ、それらの中でも、塩化メチレンが好ましい。
【0026】
反応の実施形態に特に制限は無いが、二価フェノール系化合物のアルカリ性化合物水溶液、非水溶性有機溶媒、カーボネート前駆体を反応器へ連続的又は断続的に供給し、反応液の温度を40℃以下に保ちながら、そこへ必要に応じて、重合触媒水溶液を添加して反応させる方法が好ましい。
こうして得られるポリカーボネートオリゴマーの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは500〜3,000、より好ましくは700〜2,000、さらに好ましくは800〜1,500である。
【0027】
工程(a−1)で得られた反応混合液は、水相と非水溶性有機溶媒相とに分離し、ポリカーボネートオリゴマーを含有する非水溶性有機溶媒相は、工程(a−2)に利用される。一方、水相にもポリカーボネートオリゴマーや二価フェノール系化合物が混入していることがある。そこで、水相については、非水溶性有機溶媒でそれらの有機物を抽出し、得られた抽出液を工程(a−2)で使用する非水溶性有機溶媒の一部又は全部として利用することが好ましい。抽出操作は、該水相を後述する工程(C)における酸性水溶液による洗浄後に分離して得られる水相と混合して行うことが好ましい。なお、本明細書では、このように水相を非水溶性有機溶媒で抽出する操作を、排水処理と称することがある。
【0028】
(工程(a−2))
工程(a−2)は、前記二価フェノール系化合物と、工程(a−1)で得たポリカーボネートオリゴマーと、前記一般式(2)で表されるポリオルガノシロキサンとを、アルカリ性化合物水溶液及び非水溶性有機溶媒の存在下に重合して得られた重合反応液を、連続的又は断続的に反応器から抜き取る工程である。必要に応じて、重合触媒の存在下に反応させることもでき、また、そうすることが好ましい。
工程(a−2)における重合反応の実施形態に特に制限は無く、公知の方法を採用できるが、例えば、未反応のPDMS量を極力少なくする観点から、以下のように予備重合工程と本重合工程とに分けることが好ましい。
(予備重合工程)
前記一般式(I)で表される繰り返し単位を有するポリカーボネートオリゴマー及び非水溶性有機溶媒、前記一般式(2)で表されるポリオルガノシロキサン、非水溶性有機溶媒、及びアルカリ性化合物水溶液を連続的又は断続的に供給して反応させる工程である。必要に応じて、重合触媒の存在下に反応させることもでき、また、そうすることが好ましい。
本工程では、前記一般式(I)で表される繰り返し単位を有するポリカーボネートオリゴマー及び非水溶性有機溶媒と、前記一般式(2)で表されるポリオルガノシロキサンとを供給して混合し、その後、必要に応じて重合触媒を供給し、次いでアルカリ性化合物水溶液を供給して混合する操作手順が好ましい。
(本重合工程)
予備重合工程で得られた予備重合液を25℃以下に冷却してから、そこへ前記一般式(1)で表される二価フェノール系化合物のアルカリ性化合物水溶液、及び分子量調節剤を連続的又は断続的に供給して混合して本重合を行ない、得られた重合反応液を連続的又は断続的に反応器から抜き取る工程である。必要に応じて、重合触媒の存在下に本重合させることもでき、また、そうすることが好ましい。
【0029】
予備重合工程において、ポリオルガノシロキサン及びポリオルガノシロキサンと混合する際のポリカーボネートオリゴマーを、それぞれ非水溶性有機溶媒に溶解又は混合しておくことが好ましい。その場合、ポリオルガノシロキサンの濃度は、好ましくは10〜30質量%、より好ましくは15〜25質量%である。ポリカーボネートオリゴマー溶液は、固形分濃度を、好ましくは300g/L以下、より好ましくは170〜250g/L、さらに好ましくは180〜240g/Lにしておく。こうすることで、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の透明性を高くすることができる。これは、ポリオルガノシロキサンとポリカーボネートオリゴマーは相溶性が低いため、ポリオルガノシロキサン濃度やポリカーボネートオリゴマー濃度(固形分濃度)が高すぎると、ポリオルガノシロキサンは分散状態でポリカーボネートオリゴマー中に存在する傾向にあり、ポリオルガノシロキサン濃度を10〜30質量%、ポリカーボネートオリゴマー濃度を300g/L以下にすることで、ポリオルガノシロキサンをポリカーボネートオリゴマー溶液にすばやく十分に溶解させ易くなるため、重合反応の均一性が向上し、結果として透明性に優れたポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体が得られる傾向にある。
前記ポリカーボネートオリゴマーの供給速度と前記ポリオルガノシロキサンの供給速度との供給比率[ポリカーボネートオリゴマー:ポリオルガノシロキサン]は、製造するPC−POSの組成を考慮して適宜設定すればよい。
【0030】
予備重合工程において、重合触媒は、反応の均一性を向上させ、得られるポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の透明性を高める観点から、非水溶性有機溶媒の溶液として用いることが好ましい。該非水溶性有機溶媒としては、前述と同じものが挙げられ、それらの中でも、重合触媒の分散性向上の観点から、塩化メチレンが好ましい。重合触媒溶液における重合触媒の濃度としては、好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.1〜5質量%である。
【0031】
予備重合工程において、アルカリ性化合物は、アルカリ性化合物水溶液として使用することが好ましい。また、その場合、アルカリ性化合物水溶液の濃度(以下、アルカリ濃度と略称する。)を2〜15質量%とすることが好ましい。予備重合の際、アルカリ性化合物は、(1)ポリカーボネートオリゴマーとポリオルガノシロキサンとの反応、(2)ポリカーボネートオリゴマーのクロロホルメート基と水酸基との反応、(3)ポリカーボネートオリゴマーのクロロホルメート基の分解反応の3つの反応にて消費される。供給するアルカリ性化合物水溶液のアルカリ濃度が15質量%以下であれば、反応速度面から前記(3)の反応の進行を抑制でき、未反応のポリオルガノシロキサン量の増加を抑制できる。予備重合時に供給するアルカリ性化合物水溶液のアルカリ濃度は、ポリオルガノシロキサンの反応効率及びポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の透明性の観点から、好ましくは3〜15質量%、より好ましくは3〜12質量%である。
【0032】
なお、予備重合は界面重合反応によって実施される。通常、界面重合反応の場合、連続相を水相とする場合と非水溶性有機溶媒相とする場合の2通りがあるが、透明性に優れたPC−POSを得るには、非水溶性有機溶媒相を連続相とするのが好ましい。透明性を発現するためにはポリオルガノシロキサンとポリカーボネートオリゴマーとの反応の均一性を高めるために、ポリオルガノシロキサン及びポリカーボネートオリゴマーはいずれも非水溶性有機溶媒相に存在するため、非水溶性有機溶媒相を連続相として撹拌することで、両者の均一性を高めることができる。
【0033】
本重合工程では、予備重合工程で得られた予備重合液を一旦25℃以下(好ましくは15〜20℃程度)に冷却するのが好ましい。その後、前記一般式(1)で表される二価フェノール系化合物のアルカリ性化合物水溶液、及び分子量調節剤(末端停止剤)、そして必要に応じて重合触媒を連続的又は断続的に供給して混合し、本重合を行う。
アルカリ性化合物、分子量調節剤(末端停止剤)及び重合触媒については、前述したものと同じものが挙げられ、好ましいものも同じである。なお、分子量調節剤は、非水溶性有機溶媒に溶解して、濃度を好ましくは2〜20質量%、より好ましくは4〜15質量%、さらに好ましくは4〜12質量%にして用いることが好ましい。該非水溶性有機溶媒としては、前述同様のものが挙げられ、それらの中でも、塩化メチレンが好ましい。
こうして得られた重合反応液を、連続的又は断続的に反応器から抜き取り、工程(B)へ移行する。
【0034】
(工程(B))
工程(B)は、前記工程(A)で抜き取った重合反応液(但し、工程(A)が工程(a−1)及び工程(a−2)からなる場合は、工程(a−2)後に抜き取った重合反応液を指す。)を水相と非水溶性有機溶媒相とに分離する工程である。分離する方法に特に制限は無く、静置分離でもよいが、水相と非水溶性有機溶媒相との分離状態を良好にする観点から、遠心分離を行なうことが好ましい。遠心分離条件に特に制限は無いが、通常、回転速度は1,000〜3,000rpm程度であることが好ましい。
工程(B)で得られた水相には、二価フェノール性化合物やアルカリ性化合物が含まれているため、製造コストの観点から、該水相を工程(A)、特に前記工程(a−1)に再利用することが好ましい。
【0035】
(工程(C))
工程(C)は、前記工程(B)で得られた非水溶性有機溶媒相を洗浄し、次いで水相と非水溶性有機溶媒相とに分離する工程である。洗浄方法としては、アルカリ洗浄、酸洗浄、水洗浄が挙げられ、少なくとも酸洗浄と水洗浄を実施することが好ましい。
〔アルカリ洗浄〕
前記工程(B)で得られた非水溶性有機溶媒相は、微量の二価フェノール性化合物を含有していることが多いため、該非水溶性有機溶媒相をアルカリ水溶液で洗浄(以下、アルカリ洗浄と称することがある。)することが好ましい。
アルカリ水溶液に用いるアルカリ性化合物は、工程(A)にて使用したものと同じものが挙げられ、同じものを使用することが好ましい。洗浄温度は、非水溶性有機溶媒の沸点以下であれば特に制限は無いが、好ましくは37℃以下、より好ましくは34℃以下、さらに好ましくは30℃以下、特に好ましくは28℃以下である。
アルカリ水溶液で洗浄した後、水相と非水溶性有機溶媒相とに分離する。この際も、分離する方法に特に制限は無く、静置分離でもよいが、水相と非水溶性有機溶媒相との分離状態を良好にする観点から、前記回転速度にて遠心分離を行なうことが好ましい。洗浄に使用するアルカリ水溶液の量に特に制限は無いが、洗浄効果と排水発生量低減の観点から、全液体中の5〜40体積%程度であることが好ましく、より好ましくは5〜30体積%、さらに好ましくは10〜20体積%である。40体積%以下であれば、連続相が有機相から水相に転換せず、有機相からの抽出効率を高く維持することができる。
アルカリ洗浄工程で得られた水相には、二価フェノール性化合物やアルカリ性化合物が含まれているため、製造コストの観点から、該水相を工程(A)、特に前記工程(a−1)に再利用することが好ましい。
【0036】
〔酸洗浄〕
前記工程(B)で分離した非水溶性有機溶媒相又はアルカリ洗浄後の非水溶性有機溶媒相を、酸性水溶液で洗浄(以下、酸洗浄と称することがある。)することが好ましい。該酸洗浄によって、非水溶性有機溶媒相に含まれることのある重合触媒や微量のアルカリ性化合物を除去することができる。酸性水溶液の調製に用いる酸としては、例えば塩酸、リン酸等が挙げられ、塩酸が好ましいが、特にこれらに制限されるものではない。洗浄温度は、非水溶性有機溶媒の沸点以下であれば特に制限は無いが、好ましくは37℃以下、より好ましくは34℃以下、さらに好ましくは30℃以下、特に好ましくは28℃以下である。
酸洗浄した後、水相と非水溶性有機溶媒相とに分離する。分離する方法に特に制限は無く、遠心分離することもできるが、静置分離でよい。
〔水洗浄〕
上記洗浄後に得られる非水溶性有機溶媒相には、洗浄で用いた酸や無機物が含まれる傾向にあるため、1回以上水によって洗浄することが好ましく、1〜3回水によって洗浄することがより好ましい。ここで、非水溶性有機溶媒相の清浄度は、洗浄後の水相の電気伝導度により評価できる。目標とする電気伝導度は、好ましくは1mS/m以下、より好ましくは0.5mS/m以下である。洗浄温度は、非水溶性有機溶媒の沸点以下であれば特に制限は無いが、好ましくは37℃以下、より好ましくは34℃以下、さらに好ましくは30℃以下、特に好ましくは28℃以下である。
水で洗浄した後、水相と非水溶性有機溶媒相とに分離する。この際も、分離する方法に特に制限は無く、遠心分離することもできるが、静置分離でよい。なお、上記電気伝導度は、導電率測定器「DS−7」(株式会社堀場製作所製)により測定した値である。
【0037】
工程(B)や工程(C)で分離した水相には、PC−POSや場合によっては重合触媒等が含まれているため、非水溶性有機溶媒にてこれを抽出し、抽出液の一部又は全部を、適宜、二酸化炭素除去のための脱揮工程や蒸留精製工程を経てから、工程(A)、特に前記工程(a−2)に再利用することが好ましい。脱揮工程については、特開2005−60599号公報に記載の方法を採用できる。抽出に用いた非水溶性有機溶媒を再利用する際、通常、非水溶性有機溶媒を送液ポンプで輸送することになるため、該送液ポンプでのキャビテーションの発生等を抑制する観点及び脱揮操作を安定的に実施する観点から、再利用する非水溶性有機溶媒全量中のPC−POS濃度を好ましくは2質量%以下(より好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下)にする。
さらに、本発明では、前記工程(a−1)で得られる反応混合液を水相と非水溶性有機溶媒相とに分離して得られた水相を、酸洗浄した後に分離して得られる水相と混合し、得られた水相に対して非水溶性有機溶媒抽出を行い、該抽出液の一部又は全部を工程(A)に再利用することが好ましい。
【0038】
前記工程(C)を経た非水溶性有機溶媒相を濃縮して非水溶性有機溶媒を留去し[工程(D);濃縮工程]、粉砕し[粉砕工程]、好ましくは減圧下に80〜160℃程度で乾燥する[乾燥工程]ことによって、又はさらに造粒する[造粒工程]ことによって、PC−POSを得ることができる。
工程(D)において、非水溶性有機溶媒の固形分濃度が好ましくは30〜40質量%、より好ましくは30〜35質量%となる程度に濃縮する。
また、乾燥工程においては、非水溶性有機溶媒の固形分濃度が好ましくは99.9質量%以上(樹脂中の塩化メチレン濃度が1,000ppm未満)となる程度に乾燥する。
本発明では、濃縮工程にて留去された非水溶性有機溶媒の一部又は全部は、後述する工程(E)を経た後、工程(A)の非水溶性有機溶媒の少なくとも一部として、もしくは、工程(B)や前記各洗浄工程において分離された水相からPC−POS等の有機物を抽出する溶媒(抽出溶媒)として、又はその両者として再利用する。さらには、乾燥工程にて得られた非水溶性有機溶媒の一部又は全部についても、後述する工程(E)を経た後、工程(A)の非水溶性有機溶媒の少なくとも一部として、もしくは、工程(B)や前記各洗浄工程において分離された水相からPC−POS等の有機物を抽出する溶媒(抽出溶媒)として、又はその両者として再利用することが好ましい。
【0039】
(工程(E))
PC−POSの原料であるホスゲンを製造する際には、副生成物として四塩化炭素(CCl
4)が副生するため、塩化メチレンの循環使用により、四塩化炭素が反応装置内で次第に蓄積されていき、そのまま連続運転を行っていると、PC−POS中の四塩化炭素濃度が4質量ppm以上となり、色調悪化や金型の腐食をもたらす。そこで、PC−POS中の四塩化炭素濃度を4質量ppm未満とするために、前述のとおり、再利用する非水溶性有機溶媒を蒸留精製する必要がある。再利用する非水溶性有機溶媒は、蒸留精製した非水溶性有機溶媒のみであってもよいし、蒸留精製した非水溶性有機溶媒と未蒸留の非水溶性有機溶媒(例えば工程(D)で得た非水溶性有機溶媒)とを混合したものであってもよい。いずれの場合も、非水溶性有機溶媒中の四塩化炭素濃度を、好ましくは20質量ppm未満、より好ましくは10質量ppm以下、さらに好ましくは5質量ppm以下、特に好ましくは3質量ppm以下にしておく。このように、再利用する非水溶性有機溶媒中の四塩化炭素濃度を低減することにより、PC−POS中の四塩化炭素濃度を4質量ppm未満に低減し易くなる。なお、蒸留塔トレイの閉塞を予防するために、フラッシュドラムを設置してもよい。
ここで、本発明者らのさらなる検討により、通常のポリカーボネート系樹脂の製造の場合とは異なり、PC−POSの製造においては、PC−POS中の四塩化炭素濃度が高まり易いことが判明した。これは、塩化メチレンの蒸留精製を行っていると、PC−POSを僅かに含有する塩化メチレンが泡立つことによって蒸留塔底部のリボイラで伝熱不良となり、蒸留塔の安定運転ができなくなる場合があること、及びフラッシュドラムを用いた場合でも、フラッシュドラム底部の循環ポンプの吐出圧力が不安定になる場合があることに起因すると推測する。本発明では、蒸留塔の塔底液中のPC−POS濃度を6質量%以下に制御することによってこの問題を解決した。蒸留塔の塔底液中のPC−POS濃度は、好ましくは5質量%以下に制御する。塔底液中のPC−POS濃度が高いことが、塩化メチレンの泡立ちの原因となっていたためと推測するが、当該現象は、通常のポリカーボネート樹脂(例えば、前記一般式(1)で表される二価フェノール系化合物とカーボネート前駆体とから得られるポリカーボネート樹脂であり、特に、オルガノシロキサン構造単位を含有しないポリカーボネート樹脂。)では起こらないため、PC−POSの製造においてのみ発生する問題である。
なお、塔底液中のPC−POS濃度を上記範囲とする方法に特に制限は無いが、例えば、塔底液を抜き取ることによりPC−POS濃度を低減する方法が好ましく挙げられる。塔底液を抜き取る速度としては、PC−POS濃度を上記範囲にできれば特に制限は無いが、例えば、蒸留塔への非水溶性有機溶媒のフィード量の0.3〜2質量%の流量で抜き取る方法が挙げられる。
塔底液中のPC−POS濃度の監視方法に特に制限は無いが、例えば、運転中の蒸留塔の塔底液をサンプリングし、非水溶性有機溶媒を留去して乾固し、固形分量を測定する方法や、濃度計を設置する方法などが挙げられる。
【0040】
蒸留精製の条件としては、上記事項以外には特に制限は無いが、30〜60段の多段蒸留塔を用いて、還流比0.3〜5(好ましくは1〜4、より好ましくは1〜3)、圧力は常圧〜0.2MPa(ゲージ圧)、塔頂温度35〜70℃(好ましくは35〜45℃)、塔底温度45〜80℃(好ましくは45〜60℃)の条件で蒸留を行うことが好ましい。
本発明では、非水溶性有機溶媒の一部又は全部を回収して蒸留塔にて蒸留精製する前に、フラッシュドラムへ通し、該フラッシュドラム内の非水溶性有機溶媒中のポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体濃度を6質量%以下に制御する方法も好ましく採用できる。フラッシュドラム内の非水溶性有機溶媒中のポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体濃度は5質量%以下であることがより好ましい。
なお、再利用する非水溶性有機溶媒相中のPC−POS濃度は、2質量%以下に制御することが好ましく、より好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0041】
以上のようにして得られるPC−POS中の四塩化炭素の含有量は4質量ppm未満であり、好ましいものでは2質量ppm未満、さらには1質量ppm未満となっており、高品質のPC−POSであり、本発明によれば、このような高品質のPC−POSを連続的に長期間製造し続けることができる。
また、PC−POS中のポリオルガノシロキサン残基の量は、好ましくは0.1〜40質量%、より好ましくは1〜10質量%、さらに好ましくは3〜6.5質量%である。
【実施例】
【0042】
本発明の実施例をさらに説明する。なお、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、各例において、粘度平均分子量(Mv)及びPC−PDMS中のポリジメチルシロキサン(PDMS)残基の量については、下記方法に従って測定した。また、塔底液中のPC−PDMS濃度の測定は、非水溶性有機溶媒を留去して乾固し、固形分量を測定する方法により行い、塩化メチレン中の四塩化炭素濃度の測定及びPC−PDMSペレット中の四塩化炭素濃度の測定は、下記条件でのガスクロマトグラフィー測定により行った。
【0043】
(1.PC−PDMS中のポリジメチルシロキサン(PDMS)残基の量)
NMR測定によって、PDMSのメチル基のプロトンに着目して求めた。
(2.粘度平均分子量(Mv)の測定方法)
ウベローデ型粘度管にて、20℃における塩化メチレン溶液の極限粘度〔η〕を測定し、次の関係式(Schnellの式)より粘度平均分子量(Mv)を計算した。
〔η〕=1.23×10
−5×Mv
0.83
【0044】
(3.ガスクロマトグラフィー測定条件)
装置:型番「7890A」(アジレント・テクノロジー株式会社製)
分析条件:注入口温度200℃、検出器温度220℃
カラム:キャピラリーカラム(J&W社製「DB−WAX」、膜厚:1μm、内径:0.53mm、長さ:60m)
カラム温度:40℃から2℃/minで65℃まで昇温、5℃/minで120℃まで昇温
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
【0045】
<合成例1>ポリカーボネートオリゴマー溶液の製造(工程(A)−工程(a−1))
5.6質量%水酸化ナトリウム水溶液に、後から溶解するビスフェノールAに対して2000質量ppmの亜二チオン酸ナトリウムを加え、これにビスフェノールA濃度が13.5質量%になるようにビスフェノールAを溶解し、ビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液(BPNa水溶液)を調製した。
このビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液40L/hr、塩化メチレン15L/hrの流量で、ホスゲンを4.0kg/hrの流量で、内径6mm、管長30mの管型反応器に連続的に通した。管型反応器はジャケット部分を有しており、ジャケットに冷却水を通して反応液の温度を40℃以下に保った。
管型反応器を出た反応液は、後退翼を備えた内容積40Lのバッフル付き槽型反応器へ連続的に導入され、ここにさらにビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液2.8L/hr、25質量%水酸化ナトリウム水溶液0.07L/hr、水17L/hr、1質量%トリエチルアミン水溶液を0.64L/hrの流量で添加して反応を行なった。槽型反応器から溢れ出る反応液を連続的に抜き出し、静置することで水相を分離除去し、塩化メチレン相を採取した。
このようにして得られたポリカーボネートオリゴマー溶液(塩化メチレン溶液)は、濃度324g/L、クロロホーメート基濃度0.74mol/Lであった。また、ポリカーボネートオリゴマーの重量平均分子量(Mw)は、1,190であった。
なお、重量平均分子量(Mw)は、展開溶媒としてTHF(テトラヒドロフラン)を用い、GPC〔カラム:TOSOH TSK−GEL MULTIPORE HXL−M(2本)+Shodex KF801(1本)、温度40℃、流速1.0ml/分、検出器:RI〕にて、標準ポリスチレン換算分子量(重量平均分子量:Mw)として測定した。
【0046】
<実施例1>
図1に示す製造装置を用いて、ポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体を連続的に製造した。具体的には、以下の通りである。
(工程(A)−工程(a−2))
合成例1で製造したポリカーボネートオリゴマー(PCO)溶液[6.PCO/MC]26kg/hr及び塩化メチレン[7.MC]11.8kg/hrを配管内で混合(PCO濃度:223g/L)してから、ジメチルシロキサン単位の繰返し数nが90であるアリルフェノール末端変性ポリジメチルシロキサンの20質量%塩化メチレン溶液[8.PDMS/MC]2.7kg/hrを配管内で混合し、その後、スタティックミキサー[5a.SMX]でよく混合した後、混合液を熱交換器により19〜22℃に冷却した。
冷却した混合液に、トリエチルアミン(TEA)の1質量%塩化メチレン溶液[9.TEA/MC]0.52kg/hrを配管内で混合し、その後、スタティックミキサー[5b.SMX]でよく混合してから、反応器[1.Rx−1]直前で6.4質量%水酸化ナトリウム水溶液[10a.NaOH水溶液]を1.84kg/h加え、反応器[1.Rx−1]にて塩化メチレン相を連続相としながらポリカーボネートオリゴマーとアリルフェノール末端編成PDMSの反応(予備重合)を行った。なお、反応器[1.Rx−1]は、タービン翼を供えたミキサー(パイプラインホモミキサー〔特殊機化工業(株)製〕)であり、回転数4400rpmで運転した。
反応器[1.Rx−1]を出た予備重合液を熱交換器で17〜20℃まで冷却した後、反応器[2.Rx−2]の直前で、トリエチルアミンの1質量%水溶液[11.TEA水溶液]0.18kg/hr及びビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液[12.BPNa水溶液]11.2kg/hrにp−t−ブチルフェノール(PTBP)の8質量%塩化メチレン溶液[13.PTBP/MC]2.3kg/hr加えて配管内で混合したものを加え、その後、15質量%NaOH水溶液[10b.NaOH水溶液]5.1kg/hを前記混合液に加えて反応器[2.Rx−2]にて重合反応(本重合)を行った。なお、反応器[2.Rx−2]はタービン翼を供えたミキサーであり、回転数4400rpmで運転した。ここで、ビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液は、合成例1で用いたBPNa水溶液と同じものを使用した。
反応器[2.Rx−2]を出た重合反応液は、反応器[3.Rx−3]と反応器[4.Rx−4]に順次導き、温度を38℃以下に制御しながら重合反応を完結させた。反応器[3.Rx−3]はオリフィスプレートと冷却ジャケットを有する反応器であり、反応器[4.Rx−4]は冷却ジャケットを有する塔型の5段反応器である。
【0047】
(分離工程(工程(B)))
反応器[4.Rx−4]から採取した重合反応液35L及び希釈用塩化メチレン10Lを、邪魔板及びパドル型攪拌翼を備えた50L槽型洗浄槽に仕込み、240rpmで10分間攪拌した後、1時間静置することで、ポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体(PC−PDMS)を含む有機相と過剰のビスフェノールA及び水酸化ナトリウムを含む水相に分離させ、有機相を単離した。
(アルカリ洗浄、酸洗浄、水洗浄(工程(C)))
こうして得られたポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体(PC−PDMS)の塩化メチレン溶液を、該溶液に対して順次、15容積%の0.03mol/L水酸化ナトリウム水溶液、0.2mol/L塩酸で順次洗浄した。次いで純水で洗浄を繰り返し、洗浄後の水相中の電気伝導度が0.1mS/m以下になるようにした。
(濃縮工程(工程(D))、乾燥工程、造粒工程)
こうして得られたPC−PDMSの塩化メチレン溶液を濃縮した[濃縮工程]後、粉砕し、減圧下に120℃で乾燥した[乾燥工程]。得られたフレークを押出機にフィードし、ペレット化した。このとき、設定温度はスクリュー入口部より4分割されており、それぞれ260℃、270℃、275℃、275℃、そしてダイヘッドを270℃に設定した[造粒工程]。
【0048】
(塩化メチレンの回収及び蒸留精製(工程(E)))
一方、前記濃縮工程及び乾燥工程において分離した塩化メチレンを4.5m
3の貯槽(MC貯槽)に回収した。MC貯槽内の塩化メチレン中のPC−PDMS濃度は195質量ppmであった。
次いで、MC貯槽に回収した塩化メチレンを、40段を有する蒸留塔の20段目に、52L/hrで導入し、塔頂温度40℃、塔底温度50℃、塔頂還流比2.0で蒸留精製を行った。塔頂から塩化メチレンが回収率99.5%にて蒸留精製された。
この精製された塩化メチレンを、合成例1で使用する管型反応器へ及び工程(A)−工程(a−2)での反応溶媒として導入し、再利用するという連続運転を行った。連続運転中、蒸留塔の塔底液中のPC−PDMS濃度を定期的に測定し、1〜3質量%の範囲内となるように塔底液の一部を抜き出して、替わりに蒸留精製後の塩化メチレンをフィードする操作を行った。蒸留塔の塔底液中のPC−PDMS濃度は、平均して2質量%前後であった。
720時間連続運転後におけるMC貯槽での塩化メチレン中の四塩化炭素濃度、及び得られたPC−PDMSペレット中の四塩化炭素濃度を測定した。
結果を表1に示す。
【0049】
<実施例2>
実施例1において、連続運転中、蒸留塔の塔底液中のPC−PDMS濃度を定期的に測定し、3〜5質量%の範囲内となるように塔底液の一部を抜き出して、替わりに蒸留精製後の塩化メチレンをフィードする操作を行ったこと以外は同様に操作を行なった。蒸留塔の塔底液中のPC−PDMS濃度は平均して4質量%前後であった。
結果を表1に示す。
【0050】
<実施例3>
実施例2において、工程(A)−工程(a−2)の反応器[1.Rx−1]を出た予備重合液を熱交換器で17〜20℃まで冷却した後、反応器[2.Rx−2]の直前で加えるp−t−ブチルフェノール(PTBP)の8質量%塩化メチレン溶液[13.PTBP/MC]の供給量を1.8kg/hrに変更したこと以外は同様に操作を行なった。蒸留塔の塔底液中のPC−PDMS濃度は平均して4質量%前後であった。
結果を表1に示す。
【0051】
<比較例1> 塩化メチレンを蒸留精製せずに再利用した場合
実施例1において、回収した塩化メチレンを蒸留精製せずに合成例1で使用する管型反応器へ及び工程(A)−工程(a−2)での反応溶媒として導入し、再利用するという連続運転を行った。200時間連続運転後におけるMC貯槽での塩化メチレン中の四塩化炭素濃度、及び得られたPC−PDMSペレット中の四塩化炭素濃度を測定した。
結果を表1に示す。
【0052】
<比較例2> 塔底液中のPC−PDMS濃度を制御しない場合
実施例1において、蒸留塔の塔底液中のPC−PDMS濃度を制御しないこと以外は同様に操作を行なった。200時間連続運転後、蒸留塔底部での伝熱不良により温度制御が困難となったため、蒸留搭の運転を停止し、回収した塩化メチレンを蒸留精製せずに合成例1で使用する管型反応器へ及び工程(A)−工程(a−2)での反応溶媒として導入し、再利用するという連続運転を行った。
合計720時間連続運転後におけるMC貯槽での塩化メチレン中の四塩化炭素濃度、及び得られたPC−PDMSペレット中の四塩化炭素濃度を測定した。
結果を表1に示す。
【0053】
<参考例1> 通常のポリカーボネート系樹脂の連続的な製造の場合
実施例1において、「工程(A)−工程(a−2)」にてアリルフェノール末端変性ポリジメチルシロキサンの20質量%塩化メチレン溶液を使用せず、かつ連続運転中、蒸留塔の塔底液中のPCの濃度を制御しなかったこと以外は同様にしてポリカーボネートの連続的な製造を行った。720時間連続運転を行っても、蒸留塔には何のトラブルも発生しなかった。
720時間連続運転後におけるMC貯槽での塩化メチレン中の四塩化炭素濃度、及び得られたポリカーボネートペレット中の四塩化炭素濃度を測定した。
結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
比較例1のように、回収した塩化メチレンを蒸留精製せずに再利用すると、塩化メチレン貯槽(MC貯槽)内の塩化メチレン中の四塩化炭素濃度が高まり、同時にPC−PDMSペレット中の四塩化炭素濃度も4質量ppm以上となった。
また、比較例2のように、蒸留塔の塔底液中のPC−PDMS濃度を制御しなかった場合には、200時間連続運転後、蒸留塔底部での伝熱不良により温度制御が困難となり、連続運転不能となり、蒸留塔の運転を中止せざるを得なかった。また、塩化メチレン貯槽内の四塩化炭素濃度も高まっており、得られたPC−PDMS中の四塩化炭素濃度も高まっていることが分かった。
それらに比べ、実施例1〜3では、長時間の運転にも関わらず、PC−PDMSペレット中の四塩化炭素濃度を1質量ppm未満に維持することができており、工業的に安定して良質のPC−PDMSを製造することができる方法であることがわかる。
なお、参考例1の結果が示すように、通常のポリカーボネートの製造の場合には、PC−PDMSの製造の場合のように、蒸留塔の塔底液中のポリマー濃度による影響は無く、蒸留塔の塔底液中のPC濃度が16質量%となっていても蒸留塔底部の伝熱不良は発生せず、連続運転が可能であった。