特許第6378924号(P6378924)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378924
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】核酸分析装置および核酸分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/00 20060101AFI20180813BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   G01N27/00 Z
   C12M1/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-88701(P2014-88701)
(22)【出願日】2014年4月23日
(65)【公開番号】特開2015-206737(P2015-206737A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2017年3月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100091720
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 重美
(72)【発明者】
【氏名】前田 耕史
(72)【発明者】
【氏名】大浦 剛
(72)【発明者】
【氏名】入江 隆史
(72)【発明者】
【氏名】田村 輝美
(72)【発明者】
【氏名】石沢 雅人
【審査官】 小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/164270(WO,A1)
【文献】 特開2013−036865(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0264206(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0037410(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
G01N 27/00−27/10
27/14−27/24
33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸試料を温調する温調部と、ナノメートルサイズの細孔を有する基板と1対の電極を有し、電気泳動により細孔を通過した核酸試料を検出するナノポア検出部と、温調部からナノポア検出部へ核酸試料を搬送する搬送部とを有し、
温調部により増幅した核酸試料が細孔を通過した回数をカウントし、核酸試料の濃度を測定する核酸分析装置において、
ナノポア検出部は、チャンバと、前記基板上の一方の領域側に設けられた区画形成部材と、を備え、
前記1対の電極は、チャンバ内に前記基板により仕切られた一方の領域に設けられた第1の電極と他方の領域に設けられた第2の電極から成り、前記区画形成部材上には第3の電極が備えられており、
前記基板には前記細孔が設けられており、前記区画形成部材は前記細孔を囲って設けられており、前記チャンバ内の領域に電圧を印加することによって、前記細孔に核酸試料を通過させて核酸試料の分析を行う、ナノポア検出部とを有し
前記区画形成部材は、細孔の上部にチャンバ内の領域よりも小さい区画を形成し、
第1の電極の電位は、第2の電極の電位より低くかつ第3の電極の電位より高くなるように、第1、第2及び第3の電極に電圧を印加することにより、前記小さい区画に存在する負に帯電した核酸試料を前記細孔に通過させることを特徴とする核酸分析装置。
【請求項2】
請求項1の核酸分析装置において、
所定の時間内に核酸試料が細孔を通過しない場合、第3の電極の電圧をオフにし、
細孔の上部のチャンバ内に存在する負に帯電した核酸試料を前記細孔に通過させることを特徴とする核酸分析装置。
【請求項3】
核酸試料を温調する温調部と、ナノメートルサイズの細孔を有する基板と1対の電極を有し、電気泳動により細孔を通過した核酸試料を検出するナノポア検出部と、温調部からナノポア検出部へ核酸試料を搬送する搬送部とを有し、
温調部により増幅した核酸試料が細孔を通過した回数をカウントし、核酸試料の濃度を測定し、
ナノポア検出部は、チャンバと、前記基板上の一方の領域側に設けられた区画形成部材と、区画形成部材上に当該区画形成部材よりも大きな区画を形成する別の区画形成部材とを備え、
前記1対の電極は、チャンバ内に前記基板により仕切られた一方の領域に設けられた第1の電極と他方の領域に設けられた第2の電極から成り、前記区画形成部材上には第3の電極が備えられており、別の区画形成部材上に第4の電極が備えられており、
前記基板には前記細孔が設けられており、前記区画形成部材は前記細孔を囲って設けられており、前記チャンバ内の領域に電圧を印加することによって、前記細孔に核酸試料を通過させて核酸試料の分析を行う、ナノポア検出部とを有し、
前記区画形成部材は、細孔の上部にチャンバ内の領域よりも小さい区画を形成し、
第4の電極の電位は、第2の電極の電位より低くかつ第3の電極の電位より高くなるように、第4、第2及び第3の電極に電圧を印加することにより、前記小さい区画に存在する負に帯電した核酸試料を前記細孔に通過させることを特徴とする核酸分析装置。
【請求項4】
請求項3の核酸分析装置において、
所定の時間内に核酸試料が細孔を通過しない場合、第3の電極の電圧をオフにし、
第1の電極の電位は、第2の電極の電位より低くかつ第4の電極の電位より高くなるように、第1、第2及び第4の電極に電圧を印加することにより、前記小さい区画よりも大きな前記別の区画部材により形成された区画に存在する負に帯電した核酸試料を前記細孔に通過させることを特徴とする。
【請求項5】
請求項4の核酸分析装置において、
さらに、所定の時間内に核酸試料が細孔を通過しない場合、第4の電極の電圧をオフにし、
細孔の上部のチャンバ内に存在する負に帯電した核酸試料を前記細孔に通過させることを特徴とする核酸分析装置。
【請求項6】
核酸試料を温調する温調部と、ナノメートルサイズの細孔を有する基板と1対の電極を有し、電気泳動により細孔を通過した核酸試料を検出するナノポア検出部と、温調部からナノポア検出部へ核酸試料を搬送する搬送部とを有し、
温調部により増幅した核酸試料が細孔を通過した回数をカウントし、核酸試料の濃度を測定する核酸分析装置を用いた核酸分析方法において、
ナノポア検出部は、チャンバと、前記基板上の一方の領域側に設けられた区画形成部材と、を備え、
前記1対の電極は、チャンバ内に前記基板により仕切られた一方の領域に設けられた第1の電極と他方の領域に設けられた第2の電極から成り、前記区画形成部材上には第3の電極が備えられており、
前記基板には前記細孔が設けられており、前記区画形成部材は前記細孔を囲って設けられており、前記チャンバ内の領域に電圧を印加することによって、前記細孔に核酸試料を通過させて核酸試料の分析を行う、ナノポア検出部とを有し、
前記区画形成部材は、細孔の上部にチャンバ内の領域よりも小さい区画を形成し、
第1の電極の電位は、第2の電極の電位より低くかつ第3の電極の電位より高くなるように、第1、第2及び第3の電極に電圧を印加することにより、前記小さい区画に存在する負に帯電した核酸試料を前記細孔に通過させることを特徴とする核酸分析方法。
【請求項7】
請求項6の核酸分析方法において、
所定の時間内に核酸試料が細孔を通過しない場合、第3の電極の電圧をオフにし、
細孔の上部のチャンバ内に存在する負に帯電した核酸試料を前記細孔に通過させることを特徴とする核酸分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体関連物質を分析する分析装置に関し、例えば、核酸を分析する分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液や尿等の分析方法として、核酸増幅法が用いられてきた。核酸増幅検査装置としては、回転可能なカローセルと、このカローセルの周方向に沿って搭載される複数の反応容器と、この反応容器に励起光を照射する光源と、この励起光によって前記反応容器内の反応液が発する蛍光を検出する検出器と、前記反応容器内の反応液の温度を所定の温度に設定する温度調節機構と、を有するものが知られている(特許文献1参照)。この検査装置を使用して、例えばPCR(Polymerase Chain Reaction)法に準拠した遺伝子検査が行われる場合には、前記した熱源等によってケーシング内の温度が調節され、カローセルに配置された反応容器内の反応液は、複数の温度間(例えば、95℃と59℃)でPCR処理が繰り返され、前記した検出器によって蛍光検出を行っている。
【0003】
一方で、ナノポアと呼ばれる、ナノメートルサイズの細孔を用いて、DNAや蛋白質などの高分子ポリマーを分析するナノポア式分析方法の開発が進められている(特許文献2)。ナノポア式の分析で高分子を検出する技術には、封鎖電流方式,トンネル電流方式,キャパシタンス方式がある。
【0004】
封鎖電流方式とは、高分子がナノポアの開口部を部分的に封鎖することによる影響を検出する方式である。具体的な構造としては、ナノポアを有する膜によって空間を2つに分離し、それぞれの空間にイオンを含む液体を充填し、且つ、電極を配置する。電極に一定の電圧を印加すると、イオンがナノポアを通って移動し、イオン通過電流と呼ばれる電流が流れる。帯電した高分子が存在する場合、その高分子も電位差により、片側へ引き寄せられ、ナノポアを通る。その際、ナノポアの開口部が部分的に封鎖されるので、イオンが流れ難くなりイオン通過電流の大きさが低下する。この電流値低下を検出することにより、高分子の存在や成分を分析する方法である。イオンの流れにくさは、開口面積に加え、高分子の荷電状態やナノポア壁面との相互作用からの影響を受ける。
【0005】
トンネル電流方式とは、高分子がナノポアを通過する際、ナノポア近辺に設けられたトンネル電流用電極と高分子とのわずかな隙間にトンネル電流が流れ、それを検出することで、高分子の存在や成分を分析する方法である。
【0006】
キャパシタンス方式とは、高分子がナノポアを通過する際、ナノポアが部分的に封鎖されるため、ナノポアを有する膜のキャパシタが変化し、それを検出することで、高分子の存在や成分を分析する方法である。
【0007】
移動制御技術には、電位差移動方式,酵素移動方式,力学的移動方式がある。
【0008】
電位差移動方式とは、上記、封鎖電流方式で出てきたように、ナノポアを有する膜によって分離された2つの空間に電極を配置し、電極に電圧を印加することで、帯電した高分子を電場の勾配にしたがって移動させる方法であり、利点として、単純な構造で実現可能である、高分子に余分な付加がかからないなどが挙げられる。
電位差を生み出す電極は、ナノポア式分析装置の必須構成要素である。
【0009】
従来のナノポア式分析装置には、ナノポアを有する膜を隔てて2つの空間がある。各空間には、試料や電気伝導の担体となるイオンを含んだ溶液を導入するための流入路と流出路が必要である。また、各空間には、試料やイオンを移動させる電位差を生み出すための電極が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−151665号公報
【特許文献2】特表2011−527191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来は検体中に含まれる核酸を塩基配列特異的に増幅することで微量の核酸を高感度に検出するためには、核酸標識に蛍光色素を使用し、蛍光強度変化を経時的に追跡することで解析を行っているため、蛍光を検出できるまで核酸増幅を行い、かつ、蛍光強度変化を経時変化している蛍光強度変化を追跡する必要があったため、核酸増幅に1〜2時間要し、スループットが非常に悪かった。
【0012】
一方で、ナノポア式分析において核酸の濃度を計測するためには、電流遮断の持続時間および程度によって計測していた。しかし、細孔への核酸の通過は規則性がなく、一定時間における電流遮断の持続時間及び程度を計測したとしても、それが必ずしも正確に核酸濃度の情報を反映しているとは限らない。
【0013】
そのため、増幅した核酸試料のほぼ全てを細孔に通過させて、核酸濃度を把握する必要がある。しかしながら、従来のナノポア検出機構をそのまま用いると、仮に増幅した核酸試料の濃度が高すぎる場合には、細孔への通過が長時間に及ぶ。
【0014】
本発明の目的は、PCR法による核酸増幅時間を最小限にし、増幅された核酸をナノポア式分析方法によって、高感度に検出する核査分析装置および核酸分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の核酸分析装置は、
核酸試料を温調する温調部と、ナノメートルサイズの細孔と1対の電極を有し、電気泳動により細孔を通過した核酸試料を検出するナノポア検出部と、温調部からナノポア検出部へ核酸試料を搬送する搬送部とを有し、
温調部により増幅した核酸試料が細孔を通過した回数をカウントし、核酸試料の濃度を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、従来の蛍光による検出方法よりも高スループットを図り、高い検体処理効率を得ることができる。また、ナノポア分析方法としても、従来よりも高感度に分析することができ、DNA濃度を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の核酸分析装置の概要を示す図である。
図2】検体試料導入時に実行される検査処理を説明する図。
図3】核酸検査装置のナノポア分析機構の構成例1を説明する図。
図4】構成例1において、ナノポア分析機構の検出処理を説明する図。
図5】核酸検査装置のナノポア分析機構の構成例2を説明する図。
図6】構成例2において、ナノポア分析機構の検出処理を説明する図。
図7a】ナノポア分析機構によってプライマーを有さないDNA試料の測定概念図
図7b】ナノポア分析機構によってプライマーを有するDNA試料の測定概念図
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に本実施例の核酸分析装置の概要を示す。本実施例の核酸分析装置は抽出部1、調製部2、測定部3の大きく3つの構成から成り立っている。これら3つの構成は搬送機構4によってつながっている。図2に検体試料導入時に実行される検査処理を説明する図を示す。
【0019】
抽出部1は検体試料を検体試料導入部5から導入でき、検体試料を溶解して検体試料中の核酸を抽出可能であればいかなる構成でもよい。検体試料とは、例えば血清、血漿、尿、糞便、喀痰等の核酸抽出前である。検体試料導入部5は、例えば検体試料を封入した容器(例えば採血管)を架設及び導入できる機構である。核酸抽出機構141において、例えば核酸結合担体をフィルタ状に詰めたカラムに溶解した検体試料を通液し、核酸を抽出する(S1)。通液方式には、遠心機を用いる方式、シリンジで加圧する方式がある。核酸結合担体には、シリカをコーティングした磁性粒子と当該磁性粒子を磁石で集磁する方式等がある。抽出部1おいて検体試料から核酸が抽出された核酸試料は、搬送機構4によって調製部2に搬送される。
【0020】
調製部2に核酸試料が導入される経路には2種類あり、抽出部1から搬送機構4によって導入される経路と、核酸試料導入部6より導入され経路がある。調製部2における反応液調製は、測定部3での核酸増幅方法によって調製方法は異なる。核酸増幅方法は、PCR法(Polymerase Chain Reaction)、TMA法(Transcription Mediated Amplification)、NASBA法(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)、LCR法(Ligase Chain Reaction)などを含み、核酸増幅方法の違いが本明細書で提案する発明を限定するものではない。本実施例では、測定部3での核酸増幅方法は、PCR法を例にして説明する。反応液調製機構15は、PCR反応液を調製する(S2)。調製した反応液は、搬送機構4によって測定部3に搬送される。反応液調製機構15は、図示しない、反応容器調製機構および消耗品架設機構を備えている。
【0021】
測定部3は、主に、増幅機構7とナノポア検出機構8から成り立っている。増幅機構7は、核酸増幅を行う(S4)。当該核酸増幅がPCRの場合、そのPCRサイクル数は1コピーの核酸分子が検出可能なサイクル数で良い。より具体的には、1コピーを増幅後に後述するナノポア検出機構内の複数に区分けされた最大のチャンバに統計学的に有意な数が存在するようにサイクルすればよく、例えば、統計学的に有意な数をXコピーと設定し、PCRの増幅効率を100%とした場合、その必要なサイクル数nは以下の式で表される。
(PCR増幅液量/最大チャンバ内の増幅液量)×X = 2n
本式によれば、PCR増幅液量50uL、最大チャンバ内の増幅液量5uLで、Xを30コピーと設定した場合は、n=8.23であり10サイクル以下のサイクル数で増幅液中の1コピーが定量的に検出可能となる。また、1コピーを定性的に検出できれば良い場合はXはポワソン分布から5コピーと設定でき、この場合はn=5.645で検出可能である。これにより、従来40サイクル以上を必要としていたリアルタイムPCR測定と比較して測定時間を短縮できる。更にサイクル数を最小限に抑えることで、過剰な増幅を抑えて後述するナノポア検出時間を短縮できる。
【0022】
PCR増幅された増幅液はナノポア検出機構8に運ばれ(S4)、ナノポア検出機構8は増幅された核酸の検出を行う(S5)。また、ナノポア検出機構は図示しない増幅液から核酸試料を精製する精製流路を具備する構成でもよい。その後、図示しない表示部において、測定の結果を表示する(S6)。
【0023】
なお、抽出部1は、分注アーム9と分注ユニット11を備えている。また、調製部2は、分注アーム10と分注ユニット12を備えている。分注ユニット11は分注アーム9に沿って、分注ユニット12は分注アーム10に沿って移動する。また、分注アーム9および分注アーム10は、分注アーム搬送機構13に沿って移動する。
【0024】
測定部3のナノポア検出機構8は、PCR増幅された溶液中のDNA濃度を検出する。
【0025】
特許文献2においては、「電流の変動が発生する頻度によって、細孔内で結合するヌクレオチドの濃度が判明する。ヌクレオチドの本性は、その特徴的な電流シグネチャ、特に電流遮断の持続時間および程度によって判明する」との記載がある。しかし、本発明者らの鋭意検討の結果、核酸試料の細孔への通過は、ランダムであることが分かった。通過がランダムだとすると、たとえある一定時間における単位時間当たりの電流遮断の持続時間及び程度を計測したとしても、それが必ずしも正確に核酸濃度の情報を反映しているとは限らない。
【0026】
そのため、増幅した核酸試料のほぼ全てを細孔に通過させて、核酸濃度を把握する必要がある。しかしながら、従来のナノポア検出機構をそのまま用いると、仮に増幅した核酸試料の濃度が高すぎる場合には、細孔への通過が長時間に及ぶため、ナノポア技術での検出を用いたとしても検査速度迅速化が図れない。
【0027】
そこで、本実施例は、細孔の上部にチャンバ内の空間よりもさらに小さい区画を作成し、その区画の近傍にさらに電極を設ける構成である。この構成により、仮に増幅した核酸試料の濃度が高すぎる場合であっても、その区画の大きさが元々のチャンバよりも小さいため、元々のチャンバに存在する増幅した核酸試料のほぼ全てを細孔に通過させる時間に比べて、新たに設けた区画に存在する増幅した核酸試料のほぼ全てを細孔に通過させる時間は短い。新たに設けた区画に存在する増幅した核酸試料が細孔を通過する総通過回数から核酸濃度を推定する。
【0028】
一方、増幅した核酸試料の濃度が低すぎる場合には、新たに設けた区画で検出したときには、核酸試料がその区画に存在しない場合か、または、その区画に存在する核酸試料の数が極端に少ない場合に、核酸試料が一つも通過しない可能性がある。これらの場合は、元々の大きい方のチャンバを使うことにより、核酸濃度を推定することができる。
【0029】
以下、具体的な核酸分析装置のナノポア分析機構実施形態について図を用いて説明する。
【0030】
図3にナノポア検出機構の一構成について示す。ナノポア検出機構は、基板210を隔てて第1のチャンバ204および第2のチャンバ205の領域に分かれている。基板210は、第2のチャンバ205側のベース202、膜203、および第1のチャンバ204側のコーティング層(不図示)により構成され、材質に関しては、ベース202はシリコン、膜203は窒化シリコン,酸化シリコン、あるいは、炭化シリコン,コーティング層は酸化シリコンからなる。
【0031】
膜203には、ナノメートルサイズの細孔201が設けられている。細孔201のサイズは、1nm〜100nmが望ましい。細孔201の作成方法は、Focused Ion Beamを用いた方法,電子線を用いた方法などにより実施される。膜203は酸化シリコンでもよい。コーティング層は、絶縁,強度増大,親水性付加の機能を有し、膜203自身で機能を代替することもできる。
【0032】
PCR増幅液が搬送される側を上流とした場合、第1のチャンバ204の上流側に第1の電極207および第2のチャンバ205の下流側に第2の電極206がそれぞれ配置される。第1のチャンバ204内に、小さい測定区画を細孔201の近傍に設ける。当該測定区画は、区画形成部材209により形成されている。この区画形成部材209の上に第3の電極208が裁置されており、この第3の電極208は、例えば、円筒形状の金属(金属パイプ)により構成されている。金属パイプは、一般的に電気化学の分野で用いられる銀/塩化銀で構成される。あるいは、ステンレス、白金、金、で構成されていても良い。金属パイプは、一部が直接的にイオン溶液と接し、通電していればよい。従って、パイプ内面は高分子ポリマーなどの有機物が吸着しないようにフッ化エチレンなどでコーティングされていることが望ましい。
【0033】
あるいは、半導体プロセスにより流路を作成し、絶縁層を挟んで、表面に導電性のコーティングを行い、電極を有する流路を形成できる。例えば、材質をシリコンとした場合、シリコンの異方性エッチング,ボッシュプロセスなどの半導体プロセスにより流路を形成する。次に、絶縁層として酸化シリコンを表面に蒸着し、最後に、金、白金、チタンなどを表面にコーティングすることで、電極を有する流路が形成される。
【0034】
電極と流路の一体化による利点は、配置スペースの削減が可能となる点、チャンバ外部との接続が集約できるため、密閉性を高めやすい点、が挙げられる。さらに、電極と流入口が同じ位置に配置できるので、ナノポアへ近づけることができ、試料が拡散する影響を防ぎ、高精度の分析が可能である。
【0035】
ナノポア検出機構では、PCR増幅液中の核酸が細孔を通る際の物理的変化を検出することで、核酸濃度を分析する。図4にナノポア検出機構のフローを示す。具体的なフローの説明として、PCR増幅液中の核酸がDNAの場合について説明する。流路もしくは分注によってPCR増幅液をナノポア検出機構に導入し、PCR増幅液の調整を行う(S1)。次に調整されたPCR増幅液をナノポア検出機構の第1のチャンバ204に導入する。次に電極206、207、208に電圧を印加する(S2)。
【0036】
このとき、第1のチャンバ204側の第1の電極207、第3の電極208はマイナスに、第2のチャンバ205側の第2の電極206はプラスとなるように電圧を印加する。第3の電極の電圧(V3)≦第1の電極の電圧(V1)<第2の電極の電圧(V2)とすることが好ましい。より好ましくは、V3<V1<V2とする。この電位差により、溶液中のイオンやPCR増幅液中のDNAは移動する。DNAはマイナスに帯電しているため、プラス側に引き寄せられる。そのため、電極208、207、206に印加する電圧をV3<V1<V2とすることで、測定区画に存在するDNAは、第2のチャンバ205側に存在する第2の電極206に引き寄せられ、細孔201を通過する。この際に、細孔201の開口部を塞ぎ、開口面積を減少させるので、液体中のその他のイオンが流れ難くなる。イオンの流れ難さは、電流値の減少として検出される(図7bご参照。なお、図7aは検出対象のDNAが通過していない時の電流波形である。)。そのため、電流値の減少回数から、DNAが細孔を通過した総通過回数がわかる。そのため、測定区画に存在するDNAの細孔201への通過を検出し、通過が確認された場合(S3)、検出ありと判断し、総通過回数からDNA濃度を推定する(S5)。また、DNA濃度が低く、測定区画にDNAがほとんど存在しない場合、つまり、所定の時間内にDNAの検出が確認できない場合、第3の電極208の電圧を切り、第1の電極207と第2の電極206間に電圧を印加する(S4)。これによって、第1のチャンバ204内のDNAは細孔201を通して第2のチャンバ205へ移動する。この時、同様に、チャンバ1に存在するDNAの細孔への通過が検出された場合(S6)、検出ありと判断し、細孔201への総通過回数からDNA濃度を推定する(S5)。また、検出されなかった場合(S7)は検出限界としてPCR増幅液の調整からやり直す(S1)。本構成によって、従来の蛍光検出方法よりも格段にスループットが上がる。また、常に第1のチャンバ204内のDNAすべてを細孔201に通過させる分析方法よりも、検出時間の短縮につながる。
【0037】
また、本実施形態のバリエーションとして、図5に示すように、複数の大きさの測定区画を段階的に設けてもよい。図6に示すナノポア検出機構は、第1のチャンバ304内に細孔301から遠ざかるにつれて徐々に大きくなる測定区画を備えている。第1のチャンバ304に第1の電極307、第2のチャンバ305に第2の電極306を備えており、基板314がベース302、膜303、およびコーティング膜によって構成されている点は、図3に示すナノポア検出機構と同一である。
【0038】
さらに、区画形成部材311、312、313を備え、それぞれに第3の電極308、第4の電極309、第5の電極310が配置されている。
【0039】
次のこのナノポア検出機構を用いた動作フローについて、図6を用いて説明する。流路もしくは分注によってPCR増幅液をナノポア検出機構に導入し、PCR増幅液の調整を行う(S1)。次に調整されたPCR増幅液をナノポア検出機構の第1のチャンバ304に導入する。次に、電極306,308,309に電圧を印加する。このとき、第1のチャンバ304側の第4の電極307、第3の電極308はマイナスに、第2のチャンバ305側の第2の電極306はプラスとなるように電圧を印加する。第3の電極の電圧(V3)≦第4の電極の電圧(V4)<第2の電極の電圧(V2)とすることが好ましい。より好ましくは、V3<V4<V2とする。
【0040】
この電位差により、溶液中のイオンやPCR増幅液中のDNAは移動する。DNAはマイナスに帯電しているため、プラス側に引き寄せられる。そのため、電極306,308,309に印加する電圧をV3<V4<V2とすることで、区画形成部材311にて形成される測定区画に存在するDNAは、第2のチャンバ305側に存在する第2の電極306に引き寄せられ、細孔301を通過する。この際に、細孔301の開口部を塞ぎ、開口面積を減少させるので、液体中のその他のイオンが流れ難くなる。イオンの流れ難さは、電流値の減少として検出される。そのため、電流値の減少回数から、DNAが細孔を通過した総通過回数がわかる。そのため、測定区画に存在するDNAの細孔301への通過を検出し、通過が確認された場合(S3)、検出ありと判断し、総通過回数からDNA濃度を推定する(S5)。
【0041】
また、DNA濃度が低く、区画形成部材311にて形成される測定区画にDNAがほとんど存在しない場合、第3の電極308をオフにし、代わりに第5の電極310をオンにする(S4)。この時、第4の電極309の電圧(V4)≦第5の電極301の電圧(V5)<第2の電極306の電圧(V2)とする。より好ましくは、V4<V5<V2とする。これによって、区画形成部材312にて形成される測定区画から細孔301を通過するDNAを検出する(S6)。また、DNA濃度が低く、区画形成部材312にて形成される測定区画にDNAがほとんど存在しない場合、第4の電極308をオフにし、代わりに第1の電極307をオンにする(S7)。この時、第5の電極310の電圧(V5)≦第1の電極307の電圧(V1)<第2の電極306の電圧(V2)とする。より好ましくは、V5<V1<V2とする。これによって、区画形成部材313にて形成される測定区画から細孔301を通過するDNAを検出する(S8)。
【0042】
さらに、DNA濃度が低く、区画形成部材313にて形成される測定区画にDNAがほとんど存在しない場合、第5の電極310をオフにする(S9)。これにより、DNAの細孔301への通過を検出する(S10)。これでも検出されなかった場合(S11)は検出限界としてPCR増幅液の調整からやり直す(S1)。
【0043】
本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲にて様々な変更が可能であることは当業者に容易に理解されよう。
【符号の説明】
【0044】
201 細孔
202 ベース
203 膜
204 第1のチャンバ
205 第2のチャンバ
206 第2の電極
207 第1の電極
208 第3の電極
209 区画形成部材
210 基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b