【実施例1】
【0020】
本発明の第1の実施例に係る走査型電子顕微鏡の概略全体構成のブロック図を
図3に示す。電子銃301から引き出された1次電子線は、コンデンサーレンズ302および偏向器303を通過し対物レンズ304にてウエハ305上に細く絞られる。ウエハ上の微小領域で試料に当たり二次電子307や反射電子を発生させる。表面形状を観察する場合は主に二次電子信号が用いられ、この二次電子信号は検出器308にて検出される。電子線は偏向器303で試料上を二次元的に走査され、試料の表面形状に対応した画像が形成される。コンデンサーレンズ302、対物レンズ304、偏向器303、検出器308などは制御部309にて制御される。
【0021】
得られた画像は画像処理部310にて必要なノイズ除去処理等を実施し、続いて信号波形解析・演算部311にてエッジ点抽出等を行い必要な計測を実施する。その結果は記録装置313に記録され、また出力・ディスプレイ314にて表示される。
【0022】
計測シーケンスを規定する計測レシピを作成するには、ウエハ上座標、計測パターンの形状や種類、電子線走査領域、走査方向、走査順序、計測に用いるアルゴリズムなどのパラメータを設定する必要がある。これらは例えば計測レシピ作成GUIに入力するように、マニュアルで設定も可能だが、外部からの計測位置情報315やパターン設計情報316を参照することで自動化も可能である。計測レシピ作成GUI312では、このように上記アルゴリズムなどのパラメータを設定する条件設定部を兼ねている。
【0023】
次に、
図4(a)および
図4(b)は本実施形態に係る重ね合わせずれ計測を実施する基板構造を示すものである。Si基板46上に成膜されたSiO膜45、およびその上に成膜され第一のパターンが加工されたSiN膜41がある。なお、ここで示した基板構造はあくまで一例であって同様の課題を有する構造に適用な可能なことはいうまでもない。そして、
図4(a)および
図4(b)ともに、第一のパターン11は第二のパターン12より前の工程にて形成され、その後に第二のパターン12を形成するリソグラフィ工程での断面図である。リソグラフィ工程では、下地を平坦化し下層パターンエッチングマスクを兼ねるSpin on Carbon膜43を塗布し、その後Si含有反射防止膜(SiARC)42を塗布、最後にレジスト41を塗布し、その後第二のパターンを露光、現像する。例えば22nmノードプロセス以降で適用されているダブルパターニングプロセスでは、
図4(b)に示したように第二のパターン12の間に第一のパターン11を形成することで、第一と第二のパターンで形成されるパターンのピッチを微細化することができる。この時、第一のパターンと第二のパターンの間の重ね合わせずれに対する要求値は非常に厳しくなるため、重ね合わせずれを精度よく計測し管理する必要がある。
図4(a)(b)中に示した信号波形は、電子線の加速電圧を4kV、プローブ電流を40pAとした場合に得られた波形である。
【0024】
第二のパターン12は基板表面に存在するレジストパターン41であり、従来寸法計測と同様に形状コントラストによる信号が検出される。この場合は、例えば閾値法等によりパターンエッジを決定し、パターンエッジで決められるエッジ位置の重心点としてパターン位置を定義できる。また、他のアルゴリズムによりパターン位置を定義してもいい。さらに、二次元複雑形状の場合には、例えば、二次元レジスト形状の輪郭線を抽出し、抽出された輪郭線で定義される図形の重心位置で定義することも可能である。次に、下層の第一のパターン11の位置は、帯電コントラストを利用することで
図4に示した電位コントラストの信号から決定できる。第二のパターン12と同様にパターンエッジを定義してもよいが、他にも信号全体を基準波形にフィッティングさせたり、第二パターンの信号部分の対称中心を探索したりする方法も第二のパターン位置計測に適用可能である。第一のパターン11および第二のパターン12に対して、上記のようにパターン位置を定義し、それらの相対位置を計算できる。
【0025】
次に計測された相対位置から重ね合わせずれを算出する方法を説明する。
図4(a)の構造では、第一のパターン11と第二のパターン12の間の相対位置を計測し、その基準値あるいは設計値からのずれ量を求めることで重ね合わせずれを計測できる。また、
図4(b)の構造では、同じく第一のパターン11と第二のパターン12の間の相対位置を計測するが、この場合は基準値とのずれ量を求めるのではなく、第一のパターン11とその左右にある第二のパターン12との間の距離は設計上等しいため、それらの距離の差の1/2から重ね合わせずれを計測することができる。
【0026】
重ね合わせずれ計測に用いるパターンのレイアウトについて、1方向計測の場合の例を
図5に示す。第一のパターン11と第二のパターン12は、交互に配置されてもいいが、下層の第一のパターンからの信号のS/Nが小さいので、
図5(b)のように第一のパターンを多く配置してもよい。また、
図5(c)や(d)のように第一のパターン11と第二のパターン12を電子線走査領域の中で領域を分けて配置してもよい。このようにすることで、第二のパターンが例えばレジストなどの絶縁体の場合に顕著に生じる帯電の影響により第一のパターン11の信号が非対称になることを防止することができる。
図5(d)の配置にすることで、取得するCD−SEMに回転誤差が発生している場合にもその誤差の影響を受けずに、第一のパターン11と第二のパターン12の間の相対位置を精度よく計測できる。これらのパターンでは、第一のパターンおよび第二のパターンの重心位置を
図4で説明したようにそれぞれ求め、得られた座標を第一のパターンあるいは第二のパターン全体で平均して、第一のパターンおよび第二のパターン全体の重心位置を求めることができる。それらの重心位置の差から相対位置を求めることができる。
図4で説明したように、例えば得られた相対位置の基準値からのずれ量を求めて重ね合わせずれ量を算出できる。あるいは、
図4(a)および
図4(b)で第一のパターンとその左右にある第二のパターンとの間の距離は設計上等しいため、それらの距離の差の1/2から重ね合わせずれを計測できたことと同様に、対称な計測パターンでは第一のパターンと第二のパターンの重心位置が一致するため、それら重心位置のずれ量から重ね合わせずれ量を算出してもよい。
【0027】
次に、X、Y両方向の同時計測用パターンの例を
図6(a)および
図6(b)に示す。
図6に示したように、計測パターンを点対称にレイアウトすることでCD−SEM画像の回転誤差や倍率誤差の影響を受けずに第一のパターン11と第二のパターン12の間の相対位置を高精度に計測できる。また、1方向計測用パターンと同様に、第一のパターンと第二のパターンは交互に配置されてもいいが、下層の第一のパターンからの信号のS/Nが小さいので、第一のパターンを多く配置してもよい。さらに、1方向計測用パターンと同様に、第一のパターンと第二のパターンを電子線走査領域の中で領域を分けて配置することで、第二のパターンが例えばレジストなどの絶縁体の場合に顕著に生じる帯電の影響により第一のパターンの信号が非対称になることを防止することができる。
【0028】
以上、
図5、
図6を用いて重ね合わせずれ計測パターンの例を示したが、半導体回路パターンを用いて計測してもよい。
【0029】
次に、本実施例に係る電子線を走査する走査方法について、
図7(a)(b)に示す。既に述べたように、電子線の走査方法や走査順序に起因して帯電量の非対称性が発生するが、その結果重ね合わせ計測オフセットが生じる。この計測オフセットを低減するために、
図7(a)(b)中に示した点対称中心71に関して、電子線の走査方向13および走査順序14が対称となるように電子線を走査する。
図7(a)では第二のパターン12がウエハ表面にある場合にも、X軸と並行なパターンエッジからの信号のコントラストが低下しないように、電子線の走査方向をX軸に対して意図的に角度をつけてある。また、
図7(a)は、特許文献1に記載されているような走査方向を交互に入れ替えて波形の非対称性を相殺する走査方式ではない。すなわち、走査領域の上側や下側では波形の非対称性のため計測オフセットが発生するが、走査方向と順序を対称に走査することで、上側と下側の計測オフセットが対称になり、上側と下側で計測される重ね合わせずれ量の平均をとることで計測オフセットが相殺され計測誤差とならない。次に、
図7(b)では、走査方向13が交互に入れ替わっているが、特許文献1では記述のない走査順に関して、点対称中心に対して対称に走査している。この場合も走査領域の上側と下側でそれぞれ計測オフセットが発生するが、それらは最終的に相殺することができる。これを詳しく見るために、走査領域内の計測オフセットの分布の例を
図9(a)に示した。走査領域内に、点対称中心71に関して対称に4つの計測領域A、B、CおよびDを定義すると、本走査方式を適用することで、領域A内と領域C内では点対称中心に対して対称な走査方式となっている。また同様に、領域B内と領域D内では点対称中心に対して対称な走査方式となっている。それぞれの領域内で第一のパターンと第二のパターンの相対位置を計測する際に生じる計測オフセット91について調べると、
図9(a)に示したように対称な計測領域では対称な計測オフセットとなる。よって、計測領域A〜Dにて計測した相対位置の相加平均にて求めた相対位置においては、計測オフセットはキャンセルされ、計測オフセットのない高精度な相対位置計測結果が得られる。この走査方法により、電子線の走査方向や走査順序に起因して発生する計測オフセットを低減することができた。この場合においては、0.5nm以下にすることができた。
【0030】
図10は、本実施例に係る電子線走査方法決定から重ね合わせ計測までのフローチャートである。まず、ウエハ上に形成された計測パターンあるいは実パターンから重ね合わせ計測用パターンおよび電子線走査領域を決定する(1001)。この際に、電子線走査方向と走査順を対称にするとともに、計測用パターンも対称性を有することで計測精度を向上できる。電子線走査領域内全体で計測パターンが対称でなくても、複数の計測領域内で対称性を有することで実効的に計測精度を向上可能である。次に、計測用パターンの対称性を考慮して走査領域内の点対称中心を決定し、同時に走査領域内に
図9(a)に示したような複数の計測領域を決定する(1002)。なお、走査領域内の複数の計測領域で第一のパターンと第二のパターン間の相対位置をそれぞれ求めてもよいが、複数の計測領域内全体で第一のパターン重心位置を求め、また同様に複数の計測領域内全体で第二のパターン重心位置を求め、それらより第一のパターンと第二のパターン間の相対位置を求めてもよい。続いて、電子線の走査方向および走査順序を、前記点対称中心に関して対称になるように決定する(1003)。その後、その他計測レシピ作成に必要なパラメータを通常のCD−SEMを用いたレシピ作成と同様に決定する(1004)。次に、レシピを実行しCD−SEM画像を取得する(1005)。取得した画像から前記複数の計測領域内にて第一および第二のパターン位置を計測する(1006)。それらの結果を用いて、複数の計測領域内で第一のパターンと第二のパターン間の相対位置を決定し、それを用いて重ね合わせずれ量を算出する(1007)。続いて、それら複数の計測領域内での重ね合わせずれ計測結果を用いて、最終的な重ね合わせずれ量を算出する(1008)。この時、走査方式の対称性から計測誤差となる計測オフセットを相殺できるので、計測精度を向上できる。最後に、この計測結果および複数の計測領域内での重ね合わせずれ計測結果から算出した計測オフセット量を装置のディスプレイ上に表示し(1009)、さらに、これらがあらかじめ規定された許容値を越えた場合には、ディスプレイ上に許容値外であるメッセージを表示し(1010、1011)、計測を終了する(1012)。
【0031】
対称中心や複数の計測領域、さらに走査方向や走査順序などを決定し入力するための設定入力箇所を、本計測装置のレシピ設定画面GUI上に作成することでレシピ作成の操作性を向上できる。この例を
図11に示す。対称中心指定(1102)、点対称や線対称の選択(1103)、電子線スキャン方向の指定(1104)、電子線スキャン順序の指定(1105)、また計測オフセットを算出する領域の指定(1106)などのメニューが準備されている。さらに計測オフセット値を出力したり、計測オフセット値の走査領域内分布を表示したりすることで、より容易に本方式の効果を確認できる。
【実施例4】
【0035】
図10のフローチャートによれば、計測パターンおよび走査領域を決定した後、走査領域内の対称軸あるいは点対称中心、および複数の計測領域を決定し、最後に走査方向および走査順序を決定する必要がある。ウエハ上のパターンを観察しながら、マニュアルでレシピを作成することも可能だが、設計データ等のパターンレイアウト情報を用いることでウエハ上パターンを観察することなく、これらのパラメータを決定することができる。設計データを用いてパターンの対称性を確認したり、また自動で抽出したりすることが可能となる。パターンの対称性から対称中心や対称軸を抽出し、それを用いて自動で走査方向や走査順序を決定可能である。
【0036】
図3中に示した計測位置情報315やパターン設計情報316は通常CD−SEMとは別の装置に含まれている。例えば、パターン設計情報は回路パターン設計レイアウトツール等に含まれている。簡易的な設計レイアウト閲覧や編集機能とCD−SEMでの計測に必要なパラメータを指定できる機能を有するプログラムをCD−SEMと接続することで、CD−SEMの計測レシピ作成に必要な情報を参照することが可能となる。このプログラムに、設計データを用いた対称中心の自動抽出機能や走査方向や走査順序を自動で決定する機能を組み込み、CD−SEMと接続させた計測システムとすることで、これらの自動化が可能となる。
【0037】
以上、本発明を実施例1では
図4のダブルパターニングの2回目リソグラフィ後での重ね合わせずれ計測を用いて説明したが、リソグラフィ後に限らずエッチング後でも適用可能である。また、ダブルパターニングによる同層内での重ね合わせずれ計測に限らず、例えばロジックデバイスのアクティブ層、ゲート層間およびコンタクト層の3つの異なる層間の重ね合わせずれ計測にも用いることができる。同様にメモリーデバイスでも異なる層間の重ね合わせずれ計測に適用できる。また、第二のパターンがレジストパターンのように表面に露出していてもよいが、エッチングしさらに膜付した後に表面に露出してない場合の計測にも適用可能である。その場合には、第二のパターンの重心位置計測は、形状コントラストではなく、第一のパターンと同様に帯電による電位コントラストを用いる必要がある。
【0038】
なお、本発明の説明では、第一のパターンの位置計測には電位コントラストを反映した二次電子を用いる例を示したが、例えば反射電子を用いて第一のパターンの位置を検出する場合にも有効である。高エネルギーの反射電子を検出する場合には、比較的基板表面の電位コントラストの影響は受けにくいが、高エネルギーの反射電子のみを選択して検出すると、信号量が減少してしまい信号のS/Nが悪くなってしまう。S/Nを改善するために、低エネルギーの反射電子をある割合で含めて検出する必要があり、この時、表面の電位コントラストの影響を受けるようになり、帯電の非対称性に起因した計測オフセットが発生してしまう。よって、反射電子を用いて下層パターンを検出する場合にも本計測方式は有効である。
【0039】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0040】
最後に、本発明は走査電子顕微鏡について述べたが、他の汎用的なSEMをだけでなく、様々な荷電粒子線装置に応用可能である。また、走査する電子線も例えばイオンビームのように、他の極性を持つ荷電粒子線として適用可能である。