【実施例1】
【0015】
実施例1として、少なくとも一つ以上の励起光の照射が同時に可能な照射光学系と、励起光照射によって照射位置から発生する信号の検出を行う検出器と、少なくとも一つのナノポアと基準対象が設置される基板と、ナノポアに位置する測定試料と基準対象に励起光を同時に照射し、基準対象から得られる検出信号により、測定試料に励起光が照射される位置を演算し、演算結果に基づき、測定試料に対する励起光照射を定位置に制御する位置制御部とを備える構成の定位置制御装置、及びその方法の実施例を説明する。
【0016】
本実施例では、ナノポアに測定試料としての生体ポリマーを進入させ、ラマンスペクトルを検出するナノポアラマンDNAシーケンサ装置の定位置制御装置を例示して以下の説明を行う。すなわち、内径約10nmのナノポアに生体ポリマーを進入させ、ナノポアに照射する励起光と、ナノポア近傍に存在する導電性薄膜によってナノポアを通過する生体ポリマーのラマン散乱光が増大した後、ラマンスペクトルを検出する装置100の実施例である。
【0017】
図1は、本実施例のナノポアラマンDNAシーケンサ装置の構成例を示す。ここでは、正立型顕微鏡を基本構成として、ラマン光の観察に適用した場合を一例として、装置の構成と動作を説明する。なお、この装置構成は正立型顕微鏡の基本構成に限定されるものではなく、例えば倒立型顕微鏡を基本構成とする場合等、照射光による試料の信号検出を可能とする構成で有れば良い。
【0018】
同図において、光源101は、蛍光もしくはラマン散乱光を発生させることができる波長の外部光を励起光として照射する。当技術分野で公知の光源101、例えば、半導体レーザ、クリプトン(Kr)イオンレーザ、ネオジム(Nd)レーザ、アルゴン(Ar)イオンレーザ、YAGレーザ、窒素レーザ、サファイアレーザなどを使用することができる。この光源101からの外部光を励起光として複数のナノポアに照射する場合、多重照射機構113を用いる。この多重照射機構113としては、限定されるものではないがマイクロレンズアレイ、回折格子型ビームスプリッターまたはLCOS(Liquid crystal on silicon)を用いることができる。本実施例の装置にあっては、後で説明するように、これらの構成を用いて、複数の外部光を励起光としてナノポア、及び基準対象に照射する。また、光源から外部光を顕微鏡観察容器に照射し収束させるために、光源と組み合わせて、共焦点レンズ及び対物レンズ102を使用することが好ましい。以上の光源101から対物レンズ102までの光学系を照射光学系と総称する。
【0019】
顕微鏡観察容器103は、XYステージ104上に架設し、位置決め手段であるXYステージ104によって水平面上の位置を調整することができる。垂直方向位置に関してはZ軸調整機構105により対物レンズ102で集光した領域に測定対象の試料が位置するように調整する。Z軸調整機構105は、XYステージ104に持たせてもよい。位置決め手段としてこれらのステージ以外に、θ軸ステージ、ゴニオステージを利用し精密に調整してもよい。これらの位置決め手段は、駆動制御部115によって制御され、駆動制御部115はコンピュータ116を使って使用者が操作可能である。
【0020】
また、同図に示すように、装置構成として測定波長領域などの測定目的に応じたノッチフィルタ、ショートパスフィルター、ロングパスフィルター等のフィルタ106、ビームスプリッター107、回折格子108、などを組みあわせてもよい。その他、光学部品配置の必要に応じてミラー112やピンホール、レンズ114、NIR(近赤外)ミラー117を使用してもよい。このような蛍光もしくはラマン散乱光の検出のため、適宜好ましい構成要素を選択することができる。
【0021】
一方、励起光照射によって照射位置から発生する信号の検出を行う検出器は、蛍光もしくはラマン散乱光を検出することができる検出器であれば任意の分光検出器を使用することができる。また、検出器109は、検出の高速化に伴う感度低下を防ぐために、光電子増倍機構、例えばイメージインテンシファイアを有することが好ましい。更に、検出器109は、ラマン散乱光等の画像情報を直接記録することができる大容量メモリを備えることが好ましく、それによりケーブル、ボード、コンピュータなどを介することなく、装置100内の解析装置118は、高速に解析を行うことができる。なお、解析装置118は、検出器109などからの計測値を記録するフレームバッファメモリを更に備えてもよい。また、解析装置118は、検出器109等からの計測値をデジタル化や演算処理、出力するためのコンピュータ116と接続する構成としても良い。
【0022】
更に、本実施例のナノポアラマンDNAシーケンサ装置100に、明視野観察が可能な機能を持たせてもよい。そのためには
図1に示すように、明視野の照射光源としてLED110、明視野撮像素子として2次元検出器111を使用する。使用する顕微鏡観察容器における試料の数及び配置に応じて、1又は複数の1次元又は2次元検出器111を使用することができる。そのような分光検出器としては、CCD(電荷結合素子)イメージセンサ、CMOS(相補型金属酸化膜半導体)イメージセンサ、他の高感度素子(アバランシェフォトダイオードなど)のイメージセンサなどが挙げられる。
【0023】
<観察容器の説明>
本実施例の装置100に用いる顕微鏡観察容器103は、
図2に一例の断面構成を示すように、その内部に少なくとも一つのナノポア203と後で説明する基準対象が設置された基板203が配置されている観察容器201からなる。観察容器201は、ナノポア202を有する基板203を隔てて2つの閉じられた空間、すなわち試料導入区画204と試料流出区画205で構成されている。但し、試料導入区画204と試料流出区画205はナノポア202で連通している。試料導入区画204及び試料流出区画205は、両区画にそれぞれ連結された流入路206、207を介して導入される液体210、211で満たされる。液体210、211は、試料導入区画204及び試料流出区画205にそれぞれ連結された流出路208、209から流出する。流入路206と流入路207は基板203を挟んで対向する位置に設けられてもよいが、これに限定されない。流出路208と流出路209は基板203を挟んで対向する位置に設けられてもよいが、これに限定されない。
【0024】
基板203は、基材と、基材に面して形成された導電性薄膜216と、導電性薄膜216に設けられた、試料導入区画204と試料流出区画205とを連通するナノポア202を有し、観察容器201の試料導入区画204と試料流出区画205の間に配置される。本図においては、基板203には本実施例に係る基準対象の図示は省略されている。
【0025】
図2中の213は観察される試料、214、215は第1、第2の電極を示している。図示を省略した電圧印加手段により、試料導入区画204に設けた第1の電極214、試料流出区画205に設けた第2の電極115の間に電圧が印加される。また、これら電極間には電流計が配置されていてもよい。第1の電極214と第2の電極215の間の電流は、試料のナノポア通過速度を決定する点で適宜定めればよく、例えば、試料を含まないイオン液体を用いた場合、DNAであれば100mV〜300mV程度が好ましいが、これに限定されない。これらの電極は、金属、例えば白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムなどの白金族、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケルなど;グラファイト、例えばグラフェン(単層又は複層のいずれでもよい)、タングステン、タンタルなどから作製することができる。
【0026】
電極間に電圧印加によってナノポア202を通過する測定試料として生体分子ポリマーは、励起光によってラマン光を発するが、ナノポア202近傍に導電性薄膜216を用意し近接場を発生させ、ラマン光を増強することができる。ナノポア近傍に設置する導電性薄膜216は、薄膜の定義から明らかな通り、平面状に形成する。導電性薄膜216の厚さは、採用する材料に応じて、0.1nm〜10nm、好ましくは0.1nm〜7nmとする。導電性薄膜の厚さが小さいほど、発生する近接場を限定することができ、高分解能かつ高感度での解析が可能となる。また導電性薄膜の大きさは特に限定されるものではなく、使用する基板及びナノポアの大きさ、使用する励起光の波長などに応じて適宜選択することができる。
【0027】
本実施例の装置において、基板203は、電気的絶縁体の材料、例えば無機材料及び有機材料(高分子材料を含む)で形成することができる。基板を構成する電気的絶縁体材料の例としては、シリコン(ケイ素)、ケイ素化合物、ガラス、石英、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリスチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。ケイ素化合物としては、窒化ケイ素、酸化ケイ素、炭化ケイ素等、酸窒化ケイ素が挙げられる。特に基板の支持部を構成するベース(基材)は、これらの任意の材料から作製することができるが、例えばケイ素又はケイ素化合物であってよい。
【0028】
基板203のサイズ及び厚さは、ナノポア202を設けることができるものであれば特に限定されるものではない。基板は、当技術分野で公知の方法により作製することが可能で、あるいは市販品として入手することも可能である。例えば、基板は、フォトリソグラフィ又は電子線リソグラフィ、及びエッチング、レーザーアブレーション、射出成形、鋳造、分子線エピタキシー、化学蒸着(CVD)、誘電破壊、電子線若しくは収束イオンビームなどの技術を用いて作製することができる。基板は、表面への目的外の分子の吸着を避けるために、コーティングしてもよい。
【0029】
<ナノポアの説明>
本実施例において「ナノポア」及び「ポア」とは、ナノメートル(nm)サイズ(すなわち、1nm以上、1μm未満の直径)の孔(開口部)であり、基板を貫通して試料導入区画と試料流出区画とを連通する孔を意味する。ナノポア又はポアの孔とは、ナノポア又はポアが試料溶液と接する部分のナノポア又はポアの開口円を指す。生体高分子の分析の際には、試料溶液中の生体高分子やイオンなどは一方の開口部からナノポアに進入し、同じ又は反対側の開口部からナノポア外に出る。本実施例の装置で使用する基板203は、通常、少なくとも1つのナノポア202を有する。ナノポアは、具体的には導電性薄膜216に設けられるが、場合により、基材である絶縁体に同時に設けてもよい。
【0030】
ナノサイズの孔を形成するのに適した材料及び厚さの導電性薄膜216を基板203上に形成することによって、ナノポア202を簡便かつ効率的に基板に設けることができる。ナノポア形成の面から、導電性薄膜216の材料は、例えば酸化ケイ素(SiO2)、窒化ケイ素(SiN)、酸窒化ケイ素(SiON)、金属酸化物、金属ケイ酸塩などが好ましい。また導電性薄膜、及び場合によっては基板全体は、実質的に透明であってもよい。ここで「実質的に透明」とは、外部光をおよそ50%以上、好ましくは80%以上透過できることを意味する。また導電性薄膜216は、単層であっても複層であってもよい。導電性薄膜216の厚みは、1nm〜200nm、好ましくは1nm〜50nm、より好ましくは1nm〜20nmである。導電性薄膜216は、当技術分野で公知の技術により、例えば減圧化学気相成長(LPCVD)により、基板203上に形成することができる。
【0031】
更に、導電性薄膜216上には、絶縁層を設けることも好ましい。絶縁層の厚みは好ましくは5nm〜50nmである。絶縁層には任意の絶縁体材料を使用できるが、例えばケイ素又はケイ素化合物(窒化ケイ素、酸化ケイ素など)を使用することが好ましい。
【0032】
上述したように、ナノポアの孔サイズは、分析対象の生体高分子の種類によって適切なサイズを選択することができる。ナノポアは、均一な直径を有していてもよいが、部位により異なる直径を有してもよい。ナノポアは、1μm以上の直径を有するポアと連結していてもよい。基板の導電性薄膜216に設けるナノポアは、最小直径部、すなわち当該ナノポアの有する最も小さい直径が、直径100nm以下、例えば1nm〜100nm、好ましくは1nm〜50nm、例えば1nm〜10nmであり、具体的には1nm以上5nm以下、3nm以上5nm以下などであることが好ましい。
【0033】
測定試料213の一例としてのssDNA(1本鎖DNA)の直径は約1.5nmであり、ssDNAを分析するためのナノポア直径の適切な範囲は1.5nm〜10nm程度、好ましくは1.5nm〜2.5nm程度である。他の例であるdsDNA(2本鎖DNA)の直径は約2.6nmであり、dsDNAを分析するためのナノポア直径の適切な範囲は3nm〜10nm程度、好ましくは3nm〜5nm程度である。他の生体高分子、例えばタンパク質、ポリペプチド、糖鎖などを試料として分析対象とする場合も同様に、生体高分子の外径寸法に応じたナノポア直径を選択することができる。
【0034】
ナノポアの深さ(長さ)は、基板203又は導電性薄膜216の厚さを調整することにより調整することができる。ナノポアの深さは、分析対象試料の生体高分子を構成するモノマー単位とすることが好ましい。例えば生体高分子として核酸を選択する場合には、ナノポアの深さは、塩基3個以上の大きさ、例えば約1nm以上とすることが好ましい。ナノポアの形状は、基本的には円形であるが、楕円形や多角形とすることも可能である。
【0035】
ナノポアは、基板に少なくとも1つ設けることができ、複数のナノポアを設ける場合に、規則的に配列してもよい。ナノポアは、当技術分野で公知の方法により、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)の電子ビームを照射することにより、ナノリソグラフィー技術又はイオンビームリソグラフィ技術などを使用することにより形成することができる。
【0036】
<導電性薄膜の説明>
導電性薄膜216が平面状でなく、屈曲などが存在すると、その屈曲部において近接場が誘起され光エネルギーが漏出し、目的外の場所においてラマン散乱光を発生させる。すなわち背景光が増大し、S/Nが低下する。そのため、導電性薄膜216は平面状であることが好ましく、換言すると断面形状は屈曲のない直線状であることが好ましい。導電性薄膜を平面状に形成することは、背景光の低減、S/N比の増大に効果があるだけではなく、薄膜の均一性や作製における再現性などの観点からも好ましい。
【0037】
導電性薄膜の形状は、外部光を照射することにより近接場を発生し、増強することができる形状であれば、任意の形状とすることができる。このような近接場を発生するプローブは当技術分野で公知であり、例えば、ティップ増強ラマン散乱(TERS)により近接場を発生及び増強して増強場とすることができる鋭角の端部を有する形状、金属ボウタイ構造などが知られている。導電性薄膜の好ましい平面形状の一例として鋭角の端部を有する形状が挙げられ、この端部をナノポアに面して設けることが特に好ましい。この場合、その端部の角度は10〜80度、好ましくは20〜60度、より好ましくは20〜40度とする。このような近接場光を形成するための導電性薄膜(光散乱体)の好ましい形状については、例えば特開2009-150899号公報を参照されたい。なお、導電性薄膜の端部の頂点部分は、厳密な意味での点でなくともよく、一定以下、好ましくは10nm以下の曲率半径を有する丸みを帯びた形状等であってもよい。鋭角の端部以外の導電性薄膜の形状としては、端部の頂点の角度より鈍角な角を採用することができる。ただし角の部分には近接場が誘起され光エネルギーが漏出することから、ナノポアに面する鋭角の端部以外については、複雑な形状は極力回避し、角のない円形や、直線状などを採用することが好ましい。また導電性薄膜の全体の形状は、鋭角の端部を有する限り、任意の形状とすることができ、三角形、四角形及び五角形などの多角形、扇形、円形と三角形の合成形などとすることが可能である。
【0038】
一方、導電性薄膜の形状として金属ボウタイ(bow-tie)構造を採用することも可能である。即ち、円形、楕円形又は多角形の2つの導電性薄膜を、その形状の凸部が互いに対向するように配置する。このような金属ボウタイ構造については、例えば米国特許第6,649,894号を参照されたい。金属ボウタイ構造は、近接場が形成される領域にギャップ(開口)を挿入した構造とみなすことも可能である。ギャップの挿入によって異方性が導入され、検出感度が改善される。このような技術についての説明は、例えば米国特許第6,768,556号及び米国特許第6,949,732号を参照されたい。
【0039】
導電性薄膜は、その少なくとも一部、特に好ましくは近接場を発生する端部などの構造が、ナノポアに面して設けられる。導電性薄膜は、その少なくとも一部、特に好ましくはその端部がナノポアに面して設けられている限り、固体基板の表面上に配置されてもよいし、あるいは固体基板の間に配置されてもよい。例えば、固体基板の表面上に、ナノポアの開口部に面して配置することができる。あるいは、固体基板上のナノポアの中心軸方向におけるほぼ中間の位置(深さ)に導電性薄膜を配置することができる。この場合、導電性薄膜は、固体基板の薄膜部分によって挟まれた構造となることが好ましい。これにより、近接場はナノポアの中心軸方向(深さ方向)の中間付近に形成されるため、生体ポリマーの形状と移動速度を制御しながらナノポア内で生体ポリマーのラマン散乱光を発生させることができ、高精度及び高感度に解析を行うことが可能である。なお、導電性薄膜を固体基板に配置する場合には、照射される外部光の偏光方向を考慮して配置することが好ましい。
【0040】
また、導電性薄膜は、各ナノポアに対して少なくとも1つ配置されていればよく、奇数であっても偶数であってもよい。例えば、導電性薄膜は、各ナノポアに対して1つ、2つ、3つ、4つ又はそれ以上を配置することが可能である。後述する実施例に記載のように、導電性薄膜が複数存在すると、強い光の場が形成されるため、各ナノポアに対して2つ以上の導電性薄膜を配置することが好ましい。あるいは、導電性薄膜は、上述した形状を1単位として、複数の単位を有する1つの薄膜とすることも可能である。
【0041】
導電性薄膜は、導電性又は光散乱特性を有する材料で形成することができる。そのような材料としては、金属、例えば白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムなどの白金族、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケルなど;グラファイト、例えばグラフェン(単層又は複層のいずれでもよい)などが挙げられる。
【0042】
ここで複数の導電性薄膜を、特に連結して配置する場合の注意点について述べる。複数の導電性薄膜を連結して配置する場合、連結した結果できる導電性薄膜の全体としての形状において、その少なくとも一部、特に好ましくはそのナノポアに面する部分の形状が鋭角の端部を有する必要がある。複数の導電性薄膜をナノポア付近で連結すると、この鋭角の端部が消失するおそれがあるが、端部は近接場の効率的な形成に必要であるため、その消失は回避しなければならない。関連して、導電性薄膜を1つ用いる場合、それをナノポアの全周を囲むように配置すると、同様の不具合が生じるおそれがある。つまり励起光により導電性薄膜に誘起された電荷が、ナノポアの全周を取り囲む導電性薄膜を通して回り込んでしまい、ナノポア部分に双極子が形成されないという不具合のおそれがある。そのため、生体ポリマーの特性解析チップにおける少なくとも1つの導電性薄膜が、ナノポアの全周でなく、固体基板のナノポアを形成する一部のみに配置されることが好適である。
【0043】
導電性薄膜216は、その端部がナノポアの開口部に面して配置されていることが好ましい。より具体的には、導電性薄膜を、ナノポア中心軸に対して直交する面内に、かつ薄膜の端部をナノポアの開口部に面して配置する。また少なくとも2つの導電性薄膜を配置する場合には、これらの導電性薄膜が、ナノポアの開口部をはさんで互いに対向して配置されることが好ましい。このような場合、外部光を導電性薄膜に照射することにより、導電性薄膜がナノポアに面する端部において近接場を発生させて、ナノポアを進入する生体ポリマーのラマン散乱光を発生させる。
【0044】
導電性薄膜は、当技術分野で公知の方法により作製し、固体基板に配置することができる。例えば、導電性薄膜を銀で形成する場合には、所望の厚さの銀薄膜をスパッタリングにより基板に形成した後、所望の形状を電子ビームにより形成することができる。また導電性薄膜を単層のグラフェンで形成する場合には、グラファイトから作製したグラフェンを支持基板にのせ、電子ビームを照射して所望の形状のグラフェンを形成することができる。
【0045】
本実施例の装置における解析チップに外部光を照射することにより、ナノポアに進入した生体ポリマーが励起されてラマン散乱光を発生し、そのラマン散乱光のスペクトルに基づいて生体ポリマーの特性を解析することができる。形成される近接場の厚さは基本的に導電性薄膜の厚さと同等である、すなわち導電性薄膜はナノポアの中心軸に直交するため、形成される近接場の中心軸方向の厚さは導電性薄膜の厚さと同程度である。そのため、本実施例の解析チップを用いることにより、高空間分解能かつ高感度で生体ポリマーを解析することができる。
【0046】
<測定動作の説明>
図2に示した液体210は分析対象となる試料213を含む試料溶液である。液体210は、試料213以外には、電荷の担い手となるイオンを好ましくは大量に含むイオン液体のみを含むことが好ましい。イオン液体としては、電離度の高い電解質を溶解した水溶液が好ましく、塩類溶液、例えば塩化カリウム水溶液などを好適に使用できる。試料213は、イオン液体中で電荷を有するものであることが好ましい。試料213は、典型的には生体高分子である。
【0047】
電極214、215に対する電圧印加により、電荷をもつ試料213が試料導入区画204からナノポア202を通過し、試料流出区画205へと移る。試料213が励起光によって照射されたナノポア202を通過するとき、導電性薄膜216によって増強されたラマン散乱スペクトルを液浸媒体217よって効果的にラマン光を集光し、
図1の対物レンズ102に対応する対物レンズ218を通して検出器109に達し解析される。
【0048】
図3に、一般的に使用されているマルチナノポア基板の一構成例を示す。同図に示すように、基板301上にナノポア302と導電性薄膜303が複数設けられている。これらは、
図2のナノポア202、導電性薄膜216に対応している。ナノポア302及び導電性薄膜302が格子状に20個設けているが、これに限定されない。マルチナノポア基板301にも多重照射機構113によって励起光がナノポア302を照射し、
図2で説明した検知器109で検出される。
【0049】
<基準対象を用いた測定の説明>
さて、一般的な装置設置環境の温度変化やステージ駆動を成すモータの熱による温度変化などにより、上述した励起光のドリフトや観察容器のドリフトが起き、照射光がナノポアに正しく照射されず、所望の信号が得られないことがある。そこで、本実施例のナノポアラマンDNAシーケンサ装置においては、
図4Aに示す基準対象を備えた基板を用いる。
図4Aのマルチナノポア基板401は、複数のナノポア402と導電性薄膜403に加え、基準対象としての基準物質404,405,406を備えており、このマルチナノポア基板401を用いることにより、観察時の環境変化に影響されることなく所望の信号が得ることが可能となる。ナノポア402、導電性薄膜403は、それぞれ
図2のナノポア202、導電性薄膜216に対応している。ここでマルチナノポア基板上の基準対象とは、上述の温度変化等によるドリフトの影響を排除するための基準となる対象を意味する。
【0050】
本実施例の装置において、初めにマルチナノポア基板401を含む観察容器201を装置100に架設する。
図4Bに模式的に示すように、架設後に多重照射機構113、対物レンズ218等の照射光学系を利用して、複数の励起光がマルチナノポア基板401に照射される位置と、ナノポア402の位置を合わせる。この初期段階における位置を合わせる手段の一つとして、励起光を照射しながらXYステージ104等の各種ステージを駆動し、基準対象として例示した基準物質405、406や、ナノポア402から発せられるラマン散乱光を検出する。そのため、マルチナノポア基板401上のナノポア402、基準物質404−406の配置と、複数の励起光の照射配置が合うように、設計または位置調整を事前に行っておく必要がある。検出はラマン散乱光に限定されるものではなく、蛍光物質を基準物質404−406とし蛍光を検出してもよい。望ましくは検出するのに十分な信号が得られるものが好ましい。例えば市販品として入手することも可能である、蛍光を発するビーズをマルチナノポア基板401に固定して行うことも可能である。
【0051】
なお、初期段階で位置合わせに用いる信号検出は、基準対象である基準物質404−406ではなく、マルチナノポア及び導電性薄膜から得られる信号を検出してもよい。この初期段階においては、観察対象である試料が溶液中に混合されておらず、観察容器201を満たした溶液もまたラマン散乱光を持ち、試料同様に導電性薄膜によって増強された信号を得ることが出来るため、この信号を利用し高精度な初期段階での位置合わせを行うことも可能である。
【0052】
また、フォトリソグラフィ技術ならびに微細加工技術を用いて、基板上に基準対象としてのシリコン単結晶の構造体を形成し、このシリコン単結晶のラマン散乱光を検出してもよい。平坦な単結晶薄膜が貼り付けられた基板も一般に市販されており、厚み(すなわち、構造体の高さ)を規定したものも製造できる。また、シリコンに限らず、単結晶のような結晶方位面が規定された材料や、単結晶に限らずラマン散乱強度の絶対値が再現性良く得られる平坦で均質な材料を成膜あるいは貼り付けたのち、その上から、フォトリソグラフィ技術を用いてパターニングし、これらの材料を微細加工技術により基準対象としての構造体に加工すれば、位置調整だけでなく、ラマン散乱光の強度基準として用いることも可能である。このような位置とラマン散乱強度の規定された構造体を基準対象として配するためのレイアウトパターンは、ナノポアを形成する際に用いるものと同じ相対位置決め手段、例えば、構造体形成用のあわせマークなど、あるいは、複数のレイアウトのあわせが不要な一括形成法を用いて形成可能であるため、高精度にナノポアと基準対象をマルチナノポア基板上に配置することが可能である。
【0053】
さらに、ナノポア402の形成位置と基準対象である基準物質404−406の材料が異なる場合でも、あらかじめ、マルチナノポア基板401上に異なる材料の面領域を設け、この上にリソグラフィ技術により微細加工用のマスクを形成しこれを加工すれば、ナノポアの機能に関わる構造体と、位置ならびにラマン散乱強度を規定する別の材料の構造体である基準対象を、高精度に配置したものを製造することも可能である。ここでは、シリコン単結晶を例として取り上げたがこれに限定されない。検出したい波数レンジ内にピークをもつスペクトルを与えられる材料で有ればよい。例えば酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン、シリコンカーバイトなど基板上に成膜及び加工が可能な材質などを選んでもよい。
【0054】
以上、フォトリソグラフィ技術ならびに微細加工技術を用いて基準対象を用意する手段を記載したが、これに限定されない。材料によっては加工が難しい場合も想定される。例えば、基板上一面に基準物質の材料を成膜し、その後、基準物質を加工しやすい材料で覆い、信号を得たい大きさ、範囲のみを覆った箇所をエッジング等で露出させ、露出した箇所から蛍光やラマン光を検出してもよい。
【0055】
図5に本実施例の構成において、位置合わせの基準対象の一例としてシリコン単結晶を用い、位置制御部の一部として機能する駆動制御部115を用いて基準対象をXY軸方向スキャンした結果を示す。このときスキャンする軸はXYステージ104を利用したXY方向に限定されるわけではなく、Z軸調整機構105を利用したZ軸方向や、更にはθ軸方向やゴニオステージを利用し傾斜方向のスキャンを実施してもよい。XY軸を一面スキャンするだけでなく、スキャンの方法も限定されるものではない。各軸の移動と照射により信号を検出する動作の結果から、最も強く信号が得られる座標位置に移動することで、最も信号が強く得られる座標軸から測定を開始することが可能である。
【0056】
望ましくは、スキャン後の位置で測定を開始し、測定完了まで同じ座標軸で望ましい信号を得たいが、前述したように、装置を構成するXYステージ104等のステージモーターや検出器の排熱、環境の温度変化によりマイクロメータもしくはナノメータの範囲ではドリフトが発生する。そこで、本実施例の装置においては、試料の混合が開始された液体210の測定開始と共にナノポア402からの信号を検出しながら、同時に位置制御部の一部として機能する駆動制御部115により、基準対象である基準物質404−406のスキャン動作も行い、検出器109の検出信号を使って、位置制御部の一部として機能するコンピュータ116、あるいは解析装置118によって、スキャン後に最も信号が強い座標軸を演算する。その最大信号強度を放つ座標軸を中心に、位置制御部の一部として機能する駆動制御部115の制御の下、再度スキャンを行う。このとき、スキャンを行う範囲は初期の位置決め時に得た
図5に示す座標軸と信号の結果から、最低限必要な信号が得られる範囲の中でスキャンを行うよう制御する。この操作により、常に最低限必要な検出信号を得られ続けるように定位置制御を行うことができる。
【0057】
言い換えるなら、駆動制御部115、コンピュータ116等を含む位置制御部は、測定試料及び基準対象の位置に対して、励起光のスポット位置をスキャンし、基準対象から得られる信号により、測定試料が励起光を強く照射する位置を演算し、演算結果から測定試料に対するスポット位置を所望の位置に制御する。
【0058】
なお、試料が混入された液体を使った試料測定中の位置制御のための信号として、ナノポアからの信号を利用すると仮定すると、その信号として溶媒である液体自体の信号と、時々ナノポアを通過する観察対象である試料、すなわち生体ポリマーの信号が合わさったものを検出してしまい、誤差の原因となるので、本実施例の装置にあっては、試料の測定の実行中は、基準対象である基準物質からの検出信号のみを用いて、位置制御部による定位置制御のスキャンを実施する。
【0059】
試料測定中の定位置制御用のスキャン範囲は、製品出荷前などの事前に試験した基準物質またはナノポアをスキャンした座標軸と信号の結果を用いて決定してもよい。好ましくは、測定開始直前の初期段階でその基板の位置合わせを行った時に使用した基準物質から得られた情報を利用するが、より好ましくは初期段階での位置合わせ時にナノポア位置から得られた情報を利用して、最低限必要な信号が得られる範囲を決めるのが望ましい。
【0060】
位置制御部を使って試料の測定中のスキャンを行う時間間隔として、常にスキャンを繰り返しても良いが、一定間隔で実施してもよい。
図6に本実施例の装置を用いて、2分間隔で直径700nm、高さ220nmの基準対象としての円柱型シリコン単結晶をスキャンと同時に、ラマン光測定を行い、スキャン結果を元に補正を繰返し得られた試料の信号強度の一例を示す。これは、装置起動直後のモータ等に熱が発生し温度ドリフトが起きやすい条件下で測定を行った。同時に装置内の温度も測定したが、図に示す温度変化が起きても測定開始時の信号を100%とした時に対し、常に80%以上の信号を保つことを確認した。一方、本実施例の定位置制御の補正動作を行わずに、装置起動直後のラマン光の測定を行ったところ、
図6に示すように、約5分後に80%以下の信号強度となり、以降時間経過とともに信号の減少が観測された。
【0061】
また、駆動制御部115等の位置制御部による定位置制御用のスキャンの間隔は、一定の時間間隔で行うことに制限されない。例えば、装置100内や装置外または排熱箇所等に温度センサを設け、温度センサがある一定範囲外の温度を示した時や時間当たりの温度変化が発生した時に、上述の位置制御部による定位置制御用のスキャン動作を行ってもよい。すなわち、位置制御部は、所定の温度変化の検出により、定位置制御用の励起光のスポット位置のスキャンを開始して、前記スポット位置を所望の位置に制御する。
【0062】
また上記の位置制御部によるスキャンを行うステージ駆動の方法として、XY軸を満遍なく一面スキャンしても良いが、測定開始点のX軸のみを上記の必要範囲内でスキャンを行い、最大信号強度が得られるX座標軸に移動し、続いてY軸のみを上記の必要範囲内でスキャンを行う操作を繰り返すことによりスキャン時間を短縮してもかまわない。このとき、位置合わせ同様にスキャンするステージ駆動軸はXYに限定されるわけではなく、Z軸方向やθ軸方向やゴニオステージを利用し傾斜方向のスキャンを実施してもよい。
【0063】
上述した本実施例の定位置制御の動作により、複数の励起光が基板に照射する位置と、マルチナノポアの位置が制御され、常に最低限必要な信号をマルチナノポアから得ることが可能になる。
【0064】
なお、ここで得られる信号は、ラマン光や蛍光であるため物質固有のスペクトルを持つ。例えば、シリコン単結晶であれば520cm
-1にピークを持つスペクトルが得られる。そこで、この物質固有のスペクトルを用いて検出器自身のドリフト(位置ずれ)を補正してもよい。すなわち、基準対象である基準物質のスペクトルを用いて、検出器の位置または検出器の画像素子の情報を補正することができる。例えば検出器109がドリフトした場合、基準対象としてのシリコン単結晶のラマン光が520cm
-1を示す位置、例えば、2次元の検出面上の所定の画像素子ではなく、ドリフトした位置、例えば、540cm
-1を示す位置の画像素子で検出してしまう。つまり、試料が本来得られる波数位置でピークを得られず、異なる波数位置でピークを検出するか弱いピークとして検知してしまう。
【0065】
しかし、基準物質としてシリコン単結晶を用いているのが自明であるため、検出器の各画像素子の検出信号を用いて、ドリフトして得られた基準物質のピークを元に上記のドリフトを補正することが可能である。測定開始時に検出器が基準物質の信号を得た位置を所定の画像素子の情報として記憶しておき、ドリフトした位置の画像素子から得られた基準物質の信号を得た位置からドリフト量を計算し、図示を省略した検出器109自身が備えた駆動機構を使用しドリフトした距離だけ補正してもよい。補正手段は駆動機構に限定されず、他の手段を用いてもよい。
【0066】
図4に示したように、本実施例の装置おいては、複数の基準物質404−406を、アレイ化されたナノポア402の端に用意する。その結果、検出器109に各基準物質のピークが複数の点として得られることを利用し、ピークを捉えた各画像素子の位置の情報と波数情報を再度計算し補正する。したがって複数のピークが得られる物質を用いるとより高精度に補正が可能となるため、そのような物質を基準物質として用いてもよい。ここではシリコン単結晶のラマン光を用いた例を示したが、これに限定されるわけではなく、ラマン光を発する他の材料や蛍光物質の蛍光を用いてもよい。
【0067】
以上に示した本実施例の構成により、高精度に環境温度や装置内の温度をコントロールする機構を新たに用意することなく、励起光の照射位置を定位置に制御することが可能である。また、位置の変位を検出する機構も新たに用意することなく定位置に制御することが可能である。更に、少なくとも一つ以上の基準物質を用いることにより検出器に新たな駆動機構を用意することなく、検出器自身を定位置に制御することが可能である。つまり、本実施例によれば、ナノポアが形成された基板に、基準対象である基準物質を配備することで、ナノポアラマンDNAシーケンサ装置の励起光の照射位置を定位置に制御し、高精度の信号検出を行うことが可能になる。
【実施例5】
【0086】
以上説明した実施例1−4において、各軸におけるドリフトに対する補正動作を説明してきたが、補正に用いるθステージの回転軸とドリフトが発生した時の回転軸の回転中心が異なり、且つ回転方向のドリフトとXYZ軸方向のドリフトが複合された場合は、コンピュータ116あるいは解析装置118で実行する、基準物質から得られる信号の情報に基づく各種のドリフト補正は順序だって行う必要がある。そこで、実施例5として、このような場合においける好適なドリフト補正を行うことが可能な装置の実施例を示す。
【0087】
図12に、本実施例におけるドリフト補正の一例のフローチャートを示す。まず初めに、例えば
図11に示した基板1100を持つ観察容器201を装置100に架設する。架設後に励起光を観察容器201に照射し、各ナノポア1102からの信号強度が最も強くなる位置を探すスキャン動作を行い測定位置を決める(1200)。同時に、各基準物質1104、1105、1106からの信号強度と位置情報も取得しコンピュータ116や解析装置118等の記憶媒体に保存する(1201)。
【0088】
スキャン終了後にナノポアが最も信号強度が強く発する位置に移動し、ナノポアを通過する生体分子の信号の検出と同時に、基準物質からの信号測定を開始する。測定開始時の基準物質からの信号は順次記憶され、その後のドリフト補正時に用いる。
【0089】
測定開始後に温度変化等によりドリフト発生した場合、基準値の信号に変化が見られるため基準値の変化を持ってドリフトを検知する。検知及び演算は常時行ってもよいが、演算処理を軽減するために、先に説明したように、例えば10分間隔でデータを取得する等、定期的に基準値の信号を取得しドリフトを検出してもよい。なお、ドリフトを検知する信号強度を事前に設定してもよい。
【0090】
図13に、本実施例の装置における、ドリフト検知及び補正の条件設定の一構成例を示す。表示画面1300は、例えばコンピュータ116や解析装置118のディスプレイ等に表示される画面である。表示画面1300中のドリフト補正ウィンドウ1301で「Drift detection point」と示した項目は、スタート時の基準物質からの信号値から例えば90%を下回った時にドリフトと認識する値を設定する項目である。ドリフトを検知した時、まず初めにZ軸のドリフトを検知する基準物質1106の信号を検出し、事前スキャン情報を元に、スタート時を同じ信号強度になる高さや傾きになるように補正する(1202)。これは、単純にZ軸がドリフトしフォーカスがずれたことにより他の基準値からの信号値が変化してドリフトと認識していないかを確認する工程である。そのため、Z軸基準物質からの信号強度に対するドリフトと認識する値を、
図13に示す様に「Z Drift detection point」として他の項目より厳しく例えば95%と設定してもよい。なお、表示画面1300中の「Save」等の各種のボタン1302は、操作者が各種の操作に用いる。
【0091】
Z軸を監視する基準物質1106の信号がスタートに戻った時、基準物質1104、1105の信号値が「Drift detection point」の値の範囲を超えていた場合にさらなる補正動作を行う。このとき、基準物質1104,1105全ての信号強度が増加もしくは減衰していた場合(1203)、順次、最も少ない移動量で少なくとも一つの対角対をなす基準物質がスタート時の信号強度になる位置を測定前にスキャンした情報からθを動かす。しかし、スタート時の信号強度になる位置が見当たらない場合は、θを動かし最も少ない移動量で少なくとも一つの対角対をなす基準物質が等しくなる位置に動かす。このとき、一回の補正動作で動ける移動量を
図13の「θ axis correction range」として設定してもよい。これは、1軸のみを大きく動かし過ぎることによって他の軸の補正が難しくなることを軽減するためである。
【0092】
θ軸の補正動作が完了したら、対角対を成す基準物質の信号が最もスタート時の信号強度から乖離している対の信号を用いてX軸もしくはY軸方向のドリフト補正を実施例4の手順に従い行う。XY軸もθ軸同様に一回の補正動作で動ける移動量を設定してもよい。ドリフト量が少ない場合、この時点で全ての基準物質からの信号強度がスタート時の強度に戻り、その結果ナノポアを通過する生体試料からの信号が常に制限された範囲で強い信号を得ることが可能になる。このとき、基準物質から得られるラマンスペクトルのピークがスタート時と同じ検出器の素子に無い場合は、検出器を同じ素子に照射されるように動かし波数校正する。もしくは、スタート時の基準物質から得られるラマンスペクトルのピークの検出器内の素子情報と補正後の位置情報から演算して波数校正してもよい。波数校正の為のスペクトル情報は、測定前の設定条件として基準物質の材質を選ぶように設定してもよい。材質の例としては、シリコン単結晶や酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン、シリコンカーバイトなどがある。
【0093】
ドリフト量が大きく、全ての基準物質からの信号強度がスタート時の強度に戻らなかった場合はもう一度θ軸の補正とXY軸の補正を繰り返す。この時、繰り返す回数を指定してもよい。指定した回数以内にスタート時の信号強度もしくはドリフト検知と認識する信号強度を満たさない場合は警告を出し、再測定を促してもよい。もしくは単純に基準物質からの信号がある一定の値を下回った場合に警告を出し、再測定を促してもよい。これらの警告は、装置等へ想定外の衝突があった際の影響を受け大きくずれた場合の検出に効果的である。
【0094】
一方、装置架設後のスキャンが終え、測定を開始し、Z軸補正を行い基準物質1106の信号がスタートに戻った時、基準物質1104、1105の信号値が「Drift detection point」の値の範囲を超えていた場合にさらなる補正動作を行う(1202)。このとき、基準物質1104,1105の信号強度が対角対を成す基準物質1104の二つもしくは基準物質の1105の二つが互いに増減が異なる場合(1204)、XY軸方向のドリフト量を測定前のスキャン結果を基にスタート時の信号強度になるように見積もり移動する。見積もった結果が、対角対に対をなす基準物質同士でドリフト量が異なる場合はθ軸方向のドリフトが想定されるため、対角対をなす基準物質同士の信号量が等しくなる位置にXY軸補正する。XY軸補正後に、最も少ない移動量で少なくとも一つの対角対同士の基準物質がスタート時の信号強度になる位置にθを動かす。
ドリフト量が少ない場合、この時点で全ての基準物質からの信号強度がスタート時の強度に戻り(1205)、その結果ナノポアを通過する生体試料からの信号が常に制限された範囲で強い信号を得る、スタート時に戻ることが可能になる。このとき、基準物質から得られるラマンスペクトルのピークがスタート時と同じ検出器の素子に無い場合は、検出器を同じ素子に照射されるように動かし波数校正する。もしくは、スタート時の基準物質から得られるラマンスペクトルのピークの検出器内の素子情報と補正後の位置情報から演算して波数校正してもよい(1206)。そして、ドリフト補正を完了する(1207)。
【0095】
ドリフト量が大きく、全ての基準物質からの信号強度がスタート時の強度に戻らなかった場合はもう一度θ軸の補正とXY軸の補正を繰り返す。この時、繰り返す回数を指定してもよい。指定した回数以内にスタート時の信号強度もしくはドリフト検知と認識する信号強度を満たさない場合はアラームを出し(1208、1209)、再スキャンや再測定を促してもよい。もしくは単純に基準物質からの信号がある一定の値を下回った場合に警告を出し、再測定を促してもよい。これらの警告は、装置等へ想定外の衝突があった際の影響を受け大きくずれた場合の検出に効果的である。
【0096】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明のより良い理解のために詳細に説明したのであり、必ずしも説明の全ての構成を備えるものに限定されものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることが可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0097】
更に、上述した各構成、機能、解析装置等は、それらの一部又は全部を実現するプログラムを作成することによりソフトウェアで実現する場合を例に説明してきたが、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現しても良い。
【0098】
以上、本明細書において、種々の実施例に基づき、本発明の実施の態様を説明してきたが、以上の説明にあっては、特許請求の範囲に記載した発明のみならず、多くの発明が開示されている。それらの一部を例示すると以下の通りである。
【0099】
[例示1]
少なくとも一つ以上の励起光照射が可能な光学系と、
少なくとも一つ以上の励起光照射によって発する信号検出が可能な手段と、
測定試料の検出と共に基準物質の検出も同時に行い、基準物質から得られる信号により、測定試料が励起光を強く照射される位置を演算する位置演算手段とを備え、演算結果から測定試料の位置、もしくは光学系位置を所望の位置に補正する位置制御方法及び装置。
【0100】
[例示2]
例示1において、励起光照射によって発する信号がラマン散乱光あるいは蛍光である位置制御方法及び装置。
【0101】
[例示3]
例示1において、少なくとも一つ以上の基準物質からの信号を検出する位置制御方法及び装置。
【0102】
[例示4]
例示1において、励起光照射によって発する少なくとも一つ以上の基準物質のスペクトルを用いて検出器の位置または画像素子情報を補正する位置制御方法及び装置。
【0103】
[例示5]
例示1において、試料より小さい基準物質からの信号を検出する位置制御方法及び装置。
【0104】
[例示6]
例示1において、試料より小さい励起光スポット径を基準物質に照射し、基準物質からの信号を検出する位置制御方法及び装置。
【0105】
[例示7]
例示1において、試料より短い波長の励起光を用いて、試料より小さい励起光スポット径を基準物質に照射し、基準物質からの信号を検出する位置制御方法及び装置。
【0106】
[例示8]
例示1において、励起光スポット径が試料及び基準物質より小さい時、基準物質への励起光スポット径が試料への励起光スポット径より大きく、基準物質からの信号を検出する位置制御方法及び装置。
【0107】
[例示9]
例示1において、シリコン単結晶、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン、シリコンカーバイトである基準物質からの信号を検出する位置制御方法及び装置。
【0108】
[例示10]
例示1において、試料として生体分子を解析する位置制御方法及び装置。
【0109】
[例示11]
例示1において、試料及び基準物質の位置と励起スポット位置を駆動手段を備え、
駆動手段を用いてスキャンを行い、位置演算手段の演算結果から測定試料の位置、もしくは光学系位置を所望の位置に補正する制御方法及び装置。
【0110】
[例示12]
例示11において、温度変化を検出と同時に、試料及び基準物質の位置と励起スポット位置を駆動手段によりスキャンを行い、温度変化の検出を持って試料の位置、もしくは光学系位置を所望の位置に補正する制御方法及び装置。
【0111】
[例示13]
例示1において、基準物質の信号の増減からドリフト量及びドリフト方向を演算し、測定試料の位置、もしくは光学系位置を所望の位置に補正する制御方法及び装置。
【0112】
[例示14]
例示13において、事前に取得した基準物質の位置と信号強度の情報と基準物質の信号の増減からドリフト量及びドリフト方向を演算し、測定試料の位置、もしくは光学系位置を所望の位置に補正する制御方法及び装置。
【0113】
[例示15]
例示1において、試料と位置が合わさった励起スポット位置とずれた位置に配置される基準物質を用いて、所望の位置に補正する制御方法及び装置。
【0114】
[例示16]
例示1において、試料と焦点位置が異なる基準物質を用いた、所望の位置に補正する制御方法及び装置。
【0115】
[例示17]
例示1において、基準物質測定光軸上に設けるピンホールを試料測定光軸上に設けるピンホールより小さい装置。
【0116】
[例示18]
例示1において、基準物質が直方体である所望の位置に補正する制御方法及び装置。
【0117】
[例示19]
例示1において、少なくとも2つ直方体基準物質の長辺が直交する直線状に存在し、所望の位置に補正する制御方法及び装置。
【0118】
[例示20]
例示1において、基準物質がプラズモン共鳴である方法及び装置。