(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6379323
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】樹脂成型品の接合方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20180813BHJP
【FI】
B29C45/14
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-518546(P2018-518546)
(86)(22)【出願日】2018年1月31日
(86)【国際出願番号】JP2018003221
【審査請求日】2018年4月9日
(31)【優先権主張番号】特願2017-18594(P2017-18594)
(32)【優先日】2017年2月3日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】権田 光宏
【審査官】
辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2015/152364(WO,A1)
【文献】
特開2015−051542(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/144408(WO,A1)
【文献】
特開2008−019348(JP,A)
【文献】
特開2006−187730(JP,A)
【文献】
特開2001−170955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C45/00−45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物からなる樹脂成型品を接合する接合方法であって、
第1成型品の表面において第2成型品に接合が予定される領域に真空紫外光を照射し、
金型に前記第1成型品を設置し、
前記第1成型品の前記領域に第2成型品が接合して成型されるように前記金型内に樹脂を射出すること
を含む接合方法。
【請求項2】
前記第1成型品を形成する樹脂組成物及び前記第2成型品を形成する樹脂組成物の両方が、熱可塑性結晶性樹脂を含む請求項1に記載の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空紫外光を照射してから二重成型を行う樹脂成型品の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車部品、電機・電子機器部品、日用品など様々な分野において、熱可塑性樹脂を射出成型してなる樹脂成型品が用いられている。このような樹脂成型品は、三次元中空体の形成や部品組立時の工程簡略化といった目的で、複数の樹脂成型品が、互いに接合されて構成された複合成型品として用いられる場合がある。
【0003】
樹脂成型品を接合するためには、接着剤や熱溶着など、各種の接合技術が提供されている。ただし、樹脂成型品を接着剤で接合する技術は、樹脂成型品を変形させることなく接合することができるが、一般的に接着剤の硬化には数時間かかるため生産性に劣る上、流路部品のような微細な中空部を有する三次元中空体においては、接着剤が中空部に漏出して溝が埋没するといった問題があった。そして、樹脂成型品を熱溶着する技術は、数分で接合することが可能であるが、接合した樹脂成型品にバリや熱変形が発生することがあった。
【0004】
また、真空紫外光(VUV)により樹脂成型品を処理して接合する技術が提供されている(特許文献1−4、非特許文献1を参照)。この技術によると、樹脂成型品の接合に数分から数十分程度の時間を要するが、接合した樹脂成型品の変形は小さい。ただし、特許文献1、2、非特許文献1は、樹脂成型品にポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂や環状オレフィン樹脂等の非晶性樹脂でなるものを想定し、接合強度は1MPa以下である。特許文献3、4は、シリコーン接着を想定している。
【0005】
さらに、樹脂組成物により樹脂成型品を一次成型し、この樹脂成型品に樹脂組成物を併せて二次成型することにより最終的な樹脂成型品を作製する二重成型(double shot molding)の技術が提供されている。二重成型の技術によって、異なる性質の材料や異なる色の材料を組み合わせた樹脂成型品が一体に成型され、多様な製品に利用されている。二重成型においては、二次成型により樹脂を接合する部分の強度を確保するため、接合する部分に貫通穴やアンダーカット等のアンカーを設けるなど機械的に補強することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−187730号公報
【特許文献2】特開2009−173894号公報
【特許文献3】特開2011−148104号公報
【特許文献4】特開2013−147018号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】谷口義尚、他4名、「光表面活性化によるシクロオレフィンポリマーの接合:接合強度評価とマイクロ流路への応用」、表面技術、表面技術協会、2014、第65巻、第5号、p.36−41
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、ウォーターポンプ部品等の長期間にわたり大きな機械的応力が加わる成型品(特に三次元中空体)には、堅牢で安定した性質を有するポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂やポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂のような熱可塑性結晶性樹脂を利用することができる。また、樹脂組成物でなる樹脂成型品を接合することにより複合成型品を作製する際には、接合による樹脂成型品の変形が小さく、高い接合強度を有する複合成型品を、生産性よく製造できることが求められる。
【0009】
前述の真空紫外光で樹脂成型品を処理して接合する技術は、樹脂成型品の変形を小さく抑えることができたが、非晶性樹脂でなる樹脂成型品の接合やシリコーン接着剤の硬化を想定したものであり、また十分な接合強度を確保することもできなかった。
【0010】
一方、樹脂組成物を二重成型により接合する場合には、一次成型品の樹脂を溶融させるために多くの熱量を要し、十分な溶着状態が得られずに接合強度が確保できないことがあった。特に一次成型品に結晶性熱可塑性樹脂組成物を用いる場合、結晶化した樹脂を溶融させるには、より多くの熱量を必要とする。また、接合強度を高めるためにアンカーによる補強を行う場合には、当然ながら樹脂成型品にそのような補強構造を設けるためのスペースを確保する必要があることから、設計上の制約が生じ、形状の自由度が低下する問題があった。
【0011】
本発明は、上述の実情に鑑みて提案されるものであって、樹脂組成物を用いて作製した樹脂成型品について、樹脂成型品の変形を小さく抑えつつ、高い接合強度が得られるような複合成型品を、生産性よく、かつ高い形状自由度で製造するための接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するために、本発明に係る樹脂成型品の接合方法は、樹脂組成物からなる樹脂成型品を接合する接合方法であって、第1成型品の表面において第2成型品との接合が予定される領域に真空紫外光を照射し、金型内に前記第1成型品を設置し、前記第1成型品の前記領域に第2成型品が接合して成型されるように前記金型内に樹脂を射出する。
【0013】
樹脂組成物は、熱可塑性結晶性樹脂を含んでもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、二重成型により作製した複合成型品は、高い接合強度を有する。また、樹脂成型品の変形、特に三次元中空体を構成する樹脂成型品における中空部の変形を小さく抑えつつ、生産性及び形状自由度に優れた複合成型品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】樹脂成型品の接合方法の一連の工程を概略的に示す図である。
【
図4】第1成型品の接合部分の処理条件と接合強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る樹脂成型品の接合方法の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。本実施の形態では、二重成型により樹脂成型品を作製し、樹脂組成物として、熱可塑性樹脂組成物を想定している。二次成型により第1成型品との複合成型品として成型された最終的な成型品において、便宜上、新たに成型された部分を第2成型品と称することにする。
【0017】
熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性結晶性樹脂及び/又は熱可塑性非晶性樹脂を含む組成物からなる。熱可塑性結晶性樹脂には、例えば、ポリオキシメチレン(POM)やポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマーを使用してもよい。熱可塑性非晶性樹脂には、例えばポリカーボネート(PC)、環状ポリオレフィン(COP)、環状ポリオレフィン共重合体(COC)を使用してもよい。熱可塑性結晶性樹脂は、一般的に不透明であるが、結晶化度が低い樹脂では半透明ないしは透明であってもよい。また、熱可塑性樹脂組成物にはガラス繊維などの充填剤、酸化防止剤や安定剤、核剤、滑剤、可塑剤、離型剤、着色剤といった、一般的に樹脂組成物に添加される各種添加剤を添加してもよい。
【0018】
本実施の形態では、樹脂組成物を一次成型することにより作製された第1成型品を金型内に設置する。そして、二次成型により第1成型品と接するように、樹脂組成物で第2成型品を作製することで、これらを互いに接合する。第1成型品及び第2成型品には、表面に互いに接合された対向面が含まれる。二次成型の際、第2成型品を形成する溶融状態の樹脂組成物は、第1成型品における当該対向面に沿って流動するため、これらの対向面は対応するような形状を有している。例えば、第1成型品の対向面が略平坦であれば、第2成型品の対向面もそれに対応した略平坦となる。また、対向面は、凹凸を有する面であってもよい。例えば、第1成型品の対向面に凹凸のアンカーを設けておくことで、第2成型品の対向面にもそれに対応した凹凸のアンカーを設けて、第1成型体と第2成型体がより強固に接合できるようにしてもよい。
【0019】
図1は、本実施の形態の一連の工程を概略的に説明する図である。
図1(a)に示すように、第1成型品101を用意し、真空紫外光照射装置20を用いて第1成型品101の照射面101aに真空紫外光(VUV)を照射する。第1成型品101は、照射面101aを第2成型品102と接合される対向面としている。
【0020】
ここで、真空紫外光とは、波長が200nm以下のものを指す。なお、真空紫外光は、必ずしも真空中で照射しなければならないものではないが、当該波長域の紫外光は空気による吸収が大きいため、空気中で照射する場合は、真空紫外光が伝播する距離を短くする必要がある。
【0021】
図1(a)において、真空紫外光照射装置20は、Xeエキシマランプなどの光源21と、光源21から放出された光を照射物に向けて反射する反射板22とを有している。
図2は、真空紫外光照射装置の一例を示す写真である。この写真に示す真空紫外光照射装置は、筐体上面に形成された開口から上部に向けて紫外光を照射することができる。
【0022】
図1(a)に示すように、第1成型品101は略平坦な照射面101aを有している。本実施の形態では、真空紫外光照射装置20から第1成型品101の照射面101aに向けて2分間にわたって真空紫外光を照射する。このような照射処理によって、第1成型品101の照射面101aには、照射面101aから所定深さまで樹脂組成物の性状が変化した処理層111が形成される。
【0023】
本実施の形態では、第1成型品101への真空紫外光の照射は、照射面における照度を考慮して適宜設定することができる。例えば照射距離10mm、照度6mW/cm
2の条件で真空紫外光を照射する場合、照射時間は例えば2分とすることが挙げられるが、2分に限られることはなく、0分を超え15分以下の時間であってもよい。また、30秒以上10分以下(例えば1分以上7分以下)の時間であってもよい。真空紫外光の照射により、第1成型品101の照射面101aの劣化が進むことで、かえって接合強度が低下する場合があるため、第1成型品101の真空紫外光の照射は所定の時間内であることが好ましい。
【0024】
ここで照度は、照射距離(光源から照射面までの距離)や照射装置の出力等により変わるため、真空紫外光の照射条件としては、照度と照射時間の積から得られる照射エネルギー量をもとに決定してもよい。照射エネルギー量としては、0.1J/cm
2以上10J/cm
2以下であってもよく、また0.5J/cm
2以上6J/cm
2以下(例えば1J/cm
2以上3J/cm
2以下)であってもよい。すなわち、照射装置の出力を上げ、照射距離を短くすることで、照度を高くした場合、照射時間を短くできるため、より短時間での処理が可能となる。ただし、その場合、接合面の凹凸や反りなどの影響による処理ムラが出やすくなる可能性がある。
【0025】
図1(b)に示すように、真空紫外光が照射された第1成型品101を金型30のキャビティ31に設置する。ここで、
図1(b)及び後述する
図1(c)は、金型30の内部を説明するために断面図としている。第1成型品101において第2成型品102に接合が予定される照射面101aは、キャビティ31内に射出される樹脂組成物に接触することができるように、キャビティ31において露出している。
【0026】
ここで、より高い接合強度を確保するためには、第1成型品101を金型30のキャビティ31に設置する操作は、第1成型品101に真空紫外光を照射する工程(
図1(a)を参照)を終えてから、できるだけ短時間(好ましくは30日以内、より好ましくは20日以内、特に好ましくは10日以内)で行うことが望ましい。
【0027】
図1(c)に示すように、金型30のキャビティ31に射出孔32を通じて加熱及び加圧した樹脂組成物の流動体を射出し、第1成型品101とともに第2成型品102が一体に成型されるように二次成型を行う。第2成型品102は、第1成型品101の照射面101aに接触して接合される。
【0028】
図1(d)に示すように、二次成型により金型30のキャビティ31に射出された樹脂組成物が固化すると、最終的に一体的に成型された第1成型品101と第2成型品102が金型から取り出される。第1成型品101と第2成型品102は、第1成型品101の照射面101aに所定深さまで形成された処理層111を介して第2成型品102の対向面に接合される。これによって、第1成型品101及び第2成型品102は、一体として接続され、単一の複合成型品(例えば三次元中空体)を構成するようになる。
【0029】
第1成型品101と第2成型品102との接合は、真空紫外光により活性化された第1成型品101の処理層111が第2成型品102の流動化された樹脂組成物により融着されるものである。したがって、第1成型品101及び第2成型品102の接続は、機械的に堅牢であり、化学的にも安定である。
【0030】
本実施の形態では、一次成型による第1成型品101に処理層111を形成し、二次成型により処理層111を介して第1成型品101に第2成型品102を接続するものである。したがって、接合自体が金型内で行われるため、接合による変形は小さく、バリが発生することもない。
【0031】
本実施の形態は、樹脂組成物として、熱可塑性結晶性樹脂及び/又は熱可塑性非晶性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物を用いることができる。熱可塑性結晶性樹脂としては、堅牢で安定した性質を有するポリオキシメチレン(POM)やポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、液晶ポリマーのような熱可塑性結晶性樹脂を利用することができ、熱可塑性非晶性樹脂としては、ポリカーボネート(PC)、環状ポリオレフィン(COP)、環状ポリオレフィン共重合体(COC)を利用することができる。特に熱可塑性結晶性樹脂は、長期間にわたり大きな機械的応力が加わる樹脂成型品の作製に利用することができる。
【実施例】
【0032】
上述の本実施の形態を適用した実施例について説明する。
図3は、複合成型品を示す写真である。
図3の例では、一次成型で黒色の樹脂組成物にて64×12.7×6.4mmの第1成型品を作製し、この片方の端面である12.7×6.4mmの面が露出するように、127×12.7×6.4mmの金型キャビティ内に配置した後、二次成型で白色の樹脂組成物を、残る63×12.7×6.4mmの空間に射出して、上記12.7×6.4mmの第1成型品端面と接合される第2成型品を形成し、複合成型品を作製した。複合成型品は、エラストマーや反応性化合物を含まない非強化PBT樹脂の樹脂組成物(ウィンテックポリマー社製PBT樹脂ジュラネックス(登録商標) 2002)で作製した。
【0033】
図4は、第1成型品の接合部分の処理条件と接合強度との関係を示すグラフである。このグラフは、
図1で説明した工程に従い二重成型により接合した複合成型品を用い、ISO527−1,2に準拠して引っ張り試験機によって接合強度を測定した結果を示している。
図4には、比較例として、真空紫外光(VUV)を照射しない場合、真空紫外光に代わって紫外光(UV)を照射した場合、真空紫外光の照射に代わって第1成型品の接合面に凹凸状のアンカーを設けた場合を示した。なお、真空紫外光(VUV)および紫外光(UV)の照射は、いずれも照度6mW/cm
2にて7分間行った。
【0034】
図4中の測定値に見られるように、第1成型品に真空紫外光を照射する処理を施した場合には、実用には十分な接合強度が得られた。一方、第1成型品に真空紫外光を照射しない場合、真空紫外光に代わって紫外光を照射した場合には第1成型品及び第2成型品は接合されなかった。真空紫外光を照射した場合の接合強度は、真空紫外光の照射に代わって第1成型品の接合面にアンカーを設けた場合、すなわち機械的な補強を行った場合と同等程度の、実用上十分な接合強度が得られた。
【符号の説明】
【0035】
101 第1成型品
102 第2成型品
20 真空紫外光照射装置
30 金型
31 キャビティ
【要約】
熱可塑性結晶性樹脂組成物を二重成型した樹脂成型品について、樹脂成型品の変形や中空部の変形を小さく抑え、十分な接合強度が得られるように接続する。樹脂組成物からなる樹脂成型品を接合する接合方法であって、第1成型品101の表面において第2成型品102に接合が予定される照射面101aに真空紫外光を照射し、金型30のキャビティ31内に第1成型品101を設置し、第1成型品101の照射面101aに第2成型品102が接合して成型されるようにキャビティ31内に樹脂を射出する。