(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アセトン不溶分中に占めるメタクリル酸アルキル成分及び芳香族ビニル化合物成分の合計の比率が80〜0質量%であり、前記アセトン可溶分中に占めるアクリル酸アルキル成分及び芳香族ビニル化合物成分の合計の比率が50〜0質量%である、請求項1に記載のアクリルフィルム。
請求項1〜3から選択されるいずれかの一項に記載のアクリルフィルムと、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂から選ばれる1種以上の樹脂の層とを積層してなる積層フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<アクリルフィルム>
本発明のアクリルフィルムは、アクリルゴム含有重合体(G)を含有するアクリルフィルムであって、厚みが30〜300μmであり、該アクリルフィルム1m
2について、表面検査装置を用いて、波長400〜1100nmの光の透過率が75%以下となる部分をフィッシュアイとして検出した場合、0.001mm
2以上の大きさのフィッシュアイの数が130個/m
2以下であるアクリルフィルムである。
【0026】
本発明のアクリルフィルムの厚みは、30〜300μmである。アクリルフィルムの厚みが30μm以上であることにより、積層射出成形品の基材を保護し、得られる成形品に深み感をより十分に付与することができる。またアクリルフィルムの厚みが300μm以下であれば、インサート成形およびインモールド成形に適した剛性が得られる。また、これらの観点から、アクリルフィルムの厚みは、50μm以上、200μm以下がより好ましい。
【0027】
本発明においては、波長400〜1100nmの光の透過率が75%以下となる部分をフィッシュアイとして検出している。このような厳しい条件によって検出される小さな欠陥をフィッシュアイとして数えているにも拘らず、フィルム1m
2あたりのフィッシュアイ数が130個以下であることから、本発明のアクリルフィルムは、高いレベルの印刷性を有する。即ち、本発明のアクリルフィルムは、特に印刷抜けが発生し易い印圧の低い淡色の木目柄やメタリック調、漆黒調等のベタ刷りのグラビア印刷を施した場合でも印刷抜けが少なく、従来知られているゴム含有重合体を原料にしたアクリルフィルムでは決して得られなかった、高いレベルの印刷性を有する。
【0028】
表面検査装置としては、B−LSC−6276−MR((株)メック製)が用いられる。
【0029】
〔アクリルゴム含有重合体(G)〕
本発明のアクリルフィルムは、アクリルゴム含有重合体(G)を含有する。このアクリルフィルムは、アクリルゴム含有重合体(G)を含有することにより、アクリル樹脂が持つ高い透明性、耐候性に加え、適度な柔軟性を有しており、熱ラミネーション等の加工性に優れている。
【0030】
アクリルゴム含有重合体(G)は、アクリルゴム成分を内層に含有し、硬質成分を外層に含有する重合体である。前記アクリルゴムは、(メタ)アクリル酸アルキル又はそれを50質量%以上含む混合物を重合して得られたゴムである。
【0031】
〔アクリルゴム含有重合体(G)の製造方法〕
アクリルゴム含有重合体(G)は、以下の工程[1]及び[2]を含む多段重合工程を有する乳化重合法によって製造することが好ましい。
[1]アクリル酸アルキルを20質量%以上含む単量体混合物(a)を水に乳化させた第1乳化液を重合容器内に供給して1段目の重合を行う重合工程、及び、
[2]メタクリル酸アルキルを50質量%以上含む単量体混合物(b)を水に乳化させた第2乳化液を前記第1重合工程後の重合容器内に供給して最終段目の重合を行う重合工程。
【0032】
このアクリルゴム含有重合体(G)のラテックスを製造する方法は、単量体混合物(a)を乳化重合する工程と単量体混合物(b)を乳化重合する工程とを含んでいる。これらの2つの乳化重合工程の間には、必要に応じて単量体混合物(c)等を乳化重合する1段以上の重合工程を含むことができる。二段以上の乳化重合により製造され、一段目と最終段目の重合の際に単量体混合物を乳化液として重合容器内に供給することから、最終的に得られるラテックス中における粗大粒子の生成を抑制することができ、フィッシュアイの少ないフィルムを製造することができる。
【0033】
また、単量体混合物(a)の重合に先立ち、重合体のTgが70〜120℃となる単量体混合物(s)を乳化重合する工程を含むことができる。
【0034】
以下、本発明のアクリルゴム含有重合体(G)のラテックスの製造方法を詳細に説明する。先ず単量体成分を説明し、次いで重合方法を説明する。本明細書において、「(メタ)アクリル」は「アクリル」又は「メタクリル」を意味する。また「単量体混合物」は、一種又は二種の単量体を意味する。
【0035】
〔単量体混合物(a)及びゴム重合体(A)〕
単量体混合物(a)は、その総量100質量%を基準にしてアクリル酸アルキルを20質量%以上含む単量体混合物であって、一段目の重合の原料となる単量体混合物である。単量体混合物(a)を原料として重合する第1重合工程でゴム重合体(A)が製造される。
【0036】
アクリル酸アルキル(以下、「単量体(a1)」という場合がある。)としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、及びアクリル酸n−オクチルが挙げられる。これらの中で、アクリル酸n−ブチルが好ましい。これらは一種を単独で又は二種以上を使用できる。
【0037】
単量体混合物(a)中のアクリル酸アルキル以外の単量体としては、メタクリル酸アルキル(以下、「単量体(a2)」という場合がある。)、これらと共重合可能な二重結合を1個有する他の単量体(以下、「単官能性単量体(a3)」という場合がある。)、及び多官能性単量体(以下、「多官能性単量体(a4)」という場合がある。)等が挙げられる。
【0038】
メタクリル酸アルキルとしては、例えば、アルキル基が直鎖状は分岐鎖状のものが挙げられる。メタクリル酸アルキルの具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル及びメタクリル酸n−ブチルが挙げられる。これらは一種を単独で又は二種以上を使用できる。
【0039】
単官能性単量体(a3)としては、例えば、アクリル酸低級アルコキシ、アクリル酸シアノエチル、アクリルアミド、(メタ)アクリル酸等のアクリル系単量体;スチレン、アルキル置換スチレン等の芳香族ビニル単量体;及びアクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体が挙げられる。これらは一種を単独で又は二種以上を使用できる。
【0040】
多官能性単量体(a4)としては、共重合性の二重結合を1分子内に2個以上有する架橋性単量体が挙げられ、具体例としては以下のものが挙げられる。ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,3−ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,4−ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール等のジ(メタ)アクリル酸アルキレングリコール;ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン;及びトリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等のシアヌレート系単量体、メタクリル酸アリル等のα,β−不飽和カルボン酸又はジカルボン酸のアリル、メタリル又はクロチルエステル等。これらは一種を単独で又は二種以上を使用できる。
【0041】
単量体混合物(a)中のアクリル酸アルキルの含有量は、好ましくは20〜99.9質量%であり、より好ましくは30〜99.9質量%である。単量体混合物(a)中のメタクリル酸アルキルの含有量は、好ましくは0〜69.9質量%である。単量体混合物(a)中の単官能性単量体(a3)の含有量は、好ましくは0〜20質量%である。単量体混合物(a)中の多官能性単量体(a4)の含有量は、好ましくは0.1〜10質量%である。
【0042】
ゴム重合体(A)のガラス転移温度(以下、「Tg」という。)は、例えばフィルム用途における柔軟性などの点から、好ましくは25℃以下であり、好ましくは0〜−60℃である。なお、本発明においては、Tgは、ポリマーハンドブック〔Polymer HandBook(J.Brandrup,Interscience,1989)〕に記載されている値を用いて以下のFOXの式から算出される値をいう。また、アクリルゴム含有重合体(G)中におけるゴム重合体(A)の含有量は、例えばフィルム用途におけるアクリルゴム含有重合体(G)の製膜性などの点から、好ましくは5〜70質量%である。
【0043】
1/(273+Tg)=Σ(wi/(273+Tgi))
上記式中、Tgは、共重合体のガラス転移温度(℃)、wiは、単量体iの質量分率、Tgiは、単量体iを重合して得られる単独重合体のガラス転移温度(℃)である。
【0044】
〔単量体混合物(b)〕
単量体混合物(b)は、その総量100質量%を基準にしてメタクリル酸アルキルを50質量%以上含む単量体混合物である。単量体混合物(b)は最終段目の重合の原料となる単量体混合物であり、重合されてアクリルゴム含有重合体(G)の最外層を構成する。単量体混合物(b)のみの重合体のTgは70〜120℃が好ましく、80〜100℃がより好ましい。単量体混合物(b)中のメタクリル酸アルキルとしては、単量体混合物(a)の説明において「単量体(a2)」として挙げた一種以上の単量体を用いることができる。単量体混合物(b)中の、メタクリル酸アルキル以外の他の単量体としては、アクリル酸アルキル、及び、これらと共重合可能な二重結合を1個有する他の単量体(以下、「単官能性単量体(b3)」という場合がある。)を挙げることができる。アクリル酸アルキルとしては、「単量体(a1)」として挙げた一種以上の単量体を用いることができる。単官能性単量体(b3)としては、「単官能性単量体(a3)」として挙げた一種以上の単量体を用いることができる。
【0045】
単量体混合物(b)中のメタクリル酸アルキルの含有量は、50〜100質量%であり、好ましくは51〜100質量%であり、さらに好ましくは60〜100質量%である。単量体混合物(b)中のアクリル酸アルキルの含有量は、好ましくは0〜20質量%である。単量体混合物(b)中の単官能性単量体(b3)の含有量は、好ましくは0〜49質量%であり、より好ましくは0〜40質量%である。
【0046】
本発明の重合方法の全工程において使用される単量体混合物の総量100質量%中に占める、単量体混合物(b)の使用量は、例えばフィルム用途におけるアクリルゴム含有重合体(G)の製膜性、衝撃強度改質剤用途におけるアクリルゴム含有重合体(G)を用いて得られるフィルムの耐衝撃性などの点から、好ましくは30〜95質量%である。
【0047】
〔単量体混合物(c)〕
本発明においては、単量体混合物(a)を重合してゴム重合体(A)を製造する工程、及び、該ゴム重合体(A)の存在下に単量体混合物(b)を重合する工程の間には、単量体混合物(c)を乳化重合する工程を含むことができる。単量体混合物(c)としては、アクリル酸アルキル9.9〜90質量%、メタクリル酸アルキル0〜90質量%、これらと共重合可能な二重結合を1個有する他の単量体0〜20質量%、及び多官能性単量体0.1〜10質量%を含む混合物が挙げられる。ここで用いられる「他の単量体」及び「多官能性単量体」としては、それぞれ、前述の単官能性単量体(a3)及び多官能性単量体(a4)が挙げられる。
【0048】
単量体混合物(c)を乳化重合する工程は、二段以上とすることができる。二段以上で重合する場合、単量体混合物(c)の組成は同一でもよく異なっていてもよい。また、単量体混合物(c)は界面活性剤を含んでいても良く、さらに水と混合し、撹拌して乳化液として重合容器内に供給しても良い。
【0049】
〔逐次多段乳化重合法〕
アクリルゴム含有重合体(G)の製造法としては、例えば、逐次多段乳化重合法が挙げられる。
【0050】
アクリルゴム含有重合体(G)を逐次多段乳化重合法で製造する方法としては、例えば、ゴム重合体(A)を得るための単量体混合物(a)、水及び界面活性剤を混合して乳化液とした状態で重合容器内に供給して重合した後に、単量体混合物(c)を重合容器内に供給して重合し、さらに単量体混合物(b)、水及び界面活性剤を混合して乳化液とした状態で重合容器内に供給して重合する方法が挙げられる。なお、単量体混合物(c)を重合容器内に供給して重合する工程は、必要に応じて行われる工程である。
【0051】
上記の方法で製造されたアクリルゴム含有重合体(G)を用いて得られる重合体製品は、ブツが少ないという利点を有する。特に重合体製品がフィルムである場合はフィッシュアイが少ない点で好ましい。
【0052】
逐次多段乳化重合法で製造する際に使用される界面活性剤としては、例えば、アニオン系、カチオン系及びノニオン系の界面活性剤が挙げられる。これらは一種を単独で又は二種以上を使用できる。アニオン系の界面活性剤としては、例えば以下のものが挙げられる。ロジン石鹸、オレイン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム系等のカルボン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸塩;及び、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム等のリン酸エステル塩。アニオン系の界面活性剤の市販品の具体例としては、例えば以下の商品名のものが挙げられる。三洋化成工業(株)製のエレミノールNC−718、東邦化学工業(株)製のフォスファノールLS−529、フォスファノールRS−610NA、フォスファノールRS−620NA、フォスファノールRS−630NA、フォスファノールRS−640NA、フォスファノールRS−650NA及びフォスファノールRS−660NA、並びに花王(株)製のラテムルP−0404、ラテムルP−0405、ラテムルP−0406及びラテムルP−0407。
【0053】
単量体混合物、水及び界面活性剤を混合して乳化液を調製する方法としては、例えば以下(1)〜(3)の方法が挙げられる。(1)水中に単量体混合物を仕込んだ後、界面活性剤を投入して十分に攪拌する方法、(2)水中に界面活性剤を仕込んだ後に単量体混合物を投入して十分に攪拌する方法、及び(3)単量体混合物中に界面活性剤を仕込んだ後に水を投入して十分に攪拌する方法。
【0054】
単量体混合物を水及び界面活性剤と混合して乳化液を調製するための混合装置としては、例えば、攪拌翼を備えた攪拌機;ホモジナイザー、ホモミキサー等の強制乳化装置;インラインミキサーなどの移送兼混合装置;及び膜乳化装置が挙げられる。
【0055】
上記乳化液としては、単量体混合物の液中に水滴が分散したW/O型、水中に単量体混合物の液滴が分散したO/W型のいずれの分散体でも使用することができる。O/W型であってかつ分散相の液滴の数平均分散粒径が300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが特に好ましい。また、この数平均分散粒径は0.1μm以上であることが好ましい。
【0056】
上記乳化液の調製に用いる界面活性剤の量は、重合のすべての段階における単量体混合物の総量100質量部に対して、0.5質量部以上1.6質量部以下とすることが望ましい。逐次多段重合体の粒径調整において、通常、一段目の重合工程における界面活性剤の使用量により粒径が調整される。しかしながら、本発明においては、単量体混合物に加える界面活性剤とは別に、重合容器内に予め仕込む水(水性媒体)中に界面活性剤を添加することにより、少ない界面活性剤の使用量で、ゴム含有重合体の粒子径を小さくすることができる。
【0057】
単量体混合物(a)及び単量体混合物(b)を重合する際、又は更に単量体混合物(c)を重合する際に使用される重合開始剤及び連鎖移動剤としては公知のものが使用できる。重合開始剤及び連鎖移動剤の添加方法としては、水相中、単量体相中のいずれか片方に添加する方法、又は両相中に添加する方法が挙げられる。
【0058】
重合開始剤としては、本発明の目的を達することができれば特に制限はないが、有機系過酸化物、無機系過酸化物、アゾ化合物などの開始剤を使用することができる。具体的には、例えば以下のものが挙げられる。t−ブチルハイドロパ−オキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパ−オキサイド、パ−オキシマレイン酸t−ブチルエステル、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物;過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系開始剤。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらの開始剤は、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、アスコルビン酸、ヒドロキシアセトン酸、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸2ナトリウムの錯体などの還元剤と組み合わせた通常のレドックス系開始剤として使用してもよい。
【0059】
連鎖移動剤としては、例えば、炭素数2〜20のアルキルメルカプタン、メルカプト酸類、チオフェノール及び四塩化炭素が挙げられる。これらは一種を単独で又は二種以上を使用できる。例えば、n−オクチルメルカプタンが挙げられる。
【0060】
アクリルゴム含有重合体(G)のラテックスの製造方法として、単量体混合物(a)、水及び界面活性剤を混合して乳化させた第1乳化液を重合容器内に供給して重合した後に、単量体混合物(c)を反応器内に供給して重合し、さらに単量体混合物(b)、水及び界面活性剤を混合して乳化させた第2乳化液を重合容器内に供給して重合する方法が挙げられる。この場合、硫酸第一鉄、エチレンジアミン四酢酸ニナトリウム及びナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート2水和物を含む、反応器内の水溶液を重合温度まで昇温した後に、単量体混合物(a)、水及び界面活性剤を混合した乳化液を重合容器内に供給することが好ましい。
【0061】
アクリルゴム含有重合体(G)のラテックスを得るための重合温度としては、用いる重合開始剤等の種類や量によって異なるが、例えば40〜120℃程度である。
【0062】
上記の方法で得られたアクリルゴム含有重合体(G)のラテックスは、必要に応じて、ろ材を配したろ過装置を用いて処理することができる。ろ過装置としては、例えば、以下の(1)〜(3)のろ過装置が挙げられる。
(1)円筒型ろ過室内に円筒型のろ材を配し、該ろ材内に攪拌翼を配した遠心分離型ろ過装置、
(2)三角断面を持つウェッジワイヤーにより構成された円筒状のエレメントと該エレメントの外周に沿って回転するスクレイパとを有するろ過装置、及び、
(3)ろ材が該ろ材面に対して水平の円運動及び垂直の振幅運動をする振動型ろ過装置。
【0063】
ろ材としては、網状のメッシュ、多孔質膜、メンブレンフィルター、不織シート、ウエッジワイヤースクリーンなどが挙げられる。網状のメッシュを配したろ過装置は、どの目も同じ大きさであるため目開き以上の大きさの異物を完全に除去することが可能であり、好ましい。メッシュの材質としては、ナイロン、ポリエステル等の樹脂や金属が挙げられ、これらの中でも、破れにくさの点から金属がより好ましい。ろ過装置としては、ろ材の目詰まりを防止する機能を有する振動型ろ過装置が好ましい。
【0064】
アクリルゴム含有重合体(G)のラテックスをろ過するろ材の目開きとしては、1〜100μmが好ましい。ろ材の目開きが小さくなるほどラテックスをろ過する際に粗大粒子が目詰まりを起こし、ろ過が不良となるため、ろ材の目開きは、10μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましい。また、ラテックス中の粗大粒子がろ過装置を通過するとアクリルフィルムのフィッシュアイの原因となるため、ろ材の目開きは、70μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましい。
【0065】
本発明によるアクリルゴム含有重合体(G)をラテックス形態で使用する際、公知の方法により、界面活性剤等を添加したり、アクリルゴム含有重合体(G)の粒子の表面をカルボキシル基によって変性することによってラテックスを安定化させることができる。それにより、化学的、機械的、物理的な刺激により、ラテックスの安定な分散状態が乱されることを抑制又は防止することができる。その際に使用される界面活性剤としては、上記の界面活性剤が挙げられる。
【0066】
このようにして得られたアクリルゴム含有重合体(G)のラテックスは、ラテックス状態のままで各種用途に使用することができる。また、塩析凝固法、酸析凝固法、凍結凝固法、スプレードライ法など公知の方法により、ラテックス中からアクリルゴム含有重合体(G)を回収し、これを乾燥して、アクリルゴム含有重合体(G)の粉体として使用することができる。更に、この粉体を溶融押出してペレット化して、使用することができる。用途としては、フィルム、スペーサー、ブロッキング防止剤、樹脂添加剤、化粧品用粒子、徐放性担体、繊維改質剤、樹脂あるいは繊維の機能付加剤等が挙げられる。
【0067】
アクリルゴム含有重合体(G)を、金属塩を用いた塩析処理による凝固法で回収する場合、最終的に得られたアクリルゴム含有重合体(G)中における残存金属含有量を800ppm以下にすることが好ましく、残存金属含有量は微量であるほど好ましい。
【0068】
上記の塩析処理における金属塩としてカルシウム、マグネシウム、ナトリウム等の水との親和性の強い金属塩を使用する場合には、アクリルゴム含有重合体(G)中の残存金属含有量を極力少なくすることが好ましい。これにより、例えばアクリルフィルムを沸騰水中に浸漬した際の白化現象を容易に抑制できる。
【0069】
本発明のアクリルフィルムの構成材料としては、アクリルゴム含有重合体(G)を単独で用いることもできるが、2種以上を併用しても良い。また、アクリルゴム含有重合体(G)とは異なり、乳化液を調製する工程を含まない多段乳化重合で得られるアクリルゴム含有重合体(G’)を併用しても良い。アクリルゴム含有重合体(G’)の製造する方法としては、例えば、ゴム重合体(A)を得るための単量体混合物(a)、水及び界面活性剤を混合して重合容器内に供給して重合した後に、単量体混合物(c)を重合容器内に供給して重合し、さらに単量体混合物(b)、水及び界面活性剤を混合して重合容器内に供給して重合する方法が挙げられる。なお、単量体混合物(c)を重合容器内に供給して重合する工程は、必要に応じて行われる工程である。
【0070】
アクリルフィルムの構成材料としては、以下に示す熱可塑性重合体(H)とアクリルゴム含有重合体(G)を併用した樹脂組成物(I)を用いることもできる。
【0071】
〔熱可塑性重合体(H)〕
熱可塑性重合体(H)は、メタクリル酸アルキル(H1)単位を50質量%以上含むことが好ましい。熱可塑性重合体(H)は、炭素数1〜4のメタクリル酸アルキル(H1)単位を50〜100質量%、アクリル酸アルキル(H2)単位を0〜50質量%と、これらと共重合可能な二重結合を有する、(H1)、(H2)以外の単量体(H3)の単位の少なくとも一種を0〜50質量%含む重合体であって、還元粘度が0.15L/g以下である重合体であることがより好ましい。このような熱可塑性重合体(H)を併用することで、表面硬度、耐熱性(建材用途の場合は耐艶戻り性)を高めることができる。したがって、熱可塑性重合体(H)は、Tgが80℃以上、好ましくは90℃以上であることが好ましい。尚、「還元粘度」は、重合体0.1gをクロロホルム100mLに溶解し、25℃で測定される値である。
【0072】
メタクリル酸アルキル(H1)としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル等が挙げられるが、これらのうちメタクリル酸メチルが好ましい。これらは一種を単独で又は二種以上を使用できる。
【0073】
アクリル酸アルキル(H2)としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル等が挙げられるが、これらのうちアクリル酸メチルが好ましい。これらは単独で又は二種以上を使用できる。
【0074】
単量体(H3)としては、例えば、スチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらは一種を単独で又は二種以上を使用できる。
【0075】
熱可塑性重合体(H)中におけるメタクリル酸アルキル(H1)単位の含有量は、得られるアクリルフィルムの表面硬度および耐熱性(建材用途の場合は耐艶戻り性)の観点から、50〜100質量%が好ましい。この含有量は、より好ましくは80〜99.9質量%である。
【0076】
熱可塑性重合体(H)中におけるアクリル酸アルキル(H2)単位の含有量は、得られるアクリルフィルムの製膜性、インサート成形およびインモールド成形可能な靭性を付与する観点から、0〜50質量%が好ましい。この含有量は、より好ましくは0.1〜20質量%である。
【0077】
熱可塑性重合体(H)の還元粘度は、得られるアクリルフィルムのインサート成形性およびインモールド成形性、および製膜性の観点から、0.15L/g以下が好ましく、0.10L/g以下がより好ましい。また、製膜性の観点から、還元粘度は、0.01L/g以上が好ましく、0.03L/g以上がより好ましい。
【0078】
熱可塑性重合体(H)の製造方法は特に限定されず、通常の懸濁重合、乳化重合、塊状重合等の方法で重合することができる。
【0079】
〔樹脂組成物(I)〕
本発明のアクリルフィルムに好適に使用される樹脂組成物(I)は、アクリルゴム含有重合体(G)と熱可塑性重合体(H)とを含む。好ましくは、アクリルゴム含有重合体(G)1〜99質量%、及び熱可塑性重合体(H)1〜99質量%からなる。得られるアクリルフィルムの耐成形白化性の観点から、樹脂組成物(I)中のアクリルゴム含有重合体(G)の含有量は、より好ましくは50質量%以上、最も好ましくは70質量%以上である。樹脂組成物(I)中の熱可塑性重合体(H)の含有量は、より好ましくは50質量%以下、最も好ましくは30質量%以下である。
【0080】
〔アセトン不溶分と可溶分〕
本発明のアクリルフィルムを構成する成分は、アセトン不溶分量W1がアクリルフィルム中5〜70質量%であり、アセトン可溶分量W2がアクリルフィルム中95〜30質量%であり、かつ、該アセトン不溶分中に占めるアクリル酸アルキル成分の比率が20質量%以上であり、かつ該アセトン可溶分中に占めるメタクリル酸アルキル成分の比率が50質量%以上であることが好ましい。但し、W1とW2の合計は100質量%である。
【0081】
アクリルフィルムのアセトン不溶分量W1は、より優れた耐成形白化性を得る観点から、5質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。尚、アセトン不溶分の測定方法は後述する。
【0082】
耐成形白化性の点から、アクリルフィルムのアセトン不溶分量は多い程有利であるが、易成形性の点から、ある量以上のフリーポリマーの存在が必要であるため、アセトン不溶分量は70質量%以下が好ましい。
【0083】
アクリルフィルムのアセトン不溶分中に占めるアクリル酸アルキル成分の比率は、柔軟性の観点から、20質量%以上が好ましい。
【0084】
アクリルフィルムのアセトン可溶分中に占めるメタクリル酸アルキル成分の比率は、表面硬度、耐候性の観点から、50%質量%以上が好ましい。
【0085】
本発明のアクリルフィルムは、アセトン不溶分中に占めるメタクリル酸アルキル成分及び芳香族ビニル化合物成分の合計の比率が80〜0質量%であることが好ましい。アセトン不溶分中に占めるメタクリル酸アルキル成分の比率は、アクリルフィルムの硬度と耐候性の観点から、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。アセトン不溶分中に占める芳香族ビニル化合物成分の比率は、アクリルフィルムの透明性の観点から、20質量%以下が好ましい。
【0086】
また、本発明のアクリルフィルムは、アセトン可溶分中に占めるアクリル酸アルキル成分及び芳香族ビニル化合物成分の合計の比率が50〜0質量%であることが好ましい。アセトン可溶成分中に占めるアクリル酸アルキル成分の比率は、アクリルフィルムの柔軟性の観点から、5質量%以上が好ましい。アセトン可溶分中に占める芳香族ビニル化合物成分の比率は、アクリルフィルムの透明性の観点から、20質量%以下が好ましい。
【0087】
本発明のアクリルフィルムの熱変形温度は70℃以上であることが好ましい。熱変形温度が70℃以上であると、アクリルフィルムを表面に有する積層体の加熱時後の表面荒れが発生し難くなる。また、熱変形温度が80℃以上の場合、例えばアクリルフィルムの表面をエンボス加工等により粗面化処理した積層体を熱加工した際に、エンボス面の艶戻りによる意匠性低下を抑制することができるので、工業的価値が高い。
【0088】
〔添加剤〕
本発明のアクリルフィルムは、必要に応じて、一般の配合剤、例えば、安定剤、滑剤、加工助剤、可塑剤、耐衝撃剤、発泡剤、充填剤、抗菌剤、防カビ剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を含むことができる。
【0089】
基材の保護の点では、耐候性を付与するために、紫外線吸収剤が添加されることが好ましい。紫外線吸収剤としては公知のものを用いることができ、共重合タイプのものを使用することもできる。使用される紫外線吸収剤の分子量は300以上であることが好ましく、より好ましくは400以上である。分子量が300以上の紫外線吸収剤を使用すると、射出成形金型内で真空成形又は圧空成形を施す際の紫外線吸収剤の揮発による金型汚れ等を防止することができる。また一般的に、分子量が高い紫外線吸収剤ほど、フィルム状態に加工した後、長期間に亘ってブリードアウトが起こりにくく、分子量が低いものよりも紫外線吸収性能が長期間に亘り持続する。さらに、紫外線吸収剤の分子量が300以上であると、アクリルフィルムがTダイから押し出され冷却ロールで冷やされるまでの間に、紫外線吸収剤が揮発する量が少ない。従って、アクリルフィルム中に残留する紫外線吸収剤の量が十分なので、アクリルフィルムは良好な性能を発現する。また、揮発した紫外線吸収剤がTダイ上部にあるTダイを吊るすチェーンや排気用のフードの上で再結晶して経時的に成長し、これがやがてフィルム上に落ちて、フィルム外観の欠陥になるという問題も少なくなる。
【0090】
紫外線吸収剤の種類は、特に限定されないが、分子量400以上のベンゾトリアゾール系又は分子量400以上のトリアジン系のものが特に好ましく使用できる。前者の具体例としては、チバスペシャリティケミカルズ社製の商品名:チヌビン234、(株)ADEKA製の商品名:アデカスタブLA−31が挙げられ、後者の具体例としては、チバスペシャリティケミカルズ社製の商品名:チヌビン1577等が挙げられる。
【0091】
アクリルゴム含有重合体(G)又は樹脂組成物(I)の100質量部に対する紫外線吸収剤の添加量は0.1〜10質量部が好ましい。アクリルフィルムの耐候性改良の観点から、紫外線吸収剤の添加量はより好ましくは0.5質量部以上、最も好ましくは1質量部以上である。製膜時のロール汚れ、アクリルフィルムの耐薬品性、透明性の観点から、紫外線吸収剤の添加量は5質量部以下がより好ましく、最も好ましくは3質量部以下である。
【0092】
また、光安定剤としては公知のものを用いることができるが、アクリルフィルムの耐光性のみならず、耐薬品性をより向上させるために、ヒンダードアミン系光安定剤等のラジカル捕捉剤を用いることが好ましい。このような光安定剤は、例えばアクリルフィルムに整髪料が付着した際の外観変化を著しく改善することができ工業的利用価値が高い。
【0093】
アクリルゴム含有重合体(G)又は樹脂組成物(I)の100質量部に対するヒンダードアミン系光安定剤の添加量は0.01〜5質量部が好ましい。アクリルフィルムの耐光性、耐薬品性改良の観点から、ヒンダードアミン系光安定剤の添加量はより好ましくは0.1質量部以上、最も好ましくは0.2質量部以上である。製膜時のロール汚れの観点から、ヒンダードアミン系光安定剤の添加量は2質量部以下がより好ましく、最も好ましくは1質量部以下である。
【0094】
これらの特定の紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を併用することにより、特に車輌用途に好適なアクリルフィルムを得ることができる。
【0095】
上記のような配合剤の添加方法としては、アクリルフィルムを形成するための押出機に、アクリルゴム含有重合体(G)又は樹脂組成物(I)を含む成分とともに配合剤を供給する方法と、アクリルゴム含有重合体(G)又は樹脂組成物(I)を含む成分にあらかじめ配合剤を添加した混合物を各種混練機にて混練混合する方法とがある。後者の方法に使用する混練機としては、通常の単軸押出機、二軸押出機、バンバリミキサー、ロール混練機等が挙げられる。
【0096】
〔アクリルフィルムの製造方法〕
アクリルゴム含有重合体(G)を用いてアクリルフィルムを成形する方法としては特に限定されるものではないが、公知の溶液流延法、Tダイ法、インフレーション法等の溶融押出法等が挙げられ、このうち経済性の点でTダイ法がもっとも好ましい方法である。
【0097】
本発明のアクリルフィルムは、アクリルゴム含有重合体(G)のラテックスを、目開きが1〜100μmであるろ材を通過させてろ過した後にアクリルゴム含有重合体(G)の粉体を得る工程、及び該アクリルゴム含有重合体(G)の粉体を含むアクリル樹脂組成物をTダイから溶融押出してフィルムを製造する工程を含む方法によって製造することができる。アクリルゴム含有重合体(G)の粉体を含むアクリル樹脂組成物としては、前記樹脂組成物(I)が挙げられる。
【0098】
また本発明のアクリルフィルムは、アクリルゴム含有重合体(G)を含有するアクリル樹脂組成物をTダイから溶融押出してフィルムを製造する工程、及び該フィルムを金属ロール、非金属ロール及び金属ベルトから選ばれる二つにより挟持する工程を含む方法によって製造することができる。
【0099】
なお、Tダイ法などで溶融押出をする場合は、200メッシュ以上(=75μm以下)のスクリーンメッシュで溶融状態にあるアクリル樹脂をろ過しながら押出しすることが好ましい。スクリーンメッシュは一枚又は二枚以上用いられる。目開きの異なる別種のスクリーンメッシュを二枚以上用いてもよい。
【0100】
Tダイより溶融押出されたアクリル樹脂組成物は、冷却ロールを備えた引き取り機にてフィルム状に製膜される。溶融樹脂の冷却方法としては特に限定されないが、1本の金属ロールに接触して製膜する方法;複数の金属ロール、非金属ロール及び/又は金属ベルトに挟持して製膜する方法を例示することができる。
【0101】
1本の金属ロールに溶融アクリル樹脂組成物をキャスト接触して製膜する方法では、スリット幅が1mm以下であるTダイを使用することが、特定の加熱収縮率を有するアクリル樹脂フィルムを容易に製造する観点から好ましい。
【0102】
一方、複数の金属ロール、非金属ロール及び/又は金属ベルトに挟持して製膜する方法を用いれば、得られるアクリル樹脂フィルムの表面平滑性を向上させ、アクリル樹脂フィルムに印刷処理した際の印刷抜けを抑制することができる。
【0103】
なお、金属ロールとしては、金属製の鏡面タッチロール;特開平08−155995号公報又はWO97/28950号に記載の金属スリーブ(金属製薄膜パイプ)と成型用ロールからなるスリーブタッチ方式で使用されるロール等を例示することができる。また、非金属ロールとしては、シリコンゴム性等のタッチロール等を例示することができる。更に、金属ベルトとしては、金属製のエンドレスベルト等を例示することができる。なお、これらの金属ロール、非金属ロール及び金属ベルトを複数組み合わせて使用することもできる。
【0104】
以上に述べた、複数の金属ロール、非金属ロール及び/又は金属ベルトに狭持して製膜する方法では、溶融押出後のアクリル樹脂組成物を、バンク(樹脂溜まり)が無い状態で挟持し、実質的に圧延されることなく面転写させて製膜する。バンク(樹脂溜まり)を形成することなく製膜した場合は、冷却過程にあるアクリル樹脂組成物が圧延されることなく面転写されるため、この方法で製膜したアクリル樹脂フィルムの加熱収縮率を低減することができ、特定の加熱収縮率を有するアクリル樹脂フィルムを容易に製造することができる。
【0105】
なお、複数の金属ロール、非金属ロール及び/又は金属ベルトを使用して製膜する場合に、使用する少なくとも1本の金属ロール、非金属ロール又は金属ベルトの表面に、エンボス加工、マット加工等の形状加工を施すことによって、アクリル樹脂フィルムの片面あるいは両面に形状転写させることもできる。
【0106】
〔表面加工〕
また、本発明のアクリルフィルムは、各種基材に意匠性を付与するために、必要に応じて適当な印刷法により印刷を施し使用することできる。この場合、アクリルフィルムに片側印刷処理を施したものを用いることが好ましく、印刷面を基材樹脂との接着面に配することが、印刷面の保護の観点から、また製品に高級感を付与する観点から好ましい。また、基材の色調を生かし、透明な塗装の代替として用いる場合には、アクリルフィルムは透明のまま使用することができる。特に、このように基材の色調を生かす用途には、本発明のアクリルフィルムは、ポリ塩化ビニルフィルムやポリエステルフィルムに比べ、透明性、深み感や高級感の点で優れている。
【0107】
また、本発明のアクリルゴム含有重合体(G)を含有するアクリルフィルムは、フィルム中のフィッシュアイの数が少ないため、特に印刷抜けが発生し易い印圧の低い淡色の木目柄やメタリック調、漆黒調等のベタ刷りのグラビア印刷を施した場合でも、印刷抜けが少なく、従来知られているゴム含有重合体をフィルム用原料にしたアクリルフィルムでは決して得られない、高いレベルの印刷性を有する。
【0108】
さらに、本発明のアクリルフィルムは、必要に応じて、エンボス加工等の艶消処理や着色加工して用いることができる。
【0109】
<積層フィルム>
本発明のアクリルフィルムは、その一方の面又は両面に熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂から選ばれる1種以上の樹脂の層を積層した積層フィルムとして用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル系樹脂、又はこれらを50質量%以上含む樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、又はこれらを50質量%以上含む樹脂が挙げられる。光硬化性樹脂としては、例えば、側鎖にラジカル重合性不飽和基を有する熱可塑性樹脂および光重合開始剤を含む樹脂が挙げられる。
【0110】
積層フィルムを得る方法としては、熱ラミネーション、ドライラミネーション、押出ラミネーション、共押出及び塗布など、公知の方法を用いることができる。
【0111】
<積層射出成形品>
本発明のアクリルフィルム又は積層フィルムは、射出成形品の上に積層されてなる積層射出成形品として用いることができる。積層射出成形品を得る方法としては、予め形状加工したアクリルフィルム又は積層フィルムを射出成形用金型に挿入するインサート成形法や、金型内で真空成形後射出成形を行うインモールド成形法等の公知の成形方法を用いることができる。
【0112】
インモールド成形法は、フィルムの成形と射出成形を一工程で行えるため、作業性、経済性の点から好ましい。加熱温度としてはアクリルフィルムが軟化する温度以上であることが望ましい。加熱温度の下限は、フィルムの熱的性質、あるいは成形品の形状に左右されるが、通常70℃以上である。また、加熱温度が高すぎると成形品の表面外観が悪化したり、離型性が悪くなることから、加熱温度の上限は、フィルムの熱的性質、あるいは成形品の形状に左右されるものの、通常170℃以下であることが好ましい。インモールド成形法によれば、このように真空成形で樹脂材料に三次元形状を付与した後、射出成形によりアクリルフィルムと基材樹脂を溶融一体化させることで表層にアクリルフィルム層を有するアクリル積層成形品を得ることができる。
【0113】
インサート成形やインモールド成形において、アクリルフィルムに射出成形する基材用の樹脂としては、ABS樹脂、AS樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル系樹脂、又はこれらを50質量%以上含む樹脂が挙げられる。
【0114】
本発明のアクリルフィルム又は積層フィルムは、必要に応じて各種機能付与のための表面処理を施すことができ、例えば以下の処理が挙げられる。シルク印刷、インクジェットプリント等の印刷処理、金属調付与もしくは反射防止のための金属蒸着、スパッタリング、湿式メッキ処理、表面硬度向上のための表面硬化処理、汚れ防止のための撥水化処理もしくは光触媒層形成処理、塵付着防止もしくは電磁波カットを目的とした帯電防止処理、反射防止層形成、防眩処理等。
【0115】
本発明のアクリルフィルム又は積層フィルムを含む積層射出成形品の工業的用途例としては、以下のものを例示することができる。車両外装、車両内装等の車両部品;壁材、窓枠等の建材部品;食器、玩具等の日用雑貨;掃除機ハウジング、テレビジョンハウジング、エアコンハウジング等の家電部品;インテリア部材;船舶部材;パソコンハウジング、携帯電話ハウジング等の電子通信機等。
【実施例】
【0116】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。なお、実施例及び比較例中の「部」は「質量部」を「%」は「質量%」をそれぞれ表し、略記号/略称は表1に示すとおりである。
【0117】
また、実施例中の各測定値は、以下の方法によって得られたものである。
【0118】
〔評価1〕乳化液分散相の粒径:
プレパラート上に乳化液を1滴滴下し、光学顕微鏡で観察視野範囲内に10個以上の分散相粒子が観察できる倍率に拡大率を固定した。観察視野範囲内で観察可能な全ての分散相粒子数を計数し、各粒子の粒子径を見積もった。得られた結果をもとに分散相の数平均分散粒径(μm)を求めた。
【0119】
〔評価2〕重合体粒子の質量平均粒径:
乳化重合にて得られた重合体のラテックスを大塚電子(株)製の光散乱光度計(FPAR―1000)を用い、動的光散乱法で測定して、重合体粒子の質量平均粒径を求めた。
【0120】
〔評価3〕ラテックスのろ過性:
乳化重合にて得られた重合体のラテックスをよく撹拌した直後、その100gを量り採り、270メッシュ(目開き54μm)のナイロンメッシュが設置された円筒型のろ過装置(ADVANTEC社製:KST−47、有効ろ過面積:12.5cm
2)を用いてろ過し、30秒間にろ過されたラテックス量(g)を測定した。その量(g/30秒)で表示した。
【0121】
〔評価4〕アクリルフィルム中のアセトン不溶分量:
アクリルフィルム0.5gの1質量%アセトン溶液を調製し、室温(25℃)にて24時間放置後16000rpmで90分間遠心分離を行い、上澄み液を除き、得られた湿潤物を室温にて18時間減圧乾燥(真空度47mmHg)した。抽出前質量をWi(g)、乾燥残物の質量をWd(g)として、以下の計算式にて算出した値W1(%)をアセトン不溶分量とした。
W1(%)=Wd(g)/Wi(g)×100。
【0122】
〔評価5〕成分分析:
アクリルフィルム0.5gの1質量%アセトン溶液を調製し、室温(25℃)にて24時間放置後16000rpmで90分間遠心分離を行い、上澄み液を除き、得られた湿潤物を室温にて18時間減圧乾燥(真空度47mmHg)した。このようにして得られた乾燥残物Wp(g)について、熱分解ガスクロマトグラフィを用いて、アクリル酸アルキル成分の質量Wa(g)を測定した。「Wa/Wp×100」をアセトン不溶分中のアクリル酸アルキル成分の比率(%)とした。また前記上澄み液からアセトンを蒸発させて、室温にて18時間減圧乾燥(真空度47mmHg)させた後の乾燥残物Wc(g)について、熱分解ガスクロマトグラフィを用いて、メタクリル酸アルキル成分の質量Wmを測定した。「Wm/Wc×100」をアセトン可溶分中のメタクリル酸アルキル成分の比率(%)とした。
【0123】
〔評価6〕フィッシュアイの数:
厚み50μm、長さ1m、幅1mのフィルム1m
2について、B−LSC−6276−MR((株)メック製)を用いて、波長400〜1100nmの範囲の光の透過率が75%以下となる0.001mm
2以上のフィッシュアイの数(個/m
2)を測定した。
【0124】
<実施例1>
〔1.単量体混合物の調製〕
表2に示す種類と量の化合物を、攪拌機を備えた各容器内に仕込んで撹拌して各単量体混合物を得た。
【0125】
〔2.重合反応〕
単量体混合物(a−1)を含む容器1内に、脱イオン水を5.8部及び界面活性剤Sを0.7部、投入し、撹拌して第1乳化液(a−1e)を調製した。この乳化液の一部をサンプリングして乳化液分散相の粒径を測定し、表3に示した。次に、冷却器付き重合容器内に脱イオン水を147部、界面活性剤Sを0.1部、投入し、75℃に昇温し、さらに、脱イオン水を5部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート2水和物を0.20部、硫酸第一鉄を0.0001部、EDTAを0.0003部の混合物を重合容器内に一括投入した。次いで、この重合容器内の空気を窒素で置換し、窒素雰囲気下で前記合物を撹拌しながら、乳化液(a−1e)を9分間かけて前記重合容器内に滴下した。その後、更に15分間反応を継続させて重合を完結し、ゴム重合体(A−1)のラテックスを得た。
【0126】
続いて容器2中の単量体混合物(c−1)を90分間かけて前記重合容器内に滴下した後、60分間反応を継続させ、重合体(A−1−c1)のラテックスを得た。更に、容器3中の単量体混合物(c−2)を45分間かけて前記重合容器内に滴下した後、60分間反応を継続させ、重合体(A−1−c2)のラテックスを得た。
【0127】
次いで、単量体混合物(b−1)を含む容器4内に、脱イオン水を25部及び界面活性剤Sを0.3部投入し、撹拌して第2乳化液(b−1e)を調製した。この乳化液の一部をサンプリングして乳化液分散相の粒径を測定し、表3に示した。これを前記ラテックス中に140分間かけて滴下した後、60分間反応を継続させ、アクリルゴム含有重合体(G−1)のラテックスを得た。
【0128】
〔3.ラテックスのろ過〕
このラテックス中のアクリルゴム含有重合体(G−1)の一部を用いて重合体粒子の質量平均粒径及びラテックスのろ過性を測定し、その結果を表3に示した。またこのラテックスを、ろ材に270メッシュ(平均目開き:54μm)のSUS製のメッシュを取り付けた振動型ろ過装置を用いて、ろ過した後、酢酸カルシウム3部を含む水溶液中で塩析させ、水洗回収後、乾燥し、粉体状のゴム含有重合体(G−1)を得た。
【0129】
〔4.フィルムの製造及び評価〕
このようにして得られたアクリルゴム含有重合体(G−1)75部と、熱可塑性重合体(H−1)[MMA/MA共重合体(MMA/MA=99/1(質量比)、還元粘度ηsp/c=0.06L/g)]25部とを、配合剤としてチバスペシャリティケミカルズ社「チヌビン234」1.4部、(株)ADEKA製「アデカズタブLA−67」0.3部、及びBASF社製「IRGANOX 1076」0.1部を添加してヘンシェルミキサーを用いて混合し、この混合物を240℃に加熱した脱気式押出機(池貝鉄工(株)製PCM−30)に供給し、混練して樹脂組成物(I−1)のペレットを得た。このペレットを80℃で24時間乾燥し、300mm幅のTダイを取り付けた40mmφのノンベントスクリュー型押出機(L/D=26)を用いてシリンダー温度200℃〜240℃、Tダイ温度250℃、冷却ロール温度70℃の条件で、厚み50μmのフィルム(F−1)を製膜した。このフィルムのアセトン不溶分量、アセトン不溶分中のアクリル酸アルキル成分の比率、アセトン可溶分中のメタクリル酸アルキル成分の比率、及びフィルムフィッシュアイの数を測定し、表3に示した。
【0130】
<実施例2>
表2に示される単量体混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、アクリルゴム含有重合体(G−2)のラテックスを得た。
【0131】
このラテックス中のアクリルゴム含有重合体(G−2)の一部を用いて重合体粒子の質量平均粒径及びラテックスのろ過性を測定し、その結果を表3に示した。
【0132】
また、このラテックスを、ろ材に400メッシュ(平均目開き:34μm)のSUS製のメッシュを取り付けた振動型ろ過装置を用いて、ろ過した後、酢酸カルシウム3部を含む水溶液中で塩析させ、水洗回収後、乾燥し、粉体状のアクリルゴム含有重合体(G−2)を得た。
【0133】
このようにして得られたアクリルゴム含有重合体(G−2)100部を、アクリルゴム含有重合体(G−1)75部と熱可塑性重合体(H−1)25部の代わりに用いたこと以外は、実施例1と同様にして、厚み50μmのフィルム(F−2)を製膜した。このフィルムについて、実施例1と同様の評価を行い、表3に示す評価結果を得た。アクリルゴム含有重合体(G−2)ラテックスを、目開き34μmのメッシュでろ過したため、フィルム中のフィッシュアイの数は少なかった。
【0134】
<比較例1>
単量体混合物(b−1)として、MMAを57部、MAを3部、n−OMを0.248部、t−BHPを0.075部、混合した単量体混合物を用いたこと、及び、この単量体混合物を水に乳化させずにそのまま重合容器内に滴下したこと以外は、実施例1と同様にして、アクリルゴム含有重合体(G’−1)のラテックスを得た。
【0135】
このラテックス中のアクリルゴム含有重合体(G’−1)の一部を用いて重合体粒子の質量平均粒径及びラテックスのろ過性を測定し、その結果を表3に示した。この比較例1では、単量体混合物(b−1)を乳化液としていないため、ラテックス中の粗大粒子数が多く、ろ過性は悪かった。
【0136】
また、このラテックスを、ろ材に270メッシュ(平均目開き:54μm)のSUS製のメッシュを取り付けた振動型ろ過装置を用いて、ろ過した後、酢酸カルシウム3部を含む水溶液中で塩析させ、水洗回収後、乾燥し、粉体状のアクリルゴム含有重合体(G’−1)を得た。
【0137】
次に、アクリルゴム含有重合体(G−1)の代わりにアクリルゴム含有重合体(G’−1)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物(I’−1)のペレットを得た。このペレットを80℃で24時間乾燥した後、実施例1と同様にして、厚み50μmのフィルム(F’−1)を製膜した。このフィルムについて、実施例1と同様の評価を行い、表3に示す評価結果を得た。単量体混合物(b−1)を乳化液として重合容器内に供給していないため、フィルム中のフィッシュアイの数は多かった。
【0138】
<比較例2>
単量体混合物(a−1)を水に乳化させずにそのまま重合容器内に滴下したこと以外は、実施例1と同様にして、アクリルゴム含有重合体(G’−2)のラテックスを得た。
【0139】
このラテックス中のアクリルゴム含有重合体(G’−2)の一部を用いて重合体粒子の質量平均粒径及びラテックスのろ過性を測定し、その結果を表3に示した。この比較例2では、単量体混合物(a−1)を乳化液としていないため、ラテックスのろ過性は悪かった。
【0140】
また、このラテックスを、ろ材に270メッシュ(平均目開き:54μm)のSUS製のメッシュを取り付けた振動型ろ過装置を用いて、ろ過した後、酢酸カルシウム3部を含む水溶液中で塩析させ、水洗回収後、乾燥し、粉体状のアクリルゴム含有重合体(G’−2)を得た。
【0141】
次に、アクリルゴム含有重合体(G−1)の代わりにアクリルゴム含有重合体(G’−2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物(I’−2)のペレットを得た。このペレットを80℃で24時間乾燥した後、実施例1と同様にして、厚み50μmのフィルム(F’−2)を製膜した。このフィルムについて、実施例1と同様の評価を行い、表3に示す評価結果を得た。単量体混合物(a−2)を乳化液としていないため、フィルム中のフィッシュアイの数は多かった。
【0142】
【表1】
【0143】
【表2】
【0144】
【表3】