(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
真空雰囲気である処理室内の基板に対して互いに反応する複数種類の反応ガスを順番に供給し、一の反応ガスの供給と次の反応ガスの供給との間に置換用のガスを供給して成膜処理を行う成膜装置において、
前記処理室に設けられ、基板が載置される載置部と、
前記載置部に対向する平坦な面を備え、複数のガス供給口が形成されたシャワーヘッドと、
前記複数のガス供給口が形成された領域を囲んで下方側へ突出するように前記シャワーヘッドに設けられ、前記載置部における基板が載置される領域の外方側にて、当該載置部の上面との間に隙間を形成するように配置された環状突起部と、
前記シャワーヘッドの上方側に形成された天井部に設けられ、シャワーヘッドと天井部との間に囲まれた拡散空間に、各々横方向に前記複数種類の反応ガス、及び前記置換用のガスを広げるように周方向に沿ってガス吐出口が形成された複数のガス供給部と、
前記処理室内の真空排気を行う排気部と、を備え、
前記ガス供給部は、前記天井部側に形成されたガス供給路に対して、パッキング部材を介して連通するガス路が形成され、当該天井部に対してねじ止めによって固定される台座部と、前記ガス路から流れ込んだガスが拡散する空間を形成し、その側周面に前記ガス吐出口が形成されたヘッド部とを備え、
前記台座部は、前記パッキング部材と、前記ねじ止めのためのねじ穴の上端部に設けられ、前記天井部と接触する接触面が形成された突部とにおいて前記天井部に接触し、他の領域においては天井部との間に隙間が形成されていることを特徴とする成膜装置。
前記ガス供給部に形成されたガス吐出口は、前記シャワーヘッドを平面でみたとき、当該シャワーヘッドの中央部側と周縁部側とに向けて広がるガスの流れを形成する位置に設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の成膜装置。
前記ガス供給部は、その側周面に前記ガス吐出口が形成され、直径が8ミリメートル以上、20ミリメートル以下の範囲の円筒形状のヘッド部を備えることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一つに記載の成膜装置。
【背景技術】
【0002】
基板である例えば半導体ウエハ(以下「ウエハ」と言う)に膜を成膜する手法として、互いに反応する複数種類の反応ガスをウエハに対して順番に供給するいわゆるALD(Atomic Layer Deposition)法やMLD(Multi Layer Deposition)法(以下、これらを総合してALD法と称する)などと呼ばれる方法が知られている。
【0003】
このような成膜方法においてウエハに反応ガスを供給する種々のガス供給機構が提案されている。例えば引用文献1、2には、複数枚のプレートを上下に間隔を開けて配置することにより、中段のプレートを介して上下に積み重ねられたガス拡散空間(引用文献1では空間11a、11b、引用文献2ではガス拡散空間50、空間81と記載)を構成し、各々の拡散空間から最下段のシャワープレートの下面に開口する多数のガス流路を設けたシャワーヘッドが記載されている。
【0004】
上記のタイプのシャワーヘッドは、互いに隔離されたガス拡散空間から、複数種類の反応ガスを別々に供給するので、ガス拡散空間内での反応ガス同士の混合を避け、シャワーヘッド内での反応生成物の堆積を防止できる。
一方で、上下に積層された各ガス拡散空間から、互いに混ざらないように反応ガスを供給するためには、下段側のガス拡散空間を貫通して上段側のガス拡散空間へと連通するガス流路用の導管を多数設ける必要があり、シャワーヘッドの構造が非常に複雑になる。
【0005】
このような課題に対し、出願人は、共通のガス拡散空間に複数種類の反応ガスを切り替えて供給する簡素な構成のシャワーヘッドの開発を行っている。共通のガス拡散空間を利用する場合には、反応生成物の堆積を防止するために、一の反応ガスを供給してから、次の反応ガスを供給するまでの間に、不活性ガスなどを供給してガスの置換を行う必要がある。
【0006】
反応ガスの置換を行う場合には、置換操作に要する時間をできる限り短くすることが成膜を効率的に行う上での重要な課題となる。また近年は、ナノメートルのオーダーで成膜される膜のウエハ面内における膜厚の均一性(例えば後述の1σ%値(標準偏差σを平均値で割って百分率表示した値))を2%程度以内とすることが要求される場合があるため、置換性の良さのみならず、より面内均一性の良好な成膜を実現できるシャワーヘッドの開発が求められている。
【0007】
これらの要求に対し、引用文献1、2に記載のシャワーヘッドは、ウエハの全面に対応する領域に亘って広がる大きなガス拡散空間を備えており、ガス拡散空間の一方側に反応ガスや置換ガスを切り替えて供給したとしても置換操作に長時間を要してしまう。
【0008】
また、引用文献1、2には、各ガス拡散空間に反応ガスを供給するガス供給部の記載がある(引用文献1につき、管部10jに設けられた吐出口121、引用文献2につき、吐出口55を備えた吐出ポート56、及びガス吐出管83)。しかしながら、反応ガスや置換ガスを切り替えて供給するシャワーヘッドにおいて、成膜される膜の均一性を向上させるうえでこれらのガス供給部が備えるべき特段の技術的特徴は開示されていない。
【0009】
そこで出願人は、引用文献3に示すように、中央から外周に向けて末広がりの形状の傾斜面構造を有する天井部の中央領域に、成膜対象のウエハよりも面積の小さなシャワーヘッドを設けることにより(同文献中では「ガス供給ノズル」と記載している)、置換性を高めた成膜装置を開発した。
【0010】
ところが、シャワーヘッドに多数穿設されたガス供給口のうち、例えばシャワーヘッド内にガスを導入するガス供給路の直下の位置と、この位置から離れた位置とを比べると、ガス供給路の直下に位置するガス供給口から流出する反応ガスの流速が高くなることがある。この結果、各ガス供給口から流出するガス流速の違いによってウエハに吸着する反応ガスの量に違いが生じ、ウエハの面内で膜の厚さが僅かに変化するおそれがある。しかしながら既述のように、1σ%値が2%以内といった高い面内均一性が要求されるようになると、このような僅かな膜厚の違いも改善する必要が生じてきている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態に係わる成膜装置の構成について、
図1〜
図6を参照して説明する。本成膜装置は、成膜対象の円形の基板(円板)であり、例えば直径が300mmのウエハWの表面に、互いに反応する反応ガスである塩化チタン(TiCl
4)ガス(原料ガス)とアンモニア(NH
3)ガス(窒化ガス)とを交互に供給してALD法により窒化チタン(TiN)膜を成膜する装置として構成されている。
【0018】
図1、
図2に示すように成膜装置は、アルミニウム等の金属により構成され、平面形状が概ね円形の真空容器であり、処理室を構成する処理容器1と、この処理容器1内に設けられ、ウエハWが載置される載置台(載置部)2と、載置台2と対向するように設けられ、載置台2との間に処理空間313を形成し、当該処理空間313にガスを供給するガスシャワーヘッド5と、を備えている。処理容器1の側面には、載置台2との間でウエハWの受け渡しを行う際に、外部の真空搬送路に設けられたウエハ搬送機構を処理容器1内に進入させるための搬入出口11と、この搬入出口11を開閉するゲートバルブ12とが設けられている。
【0019】
前記搬入出口11よりも上部側の位置には、アルミニウム等の金属からなり、縦断面の形状が角型のダクトを円環状に湾曲させて構成した排気ダクト13が、処理容器1の本体を構成する側壁の上に積み重なるように設けられている。排気ダクト13の内周面には、周方向に沿って伸びるスリット状の開口部131が形成されており、処理空間313から流れ出たガスはこの開口部131を介して排気ダクト13内に排気される。排気ダクト13の外壁面には排気口132が形成されており、この排気口132には真空ポンプなどからなる排気部65が接続されている。排気口132や排気部65は、処理空間313内の真空排気を行う排気部に相当する。
【0020】
処理容器1内には、前記排気ダクト13の内側の位置に、載置台2が配置されている。載置台2は、ウエハWよりも一回り大きい円板からなり、例えば窒化アルミニウム(AlN)、石英ガラス(SiO
2)等のセラミックスやアルミニウム(Al)、ハステロイ(登録商標)等の金属により構成されている。載置台2の内部には、ウエハWを例えば350℃〜550℃の成膜温度に加熱するためのヒーター21が埋設されている。また必要に応じて、ウエハWを当該載置台2の上面側の載置領域内に固定するための図示しない静電チャックを設けてもよい。なお、
図1以外の縦断面図においてはヒーター21の記載を省略してある。
【0021】
この載置台2には、前記載置領域の外周側の領域、及び載置台2の側周面を周方向に亘って覆うように設けられたカバー部材22が設けられている。カバー部材22は例えばアルミナなどからなり、上下端が各々開口する概略円筒形状に形成されると共に、周方向に亘ってその上端部が内側に向かって水平方向に屈曲している。この屈曲部は、載置台2の周縁部にて係止されており、当該屈曲部の厚み寸法は、ウエハWの厚み寸法(0.8mm)よりも厚く、例えば1〜5mmの範囲内の3mmとなっている。
【0022】
載置台2の下面側中央部には、処理容器1の底面を貫通し、上下方向に伸びる支持部材23が接続されている。この支持部材23の下端部は、処理容器1の下方側に水平に配置された板状の支持台232を介して昇降機構24に接続されている。昇降機構24は、搬入出口11から進入してきたウエハ搬送機構との間でウエハWを受け渡す受け渡し位置(
図1に一点鎖線で記載してある)と、この受け渡し位置の上方側であって、ウエハWへの成膜が行われる処理位置との間で載置台2を昇降させる。
【0023】
この支持部材23が貫通する処理容器1の底面と、支持台232との間には、処理容器1内の雰囲気を外部と区画し、支持台232の昇降動作に伴って伸び縮みするベローズ231が、前記支持部材23を周方向の外側から覆うように設けられている。
【0024】
載置台2の下方側には、外部のウエハ搬送機構とのウエハWの受け渡し時に、ウエハWを下面側から支持して持ち上げる例えば3本の支持ピン25が設けられている。支持ピン25は、昇降機構26に接続されて昇降自在となっており、載置台2を上下方向に貫通する貫通孔201を介して載置台2の上面から支持ピン25を突没させることにより、ウエハ搬送機構との間でのウエハWの受け渡しを行う。
【0025】
排気ダクト13の上面側には、円形の開口を塞ぐように円板状の支持板32が設けられており、これら排気ダクト13と支持板32との間には処理容器1内を気密に保つためのOリング133が配置されている。支持板32の下面側には、処理空間313に反応ガスや置換ガスを供給するための天板部材31が設けられており、天板部材31はボルト323によって支持板32に支持固定されている。前記天板部材31や支持板32は、本成膜装置の天井部を構成している。
【0026】
図2に示すように、例えば支持板32の上面側には、天板部材31や後述のシャワーヘッド5の温度調整を行うために設けられ、給電部325に接続されたヒーター324が設けられている。ヒーター324は支持板32や天板部材31を介して後述のシャワーヘッド5の温度を調整するための温度調整部に相当する。なお、
図2以外の図においては、ヒーター324や給電部325の記載は省略してある。
【0027】
天板部材31の下面側には凹部が形成されており、この凹部の中央側の領域は平坦になっている。またこの平坦な中央領域の外周側には下方側に突出した平坦な面が形成されている。
一方、天板部材31の下方位置には、当該天板部材31の下面全体を覆うようにシャワーヘッド5が設けられている。シャワーヘッド5は、載置台2と対向する平坦な面を備えた例えば金属製の円板部分と、この円板の周縁部に形成され、下方側に突出した環状突起部53とを備えると共に、その上面側には凹部が形成されている。シャワーヘッド5における当該凹部の外周側には上方側に突出した平坦な面が形成されている。
【0028】
天板部材31と、シャワーヘッド5とは、両部材31、5の下面、及び上面に形成された平坦な面同士を当接させて締結され、これらの当接面の内側に形成された凹部同士を対向させることにより、ガスを拡散させるための拡散空間50が構成されている。拡散空間50の底部には、その全面に亘って多数のガス供給口511が穿設され、ウエハWに向けて反応ガスを供給することができる。以下、シャワーヘッド5において、拡散空間50底部のガス供給口511が形成された領域をガス供給領域51と呼び、ガス供給口511が形成されていない、拡散空間50の外方側の領域を周縁領域52と呼ぶ。なお
図3には、ガス供給領域51と周縁領域52との境界を長い破線で示してある。
【0029】
本例のシャワーヘッド5は、拡散空間50の直径(即ち、ガス供給領域51の直径)が255mm(半径127.5mm)、拡散空間50の高さ寸法が8mm、後述のガス供給部4の体積を除いたシャワーヘッド5内の容積が385cm
3となっている。
直径300mm(半径150mm)のウエハWに対して、拡散空間50の直径が255mm(半径127.5mm)のシャワーヘッド5を載置台2上のウエハWの中央部の上方位置に配置すると、拡散空間50の外縁は、ウエハWの外縁よりも内側に位置することになる。このように、下面側から見た拡散空間50の面積がウエハWの面積よりも小さなシャワーヘッド5を用いることにより、置換ガスによる反応ガスの置換を短時間で行うことができる。
【0030】
図6は、ガス供給領域51部分を取り去った状態にて、シャワーヘッド5を下面側から見た平面図を示している。当該図に示すように拡散空間50の平面形状が円形になっているとき、拡散空間50の半径をr、ウエハWの半径をRとすると、r/Rの値は4/15〜9/10の範囲内であることが好ましく、また、拡散空間50内の高さは3〜10mm、拡散空間50の内部容積は150〜400cm
3の範囲内であることが好適である。この拡散空間50内に例えば2〜8.8L/分の流量で前記容積の5〜22倍の量の置換ガスを供給することにより、0.1〜0.5秒程度で置換操作を終えることができる。
【0031】
ここで、拡散空間50の下面全体にガス供給口511を設けることは必須ではなく、シャワーヘッド5内のガスの置換時間やウエハWに成膜される膜の均一性が目標を満足する範囲内で、例えば拡散空間50の下面の中央側領域にのみガス供給口511を設ける構成としてもよい。また、シャワーヘッド5の下面側の部材内を横方向、外側に向けて伸びる流路の末端をガス供給口511とすることにより、拡散空間50よりも外方側にガス供給口511を開口させてもよい。なお
図3においては、便宜上、ガス供給領域51に設けられたガス供給口511の一部のみを図示してある。
【0032】
載置台2上のウエハWの上面から、ガス供給領域51のガス供給口511までの高さtは、10〜50mm程度であり、より好ましくは15〜20mm程度に設定される。この高さが50mmよりも大きくなると、ガスの置換効率が低下する一方、10mmよりも小さくなると、ガス供給部4やシャワーヘッド5を設けるスペースがなくなったり、処理空間313内をガスが流れにくくなったりする。また既述のようにシャワーヘッド5の下面は平坦になっているので、シャワーヘッド5は載置台2に載置されたウエハWの上面側から等距離だけ離れた位置に配置されている。
【0033】
図3に示すように、ガス供給口511が形成されたガス供給領域51の周囲には、ガス供給口511が形成されていない円環状の周縁領域52が設けられている。これらガス供給領域51及び周縁領域52は共通の部材により一体に構成されている。さらにシャワーヘッド5の周縁部側には、下方側へ突出する環状突起部53がシャワーヘッド5の周方向に沿って形成されている。
【0034】
載置台2を処理位置まで上昇させたとき、環状突起部53の下端は、載置台2に設けられたカバー部材22の上面と対向するように配置される。シャワーヘッド5の下面及び環状突起部53と、載置台2の上面とによって囲まれた空間は、ウエハWに対する成膜が行われる処理空間313となる。
【0035】
また
図2に示すように、環状突起部53の下端と、カバー部材22の屈曲部の上面との間には高さhの隙間が形成されるように処理位置の高さ位置が設定されている。前記排気ダクト13の開口部131は、この隙間に向けて開口している。環状突起部53の下端とカバー部材22との隙間の高さhは、例えば0.2〜10.0mmの範囲の3.0mmに設定される。
【0036】
図1、
図2に示すように拡散空間50内におけるシャワーヘッド5の上面側には、円柱形状に形成された複数個の伝熱部材54が上方側へ向けて突出するように設けられている。各伝熱部材54には、上下方向に伝熱部材54を貫通するねじ穴が形成されている。また、天板部材31側にも各伝熱部材54に対応する位置にねじ穴が形成され、各ねじ穴にねじ541を螺合させることにより、天板部材31に対してシャワーヘッド5が締結される。
【0037】
シャワーヘッド5を天板部材31に締結した状態において各伝熱部材54の上端は、天板部材31の底面に接している。この結果、既述のヒーター324から供給され、支持板32や天板部材31を介して伝熱する熱が、伝熱部材54やねじ541を通じてシャワーヘッド5の下面にまで伝わり易くなっている。この観点において、各伝熱部材54は、シャワーヘッド5と天板部材31、支持板32との間の伝熱を促進するためにこれらの部材5、31間を繋ぐ伝熱部材に相当している。
【0038】
図3、
図6に示すように本例のシャワーヘッド5において、伝熱部材54は、拡散空間50の中心を2重の環状に囲み、各環の周方向に等間隔に配置されている。伝熱部材54は、中央部側の環に4個、外周側の環に8個の合計12個設けられている。なお、シャワーヘッド5に設けられる伝熱部材54の数や配置位置はこの例に限られるものではなく、シャワーヘッド5の温度調整の必要に応じて適宜、変更してよい。
【0039】
さらに
図3、
図6に示すように、拡散空間50内には、凹部の中央部に1個、この中央部を円環状に等間隔で囲むように8個、合計で9個のガス供給部4が配置されている。8個のガス供給部4からなる円環の直径は好適範囲が150mm以下であり、本例では100mmである。また、拡散空間50の内側壁面から当該円環までの距離dは、50〜100mmの範囲内の値に設定されている。ここで、拡散空間50内に設けられるガス供給部4の個数は、9個の場合に限られるものではない。例えば少なくとも2個、好ましくは3個以上のガス供給部4がシャワーヘッド5の中心を囲む環上の互いに離れた位置に設けられていれば、短時間でシャワーヘッド5内に均一にガスを供給することができる。なお、複数のガス供給部4が設けられる環の形状は円環に限られるものではなく、例えば四角い環上に配置してもよい。
【0040】
図4、
図5に示すように各ガス供給部4は、天板部材31に締結される台座部43と、この台座部43の下面側に設けられ、内部が中空のヘッド部41とを備えている。天板部材31の下面には、前記台座部43が挿入される凹部が形成され、台座部43をこの凹部内に嵌合させたとき、ヘッド部41が、天板部材31の下面から拡散空間50内に突出した状態となる。
【0041】
台座部43にはねじ穴431が形成され、当該ねじ穴431、及び天板部材31側の前記凹部内に形成されたねじ穴にねじ435を螺合させることにより、天板部材31に対して台座部43が締結される。
ここで台座部43と天板部材31との間に反応ガスが侵入して膜が成膜され、これらの部材43、31が固着すると、ガス供給部4を取り外す際などにパーティクルが発生する原因となる。そこで、本例の台座部43は、このようなパーティクルの発生を抑制できる構成となっている。
【0042】
図5に示すように台座部43は天板部材31側の凹部よりも一回り小さく形成されており、台座部43の外周面と天板部材31側の凹部の内周面との間には例えば、0.1〜1mm程度の隙間314が形成される。また、台座部43におけるねじ穴431の上端部には、上部側へ向けて突出する扁平なリング状の突部432が突出している。台座部43はこの突部432の上面側の接触面を介して天板部材31と接触し、台座部43の上面と、天板部材31側の凹部の下面との間にも側面側と同程度の隙間314が形成される。
【0043】
さらに台座部43には、台座部43を上下方向に貫通するように、天板部材31に形成されている後述のガス供給路312に連通するガス路434が形成されている。ガス路434の上端側の開口部の周囲には、ガス供給路312とガス路434とを気密に接続するパッキング部材であるOリング433が設けられている。
【0044】
この結果、天板部材31と接触する部分は前記突部432の上面側の接触面及びOリング433に限定され、その他の部分では台座部43と天板部材31との間に比較的大きな隙間314が形成されることになる。従って、台座部43と天板部材31とに反応ガスおよびクリーニングガスが進入し、膜が形成されても台座部43と天板部材31とが固着しにくく、ガス供給部4の取り外しの際などにおけるパーティクルの発生を抑えることができる。
【0045】
また、天板部材31に接触する部分が突部432の上面側の接触面、及びOリング433に限定され、これらの接触部分は反応ガスが進入位置から遠い台座部43の上面側に設けられている。このため、突部432の接触面やOリング433と、天板部材31との間に反応ガスが進入しにくく、進入したとしてもその面積が小さいので、ガス供給部4の取り外しなどにおけるパーティクルの発生を抑制することができる。
【0046】
ヘッド部41は、ガス路434の下端側の開口部を台座部43の下面側から覆うように設けられ、例えば直径が8〜20mmの範囲内の例えば20mmの扁平な円筒形状のカバーである。ヘッド部41の側面には、周方向に沿って間隔をおいて設けられた複数のガス吐出口42が形成されている。各ヘッド部41に対してガス吐出口42は例えば3個以上設けることが好ましく、本例では12個設けられている。また、ヘッド部41の下面は塞がれていてガス吐出口42が設けられていないので、ヘッド部41内に流れ込んだガスは、各ガス吐出口42から横方向へ向けて均一に広がるように吐出される。
【0047】
上述のようにガス供給部4は、周方向に向けて均一にガスを広げることができるように構成されており、これらガス供給部4のガス吐出口42から吐出されたガスがシャワーヘッド5内に十分に広がってからガス供給口511を介して処理空間313にガスが供給されることにより、載置台2上のウエハWの表面に均一にガスが供給される。
【0048】
ガス供給部4が設けられた天板部材31には、
図1、
図2に示すように、各ガス供給部4へガスを供給するためのガス供給路312が形成されている。これらのガス供給路312は、天板部材31の上面と支持板32の下面との間に形成されたガスの拡散部311に接続されている。
【0049】
支持板32には、前記拡散部311にアンモニアガス及び置換用の窒素ガスを供給するためのアンモニア供給路321、及び同じく拡散部311に塩化チタンガス及び置換用の窒素ガスを供給するための塩化チタン供給路322が形成されている。アンモニア供給路321及び塩化チタン供給路322は、配管を介してアンモニアガス供給部62、塩化チタンガス供給部64に接続されており、これらの配管は、各々途中で分岐して窒素ガス供給部61、63に接続されている。各配管には、ガスの給断を行う開閉バルブ602と、ガス供給量の調整を行う流量調整部601とが設けられている。なお図示の便宜上、
図1においては窒素ガス供給部61、63を別々に示したが、これらは共通の窒素供給源を用いてもよい。
【0050】
以上に説明した構成を備えた成膜装置は、
図1、
図2に示すように制御部7と接続されている。制御部7は例えば図示しないCPUと記憶部とを備えたコンピュータからなり、記憶部には成膜装置の作用、即ち載置台2上に載置されたウエハWを処理位置まで上昇させ、処理空間313内に予め決められた順番で反応ガス及び置換用のガスを供給してTiNの成膜を実行し、成膜が行われたウエハWを搬出するまでの制御についてのステップ(命令)群が組まれたプログラムが記録されている。このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリーカード等の記憶媒体に格納され、そこからコンピュータにインストールされる。
【0051】
続いて、本成膜装置の作用について
図7、
図8を参照しながら説明する。はじめに、予め処理容器1内を真空雰囲気に減圧した後、載置台2を受け渡し位置まで降下させる。そして、ゲートバルブ12を開放し、搬入出口11と接続された真空搬送室に設けられたウエハ搬送機構の搬送アームを進入させ、支持ピン25との間でウエハWの受け渡しを行う。しかる後、支持ピン25を降下させ、ヒーター21によって既述の成膜温度に加熱された載置台2上にウエハWを載置する。
【0052】
次いで、ゲートバルブ12を閉じ、載置台2を処理位置まで上昇させると共に、処理容器1内の圧力調整を行った後、塩化チタンガス供給部64より塩化チタンガスを供給する(
図7)。供給された塩化チタンガスは、塩化チタン供給路322→拡散部311→ガス供給路312を介して、各ガス供給部4へ流れ込む。
【0053】
ガス供給部4内に流れ込んだ塩化チタンガスは、ガス吐出口42を介してシャワーヘッド5の拡散空間50内に流入し、さらにガス供給領域51に形成されたガス供給口511を介して処理空間313内に供給される。
ガス供給口511から供給された塩化チタンガスは、処理空間313内を降下して載置台2上のウエハWに到達し、その一部はウエハWに吸着する。残る塩化チタンガスは、一部がウエハWの表面に吸着しながらウエハWの表面に沿って径方向に放射状に広がる。
【0054】
処理空間313内を流れ、環状突起部53の下端とカバー部材22との間の隙間に到達した塩化チタンガスは、当該隙間から処理容器1内に流れ出た後、排気ダクト13を介して外部へ排出される。
上述の流れにおいて、シャワーヘッド5の周縁部に環状突起部53が設けられ、載置台2(カバー部材22)との間の隙間の高さが適切に設定されていることにより、処理空間313から周囲の排気ダクト13側へ向けてガスが流れる際の圧力損失が調整される。この結果、ウエハWに吸着するのに十分な時間だけ各反応ガスを処理空間313に滞留させた後、当該隙間が形成されている周方向外側へ向けて反応ガスを均等に排出することができる。
【0055】
次に、塩化チタンガスの供給を停止すると共に、窒素ガス供給部63から置換用のガスである窒素ガスを供給する(
図7)。窒素ガスは、塩化チタンガスと同様の経路を通って処理空間313内に供給され、当該経路及び処理空間313内の塩化チタンガスが窒素ガスと置換される。
【0056】
こうして、所定時間、窒素ガスの供給を行い、ガスの置換を行ったら、窒素ガスの供給を停止し、アンモニアガス供給部62からアンモニアガスを供給する(
図8)。供給されたアンモニアガスは、アンモニア供給路321→拡散部311→ガス供給路312を介して、各ガス供給部4へ流れ込む。そして、ガス供給部4からシャワーヘッド5内に吐出されたアンモニアガスは、塩化チタンの場合と同様の流れを形成して処理空間313内に供給される。
【0057】
処理空間313内を流れるアンモニアガスがウエハWの表面に到達すると、先にウエハWに吸着している塩化チタンガスの成分を窒化して窒化チタンが形成される。しかる後、ガス供給路312に供給されるガスを窒素ガス供給部61からの置換用の窒素ガスに切り替えて、アンモニアガスの供給経路及び処理空間313内のアンモニアガスを窒素ガスと置換する(
図8)。
【0058】
このようにして、塩化チタンガス→窒素ガス→アンモニアガス→窒素ガスの順番で反応ガス(塩化チタンガス、アンモニアガス)と置換用のガス(窒素ガス)とを供給することにより、ウエハWの表面に窒化チタン(TiN)の分子層が積層され、窒化チタンの膜が成膜される。
【0059】
これら反応ガスや置換用のガスの供給時におけるガス供給部4及びシャワーヘッド5の作用を説明する。まず、ガス供給路312からガス供給部4に供給されたガスは、ヘッド部41の周方向に沿って間隔をおいて設けられた複数のガス吐出口42から、横方向に広がるようにシャワーヘッド5内の空間に吐出される。ガス吐出口42から吐出されたガスは、シャワーヘッド5内で下方側に向けて流れを変え、拡散空間50に到達する。拡散空間50に到達したガスは、各ガス供給口511を介し、処理空間313内に均一に供給される(
図6〜
図8)。
【0060】
ガス供給部4から吐出されたガスの流速がシャワーヘッド5の内部で十分に低下し、また、多数のガス供給口511を介してガスが処理空間313に分散して供給されるので、反応ガス(塩化チタンガス、アンモニアガス)の場合には、各ガス供給口511から吐出されるガスの流速が小さくなる。この結果、ウエハWの表面に到達する際の反応ガスの流速が低くなり、膜厚の面内均一性が向上する。
【0061】
一方、置換用のガス(窒素ガス)の供給時には、下面側から見た拡散空間50の面積がウエハWの面積よりも小さく、小型のシャワーヘッド5を用いていることにより、シャワーヘッド5内の容積が小さいことからガスを置換する操作に要する時間が短い。
【0062】
またALDに用いられる反応ガスは、各々異なる流動性を有している。例えば塩化チタンは狭い流路にも広がり易い特徴を有している一方、アンモニアガスは塩化チタンに比べて広がりにくい。このとき、載置台2上のウエハWに対向するシャワーヘッド5の下面が平坦になっていて、ウエハWの上面とシャワーヘッド5の下面との距離が一定となっていることにより、反応ガスはその流動性の違いによらず、高さ寸法が均一な処理空間313内を均一に広がることができる。この結果、ウエハWに成膜される膜の厚さの面内均一性を向上させることができる。
【0063】
さらに、シャワーヘッド5の下面は、支持板32の上面側に設けられたヒーター324により加熱されているだけでなく、載置台2に設けられたヒーター21によって加熱されているウエハW側からの輻射によっても温度が上昇する。従って、ウエハW表面における反応ガス同士の反応は、ヒーター21による加熱のみならず、シャワーヘッド5の温度状態の影響も受ける。
【0064】
このとき既述のように、ウエハWの上面とシャワーヘッド5の下面との距離が一定となっていることにより、ウエハWがシャワーヘッド5側から受ける熱の影響が面内で均一となり、膜の特性(例えば後述の比抵抗)をウエハWの面内で均一にする効果が発揮される。さらに既述のように、シャワーヘッド5の拡散空間50内に、伝熱を促進するための伝熱部材54が分散して配置されていることにより、シャワーヘッド5の下面の温度分布自体もより均一になるので、この点においてもウエハWに与える熱の影響を面内で均一化することができる。
【0065】
こうして塩化チタンガスの供給とアンモニアガスの供給とを例えば数十回〜数百回繰り返し、所望の膜厚の窒化チタンの膜を成膜したら、置換用の窒素ガスを供給して最後のアンモニアガスを排出した後、載置台2を受け渡し位置まで降下させる。そしてゲートバルブ12を開いて搬送アームを進入させ、搬入時とは逆の手順で支持ピン25から搬送アームにウエハWを受け渡し、成膜後のウエハWを搬出させた後、次のウエハWの搬入を待つ。
【0066】
本実施の形態に係わる成膜装置によれば以下の効果がある。成膜対象のウエハWよりも面積の小さな拡散空間50を有するシャワーヘッド5を用い、このシャワーヘッド5の内側に複数のガス供給部4を設けているので、反応ガスと置換用のガスとの置換を短時間で行うことができる。また、各ガス供給部4には、各々横方向にガスを広げるように周方向に沿ってガス吐出口42が形成されており、反応ガスは流れ方向を変えてからシャワーヘッド4の下面に設けられたガス供給口511を通り抜けるので、シャワーヘッドの全面から均一に反応ガスが供給され、ウエハWに成膜される膜厚の面内均一性を向上させることができる。
【0067】
ここでシャワーヘッド5内におけるガス供給部4の配置は、
図5に示したように中央のガス供給部4の周囲に円環状にガス供給部4を配置する例に限定されない。例えば碁盤の目状にガス供給部4を配置してもよい。
【0068】
また、シャワーヘッド5の下面から各ガス供給部4の下端部を貫通させ、これらガス供給部4によってシャワーヘッド5を支持する構造とすることにより、拡散空間50の高さ寸法をさらに小さくして反応ガスの置換性を向上させてもよい。
【0069】
この他、ガス供給部4のヘッド部41に設けられたガス吐出口42の構成は、
図4に例示したものに限られない。例えばヘッド部41の側面の周方向に伸びる1本のスリットを形成してもよいし、このスリットを網目状の部材で覆った構成としてもよい。さらに、ガス供給部4にヘッド部41を設けることも必須の要件ではない。例えばガス供給路312から吐出されるガスが旋回流を形成しながらシャワーヘッド5内に吐出されるようにらせん状の流路などによりガス供給路312を形成してもよい。この場合において旋回流を形成しながら吐出されたガスは、シャワーヘッド5内を横方向に広がり、流速が低下した後、ガス供給口511、512から処理空間313へと均一に供給される。
【0070】
さらに本発明の成膜装置では、既述のTiN膜の成膜の他に、金属元素、例えば周期表の第3周期の元素であるAl、Si等、周期表の第4周期の元素であるTi、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge等、周期表の第5周期の元素であるZr、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag等、周期表の第6周期の元素であるBa、Hf、Ta、W、Re、lr、Pt等の元素を含む膜を成膜してもよい。ウエハW表面に吸着させる金属原料としては、これらの金属元素の有機金属化合物や無機金属化合物などを反応ガス(原料ガス)として用いる場合が挙げられる。金属原料の具体例としては、上述のTiCl
4の他に、BTBAS((ビスターシャルブチルアミノ)シラン)、DCS(ジクロロシラン)、HCD(ヘキサジクロロシラン)、TMA(トリメチルアルミニウム)、3DMAS(トリスジメチルアミノシラン)などが挙げられる。
【0071】
また、ウエハWの表面に吸着した原料ガスを反応させて、所望の膜を得る反応には、例えばO
2、O
3、H
2O等を利用した酸化反応、H
2、HCOOH、CH
3COOH等の有機酸、CH
3OH、C
2H
5OH等のアルコール類等を利用した還元反応、CH
4、C
2H
6、C
2H
4、C
2H
2等を利用した炭化反応、NH
3、NH
2NH
2、N
2等を利用した窒化反応等の各種反応を利用してもよい。
【0072】
更に、反応ガスとして、3種類の反応ガスや4種類の反応ガスを用いてもよい。例えば3種類の反応ガスを用いる場合の例としては、チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3)を成膜する場合があり、例えばSr原料であるSr(THD)
2(ストロンチウムビステトラメチルヘプタンジオナト)と、Ti原料であるTi(OiPr)
2(THD)
2(チタニウムビスイソプロポキサイドビステトラメチルヘプタンジオナト)と、これらの酸化ガスであるオゾンガスが用いられる。この場合には、Sr原料ガス→置換用のガス→酸化ガス→置換用のガス→Ti原料ガス→置換用のガス→酸化ガス→置換用のガスの順でガスが切り替えられる。また、成膜処理を行う基板として円形のウエハWについて説明したが、例えば矩形のガラス基板(LCD用基板)に対して本発明を適用してもよい。
【実施例】
【0073】
(実験1)
異なる成膜装置を用いてウエハWに塩化チタンガスとアンモニアガスとを交互に供給し、ALD法により成膜したTiN膜の特性を調べた。
A.実験条件
(実施例1−1)
図1〜
図6を用いて説明した構成を備える成膜装置により、反応ガス及び置換用のガスを、塩化チタンガス→窒素ガス→アンモニアガス→窒素ガスの順で供給するサイクルを182サイクル実行し、成膜されたTiN膜の比抵抗(シート抵抗)及び膜厚を測定した。ウエハWの加熱温度は440℃に設定した。
(参考例1−1)
図9に示す成膜装置を用い、実施例1−1と同様の条件でTiN膜を成膜した。
図9の成膜装置について説明すると、中央側から外周側へ向けて末広がりの形状の傾斜面310が形成された天板部材31aの中央部に、直径が200mmのシャワーヘッド5aを設け、その内側に8個のガス吐出口42を備えたガス供給部4aを
図6に示した例と同様に配置した。中央部のガス供給部4aの直径は15mm、円環状に配置されたガス供給部4aの直径は10mmである。また、8個のガス供給部4aからなる円環の直径は100mmであり、シャワーヘッド5aからは底面側に形成されたガス供給口511に加え、側面に形成されたガス供給口521を介して処理空間313内にガスが供給される。なお、
図9において
図1〜
図6に示した成膜装置と共通の構成要素には、これらの図で用いたものと同じ符号を付してある。
【0074】
B.実験結果
図10にウエハW面内における正規化された比抵抗の分布を示し、
図11に正規化された膜厚の分布を示す。各図の横軸はウエハWの径方向の位置を示し、縦軸は各位置における比抵抗または膜厚の測定結果を正規化した値を示している。各図において実線が実施例1−1の結果を示し、破線が参考例1−1の結果を示している。正規化データは、比抵抗及び膜厚の各値の測定結果から、ウエハW面内におけるこれらの値の平均値を差し引くことにより求めた。
【0075】
図10に示すように、ウエハWに成膜されたTiN膜の比抵抗を比較すると、
参考例1−1に比べて実施例1−1はウエハWの中央部側の高比抵抗領域、及び周縁部側の低比抵抗領域がならされ、より面内均一性が向上していることが分かる。また、「(標準偏差σ)/(平均値Ave)×100」で表されるユニフォーミティの値で比較すると、参考例1−1は5.3[%]であるのに対し、実施例1−1は2.6[%]となり、有意に面内均一性が向上している。
【0076】
また
図11に示す膜厚の比較によれば、参考例1−1に比べて実施例1−1はウエハWの中央部の周囲の膜厚が厚い領域、及びそのさらに外周側の膜厚の薄い領域がならされ、膜厚の観点においても面内均一性が向上している。また、上述のユニフォーミティの値で比較すると、参考例1−1は1.2[%]であるのに対し、実施例1−1は1.6[%]であり、面内均一性の値としては2%以下で同等であるが面内で膜厚の増減が少なくデバイス特性に影響が出にくいとの評価結果を得ている。
【0077】
図9に示した参考例に係る成膜装置に比べて、実施例に係る成膜装置を用いることにより、比抵抗や膜厚の面内均一性が向上した理由は、傾斜面310を備える天板部材31aを用いる場合より、平坦な下面を有する天板部材31を用いる場合の方が、反応ガスの流動状態やウエハWの加熱状態の均一性が改善された結果ではないかと考えられる。
【0078】
(実験2)
(実験1)の実施例、参考例に係る成膜装置におけるシャワーヘッド5、5aの置換性を比較した。
A.実験条件
既述の実施例1−1において、塩化チタンガスとアンモニアガスとの間に供給される置換用の窒素ガスの供給時間は0.5秒である。また既述の参考例1−1においては、実施例1−1と同じ流量の窒素ガスが0.3秒供給されている。
(比較例2−1)窒素ガスの供給時間を0.3秒とした点以外は実施例1−1と同様の条件で成膜を行った。
【0079】
B.実験結果
図12に実施例1−1、参考例1−1、及び比較例2−1にて成膜されたTiN膜の膜厚の分布を示す。横軸はウエハWの径方向の位置を示し、縦軸は各位置における膜厚を示している。
図12において、実施例1−1は実線、参考例1−1は破線、比較例2−1は一点鎖線で示してある。
【0080】
図12に示した比較例2−1の結果によれば、窒素ガスの供給時間を参考例1−1と同じ0.3秒まで短くすると、ウエハWに形成されるTiN膜の膜厚が急激に増大した。これは、
図9のシャワーヘッド5aと比べて拡散空間50の容積が大きなシャワーヘッド5(
図2)では、窒素ガスの供給時間が短いと、反応ガスの置換が十分でなく、処理空間313内でCVD(Chemical Vapor Deposition)反応が進行してしまったためであると考えられる。
【0081】
一方、実施例1−1に示すように、窒素ガスの供給時間を0.5秒にまで長くすれば、参考例1−1と同程度の平均膜厚を有するTiN膜を成膜可能なALD反応実現できることが確認されている。窒素ガスの供給時間を0.5秒まで長くすることにより、1枚のウエハWに成膜を行うのに必要な時間は長くなるが、装置の稼働に問題はなく、十分に実用的な時間であると評価している。
【0082】
(実験3)
図1〜
図6に示す成膜装置を用いて多数枚のウエハWを処理する際の熱履歴の影響を調べた。
A.実験条件
(予備実験3−1)ウエハWが載置される載置台2側のヒーター21の温度を変化させたときのシャワーヘッド5の下面の温度変化を調べた。天板部材31側のヒーター324の温度は175℃に固定した。
(実施例3−1)実施例1−1と同様の条件で1000枚のウエハWを処理したときの面間の比抵抗の変化を調べた。
【0083】
B.実験結果
図13に予備実験3−1の結果を示す。
図13の横軸は時間、縦軸はシャワーヘッド5の下面の複数箇所の温度を測定した結果のうち、温度が最高となった箇所の温度を示している。また
図13には、ヒーター21の設定温度をその設定期間と共に併記してある。
図13に示した結果によれば、載置台2側補ヒーター21の設定温度を550℃まで上昇させた場合であっても、シャワーヘッド5の下面の温度は、TiN膜の異常値が観察される200℃以下に抑えることができた。
【0084】
図14には実施例1−1と同様の条件にて1000枚のウエハWを処理した時のTiN膜の比抵抗の変化を示している。
図14の横軸はウエハWの処理枚数、左側の縦軸は面内における比抵抗の平均値、右側の縦軸は比抵抗の1σ%値を示している。当該図において、比抵抗の平均値は黒塗の丸でプロットし、1σ%値は白抜きの丸でプロットしてある。
【0085】
図14の結果によれば、比抵抗の平均値は、処理枚数の増加と共に徐々に増加する傾向がみられる。これは、ウエハWの処理枚数の増加に伴って熱履歴によりシャワーヘッド5の温度が上昇し、成膜が進行する速度が上昇した結果であると考えられる。一方で、面内均一性を示す1σ%値はほぼ一定の値で推移している。これは、下面が平坦なシャワーヘッド5を用いることにより、ウエハWの処理枚数の増加(シャワーヘッド5の温度上昇)に係らず、各ウエハWの面内で均一な成膜処理を安定して実行することが可能であることを示しているといえる。
【0086】
(シミュレーション4)
ガス供給部4、4aの直径の違いがガスの拡散状態に与える影響をシミュレーションした。
A.シミュレーション条件
(実施例4−1)
図1、
図2に示すシャワーヘッド5において、拡散空間50内のガスの拡散状態をシミュレーションした。ガス供給部4の直径は19mmとした。
(参考例4−1)
図9に示すシャワーヘッド5aにおいてシャワーヘッド5a内のガスの拡散状態をシミュレーションした。中心部のガス供給部4aを囲むガス供給部4aの直径は8mmとした。
【0087】
図15(a)に実施例4−1のシミュレーション結果を示し、
図15(b)に参考例4−1のシミュレーション結果を示す。図中の破線の矢印は、シャワーヘッド5(拡散空間50)内において、各ガス供給部4、4aから吐出されたガスが到達した位置を示している。
図15(a)、(b)に示したシミュレーション結果によれば、直径の大きなガス供給部4の方がシャワーヘッド5内により均一にガスを分散させることができていることが分かる。また、ガス供給部4、4a付近のガスの流れをシミュレーションした他のシミュレーション結果によれば、直径の大きなガス供給部4の方が、ガス供給部4から供給されたガスが横方向に流れるベクトルが大きく、拡散空間50内のより広い領域に均一にガスを供給する能力を備えていることが分かっている。このように、シャワーヘッド5(拡散空間50)内に均一にガスを拡散させることができる結果、成膜対象のウエハWの表面にも均一に反応ガスを供給し、面内均一性の高い膜厚を有するTiN膜を成膜することができると考えられる。