(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)50〜89質量%、コアシェル型グラフト共重合体(B)1〜10質量%、及び、長さ4〜14mmの炭素繊維(C)10〜40質量%を含有する、長繊維ペレット。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、優れた耐衝撃性、自己消火性、寸法安定性及び高い耐熱性等の特性を有し、エンジニアリングプラスチックとして広範囲に用いられる。工業部品用ポリカーボネート樹脂は、剛性や耐熱性といった機械的強度を向上させるために、ガラス繊維、炭素繊維等のアスペクト比の高い繊維状フィラーを配合する方法が知られている。これらの内、炭素繊維は、高度な補強効果(即ち、剛性や強度と軽量性のバランス。)が得られる点で、優れた補強材である。
一般的に、炭素繊維強化ポリカーボネート樹脂は、チョップドファイバーと呼ばれる3〜6mmに切断した炭素繊維や、ミルドファイバーと呼ばれる1mm未満に粉砕した炭素繊維とポリカーボネート樹脂を押出機で混練することで製造されている。
しかしながら近年は、更に高度な機械特性が求められる傾向にあり、より長い繊維で強化された長繊維ペレットが注目されている。
【0003】
炭素長繊維強化ポリカーボネート樹脂として、特許文献1には、炭素繊維100質量部に対し含侵助剤3〜15質量部を含む易含侵性炭素繊維束にポリカーボネート樹脂が付着していることを特徴とする成形用材料が提示されている。しかしながら含侵助剤は、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度を低下させるため、耐熱性が低下する虞がある。
また、特許文献2には、ポリカーボネート樹脂と長繊維充填剤、並びにゴム変性スチレン系グラフト共重合体を含むポリカーボネート樹脂組成物が提示されている。実施例にはガラス長繊維強化ポリカーボネート樹脂が提示されており、ガラス繊維とポリカーボネート樹脂からなるマスターバッチを用いている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<芳香族ポリカーボネート樹脂(A)>
本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、一般的な芳香族ポリカーボネート樹脂であり、2価フェノールとカーボネート前駆体とを溶液法又は溶融法で反応させて得られる芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
2価フェノールとしては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフォンが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよいが、少なくともビスフェノールAを用いることが好ましい。
【0010】
カーボネート前駆体としては、例えば、カルボニルハイドライド、カルボニルエステル、ハロホルメートが挙げられ、具体的には、ジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート等の炭酸ジエステル;ホスゲン;二価フェノールのジハロホルメートが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。炭酸ジエステルとしては、ジフェニルカーボネートが好ましい。
【0011】
カーボネート前駆体としてホスゲンを用いる場合には、通常、酸結合剤及び溶媒の存在下で反応を行ない、芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する。
酸結合剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;ピリジン等のアミン化合物が挙げられる。溶媒としては、例えば、塩化メチレンクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が挙げられる。
また、反応促進のために、例えば、第三級アミン又は第四級アンモニウム塩等の触媒を用いてもよい。反応温度は、通常0〜40℃で、反応時間は数分間〜5時間である。
【0012】
カーボネート前駆体として炭酸ジエステルを用い、エステル交換反応で芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する場合には、不活性ガス雰囲気下で所定割合の芳香族ジヒドロキシ成分と炭酸ジエステルとを加熱しながら撹拌して、生成するアルコール又はフェノール類を留出させる。
この場合の反応温度は、生成するアルコール又はフェノール類の沸点等により異なるが、通常120〜300℃の範囲である。反応系の圧力は、反応の初期段階から減圧とし、アルコール又はフェノール類を留出させながら、反応を完結させる。
反応を促進するためには、エステル交換反応に通常用いられる触媒を用いてもよい。また、適当な分子量調整剤等を適宜用いてもよい。
【0013】
芳香族ポリカーボネート樹脂としては、粘度平均分子量が10,000〜60,000の範囲であるものが機械的強度と流動性(成形加工の容易性)の点で好ましく、より好ましくは、粘度平均分子量が15,000〜30,000である。
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、ノバレックス7020R、7022R、7022A、7025R、ユーピロンH−3000、H−2000、S−3000、S−2000(以上、三菱エンジニアリングプラスチックス社製);タフロンA1700、A1900、A2200、A2500、R2200、タフロンネオAG1760、AG1950、AG2530(以上、出光興産社製);ワンダーライトPC−110、PC−115、PC−122、PC−175(以上、奇美実業社製);パンライトL−1225LM、L−1225L、L−1225Y、L−1250Y(以上、帝人社製);カリバー301−4、301−6、301−10、301−15、301−22、301−30、301−40(以上、住化スタイロンポリカーボネート社製)が挙げられる。
【0014】
<コアシェル型グラフト共重合体(B)>
本発明で用いるコアシェル型グラフト共重合体(B)は、一般的なコアシェル型グラフト共重合体である。
具体的には、メチルメタクリレート/ブタジエン/スチレン共重合体樹脂(MBS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)等のジエン系コアシェル型ゴム質重合体;アクリレート/スチレン/アクリロニトリル共重合体樹脂(ASA樹脂)、アクリレート/メチルメタクリレート共重合体樹脂等のアクリル系コアシェル型ゴム質重合体;シリコーン/アクリレート/メチルメタクリレート共重合体樹脂、シリコーン/アクリレート/アクリロニトリル/スチレン共重合体樹脂等のシリコーン系コアシェル型ゴム質重合体;及びこれらの無水マレイン酸やグリシジルメタクリレート等による変性品が挙げられる。
これらの内では、シリコーン系コアシェル型ゴム質重合体が好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
コアシェル型グラフト共重合体は、切断不良の低減と外観の観点から、平均一次粒子径が100〜800nmであるものが好ましい。この平均一次粒子径を有するコアシェル型グラフト共重合体は、乳化重合により製造することができる。
コアシェル型グラフト共重合体は、市販品を用いることができる。例えば、メタブレンS−2001、S−2006、S−2030、S−2100、SRK200、SX−005、SX−006、W−450A、E−901、C−223A、C−215A(以上、三菱レイヨン社製)が挙げられる。
【0016】
<炭素繊維(C)>
本発明で用いる炭素繊維(C)は、PAN系(HT、IM、HM)、ピッチ系(GP、HM)、レーヨン系のいずれも使用可能であるが、高い強度が得られる点から、PAN系が好ましい。
炭素繊維(C)の繊維径は5〜12μmが好ましく、6〜8μmがより好ましい。繊維径が5μm以上であれば、繊維の表面積が小さくなり、成形性が向上する。繊維径が12μm以下であれば、繊維のアスペクト比が大きくなり、補強効果が優れる。炭素繊維の繊維径は、電子顕微鏡を用いて測定することができる。
【0017】
上記範囲の繊維径を有する炭素繊維を製造する方法としては、例えば、特開平5−261792号公報、特開2001−214334号公報、特開2004−11030号公報等に記載の方法が挙げられる。
【0018】
炭素繊維(C)は、表面を電解処理したものが好ましく、更に表面処理剤を用いて表面処理したものが、より好ましい。
表面処理剤としては、例えば、エポキシ系サイジング剤、ウレタン系サイジング剤、ナイロン系サイジング剤、オレフィン系サイジング剤が挙げられる。これらの内では、エポキシ系サイジング剤が好ましい。
表面処理することによって、引張り強度、曲げ強度が向上するという利点が得られる。上記表面処理された炭素繊維は、市販品を用いてもよい。
【0019】
炭素繊維(C)は、市販品を用いることができる。例えば、三菱レイヨン社製のパイロフィル(登録商標)CFトウ TR50S 6L、TRH50 12L、TRH50 18M、TR50S 12L、TR50S 15L、MR40 12M、MR60H 24P、MS40 12M、HR40 12M、HS40 12P、TRH50 60M、TRW40 50L、パイロフィル(登録商標)チョップドファイバー TR066、TR066A、TR068、TR06U、TR06NE、TR06G、TR06UL、TR06NL、MR06NEが挙げられる。これらの内では、高い強度が得られる点から、CFトウが好ましく、生産性の点から、TR50S 15L、TRH50 60M、TRW40 50Lがより好ましい。
【0020】
<
長繊維ペレット>
本発明の
長繊維ペレットは、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、コアシェル型グラフト共重合体(B)、及び炭素繊維(C)を含有する。
【0021】
長繊維ペレット100質量%中の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の含有率は、50〜89質量%であり、60〜85質量%であることが好ましい。この範囲内であれば、ポリカーボネート樹脂の優れた機械的強度や成形性を発現することができる。
【0022】
長繊維ペレット100質量%中のコアシェル型グラフト共重合体(B)の含有率は、1〜10質量%であり、2〜5質量%であることが好ましい。この範囲内であることで、ポリカーボネート樹脂の優れた機械的強度や成形性を損なうことなく、切断不良が少なくなる。
【0023】
長繊維ペレット100質量%中の炭素繊維(C)の含有率は、10〜40質量%であり、13〜35質量%であることが好ましい。この範囲内であることで、切断不良が少なく、機械特性に優れる。
【0024】
長繊維ペレット中の炭素繊維(C)の長さは、4〜14mmであり、5〜9mmであることが好ましい。この範囲内であることで、取扱い性と機械的強度のバランスが良好となる。
【0025】
本発明の
長繊維ペレットには、芳香族ポリカーボネート樹脂が本来有する耐熱性、耐衝撃性、難燃性等を損なわない範囲で、ABS、HIPS、PS、PAS等のスチレン系樹脂;アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エラストマー等の熱可塑性樹脂を配合してもよい。
更に必要に応じて、公知の安定剤、強化剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤、加工助剤、離型剤、難燃剤、フルオロオレフィン等の添加剤を配合してもよい。
【0026】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)及びコアシェル型グラフト共重合体(B)を含有する、樹脂組成物である。
溶融状態の樹脂組成物を得るには、次の2つの方法を採用することができる。
【0027】
(イ)芳香族ポリカーボネート樹脂(A)及びコアシェル型グラフト共重合体(B)の混合物を、押出機に投入して溶融混練する。
(ロ)予め調製した芳香族ポリカーボネート樹脂(A)及びコアシェル型グラフト共重合体(B)の樹脂組成物を、押出機に投入して溶融する。
【0028】
これらの内では、(イ)の方法が、熱履歴が少なく、優れた機械特性を発揮することから好ましい。
【0029】
押出機には、二軸押出機、単軸押出機を用いることができる。(イ)の方法の場合には、二軸押出機を用いることが好ましい。
【0030】
<
長繊維ペレットの製造方法>
本発明の
長繊維ペレットは、以下の(1)〜(3)の工程で製造することができる。
(1)押出機を用いて溶融状態の前記樹脂組成物を得る。
(2)前記押出機の先端に取付けたダイに炭素繊維(C)を供給し、前記押出機から押出された溶融状態の樹脂組成物及び炭素繊維(C)を複合化する。
(3)前記工程で得られた複合体を、150℃以下に冷却した後、4〜14mmに切断する。
【0031】
工程(2)で、溶融状態の樹脂組成物及び炭素繊維(C)を複合化する方法としては、例えば、ダイに取付けた樹脂浴中に炭素繊維(C)のトウを連続的に供給しながら、連続的に含侵して複合化する引抜法、炭素繊維(C)のトウを連続的に供給しながら、トウの周囲に溶融した樹脂組成物を連続的に被覆して複合化する電線被覆法が挙げられる。これらの内では、切断不良が少なくなることから、電線被覆法が好ましい。
【0032】
工程(3)では、得られた複合体を150℃以下に冷却する。冷却温度は、130℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。また、下限としては、20℃以上が好ましい。冷却温度がこの範囲内であれば、切断不良を生じることがない。
【0033】
工程(3)では、得られた複合体を4〜14mmに切断する。切断する長さは、5〜9mmであることが好ましい。切断する長さがこの範囲内であれば、取扱い性と機械的強度のバランスに優れる。
【0034】
複合体の切断には、サイドカット方式を用いることが好ましい。サイドカット方式を用いることで、切断不良を低減することができる。
【0035】
切断不良には、ペレットが繊維軸方向に沿って縦に割れしてしまう不良や、炭素繊維の周囲を樹脂で被覆した形態では、繊維がペレット長とおおよそ同じ長さに切断されずに炭素繊維の切断が不充分な状態の不良がある。
これらの切断不良が生じると、
長繊維ペレットに、樹脂で被覆されていない炭素繊維が混入し、取扱い性が悪化する。
【0036】
<成形体>
本発明の成形体は、
長繊維ペレットを、射出成形することによって得られる。
本発明の成形体を得る際には、他の樹脂とドライブレンドして成形してもよい。例えば、ポリカーボネート樹脂ペレットとドライブレンドすることにより、成形体中の炭素繊維量を調整することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。尚、以下の記載において、「部」及び「%」は、特記ない限り「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0038】
<評価方法>
曲げ試験:
幅10mm、厚さ4mm、長さ80mmの短冊試験片を用い、ISO178に準じて3点曲げ試験を実施した。
【0039】
シャルピー衝撃試験:
ノッチ付きの試験片を用い、ISO179に準じて実施した。
【0040】
荷重たわみ温度:
ISO75に準じて、0.45MPaで測定した。
【0041】
ペレット外観:
得られたペレット50個を取り出して目視評価した。
◎:切断不良のペレットが5個未満。
〇:切断不良のペレットが5個以上、20個未満。
×:切断不良のペレットが20個以上。
尚、切断不良のペレットとは、ペレットが繊維軸方向に沿って縦に割れしてしまう不良や、繊維がペレット長とおおよそ同じ長さに切断されずに炭素繊維の切断が不充分な状態の不良ペレットをいう。
【0042】
<原材料>
芳香族ポリカーボネート樹脂(A−1):
ノバレックス7022A(三菱エンジニアリングプラスチックス社製)
【0043】
コアシェル型グラフト共重合体(B−1)
メタブレンS−2006(三菱レイヨン社製、シリコーン系コアシェル型ゴム質重合体)
【0044】
炭素繊維(C−1):
パイロフィルCFトウ TR50S 15L、サイジング剤JJ(三菱レイヨン社製、エポキシ系サイジング剤処理、目付1,000mg/m、引張強度4,900MPa、引張弾性率240GPa、繊維径7μm)
【0045】
炭素繊維(C−2):
パイロフィルCFトウ TR50S 15L、サイジング剤RN(三菱レイヨン社製、ウレタン系サイジング剤処理、目付1,000mg/m、引張強度4,900MPa、引張弾性率240GPa、繊維径7μm)
【0046】
<実施例1>
芳香族ポリカーボネート樹脂(A−1) 95部、コアシェル型グラフト共重合体(B−1) 5部をドライブレンドし、30φ二軸押出機に3.4kg/hで供給しながら溶融混練した。
前記押出機の先端に取付けた電線被覆ダイを300℃に設定し、ここに、炭素繊維(C−1)のトウを供給する。該ダイを用いて、10m/minのライン速度で、溶融した樹脂組成物及び炭素繊維(C−1)のトウを連続的に複合化した。
次いで、この複合体を40℃に冷却した後、切断することで、長さ8mm、炭素繊維含有率15%の
長繊維ペレットを製造した。
得られた
長繊維ペレットを、シリンダー温度300℃、金型温度80℃で射出成形することで、試験片を作成した。
【0047】
<実施例2>
ドライブレンドした樹脂の供給量を3.5kg/hとし、ライン速度を25m/minとしたこと以外は、実施例1と同様にして、長さ8mm、炭素繊維含有率30%の
長繊維ペレットを製造した。
実施例1と同様にして、試験片を作成した。
【0048】
<実施例3>
炭素繊維(C−2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、長さ8mm、炭素繊維含有率15%の
長繊維ペレットを製造した。
実施例1と同様にして、試験片を作成した。
【0049】
<比較例1>
コアシェル型グラフト共重合体(B−1)を用いず、芳香族ポリカーボネート樹脂(A−1)を100部としたこと以外は、実施例2と同様にして、長さ8mm、炭素繊維含有率30%の
長繊維ペレットを製造した。
得られた
長繊維ペレットは、切断不良の割れペレットが多く、射出成形機のホッパーに入らずに、試験片を作成できなかった。
【0050】
各配合での物性測定結果を、表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1から明らかなように、実施例1〜3は、本発明の
長繊維ペレットを用いているため、ペレット外観が優れており、得られた成形体は耐熱性及び機械特性に優れていた。