特許第6379764号(P6379764)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6379764-研磨液及び研磨方法 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6379764
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】研磨液及び研磨方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20180820BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20180820BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20180820BHJP
【FI】
   C09K3/14 550Z
   H01L21/304 622D
   B24B37/00 H
   C09K3/14 550C
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-141900(P2014-141900)
(22)【出願日】2014年7月10日
(65)【公開番号】特開2016-17158(P2016-17158A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2017年6月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】市毛 康裕
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 浩二
(72)【発明者】
【氏名】近藤 誠一
【審査官】 ▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−074990(JP,A)
【文献】 特開2013−042123(JP,A)
【文献】 特開2012−182158(JP,A)
【文献】 特表2014−509064(JP,A)
【文献】 特開2005−072228(JP,A)
【文献】 特開2006−216937(JP,A)
【文献】 特開2011−003665(JP,A)
【文献】 特開2009−088249(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/129342(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
B24B 37/00
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にコバルト含有部を有し、且つ、表面に銅含有部を有しない基板の、少なくとも前記コバルト含有部を研磨するための研磨液であって、
(A)有機酸類と、
(B)ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物と
を含有し、
pHが4.56.0であり、
前記(A)有機酸類が、アミノ酸を含み、
前記(B)ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物が、ベンゾトリアゾール骨格を有し、且つ、親水性基を有する化合物を含む、研磨液。
【請求項2】
記アミノ酸が、α−アラニン及びβ−アラニンからなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1に記載の研磨液。
【請求項3】
記親水性基が、水酸基及びカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1又は2に記載の研磨液。
【請求項4】
硫酸及び硫酸塩の含有量が1ppm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の研磨液。
【請求項5】
過酸化水素、過ヨウ素酸カリウム、及びオゾンからなる群より選ばれる少なくとも一種を更に含有する、請求項1〜4のいずれかに記載の研磨液。
【請求項6】
研磨砥粒を更に含有する、請求項1〜5のいずれかに記載の研磨液。
【請求項7】
表面にコバルト含有部を有し、且つ、表面に銅含有部を有しない基板の、少なくとも前記コバルト含有部を、請求項1〜6のいずれかに記載の研磨液を用いて研磨する、研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、研磨液及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体大規模集積回路(Large−Scale Integration。以下「LSI」と記す。)の高集積化及び高性能化に伴って、新たな微細加工技術が開発されている。化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing。以下「CMP」と記す。)法もその一つである。CMP法は、半導体デバイス製造工程、特に多層配線形成工程における層間絶縁材料の平坦化、金属プラグの形成、埋め込み配線の形成等において頻繁に利用される技術である。
【0003】
現在は、配線材料として、主に銅、銅合金、銅の酸化物、銅合金の酸化物等の銅系金属が用いられている。通常、銅系金属を用いた埋め込み配線の形成には、いわゆるダマシン法が採用されている。ダマシン法では、まず、あらかじめ表面に凹部(例えば、溝部)及び凸部(例えば、隆起部)が形成された絶縁材料上に、銅系金属を堆積して、凹部に銅系金属を埋め込む。次いで、凸部上に堆積した銅系金属(すなわち、凹部内以外の銅系金属)をCMP法により除去して埋め込み配線を形成する。
【0004】
銅系金属のCMPに用いられる研磨液は、必要に応じて、砥粒、酸化剤、金属溶解剤、金属防食剤等を含有する。更に、添加剤として様々な物質を添加した研磨液が検討されている。これらの研磨液によって、銅系金属に対し比較的高いCMP速度、及び、比較的低いエッチング速度が得られる場合がある(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−538457号公報
【特許文献2】特開2009−514219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
LSIの潮流は、更なる高集積化及び高性能化に向かっている。それに伴い、ダマシン法による埋め込み配線にも微細化が求められている。しかし、銅系金属の凹部への埋め込みには技術的限界があり、埋め込み不良が発生する場合がある。そのため、埋め込み性の良好なバリア膜(コバルト、ルテニウム等)を用い銅系金属の埋め込み性を改善している。しかしながら、1Xnmノードが求められる最先端の半導体デバイス製造工程では、埋め込み性が良好なバリア膜を用いても銅系金属の埋め込み性が限界に近づきつつある。そこで、近年、配線材料を、銅系金属から埋め込み性の良好なコバルトへ置き換える動きが出てきている。
【0007】
しかしながら、従来の研磨液を用いたCMPでは、コバルトを高いCMP速度で研磨することは困難であることがわかった。また、コバルトは標準酸化還元電位が低く、エッチングされ易いという傾向があり、従来の研磨液を用いたCMPでは、コバルトを腐食なく研磨することは困難であることがわかった。コバルトが腐食されると、形成された配線パターンに欠陥が発生し、デバイスの誤作動が引き起こされる懸念がある。
【0008】
上記問題点に鑑み、本発明の実施形態は、コバルト含有部を、高いCMP速度且つ低いエッチング速度で研磨可能な研磨液を提供することを目的とする。また、本発明の他の実施形態は、コバルト含有部を、高いCMP速度且つ低いエッチング速度で研磨可能な研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者らは、有機酸類及びベンゾトリアゾール骨格を有する化合物を含有し、pHが3.0〜8.0である研磨液により、コバルトに対し、高いCMP速度と低いエッチング速度とを達成できることを見出し、種々の実施形態を含む本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の実施形態は、表面にコバルト含有部を有し、且つ、表面に銅含有部を有しない基板の、少なくとも前記コバルト含有部を研磨するための研磨液であって、(A)有機酸類と、(B)ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物とを含有し、pHが3.0〜8.0である、研磨液に関する。
【0011】
前記研磨液の一実施形態において、前記(A)有機酸類はアミノ酸を含む。
【0012】
前記研磨液の一実施形態において、前記(B)ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物は、ベンゾトリアゾール骨格を有し、且つ、親水性基を有する化合物を含む。
【0013】
一実施形態において、前記研磨液中の硫酸及び硫酸塩の含有量は1ppm以下である。
【0014】
一実施形態において、前記研磨液は、過酸化水素、過ヨウ素酸カリウム、及びオゾンからなる群より選ばれる少なくとも一種を更に含有する。
【0015】
一実施形態において、前記研磨液は、研磨砥粒を更に含有する。
【0016】
本発明の他の実施形態は、表面にコバルト含有部を有し、且つ、表面に銅含有部を有しない基板の、少なくとも前記コバルト含有部を、前記いずれかの研磨液を用いて研磨する、研磨方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の実施形態である研磨液によれば、コバルト含有部を、高いCMP速度且つ低いエッチング速度で研磨できる。また、本発明の他の実施形態である研磨方法によれば、コバルト含有部を、高いCMP速度且つ低いエッチング速度で研磨できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態である研磨方法の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態である研磨液及び研磨方法について詳細に説明する。
【0020】
(定義)
本発明の実施形態において用いられる用語を説明する。
「物質Aを研磨する」及び「物質Aの研磨」とは、物質Aの少なくとも一部を研磨により除去することと定義される。
「高いCMP速度」とは、研磨される物質AがCMPにより除去される速度(例えば、時間あたりの物質Aの厚みの低減量)が大きいことと定義される。
「低いエッチング速度」とは、研磨される物質Aが研磨液に溶解する速度(例えば、時間あたりの物質Aの厚みの低減量)が小さいことと定義される。
【0021】
「コバルト含有部」とは、コバルト原子を含む部分を意味し、「コバルト含有部」には、例えば、コバルト、コバルト合金、コバルトの酸化物、コバルト合金の酸化物等を含有する部分が含まれる。
「銅含有部」とは、銅原子を含む部分を意味し、「銅含有部」には、例えば、銅、銅合金、銅の酸化物、銅合金の酸化物等を含有する部分が含まれる。
【0022】
「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
【0023】
(研磨液)
本実施形態に係る研磨液は、表面にコバルト含有部を有し、且つ、表面に銅含有部を有しない基板の、少なくとも前記コバルト含有部を研磨するための研磨液である。本実施形態に係る研磨液は、例えば、半導体デバイス製造工程において用いられる。
【0024】
本実施形態に係る研磨液は、(A)有機酸類と、(B)ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物とを含有し、pHが3.0〜8.0である。研磨液は、更に任意成分を含有してもよい。(A)成分、(B)成分、及び任意成分は、ぞれぞれ、一種を単独で使用してもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0025】
((A)有機酸類)
本実施形態に係る研磨液は、有機酸類を含有する。有機酸類はコバルト含有部に対する溶解剤として機能すると考えられるが、これに限定されない。有機酸類には、有機酸、有機酸のエステル、及び有機酸の塩が含まれる。有機酸は酸性の官能基をもつ化合物である。但し、有機酸類には、後述するベンゾトリアゾール骨格を有する化合物又は窒素含有複素環化合物であって、酸性の官能基を持つ化合物は含まれないものとする。
【0026】
有機酸類としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2−メチル酪酸、n−ヘキサン酸、3,3−ジメチル酪酸、2−エチル酪酸、4−メチルペンタン酸、n−ヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、n−オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコ−ル酸、ジグリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、グルコン酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アミノ酸等の有機酸;前記有機酸のエステル(例えば、酢酸エチル、酢酸ペンチル等);前記有機酸の塩(例えば、酢酸アンモニウム等)などが挙げられる。
【0027】
本実施形態に係る研磨液は、高いCMP速度且つ低いエッチング速度を達成する観点から、好ましくはアミノ酸を含有する。アミノ酸としては、グリシン、α−アラニン、β−アラニン(別名:3−アミノプロパン酸)、2−アミノ酪酸、ノルバリン、バリン、ロイシン、ノルロイシン、イソロイシン、アロイソロイシン、フェニルアラニン、プロリン、サルコシン、オルニチン、リシン、セリン、トレオニン、アロトレオニン、ホモセリン、チロシン、3,5−ジヨ−ド−チロシン、β−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−アラニン、チロキシン、4−ヒドロキシ−プロリン、システイン、メチオニン、エチオニン、ランチオニン、シスタチオニン、シスチン、システイン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、S−(カルボキシメチル)−システイン、4−アミノ酪酸、アスパラギン、グルタミン、アザセリン、アルギニン、カナバニン、シトルリン、δ−ヒドロキシ−リシン、クレアチン、キヌレニン、ヒスチジン、1−メチル−ヒスチジン、3−メチル−ヒスチジン、エルゴチオネイン、トリプトファン等が挙げられる。
【0028】
アミノ酸の中でも、高いCMP速度と低いエッチング速度とを高度に達成する観点から、低分子量のアミノ酸が好ましい。具体的には、分子量が200以下のアミノ酸が好ましく、150以下のアミノ酸がより好ましく、100以下のアミノ酸が更に好ましい。このようなアミノ酸としては、グリシン(分子量75)、α−アラニン(分子量89)、β−アラニン(分子量89)、2−アミノ酪酸(分子量103)、4−アミノ酪酸(分子量103)等が挙げられる。
【0029】
有機酸類の含有量は、コバルト含有部を充分に溶解する観点から、研磨液100質量部に対して、0.0001質量部以上が好ましく、0.0005質量部以上がより好ましく、0.001質量部以上が更に好ましく、0.005質量部以上が特に好ましく、0.01質量部以上が極めて好ましい。また、有機酸の含有量は、エッチングを抑制する観点から、研磨液100質量部に対して、50質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましく、10質量部以下が更に好ましく、5質量部以下が特に好ましく、3質量部以下が極めて好ましい。
【0030】
特に研磨液がアミノ酸以外の有機酸を含有する場合、アミノ酸以外の有機酸類の含有量は、コバルト含有部を充分に溶解する観点から、研磨液100質量部に対して、0.0001質量部以上が好ましく、0.0005質量部以上がより好ましく、0.001質量部以上が更に好ましく、0.005質量部以上が特に好ましく、0.01質量部以上が極めて好ましい。また、アミノ酸以外の有機酸の含有量は、エッチングを抑制する観点から、研磨液100質量部に対して、50質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下が更に好ましく、1質量部以下が特に好ましく、0.5質量部以下が極めて好ましい。
【0031】
特に研磨液がアミノ酸を含有する場合、アミノ酸の含有量は、コバルト含有部を充分に溶解する観点から、研磨液100質量部に対して、0.001質量部以上が好ましく、0.01質量部以上がより好ましく、0.05質量部以上が更に好ましく、0.1質量部以上が特に好ましく、0.5質量部以上が極めて好ましい。また、アミノ酸の含有量は、エッチングの抑制が容易となる観点から、研磨液100質量部に対して、50質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましく、10質量部以下が更に好ましく、5質量部以下が特に好ましく、3質量部以下が極めて好ましい。
【0032】
一実施形態において、アミノ酸の含有量は、研磨液100質量部に対して、0.001〜10質量部である。これにより高いCMP速度と低いエッチング速度の両方を高度に達成できる。
【0033】
((B)ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物)
本実施形態に係る研磨液は、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物を含有する。ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物(以下、「ベンゾトリアゾール化合物」と記す。)は、コバルト含有部に対する保護膜形成剤、防食剤等として機能すると考えられるが、これに限定されない。高いCMP速度と低いエッチング速度とを高度に達成する観点から、好ましくはベンゾトリアゾール骨格を有し、且つ、親水性基を有する化合物(以下、「親水性基を有するベンゾトリアゾール化合物」と記す。)を含有する。親水性基としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシメチル基、アルコキシカルボニル基等が挙げられる。
【0034】
ベンゾトリアゾール化合物としては、例えば、1H−ベンゾトリアゾール、5−メチル−1H−ベンゾトリアゾール(別名:トリルトリアゾール)、5−ヘキシル−1H−ベンゾトリアゾール、1−ヒドロキシ−1H−ベンゾトリアゾール、4−ヒドロキシ−1H−ベンゾトリアゾール、1−(2,3−ジヒドロキシプロピル)−1H−ベンゾトリアゾール、1−カルボキシ−1H−ベンゾトリアゾール、4−カルボキシ−1H−ベンゾトリアゾール、4−カルボキシ−1H−ベンゾトリアゾールメチルエステル、4−カルボキシ−1H−ベンゾトリアゾールブチルエステル、4−カルボキシ−1H−ベンゾトリアゾールオクチルエステル、2,3−ジカルボキシプロピル−1H−ベンゾトリアゾール、N−(1,2,3−ベンゾトリアゾリル−1−メチル)−N−(1,2,4−トリアゾリル−1−メチル)−2−エチルヘキサンアミン等が挙げられる。
【0035】
ベンゾトリアゾール化合物の含有量は、エッチングの抑制が容易となる観点から、研磨液100質量部に対して、0.001質量部以上が好ましく、0.005質量部以上がより好ましく、0.01質量部以上が更に好ましく、0.02質量部以上が特に好ましい。また、ベンゾトリアゾール化合物の含有量は、充分なCMP速度を得る観点から、研磨液100質量部に対して、0.5質量部以下が好ましく、0.2質量部以下がより好ましく、0.1質量部以下が更に好ましく、0.08質量部以下が特に好ましく、0.05質量部以下が極めて好ましい。
【0036】
一実施形態において、ベンゾトリアゾール化合物の含有量は、研磨液100質量部に対して、0.001〜0.5質量部である。これにより高いCMP速度と低いエッチング速度の両方を高度に達成できる。
【0037】
(金属の酸化剤)
本実施形態に係る研磨液は、金属の酸化剤(以下、「金属酸化剤」と記す。)を更に含有してもよい。金属酸化剤としては、過酸化水素(H)、過ヨウ素酸カリウム、オゾン等が挙げられる。金属酸化剤の中でも、過酸化水素が好ましい。
【0038】
金属酸化剤を含有する場合、その含有量は、充分にコバルトが酸化され、良好なCMP速度を得る観点から、研磨液100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上が更に好ましい。また、金属酸化剤の含有量は、被研磨面に荒れが生じることを防ぐ観点から、研磨液100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、6質量部以下がより好ましく、3質量部以下が更に好ましい。
【0039】
(研磨砥粒)
本実施形態に係る研磨液は、研磨砥粒(以下、「砥粒」と記す。)を更に含有してもよい。砥粒としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、セリア粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子、ゲルマニア粒子、炭化ケイ素粒子等の無機物砥粒;ポリスチレン粒子、ポリアクリル粒子、ポリ塩化ビニル粒子等の有機物砥粒;無機物砥粒と有機物砥粒の複合砥粒などが挙げられる。砥粒としては、研磨液中での分散安定性が良く、研磨時に発生する研磨傷数が少ないという観点から、無機物砥粒が好ましく、無機物砥粒のコロイドがより好ましく、コロイダルシリカ又はコロイダルアルミナが更に好ましい。
【0040】
砥粒の平均粒径は、特に制限はないが、分散安定性の観点から、100nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましい。また、砥粒の平均粒径は、高いCMP速度を得る観点から、10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、30nm以上が更に好ましい。砥粒の「平均粒径」とは、研磨液中の砥粒の平均二次粒径を意味する。砥粒の平均粒径の測定に際しては、例えば、光回折散乱式粒度分布計(例えば、COULTER Electronics社製「COULTER N4SD」、マルバーンインスツルメンツ社製「ゼータサイザー3000HSA」等)を使用できる。
【0041】
本実施形態に係る研磨液において、砥粒の含有量は0〜10質量部であることが好ましい。砥粒を含有する場合、その含有量は、研磨液中において砥粒の分散安定性が低下することを抑制する観点から、研磨液100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、1質量部以下が更に好ましく、0.5質量部以下が特に好ましい。また、砥粒を含有する場合、砥粒の含有量は、高いCMP速度を得る観点から、研磨液100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.05質量部以上がより好ましい。
【0042】
(無機酸)
本実施形態に係る研磨液は、CMP速度を更に向上させることを目的として、無機酸類を更に含有してもよい。無機酸類には、無機酸及び無機酸の塩が含まれる。無機酸類としては、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、クロム酸等の無機酸;前記無機酸の塩(例えば、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等)などが挙げられる。無機酸類を含有する場合、有機酸との合計の含有量が、0.001〜10質量部の範囲となることが好ましい。
【0043】
但し、低いエッチング速度を達成する観点からは、研磨液中の硫酸及び硫酸塩の含有量は小さいことが好ましい。硫酸及び硫酸塩の含有量を低くすることにより、コバルト含有部の活性溶解が抑制され、低いエッチング速度を実現できると考えられる。従って、研磨液中の硫酸及び硫酸塩の含有量は1ppm以下が好ましく、0.5ppm以下がより好ましく、0.1ppm以下が更に好ましい。特に、硫酸及び硫酸塩の含有量を0.000ppmとすることにより、コバルト含有部の活性溶解が抑制されるため、低いエッチング速度をより高度に達成できる。
【0044】
なお、本発明の実施形態において、「硫酸及び硫酸塩の含有量」とは、研磨液が硫酸及び硫酸塩のいずれか一方を含有する場合は、当該いずれか一方の含有量をいい、研磨液が硫酸及び硫酸塩の両方を含有する場合は、両方の合計の含有量をいう。また、「硫酸塩の含有量」としては、研磨液に含まれる硫酸塩の質量を硫酸の質量に換算した値を用いる。例えば、硫酸アンモニウムの含有量は、[(研磨液に含まれる硫酸塩の質量)×(98.1/132.1)]/(研磨液全体の質量)により求める。
【0045】
研磨液中の硫酸及び硫酸塩の含有量は、イオンクロマトグラフィーにより得た硫酸イオン濃度を用いて求めることができる。また、研磨液中の硫酸及び硫酸塩の含有量は、硫酸及び硫酸塩の添加量により求めることもできる。本実施形態に係る研磨液は、少なくともいずれか一方の方法により求めた硫酸及び硫酸塩の含有量が、前記範囲であることが好ましい。
【0046】
イオンクロマトグラフィーとしては、例えば、検出器として電気伝導度検出器を用いたシステム(例えば、株式会社ダイオネクス製「ICS−2000」)が挙げられる。測定条件として、例えば、カラムをAS20(4mmφ×200mm)、カラム温度を30℃、流速を1.0mL/min、試料注入量を25μLとできる。試料は、研磨液を限外濾過、希釈等して調製できる。
【0047】
(保護膜形成剤、防食剤)
本実施形態に係る研磨液は、ベンゾトリアゾール化合物以外に、保護膜形成剤、防食剤等として機能する公知の化合物を更に含有してもよい。そのような化合物として、例えば、窒素含有複素環化合物が知られており、具体的には、トリアゾール骨格を有する化合物、ナフトトリアゾール骨格を有する化合物、ピリミジン骨格を有する化合物、イミダゾール骨格を有する化合物、グアニジン骨格を有する化合物、チアゾール骨格を有する化合物、ピラゾール骨格を有する化合物等が挙げられる。エッチングの抑制が容易となる観点から、トリアゾール骨格を有する化合物、ナフトトリアゾール骨格を有する化合物等が好ましい。
【0048】
トリアゾール骨格を有する化合物としては、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1H−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−4H−1,2,4−トリアゾール等が挙げられる。
【0049】
ナフトトリアゾール骨格を有する化合物としては、1H−ナフト[2,3−d]トリアゾール1−アミン、1−アミノ−1H−ナフト[1,2−d]トリアゾール、2−アミノ−2H−ナフト[1,2−d]トリアゾール、3H−ナフト[1,2−d]トリアゾール、4,9−ジヒドロ−1H−ナフト[2,3−d]トリアゾール等が挙げられる。
【0050】
ベンゾトリアゾール化合物以外に保護膜形成剤、防食剤等として機能する化合物を含む場合、当該化合物の含有量は、研磨液100質量部に対して、それぞれ0.001〜0.5質量部の範囲となることが好ましい。
【0051】
(有機溶剤)
研磨液は、有機溶剤を更に含有してもよい。有機溶剤としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等の炭酸エステル類;ブチルラクトン、プロピルラクトン等のラクトン類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ポリエチレンオキサイド、エチレングリコールモノメチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル類;メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、イソプロパノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のアルコール類(モノアルコール類);アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;酢酸エチル、乳酸エチル等のエステル類(炭酸エステル類及びラクトン類を除く);スルホラン等のスルホラン類などが挙げられる。
【0052】
有機溶剤を含有する場合、その含有量は、添加した各成分の溶解性を向上させる観点から、研磨液100質量部に対し、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、更に好ましくは0.1質量部以上である。また、有機溶剤の含有量は、研磨液を長期に亘り安定的に保管する観点から、研磨液100質量部に対し、好ましくは50質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
【0053】
(水)
研磨液は、水を更に含有してもよい。水として、イオン交換水、蒸留水等の純水を用いることが好ましい。水を含有する場合、その含有量は、他の成分の残部でよい。
【0054】
(他の任意成分)
研磨液は、得られる効果を考慮し、更に、前記に挙げた成分以外の任意成分として、一般的な金属用研磨液に用いられる分散剤、界面活性剤等の添加剤を含有してもよい。
【0055】
(pH)
本実施形態に係る研磨液のpHは、3.0〜8.0である。研磨液のpHが3.0以上であると、エッチングが抑制される。研磨液のpHは、エッチングの抑制が容易となる観点から、3.5以上が好ましく、4.0以上がより好ましい。また、研磨液のpHが8.0以下であると、充分なCMP速度が得られる。研磨液のpHは、充分なCMP速度を容易に得る観点から、7.0以下が好ましく、6.0以下がより好ましい。
【0056】
特にpHを4.5〜6.0とすると、エッチング速度を抑制したまま、CMP速度が特異的に上昇する。これにより高いCMP速度と低いエッチング速度とを高度に達成できる。
【0057】
本実施形態に係る研磨液について、酸又は塩基をpH調整剤として用いて、pHを調整してもよい。pH調整剤としては、塩酸、硝酸等の無機酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の無機塩基などが挙げられる。これらの中でも、硝酸、アンモニア等がpHの調整が容易であるという観点から好ましい。
【0058】
pHは、pHメータ(例えば、株式会社堀場製作所製「pHMeter F−51」)を用いて測定できる。例えば、フタル酸塩pH緩衝液(pH 4.01)と中性リン酸塩pH緩衝液(pH 6.86)とを標準緩衝液として用いてpHメータを2点校正した後、pHメータの電極を研磨液に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定する。このとき、標準緩衝液と研磨液の液温は共に25℃とする。
【0059】
(研磨液セット)
上記実施形態に係る研磨液は、構成成分をスラリと添加液とに分けた複数液式の研磨液セットとして保存してもよい。スラリと、添加液とを混合して研磨液を得ることができる。スラリは、例えば、砥粒及び水を少なくとも含む。添加液は、例えば、(A)有機酸類、(B)ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物、及び金属酸化剤からなる群より選択される少なくとも一種を含む。特に、金属酸化剤として過酸化水素を用いるなど、分解し易い成分を含む場合は、構成成分を分けて保存することが好ましい。例えば、砥粒、(A)有機酸類、(B)ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物、及び水を含むスラリと、過酸化水素及び水を含む添加液とに分けて保存することが好ましい。
【0060】
また、スラリ及び添加液は、水等の液状媒体によって希釈されて使用される、濃縮貯蔵液であってもよい。ここで、濃縮とは、液状媒体に対する各成分の含有割合が研磨液における含有割合より多いことを意味し、濃縮工程を経たものに限定されない。
【0061】
(研磨方法)
本実施形態に係る研磨方法は、上記実施形態の研磨液を用いて、少なくともコバルト含有部を研磨する工程を含む。研磨方法による研磨対象は、表面にコバルト含有部を有し、且つ、表面に銅含有部を有しない基板である。研磨対象である基板として、例えば、半導体デバイスを製造するための基板が挙げられる。コバルト含有部は、コバルト原子を含有する部分であり、例えば、コバルト、コバルト合金(例えば、コバルト−ニッケル合金等)、コバルトの酸化物、及びコバルト合金の酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一種のコバルト系金属を含む。また、前記銅含有部は、銅原子を含有する部分であり、例えば、銅、銅合金、銅の酸化物、及び銅合金の酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の銅系金属を含む。研磨対象である基板は、好ましくは、表面に凸部及び凹部を有する下地層(基体、層間絶縁材料を用いて形成した層等)上に、コバルト系金属を堆積してコバルト含有部を形成し、凹部にコバルト系金属が充填された基板である。上記実施形態の研磨液を用いてこのような基板を研磨すると、下地層の凸部上に堆積したコバルト系金属が選択的に研磨により除去され、所望の平坦化されたコバルト系金属からなる配線パターンが得られる。
【0062】
研磨方法の一実施形態では、例えば、図1(a)に示すように、基体(図示せず)上に形成された、下地層1、バリア層2、及びコバルト含有部3を有する基板10を研磨する。下地層1は、層間絶縁材料から構成され、表面に凸部及び凹部を有する。バリア層2は、バリア材料から構成され、下地層1の表面に追従して設けられている。コバルト含有部3は、前記凹部を埋め込むようにバリア層2を被覆している。研磨方法の一実施形態は、例えば、上記実施形態の研磨液を用いてコバルト含有部を研磨して、図1(b)に示すように、下地層1の凸部上に位置するバリア層2を露出させて基板20を得る第一の研磨工程を備える。研磨方法は、更に、前記凸部上のバリア層2を研磨して、図1(c)に示すように、凸部を構成する下地層1を露出させて基板30を得る第二の研磨工程を備えてもよい。バリア層2の研磨には、バリア層を形成する材料に応じて、公知のバリア層用の研磨液を適宜選択して用いればよい。
【0063】
本実施形態に係る研磨方法には、例えば、基板を保持できるホルダと、研磨パッドが貼り付けられた研磨定盤とを有する、一般的な研磨装置を用いることができる。研磨定盤の研磨パッド上に上記実施形態の研磨液を供給し、基板のコバルト含有部を研磨パッドに押圧した状態で、研磨定盤と基板とを相対的に動かすことによって被研磨面を研磨する。
【0064】
研磨装置を用いる場合は、例えば、研磨される基板を保持できるホルダと、研磨パッドを貼り付け可能であり、且つ、回転数が変更可能なモータ等と接続している研磨定盤とを有する一般的な研磨装置を使用できる。研磨パッドとしては、不織布、発泡ポリウレタン、多孔質フッ素樹脂等からなるパッドが挙げられる。
【0065】
研磨条件には特に制限はないが、研磨定盤の回転速度は、基板が飛び出さないように200min−1(200rpm)以下の低回転が好ましい。基板の研磨パッドへの押し付け圧力は、4.9〜98kPaが好ましい。同一面内でCMP速度のばらつきが少ないこと(CMP速度の面内均一性)、及び、研磨前に存在していた凹凸が解消し平坦になり易いこと(パターンの平坦性)を満足する観点から、9.8〜49kPaがより好ましい。
【0066】
研磨している間、例えば、研磨液をポンプ等で連続的に研磨パッドに供給する。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に研磨液で覆われていることが好ましい。研磨終了後の基板は、流水中でよく洗浄後、スピンドライ等を用いて、基板に付着した水滴を払い落としてから乾燥させることが好ましい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
[研磨液の調製]
純水に、有機溶剤として3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール(MMB)、有機酸としてリンゴ酸、及びベンゾトリアゾール化合物として1−ヒドロキシ−1H−ベンゾトリアゾール(HBTA)をこの順に加え、撹拌して混合した。得られた溶液に、研磨砥粒としてコロイダルシリカを加えて混合した。更に、過酸化水素水(過酸化水素濃度 30質量%)を加えて混合した。その後、各成分の含有量が表1に示す量[質量%]となるように、純水を加えて混合し、実施例1の研磨液を得た。
【0069】
[砥粒の平均粒径]
砥粒の平均粒径(二次粒子の平均粒径)は、光回折散乱式粒度分布計(マルバーンインスツルメンツ社製「ゼータサイザー3000HSA」)を用いて測定した。具体的には、研磨液をイオン交換水で希釈して試料を調製後(散乱光強度が500〜2000cps)、前記粒度分布計の試料槽に投入し、散乱光強度から算出される電気泳動移動度として得られる値を読み取った。コロイダルシリカの平均粒径は70nmであった。
【0070】
[研磨液のpH]
研磨液のpHを以下の条件により測定した。
測定温度:25℃
測定装置:株式会社堀場製作所製「pHMeter F−51」
測定方法:標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液、pH:4.01(25℃);中性リン酸塩pH緩衝液、pH:6.86(25℃))を用いて2点校正した後、電極を研磨液に入れて、2分以上経過して安定した後のpHを前記測定装置により測定した。
【0071】
[研磨特性評価]
前記で得られた研磨液の研磨特性を、以下に示す評価項目に従って評価した。
【0072】
(評価項目)
(1)CMP速度(Co−RR(Removal Rate)[nm/min])
CMP前後のコバルト層の厚み差を電気抵抗値から換算して求め、厚み差と研磨時間とによりCMP速度を算出した。
【0073】
(研磨条件)
基板:表面に厚さ1,000nmのコバルト層を形成したシリコンウエハ(8inch、ブランケットウエハ)
研磨装置:定盤直径600mm、ロータリータイプ
研磨パッド:独立気泡を持つ発泡ポリウレタン樹脂(ロームアンドハース社製「IC−1010」)
研磨圧力:14kPa
基板と研磨定盤との相対速度:36m/min
研磨液供給量:200mL/min
研磨液の温度:25℃
研磨時間:1min
【0074】
(2)エッチング速度(Co−ER(Etching Rate)[nm/min])
研磨液へ浸漬前後のコバルト層の厚み差を電気抵抗値から換算して求め、厚み差と浸漬時間とによりエッチング速度を算出した。
(浸漬条件)
チップ:表面に厚さ1,000nmのコバルト層を形成したシリコンウエハ(8inch、ブランケットウエハ)を切断して得た、20mm×20mmのチップ
研磨液容量:100mLビーカー内の100mL
回転速度:チップを固定した撹拌羽根(回転半径1.5cm)を200min−1(rpm)で回転
研磨液の温度:60℃
浸漬時間:2min
【0075】
(実施例2〜6)
有機酸類を表1に示す有機酸類に代えた以外は、実施例1と同様に研磨液を得た。実施例1と同様に、砥粒の平均粒径及び研磨液のpHを測定し、また、CMP速度及びエッチング速度を評価した。結果を表1に示す。
(比較例1及び2)
有機酸類を用いなかったか、又は、有機酸類に代えて硫酸アンモニウムを用いた以外は、実施例1と同様に研磨液を得た。実施例1と同様に、砥粒の平均粒径及び研磨液のpHを測定し、また、CMP速度及びエッチング速度を評価した。結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
実施例1〜6の研磨液は、(A)有機酸類及び(B)ベンゾトリアゾール化合物を含有し、pHが3.0〜8.0であることにより、高いCMP速度と低いエッチング速度とを達成できた。
【0078】
実施例1及び2と、実施例3〜6との比較により、有機酸類としてアミノ酸を用いることにより、高いCMP速度と低いエッチング速度とを高度に達成できることがわかる。高いCMP速度を達成できる理由としては、有機酸類に比してアミノ酸がコバルトと錯体をより形成しやすく、アミノ酸が研磨による溶出イオンを効果的に錯体化するためと推察される。一方で低いエッチング速度を達成できる理由としては、酸の添加によるpHの低下がアミノ酸では抑えられるため、低いpHによるコバルトの活性溶解が抑制できるためと推察される。このような観点から、アミノ酸は、高いCMP速度と低いエッチング速度とを高度に達成する効果を有効に発揮しているといえる。
【0079】
(実施例7〜10)
ベンゾトリアゾール化合物を表2に示すベンゾトリアゾール化合物に代えた以外は、実施例3と同様に研磨液を得た。表中、CBTAは4−カルボキシ−1H−ベンゾトリアゾールを、BTAは1H−ベンゾトリアゾールを表す。実施例3と同様に、砥粒の平均粒径及び研磨液のpHを測定し、また、CMP速度及びエッチング速度を評価した。結果を、実施例3の結果と共に表2に示す。
【0080】
(比較例3及び4)
ベンゾトリアゾール化合物を用いなかったか、又は、ベンゾトリアゾール化合物に代えて1,2,4−トリアゾール(1,2,4−TA)を用いた以外は、実施例3と同様に研磨液を得た。実施例3と同様に、砥粒の平均粒径及び研磨液のpHを測定し、また、CMP速度及びエッチング速度を評価した。結果を表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
実施例3及び7〜10の研磨液は、(A)有機酸類及び(B)ベンゾトリアゾール化合物を含有し、pHが3.0〜8.0であることにより、高いCMP速度と低いエッチング速度とを達成できた。実施例3、7及び8の比較により、特に(B)ベンゾトリアゾール化合物として親水性基を有するベンゾトリアゾール化合物を用いることにより、高いCMP速度と低いエッチング速度との両立を高度に達成できることがわかる。また、実施例3、9及び10の比較により、ベンゾトリアゾール化合物の含有量が大きいほど、より低いエッチング速度を達成できることがわかる。一方、比較例3の研磨液は、窒素含有複素環化合物を含有しないために、エッチング速度が高く、また、比較例4の研磨液は、(B)ベンゾトリアゾール化合物に代えてトリアゾール化合物を含有するために、CMP速度が低く、且つ、エッチング速度が高かった。
【0083】
(実施例11)
コロイダルシリカを用いなかった以外は、実施例3と同様に研磨液を得た。実施例3と同様に、砥粒の平均粒径及び研磨液のpHを測定し、また、CMP速度及びエッチング速度を評価した。結果を、実施例3の結果と共に表3に示す。
【0084】
【表3】
【0085】
実施例3及び11の研磨液は、研磨砥粒の有無に関わらず、高いCMP速度と低いエッチング速度とを達成できた。特に、実施例3の研磨液は、研磨砥粒を含有することにより、より高いCMP速度を達成できた。
【0086】
(実施例12)
pH調整剤としてアンモニア水溶液(アンモニア濃度 25質量%)を用いて研磨液のpHを調整した以外は、実施例3と同様に研磨液を得た。実施例3と同様に、砥粒の平均粒径及び研磨液のpHを測定し、また、CMP速度及びエッチング速度を評価した。結果を、実施例3の結果と共に表4に示す。
【0087】
【表4】
【0088】
実施例3及び12の研磨液は、(A)有機酸類及び(B)ベンゾトリアゾール化合物を含有し、pHが3.0〜8.0であることにより、高いCMP速度と低いエッチング速度とを達成できた。
【0089】
(実施例13〜16)
有機酸類を加えた後、更に表5に示す硫酸及び/又は硫酸塩を加えた以外は、実施例1と同様に研磨液を得た。実施例1と同様に、砥粒の平均粒径及び研磨液のpHを測定し、また、CMP速度及びエッチング速度を評価した。結果を、実施例3の結果と共に表5に示す。表5中、硫酸及び硫酸アンモニウムの含有量[質量%]は、添加量に基づき求めた値であり、また、硫酸アンモニウムの含有量[質量%]は、研磨液に含まれる硫酸アンモニウムの質量を硫酸の質量に換算して求めた値である。
【0090】
【表5】
【0091】
実施例13〜16の研磨液から、無機酸類を適度に含有することにより、より高いCMP速度を達成できることがわかる。また、無機酸類の含有量が大きいほど、エッチング速度が高くなることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の実施形態に係る研磨液及び研磨方法は、コバルト含有部を有する基板、例えば、配線材料としてコバルト系金属を有する半導体基板のCMPに好ましく用いることができる。
【符号の説明】
【0093】
1 下地層
2 バリア層
3 コバルト含有部
10,20,30 基板
図1