特許第6379821号(P6379821)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6379821ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、その製造方法、成形体、フィルム又はシート、電子写真用転写ベルトおよび画像形成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6379821
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、その製造方法、成形体、フィルム又はシート、電子写真用転写ベルトおよび画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20180820BHJP
   C08K 9/02 20060101ALI20180820BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20180820BHJP
   C08K 3/30 20060101ALI20180820BHJP
   G03G 15/16 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   C08L81/02
   C08K9/02
   C08K3/01
   C08K3/30
   G03G15/16
【請求項の数】12
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-157654(P2014-157654)
(22)【出願日】2014年8月1日
(65)【公開番号】特開2016-34999(P2016-34999A)
(43)【公開日】2016年3月17日
【審査請求日】2017年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100159293
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 真
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 徹
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−064280(JP,A)
【文献】 特開2003−307921(JP,A)
【文献】 特開2003−335871(JP,A)
【文献】 特開2007−176986(JP,A)
【文献】 特開2010−229242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 − 101/16
C08K 3/00 − 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、電気伝導性フィラーをシリカで被覆した複合粒子(B)と有機または無機潤滑剤(C)とを含有し、
該複合粒子(B)は、平均粒子径が0.1〜20μmの範囲であり、マトリックス(シリカ)中に電気伝導性フィラーの2粒子以上が分散した分散体であり、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、前記複合粒子(B)が1〜100質量部の範囲であり、前記有機または無機潤滑剤(C)が1〜40質量部の範囲であることを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
前記複合粒子(B)は、シリカをマトリックスとして、当該マトリックス中に前記電気伝導性フィラーの2粒子以上が分散した分散体である請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
前記複合粒子(B)の平均粒子径が0.1〜20μmの範囲である請求項1又は2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
前記複合粒子(B)中の電気伝導性フィラーの一次粒子の平均粒子径が0.01〜10μmの範囲である請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】
前記複合粒子(B)中の導電性フィラーがカーボンブラックである請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項6】
前記無機潤滑剤(C)が、二硫化モリブデンまたはその酸化物である請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、電気伝導性フィラーをシリカで被覆した複合粒子(B)と有機または無機潤滑剤(C)とを溶融混練して得られるものである請求項1〜の何れか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形して得られる成形体。
【請求項9】
請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形して得られるフィルム又はシート。
【請求項10】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、電気伝導性フィラーをシリカで被覆した複合粒子(B)と有機または無機潤滑剤(C)とを含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を環状に押出成形して得られる電子写真用転写ベルトであって、
該複合粒子(B)は、平均粒子径が0.1〜20μmの範囲であり、マトリックス(シリカ)中に電気伝導性フィラーの2粒子以上が分散した分散体であり、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、前記複合粒子(B)が1〜100質量部の範囲であり、前記有機または無機潤滑剤(C)が1〜40質量部の範囲である電子写真用転写ベルト。
【請求項11】
請求項10記載の電子写真用転写ベルトを備えた画像形成装置。
【請求項12】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、電気伝導性フィラーをシリカで被覆した複合粒子(B)と有機または無機潤滑剤(C)とを溶融混練するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であって、
該複合粒子(B)は、平均粒子径が0.1〜20μmの範囲であり、マトリックス(シリカ)中に電気伝導性フィラーの2粒子以上が分散した分散体であり、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、前記複合粒子(B)が1〜100質量部の範囲であり、前記有機または無機潤滑剤(C)が1〜40質量部の範囲であることを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、その製造方法、成形体、フィルム又はシート、電子写真用転写ベルトおよび画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、「PPS樹脂」と略すことがある)に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、「PAS樹脂」と略すことがある)は、優れた耐熱性、難燃性、剛性、耐薬品性、電気絶縁性など、エンジニアリングプラスチックとしては好適な性質を有しており、射出成形用を中心として各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品などに使用されている。
【0003】
このポリアリーレンスルフィド樹脂を電子写真用転写ベルトや帯電防止トレーなどの導電性用途に適用する場合、カーボンなどの導電性材料を添加し、樹脂の導電性を均一な半導体領域にする必要があるが、ポリアリーレンスルフィド樹脂はカーボンの分散性が必ずしも優れているとは言えず、押出し成形時にカーボンの分散状態が変化し、導電性が不均一となる問題を抱えている。転写ベルトにおいて導電性が不均一であると、耐刷時において文字の中抜けやトナーの飛び散りが発生する。
【0004】
そこで、ポリアリーレンスルフィド樹脂にポリアミド樹脂を配合することで、樹脂の靱性を高めつつ、かつ樹脂組成物中のカーボンの分散状態を均一にして、比較的均一な導電性が付与された電子写真用転写ベルトが得られることが報告されている(特許文献1、2参照)。しかしながら、ポリアミド樹脂による導電性材料の分散性能は十分なものとは言えず、その結果、成形体の表面方向の導電性(表面抵抗率)や厚み方向の導電性(体積抵抗率)にばらつきが生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−20154号公報
【特許文献2】特開2010−143970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明が解決しようとする課題は、導電性材料の分散性が良く、かつ成形体の表面及び厚み方向における導電性のばらつきが抑制されたポリアリーレンスルフィド樹脂成形体、フィルム又はシート、これらを提供可能なポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、その製造方法を提供し、さらに、導電性材料の分散性が良く、かつ成形体の表面及び厚み方向における導電性のばらつきが抑制された電子写真用転写ベルトおよび該転写ベルトを備えた画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記の課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、カーボンなどの導電性フィラーをシリカで被覆した複合粒子を、無機潤滑剤と伴に用いることで、導電性成分の分散状態を均一にすることができることを見出し、上記課題を解決するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、電気伝導性フィラーをシリカで被覆した複合粒子(B)と無機潤滑剤(C)とを含有することを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に関する。
【0009】
また、本発明は、前記記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形して得られる成形体およびフィルム又はシートに関する。
【0010】
さらに本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、電気伝導性フィラーをシリカで被覆した複合粒子(B)と無機潤滑剤(C)とを含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を環状に押出成形して得られる電子写真用転写ベルトおよび該電子写真用転写ベルトを備えた画像形成装置に関する。
【0011】
さらに本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、電気伝導性フィラーをシリカで被覆した複合粒子(B)と無機潤滑剤(C)とを溶融混練することを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、導電性材料の分散性が良く、かつ成形体の表面及び厚み方向における導電性のばらつきが抑制されたポリアリーレンスルフィド樹脂成形体、フィルム又はシート、これらを提供可能なポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、その製造方法を提供し、さらに、導電性材料の分散性が良く、かつ成形体の表面及び厚み方向における導電性のばらつきが抑制された電子写真用転写ベルトおよび該転写ベルトを備えた画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例で用いる複合粒子(b1)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(倍率1000倍)の電子写真図である。
図2】実施例で用いる複合粒子(b1)の1粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真(倍率10000倍)の電子写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、電気伝導性フィラーをシリカで被覆した複合粒子(B)と無機潤滑剤(C)とを含有する。
【0015】
<ポリアリーレンスルフィド樹脂>
・ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)
本発明に使用するポリアリーレンスルフィド樹脂は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記式(1)
【0016】
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)で表される構造部位を繰り返し単位とする樹脂である。
【0017】
ここで、前記式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR及びRは、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記式(2)で表されるパラ位で結合するものが好ましいものとして挙げられる。
【0018】
【化2】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記構造式(2)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の耐熱性や結晶性の面で好ましい。
【0019】
また、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂は、前記式(1)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(3)〜(6)
【0020】
【化3】
で表される構造部位を、前記式(1)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本発明では上記式(3)〜(6)で表される構造部位は10モル%以下であることが、ポリアリーレンスルフィド樹脂の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記ポリアリーレンスルフィド樹脂中に、上記式(3)〜(6)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0021】
また、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂は、その分子構造中に、下記式(7)
【0022】
【化4】
で表される3官能性の構造部位、或いは、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
【0023】
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂の物性は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、以下の通りである。
【0024】
(溶融粘度)
本発明に用いるポリアリーレンスルフィド樹脂は、300℃で測定した溶融粘度(V6)が5〜1000〔Pa・s〕の範囲であることが好ましく、さらに流動性および機械的強度のバランスが良好となることから5〜100〔Pa・s〕の範囲がより好ましく、特に5〜50〔Pa・s〕の範囲であることが特に好ましい。
【0025】
(非ニュートン指数)
本発明に用いるポリアリーレンスルフィド樹脂の非ニュートン指数は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、0.90〜2.00の範囲であることが好ましい。リニア型ポリアリーレンスルフィド樹脂を用いる場合には、非ニュートン指数が0.90〜1.50の範囲であることが好ましく、さらに0.95〜1.20の範囲であることがより好ましい。このようなポリアリーレンスルフィド樹脂は機械的物性、流動性、耐磨耗性に優れる。ただし、非ニュートン指数(N値)は、キャピログラフを用いて300℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度及び剪断応力を測定し、下記式を用いて算出した値である。
【0026】
【数1】
[ただし、SRは剪断速度(秒−1)、SSは剪断応力(ダイン/cm)、そしてKは定数を示す。]N値は1に近いほどPPSは線状に近い構造であり、N値が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。
【0027】
(製造方法)
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の製造方法としては、特に限定されないが、例えば1)硫黄と炭酸ソーダの存在下でジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、2)極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下にジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、3)p−クロルチオフェノールを、必要ならばその他の共重合成分を加えて、自己縮合させる方法、等が挙げられる。これらの方法のなかでも、2)の方法が汎用的であり好ましい。反応の際に、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩を添加したり、水酸化アルカリを添加しても良い。上記2)方法のなかでも、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物とを含む混合物に含水スルフィド化剤を水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを、必要に応じてポリハロゲノ芳香族化合物と加え、反応させること、及び反応系内の水分量を該有機極性溶媒1モルに対して0.02〜0.5モルの範囲にコントロールすることによりポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する方法(特開平07−228699号公報参照。)や、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下でジハロゲノ芳香族化合物と必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加え、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を、硫黄源1モルに対して0.01〜0.9モルの有機酸アルカリ金属塩および反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モルの範囲にコントロールしながら反応させる方法(WO2010/058713号パンフレット参照。)で得られるものが特に好ましい。ジハロゲノ芳香族化合物の具体的な例としては、p−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、o−ジハロベンゼン、2,5−ジハロトルエン、1,4−ジハロナフタレン、1−メトキシ−2,5−ジハロベンゼン、4,4’−ジハロビフェニル、3,5−ジハロ安息香酸、2,4−ジハロ安息香酸、2,5−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロアニソール、p,p’−ジハロジフェニルエーテル、4,4’−ジハロベンゾフェノン、4,4’−ジハロジフェニルスルホン、4,4’−ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’−ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1〜18のアルキル基を有する化合物が挙げられ、ポリハロゲノ芳香族化合物としては1,2,3−トリハロベンゼン、1,2,4−トリハロベンゼン、1,3,5−トリハロベンゼン、1,2,3,5−テトラハロベンゼン、1,2,4,5−テトラハロベンゼン、1,4,6−トリハロナフタレンなどが挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0028】
重合工程により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂を含む反応混合物の後処理方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、(1)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸または塩基を加えた後、減圧下または常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過および乾燥する方法、或いは、(2)重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともポリアリーレンスルフィドに対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、ポリアリーレンスルフィドや無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法、或いは、(3)重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過および乾燥をする方法、(4)重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄の時に酸を加えて酸処理し、乾燥をする方法、(5)重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に水洗浄、濾過および乾燥する方法、等が挙げられる。
【0029】
尚、上記(1)〜(5)に例示したような後処理方法において、ポリアリーレンスルフィド樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0030】
<電気伝導性フィラーをシリカで被覆した複合粒子(B)>
本発明で用いる電気伝導性フィラーとしては、公知の物が使用できる。例えば、ニッケル、銅、金、銀、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、スズ、鉛、クロム、プラチナ、パラジウム、タングステン、モリブデンなどの金属材料およびこれら2種以上の合金、混合体、あるいはこれら金属の化合物で良好な電気伝導性を有するものや、人造黒鉛、天然黒鉛、ガラス状カーボン、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、カーボンナノファイバーなどの炭素材料およびこれら2種以上の混合体が挙げられる。特に、銀粉、カーボンブラックは、安定した導電性を実現し易いため好ましい。
【0031】
電気伝導性フィラーの形状は、発明の効果を損ねなければ特に限定されることはなく、板状、球状、繊維状、無定形等いずれであってよい。
【0032】
本発明の電気伝導性フィラーの一次粒子の平均粒子径が0.01〜10μmの範囲のものを用いることが好ましく、0.01〜5μmの範囲のものを用いることがより好ましい。この範囲の電気伝導性フィラーは、シラノール基を含有する化合物を用いて被覆してなることが、成形時の流動性の改善効果がより大きく、流動性をより良好とすることができ、安定的に良好な電気伝導性を奏することができる。
【0033】
このような銀粉としては、例えば、AG2−1C(DOWAエレクトロニクス株式会社製、平均粒子径D50:0.8μm)、SPQ03S(三井金属鉱山株式会社製、平均粒子径D50:0.5μm)、EHD(三井金属鉱山株式会社製、平均粒子径D50:0.5μm)、シルベストC−34(株式会社徳力化学研究所製、平均粒子径D50:0.35μm)、AG2−1(DOWAエレクトロニクス株式会社製、平均粒径D50:1.3μm)、シルベストAgS−050(株式会社徳力化学研究所製、平均粒子径D50:1.4μm)などが挙げられる。
【0034】
また、カーボンブラックとしては、例えば、カーボン(電気化学工業株式会社製「デンカブラック粒状品」平均一次粒子径:35nm)、カーボン(電気化学工業株式会社製「デンカブラックHS−100」平均一次粒子径:48nm)、カーボン(ライオン株式会社製 ライオナイトEC200L 平均一次粒子径:40nm)、人造黒鉛(昭和電工株式会社製「UF−G5」平均粒子径D50 3μm)などが挙げられる。
【0035】
前記電気伝導性フィラーをシリカで被覆した複合粒子(B)の製法は、特に制限は無く例えば、以下の方法が挙げられる。
【0036】
複合粒子は、(1)電気伝導性フィラーと、シラノール基を有する化合物を加水分解させることによって得られるゾル溶液とを含む混合ゾル溶液を調製する工程と、(2)その混合ゾル溶液から複合粒子を形成する工程と、を経て製造することができる。
【0037】
例えば、電気伝導性フィラー及びシラノール基を有する化合物を含む混合ゾル溶液として、シリカコロイドの溶液に前記電気伝導性フィラーを混合して調製することができる。また、シリコンテトラメトキシド、シリコンテトラエトキシド等のシリコンアルコキシドの加水分解脱水縮合液に電気伝導性フィラーを混合して調製してもよい。さらに、シリカ源として水ガラス(珪酸ナトリウム)を混合ゾル溶液に加えてもよい。
【0038】
混合ゾル溶液中の電気伝導性フィラーの含有率は、全固形分に対して、例えば0.1〜95質量%の範囲であることが好ましく、さらに20〜80質量%の範囲にあることがより好ましく、さらに50〜78質量%の範囲にあることが最も好ましい。
【0039】
混合ゾル溶液は、電気伝導性フィラーの分散性を向上させるために、分散剤を含んでいてもよい。分散剤としては、モノステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸プロピレングリコール、イソステアリルグリセリルエーテル、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。
【0040】
次に、混合ゾル溶液から複合粒子を形成する。例えば、混合ゾル溶液を噴霧乾燥することによって、複合粒子を得ることができる。噴霧乾燥は、高温雰囲気下に液体を微粒化して散布することによって直接乾燥して粒子を得る技術である。噴霧乾燥は、例えば、スプレードライヤーを用いて、混合ゾル溶液の溶媒(水、アルコール等)が蒸発するのに十分な温度の雰囲気下に、混合ゾル溶液を噴霧することによって行うことができる。噴霧乾燥することによって、電気伝導性フィラーがシラノール基を有する化合物のコロイド粒子に囲まれて当該化合物のマトリックス中に強固に内包及び/又は分散された略球状の複合粒子が形成される。
【0041】
噴霧乾燥工程の後に、得られた複合粒子を熱処理する工程をさらに行ってもよい。当該熱処理によって、複合粒子をさらに乾燥することができる。また、シリコンアルコキシド等の加水分解脱水縮合液を用いた場合には、脱水縮合をさらに進行させることもできる。
【0042】
熱処理の温度及び時間については、目的に応じて適宜決定すればよい。この他、例えば、窒素、アルゴン等の不活性気体雰囲気中、シラノール基を有する化合物の粘性流動が起こる温度、例えば800〜1000℃で2〜5時間熱処理することができる。
【0043】
このようにして得られた複合粒子(B)は、シリカをマトリックスとして、当該マトリックス中に前記電気伝導性フィラーの2以上が分散した分散体として得ることができる。得られた複合粒子の平均粒子径は、0.1〜20μmの範囲であり、好ましくは0.1〜10μmの範囲であり、さらに好ましくは0.1〜5μmの範囲である。当該範囲で、成形体表面及び厚み方向における電気伝導性のばらつきを抑え、電気伝導性を安定して付与できる熱可塑性樹脂成形体を提供することができる。一方、0.1μm未満の場合には、複合粒子自身が凝集しやすくなり、成形体表面及び厚み方向における電気伝導性のばらつきが大きくなる傾向となる。一方、20μmを超えると、成形体表面の外観性が低下する傾向となる。
【0044】
<無機潤滑剤(C)>
本発明に用いる無機潤滑剤(C)としては、金属石鹸、含フッ素樹脂、モリブデン化合物などが挙げられる。
【0045】
上記金属石鹸としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミニウム、ラウリン酸リチウム、及び、ラウリン酸亜鉛等が挙げられ、これらから少なくとも1種選択する。
【0046】
含フッ素樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフッ化エチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロプロピルビニルエーテル(PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、及び、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等が挙げられ、これらから少なくとも1種選択する。
【0047】
モリブデンを含む化合物としては、二硫化モリブデン、三酸化モリブデン、硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、硫化オキシモリブデン・ジアルキルジチオリン酸塩等が挙げられ、これらから少なくとも1種選択する。
【0048】
<組成比率>
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中における前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記複合粒子(B)と無機潤滑剤(C)の割合は、本発明の効果を損なう範囲でなければ特に限定されるものではないが、優れた機械的強度や成形体の表面及び厚み方向における導電性のばらつきを抑制できる、安定して導電性を付与できる観点から、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、前記複合粒子(B)が1〜100質量部の範囲であり、前記無機潤滑剤(C)が1〜40質量部の範囲であることが好ましく、さらに前記複合粒子(B)が5〜50質量部の範囲であり、前記無機潤滑剤(C)が1〜20質量部の範囲であることがより好ましい。
【0049】
<その他成分>
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、結晶核剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤などの通常の添加剤および少量の他種ポリマーを配合することができる。更に、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の架橋度を制御する目的で、通常の過酸化剤および特開昭59−131650号公報に記載されているチオホスフィン酸金属塩などの架橋促進剤または特開昭58−204045号公報、特開昭58−204046号公報などに記載されているジアルキル錫ジカルボキシレート、アミノトリアゾールなどの架橋防止剤を配合することもできる。
【0050】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物において、繊維状および/または粒状の強化剤は必須成分ではないが、必要に応じて配合することが可能である。強化剤は、転写ベルト中の樹脂成分100質量部に対して400質量部を越えない範囲で配合することが可能である。強化剤を通常は、1〜300質量部の範囲で配合することにより強度、剛性、耐熱性、寸法安定性などのさらなる向上を図ることが可能である。
【0051】
繊維状強化剤としては、ガラス繊維、シラスガラス繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの無機繊維および炭素繊維等が挙げられる。
【0052】
粒状の強化剤としては、ワラステナイト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、アルミナ、塩化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタンなどの金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラス・ビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、シリカなどが挙げられ、これらは中空であってもよい。
【0053】
強化剤は2種以上を併用することが可能であり、必要によりシラン系、チタン系などのカップリング剤で予備処理して使用することができる。
【0054】
<樹脂組成物の製造>
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、例えば、以下に示す方法によって製造できる。
まず、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、電気伝導性フィラーをシリカで被覆した複合粒子(B)と無機潤滑剤(C)と、ならびに所望により他の添加剤や強化剤を含む混合物を溶融混練し、押出した混練物を冷却する。
【0055】
溶融混練を行う温度は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の融点以上の温度であり、例えば、270〜380℃の範囲が挙げられる。
【0056】
具体的には、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、電気伝導性フィラーをシリカで被覆した複合粒子(B)と無機潤滑剤(C)とを、更に必要に応じてその他の配合成分をタンブラー又はヘンシェルミキサーなどで均一に混合、次いで二軸混練押出機などの溶融混練押出機に投入し、樹脂成分の吐出量5〜500(kg/hr)の範囲と、スクリュー回転数100〜500(rpm)と、それらの比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02〜2(kg/hr/rpm)なる条件下に溶融混練する方法が挙げられる。かかる条件下に製造することによって前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)をマトリックスとして、前記複合粒子(B)と無機潤滑剤(C)を均一に微分散させることが可能となる。そしてこのようなモルフォロジーを形成することで、成形体表面及び厚み方向の導電性ばらつきを抑制することが可能となる。
【0057】
上記製造方法につき更に詳述すれば、前記した各成分を例えば、2軸押出機内に投入し、設定温度310℃、樹脂温度330℃程度の温度条件下に溶融混練する方法が挙げられる。この際、樹脂成分の吐出量は回転数200rpmで4〜40kg/hrの範囲となる。なかでも特に分散性の点から10〜25kg/hrであることが好ましい。よって、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)は、特に0.05〜0.125(kg/hr/rpm)であることが好ましい。また、2軸押出機のトルクは最大トルクが20〜100(A)、特に25〜80(A)となる範囲であることが前記導電性材料(C)のポリアリーレンスルフィド樹脂(A)をマトリックスとして、前記複合粒子(B)と前記無機潤滑剤(C)が均一に微分散されたモルフォロジーを形成するため好ましい。
【0058】
また、前記配合成分のうち強化剤や添加剤を添加する場合は、前記2軸押出機のサイドフィーダーから該押出機内に投入することが分散性の観点から好ましい。かかるサイドフィーダーの位置は、前記2軸押出機のスクリュー全長に対する、押出機樹脂投入部から該サイドフィーダーまでの距離の比率が、0.1〜0.6であることが好ましい。中でも0.2〜0.4であることが特に好ましい。
【0059】
このようにして溶融混練された樹脂組成物はペレットとして得られ、次いで、室温で放置すればよいが、混練物をそのまま5〜60℃の水に浸漬することによって急冷などの冷却を行う。これにより、溶融混練物中のモルフォロジーが有効に維持される。
【0060】
このようにして得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、300℃における溶融粘度が10〜2000〔Pa・s〕の範囲のものとなるが、特に射出成形用には10〜300〔Pa・s〕のものを好適に用いることができ、さらにフィルムまたはシート用途には300〜2000〔Pa・s〕のものを好適に用いることができる。
【0061】
このようにして溶融混練されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物はその後、直接各種公知の成形法を用いて成形体へと成形されるか、一旦、ペレットとして成形された後、次いで、これを各種成形機に供して溶融成形することにより、目的とする熱可塑性樹脂成形体に成形することができる。公知の成形法としては、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形法、ロール成形法、押出成形法、注型成形法およびブロー成形法などが挙げられる。
【0062】
そして得られた成形体は、ポリアリーレンスルフィド(A)からなるマトリックス(連続相)中に、電気伝導性フィラーをシリカで被覆した複合粒子(B)および無機潤滑剤(C)が微分散してなるものであって、前記複合粒子は、さらにシリカをマトリックスとして、当該マトリックス中に前記電気伝導性フィラーの2粒子以上が分散した分散体であること、無機潤滑剤(C)が存在することから、電気伝導性を安定して付与することができる。
【0063】
その理由は定かではないが、電気伝導性フィラー単独のものを使用した場合には、成形時に当該フィラーが再凝集し易く、成形条件により成形体の電気抵抗が大きく変動する。前記複合粒子(B)は電気伝導性フィラーをシリカで被覆・固定しているため再凝集が生じず、複合粒子自体も電気伝導性フィラーより大粒子径のため凝集し難く、更にシリカが電気伝導の障壁となるため、安定した導電性成形体を得ることが出来たものと考えられ、さらに、無機潤滑剤(C)の低摩擦作用により、複合粒子(B)の破砕や崩壊を防ぎ、長期にわたり安定して導電性を奏することができたものと考えられる。
【0064】
目的とする形状に成形するためには、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のペレットをさらに成形機に供して押出成形法、射出成形法、圧縮成形法、吹込成形法、射出圧縮成形法などの公知の各種成形法に適用して、シートまたはフィルムとして得る(成形工程)。
【0065】
<成形体>
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、射出成形法、圧縮成形法、押出し成形法、中空成形法などの公知慣用の成形法により、様々な部品・部材に成形することができ、例えば、コネクター、ソケット、リレー部品、コイルボビン、光ピックアップ、発振子、プリント配線板、コンピュータ関連部品、等の電気・電子部品;ICトレー、ウエハーキャリヤー、等の半導体製造プロセス関連部品;VTR、テレビ、アイロン、エアコン、ステレオ、掃除機、冷蔵庫、炊飯器、照明器具、等の家庭電気製品部品;ランプリフレクター、ランプホルダー、等の照明器具部品;コンパクトディスク、レーザディスク(登録商標)、スピーカー、等の音響製品部品;光ケーブル用フェルール、電話機部品、ファクシミリ部品、モデム、等の通信機器部品;分離爪、ヒータホルダー、等の複写機関連部品;インペラー、ファン、歯車、ギヤ、軸受け、モーター部品及びケース、等の機械部品;自動車用機構部品、エンジン部品、エンジンルーム内部品、電装部品、内装部品、等の自動車部品;マイクロ波調理用鍋、耐熱食器、等の調理用器具;床材、壁材などの断熱、防音用材料、梁、柱などの支持材料、屋根材、等の建築資材または土木建築用材料;航空機部品、宇宙機部品、原子炉などの放射線施設部材、海洋施設部材、洗浄用治具、光学機器部品、バルブ類、パイプ類、ノズル類、フィルター類、膜、医療用機器部品及び医療用材料、センサー類部品、サニタリー備品、スポーツ用品、レジャー用品などが挙げられる。
【0066】
<電子写真用転写ベルトの製造>
冷却を行い、所望により粉砕して得たポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のペレットは、樹脂組成物中の導電性材料の均一分散が達成され、導電性に優れた、特に、成形体の表面及び厚み方向で導電性にばらつきを抑える性能を付与可能な樹脂組成物とすることができる。
【0067】
成形体、特にシート又はフィルムの導電性は、樹脂組成物中の前記複合粒子(B)の割合に応じて調製することができ、例えば、10の9乗〜11乗〔Ω/□〕とすることも可能である。
【0068】
このため、シート又はフィルム状物を電子写真用転写ベルトとして用いることができる。目的とする電子写真用転写ベルトに成形するためには、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、電気伝導性フィラーをシリカで被覆した複合粒子(B)と無機潤滑剤(C)とを含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物をさらに成形機に供して押出成形法、射出成形法、圧縮成形法、吹込成形法、射出圧縮成形法などの公知の各種成形法に適用して、シートまたはフィルムとして得る(成形工程)。シートまたはフィルムの形状は特に制限されず、例えば、環状に押出成形してシームレス環形状、シート状形状を円筒に加工したもの等が挙げられる。本発明の転写ベルトはシームレス環状形状を有することが好ましい。
【0069】
次いで、成形したベルト形状物を冷却することによって、導電性材料の分散形態が有効に維持され、導電性に優れた電子写真用転写ベルトが得られる。冷却は、ベルト形状物を室温で放置すればよいが、5〜60℃の水に浸漬することによって急冷することが好ましい。
【0070】
なお、前記添加剤や強化剤は通常、樹脂組成物を溶融混練する際に添加、混合するが、樹脂組成物のベルト形状への成形工程でサイドフィーダーを用いて添加・混合してもよい。特に配合量が少ない添加剤は、ベルト形状への成形工程直前に添加・混合してもよい。
【0071】
本発明の転写ベルトは、感光体上に形成されたトナー像を自己の表面に一旦、転写させた後、転写されたトナー像を紙等の記録材にさらに転写させるための中間転写ベルトであってもよいし、または紙を静電気により吸着し感光体上に形成されたトナー像をその紙に直接転写する直接転写ベルトであってもよい。
【0072】
本発明の転写ベルトは、前記樹脂組成物からなるベルトをそのまま用いても良いが、転写効率を高めるために、表面だけを硬くすると、本発明の効果をさらに有効に得ることができる。表面だけを硬くする方法として無機材料をコーティングする方法がよいが、その方法は特に限定されるものではない。例えば、「ゾル−ゲル法応用技術の新展開」(CMC出版)に記載されているような塗布による方法、「薄膜材料入門」(裳華房)に記載されたCVD、PVD、プラズマコーティングなどの物理化学的方法など、公知の方法を採用できる。表面にコーティングされる無機材料は、本発明の目的を達成できる限り特に制限されず、物性と経済性を考慮すると、Si、Al、Cを含む酸化物系材料が特に好ましい。例えば、アモルファスシリカ薄膜、アモルファスアルミナ薄膜、アモルファスシリカアルミナ薄膜、アモルファスダイヤモンド薄膜などが推奨される。このようなPPSよりも硬度の高い無機薄膜を本発明のベルトにコーティングすることにより、ブレードとの摩擦磨耗寿命が改善されるだけでなく、転写性も向上する。
【0073】
本発明の転写ベルトは、中間転写方式の画像形成装置に用いられる転写ベルト、特に継ぎ目のないシームレスベルトに適用できる。本発明に係る転写ベルトは、現像装置に単色トナーのみを持つモノカラー画像形成装置、1つの潜像担持体に対してY(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、B(ブラック)の現像器が備わり、各色の現像器ごとに潜像担持体上での現像およびトナー像の転写ベルトへの一次転写を行うサイクル方式フルカラー画像形成装置、1つの潜像担持体に対して1つの現像器が備わった各色の画像形成ユニットが直列に配置され、各色の画像形成ユニットごとに潜像担持体上での現像およびトナー像の転写ベルトへの一次転写を行うタンデム方式フルカラー画像形成装置などに適用することができる。本発明の転写ベルトを適用することにより文字の中抜けやトナーの飛び散りを抑制できる画像形成装置とすることができる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0075】
[複合粒子、無機潤滑剤の平均粒子径]
JIS−Z8825に準拠し、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社 製 マイクロトラックMT3300EX II)により測定し、得られた写真像から任意の100点を測定し、体積分布基準の50%粒度(メジアン径)を測定した。
【0076】
[複合粒子中の電気伝導性フィラーの一次粒子の平均粒子径]
複合粒子中の電気伝導性フィラー(カーボンブラック)の一次粒子径は透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、得られた写真像から任意の100点を測定し、体積分布基準の50%粒度(メジアン径)を測定した。
【0077】
(調製例1〜4)複合粒子の調製
電気伝導性フィラー(1)〜(4)の水分散液(フィラー固形分:25質量%+ポリカルボン酸型高分子界面活性剤:1.7質量%)をジルコニアビーズミルにより調製した。この水分散液にテトラメトキシシラン及びコロイダルシリカ(日本化学工業社製:シリカドール(登録商標)30)を混合し、混合ゾルを得た。さらに、フィラー、シリカ、分散剤等の固形分が18.4%になるように純水を使って混合ゾルを希釈した。混合ゾルの無機固形分中のフィラーの含有率は、50〜78質量%の範囲であった。
【0078】
次に、スプレードライヤー(藤崎電機社製MDL−050)を用いて混合ゾルを乾燥させ、電気伝導性フィラー内包シリカ粒子を作製した。平均粒子径が0.1〜10μmの範囲に収まるように噴霧条件を設定した(推奨条件:ゾル送量=30g/分)。その後、600℃で7時間焼成して電気伝導性フィラーを含むシリカからなる複合粒子(b1)〜(b4)を得た。得られた複合粒子(b1)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(倍率1000)を図1に、複合粒子(b1)の透過型電子顕微鏡(TEM)写真(倍率10000)を図2に示した。
【0079】
【表1】
電気伝導性フィラー(1):カーボン(電気化学工業株式会社製「デンカブラック粒状品」平均粒子径35nm)
電気伝導性フィラー(2):カーボン(電気化学工業株式会社製「デンカブラックHS−100」平均粒子径48nm)
電気伝導性フィラー(3):カーボン(ライオン株式会社製「ライオナイトEC200L」平均粒子径40nm)
【0080】
〔実施例1〜4〕
ポリフェニレンスルフィド樹脂(DIC株式会社製「MA−520」300℃における溶融粘度V6p約120〔Pa・s〕、非ニュートン指数0.99、カルボキシ基含有量44μmol/g、アルカリ金属塩9.6μmol/g)3280質量部、複合粒子(b1〜4)600質量部、無機潤滑剤(c1)120質量部をタンブラーで均一に混合し、配合材料とした。
【0081】
その後、株式会社日本製鋼所製ベント付き2軸押出機「TEX−30」に前記配合材料を投入し、樹脂成分吐出量15kg/hr、スクリュー回転数200(rpm)、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)=0.075(kg/hr/rpm)、最大トルク40(A)、設定樹脂温度310℃で溶融混練して樹脂組成物のペレット(1〜4)を得た。
【0082】
得られた樹脂組成物のペレット(1〜4)を室温で24時間放置した後、Tダイ押出機にて設定樹脂温度310℃でフィルム化し、厚み80μmの導電フィルム(1〜4)を作製した。得られた導電フィルムは、以下の分散性試験および導電性試験の各測定試験を行った。その結果を表2に示した。
【0083】
【表2】
【0084】
〔比較例1〜3〕
実施例1〜4において、「複合粒子(b1〜4)600質量部、無機潤滑剤(c1)として二硫化モリブデン(株式会社ダイゾー製二硫化モリブデンパウダー「M−5」(平均粒子径1.5μm))120質量部」の代わりに、「電気伝導性フィラー(1)〜(3)300質量部」を用いたこと以外は同様にして、比較用導電フィルム(1〜3)を作製し、各種評価を実施した。その結果を、表3に示した。
【0085】
【表3】
【0086】
〔実施例5〜8〕
ポリフェニレンスルフィド樹脂(DIC株式会社製「MA−520」300℃における溶融粘度V6p約120〔Pa・s〕、非ニュートン指数0.99、カルボキシ基含有量44μmol/g、アルカリ金属塩9.6μmol/g)3260質量部、複合粒子(b1〜4)600質量部、無機潤滑剤(c1)として二硫化モリブデン(株式会社ダイゾー製二硫化モリブデンパウダー「M−5」(平均粒子径1.5μm))120質量部、シランカップリング剤として3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製「OFS−6040」)20質量部をタンブラーで均一に混合し、配合材料とした。ただし、シランカップリング剤は予め56v/v%アルコール含有水溶液140質量部で希釈したものを用いた。その後、株式会社日本製鋼所製ベント付き2軸押出機「TEX−30」に前記配合材料を投入し、樹脂成分吐出量15kg/hr、スクリュー回転数200(rpm)、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)=0.075(kg/hr/rpm)、最大トルク40(A)、設定樹脂温度310℃で溶融混練して樹脂組成物のペレット(5〜8)を得た。
【0087】
得られた樹脂組成物のペレット(5〜8)を室温で24時間放置した後、Tダイ押出機にて設定樹脂温度310℃でフィルム化し、厚み80μmの導電フィルム(5〜8)を作製した。得られた導電フィルムは、以下の分散性試験および導電性試験の各測定試験を行った。その結果を表4に示した。
【0088】
【表4】
【0089】
〔比較例4〜6〕
実施例5〜8において、「複合粒子(b1〜4)600質量部、無機潤滑剤(C1)として二硫化モリブデン(株式会社ダイゾー製二硫化モリブデンパウダー「M−5」(平均粒子径1.5μm))120質量部」の代わりに、「電気伝導性フィラー(1)〜(3)300質量部」を用いたこと以外は同様にして、比較用導電性フィルム(4〜6)を作製し、各種評価を実施した。その結果を、表5に示した。
【0090】
【表5】
【0091】
〔比較例7〜10〕
実施例1、2、5、6において、「無機潤滑剤(C1)として二硫化モリブデン(株式会社ダイゾー製二硫化モリブデンパウダー「M−5」(平均粒子径1.5μm))120質量部」の代わりに、「無機フィラー(c2)として球状シリカ(株式会社アドマテックス製「SO−C2」(平均粒子径0.5μm))120質量部」を用いたこと以外は同様にして、比較用導電フィルム(7〜10)を作製し、各種評価を実施した。その結果を、表6に示した。
【0092】
【表6】
ただし、表2〜6における導電フィルム、比較用導電フィルムの各測定は以下の方法で行った。
【0093】
[引張特性]
フィルムを15×110mmに切り出し、測定温度23℃、標線間距離50mm、試験速度10mm/minで、引張試験機(AGS−5kNX:株式会社 島津製作所製)により、引張強度を測定した。
【0094】
[表面光沢]
(光沢値の測定)
光沢計「VG2000」(日本電色製)で光沢の測定を行い、その結果をグロスで示した。光沢の測定条件は入射角20度とした。
【0095】
<表面抵抗率、体積抵抗率>
表面抵抗率(Ω/□)及び体積抵抗率(Ω・cm)は、三菱化学株式会社製の抵抗測定器「ハイレスタUP・URSブローブ」を用いて23℃、55%RH環境下で測定した。実施例1〜5及び比較例1〜2で作製したフィルムを、縦方向に長さ300mmにカットしたベルトをサンプルとし、該サンプルの幅方向に等ピッチで任意の3ヶ所、縦方向に任意の4カ所の合計12ヶ所について、印加電圧100V、10秒後に表面抵抗率及び体積抵抗率をそれぞれ測定し、その平均値の常用対数値で示した。なお該測定サンプルは23℃、55%RH環境下で24時間放置してから測定した。
【0096】
[表面抵抗率のばらつき]
上記12ヶ所の最大値と最小値の差をΔρsとした。
【0097】
[体積抵抗率のばらつき]
上記12ヶ所の最大値と最小値の差をΔρvとした。
【0098】
<表面抵抗率、体積抵抗率の電圧依存性>
上記12ヶ所について、印加電圧100V、250V、500Vにおける表面抵抗率及び体積抵抗率を測定し、その平均値を算出した。
【0099】
[表面抵抗率の電圧依存性]
印加電圧100V、500Vの表面抵抗率の差を電圧依存性(Δρs100−500)とした。
【0100】
[体積抵抗率の電圧依存性]
印加電圧100V、500Vの体積抵抗率の差を電圧依存性(Δρv100−500)とした。
図1
図2