特許第6379870号(P6379870)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6379870乾燥機およびそれを用いた磁石片の乾燥方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6379870
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】乾燥機およびそれを用いた磁石片の乾燥方法
(51)【国際特許分類】
   F26B 17/32 20060101AFI20180820BHJP
【FI】
   F26B17/32 A
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-174962(P2014-174962)
(22)【出願日】2014年8月29日
(65)【公開番号】特開2016-50693(P2016-50693A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2017年3月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【弁理士】
【氏名又は名称】梶谷 美道
(72)【発明者】
【氏名】嶋本 育夫
【審査官】 土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】 実開平05−059187(JP,U)
【文献】 特開2002−194597(JP,A)
【文献】 特開昭63−065286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F26B 17/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の貫通孔を有する金属シートで形成された略円筒状の胴体を有する本体と、
前記本体を傾斜させた状態で回転可能に支持する支持部と、
前記本体を前記胴体の中心軸の周りに回転させる駆動部と、
前記胴体の内部に熱風を供給する送風部とを有し、
前記駆動部は、前記支持部が前記本体を傾斜させた状態で回転可能に支持している状態で、前記胴体の上部の開口部から前記胴体内に投入された加工品が、前記胴体の内壁に接触した状態で、前記回転の方向に上昇した後、前記胴体の内壁に沿ってすべり落ちるという動作を繰り返しながら、前記傾斜に沿って前記胴体の下部の開口部まで移動するように、前記本体を回転させるように構成されている、乾燥機。
【請求項2】
前記本体は、前記胴体の外周に設けられた歯車を有し、
前記駆動部は、前記歯車に駆動力を与える、請求項1に記載の乾燥機。
【請求項3】
前記送風部は、前記胴体の外側および/または内側から、熱風を供給するように配置されている、請求項1または2に記載の乾燥機。
【請求項4】
前記駆動部は、前記本体の回転速度を可変に制御できる、請求項1から3のいずれかに記載の乾燥機。
【請求項5】
前記胴体を覆う断熱性カバーをさらに有する、請求項1から4のいずれかに記載の乾燥機。
【請求項6】
複数の貫通孔を有する金属シートで形成された略円筒状の胴体を有する本体と、前記本体を傾斜させた状態で回転可能に支持する支持部と、前記本体を前記胴体の中心軸の周りに回転させる駆動部と、前記胴体の内部に熱風を供給する送風部とを有する乾燥機を用意する工程と、
水平から10°〜20°傾斜させた前記本体を回転させながら、前記胴体の内部に熱風を供給しつつ、前記胴体の上部の開口部から、加工粉を含む加工液が付着した磁石片を投入する工程と、
前記磁石片が前記胴体の内壁に接触した状態で、前記回転の方向に上昇した後、前記胴体の内壁に沿ってすべり落ちるという動作を繰り返しながら、前記傾斜に沿って前記胴体の下部の開口部まで移動するように、前記本体の回転速度を制御する工程と
を包含する、磁石片の乾燥方法。
【請求項7】
前記本体は、前記胴体の外周に設けられた歯車を有し、
前記駆動部は、前記歯車に駆動力を与える、請求項に記載の磁石片の乾燥方法
【請求項8】
前記送風部は、前記胴体の外側および/または内側から、熱風を供給するように配置されている、請求項またはに記載の磁石片の乾燥方法
【請求項9】
前記駆動部は、前記本体の回転速度を可変に制御できる、請求項からのいずれかに記載の磁石片の乾燥方法
【請求項10】
前記胴体を覆う断熱性カバーをさらに有する、請求項からのいずれかに記載の磁石片の乾燥方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥機に関し、特に、磁石片の乾燥に好適に用いられる乾燥機およびそれを用いた磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石(以下、単に「磁石」という。)は、種々の形状の磁石片として用いられる。例えば、希土類焼結磁石の磁石片は、以下の方法で製造される。希土類焼結磁石として、ネオジム磁石として知られているR−Fe−B系磁石(Rは希土類元素のうちの少なくとも一種でありNdを必ず含む。)を例示する。なお、本明細書において、着磁していない状態のものも磁石という。
【0003】
所望の組成を有するR−Fe−B系合金の粉末を用意する。合金粉末をプレス成形によって、所望の形状の成形体を得る。成形体を焼結することによって焼結体を得る。必要に応じて、焼結体は、時効処理などの熱処理を受ける。熱処理の前または後に、機械加工を受けて、所望の大きさおよび形状の磁石片となる。機械加工を受けた磁石片は、さらに複数回の機械加工を受ける場合がある。例えば、最初の機械加工で粗加工を行い、次の機械加工で特定の面を加工し、さらに次の機械加工により別の特定の面を加工して最終形状にする場合などがある。
【0004】
また、機械加工は、例えば、直方体に切り出された磁石片の対向する主面(面積が最も大きい面)の少なくとも一方を曲面に加工する工程および/または直方体の角部(稜線を含む)を丸くする面取り加工を含む。機械加工の後、磁石片の耐食性を向上させるために表面処理が施される。表面処理としては、例えば、めっき、アルミニウムの蒸着、化成処理などが行われている。
【0005】
上記の製造プロセスにおける焼結体の機械加工は、切断、切削、研削および研磨などを含む。したがって、上記の製造プロセスにおいて、機械加工を受けた磁石片には、磁石片の加工性向上や磁石片の冷却等の目的で使用される加工液(例えば研削液)および加工粉(例えば切削粉、研削粉、研磨粉)が付着している。加工液として水系の加工液を用い、加工後に乾燥させずに放置すると磁石片がさびるという問題があるので、工程間を移送する際には、磁石片の錆を防止するために防錆液に浸漬されることが多い。しかしながら、防錆液は、製造プロセスの途中の磁石片を一時的に保存するためだけのものであり、防錆液自身が無駄であり、また、一時的な保存のために工場内に設けるスペースも防錆液の分だけ余分にとる必要があり、重量も重くなる。すなわち、加工液が付着した磁石片を効率よく乾燥させることができれば、防錆液は不要となり、一時保存のスペースの拡大や重量増を防止できる。
【0006】
また、乾燥後の磁石片に加工粉が大量に付着していると、例えば、ベルトコンベアで次工程へ磁石片を移送する際、乾燥した加工粉の一部がベルトコンベアに付着し、ベルトコンベアが汚れる。ベルトコンベアが汚れると、次に移送されてきた磁石片にベルトコンベアの汚れ(加工粉)が付着し、磁石片にさらに多くの加工粉が付着することになる。
【0007】
例えば、次工程が機械加工の場合、磁石片に大量の加工粉が付着していると、加工粉により加工精度が低下したり、加工機の汚れが増加し加工機の故障の原因となる。
【0008】
また、パーツフィーダー(例えば、ボウル・フィーダー)を用いて、磁石片を整列させて、例えば機械加工工程に供する際に、パーツフィーダの壁面に加工粉が付着、凝集し、パーツフィーダ内で、磁石片が所望の動きをしなくなるという問題が生じることがある。
【0009】
例えば、特許文献1に記載されているように、磁石片をメッシュベルト上に載置し、移動させながら、磁石片の上方から130℃〜200℃の温熱風を噴射して、磁石片を乾燥させるという方法では、メッシュベルトの網目部分(ワイヤが交差する部分)に加工液がたまり、磁石片上にしみができることがある。また、乾燥した加工粉の一部が網目部分に蓄積され、その蓄積された加工粉が磁石片に再付着することがある。さらに、乾燥のために大型の設備が必要となり、コストおよびスペースの負担が大きい。なお、磁石片をベルト上に載置した状態で移動させながら乾燥するのは、磁石片は硬くて脆いので、乾燥中に欠けや割れが発生することを防止するためである。
【0010】
防錆液が必要とされるのは、金属に限られるが、上記の他の問題は、磁石片の乾燥に限られず、特に硬くて脆い、金属片やセラミック片などの加工品の乾燥に共通の課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−294440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の課題の少なくとも1つを解決するためになされたものであり、例えば、磁石片の乾燥方法に好適に用いられる、比較的小型で、かつ、効率よく加工品を乾燥させることが可能な乾燥機を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施形態による乾燥機は、複数の貫通孔を有する金属シートで形成された略円筒状の胴体を有する本体と、前記本体を傾斜させた状態で回転可能に支持する支持部と、前記本体を前記胴体の中心軸の周りに回転させる駆動部と、前記胴体の内部に熱風を供給する送風部とを有する。略円筒状の胴体は、例えば、パンチングメタルで形成されている。
【0014】
ある実施形態において、前記本体は、前記胴体の外周に設けられた歯車を有し、前記駆動部は、前記歯車に駆動力を与える。
【0015】
ある実施形態において、前記送風部は、前記胴体の外側および/または内側から、熱風を供給するように配置されている。前記胴体の外側の供給口および内側の供給口から熱風を供給する場合、2つの供給口は互いに対向するように配してもよい。
【0016】
ある実施形態において、前記駆動部は、前記本体の回転速度を可変に制御できる。前記回転速度は、例えば、本体の直径にも依存するが、例えば10rpm以上50rpm以下である。
【0017】
ある実施形態において、前記乾燥機は、前記胴体を覆う断熱性カバーをさらに有する。
【0018】
本発明による磁石片の乾燥方法は、上記のいずれかの乾燥機を用意する工程と、水平から10°〜20°傾斜させた前記本体を回転させながら、前記胴体の内部に熱風を供給しつつ、前記胴体の上部の開口部から、加工粉を含む加工液が付着した磁石片を投入する工程と、前記磁石片が前記胴体の内壁に接触した状態で、前記回転の方向に上昇した後、前記胴体の内壁に沿ってすべり落ちるという動作を繰り返しながら、前記傾斜に沿って前記胴体の下部の開口部まで移動するように、前記本体の回転速度を制御する工程とを包含する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の実施形態による乾燥機は、比較的小型で、かつ、効率よく加工品を乾燥させることができる。本発明の実施形態による乾燥方法によると、磁石片を効率よく乾燥させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態による乾燥機100Aの模式的な斜視図である。
図2】本発明の実施形態による他の乾燥機100Bの模式的な正面図である。
図3】(a)および(b)は、乾燥機100Aの胴体10内の磁石片52の様子を示す模式図であり、(a)は円筒状胴体10の略半径方向から見た図であり、(b)は円筒状胴体10の中心軸方向から見た図である。
図4】胴体10内の磁石片52の様子を拡大して示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態による乾燥機を説明する。以下では、R−Fe−B系焼結磁石の磁石片を乾燥する例について説明するが、本発明の実施形態による乾燥機は、これに限られず、サマリウムコバルト系の希土類焼結磁石や、フェライト磁石、さらには、他の金属片やセラミック片などの加工品の乾燥に用いられる。
【0022】
公知の方法で作製されたR−Fe−B系焼結磁石を例えば、外周刃を用いて切断することによって得られた磁石片を乾燥する。切断された磁石片には、加工粉(例えば、切削粉)を含む加工液(例えば、水系の切削液)が付着している。例えば、磁石片は、直方体である。直方体は、例えば、9mm×3mm×50mmである。この磁石片は、次に、例えば、姿加工および/または面取り加工に供せられる。したがって、この段階で、洗浄する必要はないが、放置するとさびるので乾燥させる。図1に示す本発明の実施形態による乾燥機100Aは、加工粉を含む加工液が付着した磁石片を効率よく乾燥させることができる。
【0023】
図1に示す乾燥機100Aは、複数の貫通孔10aを有する金属シート10で形成された略円筒状の胴体10を有する本体10Aと、本体10Aを傾斜させた状態で回転可能に支持する支持部(不図示)と、本体10Aを胴体10の中心軸の周りに回転させる駆動部20Aと、胴体10の内部に熱風を供給する送風部32aおよび32bとを有する。略円筒状の胴体10は、金属シート10で形成されているので、同じ参照符号を付すことにする。金属シート10は、例えば、パンチングメタルで形成されている。金属シート10として、市販されているステンレススチールのパンチングメタルを利用することができる。もちろん、ステンレススチール以外の金属を用いることもできる。金属シート10は、1つの円筒状のパンチングメタルで形成されてもよいし、複数のパンチングメタルを連結して形成してもよい。
【0024】
胴体10の長さ(上部開口部10Uから下部開口部10Lまでの長さ)は、例えば580mmであり、上部開口部10Uおよび下部開口部10Lの直径は、例えば200mmである。金属シート10の厚さは例えば1mmである。金属シート10の厚さは、強度等を考慮して適宜変更され得る。なお、上部開口部10Uの直径と下部開口部10Lの直径を異ならせてもよいが、おおむね等しく設定される。
【0025】
貫通孔10aの直径は、例えば3mmである。貫通孔10aの形状は円に限られず、また、大きさも、磁石片の大きさに応じて適宜設定される。ただし、貫通孔10aが大きすぎると、傾斜方向に沿って滑り落ちる磁石片の一部が貫通孔10a内に侵入し、磁石片が跳ねる、または、欠けるなどの不具合が生じることがあるので、回転軸方向(傾斜方向)に直交する方向における貫通孔10aの長さは、磁石片の短辺の長さを超えないことが好ましい。また、下部開口部10Lの近傍には、同様の目的で、貫通孔10aを設けないことが好ましい。例えば、下部開口部10Lから、磁石片の長さ程度、例えば約50mmの領域には、貫通孔10aを設けない。
【0026】
胴体10の全体に対する貫通孔10aの総面積の比率(以下、「開口率」という。)は、例えば、約30%である。開口率が大きすぎると、胴体10内の温度を十分に高く維持するために、多くの熱風を供給する必要が生じる。
【0027】
本体10Aは、水平から例えば、10°〜20°(図中のθ=10°〜20°)傾斜させた状態で、回転可能に支持部(不図示)によって支持されている。支持部は、例えば、金属製のラックで作製される。胴体10の下部開口部10Lから排出される乾燥された磁石片を受容し、例えば、容器に導くガイド部50は、例えば、支持部に固定され得る。
【0028】
本体10Aは、胴体10の外周に設けられた歯車12Aを有し、駆動部20Aは、歯車12Aに駆動力を与える。駆動部20Aは、例えば、モータ22Aと、モータ22Aに軸23Aを介して駆動力を受ける歯車24Aとを有する。駆動部20Aの歯車24Aは、本体10Aの歯車12Aと嵌合し、駆動部20Aの駆動力を本体10Aに与え、本体10Aを円筒状の胴体10の中心軸(図1中の一点鎖線)の周りに回転させる。
【0029】
このように、胴体10の外周に設けられた歯車12Aを介して駆動力を与える構成を採用すると、例えば、胴体10の上部の開口部10Uまたは下部の開口部10Lに、駆動部と連結するための構造を設ける必要がない。したがって、胴体10の上部の開口部10Uから磁石片を投入する際に、あるいは、胴体10の下部の開口部10Lから磁石片を取り出す際に、邪魔になる構造がないという利点が得られる。また、本体10Aを容易に着脱することができ、清掃が容易にできる。なお、加工液が付着した磁石片は、胴体10の上部の開口部10Uへ例えばベルトコンベアで導かれる。また、乾燥された磁石片は、胴体10の下部の開口部10Lから排出され、例えば容器に一時的に保管され、あるいは、ベルトコンベアで次の工程まで移送される。
【0030】
本体10Aの回転速度は、本体10Aの直径にも依存するが、例えば10rpm以上50rpm以下である。本体10Aの回転速度は、乾燥させる磁石片の大きさ、形状、投入量等に応じて、適宜調整され得る。例えば、回転速度は、モータ22Aの回転速度を制御することによって行えばよい。回転速度が大きすぎると、磁石片が胴体10の内壁に接触した状態で、胴体10の回転の方向に高い位置まで(例えば、胴体10の半径程度以上の高さまで)上昇し、その後落下するので、磁石片の欠けや割れを生じることがある。このようなことがないように、すなわち、磁石片が胴体10の内壁に沿ってすべり落ちる程度の高さにまでしか上昇しないように、回転速度を調整することが好ましい。
【0031】
磁石片を乾燥させる熱風は、送風部32aおよび32bから供給される。送風部32aおよび32bの一方を省略してもよい。送風部32aおよび32bは共通の配管に接続されていてもよいし、独立の配管に接続されてもよい。3つ以上の送風部を設けてもよい。送付部の位置は、胴体10の外側であっても内側であってもよい。また、送風部を磁石片に直接的に熱風を供給するように配置してもよい。なお、送風部32aおよび32bの送風口は、胴体10の長さ方向の略中央付近であることが好ましい。胴体10内を効率よく加熱することができる。
【0032】
熱風の温度は、例えば100℃〜180℃である。熱風の供給量は、胴体10の内容量等にも依存するが、例えば、0.5m3/min〜1.9m3/minである。送風部32aから、すなわち胴体10の外側から、熱風を供給する際、勢いが強すぎると、磁石片が風圧で飛ばされて、欠けや割れの原因となることがある。したがって、送風部32aから磁石片に直接勢いの強い熱風が当たらないように、送風部32aの供給口を例えば、胴体10の半径よりも高い位置に設ける、および/または、熱風の流速が大きくなり過ぎない程度の大きさにすることが好ましい。また、ここで例示するように、胴体10の外側から熱風を供給する送風部32aの供給口と、胴体10の内側から熱風を供給する送風部32bの供給口とが互いに対向するように配してもよい。
【0033】
乾燥機100Aは、胴体10を覆う断熱性カバー40をさらに有する。断熱カバー40は、胴体10内の温度を保つことができる。断熱カバー40は、例えば、高耐熱性ポリアミドフォームを用いて作製され得る。胴体10と断熱性カバー40との間隙は、胴体10の外周に設けられたリング状のガード(鍔)14Aによって保持され得る。
【0034】
次に、図2を参照して、本発明の実施形態による他の乾燥機100Bの構造を説明する。図2は、乾燥機100Bの模式的な正面図である。図2において、図1に示した乾燥機100Aと実質的に同じ機能を有する構成要素は共通の参照符号で示し、説明を省略することがある。なお、乾燥機100Bも使用に際しては、図1に示した乾燥機100Aと同様に傾斜させる。また、乾燥機100Aと同様に、断熱性カバー40で本体10Bを覆うことが好ましい。
【0035】
乾燥機100Bが有する本体10Bの胴体10は、乾燥機100Aの胴体10と同じである。乾燥機100Bは、本体10Bを支持する構造と、本体10Bを胴体10の中心軸の周りに回転させるための駆動機構の構造が、乾燥機100Aと異なるので、その点を説明する。
【0036】
本体10Bは、胴体10の外周に設けられたリング状のガード12Bと、駆動用のリング14Bとを有している。駆動用のリング14Bの外周にはチェーンが固定(例えば溶接)されており、リング14Bを介して、駆動部20Bのスプロケット28の回転が本体10Bに伝達される。
【0037】
駆動部20Bは、例えば、モータ22Bと、歯車23Bおよび25Bと、チェーン24Bと、シャフト26と、スプロケット28とを有している。モータ22Bの回転は、歯車23Bとチェーン24Bとを介して歯車25Bに伝達される。続いて、歯車25Bに結合されたシャフト26の回転がスプロケット28を介して、本体10Bに伝達される。シャフト26にはローラ27が取り付けられており、ローラー27は、本体10Bのガード12Bと当接するように配置されている。シャフト26は、ラック60に取り付けられた軸受62aおよび62bを介して、回転可能な状態でラック60によって支持されている。
【0038】
駆動部20Bは、図示したシャフト26と平行に、胴体10の中心軸に関して対称な位置に配置された、もう一本のシャフト(不図示)を有しており、そのシャフトもシャフト26と同様にラック60によって支持されている。本体10Bは、これら平行に配置された2本のシャフト26に取り付けられたローラ27およびスプロケット28によって、回転可能に支持されている。なお、不図示のシャフトには、対応するモータおよび歯車、チェーンを設けなくてもよい。
【0039】
乾燥機100Bも、乾燥機100Aと同様に、胴体10の上部開口部10Uから磁石片を投入する際に、あるいは、胴体10の下部開口部10Lから磁石片を取り出す際に、邪魔になる構造がないという利点が得られる。また、本体10Bを容易に着脱することができ、清掃が容易にできるという利点も有している。
【0040】
次に、図3および図4を参照して、乾燥機100Aまたは100Bを用いた乾燥方法をさらに詳細に説明する。
【0041】
図3(a)および(b)は、乾燥機100Aまたは100Bの胴体10内の磁石片52の様子を示す模式図であり、図3(a)は円筒状胴体10の略半径方向から見た図であり、図3(b)は円筒状胴体10の中心軸方向から見た図である。
【0042】
図3(a)および(b)に示すように、略円筒状の胴体10内に投入された磁石片52は、反時計回りに回転する胴体10の回転運動につれて、磁石片52が胴体10の内壁に接触した状態で、回転の方向に上昇した後、胴体10の内壁に沿ってすべり落ちるという動作を繰り返しながら、胴体10の傾斜に沿って胴体10の下部の開口部まで移動する。したがって、胴体10内の磁石片52は、中心軸(図3(a)中の一点鎖線)よりも右側に多く存在する。
【0043】
磁石片52は、図3(b)に両矢印で示すように、胴体10内を周方向に沿って上下に運動しながら、胴体10の傾斜に沿ってすべり落ちてくるので、磁石片52に付着した加工液が一か所にたまることがない。また、磁石片52の移動距離は、胴体10の長さよりもずっと長くなる。
【0044】
胴体10の傾斜角度(図1中のθ)、胴体10の長さ、胴体10の回転速度を調整することによって、磁石片52を上述のように運動させながら、胴体10の上部開口部10Uから下部開口部10Lまで移動させることができる。すなわち、磁石片52が胴体10内に滞留する時間を制御することもできる。このようにして、磁石片52を効率よく乾燥させることができる。このとき、磁石片52が胴体10の内壁に接触した状態で胴体10の回転方向の高い位置まで上昇した後、磁石片52が落下したり、転がり、磁石片52の欠けや割れが生じないように、回転速度を調整することが好ましい。すなわち、磁石片52が胴体10の内壁に沿って滑り落ちるように、胴体10の回転速度を調整することが好ましい。
【0045】
例えば、上記で例示した胴体10(傾斜角=10°、長さ580mm、直径200mm、貫通孔の直径3mm、開口率30%)を有する乾燥機100Aを30rpmで回転させながら、胴体10の内部に150℃の熱風を供給しつつ(供給速度:例えば1m3/min)、9mm×3mm×50mmの焼結磁石片を上部開口部10Uから投入すると、約30秒の滞留時間で、乾燥することができる。
【0046】
図4に模式的に示すように、磁石片52が胴体10の内壁に沿って移動する際、磁石片52が胴体10の貫通孔10aのエッジと接触し、磁石片52に付着している加工粉52pが、貫通孔10aのエッジによってこすり取られる。また、逆に、磁石片52のエッジは、胴体10の内壁に付着した加工粉をこすり取る。したがって、磁石片52に付着していた加工粉52pは次第に貫通孔10a内に集められることになる。
【0047】
上述したように、乾燥機100Aまたは100Bを用いると、まず、防錆液が不要となる。乾燥された磁石片を容器に一時的に保管するとしても、防錆液は不要であり、かつ、防錆液の分だけ軽いので、移送は容易になり、また、保管のためのスペースも小さくて済む。
【0048】
また、磁石片52は、胴体10内で移動するので、メッシュベルト上に磁石片を載置した場合と異なり、加工液が網目部分にたまることがないので、磁石片上にしみが形成されることがない。また、網目部分に加工粉が蓄積することもないので、加工粉52pが磁石片52に再付着することを抑制できる。
【0049】
さらに、磁石片52は円筒状の胴体10内を周方向に上下しながら胴体10の長さ方向に移動するので、メッシュベルトを用いる場合よりも短い距離で、磁石片52を十分に乾燥することができる。すなわち、磁石片52の乾燥のためのコストやスペースの負担を軽減することができる。
【0050】
さらに、胴体10の貫通孔10aによって、磁石片52に付着していた加工粉52pの一部が取り除かれるとともに、胴体10の内壁に付着した加工粉52pを取り除くことができる。したがって、加工粉52pが磁石片52に再付着することを抑制できる。また、胴体10の内壁に加工粉52pが蓄積されることが抑制されるので、乾燥機100Aまたは100Bの本体10Aまたは10Bのメンテナンスの頻度を少なく、かつ、容易にすることができる。なお、胴体10の貫通孔10aに蓄積された加工粉52pは、最終的に胴体10外へ排出される。加工粉52pの除去は、本体10Aを取り外して、行うことができる。
【0051】
このように、磁石片52に付着していた加工粉52pは、胴体10の貫通孔10aによって部分的に除去されるので、磁石片52に付着した加工粉52pによって後工程のためのベルトコンベアやパーツフィーダ等が汚れることが抑制される。したがって、ベルトコンベアやパーツフィーダのメンテナンスの頻度を少なくすることもできる。
【0052】
上述したように、本発明の実施形態による乾燥機100Aおよび100Bは、磁石片の乾燥に好適に用いられる。特に、加工粉を含む加工液が付着した磁石片の乾燥に好適に用いられる。このとき、例示したように、磁石片は、平板に近い直方体の場合に利点が大きい。幅w、厚さt、長さl(t<w<l)とすると、磁石片は、長さlの方向が胴体の中心軸(回転軸)に略平行な状態で、胴体の内壁に沿って移動する。このとき、磁石片に付着した加工粉を取り除くという効果を効率よく得るためには、幅wに比べて胴体の半径は十分に大きいことが好ましい。例えば、胴体の半径は、磁石片の幅wの20倍以上であることが好ましい。上限は特に制限はないが、コストやスペースの観点からは、100倍以下とすればよい。
【0053】
もちろん、加工粉を含まない加工液や洗浄液、あるいは水の乾燥にも用いられる。すなわち、R−Fe−B系焼結磁石の磁石片の洗浄後の乾燥にも用いることができる。このとき、上記の制限は特にない。また、R−T−B系焼結磁石の磁石片ほどに欠けや割れが発生しないものであれば、加工品が胴体内を移動する際に、加工品が転がったり、落下したりしてもよい。乾燥の効率を考慮して、回転数や傾斜角度などを設定すればよい。また、回転の方向は、当然のことながら、反時計回りに限られず、時計回りでもよいし、さらには、回転方向を回転途中で反転させてもよい。例えば、中心角が45°ずつ、時計回りと反時計周りとを交互に繰り返してもよい。胴体をこのように回転させるための構造は、公知の種々の構造を用いることができる。
【0054】
ここでは、特に、欠けや割れが発生しやすい希土類焼結磁石片を乾燥する場合を例に、本発明の実施形態による乾燥機およびそれを用いた乾燥方法を説明したが、本発明の実施形態による乾燥機は、これに限られず、他の金属片やセラミック片などの加工品の乾燥に用いられる。特に、硬くて脆い、金属片やセラミック片などの加工品で、加工粉を含む加工液が付着した加工品の乾燥に好適に用いられる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明による乾燥機は、磁石片などの、金属片やセラミック片などの加工品の乾燥に用いられ得る。
【符号の説明】
【0056】
10 金属シート(胴体)
10a 貫通孔
10A、10B 本体
10U 上部開口部
10L 下部開口部
12A 歯車
12B、14A リング状ガード
14B 駆動用リング
20A、20B 駆動部
22A、22B モータ
23A 軸
24A、23B、25B 歯車
24B チェーン
26 シャフト
27 ローラ
28 スプロケット
32a、32b 送風部
40 断熱性カバー
50 ガイド部
52 磁石片
60 ラック
62a、62b 軸受
100A、100B 乾燥機
図1
図2
図3
図4