(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(メタ)アクリル系重合体が水酸基を有するアクリル系単量体単位を含み、かつ前記(メタ)アクリル系重合体を構成する単量体単位の総質量に対し、水酸基を有するアクリル系単量体単位を30〜100質量%含む、請求項1に記載の強化繊維束。
前記水酸基を有するアクリル系単量体単位が、下記式(1)又は式(2)で表される化学構造を有する単量体から誘導される単量体単位である、請求項2に記載の強化繊維束。
CH2=C(R2)−C(=O)−N(R3)(R4)・・・・・・・(1)
(式(1)中、R2は水素原子又はメチル基であり;R3及びR4は互いに異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜22のアルキル基、及び水酸基を有する炭素数1〜22のアルキル基からなる群から選ばれるいずれかの基であり、かつ、R3及びR4のうち少なくとも一つの基が水酸基を有する炭素数1〜22のアルキル基である。)
CH2=C(R5)−C(=O)−O−R6・・・・・・・・(2)
(式(2)中、R5は水素原子又はメチル基であり;R6は水酸基を有する炭素数1〜22のアルキル基である。)
前記繊維強化熱可塑性樹脂組成物が、連続した前記強化繊維束に前記熱可塑性樹脂を含浸させてシート状に成形したシート状物である、請求項7〜9のいずれか1項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されない。なお、本明細書において、「〜」とは、その前後の数字等を含むものとする。
【0020】
<強化繊維束>
本発明の第一の態様における強化繊維束は、強化繊維に(メタ)アクリル系重合体が付着した強化繊維束であって、前記(メタ)アクリル系重合体の、特定の式で算出される凝集エネルギー密度CEDが600〜800MPaであり、強化繊維束中、前記(メタ)アクリル系重合体の付着量が、強化繊維束の総質量に対し、0.1〜10質量%である強化繊維束である。なお、上記(メタ)アクリル系重合体は強化繊維におけるサイジング剤として機能するものである。
【0021】
(強化繊維)
本発明に用いる強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維などの高強度、高弾性率繊維の1種または2種以上を使用できる。中でも、PAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レイヨン系炭素繊維などの炭素繊維が、得られる成形品の力学特性の向上および成形品の軽量化効果の観点から好ましい。得られる成形品の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維がさらに好ましい。
【0022】
本発明に用いる強化繊維の直径は特に限定されないが3〜20μmが好ましく、さらに好ましくは5〜15μmである。強化繊維の直径を上記数値範囲とすることにより、力学特性と樹脂の含浸性がより優れた繊維強化熱可塑樹脂組成物が得られる。
【0023】
用いる強化繊維の断面の形状は真円である必要はなく、楕円上やその他の形状であってもよい。
【0024】
本発明に用いる強化繊維束は上記強化繊維が複数本束ねられた形態を示す。強化繊維束1束あたりに含まれる強化繊維の本数は1,000〜100,000本であることが好ましく、より好ましくは3,000〜100,000本であり、更に好ましくは12,000〜60,000本である。強化繊維の本数を上記数値範囲とすることにより、目付斑が少なく、繊維の直進性が良好な繊維強化熱可塑樹脂組成物が得られる。
【0025】
また強化繊維に炭素繊維を用いた場合、炭素繊維表面状態については、電気化学的測定法(サイクリック・ボルタ・メトリー)により求められるipa値が0.05〜0.45μA/cm
2であることが好ましい。このipa値は、炭素繊維の酸素含有官能基数量と電気二重層形成に関与する表面凹凸度と微細構造の影響を受ける。特に表層のエッチングを大きく受けた炭素繊維やアニオンが黒鉛結晶に層間に入り込んだ層間化合物を形成している場合、大きな値となる。優れた機械的性能を発現する繊維強化熱可塑性樹脂組成物において、炭素繊維と熱可塑性樹脂との界面は重要であり、特に適当な酸素含有官能基の存在と、小さな電気二重層を形成するような表面を有する炭素繊維が最適な界面を形成する。
【0026】
ipa値が0.05μA/cm
2 未満の場合、基本的に酸素含有官能基の数量は少なく、十分な界面接着性を有しないものとなる。一方、ipa値が0.45μA/cm
2を超える場合、表面のエッチングが過剰に生じているか、あるいは層間化合物が形成されている。このような表面は、表面脆弱層に移行し易く、その結果、熱可塑性樹脂との十分な界面接着性を有するものとすることができない。より好ましくは、0.07〜0.36μA/cm
2である。
ipa値は、例えば特開昭60−246864号公報に開示されているサイクリック・ボルタ・メトリー法によって求めることができる。なお、本発明でいうサイクリック・ボルタ・メトリー法とは、ポテンショスタットとファンクジョンジェネレータとからなる分析装置において、作動電極として炭素繊維を用い、その電流と電極電位(電圧)との関係を測定する方法のことである。
【0027】
さらに、本発明において、X線光電子分光法により求められる炭素繊維表面の酸素含有官能基量(O1s/C1s)が0.05〜0.16の範囲にある炭素繊維であることが望ましい。上記範囲とすることにより、熱可塑性樹脂との適度な界面接着性が得られる。
ここで、酸素含有官能基とは、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ケトン基等が挙げられる。
【0028】
酸素含有官能基量の測定方法の例として、以下の方法を挙げることができる。
即ち、炭素繊維束をカットして試料ホルダーに両面テープを用いて固定した後、光電子脱出速度を90°にし、X線光電子分光装置の測定チャンバー内を1×10
−6Paの真空に保持する。そして、測定時の帯電に伴うピークの補正として、C1sの主ピークの結合エネルギ値を285.6eVに合わせる。次いで、C1sのピーク面積を、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、又O1sのピーク面積を、528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。表面酸素濃度(O/C)は、O1sのピーク面積とC1sのピーク面積の比を装置固有の感度補正値で割ることによって算出した原子数比で表示する。測定装置は任意に選択できるが、例として複合型表面分析装置、VG社製ESCALAB MK−II(感度補正値3.07)を挙げることができる。
【0029】
((メタ)アクリル系重合体)
本発明に用いる(メタ)アクリル系重合体は、下記式(a)で算出される凝集エネルギー密度CEDが600〜800MPaである。
CED=1.15×Σ{P(n)×CE(n)}/Σ{P(n)×M(n)}・・・・・・(a)
【0030】
ここで、(メタ)アクリル系重合体に含まれる(メタ)アクリル単量体単位(n)の種類をm種類として、各(メタ)アクリル系単量体単位をそれぞれ(メタ)アクリル系単量体単位(n)(nは1〜mの整数)としたとき、CE(n)は、(メタ)アクリル系単量体単位(n)の凝集エネルギーを意味する;M(n)は(メタ)アクリル系単量体単位(n)の分子量を意味する;P(n)は(メタ)アクリル系重合体中の(メタ)アクリル系単量体単位(n)のモル分率を意味する;但しΣP(n)=1である。
【0031】
CE(n)は、(メタ)アクリル系単量体単位(n)の化学構造CS(n)から計算された凝集エネルギーを意味する。ここで、CS(n)は、(メタ)アクリル系単量体単位(n)の化学構造、すなわち単量体のC=C二重結合が重合により開いた状態の化学構造である。また、係数1.15は、(メタ)アクリル系単量体単位の比重を表す。CE(n)はCE(n)=ΣEcoh(n)で算出する。ここで、ΣEcoh(n)は化学構造CS(n)を構成する、例えば、−CH
3、−CH
2−、>C<、−COOH、−OHなどの原子団の凝集エネルギーEcoh(n)の総和を表す。ここで、各原子団の凝集エネルギーは、参考文献:(1)R.F.Fedors:「A Method for Estimating Both theSolubility Parameters and Molar Volumes of Liquids」, Polm. Eng. Sci., 14(2).147-154(1974)、および、参考文献:(2)「SP値 基礎・応用と計算方法」((株)情報機構)、第6刷、p69、2008を参照し、R.F.Fedors が提案している原子団の凝集エネルギーEcoh(J/mol)を使用することができる。
【0032】
本発明においては、(メタ)アクリル系重合体の凝集エネルギー密度は600〜800MPaである。凝集エネルギー密度が600MPa未満であると特に熱可塑性樹脂がポリアミドである場合、繊維強化熱可塑性樹脂組成物の物性(含浸性等)が悪くなる。凝集エネルギー密度が800MPa超であると、強化繊維束に毛羽が多くなり、開繊性が悪くなる。(メタ)アクリル系重合体の凝集エネルギー密度はより好ましくは630〜750MPaである。
【0033】
本発明においては、(メタ)アクリル系重合体が、(メタ)アクリル系重合体を構成する単量体単位の総質量に対し、水酸基を有するアクリル系単量体単位を30〜100質量%含むことが好ましい。さらに好ましい範囲は40〜100質量%である。このような範囲とすることで、強化繊維の糸の取り扱い性と熱可塑性樹脂との接着性を両立できる強化繊維束が得られる。なお、単量体単位の含有量は、重合反応に用いる単量体の仕込み量から算出することができる。
【0034】
本発明において、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体単位を誘導する単量体の好ましい構造式としては以下の式(1)及び(2)が挙げられる。
CH
2=C(R
2)−C(=O)−N(R
3)(R
4)・・・・・・・(1)
(式(1)中、R
2は水素原子又はメチル基であり;R
3及びR
4は互いに異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜22のアルキル基、及び水酸基を有する炭素数1〜22のアルキル基からなる群から選ばれるいずれかの基であり、かつ、R
3及びR
4のうち少なくとも一つの基が水酸基を有する炭素数1〜22のアルキル基である。)
CH
2=C(R
5)−C(=O)−O−R
6・・・・・・・・(2)
(式(2)中、R
5は水素原子又はメチル基であり;R
6は水酸基を有する炭素数1〜22のアルキル基である。)
【0035】
このような構造の単量体としては、上記式(1)、(2)に含まれるものであれば特に限定されないが、例えば、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,2−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;及びN−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ビス(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド等のN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。なかでも、アミド基を有しているため親水性に優れていることから、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0036】
本発明において、(メタ)アクリル系重合体は、カルボキシル基およびその塩に相当する構造を有するビニル系単量体単位を有していてもよい。例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸などの不飽和カルボン酸単量体由来の単量体単位が挙げられる。なかでも下記式(3)で表される単量体から誘導される単量体単位が好ましい。
CH
2=C(R
1)−C(=O)−O−X・・・(3)
(式(3)中、R
1は水素原子又はメチル基を表し;Xは水素原子、1価の金属イオン、置換基を有してもよいアンモニウムイオンを表す。)
【0037】
1価の金属イオンとしてはアルカリ金属イオンが挙げられ、置換基を有してもよいアンモニウムイオンとしてはアンモニウムイオン、1〜3級アンモニウムイオンなどが挙げられる。またこれらは1種または2種以上を用いることができる。
【0038】
アルカリ金属イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオンが挙げられる。置換基を有してもよいアンモニウムイオンとしては、例えば、1級アンモニウムイオンではメチルアンモニウムイオン、エチルアンモニウムイオン、プロピルアンモニウムイオン、ブチルアンモニウムイオン、ヘキシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、エタノールアンモニウムイオン、プロパノールアンモニウムイオン、2級アンモニウムイオンではジエタノールアンモニウムイオン、ジメチルアンモニウムイオン、ジエチルアンモニウムイオン、2−メチル−2−アミノ−プロパノール、3級アンモニウムイオンではトリエチルアンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムイオン、トリエタノールアミンモニウム、N,N−ジメチルエタノールアンモニウムイオンが挙げられる。
【0039】
一般式(3)で表されるものとしては、この式に含まれるものであれば特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウムなどが挙げられる。
【0040】
本発明においては、(メタ)アクリル系重合体がカルボキシル基を有するビニル系単量体単位を含むことが好ましく、この場合、(メタ)アクリル系重合体を構成する単量体単位の総質量に対し、カルボキシル基を有するビニル系単量体単位を70質量%以下含むことが好ましい。さらに好ましい範囲は10〜60質量%である。このような範囲とすることで、ポリアミドとの接着性を向上させることができる。
【0041】
(メタ)アクリル系重合体が、水酸基を有するアクリル系単量体単位、及びカルボキシル基を有するビニル系単量体単位を含む場合、水酸基を有するアクリル系単量体単位とカルボキシル基を有するビニル系単量体単位との質量比は、(カルボキシル基を有するビニル系単量体単位の質量)/(水酸基を有するアクリル系単量体単位の質量)で表して、0.01〜1.5であることが好ましく、0.1〜0.8であることがより好ましく、0.1〜0.3であることがさらに好ましい。このような数値範囲内とすることにより、ポリアミドとの接着性を向上させることができる。
【0042】
本発明に係る(メタ)アクリル系重合体は、例えば、それぞれの構成単位(単量体単位)を与える単量体又はその前駆体を混合し、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の方法により共重合させて製造することができる。
また、カルボキシル基 の対イオンは、重合する前に中和反応により一部又は全部を水素イオン以外のものに代えて重合に供することもでき、或いは、重合やその他の反応の後に中和反応により一部又は全部を水素イオン以外のものに代えることもできる。これらはその合成のし易さにより適宜選択して行うことができる。
【0043】
重合反応は親水性溶媒中で行うのが好ましい。親水性溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール等のアルコール系溶媒、水等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。なかでもアルコール系溶媒を用いることが好ましい。
【0044】
重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ化合物、ベンゾイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等の過酸化物、過硫酸塩、又はそのレドックス系など、特に限定することなく用いることができる。重合開始剤は全単量体の総質量100質量部に対して、0.01〜5質量部の範囲で用いることが好ましい。
【0045】
重合反応は、例えば、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、好ましくは30〜120℃、より好ましくは40〜100℃ で通常1〜30時間行うことができる。重合終了後は、生成した(メタ)アクリル系重合体を、溶媒留去、貧溶媒の添加など適宜の手段で反応液から単離するとよい。この(メタ)アクリル系重合体はそのまま、又は更に精製して製造に用いることができる。精製は再沈澱、溶媒洗浄、膜分離など、適宜の手段を必要に応じて組み合わせて行うことができる。
【0046】
本発明における(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)が3,000〜1,000,000であることが好ましい。さらに好ましくは5,000〜50,000である。このような範囲とすることで、強化繊維束の柔軟性と熱可塑性樹脂との接着性とを両立することが可能となる。
(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(例えば、展開溶媒として、水/メタノール/酢酸/酢酸ナトリウムを用いる)により測定することができる。
【0047】
(メタ)アクリル系重合体の分子量の調整は、例えば、重合度を制御することによって行うことができる。また多官能アクリレートなどの架橋剤の添加量を増減することによっても分子量及び粘度が制御できる。但し架橋剤は少しでも添加しすぎると分子量及び粘度が急激に増大してしまうなど、工業的に製造する上では制御が困難となることがある。このため架橋剤は含まないことが最も好ましい。
【0048】
本発明において用いる(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度(Tg)は−10℃〜150℃であることが好ましく、−5℃〜130℃であることがより好ましい。このような数値範囲とすることにより、炭素繊維束の収束性が高すぎず、かつポリアミドとの接着性を向上させることができる。本発明において、(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度は下記式により算出される値である。
1/Tg=W
1/Tg
1+W
2/Tg
2+W
3/Tg
3+・・・・・・+W
n/Tg
n
(上記式は、n種の単量体からなる重合体を構成する各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度をTg
nとし、各モノマーの質量分率をW
nとしたものである(W
1+W
2+W
3+・・・W
n=1)。
【0049】
本発明においては、強化繊維にサイジング剤として(メタ)アクリル系重合体が付着した強化繊維束を製造する。これらの重合体の強化繊維への付着方法は特に限定されないが、強化繊維として炭素繊維を用いた場合には、炭素繊維束製造プロセスの安定性の観点から、特に、(メタ)アクリル系重合体の水系分散液を炭素繊維束に接触させる方法が好ましく用いられる。具体的には、この水系分散液にロールの一部を浸漬させ表面転写した後、このロールに炭素繊維束を接触させて水系分散液を含浸させるタッチロール方式や、炭素繊維束を直接、この水系分散液中に浸漬させる浸漬方式等を用いることができる。炭素繊維束中、(メタ)アクリル系重合体の付着量の調節は、この水系分散液中の(メタ)アクリル系重合体の濃度調整や絞り量調整によって行うことができる。
【0050】
本発明の強化繊維束中、(メタ)アクリル系重合体の付着量は、目的とする繊維強化熱可塑性樹脂組成物の成形法や用途等によって設定することができるが、強化繊維束の総質量に対し、0.1〜10.0質量%とする。(メタ)アクリル系重合体の付着量がこの範囲であれば、強化繊維束の適度な集束性が得られるため、成形加工時の工程通過性が良好となる傾向にあるために好ましい。特に本発明の強化繊維束をチョップド繊維として使用する場合には付着量が多いことが好ましく、1.0〜10.0%、連続繊維として用いてシートなどを作製する場合には0.1〜2.0%であることが好ましい。
【0051】
本発明における強化繊維束の形態は特に限定されず、連続繊維として巻き取ったものや、チョップド繊維としてカットした状態のものでもよい。また、連続繊維を一方向に並べたシート状物、織物、ノンクリンプファブリック、カット繊維をランダムに並べたマット状物などの形態であってもよい。
【0052】
(繊維強化熱可塑性樹脂組成物)
本発明の第二の態様における繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、第一の態様における強化繊維束と、熱可塑性樹脂と、を含む。
本発明においては、(メタ)アクリル系重合体の付着した強化繊維束に熱可塑性樹脂を混合させることによって繊維強化熱可塑性樹脂組成物を製造することができる。
【0053】
(熱可塑性樹脂)
繊維強化熱可塑性樹脂組成物中の熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアミドイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ABS、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリエステルや、アクリロニトリルとスチレンの共重合体等を用いることができる。その中で分子内にエステル結合またはアミド結合のうち、少なくとも1種を有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。
好ましいポリアミドとしては、脂肪族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドが挙げられる。脂肪族ポリアミドとしては、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ナイロン612、ポリヘキサメチレンアゼラミド(ナイロン69)やそれらの共重合体であるナイロン6/66コポリマー、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンセバカミドコポリマー(ナイロン6/610コポリマー)、ナイロン6/66/610コポリマー、ナイロン6/12コポリマー、ナイロン6/66/610/12コポリマー、などが挙げられる。
また芳香族ポリアミドとしては、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ナイロン9T、ナイロンMXD6、ナイロンMXD10、ナイロン6/6Tコポリマー、ナイロン6T/12コポリマー、ナイロン6T/66コポリマー、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6Iコポリマー)、ナイロン66/6I/6コポリマー、ナイロン6T/6Iコポリマー、ナイロン6T/6I/66コポリマー、ナイロン6T/M−5Tコポリマーなどが挙げられる。含浸性や成形性の観点から融点が250℃以下であるナイロン6、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロンMXD6が好ましく、特に成形性や汎用性からナイロン6、高い力学物性と低吸水性を兼ね備える材料としてMXD6が好ましい。また、これらの2種類以上のポリアミドを混練してしようすることも可能である。
【0054】
本発明において熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は10〜150℃であることが好ましく、30〜100℃であることがより好ましい。ガラス転移温度はDSC(示差走査熱量分析)によって、ベースラインと変曲点(上に凸の曲線が下に凸の曲線に変わる点)での接線の交点をガラス転移点(Tg)とすることで測定することができる。
【0055】
ポリアミドは分子内にアミド基、更には分子末端にはアミノ基およびカルボキシル基を有する。また強化繊維として炭素繊維を用いた場合、炭素繊維表面にはカルボキシル基、アミノ基、水酸基が存在する。本発明に用いる(メタ)アクリル系重合体を炭素繊維のサイジング剤として用いることにより、炭素繊維表面およびポリアミドとの接着性(親和性)が向上できるため、力学特性がより高い繊維強化熱可塑性樹脂組成物が得られる。また、例えばエポキシ基を有する化合物をサイジング剤に用いた場合、ポリアミドと反応するため、炭素繊維近傍での粘度上昇が起こり、含浸性が低下することが考えられる。本発明に用いる(メタ)アクリル系重合体が水酸基を含有する(メタ)アクリル系重合体を有する場合、炭素繊維表面とポリアミドに対して接着性は高く含浸性も向上することが可能である。
【0056】
本発明の第一の態様の強化繊維束を用いた第二の態様の繊維強化熱可塑性樹脂組成物における、強化繊維の含有量(以下、繊維含有率ともいう)は、強化繊維束の形態や、繊維強化熱可塑性樹脂組成物の成形方法、用途等によって異なるが、コストパフォーマンスの観点から、繊維強化熱可塑性樹脂組成物の総質量に対し、5.0〜80.0質量%が好ましく、10.0〜60.0質量%がより好ましい。
(メタ)アクリル系重合体の含有量は、繊維強化熱可塑性樹脂組成物の総質量に対し、0.005〜8質量%であることが好ましく、0.02〜1質量%がより好ましい。上記数値範囲内とすることにより、良好な収束性と開繊性を維持し、かつポリアミドとの接着性を向上させることができる。
熱可塑性樹脂の含有量は、繊維強化熱可塑性樹脂組成物の総質量に対し、12〜95質量%であることが好ましく、25〜70質量%がより好ましい。上記数値範囲内とすることにより、樹脂の含浸性が良く、良好な物性が得られる繊維強化熱可塑性樹脂組成物を製造することができる。
【0057】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂組成物の形態は強化繊維と熱可塑性樹脂の複合体であれば特に限定されないが、ペレット状、シート状、マット状などが挙げられる。ペレット状物としては、押出機にて熱可塑性樹脂と、チョップした強化繊維束または連続した強化繊維束と、を混練し、ペレット状にした組成物などが挙げられる。またマット状物やシート状物としては、強化繊維束がランダムに配向したウェブまたはマット状のシート形態になったものや、一方向や多方向に連続した強化繊維束に熱可塑性樹脂を含浸させたシート状物(以下、「プリプレグ」ともいう)などが挙げられるが、一方向に連続した強化繊維束に熱可塑性樹脂を含浸させたシート状物が好ましい。また織物やノンクリンプファブリックのシートであってもよい。本発明においてはプリプレグであることが好ましい。
プリプレグの場合、強化繊維の目付(FAW:単位面積当たりの質量)が30〜300g/m
2であることが好ましく、50〜200g/m
2であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、含浸性と力学物性を両立できる繊維強化熱可塑性樹脂組成物を製造することができる。
また、プリプレグの厚みは50〜250μmであることが好ましく、100〜200μmであることがより好ましい。このような範囲とすることにより、積層枚数が比較的少なくコストパフォーマンスと力学物性に優れた繊維強化熱可塑性樹脂組成物を製造することができる。
【0058】
(その他の成分)
本発明において用いる(メタ)アクリル系重合体には、(メタ)アクリル系重合体を構成する単量体組成以外の他の成分も添加することができる。添加剤としてはクエン酸等のpH調整剤、脂肪族エステル、脂肪族界面活性剤などが挙げられる。また、本発明に用いられる熱可塑性樹脂には、ステアリン酸等の滑材、銅、フェノール系加工物等の酸化防止剤、タルク、クレイ等の結晶核剤などを加えてもよい。
【0059】
(成形体)
本発明の第三の態様における成形品は、第二の態様の繊維強化熱可塑性樹脂組成物を成形したものである。
本発明の第二の態様の強化繊維熱可塑性樹脂組成物を、公知の成形法によって成形することにより、任意の形状の成形品(繊維強化複合成形品)を提供することができる。
例えば、ペレット状の強化繊維熱可塑性樹脂組成物の場合は射出成形などにより成形体を得ることが可能である。
【0060】
シート状物に関しては、シート状物を積層した後プレス成形などにより任意の厚さに成形することで成形体を得ることが可能である。この際、シート状物をあらかじめ任意の大きさにカットし、ランダムに配置した後、プレス成形などにより等方性材料を製造することも可能である。
また本発明においては、強化繊維を横切る方向に強化繊維を切断する深さの切込を有するプリプレグを用いた成形体を作製することも可能である。切込を有するプリプレグを用いることにより、力学特性のばらつきを抑え、複雑な形状への賦形に優れる。
また成形体は強化繊維束を連続的に押出機に供給し、熱可塑性樹脂と混練することで切断された強化繊維がランダムに分散した繊維強化熱可塑性樹脂組成物を得て、これを成形する方法(LFT−D)によって得ることもできる。
【0061】
本発明の成形体は、航空・宇宙分野では、航空機用部材として、一般産業分野では、自動車用部材、風車用部材、圧力タンク用部材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0062】
次に本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に制限されるものではない。
【0063】
[製造例1:(メタ)アクリル系重合体水溶液の製造]
還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素ガス導入管及び撹拌装置を備えた反応器内に、エタノール147質量部を仕込み、滴下ロートに2−ヒドロキシエチルアクリルアミド86質量部、アクリル酸14質量部、及びエタノール50質量部からなる単量体混合液を仕込み、反応器内を窒素置換した後80℃に加熱した。反応器内に、ジメチル2,2−アゾビス(2−メチルプロピオネイト)(V−601;和光純薬工業(株)製)0.2質量部、エタノール3重量部を投入後、単量体混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了から6時間反応させた後、水750重量部を添加し、冷却した。反応器内に25%NaOH水溶液31.1重量部、水20重量部を滴下し、アクリル酸を中和した。続いて、圧力を350Torrとし、エタノールを留去し、固形分30%になるように水を添加した。pH調整剤として50%クエン酸水溶液2.6部を添加し、(メタ)アクリル系重合体水溶液を得た。2−ヒドロキシエチルアクリルアミドから誘導される単量体単位のモル分率は0.794であり、アクリル酸から誘導される単量体単位のモル分率は0.206であった。(メタ)アクリル系重合体の凝集エネルギー密度CEDは712であった。(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量は11,000であった。
【0064】
[製造例2:(メタ)アクリル系重合体水溶液の製造]
還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素ガス導入管及び撹拌装置を備えた反応器内に、エタノール147質量部を仕込み、滴下ロートに2−ヒドロキシエチルアクリルアミド45質量部、アクリル酸55質量部、及びソルミックスAP−1(日本アルコール販売(株)製)50質量部からなる単量体混合液を仕込み、反応器内を窒素置換した後80℃に加熱した。反応器内に、ジメチル2,2−アゾビス(2−メチルプロピオネイト)(V−601;和光純薬工業(株)製)0.2質量部、ソルミックスAP−1 3重量部を投入後、単量体混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了から6時間反応させた後、水750重量部を添加し、冷却した。反応器内に25%NaOH水溶液31.1重量部、水20重量部を滴下し、アクリル酸を中和した。続いて、圧力を350Torrとし、ソルミックスAP−1を留去し、固形分30%になるように水を添加し、(メタ)アクリル系重合体水溶液を得た。2−ヒドロキシエチルアクリルアミドから誘導される単量体単位のモル分率は0.339であり、アクリル酸から誘導される単量体単位のモル分率は0.661であった。(メタ)アクリル系重合体の凝集エネルギー密度CEDは647であった。(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量は14,000であった。
【0065】
[製造例3:(メタ)アクリル系重合体水溶液の製造]
製造例2の2−ヒドロキシエチルアクリルアミド45質量部、アクリル酸55質量部を2−ヒドロキシエチルアクリルアミド86質量部、メタクリル酸14質量部に変えた以外は、製造例2と同様にして、(メタ)アクリル系重合体水溶液を得た。2−ヒドロキシエチルアクリルアミドから誘導される単量体単位のモル分率は0.821であり、メタクリル酸から誘導される単量体単位のモル分率は0.179であった。(メタ)アクリル系重合体の凝集エネルギー密度CEDは705であった。(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量は31,000であった。
【0066】
[製造例4:(メタ)アクリル系重合体水溶液の製造]
製造例2の2−ヒドロキシエチルアクリルアミド45質量部、アクリル酸55質量部を2−ヒドロキシエチルアクリルアミド100質量部に変えた以外は、製造例2と同様にして、(メタ)アクリル系重合体水溶液を得た。2−ヒドロキシエチルアクリルアミドから誘導される単量体単位のモル分率は1.000であった。(メタ)アクリル系重合体の凝集エネルギー密度CEDは735であった。(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量は5,000であった。
【0067】
[製造例5:(メタ)アクリル系重合体水溶液の製造]
製造例2の2−ヒドロキシエチルアクリルアミド45質量部、アクリル酸55質量部を2−ヒドロキシエチルアクリルアミド21質量部、アクリル酸14質量部、メタクリル酸メチル65質量部に変えた以外は、製造例2と同様にして、(メタ)アクリル系重合体水溶液を得た。2−ヒドロキシエチルアクリルアミドから誘導される単量体単位のモル分率は0.178であり、アクリル酸から誘導される単量体単位のモル分率は0.189であり、メタクリル酸メチルから誘導される単量体単位のモル分率は0.633であった。(メタ)アクリル系重合体の凝集エネルギー密度CEDは487であった。(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量は31,000であった。
【0068】
[製造例6:(メタ)アクリル系重合体水溶液の製造]
製造例1の2−ヒドロキシエチルアクリルアミド86質量部、アクリル酸14質量部をN,N−ジメチルアクリルアミド86質量部、アクリル酸14質量部に変えた以外は、製造例1と同様にして、(メタ)アクリル系重合体水溶液を得た。N,N−ジメチルアクリルアミドから誘導される単量体単位のモル分率は0.817であり、アクリル酸から誘導される単量体単位のモル分率は0.183であった。(メタ)アクリル系重合体の凝集エネルギー密度CEDは552であった。(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量は7,000であった。
【0069】
[製造例7:(メタ)アクリル系重合体水溶液の製造]
製造例2の2−ヒドロキシエチルアクリルアミド45質量部、アクリル酸55質量部を2−ヒドロキシエチルアクリレート86質量部、アクリル酸14質量部に変えた以外は、製造例2と同様にして、(メタ)アクリル系重合体水溶液を得た。2−ヒドロキシエチルアクリレートから誘導される単量体単位のモル分率は0.792であり、アクリル酸から誘導される単量体単位のモル分率は0.208であった。(メタ)アクリル系重合体の凝集エネルギー密度CEDは575であった。(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量は3,000であった。
【0070】
[製造例8:(メタ)アクリル系重合体水溶液の製造]
製造例2の2−ヒドロキシエチルアクリルアミド45質量部、アクリル酸55質量部をアクリルアミド100質量部に変えた以外は、製造例2と同様にして、(メタ)アクリル系重合体水溶液を得た。アクリルアミドから誘導される単量体単位のモル分率は100モル%であった。(メタ)アクリル系重合体の凝集エネルギー密度CEDは813であった。(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量は23,000であった。
【0071】
<実施例1>
(炭素繊維束の製造)
(メタ)アクリル系重合体が付着していない炭素繊維(三菱レイヨン社製、商品名:パイロフィル(登録商標)TR 50S15L)を、固形分濃度2.0質量%に調製した製造例1で製造した(メタ)アクリル系重合体水溶液に浸漬させ、ニップロールを通過させた後に、表面の温度を140℃とした加熱ロールに10秒間接触させることにより乾燥し、(メタ)アクリル系重合体が付着した炭素繊維束を得た。炭素繊維への(メタ)アクリル系重合体の付着量は、炭素繊維束の総質量に対し、0.4質量%であった。
【0072】
(炭素繊維シートの作製)
製造した炭素繊維束をドラムワインドにて巻き付け、炭素繊維の目付(FAW:単位面積当たりの質量)が145g/m
2の一方向の炭素繊維シートを作製した。なお、PAN系炭素繊維は、繊維束(トウ)の状態で取り扱い、各繊維束を構成するPAN系炭素繊維の本数は、15,000本であった。
【0073】
(熱可塑性UDプリプレグ(一方向性熱可塑樹脂プリプレグ)の作製)
炭素繊維束を一方向に配向した炭素繊維束のシート状物(目付145.0g/m
2)の両面に厚さ40μmのナイロン6フィルム(宇部興産(株)製1013Bを使用して作成したフィルム)を積層させて積層体を得た。この積層体を255℃に加熱して、熱可塑性樹脂フィルムを炭素繊維のシート状物に溶融含浸させ、熱可塑性UDプリプレグを得た。得られた熱可塑性プリプレグの厚みは159μm、目付けは145.0g/m
2、繊維体積含有率は50.0%であった。
熱可塑性プリプレグの総質量に対し、(メタ)アクリル系重合体の含有量は0.25質量%であり、ナイロン6の含有量は40質量%であり、炭素繊維束の含有量は60質量%であった。
【0074】
(一方向炭素繊維複合材料成形板(12ply)の成形)
前記熱可塑性UDプリプレグを、繊維軸方向が一致するようにして、12枚積層させ、その積層体を成形型に入れた。さらに、予め加熱盤を300℃とした加熱冷却二段プレス機(神藤金属工業所社製、製品名:F−37)に投入し金型の内温が240℃になるまで予熱を行った。続いて、圧力2MPaで1分間加熱加圧プレスを行った後、圧力2MPaで冷却プレスを行い、成形板を得た。
【0075】
(開繊性評価)
炭素繊維束の取扱い性の指標として、開繊性を評価した。プリプレグ作製時にドラムワインドに巻きつけける直前の炭素繊維束の幅をレーザー変位計にて30m測定し、目付が145g/m
2以下となる長さを計測した。目付が145g/m
2以下となる割合が5%以上を×、5%未満を○とした。
【0076】
(毛羽の評価)
炭素繊維束の取扱い性の指標として、毛羽の発生について評価した。プリプレグ作製時にドラムワインドに巻きつけける直前の擦過バーにて発生する毛羽を観察した。毛羽の発生が多いものを×、毛羽の発生が少ないものを○として評価した。
【0077】
(空隙面積率)
炭素繊維束の含浸性の指標として、空隙面積率について評価した。上記(一方向炭素繊維複合材料成形板(12ply)の成形)において得られた成形板をポリエステル樹脂(クルツァー社製、製品名:テクノビット4000)に包埋し、断面を耐水ペーパーの番手#200、400、600、800、1000の順に、各番手で5分間研磨後、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、製品名:VHX−100)を用いて150倍で断面の撮影を行った。撮影した断面の正常部とボイドの面積率を測定し、100%からボイド率を減じることで空隙面積率を評価した。含浸性の評価は空隙面積率が5%以下を○、5%より大きい場合は×とした。
【0078】
(90°曲げ試験)
炭素繊維と熱可塑性樹脂との界面接着性、及び成形品の力学特性の指標として、90°曲げ強度の評価を行った。上記(一方向炭素繊維複合材料成形板(12ply)の成形)において得られた成形板を、湿式ダイヤモンドカッターにより長さ(90°方向の長さ)60mm×幅(10°方向の長さ)12.7mmの寸法に切断して試験片を作製した。万能試験機(Instron社製、商品名:Instron5565)と、解析ソフト(商品名:Bluehill)とを用いて、ASTM D790に準拠(圧子R=5.0、L/D=16)した方法で得られた試験片に対して3点曲げ試験を行い、90°曲げ強度を算出した。
【0079】
<実施例2>
(炭素繊維束の製造)
(メタ)アクリル系重合体が付着していない炭素繊維(三菱レイヨン社製、商品名:パイロフィル(登録商標)TR 50S15L)を、固形分濃度2.0質量%に調製した製造例1で製造した(メタ)アクリル系重合体水溶液に浸漬させ、ニップロールを通過させた後に、表面の温度を140℃とした加熱ロールに10秒間接触させることにより乾燥し、(メタ)アクリル系重合体が付着した炭素繊維束を得た。炭素繊維への(メタ)アクリル系重合体の付着量は、炭素繊維束の総質量に対し、0.4質量%であった。
【0080】
(炭素繊維シートの作製)
製造した炭素繊維束をドラムワインドにて巻き付け、炭素繊維の目付(FAW:単位面積当たりの質量)が145g/m
2の一方向の炭素繊維シートを作製した。なお、PAN系炭素繊維は、繊維束(トウ)の状態で取り扱い、各繊維束を構成するPAN系炭素繊維の本数は、15,000本であった。
【0081】
(熱可塑性UDプリプレグ(一方向性熱可塑樹脂プリプレグ)の作製)
炭素繊維束を一方向に配向した炭素繊維束のシート状物(目付145.0g/m
2)の両面に厚さ40μmのナイロンMXD6フィルム(三菱瓦斯化学(株)製S6001を使用して作成したフィルム)を積層させて積層体を得た。この積層体を265℃に加熱して、熱可塑性樹脂フィルムを炭素繊維のシート状物に溶融含浸させ、熱可塑性UDプリプレグを得た。得られた熱可塑性プリプレグの厚みは159μm、目付けは145.0g/m
2、繊維体積含有率は50.0%であった。
熱可塑性プリプレグの総質量に対し、(メタ)アクリル系重合体の含有量は0.24質量%であり、ナイロンMXD6の含有量は40.2質量%であり、炭素繊維束の含有量は60質量%であった。
【0082】
(一方向炭素繊維複合材料成形板(12ply)の成形)
前記熱可塑性UDプリプレグを、繊維軸方向が一致するようにして、12枚積層させ、その積層体を成形型に入れた。さらに、予め加熱盤を300℃とした加熱冷却二段プレス機(神藤金属工業所社製、製品名:F−37)に投入し金型の内温が255℃になるまで予熱を行った。続いて、圧力2MPaで1分間加熱加圧プレスを行った後、圧力2MPaで冷却プレスを行い、成形板を得た。
その後の評価は実施例1と同様の方法にて実施した。
【0083】
<実施例3>
製造例2で製造した(メタ)アクリル系重合体水溶液を使用した以外は実施例1と同様の方法にて成形板を作製し、開繊性評価、毛羽の評価、空隙面積率および90°曲げ試験を実施した。
その結果、含浸性が良く、曲げ強度の高い成形体が得られたことが分かった。また炭素繊維束の開繊性は良好で、かつ毛羽も少なく、取り扱い性は良好であった。なお、各繊維束を構成する炭素繊維の本数は15,000本であった。炭素繊維への(メタ)アクリル系重合体の付着量は、炭素繊維束の総質量に対し、0.4質量%であった。また、熱可塑性プリプレグの総質量に対し、(メタ)アクリル系重合体の含有量は0.25質量%であり、繊維含有率は60質量%であり、ナイロン6の含有量は40質量%であった。
【0084】
<実施例4>
製造例3で製造した(メタ)アクリル系重合体水溶液を使用した以外は実施例1と同様の方法にて成形板を作製し、開繊性評価、毛羽の評価、空隙面積率および90°曲げ試験を実施した。
その結果、含浸性が良く、曲げ強度の高い成形体が得られたことが分かった。また炭素繊維束の開繊性は良好で、かつ毛羽も少なく、取り扱い性は良好であった。なお、各繊維束を構成する 炭素繊維の本数は15,000本であった。炭素繊維への(メタ)アクリル系重合体の付着量は、炭素繊維束の総質量に対し、0.4質量%であった。また、熱可塑性プリプレグの総質量に対し、(メタ)アクリル系重合体の含有量は0.25質量%であり、繊維含有率は60質量%であり、ナイロン6の含有量は40質量%であった。
【0085】
<実施例5>
製造例4で製造した(メタ)アクリル系重合体水溶液を使用した以外は実施例1と同様の方法にて成形板を作製し、開繊性評価、毛羽の評価、空隙面積率および90°曲げ試験を実施した。
その結果、含浸性が良く、曲げ強度の高い成形体が得られたことが分かった。また炭素繊維束の開繊性は良好で、かつ毛羽も少なく、取り扱い性は良好であった。なお、各繊維束を構成する炭素繊維の本数は15,000本であった。炭素繊維への(メタ)アクリル系重合体の付着量は、炭素繊維束の総質量に対し、0.4質量%であった。また、熱可塑性プリプレグの総質量に対し、(メタ)アクリル系重合体の含有量は0.25質量%であり、繊維含有率は60質量%であり、ナイロン6の含有量は40質量%であった。
【0086】
<比較例1>
製造例5で製造した(メタ)アクリル系重合体水溶液(凝集エネルギー密度487MPa)を使用した以外は実施例1と同様の方法にて成形板を作製し、開繊性評価、毛羽の評価、空隙面積率および90°曲げ試験を実施した。
その結果、含浸性が悪く、曲げ強度も低い成形体が得られたことが分かった。ただし、炭素繊維束の開繊性は良好で、かつ毛羽も少なく、取り扱い性は良好であった。なお、炭素繊維の本数は15,000本であった。炭素繊維への(メタ)アクリル系重合体の付着量は、炭素繊維束の総質量に対し、0.4質量%であった。また、熱可塑性プリプレグの総質量に対し、(メタ)アクリル系重合体の含有量は0.25質量%であり、繊維含有率は60質量%であり、ナイロン6の含有量は40質量%であった。
【0087】
<比較例2>
製造例6で製造した(メタ)アクリル系重合体水溶液(凝集エネルギー密度552MPa)を使用した以外は実施例1と同様の方法にて成形板を作製し、開繊性評価、毛羽の評価、空隙面積率および90°曲げ試験を実施した。
その結果、含浸性が悪く、曲げ強度も低い成形体が得られたことが分かった。ただし、炭素繊維束の開繊性は良好で、かつ毛羽も少なく、取り扱い性は良好であった。なお、炭素繊維の本数は15,000本であった。炭素繊維への(メタ)アクリル系重合体の付着量は、炭素繊維束の総質量に対し、0.4質量%であった。また、熱可塑性プリプレグの総質量に対し、(メタ)アクリル系重合体の含有量は0.25質量%であり、繊維含有率は60質量%であり、ナイロン6の含有量は40質量%であった。
【0088】
<比較例3>
製造例7で製造した(メタ)アクリル系重合体水溶液(凝集エネルギー密度575MPa)を使用した以外は実施例1と同様の方法にて成形板を作製し、開繊性評価、毛羽の評価、空隙面積率および90°曲げ試験を実施した。
その結果、含浸性が悪い成形体が得られたことが分かった。ただし、炭素繊維束の開繊性は良好で、かつ毛羽も少なく、取り扱い性は良好であった。なお、炭素繊維の本数は15,000本であった。炭素繊維への(メタ)アクリル系重合体の付着量は、炭素繊維束の総質量に対し、0.4質量%であった。また、熱可塑性プリプレグの総質量に対し、(メタ)アクリル系重合体の含有量は0.25質量%であり、繊維含有率は60質量%であり、ナイロン6の含有量は40質量%であった。
【0089】
<比較例4>
製造例8で製造した(メタ)アクリル系重合体水溶液(凝集エネルギー密度813MPa)を使用した以外は実施例1と同様の方法にて成形体を作製し、開繊性評価、毛羽の評価、空隙面積率および90°曲げ試験を実施した。
その結果、開繊性が悪く、炭素繊維束の毛羽が多い為、成形体の作製が困難であった。なお、炭素繊維の本数は15,000本であった。炭素繊維への(メタ)アクリル系重合体の付着量は、炭素繊維束の総質量に対し、0.4質量%であった。また、熱可塑性プリプレグの総質量に対し、(メタ)アクリル系重合体の含有量は0.25質量%であり、繊維含有率は60質量%であり、ナイロン6の含有量は40質量%であった。
【0090】
上記結果を表1及び2に示す。表中の略称は以下の化合物を示す。
・AA:アクリル酸単量体単位
・MAA:メタクリル酸単量体単位
・HEAA:2−ヒドロキシエチルアクリルアミド単量体単位
・DMAA:N,N−ジメチルアクリルアミド単量体単位
・AAm:アクリルアミド単量体単位
・HEA:2−ヒドロキシエチルアクリレート単量体単位
・MMA:メタクリル酸メチル単量体単位
・Ny6:ナイロン6
・MXD6:ナイロンMXD6
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
以上のように、凝集エネルギー密度が600〜800MPaの(メタ)アクリル系重合体を付着した強化繊維束を用いることで、含浸性に優れ、取扱い性に優れ、接着性に優れた繊維強化熱可塑性樹脂組成物を得ることができた。また、これを用いて高い曲げ強度の力学特性に優れた成形体を得ることが可能となった。
一方、600MPa未満の(メタ)アクリル系重合体を付着した強化繊維束を使用した成形体では、熱可塑性樹脂を含浸させた後の空隙面積率が高かったことから、含浸性が悪いことが分かった。また、曲げ強度も低かったことから、接着性が悪く、力学特性も悪いことが分かった。また800MPa以上の強化繊維束では毛羽が多く、開繊性が悪くなり、コンポジットの製造が困難であったことから、取扱い性が悪いことが分かった。